(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂及び中空成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 23/06 20060101AFI20230516BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08L23/06
C08L23/08
(21)【出願番号】P 2019058713
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-08-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】小林 和博
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208750(JP,A)
【文献】特開2017-179305(JP,A)
【文献】特開2017-179015(JP,A)
【文献】特開平07-101433(JP,A)
【文献】特開昭59-232134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、
密度(d)が0.910~0.945g/cm
3、HLMFRが0.01~10g/10分であるエチレン系重合体(A)5~95質量%、及び密度(d)が0.945~0.975g/cm
3、温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.5~1,000g/10分であり、HLMFRがエチレン系重合体(A)のHLMFRよりも大きいエチレン系重合体(B)5~95質量%を前記必須成分として含み、
前記エチレン系重合体(A)は、温度170℃、伸長歪速度0.1(単位:1/秒)で測定される伸長粘度(η(t))(単位:Pa・秒)と伸長時間(t)(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測され、
前記エチレン系重合体(A)は、エチレンと1-ヘキセンの共重合体であり、
前記エチレン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体であり、
下記特性[a]、[b]、[c]及び[d]を有するポリエチレン系樹脂。
[a]温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR)が1~15g/10分である。
[b]密度(d)が0.950~0.965g/cm
3である。
[c]温度210℃において周波数ωが100から0.01rad/秒の範囲で測定した動的溶融粘度η
*(単位:Pa・秒)を下記の式(1)で近似したときのゼロ剪断粘度(η
0)が300,000Pa・秒以上である。
η
*/η
0=1/{1+(τ
0ω)
n} (1)
(式(1)中、τ
0は緩和時間を表すパラメーター、nは高剪断速度領域における溶融粘度の剪断速度依存性を示すパラメーターである。)
[d]スウェル比が1.33以上である。
【請求項2】
更に下記特性[e]を有する請求項1に記載のポリエチレン系樹脂。
[e]全周囲ノッチ式クリープ試験の破断時間(T)(単位:時間)と密度(d)(単位:g/cm
3)が下記式(A)で示される関係を満たす。
log
10T≧-348.6×d+333.0 ・・・式(A)
【請求項3】
前記エチレン系重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布が10~50である請求項1又は2に記載のポリエチレン系樹脂。
【請求項4】
前記エチレン系重合体(A)は、HLMFR(単位:g/10分)と密度(d)(単位:g/cm
3)とが、下記式(B)で示される関係を満たす請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂。
d≦-0.0061×
log
10(HLMFR)+0.9358 式(B)
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂を含む層を有する中空成形品。
【請求項6】
燃料タンク、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器及びプラスチックボトルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の中空成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性及び耐久性のバランスに優れ、且つ、成形性にも優れるポリエチレン系樹脂、及び、容器、ボトル、タンク等の中空プラスチック成形品、特に自動車用燃料タンクの材料として有用なポリエチレン系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
液体物質の貯蔵又は輸送に用いられる中空プラスチック成形品は、日常生活、産業分野で広く用いられており、現在、プラスチックは、可燃性液体又は有害液体等の危険な液体を貯蔵又は運搬するための缶及びボトル等の容器を形成する材料として最も多く使用されている。プラスチック材料は、金属材料に比べて、重量/体積比が小さいので軽量化が可能であり、錆びなどの腐食が起こりにくく、耐衝撃性が良好であるという特長を有していることから、特に自動車部品において燃料タンクとして使用され、従来の金属材料に取って代わりつつある。
【0003】
自動車用のプラスチック燃料タンクは、自動車の安全性を確保するための重要な保安部品であり、特に高いレベルの各種性能が要求されているため、それを製造するプラスチック材料には要求される諸性能を十分に満足する材料が望まれている。
実際に、自動車用プラスチック燃料タンクに用いられる市販ポリエチレンとして、例えば日本ポリエチレン社製「HB111R」、Basell社製「4261AG」などが知られている。これらは自動車メーカーの厳しい要求に応え、市場での評価を得た材料であるが、諸性能のさらなる向上が望まれている。
【0004】
このような状況下、各種性能が改善されたポリエチレン系樹脂を提供する試みがなされてきた。
特許文献1には、下記要件[a]、[b]、[c]、[d]を同時に満たすことを特徴とする中空成形体用エチレン系樹脂組成物が開示されている。
[a]温度190℃、荷重21.6kg下でのメルトフローレート(MFR)が1.0~15g/10分の範囲にあること。
[b]密度が955~970kg/m3の範囲にあること。
[c]13C-NMRで測定したメチル分岐が炭素原子1,000個当たり0.1個未満であること。
[d]JIS K7160に準拠して測定された-40℃での引張衝撃強さが270kJ/m2以上であること。
引用文献1に記載の樹脂組成物により得られる中空成形体及びその好ましい用途である燃料タンクは、薄肉化しても、成形体としての剛性を保持しつつ、高い耐衝撃特性及び耐クリープ特性など長期性能を発現するとされている(段落0027)。
しかしながら、特許文献1に記載された組成物は、成形性において、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【0005】
特許文献2には、クロム触媒を用いてエチレン単独重合あるいはエチレンとα-オレフィンとの共重合を行うことにより製造され、下記(1)~(8)の特性を有するエチレン系重合体が開示されている。
(1)ハイロードメルトフローレート(HLMFR)が1~10g/10分である。
(2)密度が0.940~0.960g/cm3である。
(3)分子量分布(Mw/Mn)が25以上である。
(4)伸長粘度のストレインハードニングパラメーター(λmax)が1.05~1.50である。
(5)シャルピー衝撃強度が7kJ/m2以上である。
(6)テンサイル衝撃強度が130kJ/m2以上である。
(7)スウェル比(SR)が50~65%である。
(8)全周ノッチ式引張クリープ試験の破断時間が40時間以上である。
特許文献2に開示されたエチレン系重合体は、成形性、耐久性(FNCT等)に優れ、且つ耐衝撃性及び剛性のバランスに優れているとされ、当該エチレン系重合体は中空プラスチック成形品に適しているとされ、得られた中空プラスチック成形品は成形性、耐衝撃性、且つ耐久性及び剛性のバランスに優れているとされ、好適な用途は自動車用燃料タンクであるとされている(段落0033)。
しかしながら、特許文献2に記載された組成物は、長期性能と剛性のバランスにおいて、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【0006】
特許文献3には、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン重合体を必須成分として含み、下記特性[a]、[b]、[c]、[d]及び[e]を有するポリエチレンが開示されている。
[a]温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR)が1~15g/10分である。
[b]密度(d)が0.950~0.965g/cm3である。
[c]210℃で測定される溶融張力(MT)が147mN以上である。
[d]直径(D)が5mm、直径に対する長さ(L)の比(L/D)が2であるキャピラリーを使用し、190℃で測定される臨界剪断速度が10sec-1以上である。
[e]-40℃で測定されるシャルピー衝撃強度が9kJ/m2以上である。
特許文献3に開示されたポリエチレンは、剛性及び耐久性のバランスに優れ、成形性、耐衝撃性に優れるとされ、それを用いた中空プラスチック成形品は同様の良好な特性を有するとされ、特に自動車の燃料タンク等の中空プラスチック製品の材料として有用であるとされている(段落0217)。
しかしながら、特許文献3に記載された組成物は、成形性において、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【0007】
特許文献4には、(i)0.920-0.940g/cm3の密度及び0.01-2g/10分のHLMIを有する、第1の高分子量のメタロセンを用いて製造された線状低密度ポリエチレン(mLLDPE)樹脂を用意し、(ii)チーグラーナッタ、或いはクロムに基づく触媒を用いて製造された、0.950-0.970g/cm3の範囲の密度及び5-100g/10分のHLMIを有する、第2の高密度ポリエチレン(HDPE)を用意し、(iii)第1及び第2のポリエチレンを物理的に一緒にブレンドして、準高分子量の幅広い又はマルチモーダルの分子量分布、0.948-0.958g/cm3の範囲の密度及び20g/10分未満のHLMIを有するポリエチレン樹脂を生成せしめる工程を含んでなるマルチモーダルな分子量分布を有するポリエチレン樹脂の製造法が開示されている。
特許文献4に記載された樹脂は、燃料タンク、パイプに対して使用できるとされ、環境応力割れ抵抗、衝撃強度、及び落下試験における実質的な改善のため、壁厚を減じることが可能であるとされ、特に自動車工業において利点があるとされている(段落0094)。
しかしながら、特許文献4に記載された組成物は、成形性において、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【0008】
特許文献5には、35~49重量%の高分子量の第1ポリエチレン画分および51~65重量%の低分子量の第2ポリエチレン画分を含んで成るポリエチレン樹脂であって、第1ポリエチレン画分が最高0.930g/cm3の密度および0.6g/10分未満のHLMIを有する線状低密度ポリエチレンを含んで成り、そして第2ポリエチレン画分が少なくとも0.969g/cm3の密度および10g/10分より高いMI2を有する高密度ポリエチレンを含んで成り、そしてポリエチレン樹脂が0.946g/cm3より高い密度、1~100g/10分のHLMI、0.01ラジアン/秒で測定した200,000Pa.sより高い動的粘度η0.01、およびそれぞれ0.01および1ラジアン/秒で測定した8より高い動的粘度の比率η0.01/η1を有する、上記ポリエチレン樹脂が開示されている。
特許文献5に開示されたポリエチレン樹脂は、特にパイプ又は管継手を製造するために適しているとされている(段落0001、0012及び0014)。
しかしながら、特許文献5に記載された組成物は、成形性において、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【0009】
特許文献6には、多モードの分子量分布を有するポリエチレン樹脂であって、これが
(a)約0.925g/ccm~約0.950g/ccmの範囲の密度と、
(b)約0.05g/l0分~約5g/l0分の範囲のメルトインデックス(I2)を有し、そして
(c)少なくとも1つの高分子量(HMW)エチレンインターポリマーと少なくとも1つの低分子量(LMW)エチレンポリマーを含み、ここで
(d)前記HMW構成成分が約0.910g/ccm~約0.935g/ccmの範囲の密度と約1.0g/l0分以下のメルトインデックスを有する少なくとも1つ以上のエチレンインターポリマーを含み、そして
(e)前記LMW構成成分が約0.945g/ccm~約0.965g/ccmの範囲の密度と少なくとも約2.0g/l0分以上のメルトインデックスを有する少なくとも1つ以上のエチレンポリマーを含むことを特徴とするポリエチレン樹脂が開示されている。
特許文献6に開示されたポリエチレン樹脂は、パイプなどの高耐久用途に適しているとされている(段落0001、0010)。
しかしながら、特許文献6に記載された組成物は、成形性において、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【0010】
特許文献7には、高密度エチレンポリマーと、高分子量エチレンポリマーとを含む組成物であって、高密度エチレンポリマーが高分子量エチレンポリマーの密度を超える密度を有し、高分子量エチレンポリマーが高密度エチレンポリマーの重量平均分子量を超える重量平均分子量を有し、
高密度エチレンポリマーが(i)0.94g/cm3から0.98g/cm3までの密度、および(ii)10を超え50までの分子量分布、Mw/Mnを有し、
高分子量エチレンポリマーが(i)200,000g/モルを超える重量平均分子量、(ii)1.2以上3.5未満の分子量分布、Mw/Mn、および(iii)5未満である分子量比、Mz/Mwを有し、
高分子量エチレンポリマーが組成物の全重量に対して2~20重量%の量で存在する、前記組成物が開示されている。
特許文献7に開示された組成物は、単層および多層のブロー成形ボトルおよび容器などを作製するのに使用され、ボトルトップロードに対する高い支持力を維持しつつ、ボトル重量の低減などの向上した加工特性(これは押出物またはダイスウェルの減少に関連するので)、および、改善された耐環境応力亀裂などの向上した物理特性を提供するものであるとされている(段落0002、0030)
しかしながら、特許文献7に記載された組成物は、成形性において、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【0011】
特許文献8には、a)3.5以下のMw/Mnと、分子量分布にわたって骨格炭素原子1000個当りの短鎖枝(SCB)の範囲における偏差が平均SCB含量から±0.5SCB/1000Cである短鎖枝分れ(SCB)プロフィールと、骨格炭素原子1000個当りの短鎖枝(SCB)数4~8を特徴とするエチレン共重合体を含む高分子量成分;および
b)15~75kg/モルのMwを特徴とするエチレン単独重合体または共重合体を含む低分子量成分を含む組成物が開示されている。
特許文献8に開示された組成物は、家庭用容器、家庭用品、フィルム製品、ドラム、燃料タンク、パイプ、ジオメンブレン、およびライナーを含めて、様々な物品に形成されることができるとされ、特にPE-100分類ポリエチレンパイプの製造に使用される(段落0005、0059、0060)。
しかしながら、特許文献8に記載された組成物は、成形性において、必ずしも自動車用プラスチック燃料タンク用の樹脂に適しているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2008/087945号公報
【文献】国際公開第2012/133713号公報
【文献】特開2017-179015号公報
【文献】特表2005-511868号公報
【文献】特表2004-513202号公報
【文献】特表2005-501951号公報
【文献】特許5551362号公報
【文献】特許4995716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ポリエチレンを用いた中空成形品は、多くの場合にブロー成形により製造される。一般的にブロー成形では、溶融ポリエチレンを押出機から筒状に形成しながら下方に垂れ下がるように連続的に押し出し、溶融ポリエチレンの筒状連続体(パリソン)が中空成形品一個分の長さに達したときに、この筒状連続体を一対のブロー成形金型で挟み、金型を閉じて筒の上下に存在する開放端を閉鎖し(つまり型締めを行い)、金型内にエアを吹き込み、筒状体から容器の形を作り、冷却することによって、中空成形品の基本形状が完成する。
溶融ポリエチレンの筒状連続体を中空成形品一個分の長さに達するまで押し出すためにはある程度の時間を要するため、溶融ポリエチレンの筒状連続体は、押し出される最中に、自重に起因する重力作用を受けて伸びる傾向がある。また、溶融ポリエチレンの筒状連続体は、押し出し時間が経過するにつれて長くなり自重が増えるため、後に押し出される部分の方が、最初に押し出された部分と比べて自重の影響を強く受け、より伸びやすい傾向がある。
このように、溶融ポリエチレンの筒状連続体は押出し過程において伸びる傾向があり、かつ、押出機から押し出される時期の違いによって伸びやすさが変動するため、肉厚が不均一になる場合がある。その結果、最終製品である中空成形品の肉厚も不均一になる場合がある。
特に、自動車用燃料タンクの成形では、タンク内部に、タンク内圧の上昇に耐えるための支柱やタンク内の燃料流動を抑え静音化する部品といった部品を内蔵するために、溶融ポリエチレンの筒状連続体の内部に部品を挿入し、内面に溶着する場合がある。このような工程が付加される場合には、溶融ポリエチレンの筒状連続体を押し出し始めてから型締めまでの所要時間が長くなるため、伸びやすい傾向が強くなり、肉厚が不均一になりやすい。その結果、最終製品である中空成形品の肉厚が、より不均一になりやすい。
【0014】
従来、自動車用燃料タンクなどの中空成形品の材料であるポリエチレン系樹脂の成形性について検討されているが、中空成形品の肉厚の均一性の問題が完全に解決されているとは言えない。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、剛性及び耐久性のバランスに優れ、且つ、成形性にも優れるポリエチレン系樹脂、及び、容器、ボトル、タンク等の中空プラスチック成形品、特に自動車用燃料タンクの材料として有用なポリエチレン系樹脂、並びに当該ポリエチレン系樹脂を含む中空成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のポリエチレン系樹脂は、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、下記特性[a]、[b]、[c]及び[d]を有することを特徴とする。
[a]温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR)が1~15g/10分である。
[b]密度(d)が0.950~0.965g/cm3である。
[c]温度210℃において周波数ωが100から0.01rad/秒の範囲で測定した動的溶融粘度η*(単位:Pa・秒)を下記の式(1)で近似したときのゼロ剪断粘度(η0)が300,000Pa・秒以上である。
η*/η0=1/{1+(τ0ω)n} (1)
(式(1)中、τ0は緩和時間を表すパラメーター、nは高剪断速度領域における溶融粘度の剪断速度依存性を示すパラメーターである。)
[d]スウェル比が1.33以上である。
【0016】
本発明のポリエチレン系樹脂においては、さらに、下記特性[e]を有することが、剛性と耐久性のバランスがより向上する点から好ましい。
[e]全周囲ノッチ式クリープ試験の破断時間(T)(単位:時間)と密度(d)(単位:g/cm3)が下記式(A)で示される関係を満たす。
log10T≧-348.6×d+333.0 ・・・式(A)
【0017】
本発明のポリエチレン系樹脂においては、密度(d)が0.910~0.945g/cm3、HLMFRが0.01~10g/10分であるエチレン系重合体(A)5~95質量%、及び密度(d)が0.945~0.975g/cm3、温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.5~1,000g/10分であり、HLMFRがエチレン系重合体(A)のHLMFRよりも大きいエチレン系重合体(B)5~95質量%を前記必須成分として含むことが、前記特性[a]、[b]、[c]及び[d]を満たしやすい点から好ましい。
【0018】
本発明のポリエチレン系樹脂においては、前記エチレン系重合体(A)は、温度170℃、伸長歪速度0.1(単位:1/秒)で測定される伸長粘度(η(t))(単位:Pa・秒)と伸長時間(t)(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測されることが、前記特性[a]、[b]、[c]及び[d]を満たし、成形性を向上しやすい点から好ましい。
【0019】
本発明のポリエチレン系樹脂においては、前記エチレン系重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布が10~50であることが、成形性及び長期耐久性の点から好ましい。
【0020】
本発明のポリエチレン系樹脂においては、前記エチレン系重合体(A)は、
HLMFR(単位:g/10分)と密度(d)(単位:g/cm3)とが、下記式(B)で示される関係を満たすことが、長期耐久性の点から好ましい。
d≦-0.0061×log10(HLMFR)+0.9358 式(B)
【0021】
本発明の中空成形品は、前記本発明のポリエチレン系樹脂を含む層を有する。
【0022】
本発明の中空成形品は、燃料タンク、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器及びプラスチックボトルからなる群から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、剛性及び耐久性のバランスに優れ、且つ、成形性にも優れるポリエチレン系樹脂、及び、容器、ボトル、タンク等の中空プラスチック成形品、特に自動車用燃料タンクの材料として有用なポリエチレン系樹脂を提供することができ、並びに当該ポリエチレン系樹脂を含む中空成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は典型的な伸長粘度のプロット図であり、伸長粘度の変曲点が観測される場合を説明する図である。
【
図2】
図2は典型的な伸長粘度のプロット図であり、伸長粘度の変曲点が観測されない場合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のポリエチレン系樹脂及びその用途などについて、項目毎に詳細に説明する。また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0026】
1.ポリエチレン系樹脂の特性
本発明のポリエチレン系樹脂は、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分として含み、下記特性[a]、[b]、[c]及び[d]を有することを特徴とする。
本発明のポリエチレン系樹脂は、下記特性[a]、[b]、[c]及び[d]を同時に満足することから、剛性及び耐久性のバランスに優れ、且つ、成形性にも優れるものである。
本発明のポリエチレン系樹脂は、下記特性[a]、[b]、[c]及び[d]のように、HLMFRと密度とを特定の範囲内とし、且つ、ゼロ剪断粘度とスウェル比を特定値以上とすることにより、耐ドローダウン性や押出特性等の成形性を向上させながら、当該優れた成形性と、剛性及び耐久性とのバランスを両立することができる。
本発明のポリエチレン系樹脂は、例えば燃料タンクに求められる性能を確保しつつ、剛性と耐久性のバランスに優れ、向上した耐ドローダウン性等の成形性を有することから、製品の肉厚均一性が向上した、燃料タンク等の中空成形品を製造するのに適している。
【0027】
特性[a]
本発明のポリエチレン系樹脂は、本発明の効果を奏する点から、温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR)が1~15g/10分である。当該HLMFRは、本発明の効果の点から、2~12g/10分であることが好ましく、3~10g/10分であることが更に好ましい。
HLMFRが1g/10分未満であると、ブロー成形においてパリソンの押出量が不足し、成形不安定な状態となり、またメルトフラクチャーが発生する恐れがあり、実用的でない。HLMFRが15g/10分を超えると耐ドローダウン性が悪化し、実用的でない。
HLMFRは、エチレン系重合体の重合の際に、重合温度や水素濃度の制御などの方法で調整することができる。例えば、重合温度を高くする、又は水素濃度を高くすることによりHLMFRを高くすることができる。また、2種以上のエチレン系重合体を適宜混合することにより調整し製造することができる。
ここで、HLMFRは、JIS K6922-2:1997に準拠し、温度190℃、荷重21.6kgの条件で測定することができる。
【0028】
特性[b]
本発明のポリエチレン系樹脂は、本発明の効果を奏する点から、密度が0.950~0.965g/cm3である。当該密度は、本発明の効果の点から、0.950~0.960g/cm3であることが好ましく、0.950~0.955g/cm3であることが更に好ましい。
密度が0.950g/cm3未満であると、中空プラスチック成形品の剛性が不足し、また耐久性に劣り易く、0.965g/cm3を超えると中空プラスチック成形品の耐久性が不足する。
密度は、エチレン系重合体の重合の際にα-オレフィンの種類や含有量の制御などの方法で調整することができる。例えば、エチレン系重合体の中のα-オレフィン含有量を低くする(重合時のα-オレフィン添加量を低くする)、又は同じ含有量であれば、炭素数の小さいα-オレフィンを用いることにより、密度を高くすることができる。また、2種以上のエチレン系重合体を適宜混合することにより調整し製造することができる。
密度は、JIS K-7112:2004に準拠し、ペレットを温度160℃の熱圧縮成形機により溶融した後、25℃/分の速度で降温して厚み2mmtのシートを成形し、このシートを温度23℃の室内で48時間状態調節した後、密度勾配管に入れて測定することができる。
【0029】
特性[c]
本発明のポリエチレン系樹脂は、本発明の効果を奏する点から、温度210℃において周波数ωが100から0.01rad/秒の範囲で測定した動的溶融粘度η*(単位:Pa・秒)を下記の式(1)で近似したときのゼロ剪断粘度(η0)が300,000Pa・秒以上である。
η*/η0=1/{1+(τ0ω)n} (1)
(式(1)中、τ0は緩和時間を表すパラメーター、nは高剪断速度領域における溶融粘度の剪断速度依存性を示すパラメーターである。)
本発明のポリエチレン系樹脂は、ゼロ剪断粘度(η0)が300,000Pa・秒以上であり、かつ、後述の特性[d]スウェル比が1.33以上であることにより、成形性が良好になる。
ゼロ剪断粘度(η0)が300,000Pa・秒以上であることにより、初期の歪み量が小さく、パリソンが垂れ下がり難くなり、耐ドローダウン性が良好になる。耐ドローダウン性が良好になると、ブロー成形品の製品の肉厚均一性が向上したものになる。ゼロ剪断粘度(η0)が300,000Pa未満では、成形性が悪化する傾向にある。
【0030】
当該ゼロ剪断粘度(η0)は、本発明の効果の点から、800,000Pa・秒以上であることが好ましく、820,000Pa・秒以上であることが更に好ましい。一方で、当該ゼロ剪断粘度(η0)の上限は特に限定されないが、例えば、押出性の点から、10,000,000Pa・秒以下とすることができる。
ゼロ剪断粘度(η0)(単位:Pa・秒)は、剪断流動ゼロにおける剪断粘度として定義され、本明細書においては、緩和時間τ0(秒)と共に、ANTEC’94(The Society of Plastics Engineers, 1994), 1814ページ(S.Lai等著)に従って、動的溶融粘度η*(単位:Pa・秒)をクロスの粘度式(下記式(1))で近似して求められる値をいう。ここで動的溶融粘度η*は、210℃においてパラレルプレートを用いてプレート間隔1.7mm、歪み5%で、周波数ωが100から0.01(単位:rad/秒)の範囲で測定した際に得られる値であって、レオメータ(Rheometrics社製Ares)で得ることができ、その結果の下記の式(1)への近似は回帰法により市販されているコンピュータープログラムを用いて計算することができる。
η*/η0=1/{1+(τ0ω)n} (1)
上記の式(1)中、nは高剪断速度領域における溶融粘度の剪断速度依存性を示すパラメーターであり、τ0は緩和時間を表すパラメーターである。
ゼロ剪断粘度(η0)は、エチレン系重合体の高分子量成分や長鎖分岐などの時間緩和成分の含有量によって調整することができる。
また、高分子量成分は、重合時の水素濃度又はエチレン圧により調整することができ、水素濃度又はエチレン圧が低い条件で重合を行なうと、高分子量成分の含有量を多くすることができ、ゼロ剪断粘度(η0)を大きくすることができる。さらに、長鎖分岐などの時間緩和成分は、高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)を使用することもできるが、長鎖分岐を生成しやすい重合触媒を用いて重合することによって得られる重合体を使用することができる。本願発明において、ゼロ剪断粘度(η0)は、前記の制御因子を適宜組み合わせて、所望の値にすることができる。
【0031】
特性[d]
前記スウェル比は、本発明の効果の点から、1.33以上であり、1.35以上であることが好ましい。当該スウェル比の上限は特に限定されないが、例えば肉厚均一性の点から、2.0以下、更に好ましくは1.5未満とすることができる。
本発明のポリエチレン系樹脂は、スウェル比が1.33以上であることにより、成形性が良好になる。ここでスウェルとは、ダイヘッドから押出された樹脂溶融物がダイヘッド出口のスリット幅及びクリアランスよりも寸法が大きくなる現象のことである。スウェル比が1.33以上であることにより、例えばブロー成形時、パリソン断面の単位面積当たりにかかる荷重が減少し、応力低下により歪み速度が低下し、その結果、耐ドローダウン性が良好になる。耐ドローダウン性が良好になると、ブロー成形品の製品の肉厚均一性が向上したものになる。スウェル比が1.33未満では、ゼロ剪断粘度(η0)が300,000Pa・秒以上の場合であっても、成形性が悪化する傾向にある。
前記ゼロ剪断粘度(η0)とスウェル比の両方共が本発明の特定の値を満たすことにより、耐ドローダウン性が向上し、成形性を向上することができる。
ここで、スウェル比は、重合体の分子量が大きくなると(HLMFRが小さくなると)大きくなる傾向があり、樹脂の高分子量成分量が多くて分子量分布が大きくなるとスウェル比は大きくなる傾向がある。本願発明において、スウェル比は、前記の制御因子を適宜組み合わせて、所望の値にすることができる。
【0032】
スウェル比は、ノズル径1.0mmφ、ノズル長40.0mm、流入角90°、設定温度210℃で、ピストン押出速度0.5mm/分で押し出したストランドについて、ノズル出口から20mmの位置でのストランド径(D)を、レーザー測定機を用いて測定する。ノズル径(D0)を使い、スウェル比はD/D0で定義される。
【0033】
特性[e]
本発明のポリエチレン系樹脂は、前記特性[a]、[b]、[c]及び[d]に加えて、下記特性[e]を有することが、剛性と耐久性のバランスがより向上する点から好ましい。
[e]全周囲ノッチ式クリープ試験の破断時間(T)(単位:時間)と密度(d)(単位:g/cm3)が下記式(A)で示される関係を満たす。
log10T≧-348.6×d+333.0 ・・・式(A)
全周囲ノッチ式引張クリープ試験による破断時間は、実施例に記載した方法で測定することができる。
式(A)は、全周囲ノッチ式クリープ試験の破断時間(T)(単位:時間)と密度(d)(単位:g/cm3)の関係を示し、本願のポリエチレン系樹脂が、従来のポリエチレン系樹脂に比べて、密度見合いの耐久性が優れる(破断時間が大きい)ことを示すものである。即ち、本願のポリエチレン系樹脂と従来のポリエチレン系樹脂を区別するために、破断時間は密度の増加に対して負の相関がある関数であると考えて当該関数のパラメーターを設定し、本願のポリエチレン系樹脂の破断時間が当該関数で規定される破断時間よりも密度見合いで大きいことを示している。具体的には、実施例及び比較例のデータに基づき、実施例と密度見合いで破断時間が不十分な比較例を区別する密度及び破断時間の値を仮定し、当該密度と破断時間との間に成立する関係式のパラメーターを最小二乗法により決定したものである。
【0034】
密度(d)が0.950~0.965g/cm3且つ前記式(A)で表される領域から外れるものは、中空プラスチック成形品として耐久性が不十分なのに対し、密度(d)が0.950~0.965g/cm3且つ式(A)で表される領域に含まれるものは、優れた耐久性を有する。
同一HLMFR、同一密度の重合体を製造する場合、破断時間は、重合時の水素濃度の制御などの方法で調整することができる。例えば、破断時間は、ポリエチレンの分子量分布が広いほど、また長鎖分岐量が少ないほど高いため、水素濃度を高くすることにより、破断時間を大きくすることができる。
【0035】
なお、本発明のポリエチレン系樹脂は、本発明の効果を奏する点から、全周囲ノッチ式クリープ試験の破断時間(T)(単位:時間)が40時間以上であることが好ましい。全周囲ノッチ式クリープ試験(FNCT)の時間が長いほど、耐環境応力亀裂性のような長期耐久性が優れている。
【0036】
また、本発明のポリエチレン系樹脂は、前記特性[a]、[b]、[c]及び[d]に加えて、下記特性[f]を有することが好ましい。
特性[f]
本発明のポリエチレン系樹脂は、JIS K7171に準拠して測定された曲げ弾性率が1,100~1,700MPaであることが好ましく、1,100~1,600MPaであることがより好ましく、1,200~1,400MPaであることが更に好ましく、1,200~1,300MPaであることがより更に好ましい。
曲げ弾性率が上記範囲にあると、得られる中空成形体は、特に室温下での剛性に優れる。すなわち硬くて強いために、従来よりも成形品を薄くすることが可能となる。
曲げ弾性率は、エチレン系重合体の密度を増減させることにより調節することができ、密度を増加させると曲げ弾性率を大きくすることができる。
【0037】
2.ポリエチレン系樹脂の構成及び製造方法
本発明のポリエチレン系樹脂は、エチレンの単独重合体及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン系重合体を必須成分とすることにより、前記特性[a]~[d]を同時に満足する。また、本発明のポリエチレン系樹脂は、前記特性[a]~[d]を同時に満足する範囲内であれば、当該エチレン系重合体に加えてさらに後述する任意成分を含んでいてもよい。
本発明のエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体は、炭素数3~12のα-オレフィンから導かれる構成単位を、0.001~40mol%、好ましくは0.001~30mol%、通常2.0mol%以下、好ましくは0.02~1.5mol%、より好ましくは0.02~1.3mol%含むエチレン系重合体である。
ここで、炭素数3~12のα-オレフィン(以下単に「α-オレフィン」ともいう。)としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセンなどが挙げられる。本発明においては、これらのα-オレフィンの中で、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記特性[a]~[d]を同時に満足するエチレン系重合体は、HLMFRを制御するための重合時の重合温度及び水素濃度を考慮し、密度を制御するためのα-オレフィンの種類及び含有量を考慮し、ゼロせん断粘度を制御するための高分子量成分の含有量及び重合触媒を考慮し、スウェル比を制御するための高分子量成分量及び分子量分布を考慮し、必要に応じて、全周囲ノッチ式引張クリープ試験の破断時間を制御するための重合時の水素濃度、α-オレフィンの種類及び含有量、分子量分布並びに長鎖分岐量を考慮して、1種又は2種以上のエチレン系重合体として製造される。2種以上のエチレン系重合体の場合、2種以上のエチレン系重合体を連続的に重合したものでもよいし、2種以上のエチレン系重合体をそれぞれ別々に製造した後、それらの重合体を溶融混合したものでもよい。
【0038】
本発明のポリエチレン系樹脂は、前記特性[a]~[d]を同時に満足すれば、特に重合触媒や製造方法などが制限されるものではない。
中でも、本発明のポリエチレン系樹脂は、下記エチレン系重合体(A)5~95質量%と下記エチレン系重合体(B)5~95質量%を前記必須成分として含むことが、前記特性[a]~[d]を同時に満足させやすく、更に前記特性[e]及び[f]を満足させやすい点から好ましい。
エチレン系重合体(A):密度(d)が0.910~0.945g/cm3、HLMFRが0.01~10g/10分であるエチレン系重合体。
エチレン系重合体(B):密度(d)が0.945~0.975g/cm3、温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.5~1,000g/10分であり、HLMFRがエチレン系重合体(A)のHLMFRよりも大きいエチレン系重合体。
【0039】
本発明のポリエチレン系樹脂において、エチレン系重合体(A)とエチレン系重合体(B)の組成割合は、前記特性[a]~[d]を同時に満足し、剛性及び耐久性のバランスに優れ、且つ、成形性にも優れるようにする点から、エチレン系重合体(A)10~90質量%に対し、エチレン系重合体(B)10~90質量%が好ましく、エチレン系重合体(A)20~80質量%に対し、エチレン系重合体(B)20~80質量%が更に好ましく、エチレン系重合体(A)30~70質量%に対し、エチレン系重合体(B)30~70質量%がより更に好ましい。
【0040】
(1)エチレン系重合体(A)
エチレン系重合体(A)は、エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体である。エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体の製造方法は後述する。
エチレン系重合体(A)は、密度が0.910~0.945g/cm3であり、好ましくは0.915~0.945g/cm3であり、更に好ましくは0.920~0.940g/cm3である。密度は、前述の特性[b]の密度と同様の方法で測定することができる。
エチレン系重合体(A)の密度が0.910g/cm3未満であると、成形品の剛性不足が顕在化する恐れがあり、一方、0.945g/cm3を超えると、耐久性が不足する恐れがある。
密度の調整は、例えば、エチレンと共重合させるα-オレフィンの量を変化させることによって行うことができ、α-オレフィンの量を増加させると小さくすることができる。
【0041】
エチレン系重合体(A)は、HLMFRが0.01~10g/10分であり、好ましくは0.05~5g/10分であり、更に好ましくは0.1~1g/10分である。HLMFRは、前述の特性[a]のHLMFRと同様の方法で測定することができる。
エチレン系重合体(A)のHLMFRが0.01g/10分未満であると、成形時に流動性が不足し、成形不安定な状態となり実用的でない恐れがあり、当該HLMFRが10g/10分を超えると、耐久性が低下する傾向がある。
HLMFRの調整は、エチレン重合中に共存させる連鎖移動剤(水素等)の量を変化させるか、重合温度を変化させることによって、調整することができ、水素の量を増加させる又は重合温度を高くすることにより、大きくすることができる。
【0042】
エチレン系重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布が10~50であることが好ましい。エチレン系重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)が10以上であると、成形性及び長期耐久性を向上し易い。エチレン系重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)が50以下であると、耐衝撃性を向上し易い。
エチレン系重合体(A)のMw/Mnは、好ましくは11以上、更に好ましくは15以上であり、好ましくは50以下、、更に好ましくは40以下である。
分子量分布(Mw/Mn)は、主に、重合触媒及び重合条件を選択することにより、所定の範囲とすることができ、また、異なる分子量の複数成分を混合することにより、所定の範囲とすることができる。
エチレン系重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、主にエチレン系重合体(A)の重合反応に用いられる重合触媒の種類により調整することができ、好ましくはフィリップス触媒等のクロム系触媒が挙げられる。
GPCの測定は、実施例に記載した方法で行うことができる。
【0043】
前記エチレン系重合体(A)は、HLMFR(単位:g/10分)と密度(d)(単位:g/cm3)とが、下記式(B)で示される関係を満たすことが、長期耐久性の点から好ましい。
d≦-0.0061×log10(HLMFR)+0.9358 式(B)
エチレン重合体(A)が、式(B)を満たすことができない場合、本発明のポリエチレン系樹脂の長期耐久性が不足するおそれがある。
エチレン重合体(A)が、式(B)を満たすためには、主に、重合触媒及び重合条件を選択することにより、所定の範囲とすることができる。触媒としては、主にフィリップス触媒等のクロム系触媒が好ましい触媒として挙げられる。
式(B)は、エチレン重合体(A)のHLMFR(単位:g/10分)と密度(d)(単位:g/cm3)の関係を示し、本願のエチレン重合体(A)が、従来のエチレン重合体に比べて、HLMFR見合いの長期耐久性に優れる(密度が小さい)ことを示すものである。即ち、本願のエチレン重合体(A)と従来のエチレン重合体を区別するために、必要な長期耐久性を得るための密度はHLMFRの増加に対して負の相関がある関数と考えて当該関数のパラメーターを設定し、本願のエチレン重合体(A)の密度が当該関数で規定される密度よりもHLMFR見合いで小さいことを示している。具体的には、実施例及び比較例のデータに基づき、HLMFR見合いで密度が小さい実施例とHLMFR見合いで密度が大きい比較例を区別するHLMFR及び密度の値を仮定し、当該HLMFRと密度との間に成立する関係式のパラメーターを最小二乗法により決定したものである。
【0044】
前記エチレン系重合体(A)は、更に、温度170℃、伸長歪速度0.1(単位:1/秒)で測定される伸長粘度(η(t))(単位:Pa・秒)と伸長時間(t)(単位:秒)の両対数プロットにおいて、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点が観測されることが、成形性が向上する点から好ましい。相対的に高分子量成分であるエチレン系重合体(A)が長鎖の分岐構造を有する分子構造を有することにより、長時間緩和成分が増加することとなって、成形性が向上する。
本明細書において、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点の有無は、歪硬化度の測定において観察できるものである。
上記歪硬化度の測定方法に関しては、一軸伸長粘度を測定できれば、どのような方法でも原理的に同一の値が得られ、例えば、公知文献:Polymer 42(2001)8663に測定方法及び測定機器の詳細が記載されている。
本発明に係るエチレン系重合体(A)の歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点の有無は、実施例に記載した方法により歪硬化度の測定し、確認することができる。
歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点は、重合体に含まれる長鎖分岐数に関係があり、通常、長鎖分岐数が多いと歪硬化の程度が大きくなる傾向があり、重合体の長鎖分岐数は、長鎖分岐を生成しやすい重合触媒を用いて重合することによって制御することができる。
【0045】
本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は、上記の特性を満たすことができれば、各種の重合触媒を用いて重合することができる。本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は、フィリップス触媒等のクロム系触媒、チーグラーナッタ系触媒(ZN触媒)やメタロセン系触媒等、従来公知の触媒を使用して重合することにより製造することができる。長鎖分岐を生成しやすい重合触媒としては、例えば、クロム系触媒、特定のメタロセン系触媒や特表2003-510204号公報に記載されているような重合触媒等を挙げることができる。クロム系触媒由来のポリエチレンは、比較的分子量分布が広く、かつ長鎖の分岐構造を有する分子構造から、中空成形し易い特性、具体的にはスウェル比や溶融張力が大きくなるといった特徴を有する。そのため、本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は、好ましくはクロム系触媒を使用して重合することができる。
【0046】
クロム系触媒の好ましい例としては、クロム化合物を無機酸化物担体に担持し、非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子が6価となるクロム系触媒であり、一般にフィリップス触媒として知られており公知である。この触媒の概要は、M.P.McDaniel著,Advances in Catalysis,Volime 33,47頁,1985年,Academic Press Inc.、M.P.McDaniel著,Handbook of Heterogeneous Catalysis,2400頁,1997年,VCH、M.B.Welchら著,Handbook of Polyolefins:Synthesis and Properties,21頁,1993年,Marcel Dekker等の文献に記載されている。
【0047】
前記無機酸化物担体としては、周期表第2、4、13又は14族の金属の酸化物が好ましい。具体的にはマグネシア、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、トリア、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ又はこれらの混合物が挙げられる。なかでもシリカ、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナが好ましい。シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナの場合、シリカ以外の金属成分としてチタン、ジルコニウム又はアルミニウム原子が0.2~10質量%、好ましくは0.5~7質量%、更に好ましくは1~5質量%含有されたものが用いられる。
これらのクロム系触媒に適する担体の製法、物理的性質及び特徴は、C.E.Marsden著,Preparation of Catalysts,Volume V,215頁,1991年,Elsevier Science Publishers、C.E.Marsden著,Plastics,Rubber and Composites Processing and Applications,Volume 21,193頁,1994年等の文献に記載されている。
【0048】
焼成活性化前の前のクロム系触媒の担体の比表面積としては、250~1,000m2/g、好ましくは300~900m2/g、更に好ましくは400~800m2/gとなるように無機酸化物担体を選択することが好ましい。比表面積が250m2/g未満の場合は、分子量分布が狭くかつ長鎖分岐が多くなることと関係すると考えられるが、耐久性、耐衝撃性がともに低下するおそれがある。また、比表面積が1,000m2/gを超える担体は、製造が難しくなるおそれがある。
【0049】
無機酸化物担体の細孔体積としては、一般的なクロム系触媒に用いられる担体の場合と同様に、0.5~3.0cm3/g、好ましくは1.0~2.0cm3/g、更に好ましくは1.2~1.8cm3/gの範囲のものが用いられる。細孔体積が0.5未満の場合は、重合時に重合ポリマーによって細孔が小さくなり、モノマーが拡散できなくなってしまい活性が低下するおそれがある。細孔体積が3.0cm3/gを超える担体は、製造が難しくなるおそれがある。
また、無機酸化物担体の平均粒径としては、一般的なクロム系触媒に用いられる担体と同様10~200μm、好ましくは20~150μm、更に好ましくは30~100μmの範囲のものが用いられる。
【0050】
上記無機酸化物担体にクロム化合物を担持させる。クロム化合物としては、担持後に非還元性雰囲気で焼成活性化することにより少なくとも一部のクロム原子が6価となる化合物であればよく、酸化クロム、クロムのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、クロム酸塩、重クロム酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、硫酸塩、クロム-1,3-ジケト化合物、クロム酸エステル等が挙げられる。具体的には三酸化クロム、三塩化クロム、塩化クロミル、クロム酸カリウム、クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、トリス(2-エチルヘキサノエート)クロム、クロムアセチルアセトネート、ビス(tert-ブチル)クロメート等が挙げられる。なかでも三酸化クロム、酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートが好ましい。酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートのような有機基を有するクロム化合物を用いた場合でも、後に述べる非還元性雰囲気での焼成活性化によって有機基部分は燃焼し、最終的には三酸化クロムを用いた場合と同様に無機酸化物担体表面の水酸基と反応し、少なくとも一部のクロム原子は6価となってクロム酸エステルの構造で固定化されることが知られている(V.J.Ruddickら著,J.Phys.Chem.,Volume100,11062頁,1996年、S.M.Augustineら著,J.Catal.,Volume 161,641頁,1996年)。
【0051】
無機酸化物担体へのクロム化合物の担持は、含浸、溶媒留去、昇華等の公知の方法によって行うことができ、使用するクロム化合物の種類によって適当な方法を用いればよい。担持するクロム化合物の量は、クロム原子として担体に対して0.2~2.0質量%、好ましくは0.3~1.7質量%、更に好ましくは0.5~1.5質量%である。
【0052】
クロム化合物の担持後に焼成して活性化処理を行う。焼成活性化は水分を実質的に含まない非還元性雰囲気、例えば酸素又は空気下で行うことができる。この際、不活性ガスを共存させてもよい。好ましくは、モレキュラーシーブス等を流通させ十分に乾燥した空気を用い、流動状態下で行う。焼成活性化は350~900℃、好ましくは420~850℃、更に好ましくは450~800℃にて、30分~48時間、好ましくは1時間~36時間、更に好ましくは2時間~24時間行う。この焼成活性化により、無機酸化物担体に担持されたクロム化合物のクロム原子が少なくとも一部は6価に酸化されて担体上に化学的に固定される。350℃未満で行うと、重合活性はなくなるおそれがある。一方、900℃を超える温度で焼成活性化を行うと、シンタリングが起こり、活性が低下するおそれがある。
このようにして得られた、クロム系触媒を使用することにより、エチレン系重合体(A)に好適なエチレン系重合体を製造することができる。
【0053】
エチレン系重合体(A)は、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等との共重合により得られる。また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α-オレフィン共重合体中のα-オレフィン含有量は、0.001~40mol%、好ましくは0.001~30mol%であり、通常2.0mol%以下、好ましくは0.02~1.5mol%、より好ましくは0.02~1.3mol%である。
【0054】
生成重合体の分子量は、重合温度、触媒のモル比等の重合条件を変えることによってもある程度調節可能であるが、重合反応系に水素を添加することで、より効果的に分子量調節を行うことができる。
また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。
なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、前記有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。
水素濃度、モノマー量、重合圧力、重合温度等の重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式にも、支障なく適用することができる。
【0055】
エチレン系重合体(A)の重合方法は従来公知の方法を適宜用いることができる。例えば、スラリー重合、溶液重合のような液相重合法あるいは気相重合法など、いずれの方法を採用することができるが、特にスラリー重合法が好ましく、パイプループ型反応器を用いるスラリー重合法、オートクレーブ型反応器を用いるスラリー重合法、いずれも用いることができる。なかでもパイプループ型反応器を用いるスラリー重合法が好ましい(パイプループ型反応器とこれを用いるスラリー重合の詳細は、松浦一雄・三上尚孝編著、「ポリエチレン技術読本」、148頁、2001年、工業調査会に記載されている)。
【0056】
液相重合法は、通常炭化水素溶媒中で行う。炭化水素溶媒としては、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素の単独または混合物が用いられる。気相重合法は、不活性ガス共存下にて、流動床、攪拌床等の通常知られる重合法を採用でき、場合により重合熱除去の媒体を共存させる、いわゆるコンデンシングモードを採用することもできる。
液相重合法における重合温度は、一般的には0~300℃であり、実用的には20~200℃、好ましくは40~180℃、さらに好ましくは50~150℃、特に好ましくは70~110℃である。反応器中の触媒濃度およびエチレン濃度は重合を進行させるのに十分な任意の濃度でよい。例えば、触媒濃度は、液相重合の場合反応器内容物の重量を基準にして約0.0001~約5重量%の範囲とすることができる。同様にエチレン濃度は、液相重合の場合反応器内容物の重量を基準にして約1%~約10%の範囲とすることができる。同様にエチレン濃度は、気相重合の場合、全圧として0.1~10MPaの範囲とすることができる。また、水素を共存させて重合を行うことも可能であり、耐久性、耐衝撃性、剛性のバランスに優れたエチレン系重合体を製造するためには、水素とエチレンを特定の比率とした条件下で重合させるのがよい。水素は、一般的には分子量を調節するためのいわゆる連鎖移動剤としての働きを有する。
【0057】
重合方法としては、反応器を一つ用いてエチレン系重合体を製造する単段重合だけでなく、生産量を向上させるため、または分子量分布やコモノマー組成分布を広げるため、少なくとも二つ以上の反応器を直列あるいは/および並列に連結させて多段重合を行うこともできる。多段重合の場合、複数の反応器を連結させ、第一段の反応器で重合して得られた反応混合物を続いて第二段以降の反応器に連続して供給する直列多段重合が好ましい。直列多段重合法では、前段の反応器での重合反応混合物が後段以降の反応器に連結管を通して連続的排出により移送される。
【0058】
上記多段重合の具体的実施形態を、二つの反応器を使用する二段重合を例に説明する。
二段重合の場合、第一段反応器および第二段反応器で同一の重合条件で製造してもよいし、あるいは第一段反応器および第二段反応器で同一のMFR、密度のエチレン系重合体を製造してもよいが、分子量分布を広げる場合には、両反応器で製造するエチレン系重合体の分子量に差をつけるのが好ましい。第一段反応器で高分子量成分、第二段反応器で低分子量成分を、または第一段反応器で低分子量成分、第二段反応器で高分子量成分をそれぞれ製造するいずれの製造方法でもよいが、第一段反応器で高分子量成分、第二段反応器で低分子量成分を製造する方法の方が、第一段から第二段への移行にあたり中間の水素のフラッシュタンクを必要としないため生産性の面でより好ましい。
【0059】
第一段においては、エチレン単独または必要に応じて他のα-オレフィンをコモノマーとした共重合を、水素濃度のエチレン濃度に対する比、重合温度または両者により分子量を調節しながら、またコモノマー濃度のエチレン濃度に対する重量比で密度を調節しながら重合反応を行う。
第二段においては、第一段から流れ込む反応混合物中の水素および同じく流れ込むエチレンがあるが、必要に応じてそれぞれ新たな水素、エチレンを加えることができる。従って、第二段においても、水素濃度のエチレン濃度に対する比、重合温度または両者により分子量を調節しながら、またコモノマー濃度のエチレン濃度に対する比により密度を調節しながら重合反応を行うことができる。触媒や有機アルミニウム化合物のような有機金属化合物についても、第一段から流れ込む触媒により二段目で引き続き重合反応を行うだけでなく、第二段で新たに触媒、有機アルミニウム化合物のような有機金属化合物またはその両者を供給してもよい。
【0060】
本発明に用いられるエチレン系重合体(A)は、本発明で規定の範囲を満たせば、単一の重合器、直列もしくは並列に接続した複数の反応器で順次連続して重合、及び複数のエチレン重合体を別々に重合した後に混合したものであってもよい。
【0061】
(2)エチレン系重合体(B)
エチレン系重合体(B)は、密度(d)が0.945~0.975g/cm3、温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.5~1,000g/10分であり、HLMFRが前記エチレン系重合体(A)のHLMFRよりも大きいエチレン系重合体である。
【0062】
エチレン系重合体(B)は、密度が0.945~0.975g/cm3であり、好ましくは0.950~0.972g/cm3であり、更に好ましくは0.955~0.970g/cm3である。密度は、前述の特性[b]の密度と同様の方法で測定することができる。
エチレン系重合体(B)の密度が0.945g/cm3未満であると、成形品の剛性不足が顕在化する恐れがあり、一方、0.975g/cm3を超えると、長期耐久性が不足する恐れがある。
密度の調整は、例えば、エチレンと共重合させるα-オレフィンの量を変化させることによって行うことができ、α-オレフィンの量を増加させると小さくすることができる。
【0063】
エチレン系重合体(B)は、温度190℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が0.5~1,000g/10分であり、好ましくは1~500g/10分であり、更に好ましくは2~300g/10分である。MFRは、前述の特性[a]のHLMFRと同様の方法で測定することができる。
エチレン系重合体(B)のMFRが0.5g/10分未満であると、成形時に流動性が不足し、成形不安定な状態となり実用的でない恐れがあり、当該MFRが1,000g/10分を超えると、長期耐久性が低下する傾向がある。
MFRの調整は、エチレン重合中に共存させる連鎖移動剤(水素等)の量を変化させるか、重合温度を変化させることによって、調整することができ、水素の量を増加させる又は重合温度を高くすることにより、大きくすることができる。
【0064】
エチレン系重合体(B)は、エチレン系重合体(B)のHLMFRが前記エチレン系重合体(A)のHLMFRよりも大きいものを選択する。エチレン系重合体(B)のHLMFRが前記エチレン系重合体(A)のHLMFRよりも大きいものを選択することにより、長期耐久性の優れるポリエチレンが得られる。
エチレン系重合体(B)のHLMFRは、本発明の効果の点から、10~5,000g/10分であることが好ましく、50~2,000g/10分であることが更に好ましい。
【0065】
エチレン系重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布が8~100であることがスウェルの点から好ましい。
エチレン系重合体(B)のMw/Mnは、下限が好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、上限が好ましくは50以下、更に好ましくは30以下である。
エチレン系重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、主にエチレン系重合体(B)の重合反応に用いられる重合触媒の種類により調整することができ、好ましくはフィリップス触媒等のクロム系触媒やチーグラーナッタ系触媒が挙げられる。
【0066】
エチレン系重合体(B)は、前記構成要件を満足すれば、特に重合触媒や製造方法などが制限されるものではない。本発明に用いられるエチレン系重合体(B)は、フィリップス触媒等のクロム系触媒、チーグラーナッタ系触媒やメタロセン系触媒等、従来公知の触媒を使用して重合することにより製造することができ、好ましくはクロム系触媒及び/又はチーグラーナッタ系触媒を使用して重合することができる。クロム系触媒由来のポリエチレンは、比較的分子量分布が広く、かつ長鎖の分岐構造を有する分子構造から、中空成形し易い特性、具体的にはスウェル比や溶融張力が大きくなるといった特徴を有するためである。また、チーグラーナッタ系触媒由来のポリエチレンは、適度に広い分子量分布を有し、優れた溶融成形加工特性と、機械的強度を有するためである。
【0067】
エチレン系重合体(B)の製造に用いられるクロム系触媒としては、前記エチレン系重合体(A)で説明したクロム系触媒と同様のものを用いることができる。
【0068】
一方、チーグラーナッタ系触媒は、チタニウムを活性種とする重合触媒であって、従来公知のものの中から、適宜選択して用いることができる。チーグナーラッタ系触媒としては、中でも、マグネシウム・チタニウム複合型チーグラーナッタ系触媒が好ましい。マグネシウム・チタニウム複合型チーグラーナッタ系触媒は、粒子形状に優れると共に優れた重合活性を有する。
マグネシウム・チタニウム複合型チーグラーナッタ系触媒は、更に有機アルミニウム化合物により改質されたものであることが好ましい。このような改質されたチーグラーナッタ系触媒を用いることにより、短鎖分岐が少ないポリエチレンを製造することができる。有機アルミニウム化合物により改質されたマグネシウム・チタニウム複合型チーグラーナッタ系触媒は、特開2012-72229号公報を参考に製造することができる。
【0069】
エチレン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等との共重合により得られる。また、改質を目的とする場合のジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。なお、重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α-オレフィン共重合体中のα-オレフィン含有量は、0.001~40mol%、好ましくは0.001~30mol%であり、通常2.0mol%以下、好ましくは0.02~1.5mol%、より好ましくは0.02~1.3mol%である。
【0070】
エチレン系重合体(B)の重合方法は、従来公知の方法を適宜用いることができる。エチレン系重合体(B)は、エチレン系重合体(A)で説明した方法と同様に、製造することができる。
【0071】
本発明のポリエチレン系樹脂は、前記エチレン系重合体(A)と前記エチレン系重合体(B)を多段重合させたものであってもよいし、あるいはブレンドした組成物であってもよい。
多段重合によるポリエチレン系樹脂の好適な製造方法としては、上記触媒を用いて、リアクター2基以上を直列につないだ重合装置において、前段のリアクターにおいて前記エチレン系重合体(A)を、後段のリアクターにおいて前記エチレン系重合体(B)を、又は、前段のリアクターにおいて前記エチレン系重合体(B)を、後段のリアクターにおいて前記エチレン系重合体(A)を、連続的に重合する方法が挙げられる。
前記エチレン系重合体(A)と前記エチレン系重合体(B)をブレンドする方法としては、混練度が高くなる方法が好ましく、例えば、2軸押出機、単軸押出機、バンバリーミキサー、連続混練機、ブラベンダー、ニーダーブラベンダーなどによるブレンド方法が挙げられる。
【0072】
(3)その他の添加物
本発明のポリエチレン系樹脂は、エチレン系重合体(A)及びエチレン系重合体(B)以外に、特性[a]~[d]を同時に満足する範囲内で、下記の物質を任意成分として配合することができる。
例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、極性モノマーグラフト変性ポリエチレン、エチレン系ワックス、超高分子量ポリエチレン、エチレン系エラストマー等の各種エチレン系重合体及びその変性体を使用できる。高密度ポリエチレンの添加は、剛性、耐熱性、衝撃強度等を向上するのに好ましい。低密度ポリエチレンの添加は、柔軟性、衝撃強度、易接着性、透明性、低温強度等を向上するのに好ましい。高圧法ポリエチレンの添加は、柔軟性、易接着性、透明性、低温強度、成形加工性等を向上するのに好ましい。マレイン酸変性ポリエチレンやエチレン・アクリル酸誘導体共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の極性モノマーグラフト変性ポリエチレンの添加は、柔軟性、易接着性、着色性、各種材料親和性、ガスバリア性等を向上させるためには好ましい。エチレン系ワックスの添加は、着色性、各種材料親和性、成形加工性等を向上させるためには好ましい。超高分子量ポリエチレンの添加は、機械的強度、耐摩耗性等を向上させるためには好ましい。エチレン系エラストマーの添加は、柔軟性、機械的強度、衝撃強度等を向上させるためには好ましい。
また、上記の重合体以外に、各種樹脂を使用できる。具体的には、各種ナイロン樹脂、各種ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、各種ポリエステル、ポリカーボネート樹脂、EVOH、EVA、PMMA、PMA、各種エンジニアリングプラスチック、ポリ乳酸等、セルロース類、天然ゴム類、ポリウレタン、塩ビ、テフロン(登録商標)等のフッ素系樹脂、シリコン樹脂等の無機系重合体、等である。
【0073】
本発明のポリエチレン系樹脂は、常法に従い、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行って所望の成形品とすることができる。
また、上記の方法により得られるエチレン系重合体には、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、架橋剤、発泡剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を配合することができる。
添加剤として、例えば、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を1種又は2種以上、適宜併用することができる。充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、アルミナ、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン等が使用可能であり、なかでも炭酸カルシウム、タルク及びマイカ等を用いるのが好ましい。いずれの場合でも、上記ポリエチレンに、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。
【0074】
酸化防止剤として、例えば、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ビス(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール等のビスフェノール系、1,1,3-トリス(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス〔β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン等のトリ以上のポリフェノール系、2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のチオビスフェノール系、アルドール-α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン等のナフチルアミン系、p-イソプロポキシジフェニルアミン等のジフェニルアミン系、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-β-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系のもの等が挙げられる。これらの中で、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系等が好ましい。
【0075】
光安定剤や紫外線吸収剤の具体例としては、4-t-ブチルフェニルサリシレート、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-エチルヘキシル-2-ジアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-3,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-5-クロルベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2(2’-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、モノグリコールサリチレート、オキザリック酸アミド、フェニルサリチレート、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0076】
金属害防止剤は、ヒドラジド誘導体、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体などを挙げることができる。
ヒドラジド誘導体金属害防止剤としては、N,N’-ジアセチルアジピン酸ヒドラジド、アジピン酸ビス(α-フェノキシプロピオニルヒドラジド)、テレフタル酸ビス(α-フェノキシプロピオニルヒドラジド)、セバチン酸ビス(α-フェノキシプロピオニルヒドラジド)、イソフタル酸ビス(β-フェノキシプロピオニルヒドラジド)などが挙げられ、シュウ酸誘導体金属害防止剤としては、N,N’-ジベンザル(オキザリルジヒドラジド)、N-ベンザル-(オキザリルジヒドラジド)、オキザリルビス-4-メチルベンジリデンヒドラジド、オキザリルビス-3-エトキシベンジリデンヒドラジド等が挙げられ、また、サリチル酸誘導体金属害防止剤としては、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドが挙げられる。
本発明において好ましい金属害防止剤は、サリチル酸誘導体金属害防止剤である。
【0077】
酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び金属害防止剤等の安定剤の添加量は、特に限定されるものではないが、エチレン系重合体100質量部に対し、好ましくは0.001~5質量部であり、更に好ましくは0.001~3質量部である。0.001質量部未満では十分な安定化効果が得られず、5質量部を超えると着色等の影響が生じ、また成形不良を起こす傾向にあり、添加量の増加に見合うだけの効果が得られず経済的ではなくなる。
エチレン系重合体中の安定剤は、蛍光X線分析、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0078】
3.ポリエチレン系樹脂の成形
本発明のポリエチレン系樹脂は、剛性及び耐久性のバランスに優れ、成形性に優れることから、各種成形法により各種成形体を製造することができる。耐ドローダウン性に優れることから、好ましくは、主に中空成形法等により成形され、好適には中空容器などの各種成形品が得られる。
本発明のポリエチレン系樹脂による中空成形品は、特に限定されるものではないが、従来公知の多層中空成形機を用いて押出ブロー成形法により製造することができる。例えば、複数の押出機で各層の構成樹脂を加熱溶融させた後、多層のダイにより溶融パリソンを押出し、次いでこのパリソンを金型で挟み、パリソンの内部に空気を吹き込むことにより、多層の中空プラスチック成形品が製造される。
【0079】
また、本発明のポリエチレン系樹脂は、剛性及び耐久性のバランスに優れ、成形性及び成形品の外観に優れるため、製品としては、燃料タンク等のタンク、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器、各種プラスチックボトル等の製品として供される。その他の用途として、ガス用及び上水道用等の各種パイプ、フィルム、ラミネート、コーティング、繊維、食品用及び日用雑貨用等の射出成形体、圧縮射出成形体、回転成形体又は押出成形体等が挙げられる。
また本発明で得られるポリエチレン系樹脂は、分子量分布が広いという特性があり他のエチレン系重合体との相溶性に優れるため単一材としてだけではなく、張力改善のために他のポリエチレンとのブレンド材として、上記に挙げた製品用途として用いることもできる。
本発明のポリエチレン系樹脂は、上記特性を満足するものであるので、これを用いた成形体は、耐環境応力亀裂性、耐衝撃性に優れ、剛性、耐熱性にも優れるうえに、肉厚の均一性が向上したものである。
従って、このような特性を必要とする容器などの用途に適する。例えば、自動車用燃料タンク、その他化粧品容器、洗剤、シャンプー及びリンス用容器、或いは食用油等の食品用容器等の用途にも好適に用いることができる。
剛性と耐久性のバランスに優れ、向上した耐ドローダウン性等の成形性を有し、製品の肉厚均一性が向上することから、本発明のポリエチレン系樹脂は、中でも、燃料用容器、特に、自動車用燃料タンク等の用途に好適に用いることができる。
【0080】
4.中空成形品
本発明の中空成形品は、前記本発明のポリエチレン系樹脂を含む層を少なくとも1層有する構造、好ましくは多層有する構造のものが挙げられる。また、本発明の中空成形品は、前記本発明のポリエチレン系樹脂を含む単層構造のものであってもよい。中空成形品が多層構造の場合、浸透低減遮断層を有するのが好ましく、浸透低減遮断層には、通常バリアー層が用いられる。
【0081】
本発明の中空成形品(中空プラスチック成形品)の層構造が2層以上であるとき、最内層と最外層が前記本発明のポリエチレン系樹脂を含むことが好ましい。
中空成形品は、少なくとも1層のバリアー層を存在させて、揮発性物質の浸透を減らし且つ該バリアー層が極性の遮断ポリマーから構成されている浸透低減遮断層を含む多層構造が好ましい。例えば、プラスチック燃料タンクの場合、タンクの壁を多層構造とすると、バリアー層(それ単独では成形性及び機械強度が十分ではない)を、本発明のポリエチレンを含む2層の間に固定化できるという利点がある。結果として、特に共押出ブロー成形中に、本発明のポリエチレン系樹脂を含む層を2層以上有する材料の成形性は、主として本発明のポリエチレン系樹脂の改良された成形性の影響を受けて改善される。更に、本発明のポリエチレン系樹脂の改良された性能は、材料の機械強度に極めて重要な影響を及ぼすので、本発明の中空成形品の強度を顕著に増大させることが可能となる。
また、中空成形品においては、フッ素化、表面被覆又はプラズマ重合等の処理により、本発明のポリエチレン系樹脂層の表面に基層を被覆するようにしてもよい。
【0082】
中空成形品は、内側から最内層、接着層、バリアー層、接着層、再生材層、最外層の順に積層されている4種6層の中空成形品であることが好ましい。バリアー層を接着層で挟むことにより、高度なバリアー性が発揮される。最外層と接着層の間に再生材層を有することにより、原材料費の削減によるコストダウンおよび中空成形品の剛性の保持という効果が発揮される。
【0083】
以下に、上記能様における各層の構成、層構成比について詳細に説明する。
【0084】
(1)最外層
中空成形品の最外層を構成する樹脂は、本発明のポリエチレン系樹脂とするのが好ましい。
【0085】
(2)最内層
中空成形品の最内層を構成する樹脂は、本発明のポリエチレン系樹脂とするのが好ましく、上記の最外層を構成する樹脂と同じであってもよいし、また異なるものであってもよい。
【0086】
(3)バリアー層
中空成形品のバリアー層を形成する樹脂は、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等から選ばれるものであるが、特にエチレンビニルアルコール樹脂からなることが好ましい。エチレンビニルアルコール樹脂は、ケン化度が好ましくは93%以上、より好ましくは96%以上で、エチレン含量が、好ましくは25~50モル%である。
【0087】
(4)接着層
中空成形品の接着層を形成する樹脂は、不飽和カルボン酸又はその誘導体によりグラフト変性した高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等から選ばれるものであるが、特に不飽和カルボン酸又はその誘導体によりグラフト変性した高密度ポリエチレンからなることが好ましい。
不飽和カルボン酸又はその誘導体の含有量は、接着層を構成する樹脂中、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.01~3質量%、更に好ましくは0.01~1質量%である。不飽和カルボン酸又はその誘導体の含有量が0.01質量%未満であると十分な接着性能が発現せず、5質量%を超えると接着性に寄与しない不飽和カルボン酸が接着性に悪影響を与える。
【0088】
(5)再生材層
中空成形品の再生材層を形成する樹脂は、最外層を形成するポリエチレン系樹脂、最内層を形成するポリエチレン系樹脂、バリアー層を形成する樹脂、及び接着層を形成する樹脂を含む組成物である。
再生材層を形成する樹脂の各成分は新品を使用することもできるし、それぞれの樹脂からなる各層を含む多層積層体のスクラップ、バリ等の不要部分を回収、再利用してこのようなリサイクル品を各成分の成分原料とすることもできる。例えば、一旦成形され、使用されて利用済みの中空成形品(自動車用燃料タンク製品等)を粉砕してなるリグラインド樹脂が挙げられる。多層積層体を作製する際に発生した成形バリや未使用パリソンをリサイクル材として使用する場合、各種成分の相溶性が低下することがあるので、相溶化剤や接着層を構成する樹脂をさらに混合してもよい。
【0089】
(6)中空成形品の層構成比
中空成形品は、各層の厚み構成によって制限されないが、例えば厚み比で最外層が10~30%、最内層が20~50%、バリアー層が1~15%、接着層が1~15%、及び再生材層が30~60%(ただし全ての層厚み構成比の合計が100%)である。
最外層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは10~30%、より好ましくは10~25%、更に好ましくは10~20%である。最外層の層構成比が10%未満であると、衝撃性能が不足し、30%を超えると中空成形品の成形安定性が損なわれる傾向にある。
最内層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは20~50%、より好ましくは35~50%、更に好ましくは40~50%である。最内層の層構成比が20%未満であると、中空プラスチック成形品の剛性不足が顕在化し、50%を超えると中空プラスチック成形品の成形安定性が損なわれる傾向にある。
バリアー層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは1~15%、より好ましくは1~10%、更に好ましくは1~5%である。バリアー層の層構成比が1%未満であると、バリアー性能が不満足であり、15%を超えると衝撃性能が不足する傾向にある。
接着層の層構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは1~15%、より好ましくは1~10%、更に好ましくは1~5%である。接着層の層構成比が1%未満であると、接着性能が不満足であり、15%を超えると中空成形品の剛性不足が顕在化する傾向にある。
再生材層の構成比は、中空成形品の層厚みに対して、好ましくは30~60%、より好ましくは35~50%、更に好ましくは35~45%である。再生材層の層構成比が30%未満であると、中空プラスチック成形品の成形安定性が損なわれ、60%を超えると衝撃性能が不足する傾向にある。
【0090】
5.中空成形品の用途等
本発明の中空成形品の用途としては、例えば、自動車用燃料タンク、各種燃料タンク、灯油缶、ドラム缶、薬品用容器、農薬用容器、溶剤用容器、各種プラスチックボトル等が挙げられる。
本発明のポリエチレン系樹脂は、上記のように成形性に優れ、且つ剛性と耐久性のバランスに優れている。そのため、中空成形品の材料、特に、バリアー層を含む多層構造として成形しても、バリアー層による強度劣化、成形不良等の悪影響がポリエチレン層に及ぶことなく、バリアー性にも優れている。更に、本発明のポリエチレン系樹脂は、ガソリン等の液体燃料浸漬時の耐膨潤性にも優れる。それ故、本発明のポリエチレン系樹脂を用いた中空成形品としては、軽量かつ高い耐久性が要求される燃料用容器、特に、自動車の燃料タンク等に好適である。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。
【0092】
1.各種評価(測定)方法
(1)温度190℃、荷重21.6kgで測定されるメルトフローレート(HLMFR)、及び温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)
JIS K6922-2:1997に準拠して測定した。
(2)密度
JIS K7112:2004に準拠して測定した。
【0093】
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量及び分子量分布の測定:
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
[測定条件]
使用機種:日本ウォーターズ社製Alliance GPCV2000型
測定温度:145℃
溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
カラム:昭和電工社製Shodex HT-806M×2本+同 HT-G
流速:1.0mL/分
注入量:0.3mL
[試料の調製]
4mLバイアル瓶に試料3mg及びオルトジクロロベンゼン(0.1mg/mLの1,2,4-トリメチルフェノールを含む)3mLを秤り採り、樹脂製スクリューキャップ及びテフロン(登録商標)製セプタムで蓋をした後、温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解を行った。溶解終了後、不溶成分がないことを目視で確認した。
[較正曲線の作成]
4mLガラス瓶を4本用意し、それぞれに下記(i)~(iv)の組み合わせの単分散ポリスチレン標準試料又はn-アルカンを0.2mgずつ秤り採り、続いてオルトジクロロベンゼン(0.1mg/mLの1,2,4-トリメチルフェノールを含む)3mLを秤り採り、樹脂製スクリューキャップ及びテフロン(登録商標)製セプタムで蓋をした後、温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解を行った。
(i)Shodex S-1460,同S-66.0,n-エイコサン
(ii)Shodex S-1950,同S-152,n-テトラコンタン
(iii)Shodex S-3900,同S-565,同S-5.05
(iv)Shodex S-7500,同S-1010,同S-28.5
試料溶液が入ったバイアル瓶を装置にセットし、前述の条件にて測定を行い、サンプリング間隔1秒でクロマトグラム(保持時間と示差屈折計検出器の応答のデータセット)を記録した。得られたクロマトグラムから各ポリスチレン標準試料の保持時間(ピーク頂点)を読み取り、分子量の対数値に対してプロットした。ここで、n-エイコサン及びn-テトラコンタンの分子量は、それぞれ600及び1200とした。このプロットに非線形最小自乗法を適用し、得られた4次曲線を較正曲線とした。
[分子量の計算]
前述の条件にて測定を行い、サンプリング間隔1sでクロマトグラムを記録した。このクロマトグラム森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)第4章p.51~60に記載の方法で微分分子量分布曲線及び平均分子量値(Mn、Mw及びMz)を算出した。ただし、dn/dcの分子量依存性を補正するため、クロマトグラムにおけるベースラインからの高さHを下記の式にて補正した。クロマトグラムの記録(データ取り込み)及び平均分子量計算は、Microsoft社製OS Windows(登録商標)XPをインストールしたPC上で自社製プログラム(Microsoft製Visual Basic6.0で作成)を用いて行った。
H’=H/[1.032+189.2/M(PE)]
なお、ポリスチレンからポリエチレンへの分子量変換は、下記の式を用いた。
M(PE)=0.468×M(PS)
【0094】
(4)伸長粘度の変曲点の有無
プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成した試験片を用い、レオメータ(Rheometrics社製Ares)を用い、170℃、歪み速度0.1/秒における伸長粘度の測定を行い、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点の有無(伸長粘度の立ち上がりの有無)により、長鎖分岐構造の有無の確認を行った。
[測定条件]
装置:Rheometrics社製Ares
冶具:ティーエーインスツルメント社製 Extentional Viscosity Fixture
測定温度:170℃
歪み速度:0.1/秒
試験片の作成:プレス成形して18mm×10mm、厚さ0.7mm、のシートを作成した。
[算出方法]
170℃、歪み速度0.1/秒における伸長粘度を、横軸に時間t(単位:秒)、縦軸に伸長粘度η(t)(単位:Pa・秒)を両対数グラフでプロットした。その両対数グラフ上で、歪硬化後、歪量が4.0となるまでの最大伸長粘度をη
Max(t1)(t1は最大伸長粘度を示す時の時間)とし、歪硬化前の伸長粘度の近似直線をη
Linear(t)としたとき、η
Max(t1)/η
Linear(t1)として算出される値を歪硬化度(λmax)と定義した。なお、歪硬化に起因する伸長粘度の変曲点の有無は、時間の経過と共に伸長粘度が上に凸の曲線から下に凸の曲線へと変わる変曲点を有するか、否かによって、判断した。
図1、
図2は典型的な伸長粘度のプロット図である。
図1は伸長粘度の変曲点が観測される場合であり、図中にη
Max(t1)、η
Linear(t1)を示した。
図2は伸長粘度の変曲点が観測されない場合である。
【0095】
(5)ゼロ剪断粘度(η0)
ポリエチレン系樹脂を溶融混練したものを熱プレスにより厚さ2.0mmのシートに成形し、レオメータ(Reometrics社製ARES)を用い、パラレルプレートを用いて試料をプレートに密着させて溶融した後、温度210℃で応力を緩和させて、試料をプレート間に隙間ができないようプレート間隔を調整しながら温度190℃まで降温させ、プレート間隔約1.7mm、歪み5%の範囲で測定を行った。周波数ωが0.01rad/秒で測定したときの動的溶融粘度(単位:Pa・秒)を、低歪速度における溶融粘度(ηH・0.01)とし、周波数ωが100から0.01rad/秒の範囲で測定した、緩和時間τ0(秒)、動的溶融粘度η*(単位:Pa・秒)を用い、下記のクロスの粘度式(式(1))によりゼロ剪断粘度(η0)を算出した。クロスの粘度式への近似は回帰法により市販されているコンピュータープログラムを用いて計算を行った。
η*/η0=1/{1+(τ0ω)n} (1)
式(1)中、nは高剪断速度領域における溶融粘度の剪断速度依存性を示すパラメーターであり、τ0は緩和時間を表すパラメーターである。
[測定条件]
・装置:Rheometorics社製 Ares
・冶具:直径25mmパラレルプレート、プレート間隔約1.7mm
・測定温度:210℃
・周波数範囲:0.01~100(単位:rad/秒)
・歪範囲:5%
【0096】
(6)スウェル比
東洋精機製作所社製キャピログラフを使用し、ノズル径1.0mmφ、ノズル長40.0mm、流入角90°、設定温度210℃で、ピストン押出速度0.5mm/分で押し出したストランドについて、ノズル出口から20mmの位置でのストランド径(D)を、レーザー測定機を用いて測定した。ノズル径(D0)を使い、スウェル比はD/D0で求めた。
【0097】
(7)全周囲ノッチ式引張クリープ試験による破断時間(T)
JIS K-6992-2(2004年版)に準拠し、厚さ5.9mmのシートを圧縮成形した後、JIS K-6774(2004年版)附属書5(規定)
図2に示された区分「呼び50」の形状と寸法の試験片を作製し、80℃の純水中で全周囲ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)を行った。引張荷重は88N、98N、108Nとし、試験点数は各荷重で2点とした。得られた両対数スケールにおける破断時間と公称応力の6点のプロットから最小二乗法により公称応力6MPaにおける破断時間を耐クリープ性の指標とした。
【0098】
(8)式(A)の適合性
前記全周囲ノッチ式クリープ試験の破断時間(T)(単位:時間)と前記と密度(d)(単位:g/cm3)が下記式(A)で示される関係を満たすか否か、判断した。
log10T≧-348.6×d+333.0 ・・・式(A)
【0099】
(9)曲げ弾性率
JIS K7171:2008に準拠して測定した。
【0100】
(10)成形性(耐ドローダウン性)
日本製鋼所社製成形機NB150にて自動車用燃料タンクを中空成形し、押出速度600kg/hにおいてパリソンのドローダウンを評価した。即ち、ダイスから1500mmまでの到達時間が90秒以上であるもの(肉厚均一性が良好なもの)を「○」、90秒未満であるもの(肉厚均一性が良好ではないもの)を「×」とした。
【0101】
(11)耐熱/耐圧性
自動車用燃料タンクを中空成形し、タンクに、内圧0.05MPa、60℃で、内圧、耐熱テストを実施した。1000時間経過後に、穴あき、クラック等が発生してないものを「○」とし、穴あき、クラック等が発生しているものを「×」とした。
【0102】
(12)耐内圧変形性
自動車用燃料タンクを中空成形し、タンクに、内圧0.05MPa、60℃で、内圧変形テストを実施した。500時間経過後に、圧力を抜いて常温に戻した後に、変形の大きくないものを「○」とし、変形の著しく大きいものを「×」とした。
【0103】
(13)総合評価
上記の評価において、耐ドローダウン性が良好であり、且つ、耐熱/耐圧性及び内圧変形性が良好であるものを「○」、それ以外のものを「×」とした。
【0104】
2.使用材料の調製
[実施例1]
[クロム系触媒(C-1)の調製]
クロム原子担持量=1.1質量%、比表面積=500m2/g、細孔体積=1.5cm3/gを有する「触媒-1」(W.R.Grace社製)15gを多孔板目皿付き、管径5cmの石英ガラス管に入れ、円筒状焼成用電気炉にセットし、モレキュラーシーブスを通した空気にて流動化させ、線速6cm/sにて500℃で18時間焼成活性化を行なった。6価のクロム原子を含有することを示すオレンジ色のクロム触媒成分が得られた。
予め窒素置換した100mlのフラスコに、上記のクロム触媒成分2gを入れ、蒸留精製したヘキサン30mlを加えスラリーとした。東ソー・ファインケム社製ジエチルアルミニウムエトキシドの1.0mol/L-ヘキサン溶液を2.1ml(Al/Crモル比=5)添加し、40℃で1時間攪拌した。攪拌終了後直ちに減圧下で30分かけて溶媒を除去し、クロム系触媒(C-1)を得た。
[エチレン系重合体(A1)の製造]
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに前述のクロム系触媒(C-1)100mg及びイソブタン0.8Lを仕込み、内温を110℃まで昇温した。1-ヘキセンを15g仕込み、エチレン分圧を1.4MPaとなるように保ちながら、水素分圧等を調整して、触媒生産性が1,500g-ポリマー/g-触媒となるように重合を行なった。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。得られたエチレン重合体は、物性評価の結果、HLMFRが0.1g/10分、密度が0.9350g/cm3であった。
[エチレン系重合体(B1)の製造]
充分に窒素置換した2.0Lのオートクレーブに前述のクロム系触媒(C-1)100mg及びイソブタン0.8Lを仕込み、内温を110℃まで昇温した。エチレン分圧を1.0MPaとなるように保ちながら、水素分圧等を調整して、触媒生産性が3,000g-ポリマー/g-触媒となるように重合を行なった。ついで内容ガスを系外に放出することにより重合を終結した。得られたエチレン重合体は、物性評価の結果、MFRが2.0g/10分、密度が0.9600g/cm3であった。
[ポリエチレン系樹脂の製造]
エチレン系重合体(A1)及びエチレン系重合体(B1)を表1に示した組成割合で溶融混合し、ポリエチレン系樹脂を製造した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0105】
[実施例2]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
エチレン系重合体(A2)及びエチレン系重合体(B2)を実施例1に準じて1-ヘキセン量、水素分圧等を調整して製造した。実施例1のエチレン系重合体(A1)の代わりにエチレン系重合体(A2)を用い、エチレン系重合体(B1)の代わりにエチレン系重合体(B2)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン系樹脂を得た。
上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体(A)及びエチレン系重合体(B)の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0106】
[実施例3]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
エチレン系重合体(A3)及びエチレン系重合体(B3)を実施例1に準じて1-ヘキセン量、水素分圧等を調整して製造した。実施例1のエチレン系重合体(A1)の代わりにエチレン系重合体(A3)を用い、実施例1のエチレン系重合体(B1)の代わりにエチレン系重合体(B3)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン系樹脂を得た。
上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体(A)及びエチレン系重合体(B)の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0107】
[実施例4]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
クロム系触媒の代わりにチーグラーナッタ系触媒を使用し、エチレン系重合体(B4)を実施例1に準じて1-ヘキセン量、水素分圧等を調整して製造した。実施例1のエチレン系重合体(B1)の代わりにエチレン系重合体(B4)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン系樹脂を得た。
上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体(A)及びエチレン系重合体(B)の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0108】
[実施例5]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
エチレン系重合体(A4)を実施例1に準じて1-ヘキセン量、水素分圧等を調整して製造した。実施例1のエチレン系重合体(A1)の代わりにエチレン系重合体(A4)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン系樹脂を得た。
上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体(A)及びエチレン系重合体(B)の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0109】
[実施例6]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
エチレン系重合体(A5)及びエチレン系重合体(B2)を実施例1に準じて1-ヘキセン量、水素分圧等を調整して製造した。実施例1のエチレン系重合体(A1)の代わりにエチレン系重合体(A5)を用い、エチレン系重合体(B1)の代わりにエチレン系重合体(B2)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン系樹脂を得た。
上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体(A)及びエチレン系重合体(B)の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0110】
[比較例1]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
クロム系触媒を用いてポリエチレン系樹脂を製造した。上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0111】
[比較例2]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
有機アルミニウム化合物を含有するクロム系触媒を用いてポリエチレン系樹脂を製造した。上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0112】
[比較例3]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
チーグラーナッタ系触媒を使用して、2基の反応器による多段重合により、エチレンと1-ヘキセンの重合を行ない、表1に記載した特性のポリエチレン系樹脂を製造した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0113】
[比較例4]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
チーグラーナッタ系触媒を使用して、2基の反応器による多段重合により、エチレンと1-ヘキセンの重合を行ない、表1に記載した特性のポリエチレン系樹脂を製造した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0114】
[比較例5]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
メタロセン系触媒を用いて多段重合によりポリエチレン系樹脂を製造した。上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0115】
[比較例6]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
メタロセン系触媒を用いて高分子量成分を製造し、クロム系触媒を用いて低分子量成分を製造し、高分子量成分及び低分子量成分を溶融混合してポリエチレン系樹脂を製造した。上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0116】
[比較例7]
[ポリエチレン系樹脂の製造]
メタロセン系触媒を用いて高分子量成分を製造し、クロム系触媒を用いて低分子量成分を製造し、高分子量成分及び低分子量成分を溶融混合してポリエチレン系樹脂を製造した。上記のポリエチレン系樹脂に用いられたエチレン系重合体の物性及び組成割合を表1に示した。
[ポリエチレン系樹脂の物性及び評価]
上記のポリエチレン系樹脂の物性及び性能評価を表2に示した。
【0117】
【0118】
【0119】
3.評価
表2に示す実験結果を参酌しながら、実験結果を説明する。
実施例1~4のポリエチレン系樹脂は、HLMFRが1~15g/10分であり、密度(d)が0.950~0.965g/cm3であり、ゼロ剪断粘度(η0)が300,000Pa・秒以上であり、かつ、スウェル比が1.33以上であることから、耐熱/耐圧性と、耐内圧変形性に優れ、更に耐ドローダウン性として肉厚均一性が向上しており、剛性及び耐久性のバランスに優れ、且つ、成形性にも優れていた。
実施例5及び6のポリエチレン系樹脂は、高分子量成分のエチレン系重合体(A)が式(B)を満足しないが、耐熱/耐圧性と、耐内圧変形性に優れ、更に耐ドローダウン性として肉厚均一性が向上しており、剛性及び耐久性のバランスに優れ、且つ、成形性にも優れる例である。
一方、比較例1及び2のポリエチレン系樹脂は、密度(d)が小さく、耐熱/耐圧性と耐内圧変形性に劣り、剛性及び耐久性が劣っていた。
比較例3及び5のポリエチレン系樹脂は、ゼロ剪断粘度(η0)は大きいもののスウェル比が小さく、耐ドローダウン性として肉厚均一性が劣っており、成形性が劣っていた。
比較例4及び7のポリエチレン系樹脂は、ゼロ剪断粘度(η0)が小さく、且つ、スウェル比が小さく、耐ドローダウン性として肉厚均一性が劣っており、成形性が劣っていた。
比較例6のポリエチレン系樹脂は、スウェル比は大きいもののゼロ剪断粘度(η0)が小さく、耐ドローダウン性として肉厚均一性が劣っており、成形性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のポリエチレン系樹脂は、剛性及び耐久性のバランスに優れ、成形性に優れた材料を提供することができ、それを用いた中空プラスチック成形品は、同様の良好な特性を有し、容器、ボトル、缶、タンク等に使用でき、特に自動車の燃料タンク等の中空プラスチック製品の材料として有用な材料を提供することができるため、産業上極めて有用である。