(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】Nd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤の噴霧装置及び噴霧方法
(51)【国際特許分類】
B05B 17/00 20060101AFI20230516BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20230516BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230516BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20230516BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230516BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20230516BHJP
B05D 3/04 20060101ALI20230516BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230516BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20230516BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B05B17/00
B22F1/14 500
B22F1/00 Y
B22F9/04 C
B05D7/14 P
B05D1/02 Z
B05D3/04 A
B05D3/00 D
H01F1/057 110
H01F41/02 G
(21)【出願番号】P 2021133111
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】202010917549.2
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】ジャイ玉龍
(72)【発明者】
【氏名】呂思晶
(72)【発明者】
【氏名】趙大軍
(72)【発明者】
【氏名】ジャイ暁晨
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108421982(CN,A)
【文献】米国特許第05449502(US,A)
【文献】中国実用新案第202367198(CN,U)
【文献】特開2015-070141(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110767401(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110860249(CN,A)
【文献】特開平10-032133(JP,A)
【文献】特開2013-111513(JP,A)
【文献】実開昭52-024066(JP,U)
【文献】特開2002-285208(JP,A)
【文献】米国特許第05472661(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-17/08
B22F 1/00-12/90
B05D 1/00- 7/26
H01F 1/00-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd-Fe-B系合金粉末に対して添加剤を噴霧する装置であって、
添加剤貯蔵タンク、添加剤計量タンク、制御装置、連結パイプ、封止部材、合金粉末容器を含み、
前記添加剤貯蔵タンクと前記添加剤計量タンクはフレキシブルチューブによって連結され、
前記添加剤計量タンクは計量センサを介して前記制御装置に連結され、
前記添加剤計量タンクと前記合金粉末容器は前記連結パイプによって連結され、
前記合金粉末容器の開口には前記封止部材が設けられ、前記連結パイプは前記封止部材を貫通して前記合金粉末容器内に入り込み、前記連結パイプの先端には噴霧ノズルが連結され、
前記封止部材はブラインドフランジであり、前記ブラインドフランジはクランプを介して前記合金粉末容器に密閉連結され、前記ブラインドフランジには排気用ボールバルブを収納する二つの開口を有し、前記合金粉末容器の材料投入口にはバタフライ弁が設けられ、前記ブラインドフランジと前記バタフライ弁との間には排気空間が形成される、
ことを特徴とするNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧装置。
【請求項2】
前記添加剤貯蔵タンクには不純物を濾過する濾過フィルタが設けられ、前記濾過フィルタは60~100メッシュである、
ことを特徴とする請求項1に記載のNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧装置。
【請求項3】
前記フレキシブルチューブは、第1スリーブ、第2スリーブを含み、前記第1スリーブの上端と前記添加剤貯蔵タンクは第1電磁弁を介して連結され、前記第2スリーブと前記添加剤計量タンクは第2電磁弁を介して連結され、前記第1スリーブの下端は前記第2スリーブの上端内部へと入り込み、前記第1スリーブと前記第2スリーブはシリコンチューブによって被覆されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧装置。
【請求項4】
前記添加剤計量タンクには前記連結パイプに連結される第3電磁弁と、前記添加剤計量タンクの排気に用いる第4電磁弁及びガス源に連結する第5電磁弁が設けられる、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧装置。
【請求項5】
前記合金粉末容器の内部にはミキサーを有する、
ことを特徴とする
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧装置。
【請求項6】
Nd-Fe-B系合金粉末に対して添加剤を噴霧する方法であって、
(ステップa)制御装置によって前記添加剤の添加量を設定し、前記添加剤を計量する計量容器の入口及び出口にそれぞれ電磁弁を設け、前記添加剤の添加開始及び添加停止を制御し、前記計量容器に投入される前記添加剤が所定の量に達すると、前記計量容器の前記入口及び前記出口の前記電磁弁を閉じ、
(ステップb)前記添加剤が霧化される合金粉末容器の開口内にバルブを設け、開口上端をブラインドフランジで塞ぎ、前記バルブと前記ブラインドフランジとの間に空間を形成し、前記ブラインドフランジにガス導入置換ボールバルブ及びガス排気置換ボールバルブを設け、前記ガス導入置換ボールバルブをアルゴンガス又は窒素ガス置換ガス源に接続し、前記空間に存在する空気を前記ガス排気置換ボールバルブによって置換し、
(ステップc)前記ブラインドフランジの前記ガス導入置換ボールバルブ、前記ガス排気置換ボールバルブ、及び前記合金粉末容器のバタフライ弁を開き、連結パイプを介して前記添加剤を前記合金粉末容器内へと送り込み、当該ステップの期間中は空気の置換し継続し、
(ステップd)前記添加剤を霧化し、ガス圧によって前記Nd-Fe-B系合金粉末に対して前記添加剤を噴霧し、
(ステップe)噴霧の完了後、前記連結パイプを抜き取り、前記合金粉末容器の開口の前記バルブを閉じる、
ことを特徴とするNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧方法。
【請求項7】
前記Nd-Fe-B系合金粉末の混合工程は、さらに、
(ステップd-1)前記Nd-Fe-B系合金粉末に前記添加剤を噴霧した後、前記合金粉末容器の内部にあるミキサーで混合し、混合後にジェットミルによって粉砕する、
ことを特徴とする
請求項6に記載のNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧方法。
【請求項8】
前記ミキサーは3次元ミキサー、V字型ミキサー、高剪断力ミキサーのいずれか一つであり、混合時間は、3次元ミキサーで2~4時間、V字型ミキサーで2~6時間、高剪断力ミキサーで20分~1時間である、
ことを特徴とする
請求項7に記載のNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤噴霧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd-Fe-B系焼結磁性体の製造技術分野に属し、特にNd-Fe-B系合金粉末に対する添加剤の噴霧装置及び噴霧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系永久磁性体は、1983年に登場した第三世代の磁性体であり、優れた磁気特性を有し、かつ比較的低廉な磁性体である。近年、省エネルギー、環境保護、新エネルギー、自動車、ロボット等の領域で注目されている。従来、Nd-Fe-B系焼結磁性体の一般的な工程は、合金の薄片化(SCフレーキング)→水素粉砕→粉末生成→磁場成形→等静圧プレス→真空焼結→熱処理である。合金の粉末生成工程は、粉末生成前混合、粉末生成及び粉末生成後混合も含まれる。混合工程では添加剤が添加され、主な添加剤はエステル系化合物である。
【0003】
業界における混合工程の均一性は、一般的に添加剤によって導入されるC含有量のバラツキによって評価される。具体的な工程は以下の通りである。
(1)粉末生成前混合工程:生成効率を高めるために、一般的には酸化防止剤(粉砕助剤)を添加する。主たる作用メカニズムは、粒子の流動性を高めて二次粒子の形成を防ぐと共に、物質表面に吸着した後の表面エネルギーの低下による亀裂の拡大を加速し、物質の粉砕性を向上させることにある。従来の添加法は、一般的に合金粉末容器の開口のボールバルブにおいて、漏斗で添加剤を一度に添加するものであるが、この方法には以下の欠点がある。(イ)添加時にボールバルブを開くことから、空気のごく一部が合金粉末と接触して酸化してしまい、磁気特性に悪影響を与える。(ロ)添加後の添加剤が集中し易く、より長時間混合する必要がある。(ハ)混合工程でボールバルブの添加口に残った合金粉末が添加剤と結合して硬化し、結晶化し、口を塞ぎ、清掃が困難である。
(2)粉末生成後混合工程:一般的には潤滑剤を添加する。主たる作用メカニズムは、成形工程における配向性を高めて磁気特性を高める、というものである。本工程では、従来幾つかのプロセス経路が存在する。(a)合金粉末タンクにて混合する。一般的な時間は3~4時間であり、装填率は60~80%である。(b)合金粉末タンクに潤滑剤を投入し、1~2時間プレ混合し、その後二つのタンク又は複数のタンクの内容物をV字形ミキサーで混合する。(c)合金粉末タンク内の合金粉末を高剪断力ミキサーへ投入し、ミキサー上方の穿孔箇所に潤滑剤を投入して混合する。混合時間は一般的には0.5時間以内である。(d)その他、日本の先進的な工程として、高剪断力ミキサーを製粉設備に直接接続して混合する方法も存在する。
以上の混合工程における潤滑剤の添加方法は、一般的にいずれも合金粉末タンク又はミキサー本体の開口から添加するものであり、同様に粉末生成前混合工程における欠点(イ)~(ハ)が存在する。
【0004】
中国特許CN108480648A公報には、合金粉末タンクの側壁に孔を設け、流体ポンプによる搬送を併用し、材料を受け入れながら霧化した添加剤を添加する方法が開示されている。本方法によれば、混合の均一レベルがある程度向上するが、混合工程においてその添加孔が合金粉末に接触することから、粉体が詰り易く、清掃が困難である。且つ開口によって合金粉末タンクのガス漏れの発生によって、合金粉末が酸化してしまうリスクが存在する。
【0005】
また中国実用新案CN209174907U公報には、上記中国特許公開CN108480648A公報に近い技術を採用し、合金粉末タンク上方の側壁において流体ポンプをパルス気流方式に変更しているが、同様に上記混合工程における汚染、添加口の閉塞問題が存在する。
【0006】
また中国実用新案CN202367198U公報には、合金粉末タンクの上方に箱状工具を設置し、底板に10~200個の微孔を穿ち、酸化防止剤を添加しているが、酸化防止剤の添加量が少なく、且つこの種の工具は底板の面積が大きいことから、酸化防止剤が多く残留してしまい、添加プロセスにおいて、添加剤がタンクの壁に沿って流れ落ちてしまう。混合工程において合金粉末が容器の壁に粘着し、且つ脱落し難いことから、必然的に添加剤の実際の添加量及び混合均一性に影響を及ぼす。
【0007】
さらに、中国特許CN104399995A公報には、ジェットミルの材料排出口チャネルに薬剤添加口を設け、材料排出口チャネルに高圧ガス噴霧で添加剤を添加する技術が開示されているが、添加剤の比率は非常に低く、流量制御が難しいことから、断続的な添加方法を用いる必要があり、且つ合金粉末チャネル内のノズルが詰まりやすく、高圧ガスの使用は安全上の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許CN108480648A公報
【文献】中国実用新案CN209174907U公報
【文献】中国実用新案CN202367198U公報
【文献】中国特許CN104399995A公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、上記した従来技術が有する課題を解決するため、Nd-Fe-B系合金粉末に対して添加剤を噴霧する装置であって、
添加剤貯蔵タンク、添加剤計量タンク、制御装置、連結パイプ、封止部材、合金粉末容器を含み、
前記添加剤貯蔵タンクと前記添加剤計量タンクはフレキシブルチューブによって連結され、
前記添加剤計量タンクは計量センサを介して前記制御装置に連結され、
前記添加剤計量タンクと前記合金粉末容器は前記連結パイプによって連結され、
前記合金粉末容器の開口には前記封止部材が設けられ、前記連結パイプは前記封止部材を貫通して前記合金粉末容器内に入り込み、前記連結パイプの先端には噴霧ノズルが連結されている、ことを特徴とする。
【0010】
一実施形態において、前記添加剤貯蔵タンクには不純物を濾過する濾過フィルタが設けられ、前記濾過フィルタは60~100メッシュである、ことを特徴とする。
【0011】
また一実施形態において、前記フレキシブルチューブは、第1スリーブ、第2スリーブを含み、前記第1スリーブの上端と前記添加剤貯蔵タンクは第1電磁弁を介して連結され、前記第2スリーブと前記添加剤計量タンクは第2電磁弁を介して連結され、前記第1スリーブの下端は前記第2スリーブの上端内部へと入り込み、前記第1スリーブと前記第2スリーブはシリコンチューブによって被覆されている、ことを特徴とする。
【0012】
また一実施形態において、前記添加剤計量タンクには前記連結パイプに連結される第3電磁弁と、前記添加剤計量タンクの排気に用いる第4電磁弁及びガス源に連結する第5電磁弁が設けられる、ことを特徴とする。
【0013】
また一実施形態において、前記封止部材はブラインドフランジであり、前記ブラインドフランジはクランプを介して前記合金粉末容器に密閉連結され、前記ブラインドフランジには排気用ボールバルブを収納する二つの開口を有し、前記合金粉末容器の材料投入口にはバタフライ弁が設けられ、前記ブラインドフランジと前記バタフライ弁との間には排気空間が形成される、ことを特徴とする。
【0014】
また一実施形態において、前記合金粉末容器の内部にはミキサーを有する、ことを特徴とする。
【0015】
また本願発明は、Nd-Fe-B系合金粉末に対して添加剤を噴霧する方法であって、
添加剤容器と合金粉末容器とは分離され、噴霧前に前記添加剤は前記Nd-Fe-B系合金粉末と直接接触せず、前記添加剤を霧化して前記Nd-Fe-B系合金粉末の表面に噴霧するものであり、
前記添加剤を噴霧する前段階において、前記合金粉末容器の開口部にある空間に、窒素ガス又はアルゴンガスを吹き込んで空気を排気する空気置換プロセスを行い、
その後、計量プロセスにおいて前記添加剤が所定の重量まで達した後、窒素ガス又はアルゴンガスを用いて前記添加剤を流動方式で充填し、
前記添加剤を霧化状態にして前記Nd-Fe-B系合金粉末に噴霧する、ことを特徴とする。
【0016】
一実施形態において、前記添加剤が噴霧された前記Nd-Fe-B系合金粉末を、前記合金粉末容器の内部にあるミキサーによって混合する、ことを特徴とする。
【0017】
さらに本願発明は、Nd-Fe-B系合金粉末に添加剤を噴霧する方法であって、
(ステップa)制御装置によって前記添加剤の添加量を設定し、前記添加剤を計量する計量容器の入口及び出口にそれぞれ電磁弁を設け、前記添加剤の添加開始及び添加停止を制御し、前記計量容器に投入される前記添加剤が所定の量に達すると、前記計量容器の前記入口及び前記出口の前記電磁弁を閉じ、
(ステップb)前記添加剤が霧化される合金粉末容器の開口内にバルブを設け、開口上端をブラインドフランジで塞ぎ、前記バルブと前記ブラインドフランジとの間に空間を形成し、前記ブラインドフランジにガス導入置換ボールバルブ及びガス排気置換ボールバルブを設け、前記ガス導入置換ボールバルブをアルゴンガス又は窒素ガス置換ガス源に接続し、前記空間に存在する空気を前記ガス排気置換ボールバルブによって置換し、
(ステップc)前記ブラインドフランジの前記ガス導入置換ボールバルブ、前記ガス排気置換ボールバルブ、及び前記合金粉末容器のバタフライ弁を開き、連結パイプを介して前記添加剤を前記合金粉末容器の内部へと送り込み、当該ステップの期間中は空気の置換し継続し、
(ステップd)前記添加剤を霧化し、ガス圧によって前記Nd-Fe-B系合金粉末に対して前記添加剤を噴霧し、
(ステップe)噴霧の完了後、前記連結パイプを抜き取り、前記合金粉末容器の開口の前記バルブを閉じる、ことを特徴とする。
【0018】
一実施形態において、前記Nd-Fe-B系合金粉末の混合工程は、さらに、
(ステップd-1)前記Nd-Fe-B系合金粉末に前記添加剤を噴霧した後、前記合金粉末容器の内部にあるミキサーで混合し、混合後にジェットミルによって粉砕する、ことを特徴とする。
【0019】
また一実施形態において、前記ミキサーは3次元ミキサー、V字型ミキサー、高剪断力ミキサーのいずれか一つであり、前記混合時間はそれぞれ、2~4時間、2~6時間、20分~1時間である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の添加剤噴霧装置及び噴霧方法を用いることで、添加剤は合金粉末と直接接触せず、且つ連結部に空気置換プロセスを採用することで、Nd-Fe-B系合金粉末に添加剤を添加する工程で酸素が合金粉末に接触することで生じる酸化、添加口の結晶化、閉塞を効果的に防止することができ、使用・清掃・メンテナンスが容易になる。
【0021】
さらに、添加剤を噴霧する際、霧化された添加剤は合金粉末の表面に直接的に噴霧され、容器の内壁には付着しないため、合金粉末がタンク壁で結晶化することがない。これにより、添加剤の添加量の正確性及び混合の均一性が向上する。従来のように漏斗で添加剤を一度に投入する方法と比べて、合金粉末の局所的な酸化を効果的に防止し、C含有量が均一な高性能磁性体の製造を可能とし、且つミキサーを備えた容器内で噴霧すれば、合金粉末の混合作業工程時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】本発明によって製造されたNd-Fe-B系焼結磁性体をスライスした構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本願発明を実施形態と組み合わせて詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0024】
図1、
図2は、本発明に係るNd-Fe-B系合金粉末(以下、単に合金粉末とも言う)に対する添加剤の噴霧装置(以下、単に添加装置とも言う)の概略を示すものである。添加装置は、内部に濾過フィルタとしてのメッシュフィルタ9を備える添加剤貯蔵タンク1を有し、添加剤貯蔵タンク1の底部にはフレキシブルチューブ8によって添加剤計量タンク2に連結され、添加剤計量タンク2には計量センサ12が設けられ、設定した重量の添加剤を計量する。前記濾過フィルタは60~100メッシュであることが望ましい。
【0025】
添加剤計量タンク2には、連結パイプ4、噴霧ノズルヘッド19及び合金粉末容器6に連結されるブラインドフランジ5が連結される。合金粉末容器6としては、合金粉末と添加剤を混合するミキサーを有するものが選択されるが、通常のタンクであっても良い。ミキサーを有する場合、噴霧後に1回混合するだけで済み、作業時間を短縮することができる。ブラインドフランジ5は、
図2に示す通り3つの開口を有しており、2つは空気置換用の開口(5-1)であり、もう1つは連結パイプ4を挿入するための開口(5-2)である。なお、前記ミキサーは3次元ミキサー、V字型ミキサー、高剪断力ミキサーのいずれかを用い、混合時間はそれぞれ、2~4時間、2~6時間、20分~1時間程度であることが望ましい。
【0026】
Nd-Fe-B系合金粉末の表面に添加剤を噴霧する場合、まずブラインドフランジ5を合金粉末容器6にガスケットとクランプ7を併用して連結する。合金粉末容器6の開口部分にバタフライ弁21を設け、ブラインドフランジ5とバタフライ弁21との間に空間を形成し、窒素ガス又はアルゴンガスを用いて開口空間の空気をガスに置換する。
【0027】
その後、連結パイプ4を合金粉末容器6に所定の深さまで挿入し、ガス圧によって計量済の添加剤を合金粉末容器6の内部に送り込み、噴霧ノズル19によって噴霧し、添加剤が噴霧された合金粉末をミキサーによって混合する。添加剤は主にエステル系化合物(抗酸化剤、潤滑剤など)である。
【0028】
実施例1
製粉前合金粉末を360kg準備し、上記した本発明の装置を用いて添加剤としての抗酸化剤を噴霧した後、合金粉末容器6内の3次元ミキサーで1.5時間混合し、8個をサンプリングしてC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0029】
実施例2
製粉前合金粉末を700kg準備し、上記した本発明の装置を用いて添加剤としての潤滑剤を噴霧した後、合金粉末容器6内のV字形ミキサーで4時間混合した。その後のプレス成型において、8個をサンプリングしてC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0030】
実施例3
製粉前合金粉末を700kg準備し、上記した本発明の装置を用いて添加剤としての潤滑剤を噴霧した後、合金粉末容器6内のV字形ミキサーで4時間混合し、磁場配向プレス成型及び焼結した。焼結炉から取り出し、炉内の上中下3層のコーナー部及び辺部の中心及び炉の中心(立方体の頂点、辺の中心及び中心)から13個をサンプリングしてC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0031】
実施例4
製粉前合金粉末を700kg準備し、上記した本発明の装置を用いて添加剤としての潤滑剤を噴霧した後、合金粉末容器6内のV字形ミキサーで4時間混合し、磁場配向プレス成型及び焼結した。焼結炉から出し、
図3に示すように、素地単体の中心部分のみを立方体に切り出し、当該立方体を上から下へと11個にスライスし、上下の2枚を除いた9個(内部にある9枚)のC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0032】
比較例1
製粉前合金粉末を360kg準備し、従来の装置を用い、合金粉末タンクの上テーパー壁の開口から漏斗で実施例1と同量の抗酸化剤を一度に投入し、三次元ミキサーで1.5時間混合し、8個をサンプリングしてC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0033】
比較例2
製粉前合金粉末を700kg準備し、従来の装置を用い、製粉後の合金粉末を合金粉末タンクに投入し、潤滑剤と1.5時間プレ混合し、その後合金粉末をV字形ミキサーに投入して4時間混合した。その後のプレス成型において、8個をサンプリングしてC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0034】
比較例3
製粉前合金粉末を700kg準備し、従来の装置を用い、製粉後の合金粉末を合金粉末タンクに投入し、潤滑剤と1.5時間プレ混合し、その後合金粉末をV字形ミキサーに投入して4時間混合し、磁場配向プレス成型及び焼結した。焼結炉から取り出し、炉内の上中下3層のコーナー部及び辺部の中心及び炉の中心(立方体の頂点、辺の中心及び中心)から13個をサンプリングしてC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0035】
比較例4
製粉前合金粉末を700kg準備し、従来の装置を用い、製粉後の合金粉末を合金粉末タンクに投入し、潤滑剤と1.5時間プレ混合し、その後合金粉末をV字形ミキサーに投入して4時間混合し、磁場配向プレス成型及び焼結した。焼結炉から出し、
図3に示すように、素地単体の中心部分のみを立方体に切り出し、当該立方体を上から下へと11個にスライスし、上下の2枚を除いた9個(内部にある9枚)のC含有量を測定し、その偏差を算出した。
【0036】
以上の実施例1~実施例4及び比較例1~比較例4におけるC含有量の測定結果、及びその偏差を算出した結果を、以下の表1~表5に示す。
【0037】
<表1>
表1は、実施例1及び比較例1の製粉工程においてサンプリングした各8個のサンプルにおけるC含有量の測定結果である。
【0038】
<表2>
表2は、実施例2及び比較例2のプレス成型後にサンプリングした各8個のサンプルにおけるC含有量の測定結果である。
【0039】
<表3>
表3は、実施例3及び比較例3の焼結炉内の上中下3層のコーナー部及び辺部の中心及び炉の中心(立方体の頂点、辺の中心及び中心)からサンプリングした各13個の素地におけるC含有量の測定結果である。
【0040】
<表4>
表4は、実施例4及び比較例4の焼結炉から取り出した後、
図3に示すように素地単体を上から下へとスライスした各9個のサンプルにおけるC含有量の測定結果である。
【0041】
<表5>
上記各実施例及び各比較例のC含有量に関する偏差を算出した結果を表5に示す。
【0042】
実施例1と比較例1とを対比する。製粉前混合工程において、同一ロットの潤滑剤を噴霧し、混合時間が同一である場合、比較例1のC含有量の標準偏差は11ppmであり、極差は30ppmであったが、実施例1ではそれぞれ7ppmと23ppmであった。実施例1は偏差が小さく、より均一であることが分かる。更に、従来の均一性を維持すればよい場合、混合時間を減らして、生産周期をより短縮することができる。
【0043】
実施例2と比較例2とを対比する。製粉後混合工程において、本発明の装置及び方法によればV字形ミキサーの投入口に同一ロットの潤滑剤を噴霧することにより一回目の混合工程を省略でき、且つ最終的に混合したC含有量の標準偏差及び極差は、それぞれ17ppmと48ppmであり、比較例2の48ppm、147ppmよりも明らかに優れており、作業員の操作工程が減り生産周期が短縮されるだけでなく、混合の均一性も向上したことが分かる。
【0044】
実施例3と比較例3、実施例4と比較例4とをそれぞれ対比する。本発明の装置及び方法を用いて作成した合金粉末をプレス成型及び焼結して得られたNd-Fe-B系焼結磁性体は、磁性体素地単体内のC含有量の均一性及び炉全体におけるC含有量の均一性は、いずれも従来の工程によって得られた磁性体よりも優れており、均一性が良好な磁性体を製造することができる。
【0045】
その他、生産した磁性体の歩留まりを算定したところ、合金粉末の酸化による磁性体45内の異物不良は、本発明によって0.15%から0.07%に減少した。
【0046】
以上のとおり、本発明の装置及び方法によれば、Nd-Fe-B系合金粉末と添加剤とを混合する工程において、添加口から合金粉末が離れており、接触しない。且つ、連結部に空気置換プロセスを導入することで、合金粉末の酸化による磁気特性及び力学的性能の低下を防ぎ、完成した磁性体の歩留まりを高めると共に、合金粉末が添加口及び噴霧ノズルヘッドを塞がず、清掃・メンテナンスが容易で、添加剤の残留を減少させることができる。また、合金粉末と添加剤との混合の均一性は従来の添加方法よりも高く、合金粉末のC含有量偏差は小さく、完成した磁性体のC含有量の均一性が高いことから、安定したNd-Fe-B系焼結磁性体を製造することができ、且つ製粉後混合の後に従来2回行っていた混合工程を1回の混合とすることができるため、生産時間を短縮することができる。
【0047】
上記した各実施例は、本発明の具体的な実施方法を説明するためにのみ使用されるものであり、本発明を限定するものではない。本発明の技術思想に基づいて行われるいかなる修正、置換等も本発明の保護範囲内に属する。
【符号の説明】
【0048】
1 添加剤貯蔵タンク
2 添加剤計量タンク
3 制御装置
4 連結パイプ
5 ブラインドフランジ
5-1 置換開口
5-2 第3バルブ
6 合金粉末容器
7 クランプ
8 フレキシブルチューブ
8-1 第1スリーブ
8-2 第2スリーブ
9 濾過フィルタ
10 第1電磁弁
11 第2電磁弁
12 計量センサ
13 第3電磁弁
14 第4電磁弁
15 第5電磁弁
16 ハンドル
17 コネクタ
18 管路
19 噴霧ノズルヘッド
20 合金粉末容器開口
21 バタフライ弁