(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】半導体光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20230516BHJP
H01S 5/22 20060101ALI20230516BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
H01S5/026 618
H01S5/22
H01S5/343
(21)【出願番号】P 2020021506
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】八木 英樹
(72)【発明者】
【氏名】平谷 拓生
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健彦
(72)【発明者】
【氏名】新田 俊之
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0317471(US,A1)
【文献】国際公開第2016/195701(WO,A1)
【文献】米国特許第05574742(US,A)
【文献】特開2015-179783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0270684(US,A1)
【文献】特開2003-101139(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1411114(CN,A)
【文献】特開2014-174335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0226918(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0245298(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路を有するSOI基板の上に、III-V族化合物半導体で形成され、順に積層された第1クラッド層、コア層および第2クラッド層を含み、光学利得を有する半導体チップを接合する工程と、
前記第2クラッド層の一部の上に第1絶縁膜を形成する工程と、
前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜から露出する部分を厚さ方向の途中までエッチングする工程と、
前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜に覆われた部分から、前記第2クラッド層のうち前記厚さ方向の途中までエッチングされた部分に残る、前記第2クラッド層の残存部分の一部までを覆う第2絶縁膜を形成する工程と、
前記第2クラッド層のうち前記第2絶縁膜から露出する部分および前記コア層をエッチングすることで、前記導波路の上に位置し前記導波路の延伸方向に沿って先細りの第1テーパ部を形成する工程と、を有する半導体光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2絶縁膜を形成する工程は、前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜に覆われた部分の前記導波路の延伸方向の面、および前記第2クラッド層の前記残存部分のうち前記導波路の延伸方向に沿う部分の一部を連続的に覆い、かつ前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜に覆われた部分の前記導波路の延伸方向に交差する方向の面を覆う前記第2絶縁膜を形成する工程である請求項1に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2絶縁膜を形成する工程は、ドライエッチングにより前記第2絶縁膜をパターニングする工程を含む請求項1または請求項2に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1テーパ部を形成する工程は、前記第2クラッド層のうち前記第2絶縁膜から露出する部分をウェットエッチングする工程と、前記ウェットエッチング後に前記コア層のうち前記第2絶縁膜から露出する部分をドライエッチングする工程とを含む請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第2クラッド層はインジウムリンを含み、
前記コア層はヒ素を含む請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2クラッド層は前記コア層および前記第1クラッド層よりも厚い請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2クラッド層の前記残存部分の厚さは、前記第2クラッド層の前記エッチング前の厚さの20%以下である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2クラッド層を厚さ方向の途中までエッチングする工程は、前記第2クラッド層をドライエッチングする工程である請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1クラッド層をエッチングすることで前記導波路の延伸方向に沿って先細りの第2テーパ部を形成する工程を有する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項10】
導波路を有するSOI基板と、
前記SOI基板の上に設けられ、III-V族化合物半導体で形成され、順に積層された第1クラッド層、コア層および第2クラッド層を含み、光学利得を有する利得領域と、を具備し、
前記利得領域は、前記導波路の上に位置し、かつ前記導波路の延伸方向に沿って先細りのテーパ部を有し、
前記テーパ部は前記コア層および前記第2クラッド層で形成され、第1部分と第2部分とを有し、前記第2部分は前記テーパ部の先端に位置し、前記第2部分の厚さは前記第1部分の厚さより小さい半導体光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は半導体光素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III-V族化合物半導体で形成された利得領域を、導波路を形成したSOI(Silicon On Insulator)基板(いわゆるシリコンフォトニクス)に接合する技術が知られている(例えば非特許文献1など)。SOI基板にはシリコン(Si)で形成される導波路、共振器などを設ける。III-V族化合物半導体は直接遷移型であり、高い光学利得を有する。III-V族化合物半導体の利得領域が出射する光は、SOI基板の導波路を伝搬する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Guang-Hua Duan et al. “Hybrid III-V on Silicon Lasers for Photonic Integrated Circuits on Silicon”, IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS, VOL.20, NO.4, JULY/AUGUST 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スペクトル線幅などの光学特性、発振閾値電流、消費電力などといった半導体光素子の特性には、利得領域と導波路との結合効率が大きく影響する。利得領域の先端をテーパ形状とすることで、実効的な屈折率を緩やかに変化させ、光を利得領域から導波路へとスムーズに遷移させる。これにより高い結合効率を得ることができる。しかし所望の先端形状が得られない場合、結合効率が低下してしまう。そこで、結合効率を高めることが可能な半導体光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る半導体光素子の製造方法は、導波路を有するSOI基板の上に、III-V族化合物半導体で形成され、順に積層された第1クラッド層、コア層および第2クラッド層を含み、光学利得を有する半導体チップを接合する工程と、前記第2クラッド層の一部の上に第1絶縁膜を形成する工程と、前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜から露出する部分を厚さ方向の途中までエッチングする工程と、前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜に覆われた部分から、前記第2クラッド層のうち前記厚さ方向の途中までエッチングされた部分に残る、前記第2クラッド層の残存部分の一部までを覆う第2絶縁膜を形成する工程と、前記第2クラッド層のうち前記第2絶縁膜から露出する部分および前記コア層をエッチングすることで、前記導波路の上に位置し前記導波路の延伸方向に沿って先細りの第1テーパ部を形成する工程と、を有するものである。
【0006】
本開示に係る半導体光素子は、導波路を有するSOI基板と、前記SOI基板の上に設けられ、III-V族化合物半導体で形成され、順に積層された第1クラッド層、コア層および第2クラッド層を含み、光学利得を有する利得領域と、を具備し、前記利得領域は、前記導波路の上に位置し、かつ前記導波路の延伸方向に沿って先細りのテーパ部を有し、前記テーパ部は前記コア層および前記第2クラッド層で形成され、第1部分と第2部分とを有し、前記第2部分は前記テーパ部の先端に位置し、前記第2部分の厚さは前記第1部分の厚さより小さいものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば結合効率を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは実施形態に係る半導体光素子を例示する平面図である。
【
図4A】
図4Aは半導体光素子の製造方法を例示する斜視図である。
【
図4B】
図4Bは半導体光素子の製造方法を例示する斜視図である。
【
図5A】
図5Aは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図5B】
図5Bは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図6A】
図6Aは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図6B】
図6Bは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図7A】
図7Aは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図7B】
図7Bは半導体光素子の製造方法を例示する平面図である。
【
図8A】
図8Aは半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図8B】
図8Bは半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図8C】
図8Cは半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図9A】
図9Aは半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図9B】
図9Bは半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図9C】
図9Cは半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図10】
図10は半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図11】
図11は半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図17A】
図17Aは比較例に係る半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図17B】
図17Bは比較例に係る半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図18A】
図18Aは比較例に係る半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【
図18B】
図18Bは比較例に係る半導体光素子の製造方法を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
本開示の一形態は、(1)導波路を有するSOI基板の上に、III-V族化合物半導体で形成され、順に積層された第1クラッド層、コア層および第2クラッド層を含み、光学利得を有する半導体チップを接合する工程と、前記第2クラッド層の一部の上に第1絶縁膜を形成する工程と、前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜から露出する部分を厚さ方向の途中までエッチングする工程と、前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜に覆われた部分から、前記第2クラッド層のうち前記厚さ方向の途中までエッチングされた部分に残る、前記第2クラッド層の残存部分の一部までを覆う第2絶縁膜を形成する工程と、前記第2クラッド層のうち前記第2絶縁膜から露出する部分および前記コア層をエッチングすることで、前記導波路の上に位置し前記導波路の延伸方向に沿って先細りの第1テーパ部を形成する工程と、を有する半導体光素子の製造方法である。第2クラッド層の残存部分をエッチングで除去し、その後にコア層をエッチングすることで、所望の形状の第1テーパ部を形成することができる。このため半導体チップから形成される利得領域と導波路との結合効率を高めることができる。
(2)前記第2絶縁膜を形成する工程は、前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜に覆われた部分の前記導波路の延伸方向の面、および前記第2クラッド層の前記残存部分のうち前記導波路の延伸方向に沿う部分の一部を連続的に覆い、かつ前記第2クラッド層のうち前記第1絶縁膜に覆われた部分の前記導波路の延伸方向に交差する方向の面を覆う前記第2絶縁膜を形成する工程でもよい。エッチングの進行を抑制し、所望の形状の第1テーパ部を形成することができる。
(3)前記第2絶縁膜を形成する工程は、ドライエッチングにより前記第2絶縁膜をパターニングする工程を含んでもよい。ドライエッチングは厚さ方向に進み、第2絶縁膜のうち不要な部分を除去し、所望の部分は残すことができる。
(4)前記第1テーパ部を形成する工程は、前記第2クラッド層のうち前記第2絶縁膜から露出する部分をウェットエッチングする工程と、前記ウェットエッチング後に前記コア層のうち前記第2絶縁膜から露出する部分をドライエッチングする工程とを含んでもよい。ウェットエッチングは第2クラッド層に選択的に進むため、コア層に達すると停止する。コア層に対してはドライエッチングを行う。これにより所望の形状の第1テーパ部を形成することができる。
(5)前記第2クラッド層はインジウムリンを含み、前記コア層はヒ素を含んでもよい。第2クラッド層とコア層との間でウェットエッチングの選択性が高くなり、ウェットエッチングは第2クラッド層に選択的に進む。このため所望の形状の第1テーパ部を形成することができる。
(6)前記第2クラッド層は前記コア層および前記第1クラッド層よりも厚くてもよい。光がコア層から上側に漏洩しにくくなるため、光の損失を抑制することができる。第2クラッド層のエッチング後に残る残存部分を再びエッチングして除去するため、所望の形状の第1テーパ部を形成することができる。
(7)前記第2クラッド層の前記残存部分の厚さは、前記第2クラッド層の前記エッチング前の厚さの20%以下でもよい。第2クラッド層のエッチング後に残る残存部分を再びエッチングして除去するため、所望の形状の第1テーパ部を形成することができる。
(8)前記第2クラッド層を厚さ方向の途中までエッチングする工程は、前記第2クラッド層をドライエッチングする工程でもよい。厚さ方向の途中で意図的にドライエッチングを停止することで、残存部分を残す。残存部分をエッチングで除去するため、所望の形状の第1テーパ部を形成することができる。
(9)前記第1クラッド層をエッチングすることで前記導波路の延伸方向に沿って先細りの第2テーパ部を形成する工程を有してもよい。利得領域と導波路との結合効率をより高めることができる。
(10)導波路を有するSOI基板と、前記SOI基板の上に設けられ、III-V族化合物半導体で形成され、順に積層された第1クラッド層、コア層および第2クラッド層を含み、光学利得を有する利得領域と、を具備し、前記利得領域は、前記導波路の上に位置し、かつ前記導波路の延伸方向に沿って先細りのテーパ部を有し、前記テーパ部は前記コア層および前記第2クラッド層で形成され、第1部分と第2部分とを有し、前記第2部分は前記テーパ部の先端に位置し、前記第2部分の厚さは前記第1部分の厚さより小さい半導体光素子である。テーパ部を形成することで、利得領域と導波路との結合効率を高めることができる。
【0011】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る半導体光素子およびその製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
(半導体光素子)
図1Aは、実施形態に係る半導体光素子100を例示する平面図である。
図1Bは、
図1Aの線A-Aに沿った断面図である。
図1Cは、
図1Aの線B-Bに沿った断面図である。
【0013】
図1Aに示すように、半導体光素子100は、基板10および利得領域20を備えるハイブリッド型の波長可変レーザ素子である。X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は互いに直交する。基板10の上面はXY平面に広がる。基板10はX軸方向に延伸する辺、およびY軸方向に延伸する辺を有する。基板10の上面には利得領域20、2つのリング共振器19、電極17、30および32が設けられている。後述のように、利得領域20は、基板10に接合されるIII-V族半導体チップから形成され、レーザダイオード(LD:Laser Diode)として機能する。例えば基板10上に複数の利得領域20を設け、複数の利得領域20のうち一部が例えば半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)として機能してもよい。半導体光素子100の上面は、不図示の絶縁膜に覆われる。
【0014】
図1Aおよび
図1Bに示すように、基板10は、順に積層された基板12、酸化シリコン(SiO
2)層14、およびシリコン(Si)層16を含むSOI基板である。基板12は、Siで形成される。SiO
2層14の厚さは、例えば2μmである。Si層16の厚さは、例えば220nmである。基板10のうちSi層16には、
図1Aに示す導波路11およびリング共振器19が設けられている。
【0015】
図1Bに示すように、基板10のSi層16の一部が導波路11および溝13を構成する。例えば、溝13は、Si層16の上面に形成された凹部であって、Si層16を厚み方向に貫通するものではない。1つの導波路11のY軸方向の両側に溝13が位置する。基板10に対する平面視において導波路11のうち利得領域20に重なる部分の側面は、空気に露出する。
図1Cに示すように、導波路11のうち利得領域20と重ならない部分は絶縁膜34に覆われ、両側は絶縁膜34で埋め込まれる。Y軸方向の導波路11の幅は例えば1μmである。溝13の幅は例えば5μmである。リング共振器19の断面の図示は省略するが、Si層16に形成された導波路が屈曲することで、
図1Aのリング共振器19が形成される。電極17は、リング共振器19の上に設けられ、例えばTiなどの金属で形成される。
【0016】
図1Aに示すように、導波路11は、X軸方向に延伸し、X軸方向の両側それぞれで2つに分岐し、リング共振器19に光結合し、基板10の端部に到達する。基板10の端面には、光の反射を防止するコーティングを施す。半導体光素子100のX軸方向の長さL1は例えば2000μmであり、Y軸方向の長さL2は例えば600μmである。
【0017】
Siの屈折率は約3.5であり、SiO2の屈折率は約1.4である。これら2つの材料の屈折率差は大きい。したがって、Siで導波路11を形成し、Siよりも屈折率の低い絶縁膜34をクラッド層として用いることで、導波路11への強い光閉じ込めが生じる。このため、導波路11の曲げによる光損失が抑制され、例えば導波路11の分岐、リング共振器19などをSi層16に形成することができる。
【0018】
図1Bおよび
図1Cに示すように、基板10の上面に絶縁膜34が設けられている。リング共振器19も、
図1Cと同様に絶縁膜34に覆われる。
図1Bに示すように、電極30および32と導波路11との間に、n型半導体層22および絶縁膜34が設けられている。電極30および32と導波路11とは接触しない。絶縁膜34は、例えば厚さ1.5μmのSiO
2などの絶縁体で形成される。
【0019】
図1Aに示すように、利得領域20は、X軸方向に延伸し、導波路11の上に位置し、導波路11とエバネッセント光結合する。利得領域20のX軸方向の長さL3は、例えば1000μmである。
図1Bに示すように、利得領域20は、基板10の上面からZ軸方向に突出するメサ形状を有し、基板10側から順に積層されたn型半導体層22(第1クラッド層)、コア層24およびp型半導体層26(第2クラッド層)を有する。n型半導体層22は、導波路11および溝13の上に位置し、コア層24およびp型半導体層26よりも広く基板10の上に広がる。コア層24およびp型半導体層26は、導波路11および溝13の上に位置する。絶縁膜34は、コア層24およびp型半導体層26の側面、および基板10の上面を覆う。
【0020】
n型半導体層22は、例えば厚さ400nmのn型インジウムリン(n-InP)で形成される。p型半導体層26は、例えば厚さ2μmのp-InPで形成される。n型半導体層22およびp型半導体層26は、コア層24に比べて低い屈折率を有し、クラッド層として機能する。
【0021】
コア層24は、例えばノンドープのガリウムインジウム砒素リン(i-GaInAsP)などで形成され、交互に積層された複数の井戸層およびバリア層を含み、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)を有し、厚さは例えば300nmである。井戸層の数は、例えば8個である。コア層24は、例えば波長1.55μm付近に光学利得を有する。コア層24中の井戸層および障壁層の数、厚さ、組成などによって、コア層24の光学利得を調整することができる。
【0022】
電極32は、n型のオーミック電極であり、n型半導体層22の上面に設けられ、n型半導体層22に電気的に接続される。電極30はp型のオーミック電極であり、p型半導体層26の上面から絶縁膜34の上面にかけて設けられ、p型半導体層26に電気的に接続される。電極30および32には、プローブを接触させることができ、またボンディングワイヤを接続することもできる。
【0023】
電極30は、例えば例えばチタン、白金および金の積層体(Ti/Pt/Au)である。電極32は、例えば金、ゲルマニウムおよびNiの合金(AuGeNi)などの金属で形成される。電極30および32の厚さは、例えば1μmである。電極30および32それぞれのY軸方向の幅は、例えば100μm以上である。電極30および32にAuのメッキ層などを設けてもよい。
【0024】
図2Aは、利得領域20の先端を拡大した平面図である。
図2Bは、
図2Aの線C-Cに沿った断面図である。電極30および32、ならびに絶縁膜34の図示は省略している。
図2Aおよび
図2Bに示すように、利得領域20は、2つのテーパ部40および44を有する。テーパ部40および44は、導波路11の上に位置し、導波路11の延伸方向であるX軸方向に沿って先細りである。テーパ部40(第1テーパ部)は、コア層24およびp型半導体層26で形成される。テーパ部44(第2テーパ部)は、テーパ部40よりも利得領域20の先端側に位置し、n型半導体層22で形成される。
【0025】
テーパ部40は、根元部41(第1部分)および先端部42(第2部分)を含む。先端部42は、テーパ部40の先端に位置し、根元部41よりも細く、かつ薄い。根元部41は、利得領域20のうちテーパ部40ではない部分と、先端部42との間に位置する。
図2Aに示すように、導波路11の延伸方向に沿ってテーパ部40の根元部41、先端部42、およびテーパ部44が順に並ぶ。テーパ部40および44それぞれの形状は、例えばV字状でもよいし、複数の直線を含む屈曲した形状でもよいし、曲線を含んでもよい。
【0026】
図2Aに示すp型半導体層26のテーパ部40以外の部分におけるY軸方向の幅W1は例えば3μmであり、テーパ部40の先端の幅W4は例えば0.4μmであり、テーパ部40のX軸方向の長さL4は例えば70μmである。根元部41の先端から先端部42の先端までの長さL5は例えば5μmである。
【0027】
図3Aは、
図2Aの線D-Dに沿った断面図である。
図3Bは、線E-Eに沿った断面図である。
図3Cは、線F-Fに沿った断面図である。
図3Dは、線G-Gに沿った断面図である。
図3Aに示すp型半導体層26の幅W1は
図3Cに示す先端部42の幅W2より大きく、幅W2は
図3Dに示す先端部42の幅W3より大きい。
図3Aに示すn型半導体層22からp型半導体層26の上面までの高さH1は
図3Cに示す先端部42の高さH2より大きく、高さH2は
図3Dに示す先端部42の高さH3より大きい。先端部42の幅および高さは、根元部41から離れるほど小さくなる。
図3Bに示すように、テーパ部40の一部に段差45が形成される。
【0028】
図1Bに示すように、利得領域20はZ軸方向に沿ってpin構造を有している。電極30に電圧を印加し、電極32を接地することで、利得領域20のコア層24にキャリアを注入し、光学利得を得る。利得領域20の両端から出射される光は、利得領域20から導波路11に遷移し、導波路11を伝搬しリング共振器19に入射する。リング共振器19は、光の一部を利得領域20側に反射させ、一部を透過させる。基板10の端部に達する4つの導波路11のすべてから光を出射することができる。通常、4つの導波路11のうち1つに不図示の光ファイバを光学的に結合させ、当該光ファイバから取り出す光を利用する。半導体光素子100から出射される4つの光のすべてを利用してもよい。
【0029】
リング共振器19は、リングの長さに応じて複数の反射ピークを有する。2つのリング共振器19のリングの長さ(周長)は互いに異なり、反射スペクトルも異なる。2つのリング共振器19間で一致する反射ピークの波長が半導体光素子100の発振波長となる。電極17は、電力の入力により発熱するヒータとして機能する。電極17によりリング共振器19の温度を変化させることで、リング共振器19の屈折率を変化させ、反射ピークの波長をシフトさせることが可能である。電極17の発熱量によって発振波長は、例えば40nmの範囲で可変とすることができる。すなわち、半導体光素子100は、ハイブリッド型の波長可変レーザ素子として機能する。
【0030】
利得領域20のテーパ部40および44において、導波路11の延伸方向に沿って実効的な屈折率を徐々に変化させることによって、利得領域20から導波路11にスムーズに光を遷移させることができる。テーパ部40を精度よく成型することが結合効率の向上に有効である。
【0031】
(製造方法)
次に半導体光素子100の製造方法を説明する。
図4Aおよび
図4Bは、半導体光素子100の製造方法を例示する斜視図である。
図5Aから
図7Bは、半導体光素子100の製造方法を例示する平面図である。
図8Aから
図16Cは、半導体光素子100の製造方法を例示する断面図である。
図8Aから
図10は、X軸方向に沿った断面図である。
図11から
図16Cは、Y軸方向に沿った断面図である。
【0032】
図4Aおよび
図4Bの工程の前に、ウェハ状態の基板10のSi層16にドライエッチングを行い、導波路11、リング共振器19などを例えば複数形成する。例えばInPで形成された化合物半導体のウェハ(基板52)に、有機金属気相成長法(OMVPE:Organometallic Vapor Phase Epitaxy)などにより、化合物半導体層を形成する。化合物半導体層は、基板52側から順に積層されたGaInAsのエッチングストップ層54、p型半導体層26、コア層24およびn型半導体層22を含む。化合物半導体のウェハにダイシングを行い、複数の半導体チップ50を形成する。
図4Aに示すように、1つの半導体チップ50は、基板52、エッチングストップ層54、p型半導体層26、コア層24およびn型半導体層22を有する。半導体チップ50の一辺の長さは、例えば2mmである。
【0033】
図4Aに示すように、例えば窒素(N
2)プラズマを用いた表面活性化接合法により、基板10の導波路11の上に半導体チップ50を接合する。基板10のSi層16および半導体チップ50のn型半導体層22の表面にプラズマを照射して活性化し、これらを接合する。複数の半導体チップ50を不図示の受け皿(サセプタ)に配置し、サセプタと基板10とを対向させ、複数の半導体チップ50を一度に基板10に接合することができる。
図4Bに示すように、例えばウェットエッチングなどで基板52およびエッチングストップ層54を除去する。ウェットエッチング後、p型半導体層26が露出する。
【0034】
図5Aは、基板52およびエッチングストップ層54のエッチング後の平面図である。
図8Aは、
図5Aの線C-Cに沿った断面図である。
図11は、
図5Aの線D-Dに沿った断面図である。
図5A、
図8Aおよび
図11に示すように、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などによりp型半導体層26の上に絶縁膜60(第1絶縁膜)を設け、レジストパターニングおよびCF(フルオロカーボン)を用いたドライエッチングまたはBHF(バッファードフッ酸)を用いたウェットエッチングなどで、絶縁膜60をパターニングする。絶縁膜60は、例えば厚さ500nmのSiO
2などの絶縁体で形成される。
【0035】
図5Aに示すように、パターニング後の絶縁膜60は、導波路11の延伸方向であるX軸方向に沿って先細りのテーパ形状を有する。
図5Aにおいて、p型半導体層26の外側の領域、すなわち導波路11およびSi層16の上にも絶縁膜60を残存させる。絶縁膜60が開口している部分は、p型半導体層26のうちドライエッチングを施す箇所のみである。
図8Aに示すように、p型半導体層26のうち導波路11の延伸方向(X軸方向)側の一部は、絶縁膜60から露出する。
図11に示すように、p型半導体層26のうち導波路11の延伸方向に交差する側(Y軸方向両側)の一部は、絶縁膜60から露出する。絶縁膜60をマスクとして、p型半導体層26のうち絶縁膜60から露出する部分のドライエッチングを行う。
【0036】
ドライエッチング後の平面は、
図5Aと同様である。
図8B、
図12Aから
図12Cは、p型半導体層26のドライエッチング後の構成を示す図である。
図8Bは、
図5Aの線C-Cに沿った断面を図示する。
図12Aは、線D-Dに沿った断面を図示する。
図12Bは、線E-Eに沿った断面を図示する。
図12Cは、線G-Gに沿った断面を図示する。
【0037】
図8Bに示すように、p型半導体層26の絶縁膜60下の部分はエッチングされず、メサ21を形成する。テーパ形状の絶縁膜60をマスクとして用いるため、メサ21も
図12Aから
図12Bにかけて先細りのテーパ形状を有する。
図8B、
図12Aから
図12Cに示すように、ドライエッチングは厚さ方向(Z軸方向)の途中まで進行し、p型半導体層26の一部が残存する。コア層24およびn型半導体層22は、ドライエッチングされない。p型半導体層26のうち、ドライエッチングされた部分において残存する部分を、残存部分64および65と記載する。
【0038】
図8Bに示す面66は、ドライエッチングにより形成されるp型半導体層26のX軸側先端の面である。残存部分64は、面66から導波路11の延伸方向であるX軸方向に向けて、裾を引くように延伸する。残存部分64はX軸方向に沿って傾斜し、面66から離れるにつれて薄くなる。
図12Aおよび
図12Bに示す面68は、ドライエッチングにより形成されるp型半導体層26のY軸方向両側の側面である。残存部分65は、面68から導波路11の延伸方向に交差するY軸方向の両側に向けて、裾を引くように延伸する。残存部分65はY軸方向に沿って傾斜し、面68から離れるにつれて薄くなる。
【0039】
図8Bおよび
図12Aに示すp型半導体層26の厚さT1は、前述のように例えば2μmである。残存部分64の厚さT2および残存部分65の厚さT3は互いに等しい。厚さT2およびT3はそれぞれ厚さT1より小さく、例えば最大で厚さT1の10%程度である約200nmである。
【0040】
図5B、
図8C、
図13Aから
図13Cに示すように、例えば原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)またはプラズマCVD法などにより、絶縁膜62(第2絶縁膜)を形成する。絶縁膜62は、例えば厚さ50nmのSiO
2など、絶縁体で形成される。
図8Cは、
図5Bの線C-Cに沿った断面を図示する。
図13Aは、線D-Dに沿った断面を図示する。
図13Bは、線E-Eに沿った断面を図示する。
図13Cは、線G-Gに沿った断面を図示する。絶縁膜62は、
図8Cに示すように絶縁膜60の上面、メサ21の先端側の面66および残存部分64の上面を覆い、
図13Aおよび
図13Bに示すようにメサ21の面68および残存部分65の上面を覆う。
【0041】
図6A、
図9A、
図14Aから
図14Cに示すように、絶縁膜62のパターニングを行う。具体的には、絶縁膜62上に不図示のレジストパターンを形成し、絶縁膜62のドライエッチングを行い、絶縁膜62の一部を除去する。
図6Aは、絶縁膜62のパターニング後の構成を示す平面図である。
図9Aは、
図6Aの線C-Cに沿った断面を図示する。
図14Aは、線D-Dに沿った断面を図示する。
図14Bは、線E-Eに沿った断面を図示する。
図14Cは、線G-Gに沿った断面を図示する。
図6A、
図14Aから
図14Cにかけて示すように、絶縁膜62は、X軸方向に沿って先細りのテーパ形状にパターニングされる。
【0042】
図6Aおよび
図14Aに示すように、絶縁膜62のうちメサ21上の部分が一部除去され、絶縁膜60の上面の一部が露出する。
図14Aおよび
図14Bに示すように絶縁膜62のうちメサ21の面68を覆う部分は残存するが、メサ21から離れた部分は除去される。p型半導体層26の残存部分65は、絶縁膜62から露出する。
【0043】
図9Aに示すように、p型半導体層26の上面および先端側の面66は、絶縁膜62に覆われる。
図9Aおよび
図14Cに示すように、絶縁膜62のうち先端部62aは、面66よりもX軸方向に突出し、p型半導体層26の残存部分64のうちX軸方向においてメサ21に近い部分を覆う。残存部分64のうちメサ21から遠い部分は、絶縁膜62から露出する。絶縁膜62は、p型半導体層26のうち絶縁膜60に覆われた部分から残存部分64の一部までを覆う。
図6Aに示すように、絶縁膜62の先端部62aの幅は、絶縁膜62の他の部分の幅より小さい。
【0044】
図6B、
図9B、
図15Aから
図15Cに示すように、絶縁膜60およびパターニング後の絶縁膜62をマスクとし、エッチャントとして塩酸およびリン酸の混合液を用いて、p型半導体層26のウェットエッチングを行う。
図6Bは、ウェットエッチング後の平面図である。
図6Bに示すように、p型半導体層26のうち絶縁膜62から露出する部分がエッチングされ、コア層24が露出する。
【0045】
図9Bは、
図6Bの線C-Cに沿った断面を図示する。
図15Aは、線D-Dに沿った断面を図示する。
図15Bは、線E-Eに沿った断面を図示する。
図15Cは、線G-Gに沿った断面を図示する。
図9Bに示すp型半導体層26の面66は複数の結晶面を含んでおり、ウェットエッチングされやすい。面66を絶縁膜62により保護することで、面66から内側へのウェットエッチングを抑制する。
【0046】
図9Bおよび
図15Cに示すように、p型半導体層26の残存部分64のうち絶縁膜62から露出する部分は、ウェットエッチングにより除去される。残存部分64のうち、メサ21に近い部分は、絶縁膜62の先端部62aに保護されるため除去されない。残存部分64の先端(先端部62a下の部分)の厚さT4は、例えば数十nm~100nmであり、
図8Bに示した厚さT2より小さい。ウェットエッチングで除去する厚さT4は十分薄いので、ウェットエッチングにかかる時間は十分に短い。ウェットエッチングの時間を適正にコントロールすることで、残存部分64の薄い先端からエッチャントは浸入しにくくなる。残存部分の除去に必要なウェットエッチングの時間は、エッチャント中の塩酸とリン酸との混合比により異なる。あらかじめ実験的に調査し、厚さT4の残存部分64のウェットエッチングにかかるちょうどの時間に対して、ウェットエッチングの時間を例えば5%増加させる。ウェットエッチングが残存部分64のうち絶縁膜62下の部分へとわずかに進む可能性はあるが、p型半導体層26のうち面66より内側には到達することなく停止する。
【0047】
図15Aおよび
図15Bに示すように、p型半導体層26の残存部分65は、ウェットエッチングによって除去される。面68は、InPの(110)面であり、他の結晶面に比べてウェットエッチングされにくい。したがって、面68から内側にはウェットエッチングは進行しにくい。残存部分64および65が取り除かれた位置からは、コア層24が露出する。コア層24の上面は平坦で、傾斜の少ない水平な面になる。
【0048】
図7Aは、コア層24のドライエッチング後の構成を示す平面図である。
図7Aに示すように、絶縁膜60および62をマスクとしてコア層24のドライエッチングを行い、テーパ部40を形成する。
図9Cは
図7Aの線C-Cに沿った断面を図示する。
図16Aは、線D-Dに沿った断面を図示する。
図16Bは、線E-Eに沿った断面を図示する。
図16Cは、線G-Gに沿った断面を図示する。
【0049】
図7Aに示すように、コア層24のうち絶縁膜60および62から露出する部分はドライエッチングされ、絶縁膜60および62に覆われる部分はドライエッチングされない。ドライエッチング後にコア層24が取り除かれn型半導体層22が露出してもよいし、例えば数十nm程度の薄いコア層24が残存してもよい。
図9Cに示すように、コア層24のX軸方向の先端側の面は、p型半導体層26の先端側の面と同一平面を形成する。
図16Aから
図16Cに示すように、コア層24の側面は、p型半導体層26の側面と同一平面を形成する。
【0050】
図7Bおよび
図10に示すように、n型半導体層22にテーパ部44を形成する。
図7Bは、テーパ部44形成後の構成を示す平面図である。
図10は、
図7Bの線C-Cに沿った断面を図示する。不図示のマスクをn型半導体層22およびp型半導体層26の上に設け、n型半導体層22のうちマスクから露出する部分を例えばドライエッチングにより除去する。これにより、n型半導体層22にテーパ部44を形成する。
図7Bおよび
図10に示すように、テーパ部44は、X軸方向に沿って先細りであり、テーパ部40とX軸方向に並ぶ。
【0051】
プラズマCVD法などにより
図1Bに示した絶縁膜34を形成し、真空蒸着法などによって電極30および32を形成する。ウェハ状態の基板10にダイシング処理を行い、導波路11、リング共振器19および利得領域20を含む部分を複数の半導体光素子100を取得する。
【0052】
上記の製造方法では、半導体チップ50を基板10に接合した後にテーパ部40および44、電極30および32を形成する。この方法とは別の製造方法にも本実施形態は適用することができる。例えば接合よりも前に化合物半導体のウェハにテーパ部40および44、電極30および32などを形成し、その後ウェハを切断し、利得領域20を含むチップを基板10に接合してもよい。
【0053】
【0054】
比較例では、ドライエッチングをp型半導体層26の途中で停止させず、コア層24を除去するまで行う。すなわち、p型半導体層26およびコア層24を、同じ工程で一挙にドライエッチングする。
図17Aおよび
図18Aは、p型半導体層26のドライエッチングの途中の段階を示す。
図17Aに示すように、p型半導体層26に残存部分70が形成され、
図18Aに示すように残存部分72が形成される。残存部分70および72はメサ21から裾を引いており、メサ21に近い側で厚く、メサ21から遠い側では薄い。
【0055】
図17Aおよび
図18Aからさらにドライエッチングが進行し、
図17Bおよび
図18Bに示すようにコア層24が除去される。ドライエッチングにより残存部分70および72に起因する厚さの違いがn型半導体層22に生じる。すなわち、裾引き状の残存部分70および72内における厚さの違いがn型半導体層22に転写され、n型半導体層22がメサ21に近い側で厚く、メサ21から遠い側では薄くなる。
図17Bに示すSi層16の上面からn型半導体層22の上面までの厚さT5は、例えばドライエッチングの加工量、すなわちp型半導体層26およびコア層24の厚さの10%程度であり、例えば200nmである。
【0056】
n型半導体層22に膜厚の変化が生じ、利得領域20の先端の形状が設計から外れてしまう。この結果、屈折率も所望の値から外れ、利得領域20と導波路11都の結合効率が低下し、光の損失が増加してしまう。
【0057】
これに対して、本実施形態によれば、
図8Bおよび
図12Bに示すようにp型半導体層26を厚さ方向の途中までエッチングし、残存部分64および65を残存させる。その後、
図9A、
図14A~
図14Cに示すように、p型半導体層26のうち絶縁膜60で覆われた部分から残存部分64の一部までを覆う絶縁膜62を形成する。
図9B、
図15Aから
図15Cに示すように残存部分64および65のうち絶縁膜62から露出する部分をウェットエッチングにより除去した後、コア層24をドライエッチングする。以上の工程で
図7Aに示すテーパ部40を形成する。
【0058】
残存部分64および65をウェットエッチングで取り除くことで、残存部分64および65に起因するn型半導体層22の厚さの変化が抑制される。n型半導体層22の平坦性が確保され、n型半導体層22の上面は傾斜の抑制された水平な面になる。つまり、n型半導体層22とメサ21の面66との間の角度、およびn型半導体層22と面68との間の角度が90°に近づく。この結果、所望の形状を有するテーパ部40を形成することができ、利得領域20の屈折率の設計からのずれが抑制される。テーパ部40および44において利得領域20の実効的な屈折率が徐々に変化し、光が利得領域20から導波路11に遷移する。利得領域20と導波路11との間で例えば90%以上の高い結合効率を得ることができる。
【0059】
図9Aに示すように、絶縁膜62は、p型半導体層26の先端側の面66および残存部分64の一部を連続的に覆い、
図14Aおよび
図14Bに示すようにY軸方向側の面68を覆う。
【0060】
絶縁膜62で保護されることにより、面66よりも内側へのウェットエッチングの進行が抑制される。面66は
図7A(平面図)の根元部41の先端形状と同じ形状に加工されており、あらゆる結晶面が露出している。このため面66はウェットエッチングされやすい結晶面を含むが、絶縁膜62が面66を覆うことで面66よりも内側へのウェットエッチングの進行が抑制される。残存部分64のうち、メサ21から遠い部分は絶縁膜62から露出し、メサ21に近い部分は絶縁膜62で覆われる。残存部分64のうちメサ21に近い部分は、テーパ部40の先端部42となる。先端部42はメサ21よりも薄いため、ウェットエッチングのエッチャントが浸入しにくく、横方向のウェットエッチングが進みにくい。ウェットエッチングが先端部42の内側にわずかに進行する可能性はあるが、p型半導体層26のうち面66より内側の部分に達することなく停止する。この結果、テーパ部40の形状の崩れを抑制し、高い歩留まりを実現することができる。
【0061】
テーパ部40には根元部41および先端部42が形成される。先端部42は根元部41より細く、鋭い形状を有する。テーパ部40に先端部42を設けることで、先端部42を設けない場合に比べて、利得領域20と導波路11との結合効率がさらに向上する。このように、実質的にはテーパ部40を複数段に分けたことにより、テーパ部40の実効的な屈折率変化が緩やかになる。テーパ部40と、n型半導体層22にテーパ部44とにより、利得領域20と導波路11との結合効率が向上する。テーパ部40と、n型半導体層22のテーパ部44との組み合わせで、最終的な結合効率を例えばおよそ5%以下の範囲で向上できる。テーパ部40を複数段としない場合の結合効率は90%程度あるため、テーパ部40を複数段とすることによる数%の向上は効果が大きい。例えば半導体光素子100がレーザ発振し、両側のリング共振器19間で光が一往復した場合を考える。利得領域20の両端それぞれに2か所のテーパ部があり、両端間を光が一往復すると、当該テーパ部を4回よぎることになる。したがって、結合効率をx%とした場合、テーパ部で失われる光は以下の式で求められる。
(式) 損失する光=1-(x/100)^4
テーパ部の結合効率が90%の場合、テーパ部で損失する光は、上式に従うとおよそ35%となる。一方、テーパ部の結合効率を95%とすると失われる光は19%となり、光学的なロスを半減することができる。
【0062】
図14Aおよび
図14Bに示すように、残存部分65は絶縁膜62から露出する。ウェットエッチングは、残存部分65を取り除き、メサ21の面68まで進む。メサ21の面68はウェットエッチングされにくい面であるため、ウェットエッチングは面68で停止する。
【0063】
ドライエッチングによって絶縁膜62をパターニングすることが好ましい。ウェットエッチングを行うと絶縁膜62のうちメサ21の側面を覆う部分も除去される恐れがある。一方、ドライエッチングは厚さ方向(Z軸方向)に進行しやすいため、絶縁膜62のうちメサ21の側面を覆う部分がダメージを受けにくく、かつ残存部分64および65上の不要な部分を取り除くことができる。
【0064】
p型半導体層26のうち絶縁膜62から露出する部分をウェットエッチングすることで、残存部分64および65を取り除く。ウェットエッチングは、コア層24と比較してp型半導体層26に対して選択的に進行し、コア層24の上面に達すると停止する。したがって、コア層24の平坦性が確保され、厚さの変化が抑制される。その後、コア層24をドライエッチングすることでテーパ部40を形成する。p型半導体層26への選択的なウェットエッチング、およびコア層24へのドライエッチングを行うことで、所望の形状を有するテーパ部40を形成し、高い結合効率を実現することができる。
【0065】
p型半導体層26は例えばInP層などであり、InPを含む化合物半導体層である。コア層24は、例えばGaInAsなどAsを含む化合物半導体層である。ウェットエッチングの選択性が高くなり、p型半導体層26にはウェットエッチングが進行し、コア層24に到達すると停止する。これにより、所望の形状を有するテーパ部40を形成し、高い結合効率を実現することができる。n型半導体層22もp型半導体層26と同様にInPを含む。n型半導体層22およびp型半導体層26がクラッド層として機能する。コア層24、p型半導体層26およびn型半導体層22は上記以外のIII-V族化合物半導体で形成されてもよい。
【0066】
光が利得領域20から上に漏洩し、
図1Bに示す電極32に到達すると大幅にロスする。コア層24からの光の染み出し量は、InPの層(n型半導体層22およびp型半導体層26)と、コア層24との屈折率差によって決まる。コア層24は前述のようにMQW構造を持ち、異なる屈折率の膜を含む多層構造である。コア層24の平均的な屈折率の値は例えば3.3程度である。一方、InPの屈折率は3.19程度である。InPのn型半導体層22およびp型半導体層26とコア層24との屈折率差は、SiとSiO
2との屈折率差に比べて小さいため、コア層24から上下方向のn型半導体層22に光が染み出しやすい。染み出した光が電極に達しないためには、p型半導体層26の厚さはコア層24およびn型半導体層22より大きく、2μm以上であることが好ましい。
【0067】
その一方で、p型半導体層26が厚くなることで、p型半導体層26のエッチングによるn型半導体層22の膜厚への影響が大きくなる。比較例においてn型半導体層22の膜厚の変化量は、エッチングされる厚さの10%程度である。例えばp型半導体層26の厚さが2μmならば、膜厚の変化量は200nmである。本実施形態では、p型半導体層26のエッチングを途中で停止し、停止後に残存部分64および65をエッチングで取り除くことで、n型半導体層22の膜厚への影響を抑制する。したがって、厚いp型半導体層26によって光の損失を抑制し、かつ所望の形状のテーパ部40を形成することができる。
【0068】
適度な厚さの残存部分64および65を残してp型半導体層26のエッチングを意図的に停止することで、n型半導体層22の膜厚の変化を抑制する。このドライエッチングでは、被エッチング領域においてドライエッチングがコア層24に達しない範囲で、なるべく深く加工することが重要である。ただし当該ドライエッチングはコア層24に達しないようにする。残存部分64および65の厚さは、例えばエッチング前のp型半導体層26の厚さの10%以上、20%以下などであり、5%以上でもよいし、25%以下でもよいし、30%以下でもよい。
【0069】
p型半導体層26のエッチングは、ドライエッチングである。ドライエッチングはp型半導体層26の厚さ方向に進み、ドライエッチングを停止することで、p型半導体層26に残存部分64および65を残すことができる。例えばエッチング時間などのエッチング条件を調整し、残存部分64および65の厚さを制御する。
【0070】
コア層24はp型半導体層26よりも薄く、コア層24の厚さは300nm程度である。ドライエッチング加工後に発生する可能性のあるコア層24の裾引き(p型半導体層26のドライエッチング加工後の残存部分に対応)の厚さは、コア層24の加工前の厚さのおよそ10%の30nm程度であり、微小である。したがってn型半導体層22の厚さに対する影響は極めて小さい。
【0071】
絶縁膜62を薄くすることで、テーパ部40を細く、鋭い形状とすることができる。しかし絶縁膜62が薄すぎるとウェットエッチングからp型半導体層26を保護することが難しい。テーパ部40を細く鋭い形状とし、p型半導体層26へのウェットエッチングの進行を抑制するため、絶縁膜62の厚さは、絶縁膜60の厚さより小さく、例えば30nm以上、100nm以下などとすることが好ましい。p型半導体層26へのウェットエッチングの進行を抑制するため、穴のない緻密な絶縁膜62を形成することが好ましい。絶縁膜62は、例えばALD法、プラズマCVD法などによって形成することができる。
【0072】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10、12、52 基板
11 導波路
13 溝
14 SiO2層
16 Si層
17、30、32 電極
19 リング共振器
20 利得領域
21 メサ
22 n型半導体層
24 コア層
26 p型半導体層
34、60、62 絶縁膜
40、44 テーパ部
41 根元部
42、62a 先端部
45 段差
50 半導体チップ
54 エッチングストップ層
64、65、70、72 残存部分
66、68 面
100 半導体光素子