(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】触媒状態推定装置、触媒の状態を推定する方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20230516BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230516BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20230516BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230516BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N3/08 A
F02D43/00 301Y
F02D43/00 301T
F02D45/00 376
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
(21)【出願番号】P 2020092137
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2019204542
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】池戸 隆人
(72)【発明者】
【氏名】野尻 紗也香
(72)【発明者】
【氏名】上田 松栄
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 茂人
(72)【発明者】
【氏名】松井 良彦
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-167948(JP,A)
【文献】特開2005-048642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/08
F02D 43/00
F02D 45/00
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒状態推定装置であって、
排気が流通する主流路に設けられた触媒であって、前記排気中の有害物質を吸蔵することにより浄化する触媒の情報を取得する第1取得部と、
触媒状態推定モデルを予め記憶する記憶部と、
前記第1取得部により取得された前記触媒の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定する推定部と、
を備え、
前記触媒状態推定モデルは、
前記触媒における前記有害物質の浄化率を推定する第1モデルと、
前記触媒に吸蔵されている前記有害物質を還元する還元制御における、前記有害物質の還元量を推定する第2モデルと、
前記還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量を推定する第4モデルと、
を含み、
前記触媒状態推定モデルは、
前記第1モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化率と、
前記第2モデルによって推定される現在の前記有害物質の還元量と、
前記第4モデルによって推定される現在の前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、を入力とし、
次の時刻における前記触媒の前記有害物質の吸蔵量を、物理則を用いて求めるモデルであり、
前記推定部は、
前記第4モデルによる推定結果を
、前記第2モデルへの入力として前記有害物質の還元量を推定
することに用いることで、前記触媒状態推定モデルへの間接的な入力とし、
前記第2モデルによる推定結果を、前記触媒状態推定モデルへの直接的な入力とし、
前記触媒状態推定モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての次の時刻における前記有害物質の吸蔵量を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒状態推定装置であって、さらに、
前記触媒へと流入する前記排気の情報を取得する第2取得部を備え、
前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第2取得部により取得された前記排気の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の触媒状態推定装置であって、さらに、
前記触媒へと供給される前記添加剤の情報を取得する第3取得部を備え、
前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第3取得部により取得された前記添加剤の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記第1モデルは、
機械学習モデルにより構成され、
前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、1時刻前において前記触媒に吸蔵されている前記有害物質としての窒素酸化物の吸蔵量と、前記触媒における前記窒素酸化物の飽和吸蔵量に対する前記吸蔵量の比と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記触媒における前記窒素酸化物の浄化率を出力とし、
前記推定部は、前記第1モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記窒素酸化物の浄化率を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記第2モデルは、
機械学習モデルにより構成され、
前記第4モデルによる推定結果に加えてさらに、前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、1時刻前において前記触媒に吸蔵されている前記有害物質としての窒素酸化物の吸蔵量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記触媒に吸蔵されている前記窒素酸化物の還元量を出力とし、
前記推定部は、前記第2モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記窒素酸化物の還元量を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記第4モデルは、
物理モデルにより構成され、
前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記還元制御において前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量を出力とし、
前記推定部は、前記第4モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記第1モデルは、さらに、
前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の流量と、前記排気に含まれる前記有害物質の量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記第2モデルは、さらに、
前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の流量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記添加剤の情報として、前記触媒に流入する前記添加剤の流入量と、前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記第4モデルは、さらに、
前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の空燃比と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記添加剤の情報として、前記触媒に流入する前記添加剤の流入量を入力とする、触媒状態推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記第1モデル、前記第2モデル、のうちの少なくとも一部は、劣化度の異なる複数の前記触媒から取得された教師データを用いて作成されている、触媒状態推定装置。
【請求項9】
触媒の状態を推定する方法であって、
触媒状態推定モデルであって、排気中の有害物質を吸蔵することにより浄化する触媒における前記有害物質の浄化率を推定する第1モデルと、前記触媒に吸蔵されている前記有害物質を還元する還元制御における、前記有害物質の還元量を推定する第2モデルと、前記還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量を推定する第4モデルと、を含む触媒状態推定モデルを予め記憶する記憶部を備える情報処理装置が、
前記触媒の情報を取得する工程と、
取得された前記触媒の情報を、前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定する工程と、
を備え、
前記触媒状態推定モデルは、
前記第1モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化率と、
前記第2モデルによって推定される現在の前記有害物質の還元量と、
前記第4モデルによって推定される現在の前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、を入力とし、
次の時刻における前記触媒の前記有害物質の吸蔵量を、物理則を用いて求めるモデルであり、
前記推定する工程では、
前記第4モデルによる推定結果を
、前記第2モデルへの入力として前記有害物質の還元量を推定
することに用いることで、前記触媒状態推定モデルへの間接的な入力とし、
前記第2モデルによる推定結果を、前記触媒状態推定モデルへの直接的な入力とし、
前記触媒状態推定モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての次の時刻における前記有害物質の吸蔵量を推定する、方法。
【請求項10】
コンピュータプログラムであって、
触媒状態推定モデルであって、排気中の有害物質を吸蔵することにより浄化する触媒における前記有害物質の浄化率を推定する第1モデルと、前記触媒に吸蔵されている前記有害物質を還元する還元制御における、前記有害物質の還元量を推定する第2モデルと、前記還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量を推定する第4モデルと、を含む触媒状態推定モデルを予め記憶する記憶部を備える情報処理装置に、
前記触媒の情報を取得する機能と、
取得された前記触媒の情報を、前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定する機能と、
を実行させ、
前記触媒状態推定モデルは、
前記第1モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化率と、
前記第2モデルによって推定される現在の前記有害物質の還元量と、
前記第4モデルによって推定される現在の前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、を入力とし、
次の時刻における前記触媒の前記有害物質の吸蔵量を、物理則を用いて求めるモデルであり、
前記推定する機能は、
前記第4モデルによる推定結果を
、前記第2モデルへの入力として前記有害物質の還元量を推定
することに用いることで、前記触媒状態推定モデルへの間接的な入力とし、
前記第2モデルによる推定結果を、前記触媒状態推定モデルへの直接的な入力とし、
前記触媒状態推定モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての次の時刻における前記有害物質の吸蔵量を推定する、コンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項1に記載の触媒状態推定装置であって、
前記触媒状態推定モデルは、
前記第2モデルに代えて、前記還元制御において消費されずに前記触媒から流出する前記添加剤の量である流出添加剤量を推定する第5モデルを含み、
前記触媒状態推定モデルは、
前記第2モデルによって推定される現在の前記有害物質の還元量に代えて、前記第5モデルによって推定される現在の前記流出添加剤量から求めた、前記還元制御における前記有害物質の還元量を入力とし、
前記推定部は、
前記第4モデルによる推定結果を
、前記第5モデルへの入力として前記流出添加剤量を推定
することに用いることで、前記触媒状態推定モデルへの間接的な入力とし、
前記触媒状態推定モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての次の時刻における前記有害物質の吸蔵量を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の触媒状態推定装置であって、
前記第5モデルは、
機械学習モデルにより構成され、
前記第4モデルによる推定結果に加えてさらに、前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、1時刻前において前記触媒に吸蔵されている前記有害物質としての窒素酸化物の吸蔵量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、
前記流出添加剤量を出力とし、
前記推定部は、前記第5モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記流出添加剤量を推定する、触媒状態推定装置。
【請求項13】
請求項12に記載の触媒状態推定装置であって、さらに、
前記触媒へと流入する前記排気の情報を取得する第2取得部を備え、
前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第2取得部により取得された前記排気の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定し、
前記第5モデルは、さらに、前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の流量と、のうちの少なくとも一つを入力とする、触媒状態推定装置。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の触媒状態推定装置であって、さらに、
前記触媒へと供給される前記添加剤の情報を取得する第3取得部を備え、
前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第3取得部により取得された前記添加剤の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定し、
前記第5モデルは、さらに、前記添加剤の情報として、前記触媒に流入する前記添加剤の流入量と、前記第4モデルによって推定される前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、のうちの少なくとも一つを入力とする、触媒状態推定装置。
【請求項15】
請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記第5モデルは、劣化度の異なる複数の前記触媒から取得された教師データを用いて作成されている、触媒状態推定装置。
【請求項16】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記主流路に同種の複数の前記触媒が設けられている場合に、
前記第1取得部は、前記主流路において最上流に位置する前記触媒の情報を少なくとも取得し、
前記推定部は、前記第1取得部により取得された前記触媒の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記複数の触媒全体としての浄化性能を推定し、
前記触媒状態推定モデルのうち、
前記第1モデルは、前記複数の触媒全体としての前記有害物質の浄化率を推定するモデルであり、
前記第2モデルは、前記複数の触媒それぞれに対する前記還元制御における、前記有害物質の還元量の合計値を推定するモデルであり、
前記第4モデルは、前記複数の触媒それぞれに対する前記還元制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値を推定するモデルである、触媒状態推定装置。
【請求項17】
請求項11から請求項15のいずれか一項に記載の触媒状態推定装置であって、
前記主流路に同種の複数の前記触媒が設けられている場合に、
前記第1取得部は、前記主流路において最上流に位置する前記触媒の情報を少なくとも取得し、
前記推定部は、前記第1取得部により取得された前記触媒の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記複数の触媒全体としての浄化性能を推定し、
前記触媒状態推定モデルのうち、
前記第1モデルは、前記複数の触媒全体としての前記有害物質の浄化率を推定するモデルであり、
前記第5モデルは、前記還元制御において消費されずに、最下流に位置する前記触媒から流出する前記添加剤の量である流出添加剤量を推定するモデルであり、
前記第4モデルは、前記複数の触媒それぞれに対する前記還元制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値を推定するモデルである、触媒状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の状態を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
数理モデルを利用して、様々な条件下における現象を定量的に予測する技術が知られている。このような数理モデルの1つとして、人間の脳内にある神経回路網を人工ニューロンという数学的なモデルで表現したニューラルネットワーク(NN:Neural Network)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、NNに対して周囲温度、マニホールド圧力及び温度、燃料消費率、エンジン回転速度の各値を入力し、選択還元触媒(SCR触媒:Selective Catalytic Reduction catalyst)から排出される窒素酸化物(NOx)の量を予測することが記載されている。例えば、特許文献2には、NNに対してEGR弁リフト量指令値、過給圧、吸気温、排気圧、燃料噴射量、吸入空気流量、エンジン回転数の各値を入力し、NOx吸蔵還元触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction catalyst)に捕捉されたNOxの量を予測することが記載されている。例えば、特許文献3には、NNに対してエンジン回転数、燃料噴射量、燃料噴射時期、吸入空気量、空燃比、排気温度、過給圧の各値を入力し、エンジンから排出されるNOxの量を予測することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-328732号公報
【文献】特開2009-180086号公報
【文献】特開2011-132915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1から特許文献3に記載の技術では、いずれも、NNへの入力として、内燃機関(エンジン)及びその吸気系に関するパラメータのみが想定されている。ここで、触媒の浄化性能は、触媒の温度や、触媒に吸蔵されている有害物質の量などにも影響を受けて変動するため、特許文献1から特許文献3に記載の技術では、いずれも、触媒の浄化性能を精度良く推定することができないという課題があった。また、特許文献1から特許文献3に記載の技術では、例えば工業施設からの排気を浄化する触媒など、内燃機関以外からの排気を浄化する触媒における浄化性能を推定することはできないという課題があった。
【0006】
さらに、特許文献1から特許文献3に記載の技術では、例えばNSR触媒におけるリッチスパイク制御のような、燃料を消費して触媒に吸蔵されている有害物質を還元する還元制御における、燃料消費量を低減することについて何ら考慮されていない。さらに、特許文献1から特許文献3に記載の技術では、複数の触媒を用いて排気を浄化する構成(例えば、NSR触媒を2つ以上設ける構成)において、当該複数の触媒による浄化性能を推定することについて何ら考慮されていない。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、排気中の有害物質を吸蔵することにより浄化する触媒の浄化性能を推定する技術において、推定の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。触媒状態推定装置であって、排気が流通する主流路に設けられた触媒であって、前記排気中の有害物質を吸蔵することにより浄化する触媒の情報を取得する第1取得部と、触媒状態推定モデルを予め記憶する記憶部と、前記第1取得部により取得された前記触媒の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定する推定部と、を備え、前記触媒状態推定モデルは、前記触媒における前記有害物質の浄化率を推定する第1モデルと、前記触媒に吸蔵されている前記有害物質を還元する還元制御における、前記有害物質の還元量を推定する第2モデルと、前記還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量を推定する第4モデルと、を含み、前記触媒状態推定モデルは、前記第1モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化率と、前記第2モデルによって推定される現在の前記有害物質の還元量と、前記第4モデルによって推定される現在の前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、を入力とし、次の時刻における前記触媒の前記有害物質の吸蔵量を、物理則を用いて求めるモデルであり、前記推定部は、前記第4モデルによる推定結果を、前記第2モデルへの入力として前記有害物質の還元量を推定することに用いることで、前記触媒状態推定モデルへの間接的な入力とし、前記第2モデルによる推定結果を、前記触媒状態推定モデルへの直接的な入力とし、前記触媒状態推定モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての次の時刻における前記有害物質の吸蔵量を推定する、触媒状態推定装置。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、触媒状態推定装置が提供される。この触媒状態推定装置は、排気が流通する主流路に設けられた触媒であって、前記排気中の有害物質を吸蔵することにより浄化する触媒の情報を取得する第1取得部と、触媒状態推定モデルを予め記憶する記憶部と、前記第1取得部により取得された前記触媒の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定する推定部と、を備え、前記触媒状態推定モデルは、前記触媒における前記有害物質の浄化率を推定する第1モデルと、前記触媒に吸蔵されている前記有害物質を還元する還元制御における、前記有害物質の還元量を推定する第2モデルと、前記触媒の気相反応で浄化される前記有害物質の浄化量を推定する第3モデルと、前記還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量を推定する第4モデルと、のうちの少なくとも一つ以上の数理モデルを含む。
【0010】
触媒の浄化性能は、触媒の情報(例えば、触媒の温度、触媒に吸蔵されている有害物質の吸蔵量)の影響を受けて変動する。この構成によれば、推定部は、触媒の浄化性能に影響を及ぼす触媒の情報を触媒状態推定モデルに適用することによって、触媒の浄化性能を精度良く推定することができる。すなわち、本構成によれば、排気中の有害物質を吸蔵することにより浄化する触媒の浄化性能を推定する技術において、推定の精度を向上させることができる。また、本構成によれば、第1モデルを用いることによって、触媒における有害物質の浄化率を推定することができ、第2モデルを用いることによって、触媒に吸蔵されている有害物質の還元制御における還元量を推定することができ、第3モデルを用いることによって、触媒の気相反応で浄化される有害物質の浄化量を推定することができ、第4モデルを用いることによって、還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量を推定することができる。このように、本構成の触媒状態推定装置によれば、異なる数理モデルを用いることで、触媒の種々の浄化性能を推定することができる。
【0011】
(2)上記形態の触媒状態推定装置では、さらに、前記触媒へと流入する前記排気の情報を取得する第2取得部を備え、前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第2取得部により取得された前記排気の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定してもよい。
触媒の浄化性能は、触媒の情報に加えてさらに、触媒に流入する排気の情報(例えば、排気の温度、排気の流量、排気中の有害物質の量)の影響を受けて変動する。この構成によれば、推定部は、触媒の浄化性能に影響を及ぼすこれら触媒の情報と、触媒に流入する排気の情報との両方を触媒状態推定モデルに適用することによって、触媒の浄化性能をさらに精度良く推定することができる。
【0012】
(3)上記形態の触媒状態推定装置では、さらに、前記触媒へと供給される前記添加剤の情報を取得する第3取得部を備え、前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第3取得部により取得された前記添加剤の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定してもよい。
この構成によれば、推定部は、触媒の情報に加えてさらに、添加剤の情報(例えば、添加剤の量)を触媒状態推定モデルに適用することによって、触媒の浄化性能を推定する。このため、例えば、吸蔵還元触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction catalyst)のように、添加剤を用いて有害物質を浄化する触媒の浄化性能を推定する場合において、推定の精度をより向上させることができる。
【0013】
(4)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第1モデルは、機械学習モデルにより構成され、前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、1時刻前において前記触媒に吸蔵されている前記有害物質としての窒素酸化物の吸蔵量と、前記触媒における前記窒素酸化物の飽和吸蔵量に対する前記吸蔵量の比と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記触媒における前記窒素酸化物の浄化率を出力とし、前記推定部は、前記第1モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記窒素酸化物の浄化率を推定してもよい。
機械学習モデルは、入出力変数に因果関係さえあれば、複雑な関数近似をしなければ分類や回帰ができない場合(例えば、物理式で明示することが困難な現象が含まれる場合、現象を記述する物理式が複数必要となる場合、数多くの要因の影響が想定されることから物理式に対する入力が多くなる場合)であっても、低演算負荷で出力(推定結果)を得ることができる。この構成によれば、推定部は、機械学習モデルにより構成された第1モデルを用いて、有害物質としての窒素酸化物の浄化率を推定するため、数多くの要因が影響する窒素酸化物の浄化率の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第1のモデルとすることで、推定部は、窒素酸化物の浄化率を高精度で推定できる。
【0014】
(5)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第2モデルは、機械学習モデルにより構成され、前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、1時刻前において前記触媒に吸蔵されている前記有害物質としての窒素酸化物の吸蔵量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記触媒に吸蔵されている前記窒素酸化物の還元量を出力とし、前記推定部は、前記第2モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記窒素酸化物の還元量を推定してもよい。
この構成によれば、推定部は、機械学習モデルにより構成された第2モデルを用いて、還元制御における、有害物質としての窒素酸化物の還元量を推定するため、より数多くの要因が影響する窒素酸化物の還元量の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第2のモデルとすることで、推定部は、窒素酸化物の還元量を高精度で推定できる。
【0015】
(6)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第3モデルは、機械学習モデルにより構成され、前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記触媒の気相反応で浄化される前記有害物質としての窒素酸化物の浄化量を出力とし、前記推定部は、前記第3モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記窒素酸化物の浄化量を推定してもよい。
この構成によれば、推定部は、機械学習モデルにより構成された第3モデルを用いて、触媒の気相反応で浄化される有害物質としての窒素酸化物の浄化量を推定するため、より数多くの要因が影響する窒素酸化物の浄化量の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第3のモデルとすることで、推定部は、窒素酸化物の浄化量を高精度で推定できる。
【0016】
(7)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第4モデルは、物理モデルにより構成され、前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記還元制御において前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量を出力とし、前記推定部は、前記第4モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量を推定してもよい。
物理モデルは、実際の物理則に基づき、相似律の上に成り立つ法則であるため、物理モデルによって得られる出力(推定結果)は、物理則を満たす。一方、機械学習モデルは、膨大なデータの学習の結果構築されたモデルであるため、物理則を満たす出力(推定結果)が得られない場合がある。この構成によれば、推定部は、物理モデルにより構成された第4モデルを用いて、還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量を推定するため、影響する要因の少ない上記添加剤の量の推定を、物理則に則って高精度に推定できる。
【0017】
(8)上記形態の触媒状態推定装置において、前記触媒状態推定モデルは、前記第1モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化率と、前記第2モデルによって推定される現在の前記有害物質の還元量と、前記第3モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化量と、前記第4モデルによって推定される現在の前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、を入力とし、次の時刻における前記触媒の前記有害物質の吸蔵量を、物理則を用いて求めるモデルであり、前記推定部は、前記触媒状態推定モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての次の時刻における前記有害物質の吸蔵量を推定してもよい。
この構成によれば、推定部は、機械学習モデルである第1、第2、及び第3モデルによる推定結果(窒素酸化物の浄化率、還元制御における有害物質としての窒素酸化物の還元量、気相反応で浄化される有害物質としての窒素酸化物の浄化量)と、物理モデルである第4モデルによる推定結果(還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量)とを併用し、物理則を用いて、触媒における窒素酸化物の吸蔵量を推定する。このため、本構成によれば、より数多くの要因が影響する窒素酸化物の吸蔵量の推定を、物理則を満たしつつ、高精度、かつ高速に実施できる。また、触媒における窒素酸化物の吸蔵量は、前の時刻の吸蔵量の影響を受けて変動する(換言すれば、時間履歴の影響を受けて変動する)。この構成によれば、推定部は、第1~第4モデルによる現在の推定結果を用いて、次の時刻における吸蔵量を推定するため、前の時刻の触媒の浄化性能を踏まえて、次の時刻における触媒の浄化性能を高精度に推定できる。
【0018】
(9)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第1モデルと前記第3モデルとの少なくとも一方は、さらに、前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の流量と、前記排気に含まれる前記有害物質の量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記第2モデルは、さらに、前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の流量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記添加剤の情報として、前記触媒に流入する前記添加剤の流入量と、前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記第4モデルは、さらに、前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の空燃比と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記添加剤の情報として、前記触媒に流入する前記添加剤の流入量を入力としてもよい。
この構成によれば、第1~第4モデルにおいて、多様な種々の情報を考慮した推定を行うため、触媒の浄化性能をさらに高精度に推定できる。
【0019】
(10)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第1モデル、前記第2モデル、及び前記第3モデルのうちの少なくとも一部は、劣化度の異なる複数の前記触媒から取得された教師データを用いて作成されていてもよい。
この構成によれば、第1モデル、第2モデル、及び第3モデルの少なくとも一方は、劣化度の異なる複数の触媒から取得された教師データを用いて作成されているため、触媒の劣化度に合わせて最適な第1モデル、第2モデル、及び第3モデルを採用することができる。この結果、本構成によれば、触媒の浄化性能をさらに高精度に推定できる。
【0020】
(11)本発明の一形態によれば、触媒の状態を推定する方法が提供される。この構成によれば、触媒の浄化性能を推定する技術において、推定の精度を向上できる。
【0021】
(12)本発明の一形態によれば、触媒の状態を推定するためのコンピュータプログラムが提供される。この構成によれば、触媒の浄化性能を推定する技術において、推定の精度を向上できる。
【0022】
(13)上記形態の触媒状態推定装置において、前記触媒状態推定モデルは、前記第2モデルに代えて、前記還元制御において消費されずに前記触媒から流出する前記添加剤の量である流出添加剤量を推定する第5モデルを含んでもよい。
この構成によれば、第5モデルを用いることによって、還元制御において消費されずに触媒から流出する添加剤の量(流出添加剤量)を推定することができる。そして、触媒状態推定装置から、還元制御を行う還元制御部に対してフィードバック制御を行い、還元制御部において流出添加剤量を少なくするように還元制御を実施することにより、触媒における有害物質の浄化性能を維持しつつ、余分な添加剤の量を減らすことができる。この結果、本構成によれば、燃料を消費して触媒に吸蔵されている有害物質を還元する還元制御における、燃料消費量を低減できる。
【0023】
(14)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第5モデルは、機械学習モデルにより構成され、前記触媒の情報として、前記主流路における前記触媒の前端の温度と、前記触媒の温度と、1時刻前において前記触媒に吸蔵されている前記有害物質としての窒素酸化物の吸蔵量と、のうちの少なくとも一つを入力とし、前記流出添加剤量を出力とし、前記推定部は、前記第5モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての前記流出添加剤量を推定してもよい。
この構成によれば、推定部は、機械学習モデルにより構成された第5モデルを用いて流出添加剤量を推定するため、数多くの要因が影響する流出添加剤量の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第5モデルとすることで、推定部は、流出添加剤量を高精度で推定できる。
【0024】
(15)上記形態の触媒状態推定装置では、さらに、前記触媒へと流入する前記排気の情報を取得する第2取得部を備え、前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第2取得部により取得された前記排気の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定し、前記第5モデルは、さらに、前記排気の情報として、前記排気の温度と、前記排気の流量と、のうちの少なくとも一つを入力としてもよい。
この構成によれば、推定部は、触媒の浄化性能に影響を及ぼす触媒の情報と、触媒に流入する排気の情報との両方を触媒状態推定モデル(第5モデル)に適用することによって、触媒の浄化性能をさらに精度良く推定することができる。
【0025】
(16)上記形態の触媒状態推定装置では、さらに、前記触媒へと供給される前記添加剤の情報を取得する第3取得部を備え、前記推定部は、前記触媒の情報に加えてさらに、前記第3取得部により取得された前記添加剤の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記触媒の浄化性能を推定し、前記第5モデルは、さらに、前記添加剤の情報として、前記触媒に流入する前記添加剤の流入量と、前記第4モデルによって推定される前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、のうちの少なくとも一つを入力としてもよい。
この構成によれば、推定部は、触媒の浄化性能に影響を及ぼす触媒の情報と、添加剤の情報との両方を触媒状態推定モデル(第5モデル)に適用することによって、触媒の浄化性能をさらに精度良く推定することができる。
【0026】
(17)上記形態の触媒状態推定装置において、前記触媒状態推定モデルは、前記第1モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化率と、前記第5モデルによって推定される現在の前記流出添加剤量から求めた、前記還元制御における前記有害物質の還元量と、前記第3モデルによって推定される現在の前記有害物質の浄化量と、前記第4モデルによって推定される現在の前記還元反応に寄与しない前記添加剤の量と、を入力とし、次の時刻における前記触媒の前記有害物質の吸蔵量を、物理則を用いて求めるモデルであり、前記推定部は、前記触媒状態推定モデルを用いて、前記触媒の浄化性能としての次の時刻における前記有害物質の吸蔵量を推定してもよい。
この構成によれば、推定部は、機械学習モデルである第5モデルによる推定結果(流出添加剤量)から、還元制御における有害物質としての窒素酸化物の還元量を求めることができる。また、推定部は、求めた有害物質の還元量と、機械学習モデルである第1及び第3モデルによる推定結果(窒素酸化物の浄化率、気相反応で浄化される有害物質としての窒素酸化物の浄化量)と、物理モデルである第4モデルによる推定結果(還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量)とを併用し、物理則を用いて、触媒における窒素酸化物の吸蔵量を推定する。このため、本構成によれば、より数多くの要因が影響する窒素酸化物の吸蔵量の推定を、物理則を満たしつつ、高精度、かつ高速に実施できる。また、触媒における窒素酸化物の吸蔵量は、前の時刻の吸蔵量の影響を受けて変動する。この構成によれば、推定部は、第1、第3~第5モデルによる現在の推定結果を用いて、次の時刻における吸蔵量を推定するため、前の時刻の触媒の浄化性能を踏まえて、次の時刻における触媒の浄化性能を高精度に推定できる。
【0027】
(18)上記形態の触媒状態推定装置において、前記第5モデルは、劣化度の異なる複数の前記触媒から取得された教師データを用いて作成されていてもよい。
この構成によれば、第5モデルは、劣化度の異なる複数の触媒から取得された教師データを用いて作成されているため、触媒の劣化度に合わせて最適な第5モデルを採用することができる。この結果、本構成によれば、触媒の浄化性能をさらに高精度に推定できる。
【0028】
(19)上記形態の触媒状態推定装置において、前記主流路に同種の複数の前記触媒が設けられている場合に、前記第1取得部は、前記主流路において最上流に位置する前記触媒の情報を少なくとも取得し、前記推定部は、前記第1取得部により取得された前記触媒の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記複数の触媒全体としての浄化性能を推定し、前記触媒状態推定モデルのうち、前記第1モデルは、前記複数の触媒全体としての前記有害物質の浄化率を推定するモデルであり、前記第2モデルは、前記複数の触媒それぞれに対する前記還元制御における、前記有害物質の還元量の合計値を推定するモデルであり、前記第3モデルは、前記複数の触媒それぞれの気相反応における、前記有害物質の浄化量の合計値を推定するモデルであり、前記第4モデルは、前記複数の触媒それぞれに対する前記還元制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値を推定するモデルであってもよい。
この構成によれば、主流路状の複数の触媒を1つの触媒とみなして浄化性能を推定できるため、各触媒の浄化性能をそれぞれ推定する場合と比較して、触媒の情報の取得部(センサ等)の数や、予め準備する触媒状態推定モデルの数を減らすことができると共に、触媒状態推定装置における演算負荷を低減できる。また、推定部は、主流路に設けられた複数の触媒が同種の触媒である場合に、これらを1つの触媒とみなして浄化性能を推定する。同種の触媒であれば、浄化性能を左右する触媒の情報項目に相違がないため、推定部は、浄化性能を精度良く推定することができる。
【0029】
(20)上記形態の触媒状態推定装置において、前記主流路に同種の複数の前記触媒が設けられている場合に、前記第1取得部は、前記主流路において最上流に位置する前記触媒の情報を少なくとも取得し、前記推定部は、前記第1取得部により取得された前記触媒の情報を前記触媒状態推定モデルに適用することで、前記複数の触媒全体としての浄化性能を推定し、前記触媒状態推定モデルのうち、前記第1モデルは、前記複数の触媒全体としての前記有害物質の浄化率を推定するモデルであり、前記第5モデルは、前記還元制御において消費されずに、最下流に位置する前記触媒から流出する前記添加剤の量である流出添加剤量を推定するモデルであり、前記第3モデルは、前記複数の触媒それぞれの気相反応における、前記有害物質の浄化量の合計値を推定するモデルであり、前記第4モデルは、前記複数の触媒それぞれに対する前記還元制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値を推定するモデルであってもよい。
この構成によれば、主流路状の複数の触媒を1つの触媒とみなして浄化性能を推定できるため、各触媒の浄化性能をそれぞれ推定する場合と比較して、触媒の情報の取得部(センサ等)の数や、予め準備する触媒状態推定モデルの数を減らすことができると共に、触媒状態推定装置における演算負荷を低減できる。また、第5モデルを用いることによって、還元制御において消費されずに触媒から流出する添加剤の量(流出添加剤量)を推定することができるため、複数の触媒における有害物質の浄化性能を維持しつつ、余分な添加剤の量を減らすことができ、燃料消費量を低減できる。
【0030】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、触媒状態推定装置及びシステム、触媒状態推定装置を含む排気浄化装置及び排気浄化システム、これら装置及びシステムの制御方法、これら装置及びシステムにおいて実行されるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態としての排気浄化システムのブロック図である。
【
図4】推定部による推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】推定処理のステップS24について説明する図である。
【
図6】第2実施形態における排気浄化システムのブロック図である。
【
図7】第3実施形態における排気浄化システムのブロック図である。
【
図8】第4実施形態における排気浄化システムのブロック図である。
【
図9】第4実施形態の推定部による推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図10】第5実施形態における排気浄化システムのブロック図である。
【
図11】第5実施形態の推定部による推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図12】第6実施形態における排気浄化システムのブロック図である。
【
図13】第7実施形態の排気浄化システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としての排気浄化システム1のブロック図である。本実施形態の排気浄化システム1は、燃焼状態制御部91及び内燃機関92と、排気浄化装置20と、触媒状態推定装置10を備える。本実施形態の排気浄化装置20は、内燃機関92の排気中における有害物質(窒素酸化物:NOx)を浄化する装置であり、触媒としてNOx吸蔵還元触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction catalyst)70を備える。NSR触媒70は、内燃機関92の主としてリーン燃焼時に排出されるNOxを、NSR触媒70内に吸蔵して溜め込むことで、排気中のNOxを浄化する。本実施形態の触媒状態推定装置10は、排気浄化装置20に搭載されたNSR触媒70の状態、具体的には、NSR触媒70の浄化性能を推定できる。
【0033】
内燃機関92は、例えば、リーンバーン運転方式のガソリンエンジンや、ディーゼルエンジンである。燃焼状態制御部91は、内燃機関92に対する空気や燃料の噴射を制御することで、内燃機関92内の空燃比をリーン、ストイキ、リッチの各状態へと制御する。燃焼状態制御部91は、例えば、電子制御ユニット(ECU、Electronic Control Unit)により実装される。なお、以下の説明では、排気浄化装置20のうち、内燃機関92に近い側を「上流側」と呼び、内燃機関92に遠い側を「下流側」と呼ぶ。
図1の場合、左側が上流側に相当し、右側が下流側に相当する。
【0034】
排気浄化装置20は、内燃機関92から伸びる排気管30と、排気管30上に設けられたNSR触媒70と、リッチスパイク制御部93とを備える。排気管30は、内燃機関92からの排気が流通する主流路を形成する。内燃機関92からの排気は、排気管30内の主流路を通って、NSR触媒70を通過して外気に放出される。NSR触媒70は、排気中のNOxをNSR触媒70内に吸蔵して溜め込むことで、排気中のNOxを浄化する。NSR触媒70は「触媒」に相当する。
【0035】
リッチスパイク制御部93は、NSR触媒70に吸蔵されたNOxを浄化するリッチスパイク制御を実施する。リッチスパイク制御において、リッチスパイク制御部93は、内燃機関92内の空燃比を短時間リッチ状態とすることで、一酸化炭素(CO)、水素分子(H2)、及び、炭化水素(HC)等のその他の未燃ガスを内燃機関92から排出させる。そして、排出されたCO、H2、及びその他の未燃ガスによって、NSR触媒70に吸蔵されているNOxを窒素ガス(N2)へと還元する。すなわち、CO、H2、及びその他の未燃ガスは、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの還元反応のために用いられる「添加剤(より具体的には還元剤)」として機能する。以降、リッチスパイク制御を「還元制御」とも呼び、CO、H2、及びその他の未燃ガスを総称して単に「添加剤」とも呼ぶ。リッチスパイク制御部93は、燃焼状態制御部91と同様に、ECUにより実装できる。
【0036】
触媒状態推定装置10は、CPU11と、記憶部12と、流量取得部52と、排気温度取得部53と、NOx濃度取得部54と、前端温度取得部76と、温度取得部78とを備える。CPU11及び記憶部12は、例えば、ECUにより実装される。
【0037】
CPU11は、ROMに格納されているコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することにより、触媒状態推定装置10の各部を制御する。そのほかCPU11は、推定部110として機能し、流量取得部52、排気温度取得部53、NOx濃度取得部54、前端温度取得部76、及び温度取得部78から取得された各取得値を受信し、後述する推定処理を実行する。記憶部12は、フラッシュメモリ、メモリカード、ハードディスクなどで構成される。記憶部12には、予め触媒状態推定モデル120が記憶されている。触媒状態推定モデル120には、第1モデル121と、第2モデル122と、第3モデル123と、第4モデル124とが含まれている。
【0038】
図2は、第1モデル121について説明する図である。第1モデル121は、NSR触媒70におけるNOx浄化率を推定するためのモデルであり、機械学習モデル、具体的にはニューラルネットワーク(NN:Neural Network)により構成されている。
図2に示すように、本実施形態の第1モデル121は、入力層、中間層、出力層の3層で構成されており、中間層を1層とし、中間層の素子にシグモイド関数を用いる場合を例示する。なお、中間層の素子にはシグモイド関数を用いなくてもよい。
【0039】
第1モデル121の入力変数となるベクトルUは、n個の成分(u1,u2,・・・,un、nは自然数)で構成されている。ベクトルUの各成分には、以下の項目a1,a2に示すパラメータが採用できる。
(a1)触媒の情報:NSR触媒70の前端の温度と、NSR触媒70の温度と、1時刻前においてNSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量と、NSR触媒70におけるNOxの飽和吸蔵量に対する吸蔵量(実吸蔵量)の比と、のうちの少なくとも1つ
(a2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度と、排気の流量と、排気に含まれるNOxの量と、のうちの少なくとも1つ
【0040】
ここで、ベクトルUに対しては、項目a1に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目a2に示す排気の情報については、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。ただし、第1モデル121におけるNOx浄化率の推定精度向上のためには、入力されるパラメータの数は多い方が好ましい。
【0041】
ベクトルUの各成分が入力層に入力された後、中間層では、ベクトルUの各成分uiと重み定数Wijとの積を足し合わせる(数式1)。その後、数式2のように、中間層のノード毎の固有値θj(バイアス)を加味した上で、シグモイド関数を通過させて出力する。出力層では、入力値Yjと重み定数Wjkとの積を足し合わせ、固有値θk(バイアス)との和を求めて出力する(数式3)。第1モデル121の出力変数Zは、入力変数(ベクトルU)が表わす諸条件下における、NSR触媒70のNOx浄化率の推定値である。なお、nは入力変数の数、mは中間層ノードの数を表す。第1モデル121は「第1モデル」に相当する。
【0042】
【0043】
第1モデル121は、出力変数Zが推定対象となる物理量(第1モデル121の場合はNOx浄化率)と一致するように、入力変数と出力変数との関係をNNに学習させ、NNにおける各値Wij,θj,Wjk,θkを予め決定しておく。第1モデル121の学習には、内燃機関92の過渡運転時に取得されたデータを教師データとして用いることが好ましい。なお、中間層のノード数は、例えば、教師データに対する精度と、教師データとして利用されなかったデータに対する精度とを考慮して決定できる。
【0044】
第2モデル122は、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの還元量、より具体的には、NSR触媒70に吸蔵されているNOxのうち、上述したリッチスパイク制御において還元されるNOxの量(還元量)を推定するためのモデルである。第2モデル122は、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第2モデル122は、後述の点を除き
図2で説明した第1モデル121と同様の構成を有する。
【0045】
第2モデル122の入力変数となるベクトルUは、n個の成分(u1,u2,・・・,un、nは自然数)で構成されている。ベクトルUの各成分には、以下の項目b1~b3に示すパラメータが採用できる。
(b1)触媒の情報:NSR触媒70の前端の温度と、NSR触媒70の温度と、1時刻前においてNSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量(実吸蔵量)と、のうちの少なくとも1つ
(b2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度と、排気の流量と、のうちの少なくとも1つ
(b3)添加剤の情報:NSR触媒70に流入する添加剤(CO、H2、及びその他の未燃ガス)の量と、リッチスパイク制御において還元反応に寄与しない添加剤の量と、のうちの少なくとも1つ
【0046】
第2モデル122のベクトルUに対しては、第1モデル121と同様に、項目b1に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目b2,b3に示す排気の情報と添加剤の情報とについては、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。ただし、第2モデル122における流出量の推定精度向上のためには、入力されるパラメータの数は多い方が好ましい。第2モデル122の出力変数Zは、入力変数(ベクトルU)が表わす諸条件下において、リッチスパイク制御で還元されるNOxの還元量の推定値である。なお、第2モデル122は「第2モデル」に相当する。
【0047】
第3モデル123は、NSR触媒70の気相反応で浄化されるNOxの浄化量を推定するためのモデルである。第3モデル123は、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第3モデル123は、後述の点を除き
図2で説明した第1モデル121と同様の構成を有する。
【0048】
第3モデル123の入力変数となるベクトルUは、n個の成分(u1,u2,・・・,un、nは自然数)で構成されている。ベクトルUの各成分には、以下の項目c1,c2に示すパラメータが採用できる。
(c1)触媒の情報:NSR触媒70の前端の温度と、NSR触媒70の温度と、のうちの少なくとも1つ
(c2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度と、排気の流量と、排気に含まれるNOxの量と、のうちの少なくとも1つ
【0049】
第3モデル123のベクトルUに対しては、第1モデル121と同様に、項目c1に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目c2に示す排気の情報については、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。ただし、第3モデル123における浄化量の推定精度向上のためには、入力されるパラメータの数は多い方が好ましい。第3モデル123の出力変数Zは、入力変数(ベクトルU)が表わす諸条件下において、NSR触媒70の気相反応で浄化されるNOxの量の推定値である。なお、第3モデル123は「第3モデル」に相当する。
【0050】
図3は、第4モデル124について説明する図である。第4モデル124は、上述したリッチスパイク制御において、還元反応に寄与しない添加剤(CO,H
2,未燃ガス)の量を推定するためのモデルであり、物理モデルにより構成されている。内燃機関92からの排気の温度やNSR触媒70の温度によっては、NSR触媒70に吸蔵されているNOxと、添加剤(CO,H
2,HC等の未燃ガス)との還元反応が十分に進行しない場合がある。第4モデル124では、このような還元反応に寄与しない添加剤の量を推定する。
図3では、第4モデル124の一例として、還元反応に寄与しないCOの量を推定するアレニウスの式を示す。還元反応に寄与しないH
2の量を推定する場合、
図3のCOをH
2と読み替えればよく、還元反応に寄与しないHCの量を推定する場合、
図3のCOをHCと読み替えればよい。アレニウスの式のうち、頻度因子(A)、活性化エネルギー(E)については予め実験等により求めた値を使用できる。
【0051】
第4モデル124の入力変数となるベクトルUは、n個の成分(u1,u2,・・・,un、nは自然数)で構成されている。ベクトルUの各成分には、以下の項目d1~d3に示すパラメータが採用できる。
(d1)触媒の情報:NSR触媒70の前端の温度と、NSR触媒70の温度と、のうちの少なくとも1つ
(d2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度と、NSR触媒70に流入する排気の空燃比と、のうちの少なくとも1つ
(d3)添加剤の情報:NSR触媒70に流入する添加剤(CO、H2、及びその他の未燃ガス)の量
【0052】
第1モデル121と同様に、第4モデル124のベクトルUに対しては、項目d1に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目d2,d3に示す排気の情報と添加剤の情報とについては、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。ただし、第4モデル124における、還元反応に寄与しない添加剤の量の推定精度向上のためには、入力されるパラメータの数は多い方が好ましい。第4モデル124の出力変数Zは、入力変数(ベクトルU)が表わす諸条件下において、リッチスパイク制御での還元反応に寄与しない添加剤の量の推定値である。なお、第4モデル124は「第4モデル」に相当する。
【0053】
図1に戻り、説明を続ける。流量取得部52は、内燃機関92からの排気の流量を取得する。流量取得部52は、例えば、排気管30に設けられたピトー管式流量計によって測定された測定信号を取得することで実現してもよい。また、流量取得部52は、内燃機関92への吸入空気量信号や、燃料噴射量信号から排気の流量を推定してもよい。排気温度取得部53は、内燃機関92からの排気の温度を測定するセンサである。NOx濃度取得部54は、NSR触媒70へ流入する排気中のNOx濃度を測定するセンサである。なお、NOx濃度取得部54は、センサによる測定に代えて、内燃機関92の燃焼状態(リーン、ストイキ、リッチ)から排気中のNOx濃度を推定してもよい。前端温度取得部76は、NSR触媒70の入口近傍(前端)における温度を測定するセンサである。温度取得部78は、NSR触媒70の床温を測定するセンサである。
【0054】
なお、流量取得部52と、排気温度取得部53と、NOx濃度取得部54とは、NSR触媒70へと流入する排気の情報を取得する「第2取得部」に相当する。前端温度取得部76と、温度取得部78とは、NSR触媒70の情報を取得する「第1取得部」に相当する。
【0055】
図4は、推定部110による推定処理の手順を示すフローチャートである。推定処理は、NSR触媒70の浄化性能を推定する処理であり、任意のタイミングで実行される。例えば、推定処理は、排気浄化システム1または触媒状態推定装置10の利用者からの要求によって実行されてもよく、排気浄化システム1を搭載する車両における他の制御部からの要求によって実行されてもよい。
図4に示す推定処理は、定期的に実行される。
【0056】
なお、以降の説明では、NSR触媒70の前端の温度と、NSR触媒70に流入する排気の空燃比と、を除いて、項目a1,a2、項目b1~b3、項目c1,c2、項目d1~d3で説明した全てのパラメータを採用した場合を例示する。また、以降の説明において、Δtは触媒状態推定装置10における単位時間(例えば、CPU11の演算周期、上述した各取得部52~78におけるサンプリング周期)を表す。このため、時刻t=kΔtは現在時刻を意味し、時刻t=(k+1)Δtは1時刻後(1単位時間後)を意味し、時刻t=(k-1)Δtは1時刻前(1単位時間前)を意味する。kは整数である。
【0057】
ステップS10において推定部110は、推定処理の開始条件が成立しているか否かを判定する。具体的には例えば、推定部110は、温度取得部78が正常であり、かつ、リッチスパイク制御部93が正常であり、かつ、NOx濃度取得部54が活性状態である場合に、推定処理の開始条件が成立していると判定できる。推定処理の開始条件が成立している場合(ステップS10:YES)、推定部110は処理をステップS12へ遷移させる。推定処理の開始条件が成立していない場合(ステップS10:NO)、推定部110は処理を終了させる。
【0058】
ステップS12において推定部110は、流量取得部52から、現在(時刻t=kΔt)の排気管30内部の流量Q[k]を取得する。ステップS14において推定部110は、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70に流入するNOx量NOx_NSRinを取得する。具体的には、推定部110は、NOx濃度取得部54から、NSR触媒70へと流入する排気中の現在のNOx濃度[k]を取得する。次に推定部110は、取得した排気中のNOx濃度[k]と、ステップS12で取得した排気の流量Q[k]とから、NOx量NOx_NSRin[k]を算出する。
【0059】
ステップS16において推定部110は、温度取得部78から、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70の床温T[k]を取得する。ステップS18において推定部110は、リッチスパイク制御により噴射される燃料の量から、予め用意された計算式やマップ等を用いて、現在(時刻t=kΔt)の、NSR触媒70に流入する添加剤の量RDCT_NSRin[k]を取得する。なお、ステップS18において推定部110は、添加剤の情報を取得する「第3取得部」としても機能する。
【0060】
ステップS20において推定部110は、排気温度取得部53から、現在(時刻t=kΔt)の、NSR触媒70に流入する排気の温度T_NSRin[k]を取得する。なお、ステップS20において推定部110は、排気の温度に代えて、NSR触媒70の入口近傍(前端)における温度を取得して、T_NSRin[k]としてもよい。
【0061】
図5は、推定処理のステップS24について説明する図である。
図5では、横軸にNSR触媒70の床温を表し、縦軸にNSR触媒70におけるNOxの飽和吸蔵量を表している。NSR触媒70では、NOxの飽和吸蔵量は、図示のように、所定の床温T
xまでは床温の上昇につれて増加し、所定の床温T
xで最大吸蔵量S
maxとなり、その後床温の上昇につれて減少するという特性NPを持つ。このような特性NPを表す関係式が、予め実験等により求められ記憶部12に記憶されている。
【0062】
図4のステップS24において推定部110は、NSR触媒70におけるNOxの飽和吸蔵量に対する実吸蔵量の比を算出する。具体的には、推定部110は、ステップS16で取得した現在のNSR触媒70の床温T[k]を、特性NPを表す関係式に当て嵌めて、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70のNOxの飽和吸蔵量StrtNOxSt[k]を求める(
図5)。次に、求めた飽和吸蔵量StrtNOxSt[k]と、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70のNOxの実吸蔵量NOxSt[k]とを用いて、飽和吸蔵量に対する実吸蔵量の比r[k]を算出する。
【0063】
現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70のNOxの実吸蔵量NOxSt[k]について、推定部110は、前回実行された推定処理(
図4)において得られた推定値を、実吸蔵量NOxSt[k]として用いることができる。例えば推定処理の初回実行時など、前回の推定値が無い場合、推定部110は、実吸蔵量NOxSt[k]として所定のデフォルト値を利用できる。デフォルト値は任意に設定できるが、例えば、0や飽和吸蔵量を利用できる。なお、ステップS24において推定部110は、触媒の情報を取得する「第1取得部」としても機能する。
【0064】
ステップS26において推定部110は、NSR触媒70のNOx浄化率の推定値を算出する。具体的には、推定部110は、NOx浄化率を推定するための第1モデル121(
図2)の入力変数ベクトルUに、ステップS12~S24で求めた現在(時刻t=kΔt)の以下の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110は、第1モデル121から得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70のNOx浄化率NOxConv[k]とする。
(a1)触媒の情報:
・NSR触媒70の温度(床温)T[k](ステップS16)
・1時刻前においてNSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量(実吸蔵量)NOxSt[k](前回の推定処理の結果)
・NSR触媒70におけるNOxの飽和吸蔵量に対する吸蔵量(実吸蔵量)の比r[k](ステップS24)
(a2)排気の情報:
・内燃機関92からの排気の温度T_NSR
in[k](ステップS20)
・排気の流量Q[k](ステップS12)
・排気に含まれるNOxの量NOx_NSR
in[k](ステップS14)
【0065】
このように、ステップS26において推定部110は、第1モデル121を用いて、NSR触媒70の浄化性能としての、NOx浄化率NOxConv[k]を推定する。第1モデル121のような機械学習モデルは、入出力変数(例えば、入力変数のベクトルUと出力変数のZ)に因果関係さえあれば、複雑な関数近似をしなければ分類や回帰ができない場合(例えば、物理式で明示することが困難な現象が含まれる場合、現象を記述する物理式が複数必要となる場合、数多くの要因の影響が想定されることから物理式に対する入力が多くなる場合)であっても、低演算負荷で出力(推定結果)を得ることができる。ステップS26によれば、推定部110は、機械学習モデルにより構成された第1モデル121を用いて、NOx浄化率NOxConv[k]を推定するため、数多くの要因が影響するNOxの浄化率の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第1モデル121とすることで、推定部110は、NOxの浄化率を高精度で推定できる。なお、ステップS26において推定部110は、触媒の情報を取得する「第1取得部」としても機能する。
【0066】
ステップS27において推定部110は、NSR触媒70の気相反応で浄化されるNOx浄化量を算出する。具体的には、推定部110は、NOxの浄化量を推定するための第3モデル123(
図2)の入力変数ベクトルUに、ステップS12~S24で求めた現在(時刻t=kΔt)の以下の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110は、第3モデル123から得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70のNOx浄化量NOx_Gas[k]とする。
(c1)触媒の情報:
・NSR触媒70の温度(床温)T[k](ステップS16)
(c2)排気の情報:
・内燃機関92からの排気の温度T_NSR
in[k](ステップS20)
・排気の流量Q[k](ステップS12)
・排気に含まれるNOxの量NOx_NSR
in[k](ステップS14)
【0067】
このように、ステップS27において推定部110は、第3モデル123を用いて、NSR触媒70の浄化性能としての、NSR触媒70の気相反応で浄化されるNOx浄化量NOx_Gas[k]を推定する。第3モデル123は、上述した第1モデル121と同様に、機械学習モデルにより構成されているため、より数多くの要因が影響する、気相反応で浄化されるNOx浄化量の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第3モデル123とすることで、推定部110は、NOx浄化量を高精度で推定できる。なお、ステップS27において推定部110は、触媒の情報を取得する「第1取得部」としても機能する。
【0068】
ステップS28において推定部110は、リッチスパイク制御において、還元反応に寄与しない添加剤(CO,H2,未燃ガス)の量の推定値を算出する。具体的には、推定部110は、還元反応に寄与しない添加剤の量を推定するための第4モデル124の入力変数ベクトルUに、ステップS16~S20で求めた現在(時刻t=kΔt)の以下の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110は、第4モデル124から得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)の、還元反応に寄与しない添加剤の量Ad_thrmlytc[k]とする。
(d1)触媒の情報:
・NSR触媒70の温度(床温)T[k](ステップS16)
(d2)排気の情報:
・内燃機関92からの排気の温度T_NSRin[k](ステップS20)
(d3)添加剤の情報:
・NSR触媒70に流入する添加剤の量RDCT_NSRin[k](ステップS18)
【0069】
このように、ステップS28において推定部110は、第4モデル124を用いて、NSR触媒70の浄化性能としての、還元反応に寄与しない添加剤の量Ad_thrmlytc[k]を推定する。第4モデル124のような物理モデルは、実際の物理則に基づき、相似律の上に成り立つ法則である。このため、第4モデル124(物理モデル)によって得られる出力(推定結果)は、物理則を満たす。一方、第1モデル121、第2モデル122、及び第3モデル123(機械学習モデル)は、膨大なデータの学習の結果構築されたモデルであるため、物理則を満たす出力(推定結果)が得られない場合がある。この点、ステップS28によれば、推定部110は、物理モデルにより構成された第4モデル124を用いて、リッチスパイク制御(還元制御)において、還元反応に寄与しない添加剤の量を推定するため、影響する要因の少ない上記添加剤の量の推定を、物理則に則って高精度に実施できる。なお、ステップS28において推定部110は、添加剤の情報を取得する「第3取得部」としても機能する。
【0070】
ステップS30において推定部110は、NSR触媒70に吸蔵されているNOxのうち、リッチスパイク制御において還元されるNOxの量(還元量)の推定値を算出する。具体的には、推定部110は、NOxの還元量を推定するための第2モデル122の入力変数ベクトルUに、ステップS12~S20,S28で求めた現在(時刻t=kΔt)の以下の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110は、第2モデル122から得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)の、リッチスパイク制御で還元されるNOxの還元量NOx_rdct[k]とする。
(b1)触媒の情報:
・NSR触媒70の温度(床温)T[k](ステップS16)
・1時刻前においてNSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量(実吸蔵量)NOxSt[k](前回の推定処理の結果)
(b2)排気の情報:
・内燃機関92からの排気の温度T_NSRin[k](ステップS20)
・排気の流量Q[k](ステップS12)
(b3)添加剤の情報:
・NSR触媒70に流入する添加剤の量RDCT_NSRin[k](ステップS18)
・リッチスパイク制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量Ad_thrmlytc[k](ステップS28)
【0071】
このように、ステップS30において推定部110は、第2モデル122を用いて、NSR触媒70の浄化性能としての、リッチスパイク制御で還元されるNOxの還元量NOx_rdct[k]を推定する。第2モデル122は、上述した第1モデル121と同様に、機械学習モデルにより構成されているため、より数多くの要因が影響するNOxの還元量の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第2モデル122とすることで、推定部110は、NOxの還元量を高精度で推定できる。なお、ステップS30において推定部110は、触媒の情報を取得する「第1取得部」としても機能する。
【0072】
ステップS32において推定部110は、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)において、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量の推定値を算出する。具体的には、推定部110はまず、以下の数式4により、現在(時刻t=kΔt)において、NSR触媒70から流出するNOx量NOx_NSRout[k]を算出する。
【0073】
【0074】
ここで、NOxConv[k]は、第1モデル121によって推定されたNSR触媒70のNOx浄化率である。NOx_NSRin[k]は、ステップS14により取得されたNSR触媒70に流入するNOx量である。
【0075】
次に、推定部110は、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)において、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量NOxSt[k+1]の推定値を、以下の数式5により算出する。なお、数式5は「触媒状態推定モデル120」として機能する。
【0076】
【0077】
数式5の各値は、それぞれ、推定部110がステップS12~S30で取得または推定した、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70の浄化性能(状態)である。具体的には、NOxSt[k]は、前回の推定処理の結果得られた、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量(実吸蔵量)である。NOx_NSRin[k]は、ステップS14により取得されたNSR触媒70に流入するNOx量である。NOx_NSRout[k]は、数式4により求めた、NSR触媒70から流出するNOx量である。NOx_Gas[k]は、第3モデル123によって推定された、NSR触媒70の気相反応で浄化されるNOx浄化量である。NOx_rdct[k]は、第2モデル122によって推定された、リッチスパイク制御で還元されるNOxの還元量である。
【0078】
ステップS32が終了した後、推定部110は、ステップS32で推定したNOxの吸蔵量NOxSt[k+1]を出力する。出力は任意の態様で実施でき、例えば、触媒状態推定装置10が備える図示しない表示部に表示させてもよく、記憶部12内の推定履歴に記録してもよく、排気浄化システム1を搭載する車両における他の制御部に信号を送信してもよい。また、推定部110は、ステップS32で推定したNOxの吸蔵量NOxSt[k+1]と共に、又はNOxの吸蔵量NOxSt[k+1]に代えて、ステップS12~S30の少なくともいずれかによって取得、算出、推定された結果を出力してもよい。その後、推定部110は、処理を終了させる。
【0079】
以上のように、第1実施形態の触媒状態推定装置10によれば、推定部110は、触媒状態推定モデル120を利用して、NSR触媒70に吸蔵されているNOx(有害物質としての窒素酸化物)の吸蔵量NOxSt[k+1]を推定する。ステップS30で説明した通り、触媒状態推定モデル120の第2モデル122は、物理モデルである第4モデル124による推定結果(リッチスパイク制御において還元反応に寄与しない添加剤の量)を用いて、リッチスパイク制御において還元されるNOxの量を推定している。また、数式4から明らかなように、触媒状態推定モデル120は、機械学習モデル(NNモデル)である第1モデル121による推定結果(NOx浄化率)を用いて、NSR触媒70から流出するNOx量を推定している。そして、数式5から明らかなように、触媒状態推定モデル120は、これらの推定結果を併用し、物理則を用いて、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)においてNSR触媒70に吸蔵されているNOx(窒素酸化物)の吸蔵量NOxSt[k+1]を推定するモデルである。このため、本実施形態によれば、推定部110は、数多くの要因(例えば、項目a1~a2,b1~b3,c1~c2,d1~d3に列挙した要因)が影響するNOx吸蔵量NOxSt[k+1]の推定を、物理則を満たしつつ、高精度、かつ高速に実施できる。
【0080】
また、NSR触媒70に吸蔵されているNOx(窒素酸化物)の吸蔵量NOxSt[k+1]は、前の時刻(時刻t=kΔt)の吸蔵量NOxSt[k]の影響を受けて変動する(換言すれば、時間履歴の影響を受けて変動する)。ステップS30及びS32(数式4,5)で説明した通り、第1実施形態の推定部110は、第1モデル121、第2モデル122、第3モデル123、及び第4モデル124による現在の推定結果を用いて、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)におけるNOx吸蔵量NOxSt[k+1]を推定する。このため、推定部110は、前の時刻(時刻t=kΔt)のNSR触媒70の浄化性能を踏まえて、次の時刻におけるNSR触媒70の浄化性能を高精度に推定できる。
【0081】
さらに、NSR触媒70の浄化性能は、触媒の情報(例えば、NSR触媒70の温度、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量、NSR触媒70におけるNOxの飽和吸蔵量に対する実吸蔵量の比)の影響を受けて変動する。第1実施形態の触媒状態推定装置10によれば、推定部110は、NSR触媒70の浄化性能に影響を及ぼすこの触媒の情報を、第1モデル121(項目a1)、第2モデル122(項目b1)、第3モデル123(項目c1)、及び第4モデル124(項目d1)の入力変数となるベクトルUのパラメータに採用することで、触媒状態推定モデル120に適用する。この結果、推定部110は、NSR触媒70の浄化性能を精度良く推定することができ、排気中のNOx(有害物質)を吸蔵することにより浄化する触媒NSR触媒70の浄化性能を推定する技術において、推定の精度を向上させることができる。
【0082】
さらに、第1実施形態の触媒状態推定装置10によれば、推定部110は、第1モデル121を用いることによって、NSR触媒70におけるNOx(有害物質)の浄化率NOxConv[k]を推定することができる。また、推定部110は、第2モデル122を用いることによって、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの、リッチスパイク制御(還元制御)における還元量NOx_rdct[k]を推定することができる。また、推定部110は、第3モデル123を用いることによって、NSR触媒70の気相反応で浄化されるNOx浄化量NOx_Gas[k]を推定することができる。また、推定部110は、第4モデル124を用いることによって、リッチスパイク制御において還元反応に寄与しない添加剤の量Ad_thrmlytc[k]を推定することができる。このように、触媒状態推定装置10によれば、異なる数理モデル121~124を用いることで、NSR触媒70の種々の浄化性能を推定することができる。
【0083】
さらに、NSR触媒70の浄化性能は、触媒の情報に加えてさらに、触媒に流入する排気の情報(例えば、排気の温度、排気の流量、排気中のNOxの量、排気の空燃比)の影響を受けて変動する。第1実施形態の触媒状態推定装置10によれば、推定部110は、NSR触媒70の浄化性能に影響を及ぼすこれら触媒の情報(項目a1,b1,c1,d1)と、触媒に流入する排気の情報(項目a2,b2,c2,d2)との両方を触媒状態推定モデル120に適用することで、NSR触媒70の浄化性能をさらに精度良く推定することができる。また、推定部110は、触媒の情報(項目b1,d1)に加えてさらに、添加剤の情報(例えば、NSR触媒70に流入する添加剤の量、還元反応に寄与しない添加剤の量:項目b3,d3)を触媒状態推定モデル120に適用することによって、NSR触媒70の浄化性能を推定する。このため、例えば、本実施形態で例示したNSR触媒70や、そのほか選択還元触媒(SCR触媒:Selective Catalytic Reduction catalyst)のように、添加剤を用いて有害物質を浄化する触媒の浄化性能を推定する場合において、推定の精度をより向上させることができる。
【0084】
さらに、第1モデル121、第2モデル122、及び第3モデル123のうち、少なくとも一部のNNモデルを生成する際の教師データを、内燃機関92の過渡運転時に取得されたデータを用いれば、推定部110は、内燃機関92の定常運転時におけるNSR触媒70の浄化性能に加えてさらに、内燃機関92の過渡運転時におけるNSR触媒70の浄化性能をも推定できる。
【0085】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態における排気浄化システム1aのブロック図である。
図1に示す第1実施形態では、推定部110は、第1~4モデル121~124の推定結果を利用して、NSR触媒70の浄化性能として、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)において、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量を推定した。しかし、第2実施形態の推定部110aは、第1モデル121を利用して、NSR触媒70の浄化性能として、現在(時刻t=kΔt)のNSR触媒70のNOx浄化率NOxConv[k]を推定する。
【0086】
第2実施形態の記憶部12には、
図2で説明した第1モデル121のみを含む触媒状態推定モデル120aが予め記憶されている。推定部110aは、触媒状態推定モデル120aの第1モデル121を利用して、
図4で説明した推定処理のうち、ステップS10~S24と、ステップS26とを実行する。ステップS26の実行後、推定部110aは、ステップS26において推定されたNSR触媒70のNOx浄化率NOxConv[k]を、NSR触媒70の浄化性能として出力する。このように、第2実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0087】
なお、排気浄化システム1aでは、第1モデル121に代えて/又は第1モデル121と共に第3モデル123を備えていてもよい。この場合、推定部110aは、ステップS26に代えて/又はステップS26と共にステップS27を実行し、その推定結果をNSR触媒70の浄化性能として出力する。また、排気浄化システム1aは、第1モデル121に代えて/又は第1モデル121と共に第4モデル124を備えていてもよい。この場合、推定部110aは、ステップS26に代えて/又はステップS26と共にステップS28を実行し、その推定結果をNSR触媒70の浄化性能として出力する。また、排気浄化システム1aでは、上述した数式4及び数式5を備えず、第1モデル121と、第2モデル122と、第3モデル123と、第4モデル124と、の少なくとも一部を備えていてもよい。この場合、推定部110aは、ステップS26~S30を実行し、その推定結果の少なくとも一部を、NSR触媒70の浄化性能として出力する。このようにしても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0088】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態における排気浄化システム1bのブロック図である。
図1に示す第1実施形態では、単一の第1~3モデル121~123を使用してNSR触媒70の浄化性能を推定していた。しかし、第3実施形態の排気浄化システム1bでは、複数の第1~3モデル121b,122b,123bを使い分けて、NSR触媒70の浄化性能を推定する。
【0089】
排気浄化システム1bは、触媒状態推定装置10に代えて触媒状態推定装置10bを備える。触媒状態推定装置10bは、推定部110に代えて推定部110bを備え、触媒状態推定モデル120に代えて触媒状態推定モデル120bを備えている。触媒状態推定モデル120bには、複数の第1モデル121bと、複数の第2モデル122bと、複数の第3モデル123bと、第4モデル124とが含まれている。各第1モデル121bは、劣化度の異なる複数のNSR触媒70から取得された教師データを用いて、それぞれ作成されている。具体的には、例えば、第1モデル121b(1)は、劣化の度合が少ないNSR触媒70から取得された教師データから作成され、第1モデル121b(2)は、劣化の度合が中程度のNSR触媒70から取得された教師データから作成され、第1モデル121b(3)は、劣化の度合が大きいNSR触媒70から取得された教師データから作成されている。劣化の度合(劣化度)は、NSR触媒70の状態やNSR触媒70の取り換え時期等から判定してもよく、NSR触媒70から排出される排気中のNOx濃度から判定してもよく、車両の走行距離等から判定してもよい。各第2モデル122bと、各第3モデル123bとは、第1モデル121bと同様に、劣化度の異なる複数のNSR触媒70から取得された教師データを用いて、それぞれ作成されている。
【0090】
推定部110bは、推定処理(
図4)のステップS26において、NSR触媒70の劣化の度合に応じた第1モデル121bを用いて、NSR触媒70のNOx浄化率を推定する。また、推定部110bはステップS27において、NSR触媒70の劣化の度合に応じた第3モデル123bを用いて、NSR触媒70の気相反応で浄化されるNOx浄化量を推定する。さらに、推定部110bはステップS30において、NSR触媒70の劣化の度合に応じた第2モデル122bを用いて、リッチスパイク制御で還元されるNOxの還元量を推定する。
【0091】
このようにすれば、第3実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第3実施形態によれば、触媒状態推定モデル120bは、劣化度の異なる複数のNSR触媒70から取得された教師データを用いて作成された、複数の第1モデル121b、第2モデル122b、及び第3モデル123bを含むため、NSR触媒70の劣化度に合わせて最適な第1モデル121b、第2モデル122b、及び第3モデル123bを採用することができる。この結果、第3実施形態によれば、触媒の浄化性能をさらに高精度に推定できる。
【0092】
<第4実施形態>
図8は、第4実施形態における排気浄化システム1cのブロック図である。第4実施形態の排気浄化システム1cでは、リッチスパイク制御時にNSR触媒70から流出する添加剤の量(より具体的には還元剤の量、以降、単に「流出添加剤量」とも呼ぶ)を推定できる。推定された流出添加剤量は、リッチスパイク制御において消費されなかった添加剤の量(換言すれば、余分であった添加剤の量)と捉えることができる。このため、本実施形態の排気浄化システム1cでは、流出添加剤量を少なくするようにリッチスパイク制御を実施することにより、燃料消費量を低減できる。
【0093】
排気浄化システム1cの記憶部12には、触媒状態推定モデル120に代えて触媒状態推定モデル120cが記憶されている。触媒状態推定モデル120cは、第1実施形態で説明した第2モデル122に代えて、第5モデル125を含んでいる。第5モデル125は、リッチスパイク制御の際に、NOxの還元に用いられないままNSR触媒70から流出する添加剤の量(すなわち流出添加剤量)を推定するためのモデルである。第5モデル125は、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されており、後述の点を除き、第1実施形態で説明した第1モデル121と同様の構成を有する。
【0094】
第5モデル125の入力変数となるベクトルUは、n個の成分(u1,u2,・・・,un、nは自然数)で構成されている。ベクトルUの各成分には、以下の項目e1~e3に示すパラメータが採用できる。
(e1)触媒の情報:NSR触媒70の前端の温度と、NSR触媒70の温度と、1時刻前においてNSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量(実吸蔵量)と、のうちの少なくとも1つ
(e2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度と、排気の流量と、のうちの少なくとも1つ
(e3)添加剤の情報:NSR触媒70に流入する添加剤(CO、H2、及びその他の未燃ガス)の量と、リッチスパイク制御において還元反応に寄与しない添加剤(CO,H2,未燃ガス)の量と、のうちの少なくとも1つ
【0095】
第5モデル125のベクトルUに対しては、第1モデル121と同様に、項目e1に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目e2に示す排気の情報については、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。ただし、第5モデル125における流出添加剤量の推定精度向上のためには、入力されるパラメータの数は多い方が好ましい。第5モデル125の出力変数Zは、入力変数(ベクトルU)が表わす諸条件下において、リッチスパイク制御時にNSR触媒70から流出する添加剤の量(流出添加剤量)の推定値である。なお、第5モデル125は「第5モデル」に相当する。
【0096】
図9は、第4実施形態の推定部110cによる推定処理の手順を示すフローチャートである。
図4で説明した第1実施形態との違いは、ステップS30に代えてステップS40,S42が実行される点である。
【0097】
ステップS40において推定部110cは、リッチスパイク制御時にNSR触媒70から流出する添加剤の量(流出添加剤量)の推定値を算出する。具体的には、推定部110cは、流出添加剤量を推定するための第5モデル125の入力変数ベクトルUに、ステップS12~S28で求めた現在(時刻t=kΔt)の以下の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110cは、第5モデル125から得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)の流出添加剤量RDCT_NSRout[k]とする。
(e1)触媒の情報:
・NSR触媒70の温度(床温)T[k](ステップS16)
・1時刻前においてNSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量(実吸蔵量)NOxSt[k](前回の推定処理の結果)
(e2)排気の情報:
・内燃機関92からの排気の温度T_NSRin[k](ステップS20)
・排気の流量Q[k](ステップS12)
(e3)添加剤の情報:
・NSR触媒70に流入する添加剤の量RDCT_NSRin[k](ステップS18)
・ステップS28において求めた、リッチスパイク制御において還元反応に寄与しない添加剤の量Ad_thrmlytc[k]
【0098】
ステップS42において推定部110cは、NSR触媒70に吸蔵されているNOxのうち、リッチスパイク制御において還元されるNOxの量(還元量)の推定値を算出する。具体的には、推定部110cはまず、以下の数式6により、NSR触媒70における添加剤の変化量RDCT_ac(換言すれば、NSR触媒70において使用されると見込まれる添加剤の量)を算出する。
【0099】
【0100】
ここで、RDCT_NSR
in[k]は、ステップS18により取得されたNSR触媒70に流入する添加剤の量であり、RDCT_NSR
out[k]は、ステップS40により推定されたリッチスパイク制御時にNSR触媒70から流出する添加剤の量(流出添加剤量)である。次に、推定部110cは、周知のNOxの還元反応式と、数式6により求めた添加剤の変化量RDCT_acとから、リッチスパイク制御で還元されるNOxの還元量NOx_rdct[k]を求める。その後、ステップS32において、推定部110cは、求めたNOxの還元量NOx_rdct[k]を用いて、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)において、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの吸蔵量の推定値を算出する。詳細は、
図4で説明した第1実施形態と同様である。
【0101】
このようにすれば、第4実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第4実施形態によれば、推定部110cは、第5モデル125を用いることによって、リッチスパイク制御(還元制御)において消費されずにNSR触媒70から流出する添加剤の量RDCT_NSRout[k](流出添加剤量)を推定することができる。そして、触媒状態推定装置10cから、リッチスパイク制御部93(還元制御を行う還元制御部)に対してフィードバック制御を行い、リッチスパイク制御部93において流出添加剤量RDCT_NSRout[k]を少なくするようにリッチスパイク制御を実施することにより、NSR触媒70における有害物質の浄化性能を維持しつつ、余分な添加剤の量を減らすことができる。この結果、本構成によれば、NSR触媒70におけるリッチスパイク制御のような、燃料を消費してNSR触媒70に吸蔵されている有害物質を還元する還元制御における、燃料消費量を低減できる。
【0102】
さらに、第4実施形態によれば、推定部110cは、機械学習モデルにより構成された第5モデル125を用いて流出添加剤量RDCT_NSRout[k]を推定するため、数多くの要因が影響する流出添加剤量の推定を、低演算負荷かつ高速に実施できる。また、十分に学習された機械学習モデルを第5モデル125とすることで、推定部110cは、流出添加剤量を高精度で推定できる。
【0103】
さらに、第4実施形態によれば、推定部110cは、機械学習モデルである第5モデル125による推定結果(流出添加剤量RDCT_NSR
out[k]、
図9:ステップS40)から、リッチスパイク制御(還元制御)における有害物質としてのNOxの還元量NOx_rdct[k]を求めることができる(
図9:ステップS42)。また、推定部110cは、求めたNOxの還元量NOx_rdct[k]と、機械学習モデルである第1モデル121及び第3モデル123による推定結果(窒素酸化物の浄化率NOxConv[k]、気相反応で浄化される有害物質としての窒素酸化物の浄化量NOx_Gas[k])と、物理モデルである第4モデル124による推定結果(還元制御において還元反応に寄与しない添加剤の量Ad_thrmlytc[k])とを併用し、物理則を用いて、NSR触媒70におけるNOxの吸蔵量NOxSt[k+1]を推定する。このため、第4実施形態の触媒状態推定装置10cによれば、より数多くの要因が影響するNOxの吸蔵量の推定を、物理則を満たしつつ、高精度、かつ高速に実施できる。また、NSR触媒70におけるNOxの吸蔵量は、前の時刻の吸蔵量の影響を受けて変動する。第4実施形態の触媒状態推定装置10cによれば、推定部110cは、第1モデル121、第3モデル123、第4モデル124、及び第5モデル125による現在の推定結果を用いて、次の時刻(時刻t=(k+1)Δt)における吸蔵量NOxSt[k+1]を推定する。このため、推定部110cは、前の時刻(時刻t=kΔt)のNSR触媒70の浄化性能を踏まえて、次の時刻におけるNSR触媒70の浄化性能を高精度に推定できる。
【0104】
さらに、第4実施形態によれば、推定部110cは、NSR触媒70の浄化性能に影響を及ぼす触媒の情報と、NSR触媒70に流入する排気の情報との両方を触媒状態推定モデル120c(第5モデル125)に適用することによって、NSR触媒70の浄化性能をさらに精度良く推定することができる(
図9:ステップS40)。また、推定部110cは、NSR触媒70の浄化性能に影響を及ぼす触媒の情報と、添加剤の情報との両方を触媒状態推定モデル120c(第5モデル125)に適用することによって、NSR触媒70の浄化性能をさらに精度良く推定することができる(
図9:ステップS40)。
【0105】
なお、第4実施形態の触媒状態推定装置10cは、
図6で説明した第2実施形態と同様に、第1、第3、及び第4モデルのうちの少なくとも一部を含んでいなくてもよい。この場合、推定部110cは、
図9で説明した処理において、触媒状態推定モデル120cに含まれるモデルを用いて実行可能なステップを実行し、その推定結果の少なくとも一部を、NSR触媒70の浄化性能として出力する。このようにしても、上述した第1実施形態及び第4実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0106】
なお、第4実施形態の触媒状態推定装置10cは、
図7で説明した第3実施形態と同様に、劣化度の異なる複数のNSR触媒70から取得された教師データを用いてそれぞれ作成された、複数の第5モデル125を含んでいてもよい。この場合、推定部110cは、
図9で説明した処理のステップS40において、NSR触媒70の劣化の度合に応じた第5モデル125を用いて、NSR触媒70の流出添加剤量を推定する。このようにすれば、推定部110cは、NSR触媒70の劣化度に合わせて最適な第5モデル125を採用することができる。この結果、NSR触媒70の浄化性能をさらに高精度に推定できる。
【0107】
<第5実施形態>
図10は、第5実施形態における排気浄化システム1dのブロック図である。第5実施形態の排気浄化システム1dは、複数のNSR触媒が搭載された排気浄化装置20dに用いられ、複数のNSR触媒全体としての浄化性能を推定することができる。排気浄化システム1dは、
図1で説明した第1実施形態の構成において、触媒状態推定装置10に代えて触媒状態推定装置10dを備え、排気浄化装置20に代えて排気浄化装置20dを備える。
【0108】
排気浄化装置20dは、さらに、NSR触媒70の下流側に配置された第2NSR触媒71を備える。以降では区別のために、NSR触媒70を第1NSR触媒70とも呼ぶ。第2NSR触媒71は、第1NSR触媒70と同種のNOx吸蔵還元触媒である。本実施形態において、「同種の触媒」とは、触媒における排気浄化メカニズムが同一または類似の触媒を意味する。第2NSR触媒71は、第1NSR触媒70において吸蔵しきれずに下流側に漏れ出した有害物質(NOx)を、第2NSR触媒71内に吸蔵して溜め込むことで、排気中のNOxを浄化する。以降、排気浄化装置20dに搭載された複数の同種の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)を総称して「触媒群CG」とも呼ぶ。
図10に示す構成において、第1NSR触媒70は「最上流に位置する触媒」に相当し、第2NSR触媒71は「最下流に位置する触媒」に相当する。
【0109】
なお、本実施形態では、第1実施形態で説明したリッチスパイク制御(還元制御)は、複数の触媒のそれぞれで実施される。具体的には、内燃機関92から排出されたCO、H2、及びその他の未燃ガスによって、NSR触媒70に吸蔵されているNOxが窒素ガス(N2)へと還元される。また、第1NSR触媒70での還元制御で用いられずに第1NSR触媒70から流出したCO、H2、及びその他の未燃ガスによって、第2NSR触媒71に吸蔵されているNOxが窒素ガス(N2)へと還元される。
【0110】
触媒状態推定装置10dは、さらに、第2NSR触媒71の床温を測定するセンサからなる第2温度取得部79を備える。また、触媒状態推定装置10dは、推定部110に代えて推定部110dを、触媒状態推定モデル120に代えて触媒状態推定モデル120dを備える。推定部110dは、推定処理の内容が第1実施形態(
図4)とは相違する。触媒状態推定装置10dには、第1モデル121dと、第2モデル122dと、第3モデル123dと、第4モデル124dとが含まれている。
【0111】
第1モデル121dは、排気浄化装置20dに搭載された複数の同種の触媒(すなわち、第1及び第2NSR触媒70,71)について、当該複数の触媒全体としてのNOxの浄化率を推定するためのモデルである。第1モデル121dは、第1実施形態と同様に、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第1モデル121dの入力変数ベクトルUの各成分には、以下の項目a11,a12に示すパラメータが採用できる。
(a11)触媒の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70の前端の温度と、第1及び第2NSR触媒70,71の各温度と、1時刻前において複数の触媒70,71に吸蔵されているNOxの実吸蔵量の合計値と、複数の触媒70,71におけるNOxの飽和吸蔵量の合計値に対する実吸蔵量の合計値の比と、のうちの少なくとも1つ
(a12)排気の情報:内燃機関92から最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する排気の温度と、当該排気の流量と、当該排気に含まれるNOxの量と、のうちの少なくとも1つ
【0112】
第1実施形態と同様に、第1モデル121dのベクトルUに対しては、項目a11に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目a12に示す排気の情報については、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。ベクトルUの各成分が入力層に入力された後の処理については、第1実施形態と同様である。第1モデル121dの出力変数Zは、入力変数が表わす諸条件下における、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)全体としてのNOxの浄化率の推定値である。
【0113】
第1モデル121dは、第1実施形態と同様に、出力変数Zが推定対象となる物理量と一致するように、入力変数と出力変数との関係をNNに学習させ、NNにおける各値Wij,θj,Wjk,θkを予め決定しておく。この学習の際、本実施形態では、模範用の主流路(排気管)に配置された同種の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒)からなる触媒群CGについて、最上流に位置する第1NSR触媒の入口を第1NSR触媒70の入口とみなし、最下流に位置する第2NSR触媒の出口を触媒群CGの出口とみなして、触媒群CGから取得された教師データを用いることが好ましい。
【0114】
第2モデル122dは、複数の触媒それぞれに対するリッチスパイク制御(還元制御)における、NOxの還元量の合計値を推定するためのモデルである。第2モデル122dは、第1実施形態と同様に、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第2モデル122dの入力変数となるベクトルUの各成分には、以下の項目b11~b13に示すパラメータが採用できる。
(b11)触媒の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70の前端の温度と、第1及び第2NSR触媒70,71の各温度と、1時刻前において複数の触媒70,71に吸蔵されているNOxの実吸蔵量の合計値と、のうちの少なくとも1つ
(b12)排気の情報:内燃機関92から最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する排気の温度と、当該排気の流量と、のうちの少なくとも1つ
(b13)添加剤の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する添加剤(CO、H2、及びその他の未燃ガス)の量と、複数の触媒70,71それぞれに対するリッチスパイク制御において還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値と、のうちの少なくとも1つ
【0115】
第1実施形態と同様に、第2モデル122dのベクトルUに対しては、項目b11に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目b12,b13に示す排気の情報と添加剤の情報とについては、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。第2モデル122dの出力変数Zは、入力変数が表わす諸条件下における、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)のそれぞれに対するリッチスパイク制御における、NOxの還元量の合計値(合計の推定値)である。なお、第2モデル122dは、第1モデル121dと同様に、同種の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒)からなる触媒群CGから取得された教師データを用いることが好ましい。
【0116】
第3モデル123dは、複数の触媒それぞれの気相反応における、NOxの浄化量の合計値を推定するためのモデルである。第3モデル123dは、第1実施形態と同様に、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第3モデル123dの入力変数となるベクトルUの各成分には、以下の項目c11,c12に示すパラメータが採用できる。
(c11)触媒の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70の前端の温度と、第1及び第2NSR触媒70,71の各温度と、のうちの少なくとも1つ
(c12)排気の情報:内燃機関92から最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する排気の温度と、当該排気の流量と、当該排気に含まれるNOxの量と、のうちの少なくとも1つ
【0117】
第1実施形態と同様に、第3モデル123dのベクトルUに対しては、項目c11に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目c12に示す排気の情報については、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。第3モデル123dの出力変数Zは、入力変数が表わす諸条件下における、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)それぞれの気相反応における、NOxの浄化量の合計値(合計の推定値)である。なお、第3モデル123dは、第1モデル121dと同様に、同種の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒)からなる触媒群CGから取得された教師データを用いることが好ましい。
【0118】
第4モデル124dは、複数の触媒それぞれに対するリッチスパイク制御(還元制御)において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値を推定するためのモデルである。第4モデル124dは、第1実施形態と同様に、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第4モデル124dの入力変数となるベクトルUの各成分には、以下の項目d11~d13に示すパラメータが採用できる。
(d11)触媒の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70の前端の温度と、第1及び第2NSR触媒70,71の各温度と、のうちの少なくとも1つ
(d12)排気の情報:内燃機関92から最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する排気の温度と、当該排気の空燃比と、のうちの少なくとも1つ
(d13)添加剤の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する添加剤(CO、H2、及びその他の未燃ガス)の量
【0119】
第1実施形態と同様に、第4モデル124dのベクトルUに対しては、項目d11に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目d12,d13に示す排気の情報と添加剤の情報とについては、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。第4モデル124dの出力変数Zは、入力変数が表わす諸条件下における、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)のそれぞれに対するリッチスパイク制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値(合計の推定値)である。なお、第4モデル124dは、第1モデル121dと同様に、同種の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒)からなる触媒群CGから取得された教師データを用いることが好ましい。
【0120】
図11は、第5実施形態の推定部110dによる推定処理の手順を示すフローチャートである。第5実施形態の推定処理は、複数の触媒全体として(触媒群CG全体として)の浄化性能を推定する処理であり、
図4に示す第1実施形態と同様に、任意のタイミングで実行される。以降の説明において使用するΔt、時刻t=kΔt、時刻t=(k+1)Δt、時刻t=(k-1)Δtの各定義は第1実施形態と同様である。また、以降の説明では、
図4に示す第1実施形態と異なる処理についてのみ説明する。
【0121】
ステップS14dにおいて推定部110dは、現在(時刻t=kΔt)における、最上流に位置する第1NSR触媒70に流入するNOx量NOx_NSRinを取得する。ステップS16dにおいて推定部110dは、第1温度取得部78から、現在(時刻t=kΔt)の第1NSR触媒70の床温T1[k]を取得する。また、推定部110dは、第2温度取得部79から、現在(時刻t=kΔt)の第2NSR触媒71の床温T2[k]を取得する。ステップS18dにおいて推定部110dは、リッチスパイク制御により噴射される燃料の量から、予め用意された計算式やマップ等を用いて、現在(時刻t=kΔt)において、最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する添加剤の量RDCT_NSRin[k]を取得する。ステップS20dにおいて推定部110dは、排気温度取得部53から、現在(時刻t=kΔt)の、最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する排気の温度T_NSRin[k]を取得する。
【0122】
ステップS24dにおいて推定部110dは、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)におけるNOxの飽和吸蔵量の合計値に対する、実吸蔵量の合計値の比を算出する。具体的には、推定部110dは、ステップS16dで取得した第1NSR触媒70の床温T1[k]を、特性NP(
図5)を表す関係式に当て嵌めて、現在(時刻t=kΔt)の第1NSR触媒70のNOx飽和吸蔵量を求める。同様に、推定部110dは、ステップS16dで取得した第2NSR触媒71の床温T2[k]を、特性NP(
図5)を表す関係式に当て嵌めて、現在(時刻t=kΔt)の第2NSR触媒71のNOx飽和吸蔵量を求める。推定部110dは、求めた第1及び第2NSR触媒70,71のNOx飽和吸蔵量の和を、複数の触媒におけるNOxの飽和吸蔵量の合計値StrtNOxSt[k]とする。
【0123】
次に、推定部110dは、求めたNOxの飽和吸蔵量の合計値StrtNOxSt[k]と、複数の触媒におけるNOxの実吸蔵量の合計値NOxSt[k]と、を用いて、飽和吸蔵量の合計値に対する実吸蔵量の合計値の比r[k]を算出する。ここで、複数の触媒におけるNOxの実吸蔵量の合計値NOxSt[k]について、前回実行された推定処理(
図11)で得られた推定値を利用できる点、推定値が無い場合等に所定のデフォルト値を利用できる点については第1実施形態と同様である。
【0124】
ステップS26dにおいて推定部110dは、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)全体としてのNOxの浄化率の推定値を算出する。具体的には、推定部110dは、第1モデル121dの入力変数ベクトルUに、ステップS12,S14d,S16d,S20d,S24d,前回の推定処理の結果、として求めた現在(時刻t=kΔt)の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110dは、第1モデル121dから得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)全体としてのNOxの浄化率NOxConv[k]とする。
【0125】
ステップS27dにおいて推定部110dは、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)それぞれの気相反応における、NOxの浄化量の合計値(合計の推定値)を算出する。具体的には、推定部110dは、第3モデル123dの入力変数ベクトルUに、ステップS12,S14d,S16d,S20dで求めた現在(時刻t=kΔt)の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110dは、第3モデル123dから得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)それぞれの気相反応における、NOxの浄化量の合計値(合計の推定値)NOx_Gas[k]とする。
【0126】
ステップS28dにおいて推定部110dは、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)のそれぞれに対するリッチスパイク制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値(合計の推定値)を算出する。具体的には、推定部110dは、第4モデル124dの入力変数ベクトルUに、ステップS16d,S18d,S20dで求めた現在(時刻t=kΔt)の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110dは、第4モデル124dから得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)のそれぞれに対するリッチスパイク制御において、還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値(合計の推定値)Ad_thrmlytc[k]とする。
【0127】
ステップS30dにおいて推定部110dは、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)のそれぞれに対するリッチスパイク制御における、NOxの還元量の合計値(合計の推定値)を算出する。具体的には、推定部110dは、第2モデル122dの入力変数ベクトルUに、ステップS12,S16d,S18d,S20d,S28d、前回の推定処理の結果、として求めた現在(時刻t=kΔt)の各値を設定し、出力変数Zを求める。推定部110dは、第2モデル122dから得られた出力変数Zを、現在(時刻t=kΔt)の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)のそれぞれに対するリッチスパイク制御における、NOxの還元量の合計値(合計の推定値)NOx_rdct[k]とする。
【0128】
ステップS32dにおいて推定部110dは、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)において、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)に吸蔵されているNOxの吸蔵量の合計値(合計の推定値)NOxSt[k+1]を算出する。具体的には、推定部110dは、第1実施形態のステップS32で説明した数式4及び数式5に対して、ステップS12、S14d~S30dで推定または算出した、現在(時刻t=kΔt)の複数の触媒における浄化性能(または状態)である。ステップS32dが終了した後、推定部110dは、ステップS32dで推定したNOxの吸蔵量の合計値NOxSt[k+1]を出力する。詳細は、第1実施形態と同様である。
【0129】
以上のように、第5実施形態の触媒状態推定装置10dによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第5実施形態の触媒状態推定装置10dによれば、主流路(排気管30)に複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)が設けられている場合に、推定部110dは、最上流に位置する第1NSR触媒70の情報を触媒状態推定モデル120dに適用することで、複数の触媒全体としての浄化性能を推定することができる。すなわち、第5実施形態の触媒状態推定装置10dによれば、主流路上の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)を1つの触媒(すなわち、触媒群CG)とみなして、触媒群CGの浄化性能を推定できる。このため、各触媒の浄化性能をそれぞれ推定する場合と比較して、触媒の情報の取得部(例えば、流量取得部52、排気温度取得部53、NOx濃度取得部54等を構成するセンサ)の数や、予め準備する触媒状態推定モデル120dの数を減らすことができると共に、触媒状態推定装置10dにおける演算負荷を低減できる。また、推定部110dは、主流路に設けられた複数の触媒が同種の触媒(第5実施形態の例では、NSR触媒)である場合に、これらを1つの触媒とみなして浄化性能を推定する。同種の触媒であれば、浄化性能を左右する触媒の情報項目(例えば、流入する添加剤の量等)に相違がないため、推定部110dは、浄化性能を精度良く推定することができる。
【0130】
また、第5実施形態の触媒状態推定装置10dによれば、模範用の主流路に配置された複数の触媒を1つの触媒(触媒群CG)として、当該触媒群CGから取得された教師データを用いて学習させることで、触媒状態推定モデル120dの第1モデル121d、第2モデル122d、第3モデル123d、第4モデル124dを構築できる。このため、触媒状態推定モデル120dのこれら各モデルでは、触媒群CGに属する各触媒間における主流路(排気管等)の影響を加味できる。このようにして構築された触媒状態推定モデル120dを推定処理で使用することによって、推定部110dは、主流路の各触媒間(第1NSR触媒70と、第2NSR触媒71との間)における、排気管等の情報を必要とせず、複数の触媒全体としての浄化性能を精度良く推定することができる。
【0131】
なお、上記第5実施形態では、複数の触媒の具体例として、2つのNSR触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)を例示した。しかし、排気浄化システム1dは、3つ以上のNSR触媒を備えていてもよい。
【0132】
<第6実施形態>
図12は、第6実施形態における排気浄化システム1eのブロック図である。
図10で説明した第5実施形態では、排気浄化装置20dに設けられた各触媒の温度(床温)は、各触媒に対してそれぞれ設けられた第1及び第2温度取得部78,79によってそれぞれ取得した。しかし、第6実施形態の排気浄化システム1eでは、触媒状態推定装置10eは、第2温度取得部79に代えて、温度推定部159を備える。温度推定部159は、最上流に位置する第1NSR触媒70以外の、他の触媒(
図12の例では、第2NSR触媒71)の温度を推定する。
【0133】
温度推定部159は、第1温度取得部78により取得された第1NSR触媒70の温度T1から、予め用意された計算式やマップ等を用いて、第2NSR触媒71の温度T2を算出する。なお、温度推定部159は、最上流に位置する第1NSR触媒70の温度T1に加えてさらに、内燃機関92からの排気の温度、排気の流量、第1NSR触媒70により生じる反応熱等、任意のパラメータを考慮して第2NSR触媒71の温度T2を算出してもよい。また、排気浄化システム1eに3つ以上の触媒が搭載されている場合であっても同様に、温度推定部159は、最上流に位置する第1NSR触媒70の温度T1から、他の触媒の温度Tn(nは、各触媒を区別するための自然数)を算出できる。推定部110eは、
図11で説明した推定処理のステップS16dにおいて、温度推定部159から他の触媒の温度Tnを取得する。
【0134】
以上のように、第6実施形態の触媒状態推定装置10eによっても、上述した第1実施形態及び第5実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第6実施形態の触媒状態推定装置10eによれば、温度推定部159は、最上流に位置する第1NSR触媒70の温度から、他の触媒の温度を推定することができるため、他の触媒の温度を取得するための取得部(センサ等)を省略できる。
【0135】
<第7実施形態>
図13は、第7実施形態の排気浄化システム1fのブロック図である。第7実施形態の排気浄化システム1fは、複数のNSR触媒が搭載された排気浄化装置20dに用いられ、リッチスパイク制御時に複数のNSR触媒から流出する添加剤の量(より具体的には還元剤の量、流出添加剤量)を推定できる。排気浄化システム1fは、第1実施形態で説明した触媒状態推定装置10に代えて触媒状態推定装置10fを備え、排気浄化装置20に代えて排気浄化装置20dを備える。
【0136】
排気浄化装置20dの構成は、第5実施形態(
図10)で説明した通りである。触媒状態推定装置10fの記憶部12には、触媒状態推定モデル120に代えて触媒状態推定モデル120fが記憶されている。触媒状態推定モデル120fは、第1モデル121d、第5モデル125f、第3モデル123d、第4モデル124dを含んでいる。第1モデル121d、第3モデル123d、及び第4モデル124dの構成は、第5実施形態(
図10,
図11)で説明した通りである。
【0137】
第5モデル125fは、排気浄化装置20dに搭載された複数の同種の触媒(すなわち、第1及び第2NSR触媒70,71)でのリッチスパイク制御(還元制御)において消費されずに、最下流に位置する触媒(すなわち、第2NSR触媒71)から流出する添加剤の量(流出添加剤量)を推定するためのモデルである。第5モデル125fは、第4実施形態と同様に、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第5モデル125fの入力変数ベクトルUの各成分には、以下の項目e11~e13に示すパラメータが採用できる。
(e11)触媒の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70の前端の温度と、第1及び第2NSR触媒70,71の各温度と、1時刻前において複数の触媒70,71に吸蔵されているNOxの実吸蔵量の合計値と、のうちの少なくとも1つ
(e12)排気の情報:内燃機関92から最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する排気の温度と、当該排気の流量と、のうちの少なくとも1つ
(e13)添加剤の情報:最上流に位置する第1NSR触媒70に流入する添加剤(CO、H2、及びその他の未燃ガス)の量と、複数の触媒70,71それぞれに対するリッチスパイク制御において還元反応に寄与しない添加剤の量の合計値と、のうちの少なくとも1つ
【0138】
第4実施形態と同様に、第5モデル125fのベクトルUに対しては、項目e11に示す触媒の情報について、少なくとも1つ以上を入力することが必要であり、項目e12,e13に示す排気の情報と添加剤の情報とについては、少なくとも1つ以上が入力されてもよく、全て省略されてもよい。第5モデル125fの出力変数Zは、入力変数が表わす諸条件下における、複数の同種の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)でのリッチスパイク制御において消費されずに、最下流に位置する触媒(第2NSR触媒71)から流出する添加剤の量(流出添加剤量)である。なお、第5モデル125fは、第1モデル121dと同様に、同種の複数の触媒(第1及び第2NSR触媒)からなる触媒群CGから取得された教師データを用いることが好ましい。
【0139】
推定部110fにおいて実行される推定処理の手順は、ステップS30dに代えて以下のステップS40f,S42fを実行する点を除き、第5実施形態(
図11)と同様である。
・ステップS40f:推定部110fは、第5モデル125fを用いて、リッチスパイク制御において消費されずに、最下流に位置する触媒(第2NSR触媒71)から流出する添加剤の量(流出添加剤量)RDCT_NSR
out[k]を推定する。
・ステップS42f:推定部110fは、第4実施形態(
図9)で説明した数式6を用いて、複数の触媒(第1及び第2NSR触媒70,71)でのリッチスパイク制御により還元されるNOxの還元量の合計値NOx_rdct[k]を求める。
【0140】
以上のように、第7実施形態の触媒状態推定装置10fによっても、上述した第4実施形態及び第5実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、第7実施形態の排気浄化システム1fにおいても、第6実施形態と同様に、温度推定部159を用いて下流側のNSR触媒の温度(床温)を推定してもよい。
【0141】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0142】
[変形例1]
上記実施形態では、排気浄化システムの構成の一例を示した。しかし、排気浄化システムの構成は種々の変形が可能である。例えば、排気浄化システムは、内燃機関の排気を浄化する以外の用途に用いられてもよい。例えば、排気浄化システムは、工業施設、商業施設、家庭等からの排気を浄化するために用いられてもよい。
【0143】
例えば、排気浄化システムの排気浄化装置には、NSR触媒と、SCR触媒と、三元触媒とのうちの複数の触媒が組み合わせて搭載され、触媒状態推定装置は、これら複数の触媒群における浄化性能をそれぞれ推定してもよい。また、排気浄化装置には、粒子状物質(PM)を除去する粒子状物質除去フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)が搭載され、触媒状態推定装置は、このDPFにおける浄化性能を推定してもよい。
【0144】
例えば、触媒の床温を取得する温度取得部は、触媒の前方(入口近傍)又は後方(出口近傍)に設けられてもよい。
【0145】
例えば、流量取得部、排気温度取得部、NOx濃度取得部、前端温度取得部、温度取得部がそれぞれ取得するとした流量、排気温度、NOx濃度、前端温度、触媒の温度のうちの少なくともいずれかは、センサによる計測値に代えて、触媒状態推定モデルを用いて推定された温度で代用されてもよい。具体的には、例えば、触媒の温度は、上述したNSR触媒におけるNOx吸蔵量と同様に、時間履歴の影響を受ける。このため、触媒の温度を推定できる触媒状態推定モデルを別途作成し、当該触媒状態推定モデルによって、触媒の温度を推定してもよい。
【0146】
[変形例2]
上記実施形態では、推定部における推定処理の一例を示した(
図4,
図9,
図11)。しかし、推定処理の内容は種々の変形が可能である。例えば、
図4,
図9,
図11に示す推定処理において、ステップS12~S24の実行順序を変更してもよく、ステップS26~S30,S40,S42の実行順序を変更してもよい。また、ステップS12~S32,S40,S42のうち、少なくとも一部のステップは省略してもよく、説明しない他のステップを実行してもよい。
【0147】
例えば、推定部は、上述した各ステップに加えてさらに、次のステップS100,S102の少なくとも一方を実行してもよい。ステップS100,S102は、任意のタイミングで実行できる。
・ステップS100:リッチスパイク制御部は、リッチスパイク制御を行う時間を十分に長く設定して、NSR触媒に吸蔵されているNOxを十分に(飽和吸蔵量に対する実吸蔵量が0とみなせる程度まで)還元させる。この状態で、推定部は、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)において、NSR触媒に吸蔵されているNOxの吸蔵量の推定値NOxSt[k+1]を0にリセットする。
・ステップS102:リッチスパイク制御部は、リッチスパイク制御を停止させた状態で、NSR触媒にNOxを十分に(飽和吸蔵量に対する実吸蔵量の割合が100%となみせる程度まで)吸蔵させる。この状態で、推定部は、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)において、NSR触媒に吸蔵されているNOxの吸蔵量の推定値NOxSt[k+1]を飽和吸蔵量にリセットする。
このようなステップS100,S102によれば、
図4,
図9,
図11に示した推定処理を繰り返すことによって誤差が蓄積され、推定値が実際の値と乖離した場合に、これをリセットすることができる。
【0148】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0149】
[変形例3]
第1~第7実施形態の排気浄化システム及び触媒状態推定装置の構成、及び上記変形例1,2の排気浄化システム及び触媒状態推定装置の構成は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第4,第5,第6,第7の各実施形態で説明した触媒状態推定装置において、第2実施形態で説明した一部のモデルを有する触媒状態推定モデルを用いてもよく、第3実施形態で説明した複数の第1モデル、複数の第2モデル、複数の第3モデル、複数の第4モデル、及び複数の第5モデルのいずれか1つ以上を含む触媒状態推定モデルを用いてもよい。
【符号の説明】
【0150】
1,1a~1f…排気浄化システム
10,10a~10f…触媒状態推定装置
11…CPU
12…記憶部
20…排気浄化装置
30…排気管
52…流量取得部
53…排気温度取得部
54…NOx濃度取得部
70…NSR触媒
76…前端温度取得部
78…温度取得部
91…燃焼状態制御部
92…内燃機関
93…リッチスパイク制御部
110,110a~110f…推定部
120,120a~110d,110f…触媒状態推定モデル
121,121b,121d,121f…第1モデル
122,122b,122d,122f…第2モデル
123,123b,123d,123f…第3モデル
124,124b,124d,124f…第4モデル
125,125f…第5モデル
159…温度推定部