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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】安全キャビネット
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230516BHJP
   B01L 1/00 20060101ALI20230516BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20230516BHJP
   F24F 13/12 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C12M1/00 K
B01L1/00 C
F24F7/06 C
F24F13/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019053539
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020150876
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100097319
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100151002
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 剛之
(74)【代理人】
【識別番号】100201673
【弁理士】
【氏名又は名称】河田 良夫
(72)【発明者】
【氏名】中澤 賢
(72)【発明者】
【氏名】中岡 将士
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532434(JP,A)
【文献】特開2016-035340(JP,A)
【文献】国際公開第2018/073995(WO,A1)
【文献】特開2007-255854(JP,A)
【文献】中国実用新案第205146255(CN,U)
【文献】特開平01-285185(JP,A)
【文献】実開昭56-047741(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-42
B01L 1/00-04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が培養される培養容器が少なくとも載置される載置台と、該載置台の上部に設けられる作業空間と、を有するキャビネット本体と、
前記キャビネット本体の上部に配置され、循環される空気を前記作業空間に向けて送り出す送風手段と、
前記送風手段から送り出された空気を浄化する浄化手段と、
前記送風手段と前記浄化手段との間の空間に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加熱する加熱手段と、
前記キャビネット本体に設けられ、前記作業空間に前記培養容器を出し入れする開口と、
前記開口の一部を遮蔽するように引き出され、少なくとも前記培養容器などの出し入れ時以外は開口面積を最小にして一次隔離機能を維持する上下可動のシャッタと、
前記載置台に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込むとともに、前記シャッタと前記開口との間の隙間から周囲環境であるクリーンルームの空気を前記作業空間の前記キャビネット本体の前面側に入り込む空気として吸い込む第1の吸気口と、
前記第1の吸気口とは異なる前記キャビネット本体の背面側に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込む第2の吸気口と、
前記第1の吸気口及び前記第2の吸気口の各々から吸い込まれた空気を合流させて、前記キャビネット本体の上部に送り出す循環路と、
前記循環路に設けられ、前記第1の吸気口及び前記第2の吸気口から吸い込まれた空気を合流させたのち前記周囲環境である前記クリーンルームの空気温度まで冷却する冷却手段と、
を有し、
前記加熱手段は、前記空間の一部で前記キャビネット本体の背面側を被覆するように配置され、
前記浄化手段は、前記送風手段から直接送り出された空気と、前記加熱手段によって加熱された空気とを個別に浄化することで、
前記作業空間のうち前記キャビネット本体の背面側にある領域(A)ではインキュベータ内の温度に合わせて空気を送り出し、前記作業空間のうち前記キャビネット本体の前面側では前記第1の吸気口から入り込む空気と同じ温度で空気を送り出す
ことを特徴とする安全キャビネット。
【請求項2】
請求項に記載の安全キャビネットにおいて、
前記循環路を流れる空気の一部を外部に向けて送り出す排気送風手段と、
前記排気送風手段により送り出された空気を浄化する排気浄化手段と、
を有することを特徴とする安全キャビネット。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の安全キャビネットにおいて、
前記加熱手段の上流側に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加湿する加湿手段を有することを特徴とする安全キャビネット。
【請求項4】
細胞が培養される培養容器が少なくとも載置される載置台と、該載置台の上部に設けられる作業空間と、を有するキャビネット本体と、
前記キャビネット本体の上部に配置され、循環される空気を前記作業空間に向けて送り出す送風手段と、
前記送風手段から送り出された空気を浄化する浄化手段と、
前記送風手段と前記浄化手段との間の空間に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加熱する加熱手段と、
前記キャビネット本体に設けられ、前記作業空間に前記培養容器を出し入れする開口と、
前記開口の一部を遮蔽するように引き出され、少なくとも前記培養容器などの出し入れ時以外は開口面積を最小にして一次隔離機能を維持する上下可動のシャッタと、
前記載置台に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込むとともに、前記シャッタと前記開口との間の隙間から周囲環境であるクリーンルームの空気を前記作業空間の前記キャビネット本体の前面側に入り込む空気として吸い込む第1の吸気口と、
前記第1の吸気口とは異なる前記キャビネット本体の背面側に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込む第2の吸気口と、
前記第1の吸気口から吸い込まれた空気を、前記キャビネット本体の前面側の上部に送り出す第1の循環路と、
前記第2の吸気口から吸い込まれた空気を、前記キャビネット本体の背面側の上部に送り出すとともに、前記加熱手段が前記空間の一部で前記キャビネット本体の背面側を被覆するように配置される第2の循環路と、
を有し、
前記送風手段は、前記第1の循環路及び前記第2の循環路の各々に配置されることで、
前記作業空間のうち前記キャビネット本体の背面側にある領域(A1)ではインキュベータ内の温度に合わせて空気を送り出し、前記作業空間のうち前記キャビネット本体の前面側では前記第1の吸気口から入り込む空気と同じ温度で空気を送り出す
ことを特徴とする安全キャビネット。
【請求項5】
請求項に記載の安全キャビネットにおいて、
前記第の循環路に配置される前記加熱手段の上流側に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加湿する加湿手段を有することを特徴とする安全キャビネット。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の安全キャビネットにおいて、
前記第1の循環路によって前記キャビネット本体の上部に送り出される空気の一部を外部に向けて送り出す排気送風手段と、
前記排気送風手段により送り出された空気を浄化する排気浄化手段と、
を有することを特徴とする安全キャビネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の研究や再生医療の分野において、培養する細胞である試料を安全に取り扱うための安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品の研究や再生医療の分野では、細胞の培養などを試料として操作し研究したり、それを発展して試料の培養をシステマティックに行い、例えば幹細胞からの組織再生などの事業化を行うため、清浄環境下に管理された実験室(クリーンルーム)内に設置された安全キャビネットを用いて、上記の目的のため試料となる細胞の培地交換や、細胞コロニーへのピペット攪拌操作などの加工作業を行っている。
【0003】
再生医療の再生組織製品製造や細胞加工では、作業者の安全確保、作業者などからの汚染防止、細胞への微生物汚染の防止、作業の効率などから、細胞への操作などは無菌的操作装置である安全キャビネットの中で行われる。
【0004】
安全キャビネットは、病原体などの取り扱い時に発生する汚染エアロゾルから作業者を保護する一次隔離を目的として使用されるもので、キャビネット本体に設けた作業空間で発生する汚染エアロゾルを該作業空間に連通する連通路(ダクト)に引き込むことで、作業空間の内部を負圧にし、該作業空間の前面に設けた開閉扉の開口部から作業空間の内部に外部の空気(クリーンルーム内の空気)を流入させることで該開口部から外部への汚染エアロゾルの漏洩を防止する機能を有している。また、安全キャビネットでは、作業空間からダクト内に引き込まれた汚染エアロゾルを、例えばHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)を用いて無菌・清浄化し、無菌・清浄化した清浄な空気を安全キャビネットの外部に排気する機能や、これら機能に加えて、さらに、無菌・清浄化した清浄な空気を安全キャビネットの内部で循環させる機能を有している(例えば特許文献1参照)。安全キャビネットが上述した機能を有することで、上記一次隔離だけでなく、クリーンルーム内の汚染をも防止することができる。細胞培養操作では、この安全キャビネットの一次隔離性能を活用して、作業空間での操作環境と安全キャビネット外部環境との間において、HEPAフィルタによるろ過での無菌清浄化によるエアロゾル隔離を行い、作業空間内の培養する細胞を保護している。
【0005】
安全キャビネットはクラスI~IIIに分類され、クラスIは作業者の安全対策のみを目的とし、クラスIIIは病原微生物体分類基準による危険度4など高度な危険性のある微生物を扱う作業を目的としていて細胞培養には向かない。クラスIIの安全キャビネットは、作業者の保護と作業区域へ異物混入や微生物汚染の防止及び試料間の混合を防止する目的を持つ無菌の層流式半循環型で、細胞培養にはもっぱらこのクラスが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3369662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、上記の培地交換や細胞への加工作業(以下、作業と称する。)を行う対象となる細胞は、培地と共に培養容器に内包された状態で、通常、細胞の生育に適した環境下(例えば温度37℃、湿度95%等)に管理されたインキュベータ内で培養される。培養には日単位のスパンで培養容器をインキュベータ内に安置し、細胞の生育を進めている。
例えば上記作業は、複数の培養容器をインキュベータから安全キャビネットの作業空間に移し替えた後、各培養容器に対して実施される。ここで、安全キャビネットの作業空間は、例えば、作業者が快適と感じるようなクリーンルームとほぼ同一の環境下(温度22℃、湿度55%等)となる。これは、安全キャビネットに温度調整機構は備えられていないため、周囲環境であるクリーンルームの空気を外部空気として取り入れて循環している理由による。したがって、インキュベータから安全キャビネットの作業空間に移し替えられたときには、培養容器内の細胞は、インキュベータ内の環境と安全キャビネットの作業空間の温度環境との差に起因したストレス(ヒートショックストレス)を受ける。ヒートショックストレスは細胞の品質に影響を与える可能性が高いと言われていることから、ヒートショックストレスを低減する技術への要求が高まっている。
【0008】
本発明は、細胞が受けるヒートショックストレスを低減することができるようにした安全キャビネットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明の安全キャビネットは、細胞が培養される培養容器が少なくとも載置される載置台と、該載置台の上部に設けられる作業空間と、を有するキャビネット本体と、前記キャビネット本体の上部に配置され、循環される空気を前記作業空間に向けて送り出す送風手段と、前記送風手段から送り出された空気を浄化する浄化手段と、前記送風手段と前記浄化手段との間の空間に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加熱する加熱手段と、前記キャビネット本体に設けられ、前記作業空間に前記培養容器を出し入れする開口と、前記開口の一部を遮蔽するように引き出され、少なくとも前記培養容器などの出し入れ時以外は開口面積を最小にして一次隔離機能を維持する上下可動のシャッタと、前記載置台に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込むとともに、前記シャッタと前記開口との間の隙間から周囲環境であるクリーンルームの空気を前記作業空間の前記キャビネット本体の前面側に入り込む空気として吸い込む第1の吸気口と、前記第1の吸気口とは異なる前記キャビネット本体の背面側に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込む第2の吸気口と、前記第1の吸気口及び前記第2の吸気口の各々から吸い込まれた空気を合流させて、前記キャビネット本体の上部に送り出す循環路と、前記循環路に設けられ、前記第1の吸気口及び前記第2の吸気口から吸い込まれた空気を合流させたのち前記周囲環境である前記クリーンルームの空気温度まで冷却する冷却手段と、を有し、前記加熱手段は、前記空間の一部で前記キャビネット本体の背面側を被覆するように配置され、前記浄化手段は、前記送風手段から直接送り出された空気と、前記加熱手段によって加熱された空気とを個別に浄化することで、前記作業空間のうち前記キャビネット本体の背面側にある領域(A)ではインキュベータ内の温度に合わせて空気を送り出し、前記作業空間のうち前記キャビネット本体の前面側では前記第1の吸気口から入り込む空気と同じ温度で空気を送り出すことを特徴とする。
【0011】
また、前記循環路を流れる空気の一部を外部に向けて送り出す排気送風手段と、前記排気送風手段により送り出された空気を浄化する排気浄化手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、前記加熱手段の上流側に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加湿する加湿手段を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の別態様の安全キャビネットは、細胞が培養される培養容器が少なくとも載置される載置台と、該載置台の上部に設けられる作業空間と、を有するキャビネット本体と、前記キャビネット本体の上部に配置され、循環される空気を前記作業空間に向けて送り出す送風手段と、前記送風手段から送り出された空気を浄化する浄化手段と、前記送風手段と前記浄化手段との間の空間に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加熱する加熱手段と、前記キャビネット本体に設けられ、前記作業空間に前記培養容器を出し入れする開口と、前記開口の一部を遮蔽するように引き出され、少なくとも前記培養容器などの出し入れ時以外は開口面積を最小にして一次隔離機能を維持する上下可動のシャッタと、前記載置台に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込むとともに、前記シャッタと前記開口との間の隙間から周囲環境であるクリーンルームの空気を前記作業空間の前記キャビネット本体の前面側に入り込む空気として入り込む空気を吸い込む第1の吸気口と、前記第1の吸気口とは異なる前記キャビネット本体の背面側に設けられ、前記作業空間の空気を吸い込む第2の吸気口と、前記第1の吸気口から吸い込まれた空気を、前記キャビネット本体の前面側の上部に送り出す第1の循環路と、前記第2の吸気口から吸い込まれた空気を、前記キャビネット本体の背面側の上部に送り出すとともに、前記加熱手段が前記空間の一部で前記キャビネット本体の背面側を被覆するように配置される第2の循環路と、を有し、前記送風手段は、前記第1の循環路及び前記第2の循環路の各々に配置されることで、前記作業空間のうち前記キャビネット本体の背面側にある領域(A1)ではインキュベータ内の温度に合わせて空気を送り出し、前記作業空間のうち前記キャビネット本体の前面側では前記第1の吸気口から入り込む空気と同じ温度で空気を送り出すことを特徴とする。
【0017】
また、前記第の循環路に配置される前記加熱手段の上流側に配置され、前記送風手段から送り出された空気を加湿する加湿手段を有することが好ましい。
【0018】
また、前記第1の循環路によって前記キャビネット本体の上部に送り出される空気の一部を外部に向けて送り出す排気送風手段と、前記排気送風手段により送り出された空気を浄化する排気浄化手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞が受けるヒートショックストレスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態の安全キャビネットの外観の一例を示す斜視図である。
図2図1に示す安全キャビネットの内部構成の一例を示す概念図である。
図3】安全キャビネットの電気的構成の一例を示す機能ブロック図である。
図4】第2実施形態の安全キャビネットの内部構成の一例を示す概念図である。
図5】第2実施形態に示す安全キャビネットの電気的構成の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、第1実施形態の安全キャビネットについて、図1及び図2を用いて説明する。安全キャビネット10は、クリーンルームの内部に設置される。安全キャビネット10は、キャビネット本体15が有する作業空間25で、該作業空間25に面する底板(載置台)21に載置された培養容器(図示省略)の培地交換や、培養容器にて培養される細胞に対する加工処理などの作業を行う。作業者は、透明板である前面シャッタ(以下、シャッタと称する)16を介して目視しながら、シャッタ16の下部隙間から差し入れた両手で作業空間25内の培養容器及び操作するピペット類などで培地に対して作業する。
【0022】
図1及び図2に示すように、安全キャビネット10は、キャビネット本体15、シャッタ16を有する。キャビネット本体15は、前面に、作業空間25に連通される開口部15aを有する。シャッタ16は、例えば強化ガラスなど、高い透過性を有する部材である。シャッタ16は、キャビネット本体15の前面側に配置され、キャビネット本体15の上方内部に引き込まれた位置から、例えば作業者の腕を挿入しながら作業者の呼気などに含まれる細菌などの侵入が防止できるように、言い換えると作業面より高い、すなわち気流として上流側からの汚染物質の流入を防止するように、開口部15aの下辺とシャッタ16の下辺との間に空間を空けた位置まで引き出される。シャッタ16は、培養容器内の培地を交換する、培養容器内で培養される細胞の加工作業を行う際に、内在性病原菌を含む細胞の培地などがキャビネット本体15の作業空間25から外部に飛散して、作業者が汚染することも防止する。したがって、作業者は、シャッタ16を引き出したときに、シャッタ16の下方に形成される開口部15aから腕を挿入し、シャッタ16越しで作業空間25の内部を視認しながら、上記作業を行う。つまり、シャッタ16は、引き出されたときに開口部15aにおける開口面積を最小にして、安全キャビネット10の外部の空間に対して、安全キャビネット15の内部に設けた作業空間25の一次隔離機能を維持する。
【0023】
載置台として機能する底板21は、上述した培地交換や細胞の加工処理を行う対象となる培養容器を、直接、あるいは底板21の上方に保持される水平な網上に載置する。底板21は、その下方に配置される電気ヒータ22により加温され、底板21などに載置された培養容器を主に輻射として温める。電気ヒータ22は、例えば加熱コイルである。電気ヒータ22は、温度検出センサ22a(図3参照)を有し、電気ヒータ22の温度が、例えば37℃となるようにして、培養容器の輻射を受ける面がインキュベータ内の温度に限りなく近くなるよう制御される。
【0024】
底板21は、前端縁側に、作業空間25の空気や、開口部15aから作業空間25に流入する空気を吸い込む前部吸気口(第1の吸気口)26を有する。なお、前部吸気口26は、一例として、所定間隔で複数配置されたスリット状の長孔である。開口部15aから流入する空気が前部吸気口26から吸い込まれることで、引き出されたシャッタ16と開口部15aとの間に設けられる空間部分にエアカーテンを形成する。これにより、開口部15aから安全キャビネット10内部へ流入する空気に同伴される塵埃や、そこに付着している雑菌が作業空間25に流入せずに前部吸気口26へ導かれてHEPAフィルタで除去されることとなり、作業空間25の空気は無菌的状態を保たれたまま、前部吸気口26に吸い込まれる。
【0025】
また、底板21の後端縁側に立設される背面板27の下部には、作業空間25の空気を吸い込む後部吸気口(第2の吸気口)28が設けられる。後部吸気口28を設けることで、作業空間25を通過した空気(汚染エアロゾルを含む)は、前部吸気口26だけでなく、後部吸気口28からも吸い込まれる。
【0026】
ここで、キャビネット本体15は、作業空間25に面する底板21の下方、上記背面板27の背面側(作業空間25に対峙する面とは反対側)に空間31,32を有する。これら空間31,32のうち、空間31は、前部吸気口26から吸い込まれた空気をキャビネット本体15の前端側から後端側に向けて移動させるとともに、後部吸気口28から吸い込まれた空気が前部吸気口26から吸い込まれた空気と合流する循環路31となる。また、空間32は、循環路31によってキャビネット本体15の後端側に移動させた空気を、キャビネット本体15の上部に向けて移動させる循環路32となる。
【0027】
これら循環路31,32が連通する箇所(キャビネット本体15の背面側)には、冷却器33が設けられる。冷却器33は、例えば冷却コイルであり、循環路31から循環路32に向けて移動する空気を冷却する。後述するように、小さな容積のキャビネット本体15内に加熱源があり空気の多くの割合が循環するので温度上昇を防止するため、冷却器33は、空気を例えば22℃まで冷却する。
【0028】
キャビネット本体15は、排気用送風機(排気送風手段)35、排気用フィルタ(排気浄化手段)36、循環気用送風機(送風手段)37、加湿器(加湿手段)38、加熱器(加熱手段)39、循環気用フィルタ(浄化手段)40を上部に有する。
【0029】
排気用送風機35は、循環路32によりキャビネット本体15の上方に移動した空気の一部を吸い込み、排気用送風機35の上方に配置された排気用フィルタ36に向けて送り出す。排気用フィルタ36はHEPAフィルタである。排気用フィルタ36は、排気用送風機35から送り出された空気に含まれる細菌、エアロゾルなどを濾過する。排気用フィルタ36を透過した処理済みの空気(以下、浄化済みの空気と称する)は、排気口15bを介して外部に排気される。
【0030】
循環気用送風機37は、循環路32によりキャビネット本体15の上方に移動した空気の一部を吸い込み、循環気用送風機37の下方に配置された循環気用フィルタ40へと送り出す。循環気用フィルタ40は、HEPAフィルタである。循環気用フィルタ40は、循環気用送風機37から送り出された空気に含まれる細菌、エアロゾルなどを、試料を操作する作業空間25の直前で濾過する。循環気用フィルタ40を透過した浄化済みの空気は、上述した作業空間25に送り出される。
【0031】
循環気用送風機37及び循環気用フィルタ40との間の空間41には、加湿器38、加熱器39が配置される。加湿器38は、循環気用送風機37から送り出された空気の一部を加湿する。加湿器38は、キャビネット本体15の外部に沸騰釜を設けたユニット型加湿器などで、ごく低圧の蒸気を噴出するノズル38aを有する。なお、ノズル38aは、循環気用送風機37と加熱器39との間に、上述した背面板27側からキャビネット本体15の前方に向けて突出するように配置される。
【0032】
加熱器39は、例えば温水や蒸気、電熱線を熱媒とする加熱コイルであり、加湿器38によって加湿された空気を例えば40℃まで加熱する。この加熱器39は、循環気用送風機37及び循環気用フィルタ40との間の空間41に配置される。なお、加熱器39は、キャビネット本体15の背面側で、空間41の一部領域(詳細には、キャビネット本体15の後部側領域)を被覆するように、空間41の内部に配置される。したがって、空間41は、キャビネット本体15の前部側領域が、循環気用送風機37からの空気が直接循環気用フィルタに送り込まれる領域、キャビネット本体15の後部側領域が、循環気用送風機37からの空気が加熱器39を介して循環気用フィルタに送り込まれる領域となる。
【0033】
加熱器39と水平に並ぶ空間41内部には、通風抵抗を揃えて循環空気の偏りを防ぐため、パンチング板やプレフィルタなどの抵抗体を備えていると、キャビネット本体15の前部側領域と後部側領域とをそれぞれ通過する循環風量が狙った風量にできる。
【0034】
図3に示すように、安全キャビネット10は、上述した電気ヒータ22、冷却器33、排気用送風機35、循環気用送風機37、加湿器38、加熱器39を有する。また、安全キャビネット10は、湿度検出センサ46、温度検出センサ47、照明灯48、操作パネル50及び制御装置51を有する。
【0035】
湿度検出センサ46は、キャビネット本体15の作業空間25に配置され、循環気用フィルタ40から送り出された浄化済みの空気の湿度を検出する。
【0036】
温度検出センサ47は、キャビネット本体15の作業空間25に配置され、循環気用フィルタ40から送り出される浄化済みの空気の温度を検出する。
【0037】
操作パネル50は、キャビネット本体15の前面上部に設けられる。操作パネル50は、安全キャビネット10の作業空間25における温度、湿度などの環境条件を設定する際に用いられる。この操作パネル50は、表示装置50aを備える。表示装置50aは、設定画面や、環境条件などを表示する。
【0038】
制御装置51は、CPU52及び記憶媒体53を有する。CPU52は、記憶媒体53に記憶された制御プログラム54を実行することで、安全キャビネット10の各部を制御する。CPU52は、操作パネル50からの信号や、湿度検出センサ46、温度検出センサ47からの信号に基づいて、電気ヒータ22、冷却器33や、加湿器38、加熱器39の作動制御を実行する。
【0039】
上述した安全キャビネット10において、キャビネット本体15の上部に設置される排気用送風機35及び循環気用送風機37が作動すると、これら送風機に循環路内部の空気が引き込まれる。
【0040】
その結果、排気用送風機35及び循環気用送風機37が作動すると、作業空間25の空気が前部吸気口26及び後部吸気口28に吸い込まれ、同時に、クリーンルーム等、安全キャビネット10の外部の空気が前部吸気口26に吸い込まれる。クリーンルーム等、安全キャビネット10の外部の空気が前部吸気口26に吸い込まれることで、排気口15bからクリーンルーム、あるいは排気ダクトへ排出された空気の減少分が補填される。
【0041】
前部吸気口26に吸い込まれた空気は、キャビネット本体15の背面側で、後部吸気口28から吸い込まれた空気と合流し、冷却器33により、例えば22℃まで冷却される。冷却器33の冷熱媒の流量調整弁(図示せず)を、循環路32の冷却器33後流に設置した温度センサ(図示せず)の信号により設定値との偏差に応じて制御装置51がPID制御などを行う。なお、冷却器33によって冷却される前の空気は、作業空間25の温湿度環境をインキュベータ内の温湿度環境に近くしているため、また前部側領域を降下した低温空気とも混じるため、例えば33℃から少し温度が下がった30℃である。
【0042】
冷却器33により電気ヒータ22で制御容易でかつ外部の空気の温度と同等まで冷却された空気は、循環路32を、キャビネット本体15の上方に向けて移動する。そして、キャビネット本体15の上方に向けて移動した空気の一部が排気用送風機35に吸い込まれ、残りの空気が循環気用送風機37に吸い込まれる。なお、排気用送風機35に吸い込まれた空気は、排気用フィルタ36を介して排気口15bから、浄化された空気としてクリーンルーム、あるいは排気ダクトに排出される。
【0043】
安全キャビネット10の前面側で循環気用送風機37に吸い込まれた空気は、空間41に送り出された後、循環気用フィルタ40に直接送り込まれる。循環気用フィルタ40に直接送り込まれた空気は、循環気用フィルタ40を介して、浄化済みの空気として作業空間25に送り出される。ここでは前面シャッタ16の下部隙間から流入する外部空気の温度22℃に近い温度で噴き出すことにより、キャビネット内の作業者腕部域の温度が快適に保たれることにより、クリーンルームの最大の汚染源となる作業者の発汗を抑制する。
【0044】
一方、安全キャビネット10の背面側で循環気用送風機37に吸い込まれた空気は、空間41に突出した加湿器38のノズル38aから噴出される蒸気によって加湿される。これは、安全キャビネット外部の空気が22℃50%RHと、インキュベータ内37℃95%RHに比べ低温で乾いておりヒートあるいは水分変化のショックを起こさないように、排気と入れ替わり導入される外部空気の分は少なくとも加湿するのである。湿度センサは作業空間25に備えられ、その場所の相対湿度を設定値と実測値との偏差に応じて制御装置51の回路によりPID演算で出力される信号によりユニット型加湿器の加湿量を制御する。
【0045】
加湿された空気は、加熱器39によって例えば40℃に加熱される。温度センサは作業空間25の後部側領域に備えられ、その場所の温度を設定値と実測値との偏差に応じて制御装置51の回路によりPID演算され出力される信号により加熱器の制御弁やサイリスタなどを制御する。加熱された空気は、循環気用フィルタ40に送り込まれる。加熱された空気は、循環気用フィルタ40を介して、浄化済みの空気として作業空間25に送り出される。
【0046】
例えば循環気用フィルタ40に直接送り込まれる空気の温度は22℃である。一方、加熱器39によって加熱された後に、循環気用フィルタ40に送り込まれる空気の温度は、例えば40℃である。したがって、作業空間25には、22℃の空気と、40℃の空気とが送り込まれる。その結果、これら空気が作業空間25の内部で混合され、領域Aにおいて、例えば35~37℃の空気となる。
【0047】
ここで、細胞を培養する培養容器が保持されるインキュベータ内の温度は例えば35~37℃である。つまり、作業空間25の温度をインキュベータ内の温度に合わせることができるので、培養容器をインキュベータから安全キャビネット10の載置台に移動させて、該載置台に載置するまでに細胞に与えるヒートショックストレスの影響を低減することが可能となる。
【0048】
第1実施形態では、安全キャビネット10の前面側で循環気用送風機37に吸い込まれた空気は、循環気用フィルタ40に直接送り込まれるようにし、安全キャビネット10の後面側で循環気用送風機37に吸い込まれた空気は、加熱器39を介して循環気用フィルタ40に送り込まれる。このとき、加熱器39は空気抵抗となり、キャビネットの後面側で循環気用送風機37に吸い込まれる空気の流量は、安全キャビネット10の前面側で循環気用送風機37に吸い込まれる空気の流量より少ない。その結果、作業空間25内の温度をインキュベータ内の温度に合わせることが困難になる。したがって、例えば加熱器39を設置することで発生する空気抵抗と同等の空気抵抗を有するフィルタを加熱器39と並置し、加熱器39から送り出される空気の流量と、フィルタから送り出される空気の流量と同一に制御すればよい。
【0049】
第1実施形態では、空気の一部を排気用フィルタにて浄化して排気する安全キャビネットの例を挙げているが、安全キャビネットが有する作業空間が外部と遮断されている安全キャビネットの場合には、安全キャビネットのが有する作業空間の空気を安全キャビネット内で循環させてもよい。
【0050】
第1実施形態では、空気の一部に加湿を行う加湿器38や、循環気用フィルタから送り出される浄化済みの空気の湿度を検出する湿度検出センサ46の構成を設けた場合を説明しているが、加湿器38や湿度検出センサ46の構成は、培地の水分の保湿状況によっては省略してもよい。
【0051】
第1実施形態では、前部吸気口26から吸い込まれた空気と、後部吸気口28から吸い込まれた空気とを循環路31において合流させて、キャビネット本体15の上部に空気を送り込む場合について説明しているが、キャビネット本体15に、前部吸気口26から吸い込まれた空気の循環路と、後部吸気口28から吸い込まれた空気の循環路とを各々設けることも可能である。以下、前部吸気口26から吸い込まれた空気の循環路と、後部吸気口28から吸い込まれた空気の循環路とを、キャビネット本体に各々設けた場合について、第2実施形態と称して説明する。以下、第2実施形態の安全キャビネット10’において、第1実施形態に示す安全キャビネット10と同一の配置構成である箇所については、第1実施形態と同一の符号を付し、説明は省略する。
【0052】
<第2実施形態>
図4に示すように、第2実施形態の安全キャビネット10’は、前部吸気口26から吸い込まれた作業空間25’の空気及びクリーンルームからの空気を循環させる循環路61と、後部吸気口28から吸い込まれた空気を循環させる循環路62とを有する。ここで、前部吸気口26から吸い込まれた空気が循環する循環路61は、後部吸気口28から吸い込まれた空気が循環する循環路62の外側に配置される。なお、これら循環路61,62のうち、循環路61は、循環路内を移動する空気の一部が、排気用送風機35に吸い込まれ、残りの空気が循環気用送風機63に吸い込まれる。
【0053】
キャビネット本体15の上部には、排気用送風機35、排気用フィルタ36の他、2つの循環気用送風機63,64、加湿器65、加熱器66及び循環気用フィルタ40を有する。
【0054】
循環気用送風機63は、循環路61を移動する空気を吸い込み、下方に配置される循環気用フィルタ40に向けて送り出す。循環気用送風機64は、循環路61を移動する空気を吸い込み、下方に配置される循環気用フィルタ40に向けて送り出す。循環気用フィルタ40は、循環気用送風機63,64から送り出された空気に含まれる細菌、エアロゾルなどを、試料を操作する作業空間25’の直前で濾過する。循環気用フィルタ40を透過した浄化済みの空気は、上述した作業空間25’に送り出される。
【0055】
循環気用送風機64と循環気用フィルタ40との間の空間68には、加湿器65のノズル65a及び加熱器66が配置される。
【0056】
加湿器65は、循環気用送風機64から送り出された空気を加湿する。加湿器65は、第1実施形態に示した加湿器38と同様に、キャビネット本体15の外部に沸騰釜を設けたユニット型加湿器などで、ごく低圧の蒸気を噴出するノズル65aを有する。なお、ノズル65aは、循環気用送風機64と加熱器66との間に突出するように配置される。
【0057】
加熱器66は、第1実施形態に示した加熱器39と同様に、例えば加熱コイルであり、加湿器65によって加湿された空気を例えば40℃まで加熱する。
【0058】
なお、第2実施形態では、各循環路に配置される循環気用送風機63,64の下流側に配置した1つの循環気用フィルタ40によって、各循環路61,62を移動する空気を浄化する場合を示している。しかしながら、循環路61,62の各々に個別に循環気用フィルタを配置することも可能である。
【0059】
なお、加熱器63と循環気用フィルタ40との間の空間67内部には、通風抵抗を揃えて循環空気の偏りを防いだり、手前と奥とでそれぞれ最適な風量とするため、循環気用送風機63,64を各々独立して風量可変とすることで、パンチング板やプレフィルタなどの抵抗体を備えていると、キャビネット本体15の前部側領域と後部側領域とをそれぞれ通過する循環風量が狙った風量にできる。
【0060】
図5に示すように、安全キャビネット10’は、第1実施形態と同様に、電気ヒータ22、排気用送風機35、湿度検出センサ46、温度検出センサ47、操作パネル50及び制御装置51を有する。また、安全キャビネット10’は、循環気用送風機63,64、加湿器65及び加熱器66を有する。
【0061】
第2実施形態の安全キャビネット10’は、第1実施形態と同様に、CPU52及び記憶媒体53を備えた制御装置51を有する。なお、記憶媒体53には、制御プログラム54’が記憶される。ここで、制御プログラム54’は、循環気用送風機63及び循環気用送風機64を個別に制御するプログラムを含んでいる点で、第1実施形態の制御プログラム54と相違する。
【0062】
上述した安全キャビネット10’において、キャビネット本体15の上部に設置される排気用送風機35、循環気用送風機63,64が作動すると、これら送風機は、配置される循環路61,62の各々の空気を引き込む。
【0063】
その結果、排気用送風機35、循環気用送風機63が作動すると、作業空間25’の空気が前部吸気口26に吸い込まれる。同時に、クリーンルーム等、安全キャビネット10の外部の空気が前部吸気口26に吸い込まれる。なお、クリーンルーム等、安全キャビネット10の外部の空気が前部吸気口26に吸い込まれることで、排気口15bからクリーンルーム、あるいは排気ダクトへ排出された空気の減少分が補填される。
【0064】
前部吸気口26に吸い込まれた空気は、循環路61を移動して、キャビネット本体15の上方まで移動する。そして、キャビネット本体15の上方に向けて移動した空気の一部が排気用送風機35に吸い込まれ、残りの空気が循環気用送風機63に吸い込まれる。なお、排気用送風機35に吸い込まれた空気は、排気用フィルタ36を介して排気口15bから、浄化された空気としてクリーンルームに排出される。
【0065】
一方、循環気用送風機63に吸い込まれた空気は、空間67を介して、循環気用フィルタ40に送り込まれる。循環気用フィルタ40に直接送り込まれた空気は、循環気用フィルタ40を介して、浄化済みの空気として作業空間25’に送り出される。
【0066】
排気用送風機35、循環気用送風機63が作動したときには、循環気用送風機64も作動している。したがって、循環気用送風機64の作動により、作業空間25’の空気が後部吸気口28に吸い込まれる。後部吸気口28に吸い込まれた空気は、循環路62を移動して、キャビネット本体15の上方まで移動する。そして、キャビネット本体15の上方に向けて移動した空気が循環気用送風機64に吸い込まれる。循環気用送風機64に吸い込まれた空気は、空間68に送り出される。空間68に送り出された空気は、加湿器65によって加湿され、加熱器66によって加熱される。加熱された空気は、循環気用フィルタ40を介して、浄化済みの空気として作業空間25’に送り出される。
【0067】
例えば循環気用フィルタ40に直接送り込まれる空気の温度は22℃である。一方、加熱器66によって加熱された後に、循環気用フィルタ40に送り込まれる空気の温度は、例えば40℃である。したがって、作業空間25’には、22℃の空気と、40℃の空気とが送り込まれる。その結果、これら空気が作業空間25’の内部で混合され、領域A1において、例えば35~37℃の空気となる。
【0068】
第2実施形態の場合においても、安全キャビネット10’における作業空間25’の温度は、インキュベータ内の温度に合わせることができるので、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0069】
第2実施形態では、循環路61に配置された循環気用送風機63に吸い込まれた空気は、循環気用フィルタ40に直接送り込まれる。一方、循環路62に配置された循環気用送風機64に吸い込まれた空気は、加熱器66を介して循環気用フィルタ40に送り込まれる。つまり、循環気用フィルタ40から送り出される空気の流量において、循環気用送風機63から循環気用フィルタ40に直接送り出す循環路61における空気の流量が、循環気用送風機64と循環気用フィルタ40との間の空間68に加熱器66を配置した循環路62における空気の流量よりも多くなる。その結果、作業空間25’の内部の温度が低くなり、インキュベータ内の温度に合わせることが困難になる。したがって、循環気用送風機63に吸い込まれた空気を循環気用フィルタ40に直接送り込むのではなく、循環気用送風機64と循環気用フィルタ40との間の空間68に配置した加熱器66において生じる空気抵抗と同一の大きさを有するフィルタを配置することも可能である。
【0070】
第2実施形態では、空気の一部を排気用フィルタにて浄化して排気する安全キャビネットの例を挙げているが、全ての汚染空気を循環させる安全キャビネットであってもよい。
【0071】
第2実施形態では、空気の一部に加湿を行う加湿器65や、循環気用フィルタ40から送り出される浄化済みの空気の湿度を検出する湿度検出センサ46の構成を設けた場合を説明しているが、加湿器65や湿度検出センサ46の構成は省略してもよい。
【符号の説明】
【0072】
10,10’…安全キャビネット、15a…開口部、16…シャッタ、21…底板、25,25’…作業空間、26…前部吸気口、28…後部吸気口、31,32,61,62,99…循環路、33…冷却器、35…排気用送風機、36…排気用フィルタ、37,63,64…循環気用送風機、38,65…加湿器、39,66…加熱器、40…循環気用フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5