(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20230516BHJP
H01M 8/04119 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/04291 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/04828 20160101ALI20230516BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/04 N
H01M8/04119
H01M8/04291
H01M8/04828
(21)【出願番号】P 2019175015
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】梶尾 克宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 聡宏
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-164728(JP,A)
【文献】特開2012-164457(JP,A)
【文献】特開2005-294116(JP,A)
【文献】特表2015-516108(JP,A)
【文献】特開2011-065753(JP,A)
【文献】特開2001-313054(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0037250(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガスとカソードガスとが供給されることにより発電する発電部と、
前記発電部に前記アノードガスを供給するアノードガス供給路と、
前記発電部からアノードオフガスを排出するアノードオフガス排出路と、
前記発電部に前記カソードガスとして空気を供給するカソードガス供給路と、
前記発電部からカソードオフガスを排出するカソードオフガス排出路と、
前記カソードガス供給路に対し空気を加圧して供給する圧送装置と、
前記圧送装置より下流側にあって、前記カソードガス供給路に流れる空気に対し前記カソードオフガス排出路を流れるガスに含まれる水分を与える加湿部と、
前記発電部の発電時に化学反応により生成される水を回収する水回収部と、
前記カソードガス供給路のうち前記圧送装置より下流且つ前記加湿部より上流側となる水噴霧領域に対し、前記水回収部の水を噴霧する噴霧装置と、を備えている燃料電池システム。
【請求項2】
前記噴霧装置が、前記水噴霧領域のうち前記圧送装置に近接する位置に水を噴霧する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記カソードガス供給路の前記水噴霧領域の一部には、供給路断面積を小さくした狭窄部が形成されており、前記噴霧装置は、前記狭窄部に水を送り出すノズル部を有する請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記水回収部の水を貯留するリザーブタンクを前記水噴霧領域より重力方向の上方に配置し、前記噴霧装置が、前記リザーブタンクに貯留された水を前記水噴霧領域に送り出す吐出部を有する請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記噴霧装置が、前記水回収部の水を加圧して送り出す加圧ポンプと、前記加圧ポンプで加圧された水を前記水噴霧領域に噴霧する噴霧ノズルとを有する請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記水回収部が、前記アノードオフガス排出路に送られるアノードオフガスに含まれる水を分離回収する気液分離器で構成されている請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノードガスとカソードガスとが供給される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成の燃料電池システムとして特許文献1には、発電部(文献では燃料電池)に対し空気通路により空気を供給し、発電部に対し水素経路により水素を供給することにより発電部で発電を行わせる構成を有すると共に、発電時に発生する熱の放熱を行うために熱媒体を発電部に供給してこの熱媒体の熱を熱交換により放熱するラジエータを有する構成が記載されている。
【0003】
この特許文献1の燃料電池システムでは、空気通路のうち発電部より下流側に気液分離器を配置しており、この気液分離器で回収された水をラジエータに散布するためのウォータポンプや散布用弁等を備え、散布された水の蒸発潜熱によりラジエータの放熱能力を高める構成を有している。
【0004】
特許文献2には、空気供給路と空気排出路とに亘る位置に加湿器を備え、空気供給路のうち加湿器と発電部との間に圧縮機を備え、空気排出路のうち空気排出方向で加湿器より下流側に水回収装置と貯水タンクとを備え、圧縮機から送り出される空気に対し貯水タンクの水を霧状にして噴射(以下、噴霧と記載)する水噴射弁を備えた燃料電池システムが記載されている。
【0005】
この特許文献2は、圧縮部での圧縮により温度が上昇した空気に水を噴霧することで発電部に供給される空気の温度を低下させるものであり、結果として発電部を適正な温度と湿度に維持して発電効率を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-313054号公報
【文献】特開2006-164728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、特許文献2に示される燃料電池は、複数のセルを積層することで出力電圧を高めたFCスタックとして構成されている(特許文献2では燃料電池スタックと記載)。FCスタックとして燃料電池が構成されたものでは、複数のセルに対して空気を供給するため特許文献2に記載される圧縮機等が用いられる。
【0008】
しかしながら、圧縮機等で圧縮された空気は温度が上昇するため、特許文献2では圧縮機の部位に水を噴霧することにより、水の気化熱を利用して空気を冷却し、燃料電池を発電に適した温度に管理している。特許文献2では、水を噴霧することにより空気の加湿を実現する点も記載されている。
【0009】
このように、FCスタックに供給される空気に水を噴霧する構成は、水の気化熱を利用して空気の温度を低下させ、燃料電池の温度を発電に適した温度に管理する点で有効である。
【0010】
しかしながら、FCスタックに供給される空気に加湿器と発電部との間で水を噴霧する構成では、噴霧した水の一部が気化しなかった場合に、水がミストの状態でFCスタックの内部に浸入して液滴化してしまうと、FCスタックの内部で水が液滴化した場合には、液滴化した水がガスの流れを妨げたり、電極とセルの一部等の間での電気的な短絡や発電性能の低下を招くおそれがある。
【0011】
このような理由から、発電部に供給される空気に水を噴霧して空気の温度を下げつつ、空気の加湿を行うことで発電部での発電性能を高く維持する燃料電池システムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る燃料電池システムの特徴構成は、アノードガスとカソードガスとが供給されることにより発電する発電部と、前記発電部に前記アノードガスを供給するアノードガス供給路と、前記発電部からアノードオフガスを排出するアノードオフガス排出路と、前記発電部に前記カソードガスとして空気を供給するカソードガス供給路と、前記発電部からカソードオフガスを排出するカソードオフガス排出路と、前記カソードガス供給路に対し空気を加圧して供給する圧送装置と、前記圧送装置より下流側にあって、前記カソードガス供給路に流れる空気に対し前記カソードオフガス排出路を流れるガスに含まれる水分を与える加湿部と、前記発電部の発電時に化学反応により生成される水を回収する水回収部と、前記カソードガス供給路のうち前記圧送装置より下流側且つ前記加湿部より上流側となる水噴霧領域に対し、前記水回収部の水を噴霧する噴霧装置と、を備えている点にある。
【0013】
この特徴構成によると、圧送装置からカソードガス供給路に空気が圧送された場合には、空気に含まれる酸素が発電部での発電に用いられ、未反応の酸素と窒素ガスと水の蒸気等とを含むガスがカソードオフガス排出路で排出される。加湿器ではカソードオフガス排出路に流れるガスに含まれる水分を取り込んでカソードガス供給路に流れる空気に与えることにより空気を加湿する。更に、発電部で生成される水が水回収部に回収され、カソードガス供給路のうち圧送装置より下流で、加湿器より上流の水噴霧領域において噴霧装置で噴霧されることにより、圧送装置で圧縮されて高温になった空気を効果的に冷却し、空気の加湿も行う。
【0014】
この特徴構成では、水噴霧領域が圧送装置と加湿器との間にあるため、水噴霧領域で噴霧された水のうち気化しなかったミスト状のものが空気に含まれていても、加湿器の内部で液滴化することにより、水がミストの状態で発電部の内部に供給されることはなく、発電部の内部で液滴化することはない。
従って、発電部に供給される空気に水を噴霧して空気の温度を下げつつ、空気の加湿を行うことで発電部での発電性能を高く維持する燃料電池システムが構成された。
【0015】
上記構成に加えた構成として、前記噴霧装置が、前記水噴霧領域のうち前記圧送装置に近接する位置に水を噴霧しても良い。
【0016】
圧送装置で空気が圧縮されることで熱が発生して空気の温度が上昇するため、圧送装置から送り出された直後の空気が最も高温状態にある。このため水噴霧領域のうち圧縮装置の近傍に水を噴霧することにより効率良く空気を冷却できる。
【0017】
上記構成に加えた構成として、前記カソードガス供給路の前記水噴霧領域の一部には、供給路断面積を小さくした狭窄部が形成されており、前記噴霧装置は、前記狭窄部に水を送り出すノズル部を有しても良い。
【0018】
これによると、圧送装置から送り出される空気が水噴霧領域の狭窄部を流れる際に、狭窄部の圧力が低下するため、負圧によりノズル部の先端から空気中に水を噴霧できる。この構成では、ノズル部に水を供給するポンプ類が不要であり、水噴霧領域に流れる空気量の増減に対応して水の量が増減することから、水の供給量を調整するための制御も容易となる。
【0019】
上記構成に加えた構成として、前記水回収部の水を貯留するリザーブタンクを前記水噴霧領域より重力方向の上方に配置し、前記噴霧装置が、前記リザーブタンクに貯留された水を前記水噴霧領域に送り出す吐出部を有しても良い。
【0020】
これによると、リザーブタンクに貯留した水を、吐出部から水噴霧領域に対して水の自重を利用して噴霧できる。この構成では、水を自重によって吐出部に供給する構成であるため、水を供給するポンプ類が不要となる。
【0021】
上記構成に加えた構成として、前記噴霧装置が、前記水回収部の水を加圧して送り出す加圧ポンプと、前記加圧ポンプで加圧された水を前記水噴霧領域に噴霧する噴霧ノズルとを有しても良い。
【0022】
これによると、水回収部の水を加圧ポンプから噴霧ノズルに送り、この噴霧ノズルから水噴霧領域に噴霧できる。この構成では、加圧ポンプを制御することにより水の吐出量の制御が容易であるため、例えば、空気を加圧して供給する圧送装置と、加圧ポンプとを連動させることにより、水噴霧領域に供給される空気量と、噴霧ノズルから送り出される空気量とを比例させる制御も容易に行える。
【0023】
上記構成のいずれかに加えた構成として、前記水回収部が、前記アノードオフガス排出路に送られるアノードオフガスに含まれる水を分離回収する気液分離器で構成されても良い。
【0024】
これによると、アノードオフガスに含まれる水を気液分離器で分離回収し、回収した水を水噴霧領域の空気に噴霧できるので、通常外部に排出される水を有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】燃料電池システムの構成を示す全体図である。
【
図4】別実施形態(a)の加湿流路と噴霧装置との構成を示す図である。
【
図5】別実施形態(b)の燃料電池システムの構成を示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、FCスタック1(発電部の一例)と、水素ガスを貯留するタンクTと、アノードガス供給路2と、開閉弁3と、アノードオフガス排出路4と、気液分離器5(水回収部の一例)と、エアコンプレッサ6(圧送装置の一例)と、カソードガス供給路7と、カソードオフガス排出路8と、加湿器9(加湿部の一例)と、インタークーラ10と、ラジエータ12と、冷却加湿ユニットHと、を備えて燃料電池システムAが構成されている。
【0027】
図1に示す燃料電池システムAはFCV(燃料電池自動車)に備えられるものである。この燃料電池システムは、FCスタック1が複数のセルを積層した構造を有している。このFCスタック1に対し、タンクTに貯留された水素ガス(燃料ガス)を、アノードガス供給路2を介して供給し、エアコンプレッサ6で加圧された空気(酸化剤)を、カソードガス供給路7を介して供給することによりFCスタック1で発電が行われる。
【0028】
このように発電が行われる際には、開閉弁3により水素ガスの供給量を制御し、エアコンプレッサ6により空気の供給量を制御することで発電量が決まる。また、気液分離器5はFCスタック1での発電時に化学反応によって生成される水を分離回収して内部に貯留する機能を有する。
【0029】
この燃料電池システムAでは、FCスタック1のハウジングが冷却水を流す冷却流路(図示せず)を有し、この冷却流路の冷却水を冷却水路11からラジエータ12に供給することでFCスタック1の放熱を可能にしている。冷却水路11には、冷却水を循環させる電動型のウォータポンプ11Pを備え、ラジエータ12には電動型のラジエータファン12Fを備えている。
【0030】
冷却加湿ユニットHは、アノードオフガスから気液分離器5で分離回収した水を、噴霧装置Mでカソードガス供給路7の空気に噴霧することでFCスタック1の温度上昇を抑制する。この冷却加湿ユニットHの構成は後述する。
【0031】
〔アノードガスとカソードガスとの給排〕
この燃料電池システムAで発電する場合には、開閉弁3の開放作動によりタンクTに貯留された水素ガスがアノードガス供給路2を介してFCスタック1に供給される。これと同時に、エアコンプレッサ6の駆動により、カソードガス供給路7を介して空気がFCスタック1に供給される。
【0032】
開閉弁3は、電磁ソレノイドの駆動により開閉する弁体を備えており、電磁ソレノイドを駆動する電流値の設定により弁開度が任意に設定される。エアコンプレッサ6は、電動モータで駆動される構造を有し、この電動モータを制御することにより圧送する空気量が任意に設定される。
【0033】
また、発電に伴い、FCスタック1からアノードオフガス排出路4にアノードオフガスが排出される。アノードオフガスには未反応の水素ガスと、水蒸気やミストの状態にある水とが含まれる。アノードオフガスに含まれる水は、気液分離器5で分離回収され、水が除去されたアノードオフガス(未反応の水素を含むガス)は、気液分離器5から還元路13を介してアノードガス供給路2に供給される。
【0034】
気液分離器5は、ケースの内部でアノードオフガスを旋回させ、サイクロン効果によってガスと水とを分離する構成や、ケースの内部に配置した衝突壁にアノードオフガスを衝突させて水を下方に落下させることでガスと水とを分離する構成のもの等が用いられる。この気液分離器5では、水が分離されたガスを上部から還元路13に送り出し、回収された水はケースの底部に貯留される。
【0035】
三方弁14は、気液分離器5の底部に貯留された水の排出を阻止する貯留ポジションと、加湿流路15に送り出す加湿ポジションと、排出流路16に送り出す排出ポジションとの3ポジションを選択できるように構成されている。三方弁14は、流路を切り換える弁体と、この弁体を制御する電動アクチュエータとを備えている。
【0036】
三方弁14を貯留ポジションに設定することで気液分離器5の底部に水が貯留される。三方弁14を加湿ポジションに設定することで気液分離器5の水が加湿流路15から冷却加湿ユニットHに供給される。三方弁14を排出ポジションに設定することで、気液分離器5の水が排出流路16に送られ、カソードオフガス排出路8で排出されるカソードオフガスと合流してカソードオフガスとともに外部(車外)に排出される。
【0037】
エアコンプレッサ6は、カソードガス供給路7のうち最上流位置に配置され、外部の空気を吸入した空気を圧縮してカソードガス供給路7に送り出す。カソードガス供給路7のうちエアコンプレッサ6より下流側には、噴霧装置Mと、インタークーラ10と、加湿器9とが、この順序で配置されている。
【0038】
インタークーラ10は、エアコンプレッサ6での加圧により温度が上昇した空気の放熱を行うため、カソードガス供給路7に送られる空気の放熱を実現する放熱部を有している。この放熱部は、外気が接触することによりカソードガス供給路7に送られる空気の熱を奪い放熱を実現する。
【0039】
加湿器9は、カソードガス供給路7とカソードオフガス排出路8とに亘る位置に配置されている。この加湿器9は、水透過膜を挟んで一方のウエット側空間にカソードオフガス排出路8からのカソードオフガスが供給され、他方のドライ側空間にカソードガス供給路からのカソードガスが供給される構造を有している。これにより、加湿器9では、ウエット側空間に供給されたカソードオフガスに含まれる水が水透過膜を透過し、透過した水がドライ側空間に供給されたカソードガスに与えられることにより、カソードガスの加湿を実現する。
【0040】
〔冷却加湿ユニット〕
冷却加湿ユニットHは、噴霧装置Mと、加湿流路15から供給される水の流量を制御する流量制御弁21と、加湿流路15での水の逆流を阻止する逆止弁22とを備えている。この冷却加湿ユニットHは、カソードガス供給路7のうちエアコンプレッサ6より下流側且つ加湿器9より上流側で、更に、インタークーラ10より上流側に加湿流路15からの水を噴霧することで空気(カソードガス)を冷却すると同時に、空気を加湿するように構成されている。
【0041】
つまり、水噴霧領域7aは、エアコンプレッサ6の圧縮によって温度が上昇した空気が送られる領域であり、この領域に噴霧装置Mによって水を噴霧することにより空気の冷却と加湿とを実現している。
【0042】
噴霧装置Mは、
図2に示すように、噴霧管23とノズル部25とを備えている。噴霧管23は、水噴霧領域7aを取り囲む空間において供給路断面積を小さくした狭窄部24が内周に形成されたベンチュリーを有している。また、この噴霧装置Mでは、狭窄部24の内周の空間に連通するノズル部25を備えており、このノズル部25に加湿流路15が接続されている。
【0043】
この噴霧装置Mでは、空気が狭窄部24を通過する際に高速化し、狭窄部24の圧力が低下する現象により噴霧管23の先端から水が負圧により送り出され霧状に噴霧される。尚、噴霧装置Mは、複数のノズル部25を備え、複数のノズル部25で水を噴霧するように構成されるものでも良い。
【0044】
流量制御弁21は、電磁ソレノイドの駆動により弁体を作動させ、弁内部の加湿流路15の開度を任意に設定できる電磁比例型のものが用いられている。このように流量制御弁21が構成されることにより、電磁ソレノイドを駆動する電流値の設定により噴霧装置Mで噴霧される水量を任意に設定できる。逆止弁22は、カソードガス供給路7において噴霧装置Mに向かう水の流れを許すと共に、噴霧装置Mの内部の圧力が大きく上昇した場合に、ノズル部25を介して空気が加湿流路15に流れる現象を阻止する。
【0045】
〔制御構成/制御形態〕
図1に示すように、燃料電池システムAは、カソードオフガス排出路8のうちFCスタック1と加湿器9との間のカソードオフガスの温度を検知するガス温度センサS1と、エアコンプレッサ6に供給される空気の温度を検知する空気温度センサS2と、エアコンプレッサ6から送り出された空気の圧力を検知する圧力センサS3とを備えている。
【0046】
この燃料電池システムAは、
図3に示す制御装置30によって制御される。制御装置30にはガス温度センサS1と、空気温度センサS2と、圧力センサS3との信号が入力する。FCV(燃料電池自動車)にはアクセルペダルの踏み込み量を検知するアクセルセンサ31と、走行系に作用する負荷を検知する負荷センサ32と、車両の走行速度を検知する車速センサ33とを備えており、これらのセンサからの信号が制御装置30に入力する。
【0047】
制御装置30は、開閉弁3を制御する電磁ソレノイドと、エアコンプレッサ6の電動モータと、三方弁14を制御する電動アクチュエータと、流量制御弁21を制御する電磁ソレノイドと、ウォータポンプ11Pと、ラジエータファン12Fと、に制御信号を出力する。
【0048】
制御装置30では、FCスタック1において走行に必要な電力を得る電力制御プログラムと、FCスタック1の温度を発電に適した温度に維持する温度管理プログラムとが並行して実行される。電力制御プログラムは、アクセルセンサ31、負荷センサ32、車速センサ33を含むセンサ類から取得した情報に基づき走行に必要な電力をFCスタック1が出力するように開閉弁3とエアコンプレッサ6とを制御する。
【0049】
燃料電池システムAでは、FCスタック1のカソード側が湿潤であることが必要であるため、FCスタック1の起動直後のように発電の初期においては、ガス温度センサS1で検知される温度が低い値であっても、カソードガス供給路7に供給される空気に対し噴霧装置Mで水を供給する制御が行われる。
【0050】
温度管理プログラムは、FCスタック1での発電の状況を参照しつつ、ガス温度センサS1と空気温度センサS2と圧力センサS3の検知信号に基づき噴霧装置Mでの水の目標噴霧量(単位時間あたりの噴霧量)を設定し、流量制御弁21の弁開度を設定する。尚、温度管理プログラムは、ガス温度センサS1で検知される温度が、FCスタック1が発電に適した温度範囲にある場合には、噴霧装置Mでの水の噴霧を行わないように制御形態が設定されている。
【0051】
この温度管理プログラムによる制御では、ガス温度センサS1で検知される温度が、発電に適した温度範囲より高いほど、目標噴霧量が大きい値に設定される。このように目標噴霧量を設定する場合には、ガス温度センサS1で検知される温度に係数等を乗ずる演算や、ガス温度センサS1で検知される温度に基づいてテーブルを参照する処理が行われる。
【0052】
前述したように流量制御弁21は、電磁ソレノイドの駆動により弁体を作動させ、弁開度が決まる構成であるため、目標噴霧量は、電磁ソレノイドに供給する電流値として設定される。
【0053】
また、温度管理プログラムは、目標噴霧量が設定された状態において、空気温度センサS2で検知される空気温度が、所定の温度範囲にある場合には目標噴霧量の補正を行わず、所定の温度範囲より高温である場合に目標噴霧量を増大する補正が行われ、所定の温度範囲より低温である場合に目標噴霧量を低減する補正を行う。
【0054】
更に、温度管理プログラムは、圧力センサS3で検知される圧力が、所定の圧力領域にある場合には目標噴霧量の補正を行わず、所定の圧力範囲より高圧である場合には、噴霧管23の内部で空気の高速で流れ、ノズル部25から噴霧される水量が増大するため、目標噴霧量を低減する補正を行う。尚、このように圧力センサS3を備える構成に代えて、エアコンプレッサ6に供給される電流値に基づいて噴霧管23の内部に流れる空気の流速を演算等によって求めるように制御形態を設定しても良い。
【0055】
このように温度管理プログラムにより設定される目標噴霧量に基づいて流量制御弁21の弁開度が設定されることにより、噴霧装置Mにおいてカソードガス供給路7に最適な量の水が噴霧され、空気が冷却される。その結果としてFCスタック1の温度上昇を抑制し、FCスタック1の温度を発電に適した温度範囲に維持することが可能となり、空気の加湿も実現する。
【0056】
〔実施形態の作用効果〕
このような構成から、カソードガス供給路7において空気が流れる方向を基準にして加湿器9より上流側に配置された噴霧装置Mで水が噴霧される。このように水が噴霧されることにより、空気にミストの状態で水が存在しても、ミストがインタークーラ10の内部や、加湿器9の内部に液滴の状態で付着することで除去される。このような理由から、FCスタック1の内部に液滴が入り込むことがなく、発電効率を低下させる不都合を招くこともない。
【0057】
噴霧装置Mが、ベンチュリーを有するため、例えば、加圧した水をノズルに供給する構成のように噴霧のためのポンプを必要としない。また、冷却加湿ユニットHが、流量制御弁21と逆止弁22とを備えているため、水の噴霧量の調整を流量制御弁21で行え、水噴霧領域7aの圧力が上昇した場合には加湿流路15を逆流する方向に空気や水が流れる不都合を逆止弁22が阻止する。このように単純な構造でありながら目標噴霧量に応じて水を噴霧することによりFCスタック1の温度上昇を抑制できる。
【0058】
この燃料電池システムAでは、気液分離器5においてアノードオフガスから分離回収した水を噴霧装置Mに供給するため、噴霧のための水を貯留する専用の水タンクが不要であり、この水タンクに水を補給するための構成も不要となる。
【0059】
更に、燃料電池システムAは、冷却加湿ユニットHによってカソードガス供給路7に送られる空気に対して噴霧装置Mにおいて水を噴霧し、空気の温度を低下させるためインタークーラ10を用いないように構成することも可能である。また、噴霧装置Mにおいて水を噴霧することで、空気の冷却だけでなく、空気の加湿が可能であるため、加湿器9に高い加湿性能のものを用いずに済み、加湿器9の小型化を可能にする。
【0060】
特に、インタークーラ10を用いない構成や、加湿器9を小型化した構成にすることもできるため、燃料電池システムAの小型化に繋がり、燃料電池システムAの低廉化も可能にする。
【0061】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0062】
(a)
図4に示すように、この別実施形態(a)は、冷却加湿ユニットHを除いた構成が実施形態と共通しており、冷却加湿ユニットHが、気液分離器5(水回収部)においてアノードオフガスから分離回収した水を、三方弁14から加湿流路15を介してリザーブタンク41に供給して貯留する。特に、リザーブタンク41が水噴霧領域7aより重力方向で上方に配置されている。
【0063】
冷却加湿ユニットHは、水を貯留するリザーブタンク41と、リザーブタンク41からの水の流量を制御する流量制御弁21と、流量制御弁21からの水が供給される吐出ノズル26とを備えている。
図4に示すように、噴霧装置Mは、円筒状となる噴霧管23の内部の水噴霧領域7aに対し上方から水の自重によって供給するように、噴霧管23を上下方向に貫通するように吐出ノズル26(吐出部の一例)を備えている。
【0064】
この別実施形態(a)では、
図4に示すように、リザーブタンク41に貯留された水の水位を検知する水位センサSLを備え、リザーブタンク41に貯留された水を排出する排水路18を備え、この排水路18に電磁式に開閉する排水弁19を備えている。この構成では、排水弁19を制御することによりリザーブタンク41の貯水量の管理を可能にするものであるが、リザーブタンク41の水位が設定値を超えた際に水をオーバーフローさせる位置に排水路18を備えても良い。
【0065】
この別実施形態(a)においても、実施形態で説明した制御装置30を備え、複数のセンサの検知結果に基づいて噴霧装置Mでの水の目標噴霧量を設定することも可能である。つまり、制御装置30により、流量制御弁21の弁開度を設定することで目標噴霧量の水をリザーブタンク41から自重によって吐出ノズル26に供給し、供給された水を噴霧装置Mにおいて水噴霧領域7aに噴霧し、この噴霧により空気が冷却され、結果としてFCスタック1の温度上昇を抑制し、FCスタック1の温度を発電に適した温度範囲に維持し、空気の加湿も実現する。
【0066】
尚、この別実施形態(a)では、噴霧装置Mに複数の吐出ノズル26を備え、複数の吐出ノズル26で水を噴霧するように構成しても良い。
【0067】
(b)
図5に示すように、この別実施形態(b)では、冷却加湿ユニットHを除いた構成が実施形態と共通しており、冷却加湿ユニットHとして、加湿流路15からの水を加圧する加圧ポンプ42を備え、噴霧装置Mが、加圧ポンプ42で加圧された水を噴霧する噴霧ノズル27を備えている。この別実施形態(b)では、加圧ポンプ42が電動モータで駆動するものが用いられている。噴霧装置Mは、円筒状となる噴霧管23の内部の水噴霧領域7aに対し水を噴霧する状態で供給する噴霧ノズル27を備えている。
【0068】
この別実施形態(b)においても、実施形態で説明した制御装置30を備え、複数のセンサの検知結果に基づいて噴霧装置Mでの水の目標噴霧量を設定することも可能である。つまり、制御装置30が複数のセンサの検知結果に基づいて噴霧装置Mでの水の目標噴霧量を設定し、この設定に基づいて加圧ポンプ42の駆動速度を設定することで目標噴霧量の水が加湿流路15から噴霧ノズル27に供給される。これにより噴霧装置Mにおいて水噴霧領域7aに水を噴霧して空気が冷却され、FCスタック1の温度上昇が抑制され、結果としてFCスタック1の温度を発電に適した温度範囲に維持し、空気の加湿も実現する。
【0069】
尚、この別実施形態(b)では、噴霧装置Mに複数の噴霧ノズル27を備え、複数の噴霧ノズル27で水を噴霧するように構成しても良い。また、この別実施形態(b)の構成において別実施形態(a)と同様にリザーブタンク41を備えても良い。
【0070】
(c)カソードオフガス排出路8に排出されるカソードオフガスに含まれる水を、実施形態で説明した気液分離器5と同様の構成の気液分離器等で分離して回収し、回収した水を噴霧装置Mに供給するように冷却加湿ユニットHを構成する。この構成であってもカソードガス供給路7に送られる空気に水を噴霧し、空気の温度低下が可能となる。
【0071】
(d)カソードガス供給路7のうち、噴霧装置Mより下流側に、カソードガス供給路7に流れる空気が接触可能となる水貯留部を配置する。この水貯留部は、カソードガス供給路7に水面が露出するように水を貯留する構造であり、カソードガス供給路7に流れる空気に対し、水貯留部の水面から水分を与えるように機能する。
【0072】
(e)カソードガス供給路7のうち、エアコンプレッサ6で圧縮された空気が送り出される開口部等、エアコンプレッサ6に極めて近い位置となる領域を水噴霧領域7aに設定して水を噴霧するように構成する。このように構成することにより、エアコンプレッサ6に近い位置で効果的に冷却を行える。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、アノードガスとカソードガスとが供給される燃料電池システムに利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 FCスタック(発電部)
2 アノードガス供給路
4 アノードオフガス排出路
5 気液分離器/水回収部
6 エアコンプレッサ(圧送装置)
7 カソードガス供給路
7a 水噴霧領域
8 カソードオフガス排出路
9 加湿器(加湿部)
24 狭窄部
25 ノズル部
26 吐出ノズル(吐出部)
27 噴霧ノズル
41 リザーブタンク
42 加圧ポンプ
M 噴霧装置