IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-転がり軸受装置 図1
  • 特許-転がり軸受装置 図2
  • 特許-転がり軸受装置 図3
  • 特許-転がり軸受装置 図4
  • 特許-転がり軸受装置 図5
  • 特許-転がり軸受装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20230516BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230516BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20230516BHJP
   F16N 13/00 20060101ALI20230516BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20230516BHJP
   F16N 39/04 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/06
F16C41/00
F16N13/00
F16N31/00 B
F16N39/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019073864
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020172952
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 幹央
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151283(JP,A)
【文献】実開昭54-101235(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/16
F16C 41/00
F16N 13/00
F16N 31/00
F16N 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の転動体、及び、前記複数の転動体を保持する保持器を有し、前記内輪と前記外輪との内の一方が回転輪であり他方が固定輪である軸受部と、
前記軸受部に潤滑油を吐出するポンプ、及び、前記ポンプから吐出させる潤滑油を保持するタンクを有し、前記軸受部の軸方向の隣に設けられている給油ユニットと、
を備え、
前記固定輪と前記タンクとは直接的に接触していて、当該タンクの内の当該固定輪と接触する部分は金属製であり、
前記タンクは、前記固定輪と接触する部分として、ヒートシンクを有する、転がり軸受装置。
【請求項2】
前記ポンプと前記固定輪とは、相互の間に伝熱材を介して配置されている、請求項1に記載の転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受部に潤滑油を供給する給油ユニットを備えた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種工作機械では、加工効率及び生産効率の向上のために主軸の高速化が要求されている。主軸が高速で回転すると、これを支持する軸受部において特に潤滑性が問題となる。そこで、軸受部の隣に給油ユニットが設けられた転がり軸受装置が提案されている(特許文献1参照)。給油ユニットは、軸受部に潤滑油を吐出するポンプと、ポンプが吐出する潤滑油を保持するタンクとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-180819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている給油ユニットは、ポンプ及びタンクの他に、軸受部の振動を検出するセンサ、センサの信号を入力とする判定回路を有する。軸受部において潤滑油が減少すると、振動が大きくなる。そこで、閾値を超える振動がセンサによって検出されると、ポンプが動作するように給油ユニットは構成されている。センサの信号に基づくフィードバック制御が実行されることで、軸受部の潤滑状態を正常に保つことが可能となる。
【0005】
前記のような給油ユニットは、軸受部の軸方向隣の間座に設けられている。このため、寸法の制限によりタンクを大型化することはできない。つまり、タンクの容量に制限がある。したがって、例えば工作機械において、メンテナンスフリー化のためには、又はメンテナンス頻度を可及的に減らすためには、潤滑油の消費が最小限に抑えられるのが好ましい。そこで、軸受部において潤滑油が減少すると、そのタイミングで給油量を増加させるのが好ましく、これを実現するために、特許文献1のようにセンサ、及びセンサ信号を入力とする判定回路が必要となる。センサが不要となれば、前記のような判定回路も不要となり、コストの低減が可能となる。
【0006】
そこで、本発明は、センサが無くても、軸受部において潤滑油が減少すると、給油量を増加させることが可能となる転がり軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の転がり軸受装置は、内輪、外輪、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の転動体、及び、前記複数の転動体を保持する保持器を有し、前記内輪と前記外輪との内の一方が回転輪であり他方が固定輪である軸受部と、前記軸受部に潤滑油を吐出するポンプ、及び、前記ポンプから吐出させる潤滑油を保持するタンクを有し、前記軸受部の軸方向の隣に設けられている給油ユニットと、を備え、前記固定輪と前記タンクとは直接的に接触していて、当該タンクの内の当該固定輪と接触する部分は金属製である。
【0008】
前記転がり軸受装置によれば、軸受部において潤滑油が減少し、固定輪の温度が上昇すると、その熱がタンクに伝えられる。すると、タンクに保持されている潤滑油の温度が上昇し、潤滑油の粘度が低下する。この結果、ポンプからの潤滑油の吐出量が増加する。このように、センサが無くても、軸受部において潤滑油が減少すると、給油量を増加させることが可能となる。なお、ポンプは所定の時間間隔で潤滑油を吐出するように設定されていればよく、従来のようなセンサの信号に基づくフィードバック制御は不要である。以上より、従来よりも低コストで転がり軸受装置を構成することが可能となる。
【0009】
また、好ましくは、前記タンクは、前記固定輪と接触する部分として、ヒートシンクを有する。この構成によれば、固定輪の温度が効率よくタンクの潤滑油に伝達される。軸受部(固定輪)の温度上昇から潤滑油の吐出量の増加までの反応時間を短縮することが可能となる。
【0010】
また、好ましくは、前記ポンプと前記固定輪とは、相互の間に伝熱材を介して配置されている。この構成によれば、軸受部において潤滑油が減少し、固定輪の温度が上昇すると、その熱が伝熱材を通じてポンプにも伝えられる。このため、ポンプからの潤滑油の吐出量が増加する。軸受部を含む転がり軸受装置に軸方向の荷重(予圧)が作用する場合であっても、ポンプと固定輪との間の伝熱材がクッション材として機能し、その荷重がポンプに影響を及ぼし難くなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、センサが無くても、軸受部において潤滑油が減少すると、給油量を増加させることが可能となる。この結果、軸受部における潤滑油不足を解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】転がり軸受装置の一例を示す断面図である。
図2】給油ユニットを軸方向から見た図である。
図3】ポンプの概略構成を説明するための断面図である。
図4】金属製の壁の変形例を説明するための断面図である。
図5図1及び図4それぞれの形態の矢印Aで示す部分を示す拡大断面図である。
図6】転がり軸受装置の内の、ポンプ側における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔全体構成について〕
図1は、転がり軸受装置の一例を示す断面図である。図1に示す転がり軸受装置10(以下、「軸受装置10」と称する。)は、図示しないが、工作機械が有する主軸装置の主軸(軸)を回転可能に支持するものであり、主軸装置の軸受ハウジング内に収容される。なお、この軸受装置10は工作機械以外においても適用可能である。
【0014】
軸受装置10は、軸受部20と給油ユニット40とを備える。軸受部20は、内輪21、外輪22、複数の玉(転動体)23、及び、これら複数の玉23を保持する保持器24を有しており、玉軸受(転がり軸受)を構成している。本開示では、内輪21が前記主軸と一体回転する回転輪となる。外輪22が前記軸受ハウジングに取り付けられる固定輪となる。軸受装置10は、更に、円筒状である外輪間座18を備える。
【0015】
軸受部20(内輪21)の中心線Cに沿った方向を軸受装置10の「軸方向」とし、ここでは、中心線Cに平行な方向も「軸方向」に含まれる。また、図1において、左側が、軸受装置10の軸方向の一方側であり、これを「軸方向一方側」と称し、右側が、軸受装置10の軸方向の他方側であり、これを「軸方向他方側」と称する。
【0016】
給油ユニット40は、全体として円環状であり、外輪間座18の内周側に設けられている。給油ユニット40は、軸受部20の軸方向一方側の隣に設けられている。給油ユニット40は、軸受部20に潤滑油を吐出するポンプ42(図2図6参照)、及び、ポンプ42から吐出させる潤滑油を保持するタンク43を有する(図1図2参照)。給油ユニット40の構成については後に説明する。
【0017】
内輪21は、前記主軸に外嵌する円筒状の部材であり、その外周に軌道25(内輪軌道25)が形成されている。外輪22は、前記軸受ハウジングの内周面に取り付けられる円筒状の部材であり、その内周に軌道26(外輪軌道26)が形成されている。外輪22と外輪間座18とは別部材であるが、同一部材により構成されていてもよい。玉23は、内輪21と外輪22との間に介在している。内輪21が回転すると、玉23は内輪軌道25及び外輪軌道26を転がる。保持器24は環状であり、周方向に沿って、玉23が収容されるポケット27が複数形成されている。玉23及び保持器24は、内輪21と外輪22との間に形成されている環状空間11に設けられている。軸受部20は給油ユニット40が供給する潤滑油(オイル)によって潤滑される。
【0018】
図2は、給油ユニット40を軸方向から見た図である。給油ユニット40は、本体部41、ポンプ42、及びタンク43を備える。本体部41は円環状の部材である。本体部41に中空空間が形成されており、この中空空間にポンプ42及びタンク43が設けられる。これにより、本体部41、タンク43、及びポンプ42を含む給油ユニット40は、一体として構成される。本体部41は、外輪間座18の内周側に取り付けられていて、ポンプ42等を保持するフレームとしての機能を有する。
【0019】
タンク43は、潤滑油を溜めることができ、配管46を通じてポンプ42と繋がっている。タンク43から潤滑油がポンプ42に補給される。ポンプ42は、所定の時間間隔で潤滑油を吐出する機能を有する。このために、ポンプ42はコントロール部44を有する。コントロール部44は、ポンプ42が有する(後述の)ピエゾ素子53を動作させる電気信号を所定の時間間隔でピエゾ素子53に送る。すると、ポンプ42から潤滑油が油滴となって吐出される。ポンプ42からの潤滑油(油滴)の吐出周波数は一定となる。
【0020】
〔ポンプ42について〕
ポンプ42の構成について説明する。図3は、ポンプ42の概略構成を説明するための断面図である。ポンプ42は、ポンプ本体52とピエゾ素子(圧電素子)53とを有する。ポンプ42はピエゾポンプである。ポンプ本体52には圧力室(内部空間)51が形成されている。ピエゾ素子53が動作することで圧力室51の容積が変化し、これによりポンプ42は圧力室51の潤滑油を吐出孔50から噴出する。吐出孔50は、圧力室51と繋がっており、軸受部20に向かって開口している。吐出孔50は、ポンプ本体52の壁部52aに形成されている直線状の微小の貫通孔によって構成されている。ピエゾ素子53が動作することにより、吐出孔50から潤滑油が油滴となって初速を有して吐出される。つまり、例えば印刷技術で用いられるインクジェットのヘッドに形成されている吐出孔からインクが吐出されるように、ポンプ42の吐出孔50から油滴は飛翔する。潤滑油の種類は、一般的な作動油である。
【0021】
ポンプ42の動作について更に説明する。コントロール部44からピエゾ素子53に対して間欠的に電気信号が出力される。この電気信号は、ピエゾ素子53を変形させる駆動電圧である。ピエゾ素子53には短時間について駆動電圧が印加される。この駆動電圧は図外の電源部から供給される。電源部は給油ユニット40が備える。ピエゾ素子53に電圧(駆動電圧)が印加されるとピエゾ素子53は変形する。電圧の印加が解除されるとその変形が復元される。
【0022】
ピエゾ素子53に電圧(駆動電圧)が印加されると、その変形によって、圧力室51の壁面51aの一部を構成する弾性膜54が弾性変形し、圧力室51の容積が拡大する。電圧の印加の解除により弾性膜54の弾性復元力により圧力室51の容積が縮小する。これにより、圧力室51の潤滑油が吐出孔50から外部へ吐出される。なお、圧力室51の容積の拡大により、タンク43側から圧力室51へ潤滑油が補充される。このように、ピエゾ素子53に電気信号が出力されると、圧力室51の内圧が上昇し、潤滑油が吐出される。ピエゾ素子53に電気信号を出力していない状態では、圧力室51の内圧は変化せず(低圧のままであり)潤滑油は吐出されない。
【0023】
以上より、ポンプ42は、次に説明する特性を有する。潤滑油の温度が上昇すると、潤滑油の粘度が低下する。この場合、ポンプ42から吐出される潤滑油の量(油滴の量)は増加する。つまり、ポンプ42は、潤滑油の温度が高くなると、一回の吐出動作によって吐出する潤滑油の量(油滴の量)が増える特性を有する。これに対して、潤滑油の温度が低下すると、潤滑油の粘度が上昇する。この場合、ポンプ42から吐出される潤滑油の量(油滴の量)は減少する。つまり、ポンプ42は、潤滑油の温度が低くなると、一回の吐出動作によって吐出する潤滑油の量(油滴の量)が減る特性を有する。
【0024】
〔タンク43について〕
図2に示すように、タンク43は、環状である本体部41に周方向に沿って設けられている。本体部41の中空空間の一部によりタンク43が構成されていてもよい。本開示の本体部41は樹脂製である。この場合、図1及び図2に示すように、タンク43は、軸方向一方側、径方向外側、及び径方向内側それぞれに樹脂製の壁47を有する。更に、タンク43は(図1参照)、軸方向他方側に金属製の壁48を有する。軸方向一方側、径方向外側、及び径方向内側それぞれの壁47、並びに軸方向他方側の金属製の壁48により囲まれた空間が、潤滑油の溜められる領域となる。
【0025】
金属製の壁48は、図1に示すように、外輪22に軸方向から接触した状態にある。外輪22は金属製(例えば、軸受鋼等の鋼製)である。本開示では、金属製の壁48は、熱伝導性が特に高い銅製である。なお、壁48は金属製であればよく、他の材質であってもよい。外輪22と金属製の壁48とは直接的に接触していることから、外輪22から壁48に熱が伝わりやすい。
【0026】
金属製の壁48が有する軸方向他方側の面49と、外輪22の軸方向一方側の側面28とが面接触している。壁48と外輪22とは周方向に沿って連続的に接触している。壁48と外輪22とは、タンク43の周方向について全長にわたって接触しているのが好ましい。このように、図1に示す形態では、外輪22とタンク43とは直接的に接触していて、タンク43の内の外輪22と接触する部分(壁48)は金属製である。図1に示す形態では、金属製の壁48は、平板により構成されている。
【0027】
図4は、金属製の壁48の変形例を説明するための断面図である。図4に示す壁48は、金属製(銅製)であり、タンク43内の潤滑油との接触面積を増やすために、ヒートシンク60により構成されている。具体的に説明すると、金属製の壁48は、平板状であるベース部61と、ベース部61から軸方向一方側へ突出しているフィン部62とを有する。軸方向一方側、径方向外側、及び径方向内側それぞれの壁47、並びに軸方向他方側のベース部61により囲まれた空間が、潤滑油の溜められる領域となる。このように、図4に示すタンク43は、外輪22と接触する部分として、ヒートシンク60を有する。
【0028】
金属製の壁48(ヒートシンク60)の取付構造について説明する。軸受装置10は、工作機械等の軸受ハウジングに、軸方向の予圧が付与された状態で取り付けられる。予圧により軸受装置10に軸方向荷重が作用する。すると、外輪間座18の内周側の給油ユニット40と、外輪22とが軸方向に相互で押し合う。外輪22、壁48(ヒートシンク60)、外輪間座18は、金属製である。これに対してタンク43が有する軸方向一方側、径方向外側、及び径方向内側の壁47は樹脂製である。
【0029】
図5は、図1及び図4それぞれの形態の矢印Aで示す部分を示す拡大断面図である。外輪間座18の軸方向他方の内周側には、環状の凹溝65が形成されている。凹溝65により、外輪間座18の軸方向他方側の端部は段付き形状を有する。凹溝65の軸方向他方側に向く環状の面66に、金属製の壁48の外周縁部48aが接触する。この接触状態で、金属製の壁48の軸方向他方側の面49は、外輪間座18の軸方向他方側の端面19よりも更に軸方向他方側に位置している。
【0030】
このため、軸受装置10に軸方向の荷重(予圧)が作用し、外輪間座18の内周側の給油ユニット40と、外輪22とが軸方向に相互で押し合う場合、図5に示すように、外輪22の側面28と外輪間座18の端面19とは非接触の状態であり、外輪22と金属製の壁48とが相互で押し合う接触状態となる。このため、外輪22から軸方向一方へ向かう荷重は、金属製の壁48を通じて、金属製である外輪間座18に伝達される。この結果、前記荷重は、樹脂製である壁47に伝達されず、壁47の変形が防止され、また、壁47が損傷しない。
【0031】
〔ポンプ42側の構造について〕
図2に示すように、ポンプ42は、環状である本体部41の周方向の一部に取り付けられている。図6は軸受装置10の内の、ポンプ42側における断面図である。ポンプ42は、前記のとおりポンプ本体52を有する。ポンプ本体52は、ポンプ42の筐体(外装部材)となる。図6に示すように、ポンプ本体52と外輪22とは、直接的に接触しておらず、これらの間に伝熱材70が介在している。伝熱材70の具体例は、熱伝導フィラーが配合された樹脂材、又は、伝熱ペーストである。伝熱材70は、荷重が付与されると、変形可能である。
【0032】
外輪22の軸方向一方側の側面28と、ポンプ本体52の軸方向他方側の面55との間に伝熱材70が介在している。このため、外輪22の熱は、伝熱材70を介してポンプ42(ポンプ本体52)に伝えられる。また、前記のとおり、軸受装置10に軸方向の荷重(予圧)が付与された場合、外輪22が伝熱材70を押圧して変形させる。このため、前記軸方向の荷重がポンプ42に作用するのを抑えることができる。
【0033】
〔前記各形態の軸受装置10について〕
以上、前記各形態の軸受装置10は、内輪21、外輪22、複数の玉23、及び保持器24を有する軸受部20と、軸受部20の軸方向の隣に設けられている給油ユニット40とを備える。給油ユニット40は、ポンプ42及びタンク43を有する。ポンプ42は、軸受部20に潤滑油を吐出する。タンク43は、ポンプ42から吐出させる潤滑油を保持する。図1及び図4に示すように、外輪22とタンク43とは直接的に接触していて、タンク43の内の外輪22と接触する部分(壁48)は金属製である。
【0034】
前記軸受装置10によれば、内輪21が継続して回転し、軸受部20において潤滑油が消費され減少すると、やがて、軸受部20の温度が上昇する。すると、外輪22の温度も上昇し、その熱がタンク43に伝えられる。そして、タンク43に保持されている潤滑油の温度が上昇し、潤滑油の粘度が低下する。前記のとおり、ポンプ42は、潤滑油の温度が高くなっていると、一回の吐出動作によって吐出する潤滑油の量(油滴の量)が増える特性を有する。このため、軸受部20において潤滑油が減少し、軸受部20の温度が上昇すると、ポンプ42からの潤滑油の吐出量が増加する。
【0035】
前記各形態の軸受装置10は、従来のようなセンサを備えておらず、そのセンサの信号に基づく給油の制御(フィードバック制御)も行われない。しかし、センサが無くても、前記のとおり、軸受部20において潤滑油が減少すると、軸受部20への給油量を増加させることが可能である。前記各形態によれば、従来技術のセンサ及びこのセンサの信号を処理する演算部が不要であり、低コストで軸受装置10を構成することが可能となる。
【0036】
ポンプ42は所定の時間間隔で潤滑油を吐出するように設定されていればよく、従来のようなセンサの信号に基づくフィードバック制御は不要である。前記各形態の軸受装置10では、センサを用いないで、外輪22とタンク43との接触による機械的な構造によって、給油量を調整(制御)することが可能である。よって、その調整(制御)は電気的なノイズの影響を受けない。
【0037】
なお、前記のような給油ユニット40を備える軸受装置10において、従来では、軸受部20が有する外輪22と、タンク43とは非接触であった。これは、前記のとおり、軸受部20を含む軸受装置10に、軸方向の予圧が付与される場合があるためである。つまり、タンク43は樹脂製であることから、このようなタンク43に、軸方向の予圧による荷重が作用しないように、従来技術では、外輪22とタンク43とは離れて設けられている。
【0038】
タンク43の内の少なくとも外輪22と接触する壁48が金属製であればよく、タンク43のすべての壁が金属製であってもよい。なお、タンク43のすべての壁が金属製である場合、タンク43の熱容量が大きくなり、外輪22からの熱の伝達によってタンク43内の潤滑油の温度を上昇させる反応が、遅くなる可能性がある。このため、図1及び図4に示すように、タンク43の内の外輪22と接触する壁48のみが金属製であるのが好ましい。
【0039】
前記各形態では、軸受部20が有する保持器24は、外輪22によって径方向の位置決めがされる。具体的に説明すると、保持器24の一部が、外輪22の内周面の一部に滑り接触することで、保持器24は、外輪22によって径方向についての位置決めが行われる。つまり、保持器24は、外輪案内の保持器である。この場合、軸受部20の回転により、保持器24と外輪22とが摺動し、その摺動箇所において潤滑油が少なくなると、その摺動箇所において温度が高くなる。このため、外輪案内の保持器24の場合、外輪22が他の部分と比べて温度が高くなりやすい。そこで、潤滑油が少なくなると、外輪22の温度によってタンク43内の潤滑油の温度を高くすることができる。
【0040】
また、図4に示す形態では、タンク43は、外輪22と接触する部分として、ヒートシンク60を有する。ヒートシンク60を有するタンク43によれば、外輪22の温度が効率よくタンク43の潤滑油に伝達される。このため、軸受部20(外輪22)の温度上昇から潤滑油の吐出量の増加までの反応時間を短縮することが可能となる。タンク43の内の外輪22と接触する部分(金属製の部分)は、ヒートシンク60以外であってもよい。つまり、タンク43の内の外輪22と接触する部分は、タンク43内の潤滑油との接触面積が平坦な板のみである場合よりも広くなる凹凸形状であればよい。
【0041】
また、前記各形態では、図6に示すように、ポンプ42と外輪22は、相互の間に伝熱材70を介して配置されている。この伝熱材70によれば、軸受部20において潤滑油が減少し、外輪22の温度が上昇すると、その熱が伝熱材70を通じてポンプ42にも伝えられる。このため、ポンプ42からの潤滑油の吐出量が増加する。また、ポンプ42において、潤滑油の温度が低下するとその一部が固化し、ポンプ42の詰まりが発生する原因となる。しかし、内輪21が継続して回転すると、外輪22の熱が伝熱材70を通じて外輪22に伝わるため、ポンプ42の温度を高めることが可能となる。このため、ポンプ42の詰まりを防止することが可能となる。
【0042】
ポンプ42は、前記のとおり(図3参照)ピエゾ素子53、圧力室51、微小な貫通孔から成る吐出孔50等を有する。このようなポンプ42に、前記予圧のような大きな荷重(外力)が付与されると、不具合が発生する可能性がある。しかし、図6に示すように、ポンプ42と外輪22との間の伝熱材70がクッション材として機能する。よって、前記予圧のために付与される荷重が、ポンプ42に影響を及ぼし難くなる。この結果、ポンプ42からの潤滑油の吐出について、不具合が発生するのを防止することができる。
【0043】
以上のように、前記各形態の軸受装置10によれば、従来のようにセンサが無くても、軸受部20において潤滑油が減少すると、そのタイミングでポンプ42による給油量を増加させることが可能となる。この結果、軸受部20における潤滑油不足を解消することが可能となる。
【0044】
〔その他について〕
前記各形態では、軸受部20がアンギュラ玉軸受である場合について説明したが、軸受の形式はこれに限らず、深溝玉軸受であってもよく、また、円すいころ軸受や、円筒ころ軸受であってよい。
【0045】
また、前記各形態では、外輪22が固定輪である場合について説明した。しかし、外輪22が回転輪であって内輪21が固定輪であってもよい。この場合、図示しないが、軸受装置10は間座として内輪間座を有し、その内輪間座の外周側に給油ユニット40が設けられる。そして、内輪21と給油ユニット40が有するタンク43とは直接的に接触していて、タンク43の内の内輪21と接触する部分は金属製である。更に、保持器24は、内輪21によって径方向の位置決めがされる内輪案内の保持器であるのが好ましい。
【0046】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10:転がり軸受装置 20:軸受部 21:内輪
22:外輪 23:玉(転動体) 24:保持器
40:給油ユニット 42:ポンプ 43:タンク
48:壁(固定輪と接触する部分) 60:ヒートシンク 70:伝熱材
図1
図2
図3
図4
図5
図6