(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】負圧吸着移動装置の負圧吸着シール
(51)【国際特許分類】
B62D 57/02 20060101AFI20230516BHJP
B24C 3/06 20060101ALI20230516BHJP
B63B 59/06 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B62D57/02 M
B24C3/06 A
B63B59/06 Z
(21)【出願番号】P 2019148253
(22)【出願日】2019-08-11
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】710006367
【氏名又は名称】ウラカミ合同会社
(72)【発明者】
【氏名】浦上 不可止
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-110434(JP,A)
【文献】特開2014-008565(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0059615(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 57/02
B24C 3/06
B63B 59/06
A47L 1/02
B25J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧吸着移動装置の
負圧吸着盤は、吸盤フレームと、該吸盤フレームに装着された負圧吸着シール、により構成されており、負圧吸着シールにおいて、該負圧吸着シールは、シール固定部と、シール固定部に連結されたシール伸縮部と、シール伸縮部に連結されたシール自由端部から少なくとも構成されており、
該シール伸縮部は、シール固定部の内縁部に連結された部分から物体表面に近づくにつれ狭まった部分から少なくとも構成されており、
該シール自由端部は、該シール伸縮部に連結された内縁部からさらに外側に拡がった部分から構成されており、
該シール固定部は、シール固定板部材を介して該吸盤フレームに固定されており、
該シール固定板部材の内縁部の位置は、該シール固定部の内縁部の位置の外側にあり、
該負圧吸着シールには、シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力と、シール自由端部を物体表面から離反させる摩擦減少力が作用しており、
該シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力と、該シール自由端部を物体表面から離反させる摩擦減少力の値を増減させることにより、負圧吸着シールと物体表面との摩擦力が調整され、
具体的には、該シール固定板部材が該シール固定部を押さえ付けている面積、すなわち、該シール固定板部材と該シール固定部との接触面積を増減することにより、負圧吸着シールと物体表面との摩擦力を調整することが可能である、ことを特徴とする負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいて、
該吸盤フレームの外周縁部と、該シール自由端部の外周縁部とを気密に連結する環状封止部材が具備されており、
而して、該吸盤フレームの外周部と、該シール固定部と、該シール伸縮部と、該シール自由端部と、該環状封止部材により包囲された気密な環状の空間が形成されており、
該気密な環状の空間へ流体を挿入するための、あるいは、該気密な環状の空間から該流体を排出するための弁機構を具備している、ことを特徴とする、負圧吸着移動装置の負圧吸着シール。
【請求項2】
該気密な環状の空間へ、負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より高い圧力の流体を挿入するための、あるいは、該気密な環状の空間から該流体を排出して該空間の流体の圧力を負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力と同じ圧力にするための弁機構を具備している、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧吸着移動装置の負圧吸着シール。
【請求項3】
該気密な環状の空間へ、負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より高い圧力の流体を挿入するための、あるいは、該気密な環状の空間から該流体を排出して該空間の流体の圧力を負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より低い圧力にするための弁機構を具備している、ことを特徴とする請求項1に記載の負圧吸着移動装置の負圧吸着シール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気や水の如とき包囲流体の圧力によって物体表面に吸着し且つそれに沿って移動することが可能な負圧吸着移動装置において、負圧領域を形成する負圧吸着シールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気や水の如とき包囲流体の圧力によって貯油タンクや船体等の物体表面に吸着し且つそれに沿って移動しながら、物体表面へ研掃材を混合された圧縮空気や、あるいは超高圧水を噴射することにより、物体表面に付着する旧塗膜やさび等の異物を除去し、あるいは噴射された研掃材により物体表面を粗面化し、よって塗装の素地調整を行ったり、あるいは非破壊検査を実施するために物体表面を清浄にする装置として、例えば特公昭60-26752号公報(米国特許第4,095,378号明細書及び図面)に開示された装置や、特開平9-76156号公報(米国特許第5,904,612号明細書及び図面)に開示された装置を挙げることができる。
かかる装置は、噴射ケース本体と、噴射ケース本体に装着された移動手段としての車輪と、噴射ケース本体に連結されその自由端部が物体表面に接触せしめられる吸着シールと、噴射ケース本体、物体表面及び吸着シールによって規定された減圧空間内の流体を外部に排出するための真空生成手段と備えている。かかる装置においては、真空生成手段が付勢されると減圧空間内の流体が外部に排出され、減圧空間内外の流体圧力差に起因して噴射ケース本体に作用する流体圧力は車輪を介して物体表面に伝達され、かかる流体圧力によって装置が物体表面に吸着される。また、かかる吸着状態において電動モータの如き駆動手段によって車輪を回転駆動せしめると、上記車輪の作用によって装置は物体表面に沿って移動する。なお、かかる装置には、物体表面に研掃材を噴射するノズル等の研掃材噴射手段が装着されている。
特開2014-008565号公報に開示された装置においては、空気や水の如とき包囲流体の圧力によって物体表面に吸着し且つそれに沿って移動しながら、物体表面へ、水などの高圧流体や、あるいは研掃材を混合された高圧流体を噴射することにより、物体表面に付着する旧塗膜やさび等の異物を除去し、あるいは物体表面を粗面化することが可能な、表面処理装置を提案している。
また、空気や水の如とき包囲流体の圧力によって物体表面に吸着し且つそれに沿って移動しながら、物体表面へ、アルミニウム合金などの溶射材を加熱、溶融して吹き付け、物体表面に溶射材の被膜を形成することが可能な、表面処理装置を提案している。
また、ノズルユニットを該走行装置の移動方向と交差する一つの軸方向に往復運動を繰り返すだけではなく、更に、該走行装置の移動方向と交差するもう一つの軸方向にも往復運動を繰り返すように往復運動機構を構成することにより、物体表面を処理むらを発生させること無く効率良く処理することが可能な表面処理装置を提案している。
【文献】特公昭60-26752号公報
【文献】米国特許第4,095,378号明細書及び図面
【文献】特開平9-76156号公報
【文献】米国特許第5,904,612号明細書及び図面
【文献】特開2014-008565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールは、上述した特開2014-008565号公報に記載の負圧吸着シールを基礎にして、更なる機能の向上と性能の向上を目的としたものである。
先ず、負圧吸着移動装置のおさらいのために、負圧吸着移動機能の概要と、負圧吸着シールの機能の概要について述べる。
負圧吸着移動機能の概要を述べると、
負圧吸着移動装置は、吸盤フレームと、吸盤フレームの外周部に装着されその自由端部が物体表面に接触する環状の負圧吸着シールと、吸盤フレームに走行フレームを介して装着された移動手段としての車輪と、吸盤フレームと負圧吸着シールと物体表面とによって包囲された減圧空間の内部の流体を外部に排出するための負圧生成手段とを具備している。
かかる装置においては、負圧生成手段が付勢されると減圧空間の流体が外部に排出され、減圧空間の内外の流体圧力差に起因して、吸盤フレームと負圧吸着シールに作用する流体圧力は車輪を介して物体表面に伝達され、かかる流体圧力によって装置が物体表面に負圧吸着する。
また、かかる負圧吸着状態において、電動モータの如き駆動手段によって車輪を回転駆動すると、該車輪の作用により装置は物体表面に沿って移動する。
負圧吸着シールの機能の概要について述べると、負圧吸着シールのポリウレタンなどの柔軟材料から形成された自由端部は減圧空間の内外の流体圧力差に起因して物体表面へ押し付けられて物体表面に密着し、外部の流体が減圧空間の内部へ流入するのを極力阻止する。負圧吸着シールの基本形状について、全体形状は環状であり、吸盤フレームの外周部に装着された部分から物体表面に近づくにつれラッパ状に拡がっており、該形状に起因して負圧吸着シールはセルフシール機能を備えている。
本発明が解決しようとする課題について述べると、船体などの大型構造物の物体表面には、鋼板を重ねて溶接した段差部分などの突起部分がいろいろあり、負圧吸着シールが該突起部分に遭遇しても自由端部がめくれて負圧吸着機能を喪失しないような負圧吸着シールを提案するものである。
また、自由端部と物体表面との摩擦力を低減可能な負圧吸着シールを提案するものである。
さらに、本発明が解決しようとする課題について述べると、前述のように、船体などの大型構造物の物体表面には突起部分がいろいろあり、負圧吸着移動装置を該物体表面へ、最初に負圧吸着させる際に、該突起部分の存在に起因して、該物体表面と該負圧吸着シールとの間の隙間が大きすぎてなかなか負圧吸着させることが出来ない、という問題があった。本発明は、物体表面に突起部分があっても、容易に負圧吸着させることが出来る負圧吸着シールを提案するものである。
さらに、自由端部と物体表面との摩擦力を、さらにいっそう、低減可能な負圧吸着シールを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の技術的解決課題を達成するために、本発明の負圧吸着シールは、吸盤フレームの外周部に装着されたシール固定部と、シール固定部に連結されたシール伸縮部と、シール伸縮部に連結されたシール自由端部から少なくとも構成されている。
該シール固定部は、環状で板状であり、その外周部の形状は吸盤フレームの外周形状とほぼ同一であり、その内縁部の形状は吸盤フレームの外周形状と相似形である。
該シール伸縮部は、シール固定部の内縁部に連結された部分から物体表面に近づくにつれ狭まった部分と、該一番狭まった部分から物体表面に近づくにつれラッパ状に拡がった部分から構成されている。
該シール自由端部は、環状で板状であり、シール伸縮部の該一番ラッパ状に拡がった部分に連結された内縁部から、さらに外側に拡がった部分から構成されている。
該シール固定部はシール固定板部材により該吸盤フレームに固定されている。
該シール固定板部材は、環状で板状であり、その外周部の形状は吸盤フレームの外周形状とほぼ同一であり、その内縁部の形状は外周部の形状と相似形である。
該シール固定板部材の内縁部の位置は、該シール固定部の内縁部と同位置かまたは外側にある。
本発明の負圧吸着シールには、シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力と、シール自由端部を物体表面から離反させる摩擦減少力が作用している。
本発明の負圧吸着シールにおいては、該シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力と、該シール自由端部を物体表面から離反させる摩擦減少力の値を増減させることにより、負圧吸着シールと物体表面との摩擦力を調整することが可能である。
本発明の負圧吸着シールは、該シール固定板部材が該シール固定部を押さえ付けている面積、すなわち、該シール固定板部材と該シール固定部との接触面積を増減することにより、負圧吸着シールと物体表面との摩擦力を調整することが可能である。
すなわち、負圧吸着移動装置においては、負圧吸着シールと物体表面との摩擦力を駆動車輪と物体表面との摩擦力よりも減少させることにより、負圧吸着移動装置が物体表面に沿って移動するものであるので、負圧吸着シールと物体表面との摩擦力を調整することは大変重要である。
なお、負圧吸着シールにおいては、シール伸縮部の一番狭まった部分に、シール伸縮部補強部材が装着されている。
シール伸縮部は物体表面と垂直方向に伸縮する機能を備える機能が大変重要であり、よって該機能の達成のために低硬度のポリウレタンなどの柔軟材料から形成されるものであるが、該シール伸縮部は、物体表面に平行かつ減圧空間の内側から外側に向かう力に弱く、よって、装置が物体表面に沿って移動している際に、物体表面上の突起により該シール伸縮部が変形され、よって負圧吸着機能が喪失する、といった弱点を有している。
上記の弱点を改善するために、負圧吸着シールにおいては、シール伸縮部の一番狭まった部分に、環状のシール伸縮部補強部材が装着されている。
本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいては、該吸盤フレームの外周縁部と、該シール自由端部の外周縁部とを気密に連結する環状封止部材が具備されており、而して、該吸盤フレームの外周部と、該シール固定部と、該シール伸縮部と、該シール自由端部と、該環状封止部材により包囲された気密な環状の空間が形成されており、該気密な環状の空間へ流体を挿入するための、あるいは、該気密な環状の空間から該流体を排出するための弁機構を具備している。
あるいは、本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいては、該気密な環状の空間へ、負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より高い圧力の流体を挿入するための、あるいは、該気密な環状の空間から該流体を排出して該空間の流体の圧力を負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力と同じ圧力にするための弁機構を具備している。
負圧吸着移動装置を物体表面へ、最初に負圧吸着させる際に、突起部分の存在に起因して、物体表面と該負圧吸着シールとの間の隙間が大きすぎてなかなか負圧吸着させることが出来ない、という問題があったが、該気密な環状の空間へ、負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より高い圧力の流体を挿入することにより、該シール自由端部は突起のある物体表面に倣って変形して密着して隙間の大きさは最少となり、而して、負圧吸着移動装置は、物体表面に突起部分があっても、容易に負圧吸着することが出来る。
なお、負圧吸着移動装置は、物体表面に負圧吸着した後においては、負圧吸着シールの該気密な環状の空間から該流体が排出され、該空間の流体の圧力は負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力と同じ圧力に戻される。
あるいは、本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいては、該気密な環状の空間へ、負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より高い圧力の流体を挿入するための、あるいは、該気密な環状の空間から該流体を排出して該空間の流体の圧力を負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より低い圧力にするための弁機構を具備している。
負圧吸着移動装置は、物体表面に負圧吸着した後においては、負圧吸着シールの該気密な環状の空間から該流体が排出され、該空間の流体の圧力は、該弁機構の排気ポートに接続された負圧ポンプの作用により、負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より低い圧力に設定される。
本発明の負圧吸着シールには、シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力と、シール自由端部を物体表面から離反させる摩擦減少力が作用しているが、該空間の流体の圧力が負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より低い圧力に設定されると、シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力が減少するので、シール自由端部と物体表面との摩擦力を、さらにいっそう、低減することができる。
すなわち、本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいては、物体表面に突起部分があっても、容易に負圧吸着させることが出来る機能を有するが、さらに、シール自由端部と物体表面との摩擦力を、さらにいっそう、低減可能な機能を有する負圧吸着シールも提案するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、下記の効果をもたらすものである。
本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールは、上述した特開2014-008565号公報に記載の負圧吸着シールを基礎にして、更なる機能の向上と性能の向上を目的としたものである。
船体などの大型構造物の物体表面には、鋼板を重ねて溶接した段差部分などの突起部分がいろいろあるが、負圧吸着移動装置を物体表面へ、最初に負圧吸着させる際に、該突起部分の存在に起因して、物体表面と該負圧吸着シールとの間の隙間が大きすぎてなかなか負圧吸着させることが出来ない、という問題があったが、本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいては、該気密な環状の空間へ、負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より高い圧力の流体を挿入することにより、該シール自由端部は突起のある物体表面に倣って変形して密着して隙間の大きさは最少となり、而して、負圧吸着移動装置は、物体表面に突起部分があっても、容易に負圧吸着することが出来る。
負圧吸着移動装置は、物体表面に負圧吸着した後においては、負圧吸着シールの該気密な環状の空間から該流体が排出され、さらに、該弁機構の排気ポートに接続された負圧ポンプを具備すれば、該空間の流体の圧力を負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より低い圧力に設定することも可能である。
よって、本発明の負圧吸着シールには、シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力と、シール自由端部を物体表面から離反させる摩擦減少力が作用しているが、該空間の流体の圧力が負圧吸着移動装置を包囲する流体の圧力より低い圧力に設定されると、シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力が減少するので、シール自由端部と物体表面との摩擦力を、さらにいっそう、低減することができる。
すなわち、本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいては、物体表面に突起部分があっても、容易に負圧吸着させることが出来る機能を有するが、さらに、シール自由端部と物体表面との摩擦力を、さらにいっそう、低減可能な機能を有する負圧吸着シールも提案するものである。
よって、本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールは、物体表面に負圧を利用して吸着し、且つ物体表面に沿って移動可能な装置として、広範囲な分野において好都合に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明に従って構成された装置の好適実施例について、添付図を参照して更に詳細に説明する。
【実施例】
【0007】
吸盤フレーム22には負圧吸着シール23が装着されている。
負圧吸着シール23は、例えばポリウレタン等の比較的柔軟な素材から形成されており、物体表面01と平行な面で切断した断面の形状が長円形の環状を成している。
負圧吸着シール23は、物体表面01、吸盤フレーム22と協働して減圧空間02を規定する。
吸盤フレーム22には、サクションホース接続管222が溶着されており、サクションホース(図示せず)を介して真空ポンプの如き真空生成手段(図示せず)に接続される。従って、真空生成手段(図示せず)が付勢されると、減圧空間02内の大気の如き流体はサクションホース(図示せず)を通って外部に排出され、かくして減圧空間02は所要の通り減圧される。
吸盤フレーム22には、角パイプなどから形成された走行フレーム10が固定されている。
走行フレーム10の各々には、ギヤードモータ13と大小各1個の駆動車輪12が装着されており、大小各1個の駆動車輪12は、スプロケット14とローラチエーン15を介してギヤードモータ13により回転駆動される。
【0008】
負圧吸着シール23は、吸盤フレーム22の外周部に装着されたシール固定部231と、シール固定部231に連結されたシール伸縮部232と、シール伸縮部232に連結されたシール自由端部233から少なくとも構成されている。
該シール固定部231は、環状で板状であり、その外周部の形状とその内縁部の形状は吸盤フレーム22の外周形状と相似形である。
該シール伸縮部232は、シール固定部231の内縁部に連結された部分から物体表面01に近づくにつれ狭まった部分と、該一番狭まった部分から物体表面01に近づくにつれラッパ状に拡がった部分から構成されている。
該シール自由端部233は、環状で板状であり、シール伸縮部232の該一番ラッパ状に拡がった部分に連結された内縁部からさらに外側に拡がった部分から構成されている。
該シール固定部231はシール固定板部材24により該吸盤フレーム22に固定されている。
該シール固定板部材24は、環状で板状であり、その外周部の形状とその内縁部の形状は吸盤フレーム22の外周形状と相似形である。
該シール固定板部材24の内縁部の位置は、該シール固定部231の内縁部と同位置かまたは外側にある。
負圧吸着シール23には、シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力238と、シール自由端部233を物体表面01から離反させる摩擦減少力239が作用している。
負圧吸着シール23においては、該シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力238と、該シール自由端部233を物体表面01から離反させる摩擦減少力239の力の値を増減させることにより、負圧吸着シール23と物体表面01との摩擦力を調整することが可能である。
負圧吸着シール23は、該シール固定板部材24が該シール固定部231を押さえ付けている面積、すなわち、該シール固定板部材24と該シール固定部231との接触面積を増減することにより、負圧吸着シール23と物体表面01との摩擦力を調整することが可能である。
該シール固定板部材24と該シール固定部231との接触面積が増加すれば負圧吸着シール23と物体表面01との摩擦力が増加し、該シール固定板部材24と該シール固定部231との接触面積が減少すれば負圧吸着シール23と物体表面01との摩擦力が減少する。
負圧吸着移動装置においては、負圧吸着シール23と物体表面01との摩擦力を駆動車輪と物体表面01との摩擦力よりも減少させることにより、負圧吸着移動装置が物体表面01に沿って移動するものであるので、負圧吸着シール23と物体表面01との摩擦力を調整することは該移動機能を実現するために大変重要である。
なお、図示してはいないが、負圧吸着シール23においては、シール伸縮部232の物体表面01に近づくにつれラッパ状に拡がった部分と、シール自由端部233の内縁部とを一体化してもよい。
また、負圧吸着シール23においては、シール伸縮部232の一番狭まった部分に、シール伸縮部補強部材25が装着されている。
シール伸縮部232は物体表面01と垂直方向に伸縮する機能を備える機能が大変重要であり、よって該機能の達成のために低硬度のポリウレタンなどの柔軟材料から形成されるものであるが、該シール伸縮部232は、物体表面01に平行かつ減圧空間02の内側から外側に向かう力に弱く、よって、装置が物体表面01に沿って移動している際に、物体表面01上の突起により該シール伸縮部232が変形され、よって負圧吸着機能が喪失する、といった弱点を有している。
負圧吸着移動装置においては、負圧吸着シール23と物体表面01との摩擦力が減少すれば負圧吸着移動機能は向上するが、上記の弱点も発生する。
上記の弱点を改善するために、負圧吸着シール23においては、シール伸縮部232の一番狭まった部分に、環状のシール伸縮部補強部材25が装着されている。
伸縮部補強部材25の断面形状について、丸形であっても角形であっても、所定の強度を備えるものであれば形状はどちらでもよい。
なお、図示してはいないが、負圧吸着シール23においては、シール伸縮部232の一番狭まった部分とシール伸縮部補強部材25とを一体化してもよい。
本発明の負圧吸着シール23においては、
図9乃至
図10に図示のように、吸盤フレーム22の外周縁部とシール自由端部233の外周縁部が、シール固定部231の外周縁部の外側にあるように、吸盤フレーム22とシール自由端部233が拡大化されている。
吸盤フレーム22の外周縁部と、シール自由端部233の外周縁部との間の隙間には、吸盤フレーム22の外周縁部と、シール自由端部233の外周縁部とを気密に連結する、長円形で環状の封止部材27が具備されており、
而して、吸盤フレーム22の外周部と、シール固定部231と、シール伸縮部232と、シール自由端部233と、長円形環状封止部材27により包囲された気密な環状の空間が形成されている。
吸盤フレーム22には溶接ネジソケット28が溶着されており、溶接ネジソケット28には、該気密な環状の空間へ空気を挿入するための、あるいは、該気密な環状の空間から空気を排出するための3ポート電磁弁29が装着されている。
図9においては、3ポート電磁弁29の給気ポートには低圧エアコンプレッサ30が連結されており、例えば、1kgf/cm2程度の低圧の圧縮空気が該気密な環状の空間へ送気されると、シール自由端部233は膨らみ、よって、シール自由端部233は物体表面01の突起に倣って変形して物体表面01に密着し、よって、シール自由端部233と物体表面01との間の隙間の大きさは最少となり、而して、負圧吸着移動装置は、物体表面01に突起部分があっても、容易に負圧吸着することが出来る。
なお、負圧吸着移動装置は、物体表面01に負圧吸着した後においては、3ポート電磁弁29の給気ポートが閉じられて排気ポートが開くので、該気密な環状の空間から圧縮空気が排出され、よって、該空間の空気の圧力は負圧吸着移動装置を包囲する空気の圧力と同じ圧力に戻される。
図10においては、3ポート電磁弁29の給気ポートには低圧エアコンプレッサ30が連結されており、例えば、1kgf/cm2程度の低圧の圧縮空気が該気密な環状の空間へ送気されると、シール自由端部233は膨らみ、よって、シール自由端部233は物体表面01の突起に倣って変形して物体表面01に密着し、よって、シール自由端部233と物体表面01との間の隙間の大きさは最少となり、而して、負圧吸着移動装置は、物体表面01に突起部分があっても、容易に負圧吸着することが出来る。
なお、負圧吸着移動装置は、物体表面01に負圧吸着した後においては、3ポート電磁弁29の給気ポートが閉じられて排気ポートが開くので、該気密な環状の空間から圧縮空気が排出され、かつ、3ポート電磁弁29の排気ポートには負圧ポンプ31が連結されているので、該気密な環状の空間の空気の圧力は、例えば、-0.07kgf/cm2程度の負圧に設定される。
この時、負圧吸着シール23には、シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力と、シール自由端部233を物体表面01から離反させる摩擦減少力が作用しているが、該気密な環状の空間の空気の圧力が負圧に設定されると、シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力が減少するので、シール自由端部233と物体表面01との摩擦力を、さらにいっそう、低減することができる。
【0009】
以上の本発明の装置の好適実施例についての説明は、本発明の装置が大気中の表面上に在るものとして説明を行ったが、本発明の装置は水中においても適用されることができる。かかる場合の真空ポンプについては、水ポンプや水駆動エゼクタを用いることができる。
以上に本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、さまざまな変形あるいは修正ができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0010】
船体などの大型構造物の物体表面には、鋼板を重ねて溶接した段差部分などの突起部分がいろいろあるが、本発明の負圧吸着移動装置の負圧吸着シールにおいては、物体表面に突起部分があっても、容易に負圧吸着させることが出来る機能を有するが、さらに、シール自由端部と物体表面との摩擦力を、さらにいっそう、低減可能な機能を有する負圧吸着シールも提案するものである。
よって、物体表面に負圧を利用して吸着し、且つ物体表面に沿って移動可能な装置として、広範囲な分野において好都合に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に従って構成された装置の好適実施例を示す平面図。
【
図3】
図1に示す装置におけるA-Aの断面図であって、シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力238が大きい状態を示す図。
【
図5】
図3に示す装置の一部拡大断面図であって、シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力238が小さい状態を示す図。
【
図6】
図3に示す装置の一部拡大断面図であって、シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力238が小さい状態を示し、且つ、物体表面01にある突起部011が負圧吸着シール23を変形させている状態を示す図。
【
図7】
図1に示す装置におけるA-Aの断面図であって、シール自由端部233を物体表面01へ押付ける摩擦増大力238が大きい状態を示し、且つ、負圧吸着シール23にシール伸縮部補強部材25を装着した状態を示す図。
【
図9】
図1に示す装置におけるA-Aの断面図であって、吸盤フレーム22の外周縁部と、シール自由端部233の外周縁部とを気密に連結する、長円形で環状の封止部材27が具備されており、吸盤フレーム22には3ポート電磁弁29が装着されている状態を示す図。
【
図10】
図1に示す装置におけるA-Aの断面図であって、吸盤フレーム22の外周縁部と、シール自由端部233の外周縁部とを気密に連結する、長円形で環状の封止部材27が具備されており、吸盤フレーム22には3ポート電磁弁29が装着されている状態を示す図。
【符号の説明】
【0012】
01:物体表面
011:突起部
02:減圧空間
10:走行フレーム
12:駆動車輪
13:ギヤードモータ
14:スプロケット
15:ローラチェーン
20:走行方向
22:吸盤フレーム
222:サクションホース接続管
223:流体吸引方向
23:負圧吸着シール
231:シール固定部
232:シール伸縮部
233:シール自由端部
234:シール自由端縁部
235:シール固定ボルト部材
238:シール自由端部を物体表面へ押付ける摩擦増大力の方向
239:シール自由端部を物体表面から離反させる摩擦減少力の方向
24:シール固定板部材
25:シール伸縮部補強部材
27:長円形環状封止部材
28:溶接ネジソケット
29:3ポート電磁弁
30:低圧エアコンプレッサ
31:負圧ポンプ