IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ 日通商事株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図1
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図2
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図3
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図4
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図5
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図6
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図7
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図8
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図9
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図10
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図11
  • 特許-ブレーキ異常検知装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ブレーキ異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/22 20060101AFI20230516BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B60T17/22 Z
F16D66/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019239753
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107191
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000227216
【氏名又は名称】NX商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸直
(72)【発明者】
【氏名】中川 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】奥村 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】室町 正博
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正弘
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184096(JP,A)
【文献】特開2019-190537(JP,A)
【文献】特開平10-044976(JP,A)
【文献】特開2019-188951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00-17/22
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸に設けられたドラムブレーキの温度であるブレーキ温度を検出する温度検出部(31,S10)と、
予め設定された算出期間において、前記温度検出部により検出された前記ブレーキ温度の温度勾配を算出する勾配算出部(33,S20)と、
前記車両が走行している路面の傾斜及び前記車両の状態の少なくとも一方に応じた勾配閾値を算出する閾値算出部(33,S30)と、
前記勾配算出部により算出された前記温度勾配が、前記閾値算出部により算出された勾配閾値よりも大きい場合に、前記ドラムブレーキの異常と判定する勾配異常判定部(33,S40)と、
前記路面の下り傾斜の大きさが所定値以上か否か判定する傾斜判定部(32,33,S310,S330,S510,S530,S610,S630,S810,S830)と、
を備え、
前記勾配異常判定部(33,S40)は、前記傾斜判定部により前記下り傾斜の大きさが前記所定値以上であると判定された場合に、前記温度勾配を用いた前記ドラムブレーキの異常判定を停止する、
ブレーキ異常検知装置。
【請求項2】
前記閾値算出部(33,S150,S760)は、前記ドラムブレーキによる前記車両の制動が終了した直後において、前記勾配閾値を基準値よりも高い値を算出する、
請求項1に記載のブレーキ異常検知装置。
【請求項3】
車両の車軸に設けられたドラムブレーキの温度であるブレーキ温度を検出する温度検出部(31,S10)と、
予め設定された算出期間において、前記温度検出部により検出された前記ブレーキ温度の温度勾配を算出する勾配算出部(33,S20)と、
前記車両が走行している路面の傾斜及び前記車両の状態の少なくとも一方に応じた勾配閾値を算出する閾値算出部(33,S30)と、
前記勾配算出部により算出された前記温度勾配が、前記閾値算出部により算出された勾配閾値よりも大きい場合に、前記ドラムブレーキの異常と判定する勾配異常判定部(33,S40)と、を備え、
前記勾配異常判定部(33,S40)は、前記車両が走行している路面の傾斜及び前記車両の状態の少なくとも一方に応じて、前記温度勾配を用いた前記ドラムブレーキの異常判定を停止
前記閾値算出部(33,S150,S760)は、前記ドラムブレーキによる前記車両の制動が終了した直後において、前記勾配閾値を基準値よりも高い値を算出する、
ブレーキ異常検知装置。
【請求項4】
前記温度検出部により検出された前記ブレーキ温度が、温度閾値よりも大きい場合に、前記ドラムブレーキの異常と判定する温度異常判定部(33,S40)を備え、
前記温度異常判定部は、前記勾配異常判定部による前記ドラムブレーキの異常判定の停止時に、前記ドラムブレーキの異常判定を実行する、
請求項1~のいずれか1項に記載のブレーキ異常検知装置。
【請求項5】
車両の車軸に設けられたドラムブレーキの温度であるブレーキ温度を検出する温度検出部(31,S10)と、
予め設定された算出期間において、前記温度検出部により検出された前記ブレーキ温度の温度勾配を算出する勾配算出部(33,S20)と、
前記車両が走行している路面の傾斜及び前記車両の状態の少なくとも一方に応じた勾配閾値を算出する閾値算出部(33,S30)と、
前記勾配算出部により算出された前記温度勾配が、前記閾値算出部により算出された勾配閾値よりも大きい場合に、前記ドラムブレーキの異常と判定する勾配異常判定部(33,S40)と、
前記温度検出部により検出された前記ブレーキ温度が、温度閾値よりも大きい場合に、前記ドラムブレーキの異常と判定する温度異常判定部(33,S40)と、
を備え、
前記勾配異常判定部(33,S40)は、前記車両が走行している路面の傾斜及び前記車両の状態の少なくとも一方に応じて、前記温度勾配を用いた前記ドラムブレーキの異常判定を停止
前記温度異常判定部は、前記勾配異常判定部による前記ドラムブレーキの異常判定の停止時に、前記ドラムブレーキの異常判定を実行する、
ブレーキ異常検知装置。
【請求項6】
前記車両が停車状態か否か判定する車両状態判定部(32,33,S210,S230)を備え、
前記勾配異常判定部(33,S40)は、前記車両状態判定部により前記車両が停車状態であると判定された場合に、前記温度勾配を用いた前記ドラムブレーキの異常判定を停止する、
請求項1~5のいずれか1項に記載のブレーキ異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両ブレーキの異常を検知する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の異常検知装置は、所定の算出期間におけるブレーキ温度の温度勾配を算出し、算出した温度勾配が予め設定されている勾配閾値よりも大きい場合に、ドラムブレーキの異常と判定している。また、上記装置は、所定の算出期間における車両の制動期間の割合が大きい又は制動期間が長いほど勾配閾値を大きくすることによって、ブレーキの作動に伴うブレーキ温度の上昇を、ブレーキの異常によるブレーキ温度の上昇と誤検知しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-184096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、路面の下り勾配が大きい場合は、制動期間の割合が小さい又は制動期間が短くても、ドラムブレーキの引き摺りが生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生することがある。また、ドラムブレーキによる車両の制動後に、ブレーキに熱が蓄積された状態で停車した場合、走行風による冷却効果が得られないため、ブレーキ温度が著しく上昇し、ドラムブレーキの引き摺りが生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生することがある。そのため、上記装置では、路面の勾配や車両状態によっては、ドラムブレーキが正常状態であっても異常状態と誤検知するおそれがある。
【0005】
本開示は、ドラムブレーキの異常状態の検知精度を向上させることが可能なブレーキ異常検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、温度検出部(31,S10)と、勾配算出部(33,S20)と、閾値算出部(33,S30)と、勾配異常判定部(33,S40)と、を備える。温度検出部は、車両の車軸に設けられたドラムブレーキの温度であるブレーキ温度を検出する。勾配算出部は、予め設定された算出期間において、温度検出部により検出されたブレーキ温度の温度勾配を算出する。閾値算出部は、車両が走行している路面の傾斜及び車両の状態の少なくとも一方に応じた勾配閾値を算出する。勾配異常判定部は、勾配算出部により算出された温度勾配が、閾値算出部により算出された勾配閾値よりも大きい場合に、ドラムブレーキの異常と判定する。また、勾配異常判定部は、車両が走行している路面の傾斜及び車両の状態の少なくとも一方に応じて、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を停止する。
【0007】
本開示によれば、路面の傾斜及び車両の状態の少なくとも一方に応じて、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定が停止される。すなわち、ドラムブレーキの引き摺りが生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生する可能性がある場合に、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定が停止される。したがって、ドラムブレーキの正常状態を異常状態と誤検知する可能性を排除し、ドラムブレーキの異常状態の検知精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るブレーキ異常検知装置の構成を示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る異常検知処理を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態に係る勾配閾値算出処理を示すフローチャートである。
図4】第1実施形態に係る停車判定処理を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態に係る下り坂判定処理を示すフローチャートである。
図6】第1実施形態に係るブレーキ判定処理を示すフローチャートである。
図7】下り坂走行中と走行後におけるブレーキ温度及び車速のタイムチャートである。
図8】下り坂走行中と走行後におけるブレーキ温度の温度勾配及びブレーキ信号のタイムチャートである。
図9】第2実施形態に係る下り坂判定処理を示すフローチャートである。
図10】第3実施形態に係る下り坂判定処理を示すフローチャートである。
図11】第4実施形態に係る勾配閾値算出処理を示すフローチャートである。
図12】第4実施形態に係る下り坂判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
<1.構成>
まず、本実施形態に係るブレーキ異常検知装置3の構成について、図1を参照して説明する。ブレーキ異常検知装置3は、トラック、バス等の自動車や、自動車に牽引されるトレーラ等の被牽引車両に搭載され、ドラムブレーキの異常を検知する。自動車や被牽引車両が有する複数の車軸の各々の両端には、それぞれタイヤとドラムブレーキとが設けられている。
【0010】
本実施形態では、ドラムブレーキの異常状態として、少なくともドラムブレーキの引き摺りが生じている状態を検知する。ブレーキの引き摺りは、ブレーキシステムの故障により、ドラムブレーキのブレーキライニングがブレーキドラムに押し付けられたままとなり、ドラムブレーキに制動力が発生し続ける状態である。このようなブレーキの引き摺りが発生すると、ドラムブレーキの温度が上昇し、ドラムブレーキ内のグリス等油脂類が発火したり、タイヤの破裂又は火災に至ったりするおそれがある。
【0011】
ブレーキ異常検知装置3は、測温部2、車両状態推定部6、及び警告装置4とワイヤで接続されており、ワイヤを介して信号の送受信を行っている。
測温部2は、複数の温度センサ20を備える。複数の温度センサ20の各々は、複数のドラムブレーキの各々に設けられており、ドラムブレーキ又はドラムブレ―キ周辺の温度を、ブレーキ温度として検出する。温度センサ20は、接触式の温度検出素子を備える。接触式の温度検出素子としては、例えば、温度によって起電力が変化する熱電対が挙げられる。各温度センサ20は、検出したブレーキ温度のアナログの検出信号をブレーキ異常検知装置3へ出力する。
【0012】
車両状態推定部6は、車両の状態を推定するための情報を出力する各種機器を備える。本実施形態では、車両状態推定部6は、ブレーキランプ61、Global Positioning System(GPS)受信機62、及び加速度センサ63を備える。
【0013】
ブレーキランプ61は、トレーラ車両後部に設けられており、ドラムブレーキが作動した場合に、通電して点灯する。ブレーキランプ61は、ブレーキランプ61の通電時に、通電状態を示す信号をブレーキ異常検知装置3へ出力する。GPS受信機62は、GPS信号を受信し、GPS信号をブレーキ異常検知装置3へ出力する。加速度センサ63は、互いに直交する3つの軸の加速度を検出し、検出した加速度信号をブレーキ異常検知装置
3へ出力する。
【0014】
ブレーキ異常検知装置3は、AD変換部31と、車両情報取得部32と、演算部33と、表示装置34と、を備える。
AD変換部31は、複数の温度センサ20の各々から出力されたアナログの検出信号をデジタルデータに変換してブレーキ温度を検出し、検出したブレーキ温度を演算部33へ出力する。
【0015】
車両情報取得部32は、ブレーキランプ61の通電状態を示す信号が入力された場合には、ブレーキ信号を演算部33へ出力し、ブレーキランプ61の通電状態を示す信号が入力されない場合には、ブレーキ信号を演算部33へ出力しない。
【0016】
また、車両情報取得部32は、GPS受信機62から入力されたGPS信号を用いて車両の位置を算出し、車両の位置の変化から車速を算出する。そして、車両情報取得部32は、算出した車速を演算部33へ出力する。さらに、車両情報取得部32は、加速度センサ63から入力された加速度信号を用いて、車両が走行中の路面の傾斜角度を算出し、算出した傾斜角度を演算部33へ出力する。
【0017】
演算部33は、CPU331と、半導体メモリであるメモリ332と、を備えるマイクロコンピュータを主として構成されている。演算部33は、CPU331がメモリ332に記憶されているプログラムを実行することにより実現される。本実施形態では、演算部33は、勾配算出部と、勾配異常判定部と、傾斜判定部と、車両状態判定部と、閾値設定部と、温度異常判定部の機能を実現する。
【0018】
演算部33は、CPU331がプログラムを実行して各種機能を実現することにより、ドラムブレーキの異常検知処理を実行する。すなわち、演算部33は、AD変換部31及び車両情報取得部32から入力された各種の情報を用いて、ドラムブレーキの異常の有無を判定する。その際、温度センサ20により検出された直近のK個のブレーキ温度の値を移動平均し、移動平均した値をブレーキ温度として用いる。Kは自然数であり、例えば10とする。
【0019】
そして、演算部33は、判定結果を警告装置4や表示装置34を介して報知する。判定結果は、ドラムブレーキの異常の有無と、複数のドラムブレーキのうちのどのドラムブレーキが異常かを示す情報と、を含む。なお、ドラムブレーキの異常検知処理の詳細は後述する。
【0020】
表示装置34は、液晶パネルや有機ELパネルを備える。表示装置34は、演算部33からドラムブレーキの異常を示す判定結果が入力されると、ドラムブレーキの異常を報知するとともに、複数のドラムブレーキのうちのどのドラムブレーキが異常であるかを報知する。
【0021】
警告装置4は、例えば、インジケータであり、車両において、乗車中のドライバが、サイドミラーを介して視認可能な位置に配置されている。警告装置4は、演算部33からドラムブレーキの異常を示す判定結果が入力されると、点灯や点滅をして、ドラムブレーキの異常を報知する。ドライバは、警告装置4による異常報知を視認した後、車両を停車させて表示装置34を確認することにより、どのドラムブレーキに異常が発生しているかを認識できる。
【0022】
<2.処理>
<2-1.異常検知処理>
次に、演算部33が実行するドラムブレーキの異常検知処理の処理手順について、図2のフローチャートを参照して説明する。本実施形態では、演算部33は予め設定された間隔(例えば、1s間隔)で本処理手順を実行する。なお、本処理手順が実行される周期を処理サイクルと称する。
【0023】
S10では、AD変換部31を介して、各ドラムブレーキのブレーキ温度を取得する。
続いて、S20では、異常判定に用いる各種パラメータを算出する。具体的には、各種パラメータとして、各種判定値、判定値の算出期間を算出する。各種判定値は、ブレーキ温度の温度勾配、他のブレーキ温度の温度勾配との乖離量、算出期間における軌跡長、他のブレーキ温度の軌跡長との乖離量を含む。
【0024】
ドラムブレーキが引き摺り状態である場合、ドラムブレーキが正常状態の場合よりも、ブレーキ温度の温度勾配(具体的には、上昇勾配)が大きくなる。そのため、ドラムブレーキが引き摺り状態である場合、ブレーキ温度が後述する温度閾値まで到達する前に、大きな温度勾配が発生することがある。よって、判定値として温度勾配を用いることにより、早期にブレーキの異常を検知し得る。
【0025】
軌跡長は、ブレーキ温度の変動を示す軌跡の長さ、つまり、算出期間におけるブレーキ温度の変化曲線の長さである。言い換えると、軌跡長は、軌跡長の算出期間におけるブレーキ温度の変化量の総和である。ブレーキ温度の変化量は、処理サイクル間での変化量である。ドラムブレーキが引き摺り状態である場合、ドラムブレーキが正常状態の場合よりも、ブレーキ温度が大きく変動する。そして、軌跡長は、車両の走行時の風や雨水等の水滴によりブレーキ温度が低下した場合でも、温度変化の分だけ長くなる。すなわち、軌跡長は、ブレーキ温度の変動が大きいと長くなる。よって、判定値として軌跡長を用いることにより、早期にブレーキの異常を検知し得る。
【0026】
乖離量は、複数のドラムブレーキのうちの1つのドラムブレーキについての判定値と、他のドラムブレーキについての判定値との差分である。すべてのドラムブレーキが正常であれば、すべてのドラムブレーキは類似の温度変化をすると考えられる。したがって、他のドラムブレーキから乖離した温度変化をするドラムブレーキは、異常状態である可能性が高い。判定値として温度勾配の乖離量及び軌跡長の乖離量を用いることにより、早期にドラムブレーキの異常を検知し得る。
【0027】
算出期間は、車速に応じて変化させる期間である。具体的には、車速が高いほど算出期間を短くする。例えば、算出期間は、時速50km/hで10sとする。温度勾配の算出期間と軌跡長の算出期間は異なる期間にしてもよい。
続いて、S30では、温度勾配を用いてドラムブレーキの異常を判定するための勾配閾値を、車両が走行している路面の傾斜及び車両の状態の少なくとも一方に応じて算出する。勾配閾値算出処理の詳細は、後述する。
【0028】
続いて、S40では、複数のドラムブレーキの各々について、S20において算出した各種パラメータ及び現在のブレーキ温度値と対応する各種閾値とを比較して、ドラムブレーキごとに異常か否か判定する。各種閾値は、S30において算出された勾配閾値、温度閾値、勾配乖離閾値、軌跡長閾値、及び長さ乖離閾値を含む。各種閾値のそれぞれは、ドラムブレーキの異常状態を判定するために設定された閾値である。
【0029】
具体的には、次の(1)~(5)の条件のいずれかが成立するか否か判定する。(1)温度勾配が勾配閾値よりも大きい。(2)現在のブレーキ温度値が温度閾値よりも大きい。(3)温度勾配の乖離量が勾配乖離閾値よりも大きい。(4)軌跡長が軌跡長閾値よりも大きい。(5)軌跡長の乖離量が長さ乖離閾値よりも大きい。そして、すべてのドラム
ブレーキにおいて、(1)~(5)のいずれの条件も成立しない場合は、すべてのドラムブレーキが正常であると判定して、本処理を終了する。
【0030】
一方、いずれかのドラムブレーキにおいて、(1)~(5)のいずれかの条件が成立する場合には、S50の処理へ進む。S50では、ドラムブレーキの異常を検知したことを報知する。このとき、誤報知を抑制するため、2回の処理サイクルで続けてドラムブレーキの異常が検知されたことを条件に、異常を報知してもよい。具体的には、警告装置4を作動させるとともに、表示装置34に、複数のドラムブレーキのうち異常が検知されたドラムブレーキの位置や、異常の内容すなわち(1)~(5)のどの条件が成立しているかについて表示する。これにより、整備の必要な個所が報知されるため、メンテナンス性が向上する。さらに、異常が検出されたドラムブレーキの位置や異常内容をメモリ332に格納する。メモリ332に格納された情報は、後日、故障の解析に用いることができる。以上で、本処理を終了する。
【0031】
<2-2.勾配閾値算出処理>
次に、S30において演算部33が実行する勾配閾値算出処理について、図3のフローチャートを参照して説明する。なお、勾配乖離閾値、軌跡長閾値、長さ乖離閾値も、勾配閾値と同様に算出してもよい。一方、温度閾値は、一定の値に設定する。
【0032】
まず、S100では、勾配閾値を基準値であるBASEに設定する。
続いて、S110では、停車判定フラグがオンか否か判定する。停車判定フラグがオンであると判定した場合は、S130の処理へ進む。一方、停車判定フラグがオフであると判定した場合は、S120の処理へ進む。
【0033】
S120では、下り坂判定フラグがオンか否か判定する。下り坂判定フラグがオンであると判定した場合は、S130の処理へ進む。一方、下り坂判定フラグがオフであると判定した場合は、S140の処理へ進む。
【0034】
S130では、勾配閾値をBASEの10倍の値に設定し、本処理を終了する。BASEの10倍の値は、ブレーキ温度の温度勾配(具体的には上昇勾配)が超えることのない値である。すなわち、勾配閾値をBASEの10倍の値に設定することは、実質的に、S40の処理における、ブレーキ温度の温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を停止することになる。
【0035】
勾配閾値と同様に、勾配乖離閾値、軌跡長閾値、長さ乖離閾値を算出することにより、温度勾配の乖離量、軌跡長、軌跡長の乖離量を用いたドラムブレーキの異常判定も停止される。一方、温度閾値は一定の値に設定されるため、ブレーキ温度を用いたドラムブレーキの異常判定が停止されることはない。すなわち、演算部33は、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定の停止時には、少なくともブレーキ温度を用いた、ドラムブレーキの異常判定を実行し、異常判定の抜けを回避する。
【0036】
本実施形態では、BASEの10倍の値を勾配閾値に設定しているが、温度勾配が超えることのない値であれば他の値でもよく、例えば、BASEの15倍の値や20倍の値でもよい。
【0037】
車両が停止状態の場合は、ドラムブレーキを冷やす走行風がないため、ブレーキ温度の上昇が著しくなり、引き摺り状態が生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生し得る。また、路面が下り坂である場合、ドラムブレーキによる制動が頻繁に行われ、引き摺り状態が生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生し得る。そこで、停車判定フラグがオン及び下り坂判定フラグがオンの場合には、ブレーキ温度の温度勾配を用
いたドラムブレーキの異常判定を停止する。
【0038】
また、S140では、ブレーキ判定フラグがオンか否か判定する。ブレーキ判定フラグがオンであると判定した場合は、S150の処理へ進む。ブレーキ判定フラグは、後述するブレーキ判定処理において、制動中及び制動直後にオンに設定される。一方、ブレーキ判定フラグがオフであると判定した場合は、本処理を終了する。
【0039】
S150では、勾配閾値をBASEの2倍の値に設定し、本処理を終了する。制動中及び制動直後では、弱い引き摺り程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生し得る。そのため、勾配閾値をBASEのままにしておくと、ドラムブレーキの正常状態を異常状態と誤検知するおそれがある。そこで、制動中及び制動直後において、ドラムブレーキの正常状態を異常状態と誤検知しないように、勾配閾値をBASEの2倍の値に設定する。
【0040】
<2-3.停車判定処理>
次に、S30において演算部33が実行する停車判定処理について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0041】
まず、S200では、メモリ332から前回停車判定フラグを読み込み、前回停車判定フラグがオンか否か判定する。停車判定フラグの初期値はオンに設定される。
前回停車判定フラグがオンの場合、S210の処理へ進み、前回停車判定フラグがオフの場合、S230の処理へ進む。
【0042】
S210では、車速が第1速度閾値以上か否か判定する。第1速度閾値は、走行状態か否かを判定するための閾値であり、例えば5km/hとする。車速が第1速度閾値以上であると判定した場合、すなわち、車両が走行状態であると判定した場合には、S220の処理へ進む。S220では、停車判定フラグをオフに設定し、本処理を終了する。その後、S200の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。一方、車速が第1速度閾値未満であると判定した場合、すなわち、車両が停止状態であると判定した場合には、S240の処理へ進む。S240では、停車判定フラグをオンに設定して本処理を終了する。その後、S200の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0043】
S230では、車速が第2速度閾値以下か否か判定する。第2速度閾値は、走行状態から停止状態へ変化したか否か判定するための閾値であり、例えば3km/hとする。第2速度閾値は、ヒステリシスを持たせるため、第1速度閾値よりも小さい値に設定されている。
【0044】
S230において、車速が第2速度閾値を超過していると判定した場合、すなわち、車両が走行状態であると判定した場合には、S250の処理へ進む。S250では、停車判定フラグをオフに設定して本処理を終了する。その後、S200の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。一方、S230において、車速が第2速度閾値以下であると判定した場合、すなわち、車両が停止状態であると判定した場合には、S240の処理へ進み、停車判定フラグをオンに設定して本処理を終了する。その後、S200の処理へ戻って本処理を再開する。
【0045】
<2-4.下り坂判定処理>
次に、S30において演算部33が実行する下り坂判定処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0046】
まず、S300では、メモリ332から前回下り判定フラグを読み込み、前回下り判定フラグがオフか否か判定する。下り坂判定フラグの初期値はオフに設定される。前回下り
坂判定フラグがオフの場合、S310の処理へ進み、前回下り坂判定フラグがオンの場合、S330の処理へ進む。
【0047】
S310では、車両が走行中の路面の下りの傾斜角度が、傾斜閾値以上か否か判定する。傾斜閾値は、路面が下り坂か否か判定するための閾値であり、例えば4.5°とする。下りの傾斜角度が傾斜閾値以上であると判定した場合は、S320の処理へ進む。一方、下りの傾斜角度が傾斜閾値未満であると判定した場合は、S360の処理へ進む。S360では、下り判定フラグをオフに設定して本処理を終了する。その後、S300の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0048】
S320では、下りの傾斜角度が傾斜閾値以上であることを、第1時間の間連続して検出したか否か判定する。第1時間は、路面が下り坂か否か判定するための時間であり、例えば、2秒とする。第1時間の間連続して検出したと判定した場合は、S350の処理へ進み、下り坂判定フラグをオンに設定して本処理を終了する。その後、S300の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。一方、第1時間の間連続して検出していないと判定した場合は、S360の処理へ進み、下り坂判定フラグをオフに設定して本処理を終了する。その後、S300の処理へ戻り本処理を繰り返し実行する。
【0049】
S330では、路面の下りの傾斜角度が、傾斜閾値未満か否か判定する。下りの傾斜角度が傾斜閾値未満であると判定した場合は、S340の処理へ進む。一方、下りの傾斜角度が傾斜閾値以上であると判定した場合は、S370の処理へ進む。S370では、下り坂判定フラグをオンに設定して本処理を終了する。その後、S300の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0050】
S340では、傾斜閾値未満である傾斜角度の路面を、第2時間の間連続して検出したか否か判定する。第2時間は、下り坂における制動に伴う温度上昇が終了したか否か判定するための時間である。
【0051】
図7に下り坂走行中及び走行後におけるブレーキ温度及び車速のタイムチャートを示す。また、図8に、図7に示すブレーキ温度の温度勾配及びブレーキ信号のタイムチャートを示す。図7及び図8に示すように、下り坂で頻繁に制動を行った場合、ドラムブレーキに熱が蓄積され、下り坂走行を終了しても、暫くの間、ブレーキ温度の上昇が続いている。その結果、下り坂走行を終了しても、暫くの間、引き摺り状態と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生している。すなわち、下り坂走行を終了しても、暫くの間、勾配閾値を超えるブレーキ温度の温度勾配が発生し得る。
【0052】
したがって、下り坂走行を終了しても、ドラムブレーキに蓄積された熱が冷めるまでの間は、下り坂判定フラグをオンに設定したままにする。すなわち、下り坂走行を終了しても、第2時間が経過するまでの間は、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を停止し、第2時間が経過した後、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を再開する。第2時間は、下り坂走行を終了した後、ドラムブレーキに蓄積された熱が冷めるまでの時間であり、例えば、90秒とする。
【0053】
S340において、第2時間の間連続して検出したと判定した場合は、S360の処理を実行して本処理を終了する。その後、S300の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。一方、第2時間の間連続して検出していないと判定した場合は、S370の処理を実行して本処理を終了する。その後、S300の処理へ戻り本処理を繰り返し実行する。
【0054】
<2-5.ブレーキ判定処理>
次に、S30において演算部33が実行するブレーキ判定処理について、図6のフロー
チャートを参照して説明する。
【0055】
まず、S400では、メモリ332から前回ブレーキ判定フラグを読み込み、前回ブレーキ判定フラグがオンか否か判定する。ブレーキ判定フラグの初期値はオフに設定される。前回ブレーキ判定フラグがオフの場合、S410の処理へ進み、前回ブレーキ判定フラグがオンの場合、S430の処理へ進む。
【0056】
S410では、車両情報取得部32を介してブレーキ信号の入力があるか否か判定する。ブレーキ信号の入力があると判定した場合は、S420の処理へ進む。S420では、ブレーキ判定フラグをオンに設定して本処理を終了する。その後、S400の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。一方、ブレーキ信号の入力がないと判定した場合は、S460の処理へ進む。S460では、ブレーキ判定フラグをオフに設定して本処理を終了する。その後、S400の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0057】
一方S430では、車両情報取得部32を介してブレーキ信号の入力がないか否か判定する。ブレーキ信号の入力がないと判定した場合は、S440の処理へ進む。一方、ブレーキ信号の入力があると判定した場合は、S420の処理を実行して本処理を終了する。その後、S400の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0058】
S440では、ブレーキ信号の入力がない状態が第3時間継続したか否か判定する。第3時間は、ドラムブレーキによる車両の制動直後か否か判定するための時間であり、例えば、30秒とする。第3時間経過したと判定した場合は、S450の処理へ進む。S450では、ブレーキ判定フラグをオフに設定して本処理を終了する。その後、S400の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。一方、第3時間経過していないと判定した場合は、S420の処理へ進み、ブレーキ判定フラグをオンに設定して本処理を終了する。その後、S400の処理へ戻って本処理を繰り返し実行する。制動直後では、弱い引き摺り程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生し得るので、ブレーキ判定フラグをオンに設定する。
【0059】
<3.効果>
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)路面の傾斜及び車両の状態の少なくとも一方に応じて、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定が停止される。すなわち、ドラムブレーキの引き摺りが生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生する可能性がある場合に、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定が停止される。したがって、ドラムブレーキの正常状態を異常状態と誤検知することを回避し、ドラムブレーキの異常状態の検知精度を向上させることができる。
【0060】
(2)路面の下り傾斜の大きさが傾斜閾値以上の場合には、ドラムブレーキの引き摺りが生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生し得る。そこで、路面の下り傾斜の大きさが傾斜閾値以上の場合には、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定が停止される。これにより、ドラムブレーキの正常状態を異常状態と誤検知することを回避できる。
【0061】
(3)長い下り坂走行中に車両の制動を頻繁に行った場合、下り坂走行後において、余熱によりブレーキの温度上昇が数分間続く。そこで、下り坂走行した後、第2時間の間、下り坂判定フラグをオンのままに維持する。これにより、下り坂走行後に続く温度上昇を、ドラムブレーキの異常による温度上昇と誤検知することを回避できる。
【0062】
(4)さらに、(3)に示す下り坂走行後に車両が停止した場合にも、ドラムブレーキの引き摺りが生じた場合と同程度のブレーキ温度の上昇勾配が発生し得る。そこで、車両
が停止状態の場合には、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定が停止される。これにより、ドラムブレーキの正常状態を異常状態と誤検知することを回避できる。
【0063】
(5)制動中及び制動直後において、勾配閾値がBASEの2倍の値に設定される。これにより、制動中及び制動直後における弱い引き摺り程度のブレーキ温度の上昇勾配を、ドラムブレーキの異常による温度上昇と誤検知することを回避できる。
【0064】
(6)温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定の停止中には、ブレーキ温度と温度閾値との比較によるドラムブレーキの異常判定が実行される。したがって、ドラムブレーキの異常状態時に異常状態の判定漏れを抑制することができる。
【0065】
(第2実施形態)
<1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0066】
第2実施形態では、演算部33が、図5に示す下り坂判定処理の代わりに、図9に示す下り坂判定処理を実行する点で、第1実施形態と異なる。
<2.下り坂判定処理>
次に、第2実施形態に係る演算部33が実行する下り坂判定処理について、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0067】
まず、S500~S530、S550~S570では、S300~S330、S350~S370と同様の処理を実行する。一方、S540では、S340と異なる処理を実行する。S530において、下りの傾斜角度が傾斜閾値未満であると判定した場合は、S540の処理へ進む。一方、下りの傾斜角度が傾斜閾値以上であると判定した場合は、S570の処理を実行して本処理を終了する。
【0068】
S540では、ブレーキ温度の上昇が停止したか否か判定する。ドラムブレーキが正常であれば、下り坂の走行後、暫く経つと、ブレーキ温度の上昇が停止する。そこで、本実施形態では、下り坂走行を終了してからの経過時間の代わりに、ブレーキ温度の上昇を用いて、ドラムブレーキに蓄積された熱が冷めたか否かを判定する。すなわち、ブレーキ温度の上昇が停止するまでは、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を停止し、ブレーキ温度の上昇が停止した後、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を再開する。
【0069】
S540において、温度上昇が停止したと判定した場合は、S560の処理を実行して本処理を終了する。一方、温度上昇が停止していないと判定した場合は、S570の処理を実行して本処理を終了する。そして、S550,S560,S570の処理の後、S500の処理へ戻って本処理を繰り返し実行する。
【0070】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果(1)~(6)と同様の効果を得られる。
(第3実施形態)
<1.第1実施形態との相違点>
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0071】
第3実施形態では、演算部33が、図5に示す下り坂判定処理の代わりに、図10に示
す下り坂判定処理を実行する点で、第1実施形態と異なる。
<2.下り坂判定処理>
次に、第3実施形態に係る演算部33が実行する下り坂判定処理について、図10のフローチャートを参照して説明する。
【0072】
まず、S600~S630、S650~S670では、S300~S330、S350~S370と同様の処理を実行する。一方、S640では、S340と異なる処理を実行する。また、下り坂判定フラグのオン中に、ブレーキ信号が入力された場合には、CPU331内部のタイマを用いてブレーキ信号の入力時間をカウントして積算する。すなわち、下り坂判定フラグのオン中におけるブレーキ信号の入力延べ時間をカウントする。
【0073】
S630では、下りの傾斜角度が傾斜閾値未満か否か判定する。S630において、下りの傾斜角度が傾斜閾値以上であると判定した場合は、S670の処理を実行して本処理を終了する。一方、下りの傾斜角度が傾斜閾値未満であると判定した場合は、S640の処理へ進む。
【0074】
S640では、傾斜閾値未満である傾斜角度の路面を検出した後、下り坂判定フラグオン中におけるブレーキオン期間以上経過したか否か判定する。ブレーキオン期間は、タイマを用いてカウントしたカウント値に相当する。
【0075】
ドラムブレーキの発熱量は、ブレーキオン期間に比例する。そして、ドラムブレーキの発熱量が大きいほど、下り坂走行を終了した後に、ブレーキ温度の上昇が続く時間が長くなる。そこで、本実施形態では、下り坂走行を終了してからの経過時間を所定の第2時間と比較する代わりに、経過時間を下り坂判定フラグオン中におけるブレーキ期間と比較する。これにより、ドラムブレーキの発熱量が比較的小さい場合には、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定の停止期間を比較的短くし、ドラムブレーキの発熱量が比較的大きい場合には、停止期間を比較的長くすることができる。
【0076】
S640において、下り坂走行を終了してから下り判定フラグオン中におけるブレーキ期間が経過したと判定した場合は、S660の処理を実行して本処理を終了する。一方、ブレーキ期間が経過していないと判定した場合は、S670の処理を実行して本処理を終了する。そして、S650,S660,S670の処理の後、S600の処理へ戻って本処理を繰り返し実行する。
【0077】
以上説明した第3実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果(1)~(6)に加えて、以下の効果を得られる。
(7)ブレーキ期間が長いほど、下り判定フラグのオン期間を長くして、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定の停止期間を長くすることができる。よって、ドラムブレーキの正常状態を異常状態と誤検知することをより確実に回避することができる。また、ブレーキ期間が短くドラムブレーキの発熱量が小さい場合には、より早いタイミングで温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を再開することができる。ひいては、ドラムブレーキの引き摺り状態を早期に検出できる機会を増やすことができる。
【0078】
(第4実施形態)
<1.第1実施形態との相違点>
第4実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0079】
第4実施形態では、演算部33が、図3に示す勾配閾値算出処理の代わりに、図11
示す勾配閾値算出処理を実行する点で、第1実施形態と異なる。さらに、第4実施形態では、演算部33が、図5に示す下り坂判定処理の代わりに、図12に示す下り坂判定処理を実行する点で、第1実施形態と異なる。
【0080】
<2.処理>
<2-1.勾配閾値算出処理>
次に、第4実施形態に係る演算部33が実行する勾配閾値算出処理について、図11のフローチャートを参照して説明する。
【0081】
まず、S700,S710、S720、及びS730では、S100,S110、S130、及びS120と同様の処理を実行する。
S730において、下り坂判定フラグがオンであると判定した場合は、S740の処理へ進む。一方、下り坂判定フラグがオフであると判定した場合は、S750の処理へ進む。
【0082】
S740では、勾配閾値をBASEのN倍の値に設定し、本処理を終了する。その後、S700の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。変数Nは自然数であり、後述する下り坂判定処理において設定される値である。
【0083】
また、S750及びS760では、S140及びS150と同様の処理を実行する。
<2-2.下り坂判定処理>
次に、第4実施形態に係る演算部33が実行する下り坂判定処理について、図12のフローチャートを参照して説明する。
【0084】
まず、S800,S810,S820,S850,S860では、S300,S310,S320,S350,S360と同様の処理を実行する。
S850において下り坂判定フラグをオンに設定した後、S870の処理へ進み、変数Nに10を設定して本処理を終了する。その後、S800の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0085】
S800において前回下り坂判定フラグがオンであると判定された場合は、S830の処理へ進み、車両が走行中の路面の下りの傾斜角度が、傾斜閾値以上か否か判定する。S830において、下りの傾斜角度が傾斜閾値以上であると判定した場合は、S840の処理へ進む。S840では、下り坂判定フラグをオンに設定した後、S960の処理へ進む。S960では、変数Nに10を設定して、本処理を終了する。その後、S800の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0086】
S830において、下りの傾斜角度が傾斜閾値未満と判定した場合は、S880の処理へ進む。S880では、傾斜閾値未満の傾斜角度の路面を、第6時間連続して検出したか否か判定する。第6時間は、下り坂走行が終わり、ブレーキの温度上昇が収束するための十分な時間が経過したか否か判定するための時間であり、例えば、120秒とする。S880において、第6時間連続して検出したと判定した場合は、S890の処理へ進み、下り坂判定フラグをオフに設定して、本処理を終了する。その後、S800の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。一方、S880において、第6時間経連続して検出していないと判定した場合は、S900の処理へ進む。
【0087】
S900では、傾斜閾値未満の傾斜角度の路面を、第5時間連続して検出したか否か判定する。第5時間は、下り坂走行が終わり、第2の段階に到達したか否か判定するための時間であり、例えば60秒とする。S900において、第5時間連続して検出したと判定した場合は、S910の処理へ進み、下り坂判定フラグをオンに設定して、S920の処
理へ進む。S920では、変数Nに2を設定して、本処理を終了する。その後、S800の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0088】
一方、S900において、第5時間連続して検出していないと判定した場合は、S930の処理へ進む。
S930では、傾斜閾値未満の傾斜角度の路面を第4時間連続して検出したか否か判定する。第4時間は、下り坂走行が終わり、第1の段階に到達したか否か判定するための時間であり、例えば30秒とする。S930において、第4時間連続して検出したと判定した場合は、S940へ進み、下り坂判定フラグをオンに設定して、S950の処理へ進む。S950では、変数Nに3を設定して、本処理を終了する。その後、S800の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0089】
一方、S930において、第4時間連続して検出していないと判定した場合は、S840の処理へ進み、下り坂判定フラグをオンに設定して、S960の処理へ進む。S960では、変数Nに10を設定して、本処理を終了する。その後、S800の処理へ戻り、本処理を繰り返し実行する。
【0090】
このように、本実施形態では、傾斜閾値未満の傾斜角度の路面の検出を、下り坂判定フラグをオンからオフに切り替えるトリガとする。そして、トリガの検出後、時間の経過とともに段階的に変数Nの値を小さくし、最終的に下り坂判定フラグをオンからオフに切り替える。
【0091】
以上説明した第4実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果(1)~(6)に加えて、以下の効果を得られる。
(8)傾斜閾値未満の傾斜角度の路面の検出後、時間経過とともに段階的に勾配閾値が小さく設定される。したがって、時間経過に伴い余熱の影響が小さくなった時点で、温度勾配を用いてドラムブレーキの異常を検知することができる。ひいては、より早いタイミングで、温度勾配を用いてドラムブレーキの異常を検知することができる。
【0092】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0093】
(a)上記実施形態では、勾配閾値をあり得ないほど大きな値に設定することによって、実質的に温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を停止したが、温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定を停止する手段は、これに限定されるものではない。例えば、S30の処理において、温度勾配と勾配閾値との比較を停止してもよい。あるいは、温度勾配と勾配閾値とを比較した判定結果を無効にしてもよい。温度勾配を用いたドラムブレーキの異常判定の停止は、温度勾配を用いたドラムブレーキの有効な異常判定を停止することであり、その手段はどのような手段でもよい。
【0094】
(b)上記実施形態では、GPS受信信号を用いて車速を算出したが、車両に車輪速センサを搭載し、車輪側センサの検出信号から車速を算出してもよい。また、加速度センサ63により検出された車両の進行方向の加速度から車速を算出してもよい。また、上記実施形態では、ブレーキランプ61の通電の有無からブレーキ信号を検出したが、ドラムブレーキの空気配管中に空気圧センサを搭載し、空気圧センサにより検出された空気圧の変化から、ブレーキ信号を検出してもよい。
【0095】
(c)本開示に記載のブレーキ異常検知装置3及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッ
サ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のブレーキ異常検知装置3及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のブレーキ異常検知装置3及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。ブレーキ異常検知装置3に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0096】
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0097】
(e)上述したブレーキ異常検知装置の他、当該ブレーキ異常検知装置を構成要素とするシステム、当該ブレーキ異常検知装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、ブレーキ異常検知方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0098】
3…ブレーキ異常検知装置、31…AD変換部、32…車両情報取得部、33…演算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12