(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】流体通路を含むナノポアセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20230515BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20230515BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N27/00 J
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2022020919
(22)【出願日】2022-02-15
(62)【分割の表示】P 2020195192の分割
【原出願日】2016-02-04
【審査請求日】2022-03-15
(32)【優先日】2015-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507244910
【氏名又は名称】プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シエ ピン
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0190833(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0028845(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0066348(US,A1)
【文献】特開2012-021996(JP,A)
【文献】特開2014-190891(JP,A)
【文献】XIE et al.,Local electrical potential detection of DNA by nanowire-nanopore sensors,Nature Nanotechnology,Vol.7 No.2,英国,2012年02月,p.119-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 33/48-33/98
G01N 15/12
C12M 1/00-1/34
C12Q 1/6869
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造において配置され、かつ、ナノポア直径およびナノポア抵抗R
Pore
を有する、ナノポアと、
第一のイオン濃度を有する流体溶液を含む、第一の流体リザーバと、
第一の流体リザーバと前記ナノポアとの間に配置された流体通路であって、前記流体通路は、前記流体通路を介して第一の流体リザーバを前記ナノポアに流体的に接続し、前記流体通路は、流体通路長の少なくとも一部にわたって、前記ナノポア直径よりも大きく、かつ前記流体通路長よりも小さい流体通路断面の大きさを有し、かつ、前記流体通路は、ナノポア抵抗R
Pore
の少なくとも約10%であり、かつナノポア抵抗R
Pore
の約10倍以下である流体通路抵抗R
FP
を有する、前記流体通路と、
前記ナノポアに接続され、かつ第二のイオン濃度を有する流体溶液を含む、第二の流体リザーバであって、前記ナノポアは前記流体通路を第二の流体リザーバに流体的に接続する、前記第二の流体リザーバと、
前記流体通路に局所的な電位の計測値を発生させるために、前記流体通路に配置され、かつ電気的に接続された、少なくとも一つの電気変換素子と
を含む、ナノポアセンサ。
【請求項2】
前記電気変換素子は、少なくとも1つの電極を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項3】
前記電極は、金属電極を含む、請求項2記載のナノポアセンサ。
【請求項4】
前記電気変換素子は、複数の電極を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項5】
前記電気変換素子は、電気装置、電気装置領域、および電気回路のうち少なくとも1つを含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項6】
前記電気変換素子は、前記流体通路に配置された電気伝導チャネルを含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項7】
前記電気変換素子は、電界効果トランジスタ、シリコンナノワイヤ電界効果トランジスタ、および単一電子トランジスタから選択されるトランジスタを含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項8】
前記ナノポアが配置されている支持構造が膜を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項9】
前記膜がグラフェンを含む、請求項8記載のナノポアセンサ。
【請求項10】
前記支持構造が膜を含み、前記電気変換素子は少なくとも1つの電極を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項11】
前記ナノポアが配置されている支持構造が固体状態材料を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項12】
前記ナノポアは、生物学的ナノポアを含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項13】
前記ナノポアは、固体材料の開口に配置された生物学的ナノポアを含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項14】
前記ナノポアは、タンパク質ナノポアを含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項15】
前記ナノポアが配置されている支持構造は、両親媒性層を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項16】
前記ナノポアが配置されている支持構造は、脂質二重層を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項17】
前記流体通路長が、前記流体通路断面の大きさよりも少なくとも約100倍大きい、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項18】
前記流体通路長が、前記流体通路断面の大きさよりも少なくとも約1000倍大きい、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項19】
前記流体通路は、少なくとも二つの異なる流体通路区分を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項20】
前記流体通路は、流体経路の集団を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項21】
前記ナノポアに配置された分子モータをさらに含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項22】
局所電位の計測値を時間の関数として処理するための、前記変換素子に接続された電気回路をさらに含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項23】
局所電位を計測するために、電気変換素子と接続し連絡する、光学読み出し素子をさらに含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項24】
第二の流体リザーバは、シス側リザーバとして配置され、第二の流体リザーバの流体溶液は、生物学的分子を含み、第一の流体リザーバは、トランス側リザーバとして配置される、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項25】
第一の流体リザーバおよび第二の流体リザーバのうち少なくとも1つの流体溶液は、DNA、DNAフラグメント、RNA、RNAフラグメント、PNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、およびポリマーのうち少なくとも1つを含む生物学的分子を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項26】
第一の流体リザーバの流体溶液の第一のイオン濃度は、第二の流体リザーバの第二のイオン濃度と異なる、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項27】
第一の流体リザーバと第二の流体リザーバとの間で電圧を接続する電極をさらに含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項28】
第一の流体リザーバと第二の流体リザーバとの間で接続される前記電圧は、第一の流体リザーバに対して正の電圧バイアスを有する、請求項27記載のナノポアセンサ。
【請求項29】
前記流体通路の少なくとも一部分が、横向き流体通路区分を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【請求項30】
前記流体通路が、横向き流体通路区分および垂直流体通路区分を含む、請求項1記載のナノポアセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により全体として本明細書に組み入れられる、2015年2月5日に出願された米国特許仮出願第62/112,630号の恩典を主張する。
【0002】
連邦政府資金援助を受けた研究に関する声明
本発明は、NIHによって付与された契約第5DP1OD003900号の下、政府支援を受けて成されたものである。政府は本発明に特定の権利を有する。
【0003】
本発明は概して、ナノポアセンサを用いる検出システムに関し、より詳細には、種がナノポアセンサをトランスロケートするときその種を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0004】
固体ナノポアおよび生物学的ナノポアはいずれも、ポリマー分子のような単一分子を含む広範囲の種を検出するために用いることができる低コストで高スループット検出システムの開発において、ますます多大な努力の中心となっている。ナノポアベースの検出における一般的な手法は、高抵抗性両親媒性膜に設けられたナノポアを通過しながら膜の各側に設けられた電極の間を流れるイオン電流の計測を用いる。DNAなどのポリマー分析対象物のような分子がナノポアをトランスロケートするとき、ナノポアを通過するイオン電流はDNA鎖の様々なヌクレオチド塩基によって変調される。ポリマー鎖の配列特性を決定するために、イオン電流の変化の計測を実施することができる。また、ポリヌクレオチド以外の分析対象物の検知のためのナノポア装置が、たとえば、国際特許出願PCT/US2013/026414(WO2013/123379として公開)(特許文献1)において、タンパク質の検知に関して報告されている。また、DNAをシークエンシングするために固体ナノポアを使用する方法およびシステムの開発に多大な努力が払われてきたが、商業的実現のためには数多くの難題が残る。加えて、ナノポアの様々な構成が特定の難題を提起する。たとえば、アレイ中の各ナノポアを通過するイオン電流を計測することができるナノポアのアレイの使用においては、共通の電極と各ナノポアのそれぞれ反対側に提供された複数の電極との間で計測を実施することができる。この場合、複数の電極は互いから電気的に分離される必要があり、ナノポア装置の集積密度のレベルを制限する。
【0005】
生物学的ナノポアは、いくつかの点で、一定かつ再現精度の高い物理的開口を提供するという点で、固体ナノポアよりも好都合である。しかし、それらが設けられる両親媒性膜は概して脆弱であり、劣化すると、膜を通してイオン漏出経路を提供するおそれがある。生物学的ナノポアを通過する分析対象物のトランスロケーションの速度は、酵素の使用によって制御することができる。ポリヌクレオチドの酵素支援トランスロケーションは一般的に30塩基/秒の程度である。分析対象物のスループットを高めるためには、はるかに高いトランスロケーション速度が望ましいが、概して、検出信号の計測が問題となりかねないことがわかっている。
【0006】
ナノポア検出のためのイオン電流計測法によって提起される技術的難題を回避するために、いくつかの代替ナノポア検出法が提案されている。そのような代替法は、概して、ナノポアと統合されている電子センサを用いて相対的に局所的なナノポア信号が記録されるアレンジに関する。これらのナノポア検出法は、たとえば、ナノポアを横切る容量結合の計測およびナノポアをトランスロケートする種を通過するトンネリング電流計測を含む。このような容量結合およびトンネル電流計測技術は、興味深い代替検出技術を提供するが、ナノポア検出のための従来のイオン電流検出技術を上回る改良には至っておらず、イオン電流検出技術は、信号振幅および信号帯域幅の課題を残したままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】PCT/US2013/026414(WO2013/123379)
【発明の概要】
【0008】
本明細書には、センサ中に設けられた流体通路における局所電位を計測することにより、従来のナノポアセンサおよびナノポア検出技術の上述の限界を克服するナノポアセンサが提供される。ナノポアセンサは、支持構造中に配置されたナノポアを含む。第一の流体リザーバとナノポアとの間に流体通路が配置されて、流体通路を介して第一の流体リザーバをナノポアに流体的に接続する。流体通路は、通路幅よりも大きい通路長を有する。第二の流体リザーバがナノポアに流体的に接続され、ナノポアが流体通路と第二のリザーバとの間の流体連絡を提供する。ナノポアをはさんで電位差を加えるために電極が接続されている。流体通路に局所的である電位を計測するための接続を有する少なくとも1つの電気変換素子がナノポアセンサ中に配置されている。
【0009】
このナノポアセンサ構成は、変換素子による局所電位検出を可能にして、イオン電流に比例する高感度かつ高帯域幅および限局化された大きな信号を提供する。その結果、DNAシークエンシングのようなナノポア検出アプリケーションをナノポアセンサによって非常に高い集積密度および分析対象物のスループットで達成することができる。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付図面ならびに特許請求の範囲から明らかになる。
[本発明1001]
支持構造中に配置されたナノポア;
第一の流体リザーバ;
流体通路幅を有し、該流体通路幅よりも大きい流体通路長を有する流体通路であって、該流体通路を介して該第一の流体リザーバを該ナノポアに流体的に接続するための、該第一の流体リザーバと該ナノポアとの間に配置された流体通路;
該ナノポアに流体的に接続された第二の流体リザーバであって、該ナノポアが該流体通路と該第二の流体リザーバとの間の流体接続を提供する、第二の流体リザーバ;
該第一および第二の流体リザーバの間で該ナノポアをはさんで電位差を加えるための、該第一および第二のリザーバ中に接続された電極;ならびに
該流体通路に局所的な電位を計測するための接続を有する、ナノポアセンサ中に配置された少なくとも1つの電気変換素子
を含む、ナノポアセンサ。
[本発明1002]
電気変換素子が流体通路内に配置されている、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1003]
電気変換素子がナノポア支持構造上に配置されている、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1004]
電気変換素子が、電位の変化に応答して蛍光を変化させる蛍光色素を含む、本発明1001、1002または1003のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1005]
電気変換素子が電気装置または装置領域を含む、本発明1001、1002または1003のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1006]
電気変換素子が電気回路を含む、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1007]
電気変換素子がトランジスタを含む、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1008]
電気変換素子が電界効果トランジスタを含む、本発明1007のナノポアセンサ。
[本発明1009]
電気変換素子がナノワイヤ電界効果トランジスタを含む、本発明1008のナノポアセンサ。
[本発明1010]
ナノワイヤがシリコンナノワイヤを含む、本発明1009のナノポアセンサ。
[本発明1011]
電気変換素子が単一電子トランジスタを含む、本発明1007のナノポアセンサ。
[本発明1012]
前記トランジスタがナノポア支持構造上に配置されている、本発明1007、1008、1009、1010または1011のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1013]
前記トランジスタが、ナノポアに配置されている電子伝導チャネルを含む、本発明1007、1008、1009、1010または1011のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1014]
電気変換素子が電気伝導チャネルを含む、前記本発明のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1015]
ナノポアが配置されている支持構造が膜を含む、前記本発明のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1016]
膜がグラフェンを含む、本発明1015のナノポアセンサ。
[本発明1017]
電気変換素子が、ナノポアが配置されているグラフェン層を含む、前記本発明のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1018]
支持構造が膜を含み、電気変換素子が、該膜上の流体通路中に配置されたナノワイヤを含む、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1019]
ナノポアが配置されている支持構造が固体材料を含む、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1020]
ナノポアが生物学的材料を含む、前記本発明のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1021]
ナノポアが、固体支持構造中の両親媒性層中に配置された生物学的材料を含む、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1022]
第一の流体リザーバが、第一のイオン濃度を有する第一の流体溶液を保持し、第二の流体リザーバが、該第一のイオン濃度とは異なる第二のイオン濃度を有する第二の流体溶液を保持する、前記本発明のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1023]
第二のイオン濃度が第一のイオン濃度よりも少なくとも約10倍高い、本発明1022のナノポアセンサ。
[本発明1024]
第二のイオン濃度が第一のイオン濃度よりも少なくとも約100倍高い、本発明1022のナノポアセンサ。
[本発明1025]
流体通路長が流体通路幅よりも少なくとも約10倍大きい、前記本発明のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1026]
流体通路長が流体通路幅よりも少なくとも約100倍大きい、本発明1025のナノポアセンサ。
[本発明1027]
流体通路長が流体通路幅よりも少なくとも約1000倍大きい、本発明1026のナノポアセンサ。
[本発明1028]
ナノポアをはさんで電位差を加えるために接続された電極が、対象物を流体リザーバ間で該ナノポアに通して電気泳動的に駆動するための、該ナノポアへの入口と該ナノポアからの出口との間の電圧バイアスを有する電気接続を、第一の流体リザーバと第二の流体リザーバとの間に含む、前記本発明のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1029]
電気変換素子が、DNA、DNAフラグメント、RNA、RNAフラグメント、PNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、およびポリマーからなる群より選択される少なくとも1つの対象物の、ナノポアを通過するトランスロケーションに応答して流体通路に局所的な電位を計測するために接続されている、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1030]
ナノポアを通過する対象物のトランスロケーションの速度を制御するためにナノポアに配置された分子モータをさらに含む、本発明1028のナノポアセンサ。
[本発明1031]
電気変換素子が、ポリマーの単位ごとに異なる電位信号値を生成するように接続されている、本発明1028、1029または1030のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1032]
電気変換素子が、k-merごとに異なる電位信号値を生成するように接続され、k-merはポリマーのkポリマー単位であり、kは正の整数である、本発明1028、1029または1030のいずれかのナノポアセンサ。
[本発明1033]
計測された電位を時間の関数として処理して、ナノポアを通過する対象物のトランスロケーションの時間および持続時間を決定するための、前記変換素子に接続された電気回路をさらに含む、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1034]
電気変換素子計測値を光学的に決定するための光学読み出し素子をさらに含む、本発明1001のナノポアセンサ。
[本発明1035]
支持構造中、第一の支持構造面と第二の支持構造面との間にナノポアを提供する工程;
第一のイオン濃度を有する第一の流体溶液を保持する第一の流体リザーバを提供する工程であって、該第一の流体リザーバは、流体通路幅および該流体通路幅よりも大きい流体通路長を有する流体通路を介して該ナノポアと流体接続する状態で配置される、工程;
第二のイオン濃度を有する第二の流体溶液を保持する第二の流体リザーバを提供する工程であって、該第二の流体リザーバは、該ナノポアと直接流体接続する状態で配置される、工程;
該流体通路中の電位を計測する工程;
該流体通路中の計測された電位に基づいて、該流体通路長にわたって電位差を決定し、該ナノポアをはさんで電位差を決定する工程;
該流体通路長にわたって決定された電位差を該ナノポアをはさんで決定された電位差と比較する工程;ならびに
該流体通路長にわたって決定された電位差が、該ナノポアをはさんで決定された電位差の少なくとも0.1倍~100倍になるまで、該第一のイオン濃度および該第二のイオン濃度の少なくとも1つを調節する工程
を含む、ナノポアセンサを較正する方法。
[本発明1036]
対象物をナノポアに通してトランスロケートし、トランスロケーション中の時間の関数として流体通路中の電位を計測する工程;
計測された電位を、該ナノポアを通過する公知の対象物の以前のトランスロケーションおよび該公知対象物トランスロケーションによる該流体通路中の電位の計測に基づく該流体通路中の公知の電位値と比較する工程;ならびに
該比較に基づいて該対象物を同定する工程
をさらに含む、本発明1035の方法。
[本発明1037]
前記公知の対象物が、DNA、DNAフラグメント、RNA、RNAフラグメント、PNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、およびポリマーからなる群より選択される、本発明1036の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】局所電位を計測するための第一の例示的なナノポアセンサ構成の略回路図である。
【
図1B】
図1Aのナノポアセンサ構成の例示的なトランジスタ実施形態の回路図である。
【
図1C】局所電位を計測するための第二の例示的なナノポアセンサ構成の略回路図である。
【
図1D】
図1Cのナノポアセンサ構成の例示的なトランジスタ実施形態の回路図である。
【
図1E】
図1Aのセンサ構成と
図1Cのセンサ構成との組み合わせの例示的なトランジスタ実施形態の回路図である。
【
図1F】局所電位を計測するためのナノポアセンサ構成の単一電子トランジスタ実施形態の略平面図である。
【
図1G】局所電位を計測するためのナノポアセンサ構成の量子点接触実施形態の略平面図である。
【
図1H】局所電位を計測するためのタンパク質ナノポアセンサ構成の実施形態のためにアレンジされた蛍光色素を含む脂質二重層の略側面図である。
【
図2】
図2Aは、局所電位を計測するためのナノポアセンサ構成の回路図および対応する回路素子である。
図2Bは、
図1Bのナノポアセンサトランジスタ実施形態の回路図である。
【
図3A】センサの定量分析の場合に規定されるような局所電位を計測するためのナノポアセンサ構成の幾何学的特徴の略側面図である。
【
図3B】シス側およびトランス側リザーバが等しいイオン濃度の流体溶液を含む構成の場合に、局所電位を計測するためのナノポアセンサのナノポアにおける電位を、ここではナノポアからシス側リザーバまでの距離の関数としてプロットしたものである。
【
図3C】シス側およびトランス側リザーバが等しくないイオン濃度の流体溶液を含む構成の場合に、局所電位を計測するためのナノポアセンサのナノポアにおける電位を、ここではナノポアからシス側リザーバまでの距離の関数としてプロットしたものである。
【
図3D】
図3Bの電位のプロットに対応する、局所電位を計測するためのナノポアセンサのナノポア中の電場のプロットである。
【
図3E】
図3Cの電位のプロットに対応する、局所電位を計測するためのナノポアセンサのナノポア中の電場のプロットである。
【
図4A】dsDNA分子がナノポアを通ってトランスロケートするときの電気泳動種トランスロケーションの場合の、厚さ50nmのナノポア膜および1Vの膜電圧(transmembrane voltage; TMV)の構成の場合のナノポア中の電位の変化を、ナノポアが局所電位計測のために構成されている10nm未満の様々なナノポア直径の場合のC
Cis/C
Transイオン濃度比の関数としてプロットしたものである。
【
図4B】
図4Aのプロットの条件の場合の、1VのTMVで直径10nmのナノポアの場合のトランス側リザーバ中の電位の変化のプロットである。
【
図4C】ノイズ源および信号を、局所電位計測のために構成されたナノポアセンサの記録帯域幅の関数としてプロットしたものである。
【
図4D】局所電位計測のために構成されたナノポアセンサの帯域幅を、一定範囲のリザーバ溶液濃度比の場合のシス側チャンバ溶液濃度の関数としてプロットしたものである。
【
図4E】局所電位計測のために構成されたナノポア中のナノポア位置からの信号減衰長を、シス側およびトランス側リザーバ溶液濃度比の関数としてプロットしたものである。
【
図5】第一のリザーバ、ここではトランス側リザーバと、支持構造中のナノポアとの間に接続された流体通路を含むナノポアセンサの略図である。
【
図7】達成可能な最大相互コンダクタンス信号に対する計測相互コンダクタンス信号の比を、流体通過抵抗とナノポア抵抗との比の関数としてプロットしたものである。
【
図8】幾何学的パラメータの定義を加えた、
図5のナノポアセンサの略側面図である。
【
図9】選択されたセンサ寸法の場合の、
図5のセンサ中のナノポアの抵抗に対する流体通路の抵抗の比を、流体通路長に対する流体通路直径の比の関数としてプロットしたものである。
【
図10】選択されたセンサ寸法の場合の、達成可能な最大相互コンダクタンス信号に対する計測相互コンダクタンス信号の比を、流体通路長に対する流体通路直径の比の関数としてプロットしたものである。
【
図12】ナノポアのための支持構造上に配置された流体通路の略側面図である。
【
図13】陽極処理された酸化アルミニウム流体通路構成の略側面図である。
【
図15】例示的な横向き流体通路構成の略トップダウン断面図である。
【
図16】局所電位計測を実施するための素子をアレンジされた流体通路構成の略側面図である。
【
図17】膜上に配置されたナノワイヤFETを用いる局所電位計測のために構成されたナノポアセンサの略図である。
【
図18】
図17のナノポアセンサ構成の1つの例示的実施形態の斜視図である。
【
図19】AおよびBはそれぞれ、グラフェン膜上に配置されたナノワイヤFETを用いる局所電位計測のために構成されたナノポアセンサの略図およびこのナノポアセンサの例示的実施形態の平面図である。
【
図20】AおよびBはそれぞれ、ナノワイヤFET上に配置されたグラフェン層を用いる局所電位計測のために構成されたナノポアセンサの略図およびこのナノポアセンサの例示的実施形態の平面図である。
【
図21】AおよびBはそれぞれ、グラフェン膜を用いる局所電位計測のために構成されたナノポアセンサの略図およびこのナノポアセンサの例示的実施形態の平面図である。
【
図22A】局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノワイヤに対するナノポアの例示的位置の略平面図である。
【
図22B】局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノワイヤに対するナノポアの例示的位置の略平面図である。
【
図22C】局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノワイヤに対するナノポアの例示的位置の略平面図である。
【
図22D】局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノワイヤに対するナノポアの例示的位置の略平面図である。
【
図23】ナノワイヤ位置にナノポアを形成する前および形成した後の局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノワイヤの感度のプロットである。
【
図24A】2VのTMVおよび100:1のシス側/トランス側リザーバ溶液濃度比の場合、DNAが、局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノポアを通ってトランスロケートするときの、それぞれ、i)ナノポアを通して計測されたイオン電流およびii)計測されたナノワイヤFETコンダクタンスのプロットである(局所電位計測はトランス側リザーバ中で実施)。
【
図24B】2.4VのTMVおよび100:1のシス側/トランス側リザーバ溶液濃度比の場合、DNAが、局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノポアを通ってトランスロケートするときの、それぞれ、i)ナノポアを通して計測されたイオン電流およびii)計測されたナノワイヤFETコンダクタンスのプロットである(局所電位計測はトランス側リザーバ中で実施)。
【
図24C】0.6VのTMVおよび1:1のシス側/トランス側リザーバ溶液濃度比の場合、DNAが、局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中のナノポアを通ってトランスロケートするときの、それぞれ、i)ナノポアを通して計測されたイオン電流およびii)計測されたナノワイヤFETコンダクタンスのプロットである(局所電位計測はトランス側リザーバ中で実施)。
【
図25】DNAが、局所電位計測のために構成されたナノポアセンサ中の3つのセンサ中のナノポアを通ってトランスロケートするときの、それぞれ、i)リザーバを共用する3つのナノポアを通して計測された合計イオン電流、ii)第一のナノポアを通して計測されたナノワイヤFETコンダクタンス、ii)第二のナノポアを通して計測されたナノワイヤFETコンダクタンス、およびii)第三のナノポアを通して計測されたナノワイヤFETコンダクタンスのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
図1A~1Eは、ナノポア検出のための局所電位検出法を可能にする、本明細書に提供されるナノポアセンサ構成の略図である。説明を明確にするために、図示される装置特徴は一定の拡大縮尺で示されていない。
図1Aを参照すると、膜のような支持構造14を含み、その支持構造中にナノポア12が配置されているナノポアセンサ3が示されている。ナノポア12は、支持構造中、ここではトランス側リザーバおよびシス側リザーバとして概略的に示される2つの流体リザーバの間で、シス側リザーバとトランス側リザーバとの間の唯一の流体連絡経路であるように構成されている。一方のリザーバはナノポアの入口に接続され、他方のリザーバはナノポアからの出口に接続されている。ナノポアを通過する種トランスロケーションの局所電位計測検知のためのナノポアセンサの動作においては、種の1つまたは複数の対象物、たとえば分子が、2つのリザーバの一方の流体溶液中に、ナノポアを通って2つのリザーバの他方へトランスロケートするように提供されている。多くの用途、特に分子検出用途の場合、分子または他の種対象物をリザーバの一方の中のイオン流体溶液中に提供することが好ましいといえ、リザーバのいずれか1つの中に提供することができる。
【0012】
ナノポアを通ってトランスロケートする種対象物は、たとえばDNA、DNAフラグメント、RNA、RNAフラグメント、PNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸およびポリマーから選択される対象物を含むことができる。種対象物は、標識されたヌクレオチドから放出される標識を含むことができる。参照により本明細書に組み入れられるWO2013/191793号に記載されているように、ポリメラーゼを援用して、核酸分子に沿うヌクレオチドを重合させて、核酸分子の少なくとも一部分に相補的である核酸鎖を生成することができ、それにより、重合中、標識が、ヌクレオチドの個々のヌクレオチドから放出され、それにより、放出された標識がナノポアをトランスロケートする。
【0013】
ナノポアは、支持構造中に開口、間隙、チャネル、溝、ポアまたは他の穴として提供され得、関心対象の種対象物を検出するのに適当である、対応する形状のための、直径のような大きさで提供される。ナノポアを通過する分子トランスロケ-ションを検出するためには、約100nm未満のナノポアが好ましいといえ、10nm、5nmまたは2nm未満のナノポアがより好ましいといえる。以下に説明するように、いくつかの分子検出用途の場合、1nmのナノポアが適当であり、好ましいとさえいえる。
【0014】
ナノポアセンサのリザーバまたは他の構成要素は、分子のような種の対象物をナノポアに向けて、またはリザーバの一方からリザーバの他方へとナノポアに通して移動させるための駆動力を提供するように構成され得る。たとえば、電極13、15が、電圧および電流素子16、18を有する回路中に提供されて、溶液中の種をナノポアに向けて、または一方のリザーバから他方のリザーバへとナノポアに通して電気泳動的に駆動するための電気泳動力をリザーバ間で発生させることができる。種の電気泳動的駆動を可能にするために、リザーバの流体溶液は、溶液中の種に順応するpHおよび他の特性を有する導電性イオン溶液として提供されることができる。これにより、ナノポアを介して電気回路をリザーバ溶液と直列に接続することができ、図示するような電極13、15が、ナノポアをはさんで溶液間に電圧バイアスを提供する。ナノポアを通過する種のトランスロケーションおよびトランスロケーション速度の制御は、酵素分子モータのような代替技術によって実施することもできる。
【0015】
印加電圧である駆動力に加えて、または駆動力に代えて、ポアをはさんでの圧力勾配を使用して、分子をナノポアに向けて移動させる、および/またはナノポアに通すことができる。この圧力勾配は、物理的圧力または浸透圧のような化学的圧力を使用することによって発生させることができる。浸透圧は、シス側およびトランス側チャンバ間の濃度差から発生させることができる。浸透圧は、浸透的に活性な物質、たとえば塩、ポリエチレングリコール(PEG)またはグリセロールの濃度勾配を有することによって発生させることができる。
【0016】
図1Aに示すように、ナノポアセンサ中に、素子の位置に局所的な電位を検出し、その局所電位を示す特徴を発現させる変換素子7を提供することができる。局所電位を示す信号を発現させるために、装置および/または回路の位置に局所的な電位を検出する電気接続、たとえば装置および/または回路の装置または領域、ワイヤまたは回路素子の組み合わせを変換素子7として提供することができる。電位検出の位置は、以下に詳細に説明するように、リザーバの中、支持構造の表面またはナノポアセンサ内の他の位置であることができる。
【0017】
図1Bに示すように、たとえば、ソースS、ドレインDおよびチャネル領域24を有するトランジスタ装置22を含む回路20を提供することができる。チャネル領域24は、この例においては、ナノポアセンサ環境中、局所電位計測を実施するための位置に物理的に配置されている。トランジスタのチャネル領域24のこの物理的位置は、局所電位にアクセスするための任意の好都合かつ適当な位置であることができる。
【0018】
図1A~1Bのアレンジにおいて、電位検出回路は、ナノポア12のトランス側リザーバ側でトランス側リザーバに局所的な電位を計測するトランジスタまたは他の装置を提供するために、トランス側リザーバに局所的に構成されている。または、
図1Cに示すように、電位検出装置または回路のような電気変換素子7がナノポアのシス側リザーバ側で構成されることもできる。ここでは、たとえば、
図1Dに示すように、ナノポア12のシス側リザーバ側でシス側リザーバに局所的な電位を計測するためのトランジスタ24または他の装置を含む回路20を提供することができる。
【0019】
さらなる代替構成においては、
図1Eに示すように、ナノポアセンサシステム中の2つ以上の位置で電位を検出する、トランジスタ22a、22bのような変換素子に接続された回路20a、20bなどを有する2つ以上の変換素子がたとえばナノポア支持構造の各側に含まれることもできる。これにより、電位検出回路の物理的な実施形態に依存して、このアレンジにより、ナノポア膜14の2つの側で電位を計測することができる。これは、ナノポアセンサ中の2つの位置の間の局所電位差の計測が可能になる例示的な構成である。したがって、用語「計測された局所電位」とは、ナノポアセンサ中の単一位置の電位を指し、2つ以上の位置の間の局所電位の差または和を指し、かつ、ナノポアセンサ構成中の2つ以上の位置における局所電位を指す。
【0020】
局所電位計測は、任意の適当な装置および/または回路もしくは他の変換素子、たとえば生物学的または他の非固体変換素子によって実施されることができ、上記トランジスタ実施形態に限定されない。
図1Fに示すように、単一電子トランジスタ(SET)回路27として構成されている変換素子を支持構造14上に提供することができる。SETのソースS領域およびドレインD領域が支持構造上に配置されて、SET27にトンネリングバリヤを提供する。得られる量子ドットシステムにおいて、SET27を通過する電気コンダクタンスは、ソースSおよびドレインDのフェルミ準位に対するSETのエネルギー準位に依存する。ナノポア12がSETの近くに位置していると、種対象物がナノポアを通ってトランスロケートするときSETの電位および対応するエネルギー準位が変化して、SET回路のコンダクタンスを変化させる。
【0021】
さらに
図1Gに示すように、局所電位計測を実施するための量子点接触(QPC)システム29を支持構造14上に提供することができる。このシステムにおいては、ナノポア12の位置で非常に細い伝導チャネル領域を介して接続されるソースS領域およびドレインD領域を形成する導電性領域31が提供される。チャネル領域は、チャネル領域に対して垂直である電子キャリア粒子エネルギー状態が量子化されるのに十分な細さである。種対象物がナノポアを通ってトランスロケートするとき、QPCの周囲の局所電位、ひいては細い伝導チャネル領域内のフェルミ準位が変化し、その結果、フェルミ準位よりも低い量子化状態の数の変化および対応するQPCコンダクタンスの変化を生じさせる。
【0022】
また、ナノワイヤFETをナノポアの位置で構成することもできる。ナノワイヤは、フラーレン構造および半導体ワイヤを含む任意の適当な導電性または半導電性材料で形成されることができる。本明細書の中で使用される用語「ナノワイヤ」とは、ナノポア位置から計測された信号減衰長と適合する幅を特徴とする電気伝導チャネルをいう。チャネル幅は、好ましくは、減衰長と同程度の大きさであり、かつより大きいこともできる。ナノワイヤは、選択されたリザーバ溶液中で安定である任意の半導体材料から作ることができる。
【0023】
ナノポアセンサは、固体電圧検出装置を有する固体ナノポア構成に限定されない。たとえばタンパク質ナノポアまたは他の適当な構成を有する生物学的ナノポアおよび電位検出アレンジを用いることもできる。
図1Hに示すように、タンパク質ナノポア33が配置されている両親媒性層31を提供することができる。電圧感受性色素、たとえば蛍光直接染料37を電気変換素子として脂質二重層中に提供することができる。このアレンジを用いると、分子のような種対象物がタンパク質ナノポアを通ってトランスロケートするとき、両親媒性層をはさんで電圧降下が変化し、色素の蛍光が電圧変化によって変調される。色素蛍光の光学的検知または検出およびその蛍光への変化がナノポアにおける電位の検出を提供する。ナノポアセンサからの光出力信号としてこの電位計測を実施するためには、光学顕微鏡法または他の従来のアレンジを用いることができる。この両親媒性層ナノポアセンサは、ナノポアシステム中の位置における局所電位の検出に基づく生物学的ナノポアセンサの一例である。ナノポアトランスロケーション検出のための局所電位計測の方法は、特定の固体または生物学的構成に限定されず、かつ任意の適当なナノポア構成に適用されることができる。
【0024】
支持構造は、マイクロエレクトロニクス材料(導電性、半導電性または絶縁性のいずれでもよい)、たとえばII-IVおよびIII-V材料、酸化物および窒化物、たとえばSi3N4、Al2O3およびSiOのような材料、有機および無機ポリマー、たとえばポリアミド、プラスチック、たとえばTeflon(登録商標)またはエラストマー、たとえば二成分付加型硬化シリコーンゴムおよびガラスをはじめとする、有機材料および無機材料のいずれかまたは両方から形成されることができる。固体支持構造は、単原子層、たとえばグラフェンまたは原子数個分の厚さしかない層、たとえば、いずれも参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,698,481号および米国特許出願公開公報2014/174927に開示されているものから形成され得る。参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開公報2013/309776に開示されているように、2つ以上の支持層材料、たとえば2つ以上のグラフェン層が含まれることもできる。適当な窒化ケイ素膜が、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,627,067号に開示されており、支持構造は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開公報2011/053284に開示されているように、化学的に官能化されてもよい。
【0025】
選択された支持構造材料の組成、厚さおよびアレンジに関して、支持構造中にナノポアを製造するために任意の適当な方法を用いることができる。たとえば、ナノポアを製造するためには、たとえばいずれも参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開公報2014/0262820、米国特許出願公開公報2012/0234679、米国特許第8,470,408号、米国特許第8,092,697号、米国特許第6,783,643号および米国特許第8,206,568号に記載されているように、電子ビームミリング、イオンビームミリング、高エネルギービームによる材料彫塑、ドライエッチング、ウェットケミカルもしくはエレクトロケミカルエッチングまたは他の方法を用いることができる。加えて、押出し成形、自己集合、相対的に大きな開口の側壁への材料付着または他のナノポア形成方法を用いることができる。
【0026】
完全に固体のナノポアを提供する代わりに、固体開口内に生物学的ナノポアを提供することもできる。そのような構造が、たとえば参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,828,211号に開示されている。さらに、生物学的ナノポアは膜貫通タンパク質ポアであってもよい。生物学的ポアは、天然のポアであってもよいし、または突然変異ポアであってもよい。一般的なポアが、米国特許出願第2012/1007802号に記載され、Stoddart D et al., Proc Natl Acad Sci, 12;106(19):7702-7、Stoddart D et al., Angew Chem Int Ed Engl. 2010;49(3):556-9、Stoddart D et al., Nano Lett. 2010 Sep 8;10(9):3633-7、Butler TZ et al., Proc Natl Acad Sci 2008;105(52);20647-52、米国特許出願公開公報2014/186823およびWO2013/153359に記載されている。これらすべては参照により本明細書に組み入れられる。ポアは、ホモオリゴマー、すなわち、同一のモノマーから誘導されたものであってもよい。ポアは、ヘテロオリゴマー、すなわち、少なくとも1つのモノマーが他とは異なるものであってもよい。ポアは、参照により本明細書に組み入れられるLangecker et al., Science, 2012; 338: 932-936によって記載されているような、DNAオリガミポアであってもよい。
【0027】
1つの態様において、ポアは、両親媒性層内に提供されることができる。両親媒性層とは、親水性および親油性の両性質を有する両親媒性分子、たとえばリン脂質から形成された層である。両親媒性層は単層または二重層であることができ、その層は、脂質二重層または非天然脂質二重層から選択される。二重層は、たとえばKunitake T., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 31 (1992) 709-726によって開示されているような合成二重層であることができる。両親媒性層は、いずれも参照により本明細書に組み入れられるGonzalez-Perez et al., Langmuir, 2009, 25, 10447-10450および米国特許第6,723,814号によって開示されているようなコブロックポリマーであることができる。ポリマーは、たとえば、PMOXA-PDMS-PMOXAトリブロックコポリマーであることができる。
【0028】
図2Aを参照すると、ナノポアセンサ中の1つまたは複数の位置における局所電位を計測するためのこれらの支持構造、ナノポアおよび電気的構成のいずれかを、ナノポアを通過する種のトランスロケ-ションを検出する方法に用いることができる。この検出の原理を説明するためには、ナノポアセンサを、
図2Aに示すような、センサの物理的素子に対応する電気部品を含む回路35としてモデル化することが理解しやすい。シス側およびトランス側リザーバは、それぞれ、特徴的な流体アクセス抵抗R
Trans36、R
Cis38を有するようにモデル化されることができる。このアクセス抵抗は、この分析の場合、ナノポアの位置に局所的なリザーバ溶液中の流体抵抗と定義され、ナノポアから離れたバルク溶液中の流体抵抗と定義されるのではない。ナノポアは、ナノポアが配置されている支持構造の2つの側の間のナノポア長を通過する溶液の流体抵抗である、特徴的なナノポア溶液抵抗R
Pore40を有するようにモデル化されることができる。ナノポアはまた、ナノポアが配置されている膜または他の支持構造の関数である、特徴的なキャパシタンスC
Poreを有するようにモデル化されることもできる。両チャンバのアクセス抵抗およびナノポア溶液抵抗は可変性である。
【0029】
ナノポアをトランスロケートする種が存在しないナノポアセンサ開始条件において、ナノポアは上記溶液抵抗R
Poreを特徴とすることができ、両方の流体リザーバは、トランス側リザーバおよびシス側リザーバのアクセス抵抗それぞれR
TransおよびR
Cisを特徴とすることができる。次いで、
図2Aに示すように生物学的分子45のような種対象物がナノポア12をトランスロケートするとき、ナノポア中の分子がナノポア長に延びる通路を少なくとも部分的に閉塞してナノポアの有効直径を変化させるせいで、ナノポアの溶液抵抗R
Poreならびに各リザーバのアクセス抵抗R
TransおよびR
Cisが変化する。そのような閉塞により、ナノポアの流体溶液抵抗および両リザーバのアクセス抵抗は、ナノポア中に分子が存在しないときのナノポアの抵抗および両リザーバのアクセス抵抗よりも増大する。
【0030】
種対象物によるナノポアの部分的閉塞は、以下に詳細に説明するように、ナノポア溶液抵抗とリザーバアクセス抵抗とに異なるふうに影響する。その結果、トランスロケートする種によるナノポアの部分的閉塞は、ナノポアとシス側およびトランス側リザーバ溶液との間で電圧の対応する再分布を生じさせ、ナノポアセンサ中の至るところで電位が相応に調節する。それにより、ナノポア溶液抵抗のこの変化およびリザーバ溶液とナノポアとの間の電位の再分布とともに、
図2A中でAおよびBと表記された両方の位置の局所電位が相応に変化する。それにより、これらの位置のいずれかもしくはナノポアセンサ構成の別の位置における電位の計測、または2つ以上の位置の間の局所電位の差の計測が、ナノポアを通過する分子のトランスロケーションの指標を提供する。
【0031】
選択されたナノポアセンサ位置における局所電位およびこの電位の変化を、ナノポアセンサ中に配置された電気変換素子によって検出することができる。たとえば、トランジスタ装置中の伝導チャネルのコンダクタンスの変化が電位計測を提供することができる。したがって、トランジスタチャネルコンダクタンスは、トランジスタチャネルの物理的位置に局所的な電位の直接的な指標として用いることができる。
図1A~1Bのナノポアセンサアレンジは、
図2Aの回路35の位置Aにおける局所電位計測に対応する。
図1C~1Dのナノポアセンサアレンジは、
図2Aの回路35の位置Bにおける局所電位計測に対応する。
図1Eのナノポアセンサアレンジは、
図2Aの回路35の位置AおよびBの両方における局所電位計測に対応し、これら2つの位置における電位間の差の決定を可能にする。
【0032】
図1Bの例示的構成の電気回路等価物が
図2Bに示されている。この図には、シス側およびトランス側リザーバのアクセス抵抗それぞれR
CisおよびR
Transならびにナノポアの流体溶液抵抗R
Poreが示されている。局所電位を計測するための電気変換素子、たとえばトランジスタ22のチャネルの位置がここでは
図2Aの位置Aに配置されて、ナノポアのトランス側リザーバ側のトランス側リザーバ中の局所電位の指標を提供する。このアレンジを用いると、分子のような種対象物がナノポアを通ってトランスロケートするとき、ナノポアの状態の変化およびナノポア中の1つまたは複数の対象物の有無に対応する電位の変化に関して電位計測回路の出力信号をモニタすることができる。
【0033】
この分析は、局所電気変換素子が提供されている任意のナノポアセンサに適用することができる。分析は、上記FETおよび他の実施形態に限定されず、任意の変換素子のための任意の適当なアレンジに適用可能である。求められるすべては、電気変換素子、たとえば装置、装置の領域、回路または種対象物がナノポアをトランスロケートするとき局所電位計測を実施する他の変換素子の提供である。
【0034】
ナノポアセンサシステムパラメータをさらに分析するために、ナノポアセンサを、
図3Aの略図に示すようにモデル化することができる。分析計算を可能にするためにいくつかの仮説を用いることができる。まず、局所電位検出変換素子の包含によって生じる、膜のようなナノポア支持構造およびナノポアそのものならびにナノポアセンサの他の領域の幾何学的変化を無視し、電位検出変換素子を点電位検知器としてモデル化することができる。流体リザーバは、導電性イオン溶液を含むものと仮定する。2つのリザーバ溶液は、異なるイオン濃度であってもよい別々のイオン濃度を含むように特定される。1つの分析においては、リザーバに特定された異なるイオン濃度で、シス側/トランス側リザーバ濃度差によって駆動される定常状態拡散により、ナノポアシステム中のイオン濃度分布を決定する。拡散は、定常状態に達するものと仮定する。バッファ濃度分布および電位がナノポアの両側の小さな半球部中で一定であると概算することにより、さらなる仮説を立てることができる。ナノポアセンサは、定常状態にあるものと仮定する。これらの条件下、ナノポアセンサの拡散方程式は以下のように記される:
式中、Cは流体イオン濃度であり、tは時間であり、rは、リザーバ中の、ナノポアから計測された点における位置であり、zは、ナノポア長を通過する距離である。ナノポアから遠いシス側リザーバ中ではC=C
Cisであり、ナノポアから遠いトランス側リザーバ中ではC=C
Transであり、流束がナノポア中および両リザーバに関して同じであり、各リザーバ中のナノポア開口における濃度が連続的である境界条件下でこれらの拡散方程式を解くならば、2つのリザーバおよびナノポアのイオン濃度を以下のように求めることができる:
式中、lおよびdは、それぞれ、ナノポア支持構造の厚さおよびナノポア直径である。したがってイオン濃度分布は公知であり、溶液伝導率は濃度に比例するため、溶液の伝導率σは以下のように求められる:
式中、Σは溶液のモル伝導率である。全電流がIであると仮定すると、シス側リザーバ電圧V
C、トランス側リザーバ電圧V
Tおよびナノポア電圧V
Pで、ナノポアセンサを通しての電位降下を以下のように求めることができる:
ナノポアから遠い、シス側リザーバ中の電位は、構造または膜に印加される電圧、すなわち膜電圧(TMV)に等しく、対象物をナノポアに通して電気泳動的に駆動し、ナノポアから遠い、トランス側チャンバ中の電位は0Vであると特定する境界条件でこれら3つの式を解くならば、ナノポアセンサ中の電圧、すなわちシス側リザーバ中の電圧V
C(r)、トランス側リザーバ中の電圧V
T(r)およびナノポア中の電圧V
P(r)は以下のように求められる:
リザーバに通じる両方のナノポア開口で電位は連続的であるため、また、印加される全電圧はVであるため、式(5)を以下のようにさらに簡約することができる:
この式を用いると、ナノポア内の電場E
P(r)を以下のように求めることができる:
この式を用いると、ナノポア中の分子のような種対象物の存在によるナノポア面積Aの減少による電位変化によってナノポアのトランス側リザーバ側の電位変化を以下のように推定することができる:
式中、δAは分子の断面積である。ナノポアセンサの抵抗、すなわちR
Cis、R
TransおよびR
Poreは、リザーバおよびナノポアをはさんでの電圧降下のための上記式に基づいて以下のように計算することができる:
したがって、ナノポアセンサの全抵抗およびイオン電流は
として求められる。
【0035】
これらの式により、ナノポアセンサの電気的特性、特にセンサ中の電位の分布がシス側およびトランス側リザーバ中の流体溶液のイオン濃度に直接依存するということが実証される。具体的には、リザーバ溶液濃度の比が、ナノポアの種トランスロケーションによる局所電位の変化の大きさに直接影響する。
【0036】
図3B~3Eは、これらの条件を実証する、ナノポア中の電位および電場のプロットである。1:1のシス側/トランス側バッファ溶液濃度比、厚さ50nmの窒化物膜、膜中の直径10nmのナノポアおよび1Vの膜電圧、すなわち2つのリザーバ中の溶液間に印加される1Vの電圧を仮定して、上記式(6)に基づき、ナノポア中の電位がシス側リザーバにおけるナノポア開口からの距離の関数として
図3Bにプロットされている。シス側/トランス側バッファ溶液濃度比が代わりに100:1である条件での同じ電位が
図3Cにプロットされている。不均衡なバッファ溶液比の場合、より低い濃度のリザーバにより近い点で、所与のナノポア位置における電位が増すことに注目されたい。
【0037】
図3Dは、ここでは均衡したバッファ溶液比の場合の、上記式(7)に基づく、上記条件下でのナノポア中の電場のプロットである。シス側/トランス側バッファ溶液濃度比が代わりに100:1である条件での同じ電位プロファイルが
図3Eにプロットされている。不均衡なバッファ溶液比の場合の所与のナノポア位置における電位の増大および低濃度かつより高い抵抗のリザーバにより近い点で電場が劇的に強くなることに注目されたい。
【0038】
この発見により、リザーバ溶液がいずれも同じイオン濃度の導電性イオン溶液として提供される条件では、シス側リザーバのアクセス抵抗RCis、トランス側リザーバのアクセス抵抗RTransおよびナノポアの溶液抵抗RPoreの比はすべて固定され、ナノポア抵抗がリザーバアクセス抵抗よりもずっと大きいことが見いだされる。しかし、不均衡なイオン濃度条件下では、より低いイオン濃度を有するリザーバが、ナノポア抵抗の程度であることができる、より大きいアクセス抵抗を有し、一方で、より高いイオン濃度を有するリザーバの抵抗は比較可能に無視しうる程度になる。
【0039】
この対応の理解に基づき、ナノポアセンサ中の局所電位計測を最大化するために、1つの態様においては、イオンリザーバ溶液に異なるイオン濃度を提供することができることが本明細書の中で見いだされる。不均衡なイオン濃度のこの構成を用いると、局所電位計測は、好ましくは、より低いイオン濃度を含むリザーバ中の位置で実施される。さらに、より低いイオン濃度溶液のバッファ濃度は、そのリザーバのアクセス抵抗をナノポア抵抗と同程度の大きさ、かつ、高イオン濃度溶液の抵抗よりもずっと大きく、たとえば高イオン濃度溶液の抵抗よりも少なくとも一桁大きくして、たとえば、局所電位計測がトランス側リザーバ中で実施されるならば、
となるように選択されることが好ましい。
【0040】
そして、この発見に基づき、ナノポア抵抗RPを設定する所与のナノポア直径の場合、1つの態様においては、局所電位計測のために指定されたリザーバのイオン溶液バッファ濃度を、そのリザーバのアクセス抵抗がナノポア抵抗と同程度の大きさであるレベルまで下げることが好ましい。このリザーバアクセス抵抗は、ナノポアセンサ抵抗を圧倒するべきではなく、ナノポア抵抗の程度であるべきである。
【0041】
この条件は、上記のようにナノポアセンサ構成要素を電気的にモデル化することによって直接定量することができる。上記式(8)に基づき、所与のナノポアセンサパラメータの場合に選択された対象物のナノポアトランスロケーション中の電位変化を最大化する溶液濃度の比を決定することができる。
図4Aは、dsDNA分子がナノポアを通ってトランスロケートするときの電気泳動種トランスロケーションの場合の、厚さ50nmのナノポア膜および1VのTMVの構成の場合の式(8)のプロットである。電位変化が、10nm未満の様々なナノポア直径の場合のC
Cis/C
Transイオン濃度比の関数として示されている。このプロットから、ここでモデル化される任意のナノポア直径の場合、トランス側リザーバ中の局所電位変化が約100:1のC
Cis/C
Transチャンババッファ濃度比の場合に最大化されることがわかる。
図4Bは、直径10nmのナノポアの場合、1VのTMVで、選択された100:1のC
Cis/C
Trans溶液濃度比の場合の、トランス側リザーバ中の対応する計算された電位変化分布のプロットである。
【0042】
これは、本明細書における発見に基づき、1つの態様において、電位計測を実施するために選択される所与のリザーバ位置に関し、その選択された計測位置における電位変化の振幅を最大化するためには、より低いバッファ濃度の溶液が計測リザーバ中にあるように2つのリザーバ中のイオン流体バッファ濃度の比を選択することができることを実証する。この結果的な電位変化の分布は、
図4Bに示すように、ナノポアから数十ナノメートル以内で高度に限局化している。100:1のC
Cis/C
Trans溶液濃度比および上記ナノポアパラメータの場合、たとえば上記式(9)に基づくと、トランス側リザーバのアクセス溶液抵抗とナノポアの溶液抵抗とが実際には同程度の大きさであると判断することができる。
【0043】
リザーバ流体溶液バッファ濃度および電位計測構成のこのアレンジを用いるとき、局所電位検出技術は、膜電圧(TMV)およびイオン電流信号に依存する局所電位計測信号を生成するということが注目される。他のセンサベースのナノポア技術は概して、トランスロケートする種とナノポアセンサとの間の直接的相互作用、たとえば電気結合または量子力学トンネリングに依存する。これらの技術の場合、ナノポア出力信号は一般に、TMVまたはイオン電流に正比例せず、TMVが変化するときでも有意には変化しないはずである。対照的に、本明細書における局所電位計測システムにおいて、ナノポアセンサ信号はTMVに比例し、イオン電流信号の線形増幅とみなすことができる。その結果、局所電位計測信号およびイオン電流信号の両方の振幅はTMVに線形に依存するが、それらの間の比は、上記式によって証明されるように、所与のナノポア形状およびリザーバ溶液濃度に関して一定である。
【0044】
局所電位計測法の利点は、低ノイズで特徴的に高帯域幅の計測能力である。低い信号帯域幅は、非常に小さい計測電流信号の高帯域幅増幅の困難さのせいで、従来のイオン電流閉塞計測技術による直接ナノポア検出を制限する問題の1つである。これは、DNA検出に用いられる場合の小さなナノポアに特に当てはまることができる。局所電位検出法においては、小さな電流信号の代わりに大きな局所電位信号が計測され、したがって、信号帯域幅は電流増幅器の能力によって制限されない。その結果、高帯域幅信号処理電子部品を固体ナノポア検出構造上に統合することができる。
【0045】
さらに、固有ショットノイズおよびジョンソンノイズを除いて、イオン電流閉塞計測技術へのノイズ寄与の大部分は、ナノポア膜を横切る容量結合を介して導入され、ノイズのこの容量結合成分が、ナノポア動作の特定の段階で圧倒的になることができる。通常、ノイズを最小化するための努力においては、リザーバ溶液への非常に小さな膜面積暴露が求められる。本明細書における局所電位計測法において、局所電位信号は、妥当なリザーバ濃度比の場合、ナノポアの周囲の数十ナノメートル以内で減衰するため、局所電位計測信号は、この局所ボリューム内のリザーバ溶液間の容量結合による影響しか受けない。したがって、局所電位計測検出法において、容量結合ノイズの大部分は自動的に拒絶される。
【0046】
図4C~4Dを参照すると、1つの態様においては、ナノポアセンサの信号帯域幅を最適化するためにリザーババッファ溶液濃度比を選択することができる。局所電位計測をナノポアの1つの側、たとえばナノポアのトランス側で実施すると仮定すると、シス側リザーバ溶液濃度は、ナノポア溶液抵抗を最小化するために、飽和溶液に関して妥当な高さ、たとえば約4Mに設定される。そして、たとえば
図4Cのプロットに基づき、帯域幅の関数として信号ノイズが分析される。ここでは、ノイズに対する様々な寄与および流体ナノポア動作の場合に予想される信号がプロットされている。「フリースペース」と標識されたプロットは、フリースペース分子サイズに基づく計算を指す。「Bayley」と標識されたプロットは、Bayleyらによる、J. Clarke et al., "Continuous Base Identification for Single-Molecule Nanopore DNA Sequencing," Nature Nanotechnology, N. 4, pp. 265-270, 2009における以前の研究からの分子サイズに基づく計算を指す。2つの信号線は、4つのDNA塩基の間で達成される最小信号差であり、最小信号はA塩基とT塩基との間に存在する。ここで、ナノポアは、4Mのシス側リザーバ溶液濃度、50:1のリザーバ間のバッファ濃度比および約10
-9V/√Hzの電圧ノイズ密度で、グラフェン膜中の直径1nmのナノポアとして与えられる。グラフェンの誘電損率は未知であるため、便宜上、1を使用した。プロット中の信号および全ノイズの交差点の発見が1:1のS/N比をセットする。たとえば、流体ナノポア動作の場合、1:1のS/N比は約100MHzの帯域幅にある。これは可能な限り高い信号帯域幅である。100MHzの帯域幅だけでなく、約50MHzよりも大きい帯域幅が好ましいといえる。
【0047】
図4Dのプロットを参照すると、100MHzの帯域幅は、ナノポアの低濃度リザーバ側で局所電位が実施される約50:1のリザーバ溶液濃度比に対応している。この例において使用されたナノポアセンサパラメータの場合、約50:1よりも高い任意のリザーバ濃度比は帯域幅を減少させる。約50:1よりも低い任意の濃度比はS/N比を低下させる。したがって、本明細書において、帯域幅を最適化することができ、リザーバ濃度比の最適化点、たとえば50:1が存在することが見いだされる。したがって、リザーバ溶液濃度比は、1つの態様において、ナノポアセンサの特徴的なノイズとナノポアセンサの所望の動作帯域幅との間のトレードオフに基づいて選択することができる。したがって、ノイズを最小化するためにはリザーバ溶液濃度比を高めることができるが、帯域幅が相応に減少し得ることが理解されるべきである。または、低域フィルタリングのような電子信号処理または他の信号処理を用いることもできる。
【0048】
さらに、概して、小さめの直径のナノポアは、所与の種対象物がナノポアを通ってトランスロケートする場合、より大きな信号を生成することが理解されている。しかし、DNAなどの特定の分子を検出するような用途の場合、ナノポアの大きさは好ましくは分子の大きさに基づき、リザーバ濃度比の調整が相応に実施される。
【0049】
また、さらなる態様においては、選択された局所電位計測装置を収容する、ナノポアの位置から計測される信号減衰長を生成するようにリザーババッファ溶液濃度比を選択することもできる。信号の減衰長は、減衰長内への電位計測装置のアレンジを受け入れるのに十分な大きさであるべきであることが理解されている。
図4Eは、局所電位計測がナノポアのトランス側リザーバ側で実施されると仮定した、一定範囲のバッファ濃度比に対する信号減衰長のプロットである。プロットは、プロット中にはめ込んで示す回路モデルに基づく。
【0050】
この分析に基づくと、約20または30よりも大きい濃度比で、減衰長内の局所電位を計測することができる装置を収容するのに十分な信号減衰長が生成されることが示される。約50:1よりも大きい濃度比で、減衰長内で電位計測を実施するのに十分な減衰長が提供される。たとえば約10nmおよび約20nmの信号減衰長だけでなく、約5nmよりも大きい信号減衰長が好ましいといえる。
【0051】
相対シス側およびトランス側溶液イオン濃度を特定するためにナノポアセンサ分析を用いるこの特定の態様は、ナノポアを通過する種トランスロケーションによって生じるナノポア抵抗およびリザーバアクセス抵抗の変化の考慮に基づく。本明細書における方法は、種トランスロケーション中にナノポアのすぐ近くから離れるシス側およびトランス側リザーバ流体の抵抗の変化をさらに考慮する、さらなる分析、方法および構造を提供する。
【0052】
図5を参照すると、このさらなる態様において、支持構造14中に配置されているナノポア12の互いに反対側にシス側リザーバ102およびトランス側リザーバ104を含む、本明細書に提供されるナノポアセンサ100が概略的に示されている。ナノポアは、2つのリザーバ間の流体連絡の経路を横断しなければならない。流体通路105が、ここではトランス側リザーバとして示される一方のリザーバとナノポア12との間に配置されて、そのリザーバを流体通路を介してナノポアに流体接続している。流体通路は、通路断面の大きさ、幅または直径よりも大きい通路長を有し、かつ通路が通じるナノポアとリザーバとの間の流体連絡を可能にするように接続されている。第二のリザーバ、ここではシス側リザーバは、ナノポアを介して流体通路と流体連絡するようにアレンジされている。第二のリザーバが第二の流体通路を含む必要はない。
【0053】
上記ナノポアセンサ例におけるように、この態様のナノポアセンサ100は、固体支持構造をはさんでリザーバ間に電位を印加するための電極13、15および電圧源16を含むことができる。ナノポアは、適当な支持構造中に配置され、固体ナノポア、生物学的ナノポアまたは上記やり方における2つの組み合わせである。
【0054】
このナノポアセンサ態様は、
図6の回路に示すように電気的にモデル化することができる。このモデルにおいて、ナノポアのアスペクト比、すなわちナノポアの直径と長さとの比、および流体通路のアスペクト比は、トランス側およびシス側リザーバチャンバの流体アクセス抵抗を無視できるほど十分に大きいことが先験的に特定される。そして、流体通路の抵抗R
FPおよびナノポア抵抗R
POREが規定される。さらに、流体通路の流体抵抗R
FPが、シス側リザーバのバルク流体抵抗よりもずっと大きく、トランス側リザーバのバルク流体抵抗よりもずっと大きいということが先験的に特定される。その結果、
図6に示すように、ナノポアセンサ抵抗を流体通路抵抗およびナノポア抵抗としてモデル化することができる。
【0055】
図6および
図5の両方を参照すると、上記のような電気変換素子7が、流体通路105に局所的な電位を検出して、流体通路中の局所電位を示す特徴を発現させるために、センサ中に提供されている。局所電位を示す信号を発生させるために、装置および/または回路の位置に局所的な電位を検出する電気接続、たとえば装置もしくは装置および/または回路の領域、ワイヤまたは回路素子の組み合わせを変換素子として提供することができる。電気変換素子7の位置は、リザーバ中であることもできるし、
図5に示すように支持構造の表面であることもできるし、流体通路中の位置であることもできるし、またはナノポアセンサ内の他の位置であることもできる。
【0056】
図6に示すように、1つの態様においては、たとえば、ソースS、ドレインDおよびチャネル領域を有するトランジスタ装置である電気変換素子を支持するための回路20を提供することができる。チャネル領域は、ナノポアセンサ環境中、局所電位計測を実施するための位置に物理的に配置されることができる。トランジスタのチャネル領域のこの物理的位置は、局所電位にアクセスするための任意の好都合かつ適当な位置であることができる。
【0057】
ここで、このナノポアセンサアレンジを考えると、流体通路105の抵抗がナノポア12の抵抗に匹敵するならば、流体通路の局所電位計測は、式(11)におけるようにナノポアに対して1つのリザーバのアクセス抵抗を参照すると、上述のやり方でナノポアを通過する種トランスロケ-ションを示す信号計測を最大化する。そして、
図5~6の回路に示す位置における局所電位の計測により、検出電圧V
Sensは以下のように求められる:
式中、R
Poreはナノポアの抵抗であり、R
FPは流体通路の抵抗であり、V
0は、回路からナノポアに印加される電圧16である。
【0058】
ナノポアを通過する種トランスロケーション中に検出される電圧信号V
Sigは、トランスロケートする種によるナノポアの部分的閉塞によるナノポアの相応に小さな抵抗変化によって生じる小さな電圧変化であり、V
Sigは
として求められる。
【0059】
この信号は、
であるとき最大化され、R
FP=R
Poreであることを要求する。この関係は、流体通路抵抗がナノポア抵抗と同じでない場合、検出することができる電圧信号は可能な最大化電圧信号よりも小さくなるということを実証する。達成される実際の電圧信号と最大化計測電圧信号との比R
Signalは、システムが最適状態からどのくらい離れているかを示し、比率メトリクスは
として求められる。
【0060】
式(14)が
図7にプロットされている。このプロットは、流体通路抵抗がナノポア抵抗の10%であるとき、電圧信号V
Sigが最大達成可能信号の30%を超えることを示す。したがって、この分析のために、流体通路抵抗R
FPが、ナノポア抵抗R
Poreの少なくとも約10%であり、かつナノポア抵抗の約10倍以下である条件が、流体通路抵抗とナノポア抵抗との整合であると考えられる。
【0061】
この抵抗整合要件を満たす流体通路の構造的および幾何学的要件を決定するために、1つの例示的方法においては、ナノポアおよび流体通路がいずれも概して円柱形であると仮定することができる。さらに、上述したように、ナノポアおよび流体通路のアスペクト比がシス側およびトランス側リザーバに対して相対的に高いことを前提とすると、この分析に関しては、シス側およびトランス側リザーバのアクセス抵抗を無視することができる。最後に、2つのリザーバ中のイオン濃度が異なるならば、シス側およびトランス側リザーバ間のイオン濃度の拡散が定常状態にあると仮定する。
【0062】
図8は、流体通路105の形状を規定する略図である。ここで、l
1、r
1およびl
2、r
2は、ナノポアおよび流体通路それぞれの長さおよび半径である。C
C、C
IおよびC
Tは、それぞれ、シス側チャンバ中のイオン溶液濃度、ナノポアと流体通路との間の界面におけるイオン溶液濃度およびトランス側チャンバ中のイオン濃度である。
【0063】
定常状態条件下、ナノポアおよび流体通路中のイオン濃度の拡散流束Fluxは、
と記される条件において等しく、それにより、界面濃度C
Iを
と決定することができ、よって、ナノポア中のイオン濃度C
Poreおよび流体通路中のイオン濃度C
FPは
として求められる。
【0064】
通常の計測条件下、溶液の伝導率σは概して以下のように溶液のイオン濃度に概ね比例する:
σ=Σ・C
式中、Σは溶液のモル伝導率であり、Cはイオン濃度である。この関係により、ナノポアの抵抗R
Poreおよび流体通路の抵抗R
FPは以下のように求められる:
そして、式(18)から、抵抗比を
として決定することができる。
【0065】
最大電圧信号を得るためには、この抵抗比は、最適には1、すなわち
である。式(19)の中でこの比を値1に設定することにより、
が得られる。
【0066】
この式を簡約するために、シス側およびトランス側チャンバ中のイオン濃度の比C
C/C
TをR
Cと定め、ナノポア半径に対する流体通路半径の比r
2/r
1をR
rと定めることができる。ナノポアのアスペクト比AR
PoreをAR
Pore=l
1/r
1と定めることができ、流体通路のアスペクト比AR
FPをAR
FP=l
2/r
2と定めることができる。すると、簡約された式が
として得られる。
【0067】
この式は、流体通路の抵抗とナノポア抵抗とを整合させるためには、流体通路のアスペクト比が流体通路半径とナノポア半径との比に比例して増加しなければならないことを直接的に示す。シス側およびトランス側チャンバ中の流体溶液イオン濃度が等しいならば、流体通路のアスペクト比は、流体通路およびナノポアの半径の比のみによって設定される。流体溶液イオン濃度が等しくないならば、低濃度溶液がたとえば流体通路およびトランス側チャンバ中に提供され、一方で、高濃度溶液がシス側チャンバ中に提供されると仮定すると、この条件を満たすために流体通路に求められるアスペクト比は、対応する因数だけ減少する。1つの態様においては、上記やり方で大きなイオン濃度比を流体通路設計と合わせて用いて、流体通路とナノポアとの間の抵抗整合を維持しながらも、流体通路のアスペクト比要件を下げることができる。
【0068】
製造または他の考慮事項が、ナノポアとの実質的な抵抗整合を生じさせる寸法の流体通路の作製を許さないとき、上記全比式(14)を考慮して、比におけるすべての変数の関係を
として求めることができる。
【0069】
この関係の例を考慮すると、流体通路の直径がナノポアの直径の1000倍、たとえば1.5μm対1.5nmであるならば、ナノポア長とナノポア直径とのアスペクト比3:1の場合、流体通路のアスペクト比は、シス側およびトランス側チャンバの間で100:1のイオン濃度の差が用いられるときのナノポア抵抗に整合するために、流体通路長と流体通路直径、ここでは深さ450μmとの場合で300:1に設定される。この結果は、3:1アスペクト比ナノポア、100:1イオン濃度差およびナノポア直径の1000倍の流体通路直径の仮定の場合の抵抗比を示す
図9のプロットに示されている。
【0070】
このような完璧な抵抗整合は不要である。上述したように、流体通路抵抗がナノポア抵抗の10%であるとき、電圧信号V
Sigは最大達成可能信号の30%を超える。たとえば、75μmの長さを有するアスペクト比50:1の流体通路を仮定すると、そのような流体通路は、
図9のプロットに示すように、ナノポア抵抗の>20%を提供することができ、
図10のプロットに示すように、最大電圧信号の約60%を生じさせることができる。
図9のプロットに示すような抵抗-電圧信号の関係に基づくと、ナノポアセンサの性能規格を満たすために必要とされる流体通路アスペクト比を決定することができる。したがって、通路の長さが通路の直径よりも大きい限り、特定の流体通路アスペクト比は求められない。必要とされるものは、流体通路に局所的な電位を計測することができる、ナノポアセンサ中のある位置における電気変換素子のアレンジである。
【0071】
ナノポアとリザーバの1つとの間に接続された流体通路を含むこのナノポアアレンジは、シス側およびトランス側チャンバイオン溶液濃度を異ならせることだけによって課せられる制限のいくつかを補うことができる。異なるイオン濃度を含むが流体通路を含まないナノポアセンサにおいて、イオン濃度はナノポア抵抗ならびにシス側およびトランス側リザーバアクセス抵抗に影響を及ぼし、このシナリオにおいて、ナノポア抵抗を1つのリザーバアクセス抵抗と整合させる能力は限られ、したがって、生成することができる電圧信号は制限される。さらに、流体アクセス抵抗はナノポアの近くに限局化され、ナノポアからの距離の関数であるため、可動性である両親媒性膜層のような電気変換素子の場合、有意な信号変動が生じることができる。ナノポアと1つのリザーバとの間に流体通路を含めることは、流体抵抗の構造的規定を可能にし、さらなる制御パラメータをナノポアセンサに加える。流体通路アスペクト比ならびにシス側およびトランス側リザーバイオン溶液濃度の両方の制御により、電圧信号計測を最適化するようにナノポアセンサを調整することができる。
【0072】
リザーバをナノポアに接続する流体通路は、選択されたアスペクト比およびナノポアセンサとの統合を可能にする任意の簡便なアレンジで構成されることができる。
図11を参照すると、流体通路105は、ナノポアを画定するために提供された構造中のウェル、トレンチ、チャネルまたは他の流体保持チャンバとして形成されることができる。たとえば、流体通路は、ナノポア12が配置される支持構造14をアレンジされる構造120中のダクト、チャネル、開放型トレンチ、経路または他の形状であり得る。この例においては、支持構造体層14が、ナノポア12を提供するために基材120上に配置されている。流体通路は基材120中に形成されている。流体通路の壁115は、適当な流体通路断面形状、たとえば概して円形、楕円形、円形、正方形または他の形状を提供するように構成されることができる。流体通路は、任意の次元を有するリザーバ、たとえばトランス側リザーバに接続されている。図は、トランス側リザーバが任意の次元を有し、かつ、概して流体通路のような高アスペクト比の通路ではないことを示すために、トランス側リザーバを概略的に表す。
【0073】
図12を参照すると、流体通路105は、ナノポア支持構造の反対側に配置されることができる。たとえば、材料の層125がナノポア支持構造14上に提供されることができ、その材料層125中に流体通路105が画定される。ナノポア支持構造14を支持する基材または構造120が、流体通路の反対側で、支持構造14の反対側に提供されることができる。
図11~12の流体通路構成は、流体通路をナノポアセンサの任意の好都合な位置に配置することができることを実証する。
【0074】
図13を参照すると、流体通路105は、選択されたアレンジにおいて、ポア、ウェル、チャネルまたは他の形状の集団として提供されることができる。たとえば、流体通路105は、陽極酸化アルミニウム(AAO)の層を含むことができる。AAOは、約100nmの直径を有する、非常に高いアスペクト比、たとえば>1000:1の穴を形成されることができる従来の材料である。これらのAAO穴は、数百ナノメートルの範囲の格子定数を有する二次元の準六方格子状にアレンジされる。制御可能な陽極酸化条件下で酸化アルミニウム膜を陽極酸化することができ、そのような陽極酸化は、AAO格子定数および孔径を調整するために、表面プレパターニングを有する膜上で実施することができる。AAO穴の集団は協調して作用して有効アスペクト比を提供する。このAAOアレンジは、流体通路として用いられることができる穴、ウェル、経路または他のチャネルの集団を有する有孔膜、膜または他の構造の一例である。
【0075】
加えて、任意の流体通路構成は、流体通路の流体抵抗率を増すために流体通路中に配置されるゲルもしくは他の多孔質または選択された材料で満たされることができる。
【0076】
流体通路は、垂直アレンジ、水平アレンジまたは水平形状と垂直形状と組み合わせで構成されることができる。
図4を参照すると、1つの態様において、垂直通路区分134および水平通路区分136を含む流体通路が概略的に示されている。このようなアレンジは、たとえば、支持構造14上の表面層132に提供されることもできるし、または基材もしくは他の構造的特徴中に統合されることもできる。
【0077】
図15Aおよび
図15Bを参照すると、流体通路105は、選択された流体通路アスペクト比を達成するための任意の適当な経路の横向きまたは垂直形状に構成されることができる。
図15Aの略図に示すように、選択された流体通路のアスペクト比を達成するために、自らを中心に巻く(横向きまたは垂直のいずれかに)経路を構成することができる。または、
図15Bの略図に示すように、横向きまたは垂直のいずれかに曲がりくねる経路を流体通路として用いることができる。特定の形状は必要とされず、流体通路は、リザーバとナノポアとを接続する際に、複数の材料および異なる支持構造部材を横切ることができる。形状は、支持構造、基材またはセンサ中の素子の組み合わせ上に層として形成されることができる。流体通路のポート140は水平または垂直方向に接続されて、液体のリザーバとナノポアとの間の流体連絡を提供することができる。
【0078】
これらの様々な流体通路構成は、様々な態様において、たとえば、直径約150nmの穴を有し、約300nmの穴間距離および約100μm~1000μmの膜厚を有するAAO膜;約0.5μm~1μmの幅、約100nm~200nmの深さおよび約200μm~500μmの長さを有する平坦なPDMS/酸化物/窒化物チャネル;約0.5μm~2μmのウェル直径および約20μm~50μmの直径を有する誘電体中の深いウェル;ならびに約2μm~6μmの直径および約200μm~300μmの深さを有するシリコンウェーハウェルを含むことができる。これらの例それぞれにおいて、シス側およびトランス側イオン濃度は同じであることができるし、または異なることができ、選択されたイオン濃度比は、シス側:トランス側イオン濃度の比として、たとえば約50:1~1000:1である。
【0079】
上述したような、流体通路中で局所電位計測を実施するための電気変換素子を用いる流体通路の実施形態に目を向けると、局所電位計測は、ナノポアセンサ中、ナノポア実施形態を受け入れる任意の適当な装置または回路によって実施することができる。
図16A~
図16Eを参照すると、上記流体通路構成は、流体通路へのナノポア接続の位置に電気変換素子を含むように適合されることができる。
図16Aの構成は
図11の流体通路設計に対応する。ここでは、SOI(silicon-on-insulator)ウェーハを用いて、埋め込み酸化物層(BOX)およびシリコン層152を上に提供された基材120を形成することができる。ナノポア12は、これらの層150、152中に形成することができる。シリコン層152は、ナノポアの位置で局所電位計測を実施するためのコンダクタンスチャネルとして構成されることができ、シリコンコンダクタンスチャネルによって変換されるコンダクタンスを計測するために導電性ソース154およびドレイン156領域が提供されている。同様に、
図16Bに示すように、シリコン層152は、ソースおよびドレイン領域154、156を有するコンダクタンスチャネル領域として、ここでは流体通路を画定する層125中に構成されることができる。
図16Cに示すように、金属、カーボンナノチューブまたは他の材料の検出電極158がナノポア12の位置で構成され、たとえばドレイン電極156による検出のために接続されることができる。
【0080】
図16D~16Eを参照すると、横向き流体通路チャネルが変換素子とともに断面で示されている。
図15Dの構成において、流体通路105は、窒化物層のような層158中に提供されている。窒化物層158は、SOIウェーハからのシリコン層152(BOX層150がその下にある)のような支持構造14上に提供されている。ソースおよびドレイン領域154、156が、シリコン層152に接続した状態で、ナノポアにおける局所電位を変換するためのチャネルとしてパターニングされた状態で提供されている。
図16Eに示す構成において、
図15A~15Bにおけるチャネルのようなチャネルを示すために断面で示された流体通路は、PDMSのような最上層160に設けられている。チャネルは、最上層160中に成形されたのち、ナノポアセンサ構造に接続されることができる。SOIウェーハからのシリコン層152がコンダクタンスチャネルとして構成されることができ、ナノポアにおける局所電位を変換するためにソースおよびドレイン領域154、156が接続されている。
図16A~16Eにおけるこれらの構成それぞれが、ナノポアにおける流体通路中の局所電位の検出を可能にする。
【0081】
ナノポアセンサ態様のいずれに関しても、流体通路の有無にかかわらず、一定の範囲のさらなる電気変換素子を用いることができる。多くの用途の場合、ナノワイヤベースのFET装置が十分に適した装置であることができるが、ここではそのようなものは不要である。SET、QPC、脂質二重層または他の装置およびナノポア実施形態(生物学的であろうと固体であろうと)を用いることができる。局所電位計測を可能にする任意の回路または装置を用いることができる。
【0082】
一例において、ナノワイヤFETは、
図17に示すように(ここでは、明確に示すために流体通路なしで示されている)、ナノポアの位置で構成されることができる。このナノワイヤ実施形態60においては、ナノポア12が配置されている支持構造14上にナノワイヤ62が提供されている。ナノワイヤは、フラーレン構造および半導体ワイヤを含む任意の適当な導電性または半導電性材料で形成されることができる。本明細書の中で使用される「ナノワイヤ」とは、上記のようにナノポア位置から計測される信号減衰長と適合性である幅を特徴とする電気伝導チャネルをいう。チャネル幅は、好ましくは、減衰長と同じ程度の大きさであり、より大きいこともできる。ナノワイヤは、選択されたリザーバ溶液中で安定である任意の半導体材料から作られることができる。
【0083】
図18は、
図6のナノポアセンサの実施形態65の斜視図である。ここでは、基材のような支持構造64上に提供された、支持フレームの縁間でトランポリンのようにその大きさにかけて自己支持されている膜支持構造14上に提供されたナノワイヤ62が示されている。ナノワイヤは膜の上に提供され、ナノポアが、ナノワイヤおよび膜の厚さを貫通して延びている。
図17および
図18に示すように、ナノポア12は、ナノワイヤの幅全体には延びていない。電気伝導がナノワイヤの長さに沿って連続的であるように、ナノポアの大きさに沿って途切れていないナノワイヤの領域が存在する。ナノワイヤの各端部にメタライゼーション領域または他の導電性領域が提供されて、ソース(S)およびドレイン(D)領域を形成している。この構成を用いると、ナノポアセンサは、一方のリザーバからナノポアを通って他方のリザーバへの種のトランスロケ-ションを検出するために、シス側およびトランス側リザーバならびにリザーバの一方に接続された流体通路を有するように構成されることができる。
【0084】
また、
図19A~19Bを参照すると、支持構造およびナノワイヤ構成は、様々な代替アレンジで具現化されることができ、膜支持層のような支持構造は、ナノワイヤ材料が自己支持性であり、かつそれ自体が、ナノポアが配置される支持構造として機能することができる用途には不要である。たとえば、
図19A~Bに示すように、グラフェンベースのナノポアセンサ68においては、支持層70を提供することができ、この支持層が他方でグラフェン膜72を支持する。グラフェン膜72は、支持層70中の開口にわたして自己支持されている。グラフェン膜は他方でナノワイヤ62を支持し、ナノポア12は、ナノワイヤおよびグラフェンの厚さを貫通して延び、ナノワイヤは、ナノワイヤの点に沿って連続したままである。
図20A~20Bに示すように、代わりにナノワイヤ72がグラフェン層72の下で支持層70上に配置されるようにこのアレンジを変更することもできる。
【0085】
図21A~21Bに示すような代替グラフェンベースのナノポアセンサ75においては、支持層70のような支持構造を構成することができ、この支持構造上にグラフェン層68が配置され、このグラフェン層が、ナノポア12が構成される構造を提供し、それ自体がナノワイヤを提供するように機能する。グラフェンは、ナノポア12の位置で必要なナノワイヤを提供する任意の適当な形状で提供されることができる。この構成において、グラフェン層68は、その厚さおよび導電性のせいで、ナノポアの両側で局所電位を検出する。すなわち、グラフェン層のコンダクタンスは、トランス側およびシス側リザーバ両方における局所電位の関数として変化する。したがって、局所電位計測のナノポアセンサ信号は、このグラフェンベースのナノポアセンサの場合、シス側およびトランス側リザーバ電位の差を示すものである。
【0086】
したがって、非常に広い範囲の電気変換素子のいずれかを、ナノポアセンサの流体通路に局所的な電位を計測するために用いることができる。半導体ベースのFETまたは他の検出装置、FET装置のような装置に接続された検出金属電極、グラフェンベースの装置または他の適当な変換素子を用いることができる。
【0087】
これらのアレンジによって示されるように、支持層、支持層膜、ナノワイヤおよび支持構造は、広範囲の材料組み合わせおよび厚さのいずれかで構成されることができる。上記流体通路構成は、これらのアレンジのいずれかに統合されることができる。多くの用途の場合、ナノポアが配置される構造は、可能な限り薄く、好ましくは、検出される種対象物または対象物領域の大きさよりも厚くないことが好ましいといえる。上述したように、支持構造材料は、窒化物、酸化物、導体、半導体、グラフェン、プラスチックまたは電気的に絶縁性もしくは電気的に伝導性であることができる他の適当な材料を含むことができる。
【0088】
図22A~22Dに示すように、ナノワイヤ実施形態の場合、ナノポアは、電気伝導のための途切れのない連続経路がナノワイヤを通して提供されるよう、ナノワイヤ62の位置に提供される。ナノポアは、
図22Aに示すように、ナノワイヤの中央領域に提供されることもできるし、
図22B~22Cに示すように、ナノワイヤの縁に提供されることもできるし、または
図22Dに示すように、ナノワイヤに近い、もしくは隣接する位置に提供されることもできる。全ての場合において、電気伝導のための連続経路がナノワイヤを通して提供される。
【0089】
図22A~22Cのナノポアアレンジにおいて、ナノポア領域の感度が、ナノポア穿孔前の同じ領域の感度と比較して有意に増強することがわかる。この感度限局化は、ドーピングレベルおよび移動度のような他すべての材料特性が変化ないままであると仮定して、伝導チャネルとしてのナノワイヤの断面積の減少を考慮するモデルによって理解されることができる。ナノワイヤの断面積の減少はナノポア領域の抵抗を増大させ、したがって、ナノワイヤの他の部分からの直列抵抗および信号減衰を緩和する。定量的には、ナノポア領域におけるこの感度増強は、一例として長方形ナノポアの場合、以下の式
から求めることができる。
【0090】
式中、Δは、ナノポアを有する装置の感度をナノポアなしの感度で割ったものと定義される感度増強であり、ρ0およびρは、それぞれ、ナノポアを有する場合および有しない場合のナノワイヤ伝導チャネルの線抵抗率である。Lは全チャネル長であり、L0はナノポア領域のチャネル長であり、この正方形の例では、ナノワイヤ軸方向に沿うナノポアの辺の長さに等しい。ナノワイヤの他の部分に関しては、全てのパラメータは同じままであるが、ナノポアのせいで全チャネル抵抗がわずかに増すため、ナノポア穿孔後、感度はわずかに低下するはずである。ナノポア領域における感度の増大と、他すべてのナノワイヤ部分の感度低下との組み合わせが、増強され、自己整列し、かつナノポアに限局化されたナノポアセンサの感度を作り出す。
【0091】
ナノポアセンサの作製においては、流体通路を含む態様および流体通路を含まない態様のいずれでも、まず、ナノワイヤベースの固体ナノポアセンサを考慮すると、短チャネルナノワイヤが好ましいといえ、多くの用途の場合、シリコンナノワイヤ(SiNW)が好ましいといえる。理由は、SiNWは、溶液中で顕著な安定性を示す、細胞レベル下および単一ウイルスレベルシグナリングのための優れた電位および電荷センサとして実証されているからである。チャネル直列抵抗からの信号減衰を最小化するために、SiNWチャネルは、所望により、ニッケル固体拡散によって約200nm未満まで縮小することができる。SiNWは、たとえば、化学蒸着または他の適当なプロセスによって作製され、溶解により、選択された膜、たとえば窒化物膜に付着される。多くの用途の場合、市販の窒化物膜チップを適当に用いることができる。ナノワイヤの端部にソースおよびドレイン電極を製造するためには電子ビームリソグラフィーまたは光リソグラフィーを用いることができる。すべての電極および電気接点は、たとえば窒化物または酸化物材料で不動態化されるべきであり、それは、金属蒸着の後かつリフトオフプロセスの前に達成することができる。ナノポアは、選択された位置で、たとえば電子ビームによって、または選択されたナノポア寸法を生成する他のビーム種またはエッチングプロセスによって製造することができる。
【0092】
図19A~19Bのグラフェンベースのナノポアセンサのような、グラフェン膜の上にナノワイヤ構造を含むグラフェンベースのナノポアセンサの作製においては、まず、窒化物膜のような膜を、たとえば電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーおよび反応性イオンエッチング(RIE)によって加工して、ミクロンサイズの開口を膜中に形成する。次いで、グラフェンシートまたはピースを、開口を覆うように窒化物膜上に配置して、グラフェン膜を形成する。グラフェンシートは、CVDもしくは他のプロセスによって合成することもできるし、または機械的剥離によって製造し、窒化物膜の、窒化物膜開口の上に転写することもできる。
【0093】
次いで、電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーを金属蒸着とともに実施して、窒化物膜上に従来のやり方で電極を画定することができる。次いで、誘電泳動法または他の適当なプロセスを用いて、シリコンナノワイヤのようなナノワイヤを、グラフェン膜の上に、窒化物膜中の開口の位置で整合させることができる。次いで、電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーを金属蒸着とともに実施して、SiNWの端部にソースおよびドレイン接点を画定することができる。その後、過剰のグラフェンを電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーおよびたとえばUVオゾンストリッパ、酸素プラズマまたは他の適当な方法によって除去して、所期のグラフェン膜位置の外側の領域からグラフェンを除去することができる。最後に、ナノポアを、たとえば電子ビームミリング、イオンビームミリング、エッチングまたは上記のような他の適当なプロセスにより、ナノワイヤおよびその下にあるグラフェン膜の位置で製造する。
【0094】
図20A~20Bのグラフェンベースのナノポアセンサのような、ナノワイヤFET構造の上にあるグラフェン膜を含むグラフェンベースのナノポアセンサの作製においては、たとえばSOI(silicon-on-insulator)チップによってアレンジを構成するための適当な構造を用いることができる。この例においては、まず、開口を、たとえばXF
2エッチング(酸化物層上で止める)によってSOIチップの裏面の厚いシリコン部分に形成して、酸化物-シリコン膜を形成する。次いで、電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーを用いて、より小さな開口領域においてSOIチップから酸化物層を除去して、SOIチップの薄いシリコン領域からシリコンの膜を製造する。次いで、このシリコン膜をたとえば電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーおよび化学エッチングまたはRIEによってエッチングしてシリコンのナノワイヤを形成する。一例においては、
図20Bに示すような、SOIチップの酸化物膜の開口と整合したダブテール形Siピースが形成される。
【0095】
次いで、電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーを金属蒸着とともに実施して、酸化物層上に従来のやり方で電極を画定することができる。次いで、グラフェンシートまたはピースを、開口部を覆うように酸化物膜上に配置して、シリコンナノワイヤの上にグラフェン膜を形成する。グラフェンシートは、CVDもしくは他のプロセスによって合成することができるし、または機械的剥離によって製造し、酸化物膜の、SiNWおよび酸化物膜開口の上に転写することができる。グラフェンシートは、パターニングされたシリコン層の上に重ねられるため、グラフェンピースは平坦ではなくてもよいことが理解されよう。この構成の場合に漏れが懸念されるならば、たとえばSiOxの薄い層をグラフェン縁の周囲にコートして、封止された縁状態を形成することができる。
【0096】
その後、過剰のグラフェンを電子ビームリソグラフィーまたは光リソグラフィーおよびたとえばUVオゾンストリッパ、酸素プラズマまたは他の適当な方法によって除去して、所期のグラフェン膜位置の外側の領域からグラフェンを除去することができる。最後に、ナノポアを、たとえば電子ビームにより、もっとも狭いSi形状の位置に対し、上にあるグラフェンおよびシリコンナノワイヤの位置で製造する。
【0097】
図21Aに示すようなグラフェンベースのナノポアセンサの作製においては、まず、窒化物膜のような膜を、たとえば電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーおよび反応性イオンエッチング(RIE)によって加工して、ミクロンサイズの開口を膜中に形成する。次いで、グラフェンシートまたはピースを、開口を覆うように窒化物膜上に配置して、グラフェン膜を形成する。グラフェンシートは、CVDもしくは他のプロセスによって合成することができるし、または機械的剥離によって製造し、窒化物膜の、窒化物膜開口の上に転写することができる。
【0098】
次いで、電子ビームリソグラフィーまたはフォトリソグラフィーを金属蒸着とともに実施して、グラフェン膜上に従来のやり方でソースおよびドレイン電極を画定することができる。その後、グラフェンを電子ビームリソグラフィーまたは光リソグラフィーおよびたとえばUVオゾンストリッパ、酸素プラズマまたは他の適当な方法によってダブテールまたは他の選択される形状にパターニングして、ナノポアのために選択された位置の近くで狭いグラフェン領域を製造する。最後に、ナノポアを、たとえば電子ビームにより、グラフェン膜中に製造する。
【0099】
図1FのようなSETベースのナノポアセンサの作製においては、任意の適当な膜材料(導電性および電気絶縁性の両方)を用いることができる。窒化物膜構造または他の構造、たとえば上記のようなグラフェン膜または組み合わせグラフェン-窒化物膜構造を用いることができる。導電性膜材料が用いられるならば、SETが形成される膜の側で材料を酸化物または窒化物層のような絶縁層でコートすることが好ましいといえる。次いで、電子ビームリソグラフィーおよび金属蒸着技術を用いて、適当な金属からソースおよびドレイン領域ならびにSET領域を形成することができる。次いで、上記やり方でSETの位置にナノポアを形成することができる。導電性膜材料上に絶縁層が提供され、膜を通してナノポアの長さにかけて絶縁層がコートされるならば、ナノポアの背面からたとえばHFまたは他の適当なエッチングによってその絶縁材料をナノポア側壁から除去して、ナノポアおよびナノポアの隣接領域から絶縁体層を除去することが好ましいといえる。
【0100】
ナノポアを有する
図1GのようなQPCアレンジの作製においては、SOI構造を用いて、上述やり方で厚いシリコン層を除去し、次いで電子ビームリソグラフィーを使用してQPCアレンジ中に上部シリコン層構造を画定することができる。次いで、ナノポアを上記やり方で膜中に形成することができる。
【0101】
これらのプロセスのすべてにおいて、ナノポアと流体リザーバの1つとの間に接続された流体通路を形成するために、1つまたは複数のプロセス工程およびさらなる材料が含まれることができる。平坦なチャネルは、窒化物または酸化物層をナノポア位置でパターン化エッチングし、酸化物、ガラス、PDMSまたは他の材料を窒化物または酸化物層に結合して流体通路チャネルを封止することによって画定することができる。または、厚い材料層、たとえば酸化物層、窒化物層、PDMS層、ポリマーまたは他の層をたとえば深堀り反応性イオンエッチング(RIE)によってエッチングまたは穿孔して流体通路を画定することができる。さらに、上記のように、シリコンウェーハのような下にある支持基材をたとえばRIEによってエッチングして、ウェーハの厚さを通して流体通路を形成することができる。これらの例示的プロセスは、限定的であることを意図したものではなく、ナノポアセンサを製造するための技術の一般的な例として提供される。任意の適当な支持構造材料および装置材料を用いることができる。
【0102】
ナノポアセンサ作製プロセスは、任意の適当なナノポア構造(固体であるろうと、生物学的であろうと、または2つの何らかの組み合わせであろうと)を受け入れるようにカスタマイズされることができる。上述したように、上記のようなFETチャネル材料のような固体支持構造の開口に配置されたタンパク質ナノポアを用いることができる。さらに、上記のように、タンパク質ナノポアは、両親媒性層に配置された状態で用いられることができるし、またはFETチャネルの位置における固体支持構造中の開口に配置された状態で用いられることができる。ナノポアを含む支持構造には任意の材料の組み合わせを用いることができる。
【0103】
これらのプロセスそれぞれにおいて、ナノポアの寸法は、上記やり方で所望の電位計測を達成するために、ナノポアセンサによって調査される種対象物に関する考慮とともに、リザーババッファ溶液濃度の選択された比に基づいて選択されることが好ましい。種のナノポア検出のための電位計測を可能にするためには、上記分析式をその他のナノポアセンサパラメータおよび動作とともに使用して、ナノポアを通過するトランスロケーションによって検知される所与の種のための最適なナノポアサイズを決定することができる。
【0104】
これは、対象物のナノポアトランスロケーションが実施されるとき、異なる種対象物を区別する能力を最大化するために特に重要である。上記グラフェンベースのナノポアセンサは、グラフェン厚さがDNA塩基の大きさの程度であるため、DNAおよび他のバイオポリマー種のような分子種を検出する場合に特に魅力的である。しかし、グラフェンはシス側およびトランス側リザーバ溶液によってグラフェンの両側で電気的にゲートされ、2つのリザーバ中の電位は反対であるため、グラフェン電位計測によって示される電位の合計は、膜の一方の側でのナノワイヤの実施形態によって示されるものよりも小さい。しかし、たとえば直径約1nmの小さなナノポアの場合、シス側およびトランス側リザーバの間のバッファ濃度が十分に大きい比ならば、グラフェン電位計測によって示される電位の合計はナノワイヤナノポアセンサのそれに匹敵する。
【0105】
概して、グラフェンベースのナノポアセンサまたは他のナノポア支持構造材料の場合、ヌクレオチドまたは他のポリマーがナノポアを通ってトランスロケートするとき、トランスロケーションの速度はポリマー結合部分によって制御されることができる。一般に、この部分は、印加電場にしたがって、またはそれに反対して、ポリマーをナノポアに通して移動させることができる。この部分は、たとえばその部分が酵素である場合、酵素活性を使用する分子モータであることもできるし、または分子ブレーキであることもできる。ポリマーがポリヌクレオチドである場合、ポリヌクレオチド結合酵素の使用を含め、トランスロケーションの速度を制御する方法が数多くある。ポリヌクレオチドのトランスロケーションの速度を制御するのに適した酵素は、ポリメラーゼ、ヘリカーゼ、エキソヌクレアーゼ、一本鎖および二本鎖結合タンパク質ならびにトポイソメラーゼ、たとえばジャイレースを含むが、それらに限定されるわけではない。特に、酵素は、WO2013-057495およびWO2014-013260によって開示されているようなヘリカーゼまたは修飾ヘリカーゼであり得る。他のポリマータイプの場合、そのポリマータイプと相互作用する部分を使用することができる。ポリマーと相互作用する部分は、WO-2010/086603、WO-2012/107778およびLieberman KR et al, J Am Chem Soc. 2010;132(50):17961-72)および、電圧ゲートスキームの場合、Luan B et al., Phys Rev Lett. 2010;104(23):238103に開示されたいずれかであり得る。
【0106】
1つより多いポリマー単位がポリマーのトランスロケーション中の計測信号に寄与し得ることが理解され、この場合、信号はk-mer依存性であると呼ばれ得、k-merはポリマーのkポリマー単位であり、kは正の整数である。信号がk-merに依存する程度は、開口の形状および長さならびにポリマータイプに依存する。たとえば、MspAポアを通過するポリヌクレオチドのトランスロケーションの場合、信号は5つのヌクレオチド塩基に依存すると考えられ得る。または、たとえばナノポア支持構造が単原子的に薄い場合、信号は、少数のポリマー単位のみに依存し得、単一のポリマー単位によって支配されることさえあり得る。計測された信号は、ポリマー単位の配列確率を決定するために、または分析対象物の有無を判定するために使用され得る。信号分析の適当な例示的方法はWO2013-041878およびWO2013-121224に開示されている。
【実施例】
【0107】
実施例I
ナノポアセンサ中のSiNW FETの作製
Auナノ粒子触媒化学蒸着(CVD)法を使用してSiNWを合成した。直径30nmの金ナノ粒子(Ted Pella Inc., Redding, CA)を、厚さ600nmの酸化ケイ素層(NOVA Electronic Materials Inc., Flower Mound, TX)でコートされたシリコンウェーハ上に分散させた。シリコン供給源として2.4標準立方センチメートル/分(sccm)のシラン、ホウ素ドーパント供給源として3sccmジボラン(ヘリウム中100ppm)およびキャリアガスとして10sccmアルゴンを用いて、435℃および30torrでホウ素ドープp型SiNWを合成した。公称ドーピング比は4000:1(Si:B)であり、成長時間は20分間であった。得られたSiNWを約10秒間の穏やかな超音波処理によってエタノール中に溶解した。次いで、NW溶液を厚さ50nmの100μm×100μm窒化ケイ素TEM膜グリッド(SPI supplies, West Chester, PA)に付着させた。電子ビームリソグラフィーおよび厚さ60nmのニッケル層の蒸着を実施して、ナノワイヤ上に約1μm離間したソースおよびドレイン電極を作製した。次いで、金属蒸着の直後に、厚さ約75~100nmの窒化ケイ素の層をプラズマ強化CVD(NEXX Systems, Billerica, MA)によってチップに付着させて、すべての電極を不動態化した。
【0108】
次いで、マスクのリフトオフを実施して、不動態化されたソースおよびドレイン電極を有する窒化物膜上にナノワイヤを製造した。次いで、この構造を、急速熱処理装置(HeatPulse 610, Total Fab Solutions, Tempe, AZ)により、フォーミングガス中380℃で135秒間アニールして、ナノワイヤチャネルを約200nm未満の大きさまで収縮させた。得られたSiNW FETの伝導率試験ののち、構造の各側をUVオゾンストリッパ(Samco International Inc., Amityville, NY)によって150℃で25分間清浄化した。次いで、この構造を電界放出透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL 2010、200kV)に載せ、約2~5分間、1つのスポットへの収束高エネルギー電子ビームにより、ナノワイヤ中の選択された位置に大きさ約9nmまたは10nmのナノポアを穿孔した。
図22Bのアレンジに示すように、ナノポアはナノワイヤの縁に位置し、それにより、ナノワイヤ幅の実質部分は連続的であった。
【0109】
実施例II
ナノポアセンサ中のSiNW FETの感度プロファイリング
ナノポアセンサのSiNW FETセンサの感度を走査型ゲート顕微鏡検査(SGM)によって特性決定した。実施例Iの方法にしたがって、ここでは約2μmのチャネル長で、SGMの限られた空間分解能を受け入れるためにSiNW FET装置を作製した。SGMは、Nanoscope IIIa Multi-Mode AFM(Digital Instruments Inc., Tonawanda, NY)中、- 10Vバイアスを加えた伝導性AFMチップ(PPP-NCHPt, Nanosensors Inc., Neuchatel, SW)の位置の関数としてナノワイヤのコンダクタンスを記録することによって実施した。AFMチップは、SGM記録中、表面から20nm上にあった。
【0110】
ナノワイヤ位置にナノポアを形成する前に、ナノワイヤ全体にかけてSGMプロファイルを生成した。次いで、ナノポアを、
図22Bに示すアレンジにおけるナノワイヤの縁に形成した。ナノポアが存在する状態で、ナノワイヤのSGMプロファイルを再び生成した。SGMプロファイルは、WSxMソフトウェアを使用してSiNWの垂直方向の見かけ幅(約100nm)にわたるコンダクタンスを平均化することによって決定した。
図23は、ナノポア形成前およびナノポア形成後の、ナノワイヤ沿いのコンダクタンス変化をAFMチップゲート電圧で割ったものと定義される感度のプロットである。装置の感度が鋭く限局化し、ナノポアと整合していることが明らかである。より重要なことに、ナノポア領域の感度もまた、ナノポア形成前の同じ領域の感度と比較して有意に高められている。
【0111】
実施例III
ナノポアセンサ中のナノワイヤ-ナノポアの清浄およびアセンブリ
上記実施例Iの方法によって製造したナノワイヤ-ナノポアアセンブリの各側を、ナノポアの形成後、UVオゾンストリッパ(Samco International Inc.)によって150℃で25分間清浄化した。この清浄プロセスは、構造上の任意の潜在的炭素付着物を除去するために好ましい。次いで、この構造をフォーミングガス中250℃~350℃で30秒間アニールして、ナノワイヤのコンダクタンスを回復させた。さらに25分間の室温UV-オゾン清浄を構造物の各側で実施して、アセンブリ直前にナノポアの親水性を確保した。
【0112】
ナノポアを通過する種トランスロケーションのためにナノワイヤ-ナノポア構造を流体リザーバとアセンブルするために、PDMSチャンバを、まず脱イオン水、次いで70%エタノール、そして最後に純エタノールの中でそれぞれ約30分間超音波処理し、次いで純エタノール中に貯蔵した。アセンブリの直前に、PDMSチャンバを清浄なガラスペトリ皿中、約80℃で約2時間ベーキングして、吸収されたエタノールの大部分を除去した。
【0113】
ナノポアセンサへの電気的接続を形成するためのプリント回路基板(PCB)チップキャリアを製造し、Scotch-Brite(3M, St. Paul, MN)によって清浄化して、銅表面酸化物および接着剤のような任意の混入物質を除去した。次いで、PCBを、イソプロピルアルコール中、次いで70%エタノール中、それぞれ約30分間超音波処理した。アセンブリの直前に、金溶液電極をピラニア溶液中で約1時間清浄化した。
【0114】
Kwik-Cast(World Precision Instruments, Inc., Sarasota, FL)シリコーン接着剤を使用して、清浄化されたナノワイヤ-ナノポア構造を、PCBチップキャリアの深さ約250μmの中央くぼみの中に、装置側表面がPCBチップキャリアの残りの表面とほぼ面一になる状態で接着した。装置のソースおよびドレイン電気接点をワイヤボンディング(West-Bond Inc., Anaheim, CA)によってチップキャリア上の銅フィンガに配線接続した。前部PDMSチャンバは、中央に約1.8mmの穴を有し、ナノポア膜表面を押して密封を確保するために穴開口部の片側の周囲に約0.5mmの突出部を有するPDMSのピースで形成されたものであった。PDMSチャンバをチップキャリアの両側に機械的に締め付け、Au電極をPDMSリザーバに挿入した。金電極は、ナノポアを電気泳動的に通過する種トランスロケ-ションを駆動するための膜電圧(TMV)を発生させるためにPDMSチャンバ溶液にバイアスをかけるための電気接続として機能する。
【0115】
トランス側チャンバを、ナノポアセンサの電位計測を実施するリザーバとして選択した。したがって、ナノワイヤがトランス側リザーバに面するように膜を向けた状態でアセンブリをアレンジした。トランス側チャンバを、約10mMバッファの濃度を有する溶液、10mM KCl+0.1×TAEバッファ:4mMトリス酢酸および0.1mM EDTA溶液で満たした。相応に、シス側チャンバは、トランス側チャンバ中の局所電位計測の位置でより高いアクセス抵抗を提供するために必要なリザーバ濃度比を提供するために、より高いイオン濃度の溶液で満たした。シス側チャンバを、1M KCl+1×TAEバッファ:40mMトリス酢酸および1mM EDTAとしての約1Mバッファの溶液で満たした。使用前、両溶液をオートクリーブし(auto-cleaved)、ハウスバキュームによって脱気し、20nmのAnotopシリンジフィルタ(Whatman Ltd., Kent, UK)によってろ過した。
【0116】
実施例IV
ナノポアを通過するDNAトランスロケーションのナノポア検出
上記例の方法によって製造され、かつ実施例IIIによって規定されたバッファ濃度を有する溶液とアセンブルされたナノワイヤ-ナノポア構造を作動させて、種対象物、すなわち1.4nMのpUC19(dsDNA)の二本鎖DNA分子のトランスロケ-ションを検出した。ナノポアを通過するイオン電流およびナノワイヤFET装置からの電流の両方を計測した。
【0117】
イオン電流を、Axon Axopatch 200Bパッチクランプ増幅器(Molecular Devices, Inc., Sunnyvale, CA)により、β=0.1(1nAを100mVへ変換)および2kHz帯域幅で増幅した。ナノワイヤFET電流を、DL1211電流増幅器(DL Instruments)により、106倍率(1nAを1mVへ変換)および0.3ms立ち上がり時間で増幅した。膜電圧(TMV)およびナノワイヤFETのソース電極とドレイン電極との間の電圧Vsdの両方を、Axon Digidata 1440Aデジタイザ(Molecular Devices, Inc.)によって取得した。ナノポアイオン電流およびナノワイヤFET信号の両方を1440Aデジタイザに供給し、コンピュータによって5kHzで記録した。ナノポアセンサの操作は暗いファラデーケージの中で実施した。異なる機器から電気接地によって導入されうる60Hzノイズを回避するために、すべての電流増幅器およびすべての機器(増幅器およびデジタイザ)ならびにファラデーケージから接地ラインを除去し、いっしょに建物のアースに手作業で接地した。
【0118】
シス側リザーバにdsDNAが導入されると、TMVが約2Vに達したとき、ナノポアイオン電流信号チャネルから間欠的なトランスロケーション事象が記録された。ナノワイヤFET信号チャネルの場合、コンダクタンストレース中で、イオン電流計測とほぼ完全に時間的に相関して類似の事象が記録された。
図24Aは、ナノポアを通して計測されたイオン電流のプロットiおよび2.0VのTMVの場合に計測されたナノワイヤFETコンダクタンスのプロットiiを含む。
図24Bは、ナノポアを通して計測されたイオン電流のプロットiおよび2.4VのTMVの場合に計測されたナノワイヤFETコンダクタンスのプロットiiを示す。TMVが増すにつれ、ナノポアを通過するイオン電流によって計測され、ナノワイヤFET局所電位検出によって計測されたトランスロケーション事象の持続時間および頻度は、それぞれ減少および増加した。プロットから、局所電位計測検出法は従来のイオン電流計測による検出を完全に追跡することが示されている。それにより、局所電位計測法は、ナノポアを通過する対象物のトランスロケーションの時間および持続時間の決定を可能にする。
【0119】
FET局所電位計測信号およびナノポアイオン電流計測信号の信号振幅を直接比較するために、約200nSおよび約24μSのベースラインのFETコンダクタンス信号を、150mVのソース-ドレイン電圧で乗じることによって電流に変換した。この計算は、約12nAのベースラインで、ナノポアを通過するイオン電流の変化が約2nAである場合、約3.6μAのベースラインで、ナノワイヤ局所電位計測において約30nAまでのFET電流の増幅が生まれることを示す。現在の作製プロセスが低ノイズ装置に最適化されておらず、概してSiNWの場合にずっと高いSN比が実証されていることを考慮すると、ナノワイヤFETそのもののノイズおよびSN比はこの計測の基本的な制限要素ではない。
【0120】
実施例V
シス側およびトランス側リザーババッファ濃度差への局所電位計測依存
ナノポアセンサのシス側およびトランス側リザーバ中の異なるイオン濃度流体の影響を決定するために、上記実施例IIIの手順にしたがって、ただし、ここではシス側およびトランス側チャンバの両方が、異なるバッファ濃度を有する溶液ではなく、1MのKClバッファ溶液で満たされる状態で、ナノワイヤ-ナノポア構造を構成した。上記実施例IVの手順にしたがって、0.6VのTMVで、dsDNAをトランス側リザーバ中に提供してナノポアセンサの操作を実施した。ナノワイヤを通過するイオン電流を、局所電位と同じく、実施例IVのやり方でナノワイヤFETコンダクタンスを介して計測した。
【0121】
図24Cは、計測されたイオンコンダクタンスのプロットiおよび計測されたFETコンダクタンスのプロットiiを含むプロットを提供する。プロットに示すように、トランスロケーション事象は、TMVが0.5~0.6Vに達したときイオン電流の変化によって検出されたが、同時に記録されたFETコンダクタンス変化はその電圧では無視しうる程度であった。したがって、リザーバ溶液濃度比が信号生成において重要な役割を演じるものと理解される。
【0122】
この実験の均衡バッファ溶液濃度条件(1M/1M)下、ナノポア溶液抵抗はナノポアセンサの抵抗の大部分に寄与する。したがって、TMVのほぼすべてがナノポアをはさんで低下する。したがって、ナノワイヤセンサ近傍の電位は、この条件の場合、種トランスロケーション中の閉塞によるナノポアの溶液抵抗およびリザーバのアクセス抵抗の任意の変化にかかわらず、大地電位に非常に近い。上記実施例IVの不均衡バッファ条件(10mM/1M)下、シス側チャンバのアクセス抵抗は依然として無視しうる程度であるが、ナノポア溶液抵抗およびトランス側チャンバアクセス抵抗は匹敵しうる程度である。ナノポア中の溶液抵抗およびトランス側リザーバ中のアクセス抵抗の任意の変化は、対応するTMVの再分布、ひいては、トランス側チャンバにおけるナノポア近傍の電位の変化を生じさせ、この電位変化が、ナノポアセンサの局所電位計測によって容易に検出されるものである。
【0123】
この例は、局所電位計測ナノポア検出が、好ましくは、ナノポアセンサのリザーバ間のバッファ溶液濃度の差によって実施され、かつ局所電位計測が、より高い電位、すなわち相応に低い濃度を有するナノポアのリザーバ側で実施されるという本明細書における発見を検証する。この条件は、グラフェンナノワイヤがナノポアの2つの側の電位の差の指標を提供するグラフェンナノワイヤセンサのような、膜が、ナノワイヤとして作用し、かつ膜の両側の電位を検出するのに十分なほど薄いナノポアセンサには適用できない。この場合、バッファ溶液濃度の差はなおも好ましいが、ナノワイヤ計測が本質的に膜の両側の電位を検出すると仮定すると、局所電位計測はナノポアの一方または他方の側に厳密には限定されない。
【0124】
リザーバ溶液濃度が等しい上記実験および等しくない上記実験においては、ナノポアを通過する初期トランスロケーションまで異なる膜電圧を要したことに注目されたい。等しい溶液濃度のトランス側リザーバ中の電位計測の場合、
図3Dのプロットに示すように、ナノポアを通過する電場は一定である。リザーバ濃度が異なる、たとえば上記例の100:1濃度であるとき、ナノポアを通過する電場はナノポアのシス側リザーバ側でより小さくなる。等しいリザーバ溶液濃度で得られるものと同じ電場を生成するためには、膜電圧を約4倍増させる必要がある。これが、
図23および
図24のプロットのデータを説明する。
【0125】
実施例VI
マルチチャネルナノポア検出
上記例の方法にしたがって3つのナノワイヤナノポアセンサを構築した。3つのナノポアセンサを、シス側チャンバ中の1MのKClバッファ溶液およびトランス側チャンバ中の10mMのKClバッファで、共通のリザーバシステムと統合した。3Vの膜電圧を用い、ナノポアを通過するトランスロケーションのためにpUC19 DNA 1.4nMを提供した。
【0126】
図25は、DNAナノポアトランスロケーション動作中の、全イオン電流および3つのナノポアセンサのそれぞれのナノワイヤFETコンダクタンスのプロットi~ivを提供する。プロットに示すように、3つのナノポアセンサすべておよび全イオン電流チャネルにおいて連続的なトランスロケーション事象が認められる。すべてのナノポアセンサは独立して作動した、そしてイオン電流チャネル中で明らかなすべての立ち下がりエッジまたは立ち上がりエッジが、3つのナノポアセンサの1つにおける対応するエッジと唯一に相関することができる。3つのナノポアセンサすべてからの信号の立ち下がりエッジおよび立ち上がりエッジを使用して全イオン電流トレースを再構成すると、再構成はすべての事象に関してほぼ完璧になる。このナノポア動作は、ナノポアセンサの重要な利点が大規模統合能力であることを実証する。複雑なマイクロ流体システムを要することなく、複数の独立したナノポアセンサを具現化することができる。
【0127】
実施例VII
流体通路を有するナノポアセンサ
上記例の方法にしたがってナノワイヤナノポアセンサを構築した。流体リザーバとナノポアとの間に接続された誘電材料中に直径1μm、長さ50μmの流体通路を含めた。ナノワイヤ中、ナノワイヤチャネル中の約100nmの開口の脂質二重層中にタンパク質ナノポアを配置した。タンパク質ナノポアは、直径1.5nmおよび長さ4.5nmの有効形状を有するものであった。シス側リザーバに1.6Mのイオン溶液を提供し、トランス側リザーバに1mMのイオン溶液を提供した。ssDNAをナノポアに通して電気泳動的に駆動するために、300mVバイアスをナノポアに印加した。
【0128】
ssDNAのトランスロケーションの前に、通路の底で流体通路の電位は150mVと計測され、ナノポアにかかる電圧は150mVであった。ssDNAがナノポアを通ってトランスロケートしたとき、有効ナノポア直径は1.12nmであり、流体通路の底の電位は128mVと計測され、ナノポアにかかる電圧は172mVであった。ssDNAトランスロケーションに対応する計測された電圧信号は22mVであった。この信号は、流体通路の底のFET検出面で均一に分布し、生物学的ナノポアが脂質膜内で移動したときも変化しなかった。
【0129】
これらの実施例および前記詳細な説明により、ナノポアセンサが、ナノポアを通ってトランスロケートする種の検出を提供することができ、かつDNA塩基のような異なる対象物がナノポアを通ってトランスロケートするとき、そのような対象物を区別することができることが実証される。ナノポアセンサは、特定の種または種のクラスの検出に限定されず、広い範囲の用途に用いることができる。ナノポアセンサは、ナノポアを通過するトランスロケーションのために提供されるバイオポリマー分子の検出に特に好適であることが理解される。そのような分子は、たとえば、核酸鎖、たとえばDNA鎖、オリゴヌクレオチドまたは一本鎖DNAの部分、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ポリペプチドまたはタンパク質、アミノ酸全般または他の生物学的ポリマー鎖を含む。ナノポアセンサによって検出される種対象物は特に限定されない。異なるリザーバ溶液濃度、流体通路構成またはこれらの2つの特徴の組み合わせにより、ナノポアセンサは、DNA塩基を区別するための妥当な帯域幅および感度で作動することができ、したがってDNAシークエンシングを可能にするということが実証される。
【0130】
当業者が、当技術分野への本寄与の精神および範囲を逸脱することなく、上記態様に対して様々な修飾および追加を加え得るということが理解される。したがって、本明細書によって与えられることが望まれる保護は、主題の請求項および本発明の範囲に正当に入るそのすべての均等物に及ぶものとみなされるべきであることが理解される。