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特許7280083チタン合金、チタン合金装飾部材、およびチタン合金の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】チタン合金、チタン合金装飾部材、およびチタン合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20230516BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20230516BHJP
   C23F 1/26 20060101ALI20230516BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20230516BHJP
   G04B 5/16 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C23F1/26
C22F1/00 671
C22F1/00 673
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 613
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
G04B5/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019057874
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158820
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 悠嗣
(72)【発明者】
【氏名】高崎 康太郎
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314834(JP,A)
【文献】特開平11-100627(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102965543(CN,A)
【文献】国際公開第2017/058636(WO,A1)
【文献】特開2006-241485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/00
C22F 1/18
C23F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、残部がチタンおよび不可避的不純物であるか、あるいは、
モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、さらに、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、窒素、炭素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含み、前記元素は合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含まれており、残部がチタンおよび不可避的不純物であり、
表面に無彩色の模様を有
前記模様を有する前記表面に対して、波長550nmの光を照射してSCI(正反射光込み)方式で測定された反射率R SCI が6%以上12%以下であり、波長550nmの光を照射してSCE(正反射光除去)方式で測定された反射率R SCE が6%以上12%以下である、
チタン合金。
【請求項2】
前記反射率RSCE/前記反射率RSCIの値が95%以上である、
請求項に記載のチタン合金。
【請求項3】
前記無彩色の模様は、複数の結晶粒で形成されており、前記結晶粒の平均粒径が200μm以上3mm以下である、
請求項1または2に記載のチタン合金。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のチタン合金を含む、
チタン合金装飾部材。
【請求項5】
モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、残部がチタンおよび不可避的不純物であるか、あるいは、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、さらに、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、窒素、炭素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含み、前記元素は合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含まれており、残部がチタンおよび不可避的不純物である原料チタン合金を、800℃以上1200℃以下の加熱温度で、1時間以上8時間以下加熱した後、前記加熱温度から500℃になるまで30分以上かけて徐冷する熱処理工程と、
前記熱処理工程を経た前記原料チタン合金を、エッチング液でエッチングして、チタン合金を得るエッチング処理工程とを含み、
前記エッチング処理工程で得られた前記チタン合金は、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、残部がチタンおよび不可避的不純物であるか、あるいは、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、さらに、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、窒素、炭素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含み、前記元素は合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含まれており、残部がチタンおよび不可避的不純物であり、表面に無彩色の模様を有前記模様を有する前記表面に対して、波長550nmの光を照射してSCI(正反射光込み)方式で測定された反射率R SCI が6%以上12%以下であり、波長550nmの光を照射してSCE(正反射光除去)方式で測定された反射率R SCE が6%以上12%以下である、
チタン合金の製造方法。
【請求項6】
前記エッチング液は、フッ化水素および硝酸を含む水溶液である、
請求項に記載のチタン合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金、チタン合金装飾部材、およびチタン合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多結晶材料で形成された時計部品の製造方法が記載されている。上記製造方法は、多結晶材料を熱処理して、多結晶材料に含まれる複数の結晶を粗大化する熱処理工程と、多結晶材料をエッチングして、各結晶の表面を鏡面化し、各結晶の表面の法線方向を相互に異ならせるエッチング工程とを有する。多結晶材料としては、具体的には、チタン、チタン合金およびタングステンが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-127877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の製造方法で得られた時計部品は、表面にキラキラと輝く金属光沢が付与されている。すなわち、上記時計部品は、表面に白黒模様(無彩色の模様)を有していない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、表面に白黒模様(無彩色の模様)を有するチタン合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のチタン合金は、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、表面に無彩色の模様を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のチタン合金は、表面に白黒模様(無彩色の模様)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、製造例3-1のチタン合金について、表面観察を行った結果を示す図である。
図2図2は、図1における黒色の結晶粒についてSEM観察を行った結果を示す図である。
図3図3は、図2よりも高倍率で、上記黒色の結晶粒についてSEM観察を行った結果を示す図である。
図4図4は、図1における白色の結晶粒についてSEM観察を行った結果を示す図である。
図5図5は、製造例3-2のチタン合金について、表面観察を行った結果を示す図である。
図6図6は、図5における黒色部についてSEM観察を行った結果を示す図である。
図7図7は、図6よりも高倍率で、上記黒色部についてSEM観察を行った結果を示す図である。
図8図8は、図5における白色部についてSEM観察を行った結果を示す図である。
図9図9は、製造例3-1のチタン合金の反射電子像を示す図である。
図10図10は、図9における灰色部分の元素分布測定の結果を示す図である。
図11図11は、図9における白色部分の元素分布測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
<チタン合金>
実施形態のチタン合金は、表面に、白黒模様、すなわち、白色、黒色および灰色で形成された無彩色の模様を有する。上記模様は、上記チタン合金の表面の全てに形成されていてもよく、上記チタン合金の表面の一部に形成されていてもよい。また、上記模様が形成された表面は、具体的には、金属光沢を有しておらず、艶消しであり、マット感が付与されている。実施例にて示すように、それぞれの領域の表面は細かく荒れている(細かいギザギザ形状が存在する。)。この表面のギザギザ形状によって外部から入射した光は乱反射されるため、金属光沢がなく、マット感が付与されているように視認されると考えられる。また、見る方向による色の変化の原因を与える要因にもなり得る。一方、上記模様は、通常、複数の領域で形成されており、この領域それぞれは、結晶粒に対応していると考えられる。すなわち、上記模様は、白色、黒色および灰色の小さな領域が敷き詰められて形成されている。なお、この色は見る方向によって変化する。たとえば、上記チタン合金をある方向から見たときに、ある領域が白色に視認されたとしても、他の方向から見たときは、その同じ領域が灰色または黒色に視認され得る。したがって、無彩色の模様は、表面のギザギザ形状と複数の大きな結晶粒に由来して形成されているといえる。
【0011】
上記模様を形成する結晶粒の平均粒径は、好ましくは200μm以上3mm以下であることが望ましい。平均粒径がこの範囲にあると、上記模様がより視認しやすくなり、美観を向上する効果を有する。
【0012】
実施形態のチタン合金は、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含む。上記チタン合金は、特定の元素を特定の量で含んでいるため、好ましい外観を有する。すなわち、上記チタン合金は、表面に無彩色の模様が形成されており、また、金属光沢がなく、マット感が付与されているように視認される。
【0013】
モリブデン(Mo)は、チタンのβ相を安定化する元素であり、モリブデンを含む場合はチタンβ合金として知られている。実施形態のチタン合金においては、モリブデンは、上記模様を形成するための成分であり、さらに、明るさおよび拡散度を調整する成分である。モリブデンの量が4質量%未満のときは、明るくなりすぎる場合や、光沢が強くなりすぎる場合がある。また、モリブデンの量が10質量%を超えるときは、暗くなりすぎる場合や、マット感が強くなりすぎる場合がある。モリブデンの量が上記範囲にあると、白黒模様に適した明るさとともに、適度な拡散度が得られる。したがって、上述した好ましい外観が得られる。
【0014】
アルミニウム(Al)は、チタンのα相を安定化する元素として知られている。実施形態のチタン合金においては、アルミニウムは上記模様を形成するための成分であり、さらに、明るさおよび拡散度を調整する成分である。アルミニウムの量が2質量%未満のときは、暗くなりすぎる場合や、マット感が強くなりすぎる場合がある。また、アルミニウムの量が14質量%を超えるときは、明るくなりすぎる場合や、ギラギラした表面状態となる場合がある。アルミニウムの量が上記範囲にあると、白黒模様に適した明るさとともに、適度な拡散度が得られる。したがって、上述した好ましい外観が得られる。
【0015】
さらに、実施形態のチタン合金は、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、窒素、炭素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の元素を含んでいてもよい。これら他の元素は合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含まれていてもよい。上記他の元素が上記の量で含まれていても、外観への影響は小さい。なお、上記他の元素が上記の量で含まれていると、硬さが向上する傾向にある。
【0016】
なお、実施形態のチタン合金は、モリブデンおよびアルミニウムを上記の量で含み、残部がチタンおよび不可避的不純物である。あるいは、実施形態のチタン合金は、モリブデンおよびアルミニウムを上記の量で含み、さらに、上記他の元素を上記の量で含み、残部がチタンおよび不可避的不純物であってもよい。不可避的不純物としては、Ga、Sn、Cr、Ni、Fe、Mn、Cu、Siが挙げられる。たとえば、不可避的不純物は合計で0質量%を超え3質量%以下の量で含まれていてもよい。上記不可避的不純物が上記の量で含まれていても、外観への影響は小さい。
【0017】
実施形態のチタン合金は、通常、α相およびβ相の両方を有するα+β型のチタン合金である。
【0018】
また、実施形態のチタン合金は、上記模様を有する表面に、波長550nmの光を照射してSCI(正反射光込み)方式で測定された反射率RSCIが6%以上12%以下であることが好ましい。また、上記模様を有する表面に、波長550nmの光を照射してSCE(正反射光除去)方式で測定された反射率RSCEが6%以上12%以下であることが好ましい。反射率RSCIおよび反射率RSCEが上記範囲にあると、実施形態のチタン合金は、無彩色の模様に適した明るさに視認される。実施形態のチタン合金は、特定の元素を特定の量で含んでいるため、反射率RSCIおよび反射率RSCEを上記範囲に調整できる。
【0019】
実施形態のチタン合金は、反射率RSCEを反射率RSCIで除した値(反射率RSCE/反射率RSCIの値)が通常95%以上である。反射率RSCE/反射率RSCIの値が上記範囲にあると、実施形態のチタン合金は、金属光沢がなく、マット感が付与されているように視認される。反射率RSCE/反射率RSCIの値が95%未満の時は、光沢が強くなりすぎる場合がある。実施形態のチタン合金は、特定の元素を特定の量で含んでいるため、反射率RSCE/反射率RSCIの値を上記範囲に調整できる。
【0020】
反射率(RSCE、RSCI)の測定は、具体的には、実施形態のチタン合金において、上記模様を有する表面が、直径8mm以上の平面部を有するときは、該平面部に対して光を照射して行うことができる。一方、チタン合金において、上記模様を有する表面が、直径8mm以上の平面部を有しないときであっても、このチタン合金の一部を加工して直径8mm以上の平面部を形成し、反射率を測定することも可能である。なお、上記のように、上記模様を定義(表現)するために直径8mm以上の平面部を測定基準としたが、これはチタン合金が、直径8mm以上の平面部を有する場合に限定されるものではない。たとえば、実施形態のチタン合金は、曲面形状に上記模様が形成されていてもよい。
【0021】
実施形態のチタン合金は、ビッカース硬度が通常270以上である。このように、実施形態のチタン合金は、ビッカース硬度が160程度である純チタンより硬い。
【0022】
さらに、チタン合金の上に硬質膜を有していてもよい。硬質膜としてはDLC、TiN、TiC、SiCなどの硬質化合物を含む膜が挙げられる。硬質膜の厚さが厚くなると硬さはより増すが、白黒模様の美観が失われないよう、適度な厚みであることが望まれる。具体的には、硬質膜の厚さは0.5μm以下であることが好ましい。
【0023】
<チタン合金の製造方法>
実施形態のチタン合金の製造方法によれば、上述したチタン合金を製造できる。すなわち、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、表面に無彩色の模様を有する、チタン合金が製造できる。また、製造されたチタン合金は、上記模様を有する上記表面に、波長550nmの光を照射してSCI(正反射光込み)方式で測定された反射率RSCIが6%以上12%以下であり、波長550nmの光を照射してSCE(正反射光除去)方式で測定された反射率RSCEが6%以上12%以下であることが好ましい。さらに、反射率RSCE/反射率RSCIの値が通常95%以上である。実施形態のチタン合金の製造方法は、具体的には、熱処理工程およびエッチング処理工程を含む。
【0024】
熱処理工程では、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含む原料チタン合金を、800℃以上1200℃以下で、1時間以上8時間以下加熱した後、徐冷する。
【0025】
上記原料チタン合金に含まれる元素の種類および量については、熱処理工程およびエッチング処理工程によって大きな変化はなく、上記チタン合金についての説明と同様である。なお、上記原料チタン合金は、上記チタン合金と同様、通常、α相およびβ相の両方を有するα+β型のチタン合金である。
【0026】
上記原料チタン合金は、上記元素を上記の量で含んでおり、また、所望の形および大きさのチタン合金が製造できればよく、鋳造、鍛造、粉末冶金などによって得られる。
【0027】
上記原料チタン合金は、結晶粒の平均結晶粒径が通常100μm以上である。なお、平均結晶粒径は、金属顕微鏡、双眼、マイクロスコープなどで数倍から数十倍で観察した際に得られる画像から求められる。
【0028】
熱処理工程では、原料チタン合金を、800℃以上1200℃以下で、好ましくは900以上1200℃以下で加熱する。原料チタン合金の組成によりβ変態温度は異なるが、表面に見られる結晶粒の状態を調整するためには、たとえばβ変態温度より高い温度に加熱することが好ましい。上記温度範囲であれば、表面に見られる結晶粒の状態を好適に調整できる。
【0029】
また、熱処理工程では、原料チタン合金を、上記の時間加熱する。上記時間範囲であれば、表面に見られる結晶粒の大きさを好ましい範囲に調整できる。
【0030】
より具体的には、原料チタン合金を、室温(たとえば10℃以上30℃以下)から上記800℃以上1200℃以下の温度になるまで昇温させて、次いで、1時間以上8時間以下の時間、その温度を保持して加熱する。ここで、昇温速度は適宜設定すればよい。また、保持中の温度は、一定であってもよく、上記温度範囲内で変更してもよい。
【0031】
熱処理工程は、真空(減圧)下で、または、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。これにより、原料チタン合金の酸化を抑えられる。
【0032】
熱処理工程では、原料チタン合金を、上記温度範囲で、上記時間加熱した後、徐冷する。たとえば、上記加熱温度から500℃になるまで30分以上かかることが好ましい。このような徐冷としては、いわゆる炉冷が挙げられる。徐冷を行っておくと、後述するエッチング後のチタン合金は、金属光沢がなく、マット感が付与されているように視認される。一方、原料チタン合金を急冷すると、上記外観が得られない。一般的に熱処理工程で行うチタン合金の量が増えると、炉内の熱は冷めにくく、冷却速度は遅くなる傾向であり、本発明の実施には好適なものとなる。
【0033】
エッチング処理工程では、上記熱処理工程を経た上記原料チタン合金を、エッチング液でエッチングして、チタン合金を得る。
【0034】
上記エッチング液としては、フッ化水素(HF)および過酸化水素(H22)を含む水溶液、フッ化水素および硝酸(HNO3)を含む水溶液が挙げられる。好ましくは、フッ化水素および硝酸を含む水溶液が用いられる。上記エッチング液において、フッ化水素の濃度は1wt/vol%以上5wt/vol%以下であることが好ましい。また、上記エッチング液において、硝酸の濃度は5wt/vol%以上50wt/vol%以下であることが好ましい。
【0035】
エッチング処理工程では、具体的には、上記エッチング液中に、白黒模様を施す部分が浸かるように上記原料チタン合金を入れ、所定の時間後に取り出す。上記エッチング液中に上記原料チタン合金を入れている間は、上記エッチング液を攪拌することが好ましい。また、上記原料チタン合金は、無彩色の模様の形成、マット感の観点から、30秒以上3分以下の時間、上記エッチング液に入れておくことが好ましい。また、室温で行うことが好ましい。
【0036】
上記熱処理工程を施すことによって、結晶粒が外観上視認できるレベル(具体的には、平均結晶粒サイズが数百μmから数mm程度の大きさ)に成長する。なお、熱処理が終了した原料チタン合金においては、白黒模様は発現していないが、金属光沢を持ったきれいな面を有している。次の上記エッチング処理工程で白黒模様を発現するギザギザ形状が得られる。よって、熱処理工程により、このギザギザ形状を得られる様に材料組織の調整が施されるものと考えられる。
【0037】
後述する実施例で示すように、徐冷した場合は、最終的に得られるチタン合金の表面にモリブデンリッチなβ相の領域が確認できる。急冷で作成した試料にはこのような相は検出されず、徐冷を経て生成した試料にはこの相が検出されているため、この結晶相がギザギザ形状を発現する要因のひとつであることが推察される。
【0038】
上記熱処理工程に続いて上記エッチング処理工程を施すことによって、好ましい外観を有するチタン合金が得られる。すなわち、表面に無彩色の模様が形成されており、また、金属光沢がなく、マット感が付与されているように視認されるチタン合金が得られる。
【0039】
さらに、チタン合金の製造方法は、上記エッチング処理工程で得られたチタン合金の上に硬質膜を形成する硬質膜形成工程を有していてもよい。これにより、上述した硬質膜を有するチタン合金が得られる。
【0040】
<チタン合金装飾部材>
実施形態のチタン合金装飾部材は、上述したチタン合金を含む。上記チタン合金装飾部材としては、時計ケース、裏蓋、バンドなど時計外装部品が挙げられる。
【0041】
上記チタン合金装飾部材は、公知の方法によって作製できる。なお、上記チタン合金装飾部材の加工工程すなわち、所定の形状および寸法に成形する成形工程は、上記熱処理工程の前段階として実施しておくことが望ましい。この成形工程は、機械工作(鍛造、圧延、引抜き、押出し、切断、切削、研削等を含む。)、放電加工、レーザー加工など従来公知の加工方法によって行うことができる。機械工作により、容易に、所定形状および寸法に調整できる。
【0042】
以上より、本発明は以下に関する。
[1] モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、表面に無彩色の模様を有する、チタン合金。
【0043】
[2] 上記模様を有する上記表面に対して、波長550nmの光を照射してSCI(正反射光込み)方式で測定された反射率RSCIが6%以上12%以下であり、波長550nmの光を照射してSCE(正反射光除去)方式で測定された反射率RSCEが6%以上12%以下である、[1]に記載のチタン合金。
【0044】
[3] さらに、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、窒素、炭素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含み、上記元素は合計で0質量%を超え5質量%以下の量で含まれている、[1]または[2]に記載のチタン合金。
【0045】
[4] 上記反射率RSCE/上記反射率RSCIの値が95%以上である、[2]に記載のチタン合金。
【0046】
[5] 上記無彩色の模様は、複数の結晶粒で形成されており、上記結晶粒の平均粒径が200μm以上3mm以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のチタン合金。
【0047】
[6] [1]~[5]のいずれか1つに記載のチタン合金を含む、チタン合金装飾部材。
上記[1]~[6]のチタン合金またはチタン合金装飾部材は、表面に無彩色の模様が形成されており、また、金属光沢がなく、マット感が付与されているように視認される。
【0048】
[7] モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含む原料チタン合金を、800℃以上1200℃以下で、1時間以上8時間以下加熱した後、徐冷する熱処理工程と、上記熱処理工程を経た上記原料チタン合金を、エッチング液でエッチングして、チタン合金を得るエッチング処理工程とを含み、上記エッチング処理工程で得られた上記チタン合金は、モリブデンを4質量%以上10質量%以下の量で、アルミニウムを2質量%以上14質量%以下の量で含み、表面に無彩色の模様を有する、チタン合金の製造方法。
【0049】
[8] 上記エッチング液は、フッ化水素および硝酸を含む水溶液である、[6]に記載のチタン合金の製造方法。
上記[7]または[8]のチタン合金の製造方法によれば、上述した外観を有するチタン合金が得られる。
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0051】
[製造例1-1]
1.合金溶解
原料チタン合金は、アーク溶解装置で製造した。合金製造から評価の一連の工程を以下に説明する。チタンとアルミニウムとモリブデンとが、表1に示す所望の組成(Ti=88wt%、Mo=10wt%、Al=2wt%)となるように、原料を秤量した。なお、この組成は製造されたチタン合金においても保たれていると考えられる。次に、日新技研株式会社製のアーク溶解装置を用いて原料を溶解して合金とした。具体的には、上記原料を水冷Cuハースの凹部に配置した。装置を原料とともに真空排気して、5×10-6torr以下にした。その後、不活性ガスとなるアルゴンを封入し、約500torrのアルゴンガス雰囲気とした。その後アーク電源を用いて原料を溶解して合金化した。均一に溶けたことを確認した後、試料を冷却して、ボタンインゴット20gを取り出した。
【0052】
2.評価用試料(原料チタン合金)の作製(加工)
次に、ボタンインゴットの上面数mmをフライス盤にて切削して約20~30mm径のフラットな金属面を得た。その後、その金属面は丸本ストルアス株式会社製の研磨加工機に設置し、研磨加工を施して鏡面を得た。光学測定を行うため、Φ8mm以上のフラット面を有するよう、上記の形状に加工を施した。
【0053】
3.熱処理工程(結晶調整工程)
次に、結晶を調整するための熱処理工程を施す。具体的には、加熱装置に原料チタン合金を入れ、装置を真空排気して、5×10-6torr以下にした。加熱装置により、室温から1100℃まで原料チタン合金を加熱し、次いで、1100℃で1時間、原料チタン合金をさらに加熱した。次いで、加熱を止め、徐冷(炉冷)した。なお、原料チタン合金が1100℃から500℃になるまでに30分以上かかっていた。
【0054】
4.エッチング処理工程
次に、エッチング処理工程について説明する。具体的には、水70ml(純水)と、硝酸水20ml(硝酸60~62%、和光純薬株式会社製)と、フッ酸水3ml(フッ化水素50%、和光純薬株式会社製)とを含むフッ酸-硝酸混合液を用いた。室温で、プラスチックビーカー内に配置したマグネットスターラーによって混合液を撹拌しながら、この液の中に原料チタン合金を投入して、エッチングを施した。10秒程で表面が暗くなり、30秒で白黒が発現してきた。1分後、得られたチタン合金を取り出した。チタン合金は、そのコントラストがより鮮明となり、適切な色味となっていた。
【0055】
[製造例1-2~1-9]
表1に示す所望の組成となるように、原料を秤量した以外は、製造例1-1と同様にして、チタン合金を得た。
【0056】
[製造例2-1~2-8]
表2に示す所望の組成となるように、原料を秤量した以外は、製造例1-1と同様にして、チタン合金を得た。
【0057】
[製造例3-1]
表3に示す所望の組成(Ti=82.35wt%、Mo=8wt%、Al=5.5wt%、Zr=4wt%、N=0.15wt%)となるように、原料を秤量した以外は、製造例1-1と同様にして、チタン合金を得た。
【0058】
[製造例3-2]
上記製造例3-1と同様の組成(Ti=82.35wt%、Mo=8wt%、Al=5.5wt%、Zr=4wt%、N=0.15wt%)となるように、原料を秤量したこと、および熱処理工程で急冷したこと以外は、製造例1-1と同様にして、チタン合金を得た。熱処理工程では、具体的には、原料チタン合金の加熱を止めた際に、加熱装置から速やかに原料チタン合金を取出し、水中に入れた。なお、原料チタン合金が1100℃から500℃になるまで30分未満であった。
【0059】
[製造例3-3、3-4]
表3に示す所望の組成となるように、原料を秤量した以外は、製造例1-1と同様にして、チタン合金を得た。
【0060】
なお、製造例1-1、1-3~1-8、2-5~2-7、3-1が実施例に相当し、製造例1-2、1-9、2-1~2-4、2-8、3-2~3-4が比較例に相当する。
【0061】
[評価方法]
(反射率および拡散度)
分光測色計(商品名CM-2600d、コニカミノルタ株式会社製)を使用した。測定径はΦ8mmであり、上記フライス盤で加工した平坦なエッチング面を測定した。この測定では、波長550nmに対するSCI(正反射光込み)およびSCE(正反射光除去)の反射率RSCIおよびRSCEが得られた。ここで、SCEは正反射光を除いた拡散成分の光反射率に相当する。
また、波長550nmに対する反射率RSCEを、波長550nmに対する反射率RSCIで除した値(反射率RSCE/反射率RSCIの値)を求めた。拡散度については、反射率RSCE/反射率RSCIの値を指標として用いる。
反射率RSCIおよびRSCEが、それぞれ6%以上12%以下であれば、無彩色の模様に適した明るさといえる。また、拡散度は外観上の見栄えに相関があり、拡散度が高ければ(具体的には95%以上であれば)、無光沢のマット面に近いイメージを表現できているといえる。反射率RSCI、RSCEおよび反射率RSCE/反射率RSCIの値が上記範囲にある場合を合格(○)とした。また、反射率RSCI、RSCEおよび反射率RSCE/反射率RSCIの値のいずれかが上記範囲にない場合を不合格(×)とした。
【0062】
(ビッカース硬度)
ビッカース硬度には、マイクロビッカーズ硬度計を用いた。ダイヤモンド四角錐状の圧子を一定荷重負荷した後、その圧痕を測定して硬度値を算出した。
【0063】
(マイクロスコープによる表面観察および平均結晶粒径の測定)
デジタルマイクロスコープ(商品名VHX-5000、株式会社キーエンス製)を用いて、倍率20~50倍表面観察を行った。
また、平均結晶粒径を、マイクロスコープで観察した際に得られる画像から求めた。チタン合金の結晶粒は等軸粒からなる。その等軸粒を円に近似して直径を求め、この直径の平均を平均結晶粒径とした。
【0064】
(SEMによる表面観察およびEDSによる元素分布測定)
まず、走査型電子顕微鏡(商品名Gemini300、ZEISS社製)を用いて、SEM観察を行った。SEM観察により、マイクロスコープで観察された各色の結晶粒について表面形状を確認した。なお、表面形状は、加速電圧15kV、C蒸着なし、SE2(2次電子)モードにより観察を行った。
次に、走査型電子顕微鏡(商品名Gemini300、ZEISS社製)を用いて、反射電子像を得た。また、EDSによる元素分布測定を行った。なお、反射電子像は、加速電圧5kV、C蒸着なし、SE2(2次電子)モードにより得た。また、元素分布測定は、加速電圧:5kV、C蒸着なしで行った。
【0065】
[評価結果]
反射率、拡散度およびビッカース硬度の結果を表1~3に示す。反射率、拡散度については、上記合否判定の結果も表1~3に示す。表1より、Al含有量が2質量%未満では反射率が6%より低くなり、外観上暗すぎる傾向になる。一方、含有量が14質量%を超えると反射率が12%を超えて、明るさが強くなり、ギラギラした表面状態となる。拡散度は、いずれの組成域においても95%以上を示し、良好な拡散度を示している。よって、Al含有量が2質量%から14質量%の範囲において、適度な拡散度と白黒模様に適した明るさを得ることが可能となる。表2より、Mo含有量が2質量%未満では、拡散度が95%未満となり、光沢が強くなりすぎる。さらにMo含有量が4質量%未満では分光反射率が16%以上となり、明るさが強くなる。またMo含有量が10質量%を超えて12質量%になると分光反射率が5%程度と暗くなった。以上のことから、Mo含有量が4質量%から10質量%の範囲において、適度な拡散度と白黒模様に適した明るさを得ることが可能となる。
【0066】
図1は、製造例3-1チタン合金について、表面観察を行った結果を示す図である。製造例3-1では、白色、灰色、黒色の結晶粒が確認できた。また、平均結晶粒径(結晶粒の平均粒径)は、1500μmであった。図2は、図1における黒色の結晶粒についてSEM観察した結果を示す図である。熱処理工程において、徐冷した場合は、筋模様が確認できた。図3は、図2よりも高倍率で、上記黒色の結晶粒についてSEM観察を行った結果を示す図である。また、図4は、図1における白色の結晶粒をSEM観察した結果を示す図である。
【0067】
図5は、製造例3-2のチタン合金について、表面観察を行った結果を示す図である。製造例3-2においては、白色、灰色、黒色の結晶粒は確認できなかった。暗く見える箇所と、明るく見える箇所が観察されたのみである。図6は、図5における黒色部についてSEM観察した結果を示す図である。熱処理工程において、急冷した場合は、小さい穴模様が確認できた。図7は、図6よりも高倍率で、上記黒色部についてSEM観察を行った結果を示す図である。また、図8は、図5における白色部についてSEM観察した結果を示す図である。
【0068】
製造例3-1(図3図4)と、製造例3-2(図7図8)とを比較すると、製造例3-1の方が、結晶性がよく、細かい荒れが見られた。
【0069】
図9は、製造例3-1のチタン合金の反射電子像を示す図である。図10は、図9における灰色部分の元素分布測定の結果を示す図である。図11は、図9における白色部分の元素分布測定の結果を示す図である。白色部分では、灰色部分よりも、モリブデンが多く検出された。このように、モリブデンリッチなβ相の領域が確認できた。一方、製造例3-2では、図には示さないが、表面の組成分布をみると、成分が均一化していた。徐冷を経て生成した上記結晶相がギザギザ形状を発現するために影響を与えていると推察される。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11