(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 8/20 20060101AFI20230516BHJP
C08K 5/3477 20060101ALI20230516BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20230516BHJP
B24D 3/28 20060101ALI20230516BHJP
C08J 5/14 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08G8/20 A
C08K5/3477
C08L61/06
B24D3/28
C08J5/14 CEZ
(21)【出願番号】P 2022559969
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014561
(87)【国際公開番号】W WO2022215553
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021064596
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】村井 威俊
(72)【発明者】
【氏名】郷 義幸
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-050814(JP,A)
【文献】特開2004-307805(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147165(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00 ~ 16/06
C08K 5/3477
C08L 61/06
B24D 3/28
C08J 5/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン類とフェノール類とを混合し、前記リグニン類を前記フェノール類に分散させて、第一の混合物を得る工程であって、前記リグニン類の重量平均分子量は、2,000以上100,000以下であり、前記リグニン類の軟化点は、110℃以上である、工程と、
前記第一の混合物を得る前記工程と同時、または前記第一の混合物を得る前記工程の後に、前記第一の混合物に、酸触媒を混合して、第二の混合物を得る工程と、
前記第二の混合物にアルデヒド類を混合して、第三の混合物を得る工程と、
前記第三の混合物中で、前記リグニン類と、前記フェノール類と、前記アルデヒド類とを、前記酸触媒の存在下で反応させることにより、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る工程と、を含み、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、5500以上であり、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率は、25%以上51%未満である、
リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
第三の混合物を得る前記工程は、前記フェノール類に対する前記アルデヒド類のモル比(F/P)が0.5以上となるように、前記第二の混合物にアルデヒド類を混合する工程を含み、
前記第三の混合物中で、前記リグニン類と、前記フェノール類と、前記アルデヒド類とを、前記酸触媒の存在下で反応させる前記工程は、前記リグニン類と、前記フェノール類と、前記アルデヒド類とを、前記酸触媒の存在下、前記フェノール類に対する前記アルデヒド類のモル比(F/P)が0.5以上である条件で反応させる工程である、請求項
1に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記リグニン類が、揮発分を60質量%以下の量で含む、請求項
1または
2に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記第三の混合物に含まれる前記リグニン類と、前記フェノール類と、前記アルデヒド類とを、前記酸触媒の存在下で反応させることにより、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る前記工程の後に、
150℃以上で常圧、及び/又は、減圧蒸留する工程、をさらに含む、
請求項
1乃至
3のいずれか一項に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂およびその製造方法、当該リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む成形材料および樹脂組成物、および当該樹脂組成物の硬化物よりなる砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでリグニン変性フェノール樹脂の製造方法において様々な開発がなされてきた。リグニンはアルカリには易溶であるため塩基触媒下にて得られる液状レゾールが主に検討されており、酸触媒下で得られるノボラックではリグニンの熱溶融性の低さから導入が限られてきた。そこで種々のプロセスや操作により低分子化されたリグニンや変性されたリグニンを活用する検討がなされている。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、重量平均分子量が5000以下のリグニンと、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて、重量平均分子量が5000以下であるリグニンフェノール樹脂を製造する技術が記載されている。特許文献1では、上記リグニンフェノール樹脂を摩擦材用の成形材料として使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上記特許文献1に記載のリグニンフェノールは、機械的強度と耐熱強度の点で改善の余地があることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を鑑みてなされたものであり、リグニン構造を活用して高度に複合させることで高分子量であるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂にて良好な加工性が発現することを見出し、さらにその重量平均分子量が5500以上のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、優れた機械的特性および耐熱強度を備える成形材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
また本発明によれば、上記樹脂組成物の硬化物からなる砥石が提供される。
【0010】
本発明によれば、
リグニン類とフェノール類とを混合し、前記リグニン類を前記フェノール類に分散させて、第一の混合物を得る工程であって、前記リグニン類の重量平均分子量は、2,000以上100,000以下であり、前記リグニン類の軟化点は、110℃以上である、工程と、
前記第一の混合物を得る前記工程と同時、または前記第一の混合物を得る前記工程の後に、前記第一の混合物に、酸触媒を混合して、第二の混合物を得る工程と、
前記第二の混合物にアルデヒド類を混合して、第三の混合物を得る工程と、
前記第三の混合物中で、前記リグニン類と、前記フェノール類と、前記アルデヒド類とを、前記酸触媒の存在下で反応させることにより、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る工程と、を含み、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、5500以上であり、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率は、25%以上51%未満である、
リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、その硬化物が優れた機械的特性および耐熱強度を備えるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂、およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂)
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、その重量平均分子量が5500以上である。本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、高い重量平均分子量を有することにより、その硬化物が、従来のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に比べて向上した機械的強度を有する。
【0014】
一実施形態において、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、そのリグニン変性率が25%以上60%以下である。本発明のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、上記範囲のリグニン変性率を有することにより、優れた樹脂強度を有するとともに、硬化性および成形性において優れる。
【0015】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法)
本実施形態の5500以上の重量平均分子量を有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)が0.5以上、好ましくは0.5以上1.2以下である条件で反応させることにより、作製することができる。モル比(F/P)の上限値は1.1以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。モル比(F/P)の下限値は0.55以上が好ましく、0.6以上がより好ましい。フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)が上記範囲である条件下で、反応を行うことにより、加工性と強度を両立した上述の所望の重量平均分子量およびリグニン変性率を有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が生成し得る。
【0016】
以下、本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いる材料および製造条件について詳述する。
【0017】
(フェノール類)
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるフェノール類としては、フェノール、フェノール誘導体及びこれらの組み合わせが挙げられる。フェノール誘導体としては、ベンゼン環に任意の置換基が導入されたフェノールを使用できる。置換基としては、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基等の低級アルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基等が挙げられる。用いることができるフェノール類の具体例としては、フェノール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-フルオロフェノール、m-フルオロフェノール、p-フルオロフェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、o-ブロモフェノール、m-ブロモフェノール、p-ブロモフェノール、o-ヨードフェノール、m-ヨードフェノール、p-ヨードフェノール、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、2,4,6-トリニトロフェノール、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。フェノール類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
フェノール類としてはまた、炭素数が2~18のアルキルフェノール類を用いることができる。アルキルフェノール類は、アルキル鎖に分岐鎖を有していても良いし、不飽和結合を有していても良い。またベンゼン環上のアルキル鎖の置換位はオルト、メタ、パラ置換のいずれであってもよい。アルキルフェノール類の例としては、例えば、エチルフェノール、プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、セカンダリーブチルフェノール、ターシャリーブチルフェノール、アミルフェノール、ターシャリーアミノフェノール、ヘキシルフェノール、へプチルフェノール、オクチルフェノール、ターシャリーオクチルフェノール、ノニルフェノール、ターシャリーノニルフェノール、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、ドデシルフェノール、トリデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ペンタデシルフェノール、カルダノール、カードル、ウルシオール、ヘキサデシルフェノール、メチルカードル、ヘプタデシルフェノール、ラッコール、チオール、オクタデシルフェノールが挙げられる。またアルキルフェノール類として、カシューナット殻液(カシューオイル)、ウルシ抽出物などの植物油を用いることができる。
【0019】
これらの中でも、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールおよびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましく、製造コストの観点より、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール、ビスフェノールAを用いることが好ましい。
【0020】
(リグニン類)
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類は、リグニンおよびリグニン誘導体から選択される少なくとも1つを含む。
リグニンは、セルロース及びヘミセルロースとともに、植物体の構造を形成する主要成分であり、また、自然界に最も豊富に存在する芳香属化合物の1つである。リグニンは植物中では一部が結合してリグノセルロースとして存在しているため、リグニンとは植物から分解等を経て得られるものを指すことが多く、例としては、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン等のパルプリグニン;オルガノソルブリグニン;高温高圧水処理リグニンまたは爆砕リグニンに、濃硫酸にて抽出等時にフェノールが付加するリグノフェノール;フェノール化リグニン等が挙げられる。リグニンの由来は特に限定されず、リグニンを含み木質部が形成される木材や草本類等が挙げられ、スギ、マツ、ヒノキ、及び、トウヒ等の針葉樹、ブナ、白樺、ナラ、ケヤキ、及び、ユーカリ等の広葉樹、イネ、ムギ、トウモロコシ及びタケ等のイネ科植物(草本類)が挙げられる。
【0021】
本実施形態において、「リグニン誘導体」とは、リグニンを構成する単位構造、又はリグニンを構成する単位構造に類似する構造を有する化合物をいう。リグニン誘導体は、フェノール誘導体を単位構造とする。この単位構造は化学的及び生物学的に安定な炭素-炭素結合や炭素-酸素-炭素結合を有するため、化学的な劣化や生物的分解を受け難い。
【0022】
リグニン誘導体としては、下記式(1)の式(A)で表わされるグアイアシルプロパン(フェルラ酸)、下記式(B)で表わされるシリンギルプロパン(シナピン酸)、及び下記式(C)で表わされる4-ヒドロキシフェニルプロパン(クマル酸)等が挙げられる。リグニン誘導体の組成は、原料となるバイオマスによって異なる。針葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。広葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。草本類からは主にグアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造及び4-ヒドロキシフェニルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。
【0023】
【0024】
リグニン誘導体は、バイオマスを分解して得られたものが好ましい。バイオマスは光合成の過程で大気中の二酸化炭素を取り込み固定化したものであることから、バイオマスは大気中の二酸化炭素の増加抑制に寄与しており、バイオマスを工業的に利用することによって、地球温暖化の抑制に寄与することができる。バイオマスとしては、リグノセルロース系バイオマスが挙げられる。リグノセルロース系バイオマスとしては、リグニンを含有する植物の葉、樹皮、枝及び木材、並びにこれらの加工品等が挙げられる。リグニンを含有する植物としては、上述の広葉樹、針葉樹、及び草本類等が挙げられる。
【0025】
バイオマスの分解方法としては、薬品処理する方法、加水分解処理する方法、水蒸気爆砕法、超臨界水処理法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法、硫酸クレゾール法、パルプ製造法等が挙げられる。環境負荷の観点からは、水蒸気爆砕法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法が好ましい。コストの観点からは、パルプ製造法が好ましい。またコストの観点からは、バイオマス利用の副生成物を用いることが好ましい。リグニン誘導体は、例えばバイオマスを、各種蒸解液や溶媒存在下で150~400℃、1~40MPa、8時間以下で分解処理することにより調製できる。また、リグニン誘導体は、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示された方法で調製できる。
【0026】
リグニン誘導体としては、リグニンとセルロースとヘミセルロースとが結合したリグノセルロースを分解したもの等が挙げられる。リグニン誘導体は、リグニン骨格を有する化合物を主成分とするリグニン分解物、セルロース分解物及びヘミセルロース分解物等を含み得る。また、リグニン誘導体は、バイオマス由来またはプロセス由来の無機物も含み得るが、本実施形態の用途に使用する場合、無機物の含有量は、使用するリグニン誘導体全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0027】
リグニン誘導体は、芳香環への親電子置換反応によって硬化剤が作用する反応サイトを多く有することが好ましく、反応サイト近傍の立体障害が少ない方が反応性に優れる点から、フェノール性水酸基を含む芳香環のオルト位及びパラ位の少なくとも一方が無置換であることが好ましく、リグニンの芳香族単位としてグアイアシル核や4-ヒドロキシフェニル核の構造を多く含む、針葉樹や草本類由来のリグニンが好ましい。リグニン誘導体としては、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示されたものが使用できる。
【0028】
また、リグニン誘導体は、上記基本構造の他、リグニン誘導体に官能基を有するもの(リグニン二次誘導体)であってもよい。
【0029】
リグニン二次誘導体が有する官能基としては、特に限定されないが、例えば2個以上の同じ官能基が互いに反応し得るもの、又は他の官能基と反応し得るものが好適である。具体的には、エポキシ基、メチロール基の他、炭素-炭素不飽和結合を有するビニル基、エチニル基、マレイミド基、シアネート基、イソシアネート基等が挙げられる。このうち、メチロール基が導入された(メチロール化された)リグニン誘導体が好ましく用いられる。このようなリグニン二次誘導体は、メチロール基同士の自己縮合反応により自己架橋が生じるとともに、下記架橋剤中のアルコキシメチル基や水酸基に対して架橋する。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、耐溶剤性に優れたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が得られる。
【0030】
さらに、本実施形態で用いるリグニン誘導体は、カルボキシル基を有してもよい。パルププロセスや高温高圧水処理により得られるリグニンは、カルボキシル基を有することがある。カルボキシル基を有するリグニン誘導体から得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、下記に記載する硬化剤に対する架橋点を多く有するため、得られる架橋体の架橋密度を向上させることができ、結果として耐溶剤性に優れた架橋体を得ることができる。
【0031】
なお、上述したリグニン誘導体中がカルボキシル基を有する場合は、そのカルボキシル基は、カルボキシル基に帰属する13C-NMR分析に供されたとき、172~174ppmのピークの吸収の有無によって確認することができる。
【0032】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類は、その重量平均分子量が、例えば、2,000以上100,000以下である。重量平均分子量の下限値は、好ましくは、2,500以上であり、より好ましくは、3,000以上であり、さらにより好ましくは、4,000以上である。重量平均分子量の上限値は、好ましくは、90,000以下であり、より好ましくは、80,000以下であり、さらにより好ましくは、75,000以下である。上記範囲の重量平均分子量を有するリグニン類を用いることにより、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、硬化性に優れるとともに、その硬化物が高い機械的強度を有し得る。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の数平均分子量であって、実施例の方法により求めることができる。
【0033】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類は、その数平均分子量が、例えば、200以上5,000以下である。数平均分子量の下限値は、好ましくは、300以上であり、より好ましくは、350以上であり、さらにより好ましくは、400以上である。数平均分子量の上限値は、好ましくは、4,000以下であり、より好ましくは、3,000以下であり、さらにより好ましくは、2,000以下である。上記範囲の数平均分子量を有するリグニン類は、反応性に優れ、よってリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造工程における作業性に優れるため好ましい。また、上記範囲の数平均分子量を有するリグニン類を用いることにより、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、硬化性に優れるとともに、その硬化物が高い機械的強度を有し得る。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の数平均分子量であって、実施例の方法により求めることができる。
【0034】
ここで、上述のゲル浸透クロマトグラフィーによって分子量を測定する方法の一例について説明する。
ゲル浸透クロマトグラフィーによって分子量を測定する方法において、まず、リグニン誘導体を溶媒に溶解させ、測定サンプルを調製する。このときに用いられる溶媒は、リグニン誘導体を溶解できるものであれば特に限定されるものではないが、ゲル浸透クロマトグラフィーの測定精度の観点から、例えば、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。本実施形態のリグニン類は、バイオマス、プロセス由来の無機物、植物由来の高分子量有機物による不溶分を含みうるため、リグニン類の分子量は、適正な溶媒を選択するとともに、不溶分はろ過して求められる。また得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率を高めるためには、使用するリグニン類の不溶分は適正な溶媒下で30質量%以下が好ましい。またリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の分子量は、同様に不溶分をろ過して求められる。リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂中の不溶分含有は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。上記含有量の量が上記程度であれば、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は良好な硬化性を有し、特に、均一に硬化し得る。
【0035】
次に、GPCシステム「HLC-8320GPC(東ソー製)」に、スチレン系ポリマー充填剤を充填した有機系汎用カラムである「TSKgelGMHXL(東ソー製)」、及び「G2000HXL(東ソー製)」を直列に接続する。このGPCシステムに、前述の測定サンプルを200μL注入し、40℃において、溶離液のテトラヒドロフランを1.0mL/minで展開し、示差屈折率(RI)、及び紫外吸光度(UV)を利用して保持時間を測定する。別途作製しておいた標準ポリスチレンの保持時間と分子量の関係を示した検量線から、対象のリグニン類の数平均分子量、重量平均分子量を算出することができる。検出モードとしては屈折率が好ましい。
【0036】
検量線を作成するために使用する標準ポリスチレンの分子量としては、特に限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量が、1,090,000、427,000、190,000、96,400、37,900、18,100、10,200、5,970、2,630、1,050及び500の標準ポリスチレン(東ソー製)のものを用いることができる。
【0037】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類は、軟化点90℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。一方で、軟化点が高くて測定できないリグニン類を用いることができる。その様なリグニン類を用いて変性率の高いリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を製造した場合、得られる変性ノボラック型フェノール樹脂の分子量が高く、流動性が低く、加工性が劣る。しかしながら本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、そのようなリグニン類から得られる高いリグニン変性率、および高い分子量のリグニン変性フェノール樹脂にも関わらず、予想に反して良好な加工性が得られる。
【0038】
本実施形態において用いられるリグニン類の揮発分は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらにより好ましい。リグニン類の揮発分が上記範囲内であることにより、リグニン類の反応性を向上させることができ、よって得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の反応率を上げることができる。主な揮発分は水であることが多く、例えばアルミカップに4gを広げて80℃20時間で乾燥させることで算出される。
【0039】
リグニン類の軟化点は、JISK2207に準じて、環球式軟化点試験機(たとえば、メルテック(株)製ASP-MG2型)を用いて測定することができる。なお、リグニン類は多量の水を含む場合は70℃以下で絶乾させたものを測定する。本実施形態では、例えば150~200℃の熱板にてリグニン類の熱溶融性によって良好なサンプルが調製できない場合は、軟化点が高く測定ができないと判断する。
【0040】
バイオマスを分解して得られたリグニン類を用いる場合は、低分子量の成分が多量に混入することがあり、加熱時の揮発分や臭気、軟化点の低下を引き起こすことがある。これらの成分は、そのまま利用することも出来るし、リグニン類の加熱、乾燥等によって除去し、軟化点や臭気を調整することもできる。
【0041】
(アルデヒド類)
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル等が挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、ポリオキシメチレン、アセトアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。アルデヒド類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、生産性および安価な観点から、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを用いることが好ましい。
【0042】
(酸触媒)
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられる酸触媒としては、反応の触媒として使用できるものであればよく、有機酸、無機酸及びこれらの組み合わせを使用することができる。有機酸としては、酢酸、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸、スルホン酸、フェノールスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、リン酸エステル等が挙げられる。
【0043】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造において、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)は、例えば、0.5以上であり、好ましくは,0.55以上であり、より好ましくは、0.6以上である。フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)の上限値は、例えば、1.2以下であり、好ましくは、1.1以下であり、より好ましくは、1.0以下である。フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)が上記範囲である条件下で、反応を行うことにより、5500以上の重量平均分子量を有する、加工性と強度がともに改善されたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得ることができる。
【0044】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造において、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させる工程は、リグニン類とフェノール類とを70℃以上120℃以下の加熱下で混合してリグニン類を分散させて混合物を得る工程(工程1)と、工程1と同時または工程1の後に酸触媒を混合する工程(工程2)と、工程2の後に、アルデヒド類を混合する工程(工程3)を含んでもよい。また、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させる工程は、例えば、60℃~120℃の温度下、好ましくは80℃~100℃の温度下で、例えば、10分間~100分間の反応時間で実施されることが好ましい。これにより、効率よく反応を十分に進めることができる。また加熱下で実施することにより、出発物質が均一に混合され、分子間の絡み合いや分子間の作用により、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が、均一に硬化し得、よって寸法精度に優れた成形を実現することができる。なお、反応時間は、特に制限はなく、出発原料の種類、配合モル比、触媒の使用量及び種類、反応条件に応じて適宜決定すればよい。さらに反応後の反応混合物を後処理してもよい。後処理には、例えば、加熱下(例えば、150℃以上)、常圧下での蒸留、または減圧蒸留、あるいはこれらの組み合わせを用いることができる。
【0045】
上記工程1、工程2および工程3は、無溶媒下で実施することが好ましいが、溶媒として有機溶媒や水を用いてもよい。水添加の代わりに、含水のリグニンを使用しても良い。有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等が挙げられる。エーテル類としては、プロピルエーテル、ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートが挙げられる。炭化水素類としては、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ソルベントナフサ、工業ガソリン、石油エーテル、石油ベンジン、リグロイン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ここで、フェノール類とリグニン類とアルデヒド類の反応比率を調整してリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の分子量を高める従来の方法では、反応物の粘度が高くなり、脱水がしにくくなるため、プロセス時間が長くなる場合があった。また、未反応フェノール類が多く残存する場合があった。
これに対して、本実施形態の方法は、従来のフェノール類とリグニン類とアルデヒド類の反応比率で分子量を高める場合と比較して、プロセス時間が短くすることができ、樹脂の収率を高めることができる。また、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)を上記範囲とするとともに、用いるリグニン類の分子量、分子量分布、添加量を調整することにより、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の特性や樹脂材料の物性を所望の範囲に調整することができる。
【0047】
上記方法により得られる本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、5500以上の重量平均分子量を有する。本実施形態のリグニンリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、例えば、5,500以上50,000以下であり、好ましくは、6000以上45000以下であり、より好ましくは、7,000以上40,000以下である。上記範囲の重量平均分子量を有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、優れた硬化特性を有するとともに、その硬化物は高い機械的強度を有する。また本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、そのリグニン変性率が25%以上60%以下であり、好ましくは30%以上55%以下であり、より好ましくは、35%以上55%以下である。本発明のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、上記範囲のリグニン変性率を有することにより、優れた樹脂強度、耐熱性を有するとともに、硬化性および成形性において優れる。
【0048】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、例えば、微粉末状、粒状、ペレット状、ワニス状の形態で提供され得る。リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の形態は、用途に応じて適宜選択することができる。
【0049】
(成形材料)
上述のようにして得られた本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、例えば、トランスファー成形、射出成形用の成形材料として好適に用いられる。より具体的には、上述の本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、硬化剤(架橋剤)、および必要に応じて、その他の成分を配合し、所定の温度で混練することにより、成形材料として提供される。本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む成形材料は、射出成形が可能であり、その成形品は、強度および弾性率などの機械的物性において優れる。
【0050】
本実施形態の成形材料に用いられる硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤を用いることができる。アミン系硬化剤としては、具体的には、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミンなどを用いることができる。アミン系硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミンを用いることが好ましい。
【0051】
上記硬化剤の含有量は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、例えば、7質量部~30重量部であり、好ましくは、10質量部~25質量部である。上記数値範囲内とすることにより、良好な硬化性を有する成形材料を得ることができる。
【0052】
本実施形態の成形材料は、充填材をさらに含んでもよい。すなわち、上記成形材料は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂、硬化剤および充填材を含むことができる。
【0053】
充填材としては、例えば、繊維基材、有機充填材、無機充填材等を用いることができる。繊維基材は、繊維状の形態を有する充填材である。有機充填材および無機充填材は、それぞれ、粒状充填材または板状充填材のいずれでもよい。板状充填材はその形状が板状である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含む繊維状・板状以外の形状の充填材である。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
粒状充填材としては、例えば、粒形の無機充填材を用いることができ、ガラスビーズ、ガラスパウダー、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム、クレーおよびマイカなどを用いることができる。
【0055】
繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、金属繊維、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト、ロックウール、ホウ酸アルミニウムウイスカー、チタン酸カリウム繊維、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、セラミック繊維などの繊維状無機充填材;アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの繊維状有機充填材;が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0056】
また、板状充填材、粒状充填材としては、例えば、タルク、カオリンクレー、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム水和物、マイカ、ガラスフレーク、ガラス粉、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、上記繊維状充填材の粉砕物などが挙げられる。
【0057】
成形材料中の充填材の含有量は、上記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、例えば、25質量部~500質量部であり、好ましくは、50質量部~400質量部、より好ましくは100質量部~300質量部である。上記下限値以上とすることにより、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む成形材料は、優れた機械的強度を有し得る。上記上限値以下とすることにより、架橋体(成形体)の製造安定性を高めることができる。
【0058】
本実施形態の成型体を製造するための樹脂材料は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。この他の成分としては、例えば、エラストマー、硬化促進剤、樹脂成分、離型剤、顔料、難燃剤、密着向上剤、カップリング剤等の添加剤が挙げられる。
【0059】
上記エラストマーとしては、特に限定されないが、アクリルニトリルブタジエンゴム、イソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等が挙げられる。この中でもアクリルニトリルブタジエンゴムが好ましい。エラストマーを用いることで特に靱性を付与することができる。
【0060】
上記硬化促進剤としては、特に限定されず、通常の硬化促進剤を用いることができ、例えば、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、サリチル酸、安息香酸などの芳香属カルボン酸を例示することができる。上記硬化促進剤はリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部~20質量部の量で用いられる。
【0061】
上記樹脂成分としては、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂が挙げられる。また必要によりこれらの複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
上記離型剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0063】
上記顔料としては、例えば、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0064】
本実施形態の樹脂材料は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂、硬化剤、および使用する場合は充填剤を、ニーダー、ロール等で予め溶融混練し、次いで上記他の成分と均一に混合した後、あるいは、配合する全原料成分をロール、コニーダ、二軸押出し機等の混練装置単独またはロールと他の混合装置との組み合わせで溶融混練した後、造粒または粉砕して得られる。本実施形態において、成形材料は、例えば、粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状等の形態で提供される。
【0065】
得られた成形材料を加熱処理して成形することにより、この成形材料の硬化物からなる成形品(架橋体)を得ることができる。成形材料の成形方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、トランスファー成形、コンプレッション成形、射出成形等を用いることができる。
【0066】
本実施形態の成形品としては、例えば、自動車、航空機、鉄道車両、船舶、汎用機械、家庭用電化製品、調理器具やこれらの周辺部品に用いられる成形品、またはこれらの筺体、構造・機構部品、電気・電子部品に用いられる成形品が挙げられる。
【0067】
(樹脂組成物)
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、レジノイド砥石用の樹脂組成物として好適に用いられる。より具体的には、上述の本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、ヘキサメチレンテトラミンを配合することにより、レジノイド砥石用の粉末状樹脂組成物として提供される。本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを含むことにより、硬化性に優れるとともに、当該樹脂組成物の硬化物は、砥石として使用するのに適切な程度の機械的強度および弾性率を有する。本実施形態の樹脂組成物は、例えば、粉粒体の形態で提供される。樹脂組成物が粉粒状の形態で提供される場合、取り扱い性の観点から、平均粒径が10μm以上60μm以下となるよう粉砕することが好ましい。砥石強度の観点からは、15μm以上45μmがより好ましい。
【0068】
本実施形態の樹脂組成物において、ヘキサメチレンテトラミンの量は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に対して、好ましくは、2質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは、5質量%以上17質量%以下であり、さらに好ましくは、8質量%以上15質量%以下である。ヘキサメチレンテトラミンの配合量が上記下限値未満では、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の硬化が不十分になる場合があり、また、上記上限値を超えると、ヘキサメチレンテトラミンの分解により発生するガスにより、得られる硬化物に亀裂や膨れが生じる場合がある。
【0069】
(砥石)
上述の本実施形態の樹脂組成物は、レジノイド砥石を作製するために用いられる。本実施形態のレジノイド砥石は、上述の樹脂組成物に砥粒を加えて得られるものであるが、この他充填材、添加剤などを任意に使用することができる。砥粒としては、例えば、酸化アルミナ、炭化珪素、ダイヤモンド等を使用することができ、これらは砥石の研削を発現させる役割がある。充填材としては、例えば、氷晶石、硫化鉄、酸化鉄、硫酸バリウム、生石灰等の無機フィラー、熱硬化性樹脂粉末、籾殻、木粉などの有機フィラー等を使用することができ、これらは砥石の研削性能を向上させる役割がある。添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、フルフリルアルコール、フルフラール、クレオソート油、その他の有機溶剤、又は液状レゾール型フェノール樹脂等を使用することができ、砥粒との接着性を向上させるために砥粒表面に濡らしてから使用できる。
【0070】
本実施形態の樹脂組成物からレジノイド砥石を作製する方法としては、例えば、まず砥粒に液状レゾール型フェノール樹脂を混合してよく混練し、その表面が湿潤した砥粒を得、次いで本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとを含む粉末状樹脂組成物を、さらに必要に応じて上述の充填剤、添加剤をもこれに加えて、レジンコーティッドグレインを調製する工程、および得られたレジンコーティッドグレインを、常温または40~80℃に加熱した金型で必要とする形状に成型し、この成型物を10~50時間を要して加熱焼成する工程により得ることができる。加熱焼成の条件は特に制限されないが、例えば10~24時間かけて常温~200℃まで昇温し、頂点温度で3時間から10時間保持した後、除冷する条件を用いることができる。
【0071】
上記方法により得られた本実施形態の砥石は、優れた曲げ強度および耐水強度を有し、よって優れた研削性能を備える。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. 重量平均分子量が5500以上であるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂。
2. 当該リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率が、25%以上60%以下である、1.に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂。
3. 1.または2.に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂であって、
当該リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下、前記フェノール類に対する前記アルデヒド類のモル比(F/P)が0.5以上である条件で反応させて得られる樹脂である、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂。
4. 前記リグニン類の重量平均分子量が、2,000以上100,000以下である、3.に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂。
5. 1.乃至4.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂と、硬化剤と、を含む、成形材料。
6. 1.乃至4.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミンとを含む、樹脂組成物。
7. 平均粒径が10μm以上60μm以下の粉末状である、6.に記載の樹脂組成物。
8. 7.に記載の樹脂組成物の硬化物からなる砥石。
9. リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下、前記フェノール類に対する前記アルデヒド類のモル比(F/P)が0.5以上である条件で反応させることにより、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得る工程を含み、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量が5500以上である、
リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
10. 前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率が、25%以上60%以下である、9.に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
11. 前記リグニンの重量平均分子量が、2,000以上100,000以下である、9.または10.に記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
12. 前記リグニン類が、揮発分を60質量%以下の量で含む、9.乃至11.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
13. リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下、前記フェノール類に対する前記アルデヒド類のモル比(F/P)が0.5以上である条件で反応させる前記工程が、
前記リグニン類と前記フェノール類とを混合して混合物を得る工程と、
混合物を得る前記工程と同時、または混合物を得る前記工程の後に、前記酸触媒を混合する工程と、
酸触媒を混合する前記工程の後に、前記アルデヒド類を混合する工程と、
150℃以上で常圧、及び/又は、減圧蒸留する工程と、を含む、
9.乃至12.のいずれかに記載のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
[実施例A1~A5、比較例A1~A3]
<リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の調製>
【0075】
(調製例A1)
(リグニン誘導体の調製)まず、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いるリグニン誘導体を以下の手順により調製した。
含水率50%のスギ木粉1500重量部に、蒸解液として純水5000重量部、水酸化ナトリウム180重量部、炭酸ナトリウム120質量部および蒸解助剤として9,10-アントラキノン7.5重量部を、容量10Lのステンレススチール製オートクレーブ設備に仕込み、撹拌下、170℃で3時間蒸解反応を行った。反応後の蒸解液を室温まで冷却し、パルプ成分をスクリーンで除去した後、リグニンを含む黒液を分離した。分離した黒液に希硫酸を加えてpH8に調整して、生じた沈澱を遠心分離した。500質量部の水で2回洗浄した後、沈澱を5倍量の水に懸濁し、希硫酸でpH2に再調整した。沈澱したリグニンを再度遠心分離し、水で洗浄した後、吸引濾過し、バットに広げて風乾して、70℃以下で減圧オーブン乾燥を行い、固形分70%以上の褐色粉末状のアルカリリグニン140質量部から150重量部(固形分換算)を得た。リグニンの固形分率はアルミカップに4gサンプルを入れ、135℃1時間で加熱乾燥させた後の残存率から算出した。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)続いてリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を以下の手順により合成した。
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコにフェノール100重量部を加え、リグニン誘導体固形分40重量部を徐々に添加して60℃以上で混合して分散させて、シュウ酸を1.4重量部加え、37%ホルムアルデヒド水溶液58.6重量部を60分かけて徐添して100℃で反応させて、添加後に100℃にて60分反応させて、常圧及び減圧脱水で150℃以上に昇温して所望のフェノール濃度になったところで取り出し、128.1重量部のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A1を得た。
【0076】
(調製例A2)
(リグニン誘導体の調製)pH2に調整して遠心分離する際に、再度水を加えて遠心分離することで水洗回数を増やして、減圧オーブンにて80℃以下で乾燥したこと以外は、調製例A1と同じ方法により、リグニン誘導体を調製した。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部に、リグニン誘導体固形分40重量部とシュウ酸1.4重量部を加えて、70℃以上で30分混合したこと以外は、調製例A1と同様にして、127.9重量部のリグニン変性フェノール樹脂A2を得た。
【0077】
(調製例A3)
(リグニン誘導体の調製)蒸解液として、純水5000重量部、水酸化ナトリウム150重量部、硫化ナトリウム80重量部、炭酸ナトリウム70質量部および蒸解助剤として9,10-アントラキノン7.5重量部を用いたこと、pH2に調整して遠心分離する際に、再度水を加えて遠心分離することで水洗回数を増やして、減圧オーブンにて80℃以下で乾燥したこと以外は、調製例A1と同じ方法により、リグニン誘導体を調製した。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部に、リグニン誘導体固形分37.4重量部とシュウ酸1.5重量部を加えて70℃以上で30分混合して、37%ホルムアルデヒド水溶液51.2重量部を用いたこと以外は、調製例A1と同様にして、124.2重量部のリグニン変性フェノール樹脂A3を得た。
【0078】
(調製例A4)
(リグニン誘導体の調製)含水率50%のブナ木粉に、蒸解液としてエタノール3000重量部、水2250重量部を用いて、195℃1時間で蒸解して、蒸解液からエタノールを分留して得られた水溶液を遠心分離して、凍結乾燥して固形分90%以上のリグニン誘導体を得たこと以外は調製例A1と同様にして、リグニン誘導体を得た。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部、リグニン誘導体固形分60重量部、シュウ酸1.6重量部を加えて、37%ホルムアルデヒド水溶液51.6重量部を用いたこと以外は、調製例A1と同様にして、138.1重量部のリグニン変性フェノール樹脂A4を得た。
【0079】
(調製例A5)
(リグニン誘導体の調製)調製例A1と同様にして、リグニン誘導体を得た。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部、リグニン誘導体固形分41.7重量部、シュウ酸1.4重量部を加えて、37%ホルムアルデヒド水溶液57.8重量部を用いて、所望のフェノール濃度に達した後にカシュー殻オイルを2.1重量部添加して混合して取り出したこと以外は、調製例A1と同様にして、140.6重量部のリグニン変性フェノール樹脂A5を得た。
【0080】
(調製例A6)
(リグニン誘導体の調製)含水率50%のスギ木粉200重量部に、蒸解液として純水567重量部を、容量10Lのステンレススチール製オートクレーブ設備に仕込み、撹拌下、300℃1時間処理を行った。反応後の蒸解液を室温まで冷却し、濾別して、リグニンを含む固形分を得た。得られた分固形分をアセトン250部に12時間浸漬した。これをろ過して、ろ液からアセトンを70℃以下で留去して乾燥することでリグニン誘導体15.2重量部を得た。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部、リグニン誘導体固形分43.5重量部、シュウ酸1.4重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液73.3重量部を用いたこと以外は、調製例A1と同様にして、143.7重量部のリグニン変性フェノール樹脂A6を得た。
【0081】
(調製例A7)
(リグニン誘導体の調製)含水率50%のブナ木粉を用いたこと以外は、調製例A3と同様にしてリグニン誘導体を得た。さらにリグニン誘導体をアセトンに分散させて、ろ過し、ろ液から70℃以下でアセトンを粒去して乾燥させることで低分子化したリグニン誘導体を得た。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部、リグニン誘導体固形分33.3重量部、シュウ酸1.3重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液58.6重量部を用いたこと以外は調製例A1と同様にして、121.6重量部のリグニン変性フェノール樹脂A7を得た。
【0082】
得られたリグニン誘導体の重量平均分子量および数平均分子量、ならびに軟化温度を、それぞれ、GPC法または環球式軟化点試験機により測定した。結果を表1に、「リグニンの特性」として示す。
また得られたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量、数平均分子量およびリグニン変性率を測定した。これらの測定結果を表1に、「リグニン変性フェノール樹脂の特性」として示す。なお、本実施形態のリグニン変性ノボラックフェノール樹脂成分は、特に高分子量の成分を含むことがあったため、標準ポリスチレン数平均分子量42,7000を超える高分子量成分を除外した値も参考に表中( )内に記した。
【0083】
<成形材料の作製>
各実施例および各比較例において、表1に示すリグニン変性フェノール樹脂100質量部にヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)15質量部を常温で添加し、粉砕混合してフェノール変性リグニン樹脂組成物を調製した。
得られたフェノール変性リグニン樹脂組成物に対し、ガラス繊維(充填材、ガラスミルドファイバー、日東紡績(株)製、基準繊維径10±1.5μm、平均繊維長90μm)160重量部、添加剤(ステアリン酸(日本油脂社製)、カーボンブラック(三菱化学社製、#5))8重量部を配合し、約90℃の加熱ロールで約5分間混練し、冷却後粉砕して、フェノール変性リグニン樹脂組成物(成形材料)を得た。
(フェノール樹脂)
・フェノール樹脂A1:調製例A1のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A1
・フェノール樹脂A2:調製例A2のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A2
・フェノール樹脂A3:調製例A3のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A3
・フェノール樹脂A4:調製例A4のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A4
・フェノール樹脂A5:調製例A5のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A5
・フェノール樹脂A6:調製例A6のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A6
・フェノール樹脂A7:調製例A7のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A7
・フェノール樹脂A8:未変性ノボラック型フェノール樹脂A8(Mw=9640、Mn=940)
【0084】
(成形材料の性能評価)
得られた成形材料を、175℃、20MPa、3minの条件で、トランスファー成形し、さらに180℃、8hで加熱処理し、成形品(硬化物)を得た。得られた成形品を以下の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0085】
(曲げ強度(25℃)、曲げ弾性率(25℃))
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して、25℃において、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。具体的には、精密万能試験機(島津製作所社製 オートグラフAG-Xplus)にて、2mm/分の速度で荷重をかけて三点曲げ試験を行った。
(曲げ強度(150℃)、曲げ弾性率(150℃))
150℃において、上記と同様にして、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
(シャルピー衝撃強度)
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠してシャルピー衝撃強度を測定した。
(絶縁抵抗)
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して絶縁抵抗を測定した。
【0086】
【0087】
[実施例B1~B3、比較例B1~B2]
<リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の調製>
各調製例に示す方法にて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を調整した。
【0088】
(調製例B1)
(リグニン誘導体の調製)蒸解液として、純水5000重量部、水酸化ナトリウム150重量部、硫化ナトリウム80重量部、炭酸ナトリウム70質量部および蒸解助剤として9,10-アントラキノン7.5重量部を用いたこと以外は、調製例A1と同様にして、リグニン誘導体を得た。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部、リグニン誘導体固形分37.4重量部、シュウ酸1.5重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液51.2重量部を用いたこと以外は、調製例A1と同様にして、125.0重量部のリグニン変性フェノール樹脂B1を得た。
【0089】
(調製例B2)
(リグニン誘導体の調製)含水率50%のブナ木粉に、蒸解液としてエタノール3000重量部、水2250重量部を用いて、195℃1時間で蒸解して、蒸解液からエタノールを分留して得られた水溶液を遠心分離して、凍結乾燥して固形分90%以上のリグニン誘導体を得たこと以外は調製例A1と同様にして、リグニン誘導体を得た。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部、リグニン誘導体固形分38.5重量部、シュウ酸1.4重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液55.2重量部を用いたこと以外は、調製例A1と同様にして、123.3重量部のリグニン変性フェノール樹脂B2を得た。
【0090】
(調製例B3)
(リグニン誘導体の調製)含水率50%のブナ木粉に、蒸解液としてエタノール3000重量部、水2250重量部を用いて、195℃1時間で蒸解して、蒸解液からエタノールを分留して得られた水溶液を遠心分離して、凍結乾燥して固形分90%以上のリグニン誘導体を得たこと以外は調製例A1と同様にして、リグニン誘導体を得た。
(リグニン変性フェノール樹脂の調製)フェノール100重量部、リグニン誘導体固形分79.2重量部、シュウ酸1.8重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液51.7重量部を用いたこと以外は、調製例A1と同様にして、156.7重量部のリグニン変性フェノール樹脂B3を得た。
【0091】
得られたリグニン誘導体の重量平均分子量および数平均分子量、ならびに軟化温度を、それぞれ、GPC法または環球式軟化点試験機により測定した。結果を表1に、「リグニンの特性」として示す。
また得られたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量、数平均分子量およびリグニン変性率を測定した。これらの測定結果を表1に、「リグニン変性フェノール樹脂の特性」として示す。
なお、本実施形態のリグニン変性ノボラックフェノール樹脂成分は、特に高分子量の成分を含むことがあったため、標準ポリスチレン数平均分子量427,000を超える高分子量成分を除外した値も参考に表中( )内に記した。
【0092】
<樹脂組成物の作製>
各実施例および各比較例において、表2に示すリグニン変性フェノール樹脂100質量部と、硬化剤としてのヘキサメチレンテトラミン10質量部を混合し、パルペライザ―にて微粉化して、粒径10~60μmの粉末状樹脂組成物を得た。
(フェノール樹脂)
・フェノール樹脂B1:調製例B1のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂B1
・フェノール樹脂B2:調製例B2のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂B2
・フェノール樹脂B3:調製例3のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂B3
・フェノール樹脂B4:調製例A6のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂A6
・フェノール樹脂B5:未変性ノボラック型フェノール樹脂B5(Mw=12640、Mn=1204)
【0093】
(粉末状樹脂組成物の性能評価)
得られた粉末状樹脂組成物のフローを、以下の方法により測定した。
(フロー(流れ))
フェノール樹脂、又は、リグニン変性フェノール樹脂100重量部と、ヘキサメチレンテトラミン10重量部を混合粉砕して得られた粉末状樹脂組成物を使って、JIS K 6910「フェノール樹脂試験方法」の流れA法に準拠してフロー(流れ)を測定した。
粉末状樹脂組成物のフローが長いほど、その硬化物は高い強度を有する。
【0094】
<砥石試験片の作製>
各実施例、および各比較例において、アルミナ砥粒、サクランダムA#60 (日本カーリット(株)製)1200部とウェッター用液状フェノール樹脂PR-55331(住友ベークライト(株)製)24部とを、品川式混練機を用いて4分間混練を行い、上記調製例で調製した各フェノール樹脂または未変性フェノール樹脂144部を添加して、更に2分間混練を行ってコーテットグレインを製造した。コーテッドグレインは、混練直後と、25℃相対湿度60%の条件で12時間保存した後で状態を確認した。その後、成形物が100mm×25mm×15mmの大きさで、かさ比重2.0となるように、コーテッドグレインを金型に投入してプレス成形を行い、成形物をステンレス製の鉄板に載せた。これをプログラム機能の付いた熱風循環式の乾燥機に入れて、常温から80℃まで5時間、80℃から100℃まで5時間、100℃から120℃まで10時間、120℃から130℃まで4時間、130℃から170℃まで7時間、180℃で10時間保持、その後5時間かけて常温に冷却するプログラムを用いて硬化させ、砥石試験片を製造した。
【0095】
(砥石試験片の性能評価)
得られた砥石試験片を、以下の項目について評価した。評価結果を表2に示す。
【0096】
(常温曲げ強度、常温曲げ弾性率)
JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して、25℃において、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。具体的には、精密万能試験機(島津製作所社製 オートグラフAG-Xplus)にて、2mm/分の速度で荷重をかけて三点曲げ試験を行った。
(耐水強度)
耐水強度は試験片を80℃の水に2時間浸漬させて、取り出して常温曲げ強度と同様の条件で測定を行った。
(耐熱強度)
耐熱強度は試験片をセットして、恒温槽にて200℃下にして15分静置して、常温曲げ強度と同様の条件で測定を行った。結果を表2に示す。
【0097】
【0098】
この出願は、2021年4月6日に出願された日本出願特願2021-064596号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。