(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23G 3/04 20060101AFI20230517BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20230517BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20230517BHJP
B08B 9/02 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C23G3/04
B08B3/02 F
B08B3/04 Z
B08B9/02
(21)【出願番号】P 2019136193
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】山本 将之
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴司
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-162087(JP,A)
【文献】特開平01-246384(JP,A)
【文献】特開昭58-003721(JP,A)
【文献】特開昭62-298488(JP,A)
【文献】特開昭55-011148(JP,A)
【文献】特開昭58-144484(JP,A)
【文献】特開昭58-128218(JP,A)
【文献】実開平06-016468(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
B08B 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管を酸溶液に浸漬する酸洗工程と、
前記酸洗工程後に、前記素管の外表面に高圧水を噴射して前記素管の外表面を洗浄する高圧水洗浄工程と、
前記高圧水を噴射して洗浄した後、前記素管を
、60℃以上の湯に1分以上浸漬する湯浸漬工程と、を含
み、
前記高圧水洗浄工程における前記素管への前記高圧水の噴射の終了と、前記湯浸漬工程における前記素管の湯への浸漬の開始との間は、15分以内であり、
前記高圧水洗浄工程における前記高圧水の噴射は、
吐出圧力が0.98MPa以上である噴射ノズルを用いて、
前記噴射ノズルの噴射口から前記素管までの距離を2.7m以下とし、
前記素管の外表面における単位面積あたりの噴射水量を144L/m2以上とする、
ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記湯浸漬工程後に、前記素管の表面に気体を吹き付ける気体吹き付け工程をさらに含む、請求項
1に記載の鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鋼管等の金属管の製造工程は、金属管の表面を酸洗する工程を含む場合がある。酸洗工程では、鋼管を、酸洗槽に浸漬する。酸洗工程の後では、鋼管を、水洗し、乾燥させる。
【0003】
例えば、特開2010-274303号公報(下記特許文献1)の段落[0027]には、酸洗設備において、素管や成品を、例えば、水洗槽、弗硝酸槽、湯洗槽に順に浸漬させる処理を行うことが記載されている。また、特開昭62-034620号公報(下記特許文献2)には、冷間引抜加工方法において、脱脂工程、水洗工程、錆、ミルスケール除去のための酸洗工程、水洗工程、被処理材の温度を上げて処理液の温度低下を防ぐための湯洗工程、下地皮膜処理工程、水洗工程、中和処理工程、潤滑処理工程、及び、熱風乾燥工程を経ることが開示されている。また、特開昭58-003721号公報には、溶接ステンレス鋼管の製造において、酸洗として、第1シャワー室において複数の組の横ブラシと縦ブラシとを管の外面に刷接させて温硝酸溶液洗をし、次に続く第2シャワー室内において温水洗をし、次に続く第3シャワー室内において仕上温水洗をし、除水後に管の外面に熱風を吹き付けて乾燥をすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-274303号公報
【文献】特開昭62-034620号公報
【文献】特開昭58-003721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、従来の酸洗後の後処理では、鋼管の外表面の全体にわたって良好な表面性状が得られず、表面性状にムラが生じる場合があることを見いだした。
【0006】
本発明は、鋼管の外表面の全体にわたって表面性状のムラを抑制することができる鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態における鋼管の製造方法は、素管を酸溶液に浸漬する酸洗工程と、前記酸洗工程後に、前記素管の外表面に高圧水を噴射して前記素管の外表面を洗浄する高圧水洗浄工程と、前記高圧水を噴射して洗浄した後、前記素管を、湯に浸漬する湯浸漬工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鋼管の外表面の全体にわたって表面性状のムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による鋼管の製造方法のフロー図である。
【
図2】
図2は、酸洗工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
鋼管の製造工程においては、酸洗によって鋼管の表面全体にわたってムラなく脱スケールさせることが好ましい。これにより、部分的な耐食性の低下防止、及び、鋼管の品格向上が可能になるためである。
【0011】
従来、酸洗後には、水洗又は湯洗、及びその後の乾燥が行われていた。発明者らは、この従来の酸洗後の処理工程では、鋼管の外表面の全体にわたって表面性状が均一ではなく、外観にムラを生じる場合があることを見いだした。これは、酸洗時の付着物残留や酸液の除去不足、又は乾燥時の残液の濃化によるものが原因であると考えられる。
【0012】
発明者らは、表面性状のムラを抑制するために、従来の水洗に加えて、高圧水を素管の外表面に噴射する高圧水洗浄をすることを試みた。高圧水洗浄により、素管の表面性状が改善される。しかしながら、高圧水洗浄の後、表面性状にムラが生じる場合があることが見いだされた。
【0013】
そこで、種々の後処理を試行した結果、高圧水洗浄の後に素管を湯に浸漬する湯浸漬を行うことで、酸洗後に発生する表面性状のムラを抑制できることを見いだした。この知見に基づいて、本発明がなされた。以下、本発明の一実施形態によるステンレス鋼管の製造方法を詳述する。
【0014】
本発明の実施形態における鋼管の製造方法は、素管を酸溶液に浸漬する酸洗工程と、前記酸洗工程後に、前記素管の外表面に高圧水を噴射して前記素管の外表面を洗浄する高圧水洗浄工程と、前記高圧水を噴射して洗浄した後、前記素管を湯に浸漬する湯浸漬工程とを含む。
【0015】
上記製造方法では、酸洗後の素管を高圧水洗浄した後、湯浸漬が行われる。これにより、最終的に得られる鋼管の外表面の表面性状のムラを確実に抑制できる。高圧水洗浄工程では、高い水圧により、酸洗工程で付着したスマット等の付着物が除去されるだけでなく、素管の表面が活性化されると考えられる。この活性化された状態の素管表面を湯に浸漬することで、素管の表面が全体にわたって極薄くかつ均一に酸化(あるいは水酸化)される結果、表面性状のムラが抑制されると考えられる。
【0016】
前記高圧水洗浄工程における前記素管への前記高圧水の噴射の終了と、前記湯浸漬工程における前記素管の湯への浸漬の開始との間は、15分以内であることが好ましい。高圧水洗浄終了から湯浸漬開始までの時間を短くすることにより、最終的に得られる鋼管の表面性状のムラをより抑制することができる。
【0017】
なお、湯浸漬工程における素管の湯への浸漬は、素管の外表面の全体にわたって表面性状を均一にする観点から、湯を貯めた槽に素管を入れることで行われることが好ましいが、シャワー等による素管に湯を流し掛けることで行われてもよい。
【0018】
前記湯浸漬工程では、前記素管を、60℃以上の湯に1分以上浸漬することが好ましい。これにより、最終的に得られる鋼管の表面性状のムラをより確実に抑制することができる。
【0019】
前記高圧水洗浄工程における前記高圧水の噴射は、吐出圧力が0.98MPa(10kgf/cm2)以上である噴射ノズルを用いて、前記噴射ノズルの噴射口から前記素管までの距離を2.7m以下とし、前記素管の外表面における単位面積あたりの噴射水量を144L/m2以上とすることが好ましい。これにより、素管の外表面に対する高圧水洗浄をより確実に行うことができる。
【0020】
なお、素管の外表面における単位面積あたりの噴射水量は、素管の外表面に高圧水を噴射した時間(分)に1分あたりの噴射水量(L/分)を掛けた値を、素管の外表面の面積(m2)で割った値とする。
【0021】
上記製造方法は、前記湯浸漬工程後に、前記素管の表面に気体を吹き付ける気体吹き付け工程をさらに含んでもよい。これにより、素管の表面の乾燥を促進して、最終的に得られる鋼管の表面性状のムラをより確実に抑制することができる。
【0022】
上記の鋼管の製造方法において、前記酸洗工程の後、前記高圧水洗浄工程の前に、前記素管を水に浸漬する水洗工程があってもよい。
【0023】
上記の鋼管の製造方法において、前記酸洗工程は、硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸のうちいずれか1種の酸溶液、又はこれらのうち2種以上を混合した酸溶液に前記素管を浸漬する第1酸洗工程と、フッ酸及び硝酸の混合液に前記素管を浸漬する第2酸洗工程とを含んでも良い。この場合、第1酸洗工程と第2酸洗工程の間、及び第2酸洗工程と高圧水洗浄工程の間に素管を水に浸漬する水洗工程があってもよい。
【0024】
上記の水洗工程は、50℃以下の水に素管を浸漬する工程である。水への素管の浸漬は、水槽に素管を入れることで行われてもよいし、シャワー等により素管に水を流し掛けることで行われてもよい。
【0025】
上記の鋼管の製造方法は、前記酸洗工程の前に、前記素管の表面をブラスト処理して、酸化スケールを機械的に除去する酸化スケール除去工程をさらに含んでもよい。
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0027】
(実施形態)
図1は、本発明の一実施形態による鋼管の製造方法のフロー図である。本実施形態では、鋼管の一例であるマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法を説明する。本実施形態による鋼管の製造方法は、素管を準備する工程(ステップS1)と、素管の酸化スケールを除去する工程(ステップS2)と、素管を酸洗する工程(ステップS3)と、素管を高圧水洗浄する工程(ステップS4)と、素管を湯浸漬する工程(ステップS5)と、素管に気体を吹き付ける工程(ステップS6)とを備えている。なお、気体吹き付け工程(ステップS6)は任意の工程であり、この工程は省略してもよい。以下、各工程を詳述する。
【0028】
[準備工程]
ステップS1では、まず、所定の化学組成を有する素材を準備する。素材の化学組成は、特定のものに限定されない。ここでは、一例として、Crを13質量%程度含むマルテンサイト系ステンレス鋼管(以下「13%Cr鋼管」という。)を製造する場合について説明する。例えば、質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~1.00%、P:0.030%以下、S:0.0020%以下、Cu:0.50%未満、Cr:11.50~14.00%未満、Ni:5.00%超~7.00%、Mo:1.00%超~3.00%、Ti:0.02~0.50%、Al:0.001~0.100%、Ca:0.0001~0.0040%、N :0.0001~0.0200%未満、V:0~0.500%、Nb:0~0.500%、Co:0~0.500%、残部:Fe及び不純物である化学組成を有する鋼を準備する。
【0029】
ステップS1では、鋼を溶製し、連続鋳造又は分塊圧延を実施してビレットにする。連続鋳造又は分塊圧延に加えて、熱間加工や冷間加工、熱処理等を実施してもよい。
【0030】
素材を熱間加工して素管を製造する。熱間加工は例えば、マンネスマン法やユジーン・セジュルネ法である。
【0031】
熱間加工された素管を焼入れする。焼入れは、直接焼入れ、インライン焼入れ、及び再加熱焼入れのいずれでもよい。直接焼入れとは、熱間加工後の高温の素管をそのまま急冷する熱処理である。インライン焼入れとは、熱間加工後の素管を補熱炉で均熱した後、急冷する熱処理である。再加熱焼入れとは、熱間加工後の素管を一旦室温付近まで冷却した後、Ac3点以上の温度に再加熱してから急冷する熱処理である。
【0032】
焼入れ温度(急冷直前の素管の温度)は、好ましくは850~1000℃である。急冷時の冷却速度は、好ましくは300℃/分以上である。
【0033】
焼入れがされた素管を焼戻しする。具体例として、素管を550~700℃の焼戻し温度で10~180分の焼戻し時間の間保持した後、冷却する。
【0034】
焼戻しは、焼入れ工程で生じた歪みを除去するとともに、鋼管の機械的特性を調整するために実施される。一般的に、焼戻し温度を高くするほど、あるいは、焼戻し時間を長くするほど、鋼管の強度は低くなり、靱性は向上する。焼戻し温度及び焼戻し時間は、要求される機械的特性に応じて決定される。
【0035】
[酸化スケール除去工程]
焼戻し工程で発生した素管の酸化スケールを除去する(ステップS2)。酸化スケールの除去は例えば、ブラスト処理によって行うことができる。酸化スケール除去工程(ステップS2)は任意の工程であり、この工程は省略してもよい。酸化スケール除去工程を実施すれば、次の酸洗工程(ステップS3)で使用する酸溶液の劣化を抑制することができる。
【0036】
[酸洗工程]
素管を酸洗する(ステップS3)。酸洗では、素管を、所定の濃度、所定の温度の酸溶液に所定時間の間浸漬する。
【0037】
酸洗に用いる酸の種類は特に限定されない。例えば硫酸や塩酸、硝酸を用いることができるが、硫酸が特に好ましい。2種以上の酸を混合した溶液を用いてもよい。酸溶液は、これに限定されないが、通常は水溶液が用いられる。
【0038】
図2は、酸洗の一例を示すフロー図である。
図2に示す例では、硫酸による酸洗工程(ステップS31)、水洗工程(ステップS32)、フッ硝酸による酸洗工程(ステップS33)、及び、水洗工程(ステップS34)を含む。
【0039】
ステップS31では、硫酸溶液に、上記ステップS2で酸化スケールが除去された素管を浸漬する。これにより、残留している酸化スケールを除去する。硫酸溶液は、これに限定されないが、水溶液が用いられる。硫酸の濃度は、これに限定されないが、例えば15~18質量%である。
【0040】
硫酸溶液の温度は、これに限定されないが、例えば25~80℃である。温度の下限は、好ましくは30℃であり、さらに好ましくは40℃である。温度の上限は、好ましくは70℃であり、さらに好ましくは65℃である。
【0041】
硫酸溶液への浸漬時間は、これに限定されないが、例えば10~90分である。浸漬時間の下限は、好ましくは15分であり、さらに好ましくは20分である。浸漬時間の上限は、好ましくは60分であり、より好ましくは50分であり、さらに好ましくは40分である。
【0042】
ステップS32では、硫酸溶液から取り出した素管を常温(15~25℃)の水で1~5分間洗浄することにより、表面に付着した硫酸溶液を洗い落とす。
【0043】
ステップS31の硫酸溶液への浸漬とステップS32の水洗は、複数回繰り返してもよい。硫酸への浸漬を複数回繰り返す場合、1回の硫酸溶液への浸漬時間は、例えば10~90分である。1回の硫酸溶液への浸漬時間の下限は、好ましくは15分であり、さらに好ましくは20分である。1回の浸漬時間の上限は、好ましくは60分であり、より好ましくは50分であり、さらに好ましくは40分である。
【0044】
ステップS33では、フッ硝酸溶液に、素管を浸漬する。これにより、残留している酸化スケールを除去する。フッ硝酸溶液は、フッ酸と硝酸を混合した溶液である。フッ硝酸溶液は、これに限定されないが、水溶液が用いられる。フッ酸の濃度は、これに限定されないが、例えば3~10質量%である。硝酸の濃度は、これに限定されないが、例えば5~20質量%である。フッ酸と硝酸の混合比は、これに限定されないが、例えば、1:1~1:5である。結果として、フッ硝酸の総濃度は、これに限定されないが、例えば5~30質量%である。
【0045】
フッ硝酸溶液の温度は、これに限定されないが、例えば、50℃未満である。好ましくは、フッ硝酸溶液の温度は、5~40℃である。温度の下限は、好ましくは10℃であり、さらに好ましくは15℃である。温度の上限は、好ましくは30℃であり、さらに好ましくは25℃である。
【0046】
フッ硝酸溶液への浸漬時間は、これに限定されないが、例えば1~10分である。浸漬時間の下限は、好ましくは2分である。一方、浸漬時間を長くしすぎると、過酸洗により表面性状にムラを生じる場合がある。さらに、製造効率が低下する。浸漬時間の上限は、例えば、10分以下、好ましくは5分であり、さらに好ましくは3分である。また、このフッ硝酸の酸洗において、これに限定されないが、酸洗液の容積と材料の表面積の比(比液量:酸洗液容積/素管の表面積)を10ml/cm2以上にすることが好ましい。
【0047】
ステップS34の後、フッ硝酸溶液から取り出した素管を常温(15~25℃)の水で1~5分間洗浄することにより、表面に付着したフッ硝酸溶液を洗い落とす。この水洗工程は、任意であり、省略してもよい。
【0048】
[高圧水洗浄工程]
図1のステップS4では、素管の外表面全体に対し、常温の水を高圧で噴射することにより、表面に残留している付着物を洗い落とす。高圧水洗浄機を用いて、素管に高圧の水を噴射する。人が高圧水洗浄機の噴射ノズルを持って、素管の外表面全体にわたって高圧水を噴射してもよい。或いは、噴射ノズルを支持し、素管との相対位置を変えることができる装置を用いて、素管の外表面全体に高圧水を噴射することもできる。高圧水洗浄工程では、素管の外表面の全周にわたって高圧水が噴射されることが好ましい。
【0049】
高圧水洗浄機の噴射ノズルの吐出圧力は、これに限定されないが、0.98MPa以上(10kgf/cm2以上)とすることが好ましく、1.47MPa以上(15kgf/cm2以上)とすることがより好ましい。噴射ノズルの吐出圧力の下限は、さらに好ましくは、1.96MPa(20kgf/cm2)である。噴射ノズルの吐出圧力の上限は、特に限定されないが、好ましくは、8.83MPa(90kgf/cm2)、より好ましくは、3.92MPa(40kgf/cm2)である。
【0050】
噴射ノズルの噴射口の直径は、これに限定されないが、0.8~3.0mmであることが好ましい。噴射ノズルの噴射口の直径の下限は、好ましくは、1.0mmであり、より好ましくは、1.3mmである。噴射ノズルの噴射口の直径の上限は、好ましくは、2.5mmであり、より好ましくは、2.0mmである。
【0051】
噴射ノズルの噴射口から素管までの距離は、これに限定されないが、2.7m以下とすることが好ましい。噴射ノズルの噴射口から素管までの距離の上限は、1.8mが好ましい。噴射ノズルの噴射口から素管までの距離の下限は、これに限定されないが、0.5mが好ましく、1.0mがより好ましい。
【0052】
素管の外表面における単位面積あたりの高圧水の噴射水量は、これに限定されないが、144L/m2以上とすることが好ましい。噴射水量の下限は、好ましくは、200L/m2であり、より好ましくは、312L/m2である。素管の外表面における単位面積あたりの高圧水の噴射水量の上限は、これに限定されないが、1440L/m2が好ましく、749L/m2がより好ましく、576L/m2がさらに好ましい。
【0053】
高圧水洗浄工程では、必須ではないが、さらに、素管の内表面に高圧水を噴射して、内表面の高圧水洗浄を行ってもよい。例えば、素管内に噴射ノズルを挿入して、素管の内表面を高圧水洗浄することができる。
【0054】
[湯浸漬工程]
ステップS5では、高圧水洗浄の後、速やかに素管を湯に浸漬する。その結果、最終的に得られる鋼管の外表面の全体にわたって表面性状のムラを抑制できる。
【0055】
表面性状のムラを抑制できる機構は明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。すなわち、高圧水洗浄工程では、酸洗工程で付着したスマット等の付着物が除去されて、素管の表面が清浄になるともに、高い水圧により、素管の表面が活性化される。この状態で湯に浸漬することで、活性化された素管の表面が極薄くかつ均一に酸化(あるいは水酸化)されて安定化する。
【0056】
また、発明者らは、高圧水洗浄の後速やかに湯浸漬を開始することで、素管の表面をより確実に安定化できることを見出した。高圧水洗浄工程の終了から湯への浸漬を開始するまでの時間を短くすることで、最終的に得られる鋼管の表面性状のムラをより抑制することができる。この観点から、高圧水洗浄工程における素管への高圧水の噴射の終了から、湯浸漬工程における素管の湯への浸漬の開始までの時間は、これに限定されないが、15分以内とすることが好ましい。この高圧水洗浄終了から湯浸漬開始までの時間の上限は、より好ましくは10分、さらに好ましくは7分、さらに好ましくは5分、さらに好ましくは3分である。高圧水洗浄終了から湯浸漬開始までの時間の下限は、これに限定されないが、好ましくは5秒、より好ましくは10秒である。
【0057】
さらに、発明者らは、湯浸漬工程における湯温及び浸漬時間が最終的に得られる鋼管の表面性状に影響を及ぼすことを見出した。最終的に得られる鋼管の表面性状のムラを抑制するためには、湯浸漬工程における素管を浸漬する湯の温度は、これに限定されないが、60℃以上であることが好ましい。素管を浸漬する湯の温度(湯温)の下限は、70℃が好ましく、80℃がより好ましい。素管を浸漬する湯の温度(湯温)の上限は、例えば、水の沸点よりも低い90℃が好ましい。
【0058】
湯浸漬工程における素管を湯に浸漬する時間は、これに限定されないが、1分以上であることが好ましい。素管を湯に浸漬する時間の下限は、1分30秒がより好ましく、2分がさらに好ましい。素管を湯に浸漬する時間の上限は、これに限定されないが、15分が好ましく、10分がより好ましく、5分がさらに好ましい。
【0059】
[気体吹き付け工程]
ステップS6では、湯浸漬した後、湯から取り出された素管の外表面の全体にわたって、気体を噴射する。これにより、素管の外表面に付着した湯を吹き飛ばすことができる。これにより、素管の外表面の乾燥が促進されて、最終的に得られる鋼管の表面性状のムラをより確実に抑制することができる。噴射する気体は、これに限定されないが、空気とすることができる。空気の他には、例えば、窒素やアルゴンを噴射する気体としてもよい。噴射圧力は、これに限定されないが、0.2~0.5MPaとすることができる。
【0060】
気体吹き付け工程では、必須ではないが、さらに、素管の内表面に気体を噴射してもよい。これにより、素管の内表面に付着した液体を吹き飛ばすことができる。この場合、素管の内表面の乾燥が促進されて、最終的に得られる鋼管の内面においても、表面性状のムラをより確実に抑制することができる。例えば、素管内へ噴射ノズルを挿入して、素管の内表面へ気体を吹き付けることができる。
【0061】
上記の実施形態によれば、酸洗後の素管の外表面に対して高圧水を噴射して洗浄した後、湯浸漬することで、最終的に得られる鋼管の外表面の全体にわたって、表面性状のムラを抑制することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0063】
素管を酸洗した後、水洗した。さらに、高圧水洗浄、湯浸漬(又は水浸漬)、及び気体吹き付けを順に行った。気体吹き付け後に最終的に得られた鋼管の表面性状を評価した。なお、一部の素管では、気体吹き付けを行わなかった。この場合は、湯浸漬後、常温(25℃)で自然乾燥させて、最終的に得られた鋼管の表面性状を評価した。高圧水洗浄の条件、高圧水洗浄終了から湯浸漬開始までの時間、及び湯浸漬の条件を様々に変えて上記評価を行った。なお、50℃以下の水に素管を浸漬する場合を水浸漬とし、50℃を超える湯に素管を浸漬する場合を湯浸漬とする。
【0064】
以下に、試験に用いた素管の化学組成と寸法、酸洗、高圧水洗浄、湯浸漬、及び気体吹き付けの各条件を示す。
[鋼管]
素管(製造された鋼管も同等)の化学組成を、表1に示す。表1において、単位は質量%であり、残部はFe及び不純物である。素管の寸法は、直径317.9mm、肉厚12.9mm、長さ12mであった。
【表1】
【0065】
[酸洗]下記の条件で、酸水溶液または水を貯めた槽に素管を浸漬した。
[第1酸洗] 硫酸濃度:17質量%、温度:60℃、時間:40分
[第1酸洗後の水洗] 温度:25℃(常温)、時間:2分
[第2酸洗] フッ硝酸濃度:15質量%(フッ酸5質量%+硝酸10質量%)、温度:25℃(常温)、時間:2分
[第2酸洗後の水洗] 温度:25℃(常温)、時間:2分
【0066】
[高圧水洗浄]
噴射ノズルの吐出圧力:0.98MPa(10kgf/cm2)、1.47MPa(15kgf/cm2)、1.96MPa(20kgf/cm2)
噴射ノズルの噴射口の直径:1.3mm
噴射ノズルの噴射口から素管表面までの距離:1.8m、2.7m、3.6m
素管の外表面における単位面積あたりの高圧水の噴射水量:
60L/m2、80L/m2、144L/m2、300L/m2
高圧水洗浄機の単位時間あたりの噴射水量:240L/分
【0067】
[湯浸漬(又は水浸漬)]
方法:湯又は水を貯めた槽に素管を浸漬した。
湯又は水の温度:25℃、50℃、60℃、70℃、80℃
素管を湯又は水に浸漬する時間:1分以上
【0068】
[気体吹き付け]
気体種類:空気
噴射圧力:0.3MPa(3kgf/cm2)
【0069】
素管の外表面における単位面積あたりの高圧水の噴射水量は、下記の計算により求めた値である。
単位面積あたりの高圧水の噴射水量「60L/m2」は、素管の外周の3分の1周の領域を管の全長にわたって1分間かけて高圧水を噴射する作業を、素管を120度ずつ回転して3回すなわち3方向から行った場合の計算値である。すなわち、この値「60L/m2」は、素管の外表面の1/3に対して1分間で高圧水を噴射した場合の計算値である。素管の外表面の1/3に相当する面積を3.99m2として、単位面積1m2あたりの噴射時間を、1分/3.99m2=0.251分/m2とした。1m2あたりの噴射水量を、0.251分/m2×240L/分=60L/m2とした。
【0070】
単位面積あたりの高圧水の噴射水量「80L/m2」は、素管の外周の3分の1周の領域を管の全長にわたって1分20秒間かけて高圧水を噴射する作業を、素管を120度ずつ回転して3回すなわち3方向から行った場合の計算値である。すなわち、この値「80L/m2」は、素管の外表面の1/3に対して1分20秒(80秒)間で高圧水を噴射した場合の計算値である。素管の外表面の1/3に相当する面積を3.99m2として、単位面積1m2あたりの噴射時間を、(80/60)分/3.99m2=0.334分/m2とした。1m2あたりの噴射水量を、0.334分/m2×240L/分=80L/m2とした。
【0071】
単位面積あたりの高圧水の噴射水量「144L/m2」は、素管の外周の3分の1周の領域を管の全長にわたって2.4分間かけて高圧水を噴射する作業を、素管を120度ずつ回転して3回すなわち3方向から行った場合の計算値である。すなわち、この値「144L/m2」は、素管の外表面の1/3に対して2.4分間で高圧水を噴射した場合の計算値である。素管の外表面の1/3に相当する面積を3.99m2として、単位面積1m2あたりの噴射時間を、2.4分/3.99m2=0.602分/m2とした。1m2あたりの噴射水量を、0.602分/m2×240L/分=144L/m2とした。
【0072】
単位面積あたりの高圧水の噴射水量「300L/m2」は、素管の外周の3分の1周の領域を管の全長にわたって5分間かけて高圧水を噴射する作業を、素管を120度ずつ回転して3回すなわち3方向から行った場合の計算値である。すなわち、この値「300L/m2」は、素管の外表面の1/3に対して5分間で高圧水を噴射した場合の計算値である。素管の外表面の1/3に相当する面積を3.99m2として、単位面積1m2あたりの噴射時間を、5分/3.99m2=1.25分/m2とした。1m2あたりの噴射水量を、1.25分/m2×240L/分=300L/m2とした。
【0073】
下記表2は、各条件に対する評価結果を示す表である。
【表2】
【0074】
上記表2において、最終的に得られた鋼管の外表面の表面性状は、ISO 8501-1:2007(SIS(スウェーデン規格) 05 5900-1967)に基づき、除錆度が、Sa:2-1/2を満足する場合に良好(○)、Sa:2-1/2を満足しない場合に不良(×)と評価した。
【0075】
上記表2に示す結果から、試験No.4、6、9、11、16、17、19、21、23、29、31、33、35、39~41、45及び46では、吐出圧力が0.98MPa(10kgf/m2)以上で、噴射ノズルから素管までの距離が2.7m以内、素管の外表面における単位面積あたりの水の噴射水量を144L/m2以上として、高圧水洗浄を行った。さらに、高圧水洗浄の終了後15分以内に、60℃以上の湯で1分以上湯浸漬を行った。その結果、最終的に得られた鋼管の表面性状は良好であった。
【0076】
なお、試験No.17では、湯浸漬工程後の素管に対して、気体吹き付けをしなかった。すなわち、湯浸漬後、自然乾燥させても、最終的に得られた鋼管の表面性状は良好であった。
【0077】
一方、上記表2に示す結果から、試験No.1では、酸洗工程後の素管に対して、高圧水洗浄を行わなかった。その結果、最終的に得られた鋼管の表面性状は不良であった。
【0078】
また、上記表2に示す結果から、試験No.12、13、25、26、37、38では、高圧水洗浄工程におけるノズル噴射口から素管の外表面までの距離が2.7mを超えた。その結果、最終的に得られた鋼管の表面性状は不良であった。
【0079】
さらに、上記表2に示す結果から、試験No.2、7、14、20、27、32では、高圧水洗浄工程における素管の外表面における単位面積あたりの噴射水量が144L/m2未満であった。その結果、最終的に得られた鋼管の表面性状は不良であった。
【0080】
さらに、上記表2に示す結果から、試験No.3、5、8、10、15、18、22、24、28、30、34、36では、高圧水洗浄工程後の素管に対して、湯浸漬を行わなかった。その結果、最終的に得られた鋼管の表面性状は不良であった。
【0081】
さらに、上記表2に示す結果から、試験No.42~44では、高圧水洗浄工程後の素管に対して、水浸漬を行った。水温は、50℃以下であった。その結果、最終的に得られた鋼管の表面性状は不良であった。
【0082】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0083】
本発明は、鋼管に適用されるが、好ましくはステンレス鋼管に適用可能であり、より好ましくはマルテンサイト系ステンレス鋼管に適用可能であり、さらに好ましくはマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管に適用可能である。