(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】多重容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20230516BHJP
B65D 81/38 20060101ALI20230516BHJP
B65D 77/04 20060101ALI20230516BHJP
B29C 49/22 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B65D1/02 111
B65D81/38 D
B65D77/04 A
B29C49/22
(21)【出願番号】P 2019027049
(22)【出願日】2019-02-19
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】阿久沢 典男
(72)【発明者】
【氏名】飯野 裕喜
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-334907(JP,A)
【文献】特開2006-027692(JP,A)
【文献】特開2018-134813(JP,A)
【文献】特開2017-202853(JP,A)
【文献】特開2013-224164(JP,A)
【文献】特開昭62-221538(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164225(WO,A1)
【文献】特開2005-47538(JP,A)
【文献】国際公開第2018/186334(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
B65D 81/38
B65D 77/04
B29C 49/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容器と、前記内容器を内包する外容器とが剥離可能に積層された多重容器であって、
前記外容器及び前記内容器は、
ブロー金型内で、ホモポリマーのポリエステル系樹脂
からなる前記外容器に対応するプリフォームと、コポリマーのポリエステル系樹脂からなる前記内容器に対応するプリフォームとを、二軸延伸ブロー成形することによってボトル形状に成形され、
成形後に熱収縮が開始する温度を示す熱収縮温度は、前記外容器よりも前記内容器の方が低い、
多重容器。
【請求項2】
前記外容器の熱収縮温度は、熱機械分析において90℃以上95℃以下であり、
前記内容器の熱収縮温度は、熱機械分析において85℃以下である、
請求項1に記載の多重容器。
【請求項3】
前記外容器及び前記内容器のそれぞれの体積が、成形後の熱収縮によって変化した割合を熱収縮率とすると、
前記外容器の熱収縮率は、3%以下であり、
前記内容器の熱収縮率は、10%以上40%以下である、
請求項1又は2に記載の多重容器。
【請求項4】
前記内容器を構成する樹脂の固有粘度は、前記外容器を構成する樹脂の固有粘度よりも大きい、
請求項1~3の何れか1項に記載の多重容器。
【請求項5】
前記内容器を構成する樹脂の固有粘度は、0.75以上0.85以下であり、
前記外容器を構成する樹脂の固有粘度は、0.65以上0.75以下である、
請求項4に記載の多重容器。
【請求項6】
前記内容器の結晶化度は、前記外容器の結晶化度よりも低い、
請求項1~5の何れか1項に記載の多重容器。
【請求項7】
前記外容器の結晶化度は、25%以上40%以下であり、
前記内容器の結晶化度は、前記外容器の結晶化度より少なくとも5%低い、
請求項6に記載の多重容器。
【請求項8】
前記外容器と前記内容器との間に外気を導入可能な外気導入孔を更に備える、
請求項1~
7の何れか1項に記載の多重容器。
【請求項9】
前記内容器に対応するプリフォームの延伸部分における軸方向の外面側の長さは、前記外容器に対応するプリフォームの延伸部分における軸方向の内面側の長さに対して、0.5~0.8倍の長さである、
請求項1~
8の何れか1項に記載の多重容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重容器に関する。
【背景技術】
【0002】
剥離可能に積層された内容器と外容器との間に空隙を形成することによって、内容物の保温機能を実現しようとする多重容器が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の多重容器では、外容器が、ポリプロピレン系樹脂及び環状ポリオレフィン系樹脂から選ばれる合成樹脂を用いて成形され、内容器が、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて成形される。このため、特許文献1に記載の多重容器では、成形工程が複雑化したり、樹脂材料のコストが増大したりする。更に、特許文献1に記載の多重容器では、使用後に内容器と外容器とを分別し、内容器と外容器とで異なるリサイクル工程で処理する必要がある。更に、特許文献1に記載の多重容器では、内容物の保温機能を実現できる程度に大きな空隙を安定的に形成する点において、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明の課題の一例は、内容物の保温機能を有しリサイクルの効率性が高い容器を簡易に実現することが可能な多重容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る多重容器は、内容器と、前記内容器を内包する外容器とが剥離可能に積層された多重容器であって、前記外容器及び前記内容器は、ブロー金型内で、ホモポリマーのポリエステル系樹脂からなる前記外容器に対応するプリフォームと、コポリマーのポリエステル系樹脂からなる前記内容器に対応するプリフォームとを、二軸延伸ブロー成形することによってボトル形状に成形され、成形後に熱収縮が開始する温度を示す熱収縮温度は、前記外容器よりも前記内容器の方が低い。
【0007】
好適には、前記多重容器において、前記外容器の熱収縮温度は、熱機械分析において90℃以上95℃以下であり、前記内容器の熱収縮温度は、熱機械分析において85℃以下である。
【0008】
好適には、前記多重容器において、前記外容器及び前記内容器のそれぞれの体積が、成形後の熱収縮によって変化した割合を熱収縮率とすると、前記外容器の熱収縮率は、3%以下であり、前記内容器の熱収縮率は、10%以上40%以下である。
【0009】
好適には、前記多重容器において、前記内容器を構成する樹脂の固有粘度は、前記外容器を構成する樹脂の固有粘度よりも大きい。
【0010】
好適には、前記多重容器において、前記内容器を構成する樹脂の固有粘度は、0.75以上0.85以下であり、前記外容器を構成する樹脂の固有粘度は、0.65以上0.75以下である。
【0011】
好適には、前記多重容器において、前記内容器の結晶化度は、前記外容器の結晶化度よりも低い。
【0012】
好適には、前記多重容器において、前記外容器の結晶化度は、25%以上40%以下であり、前記内容器の結晶化度は、前記外容器の結晶化度より少なくとも5%低い。
【0014】
好適には、前記多重容器は、前記外容器と前記内容器との間に外気を導入可能な外気導入孔を更に備える。
【0015】
好適には、前記多重容器において、前記内容器に対応するプリフォームの延伸部分における軸方向の外面側の長さは、前記外容器に対応するプリフォームの延伸部分における軸方向の内面側の長さに対して、0.5~0.8倍の長さである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る多重容器は、内容物の保温機能を有しリサイクルの効率性が高い容器を簡易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1に係る多重容器の縦断面を模式的に示す図である。
【
図2】実施形態1に係る外容器及び内容器の諸特性を示す図である。
【
図3】実施形態1に係る外容器及び内容器の熱収縮に関する特性を示す図である。
【
図4】実施形態2に係る多重容器の縦断面を模式的に示す図である。
【
図5】実施形態3に係る多重容器を製造するためのプリフォームを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
本実施形態では、ボトル形状を有する多重容器1の中心軸Zに沿った方向を「軸方向」とも称し、多重容器1の中心軸Zを回転軸として周回する方向を「周方向」とも称し、多重容器1の中心軸Zに直交する方向を「径方向」とも称する。また、本実施形態では、多重容器1の口部3から底部6へ向かう軸方向を「下方」とも称し、多重容器1の底部6から口部3へ向かう軸方向を「上方」とも称する。また、本実施形態では、多重容器1の中心軸Zに沿った平面で多重容器1を切断した断面を「縦断面」とも称し、多重容器1の中心軸Zに直交する平面で多重容器1を切断した断面を「横断面」とも称する。
【0020】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る多重容器1の縦断面を模式的に示す図である。なお、
図1に示された多重容器1は、内容物が充填された後の状態のように、外容器10の内面と内容器20の外面とが剥離した後の状態を示している。
【0021】
多重容器1は、ボトル形状を有する容器である。多重容器1は、
図1に示されるように、多重容器1の一端部であり内容物の注出口21を有する口部3と、多重容器1の他端部であり接地部を有する底部6と、径方向外方に広がりながら口部3から下方へ延びる肩部4と、肩部4から下方に延びて底部6に連なる胴部5とを備える。
【0022】
多重容器1は、多重容器1の外郭を構成すると共に内容器20を内包するボトル形状の外容器10と、内容物を収容すると共に外容器10の内面に沿った形状を有する内容器20とを備える。多重容器1は、外容器10の内面と内容器20の外面とが剥離可能に積層された断熱ボトルである。多重容器1の内容物は、ホット飲料等の高温内容物であってもよいし、コールド飲料又は氷菓等の低温内容物であってもよい。
【0023】
外容器10及び内容器20は、合成樹脂製の容器であり、ブロー成形によって製造される。好適には、外容器10及び内容器20は、試験管形状のような管状のプリフォームを用いた二軸延伸ブロー成形によって製造される。具体的には、外容器10及び内容器20は、外容器10のプリフォームの中に内容器20のプリフォームを挿入して重ねた状態で、外容器10のプリフォームと内容器20のプリフォームとを、同時に延伸ブロー成形することによって製造される。或いは、外容器10及び内容器20は、外容器10のプリフォームを延伸ブロー成形した後に、外容器10の内側において内容器20のプリフォームを延伸ブロー成形することによって製造されてよい。或いは、外容器10及び内容器20は、いわゆる共射出成形又はオーバーモールド成形によって多層構造のプリフォームを成形し、多層構造のプリフォームを延伸ブロー成形することによって製造されてよい。
【0024】
外容器10及び内容器20は、ポリオレフィン系樹脂、エチレン-ビニル系共重合体、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフエニレンオキサイド樹脂、又は、生分解性樹脂を用いて成形される。好適には、外容器10及び内容器20は、ポリオレフィン系樹脂、又は、ポリエステル系樹脂を用いて成形される。より好適には、外容器10及び内容器20は、ポリエステル系樹脂を用いて成形される。このポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及び、これらの共重合ポリエステル等の樹脂が挙げられる。特に好適には、外容器10及び内容器20は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて成形される。
【0025】
多重容器1のブロー成形工程では、加熱されたブロー金型内のプリフォームに対して、延伸ロッドで延伸させると共にブローエアを吹き込んでブロー金型に押し付け、冷却エアを吹き込むことによって、ブロー金型に応じた形状の外容器10及び内容器20を成形する。この過程において、外容器10及び内容器20のそれぞれには、延伸等に起因して歪みが生じる。この歪みは、ブロー金型によるヒートセットにより緩和されるが、完全に除去されず、成形後の外容器10及び内容器20に残留する。
【0026】
このため、多重容器1では、成形後に加熱されると、外容器10及び内容器20に存在する残留歪みが緩和され、熱収縮が発生する。特に、多重容器1では、成形後に行われる内容物の充填工程において、容器の加熱殺菌処理や、内容物を高温にして充填する熱間充填が行われる。或いは、多重容器1では、成形後であって充填工程前に熱処理が行われる。このため、多重容器1では、成形後に加熱され、熱収縮が発生する。
【0027】
多重容器1の成形後に発生する熱収縮量は、内容器20の熱収縮量が外容器10よりも大きくなり易い。これは、内容器20には、外容器10よりも大きな残留歪みが存在し得るためである。内容器20の残留歪みが外容器10よりも大きくなる要因としては、内容器20の延伸倍率が外容器10の延伸倍率よりも高いことが挙げられる。また、この要因としては、ヒートセットによって残留歪みを緩和する際、外容器10がブロー金型に接しているのに対して内容器20がブロー金型に接していないことから、ヒートセットによる残留歪みの緩和効果が外容器10よりも小さいことが挙げられる。更に、この要因としては、内容器20には冷却エアが吹き込まれるため、残留歪みの緩和効果が外容器10よりも小さいことが挙げられる。
【0028】
内容器20の熱収縮量が外容器10よりも大きいと、多重容器1では、外容器10の内面に密着していた内容器20の外面が外容器10の内面から剥離し、外容器10と内容器20との間に空隙Aが形成され得る。すなわち、空隙Aは、外容器10と内容器20とが剥離することによって、外容器10と内容器20との間に形成される空間である。口部3は延伸されない非延伸部分であり、底部6は剥離しないよう構成可能であるため、空隙Aは、少なくとも、内容器20の胴部5と外容器10の胴部5とが、成形後の熱収縮により剥離することによって形成された空間であってよい。
【0029】
多重容器1では、空隙Aの径方向長さが十分に大きいと、空隙Aが断熱効果を十分に発揮して内容物の温度を維持することができるため、内容物の美味しさを持続させることができる。しかしながら、通常の多重容器では、成形後の熱収縮による外容器の熱収縮量と内容器の熱収縮量とに大きな差がなく、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aが形成され難い。特に、外容器と内容器とが同種の樹脂を用いて成形されると、その相溶性によって外容器と内容器との密着力が大きくなり、外容器と内容器とが剥離し難くなり、大きな空隙Aが形成され難い。一方、外容器と内容器とが異種の樹脂を用いて成形されると、使用後に外容器及び内容器を分別する必要があるといった不便が生じたり、成形工程が複雑となったり、樹脂材料のコストが増大したりし得る。
【0030】
そこで、多重容器1では、同種の樹脂を用いて成形され、熱間充填に適用可能な耐熱性を有すると共に、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aが成形後の熱収縮により形成されるよう、外容器10及び内容器20を
図2に示すような構成とする。
【0031】
図2は、実施形態1に係る外容器10及び内容器20の諸特性を示す図である。
図3は、実施形態1に係る外容器10及び内容器20の熱収縮に関する特性を示す図である。
【0032】
図3は、成形後の外容器10又は内容器20から取り出した試験片を加熱して試験片を昇温させる過程において、試験片の長さが変化する様子を示している。
図3の縦軸は、加熱前の長さを100%とした場合の試験片の長さを示し、
図3の横軸は、温度を示す。
【0033】
多重容器1では、
図2に示されるように、内容器20を構成する樹脂の固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)が、外容器10を構成する樹脂の固有粘度よりも大きくなるように構成される。好適には、多重容器1では、内容器20を構成する樹脂の固有粘度から外容器10を構成する樹脂の固有粘度を差し引いた差分値が、0.01以上となるように構成される。樹脂の固有粘度は、樹脂の分子量と相関がある。固有粘度が小さい樹脂は低分子量の樹脂であることが多く、固有粘度が大きい樹脂は高分子量の樹脂であることが多い。固有粘度が比較的大きい樹脂で成形される内容器20は、分子鎖が比較的長いため、ブロー成形での延伸時に分子鎖が絡まり易く、多くの分子鎖が絡まったままで固まり易いため、残留歪みが大きくなり易い。このため、内容器20は、成形後に加熱されると残留歪みが比較的大きく緩和されるため、熱収縮量が大きくなる。一方、固有粘度が比較的小さい樹脂で成形される外容器10は、分子鎖が比較的短いため、ブロー成形での延伸時に分子鎖が絡まり難く、残留歪みが比較的小さい。このため、外容器10は、内容器20ほどは残留歪みが緩和されないため、内容器20よりも熱収縮量が小さくなる。それにより、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに明確な差を設けることができるため、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aを安定的に形成することができる。
【0034】
特に、多重容器1では、外容器10の固有粘度が0.65以上0.75以下であり、内容器20の固有粘度が0.75以上0.85以下となるよう構成される。これにより、外容器10を構成する樹脂として、いわゆる耐熱用ペットボトルを構成するポリエチレンテレフタレート樹脂と同等の固有粘度を有することができる。更に、内容器20を構成する樹脂として、耐熱用でない一般的なペットボトルを構成するポリエチレンテレフタレート樹脂と同等の固有粘度を有することができる。そして、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに顕著な差を設けることができ、より大きな空隙Aをより安定的に形成することができる。
【0035】
また、多重容器1では、
図2に示されるように、内容器20の結晶化度が外容器10の結晶化度よりも低くなるように構成される。具体的には、多重容器1では、内容器20の胴部5の結晶化度が、外容器10の胴部5の結晶化度よりも低くなるように構成されてよい。多重容器1では、口部3は延伸されない非延伸部分であり、底部6は剥離しないよう構成可能であると共に、収容空間Sの大部分が胴部5に位置付けられるためである。外容器10及び内容器20は、結晶部と非結晶部とが混在する結晶性樹脂を用いて成形される。結晶化度は、結晶部及び非結晶部を含む全体積に占める結晶部の比率を示す。結晶部は、分子鎖が比較的規則的に整列して固化した部分であるため、分子鎖の結合力が強く、軟化させて分子鎖を動き易くするためには大きな熱量が必要となる。このため、結晶化度が高い外容器10では、比較的高い温度でないと分子鎖が動き易くならないため、耐熱性が高くなると共に、残留歪みが緩和されて熱収縮が開始される温度が高くなる。一方、結晶化度が低い内容器20では、外容器10よりも低い温度で分子鎖が動き易くなるため、外容器10よりも耐熱性が低くなると共に、残留歪みが緩和されて熱収縮が開始される温度が低くなる。それにより、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに明確な差を設けることができるため、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aを安定的に形成することができる。
【0036】
特に、多重容器1では、外容器10の結晶化度が25%以上40%以下、内容器20の結晶化度が外容器10より少なくとも5%低くなるよう構成される。これにより、外容器10は、いわゆる耐熱用ペットボトルと同等の耐熱性及び熱収縮量を有することができる。更に、内容器20は、耐熱用でない一般的なペットボトルと同等の耐熱性及び熱収縮量を有することができる。そして、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに顕著な差を設けることができ、より大きな空隙Aをより安定的に形成することができる。
【0037】
また、多重容器1では、
図2に示されるように、成形後に熱収縮が開始する温度を示す熱収縮温度は、外容器10よりも内容器20の方が低くなるように構成される。熱収縮温度は、成形後の外容器10又は内容器20から取り出した試験片を加熱した際に、試験片の長さが、加熱前の長さに対して99.5%となった際の温度であってよい。熱収縮温度が低いと、昇温過程において残留歪みが緩和され始める時期が早くなる。このため、熱収縮温度が低い内容器20では、一定期間において残留歪みが比較的大きく緩和されるため、熱収縮量が大きくなる。一方、熱収縮温度が高い外容器10では、内容器20ほどは残留歪みが緩和されないため、内容器20よりも熱収縮量が小さくなる。それにより、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに明確な差を設けることができるため、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aを安定的に形成することができる。
【0038】
特に、多重容器1では、外容器10の熱収縮温度が熱機械分析(Thermal Mechanical Analysis:TMA)において90℃以上95℃以下、内容器20の熱収縮温度が熱機械分析において85℃以下となるように構成される。もっとも、熱収縮温度は、ガラス転移温度以上の温度である。このため、内容器20の熱収縮温度は、内容器20の成形に用いられる樹脂のガラス転移温度以上であり、且つ、85℃以下であってよい。これにより、外容器10は、いわゆる耐熱用ペットボトルと同等の耐熱性及び熱収縮量を有することができる。更に、内容器20は、耐熱用でない一般的なペットボトルと同等の耐熱性及び熱収縮量を有することができる。そして、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに顕著な差を設けることができ、より大きな空隙Aをより安定的に形成することができる。
【0039】
また、多重容器1では、
図2に示されるように、内容器20がコポリマーのポリエステル系樹脂を用いて成形され、外容器10がホモポリマーのポリエステル系樹脂を用いて成形されるように構成される。好適には、多重容器1では、内容器20がコポリマーのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて成形され、外容器10がホモポリマーのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて成形される。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレングリコールとテレフタル酸を縮重合して生成されるポリエステル系樹脂である。ホモポリマーのポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレングリコール及びテレフタル酸のみを出発物質とする。コポリマーのポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレングリコール及びテレフタル酸だけでなく、イソフタル酸等の他の化学物質をも出発物質とする。
【0040】
ホモポリマーのポリエチレンテレフタレート樹脂は、1種類のモノマーから成るため、分子鎖が密に集合しており、結晶化度が高くなり易い。コポリマーのポリエチレンテレフタレート樹脂は、2種以上のモノマーから成るため、ホモポリマーよりも結晶化度が低くなり易い。このため、ホモポリマーのポリエステル系樹脂を用いて成形される外容器10は、耐熱性が比較的高くなると共に、熱収縮温度が比較的高くなる。一方、コポリマーのポリエステル系樹脂を用いて成形される内容器20は、外容器10よりも耐熱性が低くなると共に、外容器10よりも熱収縮温度が低くなる。それにより、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに明確な差を設けることができるため、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aを安定的に形成することができる。
【0041】
また、多重容器1では、
図2に示されるように、外容器10の熱収縮率が3%以下であり、内容器20の熱収縮率が10%以上40%以下であるように構成される。この熱収縮率は、外容器10及び内容器20のそれぞれの体積が、成形後の熱収縮によって変化した割合である。この熱収縮率は、90℃の内容物を3分間充填することによって熱収縮させた場合の、外容器10及び内容器20の体積変化率であってよい。それにより、多重容器1では、
図3に示されるように、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに顕著な差を設けることができ、より大きな空隙Aをより安定的に形成することができる。
【0042】
なお、多重容器1では、外容器10及び内容器20が、
図2に示された諸特性の全てを有している必要はなく、
図2に示された諸特性の一部だけを有していてもよい。例えば、多重容器1では、外容器10及び内容器20が、
図2に示された「固有粘度」の特性だけを有していてもよい。
【0043】
以上のように、実施形態1に係る多重容器1では、外容器10及び内容器20が、同種の樹脂を用いて成形され、
図2に示されるような特性を有するように構成される。このため、実施形態1に係る多重容器1では、熱間充填に適用可能な耐熱性を有すると共に、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aを安定的に形成することができる。しかも、実施形態1に係る多重容器1では、外容器10及び内容器20が、ポリエステル系樹脂、好適には、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて成形される。すなわち、実施形態1に係る多重容器1では、外容器10及び内容器20が、ガスバリア性が高く安価で入手が容易な樹脂を用いて、二軸延伸ブロー成形という既存の成形方法を用いて成形される。加えて、実施形態1に係る多重容器1では、使用後に外容器10及び内容器20を分別する必要がなく、既存のリサイクル工程で一括して処理することができる。
【0044】
それにより、実施形態1に係る多重容器1では、リサイクルの効率性が高い上に、成形工程が複雑となったり、樹脂材料のコストが増大したりすることを抑制しつつ、断熱効果を十分に発揮し得る程度の大きな空隙Aを安定的に形成することができる。よって、実施形態1に係る多重容器1は、内容物の保温機能を有しリサイクルの効率性が高い容器を簡易に実現することができ、内容物の美味しさを持続させることができる。
【0045】
[他の実施形態]
実施形態2及び3に係る多重容器1について説明する。実施形態2及び3に係る多重容器1の説明において、実施形態1に係る多重容器1と同様の構成及び動作に係る説明については、重複する説明となるため省略する。
【0046】
図4は、実施形態2に係る多重容器1の縦断面を模式的に示す図である。なお、
図4に示された多重容器1は、内容物が充填された後の状態のように、外容器10の内面と内容器20の外面とが剥離した後の状態を示している。
【0047】
実施形態2に係る多重容器1は、外容器10と内容器20との間に外気を導入可能な外気導入孔11を更に備える。具体的には、外気導入孔11は、
図4に示されるように、外容器10の口部3に設けられ、空隙Aと連通してよい。或いは、外気導入孔11は、外容器10の口部3と内容器20の口部3とが固定される部分にスリットとして設けられてもよい。
【0048】
実施形態1に係る多重容器1では、外容器10の内面に密着していた内容器20の外面が外容器10の内面から剥離し、外容器10と内容器20との間に空隙Aが形成されると、空隙Aは、真空に近い状態となり得る。真空に近い状態の空隙Aは、伝熱し難いため、実施形態1に係る多重容器1では、高い断熱効果を発揮し得る。
【0049】
一方、実施形態2に係る多重容器1では、外容器10の内面に密着していた内容器20の外面が外容器10の内面から剥離する際、外気導入孔11から空隙Aへ向けて外気が導入される。それにより、実施形態2に係る多重容器1では、内容器20は外容器10から剥離し易くなるため、実施形態1よりも空隙Aを形成し易くすることができる。
【0050】
また、実施形態2に係る多重容器1では、外気導入孔11から空隙Aへ外気が導入されるため、空隙Aが大気圧相当の圧力となる。それにより、実施形態2に係る多重容器1では、外容器10の外方と内方で同程度の圧力となるため、外容器10の剛性を高めなくても、外容器10の変形を抑制することができる。
【0051】
図5は、実施形態3に係る多重容器1を製造するためのプリフォーム100及び200を模式的に示す図である。
【0052】
多重容器1は、外容器10に対応するプリフォーム100と内容器20に対応するプリフォーム200とを二軸延伸ブロー成形することによって製造される。プリフォーム100及び200は、口部3に相当し、二軸延伸ブロー成形によって延伸されない部分である非延伸部分Mと、肩部4、胴部5及び底部6に相当し、二軸延伸ブロー成形によって延伸される部分である延伸部分Nとから構成される。
【0053】
実施形態3に係る多重容器1では、内容器20に対応するプリフォーム200の延伸部分Nにおける軸方向長さが、外容器10に対応するプリフォーム100の延伸部分Nにおける軸方向長さよりも短い。好適には、実施形態4に係る多重容器1では、プリフォーム200の延伸部分Nにおける軸方向の外面側の長さL2は、外容器10に対応するプリフォーム100の延伸部分Nにおける軸方向の内面側の長さL1に対して、0.5~0.8倍の長さである。
【0054】
このように構成されることにより、実施形態3に係る多重容器1では、内容器20の延伸倍率が外容器10の延伸倍率よりも顕著に大きくなるため、内容器20には、外容器10よりも顕著に大きな残留歪みが存在し得る。それにより、実施形態3に係る多重容器1では、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量とに顕著な差を設けることができ、上述のような大きな空隙Aを安定的に形成することができる。
【0055】
なお、プリフォーム200の長さL2がプリフォーム100の長さL1に対して0.5~0.8倍の長さであることは、上述のような大きな空隙Aが形成され、且つ、プリフォーム200が過剰に延伸されて内容器20が過度に薄肉化しない程度の長さである。
【0056】
[その他]
上述の実施形態において、多重容器1は、熱間充填に適用可能な耐熱性を有すると共に、空隙Aの断熱効果によって内容物の温度を維持する断熱ボトルである。しかしながら、多重容器1は、液体調味料又は液体化粧品等の内容物を収容し、その鮮度を保持する鮮度保持ボトルであってよい。鮮度保持ボトルは、デラミボトル又はエアレスボトル等とも称される。
【0057】
鮮度保持ボトルである多重容器1では、外容器10及び内容器20並びにそれらのプリフォーム100及び200の基本的構成は、上述の各実施形態と同様である。但し、鮮度保持ボトルである多重容器1では、実施形態2で示された外気導入孔11が設けられると共に、口部3には逆止弁付きのキャップが装着される。そして、鮮度保持ボトルである多重容器1では、外容器10がスクイズ操作されると、内容物が注出されて内容器20が収縮し、外気導入孔11からの外気導入及び逆止弁の作用によって、内容器20の収縮状態が維持される。それにより、鮮度保持ボトルである多重容器1では、内容物の減少に伴って内容器20の収縮が進行すると共に、注出口21からの外気流入が抑制されるため、内容物の酸化を抑制しその鮮度を保持することができる。特に、鮮度保持ボトルである多重容器1では、外容器10及び内容器20が
図2に示されるような特性を有することは、成形後に内容器20を外容器10から剥離させる剥離工程の際に内容器20を剥離させ易くするため、有効である。
【0058】
上述の実施形態において、多重容器1は、外容器10が多重容器1の外郭を構成し、内容器20が内容物を収容する容器である。しかしながら、多重容器1は、外容器10が多重容器1の外郭を構成し、内容器20が内容物を収容する容器に限定されない。すなわち、多重容器1は、多重容器1の外郭を構成する容器が外容器10の更に外側に設けられたり、内容物を収容する容器が内容器20の更に内側に設けられたりしてよい。このように、多重容器1は、外容器10及び内容器20が、互いに隣接して剥離可能に積層されると共に、互いの間に空隙Aを形成する積層体として機能すればよく、当然ながら、複数の空隙Aを形成可能な三重以上の多重構造を有する容器であってよい。
【0059】
上述の実施形態において、多重容器1は、特許請求の範囲に記載された「多重容器」の一例に該当する。外容器10は、特許請求の範囲に記載された「外容器」の一例に該当する。内容器20は、特許請求の範囲に記載された「内容器」の一例に該当する。外気導入孔11は、特許請求の範囲に記載された「外気導入孔」の一例に該当する。プリフォーム100は、特許請求の範囲に記載された「外容器」に対応する「プリフォーム」の一例に該当する。プリフォーム200は、特許請求の範囲に記載された「内容器」に対応する「プリフォーム」の一例に該当する。
【0060】
上述の実施形態は、変形例を含めて各実施形態同士で互いの技術を適用することができる。上述の実施形態は、本発明の内容を限定するものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない程度に変更を加えることができる。
【0061】
上述の実施形態及び特許請求の範囲で使用される用語は、限定的でない用語として解釈されるべきである。例えば、「含む」という用語は、「含むものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「備える」という用語は、「備えるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0062】
1 多重容器
3 口部
4 肩部
5 胴部
6 底部
10 外容器
11 外気導入孔
20 内容器
21 注出口
100 プリフォーム
200 プリフォーム
A 空隙
M 非延伸部分
N 延伸部分
S 収容空間
Z 中心軸