(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】サーマルインクジェットプリントヘッドおよびサーマルインクジェットプリントヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230516BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 201
B41J2/14 607
B41J2/16 511
(21)【出願番号】P 2018556469
(86)(22)【出願日】2017-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2017062113
(87)【国際公開番号】W WO2017198821
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-04-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-07
(32)【優先日】2016-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】311007051
【氏名又は名称】シクパ ホルディング ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH-1008 Prilly, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168734
【氏名又は名称】石塚 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】ソリアーニ, ピエル ルイージ
(72)【発明者】
【氏名】スカルドヴィ, アレッサンドロ
【合議体】
【審判長】古屋野 浩志
【審判官】藤本 義仁
【審判官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0155328(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0218789(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルインクジェットプリントヘッドを製造するための方法であって、
スタッガードパターンに従って複数の抵抗体を基板上に設けるステップと、
流体供給チャネルがチップ表面と略直交して延在するように、前記基板を貫いて前記流体供給チャネルを形成するステップであって、前記流体供給チャネルが、前記抵抗体の前記スタッガードパターンに従うスタッガードエッジを有しており、抵抗体エッジと、対応するスタッガードエッジとの間の流路長が抵抗体同士で同様になっている、ステップと
を含む方法において、
前記流体供給チャネルが、
前記基板の後側から始まり反対側の表面に達しないサンドブラストと、
貫通スロットになるまでの、その後のレーザアブレーションと
によって形成され、前記その後のレーザアブレーションが、前記スロットの外周上または前記スロットの拡大された外周上で、前記基板の後側から行われることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記レーザアブレーションが、レーザビームの時計回りおよび反時計回りの交互の動きによって行なわれる、請求項
1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルインクジェットプリントヘッドおよびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、高性能単一性を示すプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
多くのタイプのサーマルインクジェットプリントヘッドにおいて、インクは、しばしばシリコンチップである基板の内側部分に長手方向に形成あれる1つ以上のスロットを通じてリザーバから吐出チャンバに供給される。インクは、後側の基板表面から、電子回路およびマイクロ流体回路が実現される前側表面に流れる。単一のスロットは、長手方向チップ軸の方向でスロットエッジに沿って位置する1つまたは2つのヒータ縦列に給電することができる。
【0003】
通常は、回路を実現するために、導電性、抵抗性、誘電性、および、保護性の薄膜が配置されてパターニングされる。トランジスタ、ダイオード、メモリ等のような想定し得るデバイスをシリコンの半導体特性を用いる回路に組み込むことができる。
【0004】
ヒータは、複数の長手方向の縦列を成して配置され、これらの縦列は、吐出口に向けたインク供給のために必要な貫通スロットに隣接している。2つの縦列に給電する単一のスロットまたは対応する数の縦列対に給電する幾つかの平行なスロットのいずれかを有することができる。
【0005】
したがって、例えば、各ヒータの周りに吐出チャンバを形成するとともにスロットから流れるインクを供給するためのチャネルを形成するために高分子層がシリコンチップの表面上に配置されてパターニングされる。パターニングされた輪郭の壁がバリアを含むインクとして作用するため、高分子層は「バリア層」と呼ばれる。
【0006】
ノズルプレートはバリア層上に組み付けられる。ノズルプレートは、吐出チャンバの天井を構成し、複数のヒータと1対1で対応する複数のノズルを収容する。したがって、ノズルも縦列の配列を成して配置される。
【0007】
インク供給スロット、シリコンチップ、表面および吐出チャンバ、ならびに、ノズルによって形成される構造体は、プリントヘッドの流体回路を構成する。
【0008】
デジタル印刷において、インクは、横列および縦列を成して配置されるドットのマトリクス配列として媒体上に分配される。横列は、プリントヘッドと媒体との間の相対移動方向に延びる。水平線(横列)内の連続ドット間の距離の逆数が水平分解能である。垂直線(縦列)内の連続ドット間の距離の逆数が垂直分解能である。
【0009】
垂直分解能は、実質的に、プリントヘッド縦列内のノズル間の距離に依存する。水平分解能は、吐出繰り返し率と相対移動速度との組み合わせによって決定される。
【0010】
サーマルプリントヘッド内のインク泡の成長は、加熱抵抗体に印加される短い電流パルスによって引き起こされる。標準的なサーマルプリントヘッドは、通常は数百のノズル(最大1000個以上)を有する。全てのノズルが同時に起動される場合、回路に流れる総電流は過度の強度(数十アンペア)に達する。そのような高い電流レベルはシリコンチップの回路を損傷させる可能性があり、印刷ステーション内に非常に巨大で高価な電源を必要とし、結果として生じるノイズが厄介となる場合がある。
【0011】
この問題を解決するためには、電流パルスの一般的な重なり合いを避けることが必要である。すなわち、ノズルのサブセットのみが液滴を同時に吐出できるようにしなければならない。したがって、プリントヘッド内の複数のノズルは、幾つかのサブセットまたは「作動グループ」に分割され得る。それぞれのグループごとに、全てのノズルを同時に作動することができ、異なるグループは、1つのグループと次のグループとの間のプログラムされた遅延を伴って連続的に作動される。
【0012】
このようにして、全てのプリントヘッドノズルを起動させるための電流パルスがより大きな時間間隔で分配され、デバイス内の最大電流強度が単一のヒータの電流と同じ作動グループに属するヒータの数との積に等しいことが分かる。
【0013】
プリントヘッドは媒体に対して移動しているため、異なる作動グループをそれら自体の起動タイミングに従って相対移動方向に沿ってスタッガード配列にする必要がある。
【0014】
したがって、縦列内の複数のノズルは、それらが一緒に起動されないため、垂直印刷ラインと整列され得ない。
【0015】
図15には、垂直に積み重ねられる傾斜した直線状の縦列セグメント(ブロック)に関して1つの可能性が示され、同じ作動グループに属するノズルは同じ垂直印刷ラインと重なり合う。
【0016】
図15において分かるように、スロット輪郭は実質的に直線であり、したがって、それら自体の起動タイミングに応じて、スタッガード配列のヒータがスロットエッジから異なる距離を有するのが分かる。したがって、最も近いヒータの流体回路は、最も遠いヒータの流体回路よりも短い。チャネル長の差は、異なる流体挙動をもたらす。最も近いヒータは、最短の再充填時間を有するためより速くなり、最大印刷周波数を与えるのが分かる。長いインク経路に起因して、ヒータの残りの部分は、スロットからの距離に応じて、より長い再充填時間を有するため、低い周波数を示す。この広がりは、プリントヘッド周波数を最も遅いヒータの周波数に制限する。
【0017】
吐出部位の流体挙動におけるこの広がりを補償するために、流体レイアウトにおける適切な調整がそれぞれのヒータごとに必要である。
【0018】
文献である米国特許第8,714,710号明細書は、供給チャネルからスタッガード配列の抵抗体に向かって流れる流体のためのほぼ等しい経路長をもたらすことを示唆している。これは、流体チャネル上にわたって延在するカンチレバーによって達成される。これは、カンチレバーのみを残して中央部分で除去される薄膜と、それに続く、レーザおよび/またはドライ/ウェットエッチングを用いた裏面からのシリコンの除去によるプロセスの完了とによって達成される前述したように、流体チャネル上に延在するカンチレバーを実現するためには、両方のウエハ側でソフトエッチング方法が必要とされる。この種のプロセスは、全ての層(ノズルプレートを含む)および全ての穴またはキャビティがフォトリソグラフィプロセスによって作られるモノリシックプリントヘッドに適している。
【0019】
米国特許第7,427,125号明細書は、配置された抵抗体のジグザグプロファイルに適合する供給チャネルを形成するために完了する最終ステップとして湿式エッチングプロセスを示唆している。ウェットエッチングプロセスにより、傾斜した側壁が達成される。このウェットエッチングプロセスは、例えば高分子層上に堆積され得ないハードマスクを必要とする。ウェットエッチングがウエハ裏面のみで行なわれたとしても、得られる壁角度は互いに近い平行なスロットを有するレイアウトには適合しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】米国特許第8,714,710号明細書
【文献】米国特許第7,427,125号明細書
【発明の概要】
【0021】
本発明は、コスト効率および作業効率の良い態様で基板の長手方向軸に対する加熱抵抗体の距離の広がりに起因する問題を解決できるサーマルプリントヘッドのインク供給スロットを設計することを目的とする。
【0022】
更に、本発明は、スロットエッジと加熱抵抗体との間の流路長の実質的な均等化を達成するために、適切なスロット形状を設計して、そのための適切な製造プロセスを開発することを目的とする。
【0023】
本発明の目的は、これらのニーズに対処して先行技術からの欠点を解決するシステムおよび方法を提供することである。
【0024】
従来の概念の前述した問題および欠点は、本発明の実施形態の主題によって解決される。
【0025】
1つの態様によれば、本発明は、流体を供給するための流体供給チャネルと、流体供給チャネル付近に配置される複数の流体チャンバと、垂直印刷ラインに対してスタッガードパターンを成して複数の配置される、チャンバ内の流体を作動させるための抵抗体とを備える、サーマルインクジェットプリントヘッドを提案する。プリントヘッドにおいて、流体供給チャネルのうちプリントヘッドの後側の反対側の少なくとも一部は、チップ表面と略直交して延在し、また、流体チャネルは、抵抗体のスタッガードパターンに従うスタッガードエッジを有しており、もって、抵抗体エッジと、対応するスタッガードエッジとの間の流路長が抵抗体同士でほぼ同様になっている。
【0026】
供給チャネルは、それが例えば完全にレーザ機械加工される場合、全長にわたってチップ表面と略直交して延在する。供給チャネルが例えば混合プロセス(サンドブラスト+レーザ)により形成される場合には、少なくともレーザ機械加工された部分が略直交している。これらの方法を以下で更に説明する。
【0027】
本発明は、全ての動作条件が影響を受けないように保つことによってプリントヘッドのより高い動作周波数を達成するべくなされた。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、スタッガードパターンが鋸歯形状であり、したがって流体チャネルも鋸歯形状である。
【0029】
別の態様によれば、本発明は、サーマルインクジェットプリントヘッドを製造するための方法に関し、該方法は、スタッガードパターンに従って複数の抵抗体を基板上に設けるステップと、基板を貫通する流体供給チャネルを該チャネルがチップ表面と略直交して延在するように形成するステップであって、流体供給チャネルが、抵抗体のスタッガードパターンに従うスタッガードエッジを有しており、もって、抵抗体エッジと、対応するスタッガードエッジとの間の流路長が抵抗体同士の間でほぼ同様になっている、ステップとを含む。これにより、流体供給チャネルは、レーザアブレーションを含む方法によって形成される。好ましい実施形態において、方法は、基板の後側から始まり反対側の表面に達しないサンドブラストと、貫通スロットになるまでの、その後のレーザアブレーションとを含んでもよい。
【0030】
したがって、本発明に係る方法を用いると、少なくともウエハの後側から前側までレーザアブレーションされてしまったウエハ厚の部分でほぼ直線状の壁を有する流体チャネルの鋸歯輪郭を形成することができる。カンチレバーもハードマスクも必要ない。
【0031】
本発明の解決策は、より良好な性能と液滴吐出におけるより高い安定性とを伴うプリントヘッドを製造できるようにする。着想は、スロットエッジが配列に沿うヒータ分布にほぼ従うように基板にスロットを機械加工できる製造プロセスを開発することである。このように、スロットと抵抗体との間の距離は、流体パラメータが等しくされるのが分かるようにヒータ配列全体に関してほぼ同じであり、それにより、デバイスの最大動作周波数が増大するとともに、印刷の均一性が向上する。
【0032】
この解決策は、プリントヘッド性能のより高い均一性を達成できるようにし、更に、それにより、マイクロ流体回路の設計を容易になる。
【0033】
好ましい実施形態によれば、レーザアブレーションが反対側の表面で適用される。
【0034】
好ましくは、レーザアブレーションが外周で行なわれる。このプロセスは、非常に薄い基板を機械加工する際に特に有効となり得る。
【0035】
レーザアブレーションがスロット表面全体で行なわれることも想定し得る。この好ましい実施形態は、残骸による狭い切り口の閉塞を防止するのに役立ち得る。内部領域の完全なアブレーションは、場合によっては、外周の周期的な輪郭削りよりも速い場合がある。
【0036】
更なるレーザアブレーションは、拡大された外周で行なわれてもよい。単一の外周ラインにこだわることなく、アブレーションは、外周を外側境界として有するより大きなストライプにわたって実行される。この方法を使用すると、スロットの全内部領域をアブレーションする必要はなく、より小さな境界ストライプをアブレーションすれば済む。一方、材料除去はより効率的である。これは、アブレーションが狭い切り口に限定されず、場合により、再除去された残骸がストライプ領域全体を覆う可能性がないからである。
【0037】
良好な結果は、レーザアブレーションがレーザビームの時計回りおよび反時計回りの交互の動きによって行なわれる場合に達成され得る。そのような実施形態は、機械加工された形態のより良い精度をもたらすことができ、それにより、走査ヘッドに起因するレーザスポット位置における想定し得るエラーを補償できる。
【0038】
定義
本発明の目的のために、用語「略直交する」は、必ずしも厳密に直交するとは限らないことを意味する。プレートを通じたレーザアブレーション(しかし、サンドブラストおよび他の穿孔方法またはエッチング方法も)は、特定のテーパ角度を有する穴(またはスロット)をもたらす。ケースの幾つかの部分では、レーザ入射側の断面が出口側の断面よりも大きい。これは、ウエハの後側にある入口側のスロット幅がデバイス側の出口幅より僅かに大きいことを意味する。幅の差とウエハの厚さとの間の比率は、好ましくは0.5%~10%の範囲内である。テーパは、おそらく、光学効果と残骸遮蔽との混合に起因する。これは、本発明によれば、「略直交」と見なされるべきである。一方、サンドブラストは、より顕著なテーパをもたらす傾向がある。デバイスの一般的な説明である
図5では、スロットがテーパ状に見える。また、これは、本発明によれば、「略直交」として理解されるべきである。
【0039】
この説明に係る「スタッガードパターン(staggeredpattern)」は、1つの縦列においてノズルが厳密に直線に沿って分布していないことを表わしている。異なる時間でのインク吐出を可能にして、回路内の過度の電流ピークを回避するために、ノズルレイアウト(またはパターン)において意図的に実現されるプリントヘッドと媒体との間の相対移動方向(すなわち、ノズル縦列に直交する)における各ノズル(および各抵抗体)のずれが存在する。
【0040】
更に、本発明に係る「ほぼ同様」は、ヒータの中心とスロットエッジとの間の距離が類似するようにスロットが形成されることを意味する。
図19および
図21はその意味の良い考えを与える。
【0041】
「サンドブラスト」またはサンドブラスティングは、プリントヘッドチップの貫通スロットを実現するために幅広く使用されるプロセスである。適切な装置は、ノズルを通じて、研磨材の小さな粒子(例えば、アルミナ粒子、シリカ粒子など)を含む高圧空気の細い噴流を送る。チップのシリコン表面に対する研磨粒子の衝突は、出口表面に達するまで、材料を徐々に破壊する。
【0042】
この説明に係る「後側」は、ウエハの裏面を指す。プリントヘッド回路は、前側またはデバイス側である他方の反対側で実現される。サンドブラストは、前面に当たった斜めの粒子に起因する想定し得るデバイス損傷を低減するために、とりわけウエハの後側から始まるべきである。また、レーザアブレーションは後側から始まる。
【0043】
「レーザアブレーション」は、(通常は)集束されたレーザビームが基板に当たって材料の一部を除去するプロセスである。基板に対してビームを移動させることによって、幾何学的な切除パターンを得ることができる。
【0044】
この説明では、ウエハ(またはチップ)の厚さを完全に横切ってシリコンチップの後側表面および前側表面を流体連通状態にするスロットの形態の穴に関して、貫通スロット(through-slot)またはスロウスロット(throu-slot)が使用される。
【0045】
「外周」という用語は、スロットの幾何学的な外側輪郭を表わすものである。外周は好ましくは閉じた線である。
【0046】
「拡大された外周」は、外側輪郭によって制限されて特定の長さにわたって内向きに延在するより幅広い領域を表わすものである。拡大された外周は、閉じた線ではなく閉じたストライプである(
図30参照)。
【0047】
より良い理解のため、典型的な実施形態によって本発明を説明する。これらの実施形態は、以下の図面を考慮することによって最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図2】プリントヘッドを伴うシリコンウエハを示す。
【
図3】フレキシブル回路とプリントヘッドとを伴うカートリッジを示す。
【
図6】(a)は流体回路の一例を示し、(b)は電気RLC等価集中定数モデルを示す。
【
図7】ノズル再充填段階中の吐出チャンバの断面図を示す。
【
図8】減衰係数ζの異なる値に関するRLC回路のステップ応答を示す。
【
図9】(a)は等価RL回路を示し、(b)は円筒ノズルの再充填量と時間との関係を示す。
【
図10】インクメニスカスのオーバーシュートで再充填した後のノズル断面図を示す。
【
図11a】液体と表面との間の接触角β-臨界値β
crを示す。
【
図11b】液体と表面との間の接触角β-安定性β<β
crを示す。
【
図11c】液体と表面との間の接触角β-不安定性および拡張β>β
crを示す。
【
図12】インクメニスカスの過剰なオーバーシュートの影響によるノズルプレート表面の濡れを示す。
【
図13a】疎水性コーティングを伴うノズルプレート表面処理を示す。
【
図13b】疎水基を伴うプラズマ機能化によるノズルプレート表面処理を示す。
【
図14】複数のヒータの論理構成をグループ(横列)およびブロック(縦列)で示す。
【
図15】ブロックにおけるスタッガード配列のヒータレイアウトを示す。
【
図16】異なるチャネル長を有するノズルの流体挙動の数値シミュレーションを示す。
【
図17a】ヒータの固有のブロックを伴う互い違いにならないノズル縦列を示す。
【
図17b】複数のブロックに編成された互い違いにならないノズル縦列を示す。
【
図18】漸進的な互い違いを伴うヒータの単一ブロックを示す。
【
図19】鋸歯スロットエッジを伴うプリントヘッドにおける一連の連続ブロックを示す。
【
図20】サブブロックに分割された分散型互い違いを伴うヒータの単一ブロックを示す。
【
図21】鋸歯スロットエッジを伴うプリントヘッドにおけるサブブロックに分割された一連の連続ブロックを示す。
【
図22】シリコンウエハマイクロマシニングのためのサンドブラスト装置を示す。
【
図23】(a)はサンドブラストプロセスによる材料除去を示し、(b)は最終貫通穴を示す。
【
図24】プリントヘッドにおける機械加工されたスロットを示す。
【
図25】サンドブラストプロセスにおけるシリコン切れ端に起因して損傷した基板を示す。
【
図26】マイクロマシニングのためのレーザワークステーションを示す。
【
図28】スロットマイクロマシニングのための外周切断プロセスにおけるプラグの落下を示す。
【
図30】境界ストライプアブレーションプロセスを示す。
【
図31】スロットマイクロマシニングのための境界ストライプアブレーションプロセスにおける小サイズのプラグの落下を示す。
【
図32】サンドブラスト+レーザスロットマイクロマシニングプロセスの組み合わせを示す。
【
図33】時計回りおよび反時計回りの軌道の補償を伴う鋸歯スロットエッジを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
サーマルインクジェットプリントヘッド(
図1)は、1つ以上の縦列3を成して配置される複数のヒータ2をその表面上に収容する基板1から成る。多くの場合、縦列は、インク再充填を可能にするためにチップの内部に形成される貫通スロット4のすぐ近傍に配置される。多くの場合、サーマルプリントヘッドは、薄膜蒸着、フォトリソグラフィ、ウェットエッチング、および、ドライエッチング技術、イオン注入、酸化などを含む半導体技術を使用して、固有のシリコンウエハ5の状態で製造され(
図2)、その後、単一チップにダイスカットされる。ヒータ2は、適切な導電経路と接触される抵抗膜から形成される。チップの外周領域は、例えばTABプロセスによってフレキシブルプリント回路に結合される一組の接触パッド6を備える。
図3を参照すると、フレキシブル回路7は、プリントヘッドカートリッジ本体8に取り付けられるとともに、プリンタと電気信号をやりとりするためにより大きな接触パッド9を収容する。ヒータの数が増加するにつれて、電子レイアウトの複雑さも増大する。基板1の能動部分10は、抵抗体アドレッシングのためのトランジスタ11の配列、論理回路12、プログラマブルメモリ13、および、他のデバイスを含む。
図4および
図5に記載されるように、抵抗性、導電性、および、誘電性の膜14が既に配置されてパターニングされてしまっているチップ表面上には、マイクロ流体回路が実現される。インクは、適切なチャネル15を通じてマイクロ流体回路内で流れて吐出チャンバ16に到達し、吐出チャンバ16の壁は加熱抵抗体2を取り囲む。マイクロ流体回路は、バリア層と呼ばれる適切な高分子層17の状態にパターニングされる。ノズルプレート18が、バリア層の上側に組み付けられて、下層の加熱抵抗体と位置合わせされる複数のノズル19を収容し、該ノズルからインク液滴20が吐出される。実際に、短い電流パルスが抵抗体2を加熱し、それにより、抵抗体の真上のインクの薄層の気化と蒸気泡21の形成とが引き起こされる。気化された層内の圧力が急激に上昇し、それにより、上層の液体の一部がノズルから吐出される。インク滴は媒体へ向かって移動し、それにより、媒体の表面上にインクドットが生成される。その後、定常状態に達するまで、新たなインクが吐出されたインクに取って代わるようにチャンバ内へ呼び戻される。すなわち、インク流が流体力学によって支配され、このことは、駆動力、慣性、および、流れに対する抵抗を意味する。流体パラメータ(密度、粘性表面張力など)は、回路の幾何学的形状と同様にうまく役割を果たし、この場合、細長い経路は、短く幅広い経路と比べて高い流れ抵抗をもたらす。流れ抵抗は、チャンバ再充填時間に影響を及ぼす、したがって、プリントヘッドの最大動作周波数にも影響を及ぼすパラメータの1つである。
【0050】
より良い理解のため、
図6に描かれるように、システムの流体挙動のモデルを採用すると便利である。「集中定数モデル」が液圧回路の特性を表わすのに適している。集中定数モデルはRLC電気回路として図式化される。ここで、Lは流体の慣性アスペクトを表わし、Rは回路中を流れる液体の粘性抵抗に依存し、Cは、空気界面におけるインクメニスカス振動を含む回路境界の柔軟性に関連付けられる。流体回路の内側部分と外部大気圧との間にもたらされる付加的な圧力差が電気回路内の電圧源のように導入され得る。等価モデルでは、流量が電流の役割を果たす。
【0051】
液滴放出後、気泡が吐出チャンバ内に流れ込み、それにより、ノズル内に残存する残留液体およびリザーバからの他の液体の両方が流体チャネルを通じて引き戻される。その後、ノズルの再充填段階が行なわれる。再充填動作の駆動力(
図7参照)は、ノズル壁に対する液体インクの内側メニスカス曲率に起因する。毛細管圧は、液体がノズル縁部に達するまで液体を引き込み、その後、メニスカスが減衰振動を受ける。消散は、回路全体を通じた液体の粘性抵抗に起因し、長さ、断面、アスペクト比のような回路の幾何学的パラメータに明らかに関係している。
【0052】
集中素子モデルにおいては、物理的パラメータと幾何学的パラメータとの間の関係が幅広く扱われてきており(H.Schaedel、「矩形断面を有する流体伝播の理論的研究」、第3回Cranfield Fluidics Conference、1968年5月トリノ)、この場合、一様な断面を有する線形回路セグメントΔxに関するRおよびLの値は以下の通りである。
【0053】
L=1.15*ρ*Δx/S
ここで、ρはインク密度であり、Sは断面積であり、
R=8*π*μ*Δx/(r^4)半径rの円形の断面
R=8*π*μ*Δx*K/(a^2*b^2)辺a、bを有する矩形の断面
ここで、μはインク粘度であり、Kは矩形のアスペクト比b/aに依存する係数であり、ほぼ正方形の断面(a=b)に関し、Rは1/(a^2*b^2)に比例することが分かり、一方、b/a>>1 Rのときに、Rは、1/(a^3*b)に比例するようになる傾向がある。回路部分の断面が均一でない場合には、積分を実行してパラメータ値を得なければならない。
【0054】
回路の境界壁が剛体であって、システムの柔軟性だけがノズルエッジにおけるメニスカス振動に起因する場合には、「キャパシタンス」Cにおける平均値が以下になることが分かる。
C=(π*d^4)/(64*σ)
ここで、dはノズル直径であり、σはインクの表面張力である。
【0055】
適切な減衰係数ζを以下のように定義することができる。
ζ=R/2*sqrt(C/L)
これは減衰振動系を特徴付ける。ζ>1の場合には、振動が過減衰される。実際には、振動がシステム内で起こらない。ζ<1の場合には、システムが減衰不足となり、実際に、システムが減衰振動を受ける。振動の指数関数的な振幅減衰のタイムスケールは、減衰によって特徴付けられる。これは以下となるのが分かる。
α=R/2L
【0056】
ζ=1(臨界値)であれば、システムの臨界減衰が達成される。すなわち、臨界的に減衰された応答は、振動し始めることなく最も早い想定し得る時間で減衰する流体回路応答に相当する。この挙動は、可能な限り迅速に定常状態に達することが求められるときに望ましく、その場合、過減衰は、振動をより一層排除するが、安定するのに更に長い時間を要する。実際には、制御された減衰不足状況が流体回路設計において追及される。これは、さもなければ、流体力学のタイミングが長すぎて高速印刷に適さないからである。減衰係数の異なる値に関するRCL回路のステップ応答が
図8に示される。
【0057】
動的な液体挙動の時間間隔における正確な決定は、高度なアルゴリズムを用いて行なわれる数学的シミュレーションを必要とするが、流体回路の特性の洞察は、単純化されたモデルを用いた解析的アプローチを用いて得ることができる。
【0058】
前述したように、気化された気泡の崩壊および残留インクの除去の後、ノズル再充填は、インクリザーバとチャンバとの間に供給チャネルを含む流体回路のRtotalおよびLtotalによって規定されるインピーダンスを通じて流れる液体の駆動力として作用する毛細管圧に起因する。
【0059】
単に簡単にするため、インクが部分的に充填される直径dの円筒ノズルを考慮するとともに、内部ノズル壁の完全な湿潤性(理想的な状況)を仮定すると、液体に対してメニスカスにより及ぼされる毛細管圧pは、以下の通りである。
p=4*σ/d
【0060】
ノズルインピーダンスがチャンバおよび供給チャネルの両方を含むリア回路部分のインピーダンスよりも小さい場合には、R値とL値とが実質的にリア回路部分の項目に依存する。ノズルエッジに達する前にはメニスカス振動が存在しないため、容量パラメータCは全ノズル再充填段階(C=無限であると仮定され得る)中に役割を果たさず、等価回路は結局のところ単純なRL回路となり、その場合、毛細管圧がDC電圧源のように作用する。
【0061】
再充填時間Tはノズルの空の容積に依存しており、ノズルの空の容積は吐出される液滴量によって決まる(液滴量が動的な液体反動に起因して僅かに大きくなることが分かる)。簡単なRL等価システム(
図9a)に関して、流量動向の指数部分は時定数τによって特徴付けられる。
τ=L/R;
【0062】
流量qは次のようになる。
q=p/R*(1-e^(-t/τ))
【0063】
積分によって、液体の置換量に関する以下の式を得ることができる
V=(p/R)*t-(p/R)*τ*(1-e^(-t/τ))
【0064】
一般に、液体がノズルエッジに到達すると、指数部分の寄与はほぼゼロである。すなわち、慣性パラメータLの存在は、純粋な散逸回路の場合と比べて、再充填時間の遅延τをもたらす。
図9bには、再充填量と時間との関係の動向が表わされており、破線の真っ直ぐな曲線は純粋な散逸回路(すなわち、ゼロ慣性)を表わす。漸近的に、2つの線は、RL等価回路の時定数であるτに等しい水平変位を有する。したがって、再充填ノズル量V
nozzleに関して以下の簡略的な式を得る
V
nozzle=(p/R)*(T-τ)
【0065】
この式は、以下のように再充填時間Tに関する値を与える。
T=Vnozzle*(R/p)+τ
【0066】
原則的に、大きな液滴量は、低い毛細管圧をもたらす大きな直径のノズルを必要とする。すなわち、上記の式は、大きな液滴量が高い再充填時間を伴うことを示す。液滴量を減少させるためにノズル直径を縮小することにより、より短いTを達成することができる。
【0067】
液体がノズルエッジに接近するとすぐに、メニスカスの減衰振動が起こる。この段階は、定常状態点付近のメニスカス振れを考慮に入れるべく完全なRLCモデルの使用を必要とする。振動減衰係数ζを時定数τに関して以下のように表わすこともできる。
ζ=R/2*sqrt(C/L)=(1/2)*sqrt(R*C/τ)
【0068】
ζ>1の場合には、振動が過減衰される。すなわち、実際には、システム内で振動が起こらず、システムが減衰不足であれば(ζ<1)、システムは予め規定された減衰αで振動し、減衰不足のオシレータの場合、αは、式α=1/(2*τ)によって時定数τに関連付けられる。前述のように、ζ=1である臨界減衰回路は、一般に、最良のものと見なされるが、実際には、予期される液滴量に起因する回路パラメータからの制約と動作周波数とが、マイクロ流体パターンの設計において強制的により低いζを受け入れさせて、制御された減衰不足状況を探す。
【0069】
完全に安定した繰り返し可能な液滴吐出を保証するために、対応するチャンバ内の液体がその定常状態に達したときにのみ新たな吐出パルスをヒータに印加することができるが、この手法は、連続するパルス間の時間を必要とし、この時間は、あまりにも長すぎて高速印刷に適合し得ない。実際には、メニスカスが未だ定常状態に達していないときに印加される吐出パルスは、液滴量および速度において特定の散乱を引き起こす可能性があるが、それは、用途の大部分において許容可能であることが分かる。したがって、次の液滴を吐出する前に完全な振動減衰を待つ必要がない。唯一の必須要件は、完全なノズル再充填である。均一で予測可能なインク液滴の吐出を行なうためには、ノズルの再充填が完了したときにのみチャンバ内のヒータの熱的起動が行なわれることが必要である。さもなければ、液滴量の突然の減少に引き続いて液体の噴霧化が起こり、印刷品質に有害な影響を伴う。逆に、ノズル再充填の直後に吐出パルスを印加することにより、最大動作周波数に不利益をもたらすことなく正確な液滴吐出が可能となり、そのため、高速印刷が可能となる。
【0070】
しかしながら、ノズルプレートの外表面に対するオーバーシュートメニスカスの濡れ効果(
図10)から、振動段階中に想定し得る障害が生じ得る。ノズルエッジからの(球セグメントとして図式化される)インクメニスカス22の外側への突出は、ノズルプレート表面23との角度βを決定する。メニスカスがより多くオーバーシュートすればするほど、表面との接触角が高くなる。この角度が液体と表面との間の臨界湿潤性角度(すなわち、液滴が表面上で広がらずにその形状を維持できる最大接触角)に達すると、液体インクは、ノズル境界内に閉じ込められたままではなく、ノズルプレート表面全体に広がることができる。
図11a、
図11b、および、
図11cには、接触角が臨界湿潤性角度β
crを下回るまたは上回るときの液体挙動が示される。インクによるノズルプレート表面の濡れ(
図12)は、印刷品質に重大な影響を及ぼし、したがって、絶対に回避し、流体回路の適切な選択によって最大メニスカスオーバーシュートを制御しなければならない。多くの場合、ノズルプレート表面は、臨界湿潤性角度を増加させるように処理される(
図13aおよび
図13b)。この目的のために、疎水性材料24の薄膜蒸着と疎水性官能基25によるプラズマ表面改質とが広く用いられる。一方、内部ノズル壁の高い湿潤性を維持することが重要であり、これがノズル再充填段階のスピードアップに寄与する。
【0071】
要約すると、エジェクタ性能の最適化は2つの主なパラメータに基づいている。再充填時間Tは、メニスカス振動を臨界湿潤性角度未満に維持する適した減衰係数ζと高い作動周波数とを有するように可能な限り短い。実際に、減衰係数は、メニスカスのオーバーシュートおよび接触角に影響を与える。これは、強い減衰が抑制された液体突出をもたらす傾向があるからである。この目的のため、最も大きい想定し得る減衰係数が望ましいが、残念ながら、そのような減衰係数を他の流体量に影響を与えることなく独立に調整することはできない。すなわち、実際には、ζを非常に大きくするパラメータ選択もT値に影響を及ぼす。前述したように、高周波と印刷品質との間のトレードオフに達するように制御された減衰不足が追求される。より詳細には、流体回路設計では、所定の値βrefが基準角度と見なされ、また、メニスカス角度がこの限界値を越えることなくこの限界値に達するようにパラメータが最適化される。βrefは、メニスカス振動に対して安全マージンを残すために、臨界濡れ角のすぐ下に設定され、勿論、βrefは、インクによる表面濡れを防止するために、流体回路の最適化において支配的パラメータである。
【0072】
再充填時間T=Vnozzle*(R/p)+τ=Vnozzle*(R/p)+(L/R)は、時定数τの高い値によって不利益がもたらされ、したがって、低いτ値は、再充填時間を減らして減衰係数ζを増大させるとともに、表面濡れのリスクを減らす傾向がある。供給チャネルによって構成されるリア回路部分は、パラメータLおよびRの値をほぼ決定する。簡略化のためにチャネルが正方形断面であるとすると、比率L/Rが断面Sに比例することが分かる。チャネル断面のサイズを小さくすると、低い方の値τが与えられる。しかしながら、一方で、結果として得られる高い方の値Rは、(R/p)項を増大させ、それにより、全体の再充填時間Tが長くなる。したがって、Rの値を制限するために、チャネル長を短くする必要もある。反復最適化手順が減衰係数を基準値に維持し、それにより、再充填時間を可能な限り最小にする。
【0073】
前述したように、プリントヘッドでは、シリコンチップがインクリザーバであるカートリッジに組み付けられる。多くの場合、インクは、基板の内部領域で切断された1つ以上のスロットを通じてマイクロ流体回路へ向けて流れる。すなわち、スロットは対向する基板表面を流体連通させ、インクはスロットを介して吐出チャンバに到達し得る。スロットの設計および製造では、異なるアプローチをたどることができ、一般に、1つ以上のスロットが基板全体にわたって長手方向に延び、1つまたは2つのノズル縦列が実質的に直線であるスロットエッジの側に位置している。長手方向チップ軸に沿うノズル縦列の延在が「スワット」と呼ばれる。プリントヘッドを長手方向チップ軸と垂直な方向で媒体に対して移動させると、スワス高さを有する媒体の印刷領域を得ることができる。
【0074】
配列内のヒータは電流パルスによって給電されるため、多くのヒータが同時に給電されると、基板上の電子回路を通じて大きな電流が流れる。印刷中の電流ピークを最小にするために、プリントヘッドは、縦列内のヒータがマトリクス配列で編成されるように設計される。一方では、配列のヒータが「グループ」に分割され、この場合、同じグループに属するヒータのみに同時に給電することができ、一方、異なるグループに属するヒータが存在する場合には、ノズル縦列が時として「プリミティブ」と呼ばれる「ブロック」によって構成される。すなわち、一度に1つの抵抗体のみにブロック内で給電することができ、一方、様々なブロック内の対応する抵抗体(すなわち、同じグループに属する抵抗体)が同じ瞬間に液滴を吐出することができる。m個の横列(グループに対応する)とn個の縦列(ブロックに対応する)とを有するマトリクス内の複数の加熱抵抗体の論理的構成が
図14に概略的に示される。より大きな時間間隔で電流パルスを分配するために、異なるグループが特定の遅延を伴って連続的に駆動され(t1<t2 ...<tm)、それにより、回路中に流れる過度の電流レベルに起因する想定し得る問題を低減され、その場合、グループが起動されると、様々なブロックの全体にわたって分配されるグループヒータを一斉に給電することができ、したがって、最大電流ピークは単一ヒータピークとブロックの総数との積に等しい。
【0075】
様々なグループの吐出タイミングにおける違いを補償するために、ノズルおよび対応する下層の抵抗体は、それら自体の時間遅延に従って、媒体とプリントヘッドとの間の相対的な動きの方向に沿って互い違いにされる。様々なブロックに分配された同じグループに属する全ての抵抗体は、同じ互い違い値を有する。したがって、各ヒータの縦の配列は、厳密に直線ではなく、一種の「波形」を示す。
図15にはヒータ2の波形が示される。
【0076】
ヒータがプリントヘッド相対移動の方向に近づけば近づくほど、起動が早期に行なわれる。これに対し、従来技術では、技術的な理由により、スロット4の外形が略直線状である。したがって、抵抗体とスロットエッジとの間の実際の距離は、ヒータが属するグループに応じて異なる。この事実は、配列内の様々な吐出部位の流体抵抗の広がりを引き起こし、それにより、プリントヘッドの安定性および動作周波数に影響を及ぼす。
【0077】
ヒータがスロットエッジから離れているほど、インクが吐出チャンバへ向けて流通するリア供給チャネルが長くなる。チャネルの延出は、システムを最適化された状況から離間させ、それにより、再充填時間Tを増大させるとともに、接触角βを減少させる。後者のパラメータは、基準値βrefに対して殆ど臨界的にならないことが分かるが、プリントヘッド動作周波数の大幅な低下を防ぐために、Tが調整されなければならない。
【0078】
より長いチャネルに起因する増大された再充填時間を調整するには、チャネル断面に作用してそのサイズを大きくする必要がある。実際に、従来技術では、増大されたTから生じる問題を補償するために、この方法を使用してマイクロ流体回路レイアウトの個々の調整がなされた(例えば、米国特許第6042222号明細書および米国特許第6565195号明細書参照)。チャネル断面の広がりは減衰係数の減少ももたらし、また、より長いチャネルが余分な減衰を引き起こしたため、βが基準値βrefに戻るまで、断面の広がりにおいて幾らかのマージンが存在する。
【0079】
この方法は、異なる経路長に起因する問題を軽減するのに役立ち得るが、バリア層のパターニングが面倒であると分かった後に流体回路の設計および視覚プロセス制御においてより高い複雑さを引き起こす。これは、異なるチャネル形状をチェックしなければならないからである。しかしながら、前述の方法によってもたらされる流体回路調整は部分的なものにすぎない。様々な流体量が異なる機能的関係を有する幾何学的回路パラメータに依存するため、臨界減衰値を下回らない限り、再充填時間を完全に回復させて、スタッガード状のノズル配列に起因する異なるチャネル長の完全な補償を得ることはできない。したがって、従来技術では、完全に最適化されない状況が、動作周波数の特定の不利益を伴って受け入れられなければならない。この態様は、実際の(理想化されない)流体回路のシミュレーションを通して
図16に示されており、この場合、図には、再充填量および接触角の両方と時間との関係が概略的に示されている。スロットエッジに最も近いノズルは、最短のチャネルと最小の再充填時間とを有し、したがって、最大の動作周波数を有する。すなわち、そのノズルは、流体回路設計における基準と見なされ、また、パラメータは、メニスカス角度が臨界濡れ角のすぐ下の限界値を得るように最適化され、一方、最も離れたノズルは、より高い再充填時間と低い接触角とを有する。最も速いノズルの限界接触角に達するまで、チャネルの幾何学的パラメータに作用する動作周波数の減少に起因する欠点を補正しようとすることができる。再充填遅延を部分的にのみ回復させることができ、また、プリントヘッドの全体の動作周波数を最も遅いノズルまで縮小しなければならないことが分かる。
【0080】
この考慮から、また、先に行なわれた数学的解析から、最良の解決策が全てのノズルに関して同じ長さの短いチャネルを有するようになっていることが分かる。これにより、ノズルの流体力学の実際の均等化が可能になり、その結果、最高動作周波数を達成することが可能になる。異なる吐出部位の流体挙動を等しくするための新たな手法は、ヒータとスロットエッジとの間の距離の広がりを排除することである。
【0081】
平凡な解決策は、縦列における全てのヒータがスロットエッジと平行な直線上にとどまるレイアウトを設計することである。全ての抵抗体が同一線上に配置されるため、抵抗体の同時起動時にもたらされる過剰な電流ピークを回避するべく、プリントヘッドは、相対移動方向に垂直な線に対して特定の角度だけ回転されるべきである。逆に、回転は、前の抵抗体に対する各抵抗体の遅延起動を可能にする。
【0082】
2つの連続する垂直印刷ライン間の隙間Gの逆数に対応する予期される水平印刷分解能とノズル位置を一致させるために、回転角度においては、以下の条件を選択的に満たす2つの想定し得る選択肢がある。すなわち、1)縦列内の最初のノズルおよび最後のノズルの相対移動軸に対する正投影間の距離を隙間Gと等しくなるようにする;2)縦列内の2つの隣り合うブロックの対応するノズル(すなわち、同じグループに属するノズル)の相対移動軸に対する正投影間の距離を隙間Gと等しくなるようにする。第1のケース(
図17a )では、縦列が固有のブロックに編成され、傾きが非常に小さくなり、連続する起動パルス間の遅延がパルス持続時間に対して短すぎる結果となり、それにより、実際に、多くの電流パルスの重なりを引き起こす。いずれにせよ、電流ピークが過度に大きくなり、採用された解決策が実際には問題を解決しない。第2のケース(
図17b)では、複数のブロックのノズル編成を維持することが可能となり、その場合、一度に1つのノズルのみが給電され、したがって、最大電流ピークが配列内のブロックの数に関連付けられる。この場合、回転角度は非常に大きくなり、また、結果として得られる実際のスワットは大きく減少される。同一の垂直分解能および回転されないプリントヘッドの同じスワス高さを維持するためにチップ長を増大することが必要である。したがって、実際のチップ面積は大きすぎる結果となり、この解決策は高歩留まり製造プロセスに適合しない。
【0083】
本発明によれば、長手方向軸に対するヒータのスタッガード状の配列、ならびに、「スタッガード配列のグループ」および「プリミティブブロック」におけるマトリクス編成が維持されるが、スロットエッジがスタッガード配列の抵抗体の位置に追従するようにスロットに適切な形状を与える流路長の均等化が達成される。
図18に示される1つの実施形態において、単一のブロック26に属するヒータの長手方向プリントヘッド軸に対するスタッガード配列の位置は、異なるスタッガード配列のグループに属するヒータの漸進的なずれによって実施され得る。そのような配置では、ブロックの全てのノズルが傾斜したセグメントに沿ってとどまり、そのため、作動順序は、その後、相対移動方向から徐々に離れるようになり、したがって、同じ垂直印刷ラインで次々に到達するスタッガード配列の位置SP1、SP2 ...などに従って、1つのヒータから次のヒータへ行なわれる。スロットエッジプロファイル27の鋸歯形状は、この状況によく適合する。すなわち、各「歯」の長さは、縦列に沿う1つのブロックの長さにほぼ対応し、また、ヒータは、スロットエッジに対してほぼ均一な距離を維持し、その結果、流体挙動の均一性がもたらされる。
【0084】
このノズル配列は、次々と起動されるヒータの近接性に起因して、潜在的な欠点を被る。実際には、電流パルスが抵抗体を通過すると、すぐ上側の薄いインク層が気化され、突然、蒸気層が強い圧力上昇を受け、これが上層の液体に伝達され、それにより、急速な液体移動と、ノズルからのインク滴の吐出とが引き起こされ、吐出後、新たなインクがノズルに引き込まれ、また、再充填が完了した時点で、システムは、他の電流パルスを受け取る準備が整う。気泡膨張、液滴吐出、および、ノズル再充填を含む抵抗体励振後の時間間隔の間に、周囲の環境で何らかの物理的作用(圧力ピーク、液体流、乱流など)が起こる可能性があり、それにより、隣り合う吐出チャンバが摂動される。
【0085】
したがって、異なるノズル配置が好ましい。すなわち、吐出タイミングシーケンスでは、隣り合うノズルで連続パルスが起こらず、そのため、遠隔ヒータに起因する想定し得る摂動が非常に弱くなるのが分かる。そのような配置(
図20)において、各ブロック26は、ほぼ整列された隣り合うヒータの幾つかのサブブロック28に分割することができ、干渉を避けるために、異なるサブブロックに属する抵抗体に連続パルスが送られる。この場合、流路長を等しくすることができる想定し得るエッジプロファイルは依然として鋸歯形状を有し、その場合、歯(
図21)の数が多ければ多いほど、長さが短くなる。
【0086】
通常、貫通スロットを実現する一般的な方法は、サンドブラストプロセスを使用することである(
図22)。サンドブラスト装置40では、機械加工するためにアルミナ粒子の細い噴流29が基板に対して高速で吹き付けられる。
【0087】
サンドブラストユニット30は、リザーバ32からアルミナ31を引き出し、それにより、入口34から流入する高圧空気流によって粒子がノズル33内に推し進められる。ノズルから飛び出されるアルミナ粒子は、シリコンウエハ36の表面35に当たり、それにより、基板の小さな断片37が除去される(
図23a)。このようにして、穴またはトレンチ38を材料ブラストによって掘ることができ、プロセスが長くなる場合には、穴またはトレンチが反対側の表面に達し、それにより、2つの平行なスロット4を有する単一のシリコンチップが示される
図24に例示されるように、貫通穴39(
図23b)または貫通スロットを形成することができる。ダイシングプロセスは、スロット機械加工後に行なわれる段階のうちの1つである。ソーイング装置によって、その外周縁41によって制限される単一のチップ1がウエハから得られる。サンドブラスト装置は、アライメントおよび検査のための顕微鏡、カメラ、フレームグラバーなどの光学機器、および、大きなワークピース(図示せず)を機械加工するための電動スライドを完備し得る。サンドブラストプロセスは非常に安価で高速であることが分かる。サンドブラストプロセスは、プリントヘッドにインク供給スロットを形成するために多くの製造業者により幅広く使用される。それにもかかわらず、サンドブラストプロセスは幾つかの問題を有する。すなわち、プリントヘッドのための貫通スロットプロセスにおいて、機械加工中にもたらされる断片(アルミナまたはブラストされたシリコンに起因する)が高分子層で作られるマイクロ流体回路を損傷する可能性があり、更に、機械加工されたパターンの幾何学的分解能を正確に制御することが困難であるため、出口スロットエッジはしばしば非常に不規則である。
図25に描かれるように、時折、サンドブラスト中に切れ端またはシリコン開裂42が生じる可能性があり、その結果、欠陥の増大がデバイスにもたらされる。前者の問題が適切なコーティング材料(例えば水溶性であるEmulsitone CompanyによるEMULSITONE 1146)を用いて制御され得る場合には、コーティング材料がはるかに危険であることが分かり、また、コーティング材料は、より小さい形態を有する貫通スロットを機械加工するためのサンドブラストプロセスを使用すると、デバイスのスケールダウンの可能性を制限する。
【0088】
別のプロセスはウェットエッチングおよびドライエッチングを伴うことができる。すなわち、それらのプロセスは、ビア、トレンチ、貫通穴を良好な分解能でシリコンウエハに形成するのに確かに有効となり得るが、これらのプロセスのためのマスク要件は厳しい制約をもたらし、また、基板上に存在するマイクロ流体バリアとの適合性は、取り扱うのがかなり複雑な問題であり、更に、貫通スロットが既に機械加工されている基板上にマイクロ流体バリア層を適用することは困難である。しかし、前述の解決策は、本発明で特定されるような鋸歯状の輪郭をもたらす高度な技術を用いて実施することができる。それにもかかわらず、好ましい実施形態では、前述の厄介な問題を伴うことなく供給スロットに良質な鋸歯エッジをもたらすことができる方法が望ましい。
【0089】
レーザアブレーションは、多くの種類の異なる材料にパターンを実現するのに有効な方法である。通常、レーザアブレーションは、金属、セラミック、ガラス、半導体、プラスチックを切断するために使用される。レーザの特性(主に、放出モード、波長、パルス持続時間)および材料の特性は、相互作用の効果を決定する。一般に、放射線の吸収係数が高いと、相互作用が非常に強く、レーザビームエネルギーを材料の小さな体積に対して効率的に伝えることができ、それにより、化学結合の破壊および断片吐出が引き起こされる。この効果は、パルスレーザが使用されるときにははるかに強力である。更に、レーザパルスが非常に短いと、基板内部のHAZ(熱影響域)の延在が減少され、それにより、切除効率が高まって、熱的副作用が減り、機械加工パターンの分解能が向上する。個体レーザは、マイクロマシニングプロセスを実行するのに非常に有効である。個体レーザは、高い反復率で高エネルギー放射パルスを送出できる。放射された波長は、特に高調波発生が利用される場合には、シリコン基板によって適切に吸収され得る。現在、産業用固体レーザが利用可能である。産業用固体レーザは、安定した性能、低いランニングコスト、および、高いMTBF(Mean Time Between Failures)を伴って、非常に信頼性が高いことが分かる。したがって、産業用固体レーザは、サーマルプリントヘッドを製造するのに十分に適する。
【0090】
固体レーザによって発せられる放射線は、数ミクロンの直径を有するスポットの状態でワークピース上に集束させることができ、それにより、表面エネルギー密度が高められるとともに、高分解能での形態の機械加工が可能となる。切除パターンを実行するために、電動スライドを使用してレーザビーム下でワークピースを動かすことができるが、多くの場合、圧電駆動ミラーを使用して基板の全体にわたってビームを走査することがより便利であるのが分かる。これは、そのようにすると、基板の高い加速度ピークが避けられるからである。時として、主に大型の基板を加工しなければならない場合には、両方の方法が適用される複合プロセスが使用される。
図26には、レーザ加工ステーションが記載される。レーザ源42は、走査ヘッド44に入り込む電磁放射線のビーム43を放射する。すなわち、適切な偏向によって、集束レンズ45を備える走査ヘッドは、xyワークピース表面上に合焦スポットをもたらす所定の軌道に従って出射ビーム46を操向することができ、それにより、切除パターン47を決定する。
【0091】
シリコン基板に貫通スロットをドリル加工する想定し得る方法は、スロット外周を切断することである(
図27)。レーザは、スロットの外側輪郭48に沿って周期的に移動され得る。すなわち、各サイクルは、内部プラグ49が下降するまで外周にもたらされる狭い切り口の深さの増大を引き起こし、それにより、
図28に例示される断面図に示されるようにスロット領域を完全に開放したままにする。見掛けの迅速さおよび単純さにもかかわらず、この方法はあまり効果的ではない。非常に薄い基板(例えば、厚さが200ミクロン未満のシリコンウエハ)を機械加工することが有効となり得る。その場合、少量のレーザショットが反対の表面に達し得るが、より厚い基板が加工される場合にはかなり長いとが分かる。実際には、全体の処理時間はウエハ厚さに比例しない。一方、厚い基板のプロセスは、切除残骸が切り口に部分的に再び堆積することによって不利益をもたらす。排気除去がこの影響を幾らか緩和し得るが、前に除去された材料のかなりの部分を再び切除しなければならず、それにより、内部シリコンプラグ49を完全に切り取るのに要する処理時間が長くなる。
【0092】
残骸によって狭い切り口が塞がることを防ぐため、別の方法は、スロット外周の内側の全表面にわたってレーザアブレーションを広げることである(
図29)。勿論、単一表面掃引におけるレーザスポットによりカバーされる全経路長は、スロット外周の長さよりもはるかに大きい。それにもかかわらず、切除された領域の残骸閉塞は、スロットの完全なブレイクスルーまで内部領域全体が1層ずつ機械加工されるときに劇的に減少される。確かに、内部領域の完全な切除は、外周の周期的な輪郭削りよりも速くなることが分かる。
【0093】
スロットの内部領域が大きい場合、完全な切除プロセスでさえ、製造要件のためには長すぎる。この場合、拡大外周輪郭削りとして規定され得る他の手法が使用されてもよい。単一の外周ラインにこだわることなく、切除は、外周を外側境界として有するより大きなストライプにわたって実行される。ストライプ幅は、切除残骸の効果的な除去を可能にするのに十分大きくなければならない。すなわち、良好な切除率を得るためには、スポット直径の3倍以上が必要である(
図30)。残存する内部のより小さいプラグが切り取られるまで、ストライプ表面が一層ずつ機械加工される(
図31)。この方法を使用すると、スロットの全内部領域を切除する必要はなく、より小さな境界ストライプを切除すれば済む。一方、材料除去はより効率的である。これは、切除が狭い切り口に限定されず、場合により、再除去された残骸がストライプ領域全体を覆う可能性がないからである。
【0094】
機械加工プロセスにおいては後続のスポット間の重なり合いに注意を払う必要がある。実際に、プロセス迅速性および機械加工パターンの品質に関してスポット重なり合いを最適化するためには、スポット直径、レーザ繰り返し率、線形走査速度、および、切除方策の間の正しい関係が見出されなければならない。
【0095】
厚い基板の場合の切除プロセスをより一層高速化するために、レーザアブレーションをサンドブラストまたはウェットドライエッチングプロセスのような他の技術と組み合わせることができる。材料の一部を除去するためにこれらの補助的な技術を使用することができ、それにより、より薄いシリコン厚を残すことができ、これは最終的にはレーザで切除される。例えば、最初に、サンドブラストは、反対側の表面に達することなく大きなトレンチを掘削できる(
図32a)。その後、トレンチ内の適切な領域でレーザビームを走査し、より良好な分解能で切除を完了させることができる(
図32b)。一実施形態では、ウエハの後部から両方のプロセスが実行され、それにより、デバイス表面は、プロセスの最終部分において切除残骸のみにより影響される。
【0096】
好ましい実施形態において、マイクロ流体回路は、各加熱抵抗体と隣り合うスロットエッジとの間に所定の距離Dを有するように設計されてきたため、流体パラメータは複数のノズル全体にわたって等しくされる。異なるパターニングされた層がプリントヘッドチップを構成し、それにより、電子回路および流体回路が実現される。必要なモジュールの全てを生成するために誘電体層、抵抗層、導電層、保護層が基板上に配置される。複数の層を互いに上下に形成して、以下のようにプリントヘッドチップを形成してもよい。一般に、導電層は接点ビアを除き適切な誘電層によって基板から絶縁されるとともに互いに絶縁され、この場合、回路の異なるレベル間の電気的接触を意図的に許容するために誘電体層に穴が形成される。また、誘電体層は、抵抗体よりも上側の領域で「伝熱層」の役割を果たすこともできる。すなわち、実際には、抵抗体を通る電流パルスによって生成される熱は、インクに至るまで、抵抗体自体よりも上側の1つ以上の誘電体層を横切って流れる。そのような誘電体層は、窒化ケイ素、炭化ケイ素、または、他の種類の膜(層)を備えることができる。付加的な層は、しばしば、崩壊する気泡によってもたらされる機械的衝撃に対する保護として採用され、その目的のために、屈折金属、例えばタンタルが頻繁に使用される。 インク供給スロットの機械加工は、原理的には、デバイス膜(層)に何らかの機械的亀裂を引き起こす可能性があるため、スロット機械加工中に任意の膜や層の損傷を避けるべく、適切なパターニング形状により、スロット領域内およびスロット領域付近の層を除去することが都合良い。特に、屈折金属層と抵抗体よりも上側の誘電体とを除去して、スロット領域にこれらの層がないようにすべきである。あるいは、スロット領域は、異なる層の製造中に自由にされたままであってもよい。このように、基板上に既に適用された層を除去する必要はない。スロットエッジがほぼ直線である従来技術では、層の外側輪郭も直線的であるのが分かるが、開示された発明では、インク供給スロットに面する全ての層をそれらの輪郭が鋸歯外形を再現するように適切に成形することが必要である。
【0097】
後にレーザにより切除すべきより薄い厚さを残して材料の一部を除去するために、ウエハの後部から予備的なサンドブラスト段階が行なわれる。各チップ上に配置される基準形態が正確な位置合わせを可能にし、それにより、サンドブラストによって生成されるトレンチがスロット領域に正確に重なり合うのが分かる。この段階の後、実際のレーザアブレーションが実行される。レイアウト内の機械加工された領域の正確な対応を保証するために、同じ基準が使用される。レーザビームは、スロット輪郭に沿ってかつ適切な隣り合う内部ストライプの内側で移動して、スロット領域境界で材料を効果的に除去し、それにより、最終的に内部プラグを降下させる。切除された深さが増大する限りにおいて、プロセスの有効性を最適化するべく焦点補正が必要となり得る。これは、適切な光学素子を用いて、あるいは、走査レンズとウエハ表面との間の相対距離を変えることによって得ることができる。
【0098】
ビーム軌道が直線であると、移動中のレーザスポット上の公称位置と実際の位置との間には実質的な差異がない。一方(
図33)、旋回ポイント付近では、走査ヘッド挙動に起因して、名目上の軌道からのかなりの逸脱が存在し得る。結果として生じる不正確さを補償するために、スロット輪郭50の周りの時計回り51と反時計回り52との交互のレーザビーム移動は、機械加工される形態のより良い精度をもたらすことができ、それにより、走査ヘッドに起因するレーザスポット位置の想定し得るエラーを補償できる。時として、長手方向軸の反対側にあるスロットの末端部分は付加的な切除ステップを必要とし得る。これは、3辺で閉じられる領域の狭さに起因して、残骸除去が中心部よりも先端において効率的でないからである。それにもかかわらず、この付加的な切除は、一般に非常に迅速であり、また、総処理時間を僅かに増大させるにすぎない。
【0099】
記載されたプロセスは、良い精度で、高い歩留まりおよび再現性で、ならびに、適度な処理時間でエッジ形状の穴、特に、鋸歯形状の供給スロットを機械加工し、それにより、高周波プリントヘッドを製造するのに必要な流体回路を実現できるようにする。