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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】電磁遮蔽室
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20230516BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20230516BHJP
   G01R 29/10 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
H05K9/00 N
E04B1/92
G01R29/10 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021565197
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049341
(87)【国際公開番号】W WO2021124437
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】507369914
【氏名又は名称】株式会社リケン環境システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】吉原 勝
(72)【発明者】
【氏名】河本 博
【審査官】佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/055578(WO,A1)
【文献】特開平10-209665(JP,A)
【文献】特開2006-344825(JP,A)
【文献】特開平11-145672(JP,A)
【文献】特開2006-253283(JP,A)
【文献】特開2006-303260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
E04B 1/92
G01R 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象を内部に配置可能であり、かつ外部から金属製の回転軸を挿入する貫通孔が形成されたハウジングと、
前記回転軸の軸方向に延在し、かつ前記貫通孔を覆うように前記ハウジングの外壁に取り付けられた電磁シールド手段とを含み、
前記電磁シールド手段は、金属製の枠体と、前記枠体内に配置されたラビリンス構造とを含み、前記ラビリンス構造は、前記回転軸に固定された金属製の複数の円盤状の回転部材と、前記回転部材と近接するように対向して配置され、かつ前記枠体に固定された金属製の複数の静止部材とを含み、
前記複数の回転部材は、外径の異なる複数組の回転部材を含み、
前記複数の静止部材の隣接する一対の静止部材は、電磁遮蔽された内部空間を形成し、1つの内部空間には1つの回転部材が配置され、複数の内部空間に外径が徐々に大きくなるようにまたは徐々に小さくなるように複数の回転部材が各々配置される、電磁遮蔽室。
【請求項2】
前記内部空間を形成する一方の静止部材は、前記回転軸の軸方向に対して第1の角度で傾斜するように取り付けられ、前記回転部材の第1の面と前記一方の静止部材との対向する距離は、半径方向に向かうに従い小さくなる、請求項1に記載の電磁遮蔽室。
【請求項3】
前記内部空間を形成する他方の静止部材は、前記回転軸の軸方向に対して前記第1の角度と同じ角度で傾斜するように取り付けられ、前記回転部材の第1の面と対向する第2の面と前記他方の静止部材との対向する距離は、半径方向に向かうに従い小さくなる、請求項2に記載の電磁遮蔽室。
【請求項4】
前記内部空間を形成する他方の静止部材は、前記回転軸の軸方向に対して前記第1の角度と異なる第2の角度で傾斜するように取り付けられ、前記回転部材の第1の面と対向する第2の面と前記他方の静止部材との対向する距離は、半径方向に向かうに従い小さくなる、請求項2に記載の電磁遮蔽室。
【請求項5】
前記複数の回転部材の配置は、前記回転軸の軸方向に、外径が徐々に大きくなる第1の配置と、外径が徐々に小さくなる第2の配置とを含む、請求項1に記載の電磁遮蔽室。
【請求項6】
前記複数の回転部材は、前記回転軸を挿入するための第1の開口を含み、前記複数の静止部材は、前記回転軸を挿入するための第2の開口を含み、
前記複数の回転部材は、第1の開口と前記回転軸との間に隙間が生じないように前記回転軸に固定され、第2の開口と前記回転軸との間に間隙が形成される、請求項1に記載の電磁遮蔽室。
【請求項7】
前記回転軸は、前記ハウジングに電気的に接続され、前記ハウジングがGNDレベルに接続される、請求項1に記載の電磁遮蔽室。
【請求項8】
前記枠体は、円筒状の外形を有し、前記回転部材および前記静止部材は円板状である、請求項1に記載の電磁遮蔽室。
【請求項9】
前記枠体は、矩形状の外形を有し、前記回転部材は円板状であり、前記静止部材は矩形状の薄板である、請求項1に記載の電磁遮蔽室。
【請求項10】
前記回転軸は、モータ軸であり、前記ハウジング内には、前記モータ軸に接続された電子機器が配置される、請求項1に記載の電磁遮蔽室。
【請求項11】
前記電子機器は、交流発電機器である、請求項10に記載の電磁遮蔽室。
【請求項12】
前記回転軸には、アースリングが取り付けられる、請求項に記載の電磁遮蔽室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等から放射される電磁ノイズ等の測定に利用される電磁遮蔽室に関し、特に、電磁遮蔽室を金属製の回転部材が貫通するときの電磁シールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器から放射される電磁ノイズを測定する場合、測定される電子機器以外の電磁波の影響を極力なくす必要がある。それ故、このような測定は、電磁遮蔽室内で実施される。電磁遮蔽室は、内部空間を金属で包囲することで内外からの電磁波を遮蔽した内部空間を提供する。また、電磁遮蔽室の内壁に電波吸収体を設けることで電子機器から放射された電磁ノイズの反射の影響を低減し、測定精度を改善している(例えば、特許文献1)。
【0003】
電磁遮蔽室の側壁等に外部に通じる開口部を形成した場合、開口部を介して外部から電磁ノイズが入り込まないようにするため、開口部に電磁シールド部材を取り付けることが行われている(例えば、特許文献2、3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-57487号公報
【文献】特許第2662110号公報
【文献】特許第2695298号公報
【文献】特開平8-125378号公報
【文献】特開2008-82945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電磁遮蔽室において測定する電子機器が多種に広がり、その1つに、モータに接続された電子機器から放射される電磁ノイズを測定することが要求されている。図1に、このような測定を行う電波吸収体を備えた電磁遮蔽室の一例を示す。
【0006】
図1(A)は、頂部を切り取ったときの電磁遮蔽室を上から見た上面図、図1(B)は、支持台と電子機器の正面図、図1(C)は、支持台の側面図である。電磁遮蔽室は、概ね矩形状の金属製のハウジング10を有し、その内壁には、複数の電波吸収体20が設けられる。ハウジングの側面12Aには、複数の貫通孔14A~14Dが形成され、その内の1つの貫通孔14Aには、モータ軸16が挿入され、モータ軸16の一方の端部が電子機器30に接続される。モータ軸16は、貫通孔14Aと整合する位置に取り付けられた機械式軸受け(ベアリング)18によって回転可能に支持され、その他方の端部が外部のモータ等の動力源32に接続される。電子機器30は、例えば、発電用モータであり、動力源32によってモータ軸16が回転されたとき交流電流を発生させる。
【0007】
ハウジング10のもう1つの側面12Bには、出入口用の開閉扉16が設けられる。ハウジング10の底面12Cには、アース面50が形成され、アース面50は、ハウジング10を接地(GND)に電気的に接続する。アース面50上には、支持台60が配置される。支持台60上には、モータ軸16によって回転される電子機器30と、これに隣接して配置されたもう1つの電子機器40とが載置される。電子機器40は、例えば、電力用モータ(電子機器30)からの交流電流を受け取り、これを直流電流に変換するインバータを含むコントロールユニットである。
【0008】
電子機器40には、電磁遮蔽室の外部に設置された電源70から電源ケーブル70Aを介して電力が供給される。電源ケーブル70Aは、貫通孔14B内に取り付けられた電源フィルター72を介して電源70に接続される。さらに電子機器40には、外部のモニタリングシステム74から光ファイバ74Aを介して信号が供給される。光ファイバ74Aは、貫通孔14C内に取り付けられたコネクタ76を介してシステム74に接続される。
【0009】
また、ハウジング10内には、電子機器30、40から一定の距離を離間された位置に受信アンテナ80が配置される。受信アンテナ80は、電子機器40から放射される電磁ノイズを測定し、その測定結果は電磁シールドされた同軸ケーブル82および貫通孔14Dを介して外部の測定装置84に出力される。貫通孔14Dには、同軸ケーブル82を測定装置84に接続するためのコネクタ86が取り付けられる。
【0010】
上記したように、外部の動力源32と電子機器30とは、モータ軸16を介して機械的に接続されている。しかし、モータ軸16を機械的強度の高い金属材料で構成した場合には、外部の動力源32で発生した電磁ノイズがモータ軸16を伝わりそれが電磁遮蔽室内に入り込んでしまう。そうすると、電子機器40で放射される電磁ノイズを正確に測定することができなくなってしまう。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、外部からの電磁ノイズの進入を効果的に抑制することができる電磁遮蔽室を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電磁遮蔽室は、測定対象を内部に配置可能であり、かつ外部から金属製の回転軸を挿入する貫通孔が形成されたハウジングと、前記回転軸の軸方向に延在し、かつ前記貫通孔を覆うように前記ハウジングの外壁に取り付けられた電磁シールド手段とを含み、前記電磁シールド手段は、枠体と、前記枠体内に配置されたラビリンス構造とを含み、前記ラビリンス構造は、前記回転軸に固定された少なくとも1つの金属製の回転部材と、前記回転部材に対向し、かつ前記枠体に固定された金属製の静止部材とを含む。
【0013】
ある実施態様では、前記回転軸は、前記ハウジングに電気的に接続され、前記ハウジングがGNDレベルに接続される。ある実施態様では、前記枠体は、金属製であり、前記回転軸は、前記枠体に電気的に接続される。ある実施態様では、前記ラビリンス構造は、前記回転軸の軸方向に複数組の回転部材と静止部材とを含む。ある実施態様では、複数の静止板が前記枠体に取り付けられたとき、静止板は、前記枠体内の軸方向に事実上電磁遮蔽された複数の内部空間を規定し、複数の内部空間の各々に1つの回転部材が配置される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外部から金属製の回転軸を挿入するための貫通孔を覆うようにラビリンス構造の電磁シールド手段を設けたことにより、回転軸を介して電磁ノイズがハウジング内に進入するのを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来の電磁遮蔽室を説明する図であり、図1(A)は、電磁遮蔽室を上面から見た模式図、図1(B)は、測定対象を搭載した支持台の正面図、図1(C)は、支持台とアンテナとの関係を示す側面図である。
図2】本発明の実施例に係るラビリンスシールド構造を備えた電磁遮蔽室を示す図であり、図2(A)は、電磁遮蔽室の斜視図、図2(B)は、概略断面図である。
図3】本発明の実施例に係る電磁シールド部の拡大した概略縦断面図である。
図4図4(A)は、図3のY1-Y1線概略断面図、図4(B)は、図3のY2-Y2線概略断面図である。
図5】本発明の実施例に係るラビリンス構造に使用される回転板と静止板との平面図である。
図6】本発明の第2の実施例に係る電磁遮蔽室の斜視図である。
図7】本発明の第2の実施例に係る電磁シールド部の縦断面図である。
図8】本発明の第3の実施例に係る回転板および静止板を示す図である。
図9図9(A)は、基準(リファレンス)測定条件を示し、図9(B)は、本実施例の電磁シールド部を備えた電磁遮蔽室でのシールド測定条件を示す図である。
図9A】本実験による30MHz~1GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
図9B】本実験による30MHz~1GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
図9C】本実験による30MHz~1GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
図9D】本実験による30MHz~1GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
図10A】本実験による1GHz~6GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
図10B】本実験による1GHz~6GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
図10C】本実験による1GHz~6GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
図10D】本実験による1GHz~6GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、図面に示される形状やスケールは、発明の説明を容易にするために記載されたものであり、実際の製品とは異なることに留意すべきである。
【実施例
【0017】
次に、本発明の実施例について説明する。図2(A)は、本実施例のラビリンスシール構造を備えた電磁遮蔽室の模式的な斜視図、図2(B)は、その概略縦断面図である。本実施例に係る電磁遮蔽室100は、外部から電磁遮蔽された内部空間を提供するハウジング110と、ハウジング110の側面112に取り付けられたラビリンス構造の電磁シールド部120とを含んで構成される。
【0018】
ハウジング110は、概ね図1に示すハウジング10と同様に構成され、すなわち、金属製の矩形状の筐体を含んで構成される。金属は、例えば鉄等の導電率が高い材料であることが望ましい。ハウジング110の内側の側面や上面には、複数の電波吸収体が取り付けられ、底面にはGNDに接地されたアース面が取り付けられ、ハウジング110はGNDに電気的に接続される。
【0019】
ハウジング110の任意の側面112には、外部の動力源に接続されたモータ軸130を挿入するための貫通孔114が形成される。貫通孔114には、モータ軸130を回転可能に支持するための軸受け(ベアリング)132が取り付けられる。
【0020】
電磁シールド部120は、貫通孔114を覆い、かつモータ軸130の軸方向に一定の長さで延在するように側面112に固定される。電磁シールド部120は、金属製の枠体200と、枠体200によって形成された内部空間内に配置されるラビリンス構造300とを含む。金属は、例えば鉄等の導電率が高い材料であることが望ましい。枠体200は、その形状を限定されるものではないが、例えば、複数の金属板を溶接等によって接合することにより矩形状に形成される。
【0021】
図3に電磁シールド部120の拡大した概略縦断面図、図4(A)に図3のY1-Y1線概略断面図、図4(B)に図3のY2-Y2線概略断面図、図5に回転板と静止板との平面図をそれぞれ示す。枠体200は、モータ軸130の軸方向に一定の長さで延在し、その一方の端部202は開放され、この開放端202が貫通孔114を覆うようにハウジング110の側面112に取り付けられる。取り付け方法は任意であるが、例えば、端部202にフランジを設け、当該フランジを側面112に溶接したり、あるいはネジ止めされる。側面112の外側には、貫通孔114と整合する位置に軸受け132が取り付けられ、貫通孔114とモータ軸130との間隙には、電磁シールド用の導電性物質(図示省略)を充填するようにしてもよい。軸受け132と対向する側壁112の内側には、モータ軸130の外周にアースリング134が取り付けられる。これにより、モータ軸130は、アースリング134を介してハウジング100のGNDに電気的に接続される。
【0022】
枠体200の一方の端部202と対向する他方の端部204には、側板206が取り付けられ、側板206には、モータ軸130を挿入するための貫通孔208が形成される。側板206の内側の貫通孔208と整合する位置には、回転軸130を回転可能に支持するための軸受け(ベアリング)210が取り付けられる。貫通孔208とモータ軸130との間隙には、電磁シールド用の導電性物質(図示省略)を充填するようにしてもよい。また、側板206の外側のモータ軸130にはアースリング212が取り付けられ、モータ軸130は、枠体200およびハウジング100のGNDに電気的に接続される。
【0023】
ラビリンス構造300は、モータ軸130の軸方向に、複数組の円盤状の回転板230と、回転板230と近接するように対向して配置された静止板240とを含んで構成される。回転板230は、図5(A)に示すように、薄板の金属から構成され、その外径はDaであり、中央には、開口径Dbの円形状の開口232が形成されている。金属は、例えば鉄等の導電率が高い材料であることが望ましい。本例では、ラビリンス構造300は、外径Daの異なる3種類の回転板230A、230B、230Cを用いている。それぞれの外径Daは、例えば、200mm、250mm、280mmである。開口径Dbは、各回転板230A~Cに共通であり、例えば、50mmである。開口径Dbは、モータ軸130の外径とほぼ等しく、開口232とモータ軸130との間に隙間が生じないように回転板230A~230Cがモータ軸130に取り付けられる。例えば、回転板230A~Cの開口232内にモータ軸130が嵌合される。
【0024】
静止板240は、図5(B)に示すように、薄板の金属から構成され、縦Ly、横Lxの矩形状を有し、中央には、円形状の開口242が形成される。金属は、例えば鉄等の導電率が高い材料であることが望ましい。静止板240の開口径Dcは、回転板230の開口径Dbよりも大きく、モータ軸130が回転したとき、静止板240はモータ軸130に干渉しない。但し、開口242とモータ軸130との間隙を出来るだけ小さくし、電磁波が間隙を通り難くすることが望ましい。縦Ly、横Lxは、枠体200の外径寸法に応じて選択される。
【0025】
回転板230と静止板240とは、図3に示すように交互に配置される。回転板230の中央部には、回転板230をモータ軸130に固定するための固定具234が取り付けられる。これにより、モータ軸130が回転するととき、回転板230も同時に回転する。
【0026】
枠体200の内周には、一対の静止板240を固定するためのU字型の固定具244が取り付けられる。静止板240の外縁が固定具244に溶接またはネジ等により接合される。静止板240が固定具244に接合されたとき、枠体200の内部は、静止板240によって分割された複数の内部空間が形成され、内部空間は、中央の開口242によってのみ隣接する内部空間に繋がる。言い換えれば、内部空間は、静止板240によって概ね電磁遮蔽された空間である。一対の静止板240によって形成された内部空間内に1つの回転板230A~Cがそれぞれ位置決めされる。回転板230A~Cとそれぞれの静止板240との間隔Sは、概ね10mmである。3種類の回転板230A~Cは、その外径Daが徐々に大きくなり、その後、徐々に小さくなるように、あるいはその反対に、外径Daが徐々に小さくなり、その後、徐々に大きくなるように配置される。これにより、電磁シールド部120内には、モータ軸130の軸方向に迷路状の空間が形成される。つまり、軸受け210から見ると、軸受け210の空間は、静止板240の開口242を介して隣の空間に繋がり、そこで外径Daの大きな回転板230Aと静止板240とにおって折れ曲がった空間が形成され、その空間はさらに静止板240の開口242を介して隣の空間に繋がる。このようなラビリンス状の空間は、モータ軸130または回転板230A~Cから空間に放射される波長の異なる電磁ノイズを遮蔽するのに効果的である。
【0027】
モータ軸130の一方の端部は、図1に示したように、例えば発電用モータ(電子機器30)に接続され、他方の端部は、外部の動力源32に接続される。また、発電用モータに隣接して、インバータ等を含むコントロールユニット(電子機器40)が配置され、コントロールユニットは、発電用モータで発電された交流電流を入力し、これを直流電流に変換する。受信アンテナ80は、コントロールユニットの動作時に発生される電磁ノイズを測定する。測定結果を表す信号は、電磁シールドされた同軸ケーブル82を介して外部の測定装置84へ出力される。
【0028】
本実施例では、モータ軸130を金属材料で構成するため、外部の動力源32からの任意の駆動力または回転数で駆動されたモータ軸130を電子機器30に接続させることができる。また、モータ軸130およびラビリンス構造の枠体200をハウジング110と同じGNDレベルにすることで、モータ軸130を流れる電磁ノイズをGNDに落とすことができる。さらに、モータ軸130から回転板230に到達した電磁ノイズは、回転板230から空間に放射されるが、放射された電磁ノイズは、静止板240によって遮蔽され、静止板240で捕獲された電磁ノイズがGNDに落とされる。さらに回転板240の外径Daを変化させ、枠体内に迷路状の空間を形成することで、広範囲の周波数(例えば、30MHz~6GHz)の電磁ノイズを遮蔽することができる。
【0029】
このように、金属製のモータ軸130により誘導される電磁ノイズが電磁シールド部120によって効果的に抑制または低減され、電磁遮蔽室内においてコントロールユニット(電子機器40)から放射される電磁ノイズをより正確に測定することが可能になる。
【0030】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図6に示すように、電磁シールド部120Aは、円筒状の枠体から構成され、その円柱状の内部空間内にラビリンス構造が配置される。図7(A)、(B)は、図6に示す電磁シールド部120Aを取り付けた場合の断面図であり、Y1-Y1線断面およびY2-Y2線断面は、図4(A)、(B)のY1-Y1線断面およびY2-Y2線断面にそれぞれ対応する。本実施例においても、モータ軸130は、枠体200の略中心を通り、モータ軸130には、複数の回転板が取り付けられる。1つの回転板の回りを包囲する静止板の形状は、枠体200の内部空間に整合するように概ね円形状であり、その外周部が固定具244によって固定される。
【0031】
本実施例によれば、円柱状の内部空間内に、モータ軸130の回りに回転対称となるように静止板および回転板を取り付けることで、モータ軸130の半径方向に均一な電磁シールド空間を形成することができる。これにより、モータ軸130から誘導または放射される電磁ノイズが電磁遮蔽室内に進入するのを効果的に抑制することができる。
【0032】
次に、本発明の第3の実施例を図8に示す。第1の実施例では、静止板240は、モータ軸130の軸方向に対してほぼ垂直に取り付けられたが、本実施例では、図8(A)に示すように、回転板230の一方の面と対向する静止板240Bをモータ軸130に対して傾斜させる。この場合、静止板240Bと回転板230との対向する距離d1、d2は、半径方向に向かうに従い小さくなる。これにより、波長の異なる電磁ノイズを効果的にシールドすることができる。また、図8(B)に示すように、回転板230の他方の面と対向する静止板240Cをモータ軸130の軸方向に対して傾斜させるようにしてもよい。静止板240Cの傾斜角は限定されないが、例えば、静止板240Bと同じ角度で傾斜させるようにしてもよいよいし、あるいは異なる角度で傾斜させることで静止板240Cと回転板230との対向する距離を、静止板240Bと回転板230間の距離d1、d2と異ならせるようにしてもよい。
【0033】
上記実施例の変形例として、図2に示す電磁シールド部120や図6に示す電磁シールド部120Aの内部空間内に、電磁ノイズを吸収するための電波吸収体を設けるようにしてもよい。電波吸収体は、例えば、フェライトタイルである。例えば、枠体200の内壁の全部またはその一部にフェライトタイルを貼り付けたり、あるいは静止板の表面の全部またはその一部にフェライトタイルを貼り付けることが可能である。また、回転体の表面の全部またはその一部にフェライトタイルを貼り付けることも可能である。これにより、モータ軸130から誘導または放射された電磁ノイズが枠体200の内壁や静止板の表面で吸収され、ラビリンス構造による電磁シールド効果をさらに高めることが可能である。
【0034】
なお、上記実施例では、複数対の回転板と静止板とによりラビリンス構造を構成したが、これは一例であり、少なくとも一対の回転板と静止板とを含む構造であってもよい。さらに電磁シールド部120の枠体200を矩形状にしたが、これは一例であり、例えば、円筒状であってもよい。この場合、静止板は、枠体の形状に合わせて円形状にすることが望ましい。また、上記実施例では、モータ軸を貫通孔に挿入する例を示したが、モータ軸以外にも何らかの動力源に接続された回転軸を貫通孔に通す場合にも同様に適用される。
【0035】
次に、本実施例の電磁シールド部を備えた電磁遮蔽室の性能を測定した実験結果について説明する。図9(A)は、基準(リファレンス)を測定するときの実験条件を示している。図に示すように、送信アンテナ300、受信アンテナ310、測定機器(周波数アナライザ)320、アンプ330を準備し、送信アンテナ300および受信アンテナ310を同軸ケーブル340を介して測定機器320およびアンプ330に接続する。送信アンテナ300には、30MHz~1GHz帯では小型バイコニカルアンテナを使用し、1~6GHz帯ではダブルリッジドガイドホーンアンテナを使用し、受信アンテナ310には、30MHz~1GHz帯ではバイログアンテナを使用し、1~6GHz帯ではダブルリッジドガイドホーンアンテナを使用した。送受信アンテナ間の距離Lは、2.5mである。測定機器320により送信アンテナ300から出力される電磁波の周波数を30MHz~6GHzまで変化させ、そのときに受信アンテナ310で受信した電磁波の強度を測定し、これを基準強度とした。
【0036】
図9(B)は、シールド測定時の実験条件を示している。送信アンテナ300は、床面350から電磁シールド部120の開口中心(またはモータ軸130の中心)までの高さH(1.64m)に配置される。受信アンテナ310は、電磁遮蔽室のハウジング110内に、距離L、高さHで配置される。電磁ケーブル340は、ハウジング110のコネクタ360を介して電磁遮蔽室外に配置されたアンプ330に接続され、アンプ330で増幅された受信信号が測定機器320に出力される。測定機器320は、30MHz~6GHzで送信アンテナ300から出力される電磁波の周波数を変化させ、そのときに受信アンテナ310で受信した電磁波の強度を測定した。また、実験では、電磁シールド部120の構成を変化させ、例えば、電磁シールド部120の枠体のみを用いた場合や電磁シールド部120内にラビリンス構造を配置した場合の電磁波を測定した。
【0037】
図9A図9Dは、30MHz~1GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフ、図10A図10Dは、1GHz~6GHzの電磁波のシールド特性を示すグラフである。これらのシールド特性は、電磁波の基準強度とシールド測定時の強度とを比較し、その減衰率を表したものである。
【0038】
図9Aにおいて、実線は、電磁シールド部120が構成Aのときのシールド特性を示している。構成Aとは、電磁シールド部120が筐体のみの構成(つまり、枠体200と側板206と軸受け210と軸受け132)である。破線は、実線Aの構成にさらにモータ軸130を追加した構成Bのシールド特性を示している。この場合、モータ軸130により電磁遮蔽室内に電磁波が誘導されるため、そのシールド効果が大きく低下していることが分かる。細線は、構成Bにさらにアースリング134を追加した構成Cのシールド特性を示している。この場合、モータ軸130から放射された電磁ノイズが電磁シールド部120の筐体を介してアース(GND)に落とされるため、シールド効果が構成Bのときよりもかなり改善していることが分かる。点線は、構成Cにされにアースリング212を追加した構成Dのシールド特性を示している。この場合も同様に電磁ノイズがアースに落とされ、構成Cと同等のシールド効果が得られていることが分かる。
【0039】
図9Bにおいて、構成Aおよび構成Bは、図9Aのときと同じである。細線は、電磁シールド部120がラビリンス構造1を備えた構成Eのシールド特性を示している。ラビリンス構造1とは、静止板240と回転板230と固定部234と静止板240の1セットを含む構造である。この場合、モータ軸130から放射される電磁ノイズがラビリンス構造1で捕獲されることで、構成Bのときよりもシールド効果が改善していることが分かる。点線は、構成Eにアースリング212を追加した構成Fのシールド特性を示している。この場合、ラビリンス構造1により捕獲された電磁ノイズがアースに落とされるため、さらにシールド効果が改善していることが分かる。
【0040】
図9Cにおいて、構成Aおよび構成Bは、図9Aのときと同じである。細線は、電磁シールド部120がラビリンス構造2を備えた構成Gのシールド特性を示している。ラビリンス構造2とは、ラビリンス構造1のセットを2セット含む構造である。この場合、モータ軸130から放射される電磁ノイズがラビリンス構造2で捕獲されることで、構成Bや構成E(ラビリンス構造1)のときよりもシールド効果が改善していることが分かる。点線は、構成Gにアースリング212を追加した構成Hのシールド特性を示している。この場合、ラビリンス構造2により捕獲された電磁ノイズがアースに落とされるため、さらにシールド効果が改善していることが分かる。
【0041】
図9Dにおいて、構成Aおよび構成Bは、図9Aのときと同じである。細線は、ラビリンス構造3を備えた構成Iのシールド特性を示している。ラビリンス構造3とは、ラビリンス構造1のセットを3セット含む構造である。この場合、モータ軸130から放射される電磁ノイズがラビリンス構造3で捕獲されることで、構成Bや構成E、G(ラビリンス構造1、2)のときよりもシールド効果が改善していることが分かる。点線は、構成Iにアースリング212を追加した構成Jのシールド特性を示している。この場合、ラビリンス構造3により捕獲された電磁ノイズがアースに落とされるため、さらにシールド効果が改善していることが分かる。
【0042】
図10A図10Dは、図9A図9Dの実験結果にそれぞれ対応する。図10Aにおいて、電磁波の周波数がGHz帯の場合、構成Aによるシールド効果は、MHz帯のときよりも良好ではないことが分かる。他方、アースリングを備えた構成C、Dでは、シールド効果が改善されている。図10Bないし図Dにおいて、電磁シールド部120がラビリンス構造1~3を備えた場合(構成E、F、G、H、I、J)、かなり顕著なシールド効果が得られることが分かる。
【0043】
本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
100:電磁遮蔽室
110:ハウジング
112:側面
114:貫通孔
120:電磁シールド部
130:モータ軸
132:軸受け
134:アースリング
200:枠体
202、204:端部
206:側板
208:貫通孔
210:軸受け
212:アースリング
230:回転板
232:開口
234:固定具
240:静止板
242:開口
244:固定具
300:ラビリンス構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D