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特許7280479アーク式電気炉、アーク式電気炉における排滓方法及び溶融金属の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】アーク式電気炉、アーク式電気炉における排滓方法及び溶融金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/10 20060101AFI20230517BHJP
   B22D 43/00 20060101ALI20230517BHJP
   F27D 3/15 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
F27B3/10
B22D43/00 A
F27D3/15 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019034319
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139661
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】宗岡 均
(72)【発明者】
【氏名】浅原 紀史
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-136806(JP,A)
【文献】特開昭50-050217(JP,A)
【文献】特許第3783261(JP,B2)
【文献】実公昭50-018981(JP,Y1)
【文献】特開平08-057599(JP,A)
【文献】特開平05-261520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 1/00-3/28
F27D 3/00-3/18
B22D 43/00
C21C 5/52-5/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を加熱することが可能であり、且つ、前記溶融金属の液面へと浮上したスラグ又は不純物を外部へと排出することが可能であるように構成されたアーク式電気炉であって、
前記電気炉の内部から外部へと前記スラグ又は不純物を排出するために前記電気炉の側面に設けられた少なくとも1つの排滓口と、前記電気炉の内部に設置された少なくとも1つのガス吹出手段とを有し、
前記ガス吹出手段は、前記電気炉の内部に前記溶融金属が配置された状態において、前記溶融金属の液面よりも上方から前記溶融金属の液面又は前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物へとガスを吹き付けて、前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物を前記排滓口へと誘導可能であるように構成されており、
前記排滓口は、水平面での断面形状において、前記電気炉の内部から外部に向かって先細りとなる形状を有し、
排滓口の出口側の開口幅W1と、入口側の開口幅W2と、排滓口の長さLとが、0.268≦(W2-W1)/2L≦1.0の関係を満たすことを特徴とする、
アーク式電気炉。
【請求項2】
前記少なくとも1つのガス吹出手段が、ランス及びバーナーから選ばれる少なくとも1つである、
請求項1に記載のアーク式電気炉。
【請求項3】
前記ランスが不活性ガス又は窒素ガスを吹出可能であるように構成されており、
前記バーナーが可燃性ガスを吹出可能であるように構成されている、
請求項2に記載のアーク式電気炉。
【請求項4】
前記少なくとも1つのガス吹出手段から吹き出されるガスの進行方向が、水平面に対して15度以上60度以下となるように構成されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のアーク式電気炉。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のアーク式電気炉の内部に配置された溶融金属をアーク放電によって加熱して、前記溶融金属の液面に前記スラグ又は不純物を浮上させる、浮上工程と、
前記電気炉の内部に設けられた前記ガス吹出手段から前記溶融金属の液面又は前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物へとガスを吹き付けて、前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物を前記排滓口へと誘導して前記電気炉の外部へと排出する、排滓工程と、
を備える、
アーク式電気炉における排滓方法。
【請求項6】
請求項5に記載の排滓方法によって排滓を行う工程と、
前記電気炉の内部の溶融金属を外部へと取り出す工程と、
を備える、
溶融金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はアーク式電気炉、アーク式電気炉における排滓方法及び溶融金属の製造方法等を開示する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを用いて金属を加熱して溶解させるアーク式の電気炉が広く用いられている。例えば、アーク式電気炉の内部に固体金属を設置し、電極と固体金属源との間でアーク形態の電流を発生させて加熱することで、電気炉の内部において固体金属を溶解させて所望の溶融金属を得ることができる。或いは、アーク式電気炉の内部に溶融金属を導入し、電極と溶融金属との間でアーク形態の電流を発生させて加熱することで、電気炉内において溶融金属の溶融状態を保持することができる。ここで、アーク式電気炉によって溶融金属を加熱保持する際、当該溶融金属中の不純物が溶融金属の液面へと浮上する場合がある。溶融金属として溶鋼を例にとると、当該溶鋼中の不純物が主に酸化物形態として溶鋼の上部へと浮上し、溶鋼の液面にスラグが形成される。溶融金属の上部に浮上したスラグや不純物(以下「スラグ等」という場合がある)は、通常、電気炉に設けられた排滓口から炉外へと排出される。
【0003】
電気炉は一般に炉径が大きく、その分、溶融金属の液面におけるスラグ等の厚みが薄くなる傾向がある。溶融金属の表面のスラグ等を炉外へと効率的に排出するためには、造滓材による成分調整やカーボンインジェクションによるスラグフォーミング等を行うことが多い。また、従来において、溶融金属の表面のスラグ等を炉外へと排出する際は、炉体を傾動せずに排滓口からスラグ等があふれ出るように排出させるか(特許文献1等)、或いは、炉体傾動によりスラグ等の排出を行ってきた。すなわち、スラグ面の高さと排滓口の高さとの差による位置エネルギーを利用してスラグ等の排出を行うのが一般的であった。
【0004】
一方、排滓口から掻き出し用の治具を挿入して、人力、機械操作、ロボット等により溶融金属の液面を掻き出すことも考えられる。これは、大型の電気炉では導入が容易ではない上に、排滓口が大きく開くことにより抜熱過多や不純ガスの混入といった問題があるほか、掻き出し用の治具の寿命の面や、機械操作・ロボット等の設置には設置場所等の制約がある。また人力で行う場合は、作業者の身体的負荷が大きい。また、溶融金属の液面に存在するスラグ等に運動エネルギーを伝達して、スラグ等の排出を促進することも考えられる。例えば、特許文献2に開示された技術を参考に、電気炉の内部でガスの上吹きを行い、ガス流によりスラグ等を押し出すことがあり得る。しかしながら、特許文献2に開示された技術はタンディッシュからスラグを排出する技術であり、電気炉の蓋の構造や電気炉の大きさ等を考えると、特許文献2に開示された技術を電気炉にそのまま適用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3783261号公報
【文献】特開平8-57599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、アーク式電気炉の排滓口からスラグ等を排出する場合、従来においてはスラグ等の厚みによる位置エネルギーしか利用することができず、スラグ等の排出速度が遅いという課題がある。特にアーク式電気炉は、炉径が大きく、また炉蓋に電極等が挿入配置されるため、転炉等と比較して傾動角が小さくならざるを得ず、例えば数度程度である。すなわち、炉を傾動させることによってスラグ等の排出を促すことには限界がある。また、メタルの歩留低下を防ぐために、メタル面を排滓口よりも低い位置に制御する制約が働くため、スラグ等の厚みが薄くなるとスラグ等の排出速度が顕著に低下する。さらに、スラグ等の厚みが薄くなると、排滓口の壁面や底面とスラグ等との間に働く流動摩擦力によってスラグ等の排出が進まなくなるため、たとえ排出時間を長時間としても、排滓率を十分に高めることは難しい。
【0007】
一方、本発明者の新たな知見によると、アーク式電気炉の内部においてガスの上吹きを行って、スラグ等にガス流による運動エネルギーを与えただけでは、スラグ等の排出速度を十分に高めることが難しい。ガスにより押されたスラグ等が排滓口付近で渦を形成し、排滓口から逃げる方向に運動し、与えられた運動エネルギーがスラグ等の排出に効率的に利用されていないためと考えられる。
【0008】
以上の通り、アーク式電気炉において、単位時間当たりのスラグ等の排出量(排出速度)を高め、かつスラグ等の厚みが薄い場合においても排出速度を高位で保つことが可能な新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、溶融金属を加熱することが可能であり、且つ、前記溶融金属の液面へと浮上したスラグ又は不純物を外部へと排出することが可能であるように構成されたアーク式電気炉であって、前記電気炉の内部から外部へと前記スラグ又は不純物を排出するために前記電気炉の側面に設けられた少なくとも1つの排滓口と、前記電気炉の内部に設置された少なくとも1つのガス吹出手段とを有し、前記ガス吹出手段は、前記電気炉の内部に前記溶融金属が配置された状態において、前記溶融金属の液面よりも上方から前記溶融金属の液面又は前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物へとガスを吹き付けて、前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物を前記排滓口へと誘導可能であるように構成されており、前記排滓口は、水平面での断面形状において、前記電気炉の内部から外部に向かって先細りとなる形状を有し、排滓口の出口側の開口幅W1と、入口側の開口幅W2と、排滓口の長さLとが、0.268≦(W2-W1)/2L≦1.0の関係を満たすことを特徴とする、アーク式電気炉を開示する。
【0010】
本開示のアーク式電気炉において、前記少なくとも1つのガス吹出手段が、ランス及びバーナーから選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0011】
本開示のアーク式電気炉において、前記ランスが不活性ガス又は窒素ガスを吹出可能であるように構成されており、前記バーナーが可燃性ガスを吹出可能であるように構成されていてもよい。
【0012】
本開示のアーク式電気炉において、前記少なくとも1つのガス吹出手段から吹き出されるガスの進行方向が、水平面に対して15度以上60度以下となるように構成されていてもよい。
【0013】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、上記本開示のアーク式電気炉の内部に配置された溶融金属をアーク放電によって加熱して、前記溶融金属の液面に前記スラグ又は不純物を浮上させる、浮上工程と、前記電気炉の内部に設けられた前記ガス吹出手段から前記溶融金属の液面又は前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物へとガスを吹き付けて、前記溶融金属の液面に存在する前記スラグ又は不純物を前記排滓口へと誘導して前記電気炉の外部へと排出する、排滓工程と、を備える、アーク式電気炉における排滓方法を開示する。
【0014】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、上記本開示の排滓方法によって排滓を行う工程と、前記電気炉の内部の溶融金属を外部へと取り出す工程と、を備える、溶融金属の製造方法を開示する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の技術によれば、アーク式電気炉において、単位時間当たりのスラグ等の排出量(排出速度)を高め、かつスラグ等の厚みが薄い場合においても排出速度を高位で保つことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】アーク式電気炉100の構成を説明するための概略図である。図1(A)が水平断面における形状(端面)を概略的に示す図であり、図1(B)が図1(A)のIB-IB鉛直断面における形状(端面)を概略的に示す図である。
図2】排滓口10の形状について説明するための概略図である。
図3】ガス吹出手段20の機能について説明するための概略図である。
図4】ガス吹出手段20によるガス吹き出しの位置について説明するための概略図である。
図5】ガス吹出手段20の固定箇所の一例について説明するための概略図である。
図6】アーク式電気炉100における排滓方法S10の流れを説明するための図である。
図7】水モデル実験結果の一つを示す図である。
図8】水モデル実験結果の一つを示す図である。
図9】水モデル実験結果の一つを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.アーク式電気炉
図1にアーク式電気炉100の構成を概略的に示す。図1に示すように、アーク式電気炉100は、溶融金属1を加熱することが可能であり、且つ、溶融金属1の液面へと浮上したスラグ又は不純物(スラグ等2)を外部へと排出することが可能であるように構成される。アーク式電気炉100は、電気炉の内部から外部へとスラグ等2を排出するために電気炉の側面(側壁43)に設けられた少なくとも1つの排滓口10と、電気炉の内部に設置された少なくとも1つのガス吹出手段20とを有する。ガス吹出手段20は、電気炉の内部に溶融金属1が配置された状態において、溶融金属1の液面よりも上方から溶融金属1の液面又は溶融金属1の液面に存在するスラグ等2へとガスを吹き付けて、溶融金属1の液面に存在するスラグ等2を排滓口10へと誘導可能であるように構成される。排滓口10は、水平面での断面形状において、電気炉の内部から外部に向かって先細りとなる形状を有する。
【0018】
1.1.排滓口
アーク式電気炉100は、電気炉の側面(側壁43)に、当該電気炉の内部から外部へとスラグ等2を排出するための少なくとも1つの排滓口10を有する。
【0019】
図2を参照しつつ水平断面における排滓口10の形状について説明する。図2(A)に示すように、従来のアーク式電気炉においては、例えば、水平断面において入口側(電気炉の内部側)の開口幅と出口側(電気炉の外部側)の開口幅とが略同じである排滓口が採用されていた。しかしながら、このような排滓口を介して溶融金属の液面のスラグ等を排出を行う場合、スラグ等の排出速度が遅いという問題がある。また、本発明者の新たな知見によれば、このような排滓口を介して溶融金属の表面のスラグ等を排出を行う場合、仮に電気炉の内部においてガスの上吹きを行って溶融金属の液面のスラグ等にガス流による運動エネルギーを与えたとしても、排滓口から排出されるスラグ等の排出速度を十分に高めることが難しい。ガスにより押されたスラグ等が排滓口付近で渦を形成し、排滓口から逃げる方向に運動し、与えられた運動エネルギーがスラグ等の排出に効率的に利用されていないためと考えられる。一方、本開示の排滓口10は、水平断面において電気炉の内部から外部に向かって先細りとなる形状を有する。例えば、図2(B)に示す排滓口10においては、出口側(電気炉の外部側)の開口幅W1が入口側(電気炉の内部側)の開口幅W2よりも狭い。本発明者の新たな知見によれば、排滓口10の形状を入口から出口に向かって先細りの形状とすることで、ガス流により押されたスラグ等2を効率的に排滓口10を介して効率的に排出することができる。排滓口10の急激な断面積変化が抑制され、ガス流により押されたスラグ等2が電気炉の内部に戻る割合が減少するためと考えられる。
【0020】
排滓口10の出口側の開口幅W1と、入口側の開口幅W2と、排滓口10の長さL(入口側開口と出口側開口との水平距離)との関係は特に限定されるものではない。本発明者が確認した限りでは、例えば、排滓口10の出口側の開口幅W1と、入口側の開口幅W2と、排滓口10の長さLとが、0.268≦(W2-W1)/2L≦1.0の関係を満たす場合、スラグ等2の排出効率を一層高め易い。尚、排滓口10の長さLは、電気炉の側壁43の厚さ以上であることが一般的である。スラグドア11の配置や排出されたスラグ等を受ける鍋(不図示)の可動範囲によっては、排滓口10が電気炉の外壁よりも突出して設置されていてもよく、その場合、排滓口10の長さLは側壁43の厚さよりも長くなる。
【0021】
排滓口10の入口側の開口形状や出口側の開口形状は、特に限定されるものではない。開口を正面から視た場合の形状として、多角形状や円状等、種々の形状を採用し得る。排滓口10の開口幅W1及びW2や開口高さや長さLの具体的な値は特に限定されるものではなく、アーク式電気炉100の規模や側壁43の厚み等に応じて適宜決定することができる。
【0022】
排滓口10は、水平面での断面形状において電気炉の内部から外部に向かって先細りとなる形状を有するが、これは必ずしも排滓口10の入口側の開口面積が排滓口10の出口側の開口面積よりも大きいことを意味するものではない。図1(B)に示すように、排滓口10は、水平面での断面形状において先細りで、且つ、鉛直面での断面形状において開口幅が略同じである形状であってもよいし、水平面での断面形状において先細りで、且つ、鉛直面での断面形状において先太りとなるような形状であってもよい。
【0023】
図1においては、排滓口10の入口側と出口側とで水平方向における高さが略同じである形態を示したが、排滓口10の形態はこれに限定されるものではない。排滓口10の入口側の高さが出口側の高さよりも高くなるように構成してもよいし、排滓口10の入口側の高さが出口側の高さよりも低くなるように構成してもよい。
【0024】
図1においては、排滓口10の内壁の形状が平面(水平断面及び鉛直断面でのいずれの形状においても直線状)である形態を示したが、排滓口10の形態はこれに限定されるものではない。排滓口10の内壁の形状が曲面(水平断面及び鉛直断面のうちの少なくとも一方の断面での形状において曲線状)であってもよい。また、排滓口10は水平面での断面形状において連続的に先細りとなる形状を有していてもよいし、断続的に先細りとなる形状(例えば、階段状)を有していてもよい。
【0025】
図1においては、電気炉の側面に排滓口10が1つだけ備えられる形態を示したが、排滓口10の数は1つに限定されるものではない。アーク式電気炉100の規模等に応じて排滓口10の数を2つ以上とすることも可能である。
【0026】
電気炉の側面における排滓口10の位置は特に限定されるものではない。排滓口10の位置に応じて、内部に設置すべき溶融金属1の量等が決定され得る。
【0027】
1.2.ガス吹出手段
アーク式電気炉100は、電気炉の内部に、ガス吹出手段20を有する。
【0028】
図3を参照しつつガス吹出手段20の機能について説明する。ガス吹出手段20は、電気炉の内部に溶融金属1が配置された状態において、溶融金属1の液面よりも上方から溶融金属1の液面又は溶融金属1の液面に存在するスラグ等2へとガスを吹き付けて、溶融金属1の液面に存在するスラグ等2を排滓口10へと誘導可能であるように構成される。例えば、ガス吹出手段20はガス吹出孔を備えていてもよい。この場合、例えば、図3に示すように、ガス吹出手段20のガス吹出孔の延長線と溶融金属1の液面とが交わる領域α(溶融金属1の液面においてガスが吹き付けられる領域α)がガス吹出孔の斜め下に配置されるように、ガス吹出手段20から斜め下に向かってガスが吹き出されるように構成するとよい。また、ガス吹出手段20から吹き出されたガスが排滓口10の方向に向かうように、ガス吹出手段20の向きを調整するとよい。本発明者の新たな知見によれば、上記の先細り形状を有する排滓口10とガス吹出手段20から吹き出されるガスによる押し出しとを組み合わせることで、電気炉の内部から外部へのスラグ等2の排出効率を顕著に高めることができる。
【0029】
本発明者が確認した限りでは、ガス吹出手段20から吹き出されるガスの進行方向が、水平面に対して15度以上60度以下となるように構成された場合、スラグ等2の排出効率を一層高め易い。すなわち、図3(C)に示すように、ガス吹出手段20からのガスの進行方向と水平面とのなす角度θは15度以上60度以下であってもよい。
【0030】
アーク式電気炉100に設けられるガス吹出手段20の具体例としては、例えば、ランス及びバーナーから選ばれる少なくとも1つが挙げられる。ガス吹出手段20としてランスとバーナーとを併用してもよい。ランスの構造は、例えば、従来公知の転炉上吹き用のランスの構造を参考とすればよい。アーク式電気炉100の内部においてランスから吹き出させるガスの種類は特に限定されるものではない。例えば、ランスは、不活性ガス又は窒素ガスを吹出可能であるように構成されていてもよい。一方、バーナーの構造は、従来公知のバーナーと同様の構造とすればよい。バーナーは、通常、可燃性ガスを吹出可能であるように構成される。可燃性ガスの種類に特に制限はない。ガス吹出手段20としてバーナーを使用した場合、スラグ等2の昇温が可能となる。スラグ等2は一般的に高温になるほど粘度が低下するため、バーナーによってスラグ等2を昇温させつつ押し出すことで、排滓口10を介してスラグ等2をより効率的に排出させることができる。
【0031】
ガス吹出手段20から吹き出されるガスの流速や流量は特に限定されるものではなく、電気炉の規模や排出すべきスラグ等2の量等に応じて適宜決定すればよい。
【0032】
上述の通り、ガス吹出手段20は、溶融金属1の液面にガスを吹き付けてスラグ等2に運動エネルギーを与える機能を有するが、これ以外の機能をさらに有していてもよい。例えば、溶融金属1中に反応ガスや不活性ガスを吹き込む機能を有していてもよい。
【0033】
図1においては、電気炉の内部にガス吹出手段20が1つだけ備えられる形態を示したが、ガス吹出手段20の数は1つに限定されるものではない。アーク式電気炉100の規模等に応じてガス吹出手段20の数を2つ以上とすることも可能である。
【0034】
図1においては、ガス吹出手段20によるガス吹き出しの位置(例えば吹出孔の位置)が電極30と排滓口10との間である形態を示したが、ガス吹出手段20によるガス吹き出しの位置はこれに限定されるものではない。図4に示すように、電気炉の内部空間を排滓口10側の空間Xと排滓口10とは反対側の空間Yとに鉛直面にて等分した場合、ガス吹出手段20によるガスの吹き出しを空間Xにて行ってもよいし、空間Yにて行ってもよいし、空間Xと空間Yとの境界にて行ってもよい。特に、ガス吹出手段20によるガスの吹き出しを空間Xにて行った場合に、スラグ等2を排滓口10へとより誘導し易い。
【0035】
図1においては、ガス吹出手段20が炉蓋41に固定される形態を示したが、ガス吹出手段20の固定の位置はこれに限定されるものではない。図5に示すように、ガス吹出手段20を炉の側壁43に固定してもよい。この場合においても、ガス吹出手段20からのガス流によってスラグ等2に排滓口10に向かう運動エネルギーを与えることができ、スラグ等2の排出を促進することができる。
【0036】
ガス吹出手段20は、電気炉の一部にリジッドに固定されている必要はなく、電気炉の内部においてガスの吹き出し方向を変更可能なように取り付けられていてもよい。例えば、ガス吹出手段20は電気炉の内部において旋回可能に取り付けられていてもよい。
【0037】
1.3.その他の構成
アーク式電気炉100は上記の排滓口10とガス吹出手段20とを備えていればよく、これ以外の構成については従来と同様とすることができる。上述の通り、アーク式電気炉100は、内部に溶融金属が配置される空間が形成される。ここで、当該空間の内壁には、外壁を保護するために、耐火ブロックからなる耐火壁体が形成され得る。また、耐火壁体のみならず、内部で冷却水が循環して外壁を保護する冷却パネル部材が装着され得ることも一般的である。
【0038】
図1に示すように、アーク式電気炉100の上部には、開放した上部をカバーし、アーク熱を発生させる電極30を備えた電気炉天井部材(炉蓋)41が結合される。電気炉天井部材41には、図示されていないが、溶解過程および精錬過程で発生する多量の廃ガスやほこりなどを排出する排気管、固体金属源や副材を投入するための投入口、その他の配管等が連結されてもよい。アーク式電気炉100においては、電極30と固体金属または溶融金属との間でアーク形態の電流を発生させ、固体金属の加熱溶融、或いは、溶融金属の加熱保持を行い得る。
【0039】
図1に示すように、アーク式電気炉100においては、排滓制御や炉内雰囲気制御のため、排滓口10に開閉可能な構造、すなわちスラグドア11を設けてもよい。或いは、スラグドア11を使用せず、開放型の排滓口10としてもよい。
【0040】
図1に示すように、アーク式電気炉100においては、炉底42に溶融金属を流出させるための出口42aが設けられていてもよい。或いは、炉底42に出口42aを有さず、溶融金属を傾動により流出させてもよい。尚、スラグ等2を排出する場合に炉体を傾動する場合も同様であるが、炉体の傾動角度が大きいと、電極30など電気炉100に付随する設備の設置が困難となる。スラグ等2を排出する場合の炉体の傾動角度は、操業時(アーク放電時)と比較して10度以下とすることが好ましい。
【0041】
図1においては交流電気炉を想定して電極30が複数描かれているが、アーク式電気炉100は交流電気炉に限らず直流電気炉でも構わない。この場合、電極30は1本であっても複数本であってもよい。
【0042】
2.溶融金属の製造方法
本開示の技術は、アーク式電気炉における排滓方法としての側面も有する。図6にアーク式電気炉100における排滓方法S10の流れを示す。図6に示すように、排滓方法S10は、上記のアーク式電気炉100の内部に配置された溶融金属1をアーク放電によって加熱して、溶融金属1の液面にスラグ等2を浮上させる、浮上工程S1と、電気炉100の内部に設けられたガス吹出手段20から溶融金属1の液面にガスを吹き付けて、溶融金属1の液面にあるスラグ等2を排滓口10へと誘導して電気炉100の外部へと排出する、排滓工程S2と、を備える。
【0043】
2.1.浮上工程S1
本開示の排滓方法S10においては、浮上工程S1において、上記のようなアーク式電気炉100の内部に配置された溶融金属1をアーク放電によって加熱する。「アーク式電気炉の内部に配置された溶融金属」とは、アーク式電気炉100の内部に固体金属を収容したうえでアーク放電によって固体金属を溶融させて得られた溶融金属や、あらかじめ溶融させた金属をアーク式電気炉100の内部への流し込むようにして配置された溶融金属や、溶融金属を保持した炉内に固体金属を投入したうえでアーク放電によって固体金属を溶融させて得られた溶融金属等、種々の形態を含む。溶融金属1は不純物を含むものであって液面にスラグ等2が浮上し得るものであればよい。そのような溶融金属1としては、例えば、溶鋼、ステンレスを含む各種鉄合金、ニッケル等が挙げられる。特にスラグの生成を伴う溶鋼が好ましい。アーク放電による溶融金属の加熱条件については従来と同様であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0044】
浮上工程S1においては、上記のような溶融金属1をアーク放電によって加熱し、溶融金属1の表面にスラグ等2を浮上させる。例えば、溶融金属を加熱し続けることで、スラグ等2が自ずと溶融金属1の表面に浮上し、溶融金属1の液面にスラグ等2からなる層が形成され得る。スラグ等2は溶融金属1の液面全体に連続層として存在していてもよいし、液面の所々に分散して存在していてもよい。
【0045】
2.2.排滓工程S2
排滓工程S2においては、電気炉100の内部に設置されたガス吹出手段20によって、溶融金属1の液面よりも上方から溶融金属1の液面又は溶融金属1の液面に存在するスラグ等2へとガスを吹き付けて、溶融金属1の液面に存在するスラグ等2を排滓口10へと誘導して電気炉100の外部へと排出する。「溶融金属1の液面又は溶融金属1の液面に存在するスラグ等2へとガスを吹き付ける」とは、溶融金属1の液面にのみガスを吹き付ける形態、スラグ等2にのみガスを吹き付ける形態、及び、溶融金属1の液面及びスラグ等2の双方にガスを吹き付ける形態のいずれも含む概念である。特に、少なくとも溶融金属1の液面に存在するスラグ等2にガスを吹き付ける形態(スラグ等2にのみガスを吹き付ける形態、及び、溶融金属1の液面及びスラグ等2の双方にガスを吹き付ける形態)とするとよい。上述の通り、電気炉100においては入口から出口に向かって先細りとなるような排滓口20が採用されていることから、ガスにより押されたスラグ等が排出口20付近で渦を形成し難く、排滓口20の内部へと効率的に誘導され得る。すなわち、ガス吹出手段10からのガスの運動エネルギーがスラグ等の排出に効率的に利用され得る。
【0046】
排滓工程S2においてガス吹出手段10からのガスの流量は電気炉100の規模等に応じて適宜調整すればよい。例えば、溶融金属1の液面に吹き付けられる単位炉内面積、単位時間当たりのガスの流量(すなわち、単位時間当たり、且つ、炉内の溶融金属の表面(上面)の面積で規格化された流量)を1~100Nm/h/mとしてもよい。また、ガス吹出手段10の溶損等を抑えるとともに溶融金属1の液面により効率的にガスを吹き付ける観点からは、排滓工程S2において、ガス吹出手段10のガス吹き出し位置を溶融金属1の液面から0.1m以上2.0m以下の高さとしてもよい。
【0047】
尚、上記説明では、工程S1及びS2を各々独立して説明したが、これらの工程が同時に行われてもよく、また順番の入替や一部の繰り返しがあってもよい。
【0048】
3.溶融金属の製造方法
本開示の技術は溶融金属の製造方法としての側面も有する。すなわち、本開示の溶融金属の製造方法は、上記の排滓方法S10によって排滓を行う工程と、電気炉100の内部の溶融金属1を外部へと取り出す工程とを備える。電気炉100の内部の溶融金属1は、例えば、上述したように電気炉100の炉底42の出口42aを介して外部へと取り出せばよい。或いは、炉体を傾動させて溶融金属1を流出させてもよい。
【実施例
【0049】
従来のアーク式電気炉においては、溶融金属の液面に存在するスラグ等を電気炉の側面に設けられた排滓口を介して外部へと排出する場合に、スラグ面の高さと排滓口の高さの差による位置エネルギーを利用していた。しかしながら、このような形態では、スラグの排出速度が遅いという課題があった。当該課題に対し、本発明者は、ガス吹出手段(例えば上吹きランス)により排滓口に向かう方向にガスの吹き付けを行い、スラグ等に運動エネルギーを与えることでスラグ排出することを着想し、水モデル実験によりその効果を確かめた。その結果、ガス吹きによりスラグ等の排出は促進されるものの、その程度は小さかった。その理由としてガスにより押されたスラグ等が排滓口から逃げる方向に運動することで、与えられた運動エネルギーが効率的に排出する流れに利用されていないためと考えられた。そこで、本発明者は、ガスにより与えられた運動エネルギーが効率的にスラグ等の排出に利用されるような「排滓口の形状」について検討を行った。その結果、排滓口の形状を先細り形状とした場合に、ガスにより与えられた運動エネルギーが効率的にスラグ等の排出に利用され得るという知見を得た。一方で、ガス吹きが無い状態では排滓口の形状を変更したとしてもスラグ等の排出効率に大きな影響がないことがわかった。以上の通り、ガス吹きと排滓口の形状の工夫とを組み合わせることで、それぞれ単独に適用した場合からは想像できないような改善効果を得られることが判明した。以下、本開示のアーク式電気炉による効果について、実施例を示しつつより詳細に説明する。以下に示す実施例は、本開示のアーク式電気炉の一例を示したものである。本開示のアーク式電気炉は以下に示す例に限定されるものではない。
【0050】
1.水モデル実験
炉径70cmの電気炉模擬容器を使用し、ランスの位置、ランスのガス吹き出し口の角度およびランスの位置を様々に変えて水モデル実験を行った。水モデル実験では、メタルの模擬流体として食塩水(比重1.15g/cm)、スラグの模擬流体としてシリコーンオイル(比重0.965g/cm)を使用し、液面におけるスラグ厚みを50mmとした。
【0051】
水モデル実験を実施した結果、ガス吹きを行うことで、ガスがスラグに当たる付近のスラグ流速が上昇することを知見した。これは特許文献2に記載されたものと同様の効果である。ただし、スラグ流速の上昇による排出速度の上昇は必ずしも大きくなかった。排滓口において流路の幅が急激に変化すると、押されたスラグ流が排滓口に入りきらず、排滓口の入り口付近で横方向に逃げるか反転するかして渦を形成し、排出を阻害するためと考えられる。
【0052】
次に、排滓口の出口の開口幅W1(図2(B)参照)を固定して排滓口の電気炉の内壁側の入口の開口幅W2を変化させた実験を行った。その結果、W1が同じでも、排滓口を先細り形状とすることで、急激な流路断面積の変化を抑制し、排滓口に入りきれずに逃げる流れが減少し、より効率的にガス吹きのエネルギーがスラグの排出に使用されることがわかった。先細りの有無と上吹き(又は側面吹き)有無の関係を調べた実験結果を図7に示す。図7の縦軸は傾動開始から5分経過後における、電気炉模擬容器内のスラグの残留厚さ(単位mm)である。図7の「上吹き」とは、図1に示すようにランスを蓋に固定した状態で液面にガスの吹き付けを行ったことを意味する。また、図7の「側面吹き」とは、図5に示すようにランスを炉の側壁に固定した状態で液面にガスの吹き付けを行ったことを意味する。いずれの場合もガス吹きの角度を水平面から60度とした。
【0053】
図7に示す結果から明らかなように、ガス吹きをしない場合、排滓口の形状を先細り形状としたとしても、スラグの排出速度をほとんど高めることができなかった。また、排滓口の形状を先細り形状としない場合、ガス吹きを行ったとしても、スラグの排出速度をほとんど高めることができなかった。一方、排滓口の形状を先細りとするとともにガス吹きを行った場合、スラグの排出速度を顕著に高めることができた。特に、今回の実験条件においては、先細り部の角度が15°((W2-W1)/2L=0.268)以上、且つ、45°((W2-W1)/2L=1.0)以下の場合に、スラグの排出速度を一層高めることができた。
【0054】
排滓口形状を(W2-W1)/2L=0.577とし、上吹きランスによるガスの進行方向が水平面に対して60度となる条件において、上吹き有無によるスラグ厚みの経時変化を記録した。結果を図8に示す。図8において、「排滓口×」とは排滓口の形状を従来と同様(図2(A)参照)とした場合を意味し、「排滓口○」とは上述の通りの先細り形状とした場合を意味し、「上吹き×」とは上吹きランスによるガスの上吹きを行わなかった場合を意味し、「上吹き○」とは上吹きランスによるガスの上吹きを行った場合を意味する。また、図8の縦軸「M/M0」は、排滓口の形状を従来と同様(図2(A)参照)とし、且つ、上吹きランスによるガスの上吹きを行わなかった場合におけるスラグの排出速に対する排出速度の上昇率に相当する。図8に示す結果から明らかなように、排滓初期よりも排滓後期において、排滓口の形状の工夫の有無及びガス吹きの有無によって、スラグの排出速度に大きな差が生じる。これは、排滓後期においては溶融金属の液面におけるスラグの厚みが薄くなっており、排滓が進行し難いことに起因する。すなわち、排滓口の形状を先細りとし、且つ、ガス吹きを行うことで、排滓後期においてスラグ厚が薄くなった後もスラグ排出速度を高位で保つことが可能といえる。
【0055】
図9に、水平方向とガス流がなす角度を0度(水平)、15度、30°、60度、90度(鉛直)の5種類で比較した結果を示す。水平の場合はスラグの加速が確認できず、その結果、排滓率に変化が無かった。また、90度ではガス流の影響は見られなかった。15度、30°、60度の斜めの3条件ではガス流が水平に近いほどスラグ流が速くなり、排滓速度が上昇したが、60°でも有意な改善が示された。すなわち、溶融金属の液面よりも上方からガスを吹き付けて、溶融金属の液面に存在するスラグ等を排滓口へと誘導するためには、ガス流の進行方向を斜め下向きとする(水平方向とガス流がなす角度θ(図3(C)参照)を0°<θ<90°とする)ことが有効と考えられる。
【0056】
2.実機試験
以下の実施例1~3及び比較例1においては、アーク式の直流電気炉の側面に、W2=1.5m、W1=1.0m、L=0.5mとなるように耐火物を施工し、図2(B)に示されるような先細り形状の排滓口を設けた。また、以下の比較例2、3においては、アーク式の直流電気炉の側面に、W2=1.0m、W1=1.0m、L=0.5mとなるように耐火物を施工し、図2(A)に示されるような平行な形状の排滓口を設けた。
【0057】
(実施例1)
シャフト炉でペレットを還元して、還元率90%のDRIを製造した。次に、このDRIを100t規模の上述の直流電気炉に100t装入し、還元材として石炭を10t使用して溶解および還元を行い、[C]=3.5mass%で温度1400℃の溶銑を製造した。この時、上部電極を陰極、下部電極を陽極としてアークを生成し、スラグ塩基度が1.3となるように生石灰を添加した。生成した溶銑中のS濃度は0.0033mass%で、スラグ中のS濃度は0.33mass%であった。
【0058】
DRIの溶解および還元が終了した後のスラグ量M1は20tであった。直流電気炉の上部に設置したランスを下降させ、図1のようなランス配置とした。スラグが排滓口に向かうようにNガスを26Nm/h/m(単位炉内面積、単位時間当たりの流量、以下同様)でスラグ面に吹き付け、5分間排滓を行った。この結果、排滓されたスラグ量M2は11.5tであり、M1とM2の比率より、排滓率は58%であった。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同一条件において溶銑を製造し、DRIの溶解および還元が終了した後のスラグ量M1は19tであった。上述の直流電気炉の壁面に設置した2本のランスを使用し、図5のようなランス配置とした。スラグが排滓口に向かうように、ランス1本あたりNガスを26Nm/h/mでスラグ面に吹き付け、5分間排滓を行った。この結果、排滓されたスラグ量M2は10.5tであり、M1とM2の比率より、排滓率は55%であった。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同一条件において溶銑を製造し、DRIの溶解および還元が終了した後のスラグ量M1は21.5tであった。上述の直流電気炉の壁面に設置した2本のバーナーを使用し、図5のようなバーナー配置とした。スラグが排滓口に向かうように、ランス1本あたり可燃性ガスを10Nm/h/mでスラグ面に吹き付け、5分間排滓を行った。この結果、排滓されたスラグ量M2は13tであり、M1とM2の比率より、排滓率は60%であった。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同一条件において溶銑を製造し、DRIの溶解および還元が終了した後のスラグ量M1は22.5tであった。ランスやバーナーによるガス吹きを行わずに、先細り形状の排滓口を介して5分間排滓を行った。この結果、排滓されたスラグ量M2は10tであり、M1とM2の比率より、排滓率は44%であった。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同一条件において溶銑を製造し、DRIの溶解および還元が終了した後のスラグ量M1は21tであった。直流電気炉の上部に設置したランスを下降させ、図1のようなランス配置とした。スラグが排滓口に向かうようにNガスを26Nm/h/mでスラグ面に吹き付け、5分間排滓を行った。この結果、排滓されたスラグ量M2は10tであり、M1とM2の比率より、排滓率は48%であった。
【0063】
(比較例3)
実施例1と同一条件において溶銑を製造し、DRIの溶解および還元が終了した後のスラグ量M1は20tであった。ランスやバーナーによるガス吹きを行わず、平行形状の排滓口を介して5分間排滓を行った。この結果、排滓されたスラグ量M2は8.5tであり、M1とM2の比率より、排滓率は43%であった。
【0064】
実施例1~3及び比較例1~3の実験条件及び実験結果を下記表1にまとめた。
【0065】
【表1】
【0066】
従来の形態と同様の形態である比較例3では排滓率が43%であったのに対し、比較例1では上吹きを実施せず、排滓口形状の改善のみを行った結果、排滓率が44%にわずかに上昇した。また、比較例2では排滓口形状は従来のまま上吹きを実施した結果、排滓率は48%とこちらもわずかに上昇した。しかしながら、比較例1~3のいずれにおいても、排滓率が50%を超えることは無かった。一方で、実施例1のように、排滓口形状を先細り形状とした上で炉蓋からランスを挿入して上吹きを実施した結果、排滓率が58%となり、比較例3と比較して15%もの向上が確認された。また、実施例2のように、電気炉の側面に設置したランスにより上吹きを実施した場合は排滓率が55%となり、実施例2と同じ位置にランスの代わりにバーナーを設置して可燃性ガス(燃焼ガス)による上吹きを実施した場合は排滓率が60%となった。実施例1~3のいずれにおいても、比較例1~3と比べて、顕著な排滓改善効果が確認された。
【0067】
尚、上記の実施例では、本開示のアーク電気炉において溶鋼を製造する形態を例示したが、本開示のアーク電気炉はこの形態に限定されるものではない。溶鋼以外の溶融金属であっても同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0068】
1 溶融金属
2 スラグ又は不純物
10 排滓口
11 スラグドア
20 ガス吹出手段
30 電極
41 炉蓋(天井部材)
42 炉底
42a 出口
43 側壁
100 アーク式電気炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9