(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】光分波器、光伝送装置及び光分波制御方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20230516BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G02F1/01 B
G02B6/12 331
(21)【出願番号】P 2019100439
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-01-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 知之
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-207135(JP,A)
【文献】特開2003-149471(JP,A)
【文献】特開平07-079212(JP,A)
【文献】特開昭63-046022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0110401(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
G02B 6/12- 6/14
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長を含む光を各波長の光に分離する光分波器であって、
N(Nは2以上)個の2×2カプラと、移相器が設けられているN-1個の非対称マッハツェンダ干渉計とを有し、前記2×2カプラ間の各々に、前記移相器が設けられている非対称マッハツェンダ干渉計が設けられている構造を非対称マッハツェンダ干渉計光分波部とし、
同一の構造を有する3つの前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部をツリー状に接続した構造を単位回路とし、
前記単位回路はツリー状に接続されており、
前記同一の構造を有する前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部は、前記移相器が設けられているN-1個の非対称マッハツェンダ干渉計における導波路対のアーム長差の組み合わせがすべて同じものであって、
前記単位回路のうちの少なくとも1つの単位回路における前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部におけるNは3以上であり、
前記単位回路の出力側の4つの導波路にモニタを備え、前記モニタにおいて得られたパワー値を引数とする関数の値を増加、または、減少させるように、前記単位回路における前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部に設けられた前記移相器が設けられている非対称マッハツェンダ干渉計の前記移相器を制御する制御回路を有
し、
m段目の単位回路における非対称マッハツェンダ干渉計の最も小さいアーム長差をΔL
m
とすると、m-1段目の単位回路における非対称マッハツェンダ干渉計の最も小さいアーム長差は2ΔL
m
であり、前記m-1段目の単位回路におけるその他の非対称マッハツェンダ干渉計のアーム長差は2ΔL
m
の整数倍である、
ことを特徴とする光分波器。
【請求項2】
前記移相器は、ヒータを含むものであることを特徴とする請求項
1に記載の光分波器。
【請求項3】
前記制御回路は、前記モニタにおいて得られたパワー値が増加または減少する方向に前記移相器を変化させる際に、前記移相器における位相を微量増減させたときの前記モニタにおいて検出されるパワー値の増減を検出することにより、前記モニタにおいて検出されるパワー値が増加または減少する位相の変化方向を調べ、前記調べた変化方向に基づき前記移相器の位相を微量変化させることを繰り返すことを特徴とする請求項1
または2に記載の光分波器。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載の光分波器を有し、波長多重通信に用いられる光伝送装置。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれかに記載の光分波器の入力ポートに、前記複数の波長のうちの1つの波長の光を入力し、前記入力ポートと、前記1つの波長の光が出力される出力ポートの間に位置する非対称マッハツェンダ干渉計の透過特性を調整し、
前記1つの波長の安定化の後に、前記入力ポートに入力される波長を順次切り替えて、前記透過特性の調整と前記安定化を繰り返し、
各波長における調整の終了後に、前記複数の波長のすべての波長を含む光を入射して前記光分波器のすべての非対称マッハツェンダ干渉計を一度に制御することを特徴とする光分波制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光分波器、光伝送装置及び光分波制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの世界的普及、インターネットに接続する「モノ」の増加等により、データトラフィック量が飛躍的に増大し、通信容量と速度の向上が求められている。情報処理システムの性能は、演算装置の処理速度と相互結合媒体の伝送速度で決定される。演算装置に関しては、シリコン集積回路のスケーリング(微細化)の研究が継続して行われている。これに応じて、相互結合媒体のスケーリングと動作速度の向上も必要であり、今後は、システム全体のさらなる小型化と高速化が求められる。
【0003】
小型化および高速化の手段として、シリコン集積回路と光ファイバを用いた光通信による相互結合が注目されている。光ファイバ1本あたりの速度を改善する技術のひとつがWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)である。WDM信号は、受信側で各波長の光に分波される。
【0004】
光合分波器として、複数の遅延型マッハツェンダ干渉計を多段に接続する構成がある。たとえば、第1の遅延マッハ・ツェンダ干渉計に、第1の遅延マッハ・ツェンダ干渉計の光路長差の1/2の光路長差の第2の遅延マッハ・ツェンダ干渉計と第3の遅延マッハ・ツェンダ干渉計をカスケード接続する構成が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。また、2本の光導波路がそれぞれ入力および出力に接続された光方向性結合器が複数個カスケード状に接続された光分波器において、2本の光導波路の相対的な実効長をこの光分波器の出力で検出される光信号の直流成分が最大となるように制御する構成が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-182259号公報
【文献】特開昭63-46022号公報
【文献】特開2003-149472号公報
【文献】特開2002-318376号公報
【文献】特開2002-71978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、WDM信号を分波する光分波器を示す。受信されたWDM信号は、複数の非対称マッハツェンダ干渉計(Asymmetric Mach-Zehnder Interferometer:AMZ)がツリー状に多段接続された光分波器に入力される。WDM信号には複数の波長λ1~λ4の信号が含まれている。
【0007】
1段目の第1のAMZ910のアーム長差は2ΔL、2段目の第2のAMZ920と第3のAMZ930の光路長差はΔLである。WDM信号は、第1のAMZ910の2つの出力ポートで、スペクトルが反転した2つの透過成分に分離される。第1のAMZ910の上側アームでは波長λ1と波長λ3の光が透過し、下側アームでは波長λ2と波長λ4の光が透過するように設計されている。分離された透過スペクトルは、2段目の第2のAMZ920と第3のAMZ930にそれぞれ入力する。2段目の第2のAMZ920及び第3のAMZ930では、スペクトルが反転した2つの透過成分に分離される。透過スペクトルの周期はアーム長差に反比例し、2段目の第2のAMZ920と第3のAMZ930で分離される透過スペクトルの周期は、1段目で分離された透過スペクトルの2倍の周期をもつ。これにより、第2のAMZ920と第3のAMZ930の合計4つの出力ポートで4つの波長の信号を分離して取り出すことができる。
【0008】
光分波器の入力ポートから各出力ポートへと透過する光のスペクトルは、その出力ポートと入力ポートとの間に存在するAMZの透過スペクトルの積で決定される。各AMZの実効的なアーム長差を波長程度の範囲内で微調整して、入力WDM信号に対して透過スペクトルのピーク波長を適切な波長に設定することにより、各波長の光を分離可能なスペクトルを出力ポートで得ることができる。
【0009】
しかし、AMZのアーム長差は、製造プロセスのばらつきや、温度変動による屈折率のばらつきの影響を受けるため、必ずしも設計どおりにならない。製造ばらつきや屈折率ばらつきによって各AMZの透過ピーク波長が変動すると、
図2に示すように、各出力ポートへ透過する光のスペクトルが変形し、光損失や、他チャネルからのクロストークが生じる。
【0010】
また、入力されるWDM信号に含まれる各々の光においても、波長ずれが生じている場合があり、この場合、クロストークが生じてしまう。
【0011】
このため、入射するWDM信号における光信号に波長ばらつきがあっても、低いクロストークで光信号を波長ごとに分離することのできる光分波器が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施の形態の一観点によれば、複数の波長を含む光を各波長の光に分離する光分波器であって、N(Nは2以上)個の2×2カプラと、移相器が設けられているN-1個の非対称マッハツェンダ干渉計とを有し、前記2×2カプラ間の各々に、前記移相器が設けられている非対称マッハツェンダ干渉計が設けられている構造を非対称マッハツェンダ干渉計光分波部とし、同一の構造を有する3つの前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部をツリー状に接続した構造を単位回路とし、前記単位回路はツリー状に接続されており、前記同一の構造を有する前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部は、前記移相器が設けられているN-1個の非対称マッハツェンダ干渉計における導波路対のアーム長差の組み合わせがすべて同じものであって、前記単位回路のうちの少なくとも1つの単位回路における前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部におけるNは3以上であり、前記単位回路の出力側の4つの導波路にモニタを備え、前記モニタにおいて得られたパワー値を引数とする関数の値を増加、または、減少させるように、前記単位回路における前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部に設けられた前記移相器が設けられている非対称マッハツェンダ干渉計の前記移相器を制御する制御回路を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
開示の光分波器によれば、入射するWDM信号における光信号に波長ばらつきがあっても、低いクロストークで光信号を波長ごとに分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図9】第1の実施の形態における光分波器の効果の説明図
【
図10】第2の実施の形態における光分波器の構成図
【
図11】第2の実施の形態における光分波器の効果の説明図
【
図12】第3の実施の形態における光分波制御方法のフローチャート
【
図13】第3の実施の形態における光分波制御方法の説明図(1)
【
図14】第3の実施の形態における光分波制御方法の説明図(2)
【
図15】第3の実施の形態における光分波制御方法の説明図(3)
【
図16】第3の実施の形態における光分波制御方法の説明図(4)
【
図17】第3の実施の形態における光分波制御方法の説明図(5)
【
図18】第4の実施の形態における光伝送装置の構成図
【
図19】第4の実施の形態における光トランシーバモジュールの構成図
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0016】
〔第1の実施の形態〕
最初に、製造ばらつきや屈折率ばらつきによって各AMZの透過ピーク波長が変動することを解決した構造の光分波器について説明する。
【0017】
図3は、この光分波器で用いられる単位回路UC(1ユニット)の構成を示す図である。この光分波器は、波長多重方式の光伝送装置で用いられる。単位回路UCは、同一のアーム長差ΔLを有する3つの非対称マッハツェンダ干渉計(AMZ)、即ち、第1のAMZ10、第2のAMZ20及び第3のAMZ30を有している。即ち、単位回路UCは、同一構造のAMZをツリー状に接続した構造AT(AMZ Triplet)であり、移相器11、21、31を制御することにより、位相のばらつきを補正することができる。尚、本願においては、第1のAMZ10、第2のAMZ20及び第3のAMZ30を総称してAMZと記載する場合がある。尚、本願明細書及び特許請求の範囲においては、アーム長差が「同一」という場合は、設計上の実効アーム長差が同じであることを意味し、実際の製品では、許容誤差、製造ばらつき等を含むものとする。
【0018】
第1のAMZ10、第2のAMZ20及び第3のAMZ30の各々は、それぞれ1つの入力ポートと2つの出力ポートを有する。第1のAMZ10の2つの出力ポートはそれぞれ、第2のAMZ20の入力と、第3のAMZ30の入力に接続されている。
【0019】
単位回路UCは、第2のAMZ20の2つの出力ポートの一方に接続される第1のモニタ41と他方に設けられる第2のモニタ42、第3のAMZ30の2つの出力ポートの一方に接続される第3のモニタ43と他方に設けられる第4のモニタ44を有する。
【0020】
第2のAMZ20の第2のモニタ42が設けられる側の出力ポートが、出力1を出力する単位回路UCの一方の出力ポートとなり、第3のAMZ30の第4のモニタ44が設けられる側の出力ポートが、出力2を出力する単位回路UCの他方の出力ポートとなる。
【0021】
第2のモニタ42と第4のモニタ44のモニタ結果は、制御回路51に入力される。第1のモニタ41のモニタ結果は、制御回路61に入力され、第3のモニタ43のモニタ結果は、制御回路62に入力される。
【0022】
制御回路51は、第2のモニタ42と第4のモニタ44のモニタ結果に基づいて、第1のAMZ10の透過特性を制御する。制御回路61は、第1のモニタ41のモニタ結果に基づいて、第2のAMZ20の透過特性を制御する。制御回路62は、第3のモニタ43のモニタ結果に基づいて、第3のAMZ30の透過特性を制御する。
【0023】
透過特性の制御は、たとえば、第1のAMZ10、第2のAMZ20及び第3のAMZ30にそれぞれ設けられている移相器11、21、及び、31を制御することで実施される。
【0024】
制御回路51は、第2のモニタ42と第4のモニタ44で検出されるパワーが増加する方向に、移相器11を制御する。図中、制御回路51は「Inc」と表記されている。
【0025】
制御回路61は、第1のモニタ41で検出されるパワーが減少する方向に、移相器21を制御する。制御回路61は減少制御を行うので、図中で「Dec」と表記されている。
【0026】
制御回路62は、第3のモニタ43で検出されるパワーが減少する方向に、移相器31を制御する。図中で、制御回路62は「Dec」と表記されている。
【0027】
単位回路UCは、1の入力に対して、第1のAMZ10と第2のAMZ20を透過した光から得られる第1の出力(出力1)と、第1のAMZ10と第3のAMZ30を透過した光から得られる第2の出力(出力2)を有する。
図3の単位回路UCは2つの波長を分離するが、単位回路UCを複数個、トーナメントツリー状に多段接続することで、より多くの波長を分離することができる。多段に接続される単位回路UCの段数をmとすると、2
mの波長を分離することができる。
【0028】
図4は、非対称マッハツェンダ干渉計AMZの一例を示す。AMZは、入力光を分岐する3dBカプラ13と、3dBカプラ13で分岐された光のそれぞれを導波する2本の光導波路と、分岐された光を合波する3dBカプラ14を有する。2本の光導波路のアーム長は、ΔLだけ異なる。
【0029】
AMZの透過スペクトルは、アーム長差ΔLに反比例する周期Tを有する。より正確には、AMZの透過スペクトルは、ΔL/nに反比例する周期Tのレイズドコサイン型のスペクトルである。ここで、「n」は導波モードの屈折率である。
【0030】
たとえば、波長λ1と波長λ2の波長の光が多重されたWDM信号がAMZに入射すると、ΔLのアーム長差によって、波長λ1と波長λ2に分波される。波長λ1と波長λ2がAMZの透過中心波長に一致しているとき、波長λ1のピーク波形を含む透過スペクトルが一方の出力ポートから出力され、波長λ2のピーク波形を含む透過スペクトルが他方の出力ポートから出力される。
【0031】
図3に示されるように、第2のAMZ20の2つの出力ポートのうち、第2のモニタ42が設けられている側の出力ポートから第1の透過スペクトルが出力(出力1)される。従って、第2のモニタ42は、出力光のパワーモニタとして機能する。
【0032】
第3のAMZ30の2つの出力ポートのうち、第4のモニタ44が設けられている側の出力ポートから、第2の透過スペクトルが出力(出力2)される。従って、第4のモニタ44は、出力光のパワーモニタとして機能する。
【0033】
図3の単位回路UCを多段接続する場合は、単位回路UCの出力1と出力2に、それぞれ別の単位回路が接続される。この多段構成については、後述する。
【0034】
図3の単位回路UCの原理は以下のとおりである。単位回路に、例えば波長λ1と波長λ2が多重された光信号が入力される。入力光は、第1のAMZ10を透過して、アーム長差に応じた2つの透過スペクトルが得られる。
【0035】
2つの透過スペクトルの一方は第1のAMZ10の2つの出力ポートの一方から第2のAMZ20に入射し、他方の透過スペクトルは、第1のAMZ10の2つの出力ポートの他方から第3のAMZ30に入射する。第2のAMZ20に入射した光は2つの透過スペクトルに分離され、第2のAMZ20の2つの出力ポートの一方で出力1が得られる。出力1で取り出したい波長は、たとえば波長λ1であるが、製造ばらつき、屈折率ばらつき等により、必ずしも波長λ1だけを精度良く分離できるとは限らない。そこで、出力1に現れる出力光のパワーを第2のモニタ42でモニタして、モニタ結果を制御回路51に入力する。
【0036】
同様に、第3のAMZ30で出力2として取り出したい波長は波長λ2であるが、必ずしも波長λ2だけを精度良く分離できるとは限らない。そこで、出力2に現れる出力光のパワーを第4のモニタ44でモニタして、モニタ結果を制御回路51に入力する。
【0037】
制御回路51は、第2のモニタ42と第4のモニタ44の出力に基づき、単位回路UCの2つの出力光のパワーが増加する方向に、第1のAMZ10の移相器11を制御する。パワー増加の例として、第2のモニタ42でのモニタ光パワーと、第4のモニタ44でのモニタ光パワーの和が増大するように、移相器11が制御される。他の例として、モニタ光パワーの3次関数で表される値が大きくなる方向に制御する構成としてもよい。
【0038】
第2のAMZ20の出力1と反対側のポートには、出力1へ透過しない光の成分が出力される。この光成分は、単位回路UCの出力に寄与しない。そこで、この不使用成分を第1のモニタ41でモニタして、モニタ結果を制御回路61に入力する。制御回路61は、出力に寄与しない光の成分を低減する方向に、第2のAMZ20の移相器21を制御して、光損失を抑制する。
【0039】
同様に、第3のAMZ30の出力2と反対側のポートには、出力2へ透過しない光の成分が出力される。この光成分は、単位回路UCの出力に寄与しない。そこで、この不使用成分を第3のモニタ43でモニタして、モニタ結果を制御回路62に入力する。制御回路62は、出力に寄与しない光の成分を低減する方向に、第3のAMZ30の移相器31を制御して、光損失を抑制する。
【0040】
図3の構成により、各AMZの光導波路の製造ばらつきや、温度変動による屈折率のばらつきを補償し、入力信号波長に対する最適条件に各AMZを制御することができる。ターゲットの波長を含む光出力を増大させ、かつ無駄になる光成分を低減することで、光損失やクロストークが低減され、高精度の波長分離が実現する。
【0041】
図5は、
図3に示される単位回路UCを用いた光分波器91の模式図である。光分波器91は、
図3の単位回路UCをひとつ(1ユニット)用いた最小構成で、2波長WDM信号の波長分離を行う。光分波器91は、ツリー状に接続された3つの非対称マッハツェンダ干渉計第1のAMZ10、第2のAMZ20、及び、第3のAMZ30を有する。第1のAMZ10、第2のAMZ20、および第3のAMZ30は、同一のアーム長差ΔLを有する。
【0042】
光分波器91をシリコン(Si)集積回路上で実現する場合、入力導波路16と各AMZを形成する光導波路のコアは、たとえばSiにより形成され、クラッドはSiO2により形成される。光導波路はSiコアとSiO2クラッドに限定されず、コアに光を閉じ込めることができる任意の材料を組み合わせてもよい。たとえば、石英基板上に、石英ガラス、透明樹脂等で光導波路を形成してもよい。
【0043】
図5では、AMZの入力側と出力側の3dBカプラ13及び14として、光方向性結合器を用いているが、この例に限定されず、多モード干渉(MMI:Multi-Mode Interference)光導波路や、それ以外の合分波構成で実現されてもよい。
【0044】
各AMZに設けられる移相器11、21、31は、たとえば、上側アームに設けられる部分11aと下側アームに設けられる部分11bを含む。移相器11、21、31は、タングステン(W)、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)等のなどの電気抵抗体の薄膜で形成されていてもよい。電気抵抗体に電流を流して、生じる熱で各光導波路の温度を変化させ、屈折率を変化させて光位相を制御する。
【0045】
図6は、移相器11の一例を示す。AMZの上側アームの光導波路に沿って、電気抵抗体の薄膜11cと11dが配置され、下側アームの光導波路に沿って電気抵抗体の薄膜11eと11fが配置されている。電気抵抗体の薄膜11cと11eは直列接続されて制御回路60の端子に接続され、電気抵抗体の薄膜11dと11fは直列接続されて制御回路60の端子に接続される。モニタ40において得られた信号は制御回路60に入力され、制御回路60から出力される制御信号によって、移相器11が制御される。
【0046】
移相器11の構成は
図6の構成に限定されず、電気的に光導波路中のキャリア密度を増減することで屈折率を変化させる構成(キャリアプラズマ効果)を用いてもよいし、電気光学効果を利用した構成であってもよい。尚、移相器21、31についても同様である。
【0047】
図5に示されるように、入射されたWDM信号は、第1のAMZ10を通って、スペクトルが反転した2つの透過スペクトルに分離される。一方の透過スペクトルは第2のAMZ20に入射し、他方の透過スペクトルは第3のAMZ30に入射する。
【0048】
第2のAMZ20の2つの出力ポートの一方に接続されるフォトダイオード(PD)71から第1の出力光が取り出され、第3のAMZ30の2つの出力ポートの一方に接続されるフォトダイオード(PD)72から、第2の出力光が取り出される。
【0049】
尚、本願における図面において、「Mon」と記載されているものは、フォトダイオード等によるパワーモニタであり、「PD(Mon)」と記載されているものは、パワーモニタを兼ねた高速光信号を電気信号に変えるための高速フォトダイオードである。
【0050】
PD71とPD72は、出力光のパワーモニタとしても機能し、モニタ結果が制御回路51に入力される。制御回路51は、PD71とPD72で検出される光パワーが増大する方向に、移相器11を制御する。
【0051】
制御の方向は、たとえば制御開始の時点で移相器11に注入する電流を所定のステップサイズで一方向に変化させ、PD71とPD72の出力パワーの変化の方向をみることで、判断することができる。
【0052】
第2のAMZ20の他方の出力ポートでは、PD71へ透過しなかった成分が第1のモニタ41によってモニタされ、モニタ結果が制御回路61に入力される。制御回路61は、第1のモニタ41のモニタ結果が減少するように、移相器21を制御する。
【0053】
第2のAMZ20の他方の出力ポートでは、PD72へ透過しなかった成分が第3のモニタ43によってモニタされ、モニタ結果が制御回路62に入力される。制御回路62は、第3のモニタ43のモニタ結果が減少するように、移相器31を制御する。
【0054】
制御回路51、および制御回路61、62により、上記のように移相器11~31を制御することで、入射されたWDM信号に対する第1のAMZ10、第2のAMZ20、及び、第3のAMZ30の透過特性を、最適に設定することができる。
【0055】
また、
図3の単位回路UCを3つ、ツリー状に多段接続した構成の光分波器92を
図7に示す。光分波器92の第1の単位回路UC1の2つの出力ポートに、第2の単位回路UC2と、第3の単位回路UC3が、それぞれ接続されている。
【0056】
第1の単位回路UC1の各AMZのアーム長差は、2ΔLに設定されている。第2の単位回路UC2と第3の単位回路UC3の各AMZのアーム長差は、ΔLに設定されている。多段に接続される単位回路UCのm段目の単位回路で用いられるAMZのアーム長差をΔLmとすると、ΔLm=ΔLm-1/2で表される。
【0057】
光分波器92は、第2の単位回路UC2の2つの出力ポートと、第3の単位回路UC3の2つの出力ポートの、合計4つの出力ポートを有し、波長λ1~波長λ4の4波長が多重されたWDM信号の各波長を分離することができる。
【0058】
分離される波長の間隔はアーム長差で決まり、第2の単位回路UC2と第3の単位回路UC3の透過スペクトルの周期は、第1の単位回路UC1の透過スペクトルの周期の2倍になる。
【0059】
第1の単位回路UC1の回路構成は、
図3を参照して説明した単位回路UCと同じである。第2の単位回路UC2と、第3の単位回路UC3は、
図5の光分波器91の回路構成と同様である。
【0060】
第2の単位回路UC2は、ツリー状に接続された3つの非対称マッハツェンダ干渉計、即ち、第1のAMZ10A、第2のAMZ20A、及び、第3のAMZ30Aを有している。第1のAMZ10A、第2のAMZ20A、及び、第3のAMZ30Aには、それぞれ移相器11A、21A、31Aが設けられている。
【0061】
第2のAMZ20Aの一方の出力に、第1の出力光を検出するPD81が接続されている。PD81は光分波器92から波長λ1の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路52に入力する。第2のAMZ20Aの他方の出力にモニタ45が設けられ、モニタ結果は制御回路63に入力される。
【0062】
第3のAMZ30Aの一方の出力に、第2の出力光を検出するPD82が接続されている。PD82は光分波器92から波長λ3の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路52に入力する。第3のAMZ30Aの他方の出力にモニタ46が設けられ、モニタ結果は制御回路64に入力される。
【0063】
制御回路52は、PD81とPD82の出力パワーの和が増大する方向に移相器11Aを制御する。
【0064】
制御回路63は、モニタ45のモニタ結果が減少するように、移相器21Aを制御する。制御回路64は、モニタ46のモニタ結果が減少するように、移相器31Aを制御する。
【0065】
第3の単位回路UC3は、ツリー状に接続された3つの非対称マッハツェンダ干渉計、即ち、第1のAMZ10B、第2のAMZ20B、及び、第3のAMZ30Bを有している。第1のAMZ10B、第2のAMZ20B、及び、第3のAMZ30Bには、それぞれ移相器11B、21B、31Bが設けられている。
【0066】
第2のAMZ20Bの一方の出力に、第3の出力光を検出するPD83が接続されている。PD83は光分波器92から波長λ2の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路53に入力する。第2のAMZ20Bの他方の出力にモニタ47が設けられ、モニタ結果は制御回路65に入力される。
【0067】
第3のAMZ30Bの一方の出力に、第4の出力光を検出するPD84が接続されている。PD84は光分波器92から波長λ4の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路53に入力する。第3のAMZ30Aの他方の出力にモニタ48が設けられ、モニタ結果は制御回路66に入力される。
【0068】
制御回路53は、PD83とPD84の出力パワーの和が増大する方向に移相器11Bを制御する。
【0069】
制御回路65は、モニタ47のモニタ結果が減少するように、移相器21Bを制御する。制御回路66は、モニタ48のモニタ結果が減少するように、移相器31Bを制御する。
【0070】
光分波器92の動作は以下のとおりである。波長λ1~波長λ4の波長を含むWDM信号が光分波器92に入力されると、第1の単位回路UC1で、第1の透過スペクトルと、第2の透過スペクトルに分離される。
【0071】
第1の透過スペクトルは、同じアーム長差2ΔLをもつ第1のAMZ10と第2のAMZ20の透過スペクトルの積で決まる。第1の透過スペクトルは、第2の単位回路UC2に入力される。第2の透過スペクトルは、同じアーム長差2ΔLをもつ第1のAMZ10と第3のAMZ30の透過スペクトルの積で決まる。第2の透過スペクトルは、第3の単位回路UC3に入力される。
【0072】
理想的には、第1の透過スペクトルに波長λ1と波長λ3のピーク波形が含まれ、第2の透過スペクトルに波長λ2と波長λ4のピーク波形が含まれる。しかし、制御前の状態では、製造ばらつき等の影響により、必ずしも透過スペクトルに目的とする波長だけが含まれているとは限らない。
【0073】
制御が開始されると、制御回路51によって、目的とする出力光スペクトルのパワーを増大する方向に移相器11が制御され、制御回路61と62によって、使用されないスペクトル成分を減少する方向に移相器21と31が制御される。したがって、第1の単位回路UC1から出力される2つの透過スペクトルは、光損失、クロストーク等が抑制されている。
【0074】
第2の単位回路UC2で、入力された第1の透過スペクトルは、第1のAMZ10Aによって、さらに2つの透過スペクトルに分離される。第2の単位回路UC2の3つのAMZは、第1の単位回路UC1のAMZのアーム長差の半分のアーム長差を有する。第1のAMZ10Aによって分離された透過スペクトルは、入力された透過スペクトルの2倍の周期を有する。
【0075】
分離された透過スペクトルの一方は第2のAMZ20Aを透過し、第2のAMZ20Aの一方の出力ポートに接続されたPD81で検出される。分離された他方の透過スペクトルは第3のAMZ30Aを透過して、第3のAMZ30Aの一方の出力ポートに接続されたPD82で検出される。
【0076】
制御回路52によって、PD81とPD82の出力パワーが増加する方向に制御され、制御回路63と64によって、出力に寄与しない光成分が低減される。この構成により、PD81から波長λ1の光信号が出力され、PD82から波長λ3の光信号が出力される。
【0077】
第3の単位回路UC3でも同様の動作が行われ、PD83から波長λ2の光信号が出力され、PD84から波長λ4の光信号が出力される。
【0078】
制御回路51でパワー増加の制御を行うことで、後段の単位回路UC2と単位回路UC3へと出力される透過スペクトルのパワーを最大化することができる。制御回路52と53でパワー増加の制御を行うことで、PD81~PD84から出力される各波長の光のパワーを最大化することができる。
【0079】
制御回路61~66で所定のモニタ出力を減少させる方向の制御を行うことで、光分波器92の出力に寄与しない光成分が最小化される。
【0080】
一定時間後に、各モニタ光パワーが安定すると、ヒータパワーの制御も安定する。
【0081】
補正は、増加用の制御回路51~53と、減少用の制御回路61~66を用いて、モニタ結果に基づく制御を行うことで、自律的に行われる。
【0082】
光分波器92は、AMZの光路長差の製造ばらつきや屈折率ばらつきを補償して、精度良く各波長の光を分離することができる。
【0083】
以上のように、光分波器92は、ATをツリー状に接続した構造CAT(Cascaded
ATs)であり、最終段におけるAMZのアーム長差ΔL=λ0
2/4nGΔλで表される。ここでλ0はWDM信号中心波長、ΔλはWDM波長間隔、nGはAMZのアームにおける群屈折率であり、段がWDM信号の入射側に1段移るに伴いATのアーム長差は2倍になる。
【0084】
光分波器92では、AMZの光路長差の製造ばらつきや屈折率ばらつきを補償して、精度良く各波長の光を分離することは可能であるが、入射するWDM信号の波長のばらつきが大きい場合には、クロストークを十分に抑制することができない。例えば、Coarse WDMのような波長間隔20nmに対して6.5nmの波長ずれを許容しなければならない場合にクロストークが大きくなる。
【0085】
このため、入射するWDM信号における光信号に波長ばらつきがあっても、低いクロストークで分離することのできる光分波器が求められている。
【0086】
(光分波器)
次に、本実施の形態における光分波器について説明する。
図8に示されるように、本実施の形態における光分波器100は、単位回路がツリー状に多段に接続されている。具体的には、第1の単位回路UC101の2つの出力ポートに、第2の単位回路UC2と、第3の単位回路UC3が、それぞれ接続されている。
【0087】
光分波器100は、第2の単位回路UC2の2つの出力ポートと、第3の単位回路UC3の2つの出力ポートの、合計4つの出力ポートを有し、波長λ1~波長λ4の4波長が多重されたWDM信号の各波長を分離することができる。尚、分離される波長の間隔はアーム長差で決まる。また、第2の単位回路UC2と第3の単位回路UC3の各AMZのアーム長差は、ΔLに設定されている。
【0088】
第1の単位回路UC101には、9つの非対称マッハツェンダ干渉計が設けられている。具体的には、AMZ110、AMZ120、AMZ130、AMZ140、AMZ150、AMZ160、AMZ170、AMZ180、AMZ190が設けられている。
【0089】
AMZ110は、移相器111を有しており、アーム長差は2ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。AMZ120は、移相器121を有しており、アーム長差は4ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。AMZ130は、移相器131を有しており、アーム長差は4ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。
【0090】
AMZ110の前段には2×2カプラ112が設けられており、AMZ110とAMZ120との間には2×2カプラ122が設けられており、AMZ120とAMZ130との間には2×2カプラ132が設けられている。AMZ130の後段には2×2カプラ133が設けられている。
【0091】
即ち、AMZ110は、2×2カプラ112と2×2カプラ122との間に設けられており、AMZ120は、2×2カプラ122と2×2カプラ132との間に設けられており、AMZ130は、2×2カプラ132と2×2カプラ133との間に設けられている。従って、光分波器100に入射したWDM信号は、2×2カプラ112、AMZ110、2×2カプラ122、AMZ120、2×2カプラ132、AMZ130、2×2カプラ133の順に伝播する。本願においては、2×2カプラ112、AMZ110、2×2カプラ122、AMZ120、2×2カプラ132、AMZ130、2×2カプラ133が形成されている部分を第1のAMZ(非対称マッハツェンダ干渉計)光分波部201と記載する場合がある。
【0092】
AMZ140は、移相器141を有しており、アーム長差は2ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。AMZ150は、移相器151を有しており、アーム長差は4ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。AMZ160は、移相器161を有しており、アーム長差は4ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。
【0093】
AMZ140の前段には2×2カプラ142が設けられており、AMZ140とAMZ150との間には2×2カプラ152が設けられており、AMZ150とAMZ160との間には2×2カプラ162が設けられている。AMZ160の後段には2×2カプラ163が設けられている。
【0094】
即ち、AMZ140は、2×2カプラ142と2×2カプラ152との間に設けられており、AMZ150は、2×2カプラ152と2×2カプラ162との間に設けられており、AMZ160は、2×2カプラ162と2×2カプラ163との間に設けられている。従って、2×2カプラ142に入射したWDM信号は、AMZ140、2×2カプラ152、AMZ150、2×2カプラ162、AMZ160、2×2カプラ163の順に伝播する。本願においては、2×2カプラ142、AMZ140、2×2カプラ152、AMZ150、2×2カプラ162、AMZ160、2×2カプラ163が形成されている部分を第2のAMZ光分波部202と記載する場合がある。
【0095】
AMZ170は、移相器171を有しており、アーム長差は2ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。AMZ180は、移相器181を有しており、アーム長差は4ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。AMZ190は、移相器191を有しており、アーム長差は4ΔLであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートが設けられている。
【0096】
AMZ170の前段には2×2カプラ172が設けられており、AMZ170とAMZ180との間には2×2カプラ182が設けられており、AMZ180とAMZ190との間には2×2カプラ192が設けられている。AMZ190の後段には2×2カプラ193が設けられている。
【0097】
即ち、AMZ170は、2×2カプラ172と2×2カプラ182との間に設けられており、AMZ180は、2×2カプラ182と2×2カプラ192との間に設けられており、AMZ190は、2×2カプラ192と2×2カプラ193との間に設けられている。従って、2×2カプラ172に入射したWDM信号は、AMZ170、2×2カプラ182、AMZ180、2×2カプラ192、AMZ190、2×2カプラ193の順に伝播する。本願においては、2×2カプラ172、AMZ170、2×2カプラ182、AMZ180、2×2カプラ192、AMZ190、2×2カプラ193が形成されている部分を第3のAMZ光分波部203と記載する場合がある。
【0098】
よって、本実施の形態における光分波器においては、第1のAMZ光分波部201、第2のAMZ光分波部202、第3のAMZ光分波部203は、移相器を有するアーム長差2ΔLのAMZと、移相器を有するアーム長差が2ΔLの整数倍のAMZとを有している。
【0099】
第1のAMZ光分波部201の出力となるAMZ130の2つの出力ポートはそれぞれ、2×2カプラ133を介し、第2のAMZ光分波部202のAMZ140の入力と、第3のAMZ光分波部203のAMZ170の入力に接続されている。第1のAMZ光分波部201においては、AMZ110の透過スペクトルの周期は、AMZ120及びAMZ130の透過スペクトルの周期の2倍である。即ち、AMZ120及びAMZ130の透過スペクトルの周期は、AMZ110の透過スペクトルの周期の1/2である。尚、AMZ110の透過スペクトルの周期は、単位回路UC2及び単位回路UC3におけるAMZ10A、10B等の透過スペクトルの周期の1/2である。
【0100】
本実施の形態においては、第1のAMZ光分波部201に、AMZ110の透過スペクトルの周期の1/2の透過スペクトルの周期を有するAMZ120及びAMZ130を設けることにより、クロストークを抑制することができる。尚、第2のAMZ光分波部202及び第3のAMZ光分波部203についても同様である。
【0101】
単位回路UC101は、第2のAMZ光分波部202のAMZ160の2つの出力ポートの一方に接続される第1のモニタ41と他方に設けられる第2のモニタ42を有している。第3のAMZ光分波部203のAMZ190の2つの出力ポートの一方に接続される第3のモニタ43と他方に設けられる第4のモニタ44を有している。
【0102】
第2のAMZ光分波部202のAMZ160の第2のモニタ42が設けられる側の出力ポートが、単位回路UC101の一方の出力ポートとなる。また、第3のAMZ光分波部203のAMZ190の第4のモニタ44が設けられる側の出力ポートが、単位回路UC101の他方の出力ポートとなる。
【0103】
第2のモニタ42と第4のモニタ44のモニタ結果は、制御回路251に入力される。第1のモニタ41のモニタ結果は、制御回路261に入力され、第3のモニタ43のモニタ結果は、制御回路262に入力される。本願においては、制御回路261を第2の制御回路と記載し、制御回路262を第3の制御回路と記載する場合がある。
【0104】
制御回路251は、第2のモニタ42と第4のモニタ44のモニタ結果に基づいて、第1のAMZ光分波部201のAMZ110、AMZ120、AMZ130の透過特性を制御する。制御回路261は、第1のモニタ41のモニタ結果に基づいて、第2のAMZ光分波部202のAMZ140、AMZ150、AMZ160の透過特性を制御する。制御回路262は、第3のモニタ43のモニタ結果に基づいて、第3のAMZ光分波部203のAMZ170、AMZ180、AMZ190の透過特性を制御する。
【0105】
第1のAMZ光分波部201の透過特性の制御は、たとえば、AMZ110、AMZ120、及び、AMZ130にそれぞれ設けられている移相器111、121、及び、131を制御することで実施される。
【0106】
第2のAMZ光分波部202の透過特性の制御は、たとえば、AMZ140、AMZ150、及び、AMZ160にそれぞれ設けられている移相器141、151、及び、161を制御することで実施される。
【0107】
第3のAMZ光分波部203の透過特性の制御は、たとえば、AMZ170、AMZ180、及び、AMZ190にそれぞれ設けられている移相器171、181、及び、191を制御することで実施される。
【0108】
制御回路251は、第2のモニタ42と第4のモニタ44で検出されるパワーが増加する方向に、移相器111、121、131を制御する。図中、制御回路251は「Inc」と表記されている。本願においては、制御回路251を第1の制御回路と記載する場合がある。
【0109】
制御回路261は、第1のモニタ41で検出されるパワーが減少する方向に、移相器141、151、161を制御する。制御回路261は減少制御を行うので、図中で「Dec」と表記されている。
【0110】
制御回路262は、第3のモニタ43で検出されるパワーが減少する方向に、移相器171、181、191を制御する。図中で、制御回路262は「Dec」と表記されている。
【0111】
単位回路UC101は、1の入力に対して、第1のAMZ10と第2のAMZ20を透過した光から得られる第1の出力と、第1のAMZ10と第3のAMZ30を透過した光から得られる第2の出力を有する。単位回路UC101は2つの波長を分離するが、単位回路UC101を複数個、トーナメントツリー状に多段接続することで、より多くの波長を分離することも可能である。多段に接続される単位回路UC101及びUC2等の段数をmとすると、2mの波長を分離することができる。
【0112】
本実施の形態における光分波器100をシリコン(Si)集積回路上で実現する場合、入力導波路と各AMZを形成する光導波路のコアは、たとえばSiにより形成され、クラッドはSiO2により形成される。光導波路はSiコアとSiO2クラッドに限定されず、コアに光を閉じ込めることができる任意の材料を組み合わせてもよい。たとえば、石英基板上に、石英ガラス、透明樹脂等で光導波路を形成してもよい。
【0113】
本実施の形態における光分波器100は、2×2カプラに代えて、多モード干渉光導波路や、それ以外の合分波構成を用いてもよい。
【0114】
各AMZに設けられる移相器111、121、131、141、151、161、171、181、191は、たとえば、上側アームに設けられる部分と下側アームに設けられる部分を含む。移相器111、121、131、141、151、161、171、181、191は、TiN膜等により形成されており、TiN膜に電流を流すことにより生じた熱により、光導波路の屈折率を変化させることで、位相を変化させることができる。尚、移相器111、121、131、141、151、161、171、181、191は、タングステン、チタン、白金、ニッケル等のなどの電気抵抗体の薄膜により形成してもよい。
【0115】
移相器111、121、131、141、151、161、171、181、191の構造は、例えば、
図6に示される移相器11と同様の構造のものである。移相器111、121、131、141、151、161、171、181、191は、電気抵抗体に限定されるものではなく、光導波路の屈折率を変化させる機能を有するものであればよい。例えば、光導波路にPN接合を形成し、順逆バイアスをかけることで屈折率を変化させてもよく、また電気光学効果を持つポリマーを光導波路周辺に形成してもよい。
【0116】
図8に示されるように、入射されたWDM信号は、第1のAMZ光分波部201を通って、スペクトルが反転した2つの透過スペクトルに分離される。一方の透過スペクトルは第2のAMZ光分波部202に入射し、他方の透過スペクトルは第3のAMZ光分波部203に入射する。
【0117】
第2のAMZ光分波部202のAMZ160の2つの出力ポートの一方に接続されている第2のモニタ42から第1の出力光が取り出される。また、第3のAMZ光分波部203のAMZ170の2つの出力ポートの一方に接続されている第4のモニタ44から、第2の出力光が取り出される。
【0118】
第2のモニタ42及び第4のモニタ44により得られたモニタ結果は、制御回路251に入力される。制御回路251は、第2のモニタ42及び第4のモニタ44で検出される光パワーが増大する方向に、移相器111、121、131を制御する。
【0119】
制御の方向は、たとえば制御開始の時点で移相器111、121、131に注入する電流を所定のステップサイズで一方向に変化させ、第2のモニタ42及び第4のモニタ44の出力パワーの変化の方向をみることで、判断することができる。
【0120】
第2のAMZ光分波部202のAMZ160の他方の出力ポートでは、第2のモニタ42側へ透過しなかった成分が第1のモニタ41によってモニタされ、モニタ結果が制御回路261に入力される。制御回路261は、第1のモニタ41のモニタ結果が減少するように、移相器141、151、161を制御する。
【0121】
第3のAMZ光分波部203のAMZ170の他方の出力ポートでは、第4のモニタ44側へ透過しなかった成分が第3のモニタ43によってモニタされ、モニタ結果が制御回路262に入力される。制御回路262は、第3のモニタ43のモニタ結果が減少するように、移相器171、181、191を制御する。
【0122】
制御回路251、および制御回路261、262により、上記のように移相器111~191を制御する。これにより、入射されたWDM信号に対する第1のAMZ光分波部201、第2のAMZ光分波部202、及び、第3のAMZ光分波部203の透過特性を、最適に設定することができる。
【0123】
第2の単位回路UC2は、ツリー状に接続された3つの非対称マッハツェンダ干渉計、即ち、第1のAMZ10A、第2のAMZ20A、及び、第3のAMZ30Aを有している。第1のAMZ10A、第2のAMZ20A、及び、第3のAMZ30Aには、それぞれ移相器11A、21A、31Aが設けられている。
【0124】
第2のAMZ20Aの一方の出力に、第1の出力光を検出するPD81が接続されている。PD81は光分波器100から波長λ1の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路52に入力する。第2のAMZ20Aの他方の出力にモニタ45が設けられ、モニタ結果は制御回路63に入力される。
【0125】
第3のAMZ30Aの一方の出力に、第2の出力光を検出するPD82が接続されている。PD82は光分波器100から波長λ3の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路52に入力する。第3のAMZ30Aの他方の出力にモニタ46が設けられ、モニタ結果は制御回路64に入力される。
【0126】
制御回路52は、PD81とPD82の出力パワーの和が増大する方向に移相器11Aを制御する。
【0127】
制御回路63は、モニタ45のモニタ結果が減少するように、移相器21Aを制御する。制御回路64は、モニタ46のモニタ結果が減少するように、移相器31Aを制御する。
【0128】
第3の単位回路UC3は、ツリー状に接続された3つの非対称マッハツェンダ干渉計、即ち、第1のAMZ10B、第2のAMZ20B、及び、第3のAMZ30Bを有している。第1のAMZ10B、第2のAMZ20B、及び、第3のAMZ30Bには、それぞれ移相器11B、21B、31Bが設けられている。
【0129】
第2のAMZ20Bの一方の出力に、第3の出力光を検出するPD83が接続されている。PD83は光分波器100から波長λ2の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路53に入力する。第2のAMZ20Bの他方の出力にモニタ47が設けられ、モニタ結果は制御回路65に入力される。
【0130】
第3のAMZ30Bの一方の出力に、第4の出力光を検出するPD84が接続されている。PD84は光分波器100から波長λ4の光を出力するとともに、この出力光のパワーモニタ結果を、制御回路53に入力する。第3のAMZ30Aの他方の出力にモニタ48が設けられ、モニタ結果は制御回路66に入力される。
【0131】
制御回路53は、PD83とPD84の出力パワーの和が増大する方向に移相器11Bを制御する。
【0132】
制御回路65は、モニタ47のモニタ結果が減少するように、移相器21Bを制御する。制御回路66は、モニタ48のモニタ結果が減少するように、移相器31Bを制御する。
【0133】
光分波器100の動作は以下のとおりである。波長λ1~波長λ4の波長を含むWDM信号が光分波器100に入力されると、第1の単位回路UC101で、第1の透過スペクトルと、第2の透過スペクトルに分離される。
【0134】
第1の透過スペクトルは、第1のAMZ光分波部201と第2のAMZ光分波部202の透過スペクトルの積で決まる。第1の透過スペクトルは、第2の単位回路UC2に入力される。第2の透過スペクトルは、第1のAMZ光分波部201と第3のAMZ光分波部203の透過スペクトルの積で決まる。第2の透過スペクトルは、第3の単位回路UC3に入力される。
【0135】
理想的には、第1の透過スペクトルに波長λ1と波長λ3のピーク波形が含まれ、第2の透過スペクトルに波長λ2と波長λ4のピーク波形が含まれる。
【0136】
本実施の形態においては、制御回路251によって、目的とする出力光スペクトルのパワーを増大する方向に移相器111、121、131が制御される。また、制御回路261と制御回路262によって、使用されないスペクトル成分を減少する方向に移相器141、151、161、171、181、191が制御される。従って、第1の単位回路UC101から出力される2つの透過スペクトルは、光損失、クロストーク等が抑制されている。
【0137】
第2の単位回路UC2で、入力された第1の透過スペクトルは、第1のAMZ10Aによって、さらに2つの透過スペクトルに分離される。
【0138】
分離された透過スペクトルの一方は第2のAMZ20Aを透過し、第2のAMZ20Aの一方の出力ポートに接続されたPD81で検出される。分離された他方の透過スペクトルは第3のAMZ30Aを透過して、第3のAMZ30Aの一方の出力ポートに接続されたPD82で検出される。
【0139】
制御回路52によって、PD81とPD82の出力パワーが増加する方向に制御され、制御回路63と制御回路64によって、出力に寄与しない光成分が低減される。この構成により、PD81から波長λ1の光信号が出力され、PD82から波長λ3の光信号が出力される。
【0140】
第3の単位回路UC3でも同様の動作が行われ、PD83から波長λ2の光信号が出力され、PD84から波長λ4の光信号が出力される。
【0141】
制御回路251でパワー増加の制御を行うことで、後段の単位回路UC2と単位回路UC3へと出力される透過スペクトルのパワーを最大化することができる。制御回路52と53でパワー増加の制御を行うことで、PD81~PD84から出力される各波長の光のパワーを最大化することができる。
【0142】
制御回路261、262、63~66で所定のモニタ出力を減少させる方向の制御を行うことで、光分波器100の出力に寄与しない光成分が最小化される。
【0143】
一定時間後に、各モニタ光パワーが安定すると、ヒータパワーの制御も安定する。
【0144】
本実施の形態においては、第1のAMZ光分波部201、第2のAMZ光分波部202及び第3のAMZ光分波部203には、複数のAMZが設けられており、そのうちの1つのAMZの透過スペクトルの周期は、他のAMZの透過スペクトルの周期の整数倍である。これにより、入射するWDM信号の波長のばらつきがある程度あっても、十分にクロストークを抑制することが可能となる。
【0145】
次に、本実施の形態における効果について説明する。
図9は、WDM信号光波長間隔(中心)が20nmであり、一様な波長偏差(最大波長偏差xに対して±xの範囲で等確率に波長がばらつく)を有する場合の計算結果である。横軸は最大波長偏差であり、縦軸はクロストークが3%を超える確率である。
図9には、
図7に示される光分波器92の特性と、
図8に示される本実施の形態における光分波器100の特性を示す。
【0146】
図9に示されるように、
図7に示される光分波器92では、最大波長偏差が3.5nmの場合では、クロストークが3%を超える確率は略0%であるが、最大波長偏差が5.0nmの場合では、クロストークが3%を超える確率は約2.5%となる。更に、最大波長偏差が6.5nmの場合では、クロストークが3%を超える確率は約11.8%となり、通信不能なレベルまで劣化する確率が大幅に増大する。
【0147】
これに対し、
図8に示される本実施の形態における光分波器100では、最大波長偏差が6.5nmの場合では、クロストークが3%を超える確率は略0%であり、クロストークを大幅に抑制することができる。
【0148】
図8に記載されている光分波器100は、最初にDWM信号が入射する入力AT段のAMZに導波路対を導波路長差(アーム長差)2ΔLのもの1対と、4ΔLのもの2対と、合計3対設けているが、3対に限定されるものではなく、これ以上あってもよい。また、3対の場合よりは若干効果は低下するが、2対であってもクロストークを低減する効果を得ることは可能である。また、AMZにおける導波路長差も最も短い導波路長差に対してその2倍程度に限定されるものでもない。また、本実施の形態における説明では、入力AT段のみAMZの導波路対を増やしている場合について説明したが、入力AT段以外のATに対して導波路対を増やすことにより、同様の効果が得られる場合がある。
【0149】
また、
図8に記載されている光分波器100は、単位回路を3つ用いて2段にカスケード接続し、4つの出力を得るものであるが、本実施の形態における光分波器は、更に段数を増やしたものであってもよい。例えば、
図8に記載されている光分波器100の単位回路UC2の2つの出力ポートと、単位回路UC3の2つの出力ポートに、別の単位回路を接続して3段にカスケード接続することにより、8つの出力を得るものであってもよい。
即ち、
図8に記載されている光分波器100は、2段のAT構造となっているが、2段に限定されるものではなく、2波長に分波する場合は1段、8波長に分波する場合は3段等、2
N波長に分波する場合はN段のAT構成となるように形成することが可能である。尚、波長間隔が等間隔でないWDM信号もあり得るため、この場合には、波長数と段数の関係は必ずしも上記の関係にならない場合がある。
【0150】
単位回路が多段に接続されており、m段目の単位回路のAMZのうち最もアーム長差の小さいAMZのアーム長差をΔLmとし、m-1段目の単位回路のAMZのうち最もアーム長差の小さいAMZのアーム長差をΔLm-1とすると、ΔLm=ΔLm-1/2となる。
【0151】
本実施の形態における光分波器100は、コアネットワーク、メトロネットワークのような長距離、中距離の光通信に用いることもできるし、データセンタのサーバ間、ボード間等の短距離の光通信にも適用可能である。
【0152】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態における光分波器300について説明する。
図10に示されるように、本実施の形態における光分波器100は、単位回路がツリー状に多段に接続されている。具体的には、第1の単位回路UC301の2つの出力ポートに、第2の単位回路UC2と、第3の単位回路UC3が、それぞれ接続されている。
【0153】
光分波器300は、第2の単位回路UC2の2つの出力ポートと、第3の単位回路UC3の2つの出力ポートの、合計4つの出力ポートを有し、波長λ1~波長λ4の4波長が多重されたWDM信号の各波長を分離することができる。尚、分離される波長の間隔はアーム長差で決まる。また、第2の単位回路UC2と第3の単位回路UC3の各AMZのアーム長差は、ΔLに設定されている。
【0154】
第1の単位回路UC301は、AMZ110とAMZ120とを有する第1のAMZ光分波部401、AMZ140とAMZ150とを有する第2のAMZ光分波部402、AMZ170とAMZ180とを有する第3のAMZ光分波部403を有している。
【0155】
第1のAMZ光分波部401の出力となるAMZ120の2つの出力ポートはそれぞれ、2×2カプラ132を介し、第2のAMZ光分波部402のAMZ140の入力と、第3のAMZ光分波部403のAMZ170の入力に接続されている。
【0156】
単位回路UC301は、第2のAMZ光分波部402のAMZ150の2つの出力ポートの一方に接続される第1のモニタ41と他方に設けられる第2のモニタ42を有している。第3のAMZ光分波部403のAMZ180の2つの出力ポートの一方に接続される第3のモニタ43と他方に設けられる第4のモニタ44を有している。
【0157】
第2のAMZ光分波部402のAMZ150の第2のモニタ42が設けられる側の出力ポートが、単位回路UC301の一方の出力ポートとなる。また、第3のAMZ光分波部403のAMZ180の第4のモニタ44が設けられる側の出力ポートが、単位回路UC301の他方の出力ポートとなる。
【0158】
第2のモニタ42と第4のモニタ44のモニタ結果は、制御回路251に入力される。第1のモニタ41のモニタ結果は、制御回路261に入力され、第3のモニタ43のモニタ結果は、制御回路262に入力される。
【0159】
制御回路251は、第2のモニタ42と第4のモニタ44のモニタ結果に基づいて、第1のAMZ光分波部401のAMZ110、AMZ120の透過特性を制御する。制御回路261は、第1のモニタ41のモニタ結果に基づいて、第2のAMZ光分波部402のAMZ140、AMZ150の透過特性を制御する。制御回路262は、第3のモニタ43のモニタ結果に基づいて、第3のAMZ光分波部403のAMZ170、AMZ180の透過特性を制御する。
【0160】
次に、本実施の形態における効果について説明する。
図11は、WDM信号光波長間隔(中心)が20nmであり、一様な波長偏差(最大波長偏差xに対して±xの範囲で等確率に波長がばらつく)を有する場合の計算結果である。横軸は最大波長偏差であり、縦軸はクロストークが3%を超える確率である。
図11には、
図7に示される光分波器92の特性、
図8に示される第1の実施の形態における光分波器100の特性、
図10に示される第2の実施の形態における光分波器300の特性を示す。
【0161】
図11に示されるように、
図10に示される光分波器300では、最大波長偏差が5.0nmの場合では、クロストークが3%を超える確率は略0%であるが、最大波長偏差が6.5nmの場合では、クロストークが3%を超える確率は約1.5%となる。従って、本実施の形態における光分波器300は、第1の実施の形態における光分波器100程ではないが、
図7に示される光分波器92に比べて、クロストークを低減する効果がある。
【0162】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0163】
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態または第2の実施の形態における光分波器の光分波制御方法である。
図12は、本実施の形態における光分波制御方法のフローチャートであり、一例として、第1の実施の形態における光分波器100の光分波制御方法について説明するが、第2の実施の形態における光分波器300についても適用可能である。
【0164】
本実施の形態の光分波方法は、多重される波長ごとに、パワー増加の方向とパワー減少の方向に移相器を制御した後で、全波長の制御を行う。これにより、波長とチャネルの対応関係を保証し、光損失やクロストークを抑制する。
【0165】
最初に、ステップ102(S102)において、波長λiにおけるiの値を0に初期設定する。
【0166】
次に、ステップ104(S104)において、iの値に1を加えて新たなiの値を設定する。これにより、波長λiが選択される。
【0167】
次に、ステップ106(S106)において、選択した波長λiを光分波器に入射して、入力ポートとこの波長λiの出力ポートの間に位置するAMZに設けられた移相器を調整する。移相器の調整は、単位回路の光出力用のポートでモニタされるパワーが増大する方向に第1段目の移相器を制御し、光出力に寄与しないポートでモニタされるパワーが減少する方向に2段目及び3段目の移相器を制御することにより行う。波長λiの制御に関与しない移相器の制御はなされず、他のチャネルでの出力信号はほぼ固定される。
【0168】
次に、ステップ108(S108)において、選択した波長λiについて、波長λiのチャネルで出力が安定化した否かを判断する。波長λiのチャネルで出力が安定化した場合には、ステップS110に移行する。波長λiのチャネルで出力が安定化していない場合には、ステップS106に移行し、移相器の調整を行う。
【0169】
次に、ステップ110(S110)において、他の波長があるか否かを判断する。他の波長がある場合はステップ104に移行し、他の波長がない場合はすべての波長について移相器の調整が終了したものと判断しステップ112に移行する。
【0170】
次に、ステップ112(S112)において、すべての波長の信号を一度に入射して、すべての波長の信号を入射した状態で全チャネルの出力が安定するまで、すべての移相器を調整する。
【0171】
次に、ステップ114(S114)において、全チャネルの出力が安定化した否かを判断する。全チャネルの出力が安定化した場合には終了し、全チャネルの出力が安定化していない場合には、ステップS112に移行し、移相器の調整を行う。
【0172】
尚、ステップ112及びステップ114は、WDM信号が実際に入力されたときに波長分離を確実にするための工程である。
【0173】
ステップ114で多重される全波長で出力パワーが安定したならば、実際の通信を開始する。
図12では、波長の低い方から順番に調整を行ったが、個別の波長で関連する光路上のAMZの透過特性が調整されればよいので、入力する波長の順序は問わない。
【0174】
本実施の形態の光分波方法について、より詳細に
図13~
図16に基づき説明する。
【0175】
最初に、
図13に示されるように、波長λ1の光を光分波器100に入射して、入力ポートから波長λ1の波長を受光するPD81(チャネル1)の調整を行う。具体的には、チャネル1の光路上に配置される第1のAMZ光分波部201、第2のAMZ光分波部202、第1のAMZ10A、及び、第2のAMZ20Aの移相器111、121、131、141、151、161、11A、21Aをそれぞれ調整する。
【0176】
第1のAMZ光分波部201に含まれる移相器111、121、131は、制御回路251により、第2のモニタ42と第4のモニタ44の出力パワーの和が増大する方向に制御される。
【0177】
第2のAMZ光分波部202に含まれる移相器141、151、161は、制御回路261により、第1のモニタ41の出力パワーが減少する方向に制御される。
【0178】
第1のAMZ10Aの移相器11Aは、制御回路52により、PD81の出力パワーとPD82の出力パワーの和が増大する方向に制御される。
【0179】
第2のAMZ20Aの移相器21Aは、制御回路63により、モニタ45の出力パワーが減少する方向に制御される。
【0180】
波長λ1の調整に用いられない第3のモニタ43、およびモニタ46~48に対応する移相器への入力値は固定され、制御回路52等を停止する。
【0181】
移相器111、121、131、141、151、161、11A、21Aを調整して、PD81からの出力パワーが安定したら、波長λ1の調整を終了し、次の波長の光を入射する。
【0182】
次に、
図14に示されるように、波長λ2の光を入射して、PD83(チャネル3)の調整を行う。具体的には、制御回路251でパワー増加の方向に第1のAMZ光分波部201に含まれる移相器111、121、131を制御する。制御回路262でパワー減少の方向に第3のAMZ光分波部203に含まれる移相器171、181、191を制御する。制御回路53でパワー増加の方向に第1のAMZ10Bの移相器11Bを制御する。制御回路65でパワー減少の方向に第2のAMZ20Bの移相器21Bを制御する。
【0183】
移相器111、121、131、171、181、191、11B、21Bを調整して、PD83からの出力パワーが安定したら、波長λ3の制御を終了し、次の波長の光を入射する。
【0184】
次に、
図15に示されるように、波長λ3の光を入射して、PD82(チャネル2)の調整を行う。具体的には、制御回路251でパワー増加の方向に第1のAMZ光分波部201に含まれる移相器111、121、131を制御する。制御回路261でパワー減少の方向に第2のAMZ光分波部202に含まれる移相器141、151、161を制御する。制御回路52でパワー増加の方向に第1のAMZ10Aの移相器11Aを制御する。制御回路64でパワー減少の方向に第3のAMZ30Aの移相器31Aを制御する。
【0185】
移相器111、121、131、141、151、161、11A、31Aを調整して、PD82からの出力パワーが安定したら、波長λ3の制御を終了し、次の波長の光を入射する。
【0186】
次に、
図16に示されるように、波長λ4の光を入射して、PD84(チャネル4)の調整を行う。具体的には、制御回路251でパワー増加の方向に第1のAMZ光分波部201に含まれる移相器111、121、131を制御する。制御回路262でパワー減少の方向に第3のAMZ光分波部203に含まれる移相器171、181、191を制御する。制御回路53でパワー増加の方向に第1のAMZ10Bの移相器11Bを制御する。制御回路66でパワー減少の方向に第3のAMZ30Bの移相器31Bを制御する。
【0187】
移相器111、121、131、171、181、191、11B、31Bを調整して、PD83からの出力パワーが安定したら、波長λ4の制御を終了する。
【0188】
図13~
図16の工程を行うことにより、WDMの波長と各出力ポートとが対応付けられる。
【0189】
図17は、波長λ1~λ4のすべての光を光分波器100に入射して、すべてのAMZに対して制御を行い、安定化した後に通信を開始する。
図17に示される全波長の光を入射し調整する制御は、光分波器を使用中も適宜実施される。
【0190】
〔第4の実施の形態〕
本実施の形態は、第1の実施の形態または第2の実施の形態における光分波器が用いられた光伝送装置500の概略図である。光伝送装置500は、たとえば、WDMシステムのネットワークノードとして用いられる。本実施の形態における説明では、第1の実施の形態における光分波器100を用いた場合について説明するが、第2の実施の形態における光分波器300についても適用可能である。
【0191】
図18に示されるように、本実施の形態における光伝送装置500は、複数のトランスポンダ530
1~530
n(適宜「トランスポンダ530」と総称する)と、制御部501と、光合分波器515と、光アンプ520を有する。制御部501は、プロセッサ502とメモリ503を有し、各トランスポンダ530、光合分波器515、および光アンプ520の動作を制御する。
【0192】
ルータ、光スイッチ等の転送ノード(以降、「ルータ」と総称する)からの信号は、各トランスポンダ530の送信部で光波長変換される。光波長変換された信号は、光合分波器515の合波器(「MUX」と表記)516で波長多重され、光アンプ521で増幅されてネットワーク側の伝送路に出力される。ネットワークから受信される光は、光アンプ522で増幅された後、第1の実施の形態の光分波器(「DEMUX」と表記)100で波長分離される。光分波器100で分波された各波長の光信号は各トランスポンダ530の受信部で受信され、その後、ルータ側に送信される。
【0193】
光分波器100において、各AMZの移相器を制御する制御回路251、52、53、及び、261、262、63~66は、プロセッサ502の一部により実現されてもよい。光分波器100は、上述したパワー増加の方向への制御と、パワー減少方向への制御により、適切に各波長の光を分離することができる。
【0194】
図18では、光伝送装置500ですべての波長がアド/ドロップされるが、光合波器516と光アンプ521の間、及び、光分波器100と光アンプ522の間に任意の波長をアド、ドロップまたはスルーさせる光スイッチを備えていてもよい。
【0195】
図19は、本実施の形態における光トランシーバモジュール600の概略図である。光トランシーバモジュール600も光伝送装置の一例であり、サーバ間、あるいはサーバブレードに搭載されたLSI間などの光伝送を行う。光トランシーバモジュール600は、光分波器(DEMUX)100、光検出器(PD)アレイ603、電気回路チップ605、レーザダイオード(LD)アレイ606、変調器アレイ607、光合波器(MUX)608、および制御回路チップ609を有する。光分波器100における制御回路251、52、53、及び、261、262、63~66は、制御回路チップ609の一部により実現されてもよい。
【0196】
入力光信号は、光分波器(DEMUX)100で各波長の光に分離されて、光検出器アレイ603の対応するPDで受光される。各PDから出力される光電流は、電気回路チップ605のトランスインピーダンスアンプ(TIA)で電気信号に変換されて、LSI等の外部の電子回路に出力される。
【0197】
LDアレイ606から出力される各波長の光は、変調器アレイ607の対応する光変調器に入力される。電気回路チップ605のドライバ(DRV)は、外部から入力されるデータ信号に基づいて高速駆動信号を生成して、変調器アレイ607の各光変調器に入力された光を変調して、光信号を出力する。光合波器(MUX)608は変調器アレイ607から出力される各波長の光信号を多重して、多重光信号を光ファイバ等の光配線に出力する。
【0198】
光トランシーバモジュール600において、光分波器(DEMUX)100は、各出力ポートで所望の波長の光が分離されるように制御されている。各チャネルで光損失、クロストーク等が抑制され、各波長の光を精度良く分離することができる。
【0199】
以上、実施の形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0200】
上記の説明に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
複数の波長を含む光を各波長の光に分離する光分波器であって、
N(Nは2以上)個の2×2カプラと、移相器が設けられているN-1個の非対称マッハツェンダ干渉計とを有し、前記2×2カプラ間の各々に、前記移相器が設けられている非対称マッハツェンダ干渉計が設けられている構造を非対称マッハツェンダ干渉計光分波部とし、
同一の構造を有する3つの前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部をツリー状に接続した構造を単位回路とし、
前記単位回路はツリー状に接続されており、
前記同一の構造を有する前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部は、前記移相器が設けられているN-1個の非対称マッハツェンダ干渉計における導波路対のアーム長差の組み合わせがすべて同じものであって、
前記単位回路のうちの少なくとも1つの単位回路における前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部におけるNは3以上であり、
前記単位回路の出力側の4つの導波路にモニタを備え、前記モニタにおいて得られたパワー値を引数とする関数の値を増加、または、減少させるように、前記単位回路における前記非対称マッハツェンダ干渉計光分波部に設けられた前記移相器が設けられている非対称マッハツェンダ干渉計の前記移相器を制御する制御回路を有することを特徴とする光分波器。
(付記2)
m段目の単位回路における非対称マッハツェンダ干渉計の最も小さいアーム長差ΔLmとし、m-1段目の単位回路における非対称マッハツェンダ干渉計の最も小さいアーム長差ΔLm-1とした場合、
ΔLm=ΔLm-1/2であることを特徴とする付記1に記載の光分波器。
(付記3)
前記移相器は、ヒータを含むものであることを特徴とする付記1または2に記載の光分波器。
(付記4)
前記制御回路は、前記モニタにおいて得られたパワー値が増加または減少する方向に前記移相器を変化させる際に、前記移相器における位相を微量増減させたときの前記モニタにおいて検出されるパワー値の増減を検出することにより、前記モニタにおいて検出されるパワー値が増加または減少する位相の変化方向を調べ、前記調べた変化方向に基づき前記移相器の位相を微量変化させることを繰り返すことを特徴とする付記1から3のいずれかに記載の光分波器。
(付記5)
付記1から4のいずれかに記載の光分波器を有し、波長多重通信に用いられる光伝送装置。
(付記6)
付記1から5のいずれかに記載の光分波器の入力ポートに、前記複数の波長のうちの1つの波長の光を入力し、前記入力ポートと、前記1つの波長の光が出力される出力ポートの間に位置する非対称マッハツェンダ干渉計の透過特性を調整し、
前記1つの波長の安定化の後に、前記入力ポートに入力される波長を順次切り替えて、前記透過特性の調整と前記安定化を繰り返し、
各波長における調整の終了後に、前記複数の波長のすべての波長を含む光を入射して前記光分波器のすべての非対称マッハツェンダ干渉計を一度に制御することを特徴とする光分波制御方法。
【符号の説明】
【0201】
10、10A、10B 第1の非対称マッハツェンダ干渉計(第1のAMZ)
20、20A、20B 第2の非対称マッハツェンダ干渉計(第2のAMZ)
30、30A、30B 第3の非対称マッハツェンダ干渉計(第3のAMZ)
11、21、31、11A、21A、31A、11B、21B、31B 移相器
41 第1のモニタ
42 第2のモニタ
43 第3のモニタ
44 第4のモニタ
45~48 モニタ
51~53 制御回路(増加制御)
61~66 制御回路(減少制御)
71、72、81~84 PD
100 光分波器
110、120、130、140、150、160、170、180、190 非対称マッハツェンダ干渉計(AMZ)
111、121、131、141、151、161、171、181、191 移相器
112、122、132、133、142、152、162、163、172、182、192、193 2×2カプラ
201 第1のAMZ(非対称マッハツェンダ干渉計)光分波部
202 第2のAMZ(非対称マッハツェンダ干渉計)光分波部
203 第3のAMZ(非対称マッハツェンダ干渉計)光分波部
251 制御回路(増加制御)
261、262 制御回路(減少制御)
UC、UC1~UC3 単位回路
UC101 単位回路