(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-16
(45)【発行日】2023-05-24
(54)【発明の名称】体臭抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/55 20060101AFI20230517BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
A61K8/55
A61Q15/00
(21)【出願番号】P 2018163456
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】512230513
【氏名又は名称】株式会社ナールスコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】503417187
【氏名又は名称】株式会社トーア紡コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】松井 健二
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 龍藏
(72)【発明者】
【氏名】石田 英晃
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100993(JP,A)
【文献】国際公開第2007/108438(WO,A1)
【文献】特開平11-286423(JP,A)
【文献】国際公開第2007/066705(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/123102(WO,A1)
【文献】特開2011-168511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタチオンに反応性を有する体臭の原因物質の揮発性を低下させて消臭する消臭剤であって、下記式(1)で表される化合物、下記式(1’)で表される化合物、それらの塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含む、体臭消臭剤(但し、有効成分として、前記化合物のうち、下記式(1’)で表される化合物であって式中のnが3又は4である化合物、その塩、及びその水和物から選択される化合物のみを含む場合、これらの化合物の濃度(2種以上含有する場合はその合計濃度)は30~70μMである)。
【化1】
[式(1)中、R
1はC
1-4アルキル基置換フェニル基を示し、R
2は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。前記C
1-4アルキル基置換フェニル基、及び炭素数1~3のアルキル基は、置換基として、ハロゲン原子、-COOH、-SO
3H、及び-SO
2NHR
3からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい。前記R
3は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは2を示す]
【化2】
[式(1’)中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。前記炭素数1~3のアルキル基は、置換基として、ハロゲン原子、-COOH、-SO
3H、及び-SO
2NHR
3
からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい。前記R
3は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。nは2、3、4、又は6を示す]
【請求項2】
グルタチオンに反応性を有する体臭の原因物質の揮発性を低下させて消臭する消臭剤であって、下記式(I-1)で表される化合物、下記式(I-2)で表される化合物、下記式(I-3)で表される化合物、下記式(I-5)で表される化合物、下記式(II-2)で表される化合物、それらの塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含む、体臭消臭剤(但し、有効成分として、前記化合物のうち、下記式(I-2)で表される化合物、下記式(I-3)で表される化合物、それらの塩、及びそれらの水和物から選択される化合物のみを含む場合、これらの化合物の濃度(2種以上含有する場合はその合計濃度)は30~70μMである)。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体臭抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生志向が高まり、体臭が嫌悪される傾向が強まっている。体臭には、腋臭、足臭、加齢臭等が含まれる。腋臭や足臭の主な原因物質としては、イソ吉草酸、ノナン酸、カプリン酸等の低級脂肪酸が知られている。また、加齢臭の主な原因物質としては、2-オクテナールや2-ノネナール等の不飽和アルデヒドが知られている。
【0003】
特許文献1には、13-オキサビシクロ[10.1.0]トリデカン類を含有する抗菌剤を使用して、腋臭の発生に関与する皮膚常在菌の増殖を抑制することにより、体臭を抑制する方法が記載されている。しかし、この方法によれば、皮膚常在菌のうち健康な皮膚を維持する為に欠かせない菌も増殖が抑制されるので、体臭は抑制されても、他の問題が新たに発生する恐れがあった。
【0004】
また、特許文献2には、加齢により皮脂中において含有比率が高まるパルミトレイン酸が表在菌の酸素添加酵素によってパルミトレイン酸ヒドロペルオキシドへと酸化され、次いでこのパルミトレイン酸ヒドロペルオキシドがβ開裂することでオクテナールや2-ノネナール等の不飽和アルデヒドが生成することが記載され、トラネキサム酸やβ-カロチン等の脂肪酸酸素添加酵素阻害剤を使用することで前記不飽和アルデヒドの生成を抑制することができることが記載されている。
【0005】
その他、特許文献3には、シソ及び月見草由来のポリフェノールを体内に摂取すると、オクテナールや2-ノネナール等の不飽和アルデヒドの生成が抑制されることが記載されている。
【0006】
特許文献2、3の方法によれば加齢臭の原因となる不飽和アルデヒドの生成を抑制することはできるが、一旦生成された不飽和アルデヒドについてはその臭気を抑制することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-34637号公報
【文献】特開平11-286424号公報
【文献】特開2007-314472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、体臭の原因物質の揮発性を低下させることにより、臭いの発生を抑制する効果を発揮する、体臭抑制剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、体臭の原因物質の産生を抑制し、且つ産生された体臭の原因物質の揮発性を低下させることにより、臭いの発生を抑制する効果を発揮する、体臭抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記事項を見いだした。
1.グルタチオンは体臭の原因物質に速やかに付加反応することにより、体臭の原因物質を高分子量化し、高極性化して、揮発性を著しく低下させること
2.グルタチオンは、体内において抗酸化作用、細胞賦活作用等を発揮して、体臭の原因物質の産生を抑制する効果を発揮すること
3.下記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物は、グルタチオンの合成促進効果に優れ、皮膚に適用することによりグルタチオン濃度を速やかに上昇させることができること
4.皮膚表面の、体臭の原因物質が存する部位に、下記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物を適用すると、これを適用することにより生成したグルタチオンが体臭の原因物質の産生を抑制し、且つ産生された体臭の原因物質には、揮発性を低下させるよう作用することにより体臭を抑制する効果を発揮すること
本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
[式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基として、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい炭化水素基(前記R
3は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す)を示す。nは1以上の整数を示す]
で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を有効成分として含む、体臭抑制剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の体臭抑制剤は、皮膚に適用すると、皮膚細胞内においてグルタチオン濃度を速やかに上昇させることができる。そして、産生されたグルタチオンは体臭の原因物質と速やかに反応して高分子量化し、高極性化することにより、不揮発化して、臭いの発生を抑制することができる。また、産生したグルタチオンは、体臭の原因物質の産生を抑制する効果も発揮することができる。
更に、上記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物は、それ自体は抗菌性を有さず、安全性に優れる。そのため、これを使用しても、健康な皮膚を維持する為に欠かせない皮膚常在菌が損なわれることはない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の体臭抑制効果の評価結果(GC-MS分析結果)を示す図であり、左腋下(体臭抑制剤処理区)から採取したサンプルのGC-MS分析結果を示す図である。
【
図2】
図1と同一人物の右腋下(体臭抑制剤未処理区)から採取したサンプルのGC-MS分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[体臭抑制剤]
本発明の体臭抑制剤は、有効成分として、下記式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種を含む。
【0014】
下記式(1)で表される化合物は少なくとも1個の不斉原子を有する。そのため、下記式(1)で表される化合物には少なくとも2種の光学異性体が存在する。本発明の体臭抑制剤は、下記式(1)で表される化合物として、光学異性体(若しくは、鏡像異性体)の等量混合物(=ラセミ体)を使用してもよく、又前記光学異性体の等量混合物を光学分割して得られる光学活性体(若しくは、片方の鏡像異性体)を使用しても良い。尚、ラセミ体の光学分割にはジアステレオマー塩法やキラルカラムを用いた分割法等、周知慣用の方法を採用することができる。
【0015】
【化2】
[式中、R
1、R
2は、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基として、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を1又は2以上有していてもよい炭化水素基(前記R
3は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を示す)を示す。nは1以上の整数を示す]
【0016】
前記R1、R2における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらが単結合を介して結合した基が含まれる。
【0017】
脂肪族炭化水素基としては、C1-20(=炭素数1~20)の脂肪族炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数C1-20(好ましくはC1-10、特に好ましくはC1-3)程度のアルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等のC2-20(好ましくはC2-10、特に好ましくはC2-3)程度のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のC2-20(好ましくはC2-10、特に好ましくはC2-3)程度のアルキニル基等が挙げられる。
【0018】
脂環式炭化水素基としては、C3-20脂環式炭化水素基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のC3-20(好ましくはC3-15、特に好ましくはC5-8)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等のC3-20(好ましくはC3-15、特に好ましくはC5-8)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基等の橋かけ環式炭化水素基等が挙げられる。
【0019】
芳香族炭化水素基としては、C6-14(特に、C6-10)芳香族炭化水素基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0020】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基には、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基等のシクロアルキル置換アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル置換C1-4アルキル基等)等が含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基等)、アルキル置換アリール基(例えば、1~4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基等)等が含まれる。
【0021】
前記R3における脂肪族炭化水素基としては、上記R1、R2における脂肪族炭化水素基と同様の例を挙げることができる。
【0022】
前記R3における脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、C1-4アルコキシ基、C6-10アリールオキシ基、C7-16アラルキルオキシ基、C1-4アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、C1-4アルコキシカルボニル基、C6-10アリールオキシカルボニル基、C7-16アラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル等のC1-4アルキル置換カルバモイル、フェニルカルバモイル基等のC6-10アリール置換カルバモイル基)、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ基等のモノ又はジC1-4アルキルアミノ基;1-ピロリジニル、ピペリジノ、モルホリノ基等の5~8員の環状アミノ基;アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ基等のC1-10アシルアミノ基;ベンゼンスルホニルアミノ、p-トルエンスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基)、スルホ基、複素環式基等が挙げられる。また、前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。
【0023】
nは1以上の整数を示し、例えば1~10の整数である。
【0024】
式(1)で表される化合物としては、下記[I][II]が含まれる。
[I]式(1)中のOR1基とOR2基が何れもOH基である化合物(化合物(I))
[II]式(1)中のOR1基とOR2基の少なくとも一方が、OH基以外の基である化合物(化合物(II))
【0025】
化合物(I)の場合、nとしては、好ましくは2~10の整数、特に好ましくは2~8の整数である。
【0026】
化合物(II)の場合、nとしては、好ましくは1~8の整数、特に好ましくは2~6の整数である。
【0027】
化合物(II)におけるOR1基とOR2基の組みあわせとしては、下記[II-i]~[II-v]の組み合わせが好ましい。特に、式(1)中のnが1又は2の場合は下記[II-i]~[II-iv]の組み合わせが好ましく、式(1)中のnが3以上の整数の場合は下記[II-v]の組み合わせが好ましい。
【0028】
[II-i]下記式(i-1)で表される基と下記式(i-2)で表される基の組み合わせ
【化3】
[式(i-1)中、R
4は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい複素環式基を示す]
[式(i-2)中、R
5~R
7は、同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、-PO(OR
8)
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。前記R
8は、水素原子、アルキル基、又はアルケニル基を示す。R
5~R
7から選択される2つの基は互いに結合して、式(i-2)で示される基において、これらの基が結合する炭素原子と共に、環を形成していてもよい]
【0029】
前記脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、上述のR1、R2における脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基と同様の例を挙げることができる。
【0030】
前記複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、及びこれらの縮合環を挙げることができる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。複素環式基は前記複素環の構造式から1個の水素原子を除いた基である。
【0031】
前記R4~R7における脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及び複素環式基が有していてもよい置換基としては、前記R3における脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基と同様の例を挙げることができる。
【0032】
[II-ii]下記式(ii-1)で表される基と下記式(ii-2)で表される基の組み合わせ
【化4】
[式(ii-1)中、R
9は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し、R
10は水素原子又は下記式(r10)
【化5】
(式中、R
11は水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。n1は0~4の整数、n2は0又は1、n3は0~4の整数を示す。n1~n3から選択される2以上が同一であってもよい。X
1はアミド結合又はアルケニレン基を示し、X
2は-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基(前記R
3は、前記に同じ)を示す)
で表される基を示す]
[式(ii-2)中、Y
1は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、-PO(OR
8)
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。R
8は前記に同じ。Y
2は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
3R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基(前記R
3は、前記に同じ)を示す。Y
1とY
2は互いに結合して、式(ii-2)中のベンゼン環を構成する炭素原子と共に、環を形成していてもよい]
【0033】
[II-iii]置換基を有していてもよいアルコキシ基と、下記式(iii-1)~(iii-4)で表される基から選択される基の組み合わせ
【化6】
(式中、R
12は水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。Y
1、Y
2は前記に同じ。Y
1とY
2は互いに結合して、式中の芳香環を構成する炭素原子と共に、環を形成していてもよい)
【0034】
[II-iv]OR
1基とOR
2基が、同一又は異なって、下記式(iv-1)で表される基である組み合わせ
【化7】
(式中、Y
1、Y
2は前記に同じ。Y
1とY
2は互いに結合して、式中のベンゼン環を構成する炭素原子と共に、環を形成していてもよい)
【0035】
[II-v]ヒドロキシル基と置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素オキシ基(好ましくはC1-6アルコキシ基)との組み合わせ
【0036】
上記アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、及び脂肪族炭化水素オキシ基が有していてもよい置換基としては、前記R3における脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基と同様の例を挙げることができる。
【0037】
前記脂肪族炭化水素オキシ基を構成する脂肪族炭化水素基としては、上記R1、R2における脂肪族炭化水素基と同様の例を挙げることができる。
【0038】
前記化合物(I)としては、下記式(I-1)~(I-5)で表される化合物(光学異性体を含む)が好ましい。
【化8】
【0039】
前記化合物(II)としては、下記式(II-1)~(II-2)で表される化合物(光学異性体を含む)が好ましい。
【化9】
【0040】
式(1)で表される化合物は水和物であってもよく、又、式(1)で表される化合物やその水和物は塩を形成していてもよい。式(1)で表される化合物やその水和物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニアとの塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基との塩;リジン、アルギニン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との塩;遷移金属塩;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸との塩;シュウ酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
【0041】
上記式(1)で表される化合物のうち化合物(I)は、例えば下記工程[1]~[4]を経て製造することができる。また、化合物(II)は、例えば下記工程[1]~[10]を経て製造することができる。
【0042】
下記式中、nは前記に同じ。Xはハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)を示し、R、R’は、同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を示す。R”はアミノ基の保護基を示す。DPRは脱保護剤を示す。尚、アミノ基の保護基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基、炭素数7~18のアラルキル基、アシル基(RaC(=O)基;Raは炭素数1~10のアルキル基)、アルコキシカルボニル基(RbOC(=O)基;Rbは炭素数1~10のアルキル基)、置換基を有していても良いベンジルオキシカルボニル基、置換基を有していても良いフェニルメチリデン基、置換基を有していても良いジフェニルメチリデン基等が挙げられる。また、前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
工程[1]の反応は、式(2)で表されるジハロゲン化アルキレンに、式(3)で表される亜リン酸エステルを反応させて、式(4)で表されるホスホノアルカン酸を得る反応(ミカエリス・アルブゾフ反応;Michaelis-Arbuzov Reaction)である。前記式(3)で表される亜リン酸エステルの使用量は、式(2)で表されるジハロゲン化アルキレン1モルに対して、例えば0.1~1.0モル程度である。
【0047】
工程[1]の反応の反応温度は、例えば130~140℃程度が好ましい。反応時間は、例えば0.5~2時間程度である。
【0048】
工程[2]の反応は、工程[1]の反応を経て得られた式(4)で表されるホスホノアルカン酸に、式(5)で表される化合物を反応させて、式(6)で表される化合物を得る反応である。前記式(5)で表される化合物の使用量は、式(4)で表されるホスホノアルカン酸1モルに対して、例えば0.7~1.3モル程度である。
【0049】
工程[2]の反応は、塩基の存在下で行うことが、反応の進行を促進する効果が得られる点で好ましい。前記塩基としては、例えば、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩類(特にアルカリ金属の炭酸塩類);水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;リン酸二水素ナトリウムやリン酸二水素カリウム等のリン酸塩類(特にアルカリ金属のリン酸塩類);酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等のカルボン酸塩類(特にアルカリ金属のカルボン酸塩類);トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド類(特にアルカリ金属のアルコキシ類);水素化ナトリウム等の金属水素化物類等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。塩基の使用量は、式(4)で表されるホスホノアルカン酸1モルに対して、例えば0.9~1.1モル程度である。
【0050】
工程[2]の反応は溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;酢酸エチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;メタノール、エタノール、t-ブタノール等のアルコール類;ペンタン、ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等の含ハロゲン化合物;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み併せて使用することができる。
【0051】
工程[2]の反応の反応温度は、例えば100~110℃程度が好ましい。反応時間は、例えば6~24時間程度である。
【0052】
工程[3]の反応は、工程[2]の反応を経て得られた式(6)で表される化合物の保護基で保護されたカルボキシ基(-COOR’)、及び保護基で保護されたアミノ基(-NHR")、及び保護基で保護されたホスホン酸基(-P(=O)(OR)2)を脱保護して、式(7)で表される化合物を得る反応である。保護基で保護された基の脱保護は、脱保護剤を反応させることにより行うことができる。前記脱保護剤(上記式中では、「DPR」で表される)としては、強塩基(例えば、水酸化ナトリウム)又は強酸(例えば、塩酸)を好適に使用することができる。
【0053】
工程[3]の反応の反応温度は、例えば90~100℃程度が好ましい。反応時間は、例えば20~24時間程度である。
【0054】
工程[4]の反応は、工程[3]の反応を経て得られた式(7)で表される化合物に、脱保護剤をトラップする作用を有する化合物を反応させて、化合物(I)を得る反応である。脱保護剤をトラップする作用を有する化合物としては、例えば脱保護剤が塩酸である場合は、プロピレンオキシドを使用することができる。脱保護剤をトラップする作用を有する化合物の使用量は、式(7)で表される化合物1モルに対して、例えば3.0~6.0モル程度である。
【0055】
工程[5]は、化合物(I)のカルボキシル基に保護基を導入する工程であり、例えば、化合物(I)とRCOH(RCは置換基を有していてもよいアリール基又はアラルキル基を示し、好ましくはベンジル、4-ニトロベンジル基である)を反応させることにより保護基を導入することができる。この反応は、酸触媒(例えば、塩酸等)の存在下、室温付近の温度環境下で行うことが好ましい。反応時間は、例えば12~24時間程度である。
【0056】
工程[6]は、化合物(I)のアミノ基に保護基を導入する工程であり、例えば、溶媒に溶解した化合物(I)中にR”Xを滴下して反応させることにより、保護基を導入することができる。この反応は、塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム等)の存在下で行うことが好ましい。
【0057】
前記溶媒としては、例えば、水、ハロゲン化炭化水素系溶媒、飽和又は不飽和炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒等を1種又は2種以上使用することができる。
【0058】
滴下時温度は、室温以下が好ましく、特に0℃付近が好ましい。反応時間は、例えば0.5~2時間程度である。また、滴下終了後は例えば25~30℃に保温した状態で、例えば10~24時間程度、撹拌しつつ熟成させることが好ましい。
【0059】
工程[7]は、リン酸基の2つのヒドロキシル基をハロゲン原子で置換する工程であり、例えば、工程[5][6]を経て得られた化合物に、触媒及び溶媒の存在下でハロゲン化剤を反応させることにより行うことができる。前記触媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド等を使用することができる。また、前記溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒等を1種又は2種以上使用することができる。前記ハロゲン化剤としては、例えば、塩酸オキサリル、塩化チオニル、五塩化リン、オキシ塩化リン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。この反応は、室温付近の温度で1時間程度行うことが好ましい。
【0060】
工程[8]は、R1OHを反応させて、工程[7]を経て得られたリン原子に結合するハロゲン原子の一方をOR1に置換する工程である。この反応は塩基の存在下で行うことが好ましく、塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルイソプロピルアミン、N-メチルイミダゾール、ピリジン等が挙げられる。また、この反応は溶媒の存在下で行うことが好ましく、溶媒としては乾燥ジクロロメタンを使用することが好ましい。反応は、-65℃付近で30分間程度撹拌した後、室温までゆっくり昇温し、その後室温を保持した状態で1~3時間程撹拌して行うことが好ましい。
【0061】
工程[9]は、R2OHを反応させて、リン原子に結合するハロゲン原子の他方をOR2に置換する工程である。工程[9]は、R1OHに代えてR2OHを使用する以外は工程[8]と同様の方法で行うことができる。
【0062】
工程[10]は、保護基で保護されたカルボキシル基とアミノ基を脱保護する工程であり、例えば、接触水素還元法、塩化アルミニウムを用いた脱保護法等により行うことができる。前記接触水素還元法は、パラジウムを活性炭や硫酸バリウム等の担体に担持させたパラジウム系触媒や白金系触媒の存在下で、水素ガスをバブリングする方法である。また、前記塩化アルミニウムを用いた脱保護法は、三塩化アルミニウムを加えた溶媒(例えば、乾燥ニトロメタン等の高極性溶媒)で、工程[9]を経て得られた化合物とアニソールとを反応させる方法である。
【0063】
各工程の反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応は常圧、減圧又は加圧下で行なうことができる。更に、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0064】
各工程終了後は、得られた反応生成物に、例えば、ろ過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段を施して精製してもよい。
【0065】
式(1)で表される化合物の水和物は、上記方法で得られた化合物(I)又は化合物(II)を、水と水溶性溶媒とを用いた晶析処理に付すことにより製造することができる。
【0066】
前記水溶性溶媒としては、室温(25℃)において水に溶解する有機溶媒が好ましく、水に対する溶解度が50%以上(好ましくは80%以上、特に好ましくは95以上)のものが好ましい。
【0067】
前記水溶性溶媒としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール等の炭素数1~5の低級アルコール)を使用することが好ましい。
【0068】
式(1)で表される化合物の塩は、上記方法で得られた化合物(I)又は化合物(II)に、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の塩基性化合物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基;リジン、アルギニン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸;シュウ酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸等を反応させることにより製造することができる。
【0069】
式(1)で表される化合物は少なくとも1個の不斉原子を有する。例えば、式(1)で表される化合物が1個の不斉原子を有する場合、式(1)で表される化合物は2種の光学異性体の等量混合物(=ラセミ体)である。ラセミ体の光学分割にはジアステレオマー塩法やキラルカラムを用いた分割法等、周知慣用の方法を採用することができる。
【0070】
ジアステレオマー塩法では、ラセミ体に塩基性光学活性物質を反応させて2種のジアステレオマー塩を形成させ、これらの溶解度の差を利用して分別晶析することにより一方のジアステレオマー塩を容易に単離することができる。
【0071】
前記塩基性光学活性化合物としては、例えば、D-又はL-リジン、D-又はL-アルギニン、D-又はL-p-ヒドロキシフェニルグリシンヒドラジド、D-又はL-p-ヒドロキシフェニルグリシンメチルエステル等が挙げられる。
【0072】
また、単離された一方のジアステレオマー塩を、例えばイオン交換樹脂を用いて分解することにより、式(1)で表される化合物に含まれる2種の光学異性体の一方を単離することができる。前記イオン交換樹脂としては、酸性陽イオン交換樹脂が好ましく、例えば、商品名「アンバーライトIR-120B」(オルガノ(株)製)、商品名「ダイヤイオン」(三菱化学(株)製)等を使用することができる。
【0073】
本発明の体臭抑制剤は、有効成分として、上記式(1)で表される化合物[例えば化合物(I)及び/又は化合物(II)、好ましくは上記式(I-1)~(I-5)(II-1)~(II-2)で表される化合物]、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種(光学異性体を含む)を含む。
【0074】
本発明の体臭抑制剤は、皮膚表面に適用することにより、γ-グルタミルトランスペプチダーゼを阻害し、グルタチオンの代謝を抑制することにより、グルタチオンの原料であるシステインの供給を滞らせ、その結果としてグルタチオンの再合成を滞らせて、一時的にグルタチオン濃度を低下させる。そして、グルタチオン濃度の低下を引き金としてグルタチオンの産生を促進する。本発明の体臭抑制剤は、上記の作用機序によってグルタチオンの産生を促進する効果を発揮して、表皮細胞中のグルタチオン濃度を、本発明の体臭抑制剤を適用しない場合に比べて有意に上昇させることができる。
【0075】
そして、グルタチオンは、抗酸化作用、解毒作用、細胞賦活作用等を発揮して、体臭の原因物質の産生を抑制する効果を発揮する。例えば、腋臭や足臭の主な原因物質であるイソ吉草酸、ノナン酸、カプリン酸等の低級脂肪酸は、汗腺や皮脂腺からの分泌物を皮膚常在菌が分解することにより発生するが、グルタチオンは前記皮膚常在菌による分泌物の分解を抑制する効果を示すことにより、結果として腋臭や足臭の原因物質の産生を抑制する。また、加齢臭の主な原因物質である2-オクテナールや2-ノネナール等の不飽和アルデヒドは、加齢により皮脂中において含有比率が高まるパルミトレイン酸がその原料であるが、グルタチオンは皮膚細胞を賦活化して若返らせ、パルミトレイン酸の含有比率を低減する効果を示すことにより、結果として加齢臭の原因物質の産生を抑制する。
【0076】
更に、グルタチオンはSH基、アミノ基、及びカルボキシル基を有するため反応性に富み、産生された体臭の原因物質と反応してこれを高分子量化(グルタチオンと体臭の原因物質との付加反応物の分子量は、例えば300以上であり、好ましくは350以上である。尚、分子量の上限は、例えば500である)し、揮発性を著しく低下させることにより臭いの発生を抑制することができる。また、産生された体臭の原因物質にグルタチオンが付加すると極性が著しく高まるため、これによっても揮発性が低下する。
【0077】
例えば体臭の原因物質が2-ノネナールである場合、グルタチオンは2-ノネナールと以下の様に反応して高分子量の付加反応物(下記式(ad-2)で表される化合物)が得られると考えられる。体臭の原因物質が2-ノネナール以外の不飽和アルデヒド(例えば、C
4-10不飽和アルデヒド)の場合も、同様に反応すると考えられる。
【化13】
【0078】
本発明の体臭抑制剤は細胞毒性を有さず、安全性に優れる。そのため、例えば、外皮用薬やスキンケア用化粧料等に添加剤として使用することができる。
【0079】
本発明の体臭抑制剤を外皮用薬やスキンケア用化粧料に添加する場合、その添加量は、式(1)で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物から選択される少なくとも1種の濃度(2種以上含有する場合はその合計の濃度)が、例えば0.5~70μM程度となる範囲であり、好ましくは10~60μM、特に好ましくは30~60μM、最も好ましくは40~60μMである。
【0080】
前記外皮用薬やスキンケア用化粧料の使用形態は、特に制限されず、例えば、ペースト状、ゲル状、液状、乳液状、クリーム状の製剤として使用することができる。また、シート状基材に含浸させてシート状製剤として使用したり、容器に封入してエアゾール状の製剤やスプレー状の製剤として使用することもできる。尚、外皮用薬やスキンケア用化粧料の使用回数は特に制限がなく、症状や用途に応じて適宜調整することができる。
【0081】
前記外皮用薬には、塗布剤(クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、液剤、チンキ剤)、貼付剤(パップ剤、プラスター剤、テープ剤、パッチ剤)が含まれる。
【0082】
前記スキンケア用化粧料には、例えば、化粧水、乳液等の基礎化粧料等が含まれる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0084】
実施例1
式(II-2)で表される4種類の光学異性体(ジアステレオマー)の等量混合物(DL-2-アミノ-4-[(RSp)-(3-カルボキシメチルフェノキシ)(メトキシ)ホスホリル]ブタン酸、抗菌性を有しない化合物、商品名「GGsTop」、和光純薬工業(株)製)を体臭抑制剤(1)とした。
【0085】
<体臭抑制効果の評価>
9名の男性パネラー(53歳~62歳)が、朝晩、スプレーに詰めた体臭抑制剤(1)の0.005%水溶液を、左腋下に各3回噴霧し、これを1か月続けた。その後、左腋下(体臭抑制剤処理区)と右腋下(体臭抑制剤未処理区)をそれぞれ別のカット綿(メタノールで2回洗浄し、その後110℃で二晩乾燥させて脱臭したもの)を使用して、皮膚表面をこすり取るように20回擦って体表分泌物(サンプル)を採取した。
下記条件下でSPME法により抽出した臭い成分をガスクロマトグラフィーで分析した。
Head Space Solid Phase Micro Extraction (HS-SPME)GS-MS
SPME fiber:50/30 μm divinylbenzene / Carboxen on polydimethylsiloxane on a StableFlex fiber
Collection: 80℃ for 20 min
GS-MS
Column: DB-WAX
【0086】
この結果、9名のうち4名のサンプルでは左腋下と右腋下において有意差が認められなかったが、5名のサンプルでは左腋下と右腋下において顕著な差が認められ、体臭抑制剤で処理された右腋下から採取したサンプルは、体臭抑制剤で処理を行っていない左腋下から採取したサンプルに比べて、2-ノネナールが還元されてなる2-ノネノール(保持時間:13.4分)や、2-ノネナールの前駆体であるエチル-9-オクタデセノエート(保持時間:16.0分)及びトリデカン(保持時間:10.5分)の含有量が著しく低下しており、臭い成分の産生が抑制されたことが確認できた(
図1、2参照)。
【0087】
また、前記体臭抑制剤(1)は、下記方法によりグルタチオン合成促進効果を有することが確認できた。
すなわち、正常ヒト表皮細胞を、正常ヒト表皮角化細胞増殖用培地(商品名「HuMedia KG2」、倉敷紡績(株)製)を用いて96穴マイクロプレートに、2.0×104cells/96wellの細胞密度にて播種した。播種24時間後に、体臭抑制剤(1)25μMを含有した正常ヒト表皮角化細胞増殖用培地(商品名「HuMedia KB2」、倉敷紡績(株)製)と交換して培養を続けた。
3時間の培養後、100μMのフェニルメチルスルフォニルフルオライド含有リン酸バッファーを用い、超音波処理にて細胞を破砕し、グルタチオンレダクターゼリサイクリング法により総グルタチオン量を定量した。
この結果、3時間の培養後の総グルタチオン量は、培養前の1.14倍に上昇していた。
【0088】
更に、グルタチオンと、体臭の主な原因成分である2-ノネナールとの反応性を下記方法により評価した。
すなわち、反応容器にグルタチオン0.2ミリモル、2-ノネナール0.2ミリモル、水0.5mL、及びエタノール0.5mLを仕込み、室温(25℃)において18時間反応させた。その後、反応液をTLC分析[展開溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=9:1),発色剤(5%リンモリブデン酸)]に付したところ、グルタチオンと2-ノネナールの付加反応物が生成し、2-ノネナールは消失したことが確認された。また、前記付加反応物(下記式(ad-2)で表される化合物)は分子量377.41であり、揮発性が低く、臭いが著しく緩和された。
更に、2-ノネナールの使用量を0.2ミリモルから0.1ミリモルに変更した以外は上記方法と同様にしたところ、やはり2-ノネナールは消失したことが確認された。
【0089】
【0090】
これより、グルタチオンは体臭の主な原因成分である2-ノネナールと付加反応し、2-ノネナールを高分子量化して揮発性を低下させることにより、消臭効果を発揮することがわかった。
さらに、本発明の体臭抑制剤は、グルタチオンの合成促進効果を有することもわかった。
以上より、本発明の体臭抑制剤は、表皮細胞においてグルタチオンの合成を促進し、合成されたグルタチオンが体臭の原因物質と付加反応することによって消臭効果が発揮されると考えられる。