(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】顕微鏡、及び、リタデーション補償方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20230516BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20230516BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/00
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2019057904
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】日下 健一
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-293333(JP,A)
【文献】特開2001-021807(JP,A)
【文献】特開2016-038528(JP,A)
【文献】特開平9-96764(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0152030(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡であって、
ポラライザと、
アナライザと、
前記ポラライザから前記アナライザに至る光路上の位置であって、収束光線束または発散光線束の少なくとも一方である光線束が通過する前記位置に、前記顕微鏡の光軸方向に光学軸を向けて配置された、一軸性の光学的異方体と、
前記ポラライザから前記アナライザに至る前記光路上の位置に、微分干渉プリズムと、を備え、
前記光学的異方体は、サンプル又は前記サンプルの容器に含まれる、前記顕微鏡の光軸方向に光学軸を向けた一軸性の第2の光学的異方体により生じる入射角度に依存したリタデーションを補償する
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡において、さらに、
前記ポラライザを通過した光線束を収束光線束に変換するレンズを備え、
前記位置は、前記レンズが形成する収束光線束または発散光線束の少なくとも一方である光線束が通過する位置であり、
前記光学的異方体の前記光学軸を、前記レンズの光軸方向に向けた
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項3】
請求項2に記載の顕微鏡において、
前記レンズは、対物レンズであり、
前記光学的異方体は、前記対物レンズが形成した収束光線束が通過する位置に、前記対物レンズの光軸方向に前記光学軸を向けて配置された
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項4】
請求項2に記載の顕微鏡において、さらに、
対物レンズを備え、
前記レンズは、前記対物レンズと向かい合わせに配置されたコンデンサレンズであり、
前記光学的異方体は、前記コンデンサレンズと前記対物レンズの間に、前記コンデンサレンズの光軸方向に前記光学軸を向けて配置された
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の顕微鏡において、
前記対物レンズとサンプルの間で前記光学的異方体を支持する支持部材を備えて、
前記支持部材は、前記対物レンズに固定される
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項6】
請求項2に記載の顕微鏡において、さらに、
対物レンズを備え、
前記レンズは、前記対物レンズと組み合わせてサンプルの像を形成する結像レンズであり、
前記光学的異方体は、前記結像レンズが形成した収束光線束が通過する位置に、前記結像レンズの光軸方向に前記光学軸を向けて配置された
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項7】
請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の顕微鏡において、
前記対物レンズは、補正環を備える
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項8】
請求項1乃至請求項
7のいずれか1項に記載の顕微鏡において、さらに、
前記光学的異方体とは異なる別の光学的異方体であって、光学軸を前記光学的異方体の前記光学軸の方向に向けて配置された前記別の光学的異方体を備える
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項9】
請求項1乃至請求項
8のいずれか1項に記載の顕微鏡において、
前記光学的異方体は、前記位置に挿脱自在に配置された
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項10】
ポラライザとアナライザと対物レンズを備えた顕微鏡が行う、サンプル又は前記サンプルの容器に含まれる一軸性の第1の光学的異方体であって前記対物レンズの光軸方向に光学軸を向けた前記第1の光学的異方体で生じるリタデーションを補償する方法であって、
前記ポラライザを経由して前記サンプルに光を照射することと、
前記サンプルに照射した光を前記アナライザを経由して検出することと、
前記ポラライザを通過した光線束であって収束光線束または発散光線束の少なくとも一方である前記光線束に、前記アナライザを通過する前に、前記顕微鏡の光軸方向に光学軸を向けた一軸性の第2の光学的異方体を通過させることと、含む
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項
10に記載の方法において、
前記第1の光学的異方体が正結晶であるとき、前記第2の光学的異方体は負結晶であり、
前記第1の光学的異方体が負結晶であるとき、前記第2の光学的異方体は正結晶である
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
顕微鏡であって、
ポラライザと、
アナライザと、
前記ポラライザから前記アナライザに至る光路上の位置であって、収束光線束または発散光線束の少なくとも一方である光線束が通過する前記位置に、前記顕微鏡の光軸方向に光学軸を向けて配置された、一軸性の光学的異方体と、
前記ポラライザを通過した光線束を収束光線束に変換する対物レンズと、
微分干渉プリズムと、を備え、
前記光学的異方体は、前記対物レンズが形成した収束光線束が通過する位置に、前記対物レンズの光軸方向に前記光学軸を向けて配置され、
前記微分干渉プリズムは、前記ポラライザから前記アナライザに至る前記光路上の位置であり、かつ、前記対物レンズとアナライザの間の光路上に配置される
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項13】
請求項
12に記載の顕微鏡において、
前記対物レンズとサンプルの間で前記光学的異方体を支持する支持部材を備えて、
前記支持部材は、前記対物レンズに固定される
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項14】
請求項
12又は請求項
13に記載の顕微鏡において、
前記対物レンズは、補正環を備える
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項15】
請求項
12乃至請求項
14のいずれか1項に記載の顕微鏡において、さらに、
前記光学的異方体とは異なる別の光学的異方体であって、光学軸を前記光学的異方体の前記光学軸の方向に向けて配置された前記別の光学的異方体を備える
ことを特徴とする顕微鏡。
【請求項16】
請求項
12乃至請求項
15のいずれか1項に記載の顕微鏡において、
前記光学的異方体は、前記位置に挿脱自在に配置された
ことを特徴とする顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、顕微鏡、及び、リタデーション補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微分干渉顕微鏡は、サンプルのわずかに異なる位置を通過する偏光の干渉によってサン
プルを可視化する顕微鏡であり、サンプルの勾配部分で生じる位相差を利用することで、
コントラストの高い画像を得ることが可能である。このような特徴を有する微分干渉顕微
鏡は、現在、生物分野、工業分野を問わず広く利用されている。
【0003】
微分干渉顕微鏡の用途の一つとして、異方性導電フィルム(Anisotropic
Conductive Film:ACF)を用いて実装されたACFサンプルの導通検
査が知られている。ACFサンプルは、例えば、基板と駆動ICをACFを挟んだ状態で
加熱し加圧することで圧着したサンプルである。ACFサンプルを観察しながらACF内
の導電粒子が基板につけた圧着痕の数をカウントすることで、基板の電極-駆動ICのバ
ンプ間の導通の良否を判定することが可能である。微分干渉顕微鏡は、微小な凹凸である
圧着痕をコントラスト良く表示することができるため、このようなACFサンプルの導通
検査に好適である。
【0004】
その一方で、微分干渉顕微鏡では、サンプルまたはサンプルの容器などが屈折率につい
て異方性を有している場合には、その異方性を有する部分を偏光が通過する際に生じるリ
タデーションによって、偏光の干渉状態が変化してしまう。その結果として、サンプルの
勾配部分に生じるべきコントラストが低下してしまうことがあり、高いコントラストの画
像を得ることができないことがある。
【0005】
そのため、ACFサンプルの基板としてガラス基板に代えてプラスティック基板が採用
される機会が増えた近年では、微分干渉顕微鏡によるACFサンプルの導通検査が難しく
なっている。非晶質であり等方性の物質であるガラスとは異なり、異方性を有するプラス
ティックでは、ACFサンプルの圧着工程によってプラスティック内部に歪が生じやすく
、複屈折が顕著に生じてしまう。その結果として、高いコントラストの画像を得ることが
困難となるからである。
【0006】
このような技術的な課題に関連する技術は、例えば、特許文献1に記載されている。特
許文献1には、微分干渉顕微鏡と同じく偏光を利用する偏光顕微鏡が記載されている。特
許文献1に記載の偏光顕微鏡は、サンプルの特性に応じてコンペンセータの方位を調整す
ることで画像のコントラストを調整することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した技術をプラスティック基板を有するACFサンプルの導通検査
に適用したとしても、その効果は限定的である。
【0009】
ACFサンプルでは、圧着工程において基板と直交する方向に圧力が加わることから、
プラスティック基板は、対物レンズの光軸と平行な方向に光学軸を有する一軸性の光学的
異方体と看做すことができる。このような一軸性の光学的異方体では、入射角度に依存し
て異なるリタデーションが生じることになるため、対物レンズの瞳面内において径方向に
リタデーション量が異なるリタデーション分布が生じることになる。
【0010】
従来のコンペンセータでは、入射角度に依存したリタデーションを十分に調整すること
は困難である。このため、上述した技術を適用したとしても、高いコントラストを有する
ACFサンプルの画像を得ることは困難である。
【0011】
なお、以上では、ACFサンプルを例に説明したが、入射角度に依存したリタデーショ
ンに伴うコントラスト低下は、ACFサンプルにおいてのみ生じるものではなく、また、
微分干渉顕微鏡に限らず偏光顕微鏡でも同様に生じ得る。
【0012】
以上のような実情を踏まえ、本発明の一側面に係る目的は、入射角度に依存して発生す
るリタデーションを調整可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態に係る顕微鏡は、ポラライザと、アナライザと、前記ポラライザから前記アナライザに至る光路上の位置であって、収束光線束または発散光線束の少なくとも一方である光線束が通過する前記位置に、前記顕微鏡の光軸方向に光学軸を向けて配置された、一軸性の光学的異方体と、前記ポラライザから前記アナライザに至る前記光路上の位置に、微分干渉プリズムと、を備える。前記光学的異方体は、サンプル又は前記サンプルの容器に含まれる、前記顕微鏡の光軸方向に光学軸を向けた一軸性の第2の光学的異方体により生じる入射角度に依存したリタデーションを補償する。
【0014】
本発明の一実施形態に係るリタデーション補償方法は、ポラライザとアナライザと対物
レンズを備えた顕微鏡が行う、サンプル又は前記サンプルの容器に含まれる一軸性の第1
の光学的異方体であって前記対物レンズの光軸方向に光学軸を向けた前記第1の光学的異
方体で生じるリタデーションを補償する方法である。前記リタデーション補償方法は、前
記ポラライザを経由して前記サンプルに光を照射することと、前記サンプルに照射した光
を前記アナライザを経由して検出することと、前記ポラライザを通過した光線束であって
収束光線束または発散光線束の少なくとも一方である前記光線束に、前記アナライザを通
過する前に、前記顕微鏡の光軸方向に光学軸を向けた一軸性の第2の光学的異方体を通過
させることを、含む。
【発明の効果】
【0015】
上記の態様によれば、入射角度に依存して発生するリタデーションを調整可能な技術を
提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態に係る顕微鏡100の構成を例示した図である。
【
図3】プラスティック基板210と光学的異方体108の常光線と異常光線の屈折率を例示した図である。
【
図4】プラスティック基板210と光学的異方体108の常光線と異常光線の屈折率の別の例を示した図である。
【
図5】光学的異方体を交換する様子を示した図である。
【
図6】光学的異方体を追加する様子を示した図である。
【
図7】補正環138付きの対物レンズ137を例示した図である。
【
図8】第2の実施形態に係る顕微鏡300の構成を例示した図である。
【
図9】第3の実施形態に係る顕微鏡400の構成を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る顕微鏡100の構成を例示した図である。
図1に示す顕微鏡
100は、サンプル200の観察に用いられる落射型の微分干渉顕微鏡である。以下では
、サンプル200がACFサンプルである場合を例に説明するが、サンプル200は、微
小な段差を有する他のサンプル、例えば、ウェハ、ハードディスク、磁気ヘッド、金属組
織などであってもよく、これらの研磨面又は表面を顕微鏡100を用いて観察してもよい
。
【0018】
顕微鏡100は、ポラライザ104と、アナライザ110と、光学的異方体108と、
を備えている。顕微鏡100は、さらに、光源101と、コレクタレンズ102と、フィ
ールドレンズ103と、ハーフミラー105と、微分干渉(DIC:Differential Inter
ference Contrast)プリズム106と、対物レンズ107と、支持部材109と、結像レ
ンズ111と、撮像素子112を備えてもよい。
【0019】
光源101は、例えば、白色光を出射する光源であり、ハロゲンランプ、タングステン
ランプ、白色LEDなどである。ポラライザ104は、照明光路上に配置された偏光子で
あり、アナライザ110は、観察光路上に配置された偏光子である。DICプリズム10
6は、例えば、ノマルスキープリズムであり、ポラライザ104からアナライザ110に
至る光路上の位置に配置されている。
【0020】
光学的異方体108は、ポラライザ104からアナライザ110に至る光路上の位置に
配置された一軸性の光学的異方体であり、法線を顕微鏡100の光軸方向に向けた平行平
板である。光学的異方体108については後に詳述する。撮像素子112は、例えば、C
MOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)イメージセンサ、CCD(Charged
-coupled devices)イメージセンサなどである。
【0021】
顕微鏡100では、光源101から出射した照明光は、コレクタレンズ102及びフィ
ールドレンズ103を経由してポラライザ104に入射する。ポラライザ104を通過し
た照明光のうちハーフミラー105で反射した照明光は、DICプリズム106、対物レ
ンズ107、光学的異方体108を経由してサンプル200に照射される。サンプル20
0を反射した光(以降、観察光と記す)は、光学的異方体108、対物レンズ107、D
ICプリズム106を経由して、再びハーフミラー105に入射する。ハーフミラー10
5を透過した観察光は、アナライザ110を通過し、結像レンズ111によって撮像素子
112に集光する。
【0022】
以上の過程において、顕微鏡100は、照明光をDICプリズム106で直交する偏光
面を有する2つの直線偏光に分離して、サンプル200のわずかに異なる位置に照射する
。そして、顕微鏡100は、サンプル200で反射した2つの直線偏光に対応する観察光
をDICプリズム106で結合して、サンプル200の像を撮像素子112上に形成する
。撮像素子112上に形成されるサンプル200の像は、サンプル200の厚さの勾配に
よって生じる位相差がコントラストに変換された微分干渉像である。
【0023】
図2は、サンプル200の構造を例示した図である。サンプル200は、プラスティッ
ク基板210と、駆動IC(Integrated Circuit)220と、異方性導電フィルム(An
isotropic Conductive Film:ACF)230と、を含むAC
Fサンプルである。プラスティック基板210は、例えば、光学的に透明な透明プラステ
ィック基板である。
【0024】
サンプル200は、プラスティック基板210と駆動IC220の間に、導電粒子23
1を含むACF230を挟んだ状態で加熱し、さらに、プラスティック基板210と駆動
IC220とを加圧することで形成される。これにより、プラスティック基板210の電
極211と駆動IC220のバンプ221とが電気的に接続される。
【0025】
顕微鏡100を用いてサンプル200の導通検査を行う場合、顕微鏡100の利用者は
、
図2に示す微分干渉像Mを観察しながら、サンプル200形成過程の圧着工程において
プラスティック基板210(電極211)に生じた微小な凹凸である圧着痕212の数を
カウントする。これは、圧着痕212の数は電極211とバンプ221の間に介在してい
る導電粒子231の数に対応していて、その導電粒子231の数が適切であればプラステ
ィック基板210の電極211と駆動IC220のバンプ221とが導通していると判断
することができるからである。
【0026】
しかしながら、サンプル200の形成過程において、プラスティック基板210には加
圧によって歪が生じるため、プラスティック基板210は、加圧方向に沿った光学軸を有
する一軸性の光学的異方体となっている。このため、プラスティック基板210を光線が
透過するときの複屈折によって生じるリタデーションが圧着痕212の凹凸によって生じ
る位相差に加わることで、微分干渉像Mのコントラストが低下してしまう。
【0027】
なお、プラスティック基板210は、この実施形態における第1の光学的異方体であり
、これに対して、光学的異方体108は、の実施形態における第2の光学的異方体である
。
【0028】
微分干渉像Mにおいて圧着痕212をコントラスト良く表示するためには、サンプル2
00で生じるリタデーションを補償する必要がある。より詳細には、サンプル200では
、サンプル200への入射角度に依存したリタデーションが生じるため、サンプル200
への入射角度に依存したリタデーションを補償する必要がある。
【0029】
なお、サンプル200において、サンプル200への入射角度に依存したリタデーショ
ンが生じる理由は、以下のとおりである。
【0030】
一軸性の光学的異方体では、光学軸と平行に入射した光線にはリタデーションが生じな
いのに対して、光学軸に対して傾斜して入射した光線には傾斜角度に依存したリタデーシ
ョンが生じる。これは、一軸性の光学的異方体が、常光線に対しては光学軸との角度によ
らず一定の屈折率を有するのに対して、異常光線に対しては光学軸との角度に応じて異な
る屈折率を有するからである。この例では、プラスティック基板210の加圧方向は、対
物レンズ107の光軸方向に対応していることから、プラスティック基板210は、対物
レンズ107の光軸方向に沿った光学軸を有する一軸性の光学的異方体と看做すことがで
きる。つまり、プラスティック基板210の光学軸は、対物レンズ107の光軸と平行で
あり、光学軸に対する光線角度は、プラスティック基板210への入射角度に相当する。
従って、常光線に対する屈折率と異常光線に対する屈折率の差は入射角度に依存すること
になり、その結果、屈折率差に起因して生じるリタデーションも入射角度に依存すること
になる。
【0031】
そこで、サンプル200で生じるリタデーションを補償するために、顕微鏡100は、
収束光線束または発散光線束の少なくとも一方である光線束が通過する位置に、顕微鏡1
00の光軸方向に光学軸を向けて配置された光学的異方体108を備えている。具体的に
は、光学的異方体108は、
図2に示すように、対物レンズ107が形成した収束光線束
が通過する位置に、光学的異方体108の光学軸を対物レンズ107の光軸方向に向けて
配置されている。さらに具体的には、光学的異方体108は、
図1及び
図2に示すように
、対物レンズ107に固定された支持部材109によって、対物レンズ107とサンプル
200の間に、光学軸を対物レンズ107の光軸方向に向けた状態で固定されている。
【0032】
支持部材109は、対物レンズ107とサンプル200の間で光学的異方体を支持すれ
ばよく、支持部材109を対物レンズ107への固定方法は特に限定しない。対物レンズ
107に螺合することで固定されてもよく、磁石などによって固定されてもよい。
【0033】
なお、顕微鏡100の光軸方向は、光路上の各位置で定義される。例えば、対物レンズ
107とサンプル200の間であれば、顕微鏡100の光学方向は、対物レンズ107の
光軸方向である。また、結像レンズ111と撮像素子112の間であれば、顕微鏡100
の光学方向は、結像レンズ111の光軸方向である。
【0034】
以上のように構成された顕微鏡100では、光学的異方体108は、サンプル200中
の光学的異方体であるプラスティック基板210と同様に収束光線束中に配置され、さら
に、プラスティック基板210と同様に光学軸を顕微鏡100の光軸方向に向けて配置さ
れている。このため、光学的異方体108では、プラスティック基板210と同様に、入
射角度に依存したリタデーションが生じることになる。
【0035】
従って、顕微鏡100によれば、光学的異方体108によって、入射角度に依存して発
生するリタデーションを調整することが可能である。具体的には、光学的異方体108に
、プラスティック基板210とは反対の特性を持たせることで、プラスティック基板21
0で生じる入射角度に依存したリタデーションを、光学的異方体108で生じる入射角度
に依存したリタデーションによって打ち消すことができる。
【0036】
更に具体的には、応力を受けたプラスティック基板210が
図3(a)に示すような負
結晶とみなせる場合には、
図3(b)に示すような正結晶である光学的異方体108を用
いることで、プラスティック基板210で生じる入射角度に依存したリタデーションを打
ち消すことができる。また、応力を受けたプラスティック基板210が
図4(a)に示す
ような正結晶とみなせる場合には、
図4(b)に示すような負結晶である光学的異方体1
08を用いることで、プラスティック基板210で生じる入射角度に依存したリタデーシ
ョンを打ち消すことができる。
【0037】
このため、光路中の他の要素(ここではプラスティック基板210)で生じるリタデー
ションの影響を回避することが可能であり、圧着痕212の凹凸によって生じた位相差を
正しくコントラストに変換することができる。これにより、ACFサンプルの導通検査を
良好に行うことができる。
【0038】
ここで、常光線に対する屈折率No(=no(θ))、光線が光学軸OAに対して90°
の角度で入射したときの異常光線に対する屈折率Ne(=ne(θ=90°))とするとき
、正結晶とは、Ne<Noの関係を有する光学的異方体のことであり、負結晶とは、Ne
>Noの関係を有する光学的異方体のことである。
【0039】
顕微鏡100が有する光学的異方体108は、一軸性の光学的異方体であれば、結晶で
あってもよく、液晶であってもよい。ただし、水晶など旋光性を有する結晶は偏光を乱し
てしまうため、望ましくない。光学的異方体108は、例えば、正結晶であるフッ化マグ
ネシウム(MgF2)であることが望ましい。
【0040】
図5は、光学的異方体を交換する様子を示した図である。
図6は、光学的異方体を追加
する様子を示した図である。
図7は、補正環138付きの対物レンズ137を例示した図
である。
【0041】
顕微鏡100では、プラスティック基板210で生じるリタデーションを光学的異方体
108で生じるリタデーションで補償することで、サンプル200の位相勾配をコントラ
スト良く観察することができる。従って、顕微鏡100は、観察するサンプルで生じるリ
タデーションに応じて光路上に配置する光学的異方体で生じるリタデーションを調整可能
な構成を有することが望ましい。
【0042】
例えば、顕微鏡100では、光学的異方体108は、光路上に挿脱自在に配置されても
よく、
図5に示すように、サンプルに応じて、光学的異方体108を異なる大きさのリタ
デーションを生じさせる光学的異方体118と交換してもよい。その際、光学的異方体1
08と共に支持部材109を対物レンズ107から取り外してから、光学的異方体118
を支持する支持部材119を対物レンズ107に固定してもよい。なお、光学的異方体1
18は、光学的異方体108と同様に一軸性の光学的異方体であり、光学的異方体118
の光学軸を対物レンズ107の光軸方向に向けて配置される。
【0043】
また、顕微鏡100では、複数の光学的異方体を光路上に配置してもよい。複数の光学
的異方体によって生じるリタデーションは、各光学的異方体で生じるリタデーションの和
で算出可能である。そのため、
図6に示すように、サンプルに応じて、光学的異方体10
8に加えて、光学的異方体108とは異なる別の光学的異方体128を光路上に配置する
ことで、リタデーションを調整してもよい。なお、光学的異方体128は、光学的異方体
108と同様に一軸性の光学的異方体であり、光学的異方体128の光学軸を対物レンズ
107の光軸方向に向けて配置される。
【0044】
さらに、顕微鏡100は、
図7に示すように、対物レンズ107の代わりに、補正環1
38を含む対物レンズ137を備えてもよい。顕微鏡100では、平行平板である光学的
異方体108が収束光線束中に配置されるため、光学的異方体108で球面収差が生じる
が、補正環138を用いることで光学的異方体108で生じる球面収差を補正することが
できる。従って、球面収差を良好に補正されるため、高いコントラストの画像を得ること
ができる。
【0045】
[第2の実施形態]
図8は、本実施形態に係る顕微鏡300の構成を例示した図である。
図8に示す顕微鏡
300は、顕微鏡100と同様に、サンプル200の観察に用いられる落射型の微分干渉
顕微鏡である。顕微鏡300は、光学的異方体108及び支持部材109の代わりに、光
学的異方体301を備えている点、及び、アナライザ110が結像レンズ111と撮像素
子112の間に配置されている点が、第1の実施形態に係る顕微鏡100とは異なる。
【0046】
光学的異方体301は、ポラライザ104からアナライザ110に至る光路上の位置に
配置された一軸性の光学的異方体であり、平行平板である。この点は、顕微鏡100の光
学的異方体108と同様である。光学的異方体301は、対物レンズ107と組み合わせ
てサンプル200の像を形成する結像レンズ111とアナライザ110の間の位置に、即
ち、結像レンズ111が形成した収束光線束が通過する位置に、結像レンズ111の光軸
方向に光学軸を向けて配置されている。
【0047】
光学的異方体301でも、第1の実施形態における光学的異方体108と同様に、入射
角度に依存したリタデーションが生じる。従って、顕微鏡300によれば、光学的異方体
301によって、入射角度に依存して発生するリタデーションを調整することが可能であ
り、プラスティック基板210で生じるリタデーションを打ち消すことができる。
【0048】
また、顕微鏡300では、顕微鏡100とは異なり、対物レンズとサンプル200の間
に光学的異方体が配置されないため、サンプル200と対物レンズの間に作業スペースを
確保しやすい。従って、顕微鏡300によれば、作動距離の短い対物レンズが使用された
場合であっても、高い作業性を維持することができる。
【0049】
なお、光学的異方体301も、光学的異方体108と同様に、プラスティック基板21
0とは反対の特性を有することが望ましく、応力を受けたプラスティック基板210が負
結晶とみなせれば光学的異方体301は正結晶であることが望ましい。また、応力を受け
たプラスティック基板210が正結晶とみなせれば光学的異方体301は負結晶であるこ
とが望ましい。
【0050】
[第3の実施形態]
図9は、本実施形態に係る顕微鏡400の構成を例示した図である。
図9に示す顕微鏡
400は、ポラライザ401と、アナライザ406と、光学的異方体404を備えている
。また、顕微鏡400は、コンデンサレンズ402と、対物レンズ403と、支持部材4
05と、結像レンズ407と、撮像素子408を備えてもよい。
【0051】
光学的異方体404は、ポラライザ401からアナライザ406に至る光路上の位置に
配置された一軸性の光学的異方体であり、平行平板である。この点は、顕微鏡100の光
学的異方体108と同様である。また、光学的異方体404は、対物レンズ403と向か
い合わせに配置されたコンデンサレンズ402と対物レンズ403との間の位置に、即ち
、コンデンサレンズ402が形成した収束光線束が発散光線束となって通過する位置に、
コンデンサレンズ402の光軸方向に光学軸を向けて配置されている。
【0052】
光学的異方体404でも、第1の実施形態における光学的異方体108と同様に、入射
角度に依存したリタデーションが生じる。従って、顕微鏡400によれば、光学的異方体
404によって、入射角度に依存して発生するリタデーションを調整することが可能であ
り、プラスティック基板210で生じるリタデーションを打ち消すことができる。
【0053】
なお、光学的異方体404も、光学的異方体108と同様に、プラスティック基板21
0とは反対の特性を有することが望ましく、応力を受けたプラスティック基板210が負
結晶とみなせれば光学的異方体404は正結晶であることが望ましい。また、応力を受け
たプラスティック基板210が正結晶とみなせれば光学的異方体404は負結晶であるこ
とが望ましい。
【0054】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするための具体例を示したものであり、本発
明の実施形態はこれらに限定されるものではない。上述した実施形態の一部を他の実施形
態に適用しても良い。顕微鏡、及び、リタデーション補償方法は、特許請求の範囲の記載
を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0055】
顕微鏡は、以下のリタデーション補償方法を実行すればよい。即ち、ポラライザを経由
してサンプルに光を照射し、ポラライザを通過した光線束であって収束光線束または発散
光線束の少なくとも一方である光線束に、アナライザを通過する前に、顕微鏡の光軸方向
に光学軸を向けた一軸性の第2の光学的異方体を通過させ、さらに、サンプルに照射した
光をアナライザを経由して検出する。これにより、一軸性の第1の光学的異方体であるサ
ンプルまたはサンプルの容器で生じるリタデーションを補償することができる。
【0056】
上述した実施形態では、反射型の微分干渉顕微鏡、及び、透過型の偏光顕微鏡を例示し
たが、上述したリタデーション補償方法は、透過型の微分干渉顕微鏡に適用しても良く、
反射型の偏光顕微鏡に適用してもよい。
【0057】
また、上述した実施形態では、サンプルの一部で生じるリタデーションを補償する例を
示したが、補償するリタデーションは、サンプル内で生じるリタデーションに限らない。
補償するリタデーションは、ポラライザとアナライザの間で生じるリタデーションであれ
ばよく、例えば、サンプルの容器で生じたリタデーションを補償してもよい。
【0058】
また、上述した実施形態では、反射型の顕微鏡の対物レンズとサンプルの間、結像レン
ズと撮像素子の間、透過型の顕微鏡のコンデンサレンズと対物レンズの間に、光学軸を顕
微鏡の光軸に向けて光学的異方体を配置する例を示したが、光学的異方体の配置はこれら
の例に限らない。ポラライザを通過した光線束を収束光線束に変換するレンズよりも像側
であって、そのレンズが形成した収束光線束、その収斂光線束から変化した発散光線束、
又は、その両方が通過する位置、つまり、レンズが形成する収束光線束または発散光線束
の少なくとも一方が通過する位置に配置されてもよい。その場合、光学的異方体の光学軸
をレンズの光軸方向に向けて配置することが望ましい。従って、顕微鏡にリレー光学系が
含まれている場合であれば、例えば、リレー光学系が形成する収束光線束が通過する位置
に光学的異方体を配置してもよい。
【0059】
顕微鏡の対物レンズは、少なくとも2倍以上の倍率を有することが望ましい。ACFサ
ンプルであるサンプル200の圧着痕212は、微小な凹凸であり、拡大倍率で観察する
ことが望ましいからである。対物レンズの倍率は、5倍から20倍程度であることがさら
に望ましい。
【0060】
また、上述した実施形態では、対物レンズの先端に指示部材を用いて光学的異方体を取
り付ける例を示したが、光学的異方体は対物レンズ内に組み込まれてもよい。すなわち、
対物レンズとは別体の光学的異方体を対物レンズに対して着脱する方式、いわゆるキャッ
プ方式での固定に限らず、対物レンズと光学的異方体を一体に構成されてもよい。
【0061】
また、サンプルで生じたリタデーションを補償する光学的異方体の表面には、反射防止
膜が形成されてもよい。反射防止膜が形成されることで、光学的異方体で反射した反射光
によってフレアの発生を抑制することが可能であり、画像のコントラスト低下を回避する
ことができる。なお、反射防止膜は、光学的異方体の両面に形成されることがより望まし
い。
【0062】
また、サンプルで生じたリタデーションを補償するために必要とされる光学的異方体の
厚さは通常は非常に薄く、例えば、0.2mm程度になる場合もある。このため、光学的異方
体が単体で用いられると、物理的な衝撃によって割れてしまうことがある。光学的異方体
が割れてしまうことを避けるために、光学的異方体をカバーガラスと接合してもよく、接
合された光学的異方体とカバーガラスを、対物レンズの先端に取り付けてもよい。また、
2つの異なる結晶性をもつ光学的異方体を接合することも可能である。例えば正結晶の光
学的異方体と負結晶の光学的異方体の両方を配置する場合、合計されたリタデーションは
正結晶のリタデーションの絶対値と負結晶のリタデーションの絶対値の差分で与えられる
。正結晶と負結晶の合計のリタデーションはそれぞれの厚さの差分で決まるため、正結晶
と負結晶は加工的に十分な厚さに設定できる。このため、2つの異なる結晶性をもつ光学
的異方体は、一つの光学的異方体では加工的に難しい薄さが必要なサンプルにも対応が可
能である。
【符号の説明】
【0063】
100、300、400 顕微鏡
101 光源
102 コレクタレンズ
103 フィールドレンズ
104、401 ポラライザ
105 ハーフミラー
106 DICプリズム
107、137、403 対物レンズ
108、118、128、301、404 光学的異方体
109、405 支持部材
110、406 アナライザ
111、407 結像レンズ
112、408 撮像素子
119 支持部材
138 補正環
200 サンプル
210 プラスティック基板
211 電極
212 圧着痕
220 駆動IC
221 バンプ
230 ACF
231 導電粒子
402 コンデンサレンズ
d 厚さ
M 画像
No、Ne、no、ne 屈折率
OA 光学軸
θ 入射角度