(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】破壊靭性試験装置及び破壊靭性試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20230516BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G01N3/00 T
G01N3/08
(21)【出願番号】P 2019205932
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501120122
【氏名又は名称】スチールプランテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114524
【氏名又は名称】榎本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】細井 厚志
(72)【発明者】
【氏名】川田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】原田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】イエスパーセン クリスティーン ムンク
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-302318(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164212(WO,A1)
【文献】特開2015-87349(JP,A)
【文献】西口 勝也,アルミニウム/CFRPの異材点接合技術,マツダ技報,2018年10月,第35号,95-100頁,特に「3.3 接合部の耐久信頼性」参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
G01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種材料からなる第1及び第2の部材を熱残留応力が存在した状態で接合してなり、これら部材の界面の一部にき裂が形成された試験片に、所定の試験用負荷を作用させることで、前記試験片の接合界面の破壊靭性を評価するための試験装置であって、
前記試験用負荷を前記試験片に作用させる試験用負荷作用手段と、前記熱残留応力をキャンセルするように前記試験片にキャンセル用負荷を作用させるキャンセル用負荷作用手段とを備えたことを特徴とする破壊靭性試験装置。
【請求項2】
前記キャンセル用負荷作用手段は、前記キャンセル用負荷として前記試験片に押圧力を付与するように動作する押圧力付与部と、前記押圧力の大きさを決定する押圧力決定部とを備え、
前記押圧力決定部では、予め記憶された数式により、面内せん断型のき裂変形状態に対応するエネルギー解放率の成分をゼロにするように、前記押圧力の大きさが算出されることを特徴とする請求項1記載の破壊靭性試験装置。
【請求項3】
前記数式が下記の(1)~(5)であることを特徴とする、請求項2記載の破壊靭性試験装置。
【数1】
G
II
:面内せん断型のき裂変形状態に対応するエネルギー解放率の成分
B:試験片の幅
h
1
:第1の部材(11A)の厚み
h
2
:第2の部材(11B)の厚み
a:き裂長さ
α
1
:第1の部材(11A)を構成する材料の熱膨張率
α
2
:第2の部材(11B)を構成する材料の熱膨張率
ΔT:使用温度と応力フリー温度の温度差
P
D
:試験用負荷としての引張力
P
E
:キャンセル用負荷としての押圧力
z
1
:第1の部材(11A)に設定された厚み方向の座標
z
2
:第2の部材(11B)に設定された厚み方向の座標
E
1
:第1の部材(11A)における面内ヤング率
E
2
:第2の部材(11B)における面内ヤング率
i:添字(1:第1の部材(11A)、2:第2の部材(11B))
【請求項4】
前記押圧力付与部では、前記第1及び第2の部材のうち熱膨張率の高い部材から低い部材に向かって前記押圧力を付与することを特徴とする請求項
2又は
3記載の破壊靭性試験装置。
【請求項5】
前記試験用負荷作用手段では、前記試験用負荷として、前記き裂を開口するように当該き裂の垂直方向に前記試験片を引っ張る引張力を当該試験片に付与することで、開口型のき裂変形状態に対応するモードのみの純モードにおけるき裂変形状態での試験を行うことを特徴とする請求項1
~4のうちのいずれか1項記載の破壊靭性試験装置。
【請求項6】
異種材料からなる第1及び第2の部材を熱残留応力が存在した状態で接合してなり、これら各部材の界面の一部にき裂が形成された試験片に、所定の試験用負荷を作用させることで、前記試験片の接合界面の破壊靭性を評価するための試験方法であって、
前記試験片に対し、前記熱残留応力の影響をキャンセルするキャンセル用負荷を作用させながら前記試験用負荷を作用させることを特徴とする破壊靭性試験方法。
【請求項7】
前記キャンセル用負荷の大きさを、所定の数式により面内せん断型のき裂変形状態に対応するエネルギー解放率の成分をゼロにするように算出することを更に含むことを特徴とする請求項6記載の破壊靭性試験方法。
【請求項8】
前記所定の数式が下記の(1)~(5)であることを特徴とする、請求項7記載の破壊靭性試験方法。
【数2】
G
II
:面内せん断型のき裂変形状態に対応するエネルギー解放率の成分
B:試験片の幅
h
1
:第1の部材(11A)の厚み
h
2
:第2の部材(11B)の厚み
a:き裂長さ
α
1
:第1の部材(11A)を構成する材料の熱膨張率
α
2
:第2の部材(11B)を構成する材料の熱膨張率
ΔT:使用温度と応力フリー温度の温度差
P
D
:試験用負荷としての引張力
P
E
:キャンセル用負荷としての押圧力
z
1
:第1の部材(11A)に設定された厚み方向の座標
z
2
:第2の部材(11B)に設定された厚み方向の座標
E
1
:第1の部材(11A)における面内ヤング率
E
2
:第2の部材(11B)における面内ヤング率
i:添字(1:第1の部材(11A)、2:第2の部材(11B))
【請求項9】
前記キャンセル用負荷として、前記第1の部材及び前記第2の部材のうち熱膨張率の高い部材から低い部材に向かって押圧力を付与することを特徴とする請求項6~8のうちのいずれか1項記載の破壊靭性試験方法。
【請求項10】
前記き裂を開口するように当該き裂の垂直方向に前記試験片を引っ張る引張力を当該試験片に付与することで、開口型のき裂変形状態に対応するモードのみの純モードにおけるき裂変形状態での試験を行うことを特徴とする請求項6~9のうちのいずれか1項記載の破壊靭性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料の接合界面の破壊靭性を評価するための破壊靭性試験装置及び破壊靭性試験方法に係り、更に詳しくは、熱残留応力の影響を除外した純モードでの破壊靭性を評価可能とする破壊靭性試験装置及び破壊靭性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体や自動車の車体の重量を軽減するために、マルチマテリアル構造が検討されているが、当該マルチマテリアル構造において、異種材料からなる部材同士のボルト締結は重量増加の原因となるため、ボルトを使用しない接合構造にする必要がある。そこで、熱膨張率の異なる異種材料からなる部材同士を加熱接合すると、当該加熱接合後における加熱接合体に熱残留応力が生じ、その熱残留応力が原因で加熱接合体に反りが生じる。
【0003】
このような加熱接合体の設計を考える上では、異種材料同士の接合強度のみならず、それらの接合面となる接合界面におけるき裂進展特性の指標となる破壊靭性を評価することも求められる。従来、この破壊靭性を評価するための試験法としては、特許文献1等に挙げられているように、材料のき裂進展に必要な単位面積当たりのエネルギーとなる破壊靭性値(エネルギー解放率)の計測を行う上で、種々のJIS試験法が規格化されている。当該JIS試験法としては、双片持ち梁試験(DCB試験)や端面切欠き曲げ試験(ENF試験)等がある。DCB試験は、き裂を垂直方向に開口させるように負荷(荷重)を与えた状態で行うモードIと呼ばれる開口型のき裂変形状態に関する試験である。また、ENF試験は、き裂の先端側からき裂の延伸方向(長さ方向)に沿って、負荷(荷重)を与えた状態で行うモードIIと呼ばれる面内せん断型のき裂変形状態に関する試験である。更に、特許文献1等に開示されているように、これらモードI及びモードIIの混合モードにおける破壊靭性を評価するための混合モード曲げ試験(MMB試験)もある。
【0004】
ところで、異種材料同士を加熱接合してなる加熱接合体の場合には、その構成材料の熱膨張率が異なることや非対称であることから、前述したように、熱残留応力による反りが生じている。そこで、非特許文献1には、MMB試験法等での試験において、熱残留応力の影響を加味した破壊靭性値を求めるように定式化した補正法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】横関智弘、「熱残留応力を考慮した層間き裂進展に関するエネルギー解放率:CrackTip Element法による定式化」日本複合材料学会誌 第35巻 第3号、2009年、p99-105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記非特許文献1では、モードI及びモードIIのそれぞれの成分において熱残留応力を加味して合計したエネルギー解放率を求めることが可能であるものの、逆に、熱残留応力の影響を除外した各モードでの負荷のみの純モードでの破壊靭性の評価ができない。このような純モードでの破壊靭性は、き裂の進展を予測するための数値シミュレーションのパラメータ等として、設計上必要とされることがある。そこで、本発明者らは、熱残留応力がモードIIの面内せん断型の荷重に相当することに着目し、熱残留応力をキャンセルする方向に負荷をかけながら従来の破壊靭性試験を行うことで、熱残留応力が存在する加熱接合体の接合界面における純モードの破壊靭性を評価できることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づくものであり、その目的は、異種材料同士を接合してなる試験片に熱残留応力が存在する場合に、当該熱残留応力の影響を除外した純モードにおける試験片の破壊靭性を評価可能にする破壊靭性試験装置及び破壊靭性試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、異種材料からなる第1及び第2の部材を熱残留応力が存在した状態で接合してなり、これら部材の界面の一部にき裂が形成された試験片に、所定の試験用負荷を作用させることで、前記試験片の接合界面の破壊靭性を評価するための試験装置であって、前記試験用負荷を前記試験片に作用させる試験用負荷作用手段と、前記熱残留応力をキャンセルするように前記試験片にキャンセル用負荷を作用させるキャンセル用負荷作用手段とを備える、という構成を主として採っている。
【0010】
また、本発明は、異種材料からなる第1及び第2の部材を熱残留応力が存在した状態で接合してなり、これら各部材の界面の一部にき裂が形成された試験片に、所定の試験用負荷を作用させることで、前記試験片の接合界面の破壊靭性を評価するための試験方法であって、前記試験片に対し、前記熱残留応力の影響をキャンセルするキャンセル用負荷を作用させながら前記試験用負荷を作用させる、という手法を主として採っている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱残留応力をキャンセルする負荷を試験片にかけながら、従来の破壊靭性試験を行うことで、試験片に存在する熱残留応力の影響を除外した純モードでの試験片の破壊靭性が評価可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る破壊靭性試験装置を概念的に表した概略構成図である。
【
図2】(A)は、試験片の層構造及び寸法表記等を説明するための概略斜視図であり、(B)は、(A)のA部における部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1には、本実施形態に係る破壊靭性試験装置を概念的に表した概略構成図が示されている。この図において、破壊靭性試験装置10は、熱残留応力が存在する試験片11に対し、当該熱残留応力をキャンセルするキャンセル用負荷を与えながら、試験片11の一部に形成されたき裂13を開口するようにき裂13の垂直方向に試験用負荷を与えることで、開口型のき裂変形状態に係るモードIのみの純モードでの破壊靭性試験を行えるように構成されている。
【0015】
ここで、試験片11としては、
図2にも示されるように、異種材料である第1及び第2の材料からなる平面視方形状の2種の板材同士を加熱しながら相互に接合したものが用いられる。特に限定されるものではないが、本実施形態では、第1の材料として、アルミニウムが用いられ、第2の材料として、熱可塑性の炭素繊維強化プラスチック(CFRTP)が用いられる。そして、これら第1及び第2の材料からなる各板材を上下に積層した上で、加熱プレスにより、それらが当接する面の一部領域を除いて接合することで、当該一部領域をき裂13とする試験片11が形成される。従って、本実施形態の試験片11は、アルミニウムからなる
図2(A)中上側の第1層11Aと、アルミニウムよりも熱膨張率が低いCFRTPからなる同図中下側の第2層11Bからなる。換言すると、試験片11は、第2層11Bの
図2中上側に、第2層11Bよりも熱膨張率の高い第1層11Aが積層される。また、これら第1層11A及び第2層11Bの界面の一部には、それらを非接合とした領域となるき裂13が、
図2(A)中左端縁から試験片11の内方に延びるように形成されている。更に、試験片11は、熱膨張率が相違する第1及び第2の材料の接合による熱残留応力の影響で、その破壊靭性試験時において、中央部分が
図2(A)中下方に湾曲する反りが僅かに生じた状態となっている。なお、便宜上、各図においては、試験片11を平板状に図示している。
【0016】
また、後述する演算に用いられる前記試験片11の寸法として、
図2(A)に示されるように、第1層11Aと第2層11Bの幅を同一値である幅Bと表記し、同図(B)に示されるように、上下方向(z軸方向)の高さである厚みについて、第1層11Aを厚みh
1、第2層11Bを厚みh
2と表記する。
【0017】
なお、本発明の破壊靭性試験装置10では、本実施形態の材質や形状等の試験片11での試験に限らず、相互に熱膨張率の相違する複数材料の界面の一部にき裂13を形成し、熱残留応力が存在した状態のものであれば、種々の材質や形状等からなる試験片11を適用することができる。
【0018】
前記破壊靭性試験装置10は、
図1に示されるように、所定の設置面に設置される平面視方形板状の基台15と、基台15に固定されるとともに、試験片11を
図1中下側から同図中左右2箇所で支持する試験片支持部16と、前記試験用負荷を試験片11に作用させる試験用負荷作用手段17と、前記キャンセル用負荷を試験片11に作用させるキャンセル用負荷作用手段18とを備えている。
【0019】
前記試験片支持部16は、試験時において、CFRTPからなる第2層11B側が
図1中下側となる向きで試験片11が載置されるようになっており、試験片11の同図中下面における同図中左右2箇所を支点P1、P2として、試験片11を支持可能な形状及び構造となっている。
【0020】
前記試験用負荷作用手段17は、試験片支持部16に支持された試験片11の
図1中左端寄りの部分で、試験片11に対し、当該部分に存在するき裂13を開口するように、き裂13を垂直方向に引っ張る引張力を付与する引張力付与部20と、試験片11に作用させた外力を計測し記録する計測記録部21とを備えている。これら引張力付与部20及び計測記録部21は、ロードセル等を含む公知の試験機と同等の機構が採用されており、詳細な構成についての説明は省略する。
【0021】
前記キャンセル用負荷作用手段18は、試験片11に対し、キャンセル用負荷としての押圧力を付与するように動作する押圧力付与部23と、試験片11に付与される押圧力の大きさを決定し、押圧力付与部23への動作指令を行う押圧力決定部24とを備えている。
【0022】
前記押圧力付与部23は、試験片11の
図1中上面側に接触する接触子26と、接触子26を試験片11に垂直となる
図1中上下方向に動作させるアクチュエータ27とからなる。
【0023】
前記接触子26は、試験片11の長さ方向となる
図1中左右方向における前記支点P1、P2の間の中間の距離となる作用点P3に接触可能に配置されており、アクチュエータ27の駆動により、CFRTPよりも熱膨張率の高いアルミニウムからなる第1層11Aの表面の作用点P3を第2層11B側に向かって同図中下方に押圧するように動作する。
【0024】
前記アクチュエータ27は、図示省略しているが、空気圧シリンダと、当該空気圧シリンダを駆動させるためのコンプレッサや各種弁を含む流体回路とを含む公知の構成からなり、ここでの詳細な説明は省略する。なお、前記アクチュエータ27としては、本実施形態の空気圧駆動装置に限定されるものではなく、接触子26を前述のように動作させる駆動源として機能する限り、モータ、油圧シリンダ等を駆動源とする種々の装置を採用することができる。
【0025】
前記押圧力決定部24では、予め記憶された以下の関係式を用いて押圧力P
Eが演算により求められる。ここでは、試験片11の熱残留応力が、面内せん断型のモードIIのみのき裂変形状態に相当するとし、熱残留応力を考慮したモードIIのエネルギー解放率の成分G
IIがゼロになるように、試験片11の作用点P3に作用させる押圧力P
Eが算出される。
【数1】
【0026】
上式において、Bは、試験片の幅、h
1は、アルミニウムからなる第1層11Aの厚みであり、h
2は、CFRTPからなる第2層11Bの厚みであり、aは、
図1に示されるように、き裂13の基部13Aから試験用負荷の作用点P4までのx軸方向の長さに相当するき裂長さである。また、α
1は、第1層11Aを構成するアルミニウムの熱膨張率であり、α
2は、第2層11Bを構成するCFRTPの熱膨張率であり、ΔTは、使用温度と応力フリー温度の温度差であり、これら各値は予め所定値に決定される。また、P
Dは、試験用負荷となる引張力の大きさであるが、本実施形態では、試験用負荷を作用させない状態で押圧力P
Eが求められるため、P
D=0として計算される。
更に、上式(3)、(4)、(5)における各文字(E、R、S、U、c、d)と、
図2(B)に示されるように、各層11A,11B毎に設定された座標系における厚み方向のz軸とにおいて、それぞれ表記された添字iは、第1層11Aのものをi=1とし、第2層11Bのものをi=2として表す。なお、Eiは、各層11A,11Bにおける面内ヤング率であり、各層11A,11Bでの材料が特定されているため、それぞれ所定値を採る。
【0027】
次に、前記破壊靭性試験装置10を用いた試験方法について説明する。
【0028】
先ず、き裂13を含み、異種材料同士を加熱接合し熱残留応力が生じた状態の試験片11が用意される。そして、試験用負荷となる引張力を試験片11に作用させない状態で、押圧力決定部24により、熱残留応力をキャンセルするキャンセル用負荷となる押圧力P
Eが、演算により求められる。すなわち、ここでは、第1層11A及び第2層11Bの材料特性やサイズ等の性状に対応する事前設定値が、予め記憶された上式(1)~(5)にそれぞれ代入され、押圧力P
Eが算出される。その前後何れかにおいて、熱膨張率の高い第1層11Aを
図1中上側とする向きで試験片11が試験片支持部16に載置される。その後、試験片11に一定の押圧力P
Eを作用させるとともに、試験用負荷となる引張力P
Dの大きさを変えながら試験が行われる。この際、き裂13の開口状況や進展状況が図示しないカメラやクリップゲージ等によってモニタリングされ、計測記録部21において、各引張力P
Dの大きさから、当該引張力P
Dに対応する試験片の破壊靭性評価が、破壊靭性値等の算出によって行われる。
【0029】
なお、前記破壊靭性試験装置10としては、異種材料を接合してなる試験片11に対し、熱膨張率の高い方の材料からなる部材を低い方の材料からなる部材に向かって押圧力を付与することにより、試験片の熱残留応力をキャンセル可能な限り、種々の構成を採ることができる。
【0030】
また、前記実施形態では、試験片11の熱残留応力をキャンセルし、モードIのみの純モードでの破壊靭性に関するデータを取得可能にしているが、本発明はこれに限らず、試験用負荷作用手段17として、試験片11に対する試験用負荷の作用方向や場所等を変えることで、面内せん断型や面外せん断型等の他のモードに対応した試験用負荷を試験片11に作用させる構成を採用することもできる。これにより、当該各モードについて、試験片11の熱残留応力をキャンセルした純モードでのデータ取得が可能となる。
【0031】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
10 破壊靭性試験装置
11 試験片
13 き裂
17 試験用負荷作用手段
18 キャンセル用負荷作用手段
23 押圧力付与部
24 押圧力決定部