(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】測定用基材及びその製造方法、並びに発光分光分析装置及び発光分光分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/63 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
G01N21/63 A
(21)【出願番号】P 2019099115
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-01-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (発行者)公立大学法人兵庫県立大学、(刊行物名)「兵庫県立大学産学連携研究シーズ集 2018」、(掲載ページ)「ものづくり」第1頁、(発行日)2018年9月26日 (掲載年月日)2018年10月26日、(掲載アドレス) https://www.u-hyogo.ac.jp/research/seeds/seeds/2018/pdf/s18-1101-matsumoto.pdf (発行者)澤本 光男(発行所 公益社団法人 日本化学会)、(刊行物名)「日本化学会第99春季年会(2019) 講演予稿集DVD」、(講演番号)1 S6-06、(発行日)2019年3月1日 (発行者)澤本 光男(発行所 公益社団法人 日本化学会)、(刊行物名)「日本化学会第99春季年会(2019) 講演予稿集USB」、(講演番号)1 S6-06、(発行日)2019年3月1日 (集会名)日本化学会第99春季年会(2019)、(開催場所)甲南大学 岡本キャンパス、(開催日)平成31年3月16日 (掲載年月日)2019年3月1日、(掲載アドレス) https://nenkai.csj.jp/Proceeding/?year=2019 (掲載年月日)2019年5月23日、(掲載アドレス) http://hyogosta.jp/wp-content/uploads/2019/05/fe0db8f6971bbdf6651c4b12aef2406b-1.pdf (発行所)(一社)表面技術協会・関西支部事務局、(刊行物名)「第20回関西表面技術フォーラム要旨集」、(掲載ページ)第3頁、(発行日)2018年11月21日 (集会名)第20回関西表面技術フォーラム、(開催場所)甲南大学ポートアイランドキャンパス、(開催日)平成30年11月21日 (発行所)電気鍍金研究会、(刊行物名)「めっき技術」、(巻数)2019 Vol.32、(号数)No.2、(掲載ページ)第56頁、(発行日)2019年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】松本 歩
(72)【発明者】
【氏名】八重 真治
【審査官】谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110431(WO,A1)
【文献】特表2006-514286(JP,A)
【文献】特開2017-173045(JP,A)
【文献】特開2014-085178(JP,A)
【文献】特開2008-014843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材の前記シリコン層が、
1nm以上1μm以下の開口幅の非貫通孔であって、深さを
前記開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の
該非貫通孔を含む多孔性の表面を有する、
前記非貫通孔の少なくとも一部を覆うように配置された被測定対象に対してレーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定するための、
測定用基材。
【請求項2】
前記シリコン層の少なくとも一部上に、酸化シリコン層を備える、
請求項1に記載の測定用基材。
【請求項3】
前記非貫通孔の底部の少なくとも一部に、金(Au)、銀(Ag)、及び白金(Pt)の群から選択される少なくとも一種が配置されている、
請求項1又は請求項2に記載の測定用基材。
【請求項4】
少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材の前記シリコン層が、
1nm以上1μm以下の開口幅の非貫通孔であって、深さを
前記開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の
該非貫通孔を含む多孔性の表面を有する、前記非貫通孔の少なくとも一部を覆うように被測定対象が配置された測定用基材と、
前記被測定対象に対してレーザー光を照射するためのレーザー光照射部と、
前記レーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する測定部と、を備える、
発光分光分析装置。
【請求項5】
少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材の前記シリコン層が、
1nm以上1μm以下の開口幅の非貫通孔であって、深さを
前記開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の
該非貫通孔を含む多孔性の表面を有する該基材の、該非貫通孔の少なくとも一部を覆うように被測定対象を配置する配置工程と、
前記被測定対象に対してレーザー光を照射する、レーザー光照射工程と、
前記被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する測定工程と、を含む、
発光分光分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定用基材及びその製造方法、並びに発光分光分析装置及び発光分光分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体基板を利用した液中プラズマの生成に関する研究結果等が開示されている(非特許文献1、非特許文献2)。また、電解析出により固体基板上に溶存種を金属薄膜として析出してから、該析出物にレーザー光を照射することにより元素分析を行う化学分析法が開示されている(非特許文献3)。また、固体基板上に微少液滴を吐出させる装置を導入して、該液滴に対してレーザー光を照射する手法が開示されている(非特許文献4)。なお、これらの化学分析手法は、一般的に、レーザー誘起ブレークダウン分光(Laser Induced Breakdown Spectroscopy(「LIBS」)と呼ばれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】松本 歩 他、「Two-dimensionalspace-resolved emission spectroscopy of laser ablation plasma in water」、Journal of Applied Physics、AmericanInstitute of Physics、2013年、第113巻、第5号、p.0533022/1-7
【文献】松本 歩 他、「Transfer of the SpeciesDissolved in a Liquid into Laser Ablation Plasma: An Approach Using EmissionSpectroscopy」、The Journal of Physical Chemistry、American Chemical Society、2015年、第119巻、第47号、p.26506-26511
【文献】松本 歩 他、「On-Site QuantitativeElemental Analysis of Metal Ions in Aqueous Solutions by UnderwaterLaser-Induced Breakdown Spectroscopy Combined with Electrodeposition underControlled Potential」、Analytical Chemistry、American Chemical Society、2015年、第87巻、第3号、p.1655-1661
【文献】池沢 聡 他、「微小液滴吐出装置組込みによるレーザー誘起ブレークダウン分光計測のための 光学系の開発」、平成19年度 電気関係学会九州支部連合大会予稿集、2007年、02-1A-05、P.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、固体基板上の液滴を蒸発させることによって得られた残留物に対してレーザー光を照射することにより元素分析を行う化学分析手法について鋭意研究を重ねた。該手法においては、測定のために用いる液量が非常に少なくても、元素分析を行うことができるという点で優れている。しかしながら、本発明者らが研究を進めていく中で、従来方法に基づいて該手法を採用すると十分な信号強度が得られないために、的確な元素分析を行うことが困難であることが確認された。
【0005】
加えて、レーザー光を照射することにより元素分析を行う上述の化学分析手法において、被測定対象の照射位置による発光スペクトルの変動が生じやすいため、定量分析としての測定精度の低下を招きやすい、という課題も生じる。従って、測定のために用いる液量が少ない場合に、測定自身を可能にするだけではなく、その測定精度を高める工夫も実現することが強く求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の技術課題の少なくとも一部を解決することにより、レーザー光が照射されたときに少ない液量の該被測定対象が有する元素の発光線強度を高感度に検出し得る、測定用基材、発光分光分析装置、及び発光分光分析方法の提供に大きく貢献し得る。
【0007】
本発明者らは、測定対象となる物質の量がたとえ微少量であっても、高い感度によって、確度高く元素分析し得る測定方法又は測定システムを実現することは、例えば、測定対象となる物質の量が限られているといった事情がある場合に大いに役立つと考え、検出感度の向上に向けて鋭意研究を進めた。
【0008】
本発明者らは、測定のためのレーザー機器に代表される各種機器、レーザー光の照射条件又は分光条件を変更することによって感度を高めるのではなく、測定対象を載置するための基材(代表的には、試料台)側の構造に着目した。試行錯誤を重ねた結果、本発明者らは、被測定対象と接する該基材の表面をある特定の多孔質状に加工することによって、従来と比較して十分に有意差のある高感度の、又は従来と比較して格段に高感度の測定結果が得られることを知得した。また、測定のために用いる液量が少ない場合であっても、該基材の表面に対して工夫を施すことにより、高い測定精度を実現し得ることを本発明者らは知得した。本発明は、上述の各知見に基づいて創出された。
【0009】
本発明の1つの測定用基材は、少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材の該シリコン層が、深さを開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の非貫通孔を含む多孔性の表面を有する。また、この測定用基材は、前述の非貫通孔の少なくとも一部を覆うように配置された被測定対象に対してレーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定するための測定用基材である。
【0010】
この測定用基材は、上述のアスペクト比が3.5以上の非貫通孔を含む多孔性の表面又は表面層が形成されたシリコン層を、少なくとも該基材の最上層に備える。そのため、前述の非貫通孔の少なくとも一部を覆うように配置された被測定対象に対してレーザー光が照射されたときに、該被測定対象が有する元素の発光線強度を、多孔性の該表面が形成されていない場合と比較して高感度に検出することが可能となる。
【0011】
また、本発明の1つの発光分光分析装置は、少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材の該シリコン層が、深さを開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の非貫通孔を含む多孔性の表面を有する、前述の非貫通孔の少なくとも一部を覆うように被測定対象が配置された測定用基材と、該被測定対象に対してレーザー光を照射するためのレーザー光照射部と、該レーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する測定部と、を備える。
【0012】
この発光分光分析装置は、上述のアスペクト比が3.5以上の非貫通孔を含む多孔性の表面を有する、前述の非貫通孔の少なくとも一部を覆うように被測定対象が配置された測定用基材と、該被測定対象に対してレーザー光を照射するためのレーザーとを備える。そのため、該レーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する該発光分光分析装置の測定部は、該発光線強度を、多孔性の該表面が形成されていない場合と比較して高感度に検出することが可能となる)。
【0013】
また、本発明の1つの発光分光分析方法は、以下の(1-1)~(1-3)の工程を含む。
(1-1)少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材の該シリコン層が、深さを開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の非貫通孔を含む多孔性の表面を有する該基材の、該非貫通孔の少なくとも一部を覆うように被測定対象を配置する配置工程
(1-2)前述の被測定対象に対してレーザー光を照射する、レーザー光照射工程
(1-3)前述の被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する測定工程
【0014】
この発光分光分析方法は、上述のアスペクト比が3.5以上の非貫通孔を含む、多孔性の表面又は表面層を有するシリコン層が形成された測定用基材の、該非貫通孔の少なくとも一部を覆うように被測定対象を配置する配置工程と、前述の被測定対象に対してレーザー光を照射する、レーザー光照射工程とを含む。そのため、該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する、この発光分光分析方法の測定工程においては、該発光線強度を、多孔性の該表面が形成されていない場合と比較して高感度に検出することが可能となる。
【0015】
ところで、本願においては、
図2Bに示すように、仮に非貫通孔10が直線状に形成されていない場合であっても、非貫通孔10の「深さ」は、基材30の最表面からの直線的な距離Dを意味する。従って、
図2Bに示す「道のりS」は、本願の「深さ」ではない。また、本願における非貫通孔10の「開口幅」Wは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した断面において確認される非貫通孔の任意の開口幅である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の1つの測定用基材によれば、特定の非貫通孔を含む多孔性の表面を備えることから、該非貫通孔の少なくとも一部を覆うように配置された被測定対象に対してレーザー光が照射されたときに、該被測定対象が有する元素の発光線強度を、多孔性の該表面が形成されていない場合と比較して高感度に検出することが可能となる。
【0017】
また、本発明の1つの発光分光分析装置によれば、特定の非貫通孔を含む多孔性の表面を有する、被測定対象を配置するための測定用基材の、該非貫通孔の少なくとも一部を覆うように配置された被測定対象に対して照射するためのレーザーを備える。そのため、該レーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する該発光分光分析装置の測定部は、該発光線強度を、多孔性の該表面が形成されていない場合と比較して高感度に検出することが可能となる。
【0018】
また、本発明の1つの発光分光分析方法によれば、特定の非貫通孔を含む、多孔性の表面又は表面層を有するシリコン層が形成された測定用基材の、該非貫通孔の少なくとも一部を覆うように被測定対象を配置する配置工程が行われる。そのため、該レーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する該発光分光分析装置の測定部は、該発光線強度を、多孔性の該表面が形成されていない場合と比較して高感度に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態における、非貫通孔が形成された基材の断面を示す模式図である。
【
図2B】非貫通孔の開口幅と深さを説明するための模式図である。
【
図3A】第1の実施形態における、基材の表面上に、金(Au)が粒子状又はアイランド状に分散配置された状態を示す、基材表面のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。
【
図3B】第1の実施形態における、非貫通孔が形成された基材の断面SEM(走査電子顕微鏡)写真である。
【
図4A】第1の実施形態における測定用基材の製造工程における一過程の断面を示す模式図である。
【
図4B】第1の実施形態における測定用基材の断面を示す模式図である。
【
図4C】第1の実施形態における測定用基材の断面を示す模式図である。
【
図5】第1の実施形態の発光分光分析装置の構成を説明する構成図である。
【
図6】第1の実施形態の発光分光分析方法による測定結果の一例である。
【
図7】第1の実施形態の発光分光分析方法による発光線強度と、第1の実施形態の非貫通孔形成工程における基材の浸漬時間との関係を示すグラフである。
【
図8A】第1の実施形態の変形例(1)の発光分光分析方法による測定結果の一例である。
【
図8B】第1の実施形態の変形例(2)の発光分光分析方法による測定結果の一例である。
【
図9】第2の実施形態における測定用基材の断面を示す模式図である。
【
図10】第3の実施形態における、非貫通孔が形成された基材の断面を示す模式図である。
【
図11】第3の実施形態における測定用基材の断面を示す模式図である。
【
図12】第3の実施形態における、非貫通孔の底部の粒子の有無による、測定結果の違いを示すグラフの一例である。
【
図13】第3の実施形態の変形例における測定用基材の断面を示す模式図である。
【
図14】第4の実施形態における測定用基材の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0021】
<第1の実施形態>
本実施形態の測定用基材の一例である測定用基材100及びその製造方法について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態における、非貫通孔10が形成された基材30の断面を示す模式図である。また、
図2Aは、
図1のP領域の拡大図である。また、
図2Bは、非貫通孔10の開口幅と深さを説明するための模式図である。また、
図3Aは、本実施形態における、基材30の表面上に、金(Au)が粒子状又はアイランド状に分散配置された状態を示す、基材30の表面のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。加えて、
図3Bは、本実施形態における、非貫通孔10が形成された基材30の断面SEM(走査電子顕微鏡)写真である。また、
図4Aは、本実施形態における測定用基材100の製造工程における一過程の断面を示す模式図である。また、
図4B及び
図4Cのそれぞれは、本実施形態における測定用基材100の断面を示す模式図である。さらに、
図5は、本実施形態の発光分光分析装置900の構成を説明する構成図である。
【0023】
本実施形態においては、
図1に示すように、不揃いの非貫通孔10を含む多孔性の表面を有するシリコン層を備える基材(本実施形態においては、シリコン基板)30が、被測定対象のいわば測定台としての役割を担う。ここで、本実施形態においては、非貫通孔10の一部又は全部の最も深い位置又はその近傍に、金(Au)の粒子又は塊が存在する。また、本実施形態においては、
図3Bに示すように、開口幅が約10nm~約20nmであって深さが約70nm以上である非貫通孔10を含む多孔性の表面が形成されている。換言すれば、該深さを該開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の非貫通孔10を含む多孔性の表面が形成されている。
【0024】
さらに詳しく見ると、
図2Aに示すように、非貫通孔10内の表面を含む基材30の少なくとも一部の表面上(換言すれば、シリコン層の少なくとも一部上)に、酸化シリコン層(主として、二酸化シリコン層)80が形成されている。本実施形態の酸化シリコン層80の厚みは、場所によってバラツキがあるが、代表的な酸化シリコン層80の厚みは、1nm程度である。
【0025】
また、本実施形態においては、
図4Aに示すように、
図1に示す基材30上に、代表的な一例としての液状の被測定対象40を滴下することによって被測定対象40が配置される。その後、本実施形態においては、約100℃に設定された公知のホットプレート上に載置することによって被測定対象40の一部を蒸発させることにより、
図4B又は
図4Cに示すように、非貫通孔10の少なくとも一部が、又は非貫通孔10の多くが被測定対象40によって完全に埋められていない状態の測定用基材100が製造される。なお、
図4B又は
図4Cに示すように、一例としての被測定対象40が基材30の表面(端面)の上側にまで存在する領域と、被測定対象40が非貫通孔10の内部にのみ存在する領域とが混在し得る。また、
図4Bと
図4Cの違いは、被測定対象40の一部を蒸発させたときの蒸発の状況の違いによるものである。
図4Cに示す被測定対象40の方がより乾燥が進んでいる状況を概念的に示している。ところで、後述する第2の実施形態以降における測定用基材の図形は、説明の便宜上、代表的に
図4Bに示す測定用基材を採用して説明するが、いずれの実施形態においても、
図4Cに示された状態の測定用基材が形成され得る
【0026】
また、本実施形態においては、被測定対象40の配置の一例として、滴下による配置を説明しているが、本実施形態の配置はそのような手段に限定されない。例えば、被測定対象40が、原子炉内部の汚染水のように、直接人間が採取することが困難な物質である場合、ロボットを用いて原子炉内部まで運ばれた非貫通孔10を有する基材30を、汚染水に浸漬させた後に、引き揚げることによって、非貫通孔10内又は基材30の表面上に被測定対象40が配置されることも採用し得る一態様である。
【0027】
また、
図4Bに示すように、本実施形態の測定用基材100においては、被測定対象40が基材30に接している領域においては、各々の非貫通孔10の少なくとも一部を覆うように被測定対象40が配置されるため、必ずしも、被測定対象40が非貫通孔10の全てに接触することを要しない。加えて、例えば、滴下によって被測定対象40が基材30上に配置される場合に、被測定対象40が基材30に接触する領域の広さは、被測定対象40の種類、環境条件(温度又は湿度)、及び/又は基材30の表面状態等によって適宜選定され得る。また、本実施形態においては、公知のホットプレートを用いて被測定対象40の一部を蒸発及び乾燥が行われたが、本実施形態による被測定対象40の蒸発及び乾燥方法は、ホットプレートによる加熱に限定されない。例えば、蒸発及び乾燥前の被測定対象40が配置された基材30を、高温雰囲気に暴露することによって被測定対象40の蒸発及び乾燥方法が行われることも、採用し得る一態様である。
【0028】
次に、本実施形態の測定用基材100の製造方法について説明する。
【0029】
本実施形態の測定用基材100は、以下の(S1)~(S4)の工程を含む製造方法によって製造され得る。
(S1)少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材30の該シリコン層の表面上に、粒子状又はアイランド状の、金(Au)、銀(Ag)、及び白金(Pt)の群から選択される少なくとも一種を分散配置する分散配置工程
(S2)該シリコン層の表面をフッ化物イオン含有溶液に浸漬させることにより、深さを開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上を含む非貫通孔10を前述の表面から形成することによって多孔性の該表面を形成する非貫通孔形成工程
(S3)非貫通孔10の内部の表面を含む該シリコン層の表面を酸化することにより、酸化シリコン層80を形成する酸化膜形成工程
(S4)非貫通孔10の少なくとも一部を覆うように被測定対象40を配置する配置工程
【0030】
以下に、粒子状又はアイランド状の金(Au)が採用された場合の、上記の各工程の一例について詳しく説明する。
【0031】
(分散配置工程)
まず、本実施形態の分散配置工程の具体的な例について説明する。該分散配置工程の一例においては、少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材30(この例においては、単結晶n型シリコン(100)基板)が、予め5℃に調整された、モル濃度が0.15mol(モル)/L(リットル)(又は、0.15mol(モル)/dm3(以下、便宜上、「mol/dm3」として表す)フッ化水素酸を含む、モル濃度が0.5mmol(ミリモル)/dm3のテトラクロロ金(III)酸水溶液の中に約10秒間~約300秒間浸漬される。その結果、粒径が数nm乃至数十nmの粒子状の金(Au)又はアイランド状の金(Au)(以下、総称して「粒子20」ともいう)が、基材30の表面上に析出していることが確認された。なお、その浸漬中、基材30の一部を覆う公知のフルオロカーボン系樹脂製保持具によって保持されることも採用し得る。
【0032】
図3A(a)は、10秒間の浸漬によって確認された、基材30上に粒子20が分散配置された状態を示す、基材30の表面のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。また、
図3A(b)は、300秒間の浸漬によって確認された、基材30上に粒子20が分散配置された状態を示す、基材30の表面のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。なお、基材30の表面上に、金(Au)の代わりに、粒子状又はアイランド状の銀(Ag)又は白金(Pt)が配置される場合は、平面視における銀(Ag)又は白金(Pt)の粒径は、数nm乃至数百nmである。
【0033】
(非貫通孔形成工程)
次に、本実施形態の非貫通孔形成工程の具体的な例について説明する。該非貫通孔形成工程の一例においては、前述の金(Au)の粒子(又はアイランド)20を担持した基材30が、暗室内で、予め25℃に調整された、モル濃度が0.08mol/dm
3の過酸化水素を含む、6.6mol/dm
3のフッ化水素酸水溶液の中に約30秒間浸漬される。その結果、
図3Bの示すように、基材30の表面から形成された多数の微細孔である非貫通孔10が確認された。また、それらの非貫通孔10の底部には粒子20が存在していることが分かった。なお、
図3Bに示す断面SEM写真から、非貫通孔10の孔径の一例が10nm乃至20nmであることが確認される。加えて、非貫通孔10の孔径が基材30の表面上に分散配置された金(Au)の粒子(又はアイランド)20の粒径と良く符合していることが分かる。従って、本実施形態の非貫通孔形成工程により、多孔性のシリコン層の表面を有する基材30が形成される。
【0034】
ここで、非貫通孔10の深さは、非貫通孔形成工程における浸漬時間が長いほど、深くなることが確認されている。本実施形態における効果が発揮される非貫通孔の深さは、深さを開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の非貫通孔10を含む多孔性の表面が形成される限り、特に限定されない。なお、後述する、被測定対象40が有する元素の発光線強度を高感度に検出するという本実施形態の効果が特に奏され得る非貫通孔10の深さは、50nm以上1μm以下である。また、被測定対象40が有する元素の発光線強度を高感度に検出するという本実施形態の効果が特に奏され得る非貫通孔10の開口幅は、1nm以上1μm以下である。また、本実施形態の非貫通孔形成工程においては、酸化剤として過酸化水素が採用されているが、過酸化水素の代わりに、溶存酸素が本実施形態の変形例として採用され得る。
【0035】
(酸化膜形成工程)
続いて、本実施形態の酸化膜形成工程の具体的な例について説明する。該酸化膜形成工程の一例においては、非貫通孔10を含む多孔性のシリコン層の表面を有する基材30を、70℃に保持された60質量%の硝酸中に、例えば約30分間浸漬することにより、非貫通孔10内の表面を含む基材30の表面上に、酸化膜(主として、シリコン酸化膜)80が形成される。
【0036】
(配置工程)
次に、本実施形態の被測定対象40の配置工程の具体的な例について説明する。該配置工程の一例においては、被測定対象40の例である、1mmol/dm3の塩化ストロンチウム水溶液を滴下することによって、非貫通孔10が形成された基材30上に該水溶液を配置する。本実施形態の配置工程が行われることにより、測定用基材100が製造される。なお、後述するレーザー照射による元素分析をより容易にする観点から、本実施形態においては、配置工程が行われた後に、例えば、100℃に設定された公知のホットプレート上に載置することによって蒸発乾固させることは、好適な一態様である。なお、基材30の外周を樹脂製の保護具で保持するとともに、該保護具の開口を利用して、滴下による被測定対象40の水溶液の広がり(平面視における被測定対象40が占める面積)を制御することは、他の好適な一態様である。また、本実施形態においては、滴下される被測定対象40の量が、例えば、5μL(マイクロリットル)以下という少ない量であっても、後述する本実施形態の効果が奏され得ることは特筆に値する。加えて、本実施形態においては、親水性である酸化シリコン層80が基材30の表面上に形成されているため、被測定対象40が水溶液であった場合は、基材30上(より正確には、酸化シリコン層80上)に被測定対象40が占める領域の面積を拡大し易くなる。その結果、酸化シリコン層80が無い場合と比較して、後述する発光分光分析方法の実施をより容易にするとともに、より精度の高い元素分析を実現し得る。
【0037】
次に、本実施形態の発光分光分析装置900と発光分光分析方法について説明する。
【0038】
本実施形態においては、発光分光分析装置900を用いて、被測定対象40に対してレーザー光が照射されたときに被測定対象40が有する元素の発光線強度が測定される。
【0039】
本実施形態の発光分光分析装置900は、
図5に示すように、レーザー光照射部(Continuum社製、型式:MiniliteII)90と、ミラー91と、X-Y-Zステージ92とCMOSカメラ93(Edmond Optics社製、型式:EO-3212C)と、ダイクロイックミラー94aと、結像レンズ94bと、対物レンズ94cと、光ファイバーバンドル)96と、アクロマティックレンズ97と、検出器98bとしての市販のICCDカメラ(PrincetonInstruments社製、型式:PI-MAX:1K)を装着した分光器98aと、制御部99と、測定用基材100と、を備える。なお、本実施形態においては、前記レーザー光が照射されたときに該被測定対象が有する元素の発光線強度を測定する分光器98aと検出器98bとが測定部としての役割を担っている。
【0040】
ここで、本実施形態においては、制御部99が、レーザー光照射部90、CMOSカメラ93、ダイクロイックミラー94a、結像レンズ94b、対物レンズ94c、検出器98b、及びX-Y-Zステージ92を制御する。また、CMOSカメラ93は、測定用基材100の表面を観察するために用いられるため、例えば、レーザー光照射部90から照射されるレーザー光の位置を、CMOSカメラ93を用いて観察しながら、被測定対象40が有する元素の発光線強度を測定することが可能となる。また、結像レンズ94bは、対物レンズ94cを用いて観察された像を、CMOSカメラ93に結像するために用いられる。また、本実施形態においては、対物レンズ94cは、レーザー光の照射に貢献するとともに、測定用基材100が有する被測定対象の表面を観察する役割を担う。なお、本実施形態においては、ダイクロイックミラー94aは、レーザー光の赤外領域の波長を反射し、可視光領域の波長を透過するように設定されている。
【0041】
本実施形態の発光分光分析方法は、以下の(T1)~(T3)の工程を含む。
(T1)少なくとも最上層にシリコン層が形成されている基材30の該シリコン層が、深さを開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の非貫通孔10を含む多孔性の表面を有する基材30の、非貫通孔10の少なくとも一部を覆うように被測定対象40を配置する配置工程
(T2)被測定対象40に対してレーザー光を照射する、レーザー光照射工程
(T3)被測定対象40が有する元素の発光線強度を測定する測定工程
【0042】
より具体的には、本実施形態の発光分光分析方法における配置工程は、上述の測定用基材100の製造工程における配置工程と同じである。
【0043】
また、本実施形態のレーザー光照射工程においては、一例として、レーザー光照射部90が、波長1064nm、パルス幅6ns、エネルギー5mJ/pulseに設定されたレーザー光を照射することができる。なお、焦点距離が40mmである対物レンズ94cを用いて、基材30上の被測定対象40に対して、レーザー光が集光照射される。
【0044】
また、本実施形態の測定工程においては、ダイクロイックミラー94aを用いて被測定対象40が有する元素の発光(プラズマの発光)が、アクロマティックレンズ97を通して光ファイバーバンドル96の入口に集光された後、光ファイバーバンドル96を経由して、分光器98aのスリットに入射され、分光器98a内の回折格子によって波長ごとに分散された光が検出器98bに結像される。その結果、レーザーの照射により、被測定対象40が有する元素の発光スペクトルを測定することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、光ファイバーバンドル96を通して、検出器98bを装着した分光器98aのスリットに該発光を入射させた。また、X-Y-Zステージ92ステージ92を利用して、パルス照射ごとに被測定対象40の検出箇所(換言すれば、レーザー照射位置)を平面方向(X-Y方向)に変更した。加えて、レーザーの照射から1μs後に、検出器98bを動作させ、ゲート幅を1μsとして、該発光の発光スペクトルが測定される
【0046】
次に、本実施形態の発光分光分析装置900と発光分光分析方法による検出結果の一例について説明する。
【0047】
図6は、本実施形態の分散配置工程において金(Au)を用いたときの、該発光分光分析方法による測定結果の一例である。
【0048】
図6においては、本実施形態の測定用基材100を用いたときの、被測定対象40が有するストロンチウム(Sr)原子の発光線(460.7nm)の強度を測定した結果が、
図6中の「Y1(破線)」により示されている。なお、
図6に示す結果は、分散配置工程における浸漬時間が30秒であり、非貫通孔形成工程における浸漬時間が120秒であるのときの結果である。また、比較例として、非貫通孔を含む多孔性の表面が形成されていない(換言すれば、該表面が実質的に平滑な)点を除いて他の条件が本実施形態の測定用基材100と同じ場合の測定結果が、
図6中のXにより示されている。
【0049】
図6において明らかなように、本実施形態の測定用基材100を用いたときのストロンチウム(Sr)原子の発光線強度が、比較例の該強度よりも、格段に強くなることが確認された。より具体的には、比較例の該強度よりも、本実施形態の測定用基材100を用いたときの該強度は、約50倍以上であることが分かった。なお、参考的に本願発明者らが調査したところ、本実施形態の非貫通孔形成工程のみが行われなかった場合の発光線強度は、
図6のXの値よりも強くはなったが、Y1に比べると半分以下の強度に留まることが確認された。
【0050】
また、
図7は、本実施形態の発光分光分析方法による発光線強度と、本実施形態の非貫通孔形成工程における基材30の浸漬時間との関係を示すグラフである。
【0051】
図7に示すように、大変興味深いことに、本実施形態の測定用基材100を用いたときのストロンチウム(Sr)原子の発光線強度は、該浸漬時間が60秒~300秒の間において最も強くなる傾向が確認された。この結果は、深さを開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上の非貫通孔10が形成されたときに、被測定対象40から検出される発光線強度が強くなることを示していると考えられる。なお、参考的に本願発明者らが調査したところ、本実施形態の非貫通孔形成工程のみが行われなかった場合のレーザーの照射位置による発光線強度のバラつきが、本実施形態の測定用基材100を用いることによって抑制されることが確認された。これは、測定用基材100が、非貫通孔10を含む多孔性の表面を有することにより、被測定対象40が存在している該表面の領域の全体に亘って、非貫通孔10が形成されていない測定用基材と比べて偏りの少ない発光線強度が得られることを示している。
【0052】
上述のとおり、被測定対象40と接する基材30の表面を本実施形態において示す非貫通孔10を含む多孔質状にすることによって、従来と比較して格段に高感度の測定結果が得られることが分かった。また、測定のために用いる被測定対象40の量が少ない場合であっても、基材30の表面が酸化膜を備えることにより、高い測定精度を確度高く実現し得ることが明らかとなった。加えて、本実施形態の測定用基材100を採用すれば、基材30を浸漬するだけの、いわゆる無電解プロセスを用いた非貫通孔10を実現し得る。そのため、本実施形態の測定用基材100の採用は、測定用基材100の製造コストを比較的低廉に抑えるとともに、測定用基材100の大面積化を容易にし得る。
【0053】
<第1の実施形態の変形例(1)>
本変形例(1)は、以下の(a1)~(a3)を除いて第1の実施形態と同じであるため、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
(a1)粒子20として、金(Au)の代わりに白金(Pt)が採用されたこと
(a2)分散配置工程において、モル濃度が0.5mmol(ミリモル)/dm3のテトラクロロ金(III)酸に代わりに、モル濃度が1mmol(ミリモル)/dm3のテトラクロロ白金(II)酸カリウムが採用されたこと
(a3)分散配置工程において、フッ化水素酸を含むテトラクロロ白金(II)酸カリウム水溶液の温度が40℃に調整されたこと
【0054】
図8Aにおいては、本変形例(1)の測定用基材100を用いたときの、被測定対象40が有するストロンチウム(Sr)原子の発光線強度を測定した結果が、
図8A中の「Y2(破線)」により示されている。なお、
図8Aに示す結果は、分散配置工程における浸漬時間が90秒であり、非貫通孔形成工程における浸漬時間が10秒のときの結果である。また、比較例として、
図6中のXと同じ結果が示されている。
【0055】
図8Aにおいて明らかなように、本実施形態の測定用基材100を用いたときのストロンチウム(Sr)原子の発光線強度が、比較例の該強度よりも十分な有意差を有して強くなることが確認された。より具体的には、比較例の該強度よりも、本変形例(1)の測定用基材100を用いたときの該強度は、約35倍以上であることが分かった。
【0056】
上述のとおり、被測定対象40と接する基材30の表面を本実施形態において示す非貫通孔10を含む多孔質状にすることによって、従来と比較して十分に有意差のある高感度の測定結果が得られることが分かった。
【0057】
<第1の実施形態の変形例(2)>
本変形例(1)は、以下の(b1)~(b3)を除いて第1の実施形態と同じであるため、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
(b1)粒子20として、金(Au)の代わりに銀(Ag)が採用されたこと
(b2)(b1)に伴い、分散配置工程において、モル濃度が0.5mmol(ミリモル)/dm3のテトラクロロ金(III)酸に代わりに、モル濃度が1mmol(ミリモル)/dm3(硝酸銀が採用されたこと
(b3)酸化膜形成工程が行われていないこと
【0058】
図8Bは、本変形例(2)の発光分光分析方法による測定結果の一例である。なお、本変形例(2)においては、酸化膜形成工程が行われていないため、被測定対象40が占める領域の面積が、第1の実施形態の測定用基材100の場合よりも小さくなった。従って、
図8Bにおいては、得られたスペクトルの強度に、第1の実施形態の被測定対象40に対する本変形例(2)の面積の比を乗じることによって、第1の実施形態の被測定対象40の面積と本変形例(2)の被測定対象40の面積とが同じになるように補正されている。
【0059】
図8Bにおいては、本変形例(2)の測定用基材100を用いたときの、被測定対象40が有するストロンチウム(Sr)原子の発光線強度を測定した結果が、
図8B中の「Y3(破線)」により示されている。なお、
図8Bに示す結果は、分散配置工程における浸漬時間が15秒であり、非貫通孔形成工程における浸漬時間が60秒のときの結果である。また、比較例として、
図6中のXと同じ結果が示されている。
【0060】
図8Bにおいて明らかなように、本実施形態の測定用基材100を用いたときのストロンチウム(Sr)原子の発光線強度が、比較例の該強度よりも十分な有意差を有して強くなることが確認された。より具体的には、比較例の該強度よりも、本変形例(1)の測定用基材100を用いたときの該強度は、約20倍以上であることが分かった。
【0061】
上述のとおり、被測定対象40と接する基材30の表面を本実施形態において示す非貫通孔10を含む多孔質状に形成することによって、従来と比較して十分に有意差のある高感度の測定結果が得られることが分かった。
【0062】
<第2の実施形態>
本実施形態の測定用基材の一例である測定用基材200及びその製造方法について説明する。本実施形態の測定用基材200は、被測定対象40と基材30とが接している領域において非貫通孔10の全てが被測定対象40によって完全に、又は略完全に埋められている点を除いて、第1の実施形態の測定用基材100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0063】
図9は、本実施形態における測定用基材200の断面を示す模式図である。
図9に示すように、本実施形態の測定用基材200は、非貫通孔10を含む多孔性のシリコン層の表面を有する基材30の表面上に一部に、被測定対象40が配置されている。また、本実施形態は、被測定対象40と基材30とが接している領域においては、基材30上に配置された被測定対象40によって非貫通孔10の全てが被測定対象40によって完全に、又は略完全に埋められている。なお、それらの非貫通孔10の底部には粒子20が存在している。
【0064】
ここで、第1の実施形態における配置工程が本実施形態においても行われる前に、第1の実施形態の酸化膜形成工程と同様の酸化膜形成工程が行われることは好適な一態様である。該酸化膜形成工程によって、本実施形態の基材30の表面上に、第1の実施形態の酸化シリコン層80に相当する図示しない酸化膜が形成されると、確度高く非貫通孔10内に被測定対象40を入り易くすることができる。
【0065】
本実施形態の測定用基材200が採用された場合であっても、第1の実施形態の測定用基材100と同様の効果が奏され得る。
【0066】
<第3の実施形態>
本実施形態の測定用基材の一例である測定用基材300及びその製造方法について説明する。本実施形態の測定用基材300は、非貫通孔10の底部に粒子20が、全く、又はほとんど存在していない点を除いて、第1の実施形態の測定用基材100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0067】
図10は、本実施形態における、非貫通孔が10形成された基材30の断面を示す模式図である。また、
図11は、本実施形態における測定用基材300の断面を示す模式図である。
【0068】
図10に示すように、本実施形態においては、基材30が有する非貫通孔10の底部に粒子20が、全く、又はほとんど存在していない。本実施形態においては、例えば、粒子20を構成する元素が金(Au)又は白金(Pt)である場合は、非貫通孔形成工程の直後に、基材30を王水(又は、熱王水)中に浸漬することにより、粒子20を溶解させることによって除去することが可能となる(粒子除去工程)。なお、粒子20を構成する元素が銀(Ag)である場合は、非貫通孔形成工程の直後に、基材30を濃硝酸中に浸漬することにより、粒子20の溶解させることによって除去することが可能となる(粒子除去工程)。
【0069】
上述の粒子除去工程が行われた後、第1の実施形態の配置工程が行われる前に、第1の実施形態の酸化膜形成工程と同様の酸化膜形成工程が行われることは好適な一態様である。該酸化膜形成工程によって、本実施形態の基材30の表面上に、第1の実施形態の酸化シリコン層80に相当する図示しない酸化膜が形成されると、確度高く非貫通孔10内に被測定対象40を入り易くすることができる。
【0070】
なお、現時点においてメカニズムは明らかではないが、本実施形態の測定用基材300が採用された場合は、第1の実施形態の測定用基材100による効果よりも、被測定対象40が有する元素の発光線強度に対する検出感度がやや低下することが本発明者によって確認された。
【0071】
図12は、本実施形態における、非貫通孔10の底部の粒子20の有無による、測定結果の違いを示すグラフの一例である。なお、
図12に示す結果は、第1の実施形態の分散配置工程のテトラクロロ金(III)酸水溶液への浸漬時間が60秒である。換言すれば、第1の実施形態の測定用基材100と第3の実施形態の測定用基材300との違いである。なお、粒子除去工程の有無以外の条件は同じである。
図12に示すように、粒子除去工程が行われたときの被測定対象40が有する元素の発光線強度(
図12の「Y4」)が、第1の実施形態の測定用基材100の被測定対象40による発光線強度(
図12の「Y1」)の約半分程度にまで低下していることが確認された。
【0072】
従って、第1の実施形態及びその変形例、並びに第2の実施形態のように、粒子20が非貫通孔10の底部に配置されることは、被測定対象40が有する元素の発光線強度を、より高感度に検出し得る観点から好適な一態様であることが分かった。
【0073】
<第3の実施形態の変形例>
本変形例の測定用基材の一例である測定用基材400及びその製造方法について説明する。本実施形態の測定用基材400は、被測定対象40と基材30とが接している領域において非貫通孔10の全てが被測定対象40によって完全に、又は略完全に埋められている点を除いて、第3の実施形態の測定用基材300と同じである。従って、第1の実施形態又は第3の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0074】
図13は、本変形例における測定用基材400の断面を示す模式図である。
図13に示すように、本実施形態の測定用基材400は、非貫通孔10を含む多孔性のシリコン層の表面を有する基材30の表面上に一部に、被測定対象40が配置されている。また、本実施形態は、被測定対象40と基材30とが接している領域においては、基材30上に配置された被測定対象40によって非貫通孔10の全てが被測定対象40によって完全に、又は略完全に埋められている。なお、それらの非貫通孔10の底部には粒子20が全く、又は殆ど存在しない。
【0075】
ここで、第1の実施形態における配置工程が本実施形態においても行われる前に、第1の実施形態の酸化膜形成工程と同様の酸化膜形成工程が行われることは好適な一態様である。該酸化膜形成工程によって、本実施形態の基材30の表面上に、第1の実施形態の酸化シリコン層80に相当する図示しない酸化膜が形成されると、確度高く非貫通孔10内に被測定対象40を入り易くすることができる。
【0076】
本実施形態の測定用基材400が採用された場合であっても、第1の実施形態の測定用基材100又は第3の実施形態の測定用基材300と同様の効果が奏され得る。
【0077】
<第4の実施形態>
本実施形態の測定用基材の一例である測定用基材500及びその製造方法について説明する。本実施形態の測定用基材500の基材は、該基材の一部としてのシリコン層(基材30)と公知の接着又は接合方法によってシリコン層(基材30)と一体化されるガラス基板50とによって構成される二層構造を備えている。測定用基材500が該二層構造を備えている点を除いて、第1の実施形態の測定用基材100と同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0078】
図14は、本実施形態における測定用基材500の断面を示す模式図である。
図14に示すように、本実施形態においては、第1の実施形態の測定用基材100と同様に、非貫通孔10の少なくとも一部が被測定対象40によって完全に埋められていない状態の測定用基材500が製造される。
【0079】
本実施形態の測定用基材500が採用された場合であっても、第1の実施形態の測定用基材100と同様の効果が奏され得る。
【0080】
<その他の実施形態>
ところで、第4の実施形態においては、測定用基材500の基材が、シリコン層(基材30)とガラス基板50とによって構成される二層構造を備えているが、本実施形態の基材は、そのような構成に限定されない。例えば、シリコン層(基材30)と公知の接着又は接合方法によって一体化され得るガラス基板とは異なる種類の基板が採用された場合であっても、本実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0081】
また、上述の各実施形態又は変形例においては、非貫通孔10の深さをその開口幅で除して得られるアスペクト比が3.5以上である非貫通孔10が採用されている。
図7に示すエッチング時間と発光線強度との関係などを踏まえた本発明者による知見によれば、被測定対象が有する元素の発光線強度を確度高く高感度に検出し得る観点から言えば、好適な該アスペクト比は、5以上であり、より好適には、10以上であり、さらに好適には、15以上である。
【0082】
以上、述べたとおり、各実施形態又は変形例の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、仮に被測定対象が微量であっても、該被測定対象の元素の発光線強度を高感度に検出し得るため、半導体洗浄液又はめっき液の不純物量の管理、廃液の検査、あるいは原子炉内外の汚染水又は不明液体の成分調査など、各種産業において広く活用され得る。
【符号の説明】
【0084】
10 非貫通孔
20 粒子
30 基材
40 被測定対象
50 ガラス基板
80 酸化シリコン層
90 レーザー光照射部
91 ミラー
92 ステージ
93 CMOSカメラ
94a ダイクロイックミラー
94b 結像レンズ
94c 対物レンズ
96 光ファイバーバンドル
97 アクロマティックレンズ
98a 分光器
98b 検出器
99 制御部
100,200,300,400,500 測定用基材
900 発光分光分析装置