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  • 特許-還元鉄の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】還元鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 13/00 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
C21B13/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019081265
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020176322
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】折橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 亮司
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-283136(JP,A)
【文献】特開昭55-122832(JP,A)
【文献】特開2012-207241(JP,A)
【文献】特開2015-074809(JP,A)
【文献】特開2010-030885(JP,A)
【文献】特開2017-148790(JP,A)
【文献】特開2005-279489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を主体とし炭材を含む原料に、SiOおよび未燃炭素を含有する酸化物系改質材を添加し、成型、乾燥した後、還元炉に装入し、所定環境下で加熱することで、前記酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
前記酸化物系改質材が、フライアッシュを含み、
前記未燃炭素は前記フライアッシュに含有されるものであり、
前記酸化物系改質材中の前記未燃炭素の含有量に基づき、前記酸化物系改質材中に含まれる鉄の、前記所定環境下でのFeOとFe との比率を推定し、
前記酸化物系改質材の化学成分、および推定されたFeOとFe との前記比率から、前記所定環境下での前記酸化物系改質材の化学成分を求め、
求められた前記所定環境下での前記酸化物系改質材の化学成分に基づき、熱力学計算ソフトを用いて、前記酸化物系改質材の前記所定環境下における液相率を算出する工程と、
前記酸化物系改質材の前記所定環境下における前記液相率と、予め液相率と最適な添加量との関係が経験的に求められている材料の液相率との比較により、前記酸化物系改質材の添加量を決定する工程と、を備える、
還元鉄の製造方法。
【請求項2】
前記フライアッシュに含まれる未燃炭素量が2%以上である、
請求項に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項3】
前記酸化物系改質材が、さらにベントナイトを含む、
請求項または請求項に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は還元鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製銑および製鋼工程で発生する酸化鉄を多量に含有するダスト粉を原料として、還元鉄を製造する技術が知られている。具体的には、上記のダスト粉に、還元材としての炭材および水分を添加、混合して、ペレットまたはブリケット状に成型した後、その成型体を乾燥し、次いで、還元炉で加熱・還元することにより還元鉄を製造する。
【0003】
そして、還元鉄の強度を確保することを目的として、原料にさらにSiOを含有する酸化物系改質材を添加する方法が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-283136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸化物系改質材を原料中に添加することにより、還元鉄の強度を高めることが可能になる反面、過剰な添加はコストの増加を招く結果となる。そのため、酸化物系改質材の添加量を最適化することは重要な課題といえる。
【0006】
酸化物系改質材として、様々な組成を有する材料およびそれらの混合材料が用いられ得るため、材料の種類に応じた最適な添加量を経験的に求めることは、極めて効率が悪く現実的とはいえない。
【0007】
そのため、酸化物系改質材の組成に応じて、当該酸化物系改質材の最適な添加量を決定することが可能な方法の開発が求められている。
【0008】
本発明は、還元鉄を製造する際に用いられる酸化物系改質材の添加量を事前に最適化することが可能な還元鉄の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の還元鉄の製造方法を要旨とする。
【0010】
(1)酸化鉄を主体とし炭材を含む原料に、SiOおよび未燃炭素を含有する酸化物系改質材を添加し、成型、乾燥した後、還元炉に装入し、所定環境下で加熱することで、前記酸化鉄を還元して還元鉄を製造する方法であって、
前記酸化物系改質材中の前記未燃炭素の含有量に基づき、前記酸化物系改質材の前記所定環境下における液相率を推定する工程と、
前記液相率に基づき、前記酸化物系改質材の添加量を決定する工程と、を備える、
還元鉄の製造方法。
【0011】
(2)前記酸化物系改質材が、フライアッシュを含む、
上記(1)に記載の還元鉄の製造方法。
【0012】
(3)前記フライアッシュに含まれる未燃炭素量が2%以上である、
上記(2)に記載の還元鉄の製造方法。
【0013】
(4)前記酸化物系改質材が、さらにベントナイトを含む、
上記(2)または(3)に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、還元鉄を製造する際に用いられる酸化物系改質材の添加量を事前に最適化することができ、高効率で還元鉄を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ベントナイトおよびフライアッシュの、温度(℃)と計算される液相率(%)との関係を示すグラフである。
図2】未燃炭素の含有量と、FeOおよびFeの合計含有量に対するFeOの含有量の比率との関係を表すグラフである。
図3】未燃炭素の含有量とフライアッシュの添加比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、酸化物系改質材の最適な添加量を事前に決定する方法について鋭意検討を行い、以下の知見を得るに至った。
【0017】
還元鉄の構造を詳細に観察した結果、酸化物系改質材は、高温環境下において一部が液化し、還元鉄の空隙を埋め緻密な構造とすることにより、還元鉄の強度を向上させていることが分かった。すなわち、酸化物系改質材の最適な添加量を求めるに際しては、当該酸化物系改質材の高温環境下における液相率が重要な指標になると考えられる。
【0018】
そこで、本発明者らはまず、表1に示す成分を有するベントナイトおよびフライアッシュを酸化物系改質材としてそれぞれ用いて、その添加量と得られた還元鉄の強度との関係を調査した。
【0019】
【表1】
【0020】
図1は、上記成分を有するベントナイトおよびフライアッシュの、温度(℃)と計算される液相率(%)との関係を示すグラフである。図1から、還元鉄の製造時の温度に近い1000℃におけるベイナイトおよびフライアッシュの液相率は、それぞれ20%および7%であることが分かる。すなわち、化学成分から計算される液相率に基づいた場合、還元鉄の強度を同等とするためには、ベントナイトに対して2.9倍の量のフライアッシュを添加する必要があると推定される。
【0021】
しかしながら、実際にそれぞれの酸化物系改質材を用いて還元鉄を製造した結果、ベントナイトに対して1.1倍の量のフライアッシュを添加するだけで同等の強度が得られることが分かった。
【0022】
そこで、本発明者らは、このような差を示す理由について、さらに調査を行った。その結果、還元炉内の還元的な環境において、フライアッシュ中に含まれる未燃炭素が還元剤としての役割を果たし、FeがFeOへと還元されることにより、液相率が大幅に増加したことを見出すに至った。ここで、「未燃炭素」とは、石炭燃焼ボイラーで使用する石炭が完全に燃焼されず燃え残ったものを指す。
【0023】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下に、本発明の一実施形態に係る還元鉄の製造方法について説明する。
【0024】
本発明においては、酸化鉄を主体とし炭材を含む原料に、酸化物系改質材を添加し、成型、乾燥した後、還元炉に装入し、所定環境下で加熱することで、酸化鉄を還元することにより、還元鉄を製造する。そして、本発明に用いられる酸化物系改質材は、SiOおよび未燃炭素を含有する。酸化物系改質材の成分については特に制限は設けないが、通常、酸化物系改質材に含有されるSiOの量は、40~70質量%、未燃炭素の量は、2~20質量%である。
【0025】
なお、上記の所定環境には、還元炉内での加熱温度および加熱時間等の雰囲気条件が含まれる。通常、加熱温度は1000~1450℃、加熱時間は15~25分である。
【0026】
酸化物系改質材の種類については特に制限は設けない。酸化物系改質材としては、例えば、フライアッシュ、ベントナイト、パーライトまたは珪藻土等が挙げられる。なかでも、高濃度のSiOを含有し、かつ未燃炭素を含有するフライアッシュを含むことが好ましい。フライアッシュは、製鉄所からの副産物であり、安価で安定的に入手可能なためである。
【0027】
使用するフライアッシュの組成についても特に制限はないが、液相率を高めるためには、2%以上の未燃炭素を含んでいることが望ましい。
【0028】
また、酸化物系改質材は、フライアッシュに加えて、さらにベントナイトを含んでいてもよい。ベントナイトは、フライアッシュに比べて高価ではあるが、フライアッシュよりも液化を促進するSiO含有量が高く、液化を阻害するFe含有量が低いためである。
【0029】
そして、まず、酸化物系改質材中の未燃炭素の含有量に基づき、酸化物系改質材の還元炉内での所定環境下における液相率を推定する。液相率の推定方法については特に制限は設けないが、未燃炭素の含有量から、所定環境下でのFeOとFeとの比率を求めた後、当該成分系での液相率を、例えば、熱力学計算ソフト(「Factsage」、株式会社計算力学研究センター社製)を用いて算出することができる。
【0030】
なお、FeOとFeとの比率を求めるための推定式は、還元反応について微分方程式を解くことにより導出することができる。具体的には、FeOおよびFeの合計含有量に対するFeOの含有量の比率は、下記(i)式で表わされる推定式を用いて求めることができる。
FeO/(FeO+Fe)=1-exp(-CUB/5.4) ・・・(i)
但し、上記式中のFeOおよびFeは、それぞれ所定環境下で還元された後の酸化物系改質材中に含まれるFeOおよびFeの含有量(質量%)であり、CUBは、所定環境下で還元される前における酸化物系改質材中の未燃炭素の含有量(質量%)である。
【0031】
図2は、未燃炭素の含有量と、FeOおよびFeの合計含有量に対するFeOの含有量の比率との関係を表すグラフである。グラフ中の曲線は、上記(i)式を表しており、プロットは実験によって実測された値である。図2からも、(i)式で表わされる推定式と実験値がよく一致することが分かる。
【0032】
続いて、得られた液相率に基づき、酸化物系改質材の添加量を決定する。酸化物系改質材の添加量を決定する方法についても、特に制限はない。例えば、予め液相率と最適な添加量との関係が経験的に求められている材料との液相率の比較により、添加量を求めることができる。
【0033】
なお、上述のように、酸化物系改質材としては、フライアッシュ、ベントナイト等の様々な組成を有する材料およびそれらの混合材料が用いられる。酸化物系改質材の添加量の決定には、1種の材料または混合材料の組成に応じた最適な添加量の決定に加えて、それぞれの組成を有する複数の材料の最適な混合比率の決定も含まれるものとする。
【0034】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0035】
まず、表2に示す成分を有する、ベントナイトおよび3種類のフライアッシュ(リオティント炭、リデル炭およびスプリングクリーク炭)について、還元前の未燃炭素の含有量から、上記(i)式で表わされる推定式を用いて、還元後におけるFeOおよびFeの合計含有量に対するFeOの含有量の比率を算出した。さらに、還元前のFeOおよびFeの含有量と、上記比率から還元後のFeOおよびFeの含有量を算出した。その値を表2に併せて示す。
【0036】
【表2】
【0037】
その後、還元後のFeOおよびFeの含有量の推定値から、株式会社計算力学研究センター社製の熱力学計算ソフト「Factsage」を用いて、1000℃の環境下での液相率をそれぞれ算出した。そして、得られた液相率に基づき、3種類のフライアッシュの、ベントナイトの必要添加量に対する比(添加比)を求めた。それらの結果を表2にまとめて示す。
【0038】
さらに、それぞれのフライアッシュに含まれる未燃炭素の含有量に応じた上記添加比を計算により求めた。その結果を図3に示す。図3は、未燃炭素の含有量とフライアッシュの添加比との関係を示すグラフである。
【0039】
また、図3には、リオティント炭およびリデル炭を用いた場合における、実績値を併せて示している。図3から分かるように、本発明によって決定されたフライアッシュの添加比の計算値と、従来の操業により経験的に求められた実績値とがよく一致していることが分かる。
【0040】
以上のように、本発明の方法を採用することで、新たな種類の酸化物系改質材を用いる場合であっても、その成分から、最適な添加量を決定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、還元鉄を製造する際に用いられる酸化物系改質材の添加量を事前に最適化することができ、高効率で還元鉄を製造することが可能になる。
図1
図2
図3