IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルバック成膜株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図1
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図2
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図3
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図4
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図5
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図6
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図7
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図8
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図9
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図10
  • 特許-マスクブランクス及びフォトマスク 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】マスクブランクス及びフォトマスク
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20230516BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20230516BHJP
   G03F 1/46 20120101ALI20230516BHJP
   G03F 1/48 20120101ALI20230516BHJP
   G03F 1/38 20120101ALI20230516BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/54
G03F1/46
G03F1/48
G03F1/38
C23C14/06 A
C23C14/06 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021015863
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118977
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】細谷 守男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿弘
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 達也
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-154054(JP,A)
【文献】特開2012-003255(JP,A)
【文献】特開2020-149049(JP,A)
【文献】特許第5823655(JP,B1)
【文献】特開2018-106144(JP,A)
【文献】国際公開第2004/059384(WO,A1)
【文献】特開2016-018192(JP,A)
【文献】特開2014-059575(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0191646(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランクマスク層を備えたマスクブランクスであって、
前記ブランクマスク層には、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有するMo化合物層が含まれ、
前記Mo化合物層は、X線光電子分光法により測定されるSi2pの光電子スペクトルのピーク面積に対する、前記Si2pスペクトルをピーク分離して得られるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が、10.0%以上であることを特徴とするマスクブランクス。
【請求項2】
前記Mo化合物層が、下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1に記載のマスクブランクス。
{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}/Si≧0.25 …(1)
ただし、上記(1)式におけるMo、Si、O及びNはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン、ケイ素、酸素及び窒素のモル分率(モル%)であり、前記Mo化合物層が酸素を含有しない場合は(1)式におけるOを0とする。
【請求項3】
前記Mo化合物層が、更に、下記(2)式を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスクブランクス。
Si/Mo≧4.0 …(2)
ただし、上記(2)式におけるMo及びSiはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン及びケイ素のモル分率(モル%)である。
【請求項4】
前記Mo化合物層におけるモリブデン、ケイ素、窒素及び酸素の組成が、Si:35~50モル%、Mo:3~10モル%、O:0~20モル%、N:35~60モル%、C:0~1モル%からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のマスクブランクス。
【請求項5】
前記Mo化合物層が、位相シフト層、遮光層、反射防止層、エッチングストップ層、耐薬層のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のマスクブランクス。
【請求項6】
マスク層を備えたフォトマスクであって、
前記マスク層には、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有するMo化合物層が含まれ、
前記Mo化合物層は、X線光電子分光法により測定されるSi2pの光電子スペクトルのピーク面積に対する、前記Si2pスペクトルをピーク分離して得られるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が、10.0%以上であることを特徴とするフォトマスク。
【請求項7】
前記Mo化合物層が、下記(3)式を満足することを特徴とする請求項6に記載のフォトマスク。
{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}/Si≧0.25 …(3)
ただし、上記(3)式におけるMo、Si、O及びNはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン、ケイ素、酸素及び窒素のモル分率(モル%)であり、前記Mo化合物層が酸素を含有しない場合は(3)式におけるOを0とする。
【請求項8】
前記Mo化合物層が、更に、下記(4)式を満足することを特徴とする請求項6または請求項7に記載のフォトマスク。
Si/Mo≧4.0 …(4)
ただし、上記(4)式におけるMo及びSiはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン及びケイ素のモル分率(モル%)である。
【請求項9】
前記Mo化合物層におけるモリブデン、ケイ素、窒素及び酸素の組成が、Si:35~50モル%、Mo:3~10モル%、O:0~20モル%、N:35~60モル%、C:0~1モル%からなることを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか一項に記載のフォトマスク。
【請求項10】
前記Mo化合物層が、位相シフト層、遮光層、反射防止層、エッチングストップ層、耐薬層のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6乃至請求項9の何れか一項に記載のフォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランクス及びフォトマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)や、半導体デバイス製造等におけるフォトリソグラフィ工程で用いられるフォトマスクを形成するため、フォトマスクブランクス(マスクブランクス)が利用されている。マスクブランクスは、ガラス基板等の透明基板の一方の主面に、マスク層を積層したものからなる。
【0003】
マスクブランクスの製造では、透明基板上に、遮光層等、所定の光学特性を有するマスク層である膜を形成する。このマスク層は、単層または複数が積層されていてもよい。マスク層上にレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、マスク層を選択的にエッチング除去して、所定のマスクパターンを形成することでフォトマスクが製造される。
【0004】
マスクブランクスまたはフォトマスクに備えられるマスク層としては、ケイ素を含有する膜や、ケイ素およびモリブデンを含む膜からなるものなどが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/125337号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ケイ素及びモリブデンを含有するマスク層からなるパターン部に対して、露光工程において露光光としてのレーザー光を照射すると、レーザー光によって励起されたMoがパターン部外に移動する所謂Moマイグレーションと呼ばれる現象が起こり、更に、パターン部に残されたケイ素が酸化して酸化ケイ素が形成され、この酸化ケイ素によってパターン部の線幅が増大してしまい、パターン部の形状正確性が劣化する問題があった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、Moマイグレーションに起因するマスク層の線幅の増大を抑制することが可能なマスクブランクス及びフォトマスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] ブランクマスク層を備えたマスクブランクスであって、
前記ブランクマスク層には、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有するMo化合物層が含まれ、
前記Mo化合物層は、X線光電子分光法により測定されるSi2pの光電子スペクトルのピーク面積に対する、前記Si2pスペクトルをピーク分離して得られるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が、10%以上であることを特徴とするマスクブランクス。
[2]前記Mo化合物層が、下記(1)式を満足することを特徴とする[1]に記載のマスクブランクス。
{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}/Si≧0.25 …(1)
ただし、上記(1)式におけるMo、Si、O及びNはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン、ケイ素、酸素及び窒素のモル分率(モル%)であり、前記Mo化合物層が酸素を含有しない場合は(1)式におけるOを0とする。
[3] 前記Mo化合物層が、更に、下記(2)式を満足することを特徴とする[1]または[2]に記載のマスクブランクス。
Si/Mo≧4.0 …(2)
ただし、上記(2)式におけるMo及びSiはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン及びケイ素のモル分率(モル%)である。
[4] 前記Mo化合物層におけるモリブデン、ケイ素、窒素及び酸素の組成が、Si:35~50モル%、Mo:3~10モル%、O:0~20モル%、N:35~60モル%、C:0~1モル%からなることを特徴とする[1]乃至[3]の何れか一項に記載のマスクブランクス。
[5] 前記Mo化合物層が、位相シフト層、遮光層、反射防止層、エッチングストップ層、耐薬層のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする[1]乃至[4]の何れか一項に記載のマスクブランクス。
[6]マスク層を備えたフォトマスクであって、
前記マスク層には、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有するMo化合物層が含まれ、
前記Mo化合物層は、X線光電子分光法により測定されるSi2pの光電子スペクトルのピーク面積に対する、前記Si2pスペクトルをピーク分離して得られるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が、10%以上であることを特徴とするフォトマスク。
[7]前記Mo化合物層が、下記(3)式を満足することを特徴とする[6]に記載のフォトマスク。
{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}/Si≧0.25 …(3)
ただし、上記(3)式におけるMo、Si、O及びNはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン、ケイ素、酸素及び窒素のモル分率(モル%)であり、前記Mo化合物層が酸素を含有しない場合は(3)式におけるOを0とする。
[8] 前記Mo化合物層が、更に、下記(4)式を満足することを特徴とする[6]または[7]に記載のフォトマスク。
Si/Mo≧4.0 …(4)
ただし、上記(4)式におけるMo及びSiはそれぞれ、前記Mo化合物層に含まれるモリブデン及びケイ素のモル分率(モル%)である。
[9] 前記Mo化合物層におけるモリブデン、ケイ素、窒素及び酸素の組成が、Si:35~50モル%、Mo:3~10モル%、O:0~20モル%、N:35~60モル%、C:0~1モル%からなることを特徴とする[6]乃至[8]の何れか一項に記載のフォトマスク。
[10] 前記Mo化合物層が、位相シフト層、遮光層、反射防止層、エッチングストップ層、耐薬層のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする[6]乃至[9]の何れか一項に記載のフォトマスク。
なお、以下の説明では、上記(1)式または上記(3)式の左辺である{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}/Siを、Si量に対する不足窒素量の比という場合がある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Moマイグレーションに起因するマスク層の線幅の増大を抑制することが可能なマスクブランクス及びフォトマスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの一例を示す断面模式図。
図2図2は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの別の例を示す断面模式図。
図3図3は、本発明の実施形態であるフォトマスクの一例を示す断面模式図。
図4図4は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの他の例を示す断面模式図。
図5図5は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの他の例を示す断面模式図。
図6図6は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの他の例を示す断面模式図。
図7図7は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの他の例を示す断面模式図。
図8図8は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの他の例を示す断面模式図。
図9図9は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの製造装置を示す模式図。
図10図10は、本発明の実施形態であるマスクブランクスの製造装置を示す模式図。
図11図11は、X線光電子分光法により測定したピーク分離処理後のSi2pスペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
フォトマスクのマスク層は、単層構造または多層構造を有する。また、マスク層には、Mo化合物層を含むものがある。本明細書において、Mo化合物層とは、ケイ素、モリブデン及び窒素を含有し、選択的に酸素を含有する層をいう。Mo化合物層は、マスク層において、位相シフト層、遮光層、反射防止層等として用いられる。フォトレジストの露光工程において、Mo化合物層を有するマスク層からなるパターン部に対して、レーザー光を照射すると、モリブデンがマスク層外に移動する所謂Moマイグレーションが起きる場合がある。Moマイグレーションが起きると、モリブデンが抜けた箇所に、マスク層の周囲にある酸素若しくは水が浸入し、浸入した酸素若しくは水によってケイ素が酸化されて酸化ケイ素が形成され、この酸化ケイ素の形成が、マスク層からなるパターン部の線幅の増大を引き起こすおそれがある。この問題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した。
【0012】
Mo化合物層は、その光学特性を調整するために、窒素や酸素を含有させる場合がある。マスク層において、酸素及び窒素はケイ素に結合しやすく、また、窒素はモリブデンとも結合しやすい。Mo化合物層の光学特性を調整するためにMo化合物層における窒素量や酸素量を適宜調整すると、ケイ素・窒素間の結合、ケイ素・酸素間の結合またはモリブデン・窒素間の結合が増える一方で、ケイ素・ケイ素間の結合が減少する場合がある。本発明者らは、Mo化合物層におけるケイ素・ケイ素間の結合の減少が、Moマイグレーションを引き起こす一因になっていることを見出し、本発明を完成させた。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態のマスクブランクスは、フォトマスクのマスク層となるブランクマスク層を備え、このブランクマスク層には、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有するMo化合物層が含まれ、Mo化合物層は、X線光電子分光法により測定されるSi2pの光電子スペクトルのピーク面積に対する、Si2pスペクトルをピーク分離して得られるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が、10.0%以上であるマスクブランクスである。
また、本実施形態のフォトマスクは、マスク層を備え、マスク層には、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有するMo化合物層が含まれ、Mo化合物層は、X線光電子分光法により測定されるSi2pの光電子スペクトルのピーク面積に対する、Si2pスペクトルをピーク分離して得られるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が、10.0%以上であるフォトマスクである。
【0014】
また、本実施形態のマスクブランクス及びフォトマスクにおけるMo化合物層は、下記(A)式を満足していてもよい。なお、以下の説明では、下記(A)式の左辺である{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}/Siを、Si量に対する不足窒素量の比という場合がある。
【0015】
{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}/Si≧0.25 …(A)
【0016】
ただし、上記(A)式におけるMo、Si、O及びNはそれぞれ、Mo化合物層に含まれるモリブデン、ケイ素、酸素及び窒素のモル分率(モル%)であり、Mo化合物層が酸素を含有しない場合は(A)式におけるOを0とする。
【0017】
本実施形態に係るフォトマスクは、露光光の波長が200nm以下の光、特に、位相シフトマスクを用いたフォトリソグラフィにおいて用いられるArFエキシマレーザー光(波長193nm)の露光光を利用したフォトリソグラフィ工程に用いられる。
また、本実施形態のマスクブランクスは、このフォトマスクの製造する際の素材となる。
【0018】
図1には、本実施形態に係るマスクブランクスの一例を示す。本実施形態のマスクブランクスは、ガラス基板(透明基板)11と、ガラス基板11上に形成されたブランクマスク層12とからなる。また、本実施形態のマスクブランクスは、図2に示すように、ガラス基板(透明基板)11と、ガラス基板11上に形成されたブランクマスク層12と、ブランクマスク層12上に形成されたフォトレジスト層13とからなるものであってもよい。
【0019】
また、図3には、本実施形態に係るフォトマスクの一例を示す。本実施形態のフォトマスクは、ガラス基板(透明基板)11と、ガラス基板11上に形成されたマスク層12Pとならなる。マスク層12Pは、マスクブランクスのブランクマスク層が所定の形状にパターニングされて形成されたものである。
【0020】
ガラス基板(透明基板)11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。ガラス基板11の大きさは特に制限されず、マスク層12Pを用いて露光する基板(例えば半導体、LCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板等)に応じて適宜選定される。
【0021】
本実施形態では、ガラス基板(透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺250mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0022】
また、ガラス基板11の表面を研磨することで、ガラス基板11のフラットネスを低減するようにしてもよい。ガラス基板11のフラットネスは、例えば、5μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは0.5μm以下と、小さい方が良好である。
【0023】
本実施形態に係るブランクマスク層12及びマスク層12Pは、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有するMo化合物層を有するものであってもよく、モリブデン、ケイ素及び窒素並びに酸素を含有するMo化合物層を有するものであってもよい。すなわち、本実施形態に係るブランクマスク層12及びマスク層12Pは、構成元素を列挙する形式で表した場合に、MoSiNまたはMoSiONからなるMo化合物層を有するものであってもよい。本実施形態に係るMo化合物層は、モリブデン、ケイ素及び窒素を基本成分とし、更に酸素や炭素を含有してもよい。窒素、酸素及び炭素は、ブランクマスク層12及びマスク層12Pの光学特性、エッチングレートなどを所望の範囲に設定するために適宜含有される。
【0024】
本実施形態に係るMo化合物層は、X線光電子分光法により測定されるSi2pの光電子スペクトルのピーク面積に対する、Si2pスペクトルをピーク分離して得られるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が、10.0%以上となる層である。Si2pの光電子スペクトルのピーク面積に対するSi-Si結合ピークのピーク面積の比率は、Mo化合物層に含まれるSiのうちのSi-Si結合しているSiの割合を表す。Si-Si結合しているSiの比率を10.0%以上にすることで、Moマイグレーションが抑制されてマスク層の線幅の増大を抑制できるようになる。Si-Si結合しているSiの比率は、好ましくは11%以上とする。Si-Si結合しているSiの比率の上限は特に限定する必要はないが、例えば15%以下としてもよい。
【0025】
Si-Si結合が増えるほどMoマイグレーションが起きにくくなるメカニズムは、発明者による実験結果から次のように推測される。Mo化合物層中のSiはOやNと結合して酸化物や窒化物を作りやすく、また、MoはSiと結合しなかった余剰のNと結合して窒化物を作りやすい。そして、Mo窒化物に含まれるMoは、Siと結合するMoに比べて化学結合が弱いためマイグレーションしやすい。更に、Mo化合物層におけるSi・Mo間の結合の量は、Si・Si間の結合の量と正の相関があると考えられる。これにより、Si-Si結合が増えるほどMoマイグレーションが起きにくくなると考えられる。ただし、ここで説明するメカニズムはあくまで推測であり、未知の別のメカニズムがMoマイグレーションの抑制に関与している可能性がある。いずれにせよ、Si-Si結合が増えるほどMoマイグレーションが起きにくくなることは、本発明者によって実験的に確かめられている。
【0026】
Mo化合物層に対するX線光電子分光法の測定位置は、Mo化合物層の表面において測定してもよく、Mo化合物層の厚みをtとした場合のt/2の位置において測定してもよい。また、X線光電子分光法の測定箇所の数には特に制限がないが、例えば10箇所の測定箇所で測定してそれぞれの結果を平均すればよい。
【0027】
Si2pの光電子スペクトルのピーク面積を測定するには、X線源をAlKαとし、ナロースキャン分析により、結合エネルギー95~105eV付近を測定する。100eV付近にピークトップが現れる光電子スペクトルをSi2pの光電子スペクトルと特定する。そして、Si2pの光電子スペクトルのピーク面積を測定する。この際、バックグラウンド強度はピーク面積から差し引く。
【0028】
また、Si-Si結合ピークは、Si2pの光電子スペクトルに対してピーク分離処理を行うことにより特定する。ピーク分離処理の方法は特に限定されず、例えばX線光電子分光装置に内蔵されているピーク分離用のソフトウエアを利用してもよい。ピーク分離によって98~100eV付近にピークトップが現れるピークをSi-Si結合ピークと特定する。そして、Si-Si結合ピークのピーク面積を測定する。この際、バックグラウンド強度はピーク面積から差し引く。そして、Si2pの光電子スペクトルのピーク面積に対するSi-Si結合ピークのピーク面積の比率(%)を求めればよい。
【0029】
また、本実施形態に係るMo化合物層は、上記(A)式を満足することが、Moマイグレーションを更に抑制できる点で、好ましい。(A)式を満たすことで、Moマイグレーションがより発生しにくくなり、フォトマスクにおけるマスク層12Pの線幅の増大を確実に防ぐことができる。Si量に対する不足窒素量の比は0.30以上であってもよく、0.35以上であってもよい。また、上記(A)式の左辺(Si量に対する不足窒素量の比)の上限は特に制限はないが、例えば、Si量に対する不足窒素量の比は1.00以下であってもよく、0.70以下であってもよく、0.60以下であってもよい。
【0030】
また、Mo化合物層におけるモリブデンとケイ素のモル比であるSi/Moは、4.0以上であることが好ましい。Si/Moを4.0以上にすることで、露光光の波長が200nm以下の光、特に、位相シフトマスクを用いたフォトリソグラフィにおいて用いられるArFエキシマレーザー光(波長193nm)の露光光を用いたフォトリソグラフィ工程に好適に用いることができる。
【0031】
なお、上記(A)式の導出理由は以下の通りである。以下の説明において、Mo、Si、O及びNはそれぞれ、Mo化合物層に含まれるモリブデン、ケイ素、酸素及び窒素のモル分率(モル%)である。
【0032】
マスク層が、ケイ素、モリブデン、窒素及び酸素を含有するMo化合物層を含む場合において、Mo化合物層中のケイ素は、Mo化合物中の酸素と結合してSiOの形になりやすく、また、Mo化合物層中の酸素に結合しなかった余剰のケイ素は、Mo化合物層中の窒素と結合してSiの形になりやすい。そこで、Mo化合物中のケイ素の全量を窒化させるために必要な窒素量は、(Si-O/2)×4/3となる。
【0033】
また、Mo化合物層中のモリブデンが窒化すると、MoNの形になりやすい。そこで、Mo化合物層中のモリブデンの全量を窒化させるために必要な窒素量は、Mo/2で表される。
【0034】
そして、Mo化合物層中のケイ素及びモリブデンの全量を窒化させるために必要な窒素量をNとすると、N=(Si-O/2)×4/3+Mo/2となる。
【0035】
ここで、上記のNから、マスク層に実際に含有される窒素量Nを差し引いたものは、すなわち、{(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N}は、ケイ素及びモリブデンの全量を窒化させるために必要な窒素量(N)の不足量となる。この不足量が大きいMo化合物層ほど、酸化または窒化しているケイ素及びモリブデンが少なく、ケイ素・ケイ素間の結合及びケイ素・モリブデン間の結合が多く含まれることになる。従って、Si-Si結合ピークのピーク面積比率が大きくなることに加えて、Mo化合物層中のケイ素量に対する窒素の不足量(={(Si-O/2)×4/3+Mo/2-N})の比が高くなるほど、フォトマスクのマスク層の線幅の増大をより効果的に抑制できるようになる。
【0036】
また、本実施形態のMo化合物層は、所定の光学特性、エッチングレートなどを所望に範囲に設定するために、モリブデン、ケイ素、窒素及び酸素並びに炭素の合計量を100モル%とした場合に、これらの元素の含有率が、Si:35~50モル%、Mo:3~10モル%、O:0~20モル%、N:35~60モル%、C:0~1モル%を満たすように含有してもよい。
【0037】
Mo化合物層に含まれる元素の組成(モル分率)は、X線光電子分光法のワイドスキャン測定によって測定することができる。そして、X線光電子分光法の測定により求められた各元素のモル分率を、上記(A)式に代入することにより、上記(A)式を満たすかどうかを判定することができる。また、測定により求められたモリブデン及びケイ素のモル分率から、Si/Moを求めることもできる。
【0038】
本実施形態に係るブランクマスク層12及びマスク層12Pは、Mo化合物層からなる単層のマスク層であってもよく、Mo化合物層と、その他の層とが積層された多層体であってもよい。
【0039】
ブランクマスク層12及びマスク層12PがMo化合物層からなる単層のマスク層の場合は、ブランクマスク層12及びマスク層12Pが位相シフト層として機能することが好ましい。この場合のマスク層の厚みは、例えば、50~70nm程度にするとよい。
【0040】
また、ブランクマスク層12及びマスク層12PがMo化合物層を含む多層体からなる場合は、Mo化合物層は、位相シフト層、遮光層、反射防止層、エッチングストップ層、耐薬層等のいずれか1種又は2種以上として機能することが好ましい。この場合のMo化合物層の厚みは、例えば、60~80nm程度にするとよい。
【0041】
すなわち、一般に、ブランクマスク層12及びマスク層12Pが多層体からなる場合において、これらマスク層12、12Pを構成する各層に付与される機能として、位相シフト機能、露光光を遮光する遮光機能、露光光の反射を防止する反射防止機能、フォトマスク形成時のフォトレジストとの密着性を高める密着機能、フォトマスク形成時のエッチングストップ機能、フォトマスク形成時のエッチング液等に対する耐薬機能、露光光の反射率を抑制する低反射率機能等が挙げられる。これらの機能を実現するために、マスク層には、位相シフト層、遮光層、反射防止層、密着層、エッチングストップ層、耐薬層、低反射率層等の1種又は2種以上がマスク層に備えられる。本実施形態に係るMo化合物層は、これら位相シフト層、遮光層、反射防止層、密着層、エッチングストップ層、耐薬層、低反射率層のいずれかを構成するものであってもよい。
【0042】
以下、ブランクマスク層12及びマスク層12Pの構成について、マスクブランクスを例にして説明する。
多層体から構成される場合のブランクマスク層12として、図4に示すように、ガラス基板11側から、位相シフト層12a及びCr系の遮光層12bがこの順に積層されてなるものでもよい。この場合は、位相シフト層12aを本実施形態に係るMo化合物層とする。
【0043】
また、図4に示す例におけるCr系の遮光層12bとしては、例えば、Cr(クロム)、O(酸素)を主成分とし、さらに、C(炭素)およびN(窒素)を含むものとされる。より具体的には、遮光層12bとして、Crの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。さらに、遮光層12bが厚み方向に異なる組成を有することもできる。例えば、遮光層12bとして、窒素濃度、あるいは、酸素濃度などが、膜厚方向に傾斜した構成などを例示できる。
【0044】
また、図5に示すように、ブランクマスク層12として、ガラス基板11側から、位相シフト層12c、エッチングストッパ層12d及びCr系の遮光層12eがこの順に積層されてなるものでもよい。この場合は、位相シフト層12c及びエッチングストッパ層12dのうちの一方または両方を、本実施形態に係るMo化合物層とする。
【0045】
図5に示す例における位相シフト層12cは、Mo化合物層以外に、Crを主成分とする層であってもよく、具体的には、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つで構成された層とすることができ、また、これらの中から選択される2種以上を積層して構成することもできる。
【0046】
図5に示す例におけるエッチングストッパ層12dは、Mo化合物層以外に、窒素を含有する金属シリサイド化合物層であってもよく、例えば、Ni、Co、Fe、Ti、Al、Nb、Mo、WおよびHfから選択された少なくとも1種の金属や、これらの金属どうしの合金とSiとを含む層や、モリブデンシリサイド化合物層、MoSi(X≧2)膜(例えばMoSi膜、MoSi膜やMoSi膜など)であってもよい。
【0047】
図5に示す例におけるCr系の遮光層12eとしては、例えば、Cr(クロム)、O(酸素)を主成分とし、さらに、C(炭素)およびN(窒素)を含む遮光層12eとすることができる。より具体的には、遮光層12eとして、Crの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成した層とすることもできる。さらに、遮光層12eが厚み方向に異なる組成を有することもできる。例えば、遮光層12eとして、窒素濃度、あるいは、酸素濃度などが、膜厚方向に傾斜した構成などを例示できる。
【0048】
更に、図6に示すように、ブランクマスク層12として、ガラス基板11側から、Cr系の位相シフト層12f及び反射防止層12gがこの順に積層されてなるものでもよく、また、図7に示すように、Cr系の位相シフト層12f、反射防止層12g及びCr系の密着層12hが積層されてなるものでもよい。この場合、反射防止層12gを、本実施形態に係るMo化合物層とする。
【0049】
図6図7の例におけるCr系の位相シフト層12fとしては、Crを主成分とする層が好ましく、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含む層が好ましい。具体的には、位相シフト層12fとして、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つで構成することができ、また、これらの中から選択される2種以上を積層して構成することもできる。
【0050】
また、図7に示す例におけるCr系の密着層12hは、Cr(クロム)、O(酸素)を主成分とする層が好ましく、さらに、C(炭素)およびN(窒素)を含むものが好ましい。具体的には、密着層12hとして、Crの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。さらに、密着層12hが厚み方向に異なる組成を有することもできる。
【0051】
更に、図8に示すように、ブランクマスク層12として、ガラス基板11側から、位相シフト層12i、低反射率層12j及び耐薬層12kがこの順に積層されてなるものでもよい。この場合は、位相シフト層12i、低反射率層12j及び耐薬層12kのうちの少なくとも1つまたは2つ以上を、本実施形態に係るMo化合物層とする。
【0052】
図8に示す例における位相シフト層12i及び耐薬層12kは、Mo化合物層以外に、窒素を含有するシリサイド層、例えば、Ta、Ti、W、Mo、Zrなどの金属や、これらの金属どうしの合金とシリコンとを含む層や、MoSi(X≧2)膜(例えばMoSi膜、MoSi膜やMoSi膜など)とすることもできる。
また、図8に示す例における低反射率層12jとしては、上記の位相シフト層と耐薬層と同様に、Mo化合物層以外に、窒素を含有するシリサイド層とすることもでき、さらに、酸素を含有する層とすることもできる。
【0053】
図4図8では、マスクブランクスを例にして説明したが、図4図8に示したブランクマスク層12の構成は、フォトマスクのマスク層12Pに適用してもよい。
【0054】
次に、本実施形態のマスクブランクスの製造方法について説明する。
本実施形態のマスクブランクスの製造方法は、ガラス基板11(透明基板)にブランクマスク層12を成膜するものとされる。ブランクマスク層12を形成する際は、位相シフト層、遮光層、反射防止層、密着層、エッチングストップ層、耐薬層、低反射率層等の1種又は2種以上を積層することによってブランクマスク層としてもよい。この際、位相シフト層、遮光層、反射防止層、密着層、エッチングストップ層、耐薬層、低反射率層の1種または2種以上を本実施形態に係るMo化合物層としてもよい。
【0055】
図9は、本実施形態のマスクブランクスの製造装置を示す模式図であり、図10は、本実施形態のマスクブランクスの製造装置を示す模式図である。本実施形態に係るマスクブランクスは、図9または図10に示す製造装置により製造される。
【0056】
図9に示す製造装置S10は、枚葉式のスパッタリング装置とされ、ロード・アンロード室S11と、ロード・アンロード室S11に密閉手段S13を介して接続された成膜室(真空処理室)S12とを有するものとされる。
【0057】
ロード・アンロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S12へと搬送するか成膜室S12を外部へと搬送する搬送手段S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S11bが設けられる。
【0058】
成膜室S12には、基板保持手段S12aと、成膜材料を供給する手段として、ターゲットS12bを有するカソード電極(バッキングプレート)S12cと、バッキングプレートS12cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S12dと、この室内にガスを導入するガス導入手段S12eと、成膜室S12の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S12fと、が設けられている。
【0059】
基板保持手段S12aは、搬送手段S11aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS12bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード・アンロード室S11からの搬入およびロード・アンロード室S11へ搬出可能とされている。
【0060】
ターゲットS12bは、ガラス基板11に成膜するために必要な組成を有する材料からなる。例えば、Mo化合物層を形成する場合のターゲットとして、モリブデンを含有するターゲットとケイ素を含有するターゲットとを組合せて用いてもよく、モリブデン及びケイ素を含有する単独のターゲットを用いてもよい。更に、例えばCr系の膜を形成するためにクロムを含有するターゲットを用いてもよい。これらターゲットは、成膜する層毎に、交換してもよい。
【0061】
図3に示す製造装置S10においては、ロード・アンロード室S11から搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S12においてスパッタリング成膜をおこなった後、ロード・アンロード室S11から成膜の終了したガラス基板11を外部に搬出する。
【0062】
成膜工程においては、ガス導入手段S12eから成膜室S12にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S12cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS12b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S12内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S12cのターゲットS12bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の膜が形成される。
【0063】
この際、本実施形態に係るMo化合物層、すなわち、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有し、上記(A)式を満足するMo化合物層を形成する際は、ターゲットS12bとして、モリブデンを含有するターゲットとケイ素を含有するターゲットとを組合せて用いるか、モリブデン及びケイ素を含有する単独のターゲットを用いる。そして、ガス導入手段S12eから異なる量の窒素ガス、酸素含有ガスを供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0064】
ここで、酸素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、O(酸素)、NO(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)等を挙げることができる。
【0065】
次に、図10に示す製造装置S20は、枚葉式のスパッタリング装置とされ、ロード室S21と、ロード室S21に密閉手段S23を介して接続された成膜室(真空処理室)S22と、成膜室S22に密閉手段S24を介して接続されたアンロード室S25と、を有するものとされる。
【0066】
ロード室S21には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S22へと搬送する搬送手段S21aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S21bが設けられる。
【0067】
成膜室S22には、基板保持手段S22aと、成膜材料を供給する手段として、ターゲットS22bを有するカソード電極(バッキングプレート)S22cと、バッキングプレートS22cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S22dと、この室内にガスを導入するガス導入手段S22eと、成膜室S22の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S22fと、が設けられている。
【0068】
基板保持手段S22aは、搬送手段S21aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS22bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード室S21からの搬入およびアンロード室S25へ搬出可能とされている。
【0069】
ターゲットS22bは、ガラス基板11に成膜するために必要な組成を有する材料からなる。図9に示す装置の場合と同様に、Mo化合物層を形成する際のターゲットとしては、モリブデンを含有するターゲットとケイ素を含有するターゲットとを組合せて用いてもよく、モリブデン及びケイ素を含有する単独のターゲットを用いてもよい。更に、例えば、Cr系の膜を形成するためにクロムを含有するターゲットを用いてもよい。これらターゲットは、成膜する層毎に、交換してもよい。
【0070】
アンロード室S25には、成膜室S22から搬入されたガラス基板11を外部へと搬送する搬送手段S25aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S25bが設けられる。
【0071】
図10に示す製造装置S20においては、ロード室S21から搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S22においてスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S25から成膜の終了したガラス基板11を外部に搬出する。
【0072】
成膜工程においては、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の膜が形成される。
【0073】
この際、本実施形態に係るMo化合物層、すなわち、モリブデン、ケイ素及び窒素を含有し、更に酸素を選択的に含有し、上記(A)式を満足するMo化合物層を形成する際は、ターゲットS12bとして、モリブデンを含有するターゲットとケイ素を含有するターゲットとを組合せて用いるか、モリブデン及びケイ素を含有する単独のターゲットを用いる。そして、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガス、酸素含有ガスを供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0074】
ここで、酸素含有ガスとしては、CO(二酸化炭素)、O(酸素)、NO(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)等を挙げることができる。
【0075】
次に、本実施形態のフォトマスクの製造方法を説明する。
レジストパターン形成工程として、図2に示すように、マスクブランクスの最外面上にフォトレジスト層13を形成する。または、あらかじめフォトレジスト層13が最外面上に形成されたマスクブランクスを準備してもよい。
【0076】
次いで、フォトレジスト層13を露光及び現像することで、レジストパターンを形成する。レジストパターンは、マスク層12のエッチングマスクとして機能する。
【0077】
次いで、このレジストパターン越しにドライエッチング装置を用いてマスク層12をドライエッチングして、マスク層12を所定の形状にパターニングする。本実施形態に係るマスク層12のうち、Mo化合物層に対するエッチングガスとしては、四フッ化炭素に代表されるパーフルオロカーボン、トリフルオロメタンに代表されるハイドロフルオロカーボンから選ばれる少なくとも一つのフルオロカーボンガスを含むものを用いることが好ましい。
【0078】
以上により、パターニングされたマスク層12Pを有するフォトマスクが、図3に示すように得られる。
【0079】
本発明実施形態のマスクブランクス及びマスクによれば、Si2pの光電子スペクトルのピーク面積に対するSi-Si結合ピークのピーク面積の比率が10.0%以上となるMo化合物層を有するので、フォトリソグラフィ工程において露光光が照射された場合であっても、Moマイグレーションによるパターン部の線幅の増大を抑制することができる。特に、本実施形態のマスクブランクス及びマスクによれば、露光光の波長が200nm以下の光、特に、位相シフトマスクを用いたフォトリソグラフィにおいて用いられるArFエキシマレーザー光(波長193nm)の露光光を利用したフォトリソグラフィ工程に用いられるフォトマスクに供することができる。
【実施例
【0080】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
大型ガラス基板(合成石英(QZ)10mm厚、サイズ850mm×1200mm)上に、大型インラインスパッタリング装置を使用し、Mo化合物層(ブランクマスク層)の形成を行った。具体的には、Xの値が5.5、7.5、9.5のMoSiターゲットを用意し、Arガス、Nガス、COガスまたはOガスの1種以上をスパッタリングガスとして、膜種A~GのMo化合物層を成膜した。表1に、成膜条件を示す。
【0081】
Mo化合物層におけるSi-Si結合ピークのピーク面積の比率を求めた。A~GのMo化合物層を有する基板を10×20mmのサイズに切り出して試料とし、この試料をX線光電子分光装置(アルバックファイ社製 Quantera)に導入し、Mo化合物層の表面に対してナロースキャン分析を行い、結合エネルギー95~105eV付近を測定した。103eV付近にピークトップが現れる光電子スペクトルをSi2pの光電子スペクトルと特定した。そして、Si2pの光電子スペクトルのピーク面積を、X線光電子分光装置に備えられたデータ処理プログラムを利用して測定した。この際、バックグラウンド強度はピーク面積から差し引いた。次いで、Si2pの光電子スペクトルに対してピーク分離処理を行った。ピーク分離処理は、X線光電子分光装置に備えられたデータ処理プログラムを利用した。ピーク分離によって98~100eV付近にピークトップが現れるピークをSi-Si結合ピークと特定した。そして、Si-Si結合ピークのピーク面積を測定した。この際、バックグラウンド強度はピーク面積から差し引いた。そして、Si2pの光電子スペクトルのピーク面積に対するSi-Si結合ピークのピーク面積の比率(%)を求めた。結果を表1に示す。また、図11に、ピーク分離処理後のSi2pの光電子スペクトルの一例を示す。
【0082】
また、Mo化合物層の構成元素の組成を、X線光電子分光法のワイドスキャン分析によって測定した。X線光電子分光法の測定により求められた各元素のモル分率を表2に示す。表2には、モリブデン及びケイ素のモル分率の比であるSi/Moと、上記式(A)の計算結果を併せて示す。
【0083】
次に、得られたMo化合物層の上にパターニングしたフォトレジスト層を形成し、フォトレジスト層をマスクにしてウエットエッチングを行うことにより、Mo化合物層を100nmの線幅になるようにパターニングしてマスク層とした。パターニング後のMo化合物層に対して、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)を照射することにより、Moマイグレーションを誘発させた。そして、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)を照射後のMo化合物層の線幅の変化量を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
表1に示すように、Si-Si結合ピークのピーク面積の比率が大きくなるほど、Mo化合物層(マスク層)の線幅の増加量が小さくなることが分かる。Mo化合物層(マスク層)の線幅の増加量を4nm以下にするためには、Si-Si結合ピークのピーク面積の比率を10.0%以上、好ましくは11.0%以上にすれば良いことが判明した。
【0085】
また、表2に示すように、膜種DのようにMoが少なくても更に式(A)が小さい場合にはパターン太りが強く発生する。対して膜種Cの様にMoが多く含有されていても式(A)が大きい場合にはパターン太りがほとんど生じていない。また、膜種Aと膜種Bでは、Moの含有量は同等であるが、膜種Bの方が窒素がやや少ない分、Moの窒化が少なくなり、結果Moマイグレーションが少なくなり、パターン太りが小さくなったと推定する。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【符号の説明】
【0088】
11…ガラス基板、12…ブランクマスク層、12P…マスク層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11