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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】車載モータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019148325
(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公開番号】P2021029094
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森田 卓磨
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-185040(JP,A)
【文献】国際公開第2015/034025(WO,A1)
【文献】特開2017-034785(JP,A)
【文献】特開平07-123531(JP,A)
【文献】特開2018-196166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を走行させるためのモータの出力トルクが車速及びアクセル操作量に基づき算出されたトルク指令値となるよう前記モータを制御する制御部を備えており、前記制御部は、車速が予め定められた上限値以上とならないよう前記トルク指令値を算出する車載モータの制御装置において、
前記制御部は、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速が前記上限値に達していないとき、同上限値に対する車速の乖離に基づいて前記トルク指令値を増量補正する一方、アクセル操作量が最大未満であるときには前記トルク指令値の増量補正をせず、前記トルク指令値の増量補正の開始後に前記アクセル操作量が最大であって車速が前記上限値に達していない間は前記トルク指令値の増量補正を継続するよう構成されていることを特徴とする車載モータの制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速が前記上限値に達していないとき、車速が低下中であることを条件に、前記トルク指令値の増量補正を開始する請求項1に記載の車載モータの制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記トルク指令値の増量補正の開始後、アクセル操作量が最大未満となったときに前記トルク指令値の増量補正を終了する請求項2に記載の車載モータの制御装置。
【請求項4】
前記上限値は、車両の平坦路走行を想定して定められた値であり、
車両の平坦路走行中に車速が前記上限値に到達したときの前記モータの出力トルクをTmax としたとすると、前記制御部は、前記トルク指令値の増量補正の開始後、車速が前記上限値以上となり、且つ、前記トルク指令値がTmax 以下になったときに前記トルク指令値の増量補正を終了する請求項2に記載の車載モータの制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、増量補正された前記トルク指令値を前記モータの出力可能な最大トルク以下に制限する請求項1~4のいずれか一項に記載の車載モータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータによって走行する車両には、モータの出力トルクが車速及びアクセル操作量に基づき算出されたトルク指令値となるよう、同モータを制御する制御装置が設けられている。なお、アクセル操作量は、車両の運転者によって調整されるものであり、運転者における高車速要求の大きさに応じて大きい値となる。
【0003】
また、上記車両においては、アクセル操作量の増大に伴って車速が過度に上昇することがないよう、車速をある程度の値に制限することが望まれている。こうした要求を実現するため、上述した車速及びアクセル操作量に基づくトルク指令値の算出を、車速が予め定められた上限値以上とならないように行うことが考えられる。なお、上記上限値としては、例えば車両の平坦路走行を想定して定められた値を用いることが考えられる。
【0004】
ところで、特許文献1には、車両の登坂路走行中などに現在の車速が運転者の高車速要求に足りていない場合、トルク指令値を増量補正することが記載されている。詳しくは、現在の車速がトルク指令値に基づき算出される車両の目標車速に達しない場合、目標車速に対する現在の車速の偏差に基づいてトルク指令値を増量補正する。そして、こうしたトルク指令値の増量補正を通じて車速が目標車速に向けて上昇されることにより、車両の登坂路走行中などにおける運転者の高車速要求が満たされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-197614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されるようにトルク指令値を増量補正した場合、例えば車両の平坦路走行中において、運転者による急なアクセル操作に伴いアクセル操作量が最大よりも小さい領域で急増したときにも、トルク指令値の上記増量補正を通じて車速が目標車速に向けて急速に上昇する。しかし、そうしたアクセル操作量の最大よりも小さい領域における車速の急速な上昇は、運転者にとって想定外に急速なものとなる可能性があり、車両の操作性を良好なものとするうえでの妨げになりかねない。
【0007】
本発明の目的は、運転者にとって想定外に急速な車速の上昇を招くことなく運転者の高車速要求を満たすことができる車載モータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車載モータの制御装置は、車両を走行させるためのモータの出力トルクが車速及びアクセル操作量に基づき算出されたトルク指令値となるようモータを制御する制御部を備えている。この制御部は、車速が予め定められた上限値以上とならないよう前記トルク指令値を算出する。また、上記制御部は、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速が上限値に達していないとき、同上限値に対する車速の乖離に基づいて上記トルク指令値を増量補正するよう構成されている。
【0009】
車両の登坂路走行では、運転者がアクセル操作量を最大としたときのトルク指令値に基づきモータの出力トルクを制御したとしても、車速が上限値に到達しない可能性がある。この場合、車両における現在の車速が運転者の高車速要求に足りていない状況となる。上記構成によれば、そうした状況のとき、車速の上限値に対する現在の車速の乖離に基づきトルク指令値が増量補正され、それに伴いモータの出力トルクが大きくされることによって車速が上限値に向けて上昇される。そして、車速が上限値まで上昇されることにより、車両の登坂路走行等でのアクセル操作量最大時における運転者の高車速要求が満たされるようになる。一方、アクセル操作量が最大よりも小さいときにはトルク指令値を増量補正しないことにより、アクセル操作量が最大よりも小さい領域での運転者による急なアクセル操作に伴いアクセル操作量が急増したとき、運転者の想定外の急速な車速の上昇が生じるということはなくなる。
【0010】
上記制御部は、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速が上限値に達していないとき、車速が低下中であることを条件に、トルク指令値の増量補正を開始するものとすることが考えられる。
【0011】
この構成によれば、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速が上限値に達していないとき、車速が低下中であれば、運転者の高車速要求が満たせないと判断できるため、そのようなタイミングで適切にトルク指令値の増量補正を開始し、運転者の高車速要求を速やかに満たすことができる。
【0012】
上記制御部は、トルク指令値の増量補正の開始後、アクセル操作量が最大未満となったときにトルク指令値の増量補正を終了するものとすることが考えられる。
この構成によれば、トルク指令値の増量補正の開始後、アクセル操作量が最大未満となった場合には、運転者の高車速要求がなくなったと判断できるため、そのようなタイミングで適切にトルク指令値の増量補正を終了することができる。その結果、トルク指令値の上記増量補正によるモータの出力トルクの増大の停止に遅れが生じて運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0013】
上記上限値は、車両の平坦路走行を想定して定められた値であり、且つ、車両の平坦路走行中に車速が上記上限値に到達したときのモータの出力トルクをTmax としたとすると、上記制御部を次のようなものとすることが考えられる。すなわち、上記制御部に関しては、トルク指令値の増量補正の開始後、車速が上記上限値以上になり、且つ、トルク指令値がTmax 以下になったときにトルク指令値の増量補正を終了するものとすることが考えられる。
【0014】
上記構成によれば、トルク指令値の増量補正の開始後、車速が上限値以上になり、且つ、トルク指令値がTmax 以下になった場合には、運転者の高車速要求は満たされたと判断できるため、そのようなタイミングで適切にトルク指令値の増量補正を終了することができる。その結果、必要以上にモータの出力トルクの増量が続けられることを抑制できる。
【0015】
上記制御部は、増量補正されたトルク指令値をモータの出力可能な最大トルク以下に制限するものとすることが考えられる。
この構成によれば、増量補正されたトルク指令値がモータの出力可能な最大トルク以下に制限されるため、そのトルク指令値に基づきモータの出力トルクを制御したとき、同モータに過剰な負担がかかることを抑制できるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転者にとって想定外に急速な車速の上昇を招くことなく運転者の高車速要求を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車載モータの制御装置の電気的構成を示すブロック図。
図2】車速及びアクセル操作量に基づきトルク指令値を算出する際に参照されるマップ。
図3図2のマップにおける高車速側の領域を示す拡大図。
図4】コンピュータを通じて実行されるモータ制御ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、車載モータの制御装置の一実施形態について、図1図4を参照して説明する。
図1は、車載モータの制御装置の電気的構成を示している。同装置は、モータ1によって走行する車両に搭載されるものであって、同モータ1を制御する制御部としての役割を担うコンピュータ2と、車両の運転者によって調整されるアクセル操作量を検出するためのアクセルポジションセンサ3と、車速を検出するための車速センサ4と、を備えている。なお、上記アクセル操作量は運転者の高車速要求の大きさを表す値であり、アクセル操作量が大きくなるほど運転者の高車速要求が大きいこと、すなわち運転者における車速の増速要求が大きいことを意味している。
【0019】
コンピュータ2は、アクセルポジションセンサ3及び車速センサ4からの検出信号を入力し、それらの検出信号に基づいて求められる車速V及びアクセル操作量に基づきモータ1の出力トルクを制御する。こうしたコンピュータ2によるモータ1の制御態様としてはA制御とB制御との二種類があり、コンピュータ2はA制御とB制御との二種類の制御態様を状況に応じて切り換えるようにしている。以下、モータ1の二種類の制御態様であるA制御とB制御とを個別に詳しく説明する。
【0020】
[A制御]
この制御態様では、コンピュータ2は、車速V及びアクセル操作量に基づきマップを参照して、モータ1の制御に用いられるトルク指令値Tを算出する。そして、コンピュータ2は、モータ1の出力トルクが上記算出されたトルク指令値Tと等しくなるよう、同モータ1を制御する。なお、コンピュータ2は、アクセル操作量の増大に伴って車速Vが過度に上昇することがないよう、上述した車速V及びアクセル操作量に基づくトルク指令値Tの算出を、車速Vが予め定められた上限値Vmax 以上とならないように行う。
【0021】
図2は、車速V及びアクセル操作量に基づきトルク指令値Tを算出する際に参照されるマップを示している。アクセル操作量が最大であるときには、トルク指令値Tが車速Vの変化に対し図2の実線L1で示されるように算出される。図2から、車速Vを一定とした条件下では、アクセル操作量が小さくなるほど、トルク指令値Tが小さくなるという傾向を有していることが分かる。また、車速VがP1に対応する値よりも高い領域では、アクセル操作量の最大及びその付近において、トルク指令値Tが実線L1におけるP1よりも高車速側の部分で示される値となるように算出される。
【0022】
ちなみに、図2の実線L1におけるP1よりも低車速側の部分、及び、図2の二点鎖線L2におけるP1よりも高車速側の部分は、車速Vの変化に対するモータ1の出力可能な最大トルクの変化に対応している。従って、図2のマップを参照して算出されるトルク指令値Tは、P1よりも高車速側であって且つアクセル操作量の大きい領域では、モータ1の出力可能な最大トルクに対し制限を加えた値となることが分かる。これは、アクセル操作量の増大に伴って車速Vが上限値Vmax 以上となることがないよう、車速V及びアクセル操作量に基づき上記トルク指令値Tを算出するためである。
【0023】
図2の実線L1におけるP1よりも高車速側の部分は、次のように設定される。すなわち、車両の平坦路走行時における走行抵抗、すなわちモータ1の出力トルクと逆方向に作用するトルクが、車速Vの変化に対し図2に破線L3で示すように変化したとすると、その破線L3と上限値Vmax を示す一点鎖線L4との交点(Tmax )がP1と直線的に結ばれることにより、実線L1におけるP1よりも高車速側の部分が定められる。従って、車両の平坦路走行時、アクセル操作量が最大となり、且つ、車速Vが上限値Vmax となったときに算出されるトルク指令値TはTmax と等しくなり、そのトルク指令値T(=Tmax)に基づき制御されるモータ1の出力トルクもTmax となる。
【0024】
ところで、車両の平坦路走行であれば、アクセル操作量が最大となったときにトルク指令値Tが図2の実線L1上の値とされることにより、車速Vが上限値Vmax まで上昇するとともにモータ1の出力トルクがTmaxになるものの、車両が登坂路を走行する場合には車速Vが上限値Vmax に到達しないおそれがある。これは、登坂路を走行する車両の走行抵抗、すなわちモータ1の出力トルクと逆方向に作用するトルクが、図2に二点鎖線L5で示すように平坦路走行中の同トルク(破線L2)と比べて増大側に変化するためである。
【0025】
図3は、図2のマップにおける高車速側の領域を拡大して示している。例えば平坦路において車速Vを上限値Vmax に維持している車両が登坂路にさしかかると、車両の走行抵抗が破線L3に示す状態から、例えば上述したように二点鎖線L5に示す状態に変化する。運転者は登坂のためにアクセル操作量を最大とするものの、そのときのトルク指令値Tが実線L1のP1よりも高車速側の部分で示されるように制限されるため、トルク指令値Tに基づき制御されるモータ1の出力トルクでは車速Vを上昇させることができなくなる。その結果、運転者がアクセル操作量を最大としているにもかかわらず、車速VがP3に対応する値、更にはP4に対応する値へと低下してゆき、現在の車速Vが運転者の高車速要求に対し足りなくなって、その高車速要求を満たすことができなくなるという問題が生じる。
【0026】
[B制御]
この制御態様は、モータ1の制御態様をA制御としたときに生じる上記問題に対処するためのものであり、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速Vが上限値Vmax に達していないときに行われる。より詳しくは、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速Vが上限値Vmax に達していないとき、車速Vが低下中であることを条件にB制御が開始される、すなわちモータ1の制御態様がA制御からB制御に切り換えられる。
【0027】
このB制御では、コンピュータ2は、車速Vを上限値Vmax とするためのPI制御を通じてモータ1の制御を行う。詳しくは、コンピュータ2は、図2のマップを参照して算出したトルク指令値Tを、上限値Vmax に対する車速Vの乖離に基づいて増量補正する。こうしたトルク指令値Tの増量補正は、上記乖離に基づいて算出される補正値Hをトルク指令値Tに対し加算することによって実現される。そして、コンピュータ2は、モータ1の出力トルクが上記増量補正後のトルク指令値Tと等しくなるよう同モータ1を制御する。上記補正値Hは、上限値Vmax と車速Vとの偏差をなくすよう同偏差に基づき増減する比例項、及び、その比例項の増減だけでは打ち消すことができない上限値Vmax と車速Vとの残留偏差をなくすように上限値Vmax と車速Vとの偏差を積算して求められる積分項を用いて算出される。
【0028】
また、上記補正値Hを用いた増量補正後のトルク指令値Tは、モータ1の出力可能な最大トルクを越えて大きくならないようガードされる。すなわち、図2の二点鎖線L2におけるP1よりも高車速側の部分で示される値によって、上記増量補正後のトルク指令値Tが上限ガードされる。従って、上記増量補正後のトルク指令値Tは、その増量補正前のトルク指令値T以上であり、且つ、モータ1の出力可能な最大トルク以下となるようにされる。
【0029】
車両の登坂路走行中、運転者がアクセル操作量を最大としているにもかかわらず、車速Vが上限値Vmax から例えば図3のP4に対応する値へと低下したとすると、上述したPI制御を通じてトルク指令値Tが例えばP5に示すように増量補正される。このように増量補正されたトルク指令値Tに基づきモータ1が制御されることにより、同モータ1の出力トルクが大きくなって車速Vが上限値Vmax (P6に対応する値)まで上昇する。その結果、車両の登坂路走行中において、アクセル操作量を最大としている運転者の高車速要求が満たされるようになる。
【0030】
そして、上述したように車速Vが上限値Vmax に到達すると、上限値Vmax に対する車速Vの乖離が「0」となって補正値Hも「0」となるため、その補正値Hによるトルク指令値Tの増量補正が行われなくなる。また、登坂路走行中の車両が降板路にさしかかった場合などには、車速Vが上限値Vmax を越えて大きくなることに基づき、補正値Hが負の値となってトルク指令値Tが減量補正されることもある。これらの結果、車速Vが上限値Vmax 以上で、且つ、トルク指令値が図3のTmax 以下になると、それらのことに基づいてモータ1の制御態様がB制御からA制御に切り換えられる。また、B制御の実行中、アクセル操作量が最大よりも小さくされたときにも、モータ1の制御態様がB制御からA制御に切り換えられる。
【0031】
次に、上述したA制御とB制御との二種類の制御態様の間でのモータ1の制御態様の切り換えについて詳しく説明する。
図4は、モータ1の上記制御態様の切り換えを行うためにコンピュータ2を通じて実行されるモータ制御ルーチンを示すフローチャートである。このモータ制御ルーチンは、所定時間毎(例えば16ms毎)の時間割り込みで定期的に実行される。
【0032】
コンピュータ2は、モータ制御ルーチンにおけるステップ101(S101)の処理として、車両の運転者によって調整されるアクセル操作量が最大であるか否かが判断される。S101でアクセル操作量が最大ではないと判断された場合、コンピュータ2は、S105の処理としてA制御によるモータ1の制御を実行し、その後にモータ制御ルーチンを一旦終了する。一方、S101でアクセル操作量が最大であると判断された場合には、S102に進む。
【0033】
コンピュータ2は、S102の処理として、モータ1の制御としてA制御が実行中であるか否か、すなわち前回のモータ制御ルーチンの実行時(この例では16ms前)にA制御が実行されていたか否かが判断される。S102でA制御の実行中であると判断されると、S103に進む。S103及びS104の処理は、B制御を開始するか否かを判断するためのもの、言い換えればモータ1の制御態様をA制御からB制御に切り換えるか否かを判断するためのものである。
【0034】
コンピュータ2は、S103の処理として車速Vが上限値Vmax 未満であるか否かを判断し、S104の処理として車速Vが低下中であるか否かを判断する。ちなみに、車速Vが低下中であるとの判断、前回のモータ制御ルーチンの実行時(16ms前)の車速Vに対し現在の車速Vが低下していることに基づいてなされる。ステップS103とS104との一方で否定判断がなされた場合には、S105に進むことによってA制御が続けられる。
【0035】
一方、ステップS103とS104との両方で肯定判断がなされた場合には、S106に進む。コンピュータ2は、S106の処理としてB制御によるモータ1の制御を実行し、その後にモータ制御ルーチンを一旦終了する。このようにB制御が実行されることにより、モータ1の制御態様がA制御からB制御に切り換えられ、B制御によるモータ1の制御が開始される。
【0036】
モータ制御ルーチンの上記S102でA制御の実行中でないと判断された場合、すなわちB制御の実行中である場合には、S107に進む。S107及びS108の処理は、モータ1の制御態様をB制御からA制御に切り換えるか否かを判断するためのものである。
【0037】
コンピュータ2は、S107の処理として、車速Vが上限値Vmax 未満であるか否かを判断する。B制御の実行後に車速Vが上限値Vmax に到達するまでの間は、S107で車速Vが上限値Vmax 未満であると判断される。この場合には、S106に進んでB制御が続けられる。一方、B制御の実行後に車速Vが上限値Vmax に到達すると、S107で車速Vが上限値Vmax 未満ではないと判断され、S108に進む。
【0038】
コンピュータ2は、S108の処理として、B制御を実行中であるときのトルク指令値T、すなわちB制御による補正後のトルク指令値TがTmax 以下であるか否かを判断する。S108でトルク指令値TがTmax 以下ではないと判断された場合には、S106に進んでB制御が続けられる。一方、S108でトルク指令値TがTmax 以下であると判断された場合には、S105に進んでA制御が実行される。このようにA制御が実行されることにより、モータ1の制御態様がB制御からA制御に切り換えられ、B制御によるモータ1の制御が終了される。
【0039】
次に、本実施形態における車載モータの制御装置の動作について説明する。
A制御によって平坦路を走行している車両が傾斜の大きい登坂路にさしかかった場合、運転者は車速Vを維持しようとしてアクセル操作量を最大とする。ただし、A制御においては、トルク指令値Tが図3における実線L1のP1よりも高車速側の部分で示されるように制限されるため、運転者がアクセル操作量を最大としているにもかかわらず、車速Vを維持できずに同車速Vが上限値Vmax から低下側に離れてゆく。その結果、現在の車速Vが運転者の高車速要求に対し足りなくなって、その高車速要求を満たすことができなくなる。
【0040】
こうしたことに対処するため、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速Vが上限値Vmax に達していないときには、車速Vが低下中であることを条件に、モータ1の制御態様がA制御からB制御に切り換えられる。このようにB制御が開始されると、トルク指令値Tが上限値Vmax に対する車速Vの乖離に基づいて増量補正され、それに伴いモータ1の出力トルクが大きくされることによって車速Vが上限値Vmax に向けて上昇される。そして、車速Vが上限値Vmax まで上昇されることにより、車両の登坂路走行でのアクセル操作量最大時における運転者の高車速要求が満たされる。
【0041】
ここで、上述したB制御は、アクセル操作量が最大であるときに行われる。仮に、アクセル操作量が最大でないとき、すなわちアクセル操作量が最大よりも小さいとき、アクセル操作量から定められる目標速度に現在の車速Vを近づけるべく、両者の乖離に基づくトルク指令値Tの増量補正が行われたとすると、次のような状況が生じるおそれがある。すなわち、例えば車両の平坦路走行中において、運転者による急なアクセル操作に伴いアクセル操作量が最大よりも小さい領域で急増したとき、トルク指令値Tの上記増量補正を通じて車速Vが目標車速に向けて急速に上昇する。しかし、そうしたアクセル操作量の最大よりも小さい領域における車速Vの急速な上昇は、運転者にとって想定外に急速なものとなる可能性があり、車両の操作性を良好なものとするうえでの妨げになりかねない。
【0042】
この点、本実施形態の車載モータの制御装置では、上述したB制御をアクセル操作量が最大のときに行い、アクセル操作量が最大よりも小さいときには上記B制御を行わないようにしている。このため、アクセル操作量が最大よりも小さいときには、上記B制御によるトルク指令値Tの増量補正が行われないため、アクセル操作量が最大よりも小さい領域での運転者による急なアクセル操作に伴いアクセル操作量が急増したとき、運転者の想定外の急速な車速Vの上昇が生じるということはなくなる。
【0043】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)運転者にとって想定外に急速な車速Vの上昇を招くことなく運転者の高車速要求を満たすことができる。
【0044】
(2)B制御は、アクセル操作量が最大であり、且つ、車速Vが上限値Vmax に達していないとき、車速Vが低下中であることを条件に開始される。アクセル操作量が最大であり、且つ、車速Vが上限値に達していないとき、車速Vが低下中であれば、運転者の高車速要求が満たせないと判断できるため、そのようなタイミングでB制御を開始することにより、同B制御によるトルク指令値Tの増量補正を適切なタイミングで開始し、運転者の高車速要求を速やかに満たすことができる。
【0045】
(3)B制御は、アクセル操作量が最大未満となったときに終了される。アクセル操作量が最大未満となった場合には、運転者の高車速要求がなくなったと判断できるため、そのようなタイミングで適切にB制御によるトルク指令値Tの増量補正を終了し、その増量補正によるモータ1の出力トルクの増大の停止に遅れが生じて運転者が違和感を覚えることを抑制できるようになる。
【0046】
(4)B制御は、車速Vが上限値Vmax 以上となり、且つ、トルク指令値TがTmax 以下になったときにも終了される。車速Vが上限値Vmax 以上となり、且つ、トルク指令値TがTmax 以下になった場合には、運転者の高車速要求は満たされたと判断できるため、そのようなタイミングで適切にB制御によるトルク指令値Tの増量補正を終了することができる。従って、トルク指令値Tの上記増量補正によるモータ1の出力トルクの増大が、必要以上に続けられることを抑制できるようになる。
【0047】
(5)B制御においては、増量補正されたトルク指令値Tがモータ1の出力可能な最大トルク以下に制限されるため、そのトルク指令値Tに基づきモータ1の出力トルクを制御したとき、同モータ1に過剰な負担がかかることを抑制できる。
【0048】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・B制御では、車速Vを上限値Vmax とするためのモータ1の制御としてPI制御を行うようにしたが、これに代えてPID制御を行うようにしてもよい。この場合、B制御におけるトルク指令値Tの増量補正に用いられる補正値Hが、比例項及び積分項だけでなく、現在の車速Vを速やかに上限値Vmax に収束させるべく算出される微分項も用いて算出される。
【0049】
・B制御において、車速Vを上限値Vmax とするためのモータ1の制御としてP制御やPD制御を用いてもよい。なお、P制御では上記補正値Hが比例項のみを用いて算出され、PD制御では上記補正値Hが比例項及び微分項を用いて算出される。
【符号の説明】
【0050】
1…モータ、2…コンピュータ、3…アクセルポジションセンサ、4…車速センサ。
図1
図2
図3
図4