(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B60R 16/02 20060101AFI20230516BHJP
B60R 16/04 20060101ALI20230516BHJP
B60R 16/03 20060101ALI20230516BHJP
G06F 13/00 20060101ALI20230516BHJP
G06F 8/65 20180101ALI20230516BHJP
【FI】
B60R16/02 660U
B60R16/04 W
B60R16/03 J
G06F13/00
G06F8/65
(21)【出願番号】P 2020509775
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2019008927
(87)【国際公開番号】W WO2019188073
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018061482
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴之
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037059(JP,A)
【文献】特開2012-103181(JP,A)
【文献】特開2008-199822(JP,A)
【文献】特開2016-060388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
B60R 16/04
B60R 16/03
G06F 13/00
G06F 8/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載制御装置と通信可能な車内通信部と、
前記車内通信部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車載制御装置に電力供給するバッテリが初期状態の性能を維持してい
る健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の実行の要求を前記車内通信部に送信させるか否かを判定するための判定処理を実行する、制御装置。
【請求項2】
前記判定処理は、以下の第1の条件及び第2の条件の少なくとも1つを満たすか否かを判定することを含む、請求項1に記載の制御装置。
第1の条件:バッテリの健全度合いが基準の健全度合いよりも高いこと
第2の条件:発電機が発電状態であること
【請求項3】
前記判定処理は、以下の第1の条件及び第2の条件の少なくとも1つを満たすか否かを判定することを含む、請求項1に記載の制御装置。
第1の条件:バッテリの健全度合いが基準の健全度合いよりも高いこと
第2の条件:発電機の発電量が車両における消費電力量よりも大きいこと
【請求項4】
前記制御部は、前記判定処理において、前記第1の条件及び前記第2の条件を満たさない場合に、前記要求を前記車内通信部に送信させない、請求項2又は請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記判定処理は、前記第1の条件及び前記第2の条件を満たさない場合に、前記第2の条件を満たすか否かを再度判定することを含む、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の条件及び前記第2の条件を満たさない場合、表示装置を制御する車載制御装置に対する報知画面の表示指示を、前記車内通信部に送信させ、
前記報知画面は、前記更新処理を実行しないことを報知するための画面である、請求項3~請求項5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2の条件を満たす場合、前記更新処理の要求の送信後に、前記発電機を制御する車載制御装置に対する前記発電機の発電状態の維持の要求を、前記車内通信部に送信させる、請求項2~請求項6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記判定処理は、前記バッテリを制御する車載制御装置から前記バッテリの電圧値と電流値とのうちの少なくとも一方の値を取得して、取得した前記値を用いて前記バッテリの健全度合いの指標値を算出し、前記指標値と閾値とを比較することを含む、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
車載制御装置に対して、制御プログラムの更新処理の実行を指示する方法であって、
前記車載制御装置に電力供給するバッテリが初期状態の性能を維持してい
る健全度合いの指標値を算出するステップと、
前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態を示す電力情報を取得するステップと、
前記指標値と前記電力情報とを用いて、前記車載制御装置に対して前記更新処理の実行を要求するか否かを判定するための判定処理を実行するステップと、を備える、制御方法。
【請求項10】
車載制御装置に対して制御プログラムの更新処理の実行を指示する制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記制御装置は、車載制御装置と通信可能な通信部を有し、
前記コンピュータを、
前記車載制御装置に電力供給するバッテリが初期状態の性能を維持してい
る健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の実行の要求を前記通信部に送信させるか否かを判定するための判定処理を実行する制御部、として機能させる、コンピュータプログラム。
【請求項11】
車載制御装置と通信可能な車内通信部と、
前記車内通信部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車載制御装置に電力供給するバッテリが初期状態の性能を維持してい
る健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機の動作状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の要求を前記車内通信部に送信させるか否かの判定を行う、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、およびコンピュータプログラムに関する。本出願は、2018年3月28日出願の日本出願第2018-061482号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の技術分野においては、車両の高機能化が進行しており、多種多様な車載機器が車両に搭載されている。従って、車両には、各車載機器を制御するための制御装置である、所謂ECU(Electronic Control Unit)が多数搭載されている。
ECUの種類には、例えば、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作に対してエンジンやブレーキ、EPS(Electric Power Steering)等の制御を行う走行系に関わるもの、乗員によるスイッチ操作に応じて車内照明やヘッドライトの点灯/消灯と警報器の吹鳴等の制御を行うボディ系ECU、運転席近傍に配設されるメータ類の動作を制御するメータ系ECUなどがある。
【0003】
一般的にECUは、マイクロコンピュータ等の演算処理装置によって構成されており、ROM(Read Only Memory)に記憶した制御プログラムを読み出して実行することにより、車載機器の制御が実現される。
ECUの制御プログラムは、バージョンアップに対応して、旧バージョンの制御プログラムを新バージョンの制御プログラムに書き換える必要がある。また、たとえば地図情報や制御用のパラメータなど、制御プログラムの実行に必要なデータも書き換える必要がある。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ネットワークを介して更新用プログラムをダウンロードし、ECUの制御プログラムの更新を行う技術(オンライン更新機能)が開示されている。特許文献1の技術では、ECUにおいて制御プログラムの更新中に車両機器の操作が行われないようにするため、車両が停止され、ユーザが当該車両から降車した状態で更新が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-121396号公報
【文献】特開2013-084143号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様に係る制御装置は、車載制御装置と通信可能な車内通信部と、前記車内通信部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の実行の要求を前記車内通信部に送信させるか否かを判定するための判定処理を実行する。
【0007】
本開示の一の態様に係る制御方法は、車載制御装置に対して、制御プログラムの更新処理の実行を指示する方法であって、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いの指標値を算出するステップと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態を示す電力情報を取得するステップと、前記指標値と前記電力情報とを用いて、前記車載制御装置に対して前記更新処理の実行を要求するか否かを判定するための判定処理を実行するステップと、を備える。
【0008】
本開示の一の態様に係るコンピュータプログラムは、車載制御装置に対して制御プログラムの更新処理の実行を指示する制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、前記制御装置は、車載制御装置と通信可能な通信部を有し、前記コンピュータを、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の実行の要求を前記通信部に送信させるか否かを判定するための判定処理を実行する制御部、として機能させる。
【0009】
本開示の一態様に係る制御装置は、車載制御装置と通信可能な車内通信部と、前記車内通信部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機の動作状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の要求を前記車内通信部に送信させるか否かの判定を行う。
【0010】
本開示は、このような特徴的な制御部を備える制御装置、かかる特徴的な処理をステップとする制御方法、かかるステップをコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現することができる。また、かかるステップの一部又は全部を実行する機能を有する半導体集積回路として実現したり、太陽光発電装置を含む太陽光発電システムとして実現したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る車両の構成を表した概略図である。
【
図2】第1の実施形態に係る車両の電源構成の一例を表わした概略図である。
【
図3】中継装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図5】車内の通信ネットワークでの更新処理の流れを示すシーケンス図である。
【
図6】第1の実施形態に係る中継装置の制御部において実行される更新要求処理の流れを表したフローチャートである。
【
図7】第3の実施形態に係る車両の電源構成の一例を表わした概略図である。
【
図8】第3の実施形態に係る中継装置の制御部において実行される更新要求処理の流れを表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本開示が解決しようとする課題>
更新処理が停車中に実行される場合、更新処理に必要な電力は車両に搭載された蓄電装置(バッテリ)から供給される。そのため、たとえば特開2011-121396号公報(特許文献1)、または、特開2013-084143号公報(特許文献2)は、更新処理に必要な電力がバッテリに蓄電されていることを確認した上で更新処理を実行する技術を開示している。
【0013】
バッテリの極板クラックなどの劣化度合いが極板間が短絡状態になるまで達すると、その時点で電力が供給されなくなる。そのため、バッテリに蓄電されていることを確認して更新処理を開始した場合であっても、更新処理中に短絡状態に達すると更新処理中のECUに電力供給がなされなくなる。この場合、更新処理は中断される。バッテリの劣化によって更新処理が中断されると、更新処理はバッテリ交換後に改めて実行されることになる。そのため、処理回数が増加したり、書き込まれるメモリの負担が増加したりする、という課題がある。
【0014】
<本開示の効果>
本開示によれば、車載制御装置での制御プログラムの更新処理中の、バッテリの劣化による電力供給不足を抑制できる。
【0015】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
(1) 本実施形態に係る制御装置は、車載制御装置と通信可能な車内通信部と、前記車内通信部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の実行の要求を前記車内通信部に送信させるか否かを判定するための判定処理を実行する。
これにより、車載制御装置での制御プログラムの更新処理中の、バッテリの劣化による電力供給不足を抑制できる。
【0016】
(2) また、本実施形態に係る制御装置において、前記判定処理は、以下の第1の条件及び第2の条件の少なくとも1つを満たすか否かを判定することを含んでもよい。
第1の条件:バッテリの健全度合いが基準の健全度合いよりも高いこと
第2の条件:発電機が発電状態であること
第1の条件を満たす場合、バッテリから供給される電力によって車載制御装置の更新処理を実行することができる。第2の条件を満たす場合、発電機から供給される電力によって更新処理を実行することができる。
【0017】
(3) また、本実施形態に係る制御装置において、前記判定処理は、以下の第1の条件及び第2の条件の少なくとも1つを満たすか否かを判定することを含んでもよい。
第1の条件:バッテリの健全度合いが基準の健全度合いよりも高いこと
第2の条件:発電機の発電量が車両における消費電力量よりも大きいこと
第1の条件を満たす場合、バッテリから供給される電力によって車載制御装置の更新処理を実行することができる。第2の条件を満たす場合、発電機から供給される電力によって更新処理を実行することができる。
【0018】
(4) また、本実施形態に係る制御装置において、前記制御部は、前記判定処理において、前記第1の条件及び前記第2の条件を満たさない場合に、前記要求を前記車内通信部に送信させなくてもよい。
第1の条件及び第2の条件を満たさない場合に更新処理の実行を要求しないことによって、車載制御装置が更新処理中にバッテリの劣化によって更新処理に必要な電力が不足し、更新処理が続行できなくなる事態を回避できる。
【0019】
(5) また、本実施形態に係る制御装置において、前記判定処理は、前記第1の条件及び前記第2の条件を満たさない場合に、前記第2の条件を満たすか否かを再度判定することを含んでもよい。
これにより、第2の条件を満たすまで更新処理の実行が保留されるが、停車におけるアイドリングストップ中ではスタータ、モータ機能付発電機等によりエンジンが始動することで第2の条件が満たされれば、更新処理を実行することができる。
【0020】
(6) また、本実施形態に係る制御装置において、前記制御部は、前記第1の条件及び前記第2の条件を満たさない場合、表示装置を制御する車載制御装置に対する報知画面の表示指示を、前記車内通信部に送信させ、前記報知画面は、前記更新処理を実行しないことを報知するための画面であってもよい。
上記表示指示が送信されることで、表示装置に報知画面が表示される。そのため、ユーザは、更新処理を開始するためにはエンジンを稼動させ、発電機に発電させる必要であることを知ることができる。その結果、更新処理の実行を優先するユーザは、電力供給のためにエンジンを稼動させて、更新処理を開始させることができる。これにより、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0021】
(7) また、本実施形態に係る制御装置において、前記制御部は、前記第2の条件を満たす場合、前記更新処理の要求の送信後に、前記発電機を制御する車載制御装置に対する前記発電機の発電状態の維持の要求を、前記車内通信部に送信させてもよい。
上記の要求が送信されることで、更新処理中に発電機が発電状態を維持する。そのため、バッテリの健全度合いが低い場合に、発電機からの電力を用いて更新処理を続行することができる。
【0022】
(8) また、本実施形態に係る制御装置において、前記判定処理は、前記バッテリを制御する車載制御装置から前記バッテリの電圧値と電流値とのうちの少なくとも一方の値を取得して、取得した前記値を用いて前記バッテリの健全度合いの指標値を算出し、前記指標値と閾値とを比較することを含んでもよい。
これにより、バッテリの劣化によって更新処理を行えない可能性があるか否かを高精度で判定できる。
【0023】
(9) 本実施形態に係る制御方法は、(車載制御装置に対して、制御プログラムの更新処理の実行を指示する方法であって、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いの指標値を算出するステップと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態を示す電力情報を取得するステップと、前記指標値と前記電力情報とを用いて、前記車載制御装置に対して前記更新処理の実行を要求するか否かを判定するための判定処理を実行するステップと、を備える。
これにより、車載制御装置での制御プログラムの更新処理中の、バッテリの劣化による電力供給不足を抑制できる。
【0024】
(10) 本実施形態に係るコンピュータプログラムは、車載制御装置に対して制御プログラムの更新処理の実行を指示する制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、前記制御装置は、車載制御装置と通信可能な通信部を有し、前記コンピュータを、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機による供給電力の状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の実行の要求を前記通信部に送信させるか否かを判定するための判定処理を実行する制御部、として機能させる。
これにより、車載制御装置での制御プログラムの更新処理中の、バッテリの劣化による電力供給不足を抑制できる。
【0025】
(11) 本実施形態に係る制御装置は、車載制御装置と通信可能な車内通信部と、前記車内通信部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車載制御装置に電力供給するバッテリの健全度合いと、前記車載制御装置に電力供給可能な発電機の動作状態と、に基づいて、前記車載制御装置に対する制御プログラムの更新処理の要求を前記車内通信部に送信させるか否かの判定を行う。
これにより、車載制御装置での制御プログラムの更新処理中の、バッテリの劣化による電力供給不足を抑制できる。
【0026】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
【0027】
<第1の実施形態>
[車両構成]
図1は第1の実施形態にかかる車両の構成を表した概略図である。
図1を参照して、本実施形態にかかる車両1は、車外装置と通信するための車載通信機15と、複数のECU(Electronic Control Unit)30A,30B,…と、車外装置と複数のECU30A,30B,…との通信を中継するECUである中継装置10と、を含む。複数のECU30A,30B,…を代表させてECU30とも称する。
【0028】
各ECU30は、中継装置10において終端する車内通信線16によって接続されて、中継装置10とともに車内の通信ネットワーク4を構成する。通信ネットワーク4はECU30同士の通信を可能とする、バス型の通信ネットワーク(たとえば、CAN(Controller Area Network))よりなる。この通信方式のネットワークでは、データフレームと呼ばれるフォーマットに情報を格納して送受信される。
【0029】
通信ネットワーク4は、CANだけでなく、LIN(Local Interconnect Network)、CANFD(CAN with Flexible Data Rate)、Ethernet(登録商標)、又はMOST(Media Oriented Systems Transport:MOSTは登録商標)などの通信規格を採用するネットワークであってもよい。
【0030】
ECU30は、たとえば、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作に対してエンジンやブレーキ、EPS(Electric Power Steering)等の制御を行うパワー・トレイン系ECU、スイッチ操作に応じて車内照明やヘッドライトの点灯/消灯と警報器の吹鳴等の制御を行うボディ系ECU、運転席近傍に配設されるメータ類の動作を制御するメータ系ECUなどである。
【0031】
中継装置10は、さらに、所定規格の通信線を介して車載通信機15と接続されている。または、中継装置10は、車載通信機15を搭載していてもよい。車載通信機15は、インターネット等の広域通信網2を介して、車外装置と無線通信する。車外装置は、たとえば、ECU30の更新用プログラムを保存するサーバ5である。または、車載通信機15は図示しないプラグを有し、当該プラグに接続された車外装置と有線にて通信してもよい。車載通信機15は、ユーザが所有する携帯電話機、スマートフォン、タブレット型端末、ノートPC(Personal Computer)等の装置であってもよい。
【0032】
中継装置10は、車外装置から車載通信機15が受信した情報をECU30に中継する。また、中継装置10は、ECU30から受信した情報を車載通信機15に中継する。車載通信機15は、中継された情報を車外装置に無線送信する。
【0033】
[車両の電源構成]
図2は、車両1の電源構成の一例を表わした概略図である。
図2では、車内通信線16と区別するために電力線17が太線で示されている。
図2を参照して、車両1は、電源として、発電機21と、バッテリ22とを有する。発電機21はエンジンの駆動に従って発電する発電機であって、たとえばオルタネータである。バッテリ22は、一般的に鉛蓄電池である。その他、リチウムイオン電池や、ニッケル水素電池など、これらの組み合わせなどであってもよい。
【0034】
発電機21およびバッテリ22には、中継装置10、ECU30A,30B,30C、およびスタータ23などの車載装置が電力線17を介して接続され、発電機21およびバッテリ22は、電力線17を介してこれら車載装置に電力を供給可能である。また、発電機21で発電された電力は電力線17を介してバッテリ22に供給され、蓄電されてもよい。
【0035】
車両1がハイブリット型車両である場合には、さらに、バッテリ22にDC/DCコンバータ24を介して高圧部25が接続されており、バッテリ22からの電力がDC/DCコンバータ24で昇圧されて高圧部25に供給される。
【0036】
[中継装置の構成]
図3は、中継装置10の内部構成を示すブロック図である。
図を参照して、中継装置10は、制御部11、記憶部12、車内通信部13、およびセンサインタフェース(I/F)14などを備える。
【0037】
中継装置10の制御部11は、CPU(Central Processing Unit)を含む。制御部11のCPUは、1または複数の大規模集積回路(LSI)を含む。複数のLSIを含むCPUでは、複数のLSIが協働して当該CPUの機能を実現する。制御部11のCPUは、たとえば時分割で複数のプログラムを切り替えて実行することにより、複数のプログラムを並列的に実行可能である。
【0038】
制御部11のCPUは、記憶部12に記憶された1または複数のプログラムを読み出して、各種処理を実行するための機能を有している。制御部11のCPUが実行するコンピュータプログラムは、CD-ROMやDVD-ROMなどの記録媒体に記録した状態で譲渡することもできるし、サーバコンピュータなどのコンピュータ装置からのダウンロードによって譲渡することもできる。
【0039】
記憶部12は、フラッシュメモリ若しくはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの不揮発性のメモリ素子を含む。記憶部12は、制御部11のCPUが実行するプログラムまたは実行に必要なデータなどを記憶する記憶領域を有する。
【0040】
車内通信部13には車内通信線16が接続されている。車内通信部13は、CANなどの所定の通信規格に則って、ECU30と通信する通信装置よりなる。
車内通信部13は、制御部11のCPUから与えられた情報を所定のECU30宛てに送信し、ECU30が送信元の情報を制御部11のCPUに与える。
【0041】
車載通信機15は、アンテナと、アンテナからの無線信号の送受信を実行する通信回路とを含む無線通信機である。車載通信機15は、携帯電話網等の広域通信網2に接続されることにより車外装置との通信が可能である。
車載通信機15は、図示しない基地局により形成される広域通信網2を介して、制御部11のCPUから与えられた情報をサーバ5等の車外装置に送信するとともに、車外装置から受信した情報を制御部11のCPUに与える。
【0042】
[ECUの内部構成]
図4は、ECU30の内部構成を示すブロック図である。
図を参照して、ECU30は、制御部31、記憶部32、および車内通信部33などを備える。
【0043】
ECU30の制御部31は、CPUを含む。制御部31のCPUは、記憶部32に記憶された1または複数のプログラムを読み出して、各種処理を実行するための機能を有している。上記機能として、制御部31のCPUは、制御プログラムの更新処理を実行するための機能を含む。
制御部31のCPUは、たとえば時分割で複数のプログラムを切り替えて実行することにより、複数のプログラムを並列的に実行可能である。
【0044】
制御部31のCPUは、1または複数の大規模集積回路(LSI)を含む。複数のLSIを含むCPUでは、複数のLSIが協働して当該CPUの機能を実現する。
【0045】
制御部31のCPUが実行するコンピュータプログラムは、CD-ROMやDVD-ROMなどの記録媒体に記録した状態で譲渡することもできるし、サーバコンピュータなどのコンピュータ装置からのダウンロードによって譲渡することもできる。
【0046】
記憶部32は、フラッシュメモリ、EEPROM、または、ROMなどの不揮発性のメモリ素子よりなる。記憶部32は、制御部11のCPUが実行するプログラムまたは実行に必要なデータなどを記憶する記憶領域を有する。詳しくは、記憶部32は、制御部31のCPUが実行するコンピュータプログラムを記憶する領域として第1領域321および第2領域322を含む。
【0047】
車内通信部33には車内通信線16が接続されている。車内通信部33は、CANなどの所定の通信規格に則って、中継装置10と通信する通信装置である。
車内通信部33は、制御部31のCPUから与えられた情報を所定の中継装置10宛てに送信し、中継装置10が送信元の情報を制御部31のCPUに与える。
【0048】
図2の例では、ECU30Bはバッテリ22を制御するECUであって、バッテリ22の電圧値、電流値、バッテリ22に蓄電されている電力量、蓄電されている電力量の満充電量に対する割合である充電率(SOC(State Of Charge))、のうちの少なくとも1つである、バッテリ22の状態を示す情報を中継装置10に送信する。
【0049】
また、
図2の例では、ECU30Cは発電機21を制御するECUであって、発電機21の稼働状況、発電量などの、発電機21の状態を示す情報を中継装置10に送信する。
【0050】
また、
図2の例では、ECU30Dは図示しないエンジンのスタータ23を制御するパワー・トレイン系ECUであって、エンジンのON/OFF、回転数、などの稼働状況などを中継装置10に送信するとともに、中継装置10からの制御フレームに従ってエンジン稼動を制御する。
【0051】
[制御プログラムの更新シーケンス]
ECU30の制御プログラムは、所定のタイミングで更新される。中継装置10は、サーバ5などから更新用プログラムを受信したタイミングなどで、更新処理を実行するECU30(以下、対象ECUと称する)に更新用プログラムを中継するとともに、制御装置として機能して、対象ECUに対して更新処理の実行を要求する。
【0052】
図5は、通信ネットワーク4での更新処理の流れを示すシーケンス図である。
図5を参照して、中継装置10は、サーバ5などから更新用プログラムが入力されると(ステップS1)、記憶部12に当該更新用プログラムを一時的に記憶する。記憶部12に更新用プログラムが記憶されているとき、中継装置10は、更新要求処理を実行する(ステップS2)。更新要求処理は、対象ECUのバッテリ状態を判定する判定処理(ステップS21)と、判定結果に応じて対象ECUに更新用プログラムを渡して更新処理を要求する処理(ステップS22)と、を含む。
【0053】
中継装置10からの要求を受信した対象ECUは、更新処理を実行する(ステップS3)。ステップS3の更新処理は、第1領域321および第2領域322のうちの、更新前(現バージョン)の制御プログラムが書き込まれている記憶領域ではない方の記憶領域に更新後(新バージョン)の制御プログラムを書き込む書換処理(ステップS31)と、制御部31が実行する制御プログラムの読み出し先を、第1領域321と第2領域322とで切り替える切替処理(ステップS32)と、を含む。
【0054】
更新処理が完了すると、対象ECUは中継装置10に更新処理の完了を通知する(ステップS4)。この通知を受けて、中継装置10は、記憶部12に一時的に記憶していた更新用プログラムを削除し、一連の処理が終了する。
【0055】
[更新要求処理]
図3を参照して、上記ステップS2の更新要求処理を実行するための機能として、中継装置10の制御部11は、判定部111、および、更新制御部112を有する。これら機能は、制御部11のCPUが記憶部12に記憶されているプログラムを読み出して実行することによって実現される。なお、
図3に示された駆動制御部113は、第2の実施形態にかかる中継装置10の制御部11に含まれる機能であって、第1の実施形態にかかる中継装置10の制御部11には含まれないものとして説明する。
【0056】
判定部111は、ステップS21の判定処理を実行する。ステップS21の判定処理は、予め規定された、対象ECUのバッテリ状態を判定するタイミング(判定タイミング)に達したか否かを判定する処理(第1の判定処理)と、判定タイミングにおいてバッテリ22の健全度合い(非劣化度合い)が閾値として設定された健全度合い以上であるか否かを判定する処理(第2の判定処理)と、発電機21が発電状態であるか否かを判定する処理(第3の判定処理)と、を含む。
【0057】
第1の判定処理において、判定部111は、各ECUから制御部11に入力された当該ECUの制御対象の機器の情報に基づいて、判定タイミングであるか否かを判定する。判定タイミングは、たとえば、発進時、停車時、アイドリングストップ時、および、アイドリングストップからの復帰時、などである。機器の情報は、たとえば、エンジンの稼動状態、および/または回転数、ならびに、ユーザ操作、などである。
【0058】
第2の判定処理において、判定部111は、バッテリ22を制御するECU(
図2の例ではECU30B)から制御部11に入力された、バッテリ22の電圧値と電流値とのうちの少なくとも1つに基づいて、バッテリ22の健全度合いを示す指標値である健全度指標値を算出する。ECU30Bに替えて、バッテリ22にセンサが接続されている場合、または、バッテリ22がセンサを含む場合、判定部111は、当該センサから制御部11に入力された信号に基づいて健全度指標値を算出してもよい。
【0059】
健全度指標値は、一例として、健全度SOH(State Of Health)である。健全度SOHは、満充電容量を設計容量で除して得られる。たとえば、健全度SOH=80は、バッテリ22が、現在の満充電容量が初期の満充電容量の80%となるまで劣化していることを意味している。
【0060】
なお、健全度指標値は、健全度SOHに限定されず、他の例として、劣化度SOD(State Of Degradation)と呼ばれる、SOD[%]=100[%]-SOH[%]で定義される値でもよい。以降の説明では、健全度指標値を健全度SOHとして説明するが、健全度指標値が劣化度SODである場合、後述する健全度指標値と閾値との大小関係は、健全度指標値が健全度SOHである場合の大小関係と逆向きとなる。
【0061】
判定部111は、健全度SOHの閾値Thを予め記憶しておく。閾値Thは、基準の健全度であって、基準の健全度合いを表す。判定部111は、算出した健全度SOHと閾値Thとを比較する。判定部111は、比較結果を第2の判定処理の判定結果として更新制御部112に渡す。健全度SOHが閾値Thより大きいことはバッテリ22の健全度合いが上記の基準の健全度合いよりも高い、つまり、劣化していないことを表し、閾値Thより大きいことはバッテリ22の健全度合いが基準の健全度合いよりも低い、つまり、劣化していることを表している。
【0062】
第3の判定処理において、判定部111は、発電機21を制御するECU(
図2の例ではECU30C)から制御部11に入力された発電機21に関する情報に基づいて、発電機21が発電状態であるか否かを判定する。判定部111は、第3の判定処理の判定結果を更新制御部112に渡す。
【0063】
更新制御部112は、ステップS22の更新処理を要求する処理を実行する。ステップS22の更新処理を要求する処理は、対象ECUに対して書換処理(ステップS31)の実行を要求する処理(第1の要求処理)と、対象ECUに対して切替処理(ステップS32)の実行を要求する処理(第2の要求処理)と、からなる。
【0064】
第1の要求処理において、更新制御部112は、車内通信部13に対して更新用プログラムを渡し、対象ECUへの書換処理の実行を要求する制御フレームの送信を指示する。
第2の要求処理において、更新制御部112は、車内通信部13に対して、対象ECUへの切替処理の実行を要求する制御フレームの送信を指示する。
【0065】
[処理フロー]
図6は、中継装置10の制御部11において実行される更新要求処理の流れを表したフローチャートである。
図6の処理のうちの、ステップS108およびステップS115の駆動制御処理は、第2の実施形態にかかる更新要求処理で行われる処理である。これらの処理については、第1の実施形態では更新要求処理には含まれないものとして説明を行い、第2の実施形態で説明する。
【0066】
図6を参照して、制御部11は、記憶部12に更新用プログラムが記憶されているときに(ステップS101でYES)、以降の処理を実行する。すなわち、制御部11は、判定タイミングに達したか否かを判定し(第1の判定処理)、判定タイミングとなるまで待機する。判定タイミングに達すると(ステップS102でYES)、制御部11は、ECU30Bからの情報を用いてバッテリ22の健全度SOHを算出し、予め記憶している健全度SOHの閾値Thと比較する(第2の判定処理)。
【0067】
判定タイミングにおいてバッテリ22の健全度SOHが閾値Th以上である場合には(ステップS103でYES)、制御部11は、対象ECUに対して通常通りに更新処理を要求する。すなわち、バッテリ22の健全度合いが基準の健全度合いよりも高いことである第1の条件が成立する場合、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して更新用プログラムを転送するとともに書換処理の実行を要求することを指示する(ステップS117)。また、対象ECUで書換処理が実行された後、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して切替処理の実行を要求することを指示する(ステップS113)。
【0068】
一方、バッテリ22の健全度SOHが閾値Th未満である、すなわち、バッテリ22の健全度合いが基準の健全度合いよりも低い(第1の条件が成立しない)場合(ステップS103でNO)、制御部11は、ECU30Cからの情報を用いて、発電機21が発電状態であるか否かを判定する(第3の判定処理)。発電機21が発電状態ではない場合(ステップS105でNO)、制御部11は、ステップS105を再度実行する。すなわち、第1の条件が成立せず、かつ、発電機21が発電状態であることである第2の条件が成立しない場合、制御部11は、発電状態となるまで以降の処理を実行せず、発電機21が発電状態となるまで、つまり、エンジンが稼動するまで待機する。そのため、好ましくは、制御部11は、発電機21が発電を開始、すなわちエンジンが稼動するまで書換処理を実行せず、書換処理の開始を待機することの報知を出力装置に出力させる。出力装置は、たとえば図示しない表示装置であって、制御部11は、表示装置を制御するECUに対して、表示装置に上記報知を行う表示画面を表示することを指示する。
【0069】
発電機21が発電状態である、すなわち、第2の条件が成立する場合(ステップS105でYES)、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して更新用プログラムを転送するとともに書換処理の実行を要求することを指示する(ステップS107)。
【0070】
上記ステップS107での要求に応じて対象ECUで書換処理が実行された後、制御部11は、再度、発電機21が発電状態であるか否かを判定する(第3の判定処理)。発電機21が発電状態ではない、すなわち、第1の条件及び第2の条件の両方が成立しない場合(ステップS109でNO)、制御部11は、発電機21が発電状態となるまで、つまり、エンジンが稼動するまで待機する。そのため、好ましくは、制御部11は、発電機21が発電を開始、すなわちエンジンが稼動するまで切替処理を実行せず、切替処理の開始を待機することの報知を出力装置に出力させる。出力装置は、たとえば図示しない表示装置であって、制御部11は、表示装置を制御するECUに対して、表示装置に上記報知を行う表示画面を表示することを指示する。
【0071】
発電機21が発電状態である、すなわち、第2の条件が成立する場合(ステップS109でYES)、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して切替処理の実行を要求することを指示する(ステップS113)。
【0072】
好ましくは、制御部11は、発電状態であり(ステップS109でYES)、かつ、発電状態、すなわち、エンジンの稼働中に切替処理を実行することについてのユーザの許可が得られた場合に(ステップS111でYES)、車内通信部13に対して、対象ECUに対して切替処理の実行を要求することを指示する(ステップS113)。
【0073】
[第1の実施形態の効果]
中継装置10が上記の更新要求処理を実行することによって、バッテリ22の健全度合いが閾値を満たさない状態に達した場合、つまり、バッテリ22が規定の程度まで劣化した場合には、発電機21が発電状態のとき、つまり、エンジン稼働中に更新処理が実行される。これにより、更新処理中にバッテリ22が短絡状態に達した場合であっても、対象ECUには発電機21から電力が供給される。そのため、更新処理中にバッテリ22が短絡状態に達した場合であっても、更新処理を続行することができる。
【0074】
バッテリ22の健全度合いが閾値を満たさない状態に達した場合、つまり、バッテリ22が規定の程度まで劣化した場合であって、発電機21が発電状態でない場合には、発電機21が発電状態となるまで、つまり、エンジンが稼動するまで対象ECUでの更新処理の開始が保留される。このとき、中継装置10が更新処理の待機をユーザに通知することで、ユーザは、更新処理を開始するためにはエンジンの稼動が必要であることを知ることができる。その結果、更新処理の実行を優先するユーザは、電力供給のためにエンジンを稼動させて、更新処理を開始させることができる。これにより、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0075】
発電機21が発電状態のとき、つまり、エンジン稼働中には、中継装置10は、ユーザの許可があった場合に対象ECUに切替処理を実行させる。切替処理には対象ECUのリセットが伴う場合があり、リセットの際に対象ECUの制御対象の装置の動作が一時的に停止したり、表示態様などが変更したりする場合がある。ユーザは、走行中にそのような状態となることを好まない場合には、切替処理の実行を許可しないようにできる。これにより、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0076】
<第2の実施形態>
第2の実施形態にかかる中継装置10は、
図6のステップS108およびステップS115の駆動制御処理を含む更新要求処理を実行する。そのため、第2の実施形態にかかる中継装置10の制御部11は、
図3に示された駆動制御部113をさらに含む。
【0077】
ステップS108およびステップS115の駆動制御処理は、更新処理中にエンジンの駆動を継続させる制御を行うための処理である。駆動制御処理において、駆動制御部113は、対象ECUにおいて更新処理中には、車内通信部13に、エンジンを制御するECUに対してエンジンの駆動の継続を指示する制御フレームを送信させる。
【0078】
図6を参照して、第2の実施形態にかかる更新要求処理では、中継装置10の制御部11は、ステップS107で対象ECUに対して書換処理の実行を要求した後、駆動制御処理を実行する(ステップS108)。すなわち、エンジンを制御するECUに対して、対象ECUでの書換処理中におけるエンジンの駆動の継続を要求する。
【0079】
また、制御部11は、ステップS113で対象ECUに対して切替処理の実行を要求した後、駆動制御処理を実行する(ステップS115)。すなわち、エンジンを制御するECUに対して、対象ECUでの切替処理中におけるエンジンの駆動の継続を要求する。
【0080】
中継装置10が上記の更新要求処理を実行することによって、エンジンが稼働状態であることを確認して対象ECUでの更新処理が開始された後、エンジンが停止することを回避できる。たとえばアイドリングストップなどの機能によって車両1が停車したときにエンジンが停止することがある。対象ECUでの更新処理中にアイドリングストップする状況となった場合であっても、上記の駆動制御処理によってエンジンの稼動が継続される。これにより、対象ECUへの発電機21からの電力供給が継続され、更新処理を続行することができる。
【0081】
<第3の実施形態>
本実施形態では、第2の条件を、発電機の発電量が車両における消費電力量よりも大きいこととする。
【0082】
図7は、本実施形態に係る車両の電源構成の一例を表わした概略図である。バッテリ22から中継装置10、ECU30A,30B,30C、およびスタータ23などの車載装置へと延びる電力線17には、バッテリセンサ100が設けられる。バッテリセンサ100は、バッテリ22から出力される電流値を検出する。バッテリセンサ100は、発電機21を制御するECU30Cに信号線によって接続される。バッテリセンサ100によって検出された電流値は、バッテリセンサ100からECU30Cに送信される。
【0083】
ECU30Cは、例えば電圧センサ110を内蔵する。電圧センサ110は、中継装置10、ECU30A,30B,30C、およびスタータ23などの車載装置に印加される電圧値を検出する。例えば、中継装置10、ECU30A,30B,30C、およびスタータ23などの車載装置は電力線17によって並列接続されており、同電圧が印加される。電圧センサ110は、例えば、ECU30Cにおける電圧値を検出することができる。なお、電圧センサ110はECU30Cの外部に設けられていてもよい。
【0084】
ECU30Cは、バッテリセンサ100によって検出された電流値を受信し、電圧センサ110によって検出された電圧値を取得することができる。ECU30Cは、電流値と電圧値とによって車両1における消費電力量ECを算出することができる。
【0085】
さらに、ECU30Cは、発電機21から発電量EGの情報を受信可能である。発電機21が発電量EGではなく、回転数を含む稼働状況の情報を送信してもよい。この場合、ECU30Cは、回転数を用いて発電量EGを算出することができる。
【0086】
ECU30Cは、中継装置10に消費電力量EC及び発電量EGを送信することができる。また、ECU30Cは、中継装置10に、消費電力量EC及び発電量EGに代えて、バッテリセンサ100により検出された電流値、電圧センサ110により検出された電圧値、及び発電機21の回転数を送信してもよい。この場合、中継装置10は、電流値及び電圧値から消費電力量ECを算出し、発電機21の回転数から発電量EGを算出してもよい。
【0087】
本実施形態に係る車両のその他の構成は、第1の実施形態に係る車両の構成と同様であるので、同一構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0088】
図3を参照する。本実施形態に係る判定部111は、第3の判定処理において、発電機21を制御するECU(
図7の例ではECU30C)から制御部11に入力された発電量EGが消費電力量ECより大きいか否かを判定する。判定部111は、第3の判定処理の判定結果を更新制御部112に渡す。なお、第1判定処理及び第2判定処理については第1の実施形態と同様である。
【0089】
図8は、 本実施形態に係る中継装置10の制御部11において実行される更新要求処理の流れを表したフローチャートである。なお、説明を省略したステップは、第1の実施形態と同様である。
【0090】
判定タイミングにおいてバッテリ22の健全度SOHが閾値Th以上である場合には(ステップS103でYES)、制御部11は、対象ECUに対して通常通りに更新処理を要求する。すなわち、バッテリ22の健全度合いが基準の健全度合いよりも高いことである第1の条件が成立する場合、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して更新用プログラムを転送するとともに書換処理の実行を要求することを指示する(ステップS117)。また、対象ECUで書換処理が実行された後、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して切替処理の実行を要求することを指示する(ステップS113)。
【0091】
一方、バッテリ22の健全度SOHが閾値Th未満である、すなわち、バッテリ22の健全度合いが基準の健全度合いよりも低い(第1の条件が成立しない)場合(ステップS103でNO)、制御部11は、ECU30Cから発電量EGを受信し(ステップS201)、消費電力量ECを受信する(ステップS202)。なお、制御部11は、ECU30Cからバッテリセンサ100により検出された電流値、電圧センサ110により検出された電圧値、及び発電機21の回転数を受信し、電流値及び電圧値から消費電力量ECを算出し、発電機21の回転数から発電量EGを算出してもよい。
【0092】
制御部11は、発電量EGと消費電力量ECとを比較する(第3の判定処理)。発電量EGが消費電力量EC未満である、すなわち、発電機21の発電量EGが車両1における消費電力量ECよりも大きい(第2の条件が成立しない)場合(ステップS203でNO)、制御部11は、ステップS203を再度実行する。すなわち、第1の条件が成立せず、かつ、第2の条件が成立しない場合、制御部11は、発電量EGが消費電力量EC以上となるまで以降の処理を実行せず、発電量EGが消費電力量EC以上となるまで待機する。そのため、好ましくは、制御部11は、発電量EGが消費電力量EC以上となるまで書換処理を実行せず、書換処理の開始を待機することの報知を出力装置に出力させる。出力装置は、たとえば図示しない表示装置であって、制御部11は、表示装置を制御するECUに対して、表示装置に上記報知を行う表示画面を表示することを指示する。
【0093】
発電量EGが消費電力量EC以上である、すなわち、第2の条件が成立する場合(ステップS203でYES)、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して更新用プログラムを転送するとともに書換処理の実行を要求することを指示する(ステップS107)。
【0094】
上記ステップS107での要求に応じて対象ECUで書換処理が実行された後、制御部11は、再度、発電量EGが消費電力量EC以上であるか否かを判定する(第3の判定処理)。発電量EGが消費電力量EC未満である、すなわち、第1の条件及び第2の条件の両方が成立しない場合(ステップS204でNO)、制御部11は、発電量EGが消費電力量EC以上となるまで待機する。そのため、好ましくは、制御部11は、発電量EGが消費電力量EC以上となるまで切替処理を実行せず、切替処理の開始を待機することの報知を出力装置に出力させる。出力装置は、たとえば図示しない表示装置であって、制御部11は、表示装置を制御するECUに対して、表示装置に上記報知を行う表示画面を表示することを指示する。
【0095】
発電量EGが消費電力量EC以上である、すなわち、第2の条件が成立する場合(ステップS204でYES)、制御部11は、車内通信部13に対して、対象ECUに対して切替処理の実行を要求することを指示する(ステップS113)。
【0096】
なお、本実施形態において、中継装置10は、第2の実施形態と同様、
図8のステップS108およびステップS115の駆動制御処理を含む更新要求処理を実行してもよい。
【0097】
[第3の実施形態の効果]
中継装置10が上記の更新要求処理を実行することによって、バッテリ22の健全度合いが閾値を満たさない状態に達した場合、つまり、バッテリ22が規定の程度まで劣化した場合には、発電量EGが消費電力量EC以上であるときに更新処理が実行される。これにより、例えば更新処理中にバッテリ22が短絡状態に達するなど、バッテリの劣化によって更新処理に必要な電力が不足する場合であっても、対象ECUには発電機21から電力が供給される。そのため、更新処理を続行することができる。
【0098】
バッテリ22の健全度合いが閾値を満たさない状態に達した場合、つまり、バッテリ22が規定の程度まで劣化した場合であって、発電量EGが消費電力量EC未満である場合には、発電量EGが消費電力量EC以上となるまで対象ECUでの更新処理の開始が保留される。このとき、中継装置10が更新処理の待機をユーザに通知することで、ユーザは、更新処理を開始するためにはエンジンの稼動等が必要であることを知ることができる。その結果、更新処理の実行を優先するユーザは、電力供給のためにエンジンを稼動させる等して、更新処理を開始させることができる。これにより、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0099】
発電量EGが消費電力量EC以上であるときには、中継装置10は、ユーザの許可があった場合に対象ECUに切替処理を実行させる。切替処理には対象ECUのリセットが伴う場合があり、リセットの際に対象ECUの制御対象の装置の動作が一時的に停止したり、表示態様などが変更したりする場合がある。ユーザは、走行中にそのような状態となることを好まない場合には、切替処理の実行を許可しないようにできる。これにより、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0100】
<第4の実施形態>
健全度指標値は、健全度SOHまたは劣化度SODのみに限定されない。健全度指標値の他の例は、ディーラー等、特定のオペレータによって入力され、バッテリ22を制御するECU等に記憶されている、バッテリ22の状態を示す情報、測定値、などの情報であってもよい。バッテリ22の状態を示す情報は、たとえば、検査日に測定された健全度SOHなどである。測定値は、たとえば、バッテリ液の比重の測定結果、などである。
【0101】
この場合、中継装置10の判定部111は、制御部11にECUから入力された上記の情報を用いて第2の判定処理を実行する。
【0102】
<第5の実施形態>
制御装置は中継装置10に限定されず、中継装置10以外のECUであってもよい。または、制御装置は、中継装置10とは独立した専用の装置であってもよい。また、制御装置は、第1の判定処理および第2の判定処理まで実行し、他の装置にバッテリ22の健全度合いの判定結果を渡して更新要求処理の実行を指示するものであってもよい。
【0103】
開示された特徴は、1つ以上のモジュールによって実現される。たとえば、当該特徴は、回路素子その他のハードウェアモジュールによって、当該特徴を実現する処理を規定したソフトウェアモジュールによって、または、ハードウェアモジュールとソフトウェアモジュールとの組み合わせによって実現され得る。
【0104】
上述の動作をコンピュータに実行させるための、1つ以上のソフトウェアモジュールの組み合わせであるプログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0105】
なお、本開示にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本開示にかかるプログラムに含まれ得る。
【0106】
また、本開示にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本開示にかかるプログラムに含まれ得る。提供されるプログラム製品は、ハードディスクなどのプログラム格納部にインストールされて実行される。なお、プログラム製品は、プログラム自体と、プログラムが記録された記録媒体とを含む。
【0107】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
1 車両
2 広域通信網
4 通信ネットワーク
5 サーバ
10 中継装置
11 制御部
12 記憶部
13 車内通信部
15 車載通信機
16 車内通信線
17 電力線
21 発電機
22 バッテリ
23 スタータ
24 DC/DCコンバータ
25 高圧部
30,30A,30B,30C,30D ECU
31 制御部
32 記憶部
33 車内通信部
100 バッテリセンサ
110 電圧センサ
111 判定部
112 更新制御部
113 駆動制御部
321 第1領域
322 第2領域