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特許7279912歯間のスペースメイキング装置およびスペースメイキング方法
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  • 特許-歯間のスペースメイキング装置およびスペースメイキング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】歯間のスペースメイキング装置およびスペースメイキング方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 1/07 20060101AFI20230516BHJP
   A61C 3/03 20060101ALI20230516BHJP
   A61C 3/06 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
A61C1/07 A
A61C3/03
A61C3/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018190498
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020058483
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】520383094
【氏名又は名称】医療法人社団プレシャスワン
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】三木 尚子
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016172(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148981(US,A1)
【文献】特開2003-250814(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0264610(US,A1)
【文献】特表2012-515046(JP,A)
【文献】特開2015-159889(JP,A)
【文献】特開平08-229054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/07
A61C 3/03
A61C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯間に所要のスペースを形成するための装置であって、
少なくとも超音波発振器と、該超音波発振器からの駆動信号を受信して超音波振動する超音波振動子と、
前記超音波振動子に連結されたホルダを内蔵したハンドピースと、
前記ホルダに着脱自在に取り付け可能な研削チップと、
前記超音波発振器に電力を供給する電源装置と、
前記研削チップに向けて水を供給する注水部と、
を含み、
前記ハンドピースは、把持部と、前記把持部の先端から略直角に屈曲する先端部と、を備え、
前記超音波振動子及び前記ホルダは、前記ハンドピースの前記先端部に収容されており、
前記注水部は、前記把持部の外周部に沿って取り付けられ、一端が前記研削チップに向かって開口しているホースを含み、
前記研削チップは、前記装置の使用時に歯間に挿入される
ことを特徴とする歯間のスペースメイキング装置。
【請求項2】
前記研削チップは、平板状の基板の表面に硬質微粒子を付着して成るヤスリを含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の歯間のスペースメイキング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤスリなどを備えた研削チップを歯間に挿し込んでこれを超音波振動させることによって、隣接する歯の間に所要のスペース(隙間)を形成するためのスペースメイキング装置およびスペースメイキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療においては、例えば、歯面に付着した歯石や歯垢等を除去したり、虫歯を削ったりすることが行われるが、これらの治療を効率良く短時間で行うために超音波振動が利用されている。すなわち、治療者が手で持って治療を行うハンドピースの先端に取り付けられたチップを超音波振動させ、このチップの超音波振動によって歯(歯牙)の表面に付着している歯石などを除去するようにしており、このような超音波振動を利用した治療装置や治療方法に関する提案は今までに種々なされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハンドピースに装着されたチップに付与される駆動共振周波数を該チップの種類に応じて自動的に設定するとともに、チップの種類に応じた最適のパワー(推奨パワー)で当該チップを駆動することによって、治療中にチップが破損するなどの不具合の発生を防ぐようにした歯科用超音波振動治療装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、治療中の患者と治療者の負担を大きくすることなく歯を効率良く切削することができる歯の切削方法として、歯には超音波振動を付与せず、マイクロモータによって高速回転する切削具のみに超音波振動を付与する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-042123号公報
【文献】特開2012-196257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、歯並びなどを矯正する矯正治療においては、隣接する2つの歯の間に目的に合ったスペース(隙間)を形成するためのIPR (Interproximal Enamel Reduction) と呼ばれるスペースメイキングが行われている。従来、このスペースメイキングは、研削チップに設けられたヤスリを治療者が手で動かして、或いはハンドピースにヤスリを取り付けてこれを小刻みに動かすことによって行われている。そのため、歯間に所要のスペースを形成するためには膨大な時間(例えば、150~300分程度)を要し、患者と治療者の双方にとって肉体的な負担が大きいという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、隣接する歯間に所要のスペースを効率良く短時間で形成することができ、患者と治療者の肉体的負担を軽減することができる歯間のスペースメイキング装置およびスペースメイキング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、歯(T)間に所要のスペース(δ)を形成するための歯間のスペースメイキング装置であって、少なくとも超音波発振器(6)と、該超音波発振器(6)からの駆動信号を受信して超音波振動する超音波振動子(7)と、前記超音波振動子(7)の振動が伝達される研削チップ(3)と、前記超音波発振器(6)に電力を供給する電源装置(4)と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる歯間のスペースメイキング装置によれば、隣接する2つの歯の間に研削チップを挿し込んでこれを超音波振動させることによって2つの歯の相対向する面を研削するようにしたため、2つの歯の間に所望のスペースを効率良く短時間で形成することができ、患者と治療者の双方にとっての肉体的負担が軽減される。
【0010】
また、この歯間のスペースメイキング装置では、前記研削チップ(3)は、平板状の基板の表面に硬質微粒子を付着して成るヤスリ(3b)を含んで構成してもよい。
【0011】
また、この歯間のスペースメイキング装置では、前記超音波振動子(7)に連結されたホルダ(8)を内蔵したハンドピース(2)を備え、前記研削チップ(3)は、前記ホルダ(8)に着脱可能に取り付けられており、前記ハンドピース(2)の内部または外部に、前記研削チップ(3)に向けて水を供給する注水部(5)を設けてもよい。
【0012】
また、本発明にかかる歯間のスペースメイキング方法は、少なくとも超音波発振器(6)と、該超音波発振器(6)からの駆動信号を受信して超音波振動する超音波振動子(7)と、前記超音波振動子(7)の振動が伝達される研削チップ(3)と、前記超音波発振器(6)に電力を供給する電源装置(4)と、を備えたスペースメイキング装置(1)を用いて歯(T)間に所要のスペース(δ)を形成する方法であって、前記研削チップ(3)を隣接する2つの歯(T)の間に挿し込み、該研削チップ(3)を超音波振動させて2つの歯(T)の相対向する面を研削することを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる歯間のスペースメイキング方法によれば、隣接する2つの歯の間に研削チップを挿し込んでこれを超音波振動させることによって2つの歯の相対向する面を研削するようにしたため、2つの歯の間に所望のスペースを効率良く短時間で形成することができ、患者と治療者の双方にとっての肉体的負担が軽減される。
【0014】
また、本発明にかかる歯間のスペースメイキング方法では、前記スペースメイキング装置(1)は、前記超音波振動子(7)に連結されたホルダ(8)を内蔵したハンドピース(2)を備え、厚さの異なる複数の前記研削チップ(3)を用意し、前記ハンドピース(2)のホルダ(8)に、薄い研削チップ(3)からこれよりも厚い研削チップ(3)を順次付け替えて、隣接する歯(T)の相対向する面を前記研削チップ(3)によって研削する作業を複数回繰り返すようにしてもよい。
【0015】
この方法によれば、ハンドピースのホルダに、薄い研削チップからこれよりも厚い研削チップを順次付け替えて、隣接する歯の相対向する面を研削チップによって研削する作業を複数回繰り返すことによって、隣接する2つの歯の間に次第に大きくなるスペースを順次形成してゆき、最終的に所望の大きさのスペースを形成することができる。
【0016】
また、本発明にかかる歯間のスペースメイキング方法では、前記研削チップ(3)による歯(T)の研削部に水を供給しながら歯を研削するようにしてもよい。
【0017】
この方法によれば、歯の研削と同時に、ヤスリによる歯の研削部には、注水ホースから水が連続的に供給されるため、この水によって研削紛の排出と研削部の冷却と潤滑が促進される。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる歯間のスペースメイキング装置及びスペースメイキング方法によれば、隣接する歯間に所要のスペースを効率良く短時間で形成することができ、患者と治療者の肉体的負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態にかかるスペースメイキング装置の全体構成図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】スペースメイキング装置を用いて下側の歯間のスペースメイキングを行っている様子を示す部分斜視図である。
図4】スペースメイキング装置を用いて上側の歯間のスペースメイキングを行っている様子を示す部分斜視図である。
図5】(a)はスペースメイキング前の歯列を示す部分正面図、(b)はスペースメイキング後の歯列を示す部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
[スペースメイキング装置]
まず、本発明に係る歯間のスペースメイキング装置の全体構成を図1および図2に基づいて説明する。
【0022】
すなわち、図1は本発明に係るスペースメイキング装置の全体構成図、図2図1のA-A線断面図であり、図示のスペースメイキング装置1は、歯科治療において患者の隣接する2本の歯間に矯正に必要なスペース(隙間)を形成するための装置であって、ハンドピース2と、該ハンドピース2の先端に着脱可能に取り付けられた研削チップ3と、ハンドピース2に電力を供給する電源装置4と、治療中に研削チップ3による歯の研削部に向かって水を供給するための注水ホース(注水部)5を含んで構成されている。
【0023】
上記ハンドピース2は、略円筒状の把持部2Aと、該把持部2Aの先端から略直角に屈曲する略円筒状の先端部2Bとで構成されており、図1に示すように、把持部2Aの内部には超音波発振器6が収容されている。また、先端部2Bの内部には、図2に示すように、超音波発振器6からの駆動信号を受信して超音波振動する超音波振動子7と、該超音波振動子7に連結されたホルダ8が収容されている。
【0024】
ここで、超音波発振器6は、例えば、不図示の回路基板に実装された不図示のトランジスタ、コンデンサ、チョークコイルなどによって構成されている。また、超音波振動子7は、例えば、圧電素子や磁歪素子などによって構成されている。
【0025】
また、前記研削チップ3は、図2に示すように、コの字状に屈曲する支持部(柄)3aと、該支持部3aにその両端が支持された研削工具としてのヤスリ3bとで構成されている。ここで、ヤスリ3bは、例えば、ステンレス(SUS)製の細長くて薄い矩形平板状の基板の両面にアルミナやダイヤモンドなどの硬質微粒子(砥粒)を付着させて構成されている。そして、このように構成された研削チップ3は、ハンドビース2に内蔵されたホルダ8(図1参照)に着脱可能に取り付けて使用される。
【0026】
前記注水ホース8は、細くて柔軟なチューブであって、本実施の形態では、図1に示すように、その一部がハンドピース2の外周部に沿って取り付けられており、その一端は、例えば不図示の水道の蛇口に接続され、他端は、図1に示すように、研削チップ3に向かって開口している。なお、本実施の形態では、注水ホース8をハンドピース2の外部に設けたが、この注水ホース8の一部をハンドピース2の内部に組み込んでも良い。
【0027】
前記電源装置4は、例えば、商用電源(AC100、50/60Hz)からの電力を例えばDC12V程度の安全な電圧に変換するとともに、整流して電源コード9によってハンドピース2内の超音波発振器6に供給する機能を果たすものである。そして、この電源装置4には、電源スイッチ4aとペダルスイッチ4bが設けられており、電源スイッチ4aを投入(ON)した状態でペダルスイッチ4bを足で踏むと、電源装置4からハンドピース2内の超音波発振器6に電力が供給される。すると、超音波発振器6から超音波振動子7に駆動信号が発信されて該超音波振動子7が超音波振動する。
【0028】
[スペースメイキング方法]
次に、以上説明したスペースメイキング装置1を用いて実施される歯間のスペースメイキング方法を図3図5に基づいて以下に説明する。
【0029】
図3は本発明に係るスペースメイキング装置を用いて下側の歯間のスペースメイキングを行っている様子を示す部分斜視図、図4は同スペースメイキング装置を用いて上側の歯間のスペースメイキングを行っている様子を示す部分斜視図、図5(a)はスペースメイキング前の歯列を示す部分正面図、同図(b)はスペースメイキング後の歯列を示す部分正面図である。
【0030】
歯の矯正治療のために、隣接する2つの歯(歯牙)Tの間に所要のスペース(隙間)を形成するスペースメイキングにおいては、各歯Tの相対向する側部が研削チップ3によって研削される。具体的には、歯Tのエナメル質の厚さは、1~2mm程度であるため、その厚さの1/3程度(片側約0.25mm程度)の範囲で歯Tが研削される。この場合、歯Tにはエナメル質が残るため、歯Tがしみたり、虫歯になったりすることはない。
【0031】
ところで、隣接する2つの歯T同士が図5(a)に示すように正常な状態で接触していても、研磨チップ3の0.07mmの厚さのヤスリ3bは、多くの場合、両歯Tの間に挿入することができる。
【0032】
本発明方法においては、ヤスリ3bの厚さが異なる複数の研削チップ3を予め用意しておき、先ず最初に、厚さが0.07mmの最も薄いヤスリ3bを備えた研削チップ3をハンドピース2のホルダ8(図2参照)に取り付け、治療者がハンドピース2の把持部2A(図1参照)を把持した状態で、例えば図3に示すように、下側の隣接する2つの歯Tの間に、研削チップ3の厚さが0.07mmのヤスリ3bを挿入する。また、下側の2つの歯Tの間にヤスリ3bを挿入する場合には、図4に示すように、研削チップ3の上下を逆にして(ヤスリ3bが上になるようにして)ヤスリ3bを隣接する2つの歯Tの間に挿入する。
【0033】
上述のように隣接する2つの歯Tの間に厚さ0.07mmのヤスリ3bを挿入した状態で、治療者が図1に示すペダルスイッチ4bを踏むと、電源装置4からハンドピース2内の超音波発振器6に電力が供給され、該超音波発振器6から駆動信号が超音波振動子7へと発信される。すると、超音波振動子7が望ましくは共振周波数で超音波振動し、この超音波振動子7の超音波振動は、ホルダ8を経て研削チップ3へと伝播するため、該研削チップ3のヤスリ3bが隣接する2つの歯Tの間で超音波振動し、このヤスリ3bの超音波振動によって2つの歯Tの相対向する面が研削される。この結果、隣接する2つの歯Tの間にヤスリ3bの厚さ0.07mmよりも若干大きなスペース(隙間)が形成される。また、歯Tの研磨と同時に、ヤスリ3bによる歯tの研削部には、注水ホース5から水(本実施の形態では、水道水)が連続的に供給されるため、この水によって研削紛の排出と研削部の冷却と潤滑が促進される。
【0034】
ここで、ヤスリ3bの超音波振動による研磨の原理について説明すると、ヤスリ3bが超音波振動すると、このヤスリ3bの両面の研削面が歯Tに対して接触と離間を繰り返すため、ヤスリ3bを歯T間で動かさなくても、このヤスリ3bによって歯Tが研削される。
【0035】
ところで、本実施の形態では、隣接する2つの歯Tの間には最終的に0.5mmのスペース(隙間)を形成する必要があるため、ハンドピース2のホルダ8(図2参照)には、厚さの異なるヤスリ3bを備える研削チップ3を順次付け替えて前述と同様の要領で歯Tの研削を繰り返すことによって、2つの歯Tの間に次第に大きくなるスペース(隙間)を形成することができる。具体的には、例えば、ヤスリ3bの厚さが、0.1mm→0.13mm→0.16mm→0.18mm→0.2mm→0.2mm→0.25mm→0.3mm→0.4mm→0.5mmの研削チップ3に順次付け替えて歯Tの研削を繰り返す。
【0036】
以上の結果、研削前は図5(a)に示すように互いに接触した状態で整然と並んでいた歯Tの間には、図5(b)に示すように、所望の大きさ(本実施の形態では、0.5mm)のスペース(隙間)δが効率良く短時間で形成される。この方法によれば、スペースメイキングに従来は150~300分を要していた時間を15~30分と飛躍的に短縮することができ、患者と治療者の肉体的な負担が軽減される。
【0037】
本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 スペースメイキング装置
2 ハンドピース
2A ハンドピースの把持部
2B ハンドピースの先端部
3 研削チップ
3a 研削チップの支持部(柄)
3b 研削チップのヤスリ
4 電源装置
4a 電源装置の電源スイッチ
4b 電源装置のペダルスイッチ
5 注水ホース(注水部)
6 超音波発振器
7 超音波振動子
8 ホルダ
9 電源コード
T 歯(歯牙)
δ スペース(隙間)
図1
図2
図3
図4
図5