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特許7280019単糖および二糖の含量が低減された糖組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】単糖および二糖の含量が低減された糖組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 3/06 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
C07H3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018097382
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019202944
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】相沢 健太
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-332277(JP,A)
【文献】特開平08-140691(JP,A)
【文献】特開昭59-095895(JP,A)
【文献】特開昭63-002997(JP,A)
【文献】特開平07-196703(JP,A)
【文献】特開昭62-014792(JP,A)
【文献】特開2013-005793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糖、マルトースを含む二糖およびマルトトリオースを含む三糖以上の糖質を含有する糖組成物を原料とし、
(A)二糖の加水分解活性を100%とした場合に、三糖に対する相対加水分解活性が8%以下であるα-グルコシダーゼを前記糖組成物に作用させて該糖組成物原料中の二糖を単糖に加水分解する工程と、
(B)前記糖組成物中の単糖に糖酸化酵素を作用させて単糖を糖酸に変換する工程と、
(C)前記糖組成物中から前記糖酸を除去して、前記糖組成物中の単糖および二糖の含量が6質量%以下に低減された糖組成物を得る工程とを含み、
前記(A)工程と、前記(B)工程とを、順次又は同時に行い、次いで前記(C)工程を行うことを特徴とする糖組成物の製造方法。
【請求項2】
原料となる前記糖組成物が、グルコース、マルトースおよび重合度3以上のマルトオリゴ糖を含有する澱粉分解物である、請求項1に記載の糖組成物の製造方法。
【請求項3】
前記糖加水分解酵素が、ハロモナス(Halomonas)属細菌由来である、請求項1又は2に記載の糖組成物の製造方法。
【請求項4】
前記糖酸化酵素が、グルコースオキシダーゼである、請求項1~3のいずれか1項に記載の糖組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単糖および二糖の含量が低減された糖組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「糖類」とは、栄養表示基準(厚生労働省告示第176号)に定義された単糖および二糖(糖アルコールは除く)の総称である。近年の健康志向の高まりにより飲食品において糖類は敬遠される傾向にあり、例えば飲料においては「糖類オフ」「糖類ゼロ」と表示されたものが人気である。すなわち、飲食品の甘味料・呈味改善剤・物性改善剤として用いられることの多い糖質素材(糖組成物)においては、糖類含量の低減されたもののニーズが高まっている。
【0003】
糖組成物において糖類を除去する方法としては、樹脂分画装置などの分画設備による分画処理あるいは酵母など微生物による資化処理が考えられる。しかし、分画処理を行う場合は、設備投資が必要であるという問題点がある。微生物による資化処理を行う場合は、代謝産物により糖組成物の味質の変容が生じさらに微生物除去のための専用設備が必要であるという問題がある。加えて、微生物による資化処理は、糖組成物中の糖類以外の糖質、すなわち三糖以上の糖質もある程度除去してしまう可能性が高く、最終的な歩留まりが低下することからも好ましくない。
【0004】
一方、糖組成物中のグルコースをグルコースオキシダーゼによりグルコン酸に変換し除去する技術も知られている。例えば、特許文献1には、マルトオリゴ糖液に糖ラセミ化酵素および糖酸化酵素を作用させてグルコースをグルコン酸に変換し、次いでイオン交換樹脂に接触させるグルコースの除去方法が記載されている。しかし、上記手法は、グルコースを除去することはできるが、二糖であるマルトースを十分に除去することは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-2997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、副産物を生成することなく効率的に糖類(単糖および二糖)を除去可能な糖組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的達成のため、鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、単糖、二糖および三糖以上の糖質を含有する糖組成物を原料とし、
(A)三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素を前記糖組成物に作用させて該糖組成物原料中の二糖を単糖に加水分解する工程と、
(B)前記糖組成物中の単糖に糖酸化酵素を作用させて単糖を糖酸に変換する工程と、
(C)前記糖組成物中から前記糖酸を除去して、前記糖組成物中の単糖および二糖の含量が低減された糖組成物を得る工程とを含み、
前記(A)工程と、前記(B)工程とを、順次又は同時に行い、次いで前記(C)工程を行うことを特徴とする糖組成物の製造方法を提供する。
【0008】
本発明においては、原料となる前記糖組成物が、グルコース、マルトースおよび重合度3以上のマルトオリゴ糖を含有する澱粉分解物であることが好ましい。
【0009】
また、前記糖加水分解酵素が、α-グルコシダーゼであることが好ましい。
【0010】
また、前記糖加水分解酵素が、ハロモナス(Halomonas)属細菌由来であることが好ましい。
【0011】
更に、前記糖酸化酵素が、グルコースオキシダーゼであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、単糖、二糖および三糖以上の糖質を含有する糖組成物に、三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素を作用させることにより、二糖を単糖に加水分解することができる。また、糖組成物中の単糖に糖酸化酵素を作用させることにより、単糖を糖酸に変換することができる。こうして、糖組成物中の単糖及び二糖を糖酸に変換することにより、例えばイオン交換樹脂などを利用して、糖組成物から糖酸を選択的に除去することができるので、一般的な糖化品製造設備を用いて副産物を生成することなく、単糖および二糖の含量が低減された糖組成物を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、単糖、二糖および三糖以上の糖質を含有する糖組成物を原料とし、(A)三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素を前記糖組成物に作用させて該糖組成物中の二糖を単糖に加水分解する工程と、(B)前記糖組成物中の単糖に糖酸化酵素を作用させて単糖を糖酸に変換する工程と、(C)前記糖組成物中から前記糖酸を除去して、前記糖組成物中の単糖および二糖の含量が低減された糖組成物を得る工程とを含む、単糖および二糖の含量が低減された糖組成物の製造方法である。
【0014】
本発明の原料となる糖組成物は、単糖、二糖および三糖以上の糖質を含有する糖組成物であれば特に制限はないが、入手のし易さや、味、コスト等の点から、例えば澱粉分解物を好適に用いることができる。澱粉分解物は、澱粉を酸および/または酵素により適宜加水分解したものであり、その分解度合いや性状により、デキストリン、マルトデキストリン、水あめ、粉あめなどと称される。なお、本発明における澱粉分解物は、α-グルコシダーゼ等の糖転移酵素を作用させて分岐構造を導入した澱粉分解物(分岐デキストリン、イソマルトオリゴ糖など)も含む。澱粉分解物の場合、単糖としてグルコース、二糖としてマルトース、三糖以上の糖質としてマルトオリゴ糖等を含有している。澱粉分解物の性状は、特に制限はなく、例えば粉末状やシラップ状のものを用いることができるが、本発明の製造方法は、酵素を用いて行うため、溶解の手間が掛からないシラップ(水溶液)状のものを用いるのが好ましい。
【0015】
本発明の原料となる糖組成物は、その糖組成に特に制限はないが、例えば単糖を1~30%、好ましくは単糖を2~20%、より好ましくは単糖を3~10%含有し、二糖を1~30%、好ましくは二糖を2~20%、より好ましくは二糖を3~10%含有するものを用いることができる。なお、本発明において、糖組成の「%」は、全て固形分当たりの質量%を意味する。
【0016】
本発明の製造方法においては、原料糖質である糖組成物に対し、(A)三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素を作用させ、原料中の二糖を単糖に加水分解する工程(以下、(A)工程と記載する場合がある)を実施する。
上記(A)工程においては、糖組成物中の二糖以外すなわち三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素を用いる。当該酵素を用いることにより、糖組成物中の三糖以上の糖質含量を大きく低下させることなく二糖を特異的に単糖へ分解することができる。
【0017】
なお、本発明において、「三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない」とは、二糖の加水分解活性を100%とした場合に、三糖に対する相対加水分解活性が30%以下であることを意味する。三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素の前記三糖に対する相対加水分解活性は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましく、8%以下であることが最も好ましい。
【0018】
また、上記二糖はマルトースであることが好ましく、上記三糖はマルトトリオースであることが好ましい。さらに、本発明の効果を考慮すると、二糖の加水分解活性を100%とした場合に、三糖および四糖に対する相対加水分解活性が上記範囲であることが好ましく、三糖、四糖および五糖に対する相対加水分解活性が上記範囲であることがより好ましく、三糖、四糖、五糖および六糖に対する相対加水分解活性が上記範囲であることが特に好ましい。さらに、上記四糖はマルトテトラオースであることが好ましく、上記五糖はマルトペンタオースであることが好ましく、上記六糖はマルトヘキサオースであることが好ましい。
【0019】
本発明に用いる糖加水分解酵素としては、上記性質を有したものであれば特に制限はないが、例えばα-グルコシダーゼを用いることができ、好ましくはHalomonas属細菌由来のα-グルコシダーゼを用いることができ、より好ましくは特開2013-005793号公報に記載された菌株(Halomonas sp.A8株、Halomonas sp.A10株およびHalomonas sp.H11株)由来のα-グルコシダーゼを用いることができる。
【0020】
上記Halomonas sp. A8株は、平成23年5月2日付けで、受託番号NITE P-1096で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。上記Halomonas sp. A10株は、平成23年5月2日付けで、受託番号NITE P-1097で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。上記Halomonas sp. H11株は、平成23年5月2日付けで、受託番号NITE P-1098で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0021】
特開2013-005793号公報に記載されているように、Halomonas sp.H11株およびHalomonas sp.A8株由来のα-グルコシダーゼは、マルトースの加水分解活性を100%とした場合のマルトトリオースに対する相対加水分解活性がそれぞれ5.3%および6.6%である。
【0022】
また、三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素としては、特開2001-46096号公報に記載されたXanthomonas campestris WU-9701株(FERM BP-6578)由来のα-グルコシダーゼを用いることもできる。特開2001-46096号公報に記載されているように、当該酵素はマルトースの加水分解活性を100%とした場合のマルトトリオースに対する相対加水分解活性が3%である。なお、上記公報には、当該酵素のN末端アミノ酸配列が記載されている。
【0023】
上記(A)工程は、用いる糖加水分解酵素の性質により、糖組成物溶液の基質濃度、反応温度、反応時間、反応pH、酵素添加量などの反応条件を適宜設定することができる。上記反応条件は、例えば、二糖含量が7%以下となるように行うことができ、4%以下となるように行うのが好ましく、2%以下となるように行うのがより好ましく、1%以下となるように行うのが特に好ましく、0.5%以下となるように行うのが最も好ましい。
【0024】
上記(A)工程の反応条件は、上述したように用いる糖加水分解酵素の性質により、適宜設定することができるが、通常、糖組成物溶液の基質濃度(糖組成物全体の濃度)は1~50質量%が好ましく、反応温度は4~80℃が好ましく、反応時間は1~120時間が好ましく、反応pHは4~8が好ましい。また、酵素添加量は、使用酵素の力価によって適宜定めればよいが、例えば0.01~100mg/g-dsが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法においては、原料糖質である糖組成物中に元々含まれる単糖及び上記(A)工程で生じた単糖に対し、(B)糖酸化酵素を作用させて単糖を糖酸に変換する工程(以下、(B)工程と記載する場合がある)を実施する。
【0026】
上記(B)工程においては、糖組成物中の単糖を糖酸に変換する酵素を用いる。当該酵素を用いることにより、糖組成物中の単糖を除去しやすい形に変換することができる。当該酵素としては、グルコースオキシダーゼを用いるのが好ましい。原料糖質として澱粉分解物を用いた場合、グルコースオキシダーゼを用いることで、原料糖質である糖組成物中に元々含まれる単糖及び(A)工程で生じた単糖であるグルコースを、グルコン酸に変換することができる。グルコースオキシダーゼの反応効率を考慮すると、当該工程は酸素を通気しながら実施するのが好ましい。なお、グルコースオキシダーゼの働きにより過酸化水素が副生するため、(B)工程においてはグルコースオキシダーゼと共にカタラーゼを作用させるのが好ましい。また、特開昭63-2997公報に記載されているように、グルコースオキシダーゼ等の糖酸化酵素を作用させる前又は同時に、糖ラセミ化酵素を作用させてもよい。
【0027】
上記(B)工程は、用いる糖酸化酵素の性質により、糖組成物溶液の基質濃度、反応温度、反応時間、反応pH、酵素添加量などを適宜設定することが出来る。上記反応条件は、例えば、単糖含量が7%以下となるように行うことができ、4%以下となるように行うのが好ましく、2%以下となるように行うのがより好ましく、1%以下となるように行うのが特に好ましく、0.5%以下となるように行うのが最も好ましい。
【0028】
上記(B)工程の反応条件は、上述したように用いる糖酸化酵素の性質により、適宜設定することができるが、通常、糖組成物溶液の基質濃度(糖組成物全体の濃度)は1~50質量%が好ましく、反応温度は30~80℃が好ましく、反応時間は1~120時間が好ましく、反応pHは4~8が好ましい。また、酵素添加量は、使用酵素の力価によって適宜定めればよいが、例えば0.01~100mg/g-dsが好ましい。
【0029】
なお、上記(B)工程は、(A)工程の後に実施しても良く、(A)工程と同時に実施しても良い。作業効率を考慮すると、(A)工程と(B)工程とを同時に行うことが好ましい。(A)工程と(B)工程とを同時に行う場合には、(A)工程で採用する三糖以上の糖質を実質的に加水分解しない糖加水分解酵素と、(B)工程で採用する糖酸化酵素の両方の酵素活性が良好に得られる反応条件で行えばよい。
【0030】
本発明の製造方法においては、上記(B)工程で生じた糖酸(グルコン酸など)に対し、(C)糖酸を除去する工程(以下、(C)工程と記載する場合がある)を実施する。上記の(C)工程においては、糖酸を除去できる工程であれば特に制限はなく、例えばイオン交換樹脂による処理、電気透析膜による処理などが挙げられる。糖化品の精製工程として一般的に使用されており、既存設備を利用できる点からイオン交換樹脂による処理が好ましい。その処理条件も特に制限はなく、例えば、糖酸含量が7%以下となるように行うことができ、4%以下となるように行うのが好ましく、2%以下となるように行うのがより好ましく、1%以下となるように行うのが特に好ましく、0.5%以下となるように行うのが最も好ましい。なお、イオン交換樹脂を用いる場合は、糖酸の除去だけを考えるとアニオン交換樹脂のみと接触させれば良いが、その他のイオン性物質も除去することを考えると、更にカチオン交換樹脂と接触させてもよく、あるいはアニオンとカチオンの混合樹脂と接触させてもよい。
【0031】
こうして得られた本発明の糖組成物は、二糖及び単糖の含有量が、6%以下となることができ、好ましくは3%以下とされ、より好ましくは1%以下とされ、最も好ましくは0.5%以下とされる。
【0032】
本発明の糖組成物は、例えば、糖類オフ、糖類ゼロ等のように糖類含量を規定している、あるいは甘味は不要だがコクやボディー感を必要としている、または甘味は不要だが高い固形分を必要としている飲食品に利用することができ、その効果を考慮すると、特に飲料に利用するのが好ましい。飲料としては、例えば、ビールテイストアルコール飲料、ビールテイストノンアルコール飲料、チューハイ、ノンアルコールチューハイ、カクテル、ノンアルコールカクテル、果実酒、ノンアルコール果実酒、ワイン、ノンアルコールワイン、清酒、ノンアルコール清酒、炭酸飲料、果汁飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク、茶系飲料、乳性飲料、フレーバーウォーターなどが挙げられる。
【実施例
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。糖組成物中の糖組成(各糖質の含有割合)値(%)は、固形分当たりの質量%を意味する。
【0034】
試験例1(実施例1、比較例1)
単糖(グルコース)1.1%、二糖(マルトース)5.5%を含有する澱粉分解物(商品名「フジオリゴ#450」、日本食品化工社製)を原料として、基質濃度(澱粉分解物全体の濃度)5質量%の水溶液を調整した。
【0035】
実施例1では、三糖以上の糖質を実質的に加水分解しないα-グルコシダーゼとして、特開2013-005793号公報に記載されたHalomonas sp.H11株由来のものを用い、上記澱粉分解物含有水溶液に、同酵素を1U/g-ds添加した。なお、同酵素の力価は、特開2013-005793号公報に記載された測定方法で定義される。すなわち、0.2w/v%マルトースを基質として、pH7(0.04mol/L HEPES)、30℃、100μlの系にて10分間の酵素反応後、2mol/LのTris-HCl(pH7)を200μl添加することにより酵素反応を終了させ、そこに、「グルコースC IIテストワコー」(商品名、和光純薬製)を100μl添加し37℃で30分間インキュベートする。波長490nmの吸光度を測定することにより、生じたグルコース量を算出する。上記条件にて1分間に1μmolのマルトースを加水分解する酵素量を1Uと定義する。なお、実施例1では、α-グルコシダーゼの活性化剤として、硫酸アンモニウムを10mMとなるように添加した。
【0036】
一方、比較例1では、三糖以上の糖質も加水分解する傾向のある、通常のα-グルコシダーゼ製剤(商品名:トランスグルコシダーゼL「アマノ」、アマノエンザイム社製)を用い、上記澱粉分解物含有水溶液に、同酵素を2mg/g-ds添加した。
【0037】
また、実施例1および比較例1のいずれにおいても、上記澱粉分解物含有水溶液に、上記α-グルコシダーゼの他に、本発明における糖酸化酵素として、グルコースオキシダーゼを15U/g-ds添加した(酵素の力価は商品パンフレットの記載に基づく)。グルコースオキシダーゼは、市販の酵素製剤(商品名:ハイデラーゼ15、アマノエンザイム社製)を用いた。なお、当該酵素製剤は、グルコースオキシダーゼに加えカタラーゼも含むものである。
【0038】
実施例1および比較例1のそれぞれにおいて、上記澱粉分解物含有水溶液に、α-グルコシダーゼおよびグルコースオキシダーゼを添加した後、pH7(100mMリン酸ナトリウム)、30℃の条件で一定時間反応させた。反応時はポンプ(205S、ワトソン・マーロー社)により反応液中に空気を送り込んだ。
【0039】
上記反応の後、反応溶液をイオン交換樹脂(商品名:MB-4、オルガノ社製)に通して、グルコン酸を除去し、糖組成物を得た。
反応前の原料糖質および得られた糖組成物の糖組成を表1に示した。また、サンプルのHPLC分析における全ピーク面積を反応前のサンプルの全ピーク面積で除し、100を乗じて算出した基質残存率(%)を同様に表1に示した。
【0040】
なお、糖組成物の糖組成は、下記条件のHPLC分析により算出した。
カラム:MCI GEL CK04S
溶離液:超純水
流速:0.4ml/分
温度:70℃
検出器:示差屈折率検出器
分析時間:35分
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示されるように、実施例1では反応前に6.6%だった糖類(単糖(DP1、グルコース)、二糖(DP2、マルトース))が、22時間反応させることで0.5%まで減少した。一方、比較例1では基質残存率は実施例と同等であり、グルコースオキシダーゼによる糖酸の生成は実施例と同速度で進行したことがわかる。しかし、比較例1では反応22時間後の単糖は0.3%と減少したものの、二糖含量は増加しており、糖類を効果的に除去することはできなかった。
【0043】
試験例2(実施例2、比較例2)
単糖(グルコース)1.1%、二糖(マルトース)5.5%を含有する澱粉分解物(商品名「フジオリゴ#450」、日本食品化工社製)を原料として、基質濃度(澱粉分解物全体の濃度)5質量%の水溶液を調整した。
実施例2では、三糖以上の糖質を実質的に加水分解しないα-グルコシダーゼとして、特開2013-005793号公報に記載されたHalomonas sp.H11株由来のものを用い、上記澱粉分解物含有水溶液に、同酵素を2U/g-ds添加した。なお、実施例2では、α-グルコシダーゼの活性化剤として、硫酸アンモニウムを10mMとなるように添加した。一方、比較例2では、三糖以上の糖質も加水分解する傾向のある、通常のα-グルコシダーゼ製剤(商品名:トランスグルコシダーゼL「アマノ」、アマノエンザイム社製)を用い、上記澱粉分解物含有水溶液に、同酵素を4mg/g-ds添加した。それぞれの反応液をpH7(100mMリン酸ナトリウム)、30℃の条件で一定時間反応させた。適宜、実施例1と同様の方法で糖組成を算出した。その結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
その結果、実施例2では反応22時間で三糖(DP3)以上の組成がほとんど変化することなく、二糖(DP2)が0.2%に減少した。一方、比較例2では反応の進行と共に四糖(DP4)以上が減少し、三糖(DP3)以下はいずれも増加した。
【0046】
実施例2の反応22時間の反応液を10分間沸騰水中で保持し、酵素を失活させた。冷却後、グルコースオキシダーゼ(商品名:ハイデラーゼ15、アマノエンザイム社製)を15U/g-ds添加し、30℃の条件で一定時間反応させた。反応時はポンプ(205S、ワトソン・マーロー社)により反応液中に空気を送り込んだ。上記反応の後、反応溶液をイオン交換樹脂(商品名:MB-4、オルガノ社製)に通して、グルコン酸を除去し、糖組成物を得た。
【0047】
反応前の原料糖質および得られた糖組成物の糖組成及び基質残存率を、試験例1と同様の方法で測定し、算出した。その結果を表3に示す。表3に示されるように、反応24時間で単糖(DP1)は0%となり、糖類含量は0.3%となった。
【0048】
【表3】