IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和ハウス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-杭の施工管理システム 図1
  • 特許-杭の施工管理システム 図2
  • 特許-杭の施工管理システム 図3
  • 特許-杭の施工管理システム 図4
  • 特許-杭の施工管理システム 図5
  • 特許-杭の施工管理システム 図6
  • 特許-杭の施工管理システム 図7
  • 特許-杭の施工管理システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】杭の施工管理システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/06 20060101AFI20230516BHJP
   E02D 13/04 20060101ALI20230516BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20230516BHJP
   E02D 7/20 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D13/04
E02D5/28
E02D7/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019056269
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020158963
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】長濱 温子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 尚子
(72)【発明者】
【氏名】山本 義徳
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053689(JP,A)
【文献】特開昭63-180814(JP,A)
【文献】特開2009-293319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/06
E02D 13/04
E02D 5/28
E02D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理システムであって、
前記振れ止め部材の上の前記鋼管杭の周囲、もしくは、前記鋼管杭の周囲の地盤の上、のいずれか一方に配設されている環状のレール部材と、
前記レール部材に沿って走行するターゲットと、
前記ターゲットの少なくとも異なる二つの位置を計測する計測器と、
前記ベースマシンのオペレータもしくは施工管理者の有する携帯端末と、を有し、
前記携帯端末は、
前記計測器から送信される前記異なる二つの位置に関する計測データを受信する受信部と、
前記受信部から前記異なる二つの位置に関する計測データを読み出し、前記鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部と、を備えており、
前記レール部材は、複数の半割りレール部材を相互に接合することにより形成され、
環状の前記レール部材の内側面には、鋼管杭に対して当接自在なローラが取り付けられていることを特徴とする、杭の施工管理システム。
【請求項2】
前記レール部材に沿って走行する走行台車を有し、
前記走行台車に前記ターゲットが搭載されていることを特徴とする、請求項1に記載の杭の施工管理システム。
【請求項3】
前記携帯端末は格納部をさらに有し、
前記格納部には、前記ターゲットが環状の前記レール部材に沿って移動する際の前記ターゲットの移動軌跡円の半径rに関するデータが予め格納されており、
前記演算部により、前記異なる二つの位置を中心として前記半径rの二つの円を作成し、該二つの円の交点の一方が鋼管杭の杭芯位置として演算されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の杭の施工管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭の施工管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
杭基礎の施工に当たり、杭打ち機を用いて、例えば鋼管の先端に螺旋翼が設けられている鋼管杭を地盤に回転圧入することにより、鋼管杭を地中に埋設する鋼管回転圧入工法が適用される。場所打ち杭工法では産業廃棄物となる掘削土が発生するが、鋼管回転圧入工法ではこの産業廃棄物の発生が解消でき、さらには、低騒音かつ低振動での施工が可能であることから環境影響への負荷が少ない。また、建物の規模に応じた杭径の鋼管杭を用いることにより、戸建て住宅等の小規模建物からマンション等の大規模建物まで、様々な規模の建物の杭基礎への適用が可能である。
【0003】
上記する鋼管杭を地盤に回転圧入する際の施工管理システムとして、鋼管の上端近傍にターゲットを取り付け、トータルステーションを用いてターゲットの自動追尾を行うことによりターゲットの位置情報を取得する、回転式鋼管打設施工管理システムが提案されている。この回転式鋼管打設施工管理システムは、ターゲットの位置情報に基づいて鋼管芯座標を算出し、算出された鋼管芯座標を記憶部に記憶する情報処理装置をさらに有している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、鋼管杭の回転圧入施工の初期段階においては、鋼管杭の上端部と地盤との距離が離れていることから、上端部の杭芯位置と、地盤に近い箇所での杭芯位置とが必ずしも一致していない場合が往々にしてある。従って、施工対象の鋼管杭が地盤の正しい位置に圧入されていることを確認するには、鋼管杭の上端部よりも、むしろ地盤に近い場所での杭芯位置(もしくは杭の打設芯位置)を把握することが肝要である。この点、上記する特許文献1に記載の施工管理システムでは、鋼管杭自体にターゲットを取り付けていることから、杭打ち機を構成する各構成要素等とターゲットとの干渉を回避するために、ターゲットを鋼管杭の上端部に設けざるを得ない。そのため、鋼管杭の上端部近傍に取り付けられているターゲットの位置情報をトータルステーションにより取得することから、鋼管杭の正しい施工位置を管理する点においては改善の余地がある。
【0005】
そこで、地盤の近傍における鋼管杭の杭芯位置を得ることのできる施工管理システムが提案されている。より具体的には、鋼管杭の上端を保持して、鋼管杭を回転させながら地盤に圧入する駆動部と、地盤の近傍で鋼管杭を保持する振れ止め部材と、を備える杭打ち機による鋼管杭の打設施工を管理する施工管理システムである。この施工管理システムは、振れ止め部材の上に設けられ、鋼管杭を周回する第2レールが形成されたレール部材と、鋼管杭の回転に伴い、第2レールに沿って摺動する第2磁石と、第2磁石に取り付けられたプリズムと、プリズムの位置を計測する計測器と、計測器により計測されるプリズムの複数の位置に基づいて、鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部とを備えている。
【0006】
第1レールには第1磁石が摺動可能に設けられ、第1磁石は、鋼管杭の回転に追従して第1レールに沿って摺動するようになっている。一方、第2レールには、第1規制部材と第2規制部材が設けられており、第1規制部材と第2規制部材とにより区切られた範囲が第2磁石の摺動範囲とされ、この摺動範囲に第2磁石が配置されている。さらに、この摺動範囲に計測器を対向配置することにより、施工管理システムが形成される。
【0007】
上記する施工管理システムにおいて、第2磁石と第1磁石とは、互いに異なる磁極を有している。鋼管杭の回転に伴い、鋼管杭に磁気吸引された第1磁石が鋼管杭と同方向に摺動し、第1磁石が第2磁石の摺動範囲に到達すると、第1磁石に磁気吸引された第2磁石が摺動範囲内を摺動し、この摺動する第2磁石に取り付けられているプリズムの位置を計測器にて計測する。この施工管理システムによれば、第2磁石に取り付けられているプリズムを、第1規制部材と第2規制部材の間の摺動範囲にて往復させる際に、計測器からプリズムを見た際に、当該プリズムが鋼管杭に隠れることがないことから、計測器はプリズムの位置を常時計測することができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5546416号公報
【文献】特開2018-53689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の施工管理システムでは、鋼管杭の回転に伴って当該鋼管杭と同方向に第1磁石を摺動させるとともに、第1磁石の摺動に伴って、当該第1磁石と同方向にプリズムが取り付けられている第2磁石を、第1規制部材と第2規制部材の間の摺動範囲において摺動させることから、第1磁石や第2磁石が摺動するレールを含む治具の構成が複雑になり易い。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、複雑な治具を有することなく、地盤の近傍において鋼管杭の杭芯位置を精度よく特定しながら鋼管杭の施工管理を行うことのできる、杭の施工管理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による杭の施工管理システムの一態様は、
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理システムであって、
前記振れ止め部材の上の前記鋼管杭の周囲、もしくは、前記鋼管杭の周囲の地盤の上、のいずれか一方に配設されている環状のレール部材と、
前記レール部材に沿って走行するターゲットと、
前記ターゲットの少なくとも異なる二つの位置を計測する計測器と、
前記ベースマシンのオペレータもしくは施工管理者の有する携帯端末と、を有し、
前記携帯端末は、
前記計測器から送信される前記異なる二つの位置に関する計測データを受信する受信部と、
前記受信部から前記異なる二つの位置に関する計測データを読み出し、前記鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、振れ止め部材の上の鋼管杭の周囲、もしくは、鋼管杭の周囲の地盤の上のいずれか一方に環状のレール部材が配設され、レール部材に沿ってターゲットが走行し、走行するターゲットの少なくとも異なる二つの位置が計測器にて計測される施工管理システムであることから、複雑な治具を必要としないシステムとなる。また、地盤の近傍にある振れ止め部材の上、もしくは地盤の上にある、環状のレール部材に沿って走行するターゲットの少なくとも異なる二つの位置に関する計測データに基づいて、携帯端末にて鋼管杭の杭芯位置が演算されることから、回転圧入されている鋼管杭の杭芯位置を精度よく特定することができる。
【0013】
ここで、「計測器」は、ターゲットを自動的に視準する自動追尾機能を備えている、自動追尾型のトータルステーションである。また、「ターゲット」としては、反射プリズム等のプリズムが挙げられる。さらに、携帯端末は、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータなどを含んでいる。携帯端末は、ベースマシンの操縦席に載置され、杭打ち機のオペレータが携帯端末に表示されている演算結果を確認しながら鋼管杭の回転圧入を行ってもよいし、施工管理をしている施工管理者が携帯端末を有し、施工管理者が携帯端末に表示されている演算結果を確認してもよいし、オペレータと施工管理者の双方が携帯端末を有していてもよい。
【0014】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様は、前記レール部材に沿って走行する走行台車を有し、
前記走行台車に前記ターゲットが搭載されていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、ターゲットが搭載されている走行台車を鋼管杭の周囲にあるレール部材に沿って走行させることにより、鋼管杭の周囲の異なる二点におけるターゲットの位置を計測することができる。ここで、鋼管杭を回転圧入する際の比較的速い回転速度と異なり、走行台車の走行速度は計測器にて計測可能な適度の速度に設定されるのが好ましい。また、走行するターゲットは一時的に鋼管杭の背面に入って計測器にて視準不可な状態となるが、本発明者等による検証によれば、計測器に自動追尾型のトータルステーションを適用した場合に、再び鋼管杭の側方から現れたターゲットを自動追尾型のトータルステーションが再度認識できることが分かっている。
【0016】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様において、前記レール部材は、複数の半割りレール部材を相互に接合することにより形成され、
環状の前記レール部材の内側面には、鋼管杭に対して当接自在なローラが取り付けられていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、環状のレール部材の内側面においてローラが鋼管杭に当接自在に取り付けられていることにより、ターゲットが走行するレール部材を回転姿勢の鋼管杭から縁切りしながら、鋼管杭の杭芯と環状のレール部材の中心を可及的に揃えることができる。例えば、振れ止め部材とその中を貫通する鋼管杭との間には、一般に10mm乃至20mm程度のクリアランスがある。そのため、振れ止め部材の上にターゲットを直接載置した場合、このクリアランスの中で移動し得る鋼管杭の杭芯と、振れ止め部材の中心との間には、このクリアランスに起因する誤差が生じ得る。そして、この鋼管杭の杭芯と振れ止め部材の中心の間の誤差は、携帯端末において計測データに基づいて演算される杭芯位置の精度に影響し得る。そこで、環状のレール部材の内側面に鋼管杭に当接自在な複数のローラを取り付けておき、レール部材(のローラ)と鋼管杭の間のクリアランスを、0mm(複数のローラが全て鋼管杭に当接している状態)からせいぜい1,2mm程度とすることにより、環状のレール部材と鋼管杭の間のクリアランスに起因する誤差を少なくすることができ、携帯端末において演算される杭芯位置の精度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明による杭の施工管理システムの他の態様において、前記携帯端末は格納部をさらに有し、
前記格納部には、前記ターゲットが環状の前記レール部材に沿って移動する際の前記ターゲットの移動軌跡円の半径rに関するデータが予め格納されており、
前記演算部により、前記異なる二つの位置を中心として前記半径rの二つの円を作成し、該二つの円の交点の一方が鋼管杭の杭芯位置として演算されることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、異なる二つのターゲットの位置を中心として、ターゲットが環状のレール部材に沿って移動する際のターゲットの移動軌跡円の半径rを有する二つの円を作成して二つの円による二つの交点を求め、そのうちの一方(計測器から遠い位置にある交点)を鋼管杭の杭芯位置とすることにより、杭芯位置を精度よく特定することができる。
【0020】
また、本発明による杭の施工管理システムを構成する携帯端末の一態様は、
鋼管杭の上端がベースマシンのリーダーに沿って降下するオーガーに取り付けられ、該リーダーの下方に取り付けられている環状の振れ止め部材に前記鋼管杭が挿通されながら地盤に回転圧入される杭打ち機により、鋼管杭を施工する際に用いられる、杭の施工管理システムを構成する携帯端末であって、
前記杭の施工管理システムは、前記振れ止め部材の上、もしくは前記鋼管杭の周囲の地盤の上に配設されている環状のレール部材に沿って走行するターゲットと、該ターゲットの少なくとも異なる二つの位置を計測する計測器と、を備えており、
前記携帯端末は、
前記計測器から送信される前記異なる二つの位置に関する計測データを受信する受信部と、
前記受信部から前記異なる二つの位置に関する計測データを読み出し、前記鋼管杭の杭芯位置を演算する演算部と、
前記演算部による演算結果を表示する表示部と、を備えていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、携帯端末の有する表示部において、演算部にて演算された鋼管杭の杭芯位置を確認することができる。例えば、ベースマシンの操縦席に携帯端末が載置され、杭打ち機のオペレータは、表示部に表示されている演算結果を確認しながら鋼管杭の回転圧入を行うことができる。
【0022】
また、本発明による杭の施工管理システムを構成する携帯端末の他の態様において、前記表示部には、平面座標系が表示され、該平面座標系において許容杭芯誤差範囲が表示されるとともに、前記演算部にて演算された杭芯の位置が表示されることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、表示部に平面座標系(例えばX-Y平面座標)が表示され、この平面座標系において、許容杭芯誤差範囲が表示されるとともに、演算部にて演算された杭芯の位置が表示されることにより、杭打ち機のオペレータや施工管理者は、特定された杭芯が許容杭芯誤差範囲内にあることを確認しながら鋼管杭の施工を継続することができる。また、杭芯が許容杭芯誤差範囲から外れそうな場合には、回転圧入方向を臨機に調整することができる。さらに、杭芯が許容杭芯誤差範囲から外れている場合には、施工を速やかに中断して、正しい位置において鋼管杭の再打設を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の杭の施工管理システムによれば、複雑な治具を有することなく、地盤の近傍において鋼管杭の杭芯位置を精度よく特定しながら鋼管杭の施工管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係る杭の施工管理システムの全体構成の一例を示す図である。
図2】鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、レール部材、走行台車及びターゲットが設置される前の状況を示す斜視図である。
図3】鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、レール部材、走行台車及びターゲットが設置された状況を示す斜視図である。
図4図3のIV-IV矢視図である。
図5】実施形態に係る杭の施工管理システムの有する携帯端末のハードウェア構成の一例を示す図である。
図6】携帯端末の機能構成の一例を示す図である。
図7】携帯端末の演算部における演算内容の一例を説明する図である。
図8】携帯端末の表示部における表示内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る杭の施工管理システムと、杭の施工管理システムを構成する携帯端末について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0027】
[実施形態に係る杭の施工管理システム]
はじめに、図1乃至図4を参照して、実施形態に係る杭の施工管理システムの一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る杭の施工管理システムの全体構成の一例を示す図である。また、図2図3はそれぞれ、鋼管杭の下方の周囲に、振れ止め部材、レール部材、走行台車及びターゲットが設置される前の状況を示す斜視図と、振れ止め部材、レール部材、走行台車及びターゲットが設置された状況を示す斜視図である。さらに、図4は、図3のIV-IV矢視図である。
【0028】
杭の施工管理システム500は、鋼管杭Pの周囲であって、かつ地盤に近い位置(地盤上を含む)において走行するターゲット100と、ターゲット100をレンズで視準してターゲット100までの距離や角度を計測する計測器200と、携帯端末300とを有し、携帯端末300は、鋼管杭Pを地盤Gに回転圧入する杭打ち機90を構成するベースマシン10に搭載されている。計測器200と携帯端末300は、インターネットやLAN(Local Area Network)等に代表されるネットワーク400を介して通信可能となっている。計測器200にて取得されたターゲット100の異なる位置に関する計測データは、ネットワーク400を介して携帯端末300に送信される。
【0029】
杭打ち機90は、ベースマシン10と、ベースマシン10により支持されるリーダー20と、リーダー20に沿って降下するオーガー30と、リーダー20の下方の地盤近傍の位置に装着されている振れ止め部材50とを有する。オーガー30の下端にあるキャップ40に鋼管杭Pの上端が把持され、鋼管杭Pの下方が振れ止め部材50の中空内に遊嵌された後、オーガー30をY1方向に回転させながらリーダー20に沿ってY2方向に降下させることにより、鋼管杭Pは、地盤G内においてY3方向に回転しながらY4方向に圧入される。尚、図示例の鋼管杭Pはその先端に螺旋翼P1を有しているが、鋼管杭Pの側面にも螺旋翼を有する形態など、様々な形態の鋼管杭が施工対象となる。
【0030】
図1に示すように、ターゲット100は、振れ止め部材50の上に載置されているレール部材70沿って鋼管杭Pの周囲をY5方向に走行する。計測器200は、例えば自動追尾型のトータルステーションであり、走行するターゲット100に対してX1方向に光波を照射し、ターゲット100にて反射する光波を計測することにより、ターゲット100との間の距離や鉛直角度、水平角度を取得して、ターゲット100の異なる位置の位置座標を算出する。尚、計測器200により、走行するターゲット100の少なくとも異なる二つの位置が計測される。
【0031】
トータルステーション200は、コンピュータを内蔵するとともに、外部の機器(図示例の携帯端末300等)との通信を可能とする通信インターフェイスを有している(いずれも図示せず)。トータルステーション200は、位置座標が既知の既知点の上に設置され、当該既知点の座標情報がコンピュータに入力されてもよいし、位置座標が既知の一つもしくは複数の既知点の位置座標を計測してその座標情報がコンピュータに入力されてもよく、コンピュータに格納されている既知点の位置座標を参照し、ターゲット100の異なる位置に関する計測データに基づいてそれらの位置座標を算出する。
【0032】
次に、図2乃至図4を参照して、振れ止め部材50の上に、レール部材70を介して、ターゲット100を有する走行台車80が設置される設置態様について説明する。
【0033】
図2に示すように、振れ止め部材50は、平面視が半ドーナツ状の二つの半割り部材51を有し、それぞれの半割り部材51は、回動軸54を介してリーダー固定部59に回動自在に取り付けられている。それぞれの半割り部材51は、その端部において上下に二つのチャック53を有しており、鋼管杭Pが二つの半割り部材51の内部に収容された後、回動軸54を介して半割り部材51を鋼管杭P側へX2方向に回動させると、双方のチャック53が上下に揃うとともに双方のチャック53の有する貫通孔が上下方向に連通するようになっている。この連通した貫通孔に対してチャックピン55をX3方向に差し込むことにより、図3に示すように、中央にある中空に鋼管杭Pが遊嵌されている振れ止め部材50が形成される。
【0034】
図2に戻り、それぞれの半割り部材51の上面52の二箇所には、マグネチックスタンド58が取り付けられている。
【0035】
レール部材70は、半割り部材51と同様に平面視が半ドーナツ状の二つの半割りレール部材71を有し、それぞれの半割りレール部材71は、双方の一端同士が回動自在に留め付けられている。図2に示す開いた状態の二つの半割りレール部材71を振れ止め部材50の上方にX4方向に移載し、二つの半割りレール部材71の内部に鋼管杭Pが収容された後、半割りレール部材71を鋼管杭P側へX5方向に回動させることにより、端部の固定フランジ72同士が当接する。当接された二つの固定フランジ72に対して、固定キャップ74を上方からX6方向に嵌め込むことにより、図3に示すように環状のレール部材70が形成される。形成されたレール部材70は、四つのマグネチックスタンド58の上に載置される。
【0036】
このように、レール部材70が鋼管杭Pを包囲した状態で振れ止め部材50の上に相対移動自在に載置されることにより、レール部材70を振れ止め部材50に対して大きく移動させることなく位置決めすることができる。
【0037】
図2に戻り、半割りレール部材71の内側面75には、鋼管杭Pに対して当接自在な複数のローラ73が回動自在に取り付けられている。このように、レール部材70の内側面75において複数のローラ73が鋼管杭Pに当接自在に取り付けられていることにより、ターゲット100が走行するレール部材70を回転姿勢の鋼管杭Pから縁切りしながら、鋼管杭Pの杭芯と環状のレール部材70の中心を可及的に揃えることができる。
【0038】
レール部材70には、レール部材70に沿って鋼管杭P周りを周回する自走式の走行台車80がX7方向に設置される。走行台車80は、レール部材70の幅と同程度の幅を有し、レール部材70の内径と外径を有する輪郭の側面を有している。内部には、車輪を回転させるモータ、モータを駆動するバッテリが装備されており、モータを作動させるスイッチを有する(いずれも図示せず)。
【0039】
走行台車80の上面には、ターゲット固定ピン60が上方に延出する態様で固定されており、ターゲット固定ピン60には、ターゲット100の有するソケット104が上方からX8方向に装着されるようになっている。ここで、図示例のターゲット100は、複数のプリズム102を備えた全方位型のターゲットであり、水準器(図示せず)を内蔵している。
【0040】
ここで、図4に示すように、振れ止め部材50の中を貫通する鋼管杭Pとの間には一般に、10mm乃至20mm程度のクリアランスs2がある。そのため、振れ止め部材50の上に振れ止め部材50と同程度の内径を有する環状のレール部材を載置した場合、このクリアランスs2の中で移動し得る鋼管杭Pの杭芯と、レール部材の中心との間には、このクリアランスs2に起因する誤差が生じ得る。そして、この鋼管杭Pの杭芯とレール部材の中心の間の誤差は、レール部材に沿って走行する走行台車に搭載されているターゲットの移動軌跡円の中心のずれを生じさせる。そのため、携帯端末300において、計測データに基づいて演算される杭芯位置の精度に影響が生じ得る。そこで、レール部材70の内側面75から鋼管杭P側に回転自在に張り出す複数のローラ73が取り付けられていることにより、ローラ73と鋼管杭Pの間のクリアランスs3を、0mm(複数のローラ73が全て鋼管杭Pに当接している状態)からせいぜい1,2mm程度とする。このことにより、レール部材70と鋼管杭Pの間のクリアランスに起因する誤差を少なくすることができ、携帯端末300において演算される杭芯位置の精度を向上させることができる。
【0041】
鋼管杭Pの回転圧入の全般に亘り、Y5方向に走行するターゲット100の位置座標がトータルステーション200にて随時計測される。より具体的には、圧入される鋼管杭Pの各高さ段階において、走行するターゲット100の少なくとも異なる二つの位置の位置座標が計測される。そして、このように随時計測される計測データは、ネットワーク400を介して、ベースマシン10の操縦席に載置されている携帯端末300に随時送信される。携帯端末300では、以下で詳説する方法により、回転圧入される鋼管杭Pの杭芯位置が随時演算され、表示されるようになっている。杭打ち機のオペレータは、携帯端末300に表示されている演算結果を確認しながら、鋼管杭Pの回転圧入を行うことができる。尚、携帯端末300は、図示例のようにベースマシン10の操縦席に載置されている形態の他にも、施工管理をしている施工管理者が携帯端末を有し、施工管理者が携帯端末に表示されている演算結果を確認してもよいし、オペレータと施工管理者の双方が携帯端末を有していてそれぞれが携帯端末に表示されている演算結果を確認してもよい。
【0042】
図示する杭の施工管理システム500によれば、複雑な治具を有することなく、地盤Gの近傍において鋼管杭Pの杭芯位置を精度よく特定しながら、鋼管杭Pの施工管理を行うことができる。
【0043】
尚、図示する杭の施工管理システム500では、振れ止め部材50の上に載置されたレール部材70に沿って走行するターゲット100をトータルステーション200にて視準するシステムであるが、レール部材70は、例えば、鋼管杭の周囲の地盤の上に載置されてもよい。
【0044】
[実施形態に係る杭の施工管理システムを構成する携帯端末]
次に、図5乃至図8を参照して、実施形態に係る杭の施工管理システムを構成する携帯端末の一例について説明する。ここで、図5は、実施形態に係る杭の施工管理システムの有する携帯端末のハードウェア構成の一例を示す図であり、図6は、携帯端末の機能構成の一例を示す図である。また、図7は、携帯端末の演算部における演算内容の一例を説明する図である。さらに、図8は、携帯端末の表示部における表示内容の一例を示す図である。
【0045】
携帯端末300は、スマートフォンやタブレット、パーソナルコンピュータなどにより形成されるが、図8には、タブレットにより形成される携帯端末300を示している。
【0046】
図5に示すように、携帯端末300は、CPU(Central Processing Unit)302、RAM(Random Access Memory)304、ROM(Read Only Memory)306、無線通信装置308、表示装置310、及び入力装置312を有し、それらがシステムバス314にてデータ通信可能に接続されている。
【0047】
ROM306には、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAM304は、ROM306に記憶されているプログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPU302は、RAM304にロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。例えば、計測器200から送信されてきたターゲット100の異なる位置に関する計測データを用いて、鋼管杭の杭芯位置を演算し、演算結果を表示する制御を実行する。尚、その他、携帯端末300にインストールされたプログラム等を記憶する補助記憶装置(図示せず)を有していてもよい。
【0048】
表示装置310は、液晶ディスプレイ等からなり、たとえばタッチパネルの表示機能を担う。入力装置312は、表示装置310に対する接触体の接触を検出するセンサを有する電子部品である。接触体の接触の検出方式としては、静電方式や抵抗膜方式、光学方式などがある。この接触体として、オペレータ等の指や専用ペン等が挙げられる。無線通信装置308は、無線LAN又は移動体通信網等において通信を行う際に必要となる、アンテナ等の電子部品である。
【0049】
携帯端末300は、CPU302による制御により、図6に示す受信部320、演算部330、表示部340、及び格納部350として機能する。
【0050】
鋼管杭Pの回転圧入の過程で、計測器200によりターゲット100の異なる位置に関する計測データ(計測器200により算出されたターゲット100の異なる位置の位置座標データを含む)が随時取得され、受信部320には、計測器200から随時送信されるターゲット100の異なる位置に関する計測データが随時受信される。受信された計測データは、格納部350に随時格納される。
【0051】
格納部350には、鋼管杭Pの設計杭芯(打設芯の一例)に関する位置座標データ、ターゲット100の移動軌跡円の半径データ、及び、許容杭芯誤差データ(施工される鋼管杭の杭芯と設計杭芯との間で許容される誤差範囲に関するデータ)等が格納されている。ターゲット100の移動軌跡円の半径データは、レール部材70の有する半径等、既知の情報に基づいて予め格納部350に格納されてもよいし、図3に示すように走行台車80を走行させることにより特定された半径データが格納部350に格納されてもよい。
【0052】
演算部330では、ターゲット100の異なる位置に関する計測データを格納部350から読み出し、鋼管杭Pの杭芯位置を演算する。ここで、図7を参照して、演算部330における演算方法について説明する。
【0053】
演算部330では、設計杭芯Oを座標中心とするX-Y座標系(平面座標系の一例)が作成され、格納部350から読み出された異なる位置にあるターゲット100の座標位置をX-Y座標系にプロットする。そして、異なる位置にあるターゲット100の座標位置を中心とし、ターゲット100の移動軌跡円の半径r(共に同一)とする二つの円C1,C2を作成し、二つの円C1,C2による二つの交点のうち、計測器200から遠方側の交点O'を回転圧入中の鋼管杭Pの杭芯位置(演算杭芯位置)として演算する。
【0054】
表示部340では、図8に示すように、鋼管杭Pの設計杭芯Oを座標中心とするX-Y座標系が表示され、さらに、許容杭芯誤差範囲が表示される。そして、演算部330にて演算された演算杭芯位置がX-Y座標系にプロットされる。
【0055】
杭打ち機90のオペレータや施工管理者は、特定された演算杭芯位置が許容杭芯誤差範囲内にあることを確認しながら鋼管杭Pの施工を継続することができる。また、演算杭芯位置が許容杭芯誤差範囲から外れそうな場合には、回転圧入方向を臨機に調整することができる。さらに、演算杭芯位置が許容杭芯誤差範囲から外れている場合には、施工を速やかに中断して、正しい位置において鋼管杭の再打設を行うことができる。
【0056】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0057】
10:ベースマシン、20:リーダー、30:オーガー、40:キャップ、50:振れ止め部材、51:半割り部材、52:上面、53:チャック、54:回動軸、55:チャックピン、58:マグネチックスタンド、59:リーダー固定部、60:ターゲット固定ピン、62:治具固定ピン、70:レール部材、71:半割りレール部材、72:固定フランジ、73:ローラ、74:固定キャップ、80:走行台車、90:杭打ち機、100:ターゲット、102:プリズム、104:ソケット、200:計測器(トータルステーション)、300:携帯端末、320:受信部、330:演算部、340:表示部、350:格納部、400:ネットワーク、500:杭の施工管理システム(施工管理システム)、G:地盤、P:鋼管杭、P1:螺旋翼
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8