(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】電極及び電極チップ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
G01N27/30 B
(21)【出願番号】P 2022510350
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014118
(87)【国際公開番号】W WO2021192248
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】322008069
【氏名又は名称】朱 子誠
(73)【特許権者】
【識別番号】513064210
【氏名又は名称】山口 佳則
(73)【特許権者】
【識別番号】521021373
【氏名又は名称】光馳科技(上海)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朱 子誠
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳則
(72)【発明者】
【氏名】山中 啓一郎
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105637(JP,A)
【文献】国際公開第2010/004690(WO,A1)
【文献】特開2012-181085(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013478(WO,A1)
【文献】特開2010-230369(JP,A)
【文献】特開2013-190212(JP,A)
【文献】特開平5-2007(JP,A)
【文献】国際公開第2021/009845(WO,A1)
【文献】特表2012-524903(JP,A)
【文献】特表2017-524630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板の上に形成された金属層と、
前記金属層の上に形成された炭素層と、
前記金属層の上面と前記炭素層との間に形成された上部接着層と、を備え、
前記上部接着層はシリコンで形成されており、
前記金属層の側面が絶縁層で覆われている、電極。
【請求項2】
前記基板と前記金属層との間に形成された下部接着層を備えている、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記下部接着層は、シリコン、クロム、チタン、タングステン、又は、前記基板の表面に前記金属層との密着性を向上させる表面処理を施して形成した表面処理層で形成されている、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電極からなる作用電極及び参照電極を備えている、電極チップ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の電極からなる対極をさらに備えている、請求項4に記載の電極チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及び電極チップに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学測定の原理を利用した測定は、溶液中の重金属の高感度測定や、酵素電極を利用したグルコース測定、イオン電極を利用したpH(ペーハー)の測定、残留農薬の電気化学検出に代表される食物検査など、多くの場面で使用されている(例えば特許文献1参照)。特に、その中でも、カドミウム、水銀、砒素、コバルト、銅、亜鉛、鉛といった重金属の測定は、水や土壌、食物、野菜、米、飲料水に含まれるそれらの重金属量を体内に摂取する前に把握することは非常に重要である。
【0003】
電気化学測定において、絶縁性の基板の上に電極を形成した電極チップを使用できることが知られている。電極チップにおいて、電極は基本的に単層構造であり、電極材料としては、銀、白金、金、アルミニウムなどの金属材料、又は炭素などの導電性材料が用いられる。
【0004】
しかし、金属材料の中には、空気中や試料中の水分などと酸化還元反応を起こして腐食してしまうものがあり、測定感度や再現性が低下することがあった。また、炭素材料は、酸化還元されにくいが、金属材料に比べて電気抵抗率が高く、電極として使用した場合に感度が劣る。
【0005】
このような不具合を解消する方法として、絶縁性の基板の上に形成した金属層の上に炭素層を積層することが知られている(例えば特許文献2-4参照)。
【0006】
しかし、従来の電極では、測定中に炭素層に浸透した水に起因して金属層表面で水素が発生して、金属層と炭素層との剥離や炭素層の破損が生じ、測定感度や再現性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-248668号公報
【文献】特許第5120453号公報
【文献】特開2013-190212号公報
【文献】特開2014-153280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状を改善すべく成されたものであり、液体試料中の微量成分を測定する電気化学測定の測定感度及び再現性を向上できる電極及び電極チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電極は、絶縁性の基板の上に形成された金属層と、前記金属層の上に形成された炭素層と、前記金属層の上面と前記炭素層との間に形成された上部接着層と、を備え、前記上部接着層はシリコンで形成されており、前記金属層の側面が絶縁層で覆われているものである。
【0010】
本発明の電極によれば、金属層を有することで電気抵抗を低くして、測定感度を向上できる。また、金属層の上面を炭素層で覆うとともに、金属層の側面を絶縁層で覆うことで、金属層の酸化還元を防止でき、測定感度及び再現性を向上できる。さらに、金属層の上面と炭素層との間にシリコンで形成された上部接着層を設けることで、金属層と炭素層との密着性を向上させるとともに、シリコンは金属に比べて電気抵抗率が高いので、測定中における金属層上面での水素の発生を抑制し、金属層と炭素層との剥離を防止して、測定感度及び再現性を向上できる。また、金属層の側面は絶縁層で覆われているから、当該側面に水分が到達せず、金属層の側面での水素の発生を防止できる。
【0011】
本発明の電極において、前記基板と前記金属層との間に形成された下部接着層を備えているようにしてもよい。
【0012】
このような態様によれば、測定中における基板と金属層との密着性の低下を防止でき、測定感度及び再現性を向上できる。
【0013】
下部接着層は、例えばシリコン、クロム、チタン、タングステン、又は、前記基板の表面に前記金属層との密着性を向上させる表面処理を施して形成した表面処理層で形成されていることが好ましい。ただし、下部接着層は、上記以外の金属で形成されてもよい。
【0014】
本発明の電極チップは、本発明の電極からなる作用電極及び参照電極を備えているものである。
【0015】
本発明の電極チップによれば、作用電極と参照電極とを使用する2電極方式の電気化学測定に適用できる。そして、作用電極と参照電極の両方が金属層、炭素層及び接着層を有する本発明の電極で構成されているので、作用電極及び参照電極の両方について、電気抵抗を低くでき、金属層の酸化還元を防止でき、かつ、炭素層の剥離を防止できるので、測定感度及び再現性を向上できる。
【0016】
本発明の電極チップにおいて、本発明の電極からなる対極をさらに備えているようにしてもよい。
【0017】
このような態様によれば、作用電極と参照電極と対極とを使用する3電極方式の電気化学測定に適用できる。そして、作用電極、参照電極及び対極について、電気抵抗を低くでき、金属層の酸化還元を防止でき、かつ、炭素層の剥離を防止できるので、測定感度及び再現性を向上できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、電気化学測定の測定感度及び再現性を向上できる電極及び電極チップを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電気化学測定装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】電極チップの一実施形態を示す概略的な平面図である。
【
図3】
図2のA-A位置に対応する概略的な断面図である。
【
図4】電極チップの他の実施形態を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電極及び電極チップの実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、同実施形態を示す概略構成図である。
図2は、電極チップの一実施形態を示す平面図である。
【0021】
図1に示すように、電気化学測定装置1は、電極チップ2と、電極チップ2に接続されるポテンショスタット3と、ポテンショスタット3に接続される操作部4、表示部5、電源部6及び外部出力部7を備えている。本実施形態では、電極チップ2は使い捨て型のものである。
【0022】
図2に示すように、電極チップ2は平板状の絶縁性の基板21を備え、基板21上に作用電極22、対極23及び参照電極24が互いに絶縁されて設けられている。基板21は平面視で略長方形の形態を有している。作用電極22、対極23及び参照電極24は、基板21の長手方向一端近傍から他端近傍にわたって設けられている。
【0023】
基板21上には、作用電極22、対極23及び参照電極24を互いに絶縁する絶縁層25が形成されている。絶縁層25は、電極22,23,24の間に埋め込まれるとともに、電極22,23,24の輪郭を囲って設けられており、電極22,23,24の側面を覆っている。
【0024】
電極チップ2において、作用電極22、対極23及び参照電極24の一端側には被測定物質を含む液体試料10が接触される。電極チップ2の作用電極22、対極23及び参照電極24の他端側は、コネクタ8及びケーブル9(
図1での図示省略)を介してポテンショスタット3に電気的に接続される。電極チップ2は、コネクタ8に着脱可能に取り付けられる。
【0025】
電極チップ2の基板21の少なくとも一表面は、平坦な絶縁性材料で形成されている。基板21の材質は特に限定されず、例えば、ポリイミド(PI)、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオキシメチレン(POM)、ABS樹脂(ABS)などを挙げることができる。ただし、基板21の材質は、これらに限定されず、セラミックスや石英などであってもよい。また、基板21の形状、厚み及び大きさは、特に限定されない。
【0026】
図2及び
図3に示すように、電極チップ2において、作用電極22、対極23及び参照電極24のそれぞれは、基板21の上に形成された金属層41と、金属層41を覆って形成された炭素層42と、基板21と金属層41との間に形成された下部接着層43と、金属層41の上面と炭素層42との間に形成された上部接着層44とを備えている。参照電極24の一端側の炭素層42上面に、銀塩化銀層45が形成されている。
【0027】
下部接着層43は、基板21と金属層41との剥離を防止する薄膜であり、例えばシリコンで形成されている。下部接着層43の材料としては、基板21及び金属層41との密着性が良好なものであればよく、シリコンの他、例えば、クロム、チタン、タングステンを使用できる。
【0028】
また、下部接着層43は、基板21の表面に金属層41との密着性を向上させる表面処理を施して形成した表面処理層で形成されていてもよい。このような表面処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理、エッチング処理、蒸気処理、イオンビーム処理などを挙げることができる。
【0029】
金属層41は、炭素層42よりも電気抵抗率が低い材料で形成されており、下部接着層43の上に形成されている。金属層41は、作用電極22、対極23及び参照電極24のそれぞれの一端と他端との間の電気抵抗を下げるためのものである。金属層41の材料としては、例えば、銀、ルテニウム、タンタル、チタン、銅、アルミニウム、白金、ニオブ、ジルコニウム、若しくはこれらの元素の合金、又はこれらの元素と炭素との合金などを使用できる。
【0030】
上部接着層44は、金属層41の上面に形成されており、金属層41の上面と炭素層42との剥離を防止する薄膜であり、シリコンで形成されている。
【0031】
炭素層42は、金属層41の上に上部接着層44を介して形成されている。炭素層42は、例えばアモルファスカーボン、又はダイヤモンドライクカーボン(DLC)で形成されている。
【0032】
炭素は、次のような特性を有するので、金属層41を保護する炭素層42の使用に適している。(1)3000℃の真空中(500℃の空気中)でも優れた安定性をもつ、(2)化学薬品に侵されにくい、(3)ガスや溶液を透過しない、(4)優れた硬度、強度をもつ、(5)優れた電気伝導度性をもつ、(6)金属塩などの湿潤に抵抗がある、(7)血液や組織適合性が良好である、(8)物理特性、化学特性の等方性がある。
【0033】
下部接着層43、金属層41、上部接着層44及び炭素層42の製造方法としては、各層の形状及び膜厚を高精度に制御できることから、蒸着法であることが好ましい。ここで、蒸着法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの、いわゆる物理気相成長法(PVD)や、いわゆる化学的気相成長法(CVD)を使用できる。ただし、各層の製造方法は、蒸着法に限定されず、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法などの印刷法であってもよい。
【0034】
図2及び
図3に示すように、絶縁層25は、平面視で下部接着層43、金属層41及び上部接着層44の輪郭を囲うように形成されている。金属層41の側面は絶縁層25で覆われている。本実施形態では、下部接着層43の側面、上部接着層44の側面及び炭素層42の側面も絶縁層25で覆われている。絶縁層25の下面は基板21に接触している。下部接着層43、金属層41及び上部接着層44は、基板21と絶縁層25とで囲われることで、周囲雰囲気から隔離されている。
【0035】
絶縁層25の材質は特に限定されず、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)、シリコン窒化膜(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)などを挙げることができる。ただし、絶縁層25は、これらの材質で形成されたものに限定されず、電極22,23,24の側面(少なくとも金属層41の側面)を周囲雰囲気から遮断できて、水分を通さない絶縁物であればよい。
【0036】
なお、絶縁層25の上面高さ位置(厚み)は、絶縁層25が少なくとも金属層41の側面を覆うことができる程度であればよい。ただし、絶縁層25と炭素層42との接触面積を増やすために、絶縁層25の上面高さ位置は炭素層42の上面高さ位置と同程度であることが好ましい。これにより、絶縁層25と炭素層42との間からの金属層41への水分の浸入を確実に防止できる。
【0037】
本実施形態において、電極22,23,24は、絶縁性の基板21の上に形成された金属層41と、基板21上に金属層41を覆って形成された炭素層42と、基板21と金属層41との間に形成された下部接着層43と、を備えている。電極22,23,24は、金属層41を有することで電気抵抗を低くして、測定感度を向上できる。また、金属層41の上面を炭素層42で覆うとともに、金属層41の側面を絶縁層25で覆うことで、金属層41の酸化還元を防止でき、測定感度及び再現性を向上できる。さらに、金属層41の上面と炭素層42との間にシリコンからなる上部接着層44を設けることで、金属層41と炭素層42との密着性を向上させるとともに、シリコンは金属に比べて電気抵抗率が高いことから測定中における金属層41の上面での水素の発生を抑制できる。また、金属層41の側面は絶縁層25で覆われているから、当該側面に水分が到達せず、金属層41の側面での水素の発生を防止できる。これにより、基板21と金属層41との剥離を防止して、測定感度及び再現性を向上できる。
【0038】
また、電極22,23,24は、基板21と金属層41との間に形成された下部接着層43を備えているので、測定中における基板21と金属層41との密着性の低下を防止でき、測定感度及び再現性を向上できる。
【0039】
また、金属層41、炭素層42及び接着層43,44は、蒸着法で形成されたものであって、金属層41、炭素層42及び接着層43,44は平面視で同じ形状に形成されている。各層41,42,43,44を蒸着法で形成することで、各層41,42,43,44の形状及び膜厚を高精度に制御でき、電極22,23,24のそれぞれについて、全体の電気抵抗の安定性を向上できる。
【0040】
また、下部接着層43はシリコンで形成されている。シリコンは、ガラスとの密着性及び金属との密着性がよいので、金属層41と基板21との密着性を強くできる。また、上部接着層44もシリコンで形成されている。シリコンは、金属との密着性及び炭素との密着性がよいので、金属層41と炭素層42との密着性を強くできる。
【0041】
電極チップ2は、作用電極22と参照電極24と対極23とを備えているので、3電極方式の電気化学測定に適用できる。そして、作用電極22、参照電極24及び対極23について、電気抵抗を低くでき、金属層41の酸化還元を防止でき、かつ、金属層41の剥離を防止できるので、測定感度及び再現性を向上できる。
【0042】
なお、本発明の電極チップによれば、作用電極と参照電極とを使用する2電極方式の電気化学測定に適用できる。そして、作用電極と参照電極の両方が金属層、炭素層及び接着層を有する本発明の電極で構成されているので、作用電極及び参照電極の両方について、電気抵抗を低くでき、金属層の酸化還元を防止でき、かつ、金属層の剥離を防止できるので、測定感度及び再現性を向上できる。
【0043】
図1に示すように、ポテンショスタット3は、電極チップ2の作用電極22の電位が参照電極24に対して一定になるように制御するとともに、作用電極22と対極23との間に流れる電流を測定可能に構成されている。ポテンショスタット3は、概略構成として、演算制御部31、電圧印加部32及び電流検出部33を備えている。
【0044】
演算制御部31は、電気化学測定で得られた測定値を用いて所定の演算処理を行なうとともに、操作部4を介して入力されたユーザからの指令に基づいて、電圧印加部32に必要な信号を送信したり、表示部5に測定結果等の情報を表示させたりする機能である。演算制御部31は、例えばマイクロコンピュータが所定のプログラムを実行することによって実現される。
【0045】
電圧印加部32は、演算制御部31からの測定開始の信号を受信したときに、電極チップ2の作用電極22と対極23との間に所望の波形の電圧を印加して、作用電極22と参照電極24との間の電位が所望の電位になるように制御するように構成されている。
【0046】
電流検出部33は、電極チップ2の作用電極22と対極23との間を流れる電流の大きさを検出するように構成されている。電流検出部33が検出した電流の大きさに関する信号は演算制御部31に取り込まれる。
【0047】
演算制御部31は、電流検出部33から取り込んだ信号の基づき、例えば予め用意された検量線を用いて、試料溶液中の特定成分濃度等の計算を行ない、測定結果を表示部5に表示するように構成されている。
【0048】
電気化学測定装置1において、操作部4は、電源のオン・オフや測定の開始、表示部5に表示される情報の変更といった操作をユーザが行なうための入力装置である。表示部5は、例えば液晶ディスプレイによって実現されるものである。なお、表示部5をタッチパネルで構成し、表示部5に操作部4の機能を兼ね備えさせてもよい。電源部6は、例えば乾電池や蓄電池などによって実現することができる。電源部6により、ポテンショスタット3や表示部5へ必要な電力が供給される。
【0049】
また、ポテンショスタット3には、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)端子といった有線通信手段や無線通信手段によってパーソナルコンピュータ等の外部機器へ情報を出力することができるように、外部出力部7が接続されてもよい。その場合、演算制御部31は、外部出力部7を介して測定データ等を外部機器へ出力するように構成されている。
【0050】
なお、操作部4、表示部5、電源部6及び外部出力部7は、例えば、ノートパソコンやタブレットなどのモバイルコンピュータで実現されるようにしてもよい。さらに、ポテンショスタット3として小型のもの(例えば小型ポテンショスタット「miniSTAT100」(バイオデバイステクノロジー製))を用いるようにすれば、電気化学測定装置1を持ち運び可能に構成できる。これにより、電気化学測定装置1を使用したオンサイト(現場)での液体試料の測定が可能になる。
【0051】
電気化学測定装置1を使用した電気化学測定は、
図2に示すように、電極チップ2に液体試料10が滴下された状態で行われる。電極チップ2に対して、液体試料10は作用電極22、対極23及び参照電極24に接触するようにして基板21上に滴下される。なお、作用電極22、対極23及び参照電極24の一端側を液体試料に浸漬した状態で測定を行ってもよい。
【0052】
次に、電極チップ2の作製例について説明する。基板21としての厚さ2500nm(2.5μm)程度のガラス基板の上に、スパッタリング法により、下部接着層形成領域に対応する開口パターンを有するメタルマスクを用いて厚さ20nm程度のシリコン層を下部接着層43として形成した。なお、シリコンからなる下部接着層43の膜厚は特に限定されない。
【0053】
そのメタルマスクの下部接着層形成領域に対応する開口パターンと同一開口パターンを有するメタルマスクを使用して、下部接着層43上に、スパッタリング法により厚さ150nm程度の銀層を金属層41として形成した。
【0054】
その後、下部接着層形成領域に対応する開口パターンと同一開口パターンを有するメタルマスクを使用して、金属層41上に、スパッタリング法により厚さ20nm程度のシリコン層を上部接着層44として形成した。なお、シリコンからなる上部接着層44の膜厚は特に限定されない。
【0055】
続いて、下部接着層形成領域に対応する開口パターンと同一開口パターンを有するメタルマスクを使用して、上部接着層44上に、スパッタリング法により厚さ1000nm程度の炭素層42を形成した。このようにして、下部接着層43、金属層41、上部接着層44及び炭素層42をそれぞれ有する作用電極22、対極23及び参照電極24を形成した。
【0056】
ここでは、基板21をスパッタリング装置のチャンバー内に搬入した後、同一メタルマスクを用いて、基板21上に下部接着層43、金属層41、上部接着層44、炭素層42を、チャンバーから搬出せずに成膜した。これにより、下部接着層43、金属層41、上部接着層44及び炭素層42の成膜に要する時間を短縮できるとともに、各層の間への異物の付着を防止できる。また、金属層41、炭素層42及び接着層43,44は平面視で同じ形状に形成される。
【0057】
電極22,23,24の線幅(長手方向に直交する幅方向の寸法)は、1.0mm程度である。また、電極22,23,24の間隔は、0.5mm程度である。
【0058】
スパッタリング法により、下部接着層形成領域の周囲に開口した開口パターンを有するメタルマスクを使用して、下部接着層43、金属層41、上部接着層44及び炭素層42の側面(電極22,23,24の側面)を覆うように、基板21上に厚さ1200nm程度の絶縁層25を形成した。絶縁層25は、電極22,23,24の周囲を囲うとともに、電極22,23,24の間に埋め込むように形成される。
【0059】
このように、蒸着法(ここではスパッタリング法)により、下部接着層43、金属層41、上部接着層44及び炭素層42、並びに絶縁層25を、開口パターンを有するメタルマスクを使用して形成することで、各層の成膜後にエッチング法やリフトオフ法によるパターニングが不要であり、製造コストを低減できる。
【0060】
参照電極24の一端側の炭素層42上面に、成膜法により、厚さ100nm程度の銀層を成膜し、塩化処理して銀塩化銀層45を形成した。このようにして、電極チップ2を作製した。なお、絶縁層25を形成した後に銀塩化銀層45を形成してもよいし、絶縁層25を形成する前に銀塩化銀層45を形成してもよい。
【0061】
金属層41の膜厚は、特に限定されないが、50nm以上、1000nm以下であることが好ましい。なお、金属層41の膜厚が50nmよりも薄いと、電極22,23,24が高抵抗となって測定感度が低下する。また、金属層41の膜厚が1000nmよりも厚いと、金属層41を蒸着法(例えばスパッタリング法)で成膜する場合には、金属層41の成膜に要する時間が長くなり、生産効率が低下する。
【0062】
なお、1枚の基板21に複数の電極チップ2の領域を設けて、複数の電極チップ2を同時に形成した後、各電極チップ2を個片化することで、製造コストを低減できる。
【0063】
電極チップ2において、
図4に示すように、基板21の表面に、密着性を向上させる表面処理を施して形成した表面処理層46を下部接着層として形成し、表面処理層46上に金属層41及び絶縁層25が形成されていてもよい。これにより、基板21と金属層41及び絶縁層25との密着性を向上でき、基板21と絶縁層25との間からの水分の浸入を確実に防止して、測定時における金属層41側面での水素の発生及び絶縁層25の剥離をより確実に防止できる。
【0064】
本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば、電極チップは、電極として作用電極22及び参照電極24を備え、対極23を備えていない構成であって、二電極方式の電気化学測定に適用可能な構成であってもよい。
【0065】
また、本発明の電極チップは、微分パルスボルタンメトリー(DPV)に限らず、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)、クロノアンペアメトリー(CA)、サイクリックボルタンメトリー(CV)、短波形ボルタンメトリー(SWV)などの方法にも適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 電気化学測定装置
2 電極チップ
3 ポテンショスタット
4 操作部
5 表示部
6 電源部
7 外部出力部
8 コネクタ
9 ケーブル
10 液体試料
21 基板
22 作用電極
23 対極
24 参照電極
25 絶縁層
31 演算制御部
32 電圧印加部
33 電流検出部
41 金属層
42 炭素層
43 下部接着層
44 上部接着層
45 銀塩化銀層
46 表面処理層