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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ガラスバルク体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/50 20060101AFI20230516BHJP
   B23K 26/354 20140101ALI20230516BHJP
   C04B 41/68 20060101ALI20230516BHJP
   E04C 2/04 20060101ALI20230516BHJP
   E21B 33/138 20060101ALI20230516BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20230516BHJP
   E21D 9/10 20060101ALI20230516BHJP
   G21F 9/16 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C04B41/50
B23K26/354
C04B41/68
E04C2/04 E
E21B33/138
E21B43/00 Z
E21D9/10 Z
G21F9/16 541A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020533389
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2019027715
(87)【国際公開番号】W WO2020026766
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018143231
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】阪口 秀
(72)【発明者】
【氏名】川人 洋介
(72)【発明者】
【氏名】山本 由弦
(72)【発明者】
【氏名】桑野 修
(72)【発明者】
【氏名】和鹿 公則
(72)【発明者】
【氏名】川渕 達巳
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-174376(JP,A)
【文献】特開2017-141581(JP,A)
【文献】特表平10-507275(JP,A)
【文献】特開昭63-100085(JP,A)
【文献】特開昭60-161318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/44105(US,A1)
【文献】国際公開第2011/77559(WO,A1)
【文献】特開昭61-121113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/00-41/68
G21F 9/16
B23K 26/00-26/354
E21B 33/138
E21B 43/00
E21D 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの表面をガラス化するガラスバルク体の製造方法であって、
前記砂粒の集合体、前記岩石及び前記コンクリートはシリカ(SiO)成分を含み、
前記表面にレーザを定点照射し、溶融部を形成させる第一工程と、
前記溶融部が連続して拡大する走査速度で前記レーザの照射位置を移動させ、ガラス層を形成させる第二工程と、を有し、
前記第一工程と前記第二工程を連続して行い、
前記第一工程において、前記表面における前記レーザのパワー密度を3~15W/mmとし、
前記第二工程において、前記表面における前記レーザのパワー密度を20~40W/mmとし、
前記第二工程において、前記走査速度を0.01~2.0m/minとすること、
を特徴とするガラスバルク体の製造方法。
【請求項2】
前記第一工程の予備処理工程として、前記表面にシリカ(SiO)成分を含む粉末を配置すること、
を特徴とする請求項1に記載のガラスバルク体の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス層に対して前記予備処理工程、前記第一工程及び前記第二工程を施し、前記ガラス層の厚さを増加させること、
を特徴とする請求項2に記載のガラスバルク体の製造方法。
【請求項4】
前記第二工程において、前記溶融部に前記粉末を供給すること、
を特徴とする請求項2又は3に記載のガラスバルク体の製造方法。
【請求項5】
前記砂の集合体及び/又は前記岩石が、地盤又は海底を掘削する際の掘削領域外縁に存在すること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載のガラスバルク体の製造方法。
【請求項6】
高レベル放射性廃棄物を前記溶融部に取り込むこと、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載のガラスバルク体の製造方法。
【請求項7】
前記粉末をコンクリート部材の溝部に配置し、
前記溝部を前記ガラス層で埋めること、
を特徴とする請求項2~6のうちのいずれかに記載のガラスバルク体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスバルク体の製造方法に関し、より具体的には、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの表面の任意の領域をガラス化することができるガラスバルク体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームには質量が無いため、レーザ加工は基本的に無騒音かつ無振動で行うことができ、金属材の加工及び溶接等のみならず、コンクリート材への処理についても注目され、建築分野への適用可能性についての調査が開始されている。
【0003】
具体的には、シリカ成分を含むコンクリートや岩に対してレーザを照射すると、照射領域のシリカ成分が溶融してガラス化することが報告されており、当該現象を利用して、岩盤切削やコンクリート材への孔あけ及び表面処理等が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平6-80485号公報)においては、建築用材料基材の表面に無機物質を主成分とする表面付着材を配置し、レーザを照射することにより表面層を溶融し、強固な膜が形成された建築材料を得る表面処理方法が提案されている。
【0005】
上記特許文献1に記載のレーザ溶接装置においては、建築用材料基材と表面付着材の両方を溶融するため強固な硬化膜を作成することができ、建設用材料の表面に着色した硬化膜を容易に形成することや、建設用材料の表面に断熱、遮音効果を持たせることができる、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開平11-19785号公報)においては、セメント硬化体にレーザを照射して、セメント硬化体の強度を低下させた脆弱層を形成した後に、当該脆弱層を除去することにより穿孔することを特徴とするセメント硬化体の穿孔方法が提案されている。
【0007】
上記特許文献2に記載のセメント硬化体の穿孔方法においては、低騒音・低振動の装置を用いて穿孔対象物たるセメント硬化体に十分強度を低下させた脆弱層を形成し、その後に当該脆弱層を除去するため、低速回転の機械式又は手動式の工具を用いて当該脆弱層を除去することができる。その結果、穿孔時における振動や騒音の発生を極力抑えることができ、穿孔時における作業環境及び周辺環境の改善を図ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-80485号公報
【文献】特開平11-19785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の建設用材料及びその表面処理方法は、レーザ照射に対して成分等が調整された無機物質を主成分とする表面付着材を使用することが必須であり、レーザ照射によって当該表面付着材を溶融させ、建築用材料基材の表面に被覆するものである。即ち、上記特許文献1に記載の表面処理方法はレーザ照射を用いた無機物質の被覆方法であり、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに含まれるシリカ(SiO)成分を原料とし、これらの任意の領域にガラス層を形成させるガラスバルク体の製造方法とは全く異なる。
【0010】
また、上記特許文献2に記載のセメント硬化体の穿孔方法は、レーザ照射を用いてセメント硬化体に脆弱層を形成させるものであり、欠陥等の形成が抑制された緻密なガラス層を任意の領域に形成させる方法とは全く逆の方向性を有する技術である。更に、脆弱層を形成させるのは穿孔領域に相当する狭い領域に限定されることに加え、当該脆弱層を連続的に形成させる必要もない。つまり、公知の従来技術においては、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに含まれるシリカ(SiO)成分を原料とし、これらの任意の領域に(特に広い領域に)緻密なガラス層を連続的に形成させる方法は存在しない。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに対してレーザ照射し、これらの砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに含まれるシリカ(SiO)成分を原料として、任意の領域に(特に広い領域に)緻密なガラス層を連続的に形成させる簡便なガラスバルク体の製造方法を提供することにある。また、本発明は、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートからなる基材の表面がガラス化され、任意の領域にガラス層が連続的に形成されたガラスバルク体を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく、緻密なガラス層を連続的かつ広域に形成させることができるレーザ照射方法について鋭意研究を重ねた結果、レーザの定点照射によってガラス層の種となる溶融部を形成した後、レーザの走査によって当該溶融部を連続して拡張すること等が極めて重要であるということを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの表面をガラス化するガラスバルク体の製造方法であって、
前記砂粒の集合体、前記岩石及び前記コンクリートはシリカ(SiO)成分を含み、
前記表面にレーザを定点照射し、溶融部を形成させる第一工程と、
前記溶融部が連続して拡大する走査速度で前記レーザの照射位置を移動させ、ガラス層を形成させる第二工程と、を有し、
前記第一工程と前記第二工程を連続して行うこと、
を特徴とするガラスバルク体の製造方法、を提供する。
【0014】
シリカ(SiO)成分を含む砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの表面にレーザを定点照射することで、ガラス層の種となる溶融部を形成することができる。その後、レーザを任意の方向に走査することで、当該溶融部を拡張することができる。ここで、走査速度が早過ぎる場合は、溶融部が分断又は狭くなり、緻密なガラス層を連続的に形成させることができない。一方で、走査速度が遅過ぎる場合は、ガラス層の形成に必要なシリカ(SiO)成分の蒸発や水蒸気爆発、基材である砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの形状変化等によって、緻密なガラス層を連続的に形成させることができない。
【0015】
本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記第一工程の予備処理工程として、前記表面にシリカ(SiO)成分を含む粉末を配置すること、が好ましい。砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに含まれるシリカ(SiO)成分に加えて、粉末からもシリカ(SiO)成分を供給することで、より安定的かつ効率的にガラス層を形成することができる。
【0016】
また、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記ガラス層に対して前記予備処理工程、前記第一工程及び前記第二工程を施し、前記ガラス層の厚さを増加させること、が好ましい。第一工程及び第二工程をそれぞれ一回施すことでもガラス層を形成させることができるが、粉末によってシリカ(SiO)成分を再度供給し、第一工程及び第二工程を施すことで、ガラス層の厚さ及び面積を増加させることができる。ここで、当該処理は一度に限られず、必要に応じて複数回繰り返すことで、任意の厚さ及び面積を有するガラス層を形成することができる。
【0017】
また、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記第二工程において、前記溶融部に前記粉末を供給すること、が好ましい。第二工程において溶融部にシリカ(SiO)成分を含む粉末を供給することで、より安定的かつ効率的に緻密なガラス層を形成することができる。粉末の供給方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法で供給すればよい。例えば、レーザクラッディングで用いられている粉末供給方法(溶融部近傍への粉末供給用ノズルや、レーザ照射に対して同軸に粉末を供給するノズル等)を用いることができる。
【0018】
また、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記第一工程において、前記表面における前記レーザのパワー密度を3~15W/mmとすること、が好ましい。レーザのパワー密度を3W/mm以上とすることで、基材に含まれるシリカ(SiO)成分等を十分に溶融し、ガラス層の種領域を形成させることができる。また、15W/mm以下とすることで、水蒸気爆発等によるガラス層の緻密化阻害を抑制することができ、基材の変形等も抑制することができる。
【0019】
また、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記第二工程において、前記表面における前記レーザのパワー密度を20~40W/mmとすること、が好ましい。レーザのパワー密度を20W/mm以上とすることで、レーザの照射位置を移動させても溶融状態を十分に維持することができ、溶融部を連続的に拡大することができる。また、40W/mm以下とすることで、シリカ(SiO)成分の蒸発、水蒸気爆発及び基材の変形等を抑制することができる。
【0020】
また、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記第二工程において、前記走査速度を0.01~2.0m/minとすること、が好ましい。レーザの走査速度を0.01m/min以上とすることで、シリカ(SiO)成分等の蒸発や水蒸気爆発、基材の変形等を抑制することができる。また、2.0m/min以下とすることで、レーザの照射位置を移動させても溶融状態を十分に維持することができ、溶融部を連続的に拡大することができる。
【0021】
また、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記砂の集合体及び/又は前記岩石が、地盤又は海底を掘削する際の掘削領域外縁に存在すること、が好ましい。地盤又は海底を掘削する場合、当該掘削に伴って掘削領域外縁が崩落することが問題となっている。一般的にはケーシングを用いて掘削を進めていくが、地層が立っている場合(油田の地層等)は崩落しやすく、ケーシングできない場合が存在する。ここで、崩落しやすい領域をガラス化することで内径が一定となり、ケーシングを容易に設置することができる。また、ケーシングを用いる場合は掘削深さの増加に伴って内径が小さくなるという問題も存在するが、掘削領域外縁(掘削領域内径)をガラス化することで崩落を抑制できれば、ケーシングを使用する必要がなくなる。
【0022】
また、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、高レベル放射性廃棄物を前記溶融部に取り込むこと、が好ましい。現在、高レベル放射性廃棄物はステンレス鋼製の容器中に溶融ガラスと共に封入してガラス固化体とし、当該容器ごと地下施設に埋設されているが、ガラス固化体の製造には大型の製造設備が必要となることに加えて、大規模な埋設場が必要となる。これに対し、高レベル放射性廃棄物を溶融部に取り込むことで極めて容易にガラス固化体とすることができることに加え、ステンレス鋼製の大型容器も不要となる。また、地中深くに当該ガラス固化体を形成させることもでき、大規模な埋設場も不要となる。
【0023】
上記のように高レベル放射性廃棄物を含むガラス固化体を「その場製造埋設」することにより、大型の製造設備が不要となることに加えて最小限の埋設場で対応が可能となるため、2次的な高レベル放射性廃棄物を極めて効果的に削減することができる。
【0024】
更に、本発明のガラスバルク体の製造方法においては、前記粉末をコンクリート部材の溝部に配置し、前記溝部を前記ガラス層で埋めること、が好ましい。コンクリート部材の溝部をガラス層で埋めることで、コンクリート部材の耐食性や美観等を向上させることができる。また、2つ以上のコンクリート部材の間に溝部が存在する場合は、当該溝部をガラス層で充填することで、ガラス層を介してこれらのコンクリート部材を接合することができる。また、コンクリート部材同士を突合せ、当該突合せ線に沿ってガラス層を形成させることでも簡易な接合を達成することができる。
【0025】
また、本発明は、
砂粒の集合体、岩石又はコンクリートからなる基材部と、
ガラス層と、を有し、
前記基材部と前記ガラス層とが、気泡を有する境界領域を介して連続的に一体化していること、
を特徴とするガラスバルク体、も提供する。
【0026】
本発明のガラスバルク体は砂粒の集合体、岩石又はコンクリートからなる基材部に含まれるシリカ(SiO)成分を原料とするガラス層が形成されているため、基材部と緻密なガラス層とは連続的に一体化されている。また、基材部とガラス層との境界領域には気泡が存在し、当該気泡によって基材部とガラス層の物性的な差異が効果的に緩和された構造となっている。
【0027】
また、本発明のガラスバルク体においては、前記ガラス層が透明性を有していること、が好ましい。本発明のガラスバルク体において形成されているガラス層は緻密であり、当該ガラス層が透明性を有していることで、例えば、光の透過を利用した優れた美観を有する建築部材(外壁等)として活用することができる。なお、本発明のガラスバルク体は、本発明のガラスバルク体の製造方法によって好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のガラスバルク体の製造方法によれば、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに対してレーザ照射し、これらの砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに含まれるシリカ(SiO)成分を原料として、任意の領域に(特に広い領域に)緻密なガラス層を連続的に形成させる簡便なガラスバルク体の製造方法を提供することができる。
【0029】
また、本発明のガラスバルク体によれば、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートからなる基材の表面がガラス化され、任意の領域に緻密なガラス層が連続的に形成されたガラスバルク体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明のガラスバルク体の概略断面図である。
図2】実施例1で得られた試料の断面図である。
図3】実施例1で形成したガラス層を光が透過する状態を示す写真である。
図4】実施例2で得られた試料の外観写真である。
図5】実施例3で得られた試料の外観写真である。
図6】実施例4で用いた溝を形成させたコンクリート片の外観写真である。
図7】コンクリート片に形成させた溝の拡大写真である。
図8】粉末を充填した溝の外観写真である。
図9】粉末をガラス化した状態を示す外観写真である。
図10】実施例4で最終的に得られた処理領域の外観写真である。
図11】実施例5で得られたコンクリート接合体の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明のガラスバルク体の製造方法及びガラスバルク体の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0032】
(1) ガラスバルク体の製造方法
本発明のガラスバルク体の製造方法は、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの表面をガラス化するガラスバルク体の製造方法であって、レーザを定点照射する第一工程と、レーザを走査する第二工程と、を有している。以下、各工程等について詳細に説明する。
【0033】
1.第一工程(レーザの定点照射)
第一工程は、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの表面に対してレーザを定点照射し、後にガラス層となる種(溶融部)を形成するための工程である。
【0034】
ガラス層を形成させる基材となる砂粒の集合体、岩石又はコンクリートはシリカ(SiO)成分を含んでおり、当該シリカ(SiO)成分がガラス層となる。なお、「砂粒の集合体」とは、広く砂粒が集合したものを意味し、例えば、砂粒の集合体に圧力を印加して固めたものや、地盤や海底に存在する砂粒等を含む。
【0035】
また、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートはシリカ(SiO)成分を含んでいる限り特に限定されず、従来公知の種々の砂粒の集合体、岩石又はコンクリートを使用することができる。例えば、砂粒には珪砂や真砂土等を用いることができ、岩石には花崗岩、砂岩、泥岩及び凝灰岩等を用いることができる。また、例えば、海底から噴出する熱水に含まれる金属などが析出・沈殿してできる構造物であるチムニーを対象とすることもできる。
【0036】
また、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートに含まれるシリカ(SiO)成分を十分に溶融させることができる限りにおいて照射に用いるレーザの種類は特に限定されず、従来公知の種々のレーザを用いることができる。ここで、好適に用いることができるレーザとしては半導体励起の固体レーザを挙げることができ、例えば、半導体レーザを用いることができる。
【0037】
第一工程においては、基材表面におけるレーザのパワー密度は3~15W/mmとすることが好ましい。レーザのパワー密度を3W/mm以上とすることで、基材に含まれるシリカ(SiO)成分等を十分に溶融し、ガラス層の種領域を形成させることができる。また、15W/mm以下とすることで、水蒸気爆発等によるガラス層の緻密化阻害を抑制することができ、基材の変形等も抑制することができる。なお、レーザのパワー密度は5~10W/mmとすることがより好ましい。
【0038】
また、第一工程の予備処理工程として、基材表面にシリカ(SiO)成分を含む粉末を配置することが好ましい。基材に含まれるシリカ(SiO)成分に加えて、粉末からもシリカ(SiO)成分を供給することで、より安定的かつ効率的にガラス層を形成することができる。なお、粉末はシリカ(SiO)成分が含まれている限りにおいて特に限定されないが、例えば、ガラス粉末、シリカ粒子、珪砂及び真砂土等を使用することができ、これらを混合して使用してもよい。
【0039】
第一工程の予備処理工程として基材表面に粉末を配置する場合、当該配置の方法は特に限定されないが、例えば、レーザ照射する領域に適当な量の粉末を配置した後、当該粉末をナイフエッジ等で均すことが好ましい。
【0040】
2.第二工程(レーザの走査)
第二工程は、第一工程におけるレーザの定点照射から連続的にレーザを走査し、溶融部(ガラス層の種領域)を拡大するための工程である。
【0041】
第二工程においては、基材表面におけるレーザのパワー密度を20~40W/mmとすることが好ましい。レーザのパワー密度を20W/mm以上とすることで、レーザの照射位置を移動させても溶融状態を十分に維持することができ、溶融部を連続的に拡大することができる。また、40W/mm以下とすることで、シリカ(SiO)成分の蒸発、水蒸気爆発及び基材の変形等を抑制することができる。なお、より好ましいレーザのパワー密度は25~35W/mmである。
【0042】
また、レーザの走査速度は0.01~2.0m/minとすることが好ましい。レーザの走査速度を0.01m/min以上とすることで、シリカ(SiO)成分等の蒸発や水蒸気爆発、基材の変形等を抑制することができる。また、2.0m/min以下とすることで、レーザの照射位置を移動させても溶融状態を十分に維持することができ、溶融部を連続的に拡大することができる。なお、より好ましいレーザの走査速度は0.1~1.0m/minである。
【0043】
第二工程では、上述のシリカ(SiO)成分を含む粉末を溶融部に供給することが好ましい。第二工程において溶融部にシリカ(SiO)成分を含む粉末を供給することで、より安定的かつ効率的に緻密なガラス層を形成することができる。粉末の供給方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法で供給すればよい。例えば、レーザクラッディングで用いられている粉末供給方法(溶融部近傍への粉末供給用ノズルや、レーザ照射に対して同軸に粉末を供給するノズル等)を用いることができる。
【0044】
第二工程で得られたガラス層に対して、予備処理工程、第一工程及び第二工程を施すことで、当該ガラス層の厚さを増加させることができる。第一工程及び第二工程をそれぞれ一回施すことでもガラス層を形成させることができるが、粉末によってシリカ(SiO)成分を再度供給し、第一工程及び第二工程を施すことで、ガラス層の厚さ及び面積を増加させることができる。ここで、当該処理は一度に限られず、必要に応じて複数回繰り返すことで、任意の厚さ及び面積を有するガラス層を形成することができる。
【0045】
なお、第一工程及び第二工程共に、レーザ照射領域の雰囲気は特に限定されず、例えば、大気中や不活性ガス雰囲気で行うことができる。
【0046】
3.ガラスバルク体の製造方法の応用例
本発明のガラスバルク体の製造方法は、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートの表面の任意の領域に緻密なガラス層を形成させることができるのみならず、種々の効果的な応用例が存在する。
【0047】
3-1.掘削領域の崩落防止
地盤又は海底を掘削する場合、当該掘削に伴って掘削領域外縁が崩落することが問題となっている。これに対し、掘削領域外縁(掘削領域内径)をガラス化することで当該崩落を極めて効果的に抑制することができる。
【0048】
例えば、油田の地層等では地層が立っており、脆弱な層に起因する崩落が深刻な問題となる。当該崩落が生じた場合はケーシングできないが、掘削領域の内壁にガラス層を形成させることで、崩落を抑制することができる。加えて、内壁の径及び形状が安定化することで、ケーシングを設置することも可能である。
【0049】
また、ケーシングを用いる場合は掘削深さの増加に伴って内径が小さくなるという問題も存在するが、掘削領域外縁(掘削領域内径)をガラス化することで崩落を抑制できれば、ケーシングを使用する必要がなくなる。
【0050】
3-2.高レベル放射性廃棄物の処理
現在、高レベル放射性廃棄物はステンレス鋼製の容器中に溶融ガラスと共に封入してガラス固化体とし、当該容器ごと地下施設に埋設されているが、ガラス固化体の製造には大型の製造設備が必要となることに加えて、大規模な埋設場が必要となる。これに対し、高レベル放射性廃棄物を溶融部に取り込むことで極めて容易にガラス固化体とすることができることに加え、ステンレス鋼製の大型容器も不要となる。また、地中深くに当該ガラス固化体を形成させることもでき、大規模な埋設場も不要となる。
【0051】
高レベル放射性廃棄物を含むガラス固化体を「その場製造埋設」することにより、大型の製造設備が不要となることに加えて最小限の埋設場で対応が可能となる結果、2次的な高レベル放射性廃棄物を極めて効果的に削減することができる。
【0052】
ここで、高レベル放射性廃棄物をガラス層に取り込むタイミング等は特に限定されないが、例えば、第一工程の予備処理として基材の表面に粉末を配置する際に、当該粉末と基材の間に高レベル放射性廃棄物を配置し、その後、第一工程及び第二工程を施すことで、高レベル放射性廃棄物をガラス層に取り込むことができる。その他、第二工程において溶融部に粉末を供給する際に、高レベル放射性物質を同時に供給してもよい。
【0053】
3-3.コンクリート部材の補修補強及び接合
シリカ(SiO)成分を含む粉末をコンクリート部材の溝部に配置し、当該溝部をガラス層で埋めることで、コンクリート部材を補修及び/又は補強することができる。ここで、溝部は意図的に形成させてもよく、自然に発生した亀裂等を溝部としてもよい。ガラス層の形成によって機械的性質や耐食性が改善されるだけでなく、美観も向上させることができる。
【0054】
また、2つ以上のコンクリート部材の間に溝部が存在する場合、当該溝部にガラス層を形成させることで、ガラス層を介してこれらのコンクリート部材を接合することができる。更に、コンクリート部材を突合せ、突合せ線に沿ってガラス層を形成させることで、簡易な接合を達成することもできる。
【0055】
(2) ガラスバルク体
図1に本発明のガラスバルク体の概略断面図を示す。ガラスバルク体2は、砂粒の集合体、岩石又はコンクリートからなる基材部4と、ガラス層6と、を有し、基材部4とガラス層6とは気泡8を有する境界領域を介して連続的に一体化している。
【0056】
基材部4は砂粒の集合体、岩石又はコンクリートからなり、これらはシリカ(SiO)成分を含んでいる。砂粒の集合体、岩石又はコンクリートはシリカ(SiO)成分を含んでいる限り特に限定されず、従来公知の種々の砂粒の集合体、岩石又はコンクリートとなっている。例えば、砂粒は珪砂や真砂土等であり、岩石は花崗岩、砂岩、泥岩及び凝灰岩等である。なお、コンクリートには珪砂や粘土が含まれており、これらの成分がシリカ(SiO)を有している。
【0057】
緻密なガラス層6と基材部4との境界領域に形成されている気泡8により、ガラス層6と基材部4の密度差や物性的な差異が緩和され、ガラス層6と基材部4とは連続的に一体化されている。ここで、気泡8のサイズは50~2000μmであることが好ましく、100~1500μmであることがより好ましい。気泡8のサイズが50μm以上となることでガラス層6と基材部4との差異を緩和することができ、2000μm以下となることで境界領域の脆化を抑制することができる。
【0058】
ガラス層6は透明性を有していることが好ましい。ガラス層6が透明性を有していることで、例えば、光の透過を利用した優れた美観を有する建築部材(外壁等)として活用することができる。なお、本発明のガラスバルク体は、本発明のガラスバルク体の製造方法によって好適に得ることができる。
【0059】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0060】
≪実施例1≫
レーザライン社製の半導体レーザを用い、砂岩の表面に対してレーザ照射を行った。具体的には、レーザ出力を800W、砂岩の表面におけるレーザビーム径を2×39mmとし、60秒間定点照射した(第一工程)。第一工程におけるレーザパワー密度は10W/mmである。
【0061】
第一工程における定点照射によって十分な溶融領域の形成が確認されたため、レーザ出力を2800Wに増加させ、移動速度を48mm/minとしてレーザ照射位置を移動させた(第二工程)。第二工程におけるレーザパワー密度は35W/mmである。適当なレーザパワー密度及び移動速度を設定したことにより、レーザの走査によって溶融部が途切れることなく、連続的に溶融部が拡大された。処理後の砂岩の断面写真を図2に示す。
【0062】
図2より、砂岩の表面領域には緻密なガラス層が広域に形成されていることが分かる。また、ガラス層は基材である砂岩から連続的に形成しており、ガラス層と基材の境界には気泡が形成されている。なお、砂岩に生じている亀裂は、主として断面試料作製時に生じたものである。
【0063】
得られたガラス層を分離し、裏面から光を照射した状態を図3に示す。裏面から照射した光はガラス層を透過しており、形成されたガラス層が透明性を有していることが確認できる。
【0064】
≪実施例2≫
レーザライン社製の半導体レーザを用い、凝灰岩の表面に対してレーザ照射を行った。具体的には、レーザ出力を800W、凝灰岩の表面におけるレーザビーム径を2×39mmとし、60秒間定点照射した(第一工程)。第一工程におけるレーザパワー密度は10W/mmである。
【0065】
第一工程における定点照射によって十分な溶融領域の形成が確認されたため、レーザ出力を2800Wに増加させ、移動速度を48mm/minとしてレーザ照射位置を移動させた(第二工程)。第二工程におけるレーザパワー密度は35W/mmである。適当なレーザパワー密度及び移動速度を設定したことにより、レーザの走査によって溶融部が途切れることなく、連続的に溶融部が拡大された。
【0066】
第二工程では、凝灰岩の成分を含む粉末を溶融部に供給した。第二工程において溶融部に凝灰岩の成分を含む粉末を供給することで、より安定的かつ効率的に緻密なガラス層を形成することができる。処理後の凝灰岩の外観写真を図4に示す。
【0067】
図4より、凝灰岩の表面領域には透明性を有する緻密なガラスバルク体が広域に形成されていることが分かる。また、ガラスバルク体は基材である凝灰岩から連続的に形成しており、ガラスバルク体と基材の境界に亀裂等の欠陥は認められない。
【0068】
≪実施例3≫
レーザライン社製の半導体レーザを用い、コンクリートの表面に対してレーザ照射を行った。具体的には、レーザ出力を2800W、コンクリートの表面におけるレーザビーム径を2×39mmとし、1秒間定点照射した(第一工程)。第一工程におけるレーザパワー密度は35W/mmである。
【0069】
第一工程における定点照射によって十分な溶融領域の形成が確認されたため、移動速度を48mm/minとしてレーザ照射位置を移動させた(第二工程)。なお、本実施例では第二工程のレーザ出力を第一工程から増加させていない。
【0070】
得られた試料の外観写真を図5に示す。実施例3では黒色のガラス層が広域に形成されていることが分かる。
【0071】
≪実施例4≫
レーザライン社製の半導体レーザを用い、コンクリートの表面に形成した溝(深さ20mm,長さ100mm)をガラス層で埋めることを試みた。溝を有するコンクリート片の外観写真を図6に示す。また、溝の拡大写真を図7に示す。ここで、1層目は溝の底部に直接レーザ照射してガラス層を形成し、2層目から5層目は珪砂を粉砕処理した砂状粉末で溝を埋めつつ、当該領域に対してレーザを照射して、順次ガラス層を形成させた。
【0072】
1層目の形成には、レーザ出力を540W、溝の底面におけるレーザビーム径を2×27 mmとし、1秒間定点照射した(第一工程)。第一工程におけるレーザパワー密度は10W/mmである。その後、レーザ出力を1900Wとし、48mm/minの速度でレーザを走査した。第二工程におけるレーザパワー密度は35W/mmである。
【0073】
2層目から5層目の形成には、珪砂を粉砕処理した砂状粉末を溶融部に供給し、レーザ出力を1900Wとし、48mm/minの速度でレーザを走査した。この工程におけるレーザパワー密度は35W/mmである。
【0074】
粉末を充填した状態の溝の外観写真及び当該領域をガラス化した後の外観写真を図8及び図9にそれぞれ示す。充填した粉末(珪砂の粉末)がレーザ照射によって緻密なガラスとなっていることが分かる。
【0075】
最終的に得られた試料の溝の拡大写真を図10に示す。溝は完全に緻密なガラス層で充填されており、多層のガラス層によって深い溝であっても表面まで充填できることが分かる。
【0076】
≪実施例5≫
レーザライン社製の半導体レーザを用い、コンクリート片同士の接合を試みた。コンクリート片同士を端面で当接させ、当該端面の外周領域のガラス化により接合を行った。ここで、レーザ照射面に対して、3mm~5mm程度の高さとなる粉末を供給し、当該粉末には砂岩を粉砕処理した砂状粉末を用いた。
【0077】
具体的には、レーザ出力を1900W、コンクリート表面におけるレーザビーム径を2×27mmとし、1秒間定点照射した(第一工程)。第一工程におけるレーザパワー密度は35 W/mmである。その後、端面の外周領域に沿って48mm/minの速度でレーザ照射位置を移動させた(第二工程)。なお、本実施例では第二工程のレーザ出力を第一工程から増加させていない。
【0078】
端面の外周領域を2周レーザ照射した後の試料の外観写真を図11に示す。突合せ端面の外周領域がガラス化しており、2個のコンクリート片が接合されていることが確認できる。
【符号の説明】
【0079】
2・・・ガラスバルク体、
4・・・基材部、
6・・・ガラス層、
8・・・気泡。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11