(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】位置推定装置、位置推定システム及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 5/14 20060101AFI20230516BHJP
B60R 25/24 20130101ALI20230516BHJP
E05B 49/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G01S5/14
B60R25/24
E05B49/00 J
(21)【出願番号】P 2019095733
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 和洋
(72)【発明者】
【氏名】三治 健一郎
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/207050(WO,A1)
【文献】特開2009-127336(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017089(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016223252(DE,A1)
【文献】特開2017-118485(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0099643(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-5/14
B60R 25/00-25/40
E05B 49/00-49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(400)に搭載され、前記車両のユーザに携帯される携帯機(200)の位置を推定する位置推定装置(100,100d)であって、
前記携帯機と信号の送受信を行う車両側送受信機(17、70、70d)と、
前記車両側送受信機が前記携帯機から受信した信号を用いて、前記携帯機と前記車両側送受信機との距離データを取得する距離データ取得部(12)と、
新たに取得された前記距離データである今回距離データと、前記今回距離データよりも前に取得された前記距離データである前回距離データの変化から、前記携帯機の移動速度を算出する移動速度算出部(13)と、
前記移動速度が前記ユーザの移動速度範囲に基づいて予め定められた第1速度(V1)未満である場合に、前記今回距離データを用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定するための位置推定用距離を更新し、前記移動速度が前記第1速度以上である場合に、前記今回距離データを用いて前記位置推定用距離を更新しない処理である、選択的更新処理を実行する、更新部(14)と、
前記位置推定用距離を用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定する位置推定部(62,62d)と、を備える、
位置推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置推定装置であって、
前記更新部は、更に、前記選択的更新処理において、
前記移動速度が前記第1速度(V1)未満である場合に、前記今回距離データを用いて前記移動速度を算出するための前記前回距離データを更新し、
前記移動速度が前記第1速度以上であることを含む予め定められた速度条件が成立した場合に、前記今回距離データを用いて前記移動速度を算出するための前記前回距離データを更新しない、位置推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の位置推定装置であって、
前記選択的更新処理における前記速度条件は、
算出された前記移動速度が、前記第1速度よりも大きい予め定められた第2速度(V2)以上であることが、予め定められた期間において予め定められた回数継続しないことを含み、
前記更新部は、前記選択的更新処理において、
取得された前記移動速度が前記第1速度以上かつ前記第2速度未満である場合、又は、取得された前記移動速度が前記第2速度以上であることが前記予め定められた期間において前記予め定められた回数継続した場合には、前記今回距離データを用いて前記前回距離データを更新し、
前記速度条件が成立した場合には、前記今回距離データを用いて前記前回距離データを更新しない、位置推定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の位置推定装置であって、
前記車両の異なる位置に配置された複数の前記車両側送受信機を備え、
前記距離データ取得部は、複数の前記車両側送受信機ごとに前記距離データを取得し、
前記移動速度算出部は、複数の前記車両側送受信機ごとに前記移動速度を算出し、
前記更新部は、複数の前記車両側送受信機ごとに、前記選択的更新処理を実行し、
前記位置推定部は、
複数の前記車両側送受信機ごとの最新の複数の前記位置推定用距離を用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定し、
前記携帯機の位置の推定では、前記位置推定用距離が短いほど位置の推定への反映の程度を大きくする、位置推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の位置推定装置であって、
前記位置推定部は、更に、
複数の前記車両側送受信機ごとの最新の前記位置推定用距離のうち、少なくとも最短の前記位置推定用距離を算出するために用いられた信号の強度を取得し、
前記信号の強度が予め定められた第1強度以上である場合に、前記第1強度未満である場合よりも位置の推定への反映の程度を大きくして、前記車両に対する前記携帯機の位置を推定する、位置推定装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の位置推定装置であって、
複数の前記車両側送受信機のうちの少なくとも2つの前記車両側送受信機は、前記車両の前端部分の車幅方向中央部(Fc)と、前記車両の後端部分の車幅方向中央部(Bc)とを結ぶ線分(Ln1)の中間点である車両中心(Ct)を挟んで一方側と他方側に分かれて配置されており、
前記位置推定部は、複数の前記車両側送受信機ごとの最新の複数の前記位置推定用距離のうち、最短の前記位置推定用距離に対応する前記車両側送受信機と、最長の前記位置推定用距離に対応する前記車両側送受信機とが前記車両中心を挟んで互いに対向することを含むエリア推定条件が満たされた場合に、最短の前記位置推定用距離に対応する前記車両側送受信機が形成するエリア内に前記携帯機が位置すると推定する、位置推定装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれか一項に記載の位置推定装置であって、
前記位置推定部は、
複数の前記車両側送受信機ごとに更新された複数の前記位置推定用距離を用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定し、
過去に推定した前記携帯機の位置と、新たに推定した前記携帯機の位置の変化から、推定した前記携帯機の位置の移動速度である推定位置移動速度を算出し、
前記推定位置移動速度が前記ユーザの移動速度範囲に基づいて予め定められた第3速度(V3)未満である場合に、新たに推定した前記携帯機の位置を複数の前記車両側送受信機の前記車両への搭載環境に応じて予め定められている補正値で補正して、過去に推定した前記携帯機の位置を更新する、位置推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の位置推定装置であって、
前記距離データ取得部は、前記携帯機と前記車両側送受信機との信号の送受信に要した時間を用いて、前記車両側送受信機と前記携帯機との前記距離データを算出する、位置推定装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の位置推定装置(100)であって、
前記車両側送受信機(17)を含む副車載装置(10~50)と通信可能な主車載装置(60)を備え、
前記副車載装置は、前記距離データ取得部と、前記移動速度算出部と、前記更新部とを有し、
前記主車載装置は、前記位置推定部を有する、位置推定装置。
【請求項10】
位置推定システム(500,500d)であって、
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の位置推定装置と、
前記携帯機と、を備える、位置推定システム。
【請求項11】
車両のユーザに携帯される携帯機の車両に対する位置を推定する位置推定方法であって、
前記車両には、前記携帯機と信号の送受信を行う車両側送受信機が搭載され、
前記車両側送受信機が前記携帯機から受信した信号を用いて、前記携帯機と前記車両側送受信機との距離データを取得し(S210)、
新たに取得された前記距離データである今回距離データと、前記今回距離データよりも前に取得された前記距離データである前回距離データの変化から、前記携帯機の移動速度を算出し(S220)、
前記移動速度が前記ユーザの移動速度範囲に基づいて予め定められた第1速度未満である場合に、前記今回距離データを用いて前記車両に帯する前記携帯機の位置を推定するための位置推定用距離を更新し、前記移動速度が前記第1速度以上である場合に、前記今回距離データを用いて前記位置推定用距離を更新せず(S230~S260)、
前記位置推定用距離を用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定する(S300)、
位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に対する携帯機の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両に搭載された電子制御ユニットと、車両のユーザに携帯される移動通信ユニットとを備え、移動通信ユニットの位置を推定する車両通信システムが記載されている。このシステムでは、電子制御ユニットと移動通信ユニットとの信号の送受信に要する時間に基づいて、移動通信ユニットの位置を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ユーザによって携帯される携帯機と車両との間に人体等の障害物がある場合には、車両側の信号送受信機は、携帯機から送信された信号を障害物等による反射波として受信するため、直接波を用いて位置推定を行う場合と比較して位置推定の誤差が大きくなるおそれがあった。そのため、誤差の影響を抑制し、車両に対する携帯機の位置を推定する精度を向上させる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の第1の形態によれば、車両(400)に搭載され、前記車両のユーザに携帯される携帯機(200)の位置を推定する位置推定装置(100、100d)が提供される。この位置推定装置は、前記携帯機と信号の送受信を行う車両側送受信機(17、70、70d)と、前記車両側送受信機が前記携帯機から受信した信号を用いて、前記携帯機と前記車両側送受信機との距離データを取得する距離データ取得部(12)と、新たに取得された前記距離データである今回距離データと、前記今回距離データよりも前に取得された前記距離データである前回距離データの変化から、前記携帯機の移動速度を算出する移動速度算出部(13)と、前記移動速度が前記移動速度が前記ユーザの移動速度範囲に基づいて予め定められた第1速度(V1)未満である場合に、前記今回距離データを用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定するための位置推定用距離を更新し、前記移動速度が前記第1速度以上である場合に、前記今回距離データを用いて前記位置推定用距離を更新しない処理である、選択的更新処理を実行する、更新部(14)と、前記位置推定用距離を用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定する位置推定部(62,62d)と、を備える。
【0007】
この形態の位置推定装置によれば、携帯機の移動速度がユーザの移動速度範囲に基づいて定められた第1速度未満である場合には、新たに取得された距離データである今回距離データを用いて車両に対する携帯機の位置を推定するための位置推定用距離が更新され、第1速度以上である場合には上記更新が行われない。そのため、携帯機の移動速度が第1速度以上という異常値である場合に更新された位置推定用距離を用いて携帯機の位置が推定されることを抑制でき、車両に対する携帯機の位置を推定する精度を向上できる。
【0008】
本開示の第2の形態によれば、車両のユーザに携帯される携帯機の車両に対する位置を推定する位置推定方法が提供される。前記車両には、前記携帯機と信号の送受信を行う車両側送受信機が搭載され、前記車両側送受信機が前記携帯機から受信した信号を用いて、前記携帯機と前記車両側送受信機との距離データを取得し(S210)、新たに取得された前記距離データである今回距離データと、前記今回距離データよりも前に取得された前記距離データである前回距離データの変化から、前記携帯機の移動速度を算出し(S220)、前記移動速度が前記ユーザの移動速度範囲に基づいて予め定められた第1速度未満である場合に、前記今回距離データを用いて前記車両に帯する前記携帯機の位置を推定するための位置推定用距離を更新し、前記移動速度が前記第1速度以上である場合に、前記今回距離データを用いて前記位置推定用距離を更新せず(S230~S260)、前記位置推定用距離を用いて前記車両に対する前記携帯機の位置を推定する(S300)。
【0009】
この形態の位置推定装置によれば、携帯機の移動速度がユーザの移動速度範囲に基づいて定められた第1速度未満である場合には、新たに取得された距離データである今回距離データを用いて車両に対する携帯機の位置を推定するための位置推定用距離が更新され、第1速度以上である場合には上記更新が行われない。そのため、携帯機の移動速度が第1速度以上という異常値である場合に更新された位置推定用距離を用いて携帯機の位置が推定されることを抑制でき、車両に対する携帯機の位置を推定する精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】位置推定システムにおいて実行される認証処理の手順を示すフローチャート。
【
図6】
図5に示すステップS200の測距処理の手順を示すフローチャート。
【
図7】
図5に示すステップS300の位置推定処理の手順を示すフローチャート。
【
図9】第2実施形態におけるステップS300の位置推定処理の手順を示すフローチャート。
【
図10】第3実施形態におけるステップS300の位置推定処理の手順を示すフローチャート。
【
図11】エリア推定処理の手順を示すフローチャート。
【
図12】他の実施形態における位置推定システムを示す図。
【
図13】他の実施形態における位置推定装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.第1実施形態
図1に示す位置推定システム500は、車両400に搭載された位置推定装置100と、車両400のユーザによって携帯される携帯機200と、を備える。位置推定システム500は、位置推定装置100と携帯機200とが互いに無線通信を行うことにより、車両400に対する携帯機200の位置を推定するシステムである。
【0012】
本実施形態において、位置推定装置100は、リモートキーレスエントリ及びスマートエントリを実現可能に構成されている。リモートキーレスエントリとは、車両400のユーザが携帯機200を操作すると、かかる操作に応じて車両400のドアの開閉、開錠、施錠等が行われることを意味する。スマートエントリとは、車両400のユーザが携帯機200を携帯して車両400の近傍の無線通信可能な領域に進入したときに車両400のドアの開錠が行われたり、車両400内に携帯機200が携帯された状態でユーザがスイッチを操作することにより、車両400を始動させたりすることを意味する。
【0013】
携帯機200は、車両400用の電子キーとしてユーザに携帯されて用いられる。携帯機200として、例えば、電子キーの専用装置の他、電子キーとしての機能を有する携帯通信端末を用いてもよい。
図2に示すように、携帯機200は、CPU210と、メモリ230と、操作部240と、携帯機側送受信機250とを備える。各部は、バスにより相互に接続されている。CPU210は、メモリ230に記憶されたプログラムを展開して実行することにより、携帯機側制御部220として機能する。メモリ230には、識別子(ID)が記憶されている。操作部240は、車両400のドア開閉等の操作を指示するためのスイッチを有する。スイッチに代えて、タッチパネルが用いられてもよい。
【0014】
携帯機側送受信機250は、位置推定装置100との無線通信を可能に構成されている。本実施形態において、無線通信は、LF(Low Frequency)帯の電波とUHF(Ultra High Frequency)帯の電波を用いた通信と、UWB(Ultra Wide Band)帯の電波を用いた通信と、を含む。LF帯は、例えば、30kHz~300kHzの周波数帯を意味する。UHF帯は、例えば、300MHz~3GHzの周波数帯を意味する。UWB帯は、例えば、500MHz以上の周波数帯を意味する。UWB信号のパルス幅は、例えば2nsである。
【0015】
携帯機側送受信機250は、LF受信機251と、UHF送信機252と、UWB送受信機253と、を備える。図示は省略するが、携帯機側送受信機250は、各信号を送受信するためのアンテナを備える。
【0016】
LF受信機251は、LF帯の信号(以下、「LF信号」とも呼ぶ)を受信可能に構成されている。LF受信機251はLF信号を受信すると、その信号の増幅及び符号化等の電気的処理を行って受信信号を生成し、携帯機側制御部220へ出力する。UHF送信機252は、UHF帯の信号(以下、「UHF信号」とも呼ぶ)を送信可能に構成されている。UHF送信機252は、携帯機側制御部220から入力された原信号の変調及び増幅等の電気的処理を行ってUHF信号を生成し、携帯機200の周辺に送信する。UWB送受信機253は、UWB帯の信号(以下、「UWB信号」とも呼ぶ)を送受信可能に構成されている。UWB送受信機253は、UWB信号を受信すると、その信号の増幅及び符号化等の電気的処理を行って受信信号を生成し、携帯機側制御部220へ出力する。また、UWB送受信機253は、携帯機側制御部220から入力された原信号の変調及び増幅等の電気的処理を行ってUWB信号を生成し、携帯機200の周辺に送信する。
【0017】
携帯機側制御部220は、携帯機200を全体制御する。携帯機側制御部220は、携帯機側送受信機250を介してLF信号としてリクエスト信号を受信すると、メモリ230に記憶されたIDを含む、リクエスト信号に対応する応答用の原信号を生成し、UHF信号として携帯機側送受信機250へ出力する。携帯機側制御部220は、UWB送受信機253からUWB信号が入力された場合、UWB送受信機253から応答信号としてUWB信号を返送するように構成されている。
【0018】
図1及び
図3に示すように、位置推定装置100は、主車載装置60と、副車載装置10、20、30、40、50とを備える。主車載装置60は、CAN(Controller Area Network)バス101を介して車両制御装置300と相互に接続されている。車両制御装置300は、車両400のドアの開閉を制御するボディECU(Electronic Control Unit)や、車両400のエンジンの始動や停止を制御するエンジンECU等の車両400の制御に用いられるECUである。主車載装置60は、LIN(Local Interconnect Network)81を介して、副車載装置10~50と相互に接続されている。通信バスは、上記以外の、マルチメディア系の通信バス、パワトレ系の通信バス、ボディ系の通信バス等を用いてもよく、CXPI(Clock Extension Peripheral Interface、登録商標)、FlexRay(登録商標)、MOST(Media Oriented Systems Transport、登録商標)等を用いて構成されていてもよい。
【0019】
図1に示すように、副車載装置10は、車両400の中心Ctに配置されている。車両400の中心Ctとは、車両400の前端部分の車幅方向中央部Fcと、車両400の後端部分の車幅方向中央部Bcとを結ぶ線分(直線Ln1)の中間点である。
図1に示す直線Ln2は、車両400の車幅方向に平行であって、かつ、中心Ctを通る直線である。以下、車両400の右側を「一方側」とも呼び、車両400の左側を「他方側」とも呼ぶ。副車載装置20は、車両400の前方右側ドア付近に配置されている。副車載装置20は、直線Ln2より前方側であって、直線Ln1より一方側に配置されていると言い換えることもできる。副車載装置30は、車両400の前方左側ドア付近に配置されている。副車載装置30は、直線Ln1に対して副車載装置10と対称の位置に配置されている。副車載装置40は、車両400の後方右側ドア付近に配置されている。副車載装置40は、直線Ln2より後方側であって、直線Ln1より一方側に配置されていると言い換えることもできる。副車載装置50は、直線Ln1に対して副車載装置40と対象の位置に配置されている。副車載装置20と副車載装置50は車両中心Ctを挟んで対向しており、副車載装置30と副車載装置40とは車両中心Ctに対して対向している。他の形態では、副車載装置10~50と同様の副車載装置が、車両400の後方に設けられた、トランクルームを開閉するためのドア付近に配置されていてもよい。また、副車載装置10~50と同様の副車載装置が、車両中心Ctを挟んで、トランクルームのドア付近に配置された副車載装置と対向する位置に配置されていてもよい。「2つの副車載装置が車両中心Ctを挟んで対向する」とは、2つの副車載装置を結ぶ直線上に車両中心Ctが位置する場合に限らない。例えば、一方の副車載装置と車両中心Ctを結ぶ直線と、他方の副車載装置と車両中心Ctを結ぶ直線上とが、120°以上180°以下の任意の角度で交差するような場合も含み得る。車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度を向上させる観点から、副車載装置10~50は、携帯機200が少なくとも2つの副車載装置と同時に通信可能なように、車両400に対して配置されることが好ましい。
【0020】
図3に示すように、副車載装置10は、CPU11とメモリ16と副送受信機17と図示しない入出力インターフェイスとを備える。CPU11は、メモリ16に記憶されたプログラムを展開して実行することで、距離データ取得部12、移動速度算出部13、更新部14として機能する。
【0021】
副送受信機17は、UWB送受信機18を備える。図示は省略するが、副送受信機17は、UWB信号を送受信するためのアンテナを備える。UWB送受信機18は、UWB信号を送受信可能に構成されている。UWB送受信機18は、UWB信号を受信すると、その信号の増幅及び符号化等の電気的処理を行って受信信号を生成し、CPU11へ出力する。UWB送受信機18は、CPU11から入力された原信号の変調及び増幅等の電気的処理を行ってUWB信号を生成し、副車載装置10の周辺に送信する。
【0022】
距離データ取得部12は、副送受信機17が携帯機200から受信したUWB信号を用いて、携帯機200と副車載装置10との距離データを繰り返し演算し、取得する。本実施形態において、距離データ取得部12は、携帯機200と副送受信機17とのUWB信号の送受信に要した時間(以下、飛行時間)を用いて、携帯機200と副車載装置10との距離データを算出し、取得する。より具体的には、距離データ取得部12は、飛行時間を計測し、飛行時間とUWB信号の伝播速度とを用いて距離を算出し、取得する。飛行時間は、例えば、副車載装置10や携帯機200に備えられた、図示しないクロック発信器から入力されるクロック信号を計数することで、計測可能である。なお、携帯機200は、位置推定装置100と信号の送受信を常に実行していてもよいし、所定の条件が満たされた場合に実行してもよい。所定の条件とは、例えば、後述する認証処理により、携帯機200が位置推定装置100において登録された正規の携帯機200と認証されることや、ユーザにより車両400のドアが開けられたことや、車両400のエンジンスイッチがオンされたことである。所定の条件が満たされた場合に信号の送受信を開始することとすれば、携帯機200の電力消費を抑制することができる。
【0023】
移動速度算出部13は、新たに取得された距離データである今回距離データD1と、今回距離データよりも以前に取得された前回距離データD2の変化から、携帯機200の移動速度Vを繰り返し算出する。具体的には、今回距離データD1と前回距離データD2の差分と、前回距離データD2を取得した時刻から今回距離データD1を取得した時刻までの時間とを用いて、携帯機200の移動速度Vを算出する。
【0024】
更新部14は、移動速度Vに応じて位置推定用の距離を更新し又は位置推定用距離を更新しない処理である、選択的更新処理を実行する。位置推定用距離は、後述の位置推定処理において用いられる距離である。選択的更新処理では、更新部14は、移動速度Vが第1速度V1未満である場合に、今回距離データD1を用いて、過去の位置推定用距離を更新する。この場合、更新部14は、今回距離データD1を用いて更新された位置推定用距離を、副車載装置10と携帯機200の最新の距離として特定する。第1速度V1は、ユーザの移動速度として推定される速度範囲の上限よりも大きな値として、予め実験等により定められ設定されている。また、第1更新処理では、更新部14は、移動速度Vが第1速度V1以上である場合には、今回距離データD1を用いて位置推定用距離を更新しない。この場合、更新部14は、直前に更新された位置推定用距離を、副車載装置10と携帯機200との最新の距離として特定する。なお、位置推定用距離として、今回距離データ及び移動速度算出に用いられた所定回数分の前回距離データの移動平均値を用いることで、位置推定用距離の信頼性を向上させることができる。
【0025】
本実施形態では、更新部14は、更に、移動速度Vが第1速度V1未満である場合に、移動速度を算出するための前回距離データD2を今回距離データD1で更新する。また、更新部14は、移動速度Vが第1速度V1以上であることを含む予め定められた速度条件が成立した場合に、移動速度を算出するための前回距離データD2を今回距離データD1を用いて更新しない。本実施形態では、速度条件は、第1速度V1よりも大きい予め定められた第2速度V2以上であることが、予め定められた期間において予め定められた回数継続しないことである。本実施形態における選択的更新処理では、移動速度Vが第1速度V1以上かつ第2速度V2未満である場合や、移動速度Vが第2速度以上V2であることが予め定められた期間において予め定められた回数継続した場合には、移動速度算出用の前回距離データD2が今回距離データD1で更新され、位置推定用距離は更新されない。また、移動速度Vが第2速度以上V2であることが、予め定められた期間において予め定められた回数継続しない場合には、前回距離データD2は今回距離データD1で更新されず、かつ、位置推定用距離は更新されない。
【0026】
副車載装置20~50の構成は、副車載装置10と同様である。すなわち、各副車載装置の備える距離データ取得部12により、各副車載装置と携帯機200との距離データが取得され、各副車載装置の移動速度算出部13により移動速度Vが算出され、各副車載装置20~50の更新部14により、選択的更新処理が実行される。本明細書において、位置推定装置100に備えられ、携帯機200との距離データを算出、取得するための信号の送受信を行う送受信機を、「車両側送受信機」とも呼ぶ。本実施形態において、副車載装置10~50の副送受信機17は、「車両側送受信機」に相当する。
【0027】
主車載装置60は、CPU61と、メモリ64と、主送受信機70と、図示しないインターフェイスと、を備える。CPU61はメモリ64に記憶されたプログラムを展開して実行することにより、位置推定部62及び主制御部63として機能する。メモリ64には、位置推定装置100固有のIDが記憶されている。主車載装置60のメモリ64に記憶されたIDは、携帯機200のメモリ230に記憶されたIDと同じである。すなわち、携帯機200と位置推定装置100には、予め共通のIDが設定されている。
【0028】
主送受信機70は、LF送信機71と、UHF受信機72とを備える。図示は省略するが、主送受信機70は、各信号を送受信するためのアンテナを備える。LF送信機71は、LF信号を送信可能に構成されている。LF送信機71は、CPU61から入力された原信号の変調及び増幅等の電気的処理を行ってLF信号を生成し、車両400の周辺に送信する。UHF受信機72は、UHF信号を受信可能に構成されている。UHF受信機72は、UHF信号を受信すると、その信号の増幅及び符号化等の電気的処理を行って受信信号を生成し、CPU61へ出力する。主送受信機70は、更に、UWB信号を送受信可能に構成されていてもよいし、BLE規格を用いた通信を行うように構成されていてもよい。
【0029】
位置推定部62は、車両400に対する携帯機200の位置を推定する位置推定処理を実行する。本実施形態では、位置推定部62は、副車載装置10~50から入力される最新の位置推定用距離を用いて、車両400に対する携帯機200の位置を繰り返し推定する。主制御部63は、主車載装置60を全体制御する。また、主制御部63は、携帯機200が位置推定装置100において登録された正規の携帯機200であることを認証するための認証処理を実行する。
【0030】
図4を参照して、認証処理について説明する。認証処理は、後述する位置推定処理に先立って実行される。認証処理は、位置推定装置100において携帯機200の認証が済んでおらず、認証フラグがオフである場合に実行される。
【0031】
ステップS100では、主制御部63は、車両400の周辺に、LF送信機71を介してLF帯のリクエスト信号を繰り返し送信する。ステップS110において、主制御部63は、UHF受信機72を介して携帯機200からの応答信号を受信すると、処理をステップS120に進め、応答信号に含まれるIDと、メモリ64に記憶されたIDとを照合する。IDが一致する場合には、主制御部63は、処理をステップS130に進め、携帯機200が位置推定装置100において登録された正規の携帯機200であることを認証し、認証フラグをオンにする。ステップS110において応答信号を受信しない場合や、ステップS120においてIDが一致しない場合には、主制御部63は、処理をステップS100に戻し、リクエスト信号を送信する。本実施形態において、この処理は、主制御部63が実行するが、位置推定部62が実行してもよい。なお、認証フラグは、車両400が始動していない状態でドアが開けられたときに、オフされてもよい。上記構成においては、例えば、車両400が始動しておらず、ドアが閉じられた状態で認証処理が実行されて認証が完了した後に、ドアのオープンをトリガとして認証フラグがオフされると、認証処理が再び実行されることとなる。
【0032】
認証が完了すると、位置推定部62は、
図5に示す推定処理を開始する。推定処理は、測距処理(ステップS200)と、位置推定処理(ステップS300)とを備える。本実施形態では、位置推定部62の指示により、副車載装置10~50においてそれぞれ測距処理(ステップS200)が開始される。以下では、副車載装置10が測距処理を実行する態様を例として説明する。測距処理が開始されると、測距処理と並行して、距離データ取得部12は、副車載装置10の周辺に、UWB送受信機18を介してUWB信号を送信する。携帯機側制御部220は、UWB信号を受信すると、UWB帯の応答信号を生成し、UWB送受信機253を介して送信する。このようにして、副車載装置10と携帯機200との間でUWB信号の送受信が繰り返される。
【0033】
図6に示すように、ステップS210では、距離データ取得部12は、副送受信機17から送受信したUWB信号の飛行時間と電波速度とを用いて、副車載装置10と携帯機200との距離データを算出し、取得する。ステップS220では、移動速度算出部13は、過去に取得された前回距離データD2とステップS210において新たに取得された今回距離データD1との変化から、移動速度Vを算出する。
【0034】
ステップS230では、更新部14は、移動速度Vが第1速度V1未満か否かを判定する。更新部14は、移動速度Vが第1速度V1未満である場合には(ステップS230、YES)、処理をステップS250に進め、過去に算出され、副車載装置10と携帯機200との位置推定用距離として特定されていた距離を、ステップS210で算出された距離データD1を用いて更新する。本実施形態では、更新部14は、位置推定用距離としての距離データの移動平均を、今回距離データD1を用いて更新する。ステップS260では、更新部14は、移動速度算出用の前回距離データD2を、今回距離データD1で更新する。
【0035】
移動速度Vが第1速度V1以上の場合には(ステップS230、NO)、更新部14は処理をステップS240に進め、移動速度Vが第2速度V2未満か否かを判定する。ステップS240において、移動速度Vが第2速度V2未満である場合には(ステップS240、YES)、更新部14は、処理を上述のステップS260に進める。したがって、この場合には、上述のステップS250が実行されないので、ステップS210で取得された距離データD1は位置推定用の距離として用いられず、過去に算出され、副車載装置10と携帯機200との位置推定用距離として特定されていた距離が、副車載装置10と携帯機200との最新の距離となる。また、移動速度算出用の前回距離データD2は、ステップS210で取得された今回距離データD1で更新される。本実施形態において、更新部14は、移動速度Vが第2速度V2以上の場合には(ステップS240、NO)、処理をステップS242に進めてカウント値を1増やす。
【0036】
ステップS244では、更新部14は、移動速度Vが第2速度V2以上となったことが、期間T内にm回継続したか否かを判定する。副送受信機17と携帯機200とが一時的に信号を送受信できない等、位置推定システム500における何らかの通信障害が生じ、その後、携帯機200が移動し続けると、一時的に信号が送受信できなくなる直前に算出された距離データと、信号の送受信が可能となった後に算出された距離データとの差が広がり続ける。その結果、移動速度Vが第2速度V2以上を示し続ける場合がある。第2速度V2、期間T及び回数mは、このような事態が生じていると判断可能な速度、期間及び回数であり、実験やシミュレーションにより予め定められる。
【0037】
ステップS244において、移動速度Vが第2速度V2以上となったことが、期間T内にm回継続しない場合には(ステップS244、NO)、更新部14は、本処理ルーチンを抜ける。この場合には、上述のステップS250及びステップS260が実行されないので、ステップS210で取得された距離データD1は位置推定用の距離として用いられず、過去に算出され、副車載装置10と携帯機200との位置推定用距離として特定されていた距離が、副車載装置10と携帯機200との最新の距離となる。また、移動速度算出用の前回距離データD2は、ステップS210で取得された距離データD1で更新されない。
【0038】
ステップS244において、移動速度VがV2以上となったことが、期間T内にm回継続した場合には(ステップS244、YES)、更新部14は、ステップS246においてカウントをクリアし、処理をステップS260に進める。したがって、ステップS240で肯定判定された場合と同様に、ステップS210で取得された距離データD1は位置推定用の距離として用いられず、過去に算出され、副車載装置10と携帯機200との位置推定用距離として特定されていた距離が、副車載装置10と携帯機200との最新の距離となる。また、移動速度算出用の前回距離データD2は、ステップS210で取得された今回距離データD1で更新される。移動速度Vが第2速度V2以上であることが、期間T内にm回連続した場合、仮に通信障害から復帰したとしても、もはや更新前の過去の距離データD2に基づいて算出される移動速度は、実際の移動速度から大きくずれてしまっている可能性が高い。そこで、このような場合には、ステップS260の処理を実行して移動速度算出用の前回距離データD2を更新し、次回のステップS230において算出される移動速度Vが、実際の移動速度になるようにしている。以上のようにして、測距処理が繰り返し実行される。ステップS230からステップS2560の処理は、「選択的更新処理」に相当する。
【0039】
図7は、
図5に示すステップS300の位置推定処理の手順を示すフローチャートである。ステップS310では、位置推定部62は、副車載装置10~50の更新部14から、最新の複数の位置推定用距離をそれぞれ取得する。「最新の位置推定用距離」とは、直前に実行された測距処理(ステップS200)において、位置推定用距離が更新された場合には更新後の位置推定用距離を意味し、位置推定用距離が更新されない場合には最後に更新された後の位置推定用距離を意味する。ステップS330では、位置推定部62は、取得した位置推定用距離を用いて、車両400に対する携帯機200の位置を推定する。
【0040】
図8を参照しつつ、本実施形態におけるステップS330の処理について説明する。
図8には、ある時点において位置推定部62が取得した最新の複数の位置推定用距離A1、A2、A3、A4、A5のイメージが示されている。位置推定用距離A1、A2、A3、A4、A5は、それぞれ、副車載装置10、20、30、40、50と携帯機200との位置推定用距離の一例である。副車載装置10に注目した場合、携帯機200は、副車載装置10を中心とした距離A1を半径とする円周上に存在する。
図8に示す点P(X,Y,Z)は、携帯機200の真の位置座標である。
【0041】
各副車載装置の位置を原点とすると、位置Pでは、以下の式1が成立する。式1及び後述の式2~4における添え字iは、本実施形態では1~5の数字を意味し、それぞれ副車載装置10~50に対応する数字を意味する。Aiは、ステップS310が実行されて取得された位置推定用距離を意味する。また、(Xi、Yi、Zi)は、各副車載装置10~50の最新の位置推定用距離に基づき定められる、携帯機200の位置座標Pを意味する。
【0042】
【0043】
なお、
図8に示す距離L1、L2、L3、L4、L5は、副車載装置10、20、30、40、50における最新の位置推定用距離と、各副車載装置10~50と位置Pとの距離の差分であり、以下の式2で算出される。
【0044】
【0045】
位置推定部62は、以下の式3を用いて、式2の右辺における二乗和Mを求める。式3において、nは1以上の整数であり、本実施形態では5である。位置推定部62は、二乗和Mが最小となる座標(X,Y,Z)を、携帯機200の位置Pとして推定する。
【0046】
【0047】
図7に戻り、位置推定部62は、位置を推定すると、ステップS340において、過去に推定した位置と新たに推定した位置の変化から、位置の移動速度である推定位置移動速度Vaを算出する。ステップS350では、位置推定部62は、推定位置移動速度Vaが、ユーザの移動速度範囲に基づいて予め定められた第3速度V3未満である場合に、処理をステップS360に進め、新たに推定した位置を用いて過去に推定した位置を更新する。この場合、位置推定部62は、新たに推定した位置を、携帯機200の最新の位置とする。第3速度V3は、第1速度V1と等しくてもよい。位置推定部62は、ステップS350において、推定位置移動速度Vaが第3速度V3以上である場合には、新たに推定した位置を用いて過去に推定した位置を更新しない。この場合、位置推定部62は、過去に推定した位置を、携帯機200の最新の位置とする。
【0048】
以上のようにして、位置推定部62は車両400に対する携帯機200の位置を繰り返し推定し、所定の条件が成立した場合には、過去に推定された位置を新たに推定された位置で更新する。主制御部63は、推定された位置を用いて、車両制御装置300を制御する。
【0049】
上記形態の位置推定装置100によれば、選択的距離更新処理が実行されて、携帯機200の移動速度Vがユーザの移動速度範囲に基づいて定められた第1速度V1未満である場合には(
図6、ステップS230、YES)、新たに算出された位置推定距離を用いて過去に算出された位置推定距離が更新され(ステップS250)、第1速度V1以上である場合には上記更新が行われない。そのため、携帯機200の移動速度が第1速度V1以上という異常値である場合に更新された位置推定用距離を用いて携帯機200の位置が推定されることを抑制できる。したがって、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度を向上できる。なお、携帯機200の移動速度Vとして第1速度V1以上という異常値が算出される場合としては、例えば、障害物の存在により携帯機200から送信される信号が直接波に代えて又は直接波に加えて反射波として受信される等に起因して、算出される距離の精度が低下する場合などが想定される。
【0050】
また、誤差の影響を少なくするために、位置推定装置100と携帯機200との単位時間当たりの通信回数を増大させることも考えられるが、位置推定装置100や携帯機200における消費電力が増加する。上記形態によれば、選択的更新処理を実行することで、消費電力を増加させることなく、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度を向上できる。
【0051】
上記形態の位置推定装置100によれば、算出された移動速度Vが、第1速度V1よりも大きい予め定められた第2速度V2以上であることが、予め定められた期間Tにおいて予め定められたm回継続しない場合(
図6、ステップS244、NO)には移動速度算出用の前回距離データD2を更新せず、算出された移動速度Vが第1速度V1未満である場合(ステップS230、YES)、第1速度V1以上かつ第2速度V2未満である場合(ステップS240、YES)、又は、算出された移動速度Vが第2速度V2以上であることが、予め定められた期間Tにおいて予め定められたm回継続した場合には(ステップS244、YES)、新たに取得された距離データD1を用いて過去に取得された距離データD2を更新する(ステップS260)。移動速度Vが第2速度V2以上であることが、期間T内にm回連続した場合、仮に通信障害から復帰したとしても、もはや更新前の過去の距離データD2に基づいて算出される移動速度は、実際の移動速度から大きくずれてしまっている可能性が高く、位置推定処理(ステップS300)により推定される携帯機200の位置は、実際の位置から大きくずれてしまっている可能性が高い。このような場合に、移動速度算出用の距離データD2を今回距離データD2で更新することができる。したがって、異常値が連続することによって移動速度算出用の距離データD2が更新されないことにより、移動速度Vが第1速度以上を示し続けて(ステップS230、NO)、結果的に位置推定用距離が更新されないことを抑制できる。そのため、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度をより向上できる。
【0052】
上記実施形態によれば、位置推定装置100は、車両400の異なる位置に配置された複数の副車載装置10~50における各副送受信機17を用いて、車両400に対する携帯機200の位置を推定する。そのため、1台の副送受信機17を用いて位置を推定する場合と比較して、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度をいっそう向上できる。
【0053】
なお、上記実施形態において、選択的更新処理において前回距離データD2を更新しない条件である、予め定められた速度条件は、第1速度V1よりも大きい予め定められた第2速度V2以上であることが、期間Tにおいてm回継続しないことである。これに対し、速度条件は、移動速度Vが第1速度V1以上であることであってもよい。この場合には、更新部14は、移動速度Vが第1速度V1以上である場合には(ステップS230、NO)、
図6のステップS240からステップS246の処理を省略して前回距離データD2を更新せず、処理をステップS210に戻す。この形態によっても、第1速度V1以上という異常値である場合に更新された位置推定用距離を用いて携帯機200の位置が推定されることを抑制できる。したがって、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度を向上できる。
【0054】
上記実施形態において、距離データ取得部12は、予め求められた受信信号の強度と距離との関係を用いて、受信信号の強度から携帯機200までの距離データを取得してもよい。
【0055】
B.第2実施形態
図9は、第2実施形態における、
図5のステップS300の位置推定処理の手順を示すフローチャートであり、第1実施形態の
図7に対応している。第2実施形態は、
図7のステップS310の後にステップS320の処理を加え、ステップS330に代えてステップS330aの処理を行うものであり、他の処理手順や装置構成は第1実施形態と同様である。以降、第1実施形態と同じ符号は、同様の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0056】
ステップS320では、位置推定部62は、副車載装置10~50ごとの最新の複数の位置推定用距離について、当該距離が短いほど位置推定への反映の程度が大きくなるように、位置の推定に用いる重み付け係数を決定する。本実施形態では、位置推定部62は、最短距離についての重み付け係数を最も大きくし、最大距離についての重み付け係数を最も小さくする。その他の距離(中間距離)についての重み付け係数は、最短距離についての重み付け係数よりも小さく、最大距離についての重み付け係数よりも大きくする。中間距離が複数存在する場合、各中間距離についての重み付け係数は、同じであってもよいし、距離が小さいほど大きくてもよい。
【0057】
ステップS330aでは、位置推定部62は、ステップS320で決定した重み付け係数を用いて位置を推定する。ステップS330aでは、第1実施形態の式3に代えて、以下の式4を用いて位置を推定する。wは重み付け係数を示す。
【0058】
【0059】
以上のようにして、位置推定部62は、副車載装置10~50ごとの最新の複数の位置推定用距離のうち、当該距離が短いほど位置推定への反映の程度を大きくして、車両400に対する携帯機200の位置を推定する。
【0060】
副送受信機17で受信される信号を用いて算出される位置推定用距離が短いほど、算出された当該距離の信頼度は高いと考えられる。その理由は、携帯機200と副車載装置10~50との間に障害物が存在する可能性が低いためや、信号の受信強度が大きいためである。このため、この形態の位置推定装置100によれば、複数の車両側送信機のうち、携帯機200との位置推定用距離が短いほど位置推定への反映の程度を大きくするので、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度をいっそう向上できる。
【0061】
C.第3実施形態
図10は、第3実施形態における、
図5のステップS300の位置推定処理の手順を示すフローチャートであり、第1実施形態の
図7及び第2実施形態の
図9に対応している。第3実施形態は、
図9のステップS310の後にステップS315bの処理を加え、ステップS320aに代えてステップS320bの処理を行うものであり、他の処理手順や装置構成は第2実施形態と同様である。
【0062】
ステップS315bでは、位置推定部62は、最短の位置推定用距離を算出するために用いられた信号の強度を、副車載装置10~50のうち最短の位置推定用距離を算出した副車載装置から取得する。なお、位置推定部62は、ステップS310において、各副車載装置10~50のそれぞれから、最新の位置推定用距離と該最新の位置推定用距離に対応する信号強度とを受信してもよく、ステップS315bにおいて、ステップS310で取得した信号強度のうち、最短の位置推定用距離に対応する信号強度を取得してもよい。
【0063】
ステップS320bでは、位置推定部62は、位置推定用距離及び信号強度に応じた重み付け係数を決定する。本実施形態では、最短の位置推定用距離を算出するために用いられた信号の強度が、予め定められた第1強度以上である場合に、第1強度未満である場合よりも重み付け係数を大きくする。第1強度は、副車載装置10~50のいずれかと携帯機200とが十分に近接している場合の強度であり、副車載装置10~50と携帯機200との距離と、信号強度と、の関係を用いて、実験やシミュレーションにより予め定められる。第1強度は、例えば、副車載装置10~50のいずれかと携帯機200との距離が1m以内である場合の強度である。最短距離の重み付け係数wa、中間距離の重み付け係数wb、最長距離の重み付け係数wcについて、wa>wb>wcの関係が成り立つように、ステップS310で取得された各距離についての重み付け係数を設定するように構成されている場合を例として説明する。最短距離の信号強度が第1強度以上である場合には、位置推定部62は、上記関係を維持しつつ、係数waの値をより大きな値とする。位置推定部62は、最短距離の信号強度が第1強度未満である場合には、最短距離の重み付け係数waの値をより小さな値とする。位置推定部62は、例えば、最短距離の信号強度が第1強度未満である場合には、最短距離の重み付け係数waの値を中間距離の重み付け係数wbの値と等しくしてもよい。
【0064】
車両側送受信機で受信される信号強度が大きいほど、算出された位置推定用距離の信頼度は高いと考えられる。このため、この形態の位置推定装置100によれば、少なくとも最短の位置推定用距離について、信号が第1強度以上である場合に、第1強度未満である場合よりも、位置推定への反映の程度を大きくするので、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度をよりいっそう向上できる。
【0065】
D.第4実施形態
本実施形態では、位置推定部62は、
図7のステップS360における位置更新処理において、予め定められた補正値で新たに推定した位置を補正して、過去に推定した位置を更新する。補正値は、副車載装置10~50の車両400への搭載環境に応じて予め定められ、主車載装置60のメモリ64に記憶される。搭載環境とは、車両400のボディの材質や厚さ、各副車載装置10~50の車両400における配置場所等である。
【0066】
この形態の位置推定装置100によれば、副車載装置10~50の車両400への搭載環境に応じた補正値を用いて位置を補正することができる。そのため、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度をより向上できる。
【0067】
E.第5実施形態
図11は、位置推定部62により実行されるエリア推定処理の手順を示すフローチャートである。エリア推定処理は、携帯機200の位置するエリアを推定する処理である。本実施形態では、副車載装置10を中心とした所定エリア内、例えば、半径1mのエリア内が、副車載装置10の位置推定エリアとして予め定められ、メモリ64に記憶されている。副車載装置20~50についても同様である。エリア推定処理は、第1実施形態における
図5のステップS300の位置推定処理に代えて実行されてもよいし、ステップS300と並行して実行されてもよい。
【0068】
ステップS410では、第1実施形態の
図7に示すステップS310と同様に、位置推定部62は、複数の副車載装置10~50ごとの最新の位置推定用距離、すなわち5つの位置推定用距離を取得する。
【0069】
ステップS420では、位置推定部62は、ステップS410で取得した位置推定用距離のうち、最短距離に対応する副送受信機と、最長距離に対応する副送受信機とが、車両400の中心Ctを挟んで対向するか否かを判定する。
図1に示す例では、副車載装置20と副車載装置50は車両中心Ctを挟んで対向しており、副車載装置30と副車載装置40とは車両中心Ctを挟んで対向している。例えば、位置推定部62は、副車載装置20から最短距離が取得され、副車載装置50から最長距離が取得された場合、処理をステップS430に進め、カウント値を1増やす。ステップS420が否定判定される場合、位置推定部62は、処理をステップS440に進め、カウント値をクリアする。
【0070】
ステップS450では、更新部14は、最短距離に対応する副送受信機と、最長距離に対応する副送受信機とが車両400の中心Ctを挟んで対向することが、予め定められた期間T’内に、予め定められたm’回継続したか否かを判定する。期間T’及び回数m’は、携帯機200が
図1に示す副車載装置20と副車載装置40との間に位置している場合において、位置推定部62により推定される携帯機200の位置するエリアが、副車載装置20の形成する位置推定エリアと副車載装置40の形成する位置推定エリアとで比較的短い期間で頻繁に変化することを、抑制可能な期間及び回数である。期間T’及び回数m’は、予め実験やシミュレーションで定められる。ステップS450が肯定判定された場合には、最短距離に対応する副送受信機17が形成する位置推定エリアに携帯機200が位置すると判定可能である。ステップS420及びステップS450の条件を、「エリア推定条件」とも呼ぶ。
【0071】
ステップS450が肯定判定される場合、更新部14は、処理をステップS460に進め、最短距離に対応するエリアを200の最新のエリアとして推定する。ステップS450が否定判定される場合には、位置推定部62は、本処理ルーチンを抜ける。
【0072】
この形態の位置推定装置100によれば、最短の位置推定用距離に対応する副送受信機と、最長の位置推定用距離に対応する副送受信機とが車両400の中心Ctを挟んで対向することを含むエリア推定条件が満たされた場合に、最短の位置推定用距離に対応する副送受信機の形成する位置推定エリアに、携帯機200が位置すると推定することができる。また、携帯機200の位置するエリアを用いて車両400を制御することができ、更に、制御内容が頻繁に変化することを抑制することができる。
【0073】
なお、第5実施形態において、位置推定部62は、ステップS430からステップS450の処理を省略してもよく、最短の位置推定用距離に対応する副送受信機と、最長の位置推定用距離に対応する副送受信機とが車両400の中心Ctを挟んで対向する場合に(ステップS420、YES)、最短の位置推定用距離に対応するエリアを最新のエリアとしてもよい(ステップS460)。
【0074】
F.他の実施形態
上記実施形態の位置推定装置100において、主車載装置60のCPU61が、副車載装置10~50における距離データ取得部12、移動速度算出部13、更新部14のうちの少なくとも1つの機能を実現してもよい。例えば、副車載装置10~50が距離データ取得部12を備え、主車載装置60のCPUが移動速度算出部13、更新部14の機能を実現してもよい。あるいは、副車載装置10~50は副送受信機17を備え、主車載装置60のCPU61が距離データ取得部12、移動速度算出部13、更新部14の機能を実現してもよい。また、上記実施形態の位置推定装置100において、副車載装置10~50の副送受信機17に加え、主車載装置60の主送受信機70から送受信する信号の飛行時間や信号強度に基づいて、主車載装置60と携帯機200との距離データを取得してもよい。この場合には、主車載装置60の主送受信機70は、副車載装置10~50の副送受信機17と同様に「車両側送受信機」に相当する。
【0075】
上記実施形態において、位置推定システム500の位置推定装置100は、携帯機200と通信可能な車両側送受信機として、主送受信機70と5台の副送受信機17とを備えている。これに対し、位置推定装置100の備える車両側送受信機は、1台であってもよい。
図12に示す位置推定システム500dは、位置推定装置100dが副車載装置10~50を備えず、主車載装置60dのみを備える点において、第1~第5実施形態と異なる。この形態では、
図13に示すように、主車載装置60dのCPU61dは、メモリ64dに記憶されたプログラムを展開して実行することにより、更に、距離データ取得部12、移動速度算出部13、更新部14、位置推定部62dとして機能する。この主車載装置60dでは、主送受信機70dのUWB送信機73d及びUWB受信機74dを介して送受信したUWB信号を用いて、距離データの算出、取得と、移動速度の算出と、第1更新処理と、第2更新処理とを行う。位置推定部62dは、更新部14から最新の位置推定用距離を取得し、主車載装置60dを中心Ctとした当該最新の位置推定用距離を半径とする円周上に、携帯機200が位置すると判定することができる。この形態によっても、第1実施形態と同様に、車両400に対する携帯機200の位置を推定する精度を向上させることができる。
【0076】
上記実施形態において、携帯機側送受信機250と位置推定装置100との無線通信は、LF帯、UHF帯、UWB帯の電波を用いた通信を含む。これに対し、無線通信は、LF帯及びUHF帯の電波を用いた通信に代えて、又は、これらに加えて、BLE(Bluetooth Low Energy、登録商標)規格を用いた通信を含んでもよい。また、携帯機側送受信機250と位置推定装置100との無線通信は、UWB帯の電波を用いた通信のみであってもよい。この場合には、携帯機200の携帯機側送受信機250はUWB送受信機253のみを備え、位置推定装置100の主送受信機70はLF送信機71とUHF受信機72を備えていなくともよい。
【0077】
飛行時間は、以下のいずれかの信号送受信の態様により計測されてもよい。UWB信号に付した1~10の数値は、送受信の態様を説明するための数値である。(i)携帯機200がUWB信号1を送信し、副車載装置10がUWB信号1を受信してUWB信号2を送信し、携帯機200がUWB信号2を受信する態様。(ii)携帯機200がUWB信号3を送信し、副車載装置10がUWB信号3を受信してUWB信号4を送信し、携帯機200がUWB信号4を受信してUWB信号5を送信し、副車載装置10がUWB信号5を受信する態様。(iii)副車載装置10がUWB信号6を送信し、携帯機200がUWB信号6を受信してUWB信号7を送信し、副車載装置10がUWB信号7を受信する態様。(iv)副車載装置10がUWB信号8を送信し、携帯機200がUWB信号8を受信してUWB信号9を送信し、副車載装置10がUWB信号9を受信してUWB信号10を送信し、携帯機200がUWB信号10を受信する態様。(i)(iii)の態様では、距離データ取得部12は携帯機200から飛行時間を取得して、距離データを算出すればよい。
【0078】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0079】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
12 距離データ取得部、13 移動速度算出部、14 更新部、62、62d 位置推定部、100、100d 位置推定装置、400 車両、17、70、70d 車両側送受信機