(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】スライドシール構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20230516BHJP
B23Q 11/08 20060101ALI20230516BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20230516BHJP
F16J 15/3268 20160101ALI20230516BHJP
F16J 15/3284 20160101ALI20230516BHJP
【FI】
F16J15/3204 101
B23Q11/08 B
B23Q11/08 C
F16J15/16 A
F16J15/3268
F16J15/3284
(21)【出願番号】P 2019205252
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊史
(72)【発明者】
【氏名】長井 修
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-230549(JP,A)
【文献】特開2019-30936(JP,A)
【文献】特開2006-95651(JP,A)
【文献】実開昭49-3181(JP,U)
【文献】実開昭57-197436(JP,U)
【文献】実開昭60-103626(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
F16J 15/16
F16J 15/3268
F16J 15/3284
B23Q 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う平面部の間の角部を面取り部とした角形断面形状のスライド部材に対し、その移動方向に直交するように複数のシール部材が並べられたスライドシール構造であって、
複数ある各々の前記平面部に対して幅寸法を合わせて摺接する平面用シール部材と、
前記平面用シール部材の間に位置する前記面取り部に当てる摺接部分を複数有する角部用シール部材と、
前記平面用シール部材および前記角部用シール部材が着脱可能なシール支持部材と、
を有するスライドシール構造。
【請求項2】
前記角部用シール部材は、前記面取り部に当てる摺接部分が複数となり得る大きさの一つの摺接面を有し、前記シール支持部材にボルトによって取り付けられるものであり、
前記シール支持部材は、複数ある前記面取り部に対する前記角部用シール部材の各々の取り付け箇所に、他の取り付け箇所において前記面取り部に当てられた前記摺接部分とは異なる前記摺接部分を当てるように、前記ボルトを締め付けるためのネジ孔が形成された請求項1に記載のスライドシール構造。
【請求項3】
前記角部用シール部材は、前記シール支持部材にボルトによって取り付けられるものであり、
前記角部用シール部材は、前記面取り部に当てる前記摺接部分が複数個所に形成された請求項1に記載のスライドシール構造。
【請求項4】
複数の前記角部用シール部材はすべて同じ形状であり、同じ位置にネジ部材を通す貫通孔が形成されたものである請求項2または請求項3に記載のスライドシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復直線運動するスライド部材に対して周方向に複数のシール部材が組付けられるスライドシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には案内レールなどに従って直線方向に移動するサドルやラムなどが構成されている。例えば、下記特許文献1に開示された工作機械は、工具台を主軸と平行に移動させるラムが構成されている。そのラムは角柱形状の部材であって、長手方向の移動を可能にするガイド内に挿入され、ボールねじ機構によって同方向にサーボモータの回転出力を伝達する駆動装置が構成されている。そして、工作機械にはこうしたラムなどに対し、ワークの加工によって飛び散る切粉やクーラントがガイドとの摺接部分に入り込まないように、スライドシールが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工作機械などを構成するスライド部材は、前述したラムのように角形断面形状をしており、隣り合う平面部の間の角部に面取り加工が施されている。そうしたスライド部材に対するスライドシールは、スライド部材の各平面部に当てる複数のシール部材が移動方向に直交する周方向に配置されている。しかし、角部に形成された僅かな幅の面取り部は、これまでシール部材が設けられずに隙間が空いてしまっていた。例えば、工作機械のスライド部材であるラムは、隣り合う平面部の間に形成された面取り部の寸法が2mm程度であり、そこにできる隙間は極めて微小である。しかし、飛び散ったクーラントや微細な切粉が入り込んでしまうことがあるため、スライド部材には面取り部にもシール部材を設けることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、平面部および面取り部を周方向にシールするスライドシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスライドシール構造は、隣り合う平面部の間の角部を面取り部とした角形断面形状のスライド部材に対し、その移動方向に直交するように複数のシール部材が並べられたものであり、複数ある各々の前記平面部に対して幅寸法を合わせて摺接する平面用シール部材と、前記平面用シール部材の間に位置する前記面取り部に当てる摺接部分を複数有する角部用シール部材と、前記平面用シール部材および前記角部用シール部材が着脱可能なシール支持部材とを有する。
【発明の効果】
【0007】
前記構成によれば、シール支持部材に平面用シール部材および角部用シール部材を取り付け、スライド部材に対してその移動方向に直交するように並べることで、面取り部においてもシールが施される。また、角部用シール部材については、付け替えによって複数有る摺接部分を面取り部に対して順番に当てることにより寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ラムに対して組付けられたスライドシール構造の一実施形態を示した斜視図である。
【
図4】
図2に示す4箇所の角部用シール部材7について、取付け状態を比較しやすいように抜き出した図である。
【
図5】4箇所に取り付けた角部用シール部材の各箇所での摺接部分を示した図である。
【
図6】スライドシール構造の第2実施系形態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るスライドシール構造の一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。特に本実施形態では、工作機械の駆動装置に組み込まれたラムに対するスライドシール構造を例に挙げて説明する。
図1は、そのスライドシール構造を示した斜視図である。ラム1は、水平方向に回転軸をもった主軸に対して工具を移動させるスライド部材であり、図面手前側に不図示のタレット装置が一体に固定される。ここでは、往復直線運動するラム1の移動方向をZ軸方向として説明する。
【0010】
ラム1は、Z軸と直交する上下方向に移動するX軸スライド2に搭載されている。この工作機械は、主軸に平行なZ軸方向と、そのZ軸に対して直交する上下のX軸方向を加工軸とする2軸旋盤である。X軸スライド2とZ軸スライドであるラム1は、それぞれボールネジ機構を介してサーボモータの回転を直線運動に変換する駆動装置を構成するものである。よって、この駆動装置における各方向の移動が制御されることにより、タレット装置の旋回割出しによって選択された工具が主軸チャックに把持されたワークに対して移動し、所定の加工が実行される。
【0011】
X軸駆動装置を構成するX軸スライド2は、X軸方向に起立したコラムに対して摺動自在に組み付けられ、ラム1を含むZ軸駆動装置がそのX軸スライド2に搭載されている。ラム1は、移動方向に長い角柱形状のブロック体であり、長手方向(Z軸方向)に見た場合に上下左右の平面部11,12,13,14を有する角形断面形状をしている。平面部11~14は高い平面度をもって形成され、左右の平面部13,14には移動方向に溝部131,141が形成されている。また、直角方向に隣り合う平面部(例えば平面部11,13)の間の角部には面取りが行われ、角形断面の4つの角に移動方向(Z軸方向)に沿った面取り部15が形成されている。
【0012】
Z軸駆動装置は、こうしたラム1がX軸スライド2と一体になったガイド本体3に摺動可能に保持されている。ガイド本体3は、X軸スライド2の幅寸法に対応したZ軸方向の寸法を有しており、図面手前側(平面部13側)に開いた形状をしている。そして、ガイド本体3は、Z軸方向の両端部に固定部301が形成され、その間の中央部分にはラム1の平面部11,12,14を摺接保持する支持部302が形成されている。また、固定部301に取り付けられる端部ガイド4は、Z軸方向の両端部においてラム1の平面部11,12,13を摺接保持するようにしたものである。
【0013】
こうしたガイド本体3と端部ガイド4によってZ軸ガイドが構成される。そのZ軸ガイドは、Z軸方向両端に設けられた端部ガイド4の間に、クーラントや切粉などが入らないように不図示のカバー部材によってガイド本体3が覆われている。そして、Z軸方向両端にはラム1とガイド本体3および端部ガイド4との摺接面にクーラントや切粉が入らないようにしたスライドシール構造が設けられている。なお、
図1には端部ガイド4およびスライドシール構造が片側にしか描かれていないが、Z軸駆動装置には反対側にも対称的に構成されている。
【0014】
スライドシール構造は、Z軸ガイドであるガイド本体3および端部ガイド4のZ軸方向端面に支持プレート5が固定され、そこに平面部11,12,13,14をシールする平面用シール部材6と、面取り部15をシールする角部用シール部材7とが、周方向に連続するように並べて取り付けられる。ここで、
図2は、スライドシール構造を示した正面図である。ラム1の面取り部15に対して配置される4つの角部用シール部材7は全て同じ形状および同じ大きさで形成されている。一方、平面用シール部材6は、上下の平面部11,12と左右の平面部13,14に対して配置され、縦と横の寸法に応じて長さが異なるものの同じ形状であるため同じ符号を付して説明する。
【0015】
先ず、角部用シール部材7は、一定厚さのゴム材で形成されたものであり、図示するように二等辺三角形の3つの角を切り落とした六角形をしている。そして、角部用シール部材7は、その底辺部分が面取り部15に当てる摺接面となって支持プレート5に取り付けられる。角部用シール部材7は、2箇所に貫通孔が形成され、その貫通孔を通した六角穴付ボルト21によって支持プレート5に締め付け固定される。一方、平面用シール部材6は、角部用シール部材7と干渉しないようにした台形形状であり、
図3に示すように、ゴムシール61が金属フレーム62に重ねられ、ボルト22によって支持プレート5に締め付け固定される。
【0016】
図3は、
図2のI-I矢視断面を示した図である。平面用シール部材6のゴムシール61は、支持プレート5と金属フレーム62との間に一定厚さの固定部分611が挟み込まれ、ボルト63によってネジ止めされている。そして、ゴムシール61は、支持プレート5からはみ出すようにしてシール部分612が形成されている。シール部分612は、摺接面が傾斜してラム1の平面部11,12,13,14に押し当てられ、摺接面が撓みやすいように凹溝が形成されている。
【0017】
ラム1は、平面部11,12,13,14が焼入れ後に研磨仕上げが行われる一方、面取り部15は研磨されることなく粗面のままである。そのため、平面用シール部材6に比べて角部用シール部材7の摩耗が早く、しかも角部用シール部材7は、平面用シール部材6のように摺接面を撓ませてシールすることなく、面取り部15と平行な摺接面が押し当てられので、摩耗によって擦り減った場合に隙間ができてしまう。そうした角部用シール部材7は、平面用シール部材6よりも寿命が短く、部品交換の回数が多くなってしまう。よって、使用する角部用シール部材7の数が多くなり、その保管も必要である。
【0018】
本実施形態のスライドシール構造は、こうした角部用シール部材7の寿命を延ばすための構成が採られている。
図4は、
図2に示す4箇所(A,B,C,D)の角部用シール部材7について、取付け状態を比較しやすいように抜き出して示した図である。また、
図5は、その4箇所に取り付けた角部用シール部材7の各箇所での摺接部分を示した図である。角部用シール部材7は、面取り部15が当てられる摺接部分72が異なる4箇所に設けられるだけの大きさで底辺部分71に摺接面が形成されている。つまり、4つの角部用シール部材7が、4箇所(A,B,C,D)の面取り部15について位置を変えた付け替えにより、1つの角部用シール部材7が4回使えるようになっている。
【0019】
4つの角部用シール部材7は同じ形状のものであるため、4箇所で同じように取り付けたのでは、1箇所だけが面取り部15に位置することになる。そこで、摺接部分72の位置が取り付け箇所によって変わるように、支持プレート5に形成されたA,B,C,Dの4箇所におけるネジ孔51が、それぞれに異なる位置になるよう形成されている。すなわち、
図4に示すように、A,B,C,Dの各箇所で角部用シール部材7をボルト21の締め付けによって位置決めするためのネジ孔51が、面取り部15の中央に引いた中心線Oに対するズレ量や変位方向が異なるよう形成されている。これによって
図5に示すように、角部用シール部材7の底辺部分71には異なる位置に摺接部分72が生じることとなる。
【0020】
工作機械のZ軸駆動装置では、
図1に示すように、ガイド本体3および端部ガイド4によるZ軸ガイドのZ軸方向端面に支持プレート5が固定され、そこにネジ止めされた平面用シール部材6および角部用シール部材7が、ラム1の平面部11,12,13,14や面取り部15に接するようにして周方向に連続して配置される。そこで、工作機械のワーク加工時にはラム1がZ軸方向に往復直線運動し、それにより平面用シール部材6および角部用シール部材7が平面部11,12,13,14や面取り部15との摺接を繰り返すため、各々のシール部材が徐々に摩耗する。
【0021】
特に、平面用シール部材6に比べて角部用シール部材7の摩耗が激しい。平面用シール部材6が概ね1年の取り換え周期であるのに対し、角部用シール部材7は3月程度である。そこで本実施形態では、3カ月毎に4つの角部用シール部材7を例えば時計回り(反時計回りでもよい)に位置を移した付け替えが行われる。これにより、角部用シール部材7の底辺部分71における摺接部分72が、3カ月毎に
図5に示すA,C,B,Dの順番に変えられる。そして、1年後には、全ての平面用シール部材6および角部用シール部材7が新しいものに取り換えられる。
【0022】
よって、本実施形態によれば、面取り部15にも角部用シール部材7を設けることによって、ラム1の摺接部分に切粉などの侵入を防止することができる。そして、摩耗の激しい角部用シール部材7であっても、摺接部分72を複数個所にした取り付けを行うことにより寿命を延ばすことが可能になる。特に、本実施形態では、A,B,C,Dの4箇所に取り付ける角部用シール部材7を平面用シール部材6と同じ程度の寿命とすることにより、ラム1に対するシール部材の交換時期を一致させることができる。
【0023】
続いて、スライドシール構造の第2実施形態について説明する。
図6は、スライドシール構造を示した正面図であり、前記第1実施形態と同様に、工作機械を構成するZ軸駆動装置のラム1に対して組付けられるものである。よって、このスライドシール構造でも、4つの平面用シール部材31と角部用シール部材32が、支持プレート33に対してねじ止めによって着脱可能な状態で固定されている。本実施形態のシール部材の形状は、概ね平面用シール部材31が長方形で、角部用シール部材32が正方形である。そして、平面用シール部材31の構造は、
図3に示す平面用シール部材6と同じである。
【0024】
一方、角部用シール部材32は、
図6に拡大した斜視図で示すように、台座37とゴムシール38とが重ねられ、ボルト23によって支持プレート33にねじ止めされている。ゴムシール38は、4つの角部に面取り部15の幅寸法に合わせた摺接部分381が形成されている。これに対して台座37は、摺接部分381が摺接する面取り部15と干渉しないように、4つの角部に切欠き371が形成されている。
【0025】
そこで、前記第1実施形態と同様に、
図1に示すガイド本体3および端部ガイド4によるZ軸ガイドのZ軸方向端面に支持プレート33が固定され、そこにネジ止めされた平面用シール部材31および角部用シール部材32が、ラム1の平面部11,12,13,14や面取り部15に接するようにして配置される。そして、工作機械のワーク加工時にはラム1がZ軸方向に往復直線運動し、平面用シール部材31および角部用シール部材32の摺接が繰り返される。
【0026】
摩耗が激しい角部用シール部材32は、本実施形態においても3カ月毎に付け替えが行われる。ただし、A,B,C,Dの各箇所における角部用シール部材32は、位置を変えることなく、4つある摺接部分381が順番に面取り部15に当てられるように付け替えられる。これにより1年後には、全ての平面用シール部材31および角部用シール部材32が新しいものに取り換えられる。
【0027】
よって、本実施形態でも、面取り部15の角部用シール部材32によって、ラム1の摺接部分に切粉などの侵入を防止することができる。そして、摩耗の激しい角部用シール部材32であっても、摺接部分381を変えた付け替えより寿命を延ばすことが可能になり、角部用シール部材32を平面用シール部材31と同じ程度の寿命とすることにより、ラム1に対するシール部材の交換時期を一致させることができる。
【0028】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、工作機械のラム1に設けたスライドシール構造を説明したが、これに限らずサドルや他の機器のスライド部材にも本発明は適用可能である。
また、複数の平面用シール部材6と角部用シール部材7を、前記実施形態のように必ずしもスライド部材に対して一周分配置するようにしなくてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…ラム 30…ガイド本体 4…端部ガイド 5…支持プレート 6…平面用シール部材 7…角部用シール部材 11,12,13,14…平面部 15…面取り部 51…ネジ孔 72…摺接部分