(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ギ酸回収方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/44 20060101AFI20230516BHJP
C07C 53/02 20060101ALI20230516BHJP
C07C 51/50 20060101ALI20230516BHJP
C07C 51/573 20060101ALI20230516BHJP
C07C 51/48 20060101ALI20230516BHJP
C07C 53/06 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C07C51/44
C07C53/02
C07C51/50
C07C51/573
C07C51/48
C07C53/06
(21)【出願番号】P 2021038072
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 良弘
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-043133(JP,A)
【文献】特表2007-522136(JP,A)
【文献】特開2020-45337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸を含む水溶液から、下記式(1)で示すアルキルアミンと有機溶媒とを用いて、ギ酸を回収する回収工程と、
前記回収工程で得られたギ酸を含む有機溶媒層から有機溶媒を減圧または常圧にて留去する留去工程と、
を含むことを特徴とするギ酸回収方法。
R
1R
2R
3N (1)
(式(1)において、R
1~R
3のうち少なくとも2つは独立して炭素数6以上12以下のアルキル基であり、残りは水素原子を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載のギ酸回収方法であって、
R
1~R
3は、すべて独立して炭素数6以上12以下のアルキル基であることを特徴とするギ酸回収方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のギ酸回収方法であって、
R
1~R
3の炭素数の合計は、12以上であることを特徴とするギ酸回収方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のギ酸回収方法であって、
用いる前記アルキルアミンの当量は、前記ギ酸を含む水溶液中のギ酸の物質量に対して0.5当量以上10当量以下の範囲であることを特徴とするギ酸回収方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のギ酸回収方法であって、
前記ギ酸を含む水溶液は、電気化学セル(太陽電池で駆動するものも含む)から生成したギ酸を含む水溶液であることを特徴とするギ酸回収方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のギ酸回収方法であって、
前記ギ酸を含む水溶液のpHは、7以下であることを特徴とするギ酸回収方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のギ酸回収方法であって、
前記有機溶媒の沸点は、80℃以下であることを特徴とするギ酸回収方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のギ酸回収方法であって、
用いる前記有機溶媒の量は、前記ギ酸を含む水溶液中のギ酸の濃度に対してアミンの濃度が1~100倍の範囲となる量であることを特徴とするギ酸回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸を含む水溶液からギ酸を回収するギ酸回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギ酸は、防腐剤、抗菌剤、凍結防止剤等の化成品用途に加えて、近年は水素キャリアとしての利用が期待されている。ギ酸は、例えば、酵素を利用する手法や、二酸化炭素から電気化学的または触媒化学的に合成する手法で製造されている。一般に、前述の手法で製造されたギ酸は、低濃度、例えば0.001mol/L~0.01mol/L程度の希薄な水溶液として得られることが多い。材料または水素キャリアとしての用途を鑑みると、希薄なギ酸水溶液から、エネルギーを大きく消費しなくてもギ酸を回収し、濃縮する技術が必要である。
【0003】
特許文献1には、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を、陽イオン交換樹脂を用いて濃縮する方法が示されている。特許文献2には、ギ酸イオンを含む塩基性溶液を、陽イオン交換樹脂を用いて濃縮したのち、アルキルアミンを用いて抽出する方法が示されている。特許文献3には、抽出と蒸留によって、ギ酸溶液を濃縮する方法が示されている。
【0004】
しかし、特許文献1および特許文献2で用いられているイオン交換樹脂によるギ酸の濃縮には大量の溶離液が必要であり、かつ高濃度への濃縮が困難である。また、ギ酸の沸点が101℃であることを考慮すると、特許文献3で用いられている蒸留によるギ酸の回収には加熱のためのエネルギーが必要であり、かつ水(沸点100℃)との分取が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-015684号公報
【文献】特開2020-045337号公報
【文献】特開昭61-043133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡便に、加熱等のエネルギーを大きく消費しなくても、ギ酸を含む水溶液からギ酸を回収することができるギ酸回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ギ酸を含む水溶液から、下記式(1)で示すアルキルアミンと有機溶媒とを用いて、ギ酸を回収する回収工程と、前記回収工程で得られたギ酸を含む有機溶媒層から有機溶媒を減圧または常圧にて留去する留去工程と、を含む、ギ酸回収方法である。
R1R2R3N (1)
(式(1)において、R1~R3のうち少なくとも2つは独立して炭素数6以上12以下のアルキル基であり、残りは水素原子を示す。)
【0008】
前記ギ酸回収方法において、R1~R3は、すべて独立して炭素数6以上12以下のアルキル基であることが好ましい。
【0009】
前記ギ酸回収方法において、R1~R3の炭素数の合計は、12以上であることが好ましい。
【0010】
前記ギ酸回収方法において、用いる前記アルキルアミンの当量は、前記ギ酸を含む水溶液中のギ酸の物質量に対して0.5当量以上10当量以下の範囲であることが好ましい。
【0011】
前記ギ酸回収方法において、前記ギ酸を含む水溶液は、電気化学セル(太陽電池で駆動するものも含む)から生成したギ酸を含む水溶液であることが好ましい。
【0012】
前記ギ酸回収方法において、前記ギ酸を含む水溶液のpHは7以下であることが好ましい。
【0013】
前記ギ酸回収方法において、前記有機溶媒の沸点は、80℃以下であることが好ましい。
【0014】
前記ギ酸回収方法において、用いる前記有機溶媒の量は、前記ギ酸を含む水溶液中のギ酸の濃度に対してアミンの濃度が1~100倍の範囲となる量であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、簡便に、加熱等のエネルギーを大きく消費しなくても、ギ酸を含む水溶液からギ酸を回収することができるギ酸回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例8において使用したTOAの当量に対するDCM層残渣中のギ酸の濃度(M)を示すグラフである。
【
図2】実施例9において用いたDCM溶液中のTOA濃度(mol/L)に対する分取できたギ酸の百分率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態に係るギ酸回収方法は、ギ酸を含む水溶液から、下記式(1)で示すアルキルアミンと有機溶媒とを用いて、ギ酸を回収する回収工程と、前記回収工程で得られたギ酸を含む有機溶媒層から有機溶媒を減圧または常圧にて留去する留去工程と、を含む方法である。
R1R2R3N (1)
(式(1)において、R1~R3のうち少なくとも2つは独立して炭素数6以上12以下のアルキル基であり、残りは水素原子を示す。)
【0019】
本方法で使用するアルキルアミンは、ブレンステッド塩基であり、かつ、非水溶性である。そのため、本方法で使用するアルキルアミンは、ギ酸水溶液に添加して撹拌することによって、ブレンステッド酸であるギ酸からプロトンを受容して、ギ酸塩を形成する。さらに、形成されたギ酸塩は、静置することで、容易に水と分離する。したがって、簡便に、加熱等のエネルギーを大きく消費しなくても、ギ酸を含む水溶液からギ酸を回収することができる。本実施形態に係るギ酸回収方法は、希薄なギ酸水溶液であってもギ酸を回収することができ、常温常圧でもギ酸を回収可能である簡便な方法である。
【0020】
上記式(1)で示すアルキルアミンにおいて、R1~R3のうち少なくとも2つは独立して炭素数6以上12以下のアルキル基である。炭素数6以上12以下のアルキル基は、直鎖アルキル基であってもよいし、分岐アルキル基であってもよいし、環状アルキル基であってもよい。アルキル基は、アミンが水と容易に分離するよう、炭素数6以上のアルキル基であることが好ましく、炭素数8以上のアルキル基であることがより好ましく、炭素数8のアルキル基であることがさらに好ましい。アルキル基の炭素数が増加すると、回収後の溶液の体積が増加して、相対的にギ酸の濃度が低下するため、炭素数10以下のアルキル基であることが好ましい。また、アルキル基は、アミンがギ酸と相互作用して塩を形成できる空間を有していることが好ましいため、直鎖アルキル基であることが好ましい。
【0021】
上記式(1)で示すアルキルアミンは、R1~R3のうち2つがそれぞれ独立して炭素数6以上12以下のアルキル基であり、残り1つが水素原子である2級アミンであってもよいし、R1~R3のすべてがそれぞれ独立して炭素数6以上12以下のアルキル基である3級アミンであってもよい。アミンが水と容易に分離するよう、R1~R3はすべて独立して炭素数6以上12以下のアルキル基であることがより好ましい。
【0022】
R1~R3は、全て異なるアルキル基であってもよいし、R1~R3のうち2つが同じアルキル基であってもよいし、全て同じアルキル基であってもよい。アミンのコスト等の点から、R1~R3は、全て同じアルキル基であることが好ましい。
【0023】
R1~R3の炭素数の合計は、12以上であることが好ましく、16以上であることがより好ましい。R1~R3の炭素数の合計が11以下であると、アミンの水への溶解量が多くなり、ギ酸の抽出量が低下する場合がある。また、操作性等の点から常温常圧で液体であることが好ましいので、R1~R3の炭素数の合計は36以下であることが好ましい。
【0024】
以上の条件を満たすアルキルアミンのうち、1種を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
用いるアルキルアミンの当量は、回収対象であるギ酸を含む水溶液中のギ酸の物質量に対して0.5当量以上10当量以下の範囲であることが好ましい。ギ酸の回収率等の点から、用いるアルキルアミンの当量は、ギ酸の物質量に対して1当量以上であることがより好ましい。必要以上に多量に用いてもギ酸の回収に寄与しないため、用いるアルキルアミンの当量は、ギ酸の物質量に対して5当量以下であることがより好ましく、2当量以下であることがさらに好ましい。
【0026】
用いる有機溶媒としては、ギ酸水溶液と相分離することが必要である。よって、水に対する溶解度が低い溶媒が好ましい。また、大きいエネルギーを消費しなくても留去することができるように、沸点が低い溶媒が好ましい。沸点が101℃であるギ酸との分留を考慮すると、有機溶媒の沸点は、80℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。有機溶媒の沸点の下限値は、室温で液体であることが望ましいことから、25℃以上であることが好ましく、35℃以上であることがより好ましい。また、ともに用いるアミンを溶解し、かつギ酸を含むアミンも溶解することが望ましい。
【0027】
以上のことをふまえ、用いる有機溶媒として、例えば、シクロヘキサン(沸点81℃)、ベンゼン(同81℃)、四塩化炭素(同77℃)、ジエチルエーテル(同35℃)、クロロホルム(同62℃)、酢酸エチル(同77℃)、ジクロロメタン(同40℃)、石油エーテル(同30~60℃)、ヘキサン(同69℃)、ペンタン(同69℃)、メチルエチルケトン(同80℃)、二硫化炭素(同47℃)等が挙げられる。これらのうち、よく水と相分離し、沸点が低いジクロロメタンやジエチルエーテルが好ましい。
【0028】
用いる有機溶媒は、上記の中から1種を単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。1種類である方が、留去工程での有機溶媒の留去における条件設定が簡便であるため、好ましい。
【0029】
用いる有機溶媒の量は、併用するアミンが溶解して均一になるような量であればよく、特に制限はない。必要以上に大量の有機溶媒を用いなくてもよく、また、留去工程で留去するためのエネルギーを鑑みても、できるだけ少量であることが好ましい。用いる有機溶媒の量は、ギ酸水溶液のギ酸の濃度に対して、アミンの濃度が1~100倍の範囲となるように、有機溶媒の量を調節することが好ましい。
【0030】
回収対象であるギ酸を含む水溶液中のギ酸の含有量は、特に制限はないが、例えば、1mmol/L以上20mol/L以下の範囲であり、1mmol/L以上1mol/L以下の範囲であることが好ましい。本実施形態に係るギ酸回収方法は、ギ酸の含有量が例えば0.01mol/L以下、好ましくは0.1mol/L以下の希薄溶液であっても、簡便に、加熱等のエネルギーを大きく消費しなくてもギ酸を回収することができる。
【0031】
回収対象であるギ酸を含む水溶液は、他の無機塩を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。他の無機塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等の炭酸水素塩、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素リチウム、リン酸一水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素マグネシウムのリン酸塩、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩化物、臭化ナトリウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム等の臭化物、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等のフッ化物、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム等のヨウ化物、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素カルシウム、硫酸水素マグネシウム等の硫酸水素塩、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸塩等が挙げられる。
【0032】
回収対象であるギ酸を含む水溶液が他の無機塩を含む場合、他の無機塩の含有量は、特に制限はないが、例えば、1mmol/L以上5mol/L以下の範囲であり、0.1mol/L以上1mol/L以下の範囲であることが好ましい。本実施形態に係るギ酸回収方法は、他の無機塩の含有量が例えば0.01mol/L以上、好ましくは0.1mol/L以上の水溶液であっても、簡便に、加熱等のエネルギーを大きく消費しなくてもギ酸を回収することができる。
【0033】
回収対象であるギ酸を含む水溶液としては、ギ酸を含む水溶液であればよく、特に制限はないが、電気化学セル(太陽電池で駆動するものも含む)から生成したギ酸を含む水溶液、酵素反応から得られるギ酸を含む水溶液、光化学反応から得られるギ酸を含む水溶液等が挙げられる。本実施形態に係るギ酸回収方法は、高濃度で無機塩を含む電気化学セル(太陽電池で駆動するものも含む)から生成したギ酸を含む水溶液が回収対象である場合に、好適に適用することができる。
【0034】
回収対象であるギ酸を含む水溶液のpHは、中性または酸性であればよく、pH7以下であることが好ましい。ギ酸を含む水溶液のpHが7を超えると、ギ酸の回収率が低下する場合がある。
【0035】
本方法では、例えば、ギ酸を含む水溶液と、有機溶媒と、上記式(1)で示すアルキルアミンを容器中で、0℃以上80℃以下の温度、好ましくは5℃以上35℃以下の温度で、1分以上10分以下撹拌し、5分以上静置することによって水と分離させ、ギ酸を有機溶媒層に抽出して回収した(回収工程)後、回収工程で得られたギ酸を含む有機溶媒層から有機溶媒を減圧または常圧にて留去すればよい(留去工程)。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1:トリ-n-オクチルアミン(TOA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、トリ-n-オクチルアミン(TOA)(炭素数の合計は24)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0038】
(1)水(200mL)にギ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。このギ酸を含む水溶液のpHは2.4であった。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)と、ジクロロメタン(DCM、ナカライテスク株式会社、10mL)、トリ-n-オクチルアミン(TOA、東京化成株式会社製、1.75mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)重水素化クロロホルム(CDCl3、シグマアルドリッチ社製、4mL)に内部標準として1,2-ジクロロエタン(DCE、富士フィルム和光純薬株式会社製、8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMR測定装置(日本電子株式会社製、JNM-ECX400P)を用いて1H-NMRを測定した。
【0039】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。上記の実験を3回行った。表1に結果を示す。
【0040】
<実施例2:トリス(2-エチルヘキシル)アミン(TEHA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、トリス(2-エチルヘキシル)アミン(TEHA)(炭素数の合計は24)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0041】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)と、DCM(10mL)と、トリス(2-エチルヘキシル)アミン(TEHA、東京化成株式会社製、1.73mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(5mL)に内部標準としてDCE(10μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0042】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。上記の実験を3回行った。表1に結果を示す。
【0043】
【0044】
<実施例3:ジ-n-オクチルアミン(DOA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、ジ-n-オクチルアミン(DOA)(炭素数の合計は16)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0045】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、ジ-n-オクチルアミン(DOA、東京化成株式会社製、1.21mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(4mL)に内部標準としてDCE(8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0046】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。表2に結果を示す。
【0047】
<実施例4:トリヘプチルアミン(THpA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、トリヘプチルアミン(THpA)(炭素数の合計は21)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0048】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、トリヘプチルアミン(THpA、東京化成株式会社製、1.54mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(4mL)に内部標準としてDCE(8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0049】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。表2に結果を示す。
【0050】
<実施例5:トリドデシルアミン(TDdA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、トリドデシルアミン(TDdA)(炭素数の合計は36)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0051】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、トリドデシルアミン(TDdA、東京化成株式会社製、2.53mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(4mL)に内部標準としてDCE(8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0052】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。表2に結果を示す。
【0053】
<実施例6:トリヘキシルアミン(THexA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、トリヘキシルアミン(THexA)(炭素数の合計は18)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0054】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、トリヘキシルアミン(THexA、東京化成株式会社製、1.35mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(4mL)に内部標準としてDCE(8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0055】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。表2に結果を示す。
【0056】
<実施例7:N-メチル-ジ-n-オクチルアミン(MDOA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、N-メチル-ジ-n-オクチルアミン(MDOA)(炭素数の合計は17)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0057】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、N-メチル-ジ-n-オクチルアミン(MDOA、東京化成株式会社製、1.28mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(4mL)に内部標準としてDCE(8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0058】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。表2に結果を示す。
【0059】
<比較例1:ジイソプロピルエチルアミン(DiPrEA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、ジイソプロピルエチルアミン(DiPrEA)(炭素数の合計は8)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0060】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、ジイソプロピルエチルアミン(DiPrEA、東京化成株式会社製、0.68mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(4mL)に内部標準としてDCE(8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0061】
ギ酸に帰属するピークは確認されなかった。表2に結果を示す。
【0062】
<比較例2:オクチルアミン(OA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、オクチルアミン(OA)(炭素数の合計は8)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0063】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、オクチルアミン(OA、東京化成株式会社製、0.66mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(4mL)に内部標準としてDCE(8μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0064】
ギ酸に帰属するピークは確認されなかった。表2に結果を示す。
【0065】
<比較例3:ドデシルアミン(DdA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収>
以下に示す方法で、ドデシルアミン(DdA)(炭素数の合計は12)を用いてギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0066】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)を水で10倍に希釈したもの(0.01mol/L、200mL)と、DCM(10mL)と、ドデシルアミン(DdA、東京化成株式会社製、0.74mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とを分液漏斗で、室温で1分間撹拌した。
(3)終夜(16時間)静置した。
【0067】
終夜静置しても相分離しなかった。表2に結果を示す。
【0068】
【0069】
<実施例8:トリ-n-オクチルアミン(TOA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収(TOA当量の最適値検討)>
以下に示す方法で、トリ-n-オクチルアミン(TOA)を用い、TOAの使用量を変えて、ギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0070】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)と、DCM(10mL)と、トリ-n-オクチルアミン(TOA、東京化成株式会社製)0.175mL(ギ酸の物質量に対して0.20当量)、0.438mL(同0.50当量)、0.700mL(同0.80当量)、0,875mL(同1.0当量)、0.963mL(同1.1当量)、1.23mL(同1.4当量)、1.49mL(同1.7当量)、3.50mL(同4.0当量)とをそれぞれ分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(1mL)に内部標準としてDCE(2μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0071】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣中のギ酸の濃度を決定した。TOAの当量と、DCM層残渣中のギ酸溶液の濃度(M)を
図1に示す。用いるアルキルアミンの当量は、回収対象であるギ酸を含む水溶液中のギ酸の物質量に対して0.5当量以上であることが好ましいことがわかる。
【0072】
<実施例9:トリ-n-オクチルアミン(TOA)を用いたギ酸水溶液からのギ酸の回収(DCM使用量の最適値検討)>
以下に示す方法で、トリ-n-オクチルアミン(TOA)を用い、ジクロロメタン(DCM)の使用量を変えて、ギ酸水溶液からギ酸を回収した。
【0073】
(1)水(200mL)にギ酸(0.76mL、20mmol)を添加した(0.1mol/L)。
(2)(1)のギ酸水溶液(20mL)と、DCM(5,10,50,100mL)と、トリ-n-オクチルアミン(TOA、東京化成株式会社製、1.75mL)(ギ酸の物質量に対して2.0当量)とをそれぞれ分液漏斗で、室温で1分間撹拌し、ギ酸をDCM層に抽出した。
(3)静置後、DCM層を分取し、メスシリンダーで分取量を確認した。
(4)エバポレーターでDCMを減圧留去し(40℃、200tor)、それぞれ濃縮した。
(5)CDCl3(1mL)に内部標準としてDCE(2μL)を添加した。
(6)(5)の1mLに対して(4)のDCM層残渣から0.25mLを添加し、さらにCDCl3を加えて2.0mLとした。
(7)(6)の一部をNMR試料管に取って、1H-NMRを測定した。
【0074】
DCEに対するギ酸の相対積分値から、DCM層残渣のギ酸の濃度を決定した。用いたDCM溶液中のTOA濃度(mol/L)と、ギ酸水溶液から分取したギ酸の百分率(%)を
図2に示す。
図2より、TOAのみで抽出したときの分取されたギ酸が10%であったのに対して、DCMを5mL用いたとき(TOAの濃度として0.8mol/L)から100mL用いたとき(同0.04mol/L)において、80%以上のギ酸が分取可能である。
【0075】
以上の通り、実施例の方法によって、簡便に、加熱等のエネルギーを大きく消費しなくても、ギ酸を含む水溶液からギ酸を回収することができた。