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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】電力増幅回路及びアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/32 20060101AFI20230516BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20230516BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20230516BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
H03F1/32 141
H03F3/24
H03F3/68 220
H04B1/04 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019024662
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020136772
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】細田 雅之
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0163217(US,A1)
【文献】国際公開第2019/000168(WO,A1)
【文献】特開2008-205858(JP,A)
【文献】特開2020-72306(JP,A)
【文献】特表2020-526150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-3/72
H04B1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の増幅器のうち少なくとも一つの増幅器に印加するバイアスを制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、電力増幅回路。
【請求項2】
複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、電力増幅回路。
【請求項3】
前記バイアスは、増幅器に含まれるトランジスタのゲートに印加するゲートバイアスである、請求項に記載の電力増幅回路。
【請求項4】
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器を備え、
前記制御部は、前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する、請求項1又は3に記載の電力増幅回路。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1の歪み特性と前記第2の歪み特性とが揃うように制御する、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力増幅回路。
【請求項6】
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と相補的に動作する複数の移相器を前記抽出部と前記選択部との間に備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の電力増幅回路。
【請求項7】
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの各々に対して設けられ、対応するアンテナに信号を出力する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の増幅器のうち少なくとも一つの増幅器に印加するバイアスを制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、アンテナ装置。
【請求項8】
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの各々に対して設けられ、対応するアンテナに信号を出力する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅回路及びアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アレイアンテナから放射される信号の歪み特性と逆の歪み特性を与えるプリディストーション信号をベースバンド信号に乗算することで、複数の電力増幅器を起因とする歪みを補償する歪み補償部を備えたアンテナ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/167145号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数の増幅器の夫々の歪み特性にばらつきがあると、歪み補償を行っても、それらの増幅器の各々から出力される信号に歪みが残る場合がある。
【0005】
そこで、本開示は、複数の増幅器の各々の出力信号に生ずる歪みを低減可能な電力増幅回路及びアンテナ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の増幅器のうち少なくとも一つの増幅器に印加するバイアスを制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、電力増幅回路を提供する。
【0007】
また、本開示は、
複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、電力増幅回路を提供する。
【0008】
また、本開示は、
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの各々に対して設けられ、対応するアンテナに信号を出力する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の増幅器のうち少なくとも一つの増幅器に印加するバイアスを制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、アンテナ装置を提供する。
【0009】
また、本開示は、
前記複数のアンテナの各々に対して設けられ、対応するアンテナに信号を出力する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部と、
前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備え
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、アンテナ装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、複数の増幅器の各々の出力信号に生ずる歪みを低減可能な電力増幅回路及びアンテナ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図2】増幅器及びバイアス印加部の構成例を示す図である。
図3】増幅器の歪み特性を例示する図である。
図4】複数の増幅器の各々の歪み特性が揃っていない状態を例示する図である。
図5】複数の増幅器の各々の歪み特性がほぼ揃っている状態を例示する図である。
図6】複数の増幅器の各々の歪み特性が揃っていない状態を例示する図である。
図7】選択部の第1の構成例を示す図である。
図8】第2の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図9】選択部の第2の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本開示の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。図1に示されるアンテナ装置1000は、高データ容量・長距離の無線伝送を実現するために、アレイアンテナ技術、多値変調技術および電力増幅器の歪み補償技術を使用する。
【0014】
アレイアンテナ技術は、電力増幅器(PA)からの出力電力をアレイ状に並べた複数のアンテナから放出することで、複数のアンテナから出力された電波どうしの干渉を利用し電波の指向性を向上させる技術である。アレイアンテナ技術を利用すれば、同一の電力でより長距離の通信を行うことができる。
【0015】
さらに、複数のアンテナそれぞれに複数の電力増幅器を結線することにより、単一の電力増幅器では扱うことのできない電力を空間に放出することが可能となる。その結果、指向性が高いうえに、出力の大きい送信機を構成することが可能となるため、さらに長距離の通信を行うことが可能となる。
【0016】
多値変調技術は、振幅、位相、あるいはそれらの両方の変調を組み合わせることで、与えられた周波数帯域内でより高いデータ容量で通信するための技術である。伝送する電波の波形の振幅あるいは位相を多段階に分割し、それらに多数の符号を割り当てて通信を行うため、振幅や位相の誤差により正しい符号の伝達ができない場合がある。より多値化が進むにつれ、エラーのない通信を行うために許容される誤差を小さく抑えることが求められる。
【0017】
PAは、アンテナから出力する大電力の電波を生成するための増幅器であり、一般的に、PAの出力波形には歪みが含まれる。同一の定格のPAで考えると、歪みが小さい範囲で用いる場合の出力は小さいが、大きな出力を得ようとすると、歪みが大きくなる傾向がある。歪みが大きくなると、変調における伝送符号のエラー率(BER;ビットエラー率)の上昇を招くこと、ACPR(隣接チャネル漏洩電力比)の上昇を招くことから、通信品質の低下が起こる。特に、隣接チャネルへの許容される漏洩電力は、法令で規制されている。
【0018】
ゆえに、長距離の無線伝送を実現するためのPAには、歪み補償技術が適用される場合が一般的である。
【0019】
アレイアンテナ技術を使用するアンテナ装置に適用される歪み補償技術の具体例として、アレイアンテナへの出力の合成波形に基づいて歪み補償を行う技術と、PAひとつひとつに対して個別に歪み補償を行う技術とが存在する。
【0020】
前者は、アレイアンテナから出力される主ビーム方向への合成出力に対して、歪みを適切に低減できる。しかしながら、PAごとに特性のばらつきがある場合、側波帯(サイドローブとも呼ばれる)方向への合成出力については、歪みが低減されず、条件によっては歪みを増大させるおそれがある。
【0021】
後者は、ビームの方向によらず適切な歪み低減を実現しやすい。しかしながら、PAと同数の歪み補償ブロックを設けるので、回路規模や消費電力の増大が生じたり、システム全体の電力利用効率が大幅に低下したりすることが懸念される。特に、高データ容量の通信においては、デジタルプリディストーション技術が専ら用いられるが、信号波形を検出し解析するために高速なADC(アナログ‐デジタル変換器)および高速な演算装置が要求される。これらの装置の消費電力は、比較的大きいので、アンテナ装置全体の消費電力も大きく増えてしまう。
【0022】
そこで、本開示の技術に係る一実施形態は、歪み補償部によって生ずる消費電力を抑えるために、PAよりも少ない個数の歪み補償部を備える増幅回路及びアンテナ装置を提供する。また、本開示の技術に係る一実施形態は、複数のPAにより生ずる歪みをその少ない個数の歪み補償部で効果的に抑制することを提供する。
【0023】
具体的には、図1に示されるような電力増幅回路110を備えるアンテナ装置1000が提供される。アンテナ装置1000は、複数のアンテナ(図示の場合、4つのアンテナ61~64)と、それらの複数のアンテナに電力を供給する電力増幅回路110とを備える。電力増幅回路110は、複数のPA(図示の場合、4つのPA1~4)と、複数のPAに共通の一つの歪み補償部16とを備える。
【0024】
複数のPAに共通の一つの歪み補償部が各PAに起因する歪みをまとめて補償処理する場合、複数のPAの各々の歪み特性にばらつきがあると、複数の増幅器の各々から出力される信号の歪みが十分に補償処理されずに残るおそれがある。しかしながら、複数のPAの各々の歪み特性がほぼ揃っていれば、複数のPAに共通の一つの歪み補償部16が歪み補償処理を行っても、複数の増幅器の各々から出力される信号の歪みを十分に抑制することができる。
【0025】
次に、複数のPAの各々の歪み特性を揃えるための構成を備えるアンテナ装置1000について、より詳細に説明する。
【0026】
アンテナ装置1000は、電力増幅回路110と、複数のアンテナ61~64と、ベースバンドプロセッサ11とを備える。アンテナ装置1000は、電力増幅回路110により増幅された高周波信号に基づいて、複数のアンテナ61~64から電波を送信する。アンテナ装置1000は、例えば、TDD(Time Division Duplex)方式又はFDD(Frequency Division Duplex)で電波を送受信するフェーズドアレイアンテナ装置である。しかし、通信方式は、これらに限られない。また、アンテナ装置1000の具体例として、無線基地局、携帯電話、スマートフォン、IoT(Internet of Things)機器などが挙げられるが、その具体例は、これらに限られない。
【0027】
アンテナ61~64は、それぞれ、電力増幅回路110により増幅された送信信号(高周波信号)が供給されることにより、当該送信信号に対応する電波を送信する素子である。アンテナ61~64には、電力増幅回路110の出力段に備えられる複数のPA1~4のうち、対応するPAにより増幅された送信信号が供給される。
【0028】
なお、図1は、アンテナとPAとの個数がそれぞれ4つ場合を例示するが、その個数が2以上の他の数の場合にも、本開示の技術は適用可能である。また、1つのアンテナに対して複数の、例えば8つのPAが接続されてもよい。
【0029】
ベースバンドプロセッサ11は、アンテナ装置1000が送信すべき送信データ(デジタル信号)を例えば直交変調し、直交変調後のデジタル信号であるベースバンド信号を、電力増幅回路110の歪み補償部16に出力する。ベースバンドプロセッサ11は、ベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部の一例である。
【0030】
電力増幅回路110は、歪み補償部16、フィルタ24,25、アップコンバータ21、発振器22、複数の移相器31~34、複数のPA1~4、バイアス印加部80、抽出部50、複数の移相器71~74、選択部101及びダウンコンバータ23を備える。
【0031】
歪み補償部16は、複数のPA1~4に対してDPD(デジタルプリディストーション)等の歪み補償を行う。歪み補償部16は、補償処理部12、DAC(デジタル‐アナログ変換器)13、メモリ18、演算回路19、遅延調整部10、特徴検出部17及びADC(アナログ‐デジタル変換器)15を備える。
【0032】
補償処理部12は、メモリ18に格納された歪み補償係数等のプリディストーションデータを用いて、ベースバンドプロセッサ11から供給されるベースバンド信号に対して歪み補償処理を施し、歪み補償処理が施されたベースバンド信号を生成する。補償処理部12の機能は、例えば、メモリに読み出し可能に記憶されるプログラムによってDSP(Digital Signal Processor)が動作することにより実現される。
【0033】
DAC13は、補償処理部12による歪み補償処理が施されたベースバンド信号(歪み補償処理後のベースバンド信号)をデジタルからアナログに変換して、アナログのベースバンド信号をフィルタ24を介してアップコンバータ21に出力する。
【0034】
アップコンバータ21は、DAC13から供給されるベースバンド信号に、発振器22により生成されるローカル信号を乗算することによって、アナログのベースバンド信号を高周波帯の信号にアップコンバートする。発振器22は、無線周波数のローカル信号を生成する局所発振器(LO)である。アップコンバータ21は、アップコンバートされた高周波信号(送信信号)を出力する。アップコンバータ21から出力される送信信号は、不図示の分配器により、複数の移相器31~34に分配される。
【0035】
移相器31~34は、それぞれ、対応するPAの前段に設けられる。移相器31~34は、それぞれ、アンテナ61~64の各々の指向性に応じて、分配された後に入力される高周波信号の位相を調整する。移相器31~34は、それぞれ、位相調整後の高周波信号を、複数のPA1~4のうち対応するPAに出力する。
【0036】
PA1~4は、それぞれ、移相器31~34のうち対応する移相器から供給される高周波信号の電力を増幅する増幅器である。PA1~4は、それぞれ、対応する移相器から入力される高周波信号を増幅し、増幅後の高周波信号を、複数のアンテナ61~64のうち対応するアンテナに出力する。
【0037】
電力増幅回路110は、複数のPA1~4の各々の歪み特性を検出する検出部90を備える。図1に示す検出部90は、抽出部50、移相器71~74、選択部101及び歪み検出部91を有する。
【0038】
抽出部50は、PA1~4の各々の出力信号から複数の信号を抽出する。抽出部50は、PA1とアンテナ61との間の信号ラインに挿入された第1の方向性結合器51と、PA2とアンテナ62との間の信号ラインに挿入された第2の方向性結合器52とを有する。また、抽出部50は、PA3とアンテナ63との間の信号ラインに挿入された第3の方向性結合器53と、PA4とアンテナ64との間の信号ラインに挿入された第4の方向性結合器54とを有する。方向性結合器51~54は、それぞれ、PA1~4の各々から出力される信号の一部を取り出して、PA1~4の各々から出力される信号の電力に応じた帰還信号を出力する。
【0039】
移相器71~74は、抽出部50と選択部101との間の信号ラインに挿入されており、対応する方向性結合器51~54から供給される帰還信号の位相を調整する。移相器71~74は、対応する移相器31~34と相補的に動作する。例えば、移相器71は、移相器31による移相量と同じ移相量で、移相器31による移相方向とは逆方向に、方向性結合器51から供給される帰還信号の位相を調整する。移相器72~74についても同様である。
【0040】
選択部101は、抽出部50により抽出された複数の信号(帰還信号)が入力される。選択部101は、歪み検出部91の特徴検出部17から指令される選択信号に基づいて、複数の帰還信号を一つずつ順次選択する回路である。
【0041】
歪み検出部91は、複数の帰還信号の中から選択部101により一つずつ選択された信号を、PA1~4の各々に分配される前のベースバンド信号(歪み補償処理が施される前のベースバンド信号)と比較することによって、PA1~4の各々の歪み特性を検出する。歪み検出部91は、例えば、ダウンコンバータ23、フィルタ25、ADC15、特徴検出部17及び遅延調整部10を有する。
【0042】
ダウンコンバータ23は、選択部101から供給されるアナログの帰還信号に、発振器22により生成されるベースバンド周波数のローカル信号を乗算することによって、アナログの帰還信号をベースバンドの信号にダウンコンバートする。ダウンコンバータ23は、ダウンコンバートされた帰還信号を生成し、生成した帰還信号をフィルタ25を介してADC15に出力する。
【0043】
ADC15は、複数の帰還信号の中から選択部101により一つずつ順次選択された帰還信号を、アナログからデジタルに一つずつ順次変換する。ADC15により生成されたデジタルの帰還信号は、特徴検出部17に供給される。また、ベースバンドプロセッサ11から供給されるベースバンド信号は、遅延調整部10により位相が調整されて、特徴検出部17に供給される。
【0044】
特徴検出部17は、ベースバンドプロセッサ11から供給されるベースバンド信号とADC15から供給される帰還信号とを比較して両信号の差分を算出することによって、当該帰還信号が抽出されたPAの歪み特性を検出する。複数の帰還信号の中から選択部101により順次一つずつ選択された帰還信号がADC15から順次供給されるので、特徴検出部17は、PA1~4の各々の歪み特性を全て検出できる。ベースバンド信号と比較される帰還信号が選択部101により一つずつ選択されるので、複数のPAと同数の特徴検出部が無くても、全てのPAの各々の歪み特性を検出できる。つまり、特徴検出部を含む歪み検出部の回路規模を抑えて、全てのPAの各々の歪み特性を検出できる。特徴検出部17の機能は、例えば、メモリに読み出し可能に記憶されるプログラムによってDSPが動作することにより実現される。
【0045】
特徴検出部17は、PAの歪み特性として、例えば、AM-AM歪みを検出してもよいし、AM-PM歪みを検出してもよい。AMは、Amplitude Modulationの略語であり、PMは、Phase Modulationの略語である。AM-AM歪みは、PAに入力される信号の振幅に対して、そのPAから出力される信号の振幅ずれを表す。AM-PM歪みは、PAに入力される信号の振幅に対して、そのPAから出力される信号の位相ずれを表す。
【0046】
電力増幅回路110は、検出部90により検出されたPA1~4の各々の歪み特性が揃うように、PA1~4のうち少なくとも一つのPAに印加するバイアスを制御する制御部26を備える。図1に示す制御部26は、演算回路19及びバイアス印加部80を有する。
【0047】
演算回路19は、検出部90の特徴検出部17により検出されたPA1~4の各々の歪み特性が揃うように、バイアス印加部80がPA1~4のうち少なくとも一つのPAに印加するバイアスを制御する。歪み補償部16は、検出部90の特徴検出部17により検出されたPA1~4の各々の歪み特性に基づいて、PA1~4の歪み補償を行う。
【0048】
このように、演算回路19及びバイアス印加部80が行うバイアス制御によって、PA1~4の各々の歪み特性を揃えることができる。各PAの歪み特性がほぼ揃った状態であれば、複数のPAに共通の一つの歪み補償部16(又は、補償処理部12)が歪み補償を行っても、複数のPAの夫々から出力される信号の歪みを十分に低減することができる。また、歪み補償を行う歪み補償部を複数のPAの各々に対して独立に設けなくてもよいので、歪み補償部の回路規模の縮小化が可能となる。その結果、電力増幅回路110及びアンテナ装置1000の小型化が可能となる。
【0049】
図2は、増幅器及びバイアス印加部の構成例を示す図である。バイアス印加部80は、複数のPAの各々の歪み特性が互いに高精度に揃うように、各PAに印加するバイアスを独立に制御(調整)可能なバイアス調整部81を有することが好ましい。
【0050】
各PAには、増幅用のトランジスタ40が含まれている。トランジスタ40のゲートに印加するゲートバイアスを変更すると、そのトランジスタ40を含むPAの歪み特性は、系統的に変化する。例えば、ゲートバイアスを小さくすると、AM-AM歪みが大きくなり、ゲートバイアスを大きくすると、AM-PM歪みが大きくなる。つまり、バイアス印加部80は、各PAに印加するゲートバイアスを適切な値に調整することによって、複数のPAの各々の歪み特性を揃えることができる。
【0051】
なお、トランジスタ40のドレインに印加するドレインバイアスを変更しても、そのトランジスタ40を含むPAの歪み特性が系統的に変化する場合がある。この場合、演算回路19は、複数のPAの各々の歪み特性が揃うように、バイアス印加部80が印加するドレインバイアスを制御してもよい。また、演算回路19は、バイアス印加部80によって、ゲートバイアスとドレインバイアスとの両方を制御してもよいし、いずれか一方のみを制御してもよい。
【0052】
図3は、増幅器の歪み特性を例示する図であり、より詳しくは、PA1の歪み特性の一つであるAM-PM歪みを例示する図である。図3は、PA1のAM-PM歪みが、PA1内のトランジスタ40のゲートバイアスVgの違いによって系統的に変化する場合を例示する。一方、図4は、複数の増幅器の各々の歪み特性が揃っていない状態を例示する図であり、より詳しくは、特徴検出部17により検出されたPA1~4の各々のAM-PM歪みを例示する図である。図3,4のようなケースでは、演算回路19は、バイアス印加部80がPA1に印加するゲートバイアスVgを-1.48Vから-1.52Vに低下させることで、図5に示されるように、PA1の歪み特性を他のPA2~4の歪み特性に近づけることができる。これにより、PA1~4の各々の歪み特性の間での相互の類似性が向上し、複数のPAの各々の歪み特性を揃えることができる。
【0053】
このように、図1の演算回路19は、特徴検出部17により検出された各々の歪み特性のうちで最も類似性の低い歪み特性が他の歪み特性に近づくように、当該最も類似性の低い歪み特性を持つPAに印加するバイアスを制御してもよい。これにより、複数のPAの各々の歪み特性が速やかに揃うので、補償処理部12が行う歪み補償処理によって、複数のPAの夫々から出力される信号の歪みを速やかに低減できる。
【0054】
また、演算回路19は、歪み検出部91の特徴検出部17により検出されたPA1~4の各々の歪み特性が揃うように、複数の移相器31~34のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御してもよい。歪み検出部91の特徴検出部17により検出された複数のPAの各々の歪み特性が揃うように、少なくとも一つの移相量が制御されることで、複数のPAの夫々から出力される信号の歪みを、複数のPAに共通の一つの歪み補償部16で効果的に低減することができる。
【0055】
例えば、図6は、複数の増幅器の各々の歪み特性が揃っていない状態を例示する図であり、より詳しくは、特徴検出部17により検出されたPA1~4の各々のAM-PM歪みを例示する図である。図6は、PA1のAM-PM歪みが、他のPA2~4のAM-PM歪みに対して全体的にオフセットしている場合を例示する。図6のようなケースでは、演算回路19は、PA1の前段の移相器31により調整される移相量を調整することによって、図5に示されるように、PA1の歪み特性を他のPA2~4の歪み特性に近づけることができる。これにより、PA1~4の各々の歪み特性の間での相互の類似性が向上し、複数のPAの各々の歪み特性を揃えることができる。
【0056】
このように、図1の演算回路19は、特徴検出部17により検出された各々の歪み特性のうちで最も類似性の低い歪み特性が他の歪み特性に近づくように、当該最も類似性の低い歪み特性を持つPAの前段の移相器により調整される移相量を制御してもよい。これにより、複数のPAの各々の歪み特性が速やかに揃うので、補償処理部12が行う歪み補償処理によって、複数のPAの夫々から出力される信号の歪みを速やかに低減できる。
【0057】
なお、PAの各々の歪み特性を揃えるため、PAに印加するバイアスの制御と移相器により調整される移相量の制御とは、どちらか一方のみを行ってもよいし、両方を行ってもよい。
【0058】
ところで、特徴検出部17は、上述のように、ベースバンドプロセッサ11から供給されるベースバンド信号とADC15から供給される帰還信号との差分に基づいて、PA1~4の各々の歪み特性を検出する。この際、特徴検出部17は、検出した歪み特性を表す歪み特徴データをPA1~4の各々について生成し、生成したPA1~4の各々の歪み特徴データをメモリ18に格納してもよい。演算回路19は、メモリ18に格納されたPA1~4の各々の歪み特徴データが互いに揃うように、PA1~4のうちの少なくとも一つのPAに印加するバイアスを制御してもよいし、移相器31~34の少なくとも一つにより調整される移相量を制御してもよい。
【0059】
PAの歪み特性を表す歪み特徴データの具体例として、PAの出力信号の位相データ、PAの出力信号の振幅データ、PAの入力信号の振幅変化に対する出力信号の位相変化率データ、PAの入力信号の振幅変化に対する出力信号の振幅変化率データなどがある。
【0060】
演算回路19は、これらのような特徴データが複数のPA間で揃うように、PA1~4のうちの少なくとも一つのPAに印加するバイアスを制御してもよいし、移相器31~34の少なくとも一つにより調整される移相量を制御してもよい。これにより、複数のPAの各々の歪み特性を相互に揃えることができる。
【0061】
また、特徴検出部17は、ベースバンドプロセッサ11から供給されるベースバンド信号とADC15から一つずつ順次供給される帰還信号との差分に基づいて、歪み補償係数等のプリディストーションデータを算出する。プリディストーションデータは、PA1~4の各々から出力される信号の歪み特性とは逆の歪み特性を補償処理部12がベースバンド信号に与えるためのデータである。各PAの歪み特性は上述の制御によりほぼ揃っているので、ADC15から一つずつ順次供給される帰還信号に基づいて算出されるプリディストーションデータを用いて歪み補償を行っても、複数のPAの夫々から出力される信号の歪みを十分に低減できる。
【0062】
プリディストーションデータの生成方式には、公知のLUT(Look Up Table)方式などがある。しかし、その生成方式は、これに限られない。
【0063】
図7は、選択部の第1の構成例を示す図である。図1に示す選択部101は、複数の単極双投スイッチ121~124の組み合わせにより形成されたスイッチアレー回路である。単極双投スイッチ121~124には、それぞれ、終端抵抗131~134が接続されている。歪み補償部16の特徴検出部17から指令される選択信号に基づいて、複数の単極双投スイッチ121~124のうち、一つのスイッチのみがダウンコンバータ23の側に接続され、残りのスイッチは終端抵抗の側に接続される。これにより、選択部101は、歪み検出部91の特徴検出部17から指令される選択信号に基づいて、複数の帰還信号を一つずつ順次選択できる。選択されていない残りの帰還信号は、終端抵抗に接続されるので、それらの残りの帰還信号の反射を防ぐことができる。
【0064】
図8は、第2の実施形態におけるアンテナ装置の構成例を示す図である。上述の実施形態と同様の構成及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略又は簡略する。図8に示すアンテナ装置1001も、複数のPAの各々の歪み特性を揃えるための構成を備える。アンテナ装置1001は、電力増幅回路111と、複数のアンテナ61~64と、ベースバンドプロセッサ11とを備える。電力増幅回路111は、複数のPA1~4の各々の歪み特性を検出する検出部90を備える。図8に示す検出部90は、抽出部50、移相器71~74、選択部102、合成器103、歪み検出部91,92を有する。
【0065】
歪み検出部91は、複数の帰還信号を選択部102により一つずつ選択させ、複数の帰還信号の中から選択部102により選択された一つの信号をベースバンド信号と比較することによって、当該一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する。この第1の歪み特性は、当該一つの信号に対応するPAの歪み特性を表す。
【0066】
合成器103は、複数の帰還信号のうち当該一つの信号とは異なる他の信号を合成する。例えば、PA1の帰還信号が選択部102により選択されている場合、合成器103は、残りのPA2~4の3つの帰還信号同士を合成する。他のPAの帰還信号が選択されている場合も同様に、残りのPAの帰還信号同士が合成される。
【0067】
歪み検出部92は、合成器103の合成により得られた合成信号をベースバンド信号と比較することによって、当該他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する。この第2の歪み特性は、当該他の信号に対応する残りの3つのPAの各々の歪み特性を平均化した歪み特性を表す。
【0068】
したがって、選択部102により選択される帰還信号を一つずつ順次切り替えることで、常に、PA1~4の個別の歪み特性を歪み検出部91により検出できるだけでなく、PA1~4全体の平均的な歪み特性を歪み検出部92により検出できる。このような構成であれば、2個の歪み検出部の回路規模で(複数のPAと同数の歪み検出部を用意することなく)、複数のPAの各々の歪み特性を取得できる。
【0069】
制御部26は、第1の歪み特性と第2の歪み特性とが揃うように、上述のバイアス又は移相量の少なくとも一方を制御する。これにより、複数のPAに共通の一つの歪み補償部16が歪み補償を行っても、複数のPAの夫々から出力される信号の歪みを十分に低減することができる。例えば、制御部26は、第1の歪み特性を表す歪み特徴データと第2の歪み特性を表す歪み特徴データとの差が所定の閾値以上あるか否かを判定する。制御部26は、当該差が所定の閾値以上あると判定した場合、第1の歪み特性を持つPAのバイアス又は当該PAの前段の移相器の移相量を変更することで、当該PAの歪み特性を残りのPAの歪み特性に速やかに揃えることができる。
【0070】
図9は、選択部の第2の構成例を示す図である。図9に示す選択部102は、複数の双極双投スイッチ141~143の組み合わせにより形成されたスイッチアレー回路である。歪み補償部16の特徴検出部17から指令される選択信号に基づいて、複数の双極双投スイッチ141~143が動作することによって、複数の帰還信号のうち、一つの信号がダウンコンバータ23側に転送され、残りの信号が合成器103に転送される。
【0071】
以上、本実施形態によれば、各PAの歪み特性はほぼ揃うので、歪み補償部16は、複数のPA1~4のうちの任意の一個のPAから順次出力される信号に基づき、複数のPA1~4の各々から出力される信号の歪みを補償できる。よって、複数のPAに共通の歪み補償部16によって全体の歪み特性を調整することが可能となる。
【0072】
以上、電力増幅回路及びアンテナ装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0073】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の増幅器のうち少なくとも一つの増幅器に印加するバイアスを制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備える、電力増幅回路。
(付記2)
前記制御部は、前記検出部により検出された前記各々の歪み特性のうちで最も類似性の低い歪み特性が他の歪み特性に近づくように、前記最も類似性の低い歪み特性を持つ増幅器に印加するバイアスを制御する、付記1に記載の電力増幅回路。
(付記3)
前記バイアスは、増幅器に含まれるトランジスタのゲートに印加するゲートバイアスである、付記1又は2に記載の電力増幅回路。
(付記4)
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器を備え、
前記制御部は、前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する、付記1から3のいずれか一項に記載の電力増幅回路。
(付記5)
複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備える、電力増幅回路。
(付記6)
前記制御部は、前記検出部により検出された前記各々の歪み特性のうちで最も類似性の低い歪み特性が他の歪み特性に近づくように、前記最も類似性の低い歪み特性を持つ増幅器の前段に設けられる移相器により調整される移相量を制御する、付記4又は5に記載の電力増幅回路。
(付記7)
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部とを有し、
前記検出部は、前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する、付記1から6のいずれか一項に記載の電力増幅回路。
(付記8)
前記検出部は、
前記複数の信号を前記選択部により一つずつ選択させ、前記複数の信号の中から前記選択部により選択された一つの信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記一つの信号に対応する第1の歪み特性を検出する第1の歪み検出部と、
前記複数の信号のうち前記一つの信号とは異なる他の信号を合成する合成器と、
前記合成器の合成により得られた合成信号を前記ベースバンド信号と比較することによって、前記他の信号に対応する第2の歪み特性を検出する第2の歪み検出部とを有する、付記7に記載の電力増幅回路。
(付記9)
前記制御部は、前記第1の歪み特性と前記第2の歪み特性とが揃うように制御する、付記8に記載の電力増幅回路。
(付記10)
前記選択部は、複数の双極双投スイッチの組み合わせにより形成された、付記8又は9に記載の電力増幅回路。
(付記11)
前記選択部は、複数の単極双投スイッチの組み合わせにより形成された、付記7に記載の電力増幅回路。
(付記12)
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と相補的に動作する複数の移相器を前記抽出部と前記選択部との間に備える、付記7から11のいずれか一項に記載の電力増幅回路。
(付記13)
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの各々に対して設けられ、対応するアンテナに信号を出力する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の増幅器のうち少なくとも一つの増幅器に印加するバイアスを制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備える、アンテナ装置。
(付記14)
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの各々に対して設けられ、対応するアンテナに信号を出力する複数の増幅器と、
前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する検出部と、
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性が揃うように、前記複数の移相器のうち少なくとも一つの移相器により調整される移相量を制御する制御部と、
前記検出部により検出された前記各々の歪み特性に基づいて、前記複数の増幅器の歪み補償を行う歪み補償部とを備える、アンテナ装置。
(付記15)
前記複数の増幅器の各々に分配される前のベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部と、
前記複数の増幅器の各々の出力信号から複数の信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部により抽出された前記複数の信号が入力される選択部とを有し、
前記検出部は、前記複数の信号の中から前記選択部により一つずつ選択された信号を、前記ベースバンド信号と比較することによって、前記複数の増幅器の各々の歪み特性を検出する、付記13又は14に記載のアンテナ装置。
(付記16)
前記複数の増幅器の各々に前段に設けられる複数の移相器と相補的に動作する複数の移相器を前記抽出部と前記選択部との間に備える、付記15に記載のアンテナ装置。
【符号の説明】
【0074】
1~4 PA
11 ベースバンドプロセッサ
12 補償処理部
16 歪み補償部
19 演算回路
26 制御部
31~34 移相器
40 トランジスタ
50 抽出部
51~54 方向性結合器
80 バイアス印加部
81 バイアス調整部
90 検出部
91,92 歪み検出部
101,102 選択部
103 合成器
110,111 電力増幅回路
121,122,123,124 単極双投スイッチ
141,142,143 双極双投スイッチ
1000,1001 アンテナ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9