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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20230516BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20230516BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
H01L29/78 652E
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652D
H01L29/78 652J
H01L29/78 652K
H01L29/78 658E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019169383
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021048231
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶亮
(72)【発明者】
【氏名】小西 くみこ
(72)【発明者】
【氏名】島 明生
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 紀人
(72)【発明者】
【氏名】須藤 悠介
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
(72)【発明者】
【氏名】北畠 真
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091754(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076055(WO,A1)
【文献】特開2015-162655(JP,A)
【文献】特開2013-214661(JP,A)
【文献】特開2009-289987(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178094(WO,A1)
【文献】特開2018-117017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板上に形成され、且つ、炭化珪素からなる前記第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層内に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の第2導電型の第1不純物領域と、
前記第1不純物領域内に形成され、且つ、前記第1半導体層よりも高い不純物濃度を有する前記第1導電型の第2不純物領域および前記第1導電型の第3不純物領域と、
前記第2不純物領域および前記第3不純物領域を貫通するように形成されたトレンチと、
前記トレンチ内に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、
を有し、
前記トレンチは、前記第1不純物領域内に位置する底面、前記第2不純物領域に接する第1側面、および、前記第3不純物領域に接し、且つ、前記第1側面と対向する第2側面を含み、
前記トレンチの外部における前記第1半導体層の上面、前記トレンチの底面、前記第1側面および前記第2側面において、シリコンの比率は炭素の比率よりも高く、
前記第1側面側の前記第1半導体層の上面が前記第1側面に対して傾いている角度θ1は、前記第2側面側の前記第1半導体層の上面が前記第2側面に対して傾いている角度θ2よりも小さい、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記角度θ1および前記角度θ2は、80度以上、100度以下の範囲内である、半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1半導体層の上面または前記トレンチの底面の表面粗さは、1nm以下である、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記第1側面または前記第2側面の表面粗さは、1.5nm以下である、半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記トレンチの平面形状は、四角形よりも多くの角を有する多角形である、半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1半導体層の上面または前記トレンチの底面と、前記第1半導体層の<0001>方向と成す角度θ3は、88~92度である、半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記トレンチの底面と前記第1側面とから構成される第1コーナー部の曲率半径φ1は、100~500nmである、半導体装置。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置において、
前記第1半導体層の上面と前記第1側面とから構成される第2コーナー部の曲率半径φ2は、100~500nmである、半導体装置。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1不純物領域は、MISFETのチャネル領域を構成し、
前記第2不純物領域は、前記MISFETのソース領域の一部を構成し、
前記第3不純物領域は、前記MISFETのドレイン領域の一部を構成している、半導体装置。
【請求項10】
請求項8に記載の半導体装置において、
前記第2不純物領域の上部には、前記第1不純物領域よりも高い不純物濃度を有する前記第2導電型の第4不純物領域が形成され、
前記第3不純物領域の上部には、前記第1不純物領域よりも高い不純物濃度を有する前記第2導電型の第5不純物領域が形成されている、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、炭化珪素を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体デバイスの一つである金属絶縁膜半導体電界効果トランジスタ(MISFET:Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)において、従来は、珪素(Si)基板を用いたパワーMISFET(SiパワーMISFET)が主流であった。しかし、炭化珪素(SiC)における絶縁破壊に対する電界強度は、Siにおける電界強度と比較して、約1桁大きい。
【0003】
このため、SiC基板を用いたパワーMISFET(SiCパワーMISFET)では、SiパワーMISFETと比較して、耐圧を保持するためのドリフト層の厚さを約1/10に薄くし、上記ドリフト層の不純物濃度を100倍程度高くすることができる。その結果、SiCパワーMISFETにおいて、理論上、素子抵抗を3桁以上低くすることができる。また、SiCはSiに対してバンドギャップが約3倍大きいので、SiCパワーMISFETは、同耐圧におけるオン抵抗を低くでき、高温環境下における動作も可能である。このため、SiC半導体素子は、Si半導体素子を超える性能が期待されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、SiCパワーMISFETの一例として、4H-SiC基板の表面をチャネルとして用いるDMOS(Double diffused Metal Oxide Semiconductor)構造が開示されている。
【0005】
特許文献2には、耐圧を支えるp型のボディ層を貫くように、ドリフト層まで達するトレンチを形成することで、チャネル電流が基板に対して縦方向に流れる構造が提案されている。ただし、SiCの絶縁破壊強度は大きく、Siと比較して約7倍であるので、ブロッキング時には、トレンチの底面に形成されているゲート絶縁膜に印加される電界が、Siと比較して7倍となる。その結果、ゲート絶縁膜の絶縁耐圧を越えるので、絶縁破壊が発生し易い。
【0006】
特許文献3では、上記ブロッキング時におけるゲート絶縁膜の破壊を回避するため、ボディ層の内部に溝が形成されるように、(0001)面の基板にトレンチを形成している。このため、高チャネル移動度の(11-20)面または(1-100)面を利用して、実効的なチャネル幅を広くすることができる。なお、このような方法による構造を、トレンチ型DMOSと呼称する場合もある。
【0007】
特許文献4には、トレンチのコーナー部に傾斜面を形成することによって、電界集中を緩和する方法が開示されている。
【0008】
特許文献5には、LOCOS(LOCal Oxidation of Silicon)法によって、トレンチのコーナー部を熱酸化することで、電界集中を緩和する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-236040号公報
【文献】特開2009-260253号公報
【文献】国際公開第2015/177914号
【文献】特開2016-48747号公報
【文献】特開2003-124466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の(0001)面において、チャネル移動度は、SiパワーMISFETと比較すると、1/5程度であり、極めて低い。従って、チャネルの寄生抵抗が大きくなることが、大きな課題である。このチャネルの寄生抵抗を下げるための有効な手段として、高チャネル移動度が得られる(11-20)面または(1-100)面を利用することが検討されている。(11-20)面または(1-100)面などを利用するためには、(0001)面の基板にトレンチ構造のMISFETを形成する必要がある。
【0011】
特許文献2または特許文献3に開示されているトレンチ構造では、トレンチ形成後において、トレンチの底面および側面の平坦性が悪く、ドライエッチングによるダメージが残留している。このため、ラフネス散乱が大きくなり、チャネル移動度が低下する。また、ドライエッチングによるダメージによって形成される不純物準位によって、チャネル移動度が低下するので、オン抵抗が増加する。また、トレンチにおいてチャネルとなる面の平坦性が悪いと、ゲート絶縁膜の絶縁破壊の寿命が低下する。また、ゲート電圧の印加時に、トレンチの側面とSiC基板の上面とにより形成されるコーナー部において、電界が集中するため、リーク電流が発生し易い。これもゲート絶縁膜の絶縁破壊の寿命が低下する原因となる。すなわち、半導体装置の信頼性の低下が懸念される。
【0012】
また、特許文献4では、トレンチの側面とSiC基板の上面とにより構成されるコーナー部に傾斜面を作成するため、結晶異方性エッチングまたは物理的異方性エッチングを用いる技術が開示されているが、これらのエッチングを制御することが、非常に困難である。そして、ドライエッチングのばらつき、または、露光時における各層の合わせズレによって、チャネル長のばらつきが問題となる。
【0013】
また、特許文献5では、トレンチの側面とSi基板の上面とにより構成されるコーナー部を滑らかにするため、酸化法を用いる技術が開示されているが、この酸化を制御することも、非常に困難であり、チャネル長のばらつきが問題となる。チャネル長のばらつきは、パワーモジュール内に設置されるチップ間における閾値電圧のばらつき、または、オン抵抗のばらつきとなり、チップ間の性能ばらつきとして現れる。
【0014】
特に、自動車および産業向けの低耐圧SiCパワーMISFETでは、オン抵抗におけるチャネル抵抗の占める割合が大きいので、チャネル長のばらつきによるチップ間の性能ばらつき、または、チャネル移動度の低下によるオン抵抗の増加の問題が顕著になる。
【0015】
従って、これらの問題を解決するために、トレンチ形成後において、トレンチの底面および側面の平坦性を向上し、ドライダメージを除去することが必要となる。これにより、トレンチ構造のMISFETにおいて、チャネルの低抵抗化が維持され、且つ、ゲート絶縁膜の絶縁破壊が抑制されることが期待される。
【0016】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0018】
一実施の形態である半導体装置は、炭化珪素からなる第1導電型の半導体基板と、半導体基板上に形成され、且つ、炭化珪素からなる第1導電型の第1半導体層と、第1半導体層内に形成され、且つ、第1導電型と反対の第2導電型の第1不純物領域とを有する。また、半導体装置は、第1不純物領域内に形成され、且つ、第1半導体層よりも高い不純物濃度を有する第1導電型の第2不純物領域および第1導電型の第3不純物領域と、第2不純物領域および第3不純物領域を貫通するように形成されたトレンチと、トレンチ内に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極とを有する。ここで、トレンチは、第1不純物領域内に位置する底面、第2不純物領域に接する第1側面、および、第3不純物領域に接し、且つ、第1側面と対向する第2側面を含む。また、トレンチの外部における第1半導体層の上面、トレンチの底面、第1側面および第2側面において、シリコンの比率は炭素の比率よりも高く、第1側面側の第1半導体層の上面が第1側面に対して傾いている角度θ1は、第2側面側の第1半導体層の上面が第2側面に対して傾いている角度θ2よりも小さい。
【発明の効果】
【0019】
一実施の形態によれば、半導体装置の性能および信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1における半導体装置である半導体チップの平面図である。
図2】実施の形態1における半導体装置の要部斜視図である。
図3】実施の形態1における半導体装置の断面図である。
図4】実施の形態1における半導体装置の断面図である。
図5】本願発明者らが測定したデータである。
図6】実施の形態1における半導体装置の拡大平面図である。
図7】実施の形態1における半導体装置の拡大断面図である。
図8】実施の形態1における半導体装置の拡大断面図である。
図9】実施の形態1における半導体装置の製造工程の概略を説明する大工程図である。
図10】実施の形態1における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図11図10に続く製造工程を示す断面図である。
図12図11に続く製造工程を示す断面図である。
図13図12に続く製造工程を示す断面図である。
図14図13に続く製造工程を示す断面図である。
図15図14に続く製造工程を示す断面図である。
図16図14に続く製造工程を示す断面図である。
図17】加熱処理に用いられる容器を示す断面図である。
図18図15に続く製造工程を示す断面図である。
図19図16に続く製造工程を示す断面図である。
図20図18に続く製造工程を示す断面図である。
図21図20に続く製造工程を示す断面図である。
図22図21に続く製造工程を示す断面図である。
図23図22に続く製造工程を示す断面図である。
図24図23に続く製造工程を示す断面図である。
図25図24に続く製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0022】
また、実施の形態で用いられる図面では、図面を見易くするために、断面図であってもハッチングが省略されている場合もあり、平面図であってもハッチングが付されている場合もある。
【0023】
また、以下の説明では、「n型」の表記に「」または「」などが付されているが、これらは、相対的な不純物濃度を表記した符号である。例えば、n型の場合には、「n」、「n」、「n」および「n++」の順番で、n型不純物の不純物濃度が高いことを意味する。また、「p型」の表記についても、「n型」の場合と同様である。
【0024】
また、以下の説明において、数値範囲を表すために、例えば「第1角度は80~100度」と記載されている場合、特別な説明が無い限り、それは「第1角度は80度以上、100度以下」を意味する。また、このような数値範囲の表現は、角度に限定されず、他の要素においても同様である。
【0025】
(実施の形態1)
<半導体装置の構造>
図1は、実施の形態1の半導体装置である半導体チップ1の平面図である。また、図1には、半導体チップ1の主要な半導体素子が形成されるアクティブ領域6の一部を拡大した平面図も示されている。
【0026】
図1に示されるように、半導体チップ1の中央部には、ソース配線用電極2およびゲート配線用電極3が形成されている。ソース配線用電極2の下方は、アクティブ領域6となっており、アクティブ領域6には、n型のSiCパワーMISFETのような主要な半導体素子が形成されている。アクティブ領域6には、平面視においてストライプ状に形成された複数のトレンチTRが形成され、これらのトレンチTRを利用して、SiCパワーMISFETが形成される。
【0027】
ソース配線用電極2において破線で囲まれた領域は、ソースパッド2aであり、ゲート配線用電極3において破線で囲まれた領域は、ゲートパッド3aである。ここでは図示していないが、半導体チップ1は保護膜によって覆われており、この保護膜に形成された開口部から露出する領域が、ソースパッド2aおよびゲートパッド3aである。ソースパッド2aおよびゲートパッド3aの各々の上面に、ワイヤボンディングまたはクリップ(銅板)などの外部接続用端子が接続されることで、半導体チップ1を、他のチップまたは配線基板などに電気的に接続させることが可能となる。
【0028】
ソース配線用電極2およびゲート配線用電極3の外周には、3重のp型のFLR5が形成され、p型のFLR5の外周には、n++型のガードリング4が形成されている。複数のp型のFLR5をアクティブ領域6の周辺に形成することにより、SiCパワーMISFETのオフ動作時において、最大電界部分がp型のFLR5へ移り、最外周のp型のFLR5で降伏するようになるので、SiCパワーMISFETの耐圧を高くすることが可能となる。図1には、3個のp型のFLR5が示されているが、p型のFLR5の数は、3個に限定されず、3個より多くても少なくてもよい。また、n++型のガードリング4は、アクティブ領域6に形成されたSiCパワーMISFETを保護する機能を有する。
【0029】
図2は、実施の形態1における半導体装置の要部斜視図であり、アクティブ領域6に形成された半導体素子であるSiCパワーMISFETが示されている。図3は、図2に示されるA-A線に沿った断面図であり、図4は、図2に示されるB-B線に沿った断面図である。
【0030】
なお、図2では、図面を見易くするため、n型の導電性を示す不純物領域のみにハッチングを付している。また、図2では、n型のエピタキシャル層12の上面付近に形成された各不純物領域を主に示すため、n型の半導体基板11、ゲート電極23およびソース配線用電極2などが省略されている。
【0031】
実施の形態1で使用される半導体基板(基板)11は、炭素および珪素を含む化合物半導体基板である。具体的には、半導体基板11は、n型の炭化珪素(SiC)基板であり、4H-SiC基板である。n型の半導体基板11は、表面と、表面と反対側の面である裏面とを有する。
【0032】
n型の半導体基板11の裏面側には、n型のドレイン領域13が形成されている。n型のドレイン領域13下には、シリサイド層26が形成され、シリサイド層26下には、ドレイン配線用電極27が形成されている。シリサイド層26は、例えばニッケルシリサイド(NiSi)からなる。ドレイン配線用電極27は、例えば、チタン(Ti)膜、ニッケル(Ni)膜および金(Au)膜の積層膜であり、ドレイン配線用電極27の厚さは、例えば0.5~1.0μmである。なお、ドレイン配線用電極27は、これらの積層膜ではなく、これらのうちの1つからなる単層膜であってもよいし、これらとは別の導電性膜であってもよい。
【0033】
ドレイン配線用電極27は、SiCパワーMISFETのドレイン電極として機能する。図示はしないが、ドレイン配線用電極27は、半田ボールまたはバンプ電極などの外部接続用の導電性膜を介して、半導体チップ1の外部の他のチップまたは配線基板などに電気的に接続される。
【0034】
n型の半導体基板11上には、n型の半導体基板11よりも低い不純物濃度を有し、炭化珪素(SiC)からなるn型のエピタキシャル層(半導体層)12が形成されている。n型のエピタキシャル層12は、実施の形態1においてドリフト層として機能する。
【0035】
型のエピタキシャル層12内には、p型のボディ領域(不純物領域)14が形成されている。p型のボディ領域は、主に、SiCパワーMISFETのチャネル領域として機能する。Y方向において、互いに隣接するp型のボディ領域14の間に位置するn型のエピタキシャル層12は、JFET領域(不純物領域)15を構成する。
【0036】
型のボディ領域14内には、n型のエピタキシャル層12よりも高い不純物濃度を有するn型の電流拡散領域(不純物領域)16、17、および、p型のボディ領域14よりも高い不純物濃度を有するp型の電界緩和領域(不純物領域)18、19が形成されている。n型の電流拡散領域16は、n型のエピタキシャル層12を介してn型のドレイン領域13に電気的に接続され、SiCパワーMISFETのドレイン領域の一部を構成している。n型の電流拡散領域17は、後述のn++型のソース領域20に電気的に接続され、SiCパワーMISFETのソース領域の一部を構成している。
【0037】
型の電流拡散領域16の一部およびp型の電界緩和領域18の一部は、p型のボディ領域14に隣接するn型のエピタキシャル層12へ延在している。また、p型の電界緩和領域18は、n型の電流拡散領域16の上部に位置し、p型の電界緩和領域19は、n型の電流拡散領域17の上部に位置している。
【0038】
また、p型のボディ領域14内には、p型の電界緩和領域18、19よりも高い不純物濃度を有するp++型のボディ電位固定領域(不純物領域)21と、n型の電流拡散領域16、17よりも高い不純物濃度を有するn++型のソース領域(不純物領域)20が形成されている。
【0039】
++型のソース領域20およびp++型のボディ電位固定領域21には、ソース配線用電極2が電気的に接続され、SiCパワーMISFETの動作時に、ソース電位が印加される。n型の電流拡散領域16には、n型のエピタキシャル層12、n型のドレイン領域13およびシリサイド層26を介して、ドレイン配線用電極27が電気的に接続され、SiCパワーMISFETの動作時に、ドレイン電位が印加される。
【0040】
型のエピタキシャル層12には、p型の電界緩和領域18、19およびn型の電流拡散領域16、17を貫通し、p型のボディ領域14に達するように、複数のトレンチTRが形成されている。図2および図3に示されるように、複数のトレンチTRの各々は、Y方向に延在している。そして、図2および図4に示されるように、X方向において、複数のトレンチTRが互いに隣接するように形成されている。
【0041】
複数のトレンチTRの各々の内部には、ゲート絶縁膜22を介して、ゲート電極23が埋め込まれている。ゲート絶縁膜22は、例えば酸化シリコン膜のような絶縁膜であり、ゲート絶縁膜22の厚さは、例えば5~150nmである。ゲート電極23は、例えば多結晶シリコン膜のような導電性膜であり、ゲート電極23の厚さは、例えば0.01~4μmである。
【0042】
ゲート電極23の一部は、トレンチTRの外部にも形成され、複数のトレンチTRの各々の内部に形成されているゲート電極23は、互いに一体化されている。なお、図3に示されるように、トレンチTRの外部に形成されているゲート電極23の端部は、p型の電界緩和領域19上およびn型の電流拡散領域17上に位置している。
【0043】
図示はしないが、ゲート電極23には、図1に示されるゲート配線用電極3が電気的に接続され、SiCパワーMISFETの動作時にゲート電位が印加される。
【0044】
図3に示されるように、Y方向において、トレンチTRの第1側面S1は、p型の電界緩和領域19およびn型の電流拡散領域17に接し、第1側面S1と対向する側面であるトレンチTRの第2側面S2は、p型の電界緩和領域18およびn型の電流拡散領域16に接している。また、図4に示されるように、X方向において、トレンチTRの第3側面S3、第3側面S3と対向する側面であるトレンチTRの第4側面S4、および、トレンチTRの底面は、p型のボディ領域14に接している。
【0045】
このように、n型の電流拡散領域16からp型のボディ領域14を介してn型の電流拡散領域17に至る経路が、SiCパワーMISFETの電流経路となる。すなわち、トレンチTRの第3側面S3、第4側面S4および底面に接するp型のボディ領域14に、SiCパワーMISFETのチャネル領域が形成され、特に、第3側面S3と第4側面S4とに挟まれたp型のボディ領域14が、チャネル領域の主要部となる。
【0046】
ゲート電極23は、層間絶縁膜24によって覆われている。層間絶縁膜24は、例えば酸化シリコン膜のような絶縁膜である。層間絶縁膜24には、n++型のソース領域20の一部上およびp++型のボディ電位固定領域21上を開口する開口部OPが形成されている。開口部OPの内部におけるn型のエピタキシャル層12上には、例えばニッケルシリサイド(NiSi)からなるシリサイド層25が形成されている。
【0047】
開口部OPの内部および層間絶縁膜24上には、ソース配線用電極2が形成されている。ソース配線用電極2は、例えばチタン(Ti)膜および窒化チタン(TiN)を含むバリアメタル膜と、例えばアルミニウム(Al)膜のような導電性膜とからなる。開口部OP内に埋め込まれたソース配線用電極2は、シリサイド層25を介して、n++型のソース領域20およびp++型のボディ電位固定領域21に接続している。また、図示はしないが、図1に示されるゲート配線用電極3は、ソース配線用電極2と同様な導電性膜によって構成され、ゲート電極23の一部に接続している。
【0048】
また、図示はしないが、ソース配線用電極2上およびゲート配線用電極3上には、例えば酸化シリコン膜またはポリイミド膜のような保護膜が形成され、この保護膜に形成されている開口部から露出した領域が、図1に示されるソースパッド2aおよびゲートパッド3aである。
【0049】
以下に、実施の形態1における各構成の深さおよび不純物濃度などのパラメータを記載する。なお、以下に示される各々の深さ(第1深さ~第6深さ)は、それぞれ、n型のエピタキシャル層12の上面からの深さである。言い換えれば、これらの深さは、各不純物領域の厚さである。
【0050】
n型の半導体基板11は、例えば1×1018~1×1021cm-3の不純物濃度を有する。
【0051】
型のエピタキシャル層12は、例えば5~50μmの厚さを有し、例えば1×1014~1×1017cm-3の不純物濃度を有する。
【0052】
型のドレイン領域13は、例えば1×1019~1×1021cm-3の不純物濃度を有する。
【0053】
型のボディ領域14は、例えば0.5~2.0μmの深さ(第1深さ)を有し、例えば1×1016~1×1019cm-3の不純物濃度を有する。また、p型のボディ領域14の最大不純物濃度は、例えば1×1017~1×1019cm-3の範囲である。
【0054】
++型のボディ電位固定領域21は、例えば0.1~1.0μmの深さ(第2深さ)を有し、例えば1×1019~1×1021cm-3の不純物濃度を有する。
【0055】
++型のソース領域20は、例えば0.1~1.0μmの深さ(第3深さ)を有し、例えば1×1019~1×1021cm-3の不純物濃度を有する。
【0056】
型の電流拡散領域16、17は、例えば0.1~1.0μmの深さ(第4深さ)を有し、例えば5×1017~5×1018cm-3の不純物濃度を有する。
【0057】
型の電界緩和領域18、19は、例えば0.01~0.5μmの深さ(第5深さ)を有し、例えば1×1017~1×1019cm-3の不純物濃度を有する。
【0058】
以下に、図3および図4に示されるトレンチTRに関するパラメータを記載する。トレンチTRのn型のエピタキシャル層12の上面からの深さ(第6深さ)は、p型のボディ領域14の深さ(第1深さ)よりも浅く、例えば0.1~1.5μmである。また、チャネル長に並行な方向(Y方向)におけるトレンチTRの長さは、例えば1.0~3.0μmである。また、チャネル幅に並行な方向(X方向)におけるトレンチTRの長さは、例えば0.1~2.0μm程度である。また、チャネル幅に並行な方向(X方向)において、各トレンチTRの間隔は、例えば0.1~2.0μm程度である。
【0059】
<半導体装置の構造の主な特徴>
以下に図5図8を用いて、実施の形態1における半導体装置の構造の主な特徴を説明する。なお、ここで説明する構造は、後述する熱処理後の構造である。この熱処理については、図9の大工程P4および図16図19において後で詳細に説明する。
【0060】
実施の形態1の半導体装置では、複数のトレンチTRが形成され、各トレンチTR内には、ゲート絶縁膜22を介してゲート電極23が埋め込まれている。このため、トレンチTR周囲のp型のボディ領域14が、SiCパワーMISFETのチャネル領域を構成し、特に、Y方向に沿うトレンチTRの両側面(第3側面S3、第4側面S4)に挟まれたp型のボディ領域14が、チャネル領域の主要部となる。また、第3側面S3および第4側面S4には、高チャネル移動度の(11-20)面または(1-100)面が含まれる。従って、実施の形態1のトレンチゲートを用いたSiCパワーMISFETは、n型のエピタキシャル層12にトレンチTRを形成しないようなプレーナ型のMISFETと比較して、高いチャネル移動度を期待できる。
【0061】
また、n型の電流拡散領域16上にp型の電界緩和領域18が形成され、n型の電流拡散領域17上にp型の電界緩和領域19が形成されている。特に、ソース側のトレンチTRのコーナー部にp型の電界緩和領域19が設けられているので、SiCパワーMISFETのオン動作時においてトレンチTRのコーナー部に電界が集中しても、閾値電圧の低下が抑制されるので、リーク電流を抑制することができる。
【0062】
実施の形態1では、図9の大工程P4による熱処理が行われているので、トレンチTRの外部におけるn型のエピタキシャル層12の上面、トレンチTRの底面およびトレンチTRの側面S1~S4において、炭素(C)に対するシリコン(Si)の組成比(Si/C)が大きくなっている。
【0063】
図5は、本願発明者らがn型のエピタキシャル層12の上面の組成比を測定したデータである。ここでは、1800~2000℃の範囲で熱処理が施された場合と、熱処理が施されていない場合とを比較している。図5に示されるように、熱処理が施された場合、シリコンの比率は、炭素の比率より高くなった(Si>C)。これにより、ゲート絶縁膜の形成条件を選べば、ゲート絶縁膜の界面における炭素に起因する欠陥を少なくする事ができ、実施の形態1のSiCパワーMISFETにおいて、チャネル移動度が向上し、チャネル抵抗の低減が可能となる。
【0064】
図6はトレンチTR周辺を拡大した平面図であり、図7および図8はトレンチTR周辺を拡大した断面図であり、これらは熱処理後のトレンチTRの構造を示している。
【0065】
図6に示されるように、トレンチTR形成直後は、トレンチTRの平面形状はほぼ四角形であるが、熱処理によってトレンチTRの平面形状は、四角形の角が取れ、多角形化し、温度の上昇と共に楕円形に近づいていく。すなわち、実施の形態1のトレンチTRの平面形状は、四角形よりも多くの角を有する多角形である。このように角が増えることで、各角における角度が広くなり、各角における電界集中が緩和され易くなる。従って、ゲート絶縁膜22が絶縁破壊されるなどの恐れが抑制され、SiCパワーMISFETの信頼性が向上する。
【0066】
ところで、SiCは、SiとCとの積層様式が多様に変化し易い半導体結晶である。パワー半導体に適した多形の一つである4H-SiCだけのエピタキシャル層を作製する手法が開発されている。例えば、積層情報が伝えられるように、Si原子が最上面にあるSi面を、結晶軸に対して数度傾けたSiC基板(オフ角を有するSiC基板)上に、エピタキシャル層が作製されている。このようなオフ角は、例えば4度である。
【0067】
一方で、SiC基板にオフ角を付けると、エピタキシャル層の最上面に、オフ角に対応した異なる方位の結晶面(階段状の結晶面)が現れるようになる。成長条件によってはオフ角に起因して発生するステップバンチング等の表面荒れ(欠陥)が生じる。このような欠陥により、エピタキシャル層とゲート絶縁膜との界面におけるラフネスが大きくなり、ラフネス散乱が増加することでチャネル移動度が低下し、チャネル抵抗が増加するので、半導体装置の性能が低下するという懸念がある。更に、ゲート絶縁膜界面の荒れはゲート絶縁膜の信頼性低下の原因となり得る。
【0068】
図8の熱処理前の図面は、図7の熱処理前の図面に示されている、トレンチTRの底面B2、および、トレンチTRの外部のn型のエピタキシャル層12の上面T2の各々を拡大した断面図である。上面T2および底面B2は、模式的には図8の破線のように水平面(X方向およびY方向からなる面)に平行な平坦面として示される場合が多いが、実際には、ドライエッチング処理などに晒された影響によって、上面T2および底面B2の各々の表面層は荒れている。図8では、荒れた表面層がダメージ層DLとして図示されている。ダメージ層DLの表面粗さは厚さ方向における平均粗さであり、その値は数nmであり、例えば2~10nmである。このような面荒れを有するダメージ層DLが、上記ラフネス散乱の要因となる。ここで、実施の形態1における熱処理を施すことで、ダメージ層DLが除去され、面荒れが改善される。
【0069】
図8の熱処理後の図面に示されるように、実施の形態1では、トレンチTRの底面B1、および、トレンチTRの外部のn型のエピタキシャル層12の上面T1の平坦性が改善されている。上面T1および底面B1の各々の表面粗さは、1nm以下である。また、トレンチTRの側面S1および側面S2の各々の表面粗さは、1.5nm以下である。また、ここでは図示していないが、図4に示されるトレンチTRの側面S3および側面S4の各々の粗さも、1.5nm以下である。
【0070】
また、上面T1と熱処理前の上面T2とが成す角度θ4、および、底面B1と熱処理前の底面B2とが成す角度θ4は、6~2度である。すなわち、上面T1および底面B1の各々は、Si面(4度)に対して±2度の範囲内で傾いている。言い換えれば、上面T1および底面B1の各々と、n型のエピタキシャル層12の<0001>方向とが成す角度θ3は、88~92度である。
【0071】
このように、実施の形態1では、n型のエピタキシャル層12の平坦性を向上させることができ、n型のエピタキシャル層12とゲート絶縁膜22との界面の乱れが改善されるので、半導体装置の性能を向上させることができる。
【0072】
また、図8に示されるように、実施の形態1における上面T1および底面B1は、熱処理前の上面T2および底面B2から角度θ4で傾いている。このため、図7に示されるように、側面S1側の上面T1は、側面S1に対して角度θ1の範囲内で傾いており、側面S2側の上面T1は、側面S2に対して角度θ2の範囲内で傾いている。そして、角度θ1は、角度θ2よりも小さい。また、角度θ1および角度θ2は、80~100度の範囲内である。なお、ここでは図示していないが、上面T1は、側面S3および側面S4とも同様の関係を有する。
【0073】
また、図7の熱処理後の図面に示されるように、実施の形態1では、トレンチTRの各コーナー部がラウンディングされている。具体的には、底面B1と側面S1とから構成されるコーナー部、および、底面B1と側面S2とから構成されるコーナー部の各々の曲率半径φ1は、100~500nmである。なお、ここでは図示していないが、底面B1と側面S3とから構成されるコーナー部、および、底面B1と側面S4とから構成されるコーナー部の各々の曲率半径も、同様である。
【0074】
また、上面T1と側面S1とから構成されるコーナー部、および、上面T1と側面S2とから構成されるコーナー部の各々の曲率半径φ2は、100~500nmである。なお、ここでは図示していないが、上面T1と側面S3とから構成されるコーナー部、および、上面T1と側面S4とから構成されるコーナー部の各々の曲率半径も、同様である。
【0075】
このように、各コーナー部がラウンディングされることにより、各コーナー部における電界集中が緩和される。従って、ゲート絶縁膜22が絶縁破壊されるなどの恐れが抑制されるので、半導体装置の信頼性が向上する。
【0076】
なお、実施の形態1における上面T1、底面B1および側面S1~S4は、上述の曲率半径を有するコーナー部を除いた壁面を意味する。
【0077】
<半導体装置の製造方法>
以下に図9図25を用いて、実施の形態1における半導体装置の製造方法を説明する。図9は、半導体装置の製造方法の概略を説明する大工程図である。以下では、主に図2に示されるA-A線に沿った断面図を用いて説明するが、必要に応じてB-B線に沿った断面図を用いることもある。
【0078】
なお、実施の形態1における各構成の深さおよび不純物濃度などのパラメータは、上述した内容と同じであるので、以降の説明では、これらの説明を省略する。
【0079】
<<大工程P1>>
図9の大工程P1について説明する。大工程P1は、主に、n型のエピタキシャル層12の形成工程である。
【0080】
まず、図10に示されるように、n型の半導体基板11を用意する。n型の半導体基板11は、例えば窒素(N)のようなn型不純物が導入された4H-SiC基板である。また、n型の半導体基板11は、Si面およびC面の両面を有するが、n型の半導体基板11の上面はSi面またはC面のどちらでもよい。
【0081】
次に、n型の半導体基板11の上面上に、エピタキシャル成長法により、炭化珪素(SiC)からなるn型のエピタキシャル層12を形成する。なお、予め、n型の半導体基板11上にn型のエピタキシャル層12が形成されたSiCエピタキシャル基板を購入してもよい。すなわち、実施の形態1では、n型のエピタキシャル層12が形成されたn型の半導体基板11が、何れかの手段によって用意されていればよい。
【0082】
<<大工程P2>>
図9の大工程P2について説明する。大工程P2は、主に、イオン注入による各不純物領域の形成工程である。
【0083】
まず、図10に示されるように、n型の半導体基板11の裏面に、イオン注入法によって、例えば窒素を導入することで、n型のドレイン領域13を形成する。
【0084】
次に、図11に示されるように、n型のエピタキシャル層12の上面を選択的に覆うマスクパターンMP1を形成する。マスクパターンMP1を構成する材料としては、無機材料であるSiO膜、Si膜若しくはSiN膜、または、有機材料であるレジスト膜若しくはポリイミド膜を用いることができる。また、マスクパターンMP1の厚さは、例えば1.0~3.0μmであり、マスクパターンMP1の幅は、1.0~5.0μm程度である。
【0085】
次に、マスクパターンMP1をマスクとして、例えばアルミニウムをイオン注入することで、n型のエピタキシャル層12内に、p型のボディ領域14を形成する。また、2つのp型のボディ領域14に挟まれたn型のエピタキシャル層12は、n型のJFET領域15を構成する。その後、マスクパターンMP1は除去される。
【0086】
なお、図示は省略するが、マスクパターンMP1には図1に示されるp型のFLR5を開口するパターンも形成されている。従って、p型のボディ領域14の形成工程と同じ工程によって、p型のFLR5も形成される。また、終端部の構造は、p型のFLR5に限定されるものではなく、例えばジャンクション・ターミネーション・エクステンション(JTE:Junction Termination Extension)構造であってもよい。
【0087】
次に、図12に示されるように、n型のエピタキシャル層12の上面を選択的に覆うマスクパターンMP2を形成する。マスクパターンMP2の材料は、マスクパターンMP1と同じであり、マスクパターンMP2の厚さは、例えば0.5~3.0μmである。
【0088】
次に、マスクパターンMP2をマスクとして、例えば窒素をイオン注入することで、p型のボディ領域14とn型のJFET領域15とに跨る領域に、n型の電流拡散領域16を形成し、p型のボディ領域14内にn型の電流拡散領域17を形成する。
【0089】
次に、マスクパターンMP2をマスクとして、例えばアルミニウムをイオン注入することで、p型のボディ領域14とn型のJFET領域15とに跨る領域に、p型の電界緩和領域18を形成し、p型のボディ領域14内にp型の電界緩和領域19を形成する。その後、マスクパターンMP2は除去される。
【0090】
ここで、n型の電流拡散領域16からn型の電流拡散領域17までの領域は、SiCパワーMISFETのチャネル領域を構成し、例えば0.1~2.0μmである。n型の電流拡散領域16およびn型の電流拡散領域17が、同じマスクパターンMP2を用いて形成されるので、複数のSiCパワーMISFETにおいてチャネル長(Y方向における上記チャネル領域の長さ)がばらつき難くなる。すなわち、n型の電流拡散領域16およびn型の電流拡散領域17が、異なるマスクパターンを用いて形成された場合、何れか一方にマスクずれが発生すると、複数のウェハにおいてチャネル長がばらつく。従って、上述のように、同じマスクパターンMP2を用いることで、チャネル長のばらつきが抑制される。
【0091】
次に、図13に示されるように、n型のエピタキシャル層12の上面を選択的に覆うマスクパターンMP3を形成する。マスクパターンMP3の材料は、マスクパターンMP1と同じであり、マスクパターンMP3の厚さは、例えば1.0~5.0μmである。
【0092】
次に、マスクパターンMP3をマスクとして、例えば窒素をイオン注入することで、p型のボディ領域14内に、n++型のソース領域20を形成する。n++型のソース領域20は、n型の電流拡散領域17に接続される。なお、図示は省略するが、マスクパターンMP3には図1に示されるn++型のガードリング4を開口するパターンも形成されている。従って、n++型のソース領域20の形成工程と同じ工程によって、n++型のガードリング4も形成される。その後、マスクパターンMP3は除去される。
【0093】
次に、図14に示されるように、n型のエピタキシャル層12の上面を選択的に覆うマスクパターンMP4を形成する。マスクパターンMP4の材料は、マスクパターンMP1と同じであり、マスクパターンMP4の厚さは、例えば0.5~3.0μmである。
【0094】
次に、マスクパターンMP4をマスクとして、例えばアルミニウムをイオン注入することで、p型のボディ領域14内に、p++型のボディ電位固定領域21を形成する。その後、マスクパターンMP4は除去される。
【0095】
<<大工程P3>>
図9の大工程P3について説明する。大工程P3は、主に、トレンチTRの形成工程である。
【0096】
まず、図15および図16に示されるように、n型のエピタキシャル層12の上面を選択的に覆うマスクパターンMP5を形成する。マスクパターンMP5の材料は、マスクパターンMP1と同じであり、マスクパターンMP6の厚さは、例えば0.5~2.0μmである。
【0097】
次に、マスクパターンMP5をマスクとしてドライエッチング処理を行うことで、p型の電界緩和領域18、19およびn型の電流拡散領域16、17を貫通し、p型のボディ領域14に達するトレンチTRを形成する。その後、マスクパターンMP6は除去される。
【0098】
<<大工程P4>>
図9の大工程P4について説明する。大工程P4は、容器CSを用いた熱処理工程である。
【0099】
図17に示されるように、容器CSは、積層された複数の収容部を有している。ここでは複数の収容部の一例として、2つの収容部CSa、CSbが示されている。収容部CSa、CSbは、それぞれ、ベゼル(隔壁)BZと、ベゼルBZに取り付けられ、且つ、n型の半導体基板11を支持するための基板支持部SSとを有する。熱処理が行われる際には、n型の半導体基板11は、基板支持部SSに設置され、容器CSに収容される。なお、トレンチTRなどが形成されているn型の半導体基板11(n型のエピタキシャル層12)の上面が、内部空間IS側に位置している。
【0100】
また、図17に示される破線を拡大した箇所は、ベゼルBZの詳細な構造を示している。ベゼルBZは、内部空間IS側から順番に、タンタルシリサイド層(TaSi層)、タンタルカーバイド層(TaC層)、タンタルカーバイド層(TaC層)およびタンタル層(Ta層)から構成されている。
【0101】
TaC層、TaC層およびTa層から構成される容器は従来から知られているが、実施の形態1では、内部空間ISをSi蒸気圧にするために、更にTaSi層が追加されている。なお、実施の形態1では、内部空間ISを構成するベゼルBZの底面および側面に亘って、TaSi層が露出している。
【0102】
このようなTaSi層を含む容器CSにn型の半導体基板11を収容し、容器CSを高温真空炉に搭載した状態で、n型のエピタキシャル層12に対して熱処理が施される。具体的に、熱処理は、窒素またはアルゴンのような不活性ガス雰囲気中で行われ、Si蒸気圧下で行われ、1500℃以上、2200℃以下の条件で行われる。より好ましくは、熱処理は、1600℃以上、2000℃以下の条件で行われる。なお、このような熱処理をSiVA(Si Vaper Annealing)と称する場合もある。
【0103】
この熱処理では、以下の式1~式5に示される反応が行われる。
【0104】
型のエピタキシャル層12がSi蒸気圧下において加熱されることで、n型のエピタキシャル層12のSiCが、SiCまたはSiCなどになり、昇華する。同時に、Si雰囲気下のSiが、n型のエピタキシャル層12の上面においてCと結合し、n型のエピタキシャル層12の上面は、自己組織化によって平坦化される。更に、加熱によって、内部空間IS側におけるベゼルBZの上面層であるTaSi層から放出されたSiも、上記反応に寄与する。これにより、内部空間IS内におけるSiの圧力が均一にされる。
【0105】
式1: SiC(s) → Si(v)I+C(s)I
式2: 2SiC(s) → Si(v)II+SiC(v)
式3: TaSi(s) → TaSiY-1(s)+Si(v)III
式4: SiC(s)+Si(v)I+Si(v)II+Si(v)III → SiC(v)
式5: C(s)I+Si(v)I+Si(v)II+Si(v)III → SiC(v)
このように、容器CSを用いた熱処理によって、n型のエピタキシャル層12の表層は、上述の図5に示されるようにSiリッチとなり、平坦化される。また、トレンチTRのコーナー部がラウンディングされる。また、n型の半導体基板11またはn型のエピタキシャル層12に注入されている各イオンが、活性化される。トレンチTRの形成時におけるドライエッチング処理によって、n型のエピタキシャル層12の表層にはダメージが加えられ、そのようなダメージは結晶欠陥の原因となる。しかし、熱処理によって、そのような結晶欠陥も回復される。実施の形態1では、これらの効果を、一度の熱処理で得ることができる。
【0106】
図18および図19は、図15および図16の状態から熱処理を行った後の半導体装置の構造を示している。上述のように、トレンチTRの底面と各側面S1~S4とからなるコーナー部、および、トレンチTRの外部におけるn型のエピタキシャル層12の上面と各側面S1~S4とからなるコーナー部は、ラウンディングされている。
【0107】
なお、熱処理の前後におけるトレンチTRの詳細な形状については、上述の図6図8における説明を参照されたい。
【0108】
また、変形例として、n型のエピタキシャル層12の上面にカーボン層(グラフェンキャップ)を形成した状態で、熱処理を行ってもよい。この場合、カーボン層は、熱処理中に除去されるので、カーボン層を除去する工程は不要である。
【0109】
また、不活性ガスの調整方法は任意であり、適宜の方法を用いることができる。例えば、不活性ガス圧を一定にしてもよいし、変化させても良い。不活性ガス圧を変化させた場合、初めはラウンディングのためのエッチング速度を高くし、その後、エッチング速度を低くするなど、微調整を行うことができる。
【0110】
また、ベゼルBZの最上面であるTaSi層に代えて、容器CS内に固形のSiを配置しても良い。
【0111】
<<大工程P5>>
図9の大工程P5について説明する。大工程P5は、主に、ゲート絶縁膜22およびゲート電極23の形成工程である。
【0112】
図20に示されるように、トレンチTRの各側面上および底面上、並びに、n型のエピタキシャル層12の上面上に、例えばCVD法によって、例えば酸化シリコン膜のような絶縁膜であるゲート絶縁膜22を形成する。次に、ゲート絶縁膜22上に、例えばCVD法によって、例えばn型またはp型の不純物が導入された多結晶シリコン膜のような導電性膜23aを形成する。
【0113】
次に、図21に示されるように、導電性膜23aの上面を選択的に覆うマスクパターンMP6を形成する。マスクパターンMP6の材料は、マスクパターンMP1と同じであり、マスクパターンMP7の厚さは、例えば0.5~2.0μmである。
【0114】
次に、マスクパターンMP6をマスクとしてドライエッチング処理を行うことで、マスクパターンMP6から露出している導電性膜23aを除去し、導電性膜23aが加工されたゲート電極23を形成する。その後、マスクパターンMP7は除去される。
【0115】
<<大工程P6>>
図9の大工程P6について説明する。大工程P5は、主に、ソース配線用電極2などの各配線用電極の形成工程である。
【0116】
まず、図21に示されるように、ゲート電極23を覆うように、n型のエピタキシャル層12上に、例えばCVD法によって、例えば酸化シリコン膜からなる層間絶縁膜24を形成する。この後、必要に応じて、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法などを用いて層間絶縁膜24を研磨し、層間絶縁膜24の上面を平坦化してもよい。
【0117】
次に、図23に示されるように、ゲート電極23を覆い、且つ、n型のエピタキシャル層12の一部を選択的に覆うマスクパターンMP7を形成する。マスクパターンMP7の材料は、マスクパターンMP1と同じであり、マスクパターンMP7の厚さは、例えば1.0~3.0μmである。
【0118】
次に、マスクパターンMP7をマスクとして、ドライエッチング処理またはウェットエッチング処理を行うことで、マスクパターンMP7から露出している層間絶縁膜24およびゲート絶縁膜22を除去し、層間絶縁膜24に開口部OPを形成する。ここで、ゲート電極23は層間絶縁膜24によって覆われており、開口部OPの底部において、n++型のソース領域20の一部およびp++型のボディ電位固定領域21が露出している。なお、図示は省略するが、ゲート電極23の一部上に形成されるマスクパターンMP7には、図1に示されるゲート配線用電極3を埋め込むための開口パターンも形成されている。従って、開口部OPの形成工程と同じ工程によって、層間絶縁膜24にはゲート電極23の一部を開口する開口部も形成される。その後、マスクパターンMP7は除去される。
【0119】
次に、図24に示されるように、開口部OP内において、n++型のソース領域20の一部およびp++型のボディ電位固定領域21の各々の上面上に、シリサイド層25を形成する。このシリサイド層25を形成するには、まず、開口部OP内を含む層間絶縁膜24上に、例えばスパッタリング法によって、例えばニッケル(Ni)膜のような金属膜を堆積する。この金属膜の厚さは、例えば0.05μm程度である。
【0120】
次に、金属膜に対して、600~1000℃の熱処理を施すことにより、金属膜に含まれる材料と、n++型のソース領域20およびp++型のボディ電位固定領域21に含まれる材料とが反応し、これらの化合物として、ニッケルシリサイド(NiSi)からなるシリサイド層25が形成される。また、図示はしないが、ゲート電極23の一部上に開口された開口部の底面においても、シリサイド層25が形成される。その後、未反応の金属膜を、例えば硫酸および過酸化水素水を含む溶液を用いたウェットエッチング処理によって、除去する。
【0121】
次に、図25に示されるように、開口部OPの内部および層間絶縁膜24上に、例えばスパッタリング法によって、例えばチタン膜および窒化チタン膜のような積層の導電性膜からなるバリアメタル膜を形成する。次に、上記バリアメタル膜上に、例えばスパッタリング法によって、例えばアルミニウム膜のような導電性膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング処理によって、上記導電性膜および上記バリアメタル膜を選択的にパターニングする。これにより、上記導電性膜および上記バリアメタル膜を有するソース配線用電極2が形成される。開口部OPの内部に埋め込まれたソース配線用電極2は、n++型のソース領域20の一部およびp++型のボディ電位固定領域21に接続される。
【0122】
また、図示はしないが、上述のように、層間絶縁膜24にはゲート電極23の一部を開口する開口部も形成されている。図1に示されるゲート配線用電極3は、ソース配線用電極2と同じ工程で形成され、この開口部内に形成される。
【0123】
その後、図示はしないが、ソース配線用電極2上およびゲート配線用電極3上に、例えば酸化シリコン膜またはポリイミド膜のような保護膜を形成し、この保護膜にソース配線用電極2の一部およびゲート配線用電極3の一部を開口する開口部を形成する。この開口部から露出した領域が、図1に示されるソースパッド2aおよびゲートパッド3aとなる。
【0124】
以上の工程を経た後、n型の半導体基板11の裏面にシリサイド層26およびドレイン配線用電極27を形成することで、図3に示される構造が得られる。
【0125】
まず、n型のドレイン領域13に、例えばスパッタリング法によって、例えばニッケル(Ni)膜のような金属膜を形成する。この金属膜の厚さは、例えば0.1μmである。次に、この金属膜に対してレーザーを用いた熱処理を施す。この熱処理によって、上記金属膜とn型のドレイン領域13とを反応させ、n型のドレイン領域13の下面全体に、上記金属膜に含まれる材料と、n型のドレイン領域13に含まれる材料との化合物であるシリサイド層26が形成される。シリサイド層26は、例えばニッケルシリサイド(NiSi)からなる。その後、シリサイド化しなかった未反応の上記金属膜を、例えばウェットエッチング処理によって除去する。
【0126】
次に、シリサイド層26の下面に、ドレイン配線用電極27を形成する。ドレイン配線用電極27は、例えばスパッタリング法によって、チタン膜、ニッケル膜および金膜を順次積層させることで得られる。なお、ドレイン配線用電極27は、これらの積層膜ではなく、これらのうちの1つからなる単層膜であってもよいし、これらとは別の導電性膜であってもよい。
【0127】
以上により、実施の形態1における半導体装置が製造される。
【0128】
以上、本願発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0129】
1 半導体チップ
2 ソース配線用電極
2a ソースパッド
3 ゲート配線用電極
3a ゲートパッド
4 n++型のガードリング
5 p型のフローティング・フィールド・リミッティング・リング(FLR)
6 アクティブ領域
11 n型の半導体基板
12 n型のエピタキシャル層
13 n型のドレイン領域
14 p型のボディ領域
15 n型のJFET領域
16 n型の電流拡散領域
17 n型の電流拡散領域
18 p型の電界緩和領域
19 p型の電界緩和領域
20 n++型のソース領域
21 p++型のボディ電位固定領域
22 ゲート絶縁膜
23 ゲート電極
23a 導電性膜
24 層間絶縁膜
25 シリサイド層
26 シリサイド層
27 ドレイン配線用電極
B1、B2 底面
BZ ベゼル
CS 容器
CSa、CSb 収容部
DL ダメージ層
IS 内部空間
MP1~MP7 マスクパターン
OP 開口部
P1~P6 大工程
S1~S4 側面
SS 基板支持部
T1、T2 上面
TR トレンチ
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