(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-15
(45)【発行日】2023-05-23
(54)【発明の名称】改良された酸素バリア特性を有する硬化性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20230516BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230516BHJP
C08K 9/10 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08G59/20
C08L63/00 Z
C08K9/10
(21)【出願番号】P 2022554897
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 EP2021056111
(87)【国際公開番号】W WO2021180819
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】102020000005449
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジオ・マッキ
(72)【発明者】
【氏名】パオロ・ヴァッカ
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-536079(JP,A)
【文献】国際公開第2020/012396(WO,A1)
【文献】特開2016-199673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00 ~ 59/72
C08L 1/00 ~ 101/14
C08K 3/00 ~ 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールFエポキシ樹脂、
ビスフェノールFエポキシ樹脂以外の第二のビスフェノールエポキシ樹脂、少なくとも1つのゴム変性エポキシ樹脂
、少なくとも1つのエポキシアクリレート成分
、及び少なくとも1つの熱可塑性充填剤を含む硬化性組成物であって、
エチレン-ビニルアルコール共重合体カプセルが前記組成物中に分散しており、ビスフェノールFエポキシ樹脂と、前記カプセルとの質量比が1から10の間であることを特徴とする、硬化性組成物。
【請求項2】
ビスフェノールFエポキシ樹脂の、第二のビスフェノールエポキシ樹脂に対する質量比が2から10の間である、請求項
1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記ビスフェノールFエポキシ樹脂は、数平均分子量が700g/mol未満である液状のエポキシ樹脂である、請求項1
又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体カプセルと、前記少なくとも1つのゴム変性エポキシ樹脂との質量比が0.5から5の間である、請求項1
から3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つのエポキシアクリレート成分の、前記少なくとも1つのゴム変性エポキシ樹脂に対する質量比が0.1から1の間である、請求項1
から4のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記ゴム変性エポキシ樹脂が、全硬化性組成物の100質量部に対して、1から10質量部の量で存在する、請求項1
から5のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記ゴム変性エポキシ樹脂が、ブタジエン及びアクリロニトリルのうち少なくとも1つを含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記エポキシアクリレート成分が、全硬化性組成物の100質量部に対して、1から5質量部の量で存在する、請求項1
から7のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つのエポキシアクリレート成分が、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールFジアクリレートから選択され、任意選択でトリメチロールプロパントリメタクリレート又はトリメチロールプロパントリアクリレートと組み合わせられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの熱可塑性充填剤が、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチルアクリレート)、ポリ(スチレン-co-ジビニルベンゼン)、及びポリメチルシルセスキオキサンから選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの熱開始剤を更に含む、請求項1
から10のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
前記熱開始剤が、好ましくは、エチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、2-ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジプロプレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、m-キシリレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、メタンジアミン、イソホロンジアミン、シクロヘキシルプロピレンジアミンメチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、及びドデセニルコハク酸無水物から選択される、請求項11に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
ジシアンジアミド及び有機酸ヒドラジドからなる群から選択される少なくとも1つの潜在性硬化剤を更に含む、請求項1
から12のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性ポリマー組成物、特に、融解又は液状のコーティング法により適用することができ、熱暴露により硬化される熱硬化性組成物、そしてより具体的には、改良された酸素バリア性能に加えて、最適な粘弾性を有し、かつ優れた耐久性を有する硬化物を提供するのに好適なポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、無溶媒性及び優れた耐環境性を有することから、各種要素及び材料を接着させるために広く用いられてきた。例えば、高い接着強度を実現するために、融解又は液状のコーティングにより適用され、かつ、その後の照射又は熱による硬化される数種類の硬化性接着剤組成物が提案されてきた。多くの接着剤技術は、封止剤、すなわち基材間の隙間を埋めてそれらを接合するのに採用される封止剤としての使用に好適な組成物に処方し得るものである。本理由により、本発明の内容には、文言「接着剤」及び「封止剤」は、それらが異なる材料群を指す場合であっても、同義として使用される。封止剤は、水密領域を得るために適用される1つ以上の表面上又はそれらの間のいかなる空間を封止するのに主に使用される。一方で接着剤は1つの表面を他の表面に接着させるために使用し、それらの間の空間を封止するものとして使用されない。従って、本発明は「接着剤」及び「封止剤」ポリマー組成物の両方に関し、すなわち、「接着剤」及び「封止剤」の両方の材料群を含む。
【0003】
硬化性接着剤組成物の多くは、エポキシ樹脂の開環反応をベースとしており、すなわち、これらの硬化性接着剤組成物は、エポキシ基の開環重合を介して高い接着強度を得るものである。これまで、硬化後の接着強度又は耐熱性の改良を達成するため、特定のエポキシ化合物の選択、及び含フェノール化合物の添加が試みられてきた。被着体同士はこれらの硬化性ホットメルト又は液状の接着剤により接合され、続いて熱又は照射による硬化処理に付される。
【0004】
一般的に、光反応性(すなわちカチオン光開始剤を含有する)組成物が選択される場合は、カチオン硬化性接着剤が完全に硬化するまで連続的に照射する必要はない。実際には、そのような接着剤が一度照射されると、照射により生成するカチオン活性種が関与する硬化反応は、照射が停止した場合でも進行する。更に、そのような接着剤組成物のポットライフを延ばすためには、「硬化遅延剤」と通称される成分が一般的にカチオン光反応性接着剤中に導入される。
【0005】
日本特許出願の特開平10-330717号は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ポリテトラメチレングリコール及びカチオン重合開始剤を含む光反応性接着剤組成物を開示している。「ビスフェノール」は2つのヒドロフェニル官能基を有する化学化合物群を指し、それらのほとんどはジフェニルメタンをベースとしている。ビスフェノールA(系統名2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)は、この群の最も一般的な代表である。特開平10-330717号は、更に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の好適な代替として、ビスフェノールF(系統名4,4'-ジヒドロキシジフェニルメタン)型エポキシ樹脂を開示しており、他を除外する代替物として(すなわちエポキシ成分としてビスフェノールA型のみ又はビスフェノールF型のみを使用する)、又は、同等の代替物として(すなわち、接着剤組成物又は最終的な硬化材料の特性にいかなる影響を与えることなく所定量のエポキシ成分を得るため、ビスフェノールAとビスフェノールFとの別の比率を用いること)それらの間を置き換えることを示唆している。国際特許出願であるWO02/055625は、ビスフェノールFエポキシ樹脂、カチオン光開始剤、並びに、テトラメチレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、又は、テトラメチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体との間で好ましく選択される化合物を含む光反応性ホットメルト接着剤組成物を開示している。更に、WO02/055625には、接着剤のエポキシ成分中でビスフェノールFがビスフェノールAに混合される可能性が、両者の個別の質量比が少なくとも12、5である場合に記載されており、このことは、ビスフェノールFをビスフェノールAに置き換えることが、例えば、親水性液体に対する不十分な耐性等の幾つかの欠点を示すことを教示している。更に、ガラス転移温度及び粘度の強い上昇は、WO02/055625に開示されている組成物の特徴である。
【0006】
米国特許第5596024号及び米国特許第5854325号は、高温多湿条件下での不良率を上昇させずに優れた保存安定性を達成することを目的とした、エポキシアクリレート成分がエポキシ樹脂と共に使用される光重合性エポキシ接着剤組成物を開示しているが、それらの組成物の適用直後に高い接着強度を実現するため、また、硬化後に優れた柔軟性及び耐久性を有するためには上記組成物をどのように改変すべきかに関して明らかにしていない。特に米国特許第5854325号は、ビスフェノールAの使用を主にベースとした組成物、又は、代替としてビスフェノールFエポキシ樹脂を使用した組成物を開示している。
【0007】
米国特許第9845416号は、ビスフェノールFエポキシ樹脂の含有量の半分未満である量のビスフェノールAエポキシ樹脂と組み合わせた主成分として、ビスフェノールFエポキシ樹脂の混合物を含有する熱又は光反応性硬化性接着剤組成物を開示している。
【0008】
参照された上記全ての先行技術公報は、硬化後の接着剤組成物が、感応デバイス又は材料のための適用要件を維持するために酸素透過を強く制御する(すなわち制限する)必要のある、例えば、電子デバイス分野におけるスマートグラス(エレクトロクロミック及びダイナミックグラス)、高度なパッケージング又は他の用途分野における柔軟な基材の封止に好適に使用するための酸素透過率をどのように達成できるかに関して明らかにしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-330717号
【文献】WO02/055625
【文献】米国特許第5596024号
【文献】米国特許第5854325号
【文献】米国特許第9845416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、すぐに被着体に適用することができ、非常に短時間で硬化が完了し、長時間のエージングを要することなく積層直後に高い接着強度を達成し、硬化後に優れた柔軟性を発現し、改良された酸素バリア性能も有する硬化性接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様によれば、ビスフェノールFエポキシ樹脂及びエチレン-ビニルアルコール(EVOH)共重合体を含み、エチレン-ビニルアルコール(EVOH)共重合体を、好ましくはその中に分散したカプセル又はビーズの形態で、より好ましくは樹脂量に対する特定の質量比で含む、硬化性組成物が提供される。特に、本発明の発明者らは、接着剤組成物におけるEVOHの分散体の使用が、特にEVOHが、ベース成分として使用される樹脂の特定の化学組成に関連して、かつ樹脂量と関係する特定の濃度範囲で使用される場合に、その酸素透過率(OTR)の効果的な改良をもたらすことを見出した。
【0012】
本発明の内容では、内部の空のコアを囲む固体のシェルで構成される粒子、及び、制御された粒径を有し、かつ同一のシェル材料でできた内部コアを有する粒子の両方を表現するために、文言「カプセル」及び「ビーズ」は同義として使用される。エチレン-ビニルアルコールはエチレンとビニルアルコールの共重合体であり、通常はエチレンとビニルアセテートを重合させ、続いて得られるエチレン-ビニルアセテート(EVA)を加水分解することで調製される。EVOH共重合体は、モル%で表されるそのエチレン含有量でよく定義され、結果として、高エチレンEVOH(すなわち、例えば24から40%の間の範囲内にある高モル%エチレン含有量を有するEVOH)及び低エチレンEVOH(すなわち、例えば24モル未満である低モル%エチレン含有量を有するEVOH)の両方が市販されている。本発明によれば、高エチレンEVOHが好ましい。EVOHのバリア特性を、その結晶形の安定化を通じて改良するために、例えば、スプレードライ、乳化、ナノ沈殿及び超臨界流体技術等の好適なカプセルの作製方法が使用されてきた。特に、スプレードライ法は高エチレンEVOHカプセルを作製するのに使用されてきた。湿潤環境中で結晶性(すなわち60%超の相対湿度)を保持する、得られたカプセルは、粒度分布が体積平均径で0.1から10.0μmの間であることを特徴とする。上記体積平均径(VMD)は、サンプルの体積加重平均粒径として定義でき、乾式分散レーザー回折により測定し、Fraunhofer理論を用いて計算できる。これらのカプセルは、本発明による接着剤組成物中に分散させることができる。この点に関し、発明者らは、特にビスフェノールFエポキシ樹脂と、分散したEVOHカプセル量との質量比が1から10の間、好ましくは1から7の間である場合に、熱硬化した組成物の酸素バリア特性を改良することができることを見出した。
【0013】
ビスフェノールFエポキシ樹脂の種類は限定されず、また本開示の硬化性接着剤組成物の効果に特に影響を与えるものではない。例えば、平均分子量がおおよその範囲が300から10,000g/molであるビスフェノールFエポキシ樹脂は全て好適に使用できる。これらの特定の例としては、Yuka-Shell Epoxy Co., Ltd.製のEPICOAT4004P及びEPICOAT4010Pとの名称で販売されているものが挙げられる。もう1つの好適なビスフェノールFの種類としては、数平均分子量(すなわちサンプル中の全てのポリマー鎖の平均分子量)が700g/mol未満である液状のエポキシ樹脂、例えば、Hexion社よりEPON(商標)樹脂862との名称で販売されているもの等がある。
【0014】
主な反応性成分としてのビスフェノールFエポキシ樹脂の使用効果として、本発明の硬化性接着剤組成物は、例えば、靭性、耐久接着性及び柔軟性等の改良された物理的性質を有する硬化物を提供できる。加えて、本明細書に開示されたいかなる実施形態によれば、本発明の組成物は、ビスフェノールFエポキシ樹脂以外の第二のビスフェノールエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールA等を更に含むことができる。好ましくは、ビスフェノールFと、第二のビスフェノールエポキシ樹脂との質量比は2から10の間であり、より好ましくは3から8の間である。特に、上述の望ましい特性は、ビスフェノールFエポキシ樹脂が、少なくとも1つのゴム変性エポキシ樹脂及び少なくとも1つのエポキシアクリレート成分並びにビスフェノールAエポキシ樹脂と共に使用される場合に得られる。
【0015】
従って、本発明は、ビスフェノールFエポキシ樹脂、少なくとも1つのゴム変性エポキシ樹脂、及び少なくとも1つのエポキシアクリレート成分を含む組成物であって、エチレン-ビニルアルコール共重合体カプセルが上記組成物中に分散しており、かつ好ましくはビスフェノールFエポキシ樹脂と、カプセルとの質量比が1から10の間の範囲内にあることを特徴とする組成物、特に熱硬化性組成物にも言及する。任意選択で、上記組成物はビスフェノールFエポキシ樹脂以外の第二のビスフェノールエポキシ樹脂を更に含み、好ましくはビスフェノールFエポキシ樹脂の、第二のビスフェノールエポキシ樹脂に対する質量比は2から10の間である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、硬化性接着剤組成物は、ビスフェノールFエポキシ樹脂と、ビスフェノールAエポキシ樹脂との質量比が2超、好ましくは2から10の間、より好ましくは3から8の間である混合物を含む。ビスフェノールAエポキシ樹脂は、接合積層体に対し、親水性液体への改良された耐性を付与するその機能のため、特に有用である。ビスフェノールAエポキシ樹脂の種類は特に限定されない。例えば、1000g/mol未満の平均分子量を有する非変性ビスフェノールAエポキシ樹脂が好適に使用できる。それらの特定の例としては、Hexion社製のEPON(商標)828、DOWChemical社製のD.E.R.(商標)332、Huntsman社製のAraldite(登録商標)GY6010との名称で販売されているものが挙げられる。
【0017】
上記から予測できるように、本発明の硬化性接着剤組成物は、ゴム変性エポキシ樹脂成分を、全硬化性接着剤組成物の100質量部に対して、好ましくは1から10質量部の量で更に含むことができる。
【0018】
ゴム変性ビスフェノールは、ゴム鎖がビスフェノール単位と共有結合を形成しているエポキシ樹脂である。これらの成分は一般的に、ゴム共重合体、すなわちゴムのような弾性を示す共重合体の鎖末端にある反応性基とエポキシ基の反応を通じて得られる。一般的に採用される反応性基は、例えば、カルボン酸又はアミノ基である一方で、通常採用されるゴムは、例えば、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体である。ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体類に由来するゴム変性エポキシ樹脂、例えば、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)等の変性ビスフェノール樹脂は、本発明による組成物の配合にとって特に好ましい。カルボキシル末端を有するブタジエン-アクリロニトリル樹脂も使用することができる。特に、ゴム変性エポキシ樹脂成分は、Hexion社製のEPIKOTE(商標)03161、Kukdo Chemical (Kunshan) co. LTD.製のKR-208及びKR-309、株式会社ADEKA製のEPR2000から選択することができる。発明者らは、本発明による組成物は、分散したEVOHカプセルと、ゴム変性エポキシ樹脂との質量比が0.5から5の範囲内で好ましく有することができる点を見出した。
【0019】
更に、硬化性接着剤組成物は、エポキシアクリレート成分を、全硬化性接着剤組成物の100質量部に対して、好ましくは1から5質量部の量で更に含むことができる。とりわけ、特にエポキシアクリレート成分と反応した際に、ビスフェノールFエポキシ樹脂は硬化物の水及び他の親水性液体に対する耐性を増加させる。このエポキシアクリレート成分は、アクリル官能基がグリシジル官能基又はビスフェノール単位と結合した反応性モノマーである。例えば、限定されないが、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールFジアクリレート又はそれらの混合物からなる群より選択することができる。好ましくは、グリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレートから選択することができる。エポキシアクリレート成分は、硬化速度を上げるため、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、及びトリメチロールプロパントリアクリレート等の多官能モノマーと組み合わせて任意選択で使用できる。好ましい実施形態によれば、本発明の組成物にはグリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンドが使用できる。好ましくは、上記少なくとも1つのエポキシアクリレート成分の、上記少なくとも1つのゴム変性エポキシ樹脂に対する質量比は0.1から1の間である。
【0020】
分子量に特に縛りはないが、熱可塑性充填剤を、本発明による組成物に有利に追加することができる。例えば、限定されないが、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチルアクリレート)、ポリ(スチレン-co-ジビニルベンゼン)、及びポリメチルシルセスキオキサンからなる群より選択することができ、そしてその耐熱接着性を改良する機能のため、好ましくは1,000g/mol以上の重量平均分子量を有する。好ましくは、熱可塑性充填剤の粒径は20μm未満であり、本発明による組成物の全質量に対応する100質量部に対して、導入された熱可塑性充填剤の量は1から8質量部の範囲内である。先行技術のビスフェノールFベースの組成物と比べた場合、この熱可塑性充填剤の濃度は組成物の10質量%よりも大いに少なくなるまで低減でき、これはバリア特性に対するその悪影響をできる限り減らすのに有用となり得る。
【0021】
本発明では、エポキシ樹脂の開環重合を引き起こすために、熱暴露により活性化される限りにおいて、熱接着性組成物の熱開始剤として好適に使用できる硬化剤を更に含んでもよい。上記熱開始剤は、例えば、アミン硬化剤又は無水物硬化剤であってよい。アミン硬化剤の好ましい例としては、エチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、2-ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジプロプレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、m-キシリレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、メタンジアミン、イソホロンジアミン、シクロヘキシルプロピレンジアミン又はそれらの混合物が挙げられる。
【0022】
無水物硬化剤の好ましい例としては、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物又はそれらの混合物が挙げられる。硬化剤はグリシジル樹脂と室温でゆっくり反応するが、高温ではより速い硬化機構を誘発する。更に、硬化剤は、単一成分の熱硬化性エポキシ樹脂を配合する際に潜在性硬化剤としても使用できる。潜在性硬化剤の好ましい例はジシアンジアミド及び有機酸ヒドラジドである。特に、ジシアンジアミドは、非常に長いポットライフを保証するため、通常、微粉末又は樹脂中に分散させた変性粒子の形態で使用される。
【0023】
硬化剤の配合量は、活性水素の数が、エポキシ基のモル数に等しい場合が最適である。一般的に、当量数が200g/eqであるエポキシ樹脂25部に対し、全組成物質量の100質量部に対して、200から100の活性水素数を有する硬化剤を25から50質量部採用しなければならず、これにより70から120℃の間の範囲内の温度において、60から20分の間の時間での熱処理により接着剤組成物の完全な重合を可能とする。
【0024】
製造プロセスにおける良好な組成物の分配性及び有用性は、それらの流動学的な特徴と密接に繋がっている。具体的には、本出願を考慮すると、20,000mPa超(5s-1せん断速度での測定)かつ10,000mPa超(50s-1せん断速度での測定)の粘度数値であれば良好な分配特性を達成できる。
【0025】
本発明の幾つかの考えられる代替的実施形態では、硬化性組成物は、最終の液状組成物の質量に対し、10質量%から50質量%の間の量で、アセトン、メチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、及びプロピレンカーボネートの中から選択される、一般に使用される1つ又はそれ以上の溶媒を更に含有することができる。上記溶媒は、その後の組成物の硬化プロセスを引き起こし得る熱処理の間に蒸発させることができ、更に、溶媒蒸気圧に従って決定できる。
【0026】
本発明による接着剤組成物は、必要であれば、本発明の目的を損なわない範囲で他の追加成分を更に含むことができる。そのような成分としては、例えば粘着性向上剤、増感剤、脱水剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、ワックス、充填剤、スペーサー、難燃剤、発泡剤、帯電防止剤、防カビ剤、及び、粘度調整剤等が含まれる。追加成分はそれら上記で列記されたものに限定されず、また、上記で列記された成分のいかなる組み合わせ又は混合物が追加され得る。
【0027】
本発明による接着剤組成物が適用される被着体の種類は特に限定されない。本発明のいかなる実施形態による接着剤組成物は、幅広い材料から作成される被着体にも適用でき、少し言及するだけでも、ポリカーボネート等のプラスチック、二軸配向ポリプロピレン等のポリプロピレン、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート以外のポリエーテルイミド、エチレンプロピレンゴム等のゴム、ポリ乳酸等のバイオプラスチック、鉄及びアルミニウム等の金属並びに合金、ガラス、木及び紙等のセルロース材料、革等が挙げられる。本発明による接着剤組成物は、上記被着体との間の周辺封止剤、又はそれらを含む多層構造中の層として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
下記非限定的実施例により本発明を更に説明する。
【実施例】
【0029】
(実施例S1)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂51.9質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂6.7質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂10.3質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド4.1質量部、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)4.1質量部、ジシアンジアミド12.3質量部、EVOHカプセル10.6質量部を混練機中で混合し、熱反応性接着剤組成物を得た。
【0030】
100℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0031】
(実施例S2)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂39.8質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂5.1質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂7.9質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド3.2質量部、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)3.1質量部、ジシアンジアミド9.5質量部、EVOHカプセル31.4質量部を混練機中で混合し、熱反応性接着剤組成物を得た。
【0032】
100℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0033】
(実施例S3)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂41.7質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂5.4質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂8.3質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド3.3質量部、ジシアンジアミド9.9質量部、EVOHカプセル31.4質量部を混練機中で混合し、熱反応性接着剤組成物を得た。
【0034】
100℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0035】
(実施例S4)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂53.1質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂6.9質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂10.5質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド4.2質量部、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)4.1質量部、ジシアンジアミド12.6質量部、EVOHカプセル8.5質量部を混練機中で混合し、熱反応性接着剤組成物を得た。
【0036】
100℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0037】
(実施例C1)(比較:EVOHカプセルなし)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂58質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂7.5質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂11.5質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド4.6質量部、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)4.6質量部、ジシアンジアミド13.8質量部を混練機中で混合し、熱反応性接着剤組成物を得た。
【0038】
100℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0039】
(実施例C2)(比較:カプセルの代わりに通常の粉末状のEVOHを使用)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂51.9質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂6.7質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂10.3質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド4.1質量部、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)4.1質量部、ジシアンジアミド12.3質量部、EVOH粉末8.3質量部を混練機中で混合し、熱反応性接着剤組成物を得た。
【0040】
100℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0041】
(実施例C3)(比較:範囲外の比率)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂57.9質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂7.5質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂11.5質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド4.6質量部、ジシアンジアミド13.8質量部、EVOHカプセル4.8質量部を混練機中で混合し、熱反応性接着剤組成物を得た。
【0042】
100℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0043】
(実施例C4)(比較:熱反応性混合物の代わりに光反応性)
液状のビスフェノールFエポキシ樹脂43.8質量部、液状のビスフェノールAエポキシ樹脂5.6質量部、ポリ(アクリロニトリル-co-ブタジエン)変性ビスフェノール樹脂8.7質量部、グリシジルアクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートのブレンド3.5質量部、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)3.5質量部、トリフェニルスルホニウム塩3.5質量部、EVOHカプセル31.5質量部を混練機中で混合し、光反応性接着剤組成物を得た。
【0044】
λ=365nmで100mW/cm2の照射を120秒間適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0045】
(実施例C5)(比較:市販のエポキシ配合物そのまま)
150℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、市販の熱反応性エポキシ樹脂(EPO-TEK(登録商標)OD1001)を硬化させた。
【0046】
(実施例C6)(比較:EVOHカプセルを追加した市販のエポキシ配合物)
実施例C5の市販の熱反応性エポキシ樹脂90質量部及びEVOHカプセル10質量部を混練機中で混合した。150℃で1時間の加熱プロセスを適用することで、得られた液状材料を硬化させた。
【0047】
【0048】
(実施例11)(S1からS4及びC1からC6の10の実施例の組成物間の比較)
各接着剤組成物の薄膜を、標準厚さが100μmとなるように設定された自動フィルムアプリケーターElcometer 4340を使用して得た後、各実施例において詳述されている製法に従って硬化させた。
【0049】
酸素透過率(OTR)を、23℃及び0%R.H.で、同じ膜の2つの異なる部分上で、Mocon OX -TRAN Model 2/22Lを用いて測定した。
【0050】
得られた液状配合物の分配性を調べるため、各接着剤組成物の粘度を、Haake RheoStress 6000を用いて5s-1及び50s-1のせん断速度で測定した。
【0051】