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特許7280295多層構造紡績糸、その製造方法、耐熱性布帛及び耐熱性防護服
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】多層構造紡績糸、その製造方法、耐熱性布帛及び耐熱性防護服
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/36 20060101AFI20230516BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230516BHJP
   D02G 3/28 20060101ALI20230516BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20230516BHJP
   D03D 15/41 20210101ALI20230516BHJP
   A41D 31/08 20190101ALI20230516BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20230516BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20230516BHJP
   A41D 31/24 20190101ALI20230516BHJP
【FI】
D02G3/36
D02G3/04
D02G3/28
D03D15/283
D03D15/41
A41D31/08
A41D13/00 102
D03D15/47
A41D31/24 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021015861
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118975
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岡部 孝之
(72)【発明者】
【氏名】高田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田先 慶多
(72)【発明者】
【氏名】安田 智則
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506006(JP,A)
【文献】特開2012-219405(JP,A)
【文献】特開2016-176149(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110725032(CN,A)
【文献】特開2019-157279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00-13/12
31/00-31/32
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分繊維がp-アラミド繊維牽切糸であり、鞘成分繊維がポリベンズイミダゾール繊維とアラミド繊維を含む多層構造紡績糸であって、
前記鞘成分繊維のアラミド繊維はp-アラミド繊維とm-アラミド繊維を含み、
前記鞘成分繊維を100質量%としたとき、ポリベンズイミダゾール繊維は50~65質量%、p-アラミド繊維は18~35質量%、m-アラミド繊維は3~18質量%の割合で混紡されおり、
前記鞘成分繊維の一部の繊維が表層の巻き付き繊維となっており、残りの繊維は前記多層構造紡績糸の長さ方向に配列しており、
前記表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねていることを特徴とする多層構造紡績糸。
【請求項2】
前記芯成分繊維は共重合系p-アラミド繊維牽切糸であり、前記鞘成分のp-アラミド繊維は単独重合系p-アラミド繊維である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項3】
前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、芯成分繊維は20~40質量%であり、鞘成分繊維は60~80質量%である請求項1又は2に記載の多層構造紡績糸。
【請求項4】
前記多層構造紡績糸は、メートル番手で28~52番(繊度:357~192decitex)の範囲である請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸。
【請求項5】
前記多層構造紡績糸は2本撚り合わされた双糸であり、前記双糸のメートル番手は14~26番(繊度:714~384decitex)である請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸。
【請求項6】
前記双糸の撚り係数Kは100~200である請求項に記載の記載の多層構造紡績糸。
但し、係数Kは次に示す数式(1)によって計算する。
K=T/√C・・・式(1)
T:双糸の撚り数(回/m)
C:双糸番手(m/g)
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸の製造方法であって、
鞘成分繊維となるポリベンズイミダゾール繊維とアラミド繊維を混紡したスライバーをドラフトゾーンに供給してドラフトし、
前記ドラフトゾーンのフロントローラーに芯成分繊維となるp-アラミド繊維牽切糸を供給して、前記スライバーと合体した繊維束とし、
前記繊維束を前記フロントローラーの排出部から離れて配置されているスピンドルに供給し、旋回流によって仮撚りを掛けた後に巻き取ることを特徴とする多層構造紡績糸の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸を含む耐熱性布帛。
【請求項9】
前記耐熱性布帛は、平織組織と2/2又は3/3マット織組織を組み合わせた織物である請求項に記載の耐熱性布帛。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の耐熱性布帛を含む耐熱性防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性繊維の牽切紡績糸を芯成分繊維とし、鞘成分繊維に耐熱性短繊維を含む多層構造紡績糸、その製造方法、耐熱性布帛及び耐熱性防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
防護服は、消防、救急隊員、救命隊員、海上救護員、軍隊、石油関連施設の作業員、化学工場の作業員などの作業服として使用されている。近年の米国、カナダ、豪州、及び一部の欧州における消防服は、耐熱性及び難燃性の優れたポリベンズイミダゾール繊維が使用されている。この繊維は強度が約2.4cN/decitex(decitexは以下dtexと略す)と弱いため、通常はp-アラミド繊維と交織した織物が使用されている。この織物は、経糸又は緯糸のうち、一方の糸がポリベンズイミダゾール繊維からなる紡績糸、他方の糸がp-アラミド繊維からなるフィラメント糸で構成されている。別の耐熱性及び難燃性の優れた織物として、本発明者らは芯にp-アラミド繊維の牽切紡績糸を使用し、鞘にm-アラミド繊維、難燃アクリル繊維又はポリエーテルイミド繊維等を使用した芯鞘紡績糸を提案している(特許文献1~2)。また、本発明者らは、特許文献3で芯にp-アラミド繊維の牽切紡績糸を使用し、鞘にp-アラミド繊維以外の難燃性繊維とポリベンズイミダゾール繊維との混紡繊維を使用した多層構造紡績糸を提案し、特許文献4では芯にp-アラミド繊維の牽切紡績糸を使用し、鞘にp-アラミド繊維とポリベンズイミダゾール繊維との混紡繊維を使用した多層構造紡績糸を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2009/014007号公報
【文献】WO2012/137556号公報
【文献】特許第5972420号公報
【文献】特許第6599496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術はいずれも摩擦強度、燃焼破裂強度及び洗濯摩擦変退色に問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、摩擦強度、燃焼破裂強度及び洗濯摩擦変退色を向上させた多層構造紡績糸、その製造方法、耐熱性布帛及び耐熱性防護服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多層構造紡績糸は、芯成分繊維がp-アラミド繊維牽切糸であり、鞘成分繊維がポリベンズイミダゾール繊維とアラミド繊維を含む多層構造紡績糸であって、前記鞘成分繊維のアラミド繊維はp-アラミド繊維とm-アラミド繊維を含み、前記鞘成分繊維を100質量%としたとき、ポリベンズイミダゾール繊維は50~65質量%、p-アラミド繊維は18~35質量%、m-アラミド繊維は3~18質量%の割合で混紡されおり、前記鞘成分繊維の一部の繊維が表層の巻き付き繊維となっており、残りの繊維は前記多層構造紡績糸の長さ方向に配列しており、前記表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねていることを特徴とする。
【0007】
本発明の多層構造紡績糸の製造方法は、前記の多層構造紡績糸の製造方法であって、鞘成分繊維となる耐熱性短繊維のスライバーをドラフトゾーンに供給してドラフトし、前記ドラフトゾーンのフロントローラーに芯成分繊維となる耐熱繊維の牽切紡績糸を供給し、前記ドラフトされた短繊維束と合体させ、前記フロントローラーの排出部から離れて配置されているスピンドルに、前記合体させた牽切紡績糸とドラフトされた短繊維束を供給し、旋回流によって仮撚りを掛けた後に巻き取ることを特徴とする。
【0008】
本発明の耐熱性布帛は、前記の多層構造紡績糸を使用したことを特徴とする。また、本発明の耐熱性防護服は、前記の耐熱性布帛を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層構造紡績糸は、耐熱性繊維の組成を最適化することにより、摩擦強度、燃焼破裂強度及び洗濯摩擦変退色がいずれも合格レベルである多層構造紡績糸、その製造方法、耐熱性布帛及び耐熱性防護服を提供できる。本発明の多層構造紡績糸の製造方法は、結束紡績法であるため、リング紡績法に比べて約20倍の高速で紡績でき、効率よく合理的に、コストも安く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸を製造するための結束紡績装置の要部を示す模式的斜視図である。
図2図2は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸の模式的斜視図である。
図3図3は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)である。
図4図4は本発明の別の実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)である。
図5図5は本発明の一実施形態における織物の織組織図である。
図6図6は本発明の別の一実施形態における織物の織組織図である。
図7図7は本発明の一実施例の摩耗試験装置の模式的斜視図である。
図8図8は同、JIS L 1096 B法の燃焼破裂装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の多層構造紡績糸は、芯成分繊維がp-アラミド繊維牽切糸であり、鞘成分繊維がポリベンズイミダゾール繊維とアラミド繊維を含む多層構造紡績糸である。前記鞘成分繊維のアラミド繊維はp-アラミド繊維とm-アラミド繊維を含み、前記鞘成分繊維を100質量%としたとき、ポリベンズイミダゾール繊維(以下「PBI」ともいう)は50~65質量%、p-アラミド繊維は18~35質量%、m-アラミド繊維は3~18質量%の割合で混紡されている。これにより、摩擦強度、燃焼破裂強度及び洗濯摩擦変退色がいずれも合格レベルとなる。
本発明の多層構造紡績糸は、結束紡績糸又はリング紡績糸であってもよいが、生産性に優れることから結束紡績糸が好ましい。結束紡績糸の場合は、芯成分繊維の表面に鞘成分繊維が被覆し、鞘成分繊維の一部の繊維は表層の巻き付き繊維となっており、残りの繊維は前記多層構造紡績糸の長さ方向に配列しており、表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねている。リング紡績糸の場合は、芯成分繊維の表面に鞘成分繊維が被覆して実撚りが掛けられている。この構造により、糸の強度は高く、伸度は低く、耐熱性も高い。
【0012】
多層構造紡績糸を100質量%としたとき、芯成分繊維は20~40質量%であり、鞘成分繊維は60~80質量%が好ましい。さらに、鞘成分繊維を100質量%としたとき、PBI繊維は50~65質量%、p-アラミド繊維は18~35質量%、m-アラミド繊維は3~18質量%の混紡繊維であるのが好ましい。これにより、摩擦強度、燃焼破裂強度、洗濯摩擦変退色がいずれも合格レベルとなる。
【0013】
PBI繊維は、例えば2,2’-(m-phenylen)-5,5’-bibenzimidazoleのポリマーから作られる繊維であり、600℃を超える熱分解温度を持ち、荷重たわみ温度が410℃、ガラス転移点が427℃、酸素指数(OI)値が41以上である。この繊維は230℃の空気中で2週間暴露しても強度保持率は95%、窒素中では1000℃まで繊維性能を維持でき、本質的に不燃性であるとともに高耐熱性である(以上「繊維の百科事典」848頁,丸善,平成14年3月25日)。PBI繊維は米国PBI Performance Products, Inc.社製の製品が知られている。
【0014】
芯成分繊維に使用する共重合系p-アラミド繊維は、帝人社製、商品名”テクノーラ”等がある。前記”テクノーラ”は、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレン-テレフタルアミドである。これらの繊維の引張強度は24.5~24.7cN/dtex、熱分解開始温度は約500℃、酸素指数(OI)値は25である。
【0015】
鞘成分繊維に使用するm-アラミド繊維は、例えば米国Du pont社製、商品名 ”ノーメックス”s(日本の東レ・デュポン社製も同一商品名)、帝人社製、商品名”コーネックス”、 中国、煙台泰和社製、商品名”ニュースター”などがある。商品名”ノーメックス”の引張強度は3.6cN/decitex、熱分解開始温度は約400℃、酸素指数(OI)値は29~30である。
【0016】
鞘成分繊維に使用するp-アラミド繊維は、単独重合系として米国Du pont社製、商品名”ケブラー”(日本の東レ・デュポン社製も同一商品名)、帝人社製、商品名”トワロン(登録商標)”、 煙台泰和製商品名”タパラン”がある。
【0017】
共重合系のp-アラミド繊維は、帝人社製、商品名”テクノーラ”がある。これらの繊維の引張強度は20.3~24.7cN/decitex、熱分解開始温度は約500~550℃、酸素指数(OI)値は25~29である。耐熱性及び難燃性は、通常の繊維に比較すると高い。
【0018】
芯成分繊維は共重合系p-アラミド繊維牽切紡績糸であり、鞘成分繊維のp-アラミド繊維は単独重合系p-アラミド繊維であるのが好ましい。共重合系パラアラミドは強度に優れているため芯に用いて糸の強度を上げる働きを持たせ、単重合系パラアラミドは難燃性に優れているため鞘に用いて糸の燃焼を防ぐ働きを持たせている。
【0019】
多層構造紡績糸は、鞘成分繊維の一部の繊維が表層の巻き付き繊維となっており、表層の巻き付き繊維は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねている構造である。ここで全体とは、芯成分繊維の牽切紡績糸と鞘成分繊維の前記巻き付き繊維以外の繊維のことである。
【0020】
多層構造紡績糸を100質量%としたとき、芯成分繊維は20~40質量%であり、鞘成分繊維は60~80質量%が好ましく、さらに好ましくは芯成分繊維が22~38質量%であり、鞘成分繊維が62~78質量%である。芯成分繊維が20質量%未満では、芯成分繊維の牽切紡績糸を極細としなければならず、牽切紡績糸を製造することに困難が伴う。また、芯成分繊維が40質量%を超えると、鞘成分繊維の被覆性が低くなる。また、鞘成分繊維が60質量%未満では被覆性が良好とならず、80質量%を超すと多層構造紡績糸全体の繊度が高くなり好ましくない。
【0021】
芯成分繊維の共重合系p-アラミド繊維牽切紡績糸は、トウブレークした切紡績糸が好ましい。トウブレークした牽切繊維は引きちぎり繊維であるため、芯成分繊維と鞘成分繊維の親和性が良く一体性の良い多層構造紡績糸となる。この牽切紡績糸は、ドラフト-加撚を1つの精紡機で行う直紡方式であっても良いし、一旦スラーバーとし撚り掛けして2工程以上で紡績糸(パーロック方式又はコンバータ法)としてもよい。好ましくは、直紡方式である。牽切紡績糸を使用することにより、強力を高く維持でき、鞘繊維との一体性に優れた芯鞘構造紡績糸が得られる。
【0022】
牽切紡績糸の好ましい繊度は、単糸で5.56~20.0 tex(メートル番手で50~180番単糸)の範囲が好ましく、更に好ましくは6.67~16.7 tex(メートル番手で60~150番単糸)の範囲である。繊度が前記の範囲であれば、強力も高く、風合いなどの面からも耐熱性防護服等に好適である。また、撚り数はメートル番手125番単糸で350~550回/mが好ましく、更に好ましくは400~500回/mである。撚り数が前記範囲であれば、被覆繊維との一体性がさらに高いものとなる。また、好ましい繊維長は30~180mmの範囲に分布しており、平均繊維長は45~150mm、好ましくは50~125mmの範囲である。この範囲であれば強力をさらに高く維持できる。
【0023】
鞘成分繊維のPBI繊維は、スクエアカット品が好ましい。スクエアカットとは、一定長の直角切りだけを繰り返すので、例えば51mmスクエアカットとした場合、すべての繊維長は均一に51mmとなる。単繊維繊度は1~5dtexの範囲が好ましく、更に好ましくは1.5~4dtexの範囲である。
【0024】
鞘成分繊維はその繊度と繊維長に応じた紡績方法によって、最適な形状・形態の短繊維束まで加工される。ここにおいて色相や異種繊維の混合は、例えば混毛インターセクティング ギル ボックス(intersecting gill box)に各々が100%組成である複数種の繊維束(スライバー)を通し、後のコーマーや前紡工程におけるダブリング及びドラフティング作用によって、平行かつ均整化する。以下この方法を「スライバー混紡」という。この方法は歩留りが良く、多品種少量生産に好適である。ここにおいて色相や異種繊維の混合は、混打綿や梳綿工程中の主としてカード機でなされる。以下この方法を「カード混紡」といい、歩留りは悪いが小品種大量生産に好適である。
【0025】
多層構造紡績糸は、メートル番手(単糸)で28~52番(繊度:357~192decitex)の範囲であるのが好ましい。この範囲であれば、作業性の良い防護服が得られる。多層構造紡績糸は2本撚り合わされた双糸であり、前記双糸のメートル番手は14~26番(繊度:714~384decitex)としてもよい。双糸にすると、生地の表面がきれいになるうえ、織物の強度も高くなる。
【0026】
双糸の撚り係数Kは100~200が好ましい。但し、係数Kは次に示す数式(1)によって計算する。
K=T/√C・・・式(1)
T:双糸の撚り数(回/m)
C:双糸番手(m/g)
【0027】
本発明の耐熱性布帛を含む耐熱性防護服は、消防服のほか、救急隊員、救命隊員、海上救護員、軍隊、石油関連施設の作業員、化学工場の作業員などの作業服として好適である。消防服の場合は、外層に本発明の耐熱性布帛を使用するのが好ましい。耐熱性が高いからである。
【0028】
次に本発明の芯鞘構造糸を製造するための装置と方法について図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例における結束紡績装置1の要部を示す斜視図である。
(1)ドラフト工程
結束紡績装置1のドラフトゾーン6は、一対のフロントローラ2,2’と、エプロンを有する一対のセカンドローラ3と、一対のサードローラ4と、一対のバックローラ5で構成されている。鞘成分繊維となるポリベンズイミダゾール繊維とアラミド繊維を混紡したスライバー7は、スライバーガイド8を通過させてバックローラ5から供給され、ドラフトゾーン6でドラフトされる。
(2)芯成分繊維と被覆成分繊維との合体工程
ドラフトゾーン6のフロントローラー2,2’手前に、芯成分繊維となるp-アラミド繊維牽切紡績糸9を供給し、スライバー7がドラフトされた繊維束と合体させる。
(3)紡績糸形成工程
フロントローラー2,2’の排出部から離れて配置されているスピンドル10に、合体させた芯成分繊維の牽切紡績糸9と鞘成分繊維の繊維束を供給し、旋回流によって仮撚りを掛けて多層構造紡績糸11とする。
(4)巻き取り工程
得られた多層構造紡績糸11は、ニップローラ12,12’で引き取られ、スラブキャッチャー13を通過し、巻取り部17のフリクションローラ14により駆動されクレードルアーム15に支持されたパッケージ16に巻き取られる。
本発明の製造方法に使用する紡績機は、例えば村田機械社製、商品名”MURATA VORTEX SPINNER”として販売されている。特徴的なことは、糸速度が300~450m/分であり、リング紡績機の約10倍生産速度が速いことである。
【0029】
本発明の一例の多層構造紡績糸(結束紡績糸)20を図2に示す。図2において芯成分繊維21は牽切紡績された共重合系p-アラミド繊維糸であり、鞘成分繊維25はPBI繊維と単独重合系p-アラミド繊維とm-アラミド繊維の混紡繊維である。鞘成分繊維25は、多層構造紡績糸の長さ方向に配列している内層繊維22と、表層の巻き付き繊維23と、たるみ繊維24があり、毛羽26も認められる。表層の巻き付き繊維23は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねている。これにより、毛羽は少なく、摩耗を受けても繊維が脱落せず、強固な糸状態を保つ。前記において一方向とは、S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維ことをいい、撚り角が同一ということではない。S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維は、結束紡績機のスピナーの圧空旋回流の方向によって決まる。この多層構造紡績糸(結束紡績糸)20は、芯成分繊維(牽切紡績糸)21と、鞘成分繊維25のうちの長さ方向に配列している内層繊維22と、表層の巻き付き繊維23の3層構造になっている。この糸構造により、糸強度は高いものとなる。
【0030】
図3は本発明の一実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)、図4は本発明の別の実施形態における芯鞘構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)である。いずれも鞘成分繊維の糸の長さ方向に配列している内層繊維と、表層の巻き付き繊維と、たるみ繊維があり、毛羽も認められる。
【0031】
本発明の防護服用布帛は、前記芯鞘紡績糸(単糸)を2本撚り合わせて双糸にし、これを織物にするのが好ましい。双糸を使う理由は、単糸の2倍以上の強度をもってして製織時の糸切れを防止する抱合力を付与するとともに、単糸の持つ太さムラを相殺させ、織物の目風をきれいにするためである。双糸は一例としてダブルツイスター等の撚り機を使用して製造する。ダブルツイスターは、スピンドル1回転で2回の撚りが得られるので生産性は高い。しかし、長い撚りかけ糸道に6か所もの擦過点があるため、被覆部分が剥ぎ取られ、乱されて芯部が露出しやすい傾向にある。好ましくは擦過点が2か所のリングツイスター、最も好ましくは擦過点が2か所で極めて短い撚りかけ糸道のアップツイスターである。
【0032】
得られた双糸は、撚り止めし、経糸と緯糸に使用して織物とする。織物組織は、平織(plain weave)、斜文織(twill weave、綾織ともいう)、又は朱子織(satin weave)組織、その他の変化織組織等を使用できる。編物にする場合は、横編、丸編、経編のいずれでも適用できる。編組織はどのようなものであっても良い。編物内に空気を含ませる場合は、二重接結パイル布帛に編成する。織物組織の中でも好ましいのは図5に示すマット織であり、このマット織組織は、平+3/3マット織である。平織の部分は8本の経糸と緯糸で構成されプレーンな組織であり、3/3マット織の部分は経糸も緯糸も3本引き揃えられており、この部分は表面に突出している。マット織の別の例を図6に示す。このマット織組織は、平+2/2マット織である。平織の部分は2本の経糸と緯糸で構成されプレーンな組織であり、2/2マット織の部分は経糸も緯糸も2本引き揃えられており、この部分は表面に突出している。このような織物は滑り止め効果があるとともに、平組織が破れてもマット織の部分で止まり、破れにくい組織である。これは引き裂き止めという意味合いからRip Stop 構造と呼ばれている。
【0033】
本発明の防護服用布帛の単位あたりの質量(目付)は100~340g/mの範囲が好ましい。前記範囲であれば、さらに軽くて着心地の良い作業服とすることができる。さらに好ましくは140~300g/mの範囲、とくに好ましくは150~260g/mの範囲である。
【0034】
本発明の多層構造紡績糸とこれを使用した耐熱性布帛及び耐熱性防護服は、帯電防止繊維又は制電繊維を混用することは必須ではない。これはPBI繊維が吸湿しやすく、静電気を帯びにくいためである。顧客の希望により帯電防止繊維を混用する場合は、金属繊維、炭素繊維、金属粒子や炭素粒子を練りこんだ繊維等を使用する。帯電防止繊維は、紡績糸に対して0.1~1質量%の範囲加えることが好ましく、更に好ましくは0.3~0.7質量%の範囲である。帯電防止繊維糸は製織時に加えることもできる。例えばKBセーレン社製“ベルトロン”、クラレ社製“クラカーボ”、炭素繊維、金属繊維等を0.1~1質量%の範囲加えるのが好ましい。
【実施例
【0035】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例、比較例における測定方法は次のとおりとした。
<摩耗試験>
図7は本発明の一実施例のASTM D 3884-09 テーバー法,H-18に規定の摩耗試験装置30の模式的斜視図である。この摩耗試験装置30は、回転台31の上にサンプル布32を置き、矢印のように回転させる。回転台31の回転数は60rpmであり、摩擦輪33a,33bもこれに応じて回転する。サンプル布32の上には摩擦輪33a,33bが配置され、矢印のように互いに反対方向に回転させる。摩擦輪33a,33bの荷重は合計で500gである。摩耗粉は吸引しながら回転を続ける。摩耗痕34は環状であり、その外直径L1は約88mm、面積は約30cmとなる。糸が切れ直径1~2mmの穴が開くまでの回転数を測定する。300回以上を合格レベルとする。
<JIS L 1096 B法を準用した燃焼破裂試験>
図8は、JIS L 1096 B法の定速伸長形燃焼破裂装置35の模式的断面図である。直径80mmのサンプル布37を試料取り付け台36のクランプに取り付ける。クランプは内径L2=44mmである。押し棒38は先端半径12.5mm、直径L3が25mmである。ISO 9151の火炎暴露試験にて80kWの熱を8秒間サンプル布に照射した後、その燃焼部分に押し棒38の先端を1分間当たり10cmの加圧速度で押し当て、サンプル布37を突き破る強さ(N)を測定する。140N以上を合格レベルとする。
<洗濯摩耗変退色試験>
ISO6330 6N-Fに規定されている方法で10回繰り返し洗濯を行い、評価した。評価基準は5段階で目視により判断し、もっとも変色が少ないものが5級、変色が多いものが1級である。3級以上を合格レベルとする。
<その他の物性>
JIS又は業界規格にしたがって測定した。
【0036】
(実施例1~2、比較例1~2)
1.使用繊維
(1)芯成分繊維
芯成分繊維として、共重合体p-アラミド繊維、帝人社製商品名“テクノーラ”の牽切紡績糸(撚り数Z方向45回/10cm)、糸繊度8.0tex(メートル番手:1/125)(単繊維繊度1.7dtex、平均繊維長100mm、生成り品(黄色))を使用した。
(2)鞘成分繊維
下記の3種類の繊維を混紡した。
(i)PBI繊維
米国PBI Performance Products, Inc.社製のPBI繊維(繊維長51mmのスクエアカット、繊度1.7dtex)を使用した。
(ii) 単独重合体p-アラミド繊維
中国煙台泰和社製、商品名”タパラン”、(繊維長51mmのスクエアカット、繊度1.7dtex、黒色品)を使用した。
(iii)m-アラミド繊維
中国煙台泰和社製、商品名“ニュースター BL3”(繊維長51mmのスクエアカット、繊度1.7dtex)を使用した。
以上のPBI繊維、単独重合体p-アラミド繊維、m-アラミド繊維を表1に示す所定の割合にて均一混合した。
2.紡績糸の作製
(1)結束紡績糸
図1に示す方法により共重合体p-アラミド繊維の牽切紡績糸を芯成分繊維とし、PBI繊維と単独重合体p-アラミド繊維とm-アラミド繊維を混紡した繊維束(スライバー)を鞘成分繊維とし、図1に示す村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”を使用し、300m/分の速度で結束紡績糸単糸を製造した。得られた糸のメートル番手は40番であった。
(2)双糸の作製
ダブルツイスターを使用して結束紡績糸単糸2本を実撚りし、双糸とした。撚り数は670回/m、撚り係数K=150とした。
3.織物の作製
前記双糸を経糸と緯糸に使用し、レピア織機を使用して図6に示す2/2マット織組織の織物を質量225g/m2、たて方向糸密度216.5本/10cm、よこ方向糸密度206.7本/10cmにて作製した。
条件と結果は表1~2にまとめて示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2から明らかなとおり、実施例1及び2は摩擦強度、燃焼破裂強度及び洗濯摩擦変退色がいずれも合格レベルであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の耐熱性布帛を使用した耐熱性防護服は、消防服のほか、救急隊員、救命隊員、海上救護員、軍隊、石油関連施設の作業員、化学工場の作業員などの作業服として好適である。とくに摩擦強度、燃焼破裂強度、洗濯摩擦変退色がいずれも合格レベルである耐熱性布帛及び耐熱性防護服を提供できる。
【符号の説明】
【0041】
1 結束紡績装置
2,2’ フロントローラ
3 セカンドローラ
4 サードローラ
5 バックローラ
6 ドラフトゾーン
7 スライバー
8 スライバーガイド
9 牽切紡績糸
10 スピンドル
11 多層構造紡績糸
12,12’ ニップローラ
13 スライブキャッチャー
14 フリクションローラ
15 クレードルアーム
16 パッケージ
20 多層構造紡績糸(結束紡績糸)
21 芯成分繊維(牽切紡績糸)
22 鞘成分繊維の内層繊維
23 巻き付き繊維
24 たるみ繊維
25 鞘成分繊維
26 毛羽
30 摩耗試験装置
31 回転台
32 サンプル布
33a,33b 摩擦輪
34 摩耗痕
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8