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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
A61M25/00 504
A61M25/00 610
A61M25/00 624
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019063608
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020162645
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康弘
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-217237(JP,A)
【文献】特開2014-18390(JP,A)
【文献】特開2007-319594(JP,A)
【文献】特開2010-42115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、
前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、
前記先端側補強層を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっており、
前記先端側補強層に固定されるとともに前記樹脂層に内包されているリング状のマーカーを、さらに備え、
前記先端側補強層のうちの前記マーカーが固定された部分を構成する前記素線の径の変化率が、前記先端側補強層の基端から前記先端側補強層に固定された前記マーカーの基端までを構成する前記素線の径の変化率よりも小さくなっている、
カテーテル。
【請求項2】
前記先端側補強層のうちの前記マーカーが固定された部分を構成する前記素線の径が一定である、
請求項に記載のカテーテル。
【請求項3】
ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、
前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、
前記先端側補強層を構成する前記素線の断面の外側の曲率が、該断面の内側の曲率よりも小さく、かつ先端に向かって小さくなっており、
前記先端側補強層を構成する前記素線の断面のうちの曲率が大きい部分が、前記内層に埋設され、かつ該断面のうちの曲率が小さい部分が前記外層に埋設されている、
カテーテル。
【請求項4】
ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、
前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、
前記カテーテル本体は、前記補強層である第二補強層を、前記第一補強層の内側に有し、
前記第二補強層は、前記第一補強層の先端から延伸しており、
前記第二補強層における前記第一補強層の前記先端側補強層と重なる部分を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっている、
カテーテル。
【請求項5】
ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、
前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、
前記カテーテル本体は、前記補強層である第二補強層を、前記第一補強層の内側に有し、
前記第二補強層は、前記第一補強層の先端から延伸しており、
前記第二補強層のうちの前記第一補強層から延伸している部分を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっている、
カテーテル。
【請求項6】
前記後端側補強層を構成する前記素線の径が一定である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の体腔に挿入可能なカテーテルが知られている。医師は、カテーテルを用いて体腔に薬液等を注入する。
一般に、カテーテルの挿入時における押し込み性(プッシャビリティ)や、薬液等の注入時の内圧に対する耐久性等を確保するために、カテーテルは、樹脂製のチューブとチューブを補強する補強層とから構成される。例えば、特許文献1には、当該補強層を複数の素線をメッシュ状に編組することによって形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-82802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、昨今のカテーテルでは、より細径な血管へのカテーテルの挿入が求められており、その操作性や安全性を確保するために、カテーテルの先端部において細径化や柔軟性の向上が求められている。
しかしながら、上記補強層の存在により、カテーテルの先端部における細径化や柔軟性を確保することは必ずしも容易ではない。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、カテーテルの挿入時における押し込み性)や、薬液等の注入時の内圧に対する耐久性等を高めつつも、カテーテルの先端部における細径化や柔軟性を確保することができるカテーテルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、前記先端側補強層を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっており、前記先端側補強層に固定されるとともに前記樹脂層に内包されているリング状のマーカーを、さらに備え、前記先端側補強層のうちの前記マーカーが固定された部分を構成する前記素線の径の変化率が、前記先端側補強層の基端から前記先端側補強層に固定された前記マーカーの基端までを構成する前記素線の径の変化率よりも小さくなっている、カテーテルを提供するものである。
また、本発明は、ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、前記先端側補強層を構成する前記素線の断面の外側の曲率が、該断面の内側の曲率よりも小さく、かつ先端に向かって小さくなっており、前記先端側補強層を構成する前記素線の断面のうちの曲率が大きい部分が、前記内層に埋設され、かつ該断面のうちの曲率が小さい部分が前記外層に埋設されている、カテーテルを提供するものである。
また、本発明は、ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、前記カテーテル本体は、前記補強層である第二補強層を、前記第一補強層の内側に有し、前記第二補強層は、前記第一補強層の先端から延伸しており、前記第二補強層における前記第一補強層の前記先端側補強層と重なる部分を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっている、カテーテルを提供するものである。
また、本発明は、ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっており、前記カテーテル本体は、前記補強層である第二補強層を、前記第一補強層の内側に有し、前記第二補強層は、前記第一補強層の先端から延伸しており、前記第二補強層のうちの前記第一補強層から延伸している部分を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっている、カテーテルを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カテーテルの挿入時における押し込み性(プッシャビリティ)や、薬液等の注入時の内圧に対する耐久性等を高めつつも、カテーテルの先端部における細径化や柔軟性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係るカテーテルの全体図である。
図2図2は、本実施形態に係るカテーテルの縦断面図である。
図3図3は、図2の部分拡大図であり、カテーテルの先端部を示す図である。
図4図4は、本実施形態における第1ブレードを構成する素線のうちの後端側小径領域に対応する素線の断面形状を示す図である。
図5図5は、第1ブレードを構成する素線が外層に内包されている変形例を示す図である。
図6図6は、第2ブレードを構成する素線の先端側が細径になる変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
本実施形態に係るカテーテルの各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
また、以下の説明において、先端とは、カテーテル本体10(図1参照)の先端(図1に示す図面に向かって左側の端部)を指し、後端または基端とは、カテーテル本体10の基端または後端(図1に示す図面に向かって右側の端部)を指す。さらに、軸心とは、カテーテル本体10の軸心を指す。
【0010】
<本実施形態に係るカテーテルの概要について>
まず、図1から図3を用いて、本実施形態に係るカテーテル100の概要について説明する。なお、図1は、本実施形態に係るカテーテル100の全体図であり、図2は、本実施形態に係るカテーテル100の縦断面図であり、図3は、図2の部分拡大図であり、カテーテル100の先端部を示す図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係るカテーテル100は、長尺なカテーテル本体10と、カテーテル本体10の基端部に設けられた把持部90で構成される。把持部90は、その基端から図示しない注入器(シリンジ)やインジェクターなどの薬液注入デバイスを挿入するための連結部91を有している。連結部91の外周には、シリンジを着脱可能に固定できるようにねじ溝が形成されている。把持部90の中央部には、ハブ92が設けられている。把持部90には当該把持部90を先端から基端に亘って軸心方向に貫通する中空が形成されており、この中空における先端側の部分にカテーテル本体10の基端部が挿入されて、把持部90に対してカテーテル本体10の基端部が固定されている。ハブ92は、把持部90の軸心を介して対向する2枚の羽部93を有している。把持部90の軸心を中心として羽部93を回転させることにより、カテーテル本体10の全体を軸回転させるトルク操作が可能であり、体腔に侵入したカテーテル本体10の先端の向きを調整することができる。ハブ92の先端側には、プロテクタ94が設けられており、カテーテル本体10の基端部の周囲を覆っている。
【0012】
カテーテル100は、典型的には、被験者の大腿の付け根の動脈から体内に挿入し、大動脈及び総頚動脈を介して、内頸動脈や外径動脈などから分枝した穿通枝にカテーテル本体10の先端部を挿入する手技を行うために用いられる。このため、カテーテル本体10は、そのような手技に対応した長さに作製される。ただし、本発明は、この例に限らず、カテーテル100は、他の部位への挿入に適した長さに作製されていてもよい。
【0013】
図2に示すように、カテーテル本体10は、先端側の小径領域21と、後端側の大径領域22と、小径領域21の基端から大径領域22の先端を繋いで後述するルーメン31の内径およびカテーテル本体10の外形を基端側に向けてテーパー状に拡径する拡径領域23と、で構成されている。これにより、ルーメン31を介してカテーテル本体10の先端部まで薬液等の液体をスムーズに供給できる。なお、カテーテル本体10の内径を一定径とし、小径領域21の基端から大径領域22の先端にかけての拡径領域23において、カテーテル本体10の外形のみをテーパー状に拡径するようにしてもよい。
【0014】
また、カテーテル本体10は、ルーメン31を有する内層32と、内層32の外周囲に形成されている外層33とを含む樹脂層30と、樹脂層30に埋設されているとともにルーメン31の周囲に配置されている補強層40と、を有する。
補強層40は、大径領域22の基端から小径領域21の先端に亘って内層32の外周面に配置された第1ブレード41と、大径領域22の基端から大径領域22の先端付近の所定の位置に亘って第1ブレード41の外周に配置された第2ブレード42と、で構成され、第1ブレード41および第2ブレード42は、軸心方向に沿ってルーメン31の周囲に巻回された素線で構成されている。なお、本実施形態における各ブレードの巻回方法としては、複数の素線をメッシュ状に編組する方法を採用しているが、一又は複数の素線をコイル状に巻回する方法を採用してもよい。さらに、複数の素線をメッシュ状に編組する場合に、本実施形態では各素線が1本の素線で構成されているが、各素線の少なくとも一部が複数本の素線で構成されるようにしてもよく、これは素線をコイル状に巻回する方法を採用する場合も同様である。素線は、例えばステンレス等の金属性の材料で構成されることが好ましい。
また、本実施形態に係るカテーテル100は、内層32を形成した後に第1ブレード41を内層32の外周に巻回し、その後に第2ブレード42を巻回し、さらにその後に外層33を形成して作製される。ただし、外層33を形成するにあたっては、当該形成を2段階に分け、外層33の1段階目の形成した後に第2ブレード42を当該1段階目に形成された外層33の外周に巻回し、その後に外層33の2段階目を形成し、当該1段階目に形成された外層33に対して当該2段階目に形成する外層33を融着させることで外層33を形成するようにしてもよい。
さらに、カテーテル本体10は、例えば放射線不透過性の金属材料により構成されたリング状のマーカー50を備えている。マーカー50は、樹脂層30に内包されているとともに第1ブレード41の先端に固定されてルーメン31の周囲に配置された先端側マーカー51と、第2ブレード42の先端に固定されてルーメン31の周囲に配置された後端側マーカー52と、で構成される。なお、各マーカーは、軸心方向または円周方向にスリットを入れた形状等とすることで柔軟性を持たせたものを用いてもよい。また、マーカー50のうちの後端側マーカー52については、放射線不透過性の金属材料に限らず、例えば、接着剤のような当該金属材料とは異なる材料であってもよい。
さらに、カテーテル本体10は、カテーテル本体10の先端に連接されている樹脂製の先端チップ60を備えている。先端チップ60は、先端が開口している先端ルーメン61を有し、先端ルーメン61はルーメン31と連通している。
【0015】
図3に示すように、本実施形態では、第1ブレード41(第一補強層)を構成する素線は、小径領域21における当該素線(先端側補強層を構成する素線)の径が、大径領域22における当該素線(後端側補強層を構成する素線)の径よりも細径になっている。
これにより、 カテーテル本体10の挿入時における押し込み性(プッシャビリティ)や、薬液等の注入時の内圧に対する耐久性等を高めつつも、カテーテル本体10の先端部(小径領域21に対応する部分)における細径化や柔軟性を確保することができる。
当該効果を奏するにあたっては、例えば、切断する対象の素線の軸心方向に対して垂直な面で切断した断面(以下、単に断面と表現する)が矩形となる平線を、第1ブレード41を構成する素線に採用する等、断面の形状は、円形状に限らない。すなわち、小径領域21における当該素線の断面積が、大径領域22における当該素線の断面積よりも小さくなっていればよい。
ここで、本発明において小径領域21における素線の断面積が小さいとは、大径領域22における素線の断面をベースとし、機械的な研磨等によって当該断面の一部が除かれた断面形状となることによって実現されることを指す。そのため、本発明において素線の断面積が小さくなるとは、当該素線の軸心方向の曲げに対する断面二次モーメントが小さくなることと同義である。そして、本発明では、本実施形態における第1ブレード41を構成する素線の断面積が小さくなることを、単に、素線が細径となると表現する。
また、本実施形態では、カテーテル本体10の先端領域(第2ブレード42の先端から第1ブレード41が延伸している領域)において、小径領域21および大径領域22を有し、かつこれらの領域を繋ぐ拡径領域23を有しているが、これらの領域の区別がない、すなわち、当該先端領域においてカテーテル本体10が一定の径で構成されてもよい。この場合において、第1ブレード41を構成する素線を細径にする領域の軸心方向の長さは、任意の長さでよいが、当該長さは、当該先端領域の軸心方向の長さの半分以下の長さであることが好ましい。
さらに、上述の通り、第1ブレードを構成する各素線の少なくとも一部が複数本の素線で構成されるようにしてもよく、この場合には、当該複数本の素線のすべてにおいて、小径領域21における径が、大径領域22における径よりも細径になっていることが好ましい。ただし、当該複数本の素線のうちの少なくとも一本において、小径領域21における径が、大径領域22における径よりも細径になっていてもよい。
【0016】
以下、より詳細に説明する。
【0017】
<第1ブレードを構成する素線の径について>
【0018】
図3に示すように、本実施形態では、第1ブレード41を構成する素線は、小径領域21領域の基端にある素線41aから先端側マーカー51の手前の素線41bまでの領域(図3に示す後端側小径領域211)に亘り先端に向かって連続的に細径になっている。
これにより、カテーテル本体10の先端部(小径領域21に対応する部分)における応力集中の発生を低減することができるため、剛性の急激な変化をより低減することで、カテーテル本体10の挿入時における押し込み性をさらに向上させるとともに、当該先端部における応力集中をさらに抑制してカテーテル本体10の強度を高めることができる。
当該効果を奏するにあたっては、第1ブレード41を構成する素線のうちの後端側小径領域211における素線を先端に向かって段階的に細径してもよい。ここで、段階的とは、例えば、図3で示される素線のうちの素線41aと素線41bとの間にある複数の素線の径が同一となる等、素線の径が変化しない箇所が存在することを指す。
なお、本実施形態では、素線の径が連続的に細径となっている領域であっても、第1ブレード41を構成する素線の中心の間隔は一定となっている。すなわち、第1ブレード41のピッチは一定となっている。これは、第1ブレード41を、一又は複数の素線をコイル状に巻回する方法によって構成した場合も同様とすればよい。
【0019】
また、第1ブレード41を構成する素線は、連続的または段階的に細径にするにあたり(単に、細径にする場合も含む)、径の異なる複数の素線を繋ぎ合わせることによって実現されたものではなく、各素線がひとつづきに形成される。
さらに、当該素線を細径にする方法としては、機械的な研磨に限らず、化学研磨等の機械的な研磨以外の方法を採用してもよい。そして、第1ブレード41を構成する素線に対する研磨は、第1ブレード41を内層32に対して巻回する前に行ってもよいし、第1ブレード41を巻回した後であって外層33を形成する前に行ってもよい。
【0020】
また、図3に示すように、本実施形態では、第1ブレード41を構成する素線のうちの、先端側マーカー51が固定される位置(先端側マーカー51の内周面に当接する位置であり、図3に示す先端側小径領域212)にある素線41cが、一定の径となっている。
これにより、かしめ等により先端側マーカー51を固定する際の当該マーカーの内周面と素線41cの外周面との接地面積が広くなり、先端側マーカー51の固定強度を高めることができる。また、先端側マーカー51を素線41cに固定する際の、カテーテル本体10の軸心から先端側マーカー51の外周までの距離の差(先端側マーカー51の高低差)を抑制し、先端側マーカー51付近の外層の突起を発生し難くすることができる。
これらの効果を奏するにあたっては、素線41cを一定の径にすることが好ましいが、素線41aから素線41bと同様に、素線41cの径をカテーテル本体10の先端に向かって連続的または段階的に細径にした(素線41cの断面積を先端に向かって小さくした)上で、素線41cにおける径(断面積)の変化率を、素線41aから素線41bまでの素線の径の変化率よりも小さくするようにしてもよい。なお、これらの径の変化率が一定でない場合には、各径の変化率の平均値がこのような関係性になっていればよい。
また、本実施形態では、素線41cのうちの先端側マーカー51の最も基端側に位置する素線の径が、素線41bの径と同一となっている。ただし、素線41cのうちの先端側マーカー51の最も基端側に位置する素線の径を、素線41bの径と異なる径としてもよく、この場合には、素線41cのうちの先端側マーカー51の最も基端側に位置する素線の径が、素線41bよりも細径であることが好ましい。すなわち、素線41cのうちの先端側マーカー51の最も基端側に位置する素線の径は、素線41bの径以下となることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態では、小径領域21の基端にある素線41aの手前の素線41dよりもカテーテル本体10の基端側において、第1ブレード41を構成する素線が一定の径となっている。
これにより、第1ブレード41のカテーテル本体10の大径領域22を堅牢にすることができる。
また、本実施形態において、素線41aの径が、素線41dの径と同一の径となっているが、これに限らない。素線41aの径を、素線41dよりも細径にしてもよい。
なお、本実施形態における素線41a~素線41dのそれぞれは、必ずしも異なる素線を示しているわけではなく、1本または複数本の素線で構成された第1ブレード41における軸心方向の異なる位置を示している。
【0022】
<第1ブレードを構成する素線の断面形状について>
次に、図4を用いて、第1ブレード41を構成する素線のうちの後端側小径領域211に対応する素線の断面形状を説明する。なお、図4は、本実施形態における第1ブレード41を構成する素線のうちの後端側小径領域211に対応する素線の断面形状を示す図であり、当該図は、図3において破線で示した拡大領域Iの拡大図となる。
【0023】
図4に示す通り、第1ブレード41を構成する素線のうちの後端側小径領域211に対応する素線(図3に示す素線41aから素線41bまでの素線)の断面形状は、当該素線の外側の曲率が、当該素線の内側の曲率よりも小さくなっている(曲率半径が大きくなっている)。例えば、図4に示すように、内周面415よりも外周面411の方が、内周面416よりも外周面412の方が、内周面417よりも外周面413の方が、内周面418よりも外周面414の方が、その曲率が小さくなっている。なお、本実施形態における曲率(曲率半径)の大小は、比較対象となる面の曲率が一定でない場合には、当該面の曲率の平均値の比較を指す。
これにより、第1ブレード41を構成する素線のうちの後端側小径領域211に対応する素線を軸心に沿ってカテーテル本体10の内側に向けて曲げた際に曲げ応力が大きくなる当該素線の外側の曲率を抑え、当該素線の外側に外層33との剥離の始点を作り難くし、カテーテル本体10の先端側において外層33を剥離し難くすることができる。
【0024】
また、図4に示す通り、第1ブレード41を構成する素線のうちの後端側小径領域211に対応する素線の断面形状は、当該素線の外側の曲率が先端に向かって小さくなっている。より具体的には、外周面414、外周面413、外周面412、外周面411の順に、外周面の曲率が小さくなっている(曲率半径が大きくなっている)。
これにより、第1ブレード41を構成する素線のうちの後端側小径領域211に対応する素線において、より柔軟性が要求される先端側での外層33との剥離の始点を作り難くすることができる。
【0025】
また、図4に示す通り、本実施形態では、第1ブレード41を構成する素線が内層32に埋設され、当該素線および内層32の双方に対して外層33が当接している。これにより、当該素線および内層32の双方に当接する外層33の表面積を増加させ、内層32と外層33との剥離を発生し難くすることができる。
特に、本実施形態では、後端側小径領域211において、第1ブレード41を構成する素線の曲率の大きい外周面(例えば、外周面411~外周面414)が外層に埋設され、かつ当該素線の曲率の小さい内周面(例えば、内周面415~内周面418)が内層32に埋設されている。これにより、内層32に第1ブレード41が巻回された状態で樹脂製の外層33を形成するにあたり、当該内周面の周囲にボイドを発生し難くし、外層33を剥離させ難くすることができる。
【0026】
また、図5に示すように、第1ブレード41を構成する素線が外層33に内包されていてもよい。
このようにしても曲率の小さい内周面の周囲にボイドを発生し難くし、外層33を剥離させ難くすることができる。
なお、同一符号で示す各素線の断面形状は、図4で示したものと同一であるため、その説明を省略する。
【0027】
<第2ブレードへの本発明の適用について>
次に、図6を用いて、上述した本実施形態における素線の構成、すなわち、第1ブレード41を構成する素線の先端側が細径になる構成を、第2ブレード42に適用する変形例について説明する。図6は、第2ブレード42を構成する素線の先端側が細径になる変形例を示す図である。
なお、以下の説明では、本変形例における第2ブレード42を構成する素線に係る説明のうち、上述の本実施形態における第1ブレード41を構成する素線に係る説明と重複する部分については適宜説明を省略し、矛盾が生じない範囲において、第1ブレード41を構成する素線が有する各構成は、第2ブレード42を構成する素線に対して適用可能である。
【0028】
上述の本実施形態における第1ブレード41と同様に、第2ブレード42(第一補強層)を構成する素線のうちの、後端側マーカー52の基端から軸心方向に沿って後端側に向かう所定の領域における素線(先端側補強層を構成する素線であり、図6に示す素線42aから素線42bまでの素線を含む)を、第2ブレード42を構成する素線のうちの当該所定の領域の基端から軸心方向に沿って後端側における素線(後端側補強層を構成する素線)よりも細径にしてもよい。
これにより、カテーテル本体10の先端部(所定の領域、すなわち、第1ブレード41と第2ブレード42との境界)における剛性の急激な変化を低減することで、カテーテル本体10の挿入時における押し込み性(プッシャビリティ)を向上させるとともに、当該境界における応力集中を抑制してカテーテル本体10の強度を高めつつも、カテーテル本体10の先端部における細径化や柔軟性を確保することができる。
なお、上記所定の領域は、後端側マーカー52の基端から軸心方向に沿った任意の長さに亘る領域であればよいが、当該領域の長さは、大径領域22の軸心方向の長さの半分以下であることが好ましい。さらに、本変形例に加えて、本実施形態の構成(第1ブレード41を構成する素線のうちの先端側マーカー51の基端から軸心方向に沿って後端側に向かう領域における素線を、第1ブレード41を構成する素線のうちの当該領域の基端から軸心方向に沿って後端側における素線よりも細径にする構成)を採用する場合には、本変形例おいて第2ブレード42を構成する素線が細径となる領域の軸心方向の長さが、本実施形態において第1ブレード41を構成する素線が細径となる領域の軸心方向の長さよりも長くなることが好ましい。
【0029】
特に、図6の素線42aから素線42bに示す素線のように、第2ブレード42を構成する素線のうちの上記所定の領域における素線を、先端に向かって連続的に細径にしてもよい。
これにより、カテーテル本体10の先端部(上記境界)における剛性の急激な変化をより低減することで、カテーテル本体10の挿入時における押し込み性をさらに向上させるとともに、当該境界における応力集中をさらに抑制してカテーテル本体10の強度を高めることができる。
当該効果を奏するにあたっては、第2ブレード42を構成する素線のうちの所定の領域における素線を先端に向かって段階的に細径してもよい。
【0030】
さらに、図6に示すように、本変形例では、第2ブレード42を構成する素線のうちの、後端側マーカー52が固定される位置(後端側マーカー52の内周面に当接する位置)にある素線42cが、一定の径となっている。
これにより、かしめ等により後端側マーカー52を固定する際の当該マーカーの内周面と素線42cの外周面との接地面積が広くなり、後端側マーカー52の固定強度を高めることができる。また、後端側マーカー52を素線42cに固定する際の、カテーテル本体10の軸心から後端側マーカー52の外周までの距離の差(後端側マーカー52の高低差)を抑制し、後端側マーカー52付近の外層の突起を発生し難くすることができる。
これらの効果を奏するにあたっては、素線42cを一定の径にすることが好ましいが、素線42aから素線42bと同様に、素線42cの径をカテーテル本体10の先端に向かって連続的または段階的に細径にした上で、素線42cにおける径の変化率を、素線42aから素線42bまでの素線の径の変化率よりも小さくするようにしてもよい。
特に、本変形例では、第1ブレード41を構成する素線のうちの、後端側マーカー52が固定される位置にある素線41gも一定の径となっている。これにより、上述の効果、すなわち、カテーテル本体10の軸心から後端側マーカー52の外周までの距離の差を抑制する効果、および後端側マーカー52付近の外層の突起を発生し難くする効果を高めることができる。
また、上述の本実施形態と同様に、素線42cのうちの後端側マーカー52の最も基端側に位置する素線の径は、素線42aの径以下となることが好ましい。さらに、素線41gのうちの後端側マーカー52の最も基端側に位置する素線の径は、素線41eの径以下となることが好ましい。
【0031】
また、本変形例では、第1ブレード41を構成する素線のうちの上記所定の領域に対応する素線(図6に示す素線41eから素線41fまでの素線を含む)を、第1ブレード41を構成する素線のうちの当該所定の領域の基端から軸心方向に沿って後端側における素線よりも細径にしている。
これにより、カテーテル本体10の先端部(上記境界)における剛性の急激な変化をより低減することで、カテーテル本体10の挿入時における押し込み性をさらに向上させるとともに、当該境界における応力集中をさらに抑制してカテーテル本体10の強度を高めることができる。
【0032】
また、第1ブレード41を構成する素線のうちの第2ブレード42の先端から延伸している部分の素線(例えば、図6に示す第1ブレード41の素線のうちの素線41hから素線41iまでの素線)を連続的に細径にしてもよい。
これにより、所定の領域から先端に続く領域におけるカテーテル本体10の剛性の急激な変化をより低減することで、カテーテル100の操作性をさらに向上させるとともに、当該境界における応力集中をさらに抑制してカテーテル本体10の強度を高めることができる。
【0033】
なお、上述の本実施形態およびその変形例は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜に組み合わせることができる。
【0034】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)
ルーメンを有する内層と前記内層の外周に形成されている外層とを含む樹脂層と、素線を巻回して構成され、前記ルーメンの周囲の前記樹脂層に内包されている補強層である第一補強層と、を有する長尺のカテーテル本体を備え、
前記第一補強層の先端側の先端側補強層を構成する前記素線が、前記第一補強層の後端側の後端側補強層を構成する前記素線よりも細径になっている、
カテーテル。
(2)
前記先端側補強層を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっている、
上記(1)に記載のカテーテル。
(3)
前記先端側補強層に固定されるとともに前記樹脂層に内包されているリング状のマーカーを備え、
前記先端側補強層のうちの前記マーカーが固定された部分を構成する前記素線の径の変化率が、前記先端側補強層の基端から前記先端側補強層に固定された前記マーカーの基端までを構成する前記素線の径の変化率よりも小さくなっている、
上記(2)に記載のカテーテル。
(4)
前記先端側補強層のうちの前記マーカーが固定された部分を構成する前記素線の径が一定である、
上記(3)に記載のカテーテル。
(5)
前記後端側補強層を構成する前記素線の径が一定である、
上記(1)乃至(4)のいずれか一つに記載のカテーテル。
(6)
前記素線の断面が円形状であり、
前記先端側補強層を構成する前記素線の断面の外側の曲率が、該断面の内側の曲率よりも小さくなっている、
上記(1)乃至(5)のいずれか一つに記載のカテーテル。
(7)
前記先端側補強層を構成する前記素線の断面の外側の曲率が、先端に向かって小さくなっている、
上記(6)に記載のカテーテル。
(8)
前記先端側補強層を構成する前記素線が、前記外層に内包されている、
上記(6)又は(7)に記載のカテーテル。
(9)
前記先端側補強層を構成する前記素線の断面のうちの曲率が大きい部分が、前記内層に埋設され、かつ該断面のうちの曲率が小さい部分が前記外層に埋設されている、
上記(6)又は(7)に記載のカテーテル。
(10)
前記カテーテル本体は、前記補強層である第二補強層を、前記第一補強層の内側に有し、
前記第二補強層は、前記第一補強層の先端から延伸している、
上記(1)乃至(8)のいずれか一つに記載のカテーテル。
(11)
前記第二補強層における前記第一補強層の前記先端側補強層と重なる部分を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっている、
上記(10)に記載のカテーテル。
(12)
前記第二補強層のうちの前記第一補強層から延伸している部分を構成する前記素線が、先端に向かって連続的または段階的に細径になっている、
上記(10)又は(11)に記載のカテーテル。
【符号の説明】
【0035】
10 カテーテル本体
21 小径領域
22 大径領域
23 拡径領域
30 樹脂層
31 ルーメン
32 内層
33 外層
40 補強層
41 第1ブレード
41a 素線
41b 素線
41c 素線
41d 素線
41e 素線
41f 素線
41g 素線
41h 素線
41i 素線
42 第2ブレード
42a 素線
42b 素線
42c 素線
50 マーカー
51 先端側マーカー
52 後端側マーカー
60 先端チップ
61 先端ルーメン
90 把持部
91 連結部
92 ハブ
93 羽部
94 プロテクタ
100 カテーテル
211 後端側小径領域
212 先端側小径領域
411 外周面
412 外周面
413 外周面
414 外周面
415 内周面
416 内周面
417 内周面
418 内周面
I 拡大領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6