(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】プラスティネーションスライス標本の水浴装置及びその水浴硬化方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/31 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
G01N1/31
(21)【出願番号】P 2021575894
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(86)【国際出願番号】 CN2021073769
(87)【国際公開番号】W WO2021159953
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-12-18
(31)【優先権主張番号】202010090888.8
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517353932
【氏名又は名称】大連医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】隋 鴻錦
(72)【発明者】
【氏名】張 健飛
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-075870(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1480038(CN,A)
【文献】特開平10-206301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水浴装置を用いるプラスティネーションスライス標本の水浴硬化方法であって、
前記水浴装置は、
水槽と、水槽内に設けられる制御ボックスと、ヒータと、水循環アセンブリと、位置決めグリッドとを含み、
前記水槽の上表面は開口し、
前記ヒータは水槽の内部に設けられ、制御ボックスに電気的に接続され、
前記水循環アセンブリは水循環管路と、水循環管路に設けられる循環水ポンプと、水槽の側壁に設けられる排水口とを含み、
前記水槽の内壁の両側に位置決めグリッドが対向して設けられ
、
前記制御ボックス内に水循環管路及び循環水ポンプが設けられ、前記水循環管路の一端に循環水入口が設けられ、前記循環水入口は制御ボックスの外に連通し、前記制御ボックスの側壁に複数の循環水出口が開設され、前記水循環管路の他端は循環水出口に連通し、
前記プラスティネーションスライス標本の水浴硬化方法は、
プラスティネーション切片を脱水した後、上端が開放され、他の三面が密封された扁平な垂直空間を形成する垂直包埋ボックス内に入れるステップaと、
前記垂直包埋ボックス内に薬液を入れ、真空ボックスに入れて真空含浸を行うステップbと、
含浸が完了した後、前記垂直包埋ボックスを前記水槽内の位置決めグリッドの間に垂直に挿着し、前記水槽によって水浴硬化を行うステップcと、
薬液が完全に重合した後、前記プラスティネーション切片を前記垂直包埋ボックスから取り出すステップdと、
を含むことを特徴とする、プラスティネーションスライス標本の水浴硬化方法。
【請求項2】
前記制御ボックス内に温度コントローラが設けられ、前記温度コントローラはヒータに電気的に接続されることを特徴とする、請求項
1に記載の
方法。
【請求項3】
前記ヒータは水槽の底面に近接して設置されることを特徴とする、請求項
2に記載の
方法。
【請求項4】
前記ヒータは水槽の側壁に近接して設置されることを特徴とする、請求項
2又は
3に記載の
方法。
【請求項5】
前記水槽の側壁は多層構造であり、水槽の側壁の内層に保温層が充填されることを特徴とする、請求項1に記載の
方法。
【請求項6】
前記水槽の構造は直方体又は円柱体であることを特徴とする、請求項1又は
5に記載の
方法。
【請求項7】
ステップaは、1枚の強化ガラスの表面にシールストリップを塗布し、シールストリップを介して2枚の強化ガラスを対向して設置し、上端が開放され、他の三面が密封された扁平な垂直空間を形成すること、2枚の前記強化ガラスの周囲の三面を固定クリップで補助的に固定すること、前記プラスティネーション切片を上部の開口から2枚の前記強化ガラスの間に入れることを含むことを特徴とする、請求項
1に記載の
方法。
【請求項8】
ステップaは、前記プラスティネーション切片を1枚の強化ガラスの表面に置き、前記プラスティネーション切片の周囲の強化ガラスの表面にシールストリップを塗布し、シールストリップを介して2枚の強化ガラスを対向して設置し、上端が開放され、他の三面が密封された扁平な垂直空間を形成し、2枚の前記強化ガラスの周囲の三面を固定クリップで補助的に固定することを含むことを特徴とする、請求項
1に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー検査分野に関し、特にプラスティネーションスライス標本の水浴装置及びその水浴硬化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラスティネーションスライス標本の製造プロセスにおいて、標本の硬化には紫外線照射法が用いられている。プラスティネーション切片をまず脱水してから、ポリマーに入れて含浸させ、含浸が完了した切片をシャーレのような周囲を密封したモールドに入れ、位置を整え、再びポリマーを注入してから、その周囲をシールし、且つ水平に置き、ガラスプレートボックスの上下に紫外線ランプを置いて照射することにより切片を硬化させる。この方法でスライス切片を硬化させるには、最初に温度を上昇させる必要があり、それによりポリマーの重合が生じ、重合が始まると、ポリマーは大量の熱エネルギーを放出するため、温度が高くなり過ぎて、破裂が生じるのを防止するために、この時に重合熱を放出する必要があり、空気対流装置で放熱を確保する必要がある。紫外線照射法による硬化プロセスには以下の欠点が存在する。第一に、熱が大量に発生し、放熱が遅く、紫外線ランプの光照射と重合後の熱発生が重なることで、ガラスプレートボックス内の切片は、外部に熱量を迅速に伝達することができない。第二に、温度の柔軟な制御が困難であり、破裂が生じやすい。第三に、受熱が不均一であり、スライスの変形を引き起こす。第四に、硬化装置が複雑である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする技術的課題は従来技術に存在する欠点を解消し、プラスティネーションスライス標本の水浴装置及びその水浴硬化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下の技術的解決手段によって実現される。
【0005】
プラスティネーションスライス標本の水浴装置であって、水槽と、水槽内に設けられる制御ボックスと、ヒータと、水循環アセンブリと、位置決めグリッドとを含み、前記水槽の上面は開口しており、前記ヒータは水槽の内部に設けられ、ヒータは制御ボックスに電気的に接続されることを特徴とする。前記水循環アセンブリは水循環管路と、水循環管路に設けられる循環水ポンプと、水槽の側壁に設けられる排水口とを含み、前記水槽の内壁の両側に位置決めグリッドが対向して設けられることを特徴とする。
【0006】
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、前記制御ボックス内に水循環管路及び循環水ポンプが設けられ、前記水循環管路の一端に循環水入口が設けられ、前記循環水入口は制御ボックスの外に連通し、前記制御ボックスの側壁に複数の循環水出口が開設され、前記水循環管路の他端は循環水出口に連通する。
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、前記制御ボックス内に温度コントローラが設けられ、前記温度コントローラはヒータに電気的に接続される。
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、前記ヒータは水槽の底面に近接して設置される。
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、前記ヒータは水槽の側壁に近接して設置される。
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、前記水槽の側壁は多層構造であり、水槽の側壁の内層に保温層が充填される。
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、前記水槽の構造は直方体又は円柱体である。
【0007】
本発明は、前記プラスティネーションスライス標本の水浴装置を用いるプラスティネーションスライス標本の水浴硬化方法であって、プラスティネーション切片を脱水した後、垂直包埋ボックス内に入れるステップaと、前記垂直包埋ボックス内に薬液を入れ、真空ボックスに入れて真空含浸を行うステップbと、含浸が完了した後、前記垂直包埋ボックスを前記水槽内の位置決めグリッドの間に垂直に挿着し、前記水槽によって水浴硬化を行うステップcと、薬液が完全に重合した後、前記プラスティネーション切片を前記垂直包埋ボックスから取り出すステップdと、を含むことを特徴とするプラスティネーションスライス標本の水浴硬化方法をさらに開示する。
【0008】
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、ステップaは、1枚の強化ガラスの表面にシールストリップを塗布し、シールストリップを介して2枚の強化ガラスを対向して設置し、上端が開放され、他の三面が密封された扁平な垂直空間を形成すること、2枚の前記強化ガラスの周囲の三面を固定クリップで補助的に固定し、前記プラスティネーション切片を上部の開口から2枚の前記強化ガラスの間に入れることを含む。
【0009】
上記技術的解決手段に基づき、好ましくは、ステップaは、前記プラスティネーション切片を1枚の強化ガラスの表面に置くこと、前記プラスティネーション切片の周囲の強化ガラスの表面にシールストリップを塗布し、シールストリップを介して2枚の強化ガラスを対向して設置し、上端が開放され、他の三面が密封された扁平な垂直空間を形成すること、2枚の前記強化ガラスの周囲の三面を固定クリップで補助的に固定することを含む。
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0010】
含浸が完了した後に垂直包埋ボックスを水槽内の位置決めグリッドの間に挿着し、水浴によってプラスティネーションスライス標本を硬化させ、装置がシンプルで且つ温度の制御が容易であり、対流性に優れており、昇温、冷却時の熱伝導が迅速であり、水は熱の良導体であるため、硬化初期に昇温する必要がある場合、水の熱量が垂直ガラスボックスに伝達し、ボックス内のポリマーを昇温させ、重合が開始した後、ポリエステルの温度が上昇し、冷却する必要がある場合、余分な熱量を水に迅速に伝達することができ、硬化中の温度の安定を保証し、破裂現象の発生を効果的に防止して、さらに、垂直包埋ボックスが水中に浸漬され、水と緊密に接触するため、受熱が均一であり、スライスが変形しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】は本発明の制御ボックス部分の側面構造概略図である。
【
図3】は本発明の垂直包埋ボックス部分の正面構造概略図である。
【
図4】は本発明の垂直包埋ボックス部分の側面構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
当業者が本発明の技術的解決手段をよりよく理解するために、以下に図面及び最適な実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
図示するように、本発明は水槽5と、水槽5内に設けられる制御ボックス1と、ヒータ3と、水循環アセンブリと、位置決めグリッド2とを含み、前記水槽5の上表面は開口し、前記ヒータ3は水槽5の内部に設けられ、ヒータ3は制御ボックス1に電気的に接続され、前記水循環アセンブリは水循環管路8と、水循環管路8に設けられる循環水ポンプ9と、水槽5の側壁に設けられる排水口4とを含み、前記水槽5の内壁の両側に位置決めグリッド2が対向して設けられる。含浸が完了した後に垂直包埋ボックスを水槽5内の位置決めグリッド2の間に挿着し、水浴によってプラスティネーションスライス標本を硬化させ、装置がシンプルで且つ温度の制御が容易であり、対流性に優れており、昇温、冷却時の熱伝導が迅速であり、水は熱の良導体であるため、硬化初期に昇温する必要がある場合、水の熱量が垂直ガラスボックスに伝達し、ボックス内のポリマーを昇温させ、重合が開始した後、ポリエステルの温度が上昇し、冷却する必要がある場合、余分な熱量を水に迅速に伝達することができ、硬化中の温度の安定を保証し、破裂現象の発生を効果的に防止して、さらに、垂直包埋ボックスが水中に浸漬され、水と緊密に接触するため、受熱が均一であり、スライスが変形しにくい。
【0014】
上記実施例に基づき、好ましくは、前記制御ボックス1内に水循環管路8及び循環水ポンプ9が設けられ、前記水循環管路8の一端に循環水入口6が設けられ、前記循環水入口6は制御ボックス1の外に連通し、前記制御ボックス1の側壁に複数の循環水出口10が開設され、前記水循環管路8の他端は循環水出口10に連通し、それにより水槽5内の水を絶えず循環させて、水槽5内の温度バランスを保持する。
【0015】
上記実施例に基づき、好ましくは、前記制御ボックス1内に温度コントローラ7が設けられ、前記温度コントローラ7はヒータ3に電気的に接続され、実験の要件に応じて温度コントローラ7の設定温度を調整することができ、水槽内の水温を一定に保持する。
上記実施例に基づき、好ましくは、前記ヒータ3は水槽5の底面に近接して設置される。
【0016】
上記実施例に基づき、好ましくは、前記ヒータ3は水槽5の側壁に近接して設置される。ヒータ3は水槽5内の各位置に複数設置することができ、温度コントローラ7を調整することによりヒータ3の出力を変更し、水槽5内の受熱を均一に保持して、水温を一定にする。
上記実施例に基づき、好ましくは、前水槽5の側壁は多層構造であり、水槽5の側壁の内層に保温層が充填され、熱量の散逸を効果的に防止する。
上記実施例に基づき、好ましくは、前記水槽5の構造は直方体又は円柱体である。
【0017】
本発明は、プラスティネーション切片13を脱水した後、本実施例において2枚の強化ガラス11及び密封材質で製造された完全密閉又は部分密閉のガラスプレートボックスである垂直包埋ボックス内に入れるステップaと、前記垂直包埋ボックス内に薬液を入れ、真空ボックスに入れて真空含浸を行うステップbと、含浸が完了した後、前記垂直包埋ボックスを前記水槽5内の位置決めグリッド2の間に垂直に挿着し、前記水槽5によって水浴硬化を行うステップcと、薬液が完全に重合した後、前記プラスティネーション切片13を前記垂直包埋ボックスから取り出し、垂直包埋ボックスの両側の強化ガラス11を取り外して完成品の切片を得るステップdと、を含むことを特徴とする、プラスティネーションスライス標本の水浴硬化方法をさらに開示する。
【0018】
上記実施例に基づき、好ましくは、ステップaは、1枚の強化ガラス11の表面にシールストリップ14を塗布し、シールストリップ14を介して2枚の強化ガラス11を対向して設置し、上端が開放され、他の三面が密封された扁平な垂直空間を形成すること、2枚の前記前記強化ガラス11の周囲の三面を固定クリップ12で補助的に固定すること、前記プラスティネーション切片13を上部の開口から2枚の前記強化ガラス11の間に入れることを含む。本実施例における垂直包埋ボックスは2枚の強化ガラス11及びシールストリップ14で製造された三面が密閉され、開口が上向きの垂直ガラスプレートボックスであり、包埋ボックスの上端は密閉されておらず、真空含浸中にアセトンは気泡の形態で包埋ボックスの上方から散逸するため、硬化前にポリマーを2回加える必要がなく、プロセスステップ及び薬品の消費を削減する。
【0019】
上記実施例に基づき、好ましくは、ステップaは、前記プラスティネーション切片13を1枚の強化ガラス11の表面に置くこと、前記プラスティネーション切片13の周囲の強化ガラス11の表面にシールストリップ14を塗布し、シールストリップ14を介して2枚の強化ガラス11を対向して設置し、上端が開放され、他の三面が密封された扁平な垂直空間を形成すること、2枚の前記強化ガラス11の周囲の三面を固定クリップ12で補助的に固定することを含む。本実施例における垂直包埋ボックスは2枚の強化ガラス11及びシールストリップ14で製造された三面が密閉され、開口が上向きの垂直ガラスプレートボックスであり、包埋ボックスの上端は密閉されておらず、真空含浸中にアセトンは気泡の形態で包埋ボックスの上方から散逸するため、硬化前にポリマーを2回加える必要がなく、プロセスステップ及び薬品の消費を削減する。
【0020】
含浸が完了した後に垂直包埋ボックスを水槽5内の位置決めグリッド2の間に挿着し、水浴によってプラスティネーションスライス標本を硬化させ、装置がシンプルで且つ温度の制御が容易であり、対流性に優れており、昇温、冷却時の熱伝導が迅速であり、水は熱の良導体であるため、硬化初期に昇温する必要がある場合、水の熱量が垂直ガラスボックスに伝達し、ボックス内のポリマーを昇温させ、重合が開始した後、ポリエステルの温度が上昇し、冷却する必要がある場合、余分な熱量を水に迅速に伝達することができ、硬化中の温度の安定を保証し、破裂現象の発生を効果的に防止して、さらに、垂直包埋ボックスが水中に浸漬され、水と緊密に接触するため、受熱が均一であり、スライスが変形しにくい。
【0021】
以上の記載は本発明の好ましい実施形態に過ぎず、当然のことながら、当業者であれば、本発明の原理から逸脱しない前提でさらにいくらかの改良及び修飾を行うことができ、それらの改良及び修飾も本発明の保護範囲と見なされる。
【符号の説明】
【0022】
1 制御ボックス
2 位置決めグリッド
3 ヒータ
4 排水口
5 水槽
6 循環水入口
7 温度コントローラ
8 水循環管路
9 循環水ポンプ
10 循環水出口
11 強化ガラス
12 固定クリップ
13 プラスティネーション切片
14 シールストリップ