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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】超電導線材及び永久電流スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/30 20230101AFI20230516BHJP
   H01B 12/06 20060101ALI20230516BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20230516BHJP
   H01F 6/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
H10N60/30
H01B12/06
H01F6/06 140
H01F6/00 180
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020571011
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2019047393
(87)【国際公開番号】W WO2020162018
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019021621
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 高史
(72)【発明者】
【氏名】大木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】永石 竜起
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-037444(JP,A)
【文献】特開平11-340533(JP,A)
【文献】特開2013-098331(JP,A)
【文献】特開2010-278349(JP,A)
【文献】特開2008-118121(JP,A)
【文献】特開2003-298129(JP,A)
【文献】特開昭61-265881(JP,A)
【文献】特開平5-250932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/30
H01B 12/06
H01F 6/06
H01F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材であって、
基材と、前記基材上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された超電導層と、前記超電導層上に形成された保護層とを備え、
前記超電導層は、前記超電導線材の長手方向に沿って、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間にある第3部分とを有しており、
前記第3部分上にある前記保護層は、少なくとも部分的に除去されている、超電導線材。
【請求項2】
前記第3部分上にある前記保護層は、全て除去されている、請求項1に記載の超電導線材。
【請求項3】
平面視における前記超電導層の周縁は、平面視における前記中間層の周縁よりも内側に位置している、請求項2に記載の超電導線材。
【請求項4】
平面視における前記保護層の周縁は、平面視における前記中間層の周縁よりも内側に位置している、請求項2又は請求項3に記載の超電導線材。
【請求項5】
前記基材は、第1層と、前記第1層上に形成された第2層とを有しており、
前記第1層は、ステンレス鋼、ニッケル基合金又はニッケル合金で構成されており、
前記第2層は、銅で構成されている、請求項3又は請求項4に記載の超電導線材。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の前記超電導線材と、
前記第3部分と対向するように配置されたヒータとを備える、永久電流スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導線材及び永久電流スイッチに関する。本出願は、2019年2月8日に出願した日本特許出願である特願2019-21621号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2018-117042号公報)には、永久電流スイッチが記載されている。特許文献1に記載の永久電流スイッチは、超電導線材と、超電導線材を加熱するヒータ線材とを有している。
【0003】
超電導線材は、基層と、基層上に形成された配向層と、配向層上に形成された中間層と、中間層上に形成された超電導層と、超電導層上に形成された保護層とを有している。ヒータ線材が超電導線材を加熱することにより、超電導線材中の超電導層が常電導状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-117042号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る超電導線材は、基材と、基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された超電導層と、超電導層上に形成された保護層とを備えている。超電導層は、超電導線材の長手方向に沿って、第1部分と、第2部分と、第1部分と第2部分との間にある第3部分とを有している。第3部分上にある保護層は、少なくとも部分的に除去されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態に係る超電導線材の斜視図である。
図2図2は、図1のII-IIにおける断面図である。
図3図3は、図1のIII-IIIにおける断面図である。
図4図4は、図1のIV-IVにおける断面図である。
図5図5は、第1実施形態に係る超電導線材の製造方法を示す工程図である。
図6図6は、超電導部材準備工程における超電導部材の断面斜視図である。
図7図7は、切断工程における超電導部材20の断面斜視図である。
図8図8は、第1実施形態に係る永久電流スイッチの構成を示す模式図である。
図9図9は、第1実施形態に係る永久電流スイッチにおける超電導線材及びヒータの分解斜視図である。
図10図10は、第2実施形態に係る超電導線材の斜視図である。
図11図11は、図10のXI-XIにおける断面図である。
図12図12は、図10のXII-XIIにおける断面図である。
図13図13は、図10のXIII-XIIIにおける断面図である。
図14図14は、第2実施形態の変形例に係る超電導線材50の斜視図である。
図15図15は、第2実施形態に係る超電導線材の製造方法を示す工程図である。
図16図16は、第2実施形態に係る永久電流スイッチの模式図である。
図17図17は、第3実施形態に係る超電導線材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1においては、超電導層上に保護層が形成されている。ヒータ線材の加熱により超電導層が常電導状態になったとしても、超電導層を流れていた電流は、主として電気抵抗値の低い保護層にバイパスされる。そのため、特許文献1に記載の永久電流スイッチおいては、高抵抗化のために加熱長を長くする必要がある。加熱長を長くするには加熱量を増大させる必要があるが、加熱量を増大させた場合、冷媒の蒸発量が増大してしまう。また、加熱量を増大させた場合、冷凍機を高性能化する必要がある。さらに、加熱長を長くすると、永久電流スイッチ自体が大型化してしまう。このように、特許文献1に記載の永久電流スイッチは、加熱長を長くしないと高抵抗化できないことに起因して、運用コストが増大してしまう。
【0008】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、短い加熱長で高抵抗化が可能な超電導線材及びそれを用いた永久電流スイッチを提供する。
[本開示の効果]
本開示の一態様に係る超電導線材によると、加熱による超電導線材の高抵抗化が可能になる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0010】
(1)実施形態に係る超電導線材は、基材と、基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された超電導層と、超電導層上に形成された保護層とを備えている。超電導層は、超電導線材の長手方向に沿って、第1部分と、第2部分と、第1部分と第2部分との間にある第3部分とを有している。第3部分上にある保護層は、少なくとも部分的に除去されている。
【0011】
上記(1)の超電導線材においては、第3部分上にある保護層が、少なくとも部分的に除去されている。第3部分上にある保護層が全て除去されている場合、第1部分上にある保護層と第2部分上にある保護層とが分離しているため、第3部分をバイパスする電流経路は存在せず、第3部分が加熱されることにより常電導状態になると、電流は、常電導化により電気抵抗値が高くなった第3部分を流れる。また、第3部分上にある保護層が部分的に除去されている場合、第3部分が加熱されることにより常電導状態になると、電流は第3部分上にある保護層に電流がバイパスされるが、部分的な除去により第3部分上にある保護層の電気抵抗は高くなっている。このように、上記(1)の超電導線材によると、短い加熱長で超電導線材の高抵抗化が可能になる。
【0012】
(2)上記(1)の超電導線材において、第3部分上にある保護層は、全て除去されていてもよい。
【0013】
(3)上記(2)の超電導線材において、平面視における超電導層の周縁は、平面視における中間層の周縁よりも内側に位置していてもよい。
【0014】
(4)上記(2)又は(3)の超電導線材において、平面視における保護層の周縁は、平面視における中間層の周縁よりも内側に位置していてもよい。
【0015】
(5)上記(3)又は(4)の超電導線材において、基材は、第1層と、第2層とを有していてもよい。第1層は、ステンレス鋼で構成されていてもよく、第2層は、銅で構成されていてもよい。
【0016】
超電導線材が機械スリットで形成されている場合、機械スリットで基材又は保護層の少なくとも一方が変形することにより、超電導層と基材とが電気的に接続されてしまうことがある。超電導層と基材とが電気的に接続されてしまうと、第3部分が常電導状態となった場合、第3部分から基材へと電流がバイパスされてしまう結果、超電導線材を高抵抗化することができないおそれがある。このことは、基材が相対的に柔らかい銅で構成される層を有している場合に、特に懸念される。
【0017】
この点、上記(3)~(5)の超電導線材においては、平面視における超電導層の周縁(又は平面視における保護層の周縁)が、平面視における中間層の周縁よりも内側に位置しているため、機械スリットの際に基材又は保護層の少なくとも一方が変形したとしても、超電導層と基材とが電気的に接続されがたい。そのため、上記(3)~(5)の超電導線材によると、より確実に短い加熱長で超電導線材を高抵抗化することが可能となる。
【0018】
(6)実施形態に係る永久電流スイッチは、上記(1)~(5)の超電導線材と、ヒータとを備える。ヒータは、超電導層の第3部分と対向するように配置されている。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0020】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る超電導線材10の構成を説明する。
【0021】
図1は、第1実施形態に係る超電導線材10の斜視図である。図1に示されるように、超電導線材10は、第1端10aと、第2端10bとを有している。第1端10a及び第2端10bは、超電導線材10の長手方向における端である。第2端10bは、第1端10aの反対側の端である。
【0022】
図2は、図1のII-IIにおける断面図である。図3は、図1のIII-IIIにおける断面図である。図4は、図1のIV-IVにおける断面図である。図2図4に示されるように、超電導線材10は、基材11と、中間層12と、超電導層13と、保護層14a及び保護層14bとを有している。
【0023】
基材11は、好ましくは、第1層11aと、第2層11bと、第3層11cとを有している。第2層11bは、第1層11a上に形成されている。第3層11cは、第2層11b上に形成されている。第1層11aは、例えばステンレス鋼で構成されている。第1層11aは、例えばハステロイ(登録商標)等のニッケル(Ni)基合金、集合組織を導入したニッケル-タングステン(W)等の配向ニッケル合金で構成されていてもよい。第2層11bは、例えば、銅(Cu)で構成されている。第2層11bが銅合金で構成されている場合も、「第2層11bが銅で構成されている」に含まれる。第3層11cは、ニッケルで構成されている。基材11は、第2層11b及び第3層11cを有しておらず、第1層11aのみで構成されていてもよい。
【0024】
中間層12は、基材11上(第3層11c上)に形成されている。中間層12は、絶縁材料で構成されている。中間層12は、例えば安定化ジルコニア(YSZ)、酸化イットリウム(Y)、酸化セリウム(CeO)等により構成されている。中間層12を構成する材料は、これに限られるものではない。
【0025】
超電導層13は、中間層12上に形成されている。超電導層13は、超電導線材10の長手方向に沿って、第1部分13aと、第2部分13bと、第3部分13cとを有している。第1部分13aは、第1端10a側にある。第2部分13bは、第2端10b側にある。第3部分13cは、超電導線材10の長手方向において、第1部分13aと第2部分13bとの間にある(第1部分13aと第2部分13bとに挟み込まれている)。
【0026】
超電導層13は、例えば、酸化物超電導体により構成されている。この酸化物超電導体の例は、REBaCu(なお、REは希土類元素)である。この希土類元素は、例えばイットリウム(Y)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)等である。REBaCuには、2種類以上の希土類元素が含まれていてもよい。
【0027】
保護層14aは、第1部分13a上に形成されている。保護層14bは、第2部分13b上に形成されている。このことを別の観点からいえば、第3部分13c上においては、保護層が全て除去されており(保護層が形成されておらず)、保護層14a及び保護層14bが超電導線材10の長手方向に沿って互いに分離している。保護層14a及び保護層14bは、例えば銀(Ag)で構成されている。このことをさらに別の観点からいえば、第3部分13cが、超電導線材10の表面から露出している。図示されていないが、保護層14a上及び保護層14b上には、安定化層が形成されていてもよい。安定化層は、例えば銅、銅合金等で構成されている。
【0028】
第1実施形態に係る超電導線材10の製造方法を説明する。
図5は、第1実施形態に係る超電導線材10の製造方法を示す工程図である。図5に示されるように、超電導線材10の製造方法は、超電導部材準備工程S1と、切断工程S2と、保護層除去工程S3とを有している。
【0029】
超電導部材準備工程S1においては、超電導部材20の準備が行われる。図6は、超電導部材準備工程S1における超電導部材20の断面斜視図である。超電導部材20は、図6に示されるように、基材11と、中間層12と、超電導層13と、保護層14とを有している。保護層14は、例えば銀で構成されている。
【0030】
切断工程S2においては、超電導部材20の切断が行われる。この切断は、好ましくは、機械加工により(機械スリットで)行われる。この切断は、レーザ加工により(レーザスリットで)行われてもよい。図7は、切断工程S2における超電導部材20の断面斜視図である。図7に示されるように、切断工程S2において、超電導部材20からは、複数の線材が切り出される。この線材は、第1部分13a、第2部分13b及び第3部分13c上に保護層14が形成されている点を除き、超電導線材10の構造と同様である。
【0031】
保護層除去工程S3においては、超電導部材20から切り出された線材に対して、保護層14の部分的な除去が行われる。保護層14の部分的な除去は、エッチングで行われる。このエッチングは、第1部分13a及び第2部分13b上にある保護層14がマスクで被覆されるが、第3部分13c上にある保護層14がマスクで被覆されない状態で、線材をエッチング液に浸漬することにより行われる。以上により、図1図4に示される構造の超電導線材10が製造される。なお、上記においては、保護層除去工程S3が切断工程S2の後に行われる例を示したが、切断工程S2が保護層除去工程S3の後に行われてもよい。
【0032】
第1実施形態に係る永久電流スイッチ100の構成を説明する。
図8は、第1実施形態に係る永久電流スイッチ100の構成を示す模式図である。図8に示されるように、永久電流スイッチ100は、超電導線材10と、ヒータ30(図8中において図示せず、図9参照)とを有している。永久電流スイッチ100は、超電導コイル40を永久電流モードで動作させる。超電導線材10及び超電導コイル40は、電源PWに並列に接続されている。なお、超電導線材10及び超電導コイル40は、超電導転移温度以下の温度になるように冷却されている。
【0033】
図9は、第1実施形態に係る永久電流スイッチ100における超電導線材10及びヒータ30の分解斜視図である。図9に示されるように、ヒータ30は、第3部分13cに対向するように配置されている。ヒータ30は、例えば、ニクロム線で形成されている。
【0034】
ヒータ30がオフ状態にある場合(ヒータ30に電流が流れていない場合)、超電導コイル40はコイルインピーダンスを有しているため、電源PWから電流を流した場合、その電流は、もっぱら超電導状態となっている超電導線材10中の超電導層13を流れる。そのため、超電導コイル40は、励磁されない(この状態を、第1状態という)。
【0035】
第1状態においてヒータ30がオン状態にされると(ヒータ30に電流が流されると)、超電導線材10中の超電導層13(第3部分13c)が常電導状態となる。この状態で電流を流し始めると、超電導コイル40にも、電流が流れ始める(この状態を、第2状態という)。そして、運転電流まで徐々に電流を上げ、運転電流に到達してから所定の時間が経過すると、超電導線材10には電流が流れなくなり、電流は、もっぱら超電導コイル40に流れるようになる(この状態を、第3状態という)。
【0036】
第3状態となった後にヒータ30を再びオフ状態にすると、超電導線材10中の超電導層13(第3部分13c)は、超電導状態に戻る。その状態で電源PWからの電流を徐々に下げていくと、超電導コイル40に流れている電流の一部が超電導線材10に流れるようになる(この状態を、第4状態という)。
【0037】
第4状態になってから、さらに電源PWからの電流を徐々に0アンペアまで下げ、それから所定の時間が経過すると、電流は、超電導線材10及び超電導コイル40のみを流れるようになる(この状態を、第5状態という)。第5状態に達すると、電源PWを遮断しても、電流は、超電導線材10及び超電導コイル40を流れ続ける(永久電流モード)。このように、永久電流スイッチ100は、超電導コイル40を永久電流モードで動作させることができる。
【0038】
以下に、第1実施形態の超電導線材10の効果を説明する。
保護層14aは、超電導層13の第1部分13a上に形成されており、保護層14bは、超電導層13の第2部分13b上に形成されている。すなわち、超電導層13の第3部分13c上には保護層が形成されておらず(保護層が除去されており)、保護層14aと保護層14bとが分離している。また、第3部分13cは、中間層12上に形成されているため、基材11からも絶縁されている。
【0039】
そのため、第3部分13cが加熱されることにより常電導状態になった場合、第3部分13cをバイパスする電流経路は存在せず、第3部分13cに電流が流れることになる。第3部分13cは常電導状態となっているため、電気抵抗値が高くなっている。このように、超電導線材10においては、短い加熱長で超電導線材10を高抵抗化することができる。
【0040】
超電導線材10においては、超電導層13(第3部分13c)が部分的に保護層14a及び保護層14bから露出しているため、第3部分13cに対する加熱を効率的に行うことができる。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る超電導線材50の構成を説明する。以下においては、第1実施形態に係る超電導線材10の構成と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0042】
超電導線材50は、長手方向において、第1端50aと、第1端50aの反対側の端である第2端50bを有している。超電導線材50は、基材11と、基材11上に形成された中間層12と、中間層12上に形成された超電導層13と、保護層14a及び保護層14bとを有している。基材11は、第1層11aと、第1層11a上に形成された第2層11bと、第2層11b上に形成された第3層11cとを有している。
【0043】
超電導層13は、超電導線材50の長手方向に沿って、第1部分13aと、第第2部分13bと、第1部分13aと第2部分13bとの間にある第3部分13cとを有している。第1部分13a上には保護層14aが形成されており、第2部分13b上には保護層14bが形成されている。すなわち、第3部分13c上においては、保護層が除去されている。これらの点に関して、超電導線材50の構成は、超電導線材10の構成と共通している。
【0044】
図10は、第2実施形態に係る超電導線材50の斜視図である。図11は、図10のXI-XIにおける断面図である。図12は、図10のXII-XIIにおける断面図である。図13は、図10のXIII-XIIIにおける断面図である。図10図13に示されるように、超電導線材50においては、平面視における超電導層13の周縁が、平面視における中間層12の周縁よりも、内側に位置している。また、保護層14aの平面視における周縁及び保護層14bの平面視における周縁も、平面視における中間層12の周縁よりも内側に位置している。ここでいう「平面視」とは、超電導線材50の表面に直交する方向から見た場合をいう。
【0045】
より具体的には、長手方向での平面視における超電導層13、保護層14a及び保護層14bの周縁は、長手方向での平面視における中間層12の周縁よりも内側に位置しており、幅方向(長手方向に交差する方向)での平面視における超電導層13、保護層14a及び保護層14bの周縁は、幅方向での平面視における中間層12の周縁よりも内側に位置している。これらの点に関して、超電導線材50の構成は、超電導線材10の構成と異なっている。
【0046】
図14は、第2実施形態の変形例に係る超電導線材50の斜視図である。図14に示されるように、保護層14aの平面視における周縁及び保護層14bの平面視における周縁のみが中間層12の平面視における周縁よりも内側に位置しており、超電導層13の平面視における周縁が中間層12の平面視における周縁よりも内側に位置していなくてもよい。
【0047】
第2実施形態に係る超電導線材50の製造方法を説明する。以下においては、第1実施形態に係る超電導線材10の製造方法と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0048】
超電導線材50の製造方法は、超電導部材準備工程S1と、切断工程S2と、保護層除去工程S3とを有している。この点に関して、超電導線材50の製造方法は、超電導線材10の製造方法と共通している。
【0049】
超電導線材50の製造方法は、保護層除去工程S3の詳細に関して、超電導線材10の製造方法と異なっている。図15は、第2実施形態に係る超電導線材50の製造方法を示す工程図である。図15に示されるように、超電導線材50の製造方法は、超電導層除去工程S4をさらに有している点に関しても、超電導線材10の製造方法と異なっている。
【0050】
超電導線材50の製造方法では、保護層除去工程S3においては、図10に示される保護層14a及び保護層14bの形状にあわせて、保護層14がマスクで被覆される。この点に関して、超電導線材50の製造方法における保護層除去工程S3は、超電導線材10の製造方法における保護層除去工程S3と異なっている。
【0051】
超電導層除去工程S4においては、平面視における超電導層13の周縁が平面視における中間層12の周縁よりも内側に位置するように、超電導層13が部分的に除去される。超電導層13の部分的な除去は、例えば、エッチングにより行われる。以上により、図10図14に示される構造の超電導線材50が製造される。
【0052】
第2実施形態に係る永久電流スイッチ200の構成を説明する。なお、以下においては、第1実施形態に係る永久電流スイッチ100の構成と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0053】
図16は、第2実施形態に係る永久電流スイッチの模式図である。図16に示されるように、第2実施形態に係る永久電流スイッチの構成は、超電導線材10に代えて超電導線材50が用いられている点を除き、第1実施形態に係る永久電流スイッチの構成と同様である。
【0054】
以下に、第2実施形態に係る超電導線材50の効果を説明する。なお、以下においては、第1実施形態に係る超電導線材10の効果と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0055】
超電導部材20の切断が機械スリットで行われる場合、機械スリットに際して基材11又は保護層(保護層14a、保護層14b)の少なくとも一方が変形することにより、超電導層13と基材11とが電気的に接続されてしまうことがある。超電導層13と基材11とが電気的に接続されると、第3部分13cが常電導状態となった場合に、第3部分13cをバイパスして基材11へと電流が流れてしまうおそれがある。このことは、基材11が相対的に柔らかい銅で構成される層(第2層11b)を有している場合、特に懸念される。
【0056】
超電導線材50においては、平面視における超電導層13及び保護層(保護層14a、保護層14b)の周縁が、平面視における中間層12の周縁よりも内側に位置しているため、機械スリットの際に基材11及び保護層の少なくともいずれかが変形しても、超電導層13と基材11とが電気的に接続されがたい。そのため、超電導線材50によると、より確実に短い加熱長さで高抵抗化させることが可能となる。
【0057】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る超電導線材60の構成を説明する。以下においては、第1実施形態に係る超電導線材10の構成と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0058】
超電導線材60は、長手方向において、第1端60aと、第1端60aの反対側の端である第2端60bを有している。超電導線材60は、基材11と、基材11上に形成された中間層12と、中間層12上に形成された超電導層13と、保護層14a及び保護層14bとを有している。
【0059】
超電導層13は、超電導線材60の長手方向に沿って、第1部分13aと、第第2部分13bと、第1部分13aと第2部分13bとの間にある第3部分13cとを有している。第1部分13a上には保護層14aが形成されており、第2部分13b上には保護層14bが形成されている。これらの点に関して、超電導線材60の構成は、超電導線材10の構成と共通している。
【0060】
図17は、第3実施形態に係る超電導線材60の斜視図である。図17に示されるように、超電導線材60においては、第3部分13c上において保護層が部分的に残存している。すなわち、超電導線材60は、第3部分13c上に形成された保護層14cをさらに有している。保護層14cは、第3部分13c上にある保護層を部分的に除去することにより形成されている。保護層14cは、保護層14aと保護層14bとを電気的に接続していてもよい。保護層14cは、平面視において、蛇行形状を有していてもよい。これら点に関して、超電導線材60の構成は、超電導線材10の構成と異なっている。
【0061】
第3実施形態に係る超電導線材60の製造方法を説明する。以下においては、第1実施形態に係る超電導線材10の製造方法と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0062】
超電導線材60の製造方法は、超電導部材準備工程S1と、切断工程S2と、保護層除去工程S3とを有している点に関して、超電導線材10の製造方法と共通している。しかしながら、超電導線材60の製造方法は、保護層除去工程S3において、第3部分13c上にある保護層14が部分的に除去されることにより保護層14cが形成される。この点に関して、超電導線材60の製造方法は、超電導線材10の製造方法と異なっている。
【0063】
以下に、第3実施形態に係る超電導線材60の効果を説明する。なお、以下においては、第1実施形態に係る超電導線材10の効果と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0064】
超電導線材60においては、第3部分13cが加熱されることにより常電導状態になった場合、電流が保護層14cにパイパスされることになる。しかしながら、保護層14cに電流がバイパスされるとはいえ、保護層14cにおいては、保護層14a及び保護層14bと比較して電流経路が狭くなっているため、当該バイパス電流に対する電気抵抗値は高くなる。そのため、超電導線材60は、短い加熱長で高抵抗化することができる。
【0065】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
10 超電導線材、10a 第1端、10b 第2端、11 基材、11a 第1層、11b 第2層、11c 第3層、12 中間層、13 超電導層、13a 第1部分、13b 第2部分、13c 第3部分、14,14a,14b,14c 保護層、20 超電導部材、30 ヒータ、40 超電導コイル、50 超電導線材、50a 第1端、50b 第2端、60 超電導線材、60a 第1端、60b 第2端、100,200 永久電流スイッチ、PW 電源、S1 超電導部材準備工程、S2 切断工程、S3 保護層除去工程、S4 超電導層除去工程。
図1
図2
図3
図4
図5
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