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特許7279473異常検知装置、異常検知方法、および、コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法、および、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20230516BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G05B23/02 302Z
G05B23/02 302R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019071029
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020170327
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】柚木 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】与語 康宏
(72)【発明者】
【氏名】和田 賢介
(72)【発明者】
【氏名】石井 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】則竹 茂年
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0176985(US,A1)
【文献】特開2008-015937(JP,A)
【文献】特開2011-242923(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096683(WO,A1)
【文献】特開2006-317266(JP,A)
【文献】特開2018-147443(JP,A)
【文献】特開2018-24055(JP,A)
【文献】安部純一,ビッグデータを活用したものづくり工場のイノベーションを支援する「最強工場」,FUJITSU,日本,富士通株式会社,2015年07月,66(4),62-68,https://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/jmag/vol66-4/paper12.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の製造工程における異常を検知する異常検知装置であって、
前記製品の品質に関連する目的変数と前記製造工程で得られる説明変数との対応関係の時間的変化を示す時系列データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得される前記時系列データを用いて、前記目的変数の異常点を特定する特定部であって、前記異常点における前記目的変数の動きに対して、前記製品の情報から予測される説明変数の変化を設定する特定部と、
取得された前記時系列データに対するランダムフォレストによる学習を行い、前記目的変数に対する前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出するパターン抽出部と、
抽出された前記変化パターンを用いて、前記製造工程における異常を検知する異常検知部と、を備え、
前記パターン抽出部は、前記目的変数の異常点において、前記特定部によって設定されている説明変数の変化と異なる変化を示す説明変数の変化パターンを、前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンとして抽出する、
異常検知装置。
【請求項2】
請求項に記載の異常検知装置であって、
前記特定部は、前記時系列データに対する周波数解析によって、前記目的変数の異常点を特定する、
異常検知装置。
【請求項3】
請求項または請求項に記載の異常検知装置であって、
前記特定部は、前記データ取得部によって取得された前記時系列データを用いて、前記目的変数の正常点を特定し、
前記パターン抽出部は、特定された前記目的変数の正常点に対応する、前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出し、
前記異常検知部は、前記異常点における前記変化パターンと前記正常点における前記変化パターンを用いて、前記製造工程の異常を検知する、
異常検知装置。
【請求項4】
製品の製造工程における異常を検知する異常検知方法であって、
前記製品の品質に関連する目的変数と前記製造工程で得られる説明変数との対応関係の時間的変化を示す時系列データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程において取得される前記時系列データを用いて、前記目的変数の異常点を特定する特定工程であって、前記異常点における前記目的変数の動きに対して、前記製品の情報から予測される説明変数の変化を設定する特定工程と、
取得された前記時系列データに対するランダムフォレストによる学習を行い、前記目的変数に対する前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出するパターン抽出工程と、
抽出された前記変化パターンを用いて、前記製造工程における異常を検知する異常検知工程と、を備え、
前記パターン抽出工程では、前記目的変数の異常点において、前記特定工程において設定されている説明変数の変化と異なる変化を示す説明変数の変化パターンを、前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンとして抽出する
異常検知方法。
【請求項5】
製品の製造工程における異常の検知をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記製品の品質に関連する目的変数と前記製造工程で得られる説明変数との対応関係の時間的変化を示す時系列データを取得するデータ取得機能と、
前記データ取得機能によって取得される前記時系列データを用いて、前記目的変数の異常点を特定する特定機能であって、前記異常点における前記目的変数の動きに対して、前記製品の情報から予測される説明変数の変化を設定する特定機能と、
取得された前記時系列データに対するランダムフォレストによる学習を行い、前記目的変数に対する前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出するパターン抽出機能であって、前記目的変数の異常点において、前記特定機能によって設定されている説明変数の変化と異なる変化を示す説明変数の変化パターンを、前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンとして抽出するパターン抽出機能と、
抽出された前記変化パターンを用いて、前記製造工程における異常を検知する異常検知機能と、を前記コンピュータに実行させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置、異常検知方法、および、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製造工程で取得される説明変数を用いて、製造工程の異常を検知する異常検知装置が知られている。例えば、特許文献1には、説明変数の時系列データの相関係数行列からgraphiclassoのアルゴリズムによって作成されるスパースな精度行列を用いて、異常の程度を計算する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-78467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の異常検知装置では、スパースな精度行列を計算するために時系列データが多変量正規分布に従う必要がある。このため、時系列データからノイズ成分を除去しなければならないが、ノイズ成分を除去するとデータをゆがめてしまうため、異常の検知精度が低下するおそれがあった。
【0005】
本発明は、製品の製造工程における異常を検知する異常検知装置において、ノイズ成分が含まれる時系列データに対して、異常の検知精度を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、製品の製造工程における異常を検知する異常検知装置が提供される。この異常検知装置は、前記製品の品質に関連する目的変数と前記製造工程で得られる説明変数との対応関係の時間的変化を示す時系列データを取得するデータ取得部と、取得された前記時系列データに対するランダムフォレストによる学習を行い、前記目的変数に対する前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出するパターン抽出部と、抽出された前記変化パターンを用いて、前記製造工程における異常を検知する異常検知部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、異常を検知するために用いられる説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出するパターン抽出部は、時系列データに対するランダムフォレストによって学習をおこなう。ランダムフォレストによる学習は、入力データ間に相関があっても、枝を選ぶ際に独立同分布となるため、変数間の相関の影響を排除することができる。これにより、時系列データに、長い周波数帯の変化とノイズ成分のような短い周波数帯の変化とが含まれていても、それぞれの周波数帯の変化に影響されることなく、製造工程における異常を検知することができる。したがって、ノイズ成分が含まれる時系列データに対して、異常の検知精度を向上することができる。
【0009】
(2)上記形態の異常検知装置は、さらに、前記データ取得部によって取得された前記時系列データを用いて、前記目的変数の異常点を特定する特定部を備え、前記パターン抽出部は、特定された前記目的変数の異常点に対応する、前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出してもよい。この構成によれば、製品の品質に関連する目的変数の異常点を特定したのち、該異常点の目的変数に対応する説明変数の変化パターンを抽出する。これにより、製造工程中に取得される説明変数を用いて特定された異常点に着目して、製造工程における異常を検知することができる。したがって、異常の検知精度をさらに向上することができる。
【0010】
(3)上記形態の異常検知装置において、前記特定部は、前記時系列データに対する周波数解析によって、前記目的変数の異常点を特定してもよい。この構成によれば、異常点を機械的に特定することができるため、異常の検知精度をさらに向上することができる。
【0011】
(4)上記形態の異常検知装置において、前記特定部は、前記データ取得部によって取得された前記時系列データを用いて、前記目的変数の正常点を特定し、前記パターン抽出部は、特定された前記目的変数の正常点に対応する、前記説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出し、前記異常検知部は、前記異常点における前記変化パターンと前記正常点における前記変化パターンを用いて、前記製造工程の異常を検知してもよい。この構成によれば、異常点での変化パターンと、正常点での変化パターンとの比較によって、製造工程の異常が異常な状態であるか否かを判定することができる。これにより、異常の検知精度をさらに向上することができる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、異常検知方法、異常検知システム、異常検知をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム、コンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の異常検知装置の概略構成を示す説明図である。
図2】第1実施形態の異常検知処理を示すフローチャートである。
図3】時系列データから選択された目的変数の時系列データを示す図である。
図4】目的変数データで特定される異常点と正常点を説明する説明図である。
図5】学習区間におけるランダムフォレストインポータンスを示す説明図である。
図6図5のランダムフォレストインポータンスの推移を示す説明図である。
図7】検証区間におけるランダムフォレストインポータンスを示す説明図である。
図8図7のランダムフォレストインポータンスの推移を示す説明図である。
図9】比較例の異常検知処理でのデータ加工を説明する説明図である。
図10】第1実施形態と比較例との異常検知性能の比較結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態における異常検知装置1の概略構成を示した説明図である。異常検知装置1は、製品5の製造工程での異常を検知する装置であって、製品5の品質に関連する目的変数が出力される前に、製品5の製造工程10で得られる説明変数を用いて、製造工程の異常を検知する装置である。ここで、製品5の製造工程10で得られる説明変数とは、製造工程10において取得される製品5の製造に関連する工程条件や製品5の状態を示す物理量である。
【0015】
製品5の製造に関連する工程条件や製品5の状態を示す物理量とは、例えば、製品5の原材料6の加工工程において原材料6に加えられる圧力の大きさや加圧時間、原材料6の加熱工程における原材料6の加熱温度や加熱時間、原材料6自身の温度などの数値である。また、製品5に関連する目的変数とは、例えば、完成時の製品5の重さ、製品5の所定の部位の厚みや製品5の表面状態など、主に完成した製品を検査することによって得られる製品5の特性を表す数値である。
【0016】
異常検知装置1は、データ取得部11と、特定部12と、パターン抽出部13と、パターン検証部14と、記憶部15と、異常検知部16を備える。データ取得部11は、CPUとROM、RAMとから構成され、製造工程10を構成する図示しない製造装置の制御部に電気的に接続している。特定部12と、パターン抽出部13と、異常検知部16は、CPUがROMに格納されているコンピュータプログラムをRAMに展開し実現される。記憶部15は、ROM、RAMなどの記憶媒体から構成されている。
【0017】
データ取得部11は、製造工程10の製造装置の制御部と、特定部12に接続している。データ取得部11は、図1に示すように、製造工程10から複数種の説明変数と目的変数を取得する。データ取得部11は、取得した複数種の説明変数と目的変数を用いて、目的変数と、該目的変数に対応する複数種の説明変数との組み合わせの時間変化を示す時系列データを作成する。
【0018】
特定部12は、パターン抽出部13に接続している。特定部12は、データ取得部11によって作成された時系列データを用いて、目的変数の異常点および正常点を特定する。特定部12の作用の詳細は、後述する。
【0019】
パターン抽出部13は、パターン検証部14に接続している。パターン抽出部13は、作成された時系列データに対するランダムフォレストによる学習を行う。パターン抽出部13は、ランダムフォレストによる学習によって、特定部12が特定した異常点および正常点のそれぞれにおける目的変数に対する説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出する。パターン抽出部13の作用の詳細は、後述する。
【0020】
パターン検証部14は、記憶部15に接続している。パターン検証部14は、パターン抽出部13が抽出した説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを検証する。パターン検証部14の作用の詳細は、後述する。
【0021】
記憶部15は、異常検知部16に接続している。記憶部15は、パターン検証部14が検証した説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを記憶する。
【0022】
異常検知部16は、製造工程10の製造装置の制御部に接続している。異常検知部16は、製造工程10の製造装置の制御部から取得する説明変数に対して記憶部15が記憶している説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを適用し、製造工程に異常があるか否かを判定する。異常検知部16の作用の詳細は、後述する。
【0023】
次に、異常検知装置1による、製造工程10における異常検知処理の詳細を説明する。異常検知装置1が実行する異常検知処理は、製造工程10に異常が発生したとき、製造工程10で取得される説明変数の変化パターンから、該説明変数に対応する目的変数が取得される前に異常を検知するための処理である。異常検知装置1が実行する異常検知処理は、製造工程10での製品5の製造が行われているときには常時実行される。
【0024】
図2は、本実施形態の異常検知処理を示すフローチャートである。最初に、製造工程10から、時系列データを取得する(ステップS11)。ステップS11では、データ取得部11は、製造工程10の製造装置の制御部に記憶されている説明変数を取得する。また、データ取得部11は、製品5の目的変数であって該説明変数に対応する目的変数を取得する。データ取得部11は、取得した説明変数と目的変数との対応関係の時間的変化を示す時系列データを作成する。
【0025】
次に、作成した時系列データから目的変数の時系列データ(以下、「目的変数データ」という)を選択する(ステップS12)。ステップS12では、データ取得部11は、ステップS11で作成した時系列データのうち目的変数データを選択するとともに、時系列データおよび選択した目的変数データのそれぞれを、学習区間と検証区間とに分離する。データ取得部11は、学習区間と検証区間とに分離された時系列データおよび選択した目的変数データを、特定部12に送る。
【0026】
図3は、時系列データから選択された目的変数データを示す図である。図3に示す目的変数データから、目的変数の時間変化を確認することが可能である。また、ステップS12では、上述したように、図3のように分離した目的変数データを、後述する変化パターンを抽出するための学習区間と、抽出した変化パターンを検証するための検証区間とに分離する。
【0027】
次に、目的変数データにおいて異常点と正常点を特定する(ステップS13)。ステップS13では、特定部12は、ステップS12で選択された目的変数データにおいて、異常点と正常点を特定する。
【0028】
図4は、目的変数データにおいて特定される異常点と正常点を説明する説明図である。特定部12は、図4(a)に示すように、目的変数の時間経過に伴う変動を参考にして、目的変数に対して異常点α、β、γと、正常点R、S、T、Uを特定する。ここで、異常点としては、ある時点からの一定の時間内での目的変数の動きの幅(図4(a)には、一例として異常点αでの幅Wαを示す)が所定の範囲より広いときの、該ある時点とする。また、正常点としては、ある時点からの一定の時間内での目的変数の動きの幅(図4(a)には、一例として正常点Rでの幅WRを示す)が所定の範囲内であるときの、該ある時点とする。なお、これらの異常点および正常点の定義は一例であって、異常点および正常点の定義は、これらに限定されない。本実施形態では、特定部12は、目的変数データに対して周波数解析を用いて、異常点および正常点を特定する。例えば、特定部12は、図4(a)に示す目的変数データに対してピーク検出などの計算結果を用いて、異常点および正常点を機械的に特定する。
【0029】
次に、特定した異常点と正常点において、目的変数に対する望ましい説明変数の変化を定義する(ステップS14)。ステップS14では、特定部12は、ステップS13で特定した異常点α、β、γと、正常点R、S、T、Uとのそれぞれの目的変数に対して、望ましい説明変数の変化を定義する。図4(b)には、特定部12によって定義される、異常点α、β、γと、正常点R、S、T、Uのそれぞれにおける、望ましい説明変数の変化を示す。本実施形態では、図4(b)に示すように、異常点α、β、γと、正常点R、S、T、Uとのそれぞれにおいて、説明変数の変化を、「高」または「低」のいずれかに定義する。特定部12は、特定した異常点α、β、γと正常点R、S、T、Uに関する情報、および、望ましい説明変数の変化に関する情報をパターン抽出部13に送る。
【0030】
次に、時系列データの学習区間に対してランダムフォレストを適用する(ステップS15)。ステップS15では、パターン抽出部13は、説明変数の時系列データ(以下、「説明変数データ」という)の学習区間を入力変数とし、目的変数データの学習区間を目的変数とするランダムフォレストを実施する。
【0031】
図5は、時系列データの学習区間における説明変数のランダムフォレストインポータンスを示す説明図である。図5には、白抜きの記号で示す説明変数のランダムフォレストインポータンスのほかに、目的変数の値もあわせて示している。
【0032】
次に、ランダムフォレストの結果から異常点および正常点付近のみで生じる特徴的な説明変数を抽出する(ステップS16)。ステップS16では、パターン抽出部13は、説明変数データの学習区間において、ステップS13で特定した異常点および正常点付近のみで生じる、例えば、ランダムフォレストインポータンスが上昇またはランダムフォレストインポータンスが下降するなどの、特徴的な説明変数を抽出する。
【0033】
図6は、図5の説明変数のランダムフォレストインポータンスの相対的な推移を示す説明図である。図6には、ステップS13で特定した異常点α、β、と、正常点R、S、Tのそれぞれでの、望ましい説明変数の変化と、複数の説明変数のそれぞれの相対的な推移が示されている。図6を具体的に見てみると、望ましい説明変数の変化に対して異なる変化を示している説明変数がいくつか存在することがわかる。例えば、正常点Sについては、望ましい変数の変化が「高」であるのに対し、説明変数a、b、c、d、hは、変化が「低」となっている(図6の点線枠N11、N12)。また、異常点βについては、望ましい変数の変化が「低」であるのに対し、説明変数gは、変化が「高」となっている(図6の点線枠N13)。また、正常点Tについては、望ましい変数の変化が「高」であるのに対し、説明変数e、fは、変化が「低」となっている(図6の点線枠N14)。パターン抽出部13は、このように、ステップS14で定義した望ましい説明変数の変化と異なる変化を示す説明変数を、特徴的な説明変数(図6の例では、異常点については説明変数g、正常点については説明変数a、b、c、d、e、f、h)として、複数種の説明変数から抽出する。
【0034】
次に、ステップS16での抽出結果を合成し、変数群を作成する(ステップS17)。ステップS17では、パターン抽出部13は、ステップS16で抽出された特徴的な説明変数の集合を、変数群(図6の点線枠G1)として作成する。
【0035】
次に、変化パターンを学習し、ルールを作成する(ステップS18)。ステップS18では、パターン抽出部13は、ステップS17で作成した変数群について、該変数群に含まれる説明変数の変化を、変数群の変化パターンとして学習する。パターン抽出部13は、時系列データの学習区間と、学習した変化パターンとを用いて、後述する製造工程10での異常検知をするためのルールを作成する。
【0036】
次に、時系列データの検証区間にルールを適用し、目的変数データの検証区間の該当箇所を抽出する(ステップS19)。ステップS19では、パターン検証部14は、時系列データの検証区間を選択し、選択した時系列データの検証区間に対してランダムフォレストを適用する。
【0037】
図7は、時系列データの検証区間における説明変数のランダムフォレストインポータンスを示す説明図である。図7には、白抜きの記号で示す説明変数のランダムフォレストインポータンスのほかに、目的変数の値もあわせて示している。パターン検証部14は、図7に示す説明変数のランダムフォレストインポータンスに、ステップS18で作成したルールを適用し、目的変数データの検証区間のうち、ルールに該当する箇所を抽出する。
【0038】
次に、抽出された該当箇所と異常点および正常点を比較する(ステップS20)。ステップS20では、ステップS19で抽出されたルールに該当する箇所と、ステップS13で特定されていた異常点および正常点と、を比較し、ルールによる異常検知の精度を検証する。
【0039】
図8は、図7の説明変数のランダムフォレストインポータンスの相対的な推移を示す説明図である。図8には、図8(a)に、ステップS13で特定されていた異常点γおよび正常点T、Uについて、ステップS17で作成された変数群のランダムフォレストインポータンスを示している。ステップS20では、具体的には、ルールに該当する箇所と異常点γおよび正常点T、Uとがどの程度近接しているかを検証する。
【0040】
また、ステップS20では、時系列データの学習区間と学習した変化パターンとを用いて作成したルールが、時系列データの検証区間に存在する異常点および正常点を導出できるか否かを判定し、ルールによる異常点および正常点の導出精度を検証する。具体的に、図8(b)に示す、図6で示した学習区間における説明変数のランダムフォレストインポータンスの相対的な推移を示す説明図を用いて説明する。検証区間の異常点γ(図8(a))と学習区間の異常点α、β(図8(b))とを比較すると、異常点βで望ましい説明変数の変化と異なる変化を示した説明変数gは、学習区間では「低」であり(図8(b)の点線枠N13)、検証区間の異常点γでも「低」となっている(図8(a)の点線枠N15)。また、検証区間の正常点U(図8(a))と学習区間の正常点S、T(図8(b))とを比較すると、正常点Sで望ましい説明変数の変化と異なる変化を示した説明変数a~d、hは、学習区間では「高」となっているが(図8(b)の点線枠N11、N12)、検証区間の正常点Uでは、説明変数a~cは「高」となっているものの、説明変数d、hは「低」となっている(図8(b)の点線枠N16、N17)。また、正常点Tで望ましい説明変数の変化と異なる変化を示した説明変数e、fは、学習区間では「高」であり(図8(b)の点線枠N14)、検証区間の正常点Uでも「高」となっている(図8(a)の点線枠N18)。パターン検証部14は、このようなルールによる異常点および正常点の導出精度の検証結果を、ルールに該当する箇所と異常点γおよび正常点T、Uとの近接度合いの検証結果、ならびに、ステップS18で作成したルールとともに、記憶部15に出力する。記憶部15では、これらの情報を記憶する。
【0041】
次に、製造工程で取得されるデータをルールで解析し、異常を検知する(ステップS21)。ステップS21では、異常検知部16は、記憶部15に記憶されているルールおよび検証結果を用いて、製造工程10で製品5の製造が行われているときに収集されるデータを常時解析し、ルールに当てはまったときを異常と検知する。異常検知部16は、製造工程に異常があると検知すると、異常検知装置1の外部に出力する。なお、本実施形態では、製造工程10での製品5の製造が行われているときには常時実行されることによって、ルールは製品5が完成し目的変数が入力されるごとにルールは更新される。これにより、異常検知処理では、完成した製品5の情報が反映された更新ルールを用いて、完成前の製品5に対する製造工程10での異常を検知することが可能となる。
【0042】
図9は、比較例の異常検知処理でのデータ加工を説明する説明図である。図9には、製造工程で取得される時系列データL1に対して、ノイズ除去を行った場合のデータ線L2を示している。ここで、比較例の異常検知処理とは、時系列データの相関係数行列から、graphiclassoのアルゴリズムによって作成されるスパースな精度行列を用いて異常を検知する処理である。比較例の異常検知処理では、スパースな精度行列を計算するにあたって、時系列データのノイズを除去する必要がある。このため、図9に示す時系列データL1のように、短い周波数帯(図9の二点鎖線枠F1参照)の変化が大きく、かつ、長い周波数帯(図9の鎖線枠F2参照)の変化が小さい場合に、短い周波数帯のデータ除去を行う必要がある。このため、短い周波数帯のデータが除去された加工データからの異常検知では、異常の検知精度が低下することが懸念される。
【0043】
以上説明した、本実施形態の異常検知装置1によれば、異常を検知するために用いられる説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出するパターン抽出部13は、時系列データに対するランダムフォレストによって学習をおこなう。ランダムフォレストによる学習は、入力データ間に相関があっても、枝を選ぶ際に独立同分布となるため、変数間の相関の影響を排除することができる。これにより、時系列データに、長い周波数帯の変化と、ノイズ成分のような短い周波数帯の変化とが含まれていても、それぞれの周波数帯の変化に影響されることなく、製造工程における異常を検知することができる。したがって、ノイズ成分が含まれる時系列データに対して、異常の検知精度を向上することができる。
【0044】
また、本実施形態の異常検知装置1によれば、ランダムフォレストによって学習を行うため、graphiclassoによる学習が適用困難な、相関が強い時系列データであっても、異常検知のための情報を得ることができる。これにより、異常を検知する対象の時系列データの前提条件が比較的緩くなるため、適用可能な時系列データの範囲を広げることができる。
【0045】
また、本実施形態の異常検知装置1によれば、ランダムフォレストによる学習では、入力される時系列データの規格化が不要であり、ノイズ成分の有無による事前のデータ加工も不要である。これにより、例えば、時系列データの正規化が必要であり、ノイズ成分を除去する必要があるスパースな精度行列の計算に比べ、短時間で異常を検知する処理を行うことができる。したがって、ノイズ成分が含まれる時系列データからでも、製造工程の異常を迅速に検知することができる。
【0046】
図10は、本実施形態での異常処理と比較例の異常処理との異常検知性能の比較結果を示す説明図である。比較例の処置処理は、図9で述べた比較例と同じ処理である。図10には、本実施形態と比較例とのそれぞれを、変数700、サンプルサイズ100000の時系列データに対して適用した計算結果を示している。図10に示すように、本実施形態での計算結果は、正答率が比較例と同程度である一方、計算に要する時間が比較例に比べ3分の1以下となる。このように、本実施形態の異常検知装置1では、異常検知にかかる時間を短縮できるため、製品5が完成し、製品5の性能評価を行う前段階で、製品5の性能の異常を検知し、製造工程10に対策を講じることができる。すなわち、製品5が完成する前に、異常を検知することができるため、不良の製品5の発生を抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態の異常検知装置1は、特定部12において、データ取得部11によって取得された時系列データを用いて、目的変数の異常点を特定する。パターン抽出部13は、特定部12が特定した異常点において、目的変数に対する説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出する。これにより、異常点を特定したのち、該異常点の目的変数に対応する説明変数の変化パターンを抽出するため、製造工程10中に取得される説明変数を用いて特定された異常点に着目して、製造工程10における異常を検知することができる。したがって、異常の検知精度をさらに向上することができる。
【0048】
また、本実施形態の異常検知装置1によれば、特定部12は、時系列データに対する周波数解析によって、目的変数の異常点を特定する。これにより、異常点を機械的に特定することができるため、異常の検知精度をさらに向上することができる。
【0049】
また、本実施形態の異常検知装置1によれば、特定部12は、データ取得部11によって取得された時系列データを用いて、目的変数の正常点を特定する。パターン抽出部13は、特定された目的変数の正常点に対応する、説明変数のランダムフォレストインポータンスの変化パターンを抽出する。異常検知部16は、異常点における変化パターンと正常点における変化パターンを用いて、製造工程10における異常を検知する。これにより、異常点での変化パターンと、正常点での変化パターンとの比較によって、製造工程10が異常な状態であるか否かを判定することができる。これにより、異常の検知精度をさらに向上することができる。
【0050】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0051】
[変形例1]
上述の実施形態では、目的変数は、主に完成した製品を検査することによって得られる製品5の特性を表す数値であるとし、説明変数は、製造工程10において取得される製品5の製造に関連する工程条件や製品5の状態を示す物理量であるとした。しかしながら、目的変数および説明変数の定義、これに限定されない。例えば、製品を完成させるための複数の製造装置のうちの1つの製造装置から得られるデータであって、複数の項目についてのそれぞれの時系列データが含まれているデータでもよいと思われる。この場合、1つの製造装置から得られるデータのうち、例えば、温度や圧力なども「製品の品質に関連する目的変数」と見ることができ、該1つの製造装置において、温度や圧力などに影響を及ぼす因子を「製造工程で得られる説明変数」と見ることができる。また、説明変数は、製造工程10において取得される全ての工程条件や製品5の状態を示す物理量でなくてもよい。
【0052】
[変形例2]
上述の実施形態は、異常検知装置1は、時系列データを用いて、目的変数の異常点および正常点を特定する特定部12を備えるとした。特定部はなくてもよい。
【0053】
[変形例3]
上述の実施形態は、特定部12は、目的変数データに対して周波数解析を用いて、異常点および正常点を特定するとした。しかしながら、特定部12による異常点および正常点の特定方法は、これに限定されない。例えば、過去の標準データの運用実績を用いて外生的に人為的に特定してもよい。
【0054】
[変形例4]
上述の実施形態は、異常検知処理は、製造工程10での製品5の製造が行われているときには常時実行されるとした。しかしながら、異常検知処理が実行されるときはこれに限定されない。製造工程10での製品5の製造が実行される前段階、例えば、製造試験などにおいて、変数群の変化パターンとして学習しルールを作成してから、該ルールを、製造工程10に適用し、異常検知を行ってもよい。
【0055】
[変形例5]
上述の実施形態は、ステップS16において、ランダムフォレストの結果から異常点および正常点付近のみで生じる特徴的な説明変数を抽出するとした。しかしながら、特徴的な説明変数の抽出の内容は、これに限定されない。異常点付近のみで生じる特徴的な説明変数の抽出と、正常点付近のみで生じる特徴的な説明変数の抽出とは、別々に行ってもよいし、異常点付近のみで生じる特徴的な説明変数の抽出のみであってもよい。
【0056】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…異常検知装置
5…製品
6…原材料
10…製造工程
11…データ取得部
12…特定部
13…パターン抽出部
14…パターン検証部
15…記憶部
16…異常検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10