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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】バルブタイミング調整装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/352 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
F01L1/352
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019162038
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021038734
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】友松 健一
(72)【発明者】
【氏名】林 朋博
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 晃
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087564(JP,A)
【文献】特開2017-008837(JP,A)
【文献】特開2013-117214(JP,A)
【文献】特開2013-096230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34- 1/356
F01L 9/00- 9/04
F01L 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(100)のクランク軸(101)によりカム軸(102)を介して開閉されるバルブ(103,104)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置(1)であって、
前記クランク軸により前記カム軸の回転軸線(91)と同じ軸線の周りで回転される駆動側回転体(10)と、
前記駆動側回転体と同じ軸線の周りで前記カム軸と一体に回転する従動側回転体(20)と、
前記駆動側回転体または前記従動側回転体の何れか一方に形成された内歯歯車部(21)に噛み合う遊星歯車部(31)を有する遊星回転体(30)と、
前記遊星回転体を前記カム軸の回転軸線から平行に変位した偏心軸線(92)の周りで回転可能に支持する偏心軸(40)と、
前記偏心軸上に前記遊星回転体を支持する軸受(33,34)と、
前記軸受を介して前記遊星回転体をラジアル方向外側へ付勢する付勢部材(44)と、
前記駆動側回転体または前記従動側回転体の何れか他方と前記遊星回転体とを偏心自在に回転同期させるオルダム中間体(53)を有するオルダム継手(50)と、
前記付勢部材のラジアル方向の付勢力(F)からスラスト方向の押付力(f2)を取り出して前記遊星回転体に作用させる押付力取出部(60,62~66)と、を備え、
前記遊星回転体は、前記オルダム中間体側の端部に、径内方向に突出し、前記軸受の外輪(332,342)と前記オルダム中間体とに当接する当接部(35)を有し、
前記遊星回転体は、前記スラスト方向の押付力によって前記当接部を介して前記オルダム中間体を前記駆動側回転体または前記従動側回転体に押し付けるバルブタイミング調整装置。
【請求項2】
前記軸受は、組付状態でスラスト方向の異なる位置に内輪(331,341)と外輪(332,342)とを備え、前記押付力取出部は、前記軸受と協働して前記付勢部材の付勢力から前記スラスト方向の押付力を取り出す請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項3】
前記軸受は、前記付勢部材または前記偏心軸に形成された傾斜面(431,443)に支持され、前記押付力取出部は、前記傾斜面と協働して前記付勢部材の付勢力から前記スラスト方向の押付力を取り出す請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【請求項4】
前記内歯歯車部および前記遊星歯車部は、前記オルダム中間体に向かって開くコニカルギヤ面(211,311)を含み、前記押付力取出部は、前記コニカルギヤ面と協働して前記付勢部材の付勢力から前記スラスト方向の押付力を取り出す請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、偏心軸上に軸受を介して遊星回転体を支持し、遊星回転体と駆動側回転体とをオルダム継手で接続したバルブタイミング調整装置において、軸受または歯車の衝突による騒音および摩耗を抑える技術が知られている。例えば、特許文献1には、付勢部材により遊星回転体を支持する軸受をスラスト方向に付勢して隣接する別の軸受に押し付け、軸受をスラスト方向へ動きにくくして、軸受および遊星回転体の摩耗を抑える技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献1には、偏心軸に付勢部材を設け、付勢部材の付勢力で軸受をラジアル方向に付勢して、遊星回転体の遊星歯車部を従動側回転体の内歯歯車部に押し付け、双方間のラジアル方向のクリアランスを少なくして、遊星回転体の偏心回転に伴う遊星歯車部および内歯歯車部の打音および摩耗の発生を抑える技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-87564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、駆動側回転体と遊星回転体との間に介在するオルダム継手は、スラスト方向のクリアランスを持つため、遊星回転体の偏心回転中にオルダム継手の中間体がスラスト方向に動き、周辺部材に衝突して騒音を発生させたり、繰返し応力によってフレッティング摩耗を発生させたりするおそれがある。しかし、従来のバルブタイミング調整装置では、こうしたオルダム中間体の動きに起因する摩耗および騒音を抑える有効な手段が講じられていなかった。
【0006】
本発明の目的は、遊星回転体の偏心回転に伴う騒音および摩耗を低減させるバルブタイミング調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、エンジン(100)のクランク軸(101)によりカム軸(102)を介して開閉されるバルブ(103,104)の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置(1)を提供する。この装置は、クランク軸によりカム軸の回転軸線(91)と同じ軸線の周りで回転される駆動側回転体(10)と、駆動側回転体と同じ軸線の周りでカム軸と一体に回転する従動側回転体(20)と、駆動側回転体または従動側回転体の何れか一方に形成された内歯歯車部(21)に噛み合う遊星歯車部(31)を有する遊星回転体(30)と、遊星回転体をカム軸の回転軸線から平行に変位した偏心軸線(92)の周りで回転可能に支持する偏心軸(40)と、偏心軸上に遊星回転体を支持する軸受(33,34)と、を備える。
【0008】
さらに、本発明のバルブタイミング調整装置は、軸受を介して遊星回転体をラジアル方向外側へ付勢する付勢部材(44)と、駆動側回転体または従動側回転体の何れか他方と遊星回転体とを偏心自在に回転同期させるオルダム中間体(53)を有するオルダム継手(50)と、付勢部材のラジアル方向の付勢力(F)からスラスト方向の押付力(f2)を取り出して遊星回転体に作用させる押付力取出部(60,62~66)とを備えている。遊星回転体は、オルダム中間体側の端部に、径内方向に突出し、軸受の外輪(332,342)とオルダム中間体とに当接する当接部(35)を有する。そして、遊星回転体は、スラスト方向の押付力によって当接部を介してオルダム中間体を駆動側回転体または従動側回転体に押し付けるように構成される。
【0009】
このため、バルブタイミング調整装置の動作中は、オルダム中間体が駆動側回転体または従動側回転体に拘束され、これらと同期して回転するが、スラスト方向には動かなくなる。したがって、遊星回転体の偏心回転中、オルダム中間体の姿勢を安定させ、周辺部材との衝突を抑えて、騒音および摩耗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態を示すバルブタイミング調整装置の断面図である。
図2】オルダム継手の構成を示す図1のII-II線断面図である。
図3】オルダム継手の第2オルダム継手部を示す遊星回転体の斜視図である。
図4】第1実施形態の押付力取出部を示す図1のIV部拡大図である。
図5】本発明の第2実施形態を示すバルブタイミング調整装置の断面図である。
図6】第2実施形態の押付力取出部を示す図5のVI部拡大図である。
図7】本発明の第3実施形態を示すバルブタイミング調整装置の断面図である。
図8】第3実施形態の押付力取出部を示す図7のVIII部拡大図である。
図9】第3実施形態の変形例を示す押付力取出部の断面図である。
図10】本発明の第4実施形態を示すバルブタイミング調整装置の断面図である。
図11】第4実施形態の押付力取出部を示す図10のXI部拡大図である。
図12】第4実施形態の変形例を示す押付力取出部の断面図である。
図13】本発明の第5実施形態を示すバルブタイミング調整装置の断面図である。
図14】第5実施形態の押付力取出部を示す図13のXIV部拡大図である。
図15】本発明の第6実施形態を示すバルブタイミング調整装置の断面図である。
図16】第6実施形態の押付力取出部を示す図15のXVI部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態を図1図4に従って説明する。図1に示すように、第1実施形態のバルブタイミング調整装置1は、例えば車両用エンジン100において、クランク軸101からカム軸102までのトルク伝達経路に設けられる。カム軸102は、エンジン100の吸気バルブ103または排気バルブ104を開閉する。本発明の幾つかの実施形態では、バルブタイミング調整装置1が吸気バルブ104の開閉タイミングを調整する。
【0013】
バルブタイミング調整装置1は、モータ(図示略)によって駆動される位相変更機構2を備えている。位相変更機構2には、駆動側回転体10、従動側回転体20、遊星回転体30、偏心軸40、オルダム継手50、押付力取出部60等が設けられている。
【0014】
駆動側回転体10は、ハウジング11とスプロケット部材12とからなっている。ハウジング11は板状に形成され、スプロケット部材12がカップ状に形成されている。ハウジング11およびスプロケット部材12は、複数のボルト13(図2参照)で一体に組み付けられ、カム軸102と同じ回転軸線91の周りで回転する。スプロケット部材12は、外周にスプロケット歯14を備え、スプロケット歯14に巻き掛けられたチェーン105を介してクランク軸101に連結されている。これにより、駆動側回転体10は、クランク軸101のトルクにより回転軸線91の周りでクランク軸101と連動して回転される。
【0015】
従動側回転体20は、ボルト15によってカム軸102に結合され、駆動側回転体10と同じ回転軸線91の周りでカム軸102と一体に回転される。従動側回転体20の内側には遊星回転体30が収容され、遊星回転体30の外周面に、従動側回転体20の内歯歯車部21に噛み合う遊星歯車部31が形成されている。なお、内歯歯車部21は、駆動側回転体10または従動側回転体20のどちらか一方に形成することができるが、この実施形態では従動側回転体20の内周面に形成されている。
【0016】
遊星回転体30は、第1軸受33を介して偏心軸40のカム軸側端部41に支持されている。偏心軸40のカム軸側端部41は、その外周面がカム軸102の回転軸線91から平行に変位した偏心軸線92(図2参照)の周りで回転する。偏心軸40の反カム軸側端部42は、その外周面がカム軸102の回転軸線91と同じ軸線の周りで回転する。反カム軸側端部42は、第2軸受34を介してハウジング11に支持されるとともに、継手部材(図示略)を介してモータの出力軸に接続されている。第1軸受33および第2軸受34には、ラジアル玉軸受が用いられている。
【0017】
モータによって偏心軸40が回転されると、カム軸側端部41の偏心回転によって、図2に示すように、遊星歯車部31の一部が内歯歯車部21に噛み合い、両者の間に噛み合い部32が形成される。カム軸側端部41の外周面には、2つの凹所43が偏心軸40の円周方向に互いに接近する位置に形成され、各凹所43内に板バネ等からなる付勢部材44が装着されている。付勢部材44は、第1軸受33を介して遊星回転体30をラジアル方向外側へ付勢し、遊星歯車部31を内歯歯車部21に押し付ける。これにより、噛み合い部32のクリアランスを解消し、遊星回転体30の偏心回転に伴う衝撃やバックラッシ音等の騒音を抑えることができる。
【0018】
オルダム継手50は、第1オルダム継手部51と、第2オルダム継手部52と、オルダム中間体53とから構成されている。この実施形態では、第1オルダム継手部51が、図1図2に示すように、駆動側回転体10において、スプロケット部材12の一方の端面(オルダム中間体53側の端面)に180度の角度をおいて2つ凹設されている。第2オルダム継手部52は、図3に示すように、遊星回転体30の一方の端面(オルダム中間体53側の端面)に180度の角度をおいて2つ突設されている。
【0019】
図2に示すように、オルダム中間体53は円環ディスク状に形成され、その外周縁に第1オルダム継手部51に摺動可能に嵌合する2つの係合凸部54が突設され、内周縁に第2オルダム継手部52が摺動可能に嵌合する2つの係合凹部55が凹設されている。係合凸部54および係合凹部55は、2つの係合凸部54を結ぶ直線と2つの係合凹部55を結ぶ直線がオルダム中間体53の中心で直交するように、中間体53の全周を4等分した位置に形成されている。係合凸部54および係合凹部55には、オルダム中間体53の傾き(偏角)を許容し、中間体53のこじれを防止するために、所定のクリアランスが設定されている。
【0020】
オルダム中間体53は、係合凸部54と第1オルダム継手部51との嵌合を介してスプロケット部材12と同期回転するとともに、係合凹部55と第2オルダム継手部52との嵌合を介して遊星回転体30と同期回転する。また、オルダム中間体53が第2オルダム継手部52に対して図2の第1方向へ移動するときには、係合凹部55が第2オルダム継手部52に対して第1方向へ摺動し、オルダム中間体53が第1オルダム継手部51に対して第1方向と直交する第2方向へ移動するときに、係合凸部54が第1オルダム継手部51に対して第2方向へ摺動する。したがって、オルダム中間体53は、第1オルダム継手部51と第2オルダム継手部52とを偏心自在に回転同期させることができる。
【0021】
上記構成の位相変更機構2において、モータにより偏心軸40が一方向へ回転されると、遊星歯車部31と内歯歯車部21との噛み合いを介して従動側回転体20が駆動側回転体10に対し一方向へ相対回転する。これにより、両方の回転体10,20の回転位相に差が生じ、その位相差に応じた角度でカム軸102が一方向に進み、吸気バルブ103の開閉タイミングが進角側に変化する。また、モータにより偏心軸40が反対方向へ回転されたときには、従動側回転体20が駆動側回転体10に対し反対方向へ相対回転し、両方の回転体10,20の位相差に応じた角度でカム軸102が反対方向に遅れ、吸気バルブ103の開閉タイミングが遅角側に変化する。
【0022】
次に、オルダム中間体53を駆動側回転体10または従動側回転体20に押し付けるための構成について説明する。この実施形態では、付勢部材44の付勢力を利用して、遊星回転体30がオルダム中間体53を駆動側回転体10のハウジング11に押し付ける。付勢部材44とオルダム中間体53との間には、第1軸受33と、押付力取出部60と、遊星回転体30とが設けられている。押付力取出部60は、第1軸受33と協働し、付勢部材44のラジアル方向の付勢力からスラスト方向の押付力を取り出して遊星回転体30に作用させる。
【0023】
詳しくは、図4に示すように、ラジアル玉軸受からなる第1軸受33は、転動体330と、その軌道輪である内輪331と、同じく軌道輪である外輪332と、Cリング333とを備えている。第1軸受33の組付状態では、Cリング333によって内輪331が偏心軸40に対してスラスト方向へ移動不能に係止されている(図1参照)。また、外輪332は遊星回転体30の内側に圧入固定され、遊星回転体30の遊星歯車部31が従動回転体20の内歯歯車部21に対してスラスト方向へ移動可能に噛み合わされている。
【0024】
一方、オルダム中間体53は遊星回転体30の端面に当接し、外輪332が内輪331よりもカム軸102側へ変位し、内輪331と外輪332とがスラスト方向の異なる位置に配置されている。この状態では、転動体330と内輪331との接点P1および転動体330と外輪332との接点P2がスラスト方向にずれているため、第1軸受33に遊星回転体30を斜めに付勢する力Fが発生する。そして、この付勢力Fが押付力取出部60によって分解され、ラジアル方向の分力f1とスラスト方向の分力f2とが取り出される。
【0025】
ラジアル方向の分力f1は、遊星歯車部31を内歯歯車部21に押圧する押圧力として遊星回転体30と従動側回転体20との噛み合い部32(図2参照)に提供される。スラスト方向の分力f2は、オルダム中間体53をスラスト方向に押し付ける押付力として遊星回転体30に作用する。遊星回転体30は、その一端にオルダム中間体53に当接する当接部35を備え、当接部35によりオルダム中間体53をハウジング11に押し付ける。
【0026】
したがって、この実施形態によれば、遊星回転体30をラジアル方向へ付勢する付勢部材44の付勢力を利用し、オルダム中間体53をスラスト方向に付勢してハウジング11に押し付け、動かないように拘束して、遊星回転体30の偏心回転に伴う騒音や摩耗を低減させることができる。また、押付力取出部60が付勢部材44の付勢力から第1軸受33を介してスラスト方向の押付力を取り出しているため、既存の位相変更機構2を用いた比較的簡単な構成によってオルダム中間体53を駆動側回転体10に拘束できるという利点もある。
【0027】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図5図6に従って説明する。この実施形態では、押付力取出部62が、第2軸受34と協働し、付勢部材44の付勢力Fからスラスト方向の押付力を取り出している。すなわち、図6に示すように、ラジアル玉軸受からなる第2軸受34は、転動体340、内輪341、外輪342、およびCリング343を備え、外輪342が内輪341よりもカム軸102側へ変位した状態で組み付けられている。
【0028】
この状態では、転動体340と内輪341および外輪342との接点P1,P2がスラスト方向へずれているため、第2軸受34に遊星回転体30を斜めに付勢する力Fが発生する。そして、この付勢力Fから押付力取出部62がラジアル方向の分力f1とスラスト方向の分力f2とを取り出し、スラスト方向の分力f2を押付力として遊星回転体30に作用させ、遊星回転体30の当接部35がオルダム中間体53をハウジング11に押し付ける。したがって、この実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0029】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態を図7図9に従って説明する。この実施形態では、押付力取出部63が、付勢部材44に形成された傾斜面443(図8参照)または偏心軸40に形成された傾斜面431(図9参照)と協働し、付勢部材44の付勢力から第1軸受33を介してスラスト方向の押付力を取り出している。図7、8に示すように、付勢部材44は板バネを折り曲げて形成され、偏心軸40の凹所43に着座する固定部441と、第1軸受33の内輪331に接合する可動部442とを備えている。可動部442はカム軸102の回転軸線91に対して傾き、内輪331との接合面がカム軸102側ほど高い傾斜面443となっている。
【0030】
このため、付勢部材44の付勢力は、図8に示すような荷重分布で第1軸受33の転動体330に斜めに作用する。この状態では、第1実施形態と同様に、転動体330と内輪331および外輪332との接点P1,P2がスラスト方向へずれているため、第1軸受33に遊星回転体30を斜めに付勢する力Fが発生する。そして、この付勢力Fから押付力取出部63がラジアル方向の分力f1とスラスト方向の分力f2とを取り出し、スラスト方向の分力f2を押付力として遊星回転体30に作用させ、遊星回転体30の当接部35がオルダム中間体53をハウジング11に押し付ける。
【0031】
したがって、図7および図8に示す押付力取出部63によれば、付勢部材44それ自身の傾斜面443と協働し、付勢部材44の付勢力から第1軸受33を介してスラスト方向の押付力を取り出し、遊星回転体30に提供することができる。図9に示す押付力取出部63では、付勢部材44の固定部441と可動部442とが互いに平行に形成され、かわりに固定部441が着座する偏心軸40の凹所43に傾斜面431が形成されている。このため、押付力取出部63は、偏心軸40の傾斜面431と協働し、付勢部材44の付勢力からスラスト方向の押付力を取り出して遊星回転体30に作用させる。
【0032】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態を図10図12に従って説明する。第4実施形態の押付力取出部64は、第2軸受34を介してスラスト方向の押付力を取り出している点で、第3実施形態の押付力取出部63と相違する。すなわち、図11に示す押付力取出部64は、付勢部材44に形成された傾斜面443と協働し、第2軸受34を介して押付力を取り出して遊星回転体30に作用させている。図12に示す押付力取出部64は、偏心軸40に形成された傾斜面431と協働し、第2軸受34を介して押付力を取り出して遊星回転体30に作用させている。その他の構成ならびに作用効果は第3実施形態と同じである。
【0033】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態を図13図14に従って説明する。第5実施形態の押付力取出部65は、従動側回転体20および遊星回転体30のコニカルギヤ面と協働して、付勢部材44の付勢力からスラスト方向の押付力を取り出している。詳しくは、図14に示すように、従動側回転体20のコニカルギヤ面211は、オルダム中間体53に向かって開くように内歯歯車部21に形成され、遊星回転体30のコニカルギヤ面311が、オルダム中間体53に向かって開くように遊星歯車部31に形成されている。そして、遊星回転体30がコニカルギヤ面211,311の滑りを介してスラスト方向へ摺動可能となっている。
【0034】
この状態で、付勢部材44が第1軸受33および遊星回転体30を介して従動側回転体20をラジアル方向外側に押圧すると、従動側回転体20の反力によって遊星回転体30がラジアル方向内側に付勢される。押付力取出部65は、ラジアル方向の付勢力Fからスラスト方向の分力f2を取り出し、これを押付力として遊星回転体30に作用させる。遊星回転体30は、コニカルギヤ面211,311の滑りを介してスラスト方向に摺動し、オルダム中間体53をハウジング11に押し付ける。したがって、オルダム中間体53をスラスト方向に動かないように拘束し、騒音や摩耗を低減させることができる。
【0035】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態を図15図16に従って説明する。この実施形態では、押付力取出部66がコニカルギヤ面と協働し、第2軸受34を介してスラスト方向の押付力を取り出している。付勢部材44は第2軸受34および遊星回転体30を介して従動側回転体20を押圧し、従動側回転体20の反力で遊星回転体30がラジアル方向内側に付勢される。押付力取出部66は、ラジアル方向の付勢力Fからスラスト方向の分力f2を取り出して遊星回転体30に作用させる。遊星回転体30は、コニカルギヤ面211,311の滑りを介してスラスト方向に摺動し、オルダム中間体53をハウジング11に押し付ける。したがって、第5実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0036】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、内歯歯車部21が従動側回転体20に形成されているが、内歯歯車部21を駆動側回転体10に形成することもできる。また、上記各実施形態では、遊星回転体30がオルダム中間体53を駆動側回転体10のハウジング11に押し付けているが、遊星回転体30によりオルダム中間体53を従動側回転体20に押し付けることもできる。その他、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で各部の形状や構成を適宜変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・バルブタイミング調整装置、10・・・駆動側回転体、
20・・・従動側回転体、21・・・内歯歯車部、
30・・・遊星回転体、31・・・遊星歯車部、
33・・・第1軸受、34・・・第2軸受、40・・・偏心軸、
50・・・オルダム継手、53・・・オルダム中間体、
60・・・押付力取出部(第1実施形態)、
62・・・押付力取出部(第2実施形態)
63・・・押付力取出部(第3実施形態)
64・・・押付力取出部(第4実施形態)
65・・・押付力取出部(第5実施形態)
66・・・押付力取出部(第6実施形態)
100・・・エンジン、101・・・クランク軸、102・・・カム軸、
103・・・吸気バルブ、104・・・排気バルブ、
91・・・回転軸線、92・・・偏心軸線、
F・・・付勢部材の付勢力、f2・・・スラスト方向の押付力。
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