(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】耐熱性ルテニウム複合体、並びにNOx吸蔵及び還元触媒としての用途
(51)【国際特許分類】
B01J 23/58 20060101AFI20230515BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20230515BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
B01J23/58 A ZAB
B01J23/89 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
(21)【出願番号】P 2021571398
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 KR2020007432
(87)【国際公開番号】W WO2020256327
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2019-0071653
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514079170
【氏名又は名称】ヒソン カタリスツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】コマテディ、ナラヤナ ラオ
(72)【発明者】
【氏名】イム、スン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウン ソク
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-315268(JP,A)
【文献】米国特許第04107163(US,A)
【文献】特開昭50-049184(JP,A)
【文献】特開昭51-123794(JP,A)
【文献】特開2006-069836(JP,A)
【文献】特表2018-517541(JP,A)
【文献】ZHOU, Q. et al.,Chemistry of Materials,2009年,Vol.21,pp.4203-4209,<DOI:10.1021/cm9007238>
【文献】TANIGUCHI, T. et al.,Physical Review B,2008年,Vol.77,014406,<DOI:10.1103/PhysRevB.77.014406>
【文献】GOLDWASSER, M. R. et al.,Applied Catalysis A: General,2003年,Vol.255,pp.45-57,<DOI:10.1016/S0926-860X(03)00643-4>
【文献】MAO, Z. Q. et al.,Materials Research Bulletin,2000年,Vol.35,pp.1813-1824,<DOI:10.1016/S0025-5408(00)00378-0>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73 - 53/96
C01G 55/00
C04B 35/01
C04B 35/71
F01N 3/00
F01N 3/02
F01N 3/04 - 3/38
F01N 9/00 - 11/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のコアが内包される基質(matrix)から構成される耐熱性ルテニウム複合体(composite)であって、コアにはルテニウムが金属状態で存在し、基質には
、Ru複合酸化物が含まれ
、
前記Ru複合酸化物には、ARuO
3
構造のRuPV(perovskite)とAA’RuBO
x
構造のRu混合酸化物とが含まれ、
前記AA’RuBO
x
構造のRu混合酸化物において、
AとA’は、それぞれ、Ba、La、Sr、Zr、Caのいずれかであると共に、互いに異なる元素であり、
Bは、Fe、Mn、Ni、Co、Mgのいずれかであり、
Xは、2~15の整数である
ことを特徴とする耐熱性ルテニウム複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の耐熱性ルテニウム複合体が担体に塗布される触媒であって、
前記触媒はNSR又はLNT用途として適用される
ことを特徴とする触媒。
【請求項3】
請求項2に記載の触媒を含む
ことを特徴とする内燃機関の排気システム。
【請求項4】
選択的触媒還元(SCR)触媒、微粒子フィルタ、SCRフィルタ、NOx吸着剤触媒、三元触媒、酸化触媒及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた触媒成分をさらに含む
請求項3に記載の排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性ルテニウム複合体、より詳細には、多数のコアが内包される基質(matrix)から構成される耐熱性ルテニウム複合体(composite)であって、コアにはルテニウムが金属状態で存在し、基質にはRuPV(perovskite)を含めたRu複合酸化物が含まれる耐熱性ルテニウム複合体、及びこれを用いた触媒、排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム(Ru)は、白金族元素として多様な触媒反応において高い活性を有し、特にDe-NOx反応において触媒活性を有することが知られているが、700℃以上の高温酸化雰囲気中でRuO4を形成して揮発するので、高温安定性がないため、触媒として適用するには問題があった。具体的には、Ru金属の融点は2,300℃、沸点は4,100℃であって、金属状態では極めて安定であるが、RuO2沸点は1,200℃であり、特にRuO4沸点は100℃以下であるので、Ruの触媒特性を活用するためにRuを金属状態に維持して高温耐久性を有することが必要である。このようなRu揮発性問題を解決する構造として、RuPV(perovskite)が報告された。
【0003】
特許文献1:WO2009/129356(BASF)の安定化イリジウム及びルテニウム触媒によれば、表面領域に一つ以上のRu及びIrに富む非単相ペロブスカイトタイプのバルク物質及びこれを用いた排ガス処理方法が提供される。具体的には、前記バルク物質は、内部がPV構造物質、表面領域がAMO3+PV構造物質からなる非単相物質であって、Ru含有水溶液、例えば、ニトロシル硝酸ルテニウム水溶液を用いて製造され、バルク物質は800℃以上の高温でRu又はIrの揮発性を示さない。一方、米国特許第4,182,694号(Ru含有ペロブスカイト触媒)には、化学式A[Rux、By
1Bz
2]O3及びPV結晶構造を持つ触媒組成物が開示されており、この触媒組成物は、気体酸化及び還元反応に有用であると報告される。原料として酸化ルテニウムを用い、熱処理して製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、依然として従来の白金族元素よりも安価なルテニウムを用いて高温耐久性を示し、特にRuを金属状態に維持しながらNOx吸蔵及び還元能力を有する触媒を開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、多数のコアが内包される基質(matrix)から構成される耐熱性ルテニウム複合体(composite)であって、コアにはルテニウムが金属状態で存在し、基質にはRuPV(perovskite)を含めたRu複合酸化物が含まれる耐熱性ルテニウム複合体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、Ruの高温耐久性を向上させるためにルテニウム複合体を生成し、他の白金族元素よりも安価なルテニウムを用いた複合体は、NSR、LNT、DOC及びTWCの触媒成分の一部として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明によるルテニウム複合体の概略説明図である。
【
図2】実施例で製造したルテニウム複合体のXRD結果のグラフである。
【
図3】実施例で製造された触媒を対象にNOx転換率を試験したグラフであり、ルテニウム複合体が含まれたNSR触媒において転換率が大きく向上することが確認される。
【
図5】実施例で製造された触媒を対象としてエンジンエージング後のWLTC(worldwide harmonized light vehicles test cycle)を行った結果のグラフである。
【
図6】Ru複合体におけるRu自体の揮発性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ペロブスカイトは、一般に、ABO3の化学構造を持つ金属酸化物であり、RuPVは、化学式ARuO3(A:Ba、La、Sr、Zr、Ca)のペロブスカイト構造のルテニウム酸化物を意味し、RuPVを含むRu複合酸化物とは、RuPVの他に、化学式AA’RuBOx[X=2~15](A、A’:Ba、La、Sr、Zr、Ca、B:Fe、Mn、Ni、Coなどの遷移金属又はMg)を含めたRu混合酸化物を含む概念として定義される。本発明によれば、耐熱性ルテニウム複合体は、Ru複合酸化物の基質を含むが、基質の内部には、コアとして多数の金属状態のルテニウムを含有する構造を持ち、前記Ru複合酸化物は、ARuO3構造のRuPVだけではなく、AA’RuBOx構造のRu混合酸化物を含む。本発明によれば、コアには金属状態のルテニウムが保有され、基質中に存在する多数の空隙を介して金属状態のルテニウムが反応気体と接触することができ、理論に限定されないが、反応条件に応じて、例えばリーン(lean)又はリッチ(rich)条件に応じてルテニウムは基質の表面へ移動することができると判断される。
【0010】
本発明において、ルテニウム複合体は、ルテニウム固溶体(Solid Solution)とも理解でき、RuPV及びRu混合酸化物を含むので、組成物とも呼ぶことができる。本発明において、ルテニウム複合体のコアを、Ruを金属状態に維持するためにRu-ナノ粉末を用いることが特徴であり、このようなルテニウム複合体は、NOx吸蔵-De-NOx能力に優れるうえ、Passiveness(NOx→NH3の転換率)及びN2選択性に優れるため、NOx吸蔵及び還元触媒として適用できる。本明細書において、N2選択性とは、NOxが所望しないN2Oではなく、好ましいN2に転換する傾向を意味する。
【0011】
実施例1:ルテニウム複合体の製造
直径5nm~5μmのRu金属粉末又はナノ粒子粉末(商業的にはRuスポンジと呼ばれる)(Ru/RuOx)、Aタイプ(Ba、La、Sr、Zr、Ca)前駆体、Bタイプ(Fe、Mn、Ni、Coなどの遷移金属又はMg)前駆体を混合し、ボールミルした。700℃~1300℃の範囲の炉で熱処理して固溶体を製造した。このとき、Aタイプ又はBタイプの前駆体は、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酸化物の形態であり得る。熱処理の後、必要に応じてミル処理して表面積を調整することができる。
【0012】
図2は実施例1において特に1000℃及び1250℃で熱処理して製造したルテニウム複合体に対するXRD結果であって、BaSr-RuMg-Ox基質に内包されたRuコアを確認することができ、固溶体にはRuPV及び多様なRu混合酸化物を含んでいることが確認することができる。
【0013】
実施例2:NSR(NOx吸蔵及び還元)触媒の製造
改質アルミナ、セリア及びジルコニア相に白金族(Pt/Pd/Rh)成分を含浸した後、熱的に(500℃)固定し、ミル処理して粉末を製造した後、蒸留水にNOx吸蔵成分であるBa、Sr及びMgO成分と一緒に混入してスラリーを完成し、しかる後に、基材に塗布してNSR比較触媒(referenceと称する)を完成した。Referenceに、実施例1において特に800℃で熱処理して製造したルテニウム複合体(Ru SS-1と称する)を混練して、本発明によるNSR触媒(Ref.+Ru SS-1)を製造し、Referenceに、実施例1において1100℃で熱処理して製造したルテニウム複合体(Ru SS-2と称する)を混入して、本発明によるNSR触媒(Ref.+Ru SS-2)を製造した。Ru SS-1及びRu SS-2が含まれたシステムを製造するとき、Ref.と同じ単価で製造できるように、Referenceに含有される白金族成分を16%減らした。一方、本実施例では、Referenceと実施例1の粉末とを混練して行ったが、基材に層状に塗布して実現することができるのはいうまでもない。
【0014】
実施例3:LNT(Lean NOx Trap)又はNA(NOx adsorption)触媒の製造
従来の方式でLNT触媒を製造してLNT比較触媒を完成した。LNTに、実施例1で製造したLa(RuMg)Oxを含有するルテニウム複合体(Ru SS-3と称する)を混入して、本発明によるLNT触媒(LNT+Ru SS-3)を製造した。一方、実施例1と同様に製造するが、Ruが含まれていないBaSrMgOx固溶体をLNT比較触媒に混入して、LNT+w/o Ru(BaSrMgOx)システムを準備した。Ru SS-3が含まれたシステムを製造するとき、Referenceと同じ単価で製造できるように、Referenceに含有される白金族成分を16%減らした。
【0015】
下記の表は、実施例2~実施例3で完成した触媒システムをまとめたものである。
【0016】
【0017】
図3は、実施例2で製造された触媒を対象にNOx転換率を試験したものであり、これによれば、ルテニウム複合体が含まれたNSR触媒において転換率が大きく向上することを確認することができる。
【0018】
図4は、実施例3の触媒測定結果を示すものであり、これによれば、ルテニウムが含まれていない固溶体の場合には、NOx吸蔵及び還元性能が大きく低下することを確認することができる。
【0019】
本発明は、Ruの高温耐久性を向上させるためにルテニウム複合体を生成し、他の白金族元素よりも安価なルテニウムを用いた複合体は、NSR、LNT、DOC及びTWCの触媒成分の一部として適用することができることを示す。
【0020】
実施例2で製造された触媒を対象としてエンジンエージング後のWLTC(worldwide harmonized light vehicles test cycle)を行った結果を
図5にまとめる。
【0021】
本発明によるRu複合体のCO酸化能力及びde-NOx能力がリファレンス(reference)と比較して著しく改善されたことを確認することができる。よって、Ru複合体は、エンジンエージングの高温で耐久性が増加したことを示す。
最後に、Ru複合体におけるRu自体の揮発性を調べた。
【0022】
図6によれば、実施例1で製造した粉末を対象として25時間600~850℃で熱水エージングした後のICP分析結果を示し、本発明によるRu複合体の形成によるRuの高温安定性を確認することができる。