(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230516BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230516BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20230516BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230516BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/3204 201
F16J15/3232 201
(21)【出願番号】P 2019010573
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 しおり
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096762(JP,A)
【文献】特開2004-144179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/18
F16J 15/3204
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に同軸回転する固定側部材及び回転側部材を備えた軸受装置において、前記回転側部材に取付けられるスリンガと、前記固定側部材に取付けられる芯金と、該芯金に固着されて前記スリンガに弾接する弾性体製のシールリップとを備えた密封装置であって、
前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合されるスリンガ円筒部と、該スリンガ円筒部の軸方向外側の端部から前記回転側部材の軸方向外側
の該軸方向に略垂直な端面
に略平行に沿うように径方向の一方に延びる連結部と、該連結部の端部から折り返されて前記径方向の他方に延出して形成されたスリンガ鍔部とを備え、
前記連結部には、前記連結部の前記端部から前記連結部と前記回転側部材の前記端面との間に回り込むように形成され固着されたシール部が設けら
れており、
前記シール部は、前記回転側部材の前記端面と前記連結部との間に介在し、前記端面に弾接する弾接部を備えていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前
記弾接部には、前記回転側部材の前記端面に弾接する突起部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記突起部の基部の近傍には、溝部が形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項において、
前記連結部は、前記回転側部材の前記端面に対向して配置される部位の厚さが、前記連結部の他の部位より薄肉に形成された薄肉部を有しており、前記薄肉部と前記端面との間に前記シール部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項において、
前記スリンガ鍔部の外側面には、N極S極が交互に着磁された磁性ゴムからなる環状の磁気エンコーダが設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記シール部は、前記磁気エンコーダの内径側の端部から延出し、前記連結部と前記回転側部材の前記端面との間に回り込んで固着された磁性ゴムからなることを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記シール部は、前記磁気エンコーダの内径側の端部に一体もしくは別体に成形され、前記連結部と前記回転側部材の前記端面との間に回り込んで固着された弾性材からなることを特徴とする密封装置。
【請求項8】
請求項5~請求項7のいずれか1項において、
前記芯金は、前記固定側部材に嵌合される芯金円筒部と、該芯金円筒部の内方に位置する端部から径方向に延びる芯金鍔部とを有し、
前記芯金鍔部は、該密封装置を同軸方向に複数個積み重ねた際に、前記スリンガ鍔部の他方側の端部が当接するように形成され、
前記磁気エンコーダは、前記スリンガ鍔部の外側面に上段に積み重ねられた密封装置に当接しない位置に部分的に固着されていることを特徴とする密封装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記磁気エンコーダは、前記スリンガ鍔部の前記外側面において前記連結部に重畳するように固着されていることを特徴とする密封装置。
【請求項10】
請求項8において、
前記芯金鍔部は、前記芯金円筒部の内方端部から延びる芯金円輪部と、該芯金円輪部の周縁から前記スリンガ側に、該密封装置が同軸方向に複数個積み重ねた状態では、下段に積み重ねられた密封装置の前記磁気エンコーダを回避するように段差形状とされた段差部とを有していることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に同軸回転する固定側部材及び回転側部材との間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車輪支持部の軸受装置として用いられるハブベアリングとしては、車体に固定される固定側部材となる外輪に対して、車輪が取付けられた内輪が回転側部材として軸回転可能に支持されるよう構成されたものが知られている。そして、このように構成された外輪と内輪との軸方向の端部には、軸受空間への泥水、塵埃等の浸入を防止するため、密封装置が装着され、例えば、下記特許文献1が挙げられる。
【0003】
この特許文献1に開示されている密封装置は、内輪の外径側角部に段差状の小径部を形成し、スリンガに設けられた突出部に上述の小径部に弾接するシール材を接続したものが開示されており、内輪に嵌合されるスリンガの円筒部と、内輪との嵌合面の間の密封性の確保を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている密封装置は、組付け対象となる内輪の外径側角部に段差状の小径部を形成する必要があるため、小径部を備えていない軸受装置には適用できない構成といえる。またこのようにスリンガの円筒部と、内輪との嵌合面をシールするため、上述の小径部に弾接するシール材を設けた場合、スリンガを内輪に嵌合させて組み付ける際に、精度よく行わなければシール材が破断してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、回転側部材とスリンガ円筒部との嵌合部位の間への泥水等の浸入を効果的に抑制することができる密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密封装置は、相対的に同軸回転する固定側部材及び回転側部材を備えた軸受装置において、前記回転側部材に取付けられるスリンガと、前記固定側部材に取付けられる芯金と、該芯金に固着されて前記スリンガに弾接する弾性体製のシールリップとを備えた密封装置であって、前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合されるスリンガ円筒部と、該スリンガ円筒部の軸方向外側の端部から前記回転側部材の軸方向外側の該軸方向に略垂直な端面に略平行に沿うように径方向の一方に延びる連結部と、該連結部の端部から折り返されて前記径方向の他方に延出して形成されたスリンガ鍔部とを備え、前記連結部には、前記連結部の前記端部から前記連結部と前記回転側部材の前記端面との間に回り込むように形成され固着されたシール部が設けられており、前記シール部は、前記回転側部材の前記端面と前記連結部との間に介在し、前記端面に弾接する弾接部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る密封装置は、上述の構成としたことで、スリンガの連結部に設けられたシール部によって、回転側部材とスリンガ円筒部との嵌合部位の間への泥水等が浸入することを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る密封装置が適用される軸受装置の一例を示す模式的概略的縦断面図である。
【
図2】(a)は、
図1のX部の拡大図であって、本発明に係る密封装置の第1実施形態を示す断面図、(b)は、同実施形態の変形例を示す要部拡大図である。
【
図3】(a)は、本発明に係る密封装置の第2実施形態を示す
図2(a)と同様図、(b)は、同実施形態の変形例を示す要部拡大図、(c)は、同実施形態のさらなる変形例を示す要部拡大図である。
【
図4】(a)は、本発明に係る密封装置の第3実施形態を示す
図2(a)と同様図、(b)は、(a)に示す密封装置を同軸方向に積み重ねた状態の断面図である。
【
図5】(a)は、本発明に係る密封装置の第3実施形態の変形例を示す
図2(a)と同様図、(b)は、(a)に示す密封装置を同軸方向に積み重ねた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図には、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本実施形態に係る密封装置10は、相対的に同軸回転する固定側部材2及び回転側部材5を備えた軸受装置1において、回転側部材5に取付けられるスリンガ15と、固定側部材2に取付けられる芯金13と、芯金13に固着されてスリンガ15に弾接する弾性体製のシールリップ14とを備えている。スリンガ15は、回転側部材5に嵌合されるスリンガ円筒部150と、スリンガ円筒部150の軸方向外側の端部150aから回転側部材5の軸方向外側の端面4cに沿うように径方向の一方に延びる連結部151と、連結部151の端部151aから折り返されて径方向の他方に延出して形成されたスリンガ鍔部152とを備えている。連結部151には、連結部151の端部151aから連結部151と回転側部材5の端面4cとの間に回り込むように形成され固着されたシール部16が設けられている。以下、詳述する。
【0011】
<第1実施形態>
第1実施形態について、まず
図1、
図2を参照しながら説明する。
図1には、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置1を示す。この軸受装置1は、大略的に、上述の固定側部材に相当する外輪2と、上述の回転側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの脱落が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸回りに回転可能とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状の軸受空間Sが形成される。軸受空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外方に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取り付けられ固定される。
以下において、軸方向Lに沿って車輪に向く側(
図1において左側)を車輪側、車体に向く側(
図1において右側)を車体側といい、軸方向Lに沿って軸受空間S側を軸方向内側、軸方向Lに沿って軸受空間Sとは反対側(外方空間側)を軸方向外側という。
【0012】
図2(a)に示す第1実施形態に係る密封装置10Aは、車体側の外輪2と内輪部材4との間の端部(
図1・X部)に装着され、芯金13と、芯金13に固着されたシールリップ14と、回転側部材の内輪5を構成する内輪部材4の外周面4bに外嵌されるスリンガ15とを備えている。
芯金13は、SPCC等の鋼板をプレス加工して形成され、
図2(a)に示すように片側の断面が略L字形状とされる。芯金13は、固定側部材である外輪2の車体側内径面2bに嵌合される芯金円筒部130と、芯金円筒部130の内方に位置する内方端部130aから内径側に延びる芯金鍔部131とを有している。シールリップ14は、ゴム等の弾性体からなり、例えば、NBRやH-NBR、ACM、AEM、FKMなどからなるものとしてもよい。シールリップ14は芯金13に対して加硫接着されることで一体成型されている。シールリップ14は、シールリップ基部140と、シールリップ基部140から延出されたリップ部141,142,143とを有している。リップ部141は、最も外径側に位置し、外方空間に近い位置に配されたシールリップである。リップ部143は最も内径側に位置し、軸受空間Sに近い位置に配されたシールリップである。そして、リップ部142は、リップ部141とリップ部143との間に位置するシールリップである。このうち、リップ部141,142は、軸方向Lの外側に向けてそれぞれが同じような角度で次第に拡径し延出して形成され、スリンガ鍔部152の軸方向内側の面152aに弾接するアキシャルリップ(サイドリップ)である。リップ部143は、内径側に且つ軸受空間Sに向けて延出して形成され、後述するスリンガ円筒部150の内周面150bに弾接するラジアルリップ(グリースリップ)である。
図2(a)において、リップ部141,142,143の2点鎖線は、変形前の原形状を示している。これらリップ部141,142によって、外方空間からの泥水等の浸入を阻止し、リップ部143は軸受空間S内に充填されたグリースの漏出を防止する。
【0013】
シールリップ基部140は、芯金鍔部131の軸方向内側の面131aの内径側の一部から内径側の端部131bを回り込み、芯金鍔部131の軸方向外側の面131cの全面を覆うように配されている。またシールリップ基部140は、芯金円筒部130の内周面130bを全面に亘って覆い、芯金円筒部130の軸方向外側の端部130cを回り込んで芯金円筒部130の外周面130dに至り、芯金13に固着一体とされている。芯金円筒部130の外周面130dに至る部分には、外径側に隆起する環状突部144が形成されている。この環状突部144は、芯金13が外輪2に内嵌された際、外輪2の車体側内径面2bと芯金円筒部130の外周面130dとの間に圧縮状態で介在するように形成されている。環状突部144が、外輪2と芯金円筒部130との間で圧縮された状態で介在することにより、外輪2と芯金円筒部130との嵌合部位へ泥水等が浸入することを防止できる。
図2(a)において環状突部144の2点鎖線は圧縮前の原形状を示している。
【0014】
リップ部141,142,143が弾接するスリンガ15は、回転側部材を構成する内輪部材4に取り付けられる。スリンガ15は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成された円筒形とされる。スリンガ15は、内輪部材4の外周面4bに外嵌されるスリンガ円筒部150と、スリンガ円筒部150の軸方向外側の端部150aから内輪部材4の軸方向外側の端面4cに沿うように内径側に延びる連結部151と、連結部151の内径側の端部151aから折り返されて径方向外側に延出して形成されたスリンガ鍔部152とを備える。連結部151には、連結部151の端部151aと内輪部材4の端面4cとの間に回り込むように形成され固着されたシール部16が設けられている。具体的には、シール部16は、スリンガ鍔部152の外側面152bと面一且つ連結部151の内径側の端部151aを回り込むように形成され、連結部151の内側面151bの内径側の一部と内輪部材4の端面4cとの間に至り、連結部151と端面4cとの間に介在するように固着一体とされている。図中、シール部16において、連結部151と端面4cとの間に介在する部位を弾接部160として示す。
【0015】
以上の構成によれば、スリンガ15の連結部151に設けられたシール部16が内輪部材4の端面4cに弾接することにより、内輪部材4の外周面4bとスリンガ円筒部150との嵌合部位の間への泥水等が浸入することを効果的に抑制することができる。またスリンガ鍔部152が内輪部材4の外周面4bよりも内径側に位置する部分から外径側に延出して設けられているので、スリンガ鍔部152によっても、内輪部材4の外周面4bとスリンガ円筒部150との嵌合部位の間への泥水等が浸入することを抑制する。例えばもし、
図2(a)に示すシール部16がない場合、端面4cには連結部151が当接することになるが、金属嵌合されるのは、スリンガ円筒部150が外周面4bに対して金属嵌合されるのであって、連結部151の部位に嵌合力は作用しない。よってシール部16がない場合、この連結部151と端面4cとの間の僅かな隙間から泥水等が浸入する恐れがある。以上の構成によれば、シール部16が泥水等の浸入を上記嵌合部位に至る前の段階でブロックするので、有効である。また以上のようなシール部16は連結部151に固着されており、スリンガ円筒部150を内輪部材4に嵌合させて組付ける際、端面4cに向けて横方向からスライドして組み付けられるので、シール部16が破断してしまうようなおそれがない。
【0016】
<第1実施形態の変形例>
続いて第1実施形態に係る密封装置10Aの変形例である密封装置10A’について、
図2(b)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
この変形例は、スリンガ15及びシール部16の構成が第1実施形態と異なる。具体的には、連結部151の内側面151bには、内輪部材4の端面4cと接する箇所に内径側に切欠形状の凹所151baが形成されている。そして、連結部151は、内輪部材4の端面4cに対向して配置される部位D1の厚さが、連結部151の他の部位D2より薄肉に形成された薄肉部151cを有しており、薄肉部151cと端面4cとの間にシール部16が設けられている。シール部16は、スリンガ鍔部152の外側面152bと面一且つ連結部151の内径側の端部151aを回り込むように形成され、連結部151の内側面151bの凹所151baと内輪部材4の端面4cとの間に至り、連結部151と固着一体とされている。さらにシール部16には、内輪部材4の端面4cに弾接する突起部161が設けられている。具体的には、シール部16は、連結部151と端面4cとの間に介在する弾接部160を備え、弾接部160の内輪部材4の端面4cに弾接する部位に突起部161が設けられている。突起部161は、軸方向内側に隆起する断面山型の形状で形成される。この突起部161は、端面4cとシール部16のシール性をより高めるために設けられたものであるから、周方向に連続して突条に設けられたものとしてもよいし、断続的に適宜間隔を空けて設けられたものとしてもよい。突起部161は、連結部151と内輪部材4の端面4cとの間で圧縮された状態で介在する。
図2(b)において突起部161の2点鎖線は圧縮前の原形状を示している。
【0017】
以上の構成によれば、シール部16が内輪部材4の端面4cに弾接することに加え、軸方向内側に隆起する突起部161が内輪部材4の端面4cに弾接するので、より一層、内輪部材4の外周面4bとスリンガ円筒部150との嵌合部位の間への泥水等の浸入を抑制できる。このように嵌合部位への泥水等の浸入を防ぐことができれば、嵌合部位に錆等が発生することを抑制し、密封装置10A’の長寿命化を図ることができる。またシール部16に突起部161が設けられているので、内輪部材4の端面4cと連結部151との間をシール部16と突起部161とで二重に密封していることになり、回転により端面4cをつたって侵入してくる泥水等を効果的にシールすることができる。さらにこのような位置に設けられた突起部161によれば、スリンガ円筒部150を内輪部材4に嵌合させて組付ける際、端面4cに向けて横方向からスライドして組み付けられるので、突起部161が破断してしまうようなおそれがなく、内輪部材4側に何等かの加工を施す必要もない。また
図2(a)に示すような同じ厚さの連結部151とする場合に比べて
図2(b)の方が連結部151をコンパクト化できるので、狭小スペースに配置される密封装置に適用できる。またこのようにコンパクト化しながらも、シール部16の形成領域はしっかりと確保できる。
【0018】
<第2実施形態>
次に第2実施形態に係る密封装置10Bについて、
図3(a)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
本実施形態は、スリンガ15、芯金13、シールリップ14の基本構成は第1実施形態と同様であるが、スリンガ鍔部152に磁気エンコーダ17が固着されて、シール部16が磁性ゴムからなる点が第1実施形態と異なる。
【0019】
具体的には、スリンガ鍔部152の外側面152bには、N極S極が交互に着磁された磁性ゴムからなる環状の磁気エンコーダ17が固着されている。またシール部16は、磁気エンコーダ17の内径側の端部17aから延出し、連結部151と内輪部材4の端面4cとの間に回り込んで固着された磁性ゴムからなる。磁性ゴムとしては、NBR、H-NBR、ACM、AEM、FKM等から選ばれたいずれかのゴム材にフェライト系、希土類系等の磁性粉末が事前に混練して形成される。
【0020】
以上の構成によれば、磁気エンコーダ17を備えた密封装置に適用することができ、磁気エンコーダ17と
図1に示す磁気センサ12とによる回転検出機構によって、車輪のアンチロック・ブレーキシステム(ABS)などの回転制御システムが構築することができる。また以上の構成によれば、スリンガ鍔部152は径方向に一方に延びる連結部151の端部151aから折り返されて形成されているため、スリンガ鍔部152の形成面積を大きく確保しやすい。よって、磁気エンコーダ17の形成面積も大きく確保でき、これにより着磁面が広くとれるため、磁気センサ12の取付位置の自由度が向上し、密封装置10Bの配置スペースは従来と同等であっても、着磁面を十分確保できる。さらに以上の構成によれば、シール部16は、磁気エンコーダ17の内径側の端部17aから延出して固着された磁性ゴムからなるので、より一層磁気エンコーダ17の形成面積を大きく確保できる。磁気エンコーダ17の形成面積は数ミリ単位でも大きく確保できれば、その分、検出精度の向上を図ることができ、有利である。
【0021】
<第2実施形態の変形例>
次に第2実施形態に係る密封装置10Bの変形例である密封装置10B’,10B”について、
図3(b)及び
図3(c)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態もしくは上記の第2実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
まず
図3(b)に示す変形例は、シール部16が上述のような磁性ゴムではなく、NBRやH-NBR、ACM、AEM、FKMなどからなる点で第2実施形態と異なる。またシール部16に突起部161を備えている点は共通するが、溝部161aを備えている点で第2実施形態と異なる。連結部151に薄肉部151cを有している点は第1実施形態の変形例(
図2(b)参照)と共通するが、第2実施形態とは異なる。
具体的には、シール部16が磁気エンコーダ17の内径側の端部17aに一体に成形され、連結部151と内輪部材4の端面4cとの間に回り込んで固着された弾性材からなる。
以上によれば、磁気エンコーダ17の形成面積を大きく確保しつつ、シール部16は弾性を有した材料とすることができるので、端面4cに強固に弾接して一層シール性の向上を図ることができる。
【0022】
また
図3(b)に示す変形例では、突起部161の基部の近傍には溝部161a,161aが形成されている。ここで突起部161の基部とは、断面山型の形状の突起部161の立ち上がる部分を指し、溝部161aはこの近傍に形成され、端面4cに弾接される突起部161の逃げ代となれば、連続した凹条の溝でもよいし、断続的に形成されるものであってもよい。以上の構成とすれば、溝部161aが弾接して弾性変形する突起部161の逃げ代となり、突起部161が十分に弾性変形しやすくなるので、シール部16によって、より強固に泥水等の浸入を抑制できる。
【0023】
図3(b)では磁性ゴムと非磁性ゴムとを一体に成形した例を説明したが、これに限定されるものではない。
図3(c)に示す密封装置10B”のように別体としても、同様にシール部16によるシール性向上を図ることができる。また
図3(b)では連結部151に薄肉部151cを有しているので、連結部151のコンパクト化を図ることができるが、
図3(c)に示すように薄肉部を備えていない連結部151であってもよいことは言うまでもない。
【0024】
<第3実施形態>
次に第3実施形態に係る密封装置10Cについて、
図4(a)及び
図4(b)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態もしくは第2実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
本実施形態は、磁気エンコーダ17の固着位置と連結部151の構成が第1実施形態及び第2実施形態と異なる。またリップ部141,142,143の構成も第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
【0025】
具体的には、
図4(b)に示すように、密封装置10Cに示す芯金鍔部131は、密封装置10Cを同軸方向に複数個積み重ねた際に、スリンガ鍔部152の他方側(外径側)の端部152cが当接するように形成される。また、
図4(a)に示すように、密封装置10Cに設けられる磁気エンコーダ17は、スリンガ鍔部152の外側面152bに上段に積み重ねられた密封装置10Cに当接しない位置に部分的に固着されている。すなわち、磁気エンコーダ17は、スリンガ鍔部152の外側面152bにおいて連結部151に重畳するように固着されており、言い換えると磁気エンコーダ17は、スリンガ鍔部152の外側面152bにおいて、スリンガ円筒部150よりさらに径方向の内方側にのみ固着され、スリンガ円筒部150より径方向の外方側はスリンガ鍔部152のみが配されている。このようにして磁気エンコーダ17の固着領域を確保するため、連結部151の形成領域が第1実施形態、第2実施形態に示す連結部151より大とされる。これにより、内輪部材4の外周面4bとスリンガ円筒部150との嵌合部位までの距離が長くなり、シール部16の存在との相乗効果で一層、泥水等の浸入を抑制することができる。
【0026】
図4(a)に示す密封装置10Cは、シールリップ14のうち、最も外径側にあるリップ部141のみが、軸方向Lの外側に向けて次第に拡径し延出して形成され、スリンガ鍔部152の軸方向内側の面152aに弾接するアキシャルリップ(サイドリップ)とされる。中間にあるリップ部142と、最も内径側にあるリップ部143は、スリンガ円筒部150の内周面150bに弾接するラジアルリップとされる。リップ部142は先端に向うほどに軸方向外方に向いて形成され、リップ部143は先端に向うほどに内径側に且つ軸受空間Sに向けて延出して形成されたグリースリップとされる。
【0027】
図4(b)には、複数の密封装置10C,10Cを同軸方向に積み重ねた状態を示している。密封装置10Cは、積み重ねられるとスリンガ鍔部152の端部152cの上に芯金鍔部131が載置されるが、磁気エンコーダ17が同軸方向に重なる密封装置10Cを構成する何等かの部材に触れることがない。このように着磁された磁気エンコーダ17を備えた密封装置10Cであっても、磁気エンコーダ17が、スリンガ鍔部152の外側面152bにおいて連結部151に重畳するように固着されたものとすれば、後述する密封装置10C’に示す段差部131abを形成しなくても(
図5(a)参照)、磁気エンコーダ17を確実に非当接状態で積み重ねることができる。よって、同軸方向に複数個積み重ねても、積み重ねた密封装置10C,10C同士の引っ付きを防止できる。
【0028】
<第3実施形態の変形例>
続いて第3実施形態に係る密封装置10Cの変形例である密封装置10C’について、
図5(a)及び
図5(b)を参照しながら説明する。なお、第1実施形態もしくは第2実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
図5(a)に示す変形例は、磁気エンコーダ17の固着領域が
図4(a)に示す密封装置10Cより大とした例である。具体的には、
図5(a)に示すように密封装置10C’に設けられた磁気エンコーダ17は、スリンガ鍔部152の外側面152bのほぼ全域に固着されている。この場合、芯金鍔部131は、芯金円筒部130の内方端部130aから延びる芯金円輪部131aaと、芯金円輪部131aaの周縁からスリンガ15側に、密封装置10C’,10C’が同軸方向に複数個積み重ねた状態では、下段に積み重ねられた密封装置10C’の磁気エンコーダ17を回避するように段差形状とされた段差部131abとを有している。
【0029】
図5(b)には、複数の密封装置10C’,10C’を同軸方向に積み重ねた状態を示している。密封装置10C’は、積み重ねられるとスリンガ鍔部152の端部152c上に芯金円輪部131aaが載置されるが、この場合も磁気エンコーダ17が同軸方向に重なる密封装置10C’を構成する何等かの部材に触れることがない。
以上の構成によれば、磁気エンコーダ17の形成面積を大きく確保しつつ、同軸方向に複数個積み重ねても、積み重ねた密封装置10C’,10C’同士の引っ付きを防止できる。またこの変形例では、シール部16に突起部161が設けられているので、シール部16と突起部161とで二重に密封していることになり、より一層、内輪部材4の外周面4bとスリンガ円筒部150との嵌合部位の間への泥水等の浸入を抑制し、シール性の高い密封装置10C’とすることができる。
【0030】
以上の実施形態に係る密封装置10(10A~10C’)の構成は図例に限定されるものではない。よって、芯金13、シールリップ14、スリンガ15、磁気エンコーダ17、リップ部141,142,143の構成や形状、個数等は、上記各実施形態に限定されることはない。例えば
図3(b)に示す溝部161aは、突起部161が示された例のいずれにも適用可能であるし、
図3(a)~(c)に示す突起部161がない場合を除外するものでもない。よって同様に
図4(a)に示す例でも突起部161を設けてもよいし、
図5(a)に示す例に突起部161がなくてもよい。突起部161の形状も図例には限定されず、例えば環状突部144のような断面が略台形状であってよいし、円弧形状であってもよい。また
図4(a)及び
図5(a)に示す磁気エンコーダ17に設けられたシール部16は、磁性ゴムでなく、
図3(b)及び
図3(c)に示すようなシール部16のみをゴム等の弾性体からなるものとしてもよく、この場合、磁性ゴムからなる磁気エンコーダ17と一体に成形されても別体に形成されるものであってもよい。また芯金13の形状も図例に限定されないから、
図5(a)に示す段差部131abを備えた形状を
図1~
図4の例に適用してもよい。さらにリップ部141,142,143の構成も図例に限定されないから、例えば
図2(a)に示すアキシャルリップが2本の例を
図4(a)及び
図5(a)に適用してもよいし、
図4(a)に示すラジアルリップが2本の例を
図2(a)、
図3(a)に適用してもよい。
【符号の説明】
【0031】
2 外輪(固定側部材)
5 内輪(回転側部材)
4 内輪部材
10(10A~10C’) 密封装置
13 芯金
131 芯金鍔部
131ab 段差部
14 シールリップ
15 スリンガ
150 スリンガ円筒部
151 連結部
152 スリンガ鍔部
152b 外側面
16 シール部
160 弾接部
161 突起部
161a 溝部
17 磁気エンコーダ