(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ラケット用ストリング
(51)【国際特許分類】
A63B 51/02 20150101AFI20230516BHJP
A63B 102/02 20150101ALN20230516BHJP
A63B 102/04 20150101ALN20230516BHJP
A63B 102/06 20150101ALN20230516BHJP
【FI】
A63B51/02
A63B102:02
A63B102:04
A63B102:06
(21)【出願番号】P 2019078689
(22)【出願日】2019-04-17
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390010917
【氏名又は名称】ヨネックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】千葉 慎一郎
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-077743(JP,A)
【文献】登録実用新案第3125667(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0227114(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 51/02
A63B 102/02
A63B 102/04
A63B 102/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸と、この芯糸の外周側に設けられた複数の側糸とを備えて所定方向に延出するラケット用ストリングにおいて、
前記芯糸は、中心軸位置を含む領域に
ポリウレタン繊維、ポリエーテル-エステル共重合繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の少なくとも1つからなる弾性繊維を備え、該弾性繊維は前記延出の方向に平行に延出することを特徴とするラケット用ストリング。
【請求項2】
前記芯糸は、前記弾性繊維の外周側に螺旋状に巻き付けられる芯糸側部を更に備え
、
前記側糸は、複数本の側糸で1セットになっており、S巻方向の8セット、Z巻方向の8セットが前記芯糸を覆うように編組されていることを特徴とする請求項1に記載のラケット用ストリング。
【請求項3】
前記弾性繊維は複数本設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラケット用ストリング。
【請求項4】
前記ラケット用ストリング全体の横断面中に占める前記弾性繊維の断面積の割合が10%以上40%以下に設定されることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載のラケット用ストリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニス、バドミントン、スカッシュなどに使用されるラケット用ストリングに関する。
【背景技術】
【0002】
テニスやバドミントンのラケットには、フェース部分にストリングが網目状に張り渡されている。そして、ラケット用のストリングとして、芯糸になるモノフィラメントやマルチフィラメントの外側を細い側糸になるモノフィラメントで巻き付けるストリングが広く利用されている。
【0003】
このようなストリングとしては、特許文献1や特許文献2に開示されるように、芯糸が弾力性を有する部材を備えた構成が提案されている。具体的には、特許文献1のストリングは、芯糸(芯材)に中空部が形成され、この中空部にウレタンゴム又はシリコンゴムからなる弾性体が設けられて構成される。特許文献2のストリングは、芯糸(芯体)が撚り合わせて結合したマルチフィラメントからなり、該マルチフィラメントに2~3本の細糸状ゴムが混在されて構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平3-83568号公報
【文献】実開平6-48719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のストリングにあっては、中空部の内部に弾性体を充填するように設けた構成とされる。このため、中空部を設けずに中実とした構成に比べ、シャトルに対する反発性を同程度発揮し得るものの、弾性体がストリングの延出方向に伸縮し難くなり、中実とした構成より反発性を向上させることが難しくなる。
【0006】
また、特許文献2のストリングにあっては、細糸状ゴムが他のフィラメントと撚り合わされるので、該細糸状ゴムが概略螺旋形状に形成されることとなる。このため、ストリングが張設及び打球によって延出方向に引っ張られても、細糸状ゴムの螺旋形状がストリングの延出方向に若干変形するものの概ね維持されることとなる。その結果、細糸状ゴムが伸縮方向の弾性力を発揮することが困難となり、これによっても反発性を向上させることが難しくなる。
【0007】
ここで、特許文献2の細糸状ゴムだけでストリングを構成した場合には、ラケットに張設する張力に耐えることができない、という問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたもので、弾性繊維を用いても強度を良好としつつ打球の反発性を向上させることができるラケット用ストリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のラケット用ストリングは、芯糸と、この芯糸の外周側に設けられた複数の側糸とを備えて所定方向に延出するラケット用ストリングにおいて、前記芯糸は、中心軸位置を含む領域にポリウレタン繊維、ポリエーテル-エステル共重合繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の少なくとも1つからなる弾性繊維を備え、該弾性繊維は前記延出の方向に平行に延出することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、芯糸の中心軸位置に設けられる弾性繊維がストリングの延出方向と平行に延出している、つまり、弾性繊維が撚らずに設けられる。これにより、ストリングが張設された状態では弾性繊維が直線的に配設されて伸縮方向の弾性力を良好に発揮でき、該弾性力によって打球時の反発性を向上させることができる。また、弾性繊維を芯糸に設けることで、芯糸の中空部内に弾性体を充填する従来構造に比べ、弾性繊維を含む芯糸が延出方向に伸縮し易くなり、弾性繊維の弾性力を良好に発揮して反発性の向上に寄与することができる。また、弾性繊維は芯糸の一部分となる中心軸位置を含む領域に設けられるので、弾性繊維以外の部分にて強度、切断耐久性を良好に担保することができる。
【0011】
また、本発明のラケット用ストリングにおいて、前記芯糸は、前記弾性繊維の外周側に巻き付けられる芯糸側部を更に備え、前記側糸は、複数本の側糸で1セットになっており、S巻方向の8セット、Z巻方向の8セットが前記芯糸を覆うように編組されているとよい。この構成によれば、芯糸をマルチフィラメントとしつつ弾性繊維を撚らずに芯糸の中心軸位置に設けることができる。これにより、弾性繊維の弾性力を発揮しつつ芯糸としての強度を良好に保つことができる。
【0012】
また、本発明のラケット用ストリングにおいて、前記弾性繊維は複数本設けられるとよい。この構成によれば、弾性繊維の本数を変えることでストリング全体として発揮し得る弾性力を調整できる上、芯糸における延出方向の強度向上に寄与することができる。
【0013】
また、本発明のラケット用ストリングにおいて、前記ラケット用ストリング全体の横断面中に占める前記弾性繊維の断面積の割合が10%以上40%以下に設定されるとよい。この数値範囲によれば、相反する関係となる切断耐久性の向上と反発性の向上との両立を良好に達成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、芯糸に設けられる弾性繊維がストリングの延出方向と平行に延出しているので、強度を良好としつつ打球の反発性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係るストリングを一部断面視した概略斜視図である。
【
図2】実施の形態に係るストリングの横断面図である。
【
図3】ストリングの配合率と切断強力及び反発性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本発明のストリングは、ラケットのフレームに張り渡されてフェースを形成するものであれば、バドミントン、ソフトテニス、テニス、スカッシュ等、種々のラケットに適用することができる。
【0017】
図1は、実施の形態に係るストリングを一部断面視した概略斜視図であり、
図2は、実施の形態に係るストリングの横断面図である。
図1及び
図2に示すように、ストリング10は、中央に位置して横断面で概略円形状の外周を形成する芯糸11と、芯糸11の外周側に螺旋状に巻き付けられた複数本の側糸12a、12bとを備え、所定方向に延出するよう構成される。ストリング10の外形は横断面で円形状に形成される。芯糸11と側糸12a、12bとは一体的に接着される。側糸12a、12bは、芯糸11の周囲に編組して構成されている。側糸12a、12bは複数本の側糸で1セットになっており、S巻方向の8セット、Z巻方向の8セットが芯糸11を覆うように編組されている。
【0018】
芯糸11に巻き付けられた側糸12a、12bの周囲には、内部コーティング層13a(
図1では不図示)が形成された後に、表層コーティング層13bが形成される。各コーティング層13a、13bは熱可塑性樹脂全般を用いることができ、特にポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂を用いることが望ましい。
【0019】
芯糸11は、中心軸位置Cを含む芯糸中心部15と、芯糸中心部15の外周側に設けられる芯糸側部16とからなる二層構造とされる。芯糸側部16は、芯糸中心部15の外周側において、マルチフィラメントを螺旋状に巻き付けた層を芯糸11の径方向に複数積層して形成されている。
【0020】
ここで、芯糸11の芯糸側部16及び側糸12a、12bの材質は特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド、ポリエステル等が使用される。なお、芯糸側部16及び側糸12a、12bにおいて、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等を用いることを妨げるものでない。
【0021】
芯糸中心部15は、複数本の弾性繊維18によって構成される。本実施の形態では、中心となる1本の弾性繊維18の外周を囲って6本の弾性繊維18が収束するように配設されている。各弾性繊維18は、ストリング10の延出方向に平行に延出しており、互いに撚り合わせない無撚りとして配設されている。従って、ストリング10が不図示のラケットに直線状に張設される領域では、各弾性繊維18もストリング10の張設方向と平行に略直線状に配設されることとなる。
【0022】
各弾性繊維18は、ゴム弾性(例えば10MPa以下)が低く小さい力で大きく伸縮する合成繊維製のモノフィラメントが使用される。具体例としては、ポリウレタン繊維、ポリエーテル-エステル共重合繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を挙げることができ、その製造時に延伸して形成される。
【0023】
ストリング10全体の横断面中に占める全ての弾性繊維18の断面積(総和)の割合(以下、「配合率」とする)は、10%以上40%以下に設定されることが好ましく、その理由については後述する。
【0024】
本実施の形態では、弾性繊維18をストリング10の延出方向と平行に直線状に配設できるので、ストリング10が伸長及び収縮すると、該伸縮と略同一長さで弾性繊維18も延出方向に弾性的に伸長及び収縮することとなる。よって、シャトルの打撃(打球)によってストリング10が伸長したときに、その伸長分の復元する方向の弾性力を弾性繊維18が発揮可能となる。これに対し、芯糸にて糸状のゴムを螺旋状に撚り合わせた従来構造では、ストリング10が伸長すると、糸状のゴムが螺旋の径方向に縮まって延出方向に弾性的に伸長し難くなる。よって、従来構造では、伸長が復元する方向の力が発揮し難くなる。これにより、本実施の形態のストリング10では、従来構造に比べ、シャトルの打撃時に、弾性繊維18の弾性力をシャトルに良好に作用させることができ、シャトルの飛びとなる反発性を向上することができる。
【0025】
また、芯糸の中空部分に弾性体を充填する従来構造では、該弾性体が芯糸における弾性体を囲う部分より高い弾力性を発揮し得るが、それらの伸縮性が大きく相違するものでない。この点、本実施の形態のストリング10では、延伸して形成されて大きな伸縮性を有する弾性繊維18を用いるので、シャトルの打撃で弾性繊維18が伸長してから復元する力を発揮し易くなり反発性を向上することができる。
【0026】
弾性繊維18自体は芯糸側部16及び側糸12a、12bに比べて強度及び耐久性が低くなる。しかしながら、芯糸11の中心軸位置Cに部分的に配置されるので、芯糸側部16及び側糸12a、12bによって強度及び耐久性が十分に担保された構成とすることができる。更に、芯糸側部16を螺旋状に巻き付けることで、芯糸側部16で強度を確保しつつ伸縮性を発揮できるようになり、弾性繊維18の弾性力を良好に発揮できるようになる。
【0027】
続いて、上記実施の形態に係るストリングについて反発性及び耐久性を評価するために行った実験について説明する。実験では、実施例として、上記実施の形態のストリング10であって、弾性繊維18の配合率を約15~28%の範囲内にて変更した5タイプ(
図3のグラフ参照)のストリング10を製造した。
【0028】
また、実験では、比較例として、実施例の構成から弾性繊維18を省略したストリングを製造した。そして、比較例のストリングでは、実施例の芯糸側部16を形成するマルチフィラメントによって芯糸中心部15を含む芯糸11全体をマルチフィラメントとして形成した。それ以外の条件については、実施例及び比較例とも同一とし、実施例及び比較例共に、ストリングをバドミントン用のラケットに23ポンドのテンションにて張設した。
【0029】
実施例及び比較例のストリングに対し、反発性を評価するための実験を行った。また、実施例及び比較例のストリングに対し、耐久性を評価するため、ストリングの切断強力を測定する実験を行った。その測定結果を
図3に示す。
図3は、ストリングの配合率と切断強力及び反発性との関係を示すグラフである。
【0030】
実施例及び比較例のストリングを張設したラケットを用いて、プレーヤーが体感したシャトル打撃時の反発性(飛び)を評価した。この評価では、比較例での反発性を「基準」として設定し、該「基準」に対してプレーヤーが反発性の差を明らかに体感する状態を「飛ぶ」とする評価に設定した。また、「基準」と「飛ぶ」との中間の評価を「やや飛ぶ」とし、「飛ぶ」と「やや飛ぶ」との差分を「飛ぶ」に加算した評価を「大きく飛ぶ」、該差分を「大きく飛ぶ」に加算した評価を「非常に飛ぶ」と設定した。このように評価を段階分けし、実施例における5タイプのストリング10を張設した場合でのプレーヤーの採点結果を
図3のグラフにて「□」(白抜き四角)にてプロットする。
【0031】
図3のグラフでは、プロットした比較例及び実施例の採点結果から非線形最小二乗法で求めた曲線も点線にて描いている。該曲線上で、「飛ぶ」とする評価を下回るときの配合率は10%弱となる。従って、弾性繊維18の上記配合率が10%以上となるときに、良好な反発性を発揮することができる。
【0032】
ストリング10の切断強力を測定する実験では、実施例の各ストリング10を、オートグラフ AGS-J((株)島津製作所 製)にて、切断強力を測定した。測定条件は、JIS L1013:2010年度版「化学繊維フィラメント糸試験方法」に準ずるものであり、試料つかみ間隔250mm、引張速度300mm/min、試験回数を各ストリング10にて3回ずつとした。そして、3回の試験の平均値となる各測定結果から最小二乗法で求めた直線を太い実線にて
図3のグラフに示す。ここで、バドミントンのストリングにおける実使用に耐えうる切断強力の下限値は200Nとされる。
図3のグラフにおいて、切断強力の測定結果から求めた直線上で切断強力が200Nを下回るときの配合率は40%強となる。従って、上記配合率が40%以下となるときに、良好な切断耐久性を発揮することができる。
【0033】
以上のように、弾性繊維18の配合率が10%以上40%以下の範囲R(
図3参照)であると、実施例のストリング10のように反発性と切断耐久性との両方を良好に発揮することができる。
【0034】
また、実施例及び比較例のストリングにおいて、反発性を評価すべく伸長弾性率を測定した。かかる伸長弾性率の測定では、ストリング10を元の長さより15%長くなるまで伸長し、伸長したまま1分間保持した。その後、元の位置まで戻してから3分後の復元率を測定し、完全に復元する場合を100%とした。伸長弾性率(復元率)は、数値が大きいほど撓んで復元する力が強くなり、打撃したシャトルをより遠くに飛ばせることができる。実施例として配合率18.5%のストリング10では、伸長弾性率が87.5%、比較例のストリングでは、伸長弾性率83.4%となった。従って、実施例の方が比較例に比べシャトルが良く飛ぶとする測定結果が得られ、上述したプレーヤーの体感による反発性評価の裏付けとなる。
【0035】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状、方向などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0036】
例えば、弾性繊維18の本数は、1本(単数)や、7本より増減した複数本にする等、適宜変更が可能である。このとき、反発性を良好に発揮できるよう、弾性繊維18の太さを調整するとよい。本発明では、弾性繊維18がストリング10の延出方向と平行に延出する限りにおいて、弾性繊維18の本数及び太さを選択して採用できるものである。
【0037】
また、ストリング10の中心軸位置Cに弾性繊維18で形成される芯糸中心部15の中心が位置する場合を図示したが、これに限られるものでなく、それらの位置がずれていてもよい。
【0038】
また、芯糸側部16及び側糸12a、12bの厚さや巻き付け形態、積層形態は、ストリング10として形成できる限りにおいて種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のラケット用ストリングは、強度を良好としつつ打球の反発性を向上できるという効果を有する。
【符号の説明】
【0040】
10 ストリング
11 芯糸
12a、12b 側糸
16 芯糸側部
18 弾性繊維
C 中心軸位置