(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】アルキルアルコキシシランを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20230516BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20230516BHJP
B01J 31/30 20060101ALI20230516BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20230516BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C07F7/18 B
B01J31/22 Z
B01J31/30 Z
B01J23/42 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019124500
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】10 2018 210 886.2
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ アルベアト
(72)【発明者】
【氏名】エックハート ユスト
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-143679(JP,A)
【文献】特開2018-016626(JP,A)
【文献】特開2000-095785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C
3~C
20-アルキルトリアルコキシシランを、ヒドロシリル化によって製造する方法であって、ここで、アルコキシはメトキシ、エトキシ又はプロポキシを表し、
前記方法は、
- ヒドロトリアルコキシシラン、ヒドロアルキルジアルコキシシラン、ヒドロジアルキルアルコキシシランの群からの少なくとも1種のヒドロアルコキシシランと、Pt触媒との混合物を装入し、
- 前記混合物を30~60℃の温度に加熱し、
- 引き続き、混合しながら、ω-不飽和もしくはモノ不飽和のC
3~C
20-炭化水素と、共触媒として少なくとも1種のカルボン酸及び少なくとも1種のアルコールとを添加するかもしくは配量し、
- 反応させ、引き続き、こうして得られた生成物混合物を後処理する
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
H-シランとアルコールとを、1:0.01~
0.2のモル比で使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
H-シランとPtとを、1:1×10
-4~1×
10
-9
のモル比で使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
H-シランとカルボン酸とを、1:1×10
-3~10×
10
-3
のモル比で使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
H-シランとオレフィン成分とを、1:1~
1.2のモル比で使用することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボン酸が、安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸の群から選択されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールが、C
1~C
10-アルコールの
群から選択されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
H-シランとして、ヒドロトリメトキシシラン(TMOS)、ヒドロトリエトキシシラン(TEOS)、メチルジエトキシシラン(DEMS)、メチルジメトキシシラン(DMMS)、ジメチルエトキシシラン(DMES)、ジメチルメトキシシラン(MDMS)、ヒドロトリプロポキシシラン、ヒドロメチルジプロポキシシラン及び/又はヒドロジメチルプロポキシシランを使用することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
“カールシュテット触媒”の群からのPt
触媒、ヘキサクロロ白金(IV)
酸、又は固体触媒担体上に施与された
Ptを使用することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
- 成分H-シラン及びPt触媒を混合物として装入し、かつ加熱し、
- オレフィン成分、カルボン酸及びアルコールを合一し、かつオレフィン成分と、カルボン酸と、アルコールとを含有する混合物を、30~60℃の装入物中の温度で、混合しながら、1~10時間の期間にわたって前記装入物中へ配量し、かつ
- 続いて、0.2~2時間の期間にわたって後反応
させ、任意に、不均一系触媒が存在する場合には、この触媒をこうして得られた生成物混合物から除去してよく、
- 引き続き、得られた生成物混合物の蒸留による後処理
を実施し、ここで、存在する低沸成分、例えばキシレンもしくはトルエン、アルコール、カルボン酸、過剰のH-シランもしくは任意にオレフィン成分を、前記生成物混合物から除去し、かつ(目的)生成物を得ることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
オレフィン成分として1-ヘキサデセンを使用することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケン[以下、オレフィン又はオレフィン成分ともいう]と、ヒドロトリアルコキシシラン、ヒドロアルキルジアルコキシシランもしくはヒドロジアルキルアルコキシシラン[以下、略して(1種以上の)H-シランともいう]とから、Pt触媒、カルボン酸及びさらなる共触媒の存在下で、ヒドロシリル化によって、より長鎖のアルキルアルコキシシランを製造するための、特に経済的な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルアルコキシシランは、そのアルキル基に基づき疎水性であり、かつ今日では重要な化学化合物である。その結果として、幅広い用途がもたらされる。これらは、例えば、疎水性成分としてゾル-ゲル系において使用することができるか、又は純品でもしくは配合物で多種多様な基材上へ塗布して、疎水効果を達成することができる。典型的な用途は、フィラー、コンクリート及びさらなる無機材料の疎水化である。しかし、これらは、塗料において添加剤として使用することもできる。
【0003】
ヒドロシリル化する方法は、長らく公知であり、かつ何度も記載されている。
【0004】
特許第4266400号公報(JP4266400B)には、芳香族ビニル化合物のヒドロシリル化による芳香族シラン化合物の製造が記載されている。触媒として、白金錯体がカルボン酸の存在下で使用される。
【0005】
米国特許第5986124号明細書(US 5,986,124)は、白金触媒及びカルボン酸の存在下、トリアルコキシヒドロシランを用いる炭素二重結合のヒドロシリル化による、シラン化合物の製造方法に関する。実施例1によれば、トリアルコキシヒドロシラン/カルボン酸のモル比が1:26×10-3で並びに実施例2において1:13×10-3で使用される。白金触媒をカルボン酸と共に使用することにより、該ヒドロシリル化の際に確かに約80%の転化率を達成することができるが、しかしながら、こうして得られた粗生成物は依然として、かなりの割合の不純物及び/又は副生物を有する。
【0006】
欧州特許出願公開第0587462号明細書(EP 0587462)には、不飽和ポリオルガノシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、酸と、白金化合物と、添加剤とからなる組成物が記載されており、上記成分は水中に乳化され、かつ剥離層処理に使用される。ヒドロシリル化による架橋は、加熱の際に行われる。
【0007】
欧州特許出願公開第0856517号明細書(EP 0856517)には、元素の周期表の第8~第10副族の金属化合物の存在下で不飽和化合物をヒドロシリル化する方法が開示されている。該ヒドロシリル化は、促進剤の存在下で実施される。
【0008】
米国特許出願公開第2013/0158281号明細書(US 2013/0158281)には、 シリルヒドリドでの不飽和化合物のヒドロシリル化の方法が開示されている。触媒として、Fe錯体、Ni錯体、Mn錯体又はCo錯体が使用される。
【0009】
チェコスロバキア国特許発明第195549号明細書(CS 195549)は、ヒドロシランでのビニルシクロヘキサンのヒドロシリル化に関する。その際に、例4において、ビニルシクロヘキサンは、白金酸及びトリフルオロ酢酸の存在下でトリエトキシシランを用いてヒドロシリル化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4266400号公報
【文献】米国特許第5986124号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0587462号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0856517号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0158281号明細書
【文献】チェコスロバキア国特許発明第195549号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の基礎となった課題は、アルキルアルコキシシランを製造するための、可能な限り経済的な方法を提供することであり、ここで、アルキルは殊に―しかし排他的にではなく―C3~C20-アルキルを表し、並びにアルコキシはメトキシ、エトキシ又はプロポキシを表し、Pt触媒を共触媒としてのカルボン酸と組み合わせて使用し、ここで、生成物中に残留するカルボン酸の割合が可能な限り低いべきである。さらにまた、前述の欠点を、目的に合わせた反応管理により、目的に合わせた供給原料比及び/又はさらなる添加物により、付加的に少なくすることが望まれていた。さらに、該方法を、高価な白金の可能な限り低い濃度で並びに脂肪族又は芳香族溶剤を別個に添加せずに実施し、かつ目的生成物の収率をできるだけ高めるという要望も存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、本発明によれば、特許請求の範囲における特徴に相応して解決される。
【0013】
驚くべきことに、目的生成物、すなわちアルキルアルコキシシランのはるかにより良好な収率が、そのヒドロシリル化の実施の際に該ヒドロアルコキシシラン[略してH-シランともいう]をPt触媒と一緒に装入し、装入した混合物を加熱し、引き続き、混合しながら、該オレフィン成分をカルボン酸と一緒に、定義された期間にわたって該装入物中へ配量し、かつ後反応させる場合に達成され、ここで、有利に、少量のさらなる共触媒を、該オレフィン-カルボン酸混合物に、少なくとも1種のアルコール、殊にtert-ブタノールの形で添加し、そしてその転化並びに選択率、ひいては該ヒドロシリル化の収率をさらに明らかに向上させることが見出された。したがって、該H-シランとカルボン酸とのモル比を、1:≦10×10-3のモル比に、殊に1:≦6×10-3に、有利に低下させることができ、このことは、該生成物中のカルボン酸の残留含量及び有利にその性能特性に有利な作用を及ぼす。
【0014】
その際に、本方法が、好ましくは、均一系の白金(0)錯体触媒、殊に“カールシュテット触媒(Karstedt-Katalysator)”、スパイヤー触媒(Speyer-Katalysator)、ヘキサクロロ白金(IV)酸、又は担持された、すなわち不均一系のPt触媒、例えば活性炭上のPtを用いて実施される場合に特に有利であると判明している。さらにまた、カールシュテット触媒は、好ましくは白金(0)錯体触媒溶液として、殊にキシレン又はトルエンに溶解して、使用される。さらに、本手法は、Pt触媒の含量及び/又はPt損失を低下させ、そして高価なPtを節約することを可能にする。さらに、本方法では、安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸及び/又は3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸の群からのカルボン酸を使用することが特に有利であると判明している。
【0015】
本方法により得られた生成物混合物は、好適には蒸留により、任意に減圧下で、後処理され、かつ所望の(目的)生成物が得られる。不均一系触媒の使用の場合に、これを、好適には該蒸留前に該生成物混合物から、例えばろ過又は遠心分離により、分離してよく、こうして回収されたこのPt触媒を有利に該方法へ再循環してよい。
【0016】
したがって、目的生成物は、該反応後並びに任意に不均一系触媒の除去後に実施される蒸留の際に缶出液として得られ;該目的生成物は、蒸留による後処理の際に留出されず、かつ無色の缶出液として生じる。特に高い純度を必要とすべき場合には、該生成物を付加的に蒸留することができる。さらにまた、本方法は、30~60℃の比較的低い温度でさえも特に経済的に実施することができる。
【0017】
したがって、本方法によれば、ここで使用されるオレフィン成分の二重結合は、有利に事実上完全にヒドロシリル化することができ、かつ有利に極めてわずかな副生物のみが生じる。
【0018】
さらにまた、本方法、すなわち本発明による方法は、有利に、溶剤もしくは希釈剤としての脂肪族又は芳香族炭化水素を別個に添加せずに、かつ該目的生成物中に残留する(共)触媒成分であるカルボン酸のわずかな割合のみで、実施することができる。
【0019】
したがって、本発明の対象は、C3~C20-アルキルトリアルコキシシランを、ヒドロシリル化によって製造する方法であり、ここで、アルコキシはメトキシ、エトキシ又はプロポキシを表し、
上記方法は、
- ヒドロトリアルコキシシラン、ヒドロアルキルジアルコキシシラン、ヒドロジアルキルアルコキシシラン[以下、略してH-シランともいう]の群からの少なくとも1種のヒドロアルコキシシランと、Pt触媒との混合物を装入し、
- 該混合物を30~60℃の温度に加熱し、
- 引き続き、混合しながら、ω-不飽和もしくはモノ不飽和のC3~C20-炭化水素[以下、略してオレフィン成分ともいう]と、共触媒として少なくとも1種のカルボン酸及び少なくとも1種のアルコールとを添加するかもしくは配量し、
- 反応させ、引き続き、こうして得られた生成物混合物を後処理する
ことを含む。
【0020】
本発明による方法では、H-シランとオレフィン成分とを有利に、1:1~1.2、好ましくは1:1.05~1.2、殊に―ここでは代表的かつ例示的に、可能であり、かつ当業者には上記の記載もしくは本記載から明白であるかもしくは推論できる中間値の一部のみを挙げるために―1:1.01、1:1.03、1:1.08、1:1.1、1:1.13、1:1.15、1:1.18のモル比で使用する。
【0021】
その際に、H-シランとして、好ましくは、ヒドロトリメトキシシラン(TMOS)、ヒドロトリエトキシシラン(TEOS)、メチルジエトキシシラン(DEMS)、メチルジメトキシシラン(DMMS)、ジメチルエトキシシラン(DMES)、ジメチルメトキシシラン(MDMS)、ヒドロトリプロポキシシラン、ヒドロメチルジプロポキシシラン及び/又はヒドロジメチルプロポキシシランが使用される。
【0022】
さらに、本発明による方法では、オレフィン成分として好ましくは1-ヘキサデセンが使用される。
【0023】
有利に好ましくは、本発明による方法では、H-シランとアルコールとを、1:0.01~0.2、好ましくは1:0.02~0.18、特に好ましくは1:0.02~0.15、極めて特に好ましくは1:0.025~0.1、殊に1:0.03~0.06のモル比で使用する。好ましくは、そのためにはアルコールとしてtert-ブタノールが選択される。
【0024】
さらに、本発明による方法では、H-シランとPtとを、有利に、1:1×10-4~1×10-9、好ましくは1:1×10-5~1×10-8、殊に1:1×10-5~9×10-6のモル比で使用する。
【0025】
その際に、Pt触媒として、好適には、Pt不均一系触媒、好ましくは固体触媒担体上に施与されたPt、殊に活性炭上のPt、又はPt均一系触媒、好ましくはPt錯体触媒、例えばヘキサクロロ白金(IV)酸、これは“スパイヤー触媒”ともいう、殊にアセトンに溶解したヘキサクロロ白金(IV)酸、好ましくはPt(0)錯体触媒、特に好ましくはカールシュテット触媒、極めて特に好ましくは白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、殊に0.5~5質量%のPt(0)含量を有するキシレン又はトルエン中のカールシュテット触媒が使用される。そのような溶液は、通例、キシレン又はトルエンに溶解した白金(0)3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を含有し、ここで、本発明により使用される溶液は有利に希釈された形で使用され、これは好ましくは0.5~5質量%のPt含量を有する。したがって、本発明による方法では、有利に、カールシュテット触媒、殊にカールシュテット触媒溶液、好ましくは0.5~5質量%のPt(0)含量を有するキシレン又はトルエン中の白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、ヘキサクロロ白金(IV)酸、好ましくはスパイヤー触媒、殊にアセトンに溶解したヘキサクロロ白金(IV)酸、又は活性炭上に担持されたPtの群からのPt触媒が使用される。
【0026】
さらに、本発明による方法では、H-シランとカルボン酸を、好ましくは、1:1×10-3~10×10-3、特に好ましくは1:1×10-3~8×10-3、殊に1:2×10-3~6×10-3のモル比で使用する。
【0027】
有利に、該カルボン酸は、安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸及び3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸の群から選択される。
【0028】
好ましくは、本発明による方法は、
- 成分H-シラン及びPt触媒を混合物として装入し、かつ加熱し、
- オレフィン成分、カルボン酸及びアルコールを合一し、かつオレフィン成分と、カルボン酸と、アルコールとを含有する混合物を、30~60℃の装入物中の温度で、混合しながら、1~10時間の期間にわたって該装入物中へ配量し、かつ
- 続いて、0.2~2時間の期間にわたって後反応させ、好ましくは、該反応を保護ガス下に、殊に窒素下に実施し、任意に、不均一系触媒が存在する場合には、この触媒をこうして得られた生成物混合物から除去してよく、
- 引き続き、得られた生成物混合物の蒸留による後処理を、好ましくは45~150℃及び減圧で実施し、ここで、殊に存在する低沸成分、例えばキシレンもしくはトルエン、アルコール、カルボン酸、過剰のH-シランもしくは任意にオレフィン成分が、該生成物混合物から除去され、かつ(目的)生成物が得られる
ことによって実施される。
【0029】
したがって、一般に、本発明による方法は―本明細書に記載された特徴の方法の組み合わせの可能性の全てを用いて―次のように実施することができる:
長いアルキル鎖を有するアルキルメトキシシラン又はアルキルエトキシシランを製造するための本発明によるヒドロシリル化を実施するためには、該ヒドロアルコキシシラン(H-シラン)、好ましくはトリメトキシシラン(TMOS)、トリエトキシシラン(TEOS-H)、メチルジエトキシシラン(DEMS)、メチルジメトキシシラン(DMMS)、ジメチルエトキシシラン(DMES)、ジメチルメトキシシラン(MDMS)、ヒドロトリプロポキシシラン、ヒドロメチルジプロポキシシラン及び/又はヒドロジメチルプロポキシシランを、白金触媒、好適には“スパイヤー触媒”、好ましくはアセトンに溶解したヘキサクロロ白金(IV)酸もしくはアセトンに溶解したヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物又は“カールシュテット触媒”、ここで、この触媒は好ましくは白金(0)錯体触媒溶液として使用される、又は活性炭上のPtと一緒に、配量、加熱/冷却、還流並びに蒸留装置を備えた撹拌反応器中に、好適には保護ガス、例えば窒素下に、装入し、かつ装入した混合物を有利に30~60℃の温度に加熱する。引き続き、混合しながら、該オレフィン成分、少なくとも1種のカルボン酸、好ましくは安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸及び/又は3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸及びさらなるいわゆる共触媒として少なくとも1種のアルコール、例えば上記のC1~C10-アルコールのうち1種、殊にt-ブタノールを添加もしくは配量する:その際に、該成分オレフィン、カルボン酸及びアルコールを連続して個々に又は有利にオレフィン-カルボン酸-アルコール混合物として、定義された期間にわたって、好ましくは温度制御下にかつ1~10時間以上にわたって、ここで、配量時間はもちろんそのバッチサイズ及び反応器設計に依存していてよい、該装入物のヒドロアルコキシシラン-白金(0)錯体触媒混合物へ、少しずつ又は連続的に添加もしくは配量することができ、かつその反応混合物もしくは生成物混合物を、好ましくは混合しながらかつ温度制御下に、好適には60~100℃の温度で、殊に0.5~2時間にわたって、後反応させる。したがって、本方法では、それぞれの供給原料は、好ましくは、明確に定義されたモル比で使用される:
- 1:1~1.2のモル比のH-シランとオレフィン成分
- 1:0.01~0.2のモル比のH-シランとアルコール
- 1:1×10-4~1×10-9のモル比のH-シランとPt
- 1:1×10-3~10×10-3のモル比のH-シランとカルボン酸
【0030】
さらに、使用されるカールシュテット触媒溶液は、好ましくは、市販のいわゆるカールシュテット濃縮物(白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、白金含量:20.37質量%)から製造され、ここで、該濃縮物は、好ましくはキシレンもしくはトルエンの添加により、0.5~5質量%のPt含量に調節される。こうして得られた生成物混合物は、好適には蒸留により後処理され、こうして、所望の(目的)生成物が得られる。そのためには、該蒸留を、好ましくは45℃~150℃及び減圧で開始して(1bar未満の下降、殊に0.1bar以下での真空蒸留)実施し、ここで、殊に存在する低沸成分、例えばアルコール、過剰のH-シランもしくは任意に依然として存在するオレフィン成分は、該生成物混合物から除去される。Pt不均一系触媒が本発明による方法を実施するのに使用される場合には、該Pt不均一系触媒を、該反応後に得られた生成物混合物から生成物後処理の範囲内で、すなわち該蒸留工程の前に、例えばろ過又は遠心分離により、分離することができ、かつ有利に再び該方法へ返送することができる。しかし、より高い純度を達成するために、該生成物を、頂部より留出させることもできる。
【0031】
したがって、本発明によれば、長鎖アルキル基を有するアルキルアルコキシシラン、殊にヘキサデシルトリメトキシシラン並びにヘキサデシルトリエトキシシランを、特に単純で経済的な方法で、高い収率及び選択率で、すなわち副生物のわずかな割合のみで、有利に大工業的にも、製造することができる。
【0032】
次の実施例は、本発明を付加的に説明するが、その対象を限定するものではない:
【実施例】
【0033】
分析調査
反応を、GC測定によって追跡した。
GCカラム:HP-5;長さ:30m;直径:530μm
注入量:0.4μl
温度プログラム:120℃―2分―15℃/分―275℃―20分
【0034】
使用した化学物質:
カールシュテット濃縮物(白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、白金含量:20.37質量%)、HERAEUS
アセトン、純、LABC Labortechnik
ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金含量 40質量%、HERAEUS
白金-活性炭、水素化触媒、白金含量 10質量%、MERCK
キシレン、工業用、VWR Chemicals
Dynasylan(登録商標) TMOS(トリメトキシシラン)、EVONIK Industries
Dynasylan(登録商標) TEOS-H(トリエトキシシラン)、EVONIK Industries
Dynasylan(登録商標) DEMS(メチルジエトキシシラン)、EVONIK Industries
Dynasylan(登録商標) DMES(ジメチルエトキシシラン)、EVONIK Industries
1-ヘキサデセン、Dow Corning
安息香酸 ≧99.5質量%、ROTH
3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸 >98.0質量%、TOKYO CHEMICAL INDUSTRY
3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸、>98.0質量%、TOKYO CHEMICAL INDUSTRY
酢酸、≧99質量%、SIGMA-ALDRICH
tert-ブタノール、≧99.0質量%(合成用)、ROTH
【0035】
キシレン中の白金含量2質量%を有するカールシュテット触媒No.1の製造:
0.2Lガラスびん中で、カールシュテット濃縮物9.8g(白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、白金含量20.37%)をキシレン90.2gと混合した。
【0036】
比較例1、米国特許第5986124号明細書の例1に準拠し、並びに低下した割合のカルボン酸を有する:
Dynasylan(登録商標) TMOS 128.3g(1.05mol)、カールシュテット触媒0.2g(Pt 0.02563mmolに相当)を、還流冷却器、配量装置を備えた0.5L撹拌装置中に装入した。41~56℃の温度で、ヘキサデセン224.4g(1.0mol)と、酢酸0.393g(6.55mmol)とからなる混合物を、39分かけて配量した。その後、該混合物を55℃でさらに3/4時間保持した。引き続き、低沸成分17.2gを76~123℃及び<0.1mbarの圧力で除去した。その際に、缶出液331.3gが得られた。
該缶出液のGC分析から、次の組成が得られた:
【表1】
【0037】
例1
Dynasylan(登録商標) TMOS 128.3g(1.05mol)、カールシュテット触媒0.2g(Pt 0.02563mmolに相当)を、還流冷却器、配量装置を備えた0.5L撹拌装置中に装入した。33~48℃の温度で、1-ヘキサデセン224.4g(1.0mol)と、安息香酸0.800g(6.55mmol)と、t-ブタノール2.5g(33.73mmol)とからなる混合物を、2時間かけて配量した。その後、該混合物を47℃でさらに3/4時間保持した。引き続き、低沸成分12.1gを42~111℃及び<0.1mbarの圧力で除去した。その際に、缶出液339.8gが得られた。該缶出液のGC分析から、次の組成が得られた:
【表2】
【0038】
例2
Dynasylan(登録商標) TMOS 128.3g(1.05mol)、カールシュテット触媒0.2g(Pt 0.02563mmolに相当)を、還流冷却器、配量装置を備えた0.5L撹拌装置中に装入した。48~57℃の温度で、1-ヘキサデセン224.4g(1.0mol)と、3,5-ジ-tert-ブチルヒドロキシ安息香酸1.64g(6.55mol)と、t-ブタノール2.5g(33.73mmol)とからなる混合物を、1と3/4時間かけて配量した。その後、該混合物を55℃でさらに3/4時間保持した。引き続き、低沸成分13.9gを31~110℃及び<0.1mbarの圧力で除去した。その際に、缶出液337.4gが得られた。該缶出液のGC分析から、次の組成が得られた:
【表3】
【0039】
例3
Dynasylan(登録商標) TEOS 172.5g(1.05mol)、カールシュテット触媒0.2g(Pt 0.02563mmolに相当)を、還流冷却器、配量装置を備えた1L撹拌装置中に装入した。45~46℃の温度で、1-ヘキサデセン224.4g(1.0mol)と、安息香酸0.800g(6.55mmol)と、t-ブタノール2.5g(33.73mmol)とからなる混合物を、1時間かけて配量した。その後、該混合物を46℃でさらに1/2時間保持した。引き続き、低沸成分20.1gを58~144℃及び<0.1mbarの圧力で除去した。その際に、缶出液376.4gが得られた。該缶出液のGC分析から、次の組成が得られた:
【表4】
【0040】
例4
Dynasylan(登録商標) DEMS 141.0g(1.05mol)、カールシュテット触媒0.2g(Pt 0.02563mmolに相当)を、還流冷却器、配量装置を備えた1L撹拌装置中に装入した。41~47℃の温度で、1-ヘキサデセン224.4g(1.0mol)と、安息香酸0.800g(6.55mmol)と、t-ブタノール2.5g(33.73mmol)とからなる混合物を、1時間かけて配量した。その後、該混合物を46℃でさらに1/2時間保持した。引き続き、低沸成分16.3gを40~125℃及び<0.1mbarの圧力で除去した。その際に、缶出液348.1gが得られた。該缶出液のGC分析から、次の組成が得られた:
【表5】
【0041】
次の表は、上記の例からの収率及び選択率に関する実験結果をまとめた対比で示す。
したがって、本発明による方法により、有利に、収率及び生成物選択率のさらなる改善を達成することができる。
【表6】
【0042】
本発明による実験は、“手順/プロセス条件”、“該H-シランに対するカルボン酸共触媒割合の低下”及び“アルコールの形のさらなる共触媒の添加”の措置の組み合わせにより、目的生成物の収率のさらなる改善を達成することができ、同時に該生成物中に残留するカルボン酸の割合を低下できることを示している。
【0043】
本発明の態様は次のとおりである:
1. C3~C20-アルキルトリアルコキシシランを、ヒドロシリル化によって製造する方法であって、ここで、アルコキシはメトキシ、エトキシ又はプロポキシを表し、
前記方法は、
- ヒドロトリアルコキシシラン、ヒドロアルキルジアルコキシシラン、ヒドロジアルキルアルコキシシランの群からの少なくとも1種のヒドロアルコキシシランと、Pt触媒との混合物を装入し、
- 前記混合物を30~60℃の温度に加熱し、
- 引き続き、混合しながら、ω-不飽和もしくはモノ不飽和のC3~C20-炭化水素と、共触媒として少なくとも1種のカルボン酸及び少なくとも1種のアルコールとを添加するかもしくは配量し、
- 反応させ、引き続き、こうして得られた生成物混合物を後処理する
ことを含む、前記方法。
2. H-シランとアルコールとを、1:0.01~0.2、好ましくは1:0.02~0.18、特に好ましくは1:0.03~0.15、極めて特に好ましくは1:0.04~0.1、殊に1:0.05~0.06のモル比で使用することを特徴とする、前記態様1に記載の方法。
3. H-シランとPtとを、1:1×10-4~1×10-9、好ましくは1:1×10-5~3×10-8、殊に1:1×10-5~9.0×10-6のモル比で使用することを特徴とする、前記態様1又は2に記載の方法。
4. H-シランとカルボン酸とを、1:1×10-3~10×10-3、好ましくは1:2×10-3~8×10-3、殊に1:2×10-3~6×10-3のモル比で使用することを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。
5. H-シランとオレフィン成分とを、1:1~1.2、好ましくは1:1.05~1.2のモル比で使用することを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。
6. 前記カルボン酸が、安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸の群から選択されることを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。
7. 前記アルコールが、C1~C10-アルコールの群、好ましくはt-ブタノールから選択されることを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。
8. H-シランとして、ヒドロトリメトキシシラン(TMOS)、ヒドロトリエトキシシラン(TEOS)、メチルジエトキシシラン(DEMS)、メチルジメトキシシラン(DMMS)、ジメチルエトキシシラン(DMES)、ジメチルメトキシシラン(MDMS)、ヒドロトリプロポキシシラン、ヒドロメチルジプロポキシシラン及び/又はヒドロジメチルプロポキシシランを使用することを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。
9. “カールシュテット触媒”の群からのPt触媒、好ましくは白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、殊に0.5~5質量%のPt(0)含量を有するキシレン又はトルエン中の“カールシュテット触媒”として、ヘキサクロロ白金(IV)酸、好ましくは“スパイヤー触媒”、殊にアセトンに溶解したヘキサクロロ白金(IV)酸、又は固体触媒担体上に施与されたPt、好ましくは活性炭上に担持されたPtを使用することを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。
10.
- 成分H-シラン及びPt触媒を混合物として装入し、かつ加熱し、
- オレフィン成分、カルボン酸及びアルコールを合一し、かつオレフィン成分と、カルボン酸と、アルコールとを含有する混合物を、30~60℃の装入物中の温度で、混合しながら、1~10時間の期間にわたって前記装入物中へ配量し、かつ
- 続いて、0.2~2時間の期間にわたって後反応させ、好ましくは、前記反応を保護ガス下に、殊に窒素下に実施し、任意に、不均一系触媒が存在する場合には、この触媒をこうして得られた生成物混合物から除去してよく、
- 引き続き、得られた生成物混合物の蒸留による後処理を、好ましくは45~150℃及び減圧で実施し、ここで、殊に存在する低沸成分、例えばキシレンもしくはトルエン、アルコール、カルボン酸、過剰のH-シランもしくは任意にオレフィン成分を、前記生成物混合物から除去し、かつ(目的)生成物を得ることを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。
11. オレフィン成分として1-ヘキサデセンを使用することを特徴とする、前記態様のいずれか1つに記載の方法。