IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヴィゲー・シエンタ・アーベーの特許一覧

特許7280359サンプルとアパーチャとの間の距離制御のための方法および装置
<>
  • 特許-サンプルとアパーチャとの間の距離制御のための方法および装置 図1
  • 特許-サンプルとアパーチャとの間の距離制御のための方法および装置 図2
  • 特許-サンプルとアパーチャとの間の距離制御のための方法および装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】サンプルとアパーチャとの間の距離制御のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2204 20180101AFI20230516BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20230516BHJP
   H01J 37/12 20060101ALI20230516BHJP
   H01J 37/18 20060101ALI20230516BHJP
   H01J 49/48 20060101ALI20230516BHJP
   G01N 23/2273 20180101ALI20230516BHJP
【FI】
G01N23/2204
H01J37/244
H01J37/12
H01J37/18
H01J49/48 400
G01N23/2273
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021531777
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 SE2019051242
(87)【国際公開番号】W WO2020117124
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】1851528-8
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】514141754
【氏名又は名称】シエンタ・オミクロン・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ペータル・アマン
(72)【発明者】
【氏名】アンデシュ・ニルソン
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-093249(JP,A)
【文献】特開平03-008428(JP,A)
【文献】特開2016-146362(JP,A)
【文献】特開2004-087483(JP,A)
【文献】特表2016-533612(JP,A)
【文献】特開2001-266788(JP,A)
【文献】米国特許第04528451(US,A)
【文献】米国特許第05103102(US,A)
【文献】米国特許第04560880(US,A)
【文献】米国特許第06300630(US,B1)
【文献】特開昭60-091543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
H01J 37/00-H01J 37/36
H01J 40/00-H01J 49/48
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気される静電レンズからサンプル領域(2)を分離する壁(6)におけるアパーチャ(3)と、前記アパーチャ(3)から距離(d)を置いて前記サンプル領域(2)に配置されたサンプル(1)の前記アパーチャ(3)に面するサンプル表面(Ss)との間の前記距離(d)を制御するための方法であって、前記サンプル表面(Ss)と前記アパーチャ(3)との間の前記距離(d)は、位置決めシステム(Ps)により制御することができる、方法において、
a)前記壁(6)と前記サンプル表面(Ss)との間の空間内へ気体を向けるように構成された、気体供給装置(20)に接続された、少なくとも1つの気体出口(5)を提供するステップ(101)と、
b)前記気体供給装置(20)により、前記サンプル表面(Ss)と前記アパーチャ(3)との間の空間に、前記少なくとも1つの気体出口(5)から一定流の気体を供給するステップと
c)所定の時間間隔で前記静電レンズ内部の圧力を測定するステップ(103)と、
d)前記静電レンズ内部の前記圧力を一定に保つように閉ループで前記位置決めシステム(Ps)を制御し、これによって前記アパーチャ(3)と前記サンプル表面(Ss)との間の前記距離(d)を一定に保つステップ(104)と
を含み、
前記静電レンズは、前記サンプル表面(Ss)から放出された荷電粒子を収集して集束させることを特徴とする、方法。
【請求項2】
10-4から10-2mbarの間の圧力が、前記静電レンズにおいて維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプル(1)および前記壁(6)は、チャンバ(11)に配置され、前記チャンバ(11)は、前記アパーチャ(3)と前記サンプル表面(Ss)との間の前記空間から外向きに圧力勾配を提供するように真空排気される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
真空排気される静電レンズからサンプル領域(2)を分離する壁(6)におけるアパーチャ(3)と、前記アパーチャ(3)から距離(d)を置いて前記サンプル領域(2)に配置されたサンプル(1)の前記アパーチャ(3)に面するサンプル表面(Ss)との間の前記距離(d)を制御するためのコンピュータプログラムであって、
前記サンプル表面(Ss)と前記アパーチャ(3)との間の前記距離(d)は、位置決めシステム(Ps)により制御することができ、
気体供給装置(20)に接続された少なくとも1つの気体出口(5)が、前記壁(6)と前記サンプル表面(Ss)との間の空間内へ気体を向けるように構成され、
前記静電レンズは、前記サンプル表面(Ss)から放出された荷電粒子を収集して集束させ、
前記コンピュータプログラムは、命令を含み、前記命令は、少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、
a)一定流の気体を前記少なくとも1つの気体出口(5)に供給するように前記気体供給装置(20)を制御するステップと、
b)前記静電レンズ内部の圧力についての圧力値を所定の時間間隔で受け取るステップと、
c)閉ループで、前記圧力値を一定に保つように前記位置決めシステムを制御し、これによって前記アパーチャ(3)と前記サンプル表面(Ss)との間の前記距離(d)を一定に保つステップと
を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項5】
請求項に記載の、アパーチャ(3)とサンプル表面(Ss)との間の距離(d)を制御するためのコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項6】
サンプル(1)のサンプル表面(Ss)から荷電粒子を収集するための装置(100)であって、
前記サンプル(1)をサンプル領域(2)に保持するためのサンプルホルダ(10)と、
静電レンズであって、前記静電レンズは、前記サンプル領域(2)を前記静電レンズから分離する壁(6)においてアパーチャ(3)を含み、前記アパーチャ(3)は、荷電粒子を前記サンプル表面(Ss)から前記静電レンズ内へ収集するように、前記サンプル(1)が前記サンプルホルダに配置されているとき、前記サンプル(1)の前記サンプル表面(Ss)に面するように配置されている、静電レンズと、
前記サンプルホルダ(10)の位置を制御し、ひいては前記サンプル表面(Ss)と前記アパーチャ(3)との間の距離(d)を制御するための位置決めシステム(Ps)と、
前記静電レンズの真空排気のための手段と
を備え、
前記装置(100)は、
前記壁(6)と前記サンプル表面(Ss)との間の空間内へ気体を向けるように構成された少なくとも1つの気体出口(5)と、
前記サンプル表面(Ss)と前記アパーチャ(3)との間の空間に、前記少なくとも1つの気体出口(5)から一定流の気体を提供するための気体供給装置(20)と、
前記静電レンズ内部の圧力を測定するための手段(G)と、
前記圧力を測定するための前記手段(G)および前記位置決めシステムに接続され、前記圧力を測定するための前記手段(G)で、所定の時間間隔で前記圧力を測定して、前記静電レンズ内部の前記圧力を一定に保つように前記位置決めシステム(Ps)を閉ループ制御により制御し、これによって前記アパーチャ(3)と前記サンプル表面(Ss)との間の前記距離(d)を一定に保つように構成された制御ユニット(CU)と
を備え、
前記静電レンズは、前記サンプル表面(Ss)から放出された荷電粒子を収集して集束させることを特徴とする、装置(100)。
【請求項7】
前記静電レンズは、前記アパーチャ(3)が配置されている第1の端部(16)と、第2の端部(17)と、を含む静電レンズシステム(13)であり、前記静電レンズシステム(13)は、前記サンプル表面(Ss)から放出されて前記第1の端部(16)において前記アパーチャ(3)を通って入る荷電粒子から粒子ビームを形成して、前記荷電粒子を前記第2の端部(17)に輸送するように構成されている、請求項に記載の装置(100)。
【請求項8】
前記静電レンズにおける真空排気のための前記手段は、前記静電レンズにおいて、10-4から10-2mbarの間の圧力を維持するように構成されている、請求項に記載の装置(100)。
【請求項9】
粒子放出サンプル(1)のサンプル表面(Ss)から放出される荷電粒子に関連する少なくとも1つのパラメータを決定するための測定領域(3)を含み、前記測定領域(3)は、前記粒子の少なくとも一部が前記測定領域(3)に入ることを可能にする入口(8)を含み、第2の端部(17)は、前記測定領域(3)の前記入口に配置されている、請求項のいずれか一項に記載の装置(100)。
【請求項10】
チャンバ(11)を含み、前記サンプル(1)および前記壁(6)は、前記チャンバ(11)に配置され、前記チャンバ(11)は、前記アパーチャ(3)と前記サンプル表面(Ss)との間の前記空間から外向きに圧力勾配を提供するように真空排気される、請求項からのいずれか一項に記載の装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルとアパーチャとの間の距離を制御するための方法および装置に関する。より詳細には、本発明は、真空排気される低圧チャンバからサンプル領域を分離する壁におけるアパーチャとアパーチャに面するサンプル表面との間の距離を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧X線光電子分光(APXPS: Ambient Pressure X-ray Photoelectron Spectroscopy)および大気圧光電子分光(APPES: Ambient Pressure Photo Emission Spectroscopy)のための先行技術システムにおいては、たとえば、オージェプロセスから生じる光電子または電子を提供するためにサンプルを照射している間に、サンプルに高圧が提供される。光電子は、差動排気される静電レンズシステムにおいて収集される。静電レンズシステムは、測定領域への入口上へ光電子を集束させる。静電レンズシステムにおいて高真空を可能にするため、静電レンズシステム内へのアパーチャは小さくなければならない。
【0003】
先行技術においてAPPESは3つの方法で実行される。1)サンプルをチャンバに入れてチャンバ全体をmbarの範囲の大気圧まで上昇させるが、これはバックフィルアプローチとして知られている。2)はバックフィルアプローチの変形であり、異なる実験のセットに対して異なるチャンバが求められてチャンバが交換され、したがってこの方法は交換可能チャンバアプローチと呼ばれている。3)インサイチュ気体セルが分析器の前面アパーチャでサンプルをカプセル化する。これら3つの方法はすべてフローモードで動作させることができ、気体は流入すると同時に出口を介して排出されるか、または気体は分析器の前円錐およびポンプ装置を介してのみ排出される。電子は、大気圧の気体中で非常に小さな平均自由行程を有する。したがって、電子がサンプルから移動して気体を通過し、レンズシステムに入ることを可能にするため、アパーチャとサンプルとの間の距離を小さく保たねばならない。
【0004】
圧力推定の一般的な先行技術は、Ogletreeら、「Rev. Sci. Instrum. (2002) 73、3872」に由来し、アパーチャを通るサンプルチャンバと静電レンズチャンバとの間の圧力プロファイルは、単純な分析関数を用いて推定される。圧力プロファイルは、H. Bluhm、「J. Electron. Spectrosc. Relat. Phenom.、177 (2010)、71-84」において、およびJ. Kahkら、「J. Electron. Spectrosc. Relat. Phenom.、205 (2015) 57-65」においても議論されている。上記記事において、サンプル表面での圧力は、サンプル表面とアパーチャとの間の距離が1アパーチャ直径のサンプルチャンバにおいて測定された圧力の95%であり、サンプル表面とアパーチャとの間の距離が2アパーチャ直径のサンプルチャンバにおいて測定された圧力の98%であると推定される。Kahkらは、サンプル表面での圧力は圧力とともに変化することも計算した。圧力が高いほど、1直径距離についての圧力測定値が正確になるが、低圧では2直径の方が正確になる。サンプルから円錐までの距離は、上記記事で説明されているように、サンプル表面の圧力に関連している。
【0005】
したがって、特にAPPESにおいて、サンプル表面とアパーチャとの間に正しい距離を保つことが非常に重要である。先行技術においてサンプル表面とアパーチャとの間の距離は、マニピュレータの目盛りを用いて、またはカメラ顕微鏡で、サンプルとアパーチャとの間の間隙を目によって手作業で観察することによって制御されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ogletreeら、「Rev. Sci. Instrum. (2002) 73、3872」
【文献】H. Bluhm、「J. Electron. Spectrosc. Relat. Phenom.、177 (2010)、71-84」
【文献】J. Kahkら、「J. Electron. Spectrosc. Relat. Phenom.、205 (2015) 57-65」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、真空排気される低圧チャンバからサンプル領域を分離する壁におけるアパーチャとアパーチャに面するサンプル表面との間の距離を制御するための方法およびコンピュータプログラムを提供することであり、この方法およびコンピュータプログラムは、先行技術の方法およびコンピュータプログラムに対する代替である。
【0008】
本発明の別の目的は、真空排気される低圧チャンバからサンプル領域を分離する壁におけるアパーチャとアパーチャに面するサンプル表面との間の距離を制御することができる装置を提供することであり、この方法およびコンピュータプログラムは、先行技術の方法およびコンピュータプログラムに対する代替である。
【0009】
これらの目的に対する好ましい解決策が独立請求項に提示される。
【0010】
さらなる利点が従属請求項の特徴で提供される。
【0011】
本発明による方法およびコンピュータプログラムは主に、粒子放出サンプルから放出される荷電粒子に関連する少なくとも1つのパラメータを決定するための分析器装置に用いられるように意図されている。主に、この分析器装置は電子分光計である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、真空排気される低圧チャンバからサンプル領域を分離する壁におけるアパーチャとサンプル領域においてアパーチャから離れて配置されたサンプルのアパーチャに面するサンプル表面との間の距離dを制御するための方法が提供される。サンプル表面とアパーチャとの間の距離dは、位置決めシステムにより制御することができる。この方法は、
a)壁とサンプル表面との間の体積内へ気体を向けるように構成された、気体供給装置に接続された、少なくとも1つの気体出口を提供するステップと、
b)気体供給装置で、上記少なくとも1つの気体出口から一定流の気体を供給することによってサンプル圧力を提供するステップと、
c)所定の時間間隔で低圧チャンバ内部の圧力を測定するステップと、
d)低圧チャンバ内部の圧力を一定に保つように閉ループで位置決めシステムを制御し、これによってアパーチャとサンプル表面との間の距離を一定に保つステップと
を含むことを特徴とする。
【0013】
第1の態様による方法は、非常に正確な距離制御を提供する。特に、小さな距離において、第1の態様による方法は極めて正確であり、光学顕微鏡を用いて距離を制御する先行技術の方法より良い。50μm未満の距離では、光学顕微鏡におけるコントラストはしばしば非常に悪く、信頼できる距離測定が困難である。
【0014】
本発明の第1の態様による方法は、たとえば、サンプルの熱膨張によるアパーチャに対するサンプル表面の移動を補償するために用いることができる。
【0015】
この方法は、気体の流れが一定に保たれることを要求する。
【0016】
壁という用語は広く解釈されるべきである。アパーチャが形成される壁は、任意の形状を有することができる。
【0017】
本発明の第1の態様による方法では、サンプルとアパーチャとの間に一定の距離を維持することができる。この方法は、サンプル表面と一定流の気体のためのアパーチャとの間の圧力が、サンプル表面とアパーチャとの間の距離が減少するとともに増加すること、およびアパーチャの背後/内側に配置された低圧チャンバ内部の圧力が、アパーチャの外側に対する圧力が増加するとともに増加するという発見に基づいている。正しい距離は最初に絶対測定によって設定することができる。このような絶対測定は多くの異なる方法で実行することができる。圧力を異なる距離に対して較正することが可能であり得る。したがって、低圧チャンバにおける圧力が所望の距離について、以前に決定された圧力に対応する位置にサンプル表面を移動させることが可能であり得る。
【0018】
サンプルとアパーチャとの間の距離を制御しなければならない状況の一例は、サンプルが加熱されるときである。加熱されるとサンプルが膨張するため、サンプル表面はアパーチャに向かって移動することになり、結果として距離が減少する。本発明による方法は、サンプルとアパーチャとの間の小さな距離では非常に正確であるが、より長い距離ではその精度を失う。
【0019】
低圧チャンバにおける圧力は、10-4から10-2mbarの間の間隔とすることができ、好ましくは2×10-3mbarより低い。低圧チャンバが電子を電子ビームに集束させるように構成された静電レンズであるときのような多くの用途に低圧が必要である。
【0020】
サンプル圧力は、1mbarより高く、好ましくは10mbarより高くなるように提供することができる。サンプル圧力は数barにも高くなることがある。低圧チャンバの内部とサンプルでの圧力、すなわち、サンプル圧力との間に実質的な圧力差を維持すべきである。小さなアパーチャのための低圧チャンバ内部の圧力差を検出することができるように実質的な圧力差が必要である。
【0021】
アパーチャは、端面の平面において1mmより小さな最大寸法を有することができる。端面の平面におけるアパーチャの最大寸法は好ましくは300μmより小さく、100μmより小さくてもよい。円形アパーチャでは最大寸法はアパーチャの直径に等しい。アパーチャとサンプルとの間に小さな距離を有することができるように小さなアパーチャが必要であり、これは高サンプル圧力での光電子分光計にとって特に望ましい。サンプル表面で高圧を維持すべき場合、アパーチャの直径により、アパーチャとサンプル表面との間の最小達成可能距離が決まる。確立された理論によれば、サンプル表面とアパーチャとの間の距離がアパーチャの直径の2倍であると、アパーチャの反対側に真空が存在するとき、アパーチャから非常に大きな距離での圧力の99%のサンプル表面での圧力が可能になる。アパーチャの直径に等しい距離で圧力はアパーチャから大きな距離での圧力の95%である。したがって、アパーチャとサンプル表面との間の可能な距離は、サンプル表面で妥当な圧力を維持するためアパーチャの直径にほぼ等しい。サンプル表面とアパーチャとの間の距離が非常に小さいと、アパーチャの非常に小さな直径が必要である。
【0022】
サンプルとアパーチャとの間の距離は、好ましくは、この方法が非常に高精度で機能するためにアパーチャの直径の3倍以下に保たれるべきである。
【0023】
低圧チャンバは、電子を集束させるための静電レンズとすることができる。
【0024】
この方法が適切に機能するために、圧力は、サンプルとアパーチャとの間の体積から外向きの方向に減少すべきである。1barを上回るサンプル圧力では、サンプルは大気圧に配置することができる。しかしながら、より低いサンプル圧力では、サンプルおよび壁はチャンバに配置すべきであり、チャンバは、アパーチャとサンプル表面との間の体積から外向きに圧力勾配を提供するために真空排気される。
【0025】
本発明の第2の態様によれば、真空排気される低圧チャンバからサンプル領域を分離する壁におけるアパーチャとサンプル領域においてアパーチャから離れて配置されたサンプルのアパーチャに面するサンプル表面との間の距離を制御するためのコンピュータプログラムが提供される。サンプル表面とアパーチャとの間の距離は、位置決めシステムにより制御することができる。気体供給装置に接続された少なくとも1つの気体出口が、壁とサンプル表面との間の体積内へ気体を向けるように構成されている。上記コンピュータプログラムは、命令を含み、命令は、少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、少なくとも1つのプロセッサに、
a)一定流の気体を上記少なくとも1つの気体出口(5)に供給するように気体供給装置(20)を制御するステップと、
b)低圧チャンバ(4)内部の圧力についての圧力値を所定の時間間隔で受け取るステップと、
c)閉ループで、圧力値を一定に保つように位置決めシステムを制御し、これによってアパーチャ(3)とサンプル表面(Ss)との間の距離(d)を一定に保つステップと
を実行させる。
【0026】
コンピュータプログラムは、本発明の第1の態様による方法に関連して説明したような利点を与える。
【0027】
壁という用語は広く解釈されるべきである。アパーチャが形成される壁は、任意の形状を有することができる。
【0028】
本発明の第3の態様によれば、アパーチャとサンプル表面との間の距離を制御するための第2の態様によるコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0029】
本発明の第4の態様によれば、サンプルのサンプル表面から荷電粒子を収集するための装置が提供される。この装置は、サンプルをサンプル領域に保持するためのサンプルホルダと、低圧チャンバと、を含み、低圧チャンバは、サンプル領域を低圧チャンバから分離する壁においてアパーチャを含み、アパーチャは、荷電粒子をサンプル表面から低圧チャンバ内へ収集するために、サンプルがサンプルホルダに配置されているとき、サンプルのサンプル表面に面するように配置されている。この装置はまた、サンプルホルダの位置、したがって、サンプル表面とアパーチャとの間の距離を制御するための位置決めシステムと、低圧チャンバの真空排気のための手段と、を含む。この装置は、壁とサンプル表面との間の体積内へ気体を向けるように構成された少なくとも1つの気体出口と、上記少なくとも1つの気体出口から一定流の気体を提供してサンプル圧力を供給するための気体供給装置と、低圧チャンバ内部の圧力を測定するための手段と、圧力を測定するための手段および位置決め手段に接続され、圧力を測定するための手段で、所定の時間間隔で圧力を測定して、低圧チャンバ内部の圧力を一定に保つように位置決めシステムを閉ループ制御により制御し、これによってアパーチャとサンプル表面との間の距離を一定に保つように構成された制御ユニットと、を含むことを特徴とする。この装置に伴う利点は、本発明の第1の態様について上で議論したものと同じである。
【0030】
低圧チャンバは、アパーチャが配置されている第1の端部と、第2の端部と、を含む静電レンズシステムとすることができ、レンズシステムは、サンプル表面から放出されて第1の端部でアパーチャを通って入る荷電粒子の粒子ビームを形成して、荷電粒子を第2の端部に輸送するように構成されている。
【0031】
低圧チャンバは他のタイプのチャンバとすることができるが、この装置は静電レンズで実装するのに特に適している。
【0032】
低圧チャンバにおける圧力は10-4から10-2mbarの間の間隔とすることができ、好ましくは2×10-3mbarより低い。低圧チャンバが電子を電子ビームに集束させるように構成された静電レンズであるときのような多くの用途に低圧が必要である。
【0033】
一定流の気体を提供するための手段は、1mbarより高い、好ましくは10mbarより高いサンプル圧力を提供するように構成されている。低圧チャンバの内部とサンプルでの圧力、すなわち、サンプル圧力との間に実質的な圧力差を維持すべきである。小さなアパーチャのための低圧チャンバ内部の圧力差を検出することができるように実質的な圧力差が必要である。低圧チャンバにおける圧力は通常、対数感度を有する圧力計で測定される。真空側の圧力が低いほど、このような圧力計の感度は良好になる。
【0034】
本発明の第1の態様について上で議論したアパーチャサイズおよびサンプルからアパーチャの距離は、この装置についても有効である。
【0035】
この装置は、粒子放出サンプルのサンプル表面から放出される荷電粒子に関連する少なくとも1つのパラメータを決定するための測定領域を含むことができ、上記測定領域は、上記粒子の少なくとも一部が測定領域に入ることを可能にする入口を含み、第2の端部は測定領域の入口に配置されている。これは、本発明の実装に特に適した技術分野である。
【0036】
この装置が適切に機能するために圧力はサンプルとアパーチャとの間の体積から外向きの方向に減少すべきである。1barを上回るサンプル圧力ではサンプルは大気圧に配置することができる。しかしながら、より低いサンプル圧力ではサンプルおよび壁はチャンバに配置すべきであり、これはアパーチャとサンプル表面との間の体積から外向きに圧力勾配を提供するために真空排気される。この目的のためこの装置は真空チャンバを含むことができ、サンプルおよび壁はこのチャンバに配置され、真空チャンバは、アパーチャとサンプル表面との間の体積から外向きに圧力勾配を提供するために真空排気される。
【0037】
以下に図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】粒子放出サンプルのサンプル表面から放出される荷電粒子に関連する少なくとも1つのパラメータを決定するための装置を部分的に断面で示す図である。
図2】制御されるべき距離が間に存在するサンプルとアパーチャとをより詳細に示す図である。
図3】本発明による方法およびコンピュータプログラムを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、粒子放出サンプル1のサンプル表面Ssから荷電粒子を収集し、荷電粒子に関連する少なくとも1つのパラメータを決定するための装置100を部分的に断面で示す。装置100は、サンプル1をサンプル領域2に保持するためのサンプルホルダ10を含む。この装置はまた低圧チャンバ4を含み、低圧チャンバ4は、サンプル領域2を低圧チャンバ4から分離する壁6にアパーチャ3を含み、アパーチャ3は、荷電粒子をサンプル表面Ssから低圧チャンバ4内へ収集するため、サンプルホルダ10に配置されたサンプル1のサンプル表面Ssに面して配置されている。ヒータ18もサンプルホルダ10上に配置され、サンプル1を加熱するように構成されている。この装置はまた、サンプルホルダ10の位置、したがって、サンプル表面Ssとアパーチャ3との間の距離dを制御するための位置決めシステムPsを含む。この装置はまた、アパーチャ3、サンプルホルダ10および位置決めシステムPsを囲む真空チャンバ11を含む。この装置はまた、低圧チャンバ4の真空排気のための第1のポンプ手段12を含む。さらに、装置100は、壁6とサンプル表面Ssとの間の体積内へ気体を向けるように構成された少なくとも1つの気体出口5と、上記少なくとも1つの気体出口5から気体の流れを提供してサンプル圧力を提供するための気体供給装置20と、を含む。装置100はまた、低圧チャンバ4内部の圧力を測定するための手段Gと、制御ユニットCUと、を含む。制御ユニットCUは、圧力を測定するための第1の圧力測定手段G1および位置決め手段に接続され、圧力を測定するための第1の圧力測定手段G1で、所定の時間間隔で圧力を測定して、低圧チャンバ4内部の圧力を一定に保つように位置決めシステムPsを閉ループ制御により制御し、これによってアパーチャ3とサンプル表面Ssとの間の距離dを一定に保つように構成されている。制御ユニットは入力信号のための入力19を含み、これを用いて位置決めシステムPsを制御することができる。装置100はまた、真空チャンバ11の真空排気のための第2のポンプ手段22と、真空チャンバ11における圧力を測定するための第2の圧力測定手段G2と、を含む。第2のポンプ手段および第2の圧力測定手段G2は両方とも制御ユニットCUに接続されている。
【0040】
低圧チャンバ4は、アパーチャ3が配置されている第1の端部16と、入口8が配置されている第2の端部17と、を含む静電レンズシステムである。レンズシステム13は、サンプル表面Ssから放出されて第1の端部16でアパーチャ3を通って入る荷電粒子から粒子ビームを形成し、荷電粒子を第2の端部17に輸送するように構成されている。装置100は、粒子放出サンプル1のサンプル表面Ssから放出される荷電粒子に関連する少なくとも1つのパラメータを決定するための測定領域3を含む。測定領域3は、上記粒子の少なくとも一部が測定領域3に入ることを可能にする入口8を含む。第2の端部17は、測定領域3の入口に配置されている。電子は入口8を通って測定領域3に入り、ベースプレート7に垂直に近い方向で半球25間の領域に入る電子が半球25間に印加される静電場によって偏向され、静電場によって画定される特定の範囲内の運動エネルギーを有するこれらの電子は、半円を通過した後に検出器装置9に到達することになる。
【0041】
低圧チャンバ4における真空排気のための第1のポンプ手段12は、低圧チャンバ4において1mbar未満、好ましくは10-2mbar未満の圧力を維持するように構成されている。低圧チャンバ4における典型的な圧力は10-3mbarである。一定流の気体を提供するための手段20は通常、1~100mbarのサンプル圧力を提供するように構成されている。
【0042】
真空チャンバは、別個の真空ポンプ(図示せず)によって真空排気される。真空チャンバ11におけるバックグラウンド圧力は通常、10-1から10mbarに維持されるが、サンプル圧力よりかなり低くすべきである。サンプル圧力はしたがって、サンプル表面Ssとアパーチャ3との間の体積における局所圧力である。
【0043】
図2は、制御されるべき距離dが間に存在するサンプルとアパーチャとをより詳細に示す。図2において6つの気体出口5がアパーチャ3の周りに対称的に配置され、そのうち2つだけが図2における断面に示されている。長さ軸Lは、壁6の端面Sに本質的に垂直なアパーチャ3を通って延在するように示されている。
【0044】
アパーチャ3とサンプル表面Ssとの間の距離dを制御するための方法を、図3を参照して説明する。この方法の間、真空チャンバ11は第2のポンプ手段22で真空排気される。真空チャンバ11における圧力は、制御ユニットCUに接続された第2の圧力測定手段G2で監視される。真空チャンバにおける圧力は、サンプル圧力より実質的に低く保たれている。低圧チャンバは第1のポンプ手段12で真空排気される。低圧チャンバ4における圧力は第1の圧力測定手段G1で監視され、好ましくは10-4から10-2mbarの間、好ましくは2×10-3mbarより低く保たれる。第1のステップ101において少なくとも1つの気体出口5が提供され、壁6とサンプル表面Ssとの間の体積内へ気体を向けるように構成される。第2のステップ102において、上記少なくとも1つの気体出口5から一定流の気体を供給することによって一定のサンプル圧力が提供される。一定流の気体は気体供給装置20によって提供され、これは制御ユニットCUによって制御される。制御ユニットCUは、たとえば、入力19上の入力信号によって決定される位置にサンプルを配置するように位置決めシステムを制御する。このような位置決めは、顕微鏡を用いる側からサンプル1および第1の端部16を観察するユーザによってリアルタイムで実行することができる。このように所望の間隙を設定することができる。代替案は、顕微鏡で決定された異なる距離で圧力測定値をまず較正することである。このような較正は1つまたは多くの異なる気体流について行うことができる。このような較正を行った後は顕微鏡を再度用いる必要はないが、低圧チャンバ4における圧力および気体流に基づいて正しい距離dを設定することができる。
【0045】
所望の距離dを設定した後、制御ユニットCUは、サンプル1とアパーチャ3との間の距離dを自動的に制御することができる。この目的のため、第3のステップ103において低圧チャンバ4における圧力は、圧力を測定するための手段Gによって所定の時間間隔で測定される。圧力は制御ユニットCUに登録される。サンプル1がヒータ18を用いて加熱されれば、サンプルは体積が増加することになる。これにより、サンプル1とアパーチャ3との間の距離dが減少することになる。距離dが減少すると、低圧チャンバ4における圧力が高くなる。サンプル1とアパーチャ3との間の距離dの減少を補償するため、制御ユニットCUは第4のステップ104においてアパーチャ3から離れてサンプルを移動させるように位置決めシステムPsを制御する。位置決めシステムPsの制御および第1の圧力測定手段G1での低圧チャンバ4における圧力の測定は、PID制御のような閉ループ制御を用いて実行される。
【0046】
上述の方法は好ましくはコンピュータプログラムに実装される。コンピュータプログラムは、制御ユニットCUにおける中央処理装置CPU上で実行することができる。コンピュータプログラムは、中央処理装置CPU上で実行されるとき、上述の方法を実行するように制御ユニットCUを制御することになる。
【0047】
上述の実施形態は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される、本発明の範囲から逸脱することなく多くの方法で修正することができる。
【0048】
低圧チャンバは、電子を集束させるための静電レンズでなければならないということはない。低圧チャンバは異なる種類のチャンバであることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 サンプル
2 サンプル領域
3 アパーチャ
3 測定領域
4 低圧チャンバ
5 気体出口
6 壁
7 ベースプレート
8 入口
9 検出器装置
10 サンプルホルダ
11 真空チャンバ
12 第1のポンプ手段
13 レンズシステム
16 第1の端部
17 第2の端部
18 ヒータ
19 入力
20 気体供給装置
G1 第1の圧力測定手段
G2 第2の圧力測定手段
22 第2のポンプ手段
25 半球
100 装置
図1
図2
図3