(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】シリカガラスルツボ
(51)【国際特許分類】
C30B 15/10 20060101AFI20230516BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20230516BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C30B15/10
C30B29/06 502B
C03B20/00 F
C03B20/00 H
(21)【出願番号】P 2019181105
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018233607
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 綾平
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-275151(JP,A)
【文献】特開2009-084085(JP,A)
【文献】特開2002-179495(JP,A)
【文献】国際公開第2009/107834(WO,A1)
【文献】特開2010-132534(JP,A)
【文献】特開2011-121811(JP,A)
【文献】特表2013-544745(JP,A)
【文献】特開2018-043897(JP,A)
【文献】特開2011-068522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と、前記底部の周りに形成された底部コーナーと、前記底部コーナーから上方に延びる側部とを有するシリカガラスルツボにおいて、
ルツボ上端領域が、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端の肉厚に10mm加算した長さ以下の領域であって、
ルツボ上端領域が、天然原料シリカガラスからなる不透明外層と、天然原料シリカガラスまたは合成原料シリカガラスからなる透明内層とで形成された2層構造からなり、
前記上端の肉厚が10mm以上18mm以下であり、
前記ルツボ上端領域の下端から結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層と、前記ルツボ上端領域の不透明外層から連続して形成された不透明中間層と、前記透明内層とで形成された、少なくとも3層構造からなることを特徴とするシリカガラスルツボ。
【請求項2】
前記結晶化促進剤としてAlおよびCaを添加し、該結晶化促進剤中のAl濃度が9wtppm以上20wtppm以下であり、Ca濃度が0.1wtppm以上0.6wtppm以下であり、Al及びCaの濃度比(Al/Ca)が15≦Al/Ca≦200であることを特徴とする請求項1に記載のシリカガラスルツボ。
【請求項3】
前記結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層の外側に、更に天然原料シリカガラスからなる不透明外層が積層され、4層構造からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカガラスルツボ。
【請求項4】
底部と、前記底部の周りに形成された底部コーナーと、前記底部コーナーから上方に延びる側部とを有するシリカガラスルツボにおいて、
ルツボ上端領域が、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端の肉厚に10mm加算した長さ以下の領域であって、
ルツボ上端領域が、天然原料シリカガラスからなる不透明外層と、天然原料シリカガラスまたは合成原料シリカガラスからなる透明内層とで形成された2層構造からなり、
前記ルツボ上端領域の下端から結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層と、前記ルツボ上端領域の不透明外層から連続して形成された不透明中間層と、前記透明内層とで形成された、少なくとも3層構造からなり、
前記結晶化促進剤としてAlおよびCaを添加し、該結晶化促進剤中のAl濃度が9wtppm以上20wtppm以下であり、Ca濃度が0.1wtppm以上0.6wtppm以下であり、Al及びCaの濃度比(Al/Ca)が15≦Al/Ca≦200であることを特徴とするシリカガラスルツボ。
【請求項5】
底部と、前記底部の周りに形成された底部コーナーと、前記底部コーナーから上方に延びる側部とを有するシリカガラスルツボにおいて、
ルツボ上端領域が、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端の肉厚に10mm加算した長さ以下の領域であって、
ルツボ上端領域が、天然原料シリカガラスからなる不透明外層と、天然原料シリカガラスまたは合成原料シリカガラスからなる透明内層とで形成された2層構造からなり、
前記ルツボ上端領域の下端から結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層と、前記ルツボ上端領域の不透明外層から連続して形成された不透明中間層と、前記透明内層とで形成された、少なくとも3層構造からなり、
前記結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層の外側に、更に天然原料シリカガラスからなる不透明外層が積層され、4層構造からなることを特徴とするシリカガラスルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)によってシリコン単結晶を引上げるためのシリカガラスルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法が広く用いられている。この方法は、シリカガラスルツボ内に収容されたシリコンの溶融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶の下端に単結晶を形成していくものである。
【0003】
ところで、シリカガラスルツボは年々大型化しているが、シリカガラスルツボの大型化は大口径シリコン単結晶を引上げるためである。このように、シリカガラスルツボを大型化することにより、シリカガラスルツボ内に収容し加熱によりシリコン溶融液とする多結晶シリコンの装填量を増大させることができ、引上げることができるシリコン単結晶が長尺化することでスループットが向上するというメリットがある。
しかしながら、その反面、多結晶シリコンをシリコン溶融液とする溶融の長時間化、加熱用カーボンヒータの大出力化により従来よりも高温に曝されるといった厳しい環境下で使用しなければならず、シリカガラスルツボへの悪影響も大きい。
例えば、従来のシリカガラスルツボは、高温域での粘性値が低く、1400℃以上の熱環境下では長時間その形状を維持し難かった。そのため、シリカガラスルツボの変形による溶融シリコンの融液面の変動、及び単結晶化率(引上げたシリコン単結晶重量と多結晶シリコン充填重量との比)の低下など、シリコン単結晶引上げ工程で問題が生じていた。
【0004】
上記の問題を解決するため、特許文献1では、外層がAl添加石英層、中間層が天然石英層、内層が高純度合成石英層からなる3層構造の石英ガラスルツボが提案されている。このルツボは、シリコン単結晶引上げ工程の加熱昇温過程において、外層が1200℃以上で一定加熱されると、クリストバライトへと結晶化する。そして、クリストバライトの成長過程において、粘性が向上し、更に結晶化することで高い耐久性を得ることができ、前記のようにルツボの変形や破損といった課題を解決することができる。
【0005】
また、結晶化促進剤が添加された外層粒子がルツボ内面に混入すると、ルツボの耐久性、単結晶化率に影響を与えるため、使用前のルツボ開口部の包装を取り外す際や、吸着パットでルツボ開口部を吸着、脱着を行う際に、結晶化促進剤が添加された外層粒子がルツボ内面に混入を抑制する提案が、本出願人によって、特許文献2においてなされている。
具体的には、特許文献2では、結晶化促進剤が添加された外層粒子のルツボ内面への混入を抑制するため、ルツボの上端から30~50mmの領域に、結晶化促進剤を添加した外層を形成しないルツボが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-247778号公報
【文献】特開2010-275151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2に記載されたルツボには、ルツボの上端から30~50mmの領域に、結晶化促進剤を添加した外層が形成されていないため、結晶化促進剤が添加された外層粒子がルツボ内面に混入することが抑制され、耐久性、単結晶化率の向上が図られるものの、ルツボの上端領域が内方に変形(倒れ込む)現象が見られた。
シリコン単結晶を引き上げ工程中に、ルツボの上端領域が内方に変形する(倒れ込む)と、引上げ装置内のガスの流れが阻害され、引上げたシリコン単結晶において、必要な結晶特性を得られない虞があり、またルツボの上端領域が極端に変形した場合は、ルツボの上端領域がインゴット(シリコン単結晶)に接触し、ルツボの上端領域の引上げを継続できない虞があった。
【0008】
また、特許文献1に記載されたルツボにあっては、ルツボ開口部上端(口元上端)まで結晶化促進剤を添加した層が形成されているため、結晶化した際に、ルツボ開口部上端部の外周側からクラックが発生し、クラックのルツボ底部側への伸展により湯漏れが発生する虞があった。
【0009】
本発明者らは、これら問題を解決するために、結晶化促進剤を添加しない外層を形成しない領域を特定することにより、ルツボ開口部(ルツボの上端)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端領域の内方への変形(倒れ込む)を抑制することを鋭意研究し、本発明を想到するに至った。
【0010】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、結晶化促進剤を添加した外層を有するルツボにおいて、ルツボ開口部(ルツボの上端)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端領域の内方への変形(倒れ込み)を抑制したシリカガラスルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために、本発明に係るシリカガラスルツボは、底部と、前記底部の周りに形成された底部コーナーと、前記底部コーナーから上方に延びる側部とを有するシリカガラスルツボにおいて、ルツボ上端領域が、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端部の肉厚に10mm加算した長さ以下の領域であって、ルツボ上端領域が、天然原料シリカガラスからなる不透明外層と、天然原料シリカガラスまたは合成原料シリカガラスからなる透明内層とで形成された2層構造からなり、前記ルツボ上端領域の下端から結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層と、前記ルツボ上端領域の不透明外層から連続して形成された不透明中間層と、前記透明内層とで形成された、少なくとも3層構造からなることを特徴としている。
【0012】
このように、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端の肉厚に10mm加算した長さ以下のルツボ上端領域には、結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層が形成されていない。
そのため、ルツボ開口部(ルツボの上端部)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端部領域の内方への変形(倒れ込む)を抑制することができる。そして、ルツボの耐久性の向上、単結晶化率の向上、更には、ルツボの上端領域が内方に変形(倒れ込む)によって生じる、シリコン単結晶の結晶品質異常を解決することができる。
尚、前記ルツボ上端領域がルツボ上端から下方に5mm未満の場合には、ルツボ上端付近の外周側からクラックが発生するため、好ましくない。またルツボ上端領域がルツボ上端の肉厚に10mm加算した長さを超える場合には、ルツボの上端領域がルツボ内方へ変形する(倒れ込む)ため、好ましくない。
【0013】
前記外層に添加する結晶化促進剤は、具体的にはAlおよびCaである。前記結晶化促進剤中のAl濃度は9wtppm以上20wtppm以下、Ca濃度は0.1wtppm以上0.6wtppm以下が望ましく、Al及びCaの濃度比(Al/Ca)は15≦Al/Ca≦200の範囲であることが望ましい。
ここで、前記結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層の外側に、更に天然原料シリカガラスからなる不透明外層が積層され、4層構造からなることが望ましい。
【0014】
また、前記上端の肉厚が10mm以上18mm以下であることが望ましい。ルツボ上端の肉厚が10mm未満の場合には、破損する虞があり、また耐久性に劣るため、好ましくない。また、上端の肉厚が18mmを超える場合には、必要以上に重量が増大し、好ましくない。前記上端の肉厚が10mm以上18mm以下である場合、前記ルツボ上端領域は、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端から20mm~28mm以下となる。
この場合、特許文献2に記載されたルツボの上端から30~50mmの領域内に、結晶化促進剤を添加した外層が形成されるため、使用前のルツボ開口部の包装を取り外す際や、吸着パットでルツボ開口部を吸着、脱着を行う際に、結晶化促進剤が添加された外層粒子がルツボ内面に混入しないようにする必要がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、結晶化促進剤を添加した外層を有するシリカガラスルツボにおいて、ルツボ開口部(ルツボの上端)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端領域の内方への変形(倒れ込み)を抑制したシリカガラスルツボを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係るシリカガラスルツボの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のシリカガラスルツボの一部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のシリカガラスルツボの各層の厚さ寸法を説明するための一部拡大断面図である。
【
図4】
図4は、
図1のシリカガラスルツボを製造するためのシリカガラスルツボ製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るシリカガラスルツボの実施の形態について図面に基づき説明する。
図1は本発明に係るシリカガラスルツボ1の断面図である。
図2は、
図1のシリカガラスルツボの一部拡大断面図である。
このシリカガラスルツボ1は、例えば単結晶引上装置(図示せず)において用いられ、装置内でカーボンサセプタ(図示せず)によって抱持された状態で使用される。
即ち、単結晶引上装置では、シリカガラスルツボ1内に収容された多結晶シリコンが溶融され、シリコン溶融液からシリコン単結晶が引上げられる。
【0018】
シリカガラスルツボ1は、例えば直径810mm(32インチ)に形成され、
図1に示すように、ルツボ上端6から下方に所定距離までの部分(以下、ルツボ上端領域10と呼ぶ)が2層構造となされている。
即ち、前記ルツボ上端領域10は、天然原料シリカガラス層からなる不透明外層5aと、この不透明外層5aの内側に隣接し、シリコン単結晶引上げ時に溶融シリコンと接する合成原料シリカガラス(または天然原料シリカガラス)からなる透明内層4とで形成されている。
尚、ここで不透明とは、シリカガラス中に多数の気孔が内在し、見かけ上、白濁した状態を意味する。また、天然原料シリカガラスとは、水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味し、合成原料シリカガラスとは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味する。
【0019】
また、ルツボ上端領域10よりも下方においては、側部7、及び底部9と底部コーナー8との間の曲率変化点を基準とする所定範囲まで、結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層2が設けられている。
この外層2が設けられる部分においては、前記不透明外層5aから連続して形成された天然原料シリカガラスからなる不透明中間層3と、前記透明内層4とで形成された3層構造となされている。
【0020】
さらにルツボ底部9は、前記不透明中間層3から連続して形成された天然原料シリカガラスからなる不透明外層5bと、これに隣接する合成原料シリカガラス(または天然原料シリカガラス)からなる透明内層4とで形成された2層構造となされている。
【0021】
より詳細に説明すると、
図2の断面図に示すように、ルツボ上端6から下方に距離hまでの領域が、2層構造のルツボ上端領域10として形成されるが、前記距離hは5mm以上、かつ上端の肉厚Tに10mm加算した長さ以下となされている。
ここで、前記上端の肉厚Tは、一般的には10mm以上18mm以下であることかして、前記ルツボ上端領域hは、一般的にはルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端から20mm以上28mm以下となされる。
【0022】
これは、クリストバライトの熱膨張が石英ガラスの熱膨張よりもはるかに大きいために、引っ張り応力が外周面に作用し、前記2層構造のルツボ上端領域10が、ルツボ上端6から下方に5mm未満の場合、ルツボ上端付近の外周側からクラックが発生するため、好ましくない。
【0023】
また、ルツボ上端領域がルツボ上端の肉厚に10mm加算した長さを超える場合には、ルツボの上端領域がルツボ内方へ変形する(倒れ込む)ため、好ましくない。
このルツボの上端領域のルツボ内方への変形は、透明内層4の粘性が低いために、ルツボ上端の口元を内側に引っ張る力が作用し、また不透明外層5aには気泡が含まれるため、透明内層4より不透明外層5aの膨張が大きく、ルツボの上端をルツボ内方へ変形させる力が作用する(内側に倒れ込む力が働く)。
【0024】
また、
図2に示すように、ルツボ内において底部9は半径Rの曲率(第1の曲率)を有しており、底部コーナー8では半径rの曲率(第2の曲率)を有している。また、ルツボ側部7は鉛直方向に直線状に形成されている。
ここで、外層2はルツボ上端6から下方に向けて形成されると共に、外層2の下端は、底部9(曲率半径R)と底部コーナー8(曲率半径r)との間の曲率変化点Pを基準とする所定範囲内まで形成されている。より具体的には、外層2の下端は、半径Rの曲率中心Cと、曲率変化点Pとを結ぶ直線L上を0°として、この直線Lを、曲率中心C周りに±5°回転させた範囲内まで形成されている。
【0025】
これは、下方向(底部方向)を正方向とした場合、+5°より大きい範囲まで外層2の下端を形成すると、結晶化(クリストバライト化)が急速に進行して所望の密着性が得られ難く、カーボンサセプタによるルツボの支持が不安定となり、シリコン単結晶化率が低下する傾向にあるためである。
一方、-5°より小さい範囲に外層2の下端を形成すると、ルツボ全体で外層2が占める割合が小さく、耐熱変形性が低くなる傾向があるためである。
【0026】
また、
図3に示すように、外層2は、ルツボ側部7における厚さ寸法et1とルツボ底部コーナー8における厚さ寸法et2とが共に0.5~5mm(好ましくは1~3mm)に形成される。
これは、厚さが5mmより大きいと、ルツボ壁部層間の熱膨張の差に起因する大きなストレスの発生により、クラック発生の虞があるためであり、0.5mmより小さいと、耐熱変形性が低くなる傾向があるためである。
【0027】
また、外層2の結晶化促進剤濃度は、35~100ppm(好ましくは50~80ppm)となされる。これは、結晶化促進剤濃度が100ppmより高いと結晶化が急速に進行し易く、ルツボとカーボンサセプタとの密着が安定する前に結晶化が完了する虞があるためである。
一方、35ppmより低いと結晶化速度が遅くなり、所望の耐熱変形性が得られ難いためである。
【0028】
また、天然原料シリカガラスからなる不透明中間層3は、ルツボ側部7における厚さ寸法mt1が3mm以上となされ、ルツボ底部コーナー8における厚さ寸法mt2は6mm以上に形成される。
また、ルツボ上端領域10の不透明外層5aにおける厚さ寸法mt4は10mm以上18mm以下に形成され、ルツボ底部9の不透明外層5bにおける厚さ寸法mt3は6mm以上に形成される。
【0029】
これは、3層部分での不透明中間層3の厚さが3mmより小さいと、シリカガラス粉溶融中のアーク炎の不規則な流れによる不透明中間層3の結晶化促進剤化合物の飛散防止効果が減殺され易く、外層2の結晶化促進剤化合物が不透明中間層3を通過して透明内層4に混入し、透明内層4の結晶化促進剤濃度が大きくなる虞があるためである。
また、ルツボ上端領域10における不透明外層5aの厚さ寸法mt4が10mm以上18mm以下であるのはルツボ上端からの放熱を抑制するためである。
また、ルツボ底部コーナー8における不透明中間層3の厚さ寸法mt2及びルツボ底部9における不透明外層5bの厚さ寸法mt3が6mmより小さいと、充分な耐熱変形性が得られ難いため、好ましくない。
【0030】
また、透明内層4は、Na、K、Alの金属不純物含有量が各々1ppm以下の合成原料シリカガラス(または天然原料シリカガラス)を溶融して形成された実質的に気泡の存在しない透明層である。
透明内層4において、ルツボ上端領域10及びルツボ側部7における厚さ寸法it1と、ルツボ底部コーナー8における厚さ寸法it2と、ルツボ底部9における厚さ寸法it3とは共に、3mm以上の厚さに形成されている。
これは、透明内層4の厚さが3mmより小さいとシリコン溶融と接する透明内層4の内表面の結晶化促進剤濃度を十分に低く、例えば1ppm以下にしがたいためである。
【0031】
尚、上記実施形態では、結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層2、不透明中間層3、透明内層4の3層構造のルツボを例にとって説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ルツボの内側から、透明内層4、不透明中間層3、結晶化促進剤が添加されていないシリカガラスからなる第1の外層、そして、シリカガラスからなる第1の外層の外側に、結晶化促進剤が添加されたシリカガラスからなる第2の外層を積層した、4層構造のルツボであっても良い。
このとき、第1の外層はルツボ上端6まで形成され、第2の外層はルツボ上端6から下方に5mm以上、かつ上端の肉厚に10mm加算した長さ以下の領域まで形成される。
【0032】
次に、前記構造を有するシリカガラスルツボ1の製造方法について説明する。
図4に示すようなシリカガラスルツボ製造装置30を用いてシリカガラスルツボ1を製造する。シリカガラスルツボ製造装置30のルツボ成形用型11は、例えば複数の貫通孔が穿設された金型、もしくは高純化処理した多孔質カーボン型などのガス透過性部材で構成された内側部材12と、その外周に通気部13を設けて、前記内側部材12を保持する保持体14とから構成されている。
【0033】
また、保持体14の下部には、図示しない回転手段と連結されている回転軸15が固着されていて、ルツボ成形用型11を回転可能に支持している。通気部13は、保持体14の下部に設けられた開口部16を介して、回転軸15の中央に設けられた排気路17と連結されており、この排気路17は、減圧機構18と連結されている。
内側部材12に対向する上部にはアーク放電用のアーク電極19と、結晶化促進剤添加シリカガラス供給ノズル20と、天然原料シリカガラス供給ノズル21と、合成原料シリカガラス供給ノズル22が設けられている。
【0034】
外層2に用いられる結晶化促進剤添加シリカガラス粉は、次のようにして得られる。例えば結晶化促進剤がAlの場合、Al硝酸塩(Al(NO3)3)をシリカガラス粉のAl濃度が35~100ppmとなるような量だけ水に溶かして作られたAl(NO3)3水溶液を、天然原料シリカガラス粉に添加、攪拌する。Al(NO3)3水溶液に浸されたシリカガラス粉は、脱水、酸分除去を目的として800~1100℃で加熱処理される。
Mg、Caなどを結晶化促進剤とする場合も、同様に硝酸塩を溶かした水溶液を、天然原料シリカガラス粉に添加、攪拌、加熱処理することで得られる。
結晶化促進剤としてAl及びCaを添加する場合、結晶化促進剤中のAl濃度は9wtppm以上20wtppm以下、Ca濃度は0.1wtppm以上0.6wtppm以下、Al及びCaの濃度比(Al/Ca)は15≦Al/Ca≦200とすることが望ましい。
【0035】
前記した結晶化促進剤を添加することで、シリカガラス粉の粘性のばらつきが小さくなり、得られるシリコンルツボにおいて、ルツボの上端から発生するクラックの抑制や、上端領域の内方への変形(倒れ込み)の抑制に繋がる。
【0036】
こうして得られたAl添加シリカガラス粉を上述したシリカガラスルツボ製造装置30を用いてシリカガラスルツボ1の製造を行う場合、図示しない回転駆動源を稼働させて回転軸18を矢印の方向に回転させ、これによりルツボ成形用型11を高速で回転させる。
次いで、ルツボ成形用型11内に結晶化促進剤添加シリカガラス供給ノズル20から上述のようにして得られたAl添加シリカガラス粉を供給する。供給されたAl添加シリカガラス粉は、遠心力によって内側部材12の内面側に押圧され外層2として形成される。
ここで、外層2は、
図2を用いて説明したように上端及び下端の位置が決められ、余分な上部及び底部が除去される。
【0037】
次いで、Al添加シリカガラス層からなる外層2の内面側における厚さが3mm以上、ルツボ上端領域における厚さが3mm以上、底部コーナー及び底部における厚さが6mm以上の不透明中間層3及び不透明外層5a、5bが形成されるように、天然原料シリカガラス粉を天然原料シリカガラス供給ノズル21から供給する。
供給された天然原料シリカガラス粉は、遠心力によって外層2の内面側及び内側部材12に押圧されて、不透明中間層3及び不透明外層5a、5bの成形体として成形される。
【0038】
次に、不透明中間層3及び不透明外層5a、5bの内面側に3mm以上の厚さを有する透明層が形成されるように、Na、K、Alの金属不純物含有量が各々1ppm以下の合成原料シリカガラス粉(または天然原料シリカガラス粉)を合成原料シリカガラス供給ノズル22から供給する。
供給された合成原料シリカガラス粉は、遠心力によって不透明中間層3及び不透明外層5a、5bの内面側に押圧されて、透明内層4の成形体として成形される。
【0039】
このようにして段階的にAl濃度の減少勾配がある外層2、不透明中間層3、不透明外層5a、5bおよび透明内層4のルツボ成形体が得られる。
さらに、減圧機構18の作動により内側部材12内を減圧し、アーク電極19に通電してルツボ成形体の内側から加熱し、ルツボ成形体の透明内層4、不透明中間層3、不透明外層5a、5bおよび外層2を溶融して、シリカガラスルツボ1を製造する。
【0040】
以上のように本実施の形態によれば、シリカガラスルツボ1のルツボ上端領域10が、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端の肉厚に10mm加算した長さ以下の領域であって、ルツボ上端領域10が、天然原料シリカガラスからなる不透明外層5aと、天然原料シリカガラスまたは合成原料シリカガラスからなる透明内層4とで形成された2層構造に形成される。
このため、ルツボ開口部(ルツボの上端部)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端部領域の内方への変形(倒れ込む)を抑制することができる。そして、ルツボの耐久性の向上、単結晶化率の向上、更には、ルツボの上端領域が内方に変形(倒れ込む)によって生じる、シリコン単結晶の結晶品質異常を解決することができる。
【0041】
尚、このシリカガラス1によれば、シリコン単結晶引上げの開始初期段階において、結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層2が存在しない所定範囲の底部9(不透明外層5)が軟化し、ルツボ1を支持するカーボンサセプタと密着する。その後、引上げの開始からから完了までの間に亘り、高温加熱により所定範囲の底部コーナー8及び側部7等の外層2の結晶化(クリストバライト化)が進行し、ルツボ1全体と、これを支持するカーボンサセプタとの密着安定性が向上する。また、結晶化により耐熱変形性が向上する。
したがって、ルツボ1の耐熱変形性を確保しつつ、カーボンサセプタによる支持の密着安定性が得られ、シリコン単結晶の単結晶化率を向上することができる。
【実施例】
【0042】
続いて、本発明に係るシリカガラスルツボについて、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に示した構成を含むシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、得られたシリコン単結晶の結晶化率(歩留まり)と、使用したシリカガラスルツボの開口部上端の変形量について検証した。
【0043】
(実験1)
実験1では、前記実施の形態におけるルツボ上端領域10の形成領域を条件として、32インチルツボを用いて、シリカガラスルツボを製造し、製造した各シリカガラスルツボについて単結晶引き上げを行った。
具体的な条件として、2層構造となる前記ルツボ上端領域をルツボ上端から下方に、50mmまでの領域(比較例1)、45mmまでの領域(比較例2)、40mmまでの領域(比較例3)、35mmまでの領域(比較例4)、30mmまでの領域(比較例5)、25mmまでの領域(実施例1)、20mmまでの領域(実施例2)、15mmまでの領域(実施例3)、10mmまでの領域(実施例4)、5mmまでの領域(実施例5)、0mmまでの領域(比較例6)を設定した。
【0044】
このとき用いたシリカガラスルツボの各層の厚さ寸法は、下記のとおりである。
図3を参考にして示すと、透明内層4の厚さ寸法it1は3mmと、厚さ寸法it2は7mm、厚さ寸法it3は3mmである。
また、不透明外層5aの厚さ寸法mt4が12mm、厚さ寸法mt2が、17mm、厚さ寸法mt3が12mmである。また、外層2の厚さ寸法et1と厚さ寸法et2は、1mmである。またルツボ開口部上端の厚さ寸法it1とmt4の和Tは15mmである。
【0045】
また、
図2を参考にして示すと、底部9の半径Rの曲率(第1の曲率)は、813mmとし、底部コーナー8の半径rの曲率(第2の曲率)は、160mmとした。また、外層2の下端は、半径Rの曲率中心Cと、曲率変化点Pとを結ぶ直線L上を0°として、この直線Lを、曲率中心C周りに±5°回転させた範囲内に形成した。
更に、外層2の結晶化促進剤濃度は、50ppmに設定した。
【0046】
シリコン単結晶の引上げ条件は、下記のとおりである。
シリコン単結晶の引上げは、例えば、石英ガラスルツボに原料の多結晶シリコン塊を入れ、不活性ガス雰囲気、例えば10torr~200torrのアルゴンガス雰囲気に保持し、室温から引上げ温度の1400℃~1550℃まで、5時間~25時間で昇温し、この温度に10時間保持して多結晶シリコン塊を溶融し、シリコン融液を形成した。このシリコン融液に種結晶(シリコン単結晶)を浸し(ネッキング工程)、ルツボを回転しながら種結晶を徐々に引上げ、種結晶を核にしてシリコン単結晶を成長させた。
【0047】
実験1について、実施例及び比較例ごとの条件及び実験結果を表1に示す。
尚、表1において、変形量はルツボ上端の内方への倒れ込み量を示す。また、歩留まりは、単結晶化率を示す。そして、備考において、シリコン単結晶の引上げが継続できないもの「不可」、シリコン単結晶の引上げが継続できるものを「許容」、クラックが生じシリコン単結晶の引上げが継続できないものを「クラック」と表示した。
【0048】
【0049】
上記表1の結果から最外層の上端位置は5mmから25mmの範囲、即ち、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端部の肉厚15mmに10mm加算した長さ(25mm)以下の領域が、ルツボ開口部(ルツボの上端部)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端部領域の内方への変形(倒れ込む)を抑制できることを確認できた。
そして、ルツボの耐久性の向上、単結晶化率の向上、更には、ルツボの上端領域が内方に変形(倒れ込む)によって生じる、シリコン単結晶の結晶品質異常を解決することができる。
【0050】
(実験2)
実験1と同様に、22インチルツボを用いて、シリカガラスルツボを製造し、製造した各シリカガラスルツボについて単結晶引き上げを行った。
具体的な条件として、2層構造となる前記ルツボ上端領域がルツボ上端から下方に、50mmまでの領域(比較例7)、45mmまでの領域(比較例8)、40mmまでの領域(比較例9)、35mmまでの領域(比較例10)、30mmまでの領域(比較例11)、25mmまでの領域(比較例12)、20mmまでの領域(実施例6)、15mmまでの領域(実施例7)、10mmまでの領域(実施例8)、5mmまでの領域(実施例9)、0mmまでの領域(比較例13)を設定した。
【0051】
このとき用いたシリカガラスルツボの各層の厚さ寸法は、下記のとおりである。
図3を参考にして示すと、透明内層4の厚さ寸法it1は3mmと、厚さ寸法it2は7mm、厚さ寸法it3は3mmである。
また、不透明外層5aの厚さ寸法mt4が10mm、厚さ寸法mt2が、16mm、厚さ寸法mt3が9mmである。また、外層2の厚さ寸法et1と厚さ寸法et2は、1mmである。またルツボ開口部上端の厚さ寸法it1とmt4の和Tは13mmである。
【0052】
また、
図2を参考にして示すと、底部9の半径Rの曲率(第1の曲率)は、813mmとし、底部コーナー8の半径rの曲率(第2の曲率)は、160mmとした。また、外層2の下端は、半径Rの曲率中心Cと、曲率変化点Pとを結ぶ直線L上を0°として、この直線Lを、曲率中心C周りに±5°回転させた範囲内に形成した。
更に、外層2の結晶化促進剤濃度は、50ppmに設定した。
尚、シリコン単結晶の引上げ条件は、実験1と同一条件とした。
【0053】
実験2について、実施例及び比較例ごとの条件及び実験結果を表2に示す。
尚、表2において、変形量はルツボ上端の内方への倒れ込み量を示す。また、歩留まりは、単結晶化率を示す。そして、備考において、シリコン単結晶の引上げが継続できないもの「不可」、シリコン単結晶の引上が継続できるものを「許容」、クラックが生じシリコン単結晶の引上げが継続できないものを「クラック」と表示した。
【0054】
【0055】
上記表2の結果から最外層の上端位置は5mmから20mmの範囲、即ち、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端部の肉厚10mmに10mm加算した長さ(20mm)以下の領域が、ルツボ開口部(ルツボの上端部)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端部領域の内方への変形(倒れ込む)を抑制できることを確認できた。
そして、ルツボの耐久性の向上、単結晶化率の向上、更には、ルツボの上端領域が内方に変形(倒れ込む)によって生じる、結晶品質異常を解決することができる。
【0056】
以上の実施例の実験結果から、ルツボ上端から下方に5mm以上、かつ上端部の肉厚に10mm加算した長さ以下の領域が、ルツボ開口部(ルツボの上端部)から発生するクラックを抑制すると共に、ルツボの上端部領域の内方への変形(倒れ込む)を抑制できることを確認できた。
【0057】
(実験3)
2層構造となるルツボ上端領域をルツボ上端から下方に、10mmまでの領域を設定した実施例4において、外層2の結晶化促進剤濃度及び濃度比を表3に示す数値に設定した。
実験3の結果を表3に示す。
尚、表3において、変形量はルツボ上端の内方への倒れ込み量を示し、歩留まりは単結晶化率を示す。そして、備考において、シリコン単結晶の引上げが継続できるものを「許容」、クラックが生じシリコン単結晶の引上げが継続できないものを「不可」と表示した。
【0058】
【符号の説明】
【0059】
1 シリカガラスルツボ
2 結晶化促進剤添加シリカガラスからなる外層
3 不透明中間層
4 透明内層
5a 不透明外層
5b 不透明外層
6 ルツボ上端
7 側部
8 底部コーナー
9 底部
10 ルツボ上端領域
30 シリカガラスルツボ製造装置
T ルツボ上端の肉厚
h ルツボ上端からの長さ寸法