(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】平版印刷版原版および発色組成物
(51)【国際特許分類】
B41N 1/14 20060101AFI20230516BHJP
B41C 1/10 20060101ALI20230516BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20230516BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20230516BHJP
G03F 7/029 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B41N1/14
B41C1/10
G03F7/00 503
G03F7/004 507
G03F7/029
(21)【出願番号】P 2021515566
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 US2019050149
(87)【国際公開番号】W WO2020060784
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-07-22
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 亮
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽田 悠葵
(72)【発明者】
【氏名】石井 里志
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-007905(JP,A)
【文献】特開平09-123383(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159640(WO,A1)
【文献】特開平06-222554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0224543(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/14
B41C 1/10
G03F 7/00
G03F 7/004
G03F 7/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸発生剤と;
(b)テトラアリールボレートと;
(c)酸感受性染料前駆体と;
(d)以下の構造(I):
【化1】
(式中、nは1、2、3または4であり;Rは独立に、一価置換基またはnが少なくとも2である場合、縮合環を形成するために必要な原子を表し、少なくとも1つのR置換基は電子求引基である)
を有する化合物と
を含む、発色組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのR置換基のパラハメットσ値の合計が0より大きい、請求項1に記載の発色組成物。
【請求項3】
前記(a)酸発生剤がオニウム塩である、請求項1
または2に記載の発色組成物。
【請求項4】
前記(a)酸発生剤および前記(b)テトラアリールボレートが、酸発生カチオンおよびテトラアリールボレートアニオンを含む1つの分子として発色組成物中に存在する、請求項1
乃至3のいずれかに記載の発色組成物。
【請求項5】
前記(a)酸発生剤がヨードニウムカチオンを有するオニウム塩である、請求項1
乃至4のいずれかに記載の発色組成物。
【請求項6】
前記(d)構造(I)の化合物が、アルキル3,4-ジヒドロキシベンゾエート、アルキルガレート、4-クロロカテコール、4-ニトロカテコール、および3,4-ジヒドロキシベンゾニトリルからなる群から選択される、請求項1
乃至5のいずれかに記載の発色組成物。
【請求項7】
前記(d)構造(I)の化合物と前記(b)テトラアリールボレートのモル比が少なくとも0.25:1および3:1以下である、請求項1
乃至6のいずれかに記載の発色組成物。
【請求項8】
親水性表面を含む基板と;
前記基板の前記親水性表面上に配置される放射感受性画像形成層であって、
1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分と、
1つまたは複数の放射吸収剤と、
請求項1乃至7のいずれかに記載の発色組成物と、
場合により、前記1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分と異なるポリマー材料と
を含む放射感受性画像形成層と
を含み、
場合により、前記放射感受性画像形成層の上に配置された保護層を含む、平版印刷版原版。
【請求項9】
前記放射感受性画像形成層が赤外線感受性画像形成層であり、前記1つまたは複数の放射吸収剤が1つまたは複数の赤外線吸収剤である、請求項8に記載の平版印刷版原版。
【請求項10】
平版印刷版を形成する方法であって、
A)請求項8
または9に記載の平版印刷版原版を放射で画像様露光して、前記放射感受性画像形成層に露光領域および非露光領域を得る工程と;
B)前記放射感受性画像形成層の前記非露光領域を除去する工程と
を含む方法。
【請求項11】
B)平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用して、オンプレスで前記放射感受性画像形成層の前記非露光領域を除去する工程
を含む、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線などの放射を使用して画像形成され、画像形成平版印刷版原版に改善されたプリントアウト画像を提供することができるネガ型平版印刷版原版に関する。このような原版は、プリントアウト画像を提供するための発色組成物を含む。本発明はまた、このようなネガ型平版印刷版原版の画像形成およびオンプレス処理のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
平版印刷版を調製するのに有用なネガ型平版印刷版原版は、典型的には基板の親水性表面上に配置されたネガ型放射感受性画像形成層を含む。このような画像形成層は、適切なポリマーバインダー材料に分散させることができる放射感受性成分を含む。原版を適切な放射に画像様露光して露光領域および非露光領域を形成した後、画像形成層の非露光領域を適切な現像液によって除去し、基板の下にある親水性表面をあらわにする。除去されない画像形成層の露光領域は平版インク受容性であり、現像工程によってあらわにされる親水性基板表面は水および水溶液、例えば湿し水を受容し、平版印刷インクを跳ね返す。
【0004】
近年、平版印刷業界では、画像形成層の非露光領域を除去するために、平版印刷インクもしくは湿し水、またはその両方を使用してオンプレス現像(「DOP」)を行うことによって、平版印刷版の製造を簡素化することが望まれている。したがって、オンプレス現像可能な平版印刷版原版の使用が、少ない環境への影響ならびに処理化学薬品、処理装置床面積、操作および維持費の節約を含む、従来処理の平版印刷版原版に対する多くの利益のために、印刷業界でますます採用されている。レーザー画像形成後、オンプレス現像可能な原版は、画像形成原版の非印刷領域の放射感受性画像形成層を除去する工程なしで、印刷機に直接運ばれる。
【0005】
レーザー画像形成印刷版原版は、露光領域と非露光領域で異なる色を有することが非常に望ましい。露光領域と非露光領域の色の違いは、典型的には、「プリントアウト」(または「プリント-アウト」)と呼ばれる。強力なプリントアウトにより、操作者が画像形成印刷版原版を視覚的に識別し、画像形成印刷版原版を適切なプレスユニットに取り付けることが容易になる。
【0006】
オンプレス現像可能な印刷版原版のプリントアウトを強化するために、多くの手法が取られてきた。例えば、米国特許出願公開第2009/0047599号明細書(Horneら)は、スピロラクトンまたはスピロラクタム着色剤前駆体と開環酸を使用してプリントアウト画像を得ることを記載している。しかしながら、この化学で提供されるプリントアウト画像は、時間の経過と共に退色する可能性があるため、画像形成原版を直ちに使用しない場合、プレス操作者が読み取ることができなくなる。
【0007】
したがって、減少したプリントアウト退色を示す画像形成平版印刷版原版のプリントアウト画像を提供する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2009/0047599号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明は、
(a)酸発生剤と;
(b)テトラアリールボレートと;
(c)酸感受性染料前駆体と;
(d)以下の構造(I):
【化1】
(式中、nは1、2、3または4であり;Rは独立に、一価置換基またはnが少なくとも2である場合、縮合環を形成するために必要な原子を表し、少なくとも1つのR置換基は電子求引基である)
を有する化合物と
を含む、発色組成物を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、
親水性表面を含む基板と;
基板の親水性表面上に配置される放射感受性画像形成層であって、
1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分と、
1つまたは複数の放射吸収剤と、
本発明の発色組成物と、
場合により、前記1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分と異なるポリマーバインダーと
を含む放射感受性画像形成層と
を含み、
場合により、放射感受性画像形成層の上に配置された保護層を含む、平版印刷版原版を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、平版印刷版を形成する方法であって、
A)本明細書に記載される任意の実施形態による平版印刷版原版を放射で画像様露光して、放射感受性画像形成層に露光領域および非露光領域を得る工程と;
B)放射感受性画像形成層の非露光領域を除去する工程と
を含む方法を提供する。
【0012】
例えば、本方法は、
B)平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用して、オンプレスで放射感受性画像形成層の非露光領域を除去する工程
によって行うことができる。
【0013】
本発明の平版印刷版原版は、画像形成時に改善されたプリントアウト画像を表示することができる。このようなプリントアウト画像は、既知の化学を使用して生成されたプリントアウト画像ほど速く退色しない。これらの利点は、このような原版の放射感受性画像形成層に発色組成物を組み込むことによって提供される。この発色組成物は、以下に記載されるいくつかの必須成分(a)~(d)を含む。いくつかの実施形態では、成分(d)と成分(b)のモル比、またはd/b比が、少なくとも0.25、または少なくとも0.35である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】以下に記載される実施例1および比較例1~3で提供されるΔODデータのグラフ図である。
【
図2】以下に記載される実施例1および比較例4で提供されるΔODデータのグラフ図である。
【
図3】以下に記載される実施例5で提供されるΔODデータのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
発色組成物、放射感受性画像形成層配合物および本発明の実施で使用される他の材料の種々の成分を定義するために本明細書で使用する場合、特に指示しない限り、単数形「a」、「an」および「the」は成分の1つまたは複数を含む(すなわち、複数指示対象を含む)ことを意図している。
【0018】
本出願で明示的に定義されていない各用語は、当業者によって一般的に受け入れられる意味を有すると理解すべきである。用語の解釈がその文脈で用語を無意味または本質的に無意味にする場合、用語を標準的な辞書の意味を有すると解釈すべきである。
【0021】
本明細書で使用する場合、「赤外線吸収剤」という用語は、赤外線領域の電磁放射を吸収する化合物または材料を指し、典型的には、赤外線領域で最大吸収を有する化合物または材料を指す。
【0022】
本明細書で使用する場合、「赤外線領域」という用語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの例では、「赤外線」という用語が、本明細書において少なくとも750nmおよび1400nm以下と定義される電磁スペクトルの「近赤外」領域を指すために使用される。
【0023】
本発明の目的のために、プリントアウト画像は、一般に、画像形成平版印刷版原版における露光領域の光学密度の絶対値と非露光領域の光学密度の絶対値の差として定義される。この光学密度の絶対値の差(ΔOD)は、一般的な反射濃度計または分光光度計、例えば、実施例で以下に記載される、市販のX-rite 528濃度計(中性フィルター)を使用して測定することができる。本発明の目的のために、所望のΔODは、赤外線露光について少なくとも120 mJ/cm2の露光エネルギーを使用する場合、少なくとも0.08、または少なくとも0.09でさえある。
【0030】
特に指示しない限り、「重量%」という用語は、組成物、配合物または層の全固形分に基づく成分または材料の量を指す。特に指示しない限り、百分率は、乾燥層または配合物もしくは組成物の全固形分のいずれについても同じであり得る。
【0031】
本明細書で使用する場合、「層」または「コーティング」という用語は、1つの配置もしくは適用された層、またはいくつかの連続の配置もしくは適用された層の組み合わせからなることができる。層が赤外線感受性およびネガ型であると考えられる場合、これは(「放射吸収剤」について上記のように)放射に感受性であると同時に、平版印刷版の形成においてネガ型である。
【0032】
使用
本発明による発色組成物は、画像形成平版印刷版原版にプリントアウト画像を提供するのに有用であり、これは、平版印刷インク、湿し水またはその両方を使用するプレス操作中にオンプレスでの平版印刷用の平版印刷版を形成するのに有用である。
【0033】
発色組成物
本発明による発色組成物は、以下のように定義される少なくとも4つの成分:(a)~(d)を含む。
【0034】
成分(a)は、赤外線吸収剤の存在下で赤外線に露光されるとプロトンを提供する化合物である酸発生剤であり、このプロトンは以下に記載される無色の(c)酸感受性染料前駆体から観察可能な色の形成を引き起こすために使用される。所望であれば、このような(a)化合物の2つ以上の混合物を使用することができる。
【0035】
代表的な(a)酸発生剤には、それだけに限らないが、その多くが当技術分野で知られているトリハロアリル化合物、ハロメチルトリアジンおよびビス(トリハロメチル)トリアジンなどの有機ハロゲン化合物;ならびにその多くが当技術分野で知られているヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩などのオニウム塩が含まれる。例えば、オニウム塩以外の代表的な化合物は、米国特許出願公開第2005/0170282号明細書(Innoら)の例えば[0087]に記載されている。
【0036】
有用なオニウム塩は、引用された米国‘282号の例えば[0103]~[0109]に記載されている。例えば、有用なオニウム塩は、分子内に少なくとも1個のオニウムイオン原子を有するカチオンとアニオンとを含む。オニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジフェニルジアゾニウム、およびこれらの化合物のベンゼン環に1つまたは複数の置換基を導入することによって得られるその誘導体が挙げられる。適切な置換基には、それだけに限らないが、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、クロロ、ブロモ、フルオロおよびニトロ基が含まれる。
【0037】
オニウム塩中のアニオンの例としては、それだけに限らないが、例えば、米国特許第7524614号明細書(Taoら)に記載される、ハロゲンアニオン、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3
-、およびホウ素アニオンが挙げられる。
【0038】
オニウム塩は、共有結合を通して結合された分子中に少なくとも2個のオニウムイオン原子を有する多価オニウム塩であることができる。多価オニウム塩の中では、分子中に少なくとも2個のオニウムイオン原子を有するものが有用であり、分子中にスルホニウムまたはヨードニウムカチオンを有するものが有用である。代表的な多価オニウム塩は、以下の式(6)および(7)によって表される:
【化3】
【0039】
さらに、日本特許公開第2002-082429号明細書[または、米国特許出願公開第2002-0051934号明細書(Ippeiら)]の明細書の[0033]~[0038]段落に記載されるオニウム塩、または米国特許第7524614号明細書(上記)に記載されるヨードニウムボレート錯体もまた、本発明で使用することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、オニウム塩が、「酸発生カチオン」および本発明による(b)テトラアリールボレート成分として存在するテトラアリールボレートアニオンを含むことができる。換言すれば、成分(a)および成分(b)は、同じ分子中に、または1つの分子として存在することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、(a)酸発生剤の組み合わせ、例えば、以下に示される構造(II)によって表される化合物Aと、構造(III)または(IV)のいずれかによって以下に表される化合物Bとして集合的に知られる1つまたは複数の化合物の組み合わせを使用することができる:
【化4】
【0042】
これらの構造(II)、(III)および(IV)中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は独立に、置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換アルコキシ基であり、アルキルまたはアルコキシ基の各々は2~9個の炭素原子(または特に3~6個の炭素原子)を有する。これらの置換または非置換アルキルおよびアルコキシ基は直鎖または分岐形態であり得る。多くの有用な実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5およびR6が独立に、置換または非置換アルキル基、例えば3~6個の炭素原子を有する独立に選択される置換または非置換アルキル基である。
【0043】
さらに、R3およびR4の少なくとも1つはR1またはR2と異なることができ;R1およびR2の炭素原子の総数とR3およびR4の炭素原子の総数の差は0~4(すなわち、0、1、2、3または4)であり;R1およびR2の炭素原子の総数(合計)とR5およびR6の炭素原子の総数(合計)の差は0~4(すなわち、0、1、2、3、または4)であり;X1、X2およびX3は同じまたは異なるアニオンである。X1、X2およびX3の少なくとも1つが以下に記載される(b)テトラアリールボレートであることも可能である。
【0044】
成分(b)は、発色組成物および放射感受性画像形成層中で、成分(a)との酸化還元反応において電子供与体の機能を発揮することができる、塩などの有機ボレート化合物、または同じもしくは異なるアリール基の4つで構成されるテトラアリールボレートアニオンであるテトラアリールボレートである。このようなボレートアニオンの代表的なアリール基には、それだけに限らないが、置換または非置換フェニル、置換または非置換ナフチル、およびトリル基が含まれる。アリール基(複数可)上の可能な置換基には、フルオロ、メチル、アルコキシおよびアシルオキシ基が含まれる。代表的なテトラアリールボレートには、それだけに限らないが、テトラフェニルボレート、テトラナフチルボレート、トリフェニルナフチルボレート、トリナフチルフェニルボレートおよびトリフェニルフルオロフェニルボレートが含まれる。所望であれば、このような(b)テトラアリールボレートの2つ以上の混合物を使用することができる。
【0045】
記載されたテトラアリールボレートアニオンは、例えば、Na+、K+およびテトラブチルアンモニウムイオンを含む、当技術分野で知られている任意の適切なカチオンと共に存在することができる。
【0046】
上記のように、(b)テトラアリールボレートは、オニウム(またはヨードニウム)カチオンなどの(a)酸発生カチオンと同じ分子中に存在することができる。
【0047】
成分(c)は、上記の(a)酸発生剤からプロトンが生成されるまで無色であるまたは異なる色を示す酸感受性染料前駆体である。このタイプの代表的な化合物には、それだけに限らないが、トリアリールメタン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、キサンテン系化合物、チアジン系化合物およびスピロピラン系化合物が含まれ、これらの例は、上記の米国‘282号の[0066]~[0067]に記載される。所望であれば、このような化合物の2つ以上の混合物を使用することができる。
【0048】
成分(d)は構造(I):
【化5】
(式中、nは1、2、3または4であり;特に、nは1または2であり得る)によって定義される化合物である。Rは独立に、一価置換基またはnが少なくとも2である場合、縮合環を形成するために必要な原子を表す。少なくとも1つのR置換基は、それだけに限らないが、クロロ、ブロモ、トリフルオロメチル、ニトロ、シアノ、アルコキシカルボニル、アシルオキシおよびアルキルカルボニル基を含む電子求引基である。
【0049】
R置換基のパラハメットσ値の合計は、0より大きくてもよいし、0.2より大きくてもよい。
【0050】
いくつかの有用な成分(d)化合物には、それだけに限らないが、アルキル基が1~6個の炭素原子を有する(メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、n-ペンチルおよびn-ヘキシルなど)アルキル3,4-ジヒドロキシベンゾエート、アルキル基が1~6個の炭素原子を有する(メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、n-ペンチルおよびn-ヘキシルなど)アルキルガレート、4-クロロカテコール、4-ニトロカテコール、および3,4-ヒドロキシベンゾニトリルが含まれる。所望であれば、これらの(d)化合物の2つ以上の混合物を使用することができる。
【0051】
本発明による発色組成物中、成分(a)~(d)は、全て発色組成物中の全固形分に基づいて、以下の量で存在することができる:
1つまたは複数の(a)酸発生剤は、少なくとも1%の固形分および15%以下の固形分、またはより可能性が高くは少なくとも3%の固形分および10%以下の固形分の量で存在することができる。
【0052】
1つまたは複数の(b)テトラアリールボレート(アニオン)は、少なくとも1%の固形分および15%以下の固形分、またはより可能性が高くは少なくとも3%の固形分および10%以下の固形分の量で存在することができる。
【0053】
成分(a)および成分(b)が同じ分子中に存在する場合、合わせた分子は、少なくとも1%の固形分および15%以下の固形分、またはより可能性が高くは少なくとも3%の固形分および10%以下の固形分の量で存在することができる。
【0054】
1つまたは複数の(c)酸感受性染料前駆体は、少なくとも0.5%の固形分および10%以下の固形分、またはより可能性が高くは少なくとも2%の固形分および8%以下の固形分の量で存在することができる。
【0055】
1つまたは複数の(d)構造(I)の化合物は、少なくとも0.5%の固形分および10%以下の固形分、またはより可能性が高くは少なくとも1%の固形分および8%以下の固形分の量で存在することができる。
【0056】
さらに、成分(d)と成分(b)のモル比(以下、d/b比と呼ぶ)が、少なくとも0.25:1、より可能性が高くは少なくとも0.5:1であることが望ましい。d/b比が小さすぎると、プリントアウトおよびプリントアウト安定性の改善がわずかである。一方、d/b比が1:1より大きい場合、余分な量の成分(d)による増分利益は小さくなる。したがって、経済的観点から、b/d比は、一般に3:1以下であり、より具体的には、2.2:1以下である。
【0057】
代表的な(a)~(d)成分は、種々の商業的供給源から得るまたは既知の化学合成法および出発材料を用いて調製することができる。
【0058】
発色組成物は、記載される(a)~(d)成分を、各成分の所望の%固形分に到達するための所望の比で、適切な溶媒または溶媒の混合物(それだけに限らないが、2-ブタノール、2-メトキシプロパノール、メタノール、n-プロパノール、γ-ブチロラクトン、および放射感受性画像形成層配合物を調製するための以下に記載されるこのような溶媒またはその混合物を含む)中で混合することによって配合することができる。次いで、この配合された発色組成物を、以下に記載される放射感受性画像形成層配合物に組み込むことができる。あるいは、(a)~(d)成分の各々を、以下に記載される放射感受性画像形成層を調製するために使用される他の材料と個別に混合することができる。
【0059】
平版印刷版原版
本発明による原版は、以下に記載されるネガ型放射感受性組成物を適切な基板(以下に記載される)に適切に適用してネガ型の放射感受性画像形成層を形成することによって形成することができる。一般に、放射感受性組成物(および結果として生じる放射感受性画像形成層)は、1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分、1つまたは複数の放射吸収剤、上記の発色組成物、および場合により、1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分と異なるポリマーバインダーを含む。一般に、各原版にはただ1つの放射感受性画像形成層が存在する。これは一般に原版の最外層であるが、いくつかの実施形態では、放射感受性画像形成層の上に配置された、以下に記載される、最外水溶性親水性保護層(トップコートまたは酸素バリア層としても知られている)が存在することができる。
【0060】
基板:
本発明による原版を調製するために使用される基板は、一般的に親水性画像形成側平面表面、または少なくとも適用された放射感受性画像形成層より親水性の表面を有する。基板は、平版印刷版原版を調製するために慣用的に使用されているいずれの材料で構成されていてもよい支持体を含む。
【0061】
1つの有用な基板は、物理的(機械的)粒子化、電気化学的粒子化、または化学的粒子化、引き続いて陽極酸化によるある種の粗化を含む、当技術分野で既知の技術を用いて処理することができるアルミニウム含有支持体で構成されている。陽極酸化は、典型的には、リン酸または硫酸および従来の手順を使用して行われ、アルミニウム含有支持体上に所望の親水性アルミニウム酸化物(または陽極酸化物)層またはコーティングを形成し、このアルミニウム酸化物(陽極酸化物)層は、様々な深さおよび孔開口部形状を有する複数の孔を有する単層または複数の層の複合体を含むことができる。したがって、このようなプロセスは、以下に記載されるように提供することができる放射感受性画像形成層の下に陽極酸化物層を提供する。このような孔およびその幅を制御するためのプロセスの議論は、例えば、米国特許出願公開第2013/0052582号明細書(Hayashi)に記載されている。
【0062】
アルミニウム支持体の硫酸陽極酸化によって、一般的に少なくとも1g/m2および5g/m2以下、より典型的には少なくとも3g/m2および4g/m2以下の表面上のアルミニウム(陽極)酸化物重量(被覆度)が得られる。リン酸陽極酸化によって、一般的に少なくとも0.5g/m2および5g/m2以下、より典型的には少なくとも1g/m2および3g/m2以下の表面上のアルミニウム(陽極)酸化物重量が得られる。
【0063】
陽極酸化アルミニウム支持体を、既知の陽極処理後(PAT)プロセス、例えばポリ(ビニルホスホン酸)(PVPA)、ビニルホスホン酸コポリマー、ポリ[(メタ)アクリル酸]もしくはそのアルカリ金属塩、またはアクリル酸コポリマーもしくはそのアルカリ金属塩、リン酸塩とフッ化物塩の混合物、またはケイ酸ナトリウムの水溶液中での後処理を使用してさらに処理して、陽極酸化物孔を密封する、もしくはその表面を親水化する、またはその両方を行うことができる。PATプロセス材料はまた、不飽和二重結合を含み、放射露光領域の処理表面と放射感受性画像形成層との間の接着を選択的に増強することができる。このような不飽和二重結合は低分子量材料で提供することができる、またはポリマーの側鎖内に存在することができる。有用な後処理プロセスには、すすぎによる基板の浸漬、すすぎなしの基板の浸漬、および押出コーティングなどの種々のコーティング技術が含まれる。
【0064】
例えば、上に引用される米国‘582号に記載されるように、陽極酸化基板を、その最外表面の円柱状孔の直径が円柱状孔の平均直径の少なくとも90%となるように、円柱状孔を含有する陽極酸化物層を提供するためにアルカリ性または酸性孔拡大溶液(pore-widening solution)で処理することができる。いくつかの実施形態では、処理基板が、粒子化し、陽極酸化し、後処理したアルミニウム含有支持体の直ぐ上に配置された親水性層を含むことができ、このような親水性層がカルボン酸側鎖を有する非架橋親水性ポリマーを含むことができる。
【0065】
さらに、例えば、米国シリアル番号第447651号明細書(Merkaらにより2017年3月2日に出願された)に記載されるように、アルミニウム支持体を、複数の陽極酸化プロセスに供して、表面アルミニウム酸化物形成を修飾することができる。
【0066】
基板の厚さは、変えることができるが、印刷からの摩耗に耐えるのに十分であり、印刷フォームの周りを包むのに十分薄くなるべきである。有用な実施形態には、厚さが少なくとも100μmおよび700μm以下の処理したアルミ箔が含まれる。基板の裏側(非画像形成側)を帯電防止剤、滑性層またはつや消し層でコーティングして原版の取扱いおよび「手触り」を改善することができる。
【0067】
基板を、放射感受性画像形成層配合物および場合により、保護層配合物で適切にコーティングされたシート材料の連続ロール(または連続ウェブ)として形成し、引き続いて、4つの直角の角を有する形状または形態(よって、典型的には正方形または長方形の形状または形態)を有する個々の平版印刷版原版を提供するサイズに切り込むまたは切断する(またはその両方を行う)ことができる。典型的には、切断された個々の原版は、平面形状またはほぼ平坦な長方形形状を有する。
【0068】
放射感受性画像形成層:
放射感受性組成物(およびこれから調製される放射感受性画像形成層)は、「ネガ型」となるように設計され、各々がフリーラジカル開始反応を使用して重合することができる1つまたは複数のフリーラジカル重合性基を含有する1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分を含む。いくつかの実施形態では、放射感受性画像形成層が、各分子中に同じまたは異なる数のフリーラジカル重合性基を有する2つ以上のフリーラジカル重合性成分を含む。
【0069】
さらに、放射感受性画像形成層は、例えば、オンプレス現像のために、湿し水、平版印刷インク、または2つの組み合わせを使用して、平版印刷版原版にオンプレス現像性を提供することができる。
【0070】
有用なフリーラジカル重合性成分は、1つまたは複数の付加重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上のこのような基)を有する1つまたは複数のフリーラジカル重合性モノマーまたはオリゴマーを含有することができる。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーを使用することもできる。ウレタンアクリレートおよびメタクリレート、エポキシドアクリレートおよびメタクリレート、ポリエステルアクリレートおよびメタクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびメタクリレート、ならびに不飽和ポリエステル樹脂などのオリゴマーまたはプレポリマーを使用することができる。いくつかの実施形態では、フリーラジカル重合性成分がカルボキシル基を含む。
【0071】
1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分が、放射感受性画像形成層中の他の成分の「ポリマーバインダー」として機能する架橋性ポリマーマトリックスを提供するのに十分に大きい分子量を有する、または十分な重合性基を有することが可能である。このような実施形態では、別個の非重合性または非架橋性ポリマーバインダー(以下に記載される)は必要ではないが、それでも存在し得る。
【0072】
フリーラジカル重合性成分には、尿素ウレタン(メタ)アクリレートまたは複数の(2つ以上の)重合性基を有するウレタン(メタ)アクリレートが含まれる。各化合物が2つ以上の不飽和重合性基を有し、化合物のいくつかが3つ、4つまたはそれ以上の不飽和重合性基を有する、このような化合物の混合物を使用することができる。例えば、フリーラジカル重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートに基づくDESMODUR(登録商標)N100脂肪族ポリイソシアネート樹脂(Bayer Corp.,Milford,Conn.)をヒドロキシエチルアクリレートおよびペンタエリスリトールトリアクリレートと反応させることによって調製することができる。有用なフリーラジカル重合性化合物には、Kowa Americanから入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、ならびにSartomer Company,Inc.から入手可能なSartomer 399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer 355(ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer 295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)およびSartomer 415[エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]が含まれる。
【0074】
1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分は、一般に、放射感受性画像形成層に、全て放射感受性画像形成層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも10重量%および70重量%以下、または典型的には少なくとも20重量%および50重量%以下の量で存在する。
【0075】
さらに、放射感受性画像形成層は、1つまたは複数の放射吸収剤を含み、所望の放射感度を提供する、もしくは放射を熱に変換する、またはその両方を行う。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の放射吸収剤が、赤外線感受性画像形成層に位置する1つまたは複数の異なる赤外線吸収剤であり、その結果、平版印刷版原版を赤外線放出レーザーで画像形成することができる。
【0076】
有用な赤外線吸収剤は、顔料または赤外線吸収染料であり得る。適切な染料はまた、例えば、米国特許第5208135号明細書(Patelら)、同第6153356号明細書(Uranoら)、同第6309792号明細書(Hauckら)、同第6569603号明細書(Furukawa)、同第6797449号明細書(Nakamuraら)、同第7018775号明細書(Tao)、同第7368215号明細書(Munnellyら)、同第8632941号明細書(Balbinotら)、および米国特許出願公開第2007/056457号明細書(Iwaiら)に記載されるものである。いくつかの赤外線感受性実施形態では、赤外線感受性画像形成層中の少なくとも1つの赤外線吸収剤が、適切なカチオン性シアニン発色団およびテトラフェニルボレートアニオンなどのテトラアリールボレートアニオンを含むシアニン染料であることが望ましい。このような染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載されるものが挙げられる。
【0077】
低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーと結合したIR染料発色団も同様に使用することができる。さらに、IR染料カチオンも使用することができる、すなわち、カチオンは側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホまたはホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0078】
1つまたは複数の放射吸収剤の総量は、放射感受性画像形成層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.5重量%および30重量%以下、または典型的には少なくとも1重量%および15重量%以下である。
【0079】
上記の発色組成物は、放射感受性画像形成層中に存在し、成分(a)~(d)は、全て放射感受性画像形成層の総乾燥重量に基づいて、以下の量で存在することができる(これらの量は一般に、発色組成物について上記の相対的固形分%量に対応する):
1つまたは複数の(a)酸発生剤は、少なくとも1重量%および15重量%以下、または少なくとも3重量%および10重量%以下の量で存在することができる。
【0080】
1つまたは複数の(b)テトラアリールボレートは、少なくとも1重量%および15重量%以下、または少なくとも3重量%および10重量%以下の量で存在することができる。
【0081】
成分(a)および成分(b)が同じ分子中に存在する場合、合わせた分子は、少なくとも1重量%および15重量%以下、またはより可能性が高くは少なくとも3重量%および10重量%以下の量で存在することができる。
【0082】
1つまたは複数の(c)酸感受性染料前駆体は、少なくとも0.5重量%および10重量%以下、または少なくとも2重量%および8重量%以下の量で存在する。
【0083】
1つまたは複数の(d)構造(I)によって定義される化合物は、少なくとも0.5重量%および10重量%以下、または少なくとも2重量%および8重量%以下の量で存在する。
【0084】
1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分、1つまたは複数の赤外線吸収剤、および発色組成物中の成分(a)~(d)を含む、上記の必須成分のいずれか1つはポリマーであり得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、放射感受性画像形成層が、存在する場合、ポリマー材料を、重合性化合物、赤外線吸収剤および発色組成物中の成分(a)~(d)などの画像形成層中の他の必須成分の説明に適合させる官能基を有さない「非官能性」ポリマー材料をさらに含むことが任意であるが望ましい。
【0086】
このような非官能性ポリマー材料は、例えば、米国特許第6899994号明細書(Huangら)に記載されるものなどのポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマーを含む、当技術分野で知られているポリマーバインダー材料から選択することができる。他の有用な非官能性ポリマーバインダーは、例えば国際公開第2015-156065号パンフレット(Kamiyaら)に記載されるポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2つ以上のタイプの繰り返し単位を含む。このようなポリマーバインダーのいくつかは、例えば、米国特許第7261998号明細書(Hayashiら)に記載されるものなどのペンダントシアノ基を有する繰り返し単位をさらに含むことができる。
【0087】
非官能性ポリマーバインダーおよび画像形成層中の他の必須成分について記載される官能基を有するバインダーを含むいくつかの有用なポリマーバインダーは、粒子形態、すなわち離散粒子(非凝集粒子)の形態で存在し得る。このような離散粒子は、少なくとも10nmおよび1500nm以下、または典型的には少なくとも80nmおよび600nm以下の平均粒径を有することができ、一般的に放射感受性画像形成層内に均一に分布する。いくつかのポリマーバインダーは、少なくとも50nmおよび400nm以下の平均粒径を有する粒子として存在することができる。平均粒径は、電子走査型顕微鏡画像における粒子の測定および設定された測定数の平均化を含む、種々の既知の方法によって決定することができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、ポリマーバインダーが、放射感受性画像形成層の平均乾燥厚さ(t)よりも小さい平均粒径を有する粒子の形態で存在する。マイクロメートル(μm)単位の平均乾燥厚さ(t)は、以下の式によって計算される:
t=w/r
(式中、wはg/m2の放射感受性画像形成層の乾燥コーティング被覆度であり、rは1 g/cm3である)。例えば、このような実施形態では、ポリマーバインダーが、放射感受性画像形成層の平均乾燥厚さ(t)の少なくとも0.05%および80%以下、より可能性が高くは少なくとも10%および50%以下を構成することができる。
【0089】
ポリマーバインダーはまた、複数の(少なくとも2つの)ウレタン部分を含む骨格、ならびにポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有することができる。
【0090】
有用なポリマーバインダーは、一般的にゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって測定される、少なくとも2000および500000以下、または少なくとも20000および300000以下の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0092】
全ポリマーバインダーは、放射感受性画像形成層に、放射感受性画像形成層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも10重量%および70重量%以下の量、より可能性が高くは少なくとも20重量%および50重量%以下の量で存在することができる。
【0093】
放射感受性画像形成層は、例えば、米国シリアル番号第14/642876号明細書(Hayakawaらにより2015年3月10日に出願された)ならびに米国特許第8383319号明細書(Huangら)および同第8105751号明細書(Endoら)に記載される、少なくとも2μmまたは少なくとも4μmおよび20μm以下の平均粒径を有する架橋ポリマー粒子を含むことができる。このような架橋ポリマー粒子は、放射感受性画像形成層、存在する場合は保護層(以下に記載される)、または放射感受性画像形成層と存在する場合は保護層の両方にのみ存在することができる。
【0094】
放射感受性画像形成層はまた、慣用的な量の、それだけに限らないが、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、被覆性もしくは他の特性のための界面活性剤、粘度上昇剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、保存剤、抗酸化剤、現像助剤、レオロジー改質剤またはこれらの組み合わせ、あるいは平版分野で一般的に使用されている任意の他の追加物を含む種々の他の任意の追加物も含むことができる。放射感受性画像形成層はまた、米国特許第7429445号明細書(Munnellyら)に記載される、一般に250超の分子量を有するホスフェート(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0095】
親水性保護層:
本発明のいくつかの実施形態では、放射感受性画像形成層が、その上に層が配置されていない最外層であるが、本発明による原版を、親水性保護層(当技術分野では親水性オーバーコート、酸素バリア層またはトップコートとしても知られている)を放射感受性画像形成層の直ぐ上に配置して(これらの2つの層の間に中間層はない)設計することが可能である。
【0096】
存在する場合、この親水性保護層は一般に原版の最外層であり、したがって、複数の原版を積み重ねる場合、ある原版の親水性保護層がその直ぐ上の原版の基板の裏側と接触することができ、合紙は存在しない。
【0097】
このような親水性保護層は、親水性保護層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも60重量%および100重量%以下の量の1つまたは複数の膜形成水溶性ポリマーバインダーを含むことができる。このような膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダーには、けん化度が少なくとも30%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、および99.9%以下の修飾または未修飾ポリ(ビニルアルコール)が含まれ得る。
【0098】
さらに、1つまたは複数の酸修飾ポリ(ビニルアルコール)を、親水性保護層に膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダーとして使用することができる。例えば、少なくとも1つの修飾ポリ(ビニルアルコール)は、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、ホスホン酸およびリン酸エステル基からなる群から選択される酸基で修飾され得る。このような材料の例としては、それだけに限らないが、スルホン酸修飾ポリ(ビニルアルコール)、カルボン酸修飾ポリ(ビニルアルコール)および四級アンモニウム塩修飾ポリ(ビニルアルコール)、グリコール修飾ポリ(ビニルアルコール)またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0099】
任意の親水性オーバーコートはまた、少なくとも2μmの平均粒径を有し、例えば、その全ての開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許9366962号明細書(Hayakawaら)、同第8383319号明細書(Huangら)および同第8105751号明細書(Endoら)に記載されるような架橋ポリマー粒子を含むことができる。
【0100】
存在する場合、親水性保護層は、親水性保護層形成として提供され、乾燥されて、少なくとも0.1g/m2および4g/m2以下の乾燥コーティング被覆度、典型的には少なくとも0.15g/m2および2.5g/m2以下の乾燥コーティング被覆度を提供する。いくつかの実施形態では、乾燥コーティング被覆度が0.1g/m2と低くおよび1.5g/m2以下、または少なくとも0.1g/m2および0.9g/m2以下である。
【0101】
親水性保護層は、例えば、米国特許出願公開第2013/0323643号明細書(Balbinotら)に記載されるように、1つまたは複数の膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダー内に、一般的に均一に分散した有機ワックス粒子を場合により含むことができる。
【0102】
本発明による放射感受性平版印刷版原版は、以下の方法で提供することができる。上記の材料を含む放射感受性画像形成層配合物を、スピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティングまたは押し出しホッパーコーティングなどの任意の適切な装置および手順を使用して、通常は上記の連続基板ウェブとして、適切な基板の親水性表面に適用することができる。このような配合物を噴霧によって適切な基板上に適用することもできる。典型的には、いったん放射感受性画像形成層配合物を適切な湿潤被覆度で適用したら、これを当技術分野で知られている適切な方法で乾燥して、以下に記載される所望の乾燥被覆度を得て、それによって放射感受性連続ウェブまたは放射感受性連続物品を得る。
【0103】
上記のように、放射感受性画像形成層配合物を適用する前に、基板(すなわち、連続ロールまたはウェブ)は、上記のように電気化学的に粒子化され、陽極酸化されて、アルミニウム含有支持体の外側表面上に適切な親水性陽極酸化物層を提供し、陽極酸化表面は、通常、上記のように親水性ポリマー溶液で後処理することができる。これらの操作の条件および結果は、基板の節で上記のように当技術分野で周知である。
【0104】
製造方法は、典型的には、水を含むまたは含まない適切な有機溶媒またはその混合物[メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、イソ-プロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフランおよび当技術分野で容易に知られるその他のもの、ならびにこれらの混合物など]中に放射感受性画像形成層に必要とされる種々の成分を混合し、得られた放射感受性画像形成層配合物を連続基板ウェブに適用し、適切な乾燥条件下で蒸発によって溶媒を除去することを含む。適切な乾燥後、基板上の放射感受性画像形成層の乾燥コーティング被覆度は、一般に、少なくとも0.1g/m2および4g/m2以下、または少なくとも0.4g/m2および2g/m2以下であるが、所望であれば他の乾燥被覆度量を使用することができる。
【0105】
いくつかの実施形態では、この方法で使用される放射感受性画像形成層配合物が、1つまたは複数の放射吸収剤が1つまたは複数の赤外線吸収剤である赤外線感受性画像形成層配合物である。
【0106】
上記のように、いくつかの実施形態では、適切な水系親水性保護層配合物(上記)を、既知のコーティングおよび乾燥条件、装置および手順を使用して、乾燥した放射感受性画像形成層に適用することができる。
【0107】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果が、放射感受性画像形成層のみ、または放射感受性画像形成層と連続基板ウェブなどの基板上に配置された保護層の両方を有する放射感受性平版印刷版原版材料の連続放射感受性ウェブ(またはロール)である。
【0108】
画像形成(露光)条件
使用中、本発明の放射感受性平版印刷版原版を、放射感受性画像形成層中に存在する放射吸収剤に応じて、適切な露光放射源に露光することができる。放射感受性画像形成層が赤外線吸収剤を含むいくつかの実施形態では、対応する平版印刷版原版を、少なくとも750nmおよび1400nm以下、または少なくとも800nmおよび1250nm以下の範囲内の有意な赤外線を放出する赤外線レーザーで画像形成することができる。
【0109】
放射発生レーザー(またはこのようなレーザーの配列)からの画像形成または露光放射を使用して画像形成を行うことができる。所望であれば同時に複数の波長の画像形成放射を使用して画像形成を行うこともできる。原版を露光するために使用されるレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性および低メンテナンスのために、通常はダイオードレーザーであるが、ガスまたは固体状態レーザーなどの他のレーザーを使用することもできる。放射画像形成のための出力、強度および露光時間の組み合わせは当業者に容易に明らかになるだろう。
【0110】
画像形成装置は、フラットベッドレコーダーまたはドラムレコーダーとして構成することができ、放射感受性平版印刷版原版をドラムの内側または外側円筒表面に取り付ける。有用な画像形成装置の例は、約830nmの波長の放射を放出するレーザーダイオードを含むKodak(登録商標)Trendsetterプレートセッター(Eastman Kodak Company)およびNEC AMZISetter Xシリーズ(NEC Corporation、日本)のモデルとして入手可能である。
【0111】
赤外線源が使用される実施形態では、画像形成エネルギーが、放射感受性画像形成層の感度に応じて、少なくとも30mJ/cm2および500mJ/cm2以下、典型的には少なくとも50mJ/cm2および300mJ/cm2以下となり得る。
【0112】
処理(現像)および印刷
画像様露光後、放射感受性画像形成層に露光領域および非露光領域を有する露光された放射感受性平版印刷版原版をオンプレスで処理して、非露光領域(およびこのような領域上の任意の親水性保護層)を除去する。平版印刷中、あらわにされた親水性基板表面はインクを跳ね返し、残りの露光領域は平版印刷インクを受容する。
【0113】
本発明による平版印刷版原版は、オンプレス現像可能である。このような実施形態では、本発明による画像形成放射感受性平版印刷版原版を印刷機に取り付けることができ、印刷操作が開始される。放射感受性画像形成層の非露光領域は、最初の印刷物が作成される際に、適切な湿し水、平版印刷インク、または両者の組み合わせによって除去される。水性湿し水の典型的な成分には、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤および湿潤剤、保湿剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤および金属イオン封鎖剤が含まれる。湿し水の代表的な例としてはVarn Litho Etch 142W+Varn PAR(アルコールサブ)(Varn International、Addison、ILから入手可能)がある。
【0114】
枚葉印刷機を使用する典型的な印刷機の運転開始では、最初に湿しローラーを係合し、マウントされた画像形成原版に湿し水を供給して、少なくとも非露出領域で露光放射感受性画像形成層を膨潤させる。数回転後、インクローラーを係合し、平版印刷版の印刷面全体を覆うように平版印刷インクを供給する。典型的には、インクローラー係合後5~20回転以内に、印刷シートを供給して、結果として得られる平版印刷インク-湿し水エマルジョンを使用して、平版印刷版から放射感受性画像形成層の非露光領域、ならびに存在する場合はブランケットシリンダー上の材料を除去する。
【0115】
平版印刷原版のオンプレス現像性は、原版が放射感受性画像形成層に1つまたは複数のポリマーバインダーを含み、このポリマーバインダーの少なくとも1つが少なくとも50nmおよび400nm以下の平均径を有する粒子として存在する場合に特に有用である。
【実施例】
【0143】
以下の実施例は、本発明の実施を説明するために提供するものであって、何ら限定的であることを意図していない。特に指示しない限り、実施例で使用される材料は、表Iの後に示される種々の商業的供給源から得た。
【0144】
実施例1および比較例1~3:
実施例1および比較例1~3の平版印刷版原版は、アルミニウム支持体(塩酸で電気化学的に粗化され、リン酸で陽極酸化され、ポリアクリル酸でさらに処理された)に、発色組成物を含有する以下の放射感受性画像形成層配合物を適用することによって調製した。表Iに示される材料(部)を、32重量%のn-プロパノール、10重量%の2-メトキシプロパノール、40重量%の2-ブタノンおよび18重量%の水を含有する溶媒混合物に5重量%の全固形分で溶解または分散した。放射感受性画像形成層配合物を、巻線型コーティングバーを使用して適用し、80℃で2分間乾燥させて、1g/m2の乾燥被覆度を有する放射感受性画像形成層を得た。
【0145】
実施例1の原版は本発明に従って調製され、放射感受性画像形成層は上記の成分(a)~(d)を含んでいたことに留意されたい。
【0146】
比較例1~3の原版は、(d)構造(I)によって表される化合物を含有しない放射感受性画像形成層を有していた。比較例4の原版は、(d)構造(I)によって表される化合物を含有するが、(b)テトラアリールボレートを含有しない放射感受性画像形成層を有していた。
【0147】
【0148】
表Iに示される材料は以下のように識別される:
ポリマー1は、ポリマー分散液から適用され、その開示がこの調製について参照により本明細書に組み込まれる、米国特許7592128号明細書(Huangら)のポリマーAのように調製された、アクリロニトリル、スチレンおよびポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(MW 2000)から誘導されたコポリマーである。
【0149】
UN-904は、Negami Chemical Corporation(日本)から入手可能な多官能性ウレタンアクリレートである。
【0150】
ポリマー2は、約80000ダルトンの重量平均分子量を有するヒドロキシプロピルセルロースである。
【0151】
開始剤1はビス(t-ブチルフェニル)ヨードニウムテトラフェニルボレートである。
【0152】
開始剤2はビス(t-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェートである。
【0153】
IR染料1は、以下の化学構造を有する赤外線吸収シアニン染料である:
【化7】
【0154】
【0155】
BYK(登録商標)302は、BYK Chemie GmbH(ドイツ)から入手可能なシリコーン界面活性剤である。
【0156】
4-クロロカテコール、4-クロロレゾルシノールおよびクロロヒドロキノンは、化学薬品の商業的供給源から得た。
【0157】
次いで、調製したネガ型平版印刷版原版の各々を、Magnus 800 IIIプレートセッター(Eastman Kodak Companyから入手可能)上で120mJ/cm
2で画像形成した。画像形成後、これらの画像形成印刷版原版上の露光領域と非露光領域の光学密度の差(ΔOD)を、X-rite 528濃度計(中性フィルター)を使用して最大24時間定期的に測定した。次いで、各ΔOD値を、対照として使用される比較例1の新たな画像形成原版のΔOD値によって正規化して、プリントアウト画像を評価した。ΔOD値は、画像形成印刷版原版上のプリントアウト画像の可視性の指標として機能し、ΔODが高いほど良好である。これらの試験の結果を
図1および以下の表IIに示す。
【0158】
図1から分かるように、実施例1の平版印刷版原版は、比較例1~3よりも高い初期ΔODを示した。画像形成後、全ての平版印刷版原版のΔOD値が薄れたが、実施例1の原版のΔOD値は、比較例1~3よりも高いままであった。比較例1では、実施例1の4-クロロカテコール[(d)構造(1)の化合物]を省略したところ、得られた原版が最も低いΔOD値を示した。比較例2および3では、4-クロロカテコールを、それぞれ、その異性体である4-クロロレゾルシノールおよびクロロヒドロキノンで置き換えた。これらの原版は、比較例1よりわずかに高い初期ΔOD値を示したが、24時間後、これらの比較例間のΔOD値の差は本質的に消失した。
【0159】
比較例2および3は、高いプリントアウト画像可視性の利益を達成するために、2つのヒドロキシ基が、構造(I)で互いに対してオルト位でなければならないことが必須であることを示している。
【0160】
図2に提示されるデータから、(b)テトラアリールボレートおよび(d)構造(I)によって表される化合物の存在が、新たなプリントアウトとプリントアウト安定性の両方にとって必須であることが分かる。(b)テトラアリールボレートは、比較例4には存在しなかった。
【0161】
新たに画像形成された原版のプリントアウト値および24時間の貯蔵後のプリントアウト値を以下の表IIに示す。
【0162】
【0163】
実施例2~4および比較例5~7:
放射感受性画像形成層中の4-クロロカテコールを以下の表IIIに示される化合物で置き換えて、実施例1を繰り返した。
【0164】
【0165】
表IIIに示される結果から、本発明による構造(I)によって表される化合物を含有する画像形成原版が、このような化合物を放射感受性画像形成層に添加しなかった比較例1の原版と比較して、強力な新たなプリントアウト画像(高いΔOD)および24時間の暗所後のプリントアウト画像を提供したことが分かる。比較例5~7の値と比較した実施例2~4の高い新たなおよび薄れたΔOD値は、R基の少なくとも1つが電子求引基である構造(I)によって表される化合物を使用する利益を示している。
【0166】
実施例5:
この原版シリーズの配合物の各々のバランスをとるためにポリマー1の量を調整しながら、エチル3,4-ジヒドロキシベンゾエート(EDB)の量を以下の表IVに示すように変化させたことを除いて、実施例3を11の原版試料について繰り返した。
【0167】
【0168】
画像形成直後と画像形成原版の24時間暗所貯蔵後の両方で、成分(d)を含まない新たな対照と比較したΔODプリントアウト値を、
図3に示されるように成分(d)と成分(b)のモル比(d/b比)の関数としてプロットした。
【0169】
図3から分かるように、成分(d)の量を増加させることによる増分利益は、新たなΔODプリントアウトの場合は約0.5:1、24時間暗所貯蔵後のΔODプリントアウト値の場合は約0.75:1のd/b比で横ばいになった。